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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F22B
管理番号 1373790
異議申立番号 異議2021-700176  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-06-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-18 
確定日 2021-05-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6743558号発明「ボイラの化学洗浄方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6743558号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6743558号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成28年8月1日に出願され、令和2年8月3日にその特許権の設定登録がされ、令和2年8月19日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について令和3年2月18日に特許異議申立人 山本 美映子(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下「本件特許発明1」等という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
ボイラ蒸発管に洗浄液を通水して洗浄するボイラの化学洗浄方法であって、該洗浄液を加温するボイラの化学洗浄方法において、洗浄液の加温の少なくとも一部を蒸気式熱交換器により行うボイラの化学洗浄方法であり、
ボイラに洗浄水を循環させながら洗浄水に蒸気を注入して洗浄水の水温を所定温度まで上昇させる工程と、
その後、洗浄水に洗浄薬品を添加して洗浄液をボイラに循環させると共に、この循環洗浄液を蒸気式熱交換器により加温する工程と
を有することを特徴とするボイラの化学洗浄方法。
【請求項2】
請求項1において、洗浄液に蒸気を注入する直接加温と、蒸気式熱交換器を使用した間接加温とを併用して洗浄液を加温することを特徴とするボイラの化学洗浄方法。」

第3 特許異議申立ての概要
異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証?甲第3号証(以下「甲1」等という。)を提出し、概略次の特許異議の申立ての理由を主張している。

甲1:「監修 労働省職業能力開発局技能振興課 産業洗浄」、日本洗浄協会、平成4年9月28日、表紙、p.439-455、奥付
甲2:「火力発電プラントの腐食とその防止」、火力発電技術協会 関西・中部支部、昭和49年12月、表紙、p.135-155
甲3:特開2006-183902号公報

<理由(特許法第29条第2項)>
本件特許発明1及び2は、甲1?甲3に記載された発明に基いて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであって、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

第4 当審の判断
1 甲1?甲3の記載等
(1)甲1
ア 甲1の記載
甲1には、「化学洗浄の計画と施工」に関して、以下の記載がある(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。「・・・」は、省略を意味する。以下同様。)。
1a.「1-1 事前調査
・・・
事前次のような項目を調査するとともに、構造的に洗浄液が満水にできるか、洗浄後に液を完全に排出できるか、及び洗浄液を循環できるかなども合わせて検討する必要がある。」(440ページ)
1b.「1-3 スケール量の算出
(1) スケール付着面積の求め方
被洗浄対象物として代表的な水管ボイラについては、次のようにしてもとめる。」(442ページ)
1c.「(2)加熱源
洗浄液を加温するための熱源としては、ボイラの本設のバーナーと蒸気がある。
熱源としてボイラ本設のバーナーを用いて洗浄液を加温する方法は、洗浄液温よりも蒸発管自体の温度が高くなるため、温度調節が難しい。また、洗浄温度の管理には注意が要求される。このことから、この加温方法は洗浄温度の管理範囲が比較的広く、高温域(?150℃)で実施するキレート洗浄に適用される。
一方、蒸気を用いて洗浄液を加温する方法は、大型ボイラの化学洗浄で一般的に用いられている方法であるが、蒸気を洗浄液に直接注入するので、洗浄液温が蒸発管の温度より高くなることもなく、温度調節が容易である。」(444ページ)
1d.「(例)
ボイラの酸洗浄に当たり、洗浄循環系統に保有水を循環させながら加温する必要がある場合、循環水中に蒸気を直接注入しながら加温し、10℃から80℃までに昇温させるのに必要な概算蒸気量(kg)を求めなさい。」(444ページ)
1e.「

」(446ページ)
1f.「

」(447ページ)
1g.「

」(448ページ)
1h.「(i)工程表
洗浄工事の各工程とその所要時間から、洗浄工事の予定表(通常、工程表と称す)を作成する。工程表は、洗浄工事の進ちょく状況を確認するうえで重要な役割を果たすので、洗浄工事の進められる順に従い作成することが必要である。
工程表の一例を表5-4に示す。」(448ページ)
1i.「


」(449ページ)
1j.「第2節 施工上の留意点
実際の洗浄を施工するにあたり留意すべき点を、各洗浄工程ごとに述べると次のとおりである。
(1) 洗浄用機材の設置
・・・
(2) フラッシング及び水圧試験
仮設配管の取り付けなどが終了し洗浄液循環系ができた時点でフラッシングを行い、循環系内にある異物や、蒸発管などから脱落したスケールなどを洗浄系外に排出する。
・・・
(3) 予熱
予熱の目的は、ボイラ本体を所定温度まで加温することと、洗浄用機材の作動確認と、洗浄液の流動状態の確認である。したがって、予熱時に蒸気による加温速度を調べるとともに、ボイラ各部での温度上昇状態を十分に調査することが必要である。もし、ボイラ各部の温度上昇状態が不均一であれば、均一に上昇するように循環系等の変更などの処理が必要である。
(4) 洗浄
・・・
洗浄における主な注意事項は次のとおりである。
(a)水圧試験では液が漏れなくとも洗浄液では漏れる場合があるので常時監視する。
(b)洗浄液の注入においては薬品濃度に濃淡が生じないように留意する。
(c)温度、圧力、流量、薬品濃度及び溶出イオン濃度などを一定時間ごとに測定する。
(d)常時ガス抜きを行う。
(e)洗浄液の終点判定
洗浄の終点判定は洗浄液中の薬品濃度及び溶出イオン濃度を基に行う。酸洗浄時の洗浄液の分析結果の一例を図5-6に示す。通常、溶出イオン濃度(鉄及び銅イオン)がほぼ一定となった時点を洗浄の終点とする。
また、洗浄前に抜管してある試料チューブを仮設配管中に設置しておき、そのスケール除去状態によって判定する方法もある。」(450ページ?451ページ)
1k.「(f)酸洗浄の洗浄液の排出は窒素ガスを封入しながら行う。
(5) 水洗
水洗は、ボイラ上部より純水を注入し、下部のブロー弁から排出する方法より始める。これは、洗浄中に発生するスラッジなどを系外に排出するためである。
その後、本水洗を行うが、水洗の効率は水張り後、循環混合し全量ブローする方法が最もよい。水洗水の排水時も窒素ガスを封入しながら行う。
なお、洗浄液の排出が構造的に困難な貫流型ボイラでは連続押出方式の水洗を行う。
(6) 中和防錆
化学洗浄の一環として行う防錆処理は、洗浄後から運転開始までの短期間の保護を目的として行われており、その効果は一時的である。中和防錆後の鋼材表面の仕上がりは処理温度に大きく左右される。処理温度は高温のほうがよい。
化学洗浄は以上の順序で行う例が多い。しかし、スケールの種類によっては、酸洗浄に先立ってアンモニア洗浄を行うとか、酸洗浄を繰り返し行うことがある。
(7) 点検、復旧
・・・
洗浄の成果は洗浄液の分析結果、スケールの除去状態、防錆効果、及び仮設配管やドラムに懸垂した試験片腐食減量などを基に判断する。」(451ページ)
1l.「(ケ)上記加温中の注意事項
洗浄液を仮設循環ポンプにより循環処理中、蒸気を直接注入し加温しているときに、・・・」(453ページ)
イ 上記アからわかること
・図5-5から、節炭器、水冷壁、天井壁、蒸発器及び汽水分離器を経て循環する貫流ボイラの汽水分離器からの洗浄水をミキシングヒータに導入すること、ミキシングヒータに蒸気を導入して洗浄水を加温し、加温された洗浄水に薬品が添加されること、薬品が添加された洗浄水(洗浄液)を貫流ボイラに循環させること。
・図5-5から、汽水分離タンクからの洗浄水及び循環している洗浄液がミキシングヒータへ導入される経路とは別に、当該経路をバイパスする経路が設けられ、このバイパスする経路に、洗浄液が添加される経路が接続されていること。
・表5-4から、洗浄工程として、第2日目に予熱後、酸液注入し、第3日目に循環昇温すること。
・表5-3から、酸洗浄時の温度条件として、無機酸洗浄は60±5℃、有機酸洗浄は90±5℃で行うこと。
ウ 以上ア及びイを総合すると、甲1には、下記の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「ボイラ蒸発管に洗浄液を通水して洗浄するボイラの化学洗浄方法であって、該洗浄液を加温するボイラの化学洗浄方法において、
ボイラに洗浄水を循環させながら洗浄水に蒸気を注入して洗浄水の水温を所定温度まで上昇させる工程と、
その後、洗浄水に洗浄薬品を添加して洗浄液をボイラに循環させる工程と、
を有するボイラの化学洗浄方法。」
(2)甲2
ア 甲2の記載
甲2には、「化学洗浄」に関して、以下の記載がある。
2a.「4.1 洗浄
火力発電プラントにおいて建設時や定期修理時に外部から入ってくる砂、油脂類、溶接屑のような異物、補給水やプロセス回収水とともに搬入される不純物および系統内でできる腐食生成物は、運転中に種々の箇所で堆積したり、あるいはスケールになったりして、伝熱阻害、腐食事故や流動抵抗増大などの障害を招くおそれがある。
したがって、建設時、あるいは定期的な停止時を利用して障害の原因となる異物を系統外へ排出し、事故の未然防止を計らなければならない。
この排出手段は、実施時間、使用薬液あるいは実施対象箇所などによって次のように区分される。

」(135ページ)
2b.「



」(136?138ページ)
2c.「b アルカリ洗浄
酸洗浄に先立ち、界面活性剤を含むアルカリ液を循環させて、系統内の油脂分を除去するもので、・・・実施に当ってはまず洗浄する系統に水張りし、洗浄用ポンプを運転して循環させ、蒸気吹込、あるいは熱交換器によって60?80℃に昇温する。ついで前述の薬品を添加して所定濃度に保持し循環を続ける。
・・・
c ソーダ煮
・・・
d 酸洗浄
酸液を循環、浸漬させて、ミルスケールを除去し、・・・
洗浄温度は塩酸で、60?65℃、有機酸で85?95℃が採用されており、その加温保持はボイラの蓄熱、蒸気混合あるいはヒータによって行う。」(139ページ?141ページ)
2d.「4.1.2 稼働プラントの洗浄
a 必 要 性
ボイラは長時間運転していると、水処理の良否や運転の苛酷さ等が原因して蒸発管内面に鉄、銅等の給復水、あるいはプロセス系統での腐食生成物を主成物とする硬質のスケールが付着したり、カルシウムやシリカのように補給水中の不純物を主成物とするスケールが付着する。このため蒸発管の熱伝導性が低下し、付着量が多くなると管壁が過熱されて金属組織が破壊され、膨出事故を起す。・・・したがって、スケール付着を防止するために普通の水処理以外の方法、つまり、化学洗浄によるスケールの除去を行う必要が生じてくる。」(142ページ?143ページ)
2e.「c 洗 浄 方 法
化学洗浄の実施に当たって、最も重要なことは、対象機器およびその他関係箇所に損傷を与えることなしに、スケールを完全に除去し、金属の表面を不動態化することである。このため、実施に先立ってスケールの量と質についてその実態、スケールの溶解性、ボイラの構造ならびに日程などを考慮して、洗浄液の組成、濃度、循環方法、洗浄時間などの仕様を決定しなければならない。また、排水の処理を十分に行う必要がある。」(144ページ)
2f.「iii 洗浄温度
高温の方がスケールの溶解がよいが、腐食抑制剤の効力が高温になると低下するので腐食抑制剤によって定められている温度で洗浄すべきである。通常無機酸の場合55?70℃、有機酸で80?100℃、アンモニア洗浄で40?70℃が採用されている。
なお、酸洗浄前のボイラ予熱を、ボイラ点火して行う場合は、局部的に金属温度が上昇していることになるので循環を良くして、均一に加温するように注意しなければならない。」(147ページ)
2g.「

」(148ページ)
2h.「

」(151ページ)
2i.「

」(154ページ)
イ 上記アからわかること
・表49、表53及び表57から、火力発電プラントのボイラの洗浄実例の洗浄工程として、循環予熱の後、酸洗浄時に酸液注入して循環させること。
・酸洗浄に先立ち、60?80℃に昇温してアルカリ洗浄を行うこと、アルカリ洗浄における昇温は蒸気吹込み、あるいは熱交換器によって行うこと、酸洗浄は60?65℃又は85?95℃に加温保持して行うこと、酸洗浄における加温保持はボイラの蓄熱、蒸気混合あるいはヒータによって行うこと。
ウ 甲2記載の技術的事項
上記ア及びイを総合すると、甲2には、以下の技術的事項(以下「甲2技術」という。)が記載されていると認められる。
「ボイラの洗浄工程として、循環予熱の後、60?80℃に昇温してアルカリ洗浄を行い、その昇温は蒸気吹込み、あるいは熱交換器によって行い、さらに、酸洗浄時に酸液注入して循環させ、酸洗浄は60?65℃又は85?95℃に加温保持して行い、その加温保持はボイラの蓄熱、蒸気混合あるいはヒータによって行うこと。」
(3)甲3
ア 甲3の記載
甲3には、「貫流型ボイラーの一括化学洗浄方法およびそのためのシステム」に関して、以下の記載がある。
3a.「【0001】
本発明は、火力発電プラントや一般産業用ボイラーに使用される貫流型ボイラーの一括化学洗浄方法およびそのためのシステムに関する。
【0002】
貫流型ボイラーをはじめとするボイラーでは、プラント運転中に主蒸気管、過熱器、再熱器等の内面に水蒸気酸化スケール(以下、「スケール」ということがある)が生成されることがある。そして、この生成したスケールが蒸気とともにタービンに飛散すると、ノズル・エロージョンを起こし、タービンの健全性をそこねるという問題があった。
【0003】
従来、このような問題を避けるため、予め主蒸気管等の配管中のスケールを化学洗浄により除去することが行われているが、・・・」
3b.「【0021】
この洗浄装置には、化学洗浄液を加温するためのヒーター4が備えられていることが好ましく、このヒーター4としては、蒸気により化学洗浄液を直接加熱するミキシングヒータや、間接加熱するパネル式ヒーターが利用できる。」
3c.「【0023】
一方、本発明において使用する化学洗浄液は、その主剤としてキレート形成性化合物、有機酸および還元剤を含有するものである。このうち、キレート形成性化合物は、付着スケール溶解後のスラッジ粒子の微細化をはかり、後の水洗工程でのスラッジ搬出を容易にするものである。このようなキレート形成性化合物としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)またはその塩が好ましく、特に、EDTAのナトリウム塩およびアンモニウム塩が好ましい。このキレート形成性化合物の添加量は、2.5?12.5質量%程度が好ましい。
【0024】
また、有機酸としては、クエン酸、グルコン酸等が好ましく、この有機酸の添加により、化学洗浄剤のPHを、4?10、特に、4?6の範囲とすることが好ましい。この有機酸は、キレート形成性化合物1に対し、重量比で0.4?0.7とすることが望ましい。
【0025】
更に、化学洗浄剤中に含まれる還元剤としては、L-アスコルビン酸、エリソルビン酸等を使用することが好ましい。この還元剤は3価のFeを溶解し易い2価に還元するものである。この還元剤の配合量は、化学洗浄剤液量の0.2?2w/v%とすることが好ましい。
【0026】
また、化学洗浄剤中に腐食抑制剤を添加することにより、洗浄時の洗浄対象配管の腐食抑制をはかることが可能である。
【0027】
上記化学洗浄剤を使用した化学洗浄は、80?95℃の範囲の洗浄温度で実施できる。
また、洗浄時間は、原則として、スケール付着量、成分組成により異なり、洗浄液中のFe溶出濃度が飽和するまで実施するのが好ましい。」
3d.「【図1】



イ 甲3記載の技術的事項
上記アを総合すると、甲3には、以下の技術的事項(以下「甲3技術」という。)が記載されていると認められる。
「火力発電プラントや一般産業用ボイラーに使用される貫流型ボイラの化学洗浄方法を行う洗浄装置は、化学洗浄液を加温するためのヒーター4を備えること、ヒーター4として蒸気により化学洗浄液を直接加熱するミキシングヒーターや、間接加熱するパネル式ヒーターが利用できること。」

2 本件特許発明1と甲1発明との対比・判断
(1) 本件特許発明1と甲1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
そうすると、両者は、以下の一致点、相違点を有している。
<一致点>
「ボイラ蒸発管に洗浄液を通水して洗浄するボイラの化学洗浄方法であって、該洗浄液を加温するボイラの化学洗浄方法において、
ボイラに洗浄水を循環させながら洗浄水に蒸気を注入して洗浄水の水温を所定温度まで上昇させる工程と、
その後、洗浄水に洗浄薬品を添加して洗浄液をボイラに循環させる、
ボイラの化学洗浄方法。」
<相違点>
洗浄液の加温について、本件特許発明1は、「洗浄液の加温の少なくとも一部を蒸気式熱交換器により行う」とし、(ボイラに洗浄水を循環させながら洗浄水に蒸気を注入して洗浄水の水温を所定温度まで上昇させる工程)の「その後」に、(洗浄水に洗浄薬品を添加して洗浄液をボイラに循環させる)「と共に、この循環洗浄液を蒸気式熱交換器により加温する工程」を有しているのに対して、甲1発明は、「洗浄液の加温の少なくとも一部を蒸気式熱交換器により行う」ものではなく、さらに、「ボイラに洗浄水を循環させながら洗浄水に蒸気を注入して洗浄水の水温を所定温度まで上昇させる工程」の後に、「この循環洗浄液を蒸気式熱交換器により加温する工程」を備えるものでもない点。

(2) 以下、相違点について検討する。
甲1には、洗浄液を加温するための熱源として、ボイラーの本設のバーナーや蒸気を用いることが記載されるものの(上記1c)、ボイラ本設のバーナーは、蒸気式熱交換器を想起させるものではない。加えて、ボイラ本設のバーナーは、洗浄液温よりも蒸発管自体の温度が高くなるため、温度調節が難しく、洗浄温度の管理には注意が要求され、この加温方法は洗浄温度の管理範囲が比較的広く、高温域(?150℃)で実施するキレート洗浄に適用されるとされ(上記1c)、甲1に示されるアンモニア洗浄(表5-3の40?70℃)、酸洗浄(無機酸洗浄60±5℃、有機酸洗浄90±5℃)における薬品処理条件と比較しても高い温度範囲が想定されるものであり、酸洗浄やアルカリ洗浄においては、本設のバーナーの使用は望ましいものではない(上記1e)。
さらに、洗浄液の加温について、甲2技術をみても、アルカリ洗浄について、60?80℃に昇温を行い、その昇温は蒸気吹込み、あるいは熱交換器によって行い、酸洗浄について、60?65℃又は85?95℃に加温保持して行うに際して、その加温保持をボイラの蓄熱、蒸気混合あるいはヒータという手段を選択的に用いることについて記載されているものの、各洗浄において、これらを併用することの記載はなされていない。
このように甲2の記載からは、アルカリ洗浄では、60?80℃に昇温する際に、蒸気吹込み、あるいは熱交換器のどちらか一方の選択によって行うことが記載されるにすぎない。
また、甲2技術において、酸洗浄では、洗浄液を60?65℃又は85?95℃に加温して保持する場合に、異なる加熱手段を採用するというよりは、加熱手段を複数用いることによる装置の複雑化、コスト増加を招くことを勘案して、むしろ、洗浄液をボイラの蓄熱、蒸気混合あるいはヒータといういずれか一方の加熱手段により、加温して、所定温度になった後は、同じ加熱手段を引き続き用いて、温度を保持するのが合理的な解釈である。
このことは、「ヒーター4として蒸気により化学洗浄液を直接加熱するミキシングヒーターや、間接加熱するパネル式ヒーターが利用できること」をいう甲3技術においても、両者を併用することについて記載も示唆もするところがない点を考慮すると、甲2技術において上記検討したことと同様である。
そうすると、甲1発明において、甲2及び甲3を参酌しても、(ボイラに洗浄水を循環させながら洗浄水に蒸気を注入して洗浄水の水温を所定温度まで上昇させる工程)の「その後」に、(洗浄水に洗浄薬品を添加して洗浄液をボイラに循環させる)「と共に、この循環洗浄液を蒸気式熱交換器により加温する工程」を設け、「洗浄液の加温の少なくとも一部を蒸気式熱交換器により行う」こととする動機付けを見いだすことはできない。
そして、本件特許発明1は、相違点に係る構成を備えることにより、以下の効果を奏している。
「【0010】
本発明のボイラの化学洗浄方法では、洗浄液温度の保持または上昇のための加温の少なくとも一部に蒸気式熱交換器を用いる。これにより、洗浄液加温の際に蒸気を注入することによる洗浄液の希釈を防止又は抑制することができる。」
「【0012】
このようにすれば、所定温度までの昇温を蒸気注入による直接加熱により短時間で行うことができる。その後、洗浄薬品を添加すると共に、蒸気式熱交換器による間接加温を行ってボイラを化学洗浄する。この場合、洗浄薬品を添加した後は蒸気を注入しないので、蒸気ドレンによる洗浄液の希釈が発生せず、洗浄液のスケール溶解能力が低下しない。
【0013】
また、洗浄液の希釈が生じないので、洗浄薬品濃度を高目に設定することが不要であり、洗浄薬品量の増加が防止される。また、排水処理の負荷も増加しない。」

そして、上記作用効果について、甲1?甲3においては、記載も示唆もなく、また、甲1発明、甲2及び甲3技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものでないので、格別顕著なものといえる。
そうすると、甲1発明に基づいて上記相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得たとすることはできない。

したがって、本件特許発明1は、甲1発明、甲2技術及び甲3技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本件特許発明2
本件特許の請求項2の記載は、請求項の記載を他の記載に置きかえることなく本件特許の請求項1を直接的に引用してされたものであるから、本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本件特許発明2は、本件特許発明1と同様の理由により甲1発明、甲2技術及び甲3技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-04-22 
出願番号 特願2016-151335(P2016-151335)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F22B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉澤 伸幸  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 後藤 健志
山崎 勝司
登録日 2020-08-03 
登録番号 特許第6743558号(P6743558)
権利者 栗田エンジニアリング株式会社
発明の名称 ボイラの化学洗浄方法  
代理人 重野 剛  

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