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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F04D
管理番号 1374449
審判番号 不服2020-11117  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-11 
確定日 2021-05-24 
事件の表示 特願2016- 24621「給水装置,及び,給水装置の制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月17日出願公開,特開2017-141771〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成28年2月12日の出願であって,その手続の経緯は,以下のとおりである。
令和元年12月 3日付け:拒絶理由通知
令和2年 4月 3日 :意見書,手続補正書の提出
令和2年 5月 8日付け:拒絶査定
令和2年 8月11日 :審判請求書,手続補正書の提出

第2 令和2年8月11日提出の手続補正書による補正についての却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年8月11日提出の手続補正書による補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正後の請求項1に係る発明
(1) 本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された(下線部は,補正箇所である。)。
「 【請求項1】
給水対象である建物に水を給水する給水装置であって,
水を移送するポンプと,
前記ポンプの吐出し部に設けられ,前記ポンプの吐出側圧力を検出する第1圧力センサと,
給水対象に設けられ,給水対象に給水される給水圧力を検出する第2圧力センサと,
前記ポンプの運転制御モードとして第1制御モードと第2制御モードとを有し,前記ポンプの運転制御モードが前記第1制御モードのときには,前記第1圧力センサからの前記吐出側圧力に基づいて当該吐出側圧力が目標圧力制御カーブ上の第1目標圧力になるように前記ポンプの回転数を設定して当該ポンプを制御し,前記ポンプの運転制御モードが前記第2制御モードのときには,前記第2圧力センサからの前記給水圧力に基づいて当該給水圧力が前記第1目標圧力とは異なる第2目標圧力になるように前記ポンプの回転数を設定して当該ポンプを制御する,制御部と,
前記制御部における単一のポートと前記第1圧力センサと前記第2圧力センサとに接続された切替部であって,前記制御部に入力される検出圧力を,前記第1圧力センサからの前記吐出側圧力と前記第2圧力センサからの前記給水圧力とで切り替える切替部と,
を備える給水装置。」

(2) 本件補正後の請求項1は,その記載振りからすると,本件補正前の,令和2年4月3日提出の手続補正書より補正された特許請求の範囲の請求項2に対応していると認められるところ,本件補正前の請求項2の記載は次のとおりである。
「 【請求項2】
給水対象である建物に水を給水する給水装置であって,
水を移送するポンプと,
前記ポンプの吐出し部に設けられ,前記ポンプの吐出側圧力を検出する第1圧力センサと,
給水対象に設けられ,給水対象に給水される給水圧力を検出する第2圧力センサと,
前記ポンプの運転制御モードとして第1制御モードと第2制御モードとを有し,前記ポンプの運転制御モードが前記第1制御モードのときには,前記第1圧力センサからの前記吐出側圧力に基づいて当該吐出側圧力が目標圧力制御カーブ上の第1目標圧力になるように前記ポンプの回転数を設定して当該ポンプを制御し,前記ポンプの運転制御モードが前記第2制御モードのときには,前記第2圧力センサからの前記給水圧力に基づいて当該給水圧力が前記第1目標圧力とは異なる第2目標圧力になるように前記ポンプの回転数を設定して当該ポンプを制御する,制御部と,
前記制御部に接続された切替部であって,前記制御部に入力される検出圧力を,前記第1圧力センサからの前記吐出側圧力と前記第2圧力センサからの前記給水圧力とで切り替える切替部と,
を備える給水装置。」

(3) 前記の請求項1に係る本件補正は,本件補正前の請求項2に記載した発明を特定するために必要な事項である「切替部」に関し,「前記制御部における単一のポートと前記第1圧力センサと前記第2圧力センサとに接続された」ものであることの限定を付加するものである。
そして,本件補正前の請求項2に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2 そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて,以下に検討する。
(1) 引用文献1に記載された事項及び引用発明
原査定(令和2年5月8日付け拒絶査定)の拒絶の理由に示された引用文献1であり,本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である,特開昭53-139201号公報には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付与した。)。
ア 「1. 発明の名称
配水ポンプ装置」(1ページ左下欄第2行?第3行)
イ 「第1図は従来のこの種の配水ポンプ装置の一例を示すブロツク図である。第1図において(1)は配水ポンプ,(2)は駆動用電動機,(3)は配水管,(4)は末端の圧力検出器,(5)は遠隔へ信号を送る信号伝送器,(6)は末端圧目標設定器,(7)はPID調節計である。一般に圧力検出器(4),信号伝送器(5)は配水ポンプ(1)や調節計(7)などから遠くに隔れた位置に設置されている。(8)は配水ポンプ(1)の吐出圧を検出する圧力検出器,(9)は吐出圧目標設定器,SW_(1),SW_(2),SW_(3),SW_(4)はスイツチである。
次に第1図の従来の配水ポンプ装置の動作について説明する。配水管路(3)の末端圧力を一定に制御しようとするには,配水ポンプ(1)の吐出圧力を制御すればよい。このときスイツチSW_(1),SW_(2),は閉路され,SW_(3),SW_(4)は開路される。配水管路(3)の末端圧力は圧力検出器(4)によつて検出され,信号伝送器(5)により伝送される。この末端圧力信号は末端圧目標設定器(6)といつしよにPID調節計(7)に入力されるPID調節計(7)では末端圧信号と目標設定信号を引算して偏差信号が作られ,さらに偏差信号をPID演算しその結果を増速・減速信号の形で偏差が零になるまで出力する。この増速・減速信号により駆動用電動機(2)の回転数が変化して配水ポンプ(1)の吐出圧力が変化するのである。例えば末端圧力が目標設定値より低い場合,PID調節計(7)から増速指令が出力され,駆動用電動機(2)と直結した配水ポンプ(1)の回転数が上昇し,吐出圧力を増加させ,これが管路(3)の末端に伝わつてその地点の圧力を上昇させることになり,最終的に圧力検出器(4)の出力信号と末端圧目標設定器(6)の出力信号とが一致するのである。
PID調節計とは,2つの入力の偏差に比例した出力,偏差を積分した出力および偏差を徴分した出力との和を出力する調節器である。
上記は末端圧を目標値に制御する場合であるが,吐出圧を目標値に制御する場合には,スイツチSW_(1)およびSW_(2)を開路,SW_(3)およびSW_(4)を開路して,圧力検出器(8)および吐出圧目標設定器(9)の出力をPID調節計(7)に入力させる。このようにして,配水ポンプ(1)の吐出圧は吐出圧目標設定器(9)の出力信号と一致するように制御される。」(1ページ右下欄第1行?2ページ右上欄第2行)

ウ 「第1図


エ 上記イ,ウより,配水ポンプ(1)は,配水管路(3)の末端に水を配水しているものと認められる。

オ 上記イ,ウより,配水ポンプ(1)の運転の制御として,吐出圧を目標値に一致させる制御は,スイツチSW_(1)およびSW_(2)を開路,SW_(3)およびSW_(4)を閉路(引用文献1には,「開路」と記載されているが,制御内容に鑑みれば,「閉路」の誤記であることは明らか。)して,配水ポンプの吐出圧が吐出圧目標設定器(9)の出力信号と一致するように制御するものであり,末端圧を目標値に一致させる制御は,スイツチSW_(1),SW_(2)は閉路され,SW_(3),SW_(4)は開路して,圧力検出器(4)の出力信号と末端圧目標設定器(6)の出力信号とが一致するように,駆動用電動機(2)の回転数を変化させ配水ポンプの吐出圧力を変化させるものであることがわかる。

カ また,吐出圧を目標値に一致させる制御については,吐出圧を具体的にどのように制御しているか明記はないが,末端圧を目標値に一致させる制御とは目標値が異なるだけで,配水ポンプの吐出圧は末端圧を目標値に一致させる制御の場合と同様の制御をしているものと解するのが自然であるから,PID調節計(7)を用いて駆動用電動機(2)を制御しているので,駆動用電動機(2)の回転数を変化させ配水ポンプの吐出圧力を変化させるものであると認められる。

キ 引用文献1の「例えば末端圧力が目標設定値より低い場合,PID調節計(7)から増速指令が出力され,駆動用電動機(2)と直結した配水ポンプ(1)の回転数が上昇し,吐出圧力を増加させ,これが管路(3)の末端に伝わつてその地点の圧力を上昇させることになり,最終的に圧力検出器(4)の出力信号と末端圧目標設定器(6)の出力信号とが一致するのである。」(2ページ左上欄第5行?第12行)という記載から,駆動用電動機(2)の回転数を変化させると,配水ポンプ(1)の回転数が変化し,前記配水ポンプ(1)の回転数の変化によって吐出圧力が変化し,末端圧力が変化することがわかる。
そうすると,引用文献1に記載された配水ポンプ装置は,配水ポンプ(1)の回転数を変化させて前記配水ポンプ(1)を制御しているといえる。

したがって,上記の記載及び図面の記載から見て,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。
(引用発明)
「配水管路(3)の末端に水を配水する配水ポンプ装置であって,
水を移送する配水ポンプ(1)と,
前記配水ポンプ(1)の吐出部に設けられ,前記配水ポンプ(1)の吐出圧を検出する圧力検出器(8)と,
配水管路(3)の末端に設けられ,配水管路(3)の末端に配水される末端圧力を検出する圧力検出器(4)と,
前記配水ポンプ(1)の運転の制御として吐出圧を目標値に一致させる制御と末端圧力を目標値に一致させる制御とを有し,前記配水ポンプ(1)の運転の制御が前記吐出圧を目標値に一致させる制御のときには,前記圧力検出器(8)からの前記吐出圧が,吐出圧目標設定器(9)の出力信号になるように前記配水ポンプ(1)の回転数を変化させて当該ポンプを制御し,前記配水ポンプ(1)の運転の制御が前記末端圧力を目標値に一致させる制御のときには,前記圧力検出器(4)からの前記末端圧力が末端圧目標設定器(6)の出力信号になるように前記配水ポンプ(1)の回転数を変化させて当該配水ポンプ(1)を制御する,PID調節計(7)と,
前記PID調節計(7)に入力される検出圧力を,前記圧力検出器(8)からの前記吐出圧と前記圧力検出器(4)からの前記末端圧力とで切り替えるスイッチSW_(1),SW_(2)と,
を備える配水ポンプ装置。」

(2) 対比
本件補正発明と引用発明とを,その機能に照らして対比すると,引用発明における,「吐出部」,「配水管路(3)の末端」,「配水」,「配水ポンプ装置」,「配水ポンプ(1)」,「吐出圧」,「圧力検出器(8)」,「末端圧力」,「圧力検出器(4)」,「運転の制御」,「吐出圧を目標値に一致させる制御」,「末端圧力を目標値に一致させる制御」,「吐出圧目標設定器(9)の出力信号」,「末端圧目標設定器(6)の出力信号」,「PID調節計(7)」は,それぞれ,本件補正発明における,「吐出し部」,「給水対象」,「給水」,「給水装置」,「ポンプ」,「吐出側圧力」,「第1圧力センサ」,「給水圧力」,「第2圧力センサ」,「運転制御モード」,「第1制御モード」,「第2制御モード」,「第1目標圧力」,「第2目標圧力」,「制御部」に相当する。
引用発明における,前記配水ポンプ(1)の回転数を「変化させ」ることは制御の一環であり,本件補正発明における,前記ポンプの回転数を「設定」することも制御の一環であるので,引用発明の「前記配水ポンプ(1)の回転数を変化させて当該ポンプを制御し」と,本件補正発明の「前記ポンプの回転数を設定して当該ポンプを制御し」は,「前記ポンプの回転数を制御して当該ポンプを制御し」という点で共通することから,引用発明の「前記配水ポンプ(1)の運転の制御が前記吐出圧を目標値に一致させる制御のときには,前記圧力検出器(8)からの前記吐出圧が,吐出圧目標設定器(9)の出力信号になるように前記配水ポンプ(1)の回転数を変化させて当該ポンプを制御し」と,本件補正発明の「前記ポンプの運転制御モードが前記第1制御モードのときには,前記第1圧力センサからの前記吐出側圧力に基づいて当該吐出側圧力が目標圧力制御カーブ上の第1目標圧力になるように前記ポンプの回転数を設定して当該ポンプを制御し」は,「前記ポンプの運転制御モードが前記第1制御モードのときには,前記第1圧力センサからの前記吐出側圧力に基づいて当該吐出側圧力が第1目標圧力になるように前記ポンプの回転数を制御して当該ポンプを制御し」という点で共通する。
また,引用発明において,吐出圧目標設定器(9)の出力信号(第1目標圧力)は,圧力検出器(8)が検出する吐出圧の目標値であり,末端圧目標設定器(6)の出力信号(第2目標圧力)は,圧力検出器(4)が検出する末端圧力の目標値であって,両者は異なる場所に置かれた異なる圧力検出器による検出値に対する目標値であるので,通常,互いに異なるものと認められることから,引用発明の「前記圧力検出器(4)からの前記末端圧力が末端圧目標設定器(6)の出力信号になるように」は,本件補正発明の「前記第2圧力センサからの前記給水圧力に基づいて当該給水圧力が前記第1目標圧力とは異なる第2目標圧力になるように」に相当する。そうすると,引用発明の「前記圧力検出器(4)からの前記末端圧力が末端圧目標設定器(6)の出力信号になるように前記配水ポンプ(1)の回転数を変化させて当該配水ポンプ(1)を制御する」と,本件補正発明の「前記第2圧力センサからの前記給水圧力に基づいて当該給水圧力が前記第1目標圧力とは異なる第2目標圧力になるように前記ポンプの回転数を設定して当該ポンプを制御する」は,「前記第2圧力センサからの前記給水圧力に基づいて当該給水圧力が前記第1目標圧力とは異なる第2目標圧力になるように前記ポンプの回転数を制御して当該ポンプを制御する」という点で共通する。
さらに,引用発明の「前記PID調節計(7)に入力される検出圧力を,前記圧力検出器(8)からの前記吐出圧と前記圧力検出器(4)からの前記末端圧力とで切り替えるスイッチSW_(1),SW_(2)」と,本件補正発明の「前記制御部における単一のポートと前記第1圧力センサと前記第2圧力センサとに接続された切替部であって,前記制御部に入力される検出圧力を,前記第1圧力センサからの前記吐出側圧力と前記第2圧力センサからの前記給水圧力とで切り替える切替部」は,「前記制御部に入力される検出圧力を,前記第1圧力センサからの前記吐出側圧力と前記第2圧力センサからの前記給水圧力とで切り替える構成」という点で共通する。
そうすると,本件補正発明と引用発明とは,次の点で一致し,相違する。

(一致点)
「給水対象に水を給水する給水装置であって,
水を移送するポンプと,
前記ポンプの吐出し部に設けられ,前記ポンプの吐出側圧力を検出する第1圧力センサと,
給水対象に設けられ,給水対象に給水される給水圧力を検出する第2圧力センサと,
前記ポンプの運転制御モードとして第1制御モードと第2制御モードとを有し,前記ポンプの運転制御モードが前記第1制御モードのときには,前記第1圧力センサからの前記吐出側圧力に基づいて当該吐出側圧力が第1目標圧力になるように前記ポンプの回転数を制御して当該ポンプを制御し,前記ポンプの運転制御モードが前記第2制御モードのときには,前記第2圧力センサからの前記給水圧力に基づいて当該給水圧力が前記第1目標圧力とは異なる第2目標圧力になるように前記ポンプの回転数を制御して当該ポンプを制御する,制御部と,
前記制御部に入力される検出圧力を,前記第1圧力センサからの前記吐出側圧力と前記第2圧力センサからの前記給水圧力とで切り替える構成と,
を備える給水装置。」

(相違点1)
本件補正発明は,給水対象が「建物」であるのに対し,引用発明は,配水対象が具体的に何であるか不明である点。

(相違点2)
本件補正発明は,第1制御モードのときには,前記第1圧力センサからの前記吐出側圧力に基づいて当該吐出側圧力が「目標圧力制御カーブ上の第1目標圧力になるように前記ポンプの回転数を設定して」当該ポンプを制御し,第2制御モードのときには,前記第2圧力センサからの前記給水圧力に基づいて当該給水圧力が前記第1目標圧力とは異なる「第2目標圧力になるように前記ポンプの回転数を設定して」当該ポンプを制御するのに対し,引用発明は,吐出圧を目標値に一致させる制御(第1制御モード)のときには,吐出圧目標設定器(9)の出力信号(第1目標圧力)をどのように設定しているか不明であり,また,前記吐出圧が前記出力信号になるように前記ポンプの回転数を設定して当該ポンプを制御しているか不明であり,末端圧力を目標値に一致させる制御(第2制御モード)のときには,前記末端圧力が末端圧目標設定器(6)の出力信号(第2目標圧力)になるように前記ポンプの回転数を設定して当該ポンプを制御しているか不明である点。

(相違点3)
本件補正発明は,「前記制御部における単一のポートと前記第1圧力センサと前記第2圧力センサとに接続された切替部」であって,前記制御部に入力される検出圧力を,前記第1圧力センサからの前記吐出側圧力と前記第2圧力センサからの前記給水圧力とで切り替える切替部を備えるのに対し,引用発明は,前記PID調節計(7)(制御部)に入力される検出圧力を,前記圧力検出器(8)(第1圧力センサ)からの前記吐出圧(吐出側圧力)と前記圧力検出器(4)(第2圧力センサ)からの前記末端圧力(給水圧力)とで切り替える構成を備えるものの,前記PID調節計(7)(制御部)における単一のポートと前記圧力検出器(8)(第1圧力センサ)と前記圧力検出器(4)(第2圧力センサ)とに接続された切替部を備えていない点。

(3) 判断
以下,上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
一般に,配水ポンプ装置による水の配水先として民家や商業施設,工場などの建物が含まれることは当業者にとって明らかである。
そうすると,引用発明において,その配水対象を建物とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるから,引用発明において,相違点1に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2について
ポンプの制御において,目標圧力制御カーブを設定し,吐出圧がその目標圧力制御カーブ上の目標圧力になるようにポンプの回転数を設定して当該ポンプを制御することは,技術常識である(例えば,特開2014-214715号公報の段落【0009】-【0011】,図2,特開平10-9148号公報の段落【0029】-【0035】,図5等参照。)。
引用文献1には,吐出圧を目標値に一致させる制御(第1制御モード)に関して,吐出圧を目標値に一致させる制御に関する具体的な記載はないものの,上記技術常識を考慮すれば,その制御が,目標圧力制御カーブを設定し,吐出圧がその目標圧力制御カーブ上の目標圧力になるようにポンプの回転数を設定して当該ポンプを制御することであることは,当業者にとって明らかである。
また,引用文献1には,末端圧力を目標値に一致させる制御(第2制御モード)に関して,末端圧力を目標値に一致させる制御に関する具体的な記載はないものの,上記技術常識を考慮すれば,その制御が,末端圧力が目標値になるような吐出圧になるようにポンプの回転数を設定して当該ポンプを制御することであることは,当業者にとって明らかである。
したがって,上記相違点2は実質的な相違点ではない。
仮に,相違点2が実質的な相違点であったとしても,ポンプの制御において,目標圧力制御カーブを設定し,吐出圧がその目標圧力制御カーブ上の目標圧力になるようにポンプの回転数を設定して当該ポンプを制御することは周知(特開2014-214715号公報の段落【0009】-【0011】,図2,特開平10-9148号公報の段落【0029】-【0035】,図5等参照。以下,「周知技術1」という。)であることから,引用発明において,配水ポンプの制御手法として周知技術1を適用して,相違点2に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは当業者が容易になし得たことである。

ウ 相違点3について
同時に利用しない複数のセンサからの検出情報を制御装置に入力する構成を備えた装置において,信号線の数を減らすために制御装置に単一の信号線を接続し,前記単一の信号線と,各センサとに接続された切替部を用いることで制御装置に入力するセンサからの検出値を切り替える構成は周知である(例えば,特開2001-330900号公報の段落【0003】-【0004】,【0021】-【0022】,【0024】,図6のセンサー切り換え回路6,特開2009-109271号公報の段落【0022】-【0023】,図1のマルチプレクサ4等を参照。以下,「周知技術2」という。)。
そして,引用発明も同時に利用しない圧力検出器(8)(第1圧力センサ)と圧力検出器(4)(第2圧力センサ)からの検出値を1つのPID調節計(7)(制御部)に入力する構成を備えるものであり,信号線の数を減らして,装置の簡略化,コストの削減等を図ることは当業者であれば,当然行うことであるから,引用発明において,周知技術2を適用することは当業者が容易に想到し得たことである。
このとき,周知技術2は制御装置に単一の信号線を接続しているので,引用発明に周知技術2を適用した場合,制御部と切替部との接続が単一のポートとなることは当然に得られる構成である。
したがって,引用発明において,周知技術2を適用して,相違点3に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは当業者が容易になし得たことである。

エ 審判請求人の主張について
審判請求人は,本件補正発明は,以下の効果を奏することを主張する(審判請求書の5ページ「(2)有利な効果」を参照。)
(ア) 検出圧力を入力するポートを単一のポートとすることができ制御部を簡易なものとすることができるという効果
(イ) 給水圧力または吐出側圧力の一方だけに基づいてポンプを制御する既設のポンプ装置に対して後付けで本発明を構成することができるという効果

以下,上記主張について検討する。
(ア)について,
上記ウで記載したように,引用発明に周知技術2を適用することは当業者にとって容易になし得たことであり,上記周知技術2を用いることによって,配線数が減少するので,その分,装置全体の構成が簡易なものになることは明らかである。請求人が主張する効果は,周知技術2が奏するものであって,当業者が十分予測し得たものである。
(イ)について
上記主張(イ)は,そもそも当初明細書に記載されたものではなく,出願当初から主張されていた効果ではないが,上記主張(イ)について一応検討する。
引用発明に,上記周知技術2を適用したものは,同時に利用しない複数のセンサからの検出値を切り替えて,どちらか一方のセンサからの検出値を制御部に入力するものである。
そうすると,給水圧力または吐出側圧力の一方だけに基づいてポンプを制御する既設のポンプ装置に対して,その一方の制御と切り替えることができる他方の制御の構成を後付けし,切替部によって制御を切り替えるようにすることができるという効果は当業者が十分予測し得たものである。

オ したがって,本件補正発明は,引用発明及び特開2014-214715号公報,特開平10-9148号公報に例示される技術常識又は周知技術1,及び,特開2001-330900号公報,特開2009-109271号公報に例示される周知技術2に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

(4) 以上のとおりであるから,本件補正発明は,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないから,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年8月11日提出の手続補正書による手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1-16に係る発明は,令和2年4月3日提出の手続補正書による手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-16に記載されたとおりのものであると認められる。以下,請求項2に係る発明を「本願発明」という。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,本願発明は,その出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない,というものである。
(引用文献)
引用文献1:特開昭53-139201号公報

3 引用文献に記載された事項
引用文献1に記載された事項は,前記第2 2(1)のとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,前記第2 2で検討した本件補正発明における,「切替部」に関し,「前記制御部における単一のポートと前記第1圧力センサと前記第2圧力センサとに接続された」ものであるとの発明特定事項を削除したものであり,当該発明特定事項は,上記相違点3に係る事項である。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに上記相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記第2 2に記載したとおり,引用発明及び特開2014-214715号公報,特開平10-9148号公報に例示される技術常識又は周知技術1,及び,特開2001-330900号公報,特開2009-109271号公報に例示される周知技術2に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用発明及び特開2014-214715号公報,特開平10-9148号公報に例示される技術常識又は周知技術1に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明(請求項2に係る発明)は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2021-03-24 
結審通知日 2021-03-26 
審決日 2021-04-09 
出願番号 特願2016-24621(P2016-24621)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F04D)
P 1 8・ 121- Z (F04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上野 力冨永 達朗  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 長馬 望
山本 健晴
発明の名称 給水装置、及び、給水装置の制御方法  
代理人 渡邊 誠  
代理人 小畑 統照  
代理人 鐘ヶ江 幸男  
代理人 宮前 徹  

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