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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 E06B
管理番号 1374273
審判番号 不服2020-9411  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-06 
確定日 2021-06-01 
事件の表示 特願2018-192238「建具施工構造」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月10日出願公開、特開2019- 2275、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年9月28日に出願した特願2012-215681号(以下、「原々々出願」という。)の一部を、新たな特許出願として平成28年11月10日に出願した特願2016-219449号(以下、「原々出願」という。)の一部を、さらに新たな特許出願として平成29年12月15日に出願した特願2017-240142号(以下、「原出願」という。)の一部を、さらにもう一度新たな特許出願として平成30年10月11日に出願したものであって、令和1年6月21日付けで拒絶理由通知がされ、令和1年10月28日付けで手続補正がされ、令和2年3月25日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和2年7月6日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(令和2年3月25日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.本願請求項1-5に係る発明は、以下の引用文献1-7に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.登録実用新案第3151964号公報
2.特開2004-308327号公報
3.特開2009-127265号公報
4.特開2004-19188号公報
5.組立・施工説明書 ラフォレスタ スタンダード モダン トラッド,YKK AP株式会社,2010年 6月(周知技術を示す文献)
6.リビング建材 ウッディーライン 可動間仕切り引戸 スライドタイプ 取付け説明書,トステム株式会社,2007年 6月 1日(周知技術を示す文献)
7.インテリア建材 上吊り引戸 施工要領書,三協立山アルミ,2011年 7月,第2版(周知技術を示す文献)


第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって、請求項1において、
(1)「前記両側の縦枠とによって三方枠状に枠組み一体化された前記建具用枠の前記上枠が、前記天井パネルによって覆われた状態となっている」という事項を追加する補正がなされている。

上記(1)の補正について検討すると、(1)の補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、当初明細書の段落【0021】における「上記構成とされた両側の縦枠20,23と上記した上枠10とは、図3(a)、(b)に示すように、上枠10の長手方向両端に両側の縦枠20,23をそれぞれ接合して三方枠状に枠組みされる。・・・」との記載、段落【0047】における「・・・このように上レール14及びその両側の天井パネル41,41を施工した状態では、上枠10が天井パネル41,41によって覆われた状態となる。・・・」との記載、及び、段落【0054】における「・・・従って、上枠10が天井パネル41,41によって覆われて露出せず、上レール14が天井パネル41,41の隙間42に配置されることとなり、上レール14も目立ち難くすることができ、見栄えを向上させることができる。・・・」との記載からみて、当初明細書等に記載された事項であり、新規事項を追加するものではないといえる。(下線は、審決で付した。)
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1-5に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。


第4 本願発明
本願請求項1-5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」、「本願発明3」、「本願発明4」、「本願発明5」という。)は、令和2年7月6日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
建物の開口部に固定され、上枠と両側の縦枠とを有した建具用枠に建具を建て付けた建具施工構造であって、
前記建具用枠は、前記上枠の長手方向両端に前記両側の縦枠をそれぞれ接合して三方枠状に枠組み一体化されて前記開口部内に嵌め込み固定され、前記上枠が固定される上枠下地によって構成される前記開口部の天面は、天井パネルによって構成される天井面よりも上側に位置するように設けられ、前記開口部内に嵌め込み固定された前記建具用枠の前記上枠の下面側に設けられた凹溝に、前記建具の上端部を保持する上レールの上側部位が嵌め込み固定され、該上レールの下側部位の見込み方向両側にそれぞれの端面を突き合わせて該上レールの見込み方向両側の前記天井パネルが固定され、前記天井面近傍に至る上下寸法とされた前記建具が前記建具用枠に建て付けられており、
前記天井パネルは、前記上枠が固定される前記開口部の天面よりも下面が下方側に位置された天井下地に固定されていて、前記両側の縦枠とによって三方枠状に枠組み一体化された前記建具用枠の前記上枠が、前記天井パネルによって覆われた状態となっていることを特徴とする建具施工構造。

【請求項2】
請求項1において、
前記上レールの下端縁部には、見込み方向両外方側に向けてそれぞれ突出する突片部が全長に亘って設けられ、該上レールの見込方向両側にそれぞれの端面が突き合わせられた前記天井パネルの下端縁が前記突片部の上面に当接または近接されていることを特徴とする建具施工構造。

【請求項3】
請求項1または2において、
横断面略L字状とされ、その一片部を前記開口部の内側面に交差するように形成された壁下地面に固定される壁パネルの厚さと略同厚さとした額縁状部材の他片部が、少なくとも一方の前記縦枠における少なくとも一方の見込み方向端部に設けられた凹所に嵌め入れられ、前記額縁状部材の一片部と前記壁パネルとが表面略面一状に前記壁下地面に固定され、前記額縁状部材及び前記壁パネルの表面に一連に化粧シートが貼着されていることを特徴とする建具施工構造。

【請求項4】
請求項3において、
前記建具用枠は、中方立を備えた引戸用枠であり、
両側の縦枠間に配設された前記中方立の戸尻側の縦枠側に袖壁下地が設けられ、横断面略L字状とされ、その一片部を前記袖壁下地の反引戸納め側の袖壁下地面に固定される袖壁パネルの厚さと略同厚さとした中方立用額縁状部材の他片部が、前記中方立の反引戸対面側の見込み方向端部に設けられた凹所に嵌め入れられ、前記中方立用額縁状部材の一片部と前記袖壁パネルとが表面略面一状に前記袖壁下地面に固定され、前記中方立用額縁状部材及び前記袖壁パネルの表面に一連に化粧シートが貼着されていることを特徴とする建具施工構造。

【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項において、
前記天井パネルの室内側面には、化粧シートが貼着されていることを特徴とする建具施工構造。」


第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。(下線は審決で付した。)

(1)「【0001】
本考案は、戸開閉部の形成に際し、従来の化粧枠の使用をなくし、化粧枠により生じていた段差及びデザイン性の不連続感による美観の劣化を解消すると共に、従来の戸枠の素材の使用量を大幅に低減させると共に仕上げ処理を低減させて、コストダウンを図り得る戸開閉縁の仕舞い構造に関するものである。
【0002】
部屋と部屋との通路に設けられる扉や、収納室の開口を塞ぐ扉を設ける場合、壁面に設けられた開口に上枠、縦枠等よりなる戸枠を取付けておき、その戸枠に扉や戸を開閉自在に装着することが、従来から採用されているが、戸枠は壁面より突出し、しかも開口縁を隈取ることになって、デザイン的に不連続感を与え、外観を劣化させる場合もあった。また、戸枠が扉以外に必要となり、部品点数及び施工工程が多く、しかもいずれも扉の開閉に際して露出する部位であるため、戸枠には化粧を施す必要も免れず、コストが高くなっていた。」

(2)「【0007】
また、本考案の第2の請求項の特徴は、戸1、1・・・が開閉自在に装着される開口2の上方縁に前端が壁下地3の表面と実質的に面一となり且つ下端が天井下地10と実質的に面一になるように上枠4を装着し、この上枠4の下面部に上レール5を配置すると共に、開口2の左右の縦開口縁6、6の奥部に添うように化粧凸条7、7を装着し、天井下地10に施された化粧材11の連出部で上枠4前方の露出下面を隠蔽し、壁下地3に貼られた化粧シート8を折り曲げて、化粧凸条7前方に露出する縦開口縁6を隠蔽し、上レール5の奥部下面に化粧面9を施したことである。
【発明の効果】
【0008】
本考案にあっては上述のように、請求項1の考案は、戸1が施される開口2の上端が天井より下方に位置する場合であり、開口2の左右及び上端に従来のような戸枠部材が露出せず、戸1の外周と壁面との境界部に縁取りがなくなり、すっきりとしたデザインにできる。また、従来の戸枠は開口2の壁断面巾よりも広い巾の部材が必要であるが、本考案では左右の部材は化粧凸条7のみとなるため、使用部材が従来の枠材、特に上下方向に長い縦枠材の素材使用量が数分の1以下となって、素材使用量が大幅に削減できてコスト低減に大いに寄与できる。そしてこの化粧凸条7の前方の壁下地3が露出する縦開口縁6も壁下地3に貼付される壁紙などの化粧シート8を折り曲げて貼り付けて隠蔽するため、外観を損なうこともない上に、化粧シート8による隠蔽処理も化粧シート8の端を一回だけ折り曲げて貼り付けるだけで良いので、施工性も損なわれない。」

(3)「【0011】
以下本考案を添付図面に基づき詳細に説明する。図1、2は天井が高い場合のように、戸1、1・・・が装着される開口2の上端が壁の途中までの例であって、2枚の戸1、1を蝶番12で折畳み可能に連結した折り戸を1対として、1対、2対、或いはそれ以上の枚数が開閉可能に開口2に設置される。ここで図示例は前方が居室側、奥が収納側であるが、勿論居室と居室の境界、居室と廊下との境界等、任意の戸設置開口に適用できる。尚、図1は開口2の片方が隣の壁との境界に合致した例であるが、図2のように両方とも同一の壁面3の途中に在っても良い。勿論、両側共隣の壁との境界に合致していても構わない。
【0012】
上枠4は実質的に壁の厚みと同じ巾を有するか、或いは少なくとも前端面が壁下地3と実質的に面一に装着されるもので、図3のように基材4Aの下面中央に上レール5を装着し、上レール5の前後を前ブロック4Bと後ブロック4Cで保持しており、前ブロック4Bは無化粧でも良いが、後ブロック4Cは化粧面9が施される。ここで天井下地10よりも図3のように上枠4の厚み分が下方に突出する場合は、天井下地10を被う化粧材11の端を下方及び奥方向に折り曲げて上枠4の露出前面と前方下面を被う。
【0013】
図4は左右の化粧凸条7の施工状態を示すもので、開口2の左右の縦端面の奥端に添って上下に固着され、露出する表面は化粧が施されている。この化粧凸条7の前方の開口2の縦開口縁6は壁下地3に貼付される壁紙などの化粧シート8の端を折り曲げて覆い隠蔽する。
【0014】
開口2の下縁には図3のように必要に応じて下レール13が施され、戸1の適所に施された上ランナー14は上記上レール5に、下ランナー15はこの下レール13に装着されて、戸1が開口2に折畳みにより開閉自在に設置される。尚、戸1の形態は、任意であり、折畳み形式の他、下ランナーを用いない引戸でも構わない。」

(4)「【0016】
図6は上枠4が天井下地10に埋設され、開口2の上端が実質的に天井下地10下面と同一の例で、壁紙のような化粧シートに代え、天井の化粧シート、化粧板等の化粧部材11の端部を延長させて上枠4の前ブロック4Bの下面を被っている。それ以外は第1項に記載の考案と共通している。」

(5)「【0019】
【図1】本考案の一実施例の概略図。
【図2】同上の少し変形した例の分解斜視図。
【図3】同上の要部の一部省略した拡大縦断面図。
【図4】同上の要部の拡大横断面図。
【図5】同上の上枠付近の他の例の拡大縦断面図。
【図6】同上の上枠付近の更に他の例の拡大縦断面図。
【図7】同上の戸の表面を壁面と一致させた例の一部省略した拡大断面図。」

(6)図2、図4、図6は以下のとおり。
【図2】


【図4】


【図6】


(7)上記(6)の図2を参照すると、開口2に上枠4及び化粧凸条7を装着すると、上枠4及び化粧凸条7が門型に配置されることが看取できる。
また、上記(2)及び(3)の記載を踏まえて上記(6)の図4を参照すると、縦開口縁6において化粧凸条7が装着されている位置は、戸1よりも収納側の端部であることが看取できる。
加えて、上記(2)の記載を踏まえて上記(6)の図6を参照すると、開口2の上方縁面を規定する部材が上枠4の上方に存在すること、上枠4が装着される開口2の上方縁面は化粧部材11の下面よりも上側に位置すること、天井下地10は、上枠4が装着される開口2の上方縁面よりも下方側に下面が位置すること、化粧部材11は見込み方向において上レール5と端面を突き合わせて設けられていること、及び、戸1が化粧部材11の近傍に至る上下寸法であること、が看取できる。

(8)上記(1)-(7)からみて、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「戸1、1・・・が開閉自在に装着される開口2の上方縁に上枠4を装着し、開口2の左右の縦開口縁6、6の奥部に添うように化粧凸条7、7を装着し、戸1が開口2に折畳みにより開閉自在に設置される、戸開閉縁の仕舞い構造であって、
上枠4及び化粧凸条7は、門型に配置されて開口2に装着され、
開口2の上方縁面を規定する部材が上枠4の上方に存在し、上枠4が装着される開口2の上方縁面は、天井の化粧板である化粧部材11の下面よりも上側に位置し、
上枠4の基材4Aの下面中央に上レール5を装着し、上レール5の前後を前ブロック4Bと後ブロック4Cで保持し、
天井の化粧板である化粧部材11は見込み方向において上レール5と端面を突き合わせて設けられており、
開口2は、居室と居室の境界、居室と廊下との境界等、任意の戸設置開口であり、
天井の化粧板である化粧部材11の近傍に至る上下寸法である戸1の適所に施された上ランナー14は上レール5に装着されて、戸1が開口2に折畳みにより開閉自在に設置され、
天井の化粧板である化粧部材11は、上枠4が装着される開口2の上方縁面よりも下方側に下面が位置する天井下地10に施され、
天井の化粧板である化粧部材11の端部を延長させて上枠4の前ブロック4Bの下面を被っている、
戸開閉縁の仕舞い構造。」

2.引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には、第2頁等の記載からみて、引違い戸において、たて枠及び引違い戸鴨居からなる枠を組み立て、当該枠を開口部に取り付けること(以下「技術事項1」という。)が記載されている。

3.引用文献6について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6には、第3-5頁等の記載からみて、可動間仕切り引戸において、縦枠及び鴨居からなる枠を組み立て、当該枠を開口部に取り付けること(以下「技術事項2」という。)が記載されている。

4.引用文献7について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7には、第3-5頁等の記載からみて、上吊り引戸において、縦枠及び鴨居からなる枠を組み立て、当該枠を開口部に取り付けること(以下「技術事項3」という。)が記載されている。


第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明を対比する。
ア 引用発明において、「戸1」、「開口2」、「上枠4」、「戸開閉縁の仕舞い構造」は、それぞれ本願発明1の「建具」、「建物の開口部」、「上枠」、「建具施工構造」に相当する。また、上枠4等を「装着」することは、上枠4等を「固定」することを意味することは明らかである。
引用発明の「戸1、1・・・が開閉自在に装着される開口2の上方縁に上枠4」「を装着」することと、本願発明1の「前記建具用枠は、前記上枠の長手方向両端に前記両側の縦枠をそれぞれ接合して三方枠状に枠組み一体化されて前記開口部内に嵌め込み固定され」ることとは、「前記建具用枠」として、「前記上枠」を「前記開口部内に嵌め込み固定され」ることで共通する。
また、引用発明の「戸1、1・・・が開閉自在に装着される開口2の上方縁に上枠4を装着し、」「戸1が開口2に折畳みにより開閉自在に設置される、戸開閉縁の仕舞い構造」は、本願発明1の「建具用枠に建具を建て付けた建具施工構造」に相当する。

イ 引用発明において、「開口2の上方縁面を規定する部材」、「上枠4が装着される開口2の上方縁面」、「天井の化粧板である化粧部材11」、「天井の化粧板である化粧部材11の下面」は、それぞれ本願発明1の「上枠下地」、「開口部の天面」、「天井パネル」、「天井パネルによって構成される天井面」に相当する。
よって、引用発明の「開口2の上方縁面を規定する部材が上枠4の上方に存在し、上枠4が装着される開口2の上方縁面は、天井の化粧板である化粧部材11の下面よりも上側に位置」することは、本願発明1の「前記上枠が固定される上枠下地によって構成される前記開口部の天面は、天井パネルによって構成される天井面よりも上側に位置するように設けられ」ることに相当する。

ウ 引用発明において、「上レール5」は、本願発明1の「上レール」に相当する。
また、「上枠4の基材4Aの下面中央に上レール5を装着し、上レール5の前後を前ブロック4Bと後ブロック4Cで保持」することにより、「基材4A」、「前ブロック4B」及び「後ブロック4C」により形成される「上枠4」の凹状部に「上レール5」が配置される構造となることは明らかである。
よって、引用発明において、「上枠4の基材4Aの下面中央に上レール5を装着し、上レール5の前後を前ブロック4Bと後ブロック4Cで保持」することは、本願発明1の「前記上枠の下面側に設けられた凹溝に、前記建具の上端部を保持する上レールの上側部位が嵌め込み固定され」ることに相当する。

エ 引用発明において、「天井の化粧板である化粧部材11」、「上レール5」は、それぞれ本願発明1の「天井パネル」、「上レール」に相当する。
また、引用発明において、「開口2は、居室と居室の境界、居室と廊下との境界等、任意の戸設置開口」であるとともに、「居室」及び「廊下」は、いずれも「天井の化粧板である化粧部材11」を設ける居住空間であることは明らかであるから、引用発明の開口2の見込み方向において上レール5と端面を突き合わせて設けられる「天井の化粧板である化粧部材11」が、両居室側、又は、居室側と廊下側、すなわち、見込み方向の両側において上レール5と端面を突き合わせて設けられる態様となることは明らかである。
よって、引用発明において、「天井の化粧板である化粧部材11は見込み方向において上レール5と端面を突き合わせて設けられており、開口2は、居室と居室の境界、居室と廊下との境界」であることは、本願発明1の「該上レールの下側部位の見込み方向両側にそれぞれの端面を突き合わせて該上レールの見込み方向両側の前記天井パネルが固定され」ることに相当する。

オ 引用発明において、「天井の化粧板である化粧部材11の近傍に至る上下寸法」、「戸1」は、それぞれ本願発明1の「前記天井面近傍に至る上下寸法」、「建具」に相当する。
よって、引用発明において、「上枠4の基材4Aの下面中央に上レール5を装着し、」「天井の化粧板である化粧部材11の近傍に至る上下寸法である戸1の適所に施された上ランナー14は上レール5に装着されて、戸1が開口2に折畳みにより開閉自在に設置され」ることは、本願発明1の「前記天井面近傍に至る上下寸法とされた前記建具が前記建具用枠に建て付けられて」いることに相当する。

カ 引用発明において、「天井の化粧板である化粧部材11」、「上枠4」、「開口2の上方縁面」、「天井下地10」は、それぞれ本願発明1の「天井パネル」、「上枠」、「開口部の天面」、「天井下地」に相当する。また、上枠4が「装着」され、化粧部材11が「施され」ることは、上枠4及び化粧部材11が「固定」されることを意味することは明らかである。
よって、引用発明において、「天井の化粧板である化粧部材11は、上枠4が装着される開口2の上方縁面よりも下方側に下面が位置する天井下地10に施され」ることは、本願発明1の「前記天井パネルは、前記上枠が固定される前記開口部の天面よりも下面が下方側に位置された天井下地に固定されて」いることに相当する。

キ 引用発明において、「上枠4」、「天井の化粧板である化粧部材11」は、それぞれ本願発明1の「上枠」、「天井パネル」に相当する。
よって、引用発明において、「天井の化粧板である化粧部材11の端部を延長させて上枠4の前ブロック4Bの下面を被っている」ことは、本願発明1の「前記建具用枠の前記上枠が、前記天井パネルによって覆われた状態となっている」ことに相当する。

ク 以上のことから、本願発明1と引用発明は、
「建物の開口部に固定され、上枠を有した建具用枠に建具を建て付けた建具施工構造であって、
前記上枠が固定される上枠下地によって構成される前記開口部の天面は、天井パネルによって構成される天井面よりも上側に位置するように設けられ、前記建具用枠の前記上枠の下面側に設けられた凹溝に、前記建具の上端部を保持する上レールの上側部位が嵌め込み固定され、該上レールの下側部位の見込み方向両側にそれぞれの端面を突き合わせて該上レールの見込み方向両側の前記天井パネルが固定され、前記天井面近傍に至る上下寸法とされた前記建具が前記建具用枠に建て付けられており、
前記天井パネルは、前記上枠が固定される前記開口部の天面よりも下面が下方側に位置された天井下地に固定されていて、前記建具用枠の前記上枠が、前記天井パネルによって覆われた状態となっていることを特徴とする建具施工構造。」
で一致するものの、「建具用枠」について、本願発明1が、「上枠」に加えて「縦枠」を有し、「前記建具用枠は、前記上枠の長手方向両端に前記両側の縦枠をそれぞれ接合して三方枠状に枠組み一体化されて前記開口部内に嵌め込み固定され」ているのに対し、引用発明は、そのような構成を備えていない点(以下「相違点」という。)で相違している。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
ア まず、上記相違点のうち、「上枠」に加えて「縦枠」を有することについて、引用発明の「化粧凸条7」が、本願発明1の「縦枠」に相当するといえるか否かについてさらに検討する。
引用文献1に記載された、「上枠、縦枠等よりなる戸枠」について「戸枠が扉以外に必要となり、部品点数及び施工工程が多く、しかもいずれも扉の開閉に際して露出する部位であるため、戸枠には化粧を施す必要も免れず、コストが高くなっていた」こと(上記第5の1.(1)【0002】)、及び、「従来の戸枠は開口2の壁断面巾よりも広い巾の部材が必要であるが、本考案では左右の部材は化粧凸条7のみとなるため、使用部材が従来の枠材、特に上下方向に長い縦枠材の素材使用量が数分の1以下となって、素材使用量が大幅に削減できてコスト低減に大いに寄与できる」こと(上記第5の1.(2)【0008】)に鑑みると、引用発明の「開口2」において、その左右に取り付けられた部材は「化粧凸条7」であり、「従来の枠材、特に上下方向に長い縦枠材」を廃した構造を採用していると解するのが妥当である。
加えて、引用発明における「開口2の左右の縦開口縁6、6の奥部に添うように」「装着し」た「化粧凸条7」は、その装着されている位置が、「戸1」よりも収納側の端部であって、「開口2」の見込み方向において「戸1」と略同一面に存在しないものであり、建具用枠の「縦枠」としての構造及び機能を担っているか不明である。
したがって、引用発明の「化粧凸条7」は、本願発明1の「縦枠」に相当するとまではいえない。

イ つぎに、上記相違点は「三方枠状に枠組み一体化され」ることを含むので、引用発明の、上枠を有する建具用枠に、「縦枠」を加えて「前記建具用枠は、前記上枠の長手方向両端に前記両側の縦枠をそれぞれ接合して三方枠状に枠組み一体化されて前記開口部内に嵌め込み固定され」ることの容易性について検討する。
上記第5の2-4に記載された、引用文献5-7に記載の技術事項1-3からみて、建具用枠を、上枠及び縦枠で三方枠状に枠組み一体化して開口部に嵌め込むことは、原々々出願の出願前に周知技術であったといえる。
しかしながら、上記アにおいて検討したとおり、引用発明の建具施工構造においては、「開口2」の左右に取り付けられた部材は「化粧凸条7」であって、「従来の枠材、特に上下方向に長い縦枠材」を廃した構造を採用していると解するのが妥当であるから、引用発明において、縦枠を付加して、または「化粧凸条7」を「縦枠」に代えて、三方枠状の建具枠とする動機付けはない。
よって、建具用枠を、上枠及び縦枠で三方枠状に枠組み一体化して開口部に嵌め込むことが周知技術であったとしても、引用発明において、上枠を有する建具用枠にさらに縦枠を設け、上枠の長手方向両端に両側の縦枠をそれぞれ接合して三方枠状に枠組み一体化されて開口部内に嵌め込み固定する構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
また、引用発明において、「化粧凸条7」は縦枠とはいえないが、上記周知技術のように、開口部に嵌め込む際に「上枠4」と「化粧凸条7」で三方枠状に枠組み一体化するかについても検討する。
引用文献1に記載された「従来の戸枠は開口2の壁断面巾よりも広い巾の部材が必要であるが、本考案では左右の部材は化粧凸条7のみとなるため、使用部材が従来の枠材、特に上下方向に長い縦枠材の素材使用量が数分の1以下となって、素材使用量が大幅に削減できてコスト低減に大いに寄与できる」(上記第5の1.(2)【0008】)ことからすると、引用発明の「化粧凸条7」は従来の縦枠材と比べて数分の1以下の巾しかないものである。これに対して、「上枠4」は、「上枠4は実質的に壁の厚みと同じ巾を有するか、或いは少なくとも前端面が壁下地3と実質的に面一に装着されるもの」(上記第5の1.(3)【0012】)であるから、引用発明の「化粧凸条7」と「上枠4」とは、巾が相当異なっていることからすると、当業者が、それらを三方枠状に枠組み一体化しようと思いつくものではない。
よって、引用発明の「上枠4」と「化粧凸条7」とで、上記周知技術のように三方枠状に枠組み一体化することは、当業者が容易になし得たことではない。
上記の各検討について、引用文献2-4に記載の技術事項を併せみても同様である。
したがって、引用発明において、上記周知技術を適用することにより、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

(3)小括
以上検討したように、本願発明1は、当業者であっても引用文献1に記載された発明及び引用文献2-7に記載された技術事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2-5について
本願発明2-5も、本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2-7に記載された技術事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。


第7 原査定について
1.理由(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正に基づく本願発明1-5は、上記第6での対比及び判断と同様、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1に記載された発明及び引用文献2-7に記載された技術事項に基いて、容易に発明をすることができたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-05-13 
出願番号 特願2018-192238(P2018-192238)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (E06B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 秋山 斉昭  
特許庁審判長 住田 秀弘
特許庁審判官 土屋 真理子
田中 洋行
発明の名称 建具施工構造  
代理人 協明国際特許業務法人  

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