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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1374278
審判番号 不服2020-7718  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-04 
確定日 2021-06-11 
事件の表示 特願2017- 679「コンテンツ配信システムの転送装置及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月12日出願公開、特開2018-109903、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年1月5日の出願であって、令和元年11月12日付けで拒絶理由通知がされ、令和元年12月4日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、令和2年5月7日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和2年6月4日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がなされ、令和2年7月29日に前置報告がされたものである。

第2 原査定及び前置報告の概要
原査定(令和2年5月7日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

[理由1]
本願請求項1及び7に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

[理由2]
本願請求項1ないし7に係る発明は、以下の引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[引用文献等一覧]
1 特開2014-042124号公報
2 特開2006-340108号公報(周知技術を示す文献)
3 特開平09-265429号公報(周知技術を示す文献)

なお、前置報告において、令和2年6月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、限定的減縮を目的としたものであるが、本件補正後の本願請求項1ないし7に係る発明は、以下の引用文献AないしDに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものであり、本願は、原査定の理由に示したとおり拒絶されるべきものである旨、説示されている。

[引用文献等一覧]
A 特開2012-181745号公報
B 特開2014-042124号公報(原査定の引用文献1)
C 特開2006-340108号公報(原査定の引用文献2)
D 特開平09-265429号公報(原査定の引用文献3)

第3 本願発明
本願請求項1ないし7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明7」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。なお、下線は、本件補正により補正された箇所を示す。

「 【請求項1】
コンテンツを複数のチャンクに分割して配信するコンテンツ配信システムのための転送装置であって、
チャンクをキャッシュするキャッシュ手段と、
コンテンツの削除順位を決定して前記キャッシュ手段を管理する管理手段と、
を備えており、
前記管理手段は、前記キャッシュ手段からチャンクを削除する場合、前記削除順位に基づき決定したコンテンツの総てのチャンクを常に削除することを特徴とする転送装置。
【請求項2】
前記管理手段は、前記キャッシュ手段からチャンクを削除すると、前記キャッシュ手段がキャッシュしているチャンクに対応する各コンテンツの削除順位を1つずつ繰り上げることを特徴とする請求項1に記載の転送装置。
【請求項3】
前記管理手段は、前記キャッシュ手段がキャッシュしている第1チャンクを要求するパケットを受信すると前記削除順位を更新することを特徴とする請求項1又は2に記載の転送装置。
【請求項4】
前記管理手段は、前記第1チャンクのコンテンツの削除順位を最下位として前記削除順位を更新することを特徴とする請求項3に記載の転送装置。
【請求項5】
前記管理手段は、転送した第1コンテンツのチャンクをキャッシュすると前記削除順位を更新することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の転送装置。
【請求項6】
前記管理手段は、前記第1コンテンツの削除順位を最下位として前記削除順位を更新することを特徴とする請求項5に記載の転送装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の転送装置としてコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(前置報告の引用文献B)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0016】
図1に示すように、コンテンツ配信システムは、キャッシュサーバ20へコンテンツを事前に配信しておくオリジンサーバ10と、ユーザ端末30からのリクエストに応じてコンテンツを配信するキャッシュサーバ20とを備える。各サーバおよびユーザ端末30の台数は、図1に示した台数に限定されない。オリジンサーバ10とキャッシュサーバ20とは連携しており、両サーバ間で高速データ転送するためのTCP(Transmission Control Protocol)高速化やファイル圧縮等の機能を装備していてもよい。」

「【0028】
コンテンツ151は、動画等のコンテンツであり、事前に複数のチャンクに分割されているものとする。」

「【0038】
<キャッシュサーバ>
次に、図4を用いてキャッシュサーバ20を詳細に説明する。キャッシュサーバ20は、キャッシュサーバ記憶部21と、オリジンサーバ通信部22と、キャッシュ管理部23と、リクエスト受信部24と、コンテンツ配信部25と、コンテンツ再生記録部26とを備える。
…(中略)…
【0040】
キャッシュサーバ記憶部21は、オリジンサーバ10から送信されるコンテンツチャンク(コンテンツのチャンク)211と、キャッシュチャンク情報テーブル212と、コンテンツ管理テーブル213とを記憶する領域を備える。」

「【0086】
例えば、キャッシュ管理部23は、所定期間ごとに、コンテンツ管理テーブル213(表5参照)に示される各コンテンツのアクセス数および再生完了数と、キャッシュチャンク情報テーブル212(表4参照)に示される各コンテンツのチャンクの再生中止数とを参照して、キャッシュサーバ記憶部21における空き容量が不足した場合、どのチャンクから優先的に削除すべきかを示したリスト(キャッシュ削除リスト)を事前に作成しておく。
【0087】
ここで、キャッシュ管理部23は、優先的に削除すべきデータとして、(1)アクセス数ができるだけ少なく、(2)再生完了数ができるだけ少ないコンテンツを選択する。そして、選択したコンテンツを構成するチャンクのうち、(3)離脱率(当該コンテンツの再生開始から当該チャンクまでの再生中止数の和/当該コンテンツのアクセス数(配信回数))がβとなるチャンクより先のチャンク番号のチャンクを削除対象のチャンクとして選択する。つまり、キャッシュ管理部23が優先的に削除すべきチャンクの選択にあたり、当該コンテンツの、(1)アクセス数の少なさ、(2)再生完了数の少なさ、(3)離脱率の高さという3つの条件を用いる。ここで、条件適用の優先順位は、例えば、(1)→(2)→(3)とする。
【0088】
そして、キャッシュ管理部23は、このようにしてキャッシュ削除リストを作成すると、キャッシュサーバ記憶部21の所定領域に格納しておく。そして、キャッシュサーバ20のオリジンサーバ通信部22は、オリジンサーバ10からの新たなコンテンツのチャンクを受信する場合において、キャッシュサーバ記憶部21に空き容量が不足していた場合、このキャッシュ削除リストに示される優先順位に従い、新たなコンテンツのチャンクの分の空き容量を確保できるまで、キャッシュサーバ記憶部21からチャンクの削除を行う。」

(2)引用発明
前記(1)より、上記引用文献1(引用文献B)には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 コンテンツ配信システムにおいて、ユーザ端末30からのリクエストに応じてコンテンツを配信するキャッシュサーバ20であって、
コンテンツ151は、事前に複数のチャンクに分割されており、
キャッシュサーバ20は、キャッシュサーバ記憶部21と、オリジンサーバ通信部22と、キャッシュ管理部23と、リクエスト受信部24と、コンテンツ配信部25と、コンテンツ再生記録部26とを備え、
キャッシュサーバ記憶部21は、オリジンサーバ10から送信されるコンテンツチャンク(コンテンツのチャンク)211と、キャッシュチャンク情報テーブル212と、コンテンツ管理テーブル213とを記憶する領域を備え、
キャッシュ管理部23は、所定期間ごとに、コンテンツ管理テーブル213(表5参照)に示される各コンテンツのアクセス数および再生完了数と、キャッシュチャンク情報テーブル212(表4参照)に示される各コンテンツのチャンクの再生中止数とを参照して、キャッシュサーバ記憶部21における空き容量が不足した場合、どのチャンクから優先的に削除すべきかを示したリスト(キャッシュ削除リスト)を事前に作成しておき、
キャッシュ管理部23は、優先的に削除すべきデータとして、(1)アクセス数ができるだけ少なく、(2)再生完了数ができるだけ少ないコンテンツを選択し、そして、選択したコンテンツを構成するチャンクのうち、(3)離脱率(当該コンテンツの再生開始から当該チャンクまでの再生中止数の和/当該コンテンツのアクセス数(配信回数))がβとなるチャンクより先のチャンク番号のチャンクを削除対象のチャンクとして選択し、ここで、条件適用の優先順位は、例えば、(1)→(2)→(3)とし、
キャッシュ管理部23は、このようにしてキャッシュ削除リストを作成すると、キャッシュサーバ記憶部21の所定領域に格納しておき、
新たなコンテンツのチャンクを受信する場合において、キャッシュサーバ記憶部21に空き容量が不足していた場合、このキャッシュ削除リストに示される優先順位に従い、新たなコンテンツのチャンクの分の空き容量を確保できるまで、キャッシュサーバ記憶部21からチャンクの削除を行う、
キャッシュサーバ20。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(前置報告の引用文献C)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0006】
本発明の目的は、ダイジェスト映像を作成するための部分映像の抽出を容易にして編集性を向上させることができる画像処理装置、画像処理方法、プログラム、及び記憶媒体を提供することにある。」

「【0017】
本実施の形態に係る画像処理装置としてのビデオカメラ100は、被写体の動画像を撮影する撮影機能と、撮影した動画像を他の機器、例えばビデオテープレコーダに入力する入力機能とを有する。」

「【0083】
図14は、図13のタイミングチャートにおいて実行されるメタデータ作成処理のフローチャートである。
【0084】
図14において、まず、マイコン107は、成績情報入力部106がメタデータ処理部108に記録値を入力するのを待機し、例えば図13の時刻T2において、成績情報入力部106から入力された記録値が更新すべきものであると判別したときは(ステップS901でYES)、記憶メディア105が、例えば図13の時刻T1?T2の間の映像A’の映像データを記録したファイル名が「01.mpg」の動画ファイルを閉じて(クローズして)、記憶メディア105はクローズした動画ファイルを保存する(ステップS902)。
【0085】
このとき、メタデータ処理部108は、クローズした動画ファイルに関連する関連情報として、更新前の記録値などを含むメタデータを作成すると共に(ステップS903a)、削除リスト作成部110は、クローズされた1つ以上の動画ファイルに対して所定の削除順位を設定するための削除リストを作成し、当該削除リストにクローズしたファイル名「01.mpg」の動画ファイルを格納する(ステップS903b)。この削除リストを閲覧したときには、格納されている各動画ファイル内のデータを確認し易いように、図15(a)に示すように、データの内容が映像A’であることを示すようにリストアップされることが好ましい。また、これに代えて、動画ファイルのファイル名やメタデータがリストアップされたり、データの内容の一部である静止画像などがリストアップされたりしてもよい。
【0086】
続くステップS904では、マイコン107は、メタデータ処理部108が作成したメタデータを記憶メディア105に送信してメタデータファイルとして保存する。
【0087】
続いて、マイコン107は、新規の動画ファイル、例えばファイル名が「02.mpg」の動画ファイルを記憶メディア105内に作成(オープン)して、例えば映像B’の映像データの記録を開始して、被写体の撮影を継続する。
【0088】
また、削除リスト作成部110は、削除リスト内の動画ファイルに、削除順位を付与することにより配列の並び替えを行う(ステップS906)。削除順位は、メタデータの記録値に基づいた所定の並び替え条件、例えば記録値の大きい順に従って決定される。該並び替え条件としては、記録値の大きい順、記録値の小さい順などがある。なお、削除リスト内に格納されている動画ファイルが1つであるときは、図15(a)に示すように、その動画ファイルの削除順位として「1」が付与される。
【0089】
続くステップS907では、マイコン107は、録画中の記憶メディア105に入力可能な映像データの容量を示す残容量が所定値以下であるか否か、即ち残容量が少ないか否かを判別する。該判別の結果、記憶メディア105の残容量が十分にある場合においては(ステップS907でNO)、ユーザが所望の動画ファイルを選択して不図示の手動削除命令キーを押下することにより、選択した動画ファイルに対する手動削除を行うことが可能である。
【0090】
この手動削除を行わないときは(ステップS910でNO)、ステップS901に戻って、再び記録値が入力されるのを待機し、図13における時刻T3,T4のタイミングで記録値が更新されると、ステップS902?S906の処理を行う。これにより、映像C,’D’の映像データを記録するためのファイル名「02.mpg」,「03.mpg」の動画ファイルが記憶メディア105内に作成されると共に、図15(b),(c)に示すような削除リストが作成される。
【0091】
一方、撮影の継続により、記憶メディア105の残容量が少なくなったときは(ステップS907でYES)、削除リストの削除順位に従って、具体的には、記録値の大きい順で上位からn(nは1以上整数)番目まで(以下、「上位n位」という)の動画ファイル、例えば上位1位の映像A’の動画ファイル及びそれに関連するメタデータを削除し(ステップS908)、削除リストの削除順位を図15(d)に示すように繰り上げる更新を行って(ステップS909)、本処理を終了する。」

以上より、引用文献2(引用文献C)には、次の技術事項が記載されていると認められる。

「 ダイジェスト映像を作成するための部分映像の抽出を容易にして編集性を向上させることができる画像処理装置において、
画像処理装置としてのビデオカメラ100は、被写体の動画像を撮影する撮影機能と、撮影した動画像を他の機器、例えばビデオテープレコーダに入力する入力機能とを有し、
メタデータ作成処理において、
動画ファイルを閉じて(クローズして)、クローズした動画ファイルを保存するとき、クローズした動画ファイルに関連する関連情報として、更新前の記録値などを含むメタデータを作成すると共に、削除リスト作成部110は、クローズされた1つ以上の動画ファイルに対して所定の削除順位を設定するための削除リストを作成し、当該削除リストにクローズしたファイル名の動画ファイルを格納し、
作成したメタデータを記憶メディア105に送信してメタデータファイルとして保存し、
続いて、新規の動画ファイルを作成(オープン)して、映像データの記録を開始して、被写体の撮影を継続し、
削除リスト作成部110は、削除リスト内の動画ファイルに、削除順位を付与することにより配列の並び替えを行い、削除順位は、メタデータの記録値に基づいた所定の並び替え条件、例えば記録値の大きい順に従って決定され、
撮影の継続により、記憶メディア105の残容量が少なくなったときは、削除リストの削除順位に従って、具体的には、記録値の大きい順で上位からn(nは1以上整数)番目まで(以下、「上位n位」という)の動画ファイル、例えば上位1位の映像A’の動画ファイル及びそれに関連するメタデータを削除し、削除リストの削除順位を繰り上げる更新を行うこと。」

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(前置報告の引用文献D)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0051】すなわち、本発明の第2実施例は、ファイル単位に大量の連続データを保持する記憶部2と、記憶部2に保持されるデータの入出力制御を行う記憶制御部3とを備えた記憶装置1におけるファイルのデータの読み出しの制御方法において、記憶制御部3は、キャッシュメモリ5とキャッシュ管理テーブル22とを備えている。
【0052】キャッシュ管理テーブル22は、キャッシュメモリ5に格納するファイルの優先度を管理するファイル管理テーブル23と、ファイル毎にブロックの格納の優先度を管理するブロック管理テーブル24とにより構成する。
【0053】そして、キャッシュメモリ制御プログラム21は、ファイル管理テーブル23上において、要求されたファイルのキャッシュメモリ5に保持する優先度を最も高い優先度とする。
【0054】また、キャッシュメモリ制御プログラム21は、ブロック管理テーブル24上において、は最も後に読み出し要求のあったブロック程優先度が高く、読み出し要求の古い順に優先度の順位を低くし、新しくデータを書き込むブロックがない時は、ファイルの優先度の低い順にブロックを削除するファイルを決定し、次いでそのファイルのブロックの優先度の低い順にブロックの削除を行う。
【0055】さらに、連続してアクセスされる一連のデータを格納する際に、その一連のデータのアクセス状況を調べ、その一部のブロックのデータがキャッシュメモリ5上に格納されていて、その部分より前半部分へのアクセスがあったならばそのファイルの優先度を最も高くし、そのブロックの削除を行わずにアクセス要求のあったブロックの少し後のブロックから、キャッシュメモリ5上に格納されているブロックの一つ前のブロックまでをキャッシュメモリ5に格納するようにしている。

以上より、引用文献3(引用文献D)には、次の技術事項が記載されていると認められる。

「 ファイル単位に大量の連続データを保持する記憶部2と、記憶部2に保持されるデータの入出力制御を行う記憶制御部3とを備えた記憶装置1において、
記憶制御部3は、キャッシュメモリ5とキャッシュ管理テーブル22とを備え、
キャッシュ管理テーブル22は、キャッシュメモリ5に格納するファイルの優先度を管理するファイル管理テーブル23と、ファイル毎にブロックの格納の優先度を管理するブロック管理テーブル24とにより構成し、
キャッシュメモリ制御プログラム21は、ファイル管理テーブル23上において、要求されたファイルのキャッシュメモリ5に保持する優先度を最も高い優先度とし、ブロック管理テーブル24上において、最も後に読み出し要求のあったブロック程優先度が高く、読み出し要求の古い順に優先度の順位を低くし、新しくデータを書き込むブロックがない時は、ファイルの優先度の低い順にブロックを削除するファイルを決定し、次いでそのファイルのブロックの優先度の低い順にブロックの削除を行うこと。」

4 引用文献Aについて
(1)引用文献A記載事項
前置報告書において主たる引用文献として提示された引用文献Aには、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0015】
キャッシュ装置1は、エンドユーザが要求するコンテンツをキャッシュしているかどうか検索し、キャッシュしている場合は、エンドユーザにそのコンテンツを代理で配信する。キャッシュしていない場合は、オリジナルのコンテンツを持つコンテンツサーバに接続してコンテンツを取得し、必要であればそのコンテンツをキャッシュした上で、エンドユーザにそのコンテンツを配信する。
【0016】
図2はキャッシュ装置1の、エンドユーザ及びコンテンツサーバとの関係を含む機能ブロック図である。キャッシュ装置1は、コンテンツ処理部2及びコンテンツ保存部3を備える。コンテンツ処理部2は、リクエスト受付部20、コンテンツ取得部21、コンテンツ送信部22及び制御部23を含む。コンテンツ保存部3にはコンテンツがキャッシュして保存される。コンテンツ保存部3内の優先度管理テーブルには各コンテンツの優先度及び関連情報が保存されている。ここで、優先度とはコンテンツがキャッシュ装置1へ新規保存、または継続保存される優先度を意味する。」

「【0034】
保存すると判断した後のステップS13では、制御部23が、コンテンツ保存部3において当該新コンテンツを保存可能であるかを判定する。すなわち、コンテンツ保存部3における当該時点の保存コンテンツの総容量値に、当該新コンテンツの容量値を加えて、コンテンツ保存部3の所定のコンテンツ保存可能容量値を超えないかを判定する。
【0035】
所定容量値を超えなければステップS14に進み、制御部23は当該コンテンツをコンテンツ保存部3に保存し、ステップS15で終了する。この場合、制御部23は、図4のステップS5では新たに保存したコンテンツをそのサイズ、距離及び頻度並びに算出された優先度の情報と共に優先度管理テーブルに新規登録する。
【0036】
ステップS13にて所定容量値を超えると判断された場合ステップS16に進み、コンテンツ保存部3において当該コンテンツが保存可能となるように、制御部23は空き容量を確保する処理を行う。すなわち、優先度管理テーブルを参照して、優先度の低いコンテンツから順次、コンテンツ保存部3より削除する。当該削除処理は当該新コンテンツを保存可能な空き容量が確保された時点で終了し、ステップS14に進んで制御部23は当該新コンテンツを保存し、ステップS15で当該フローは終了する。この場合、図4のステップS5では保存したコンテンツに対して制御部23は、そのサイズ、距離及び頻度並びに算出された優先度の情報と共に優先度管理テーブルに新規登録すると共に、削除したコンテンツの情報は優先度管理テーブルからも削除する。」

(2)引用発明A
前記(1)より、上記引用文献Aには次の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。

「 エンドユーザが要求するコンテンツをキャッシュしているかどうか検索し、キャッシュしている場合は、エンドユーザにそのコンテンツを代理で配信するキャッシュ装置1であって、
キャッシュ装置1は、コンテンツ処理部2及びコンテンツ保存部3を備え、
コンテンツ保存部3にはコンテンツがキャッシュして保存され、コンテンツ保存部3内の優先度管理テーブルには各コンテンツの優先度及び関連情報が保存され、
新コンテンツを保存するとき、保存コンテンツの総容量値に、当該新コンテンツの容量値を加えて、コンテンツ保存部3の所定のコンテンツ保存可能容量値を超えないかを判定し、所定容量値を超えると判断された場合、優先度管理テーブルを参照して、優先度の低いコンテンツから順次、コンテンツ保存部3より削除する、
キャッシュ装置1。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「コンテンツ配信システムにおいて、ユーザ端末30からのリクエストに応じてコンテンツを配信するキャッシュサーバ20」は、「コンテンツ配信システム」のために、コンテンツを配信すなわち転送する装置といい得るものである。
また、引用発明は、「コンテンツ151は、事前に複数のチャンクに分割されており」及び「オリジンサーバ10から送信されるコンテンツチャンク(コンテンツのチャンク)211」との構成を備えることから、「コンテンツ配信システム」は、コンテンツを事前に複数の「チャンク」に分割して配信するものといえる。
以上から、引用発明の「キャッシュサーバ20」は、本願発明1の「コンテンツを複数のチャンクに分割して配信するコンテンツ配信システムのための転送装置」に相当する。

イ 引用発明の「キャッシュサーバ記憶部21」は、「オリジンサーバ10から送信されるコンテンツチャンク(コンテンツのチャンク)211」を記憶(キャッシュ)する領域を備えるから、本願発明1の「チャンクをキャッシュするキャッシュ手段」に相当する。

ウ 引用発明は
「 キャッシュ管理部23は、所定期間ごとに、コンテンツ管理テーブル213に示される各コンテンツのアクセス数および再生完了数と、キャッシュチャンク情報テーブル212に示される各コンテンツのチャンクの再生中止数とを参照して、キャッシュサーバ記憶部21における空き容量が不足した場合、どのチャンクから優先的に削除すべきかを示したリスト(キャッシュ削除リスト)を事前に作成しておき、
キャッシュ管理部23は、優先的に削除すべきデータとして、(1)アクセス数ができるだけ少なく、(2)再生完了数ができるだけ少ないコンテンツを選択し、そして、選択したコンテンツを構成するチャンクのうち、(3)離脱率(当該コンテンツの再生開始から当該チャンクまでの再生中止数の和/当該コンテンツのアクセス数(配信回数))がβとなるチャンクより先のチャンク番号のチャンクを削除対象のチャンクとして選択し、ここで、条件適用の優先順位は、例えば、(1)→(2)→(3)とし、
キャッシュ管理部23は、このようにしてキャッシュ削除リストを作成すると、キャッシュサーバ記憶部21の所定領域に格納しておき、」
との構成を備え、ここで、「キャッシュ削除リスト」は、コンテンツに含まれるチャンクを削除する優先順位を示すものであって、コンテンツのアクセス数及びコンテンツの再生完了数ができるだけ少ないコンテンツを選択した上で、選択したコンテンツのチャンクの離脱率に基づいて削除対象のチャンクを順序付けたものであるから、基本的には、コンテンツの削除順位を示すものといえる。
また、「キャッシュ管理部23」は、当該「キャッシュ削除リスト」を作成することにより、コンテンツの削除順位を決定して「キャッシュサーバ記憶部21」を管理する管理手段といい得るものである。
そうすると、引用発明の「キャッシュ管理部23」は、本願発明1の「コンテンツの削除順位を決定して前記キャッシュ手段を管理する管理手段」に相当するといえる。

エ 引用発明は、「新たなコンテンツのチャンクを受信する場合において、キャッシュサーバ記憶部21に空き容量が不足していた場合、このキャッシュ削除リストに示される優先順位に従い、新たなコンテンツのチャンクの分の空き容量を確保できるまで、キャッシュサーバ記憶部21からチャンクの削除を行う」ものであって、ここで、「キャッシュサーバ記憶部21に空き容量が不足していた場合」は、「キャッシュサーバ記憶部21」からチャンクを削除する契機となる事象であり、「優先順位に従い、新たなコンテンツのチャンクの分の空き容量を確保できるまで、キャッシュサーバ記憶部21からチャンクの削除を行う」ことは、削除順位に基づき決定したコンテンツのチャンクを削除することに等しい。
そうすると、引用発明と、本願発明1の「前記管理手段は、前記キャッシュ手段からチャンクを削除する場合、前記削除順位に基づき決定したコンテンツの総てのチャンクを常に削除する」とは、「前記管理手段は、前記キャッシュ手段からチャンクを削除する場合、前記削除順位に基づき決定したコンテンツのチャンクを削除する」との構成を備える点において共通する。

(2)一致点、相異点
したがって、本願発明1と引用発明とは、次の点において一致ないし相違する。

[一致点]
「コンテンツを複数のチャンクに分割して配信するコンテンツ配信システムのための転送装置であって、
チャンクをキャッシュするキャッシュ手段と、
コンテンツの削除順位を決定して前記キャッシュ手段を管理する管理手段と、
を備えており、
前記管理手段は、前記キャッシュ手段からチャンクを削除する場合、前記削除順位に基づき決定したコンテンツのチャンクを削除することを特徴とする転送装置。」

[相違点]
本願発明1は、「コンテンツの総てのチャンクを常に削除する」のに対し、引用発明は、「キャッシュ削除リスト」と確保すべき空き容量との関係において、「コンテンツの総てのチャンク」を削除する場合が想定されるものの(例えば、削除対象となるコンテンツの総てのチャンクの離脱率がβ以上である場合が想定し得る。)、「コンテンツの総てのチャンク」を「常に」削除するものではない点。

(3)相違点についての判断
上述のとおり、本願発明1と引用発明との間には上記相違点が存在する以上、本願発明1は、引用文献1に記載された発明ではない。
また、本願発明1は、「コンテンツを複数のチャンクに分割して配信するコンテンツ配信システムのための転送装置」及び「チャンクをキャッシュするキャッシュ手段」との構成からすると、コンテンツの配信及びキャッシュは、「チャンク」単位で行うものであり、一方、「前記管理手段は、前記キャッシュ手段からチャンクを削除する場合、前記削除順位に基づき決定したコンテンツの総てのチャンクを常に削除する」との構成からすると、コンテンツの削除は、常に「コンテンツ」単位で行うものである。
よって、本願発明1は、コンテンツの配信及びキャッシュは、「チャンク」単位で行うことを前提としているにもかかわらず、一方では、コンテンツの削除は、常に、「チャンク」単位ではなく「コンテンツ」単位で行う点を特徴的な構成として備える発明であり、コンテンツの配信及びキャッシュを「チャンク単位」で行うという前提と切り離して、「コンテンツ」単位で、記憶と削除の両方を行う先行技術の構成から、コンテンツの削除を常に「コンテンツ」単位で行う点のみを、独立した技術思想として抽出して、これを、前提技術が異なる引用発明に組み合わせることは適切とはいえない。
その上で上記相違点について検討するに、コンテンツの配信及びキャッシュは、「チャンク」単位で行い、コンテンツの削除は、常に「コンテンツ」単位で行うことは、引用文献1ないし3には記載されておらず、本願出願日の技術常識でもない。(なお、引用文献2には、ファイル単位で削除を行うことが記載されているが、ファイルを分割したデータ単位で配信及びキャッシュをすることを前提とするものではない。また、引用文献3には、ファイルを構成するブロック単位でキャッシュを行うことが記載されているが、常にファイル単位で削除を行うものではない。)
よって、本願発明1は、当業者であっても、引用文献1ないし3に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2ないし6について
本願発明2ないし6も、上記相違点に係る本願発明1の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用文献1に記載された発明ではなく、また、当業者であっても、引用文献1ないし3に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本願発明7について
本願発明7は、本願発明1ないし6を「プログラム」の発明として特定したものであって、上記相違点に係る本願発明1の構成を実質的に備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用文献1に記載された発明ではなく、また、当業者であっても、引用文献1ないし3に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 原査定及び前置報告について
令和2年6月4日(審判請求時)になされた手続補正により、本願発明1ないし7は、コンテンツの配信及びキャッシュは、「チャンク」単位で行うことを前提としているにもかかわらず、コンテンツの削除は、常に「コンテンツ」単位で行うことを技術思想とするものとなり、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。
また、前置報告においては、主引用文献を引用文献Aとする進歩性欠如に基づく独立特許要件違反が指摘されているので念のために検討する。
本願発明1ないし7と引用発明Aとを対比すると、少なくとも、引用発明Aは、常に「コンテンツ」単位で削除を行う構成を備えるものの、「コンテンツ」を分割した「チャンク」単位でキャッシュ及び配信を行うことを前提とするものではない点において、本願発明1ないし7と相違する。
そして、引用発明Aに引用文献B(引用文献1)に記載された発明(引用発明)を適用した場合は、引用発明のように、発明の前提が、「チャンク」単位でキャッシュ及び配信を行うものに変容するため、コンテンツの削除も、引用発明に従った手法を採用することとならざるを得ない。(すなわち、引用発明Aは、「コンテンツ」単位でのキャッシュ及び配信を行うことが前提であって、「チャンク」単位でキャッシュ及び配信を行うことを前提としないため、常に「コンテンツ」単位で削除を行うことは当然のことであり、引用発明Aに引用発明を適用することにより、「チャンク」単位でキャッシュ及び配信を行うように前提となる構成を変更する一方で「チャンク」単位でキャッシュ及び配信を行うことを前提としない引用発明Aの、常に「コンテンツ」単位で削除を行う構成については変更せず、維持することの起因は見出し難い。)
また、前述したように、引用文献C(引用文献2)及び引用文献D(引用文献3)には、コンテンツの配信及びキャッシュは、「チャンク」単位で行い、コンテンツの削除は、常に「コンテンツ」単位で行うことは記載されていない。
よって、本願発明1ないし7は、当業者であっても、引用発明AないしDに記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-05-25 
出願番号 特願2017-679(P2017-679)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (G06F)
P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 北川 純次  
特許庁審判長 稲葉 和生
特許庁審判官 小田 浩
林 毅
発明の名称 コンテンツ配信システムの転送装置及びプログラム  
代理人 高柳 司郎  
代理人 大塚 康徳  
代理人 下山 治  
代理人 大塚 康弘  
代理人 永川 行光  
代理人 特許業務法人大塚国際特許事務所  
代理人 木村 秀二  
代理人 坂本 隆志  
代理人 前田 浩次  

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