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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B |
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管理番号 | 1374191 |
審判番号 | 不服2020-15023 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-10-28 |
確定日 | 2021-06-01 |
事件の表示 | 特願2019- 77299「反射防止フィルム、該反射防止フィルムを用いた表示装置、及び反射防止フィルムの選択方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 8月29日出願公開、特開2019-144577、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続等の経緯 特願2019-77299号(以下「本件出願」という。)は、平成27年3月20日に出願した特願2015-58267号の一部を平成31年4月15日に新たな特許出願としたものであって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 平成31年 4月26日提出:手続補正書 令和 2年 4月 6日付け:拒絶理由通知書 令和 2年 6月12日提出:意見書 令和 2年 6月12日提出:手続補正書 令和 2年 7月14日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和 2年10月28日提出:審判請求書 第2 原査定の概要 原査定の拒絶の理由は、概略、以下のとおりである。 1 進歩性 本件出願の請求項1?10に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開2010-152311号公報 引用文献2:特開2014-167621号公報 引用文献3:特開2004-138662号公報 引用文献4:特許第5637327号公報 (当合議体注:主引用例は引用文献1であり、引用文献2?引用文献4は周知技術を示す文献である。) 2 サポート要件 本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 3 明確性要件 本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるということができないから、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。 第3 本件発明 本件出願の請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明10」という。)は、令和2年6月12日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本件発明1は、以下のとおりのものである。 「 透明基材上に、高屈折率層と、前記高屈折率層上に配置される低屈折率層とを有する反射防止フィルムであって、 前記高屈折率層が2層構成であり、一方の高屈折率層が導電性の高屈折率粒子を含み、他方の高屈折率層が非導電性の高屈折率粒子を含み、前記透明基材側に位置する高屈折率層の屈折率が1.55?1.70であり、前記低屈折率層側に位置する高屈折率層の屈折率が1.60?1.85であり、前記高屈折率層の2層の合計厚みが50?180nmであり、前記低屈折率層の屈折率が1.26?1.34、低屈折率層の厚みが80?120nmであり、 前記反射防止フィルムは、反射防止フィルムの透明基材の高屈折率層側とは反対側の面に透明粘着剤を介して黒色板を貼り合わせたサンプルから測定した視感反射率Y値、並びにLab表色系のa^(*)値及びb^(*)値が下記条件(1)及び(2)を満たし、前記サンプルに用いる透明粘着剤の屈折率は、前記透明基材及び前記黒色板の屈折率との屈折率差が0.05以内である、反射防止フィルム。 <条件(1)> サンプルの低屈折率層側の表面に対して垂直に入射する光の入射角を0度として、入射角5度でサンプルに光を入射させた際に、該入射光の正反射光の視感反射率Y値が0.50%以下である。 <条件(2)> サンプルの低屈折率層側の表面に対して垂直に入射する光の入射角を0度として、入射角5度から45度まで5度間隔でサンプルに光を入射させ、該入射光の正反射光のLab表色系のa^(*)値及びb^(*)値を測定し、各入射角におけるa^(*)値及びb^(*)値の二乗和の平方根を算出し、さらに、下記式(A)から、各測定間のa^(*)値及びb^(*)値の二乗和の平方根の傾きを算出した際に、該傾きが負から正に変わる変曲点を示す角度x(度)が、25度以上30度未満である。 【数1】 ![]() (式中、「n」は1?8の整数を示す。)」 また、本件発明2?7は、本件発明1の「反射防止フィルム」に対してさらに他の発明特定事項を付加した「反射防止フィルム」であり、本件発明8?10は、本件発明1?7の「反射防止フィルム」のいずれかを配置してなる「表示装置」の発明である。 第4 進歩性について 1 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明 (1)引用文献1の記載事項 原査定の拒絶理由に引用文献1として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2010-152311号公報(以下、同じく「引用文献1」という。)には、以下の記載事項がある。なお、当合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、反射防止フィルム、該反射防止フィルムを用いた偏光板及び、該反射防止フィルム又は該偏光板をディスプレイの最表面に用いた画像表示装置に関する。 ・・・省略・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明は、低反射率で、防汚性、及び耐擦傷性に優れた反射防止フィルムを提供することを目的とする。」 イ 「【発明を実施するための形態】 ・・・省略・・・ 【0016】 本発明の反射防止フィルムは、透明支持体上に少なくとも1層の低屈折率層を有する反射防止フィルムであって、該低屈折率層が、少なくとも下記(A)?(C)を含有する組成物(低屈折率層用組成物)から形成されることを特徴とする。 (A)重合性不飽和基を有する含フッ素防汚剤 (B)重合性不飽和基を有する含フッ素共重合体 (C)無機微粒子 【0017】 以下、本発明の反射防止フィルムについて詳細に説明する。 【0018】 (A)重合性不飽和基を有する含フッ素防汚剤 本発明の低屈折率層は防汚性、耐水性、耐薬品性、滑り性等を付与する目的で、含フッ素防汚剤を必須成分として含有する。また、該含フッ素防汚剤は、重合性不飽和基を有することを特徴とし、これによって塗布物のロール状態での保存時のフッ素化合物の裏面転写の抑制及び塗膜の耐擦傷性改良、また、汚れの繰り返しの拭取りに対する耐久性を向上させることができる。 ・・・省略・・・ 【0085】 (B)重合性不飽和基を有する含フッ素共重合体 本発明における低屈折率層用組成物は(B)重合性不飽和基を有する含フッ素共重合体を含有する。(B)重合性不飽和基を有する含フッ素共重合体は、低屈折率層皮膜を形成し、バインダーとして機能することができる。 ・・・省略・・・ 【0097】 (C)無機微粒子 本発明では、低屈折率化、耐擦傷性改良の観点から、低屈折率層に無機微粒子を用いる。該無機微粒子は、平均粒子サイズが5?120nmであれば特に制限はないが、低屈折率化の観点からは、無機の低屈折率粒子が好ましい。 ・・・省略・・・ 【0116】 (D)重合性不飽和基を3つ以上有する多官能モノマー 本発明では、低屈折率層用組成物に(D)重合性不飽和基を3つ以上有する多官能モノマーを含むことが好ましい。該(D)重合性不飽和基を3つ以上有する多官能モノマーは、硬化剤として機能することができる。 ・・・省略・・・ 【0142】 【化10】 ![]() ・・・省略・・・ 【0170】 (反射防止フィルムの層構成) 本発明の反射防止フィルムは、透明な支持体上に、低屈折率層、及び目的に応じて必要な機能層を単独又は複数層設けることにより作製することができる。 好ましい一つの態様としては、透明支持体上に光学干渉によって反射率が減少するように屈折率、膜厚、層の数、層順等を考慮して積層された反射防止フィルムを挙げることができる。 ・・・省略・・・ 【0171】 本発明の反射防止フィルムは、透明支持体上に、中屈折率層、高屈折率層、及び低屈折率層がこの順に透明支持体側から積層されており、 該中屈折率層の波長550nmにおける屈折率が1.60?1.65であり、該中屈折率層の厚さが50.0nm?70.0nmであり、 該高屈折率層がの波長550nmにおける屈折率が1.70?1.74であり、該高屈折率層の厚さが90.0nm?115.0nmであり、 該低屈折率層がの波長550nmにおける屈折率が1.33?1.38であり、該低屈折率層の厚さが85.0nm?95.0nmである ことが好ましい。 ・・・省略・・・ 【0173】 各層の屈折率と厚みを上記範囲内とすることで反射色の変動をより小さくできる。構成(1)は反射色の変動を小さく抑えつつ、反射率を特に低くすることができる構成であり、特に好ましい。また、構成(2)は反射率の変動が構成(1)よりも更に小さく抑えられる構成であり、膜厚変動に対するロバスト性に優れるため、特に好ましい。 【0174】 そして、本発明においては、設計波長λ(=550nm:視感度が最も高い波長域の代表)に対して、上記中屈折率層が下式(I)を、上記高屈折率層が下式(II)を、上記低屈折率層が下式(III)をそれぞれ満足することが好ましい。 【0175】 式(I) λ/4×0.68<n^(1)d^(1)<λ/4×0.74 式(II) λ/2×0.66<n^(2)d^(2)<λ/2×0.72 式(III) λ/4×0.84<n^(3)d^(3)<λ/4×0.92 【0176】 (但し、式中、n^(1)は中屈折率層の屈折率であり、d^(1)は中屈折率層の層厚(nm)であり、n^(2)は高屈折率層の屈折率であり、d^(2)は高屈折率層の層厚(nm)であり、n^(3)は低屈折率層の屈折率であり、d^(3)は低屈折率層の層厚(nm)であり、n^(3)<n^(1)<n^(2)である) 【0177】 上記式(I)、式(II)、式(III)を満足する場合には、反射率が低くなり、且つ反射色の変化を抑制することができるために好ましい。また、これにより、指紋や皮脂等の油脂成分が付着した際に色味の変化が少ないために汚れが視認されにくくなるために好ましい。 【0178】 波長380nmから780nmの領域におけるCIE標準光源D65の5度入射光に対する正反射光の色味が、CIE1976L^(*)a^(*)b^(*)色空間のa^(*)、b^(*)値がそれぞれ0≦a^(*)≦8、かつ、-10≦b^(*)≦0の範囲内にすること、さらには上記の色味変動範囲内で、各層のうち任意の層の層厚が2.5%変動したときの色差ΔEを下記式(5)の範囲にすることで、反射色のニュートラル性が良好で、製品ごとに反射色に差がなく、かつ、指紋や皮脂等の油脂成分が表面に付着した際に汚れが目立たなくなるため好ましい。本発明における重合性不飽和基を有する含フッ素防汚剤、及び含フッ素多官能アクリレートを含有した低屈折率層と上記層構成とを組み合わせて用いることで、多層干渉膜構成にしてもマジックや指紋、皮脂等の油脂成分が付着しにくく、付着しても拭き取りやすくかつ目立たなくすることが可能となる。 【0179】 式(5) ΔE={(L^(*)-L^(*)’)^(2)+(a^(*)-a^(*)’)^(2)+(b^(*)-b^(*)’)^(2)}^(1/2)≦3 (L^(*)’、a^(*)’、b^(*)’は設計膜厚時の反射光の色味) 【0180】 また、画像表示装置の表面に設置した場合、鏡面反射率の平均値を0.5%以下とすることにより、映り込みを著しく低減することができ、好ましい。 ・・・省略・・・ 【0182】 鏡面反射率及び色味の測定は、分光光度計“V-550”(日本分光(株)製)にアダプター“ARV-474”を装着して、380?780nmの波長領域において、入射角θ(θ=5?45°、5°間隔)における出射角-θの鏡面反射率を測定し、450?650nmの平均反射率を算出し、反射防止性を評価することができる。さらに、測定された反射スペクトルから、CIE標準光源D65の各入射角の入射光に対する正反射光の色味を表すCIE1976L^(*)a^(*)b^(*)色空間のL^(*)値、a^(*)値、b^(*)値を算出し、反射光の色味を評価することができる。」 ウ 「【実施例】 【0255】 以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれによっていささかも限定して解釈されるものではない。 【0256】 <実施例1> 〔反射防止フィルムの作製〕 下記に示す通りに、各層形成用の塗布液を調製し、各層を形成して、反射防止フィルム試料1?18を作製した。 【0257】 (ハードコート層用塗布液Aの調製) 下記組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌してハードコート層塗布液とした。 メチルエチルケトン900質量部に対して、シクロヘキサノン100質量部、部分カプロラクトン変性の多官能アクリレート(DPCA-20、日本化薬(株)製)750質量部、シリカゾル(MIBK-ST、日産化学工業(株)製)200質量部、光重合開始剤(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)50質量部、を添加して攪拌した。孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過してハードコート層用の塗布液Aを調製した。 ・・・省略・・・ 【0261】 (中屈折率層用塗布液Eの調製) 市販の導電性微粒子ATO「アンチモンドープ酸化錫T-1」{比表面積80m^(2)/g、三菱マテリアル(株)製}20.0質量部に、アニオン性基とメタアクリロイル基を有する下記の分散剤(B-1)6.0質量部、メチルイソブチルケトン74質量部を添加して撹拌した。 【0262】 【化25】 ![]() 【0263】 メディア分散機(直径0.1mmのジルコニアビーズ使用)を用いて、上記液中のATO粒子を分散した。光散乱法で分散液中のATO粒子の質量平均粒径を評価した結果、55nmであった。このようにして、ATO分散液を作製した。 【0264】 上記ATO分散液100質量部に、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物“DPHA”{日本化薬(株)製}6質量部、重合開始剤「イルガキュア184」{日本チバガイギー(株)製}0.8質量部を添加して撹拌した。このようにして中屈折率層用塗布液Eを調製した。この塗料による塗膜の屈折率は1.62であった。 ・・・省略・・・ 【0266】 (高屈折率層用塗布液Aの調製) ZrO_(2)微粒子含有ハードコート剤(デソライトZ7404[屈折率1.72、固形分濃度:60質量%、酸化ジルコニウム微粒子含量:70質量%(対固形分)、酸化ジルコニウム微粒子の平均粒子径:約20nm、溶剤組成:メチルイソブチルケトン/メチルエチルケトン=9/1、JSR(株)製])15.7質量部に、メチルエチルケトン61.9質量部、メチルイソブチルケトン3.4質量部、シクロヘキサノン1.1質量部を添加して攪拌した。孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して高屈折率層用塗布液Aを調製した。 ・・・省略・・・ 【0271】 (低屈折率層用塗布液の調製) (パーフルオロオレフィン共重合体(1)の合成) 【0272】 【化27】 ![]() 【0273】 上記構造式中、50:50はモル比を表す。 【0274】 内容量100mlのステンレス製撹拌機付オートクレーブに酢酸エチル40ml、ヒドロキシエチルビニルエーテル14.7g及び過酸化ジラウロイル0.55gを仕込み、系内を脱気して窒素ガスで置換した。さらにヘキサフルオロプロピレン(HFP)25gをオートクレーブ中に導入して65℃まで昇温した。オートクレーブ内の温度が65℃に達した時点の圧力は、0.53MPa(5.4kg/cm^(2))であった。該温度を保持し8時間反応を続け、圧力が0.31MPa(3.2kg/cm^(2))に達した時点で加熱をやめ放冷した。室温まで内温が下がった時点で未反応のモノマーを追い出し、オートクレーブを開放して反応液を取り出した。得られた反応液を大過剰のヘキサンに投入し、デカンテーションにより溶剤を除去することにより沈殿したポリマーを取り出した。さらにこのポリマーを少量の酢酸エチルに溶解してヘキサンから2回再沈殿を行うことによって残存モノマーを完全に除去した。乾燥後ポリマー28gを得た。次に該ポリマーの20gをN,N-ジメチルアセトアミド100mlに溶解、氷冷下アクリル酸クロライド11.4gを滴下した後、室温で10時間攪拌した。反応液に酢酸エチルを加え水洗、有機層を抽出後濃縮し、得られたポリマーをヘキサンで再沈殿させることによりパーフルオロオレフィン共重合体(1)を19g得た。得られたポリマーの屈折率は1.422、質量平均分子量は50000であった。 【0275】 (中空シリカ粒子分散液Aの調製) 中空シリカ粒子微粒子ゾル(イソプロピルアルコールシリカゾル、触媒化成工業(株)製CS60-IPA、平均粒子径60nm、シエル厚み10nm、シリカ濃度20質量%、シリカ粒子の屈折率1.31)500質量部に、アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン30質量部、及びジイソプロポキシアルミニウムエチルアセテート1.51質量部加え混合した後に、イオン交換水9質量部を加えた。60℃で8時間反応させた後に室温まで冷却し、アセチルアセトン1.8質量部を添加し、分散液を得た。その後、シリカの含率がほぼ一定になるようにシクロヘキサノンを添加しながら、圧力30Torrで減圧蒸留による溶媒置換を行い、最後に濃度調整により固形分濃度18.2質量%の分散液Aを得た。得られた分散液AのIPA残存量をガスクロマトグラフィーで分析したところ0.5質量%以下であった。 【0276】 (低屈折率層用塗布液の調製) 各成分を下記表1のように混合し、メチルエチルケトンに溶解して固形分濃度5質量%の低屈折率層用塗布液Ln1?Ln12を作製した。 【0277】 【表1】 ![]() 【0278】 それぞれ使用した化合物を以下に示す。 ・P-1:パーフルオロオレフィン共重合体(1) ・DPHA:ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(日本化薬(株)製) ・MF1:国際公開第2003/022906号パンフレットの実施例記載の下記含フッ素不飽和化合物(重量平均分子量1600) 【0279】 【化28】 ![]() 【0280】 ・B-2:前記パーフルオロポリエーテル含有アクリレート(重量平均分子量1117) ・オプツールDAC:パーフルオロポリエーテル含有UV硬化型防汚添加剤(ダイキン化学工業(株)製) ・MCF-323:ディフェンサMCF-323 非フルオロエーテル型フッ素系界面活性剤(大日本インキ化学工業(株)製) ・d-4:前記パーフルオロポリエーテル含有アクリレート(重量平均分子量1600) ・M-1:前記含フッ素多官能アクリレート(フッ素含有率44.9質量%、4官能) ・分散液A:前記中空シリカ粒子分散液A(アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面修飾した中空シリカ粒子ゾル、固形分濃度18.2%) ・X22-164C:反応性シリコーン(信越化学(株)製) ・Irg127:光重合開始剤イルガキュア127(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製) 【0281】 (ハードコート層Aの作製) 層厚80μmの透明支持体としてのトリアセチルセルロースフィルム(TD80UF、富士フイルム(株)製、屈折率1.48)上に、前記ハードコート層用塗布液Aをグラビアコーターを用いて塗布した。100℃で乾燥した後、酸素濃度が1.0体積%以下の雰囲気になるように窒素パージしながら160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度400mW/cm^(2)、照射量150mJ/cm^(2)の紫外線を照射して塗布層を硬化させ、厚さ12μmのハードコート層Aを形成した。 【0282】 ハードコート層Aの上に、それぞれ所望の屈折率となるように調整した、中屈折率層用塗布液、高屈折率層用塗布液、低屈折率層用塗布液をグラビアコーターを用いて塗布した。なお、各層の屈折率の測定は、各層の塗布液を約4μmの厚みになるようにガラス板に塗布し、多波長アッベ屈折計DR-M2(アタゴ(株)製)にて測定した。「DR-M2,M4用干渉フィルター546(e)nm 部品番号:RE-3523」のフィルターを使用して測定した屈折率を波長550nmにおける屈折率として採用した。 【0283】 各層の膜厚は、中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層を積層後に反射分光膜厚計“FE-3000”(大塚電子(株)製)を用いて算出した。算出の際の各層の屈折率は上記アッベ屈折率計で導出した値を使用した。 【0284】 中屈折率層の乾燥条件は90℃、30秒とし、紫外線硬化条件は酸素濃度が1.0体積%以下の雰囲気になるように窒素パージしながら180W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度300mW/cm^(2)、照射量240mJ/cm^(2)の照射量とした。 硬化後の中屈折率層における屈折率、層厚は表2に示す通りに変化させた。 【0285】 高屈折率層の乾燥条件は90℃、30秒とし、紫外線硬化条件は酸素濃度が1.0体積%以下の雰囲気になるように窒素パージしながら240W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度300mW/cm^(2)、照射量240mJ/cm^(2)の照射量とした。硬化後の高屈折率層における屈折率、層厚は表2に示す通りとした。 【0286】 (低屈折率層の作製) 低屈折率層の乾燥条件は90℃、30秒とし、紫外線硬化条件は酸素濃度が0.1体積%以下の雰囲気になるように窒素パージしながら240W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度600mW/cm^(2)、照射量600mJ/cm^(2)の照射量とした。 【0287】 以上の方法で作製した反射防止フィルム試料1?18の作製に使用した塗布液、各層の屈折率及び層厚を表2に示す。 【0288】 【表2】 ![]() 【0289】 (反射防止フィルムの評価) 以下の方法により反射防止フィルムの諸特性の評価を行った。結果を表3に示す。 ・・・省略・・・ 【0294】 (4)鏡面反射率及び色味、膜厚変動時の色差 分光光度計V-550(日本分光(株)製)にアダプターARV-474を装着して、380?780nmの波長領域において、入射角5°における出射角5度の鏡面反射率を測定し、450?650nmの平均反射率を算出し、反射防止性を評価した。さらに、測定された反射スペクトルから、CIE標準光源D65の5度入射光に対する正反射光の色味を表すCIE1976L^(*)a^(*)b^(*)色空間のL^(*)値、a^(*)値、b^(*)値を算出し、反射光の色味を評価した。低屈折率層、高屈折率層、中屈折率層のうち任意の層の層厚を2.5%変動させた時の反射光の色味(L^(*)’、a^(*)’、b^(*)’)を測定し、設計膜厚の反射光の色味(L^(*)、a^(*)、b^(*))とのときの色差ΔEを求め、最大になる値を算出し膜厚変動時の色差を評価した。 ΔE={(L^(*)-L^(*)’)^(2)+(a^(*)-a^(*)’)^(2)+(b^(*)-b^(*)’)^(2)}^(1/2) ・・・省略・・・ 【0298】 【表3】 ![]() 【0299】 表3に示される通り、重合性不飽和基を有する含フッ素共重合体、無機微粒子に加えて重合性不飽和基を有する含フッ素防汚剤を含有する反射防止フィルムは低反射率で指紋や皮脂等の油脂成分が付着しても拭き取りやすく、耐擦傷性に優れることがわかった。さらには、重合性不飽和基を有する多官能モノマー、特にフッ素を含有し、架橋間分子量の計算値が500よりも小さい多官能モノマーを併用することにより、耐擦傷性が向上するだけでなく防汚耐久性にも優れた反射防止フィルムが得られた。 【0300】 本発明の試料No.9?14においては、中屈折率層の屈折率が1.60?1.64、膜厚が55.0?65.0nm、かつ高屈折率層の屈折率が1.70?1.74、膜厚が105.0?115.0nm、かつ低屈折率層の屈折率が1.33?1.38、膜厚が85.0?95.0nmを満足する。本発明の試料No.9?14は、反射率0.35%程度と低く、反射の色味が0≦a^(*)≦8、かつ-10≦b^(*)≦0とニュートラルであった。また、本発明の試料No.9?14は、汚れ成分である指紋が付着しても拭き取り後にほとんど目立たず、防汚耐久性に優れ、設計膜厚から低屈折率層、高屈折率層、中屈折率層の任意の層の膜厚を±2.5%ずらした場合の色差ΔE≦3と少ない反射防止フィルムが得られた。」 (2)引用発明 引用文献1には、実施例である試料No10の反射防止フィルムの発明として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 なお、引用発明が冗長にならないよう各層の材料組成及び製造工程の詳細は省略したが、正確には、次のとおりである。引用文献1において、ハードコート層用塗布液Aは【0257】に、中屈折率層用塗布液Eは【0261】?【0264】に、高屈折率層用塗布液Aは【0266】に、低屈折率層用塗布液Ln6は【0271】?【0280】に、各層の製造工程は【0281】?【0286】に、それぞれ、記載されているとおりである。 また、「層厚」、「厚さ」、「膜厚」を、「厚さ」に用語を統一した。 「 厚さ80μmの透明支持体上に、ハードコート層用塗布液Aを塗布して厚さ12μmのハードコート層Aを形成し、 ハードコート層Aの上に、それぞれ所望の屈折率となるように調整した、導電性微粒子ATOを含む中屈折率層用塗布液E、ZrO_(2)微粒子を含む高屈折率層塗布液A、低屈折率層用塗布液Ln6を塗布し、 硬化後の屈折率1.62、厚さ60nmの中屈折率層、硬化後の屈折率1.72、厚さ110nmの高屈折率層、硬化後の屈折率1.36、厚さ90nmの低屈折率層を積層し、 380?780nmの波長領域において、入射角5°における出射角5度の鏡面反射率を測定し、算出された450?650nmの平均反射率は、0.34%であり、測定された反射スペクトルから、算出されたCIE標準光源D65の5度入射光に対する正反射光の色味を表すCIE1976L^(*)a^(*)b^(*)色空間のa^(*)値、b^(*)値は、それぞれ、1.66、-0.75である、 反射防止フィルム。」 2 対比・判断 (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と引用発明とを対比する。 (ア)反射防止フィルム 引用発明の「反射防止フィルム」は、「厚さ80μmの透明支持体上に、ハードコート層用塗布液Aを塗布して厚さ12μmのハードコート層Aを形成し」、「ハードコート層Aの上に」「硬化後の屈折率1.62、厚さ60nmの中屈折率層、硬化後の屈折率1.72、厚さ110nmの高屈折率層、硬化後の屈折率1.36、厚さ90nmの低屈折率層を積層し」たものである。 ここで、引用発明の「反射防止フィルム」は、その文言が意味するとおりの機能及び形状のものである。また、「中屈折率層」、「高屈折率層」及び「低屈折率層」の層順及び屈折率の大小関係は、上記のとおりである。 そうしてみると、引用発明の「透明支持体」、「中屈折率層」と「高屈折率層」を併せたもの、「中屈折率層」、「高屈折率層」、「低屈折率層」及び「反射防止フィルム」は、それぞれ、本件発明1の「透明基材」、「高屈折率層」、「透明基材側に位置する高屈折率層」、「低屈折率層側に位置する高屈折率層」、「低屈折率層」及び「反射防止フィルム」に相当する。また、引用発明の「反射防止フィルム」は、本件発明1の「反射防止フィルム」における、「透明基材上に、高屈折率層と、前記高屈折率層上に配置される低屈折率層とを有する」及び「前記高屈折率層が2層構成であり」との要件を満たす。 (イ)低屈折率層 引用発明の「低屈折率層」は、「屈折率1.36、厚さ90nm」である。 そうしてみると、引用発明の「低屈折率層」と本件発明1の「低屈折率層」は、「厚みが80?120nmであり」である点で共通する。 (ウ)高屈折率層 引用発明の「中屈折率層」及び「高屈折率層」は、それぞれ「屈折率1.62、厚さ60nm」及び「屈折率1.72、厚さ110nm」である。 そうしてみると、引用発明の「中屈折率層」及び「高屈折率層」は、それぞれ本件発明1の「透明基材側に位置する高屈折率層」及び「低屈折率層側に位置する高屈折率層」における、「屈折率が1.55?1.70であり」及び「屈折率が1.60?1.85であり」という要件を満たす。また、引用発明の「中屈折率層」と「高屈折率層」を併せたものは、本件発明1の「高屈折率層」における「2層の合計厚みが50?180nmであり」との要件を満たす。 加えて、引用発明の「反射防止フィルム」は、「ハードコート層Aの上に、それぞれ所望の屈折率となるように調整した、導電性微粒子ATOを含む中屈折率層用塗布液E、ZrO_(2)微粒子を含む高屈折率層塗布液A、低屈折率層用塗布液Ln6を塗布し」て製造されるものである。 そうしてみると、引用発明の「中屈折率層」及び「高屈折率層」は、それぞれ、「導電性微粒子ATO」及び「ZrO_(2)微粒子」を含むものである。また、「導電性微粒子ATO」はその文言が意味するとおり導電性であり、「ZrO_(2)微粒子」は技術的にみて非導電性であり、また、これら粒子が層中で高屈折率粒子として機能していることは技術常識である。 そうしてみると、引用発明の「中屈折率層」と「高屈折率層」を併せたものは、本件発明1の「高屈折率層」における、「一方の高屈折率層が導電性の高屈折率粒子を含み、他方の高屈折率層が非導電性の高屈折率粒子を含み」との要件を満たす。 イ 一致点及び相違点 以上より、本件発明1と引用発明とは、 「 透明基材上に、高屈折率層と、前記高屈折率層上に配置される低屈折率層とを有する反射防止フィルムであって、 前記高屈折率層が2層構成であり、一方の高屈折率層が導電性の高屈折率粒子を含み、他方の高屈折率層が非導電性の高屈折率粒子を含み、前記透明基材側に位置する高屈折率層の屈折率が1.55?1.70であり、前記低屈折率層側に位置する高屈折率層の屈折率が1.60?1.85であり、前記高屈折率層の2層の合計厚みが50?180nmであり、低屈折率層の厚みが80?120nmである、反射防止フィルム。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 「低屈折率層」が、本件発明1は、「屈折率が1.26?1.34」であるのに対して、引用発明の「低屈折率層」の「屈折率」は、「1.36」である点。 (相違点2) 「反射防止フィルム」が、本件発明1は、「反射防止フィルムの透明基材の高屈折率層側とは反対側の面に透明粘着剤を介して黒色板を貼り合わせたサンプルから測定した視感反射率Y値、並びにLab表色系のa^(*)値及びb^(*)値が下記条件(1)及び(2)を満たし、前記サンプルに用いる透明粘着剤の屈折率は、前記透明基材及び前記黒色板の屈折率との屈折率差が0.05以内である。 <条件(1)> サンプルの低屈折率層側の表面に対して垂直に入射する光の入射角を0度として、入射角5度でサンプルに光を入射させた際に、該入射光の正反射光の視感反射率Y値が0.50%以下である。 <条件(2)> サンプルの低屈折率層側の表面に対して垂直に入射する光の入射角を0度として、入射角5度から45度まで5度間隔でサンプルに光を入射させ、該入射光の正反射光のLab表色系のa^(*)値及びb^(*)値を測定し、各入射角におけるa^(*)値及びb^(*)値の二乗和の平方根を算出し、さらに、下記式(A)から、各測定間のa^(*)値及びb^(*)値の二乗和の平方根の傾きを算出した際に、該傾きが負から正に変わる変曲点を示す角度x(度)が、25度以上30度未満である。 【数1】 ![]() (式中、「n」は1?8の整数を示す。)」のに対して、引用発明は、「380?780nmの波長領域において、入射角5°における出射角5度の鏡面反射率を測定し、算出された450?650nmの平均反射率は、0.34%であ」ることにどどまり、上記条件(1)及び(2)のように特定されていない点。 ウ 判断 上記相違点1及び相違点2について検討する。 まず、上記相違点1について検討すると、引用発明の「反射防止フィルム」を上記相違点1に係る本件発明1の要件を満たすものとするためには、引用発明の「低屈折率層」の屈折率を変更する必要がある。ここで、引用文献1の【0171】には、「本発明の反射防止フィルムは、透明支持体上に、中屈折率層、高屈折率層、及び低屈折率層がこの順に透明支持体側から積層されており」、「該中屈折率層の波長550nmにおける屈折率が1.60?1.65であり、該中屈折率層の厚さが50.0nm?70.0nmであり」、「該高屈折率層がの波長550nmにおける屈折率が1.70?1.74であり、該高屈折率層の厚さが90.0nm?115.0nmであり」、「該低屈折率層がの波長550nmにおける屈折率が1.33?1.38であり、該低屈折率層の厚さが85.0nm?95.0nmである」「ことが好ましい。」と記載されている。同様の記載は、引用文献1の【0010】、【0012】、【0172】にもある。上記記載に接した当業者であれば、引用発明の「低屈折率層」の屈折率を変更する際には、低屈折率層の屈折率のみならず、中屈折率層、高屈折率層の屈折率や厚さも上記範囲内において設計変更することを考慮に入れるものである(当合議体注:技術常識である。)。また、設計変更に際しては、引用文献1の【0173】?【0182】に記載されたような事項を考慮に入れると考えられる。 しかしながら、仮に、引用発明においてこのような設計変更したとしても、引用発明の「反射防止フィルム」が、上記相違点2に係る本件発明1の条件(1)及び(2)を満たすものになるかは、不明である。なぜならば、引用文献1には、「色味の問題を生じる反射防止フィルムは、正面方向から離れた角度(30?45度付近)から観察した場合に、色味を感じやすいとの知見を得た。そして本発明者らはさらに鋭意研究した結果、色味の管理を正面方向で行うのではなく、あえて正面方向から離れた角度で行うことにより、色味の角度依存性を抑制し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。」(本件出願の明細書の【0007】)という知見は記載も示唆もされていない。したがって、相違点2に係る本件発明1の構成のうち、特に、条件(2)を満たすようになるかは、不明といわざるを得ない。 すなわち、引用発明の「反射防止フィルム」の色味は、「380?780nmの波長領域において、入射角5°における出射角5度の鏡面反射率を測定し」、「算出されたCIE標準光源D65の5度入射光に対する正反射光の色味を表すCIE1976L^(*)a^(*)b^(*)色空間のa^(*)値、b^(*)値は、それぞれ、1.66、-0.75である」。しかしながら、引用発明の「反射防止フィルム」において、上記のとおり引用発明の「低屈折率層」の屈折率を変更した後の「a^(*)値、b^(*)値」が、「0≦a^(*)≦8、かつ、-10≦b^(*)≦0の範囲内」(【0178】)のどこになるかは、判らない。また、引用発明の「反射防止フィルム」のように、3層構造(中屈折率層、高屈折率層及び低屈折率層)からなる「反射防止フィルム」を斜めら観察すると、色味が赤くなることまでは自明であるとしても、「各入射角におけるa^(*)値及びb^(*)値の二乗和の平方根を算出し」、さらに、上記相違点2に係る式(A)から「各測定間のa^(*)値及びb^(*)値の二乗和の平方根の傾きを算出した際に、該傾きが負から正に変わる変曲点を示す角度x(度)が、25度以上30度未満」となるかは、不明である。 そして、原査定の拒絶の理由に示された、特開2014-167621号公報(以下「引用文献2」という。)、特開2004-138662号公報(以下「引用文献3」という。)、特許第5637327号公報(以下「引用文献4」という。)について、引用文献2の【0004】には、「正面方向のみならず斜め方向からの入射光の反射色相についても色付きのない反射防止フィルムを提供すること」、引用文献3の【0006】には、「色味入射角変化を低減した反射防止フィルムを提供すること」、引用文献4の【0007】には、「様々な角度から視認した場合における色味のばらつきを抑制できる」とそれぞれ記載されている。上記記載からは、角度変化による色味の変化を抑制することが読み取れるにすぎない。色味の管理を正面方向で行うのではなく、あえて正面方向から離れた角度で行うことにより、角度変化による色味の急変を抑制し得るとの知見、及び上記知見に基づき25度以上30度未満の範囲において上記相違点2に係る式(A)から「各測定間のa^(*)値及びb^(*)値の二乗和の平方根の傾きを算出した際に、該傾きが負から正に変わる変曲点を示す」ことは、引用文献1?4のいずれの文献にも、記載も示唆もされておらず、また、周知技術であるともいえない。 そうしてみると、たとえ当業者といえども、引用文献1の【0171】等の記載や引用文献2?4に記載された事項を参酌して、引用発明において、中屈折率層、高屈折率層、及び低屈折率層の屈折率等を設計変更するとしても、反射防止フィルムの角度変化による色味の変化を抑制するようにすることにとどまり、特定の角度範囲である25度以上30度未満の範囲において上記相違点2に係る式(A)から「各測定間のa^(*)値及びb^(*)値の二乗和の平方根の傾きを算出した際に、該傾きが負から正に変わる変曲点を示す」ようにして上記相違点2に係る条件(2)を満たすようにすることは、容易になし得るものではない。 したがって、当業者であっても、引用発明1に引用文献1?4に記載された事項を適用して上記相違点1及び2に係る本件発明1の構成とすることが容易になし得るということはできない。 そして、本件発明1は、上記相違点1及び相違点2に係る本件発明1の構成とすることにより、本件出願の明細書の【0012】に記載された「本発明の反射防止フィルム及び表示装置は、反射率を抑制しつつ、カラーユニフォミティに優れる。」との作用効果を奏するものである。 エ 小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献1?4に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたということができない。 なお、引用文献1の別の実施例を主引例としても同様である。 (2)本件発明2?10について 本件発明2?10は、本件発明1の構成を全て具備するものであるから、本件発明2?10も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献1?4に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたということができない。 (3)まとめ 本件発明1?10は、いずれも、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献1?4に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたということができない。 第5 サポート要件について 本件発明1の条件(2)の「x(度)」の範囲は、「25度以上30度未満」であり、本件出願の明細書の実施例2及び3で示されている。本件発明2?10についても同様である。 また、本件発明1の「反射防止フィルム」は、「透明基材側に位置する高屈折率層」、「低屈折率層側に位置する高屈折率層」及び「低屈折率層」の3層からなるものである。したがって、当業者ならば、例えば、入射角27.5°の条件で視感度反射率Y値が最小となるように3層を設計することにより、本件発明1の「条件(1)及び(2)」の要件を満たす「反射防止フィルム」を容易に設計することができる。 本件発明2?10についても、同様である。 したがって、本件発明1?10が発明の詳細な説明に記載したものである。 第6 明確性要件について 本件出願の明細書の記載及び技術常識に基づいて本件発明1の「前記透明基材及び前記黒色板の屈折率との屈折率差が0.05以内である」という構成の技術的意義を理解すれば、視感反射率Y値並びにLab表色系のa^(*)値及びb^(*)値を一義的に決めることができないとまではいえない。 したがって、本件発明1?10に係る発明は、明確である。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-05-14 |
出願番号 | 特願2019-77299(P2019-77299) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(G02B)
P 1 8・ 121- WY (G02B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 吉川 陽吾 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
井口 猶二 関根 洋之 |
発明の名称 | 反射防止フィルム、該反射防止フィルムを用いた表示装置、及び反射防止フィルムの選択方法 |
代理人 | 大谷 保 |