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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1374471 |
審判番号 | 不服2020-14286 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-10-12 |
確定日 | 2021-06-15 |
事件の表示 | 特願2019- 26613「ウェハ洗浄機」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 8月31日出願公開、特開2020-136435、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成31年2月18日の出願であって,令和元年12月26日付けで拒絶理由通知がされ,令和2年3月6日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ,同年7月13日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,同年10月12日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,令和3年2月4日付けで前置報告がされ,同年3月31日に審判請求人から前置報告に対する上申がされたものである。 第2 原査定の理由の概要 原査定(令和2年7月13日付け拒絶査定)の理由の概要は次のとおりである。 本願請求項1-4に係る発明は,以下の引用文献1-3に記載された発明に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特許第6399372号公報 2.特開2015-170608号公報 3.特開平11-334873号公報 第3 本願発明 本願請求項1-4に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明4」という。)は,令和2年10月12日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 洗浄液を貯留する洗浄室内に超音波発振手段を設けるとともに,ウェハを下縁部において支持する支持手段を前記超音波発振手段に対向して設けたウェハ洗浄機であって, 前記支持手段を,ウェハの下縁部を支持する支持位置と,その支持位置から下方へ離間する離間位置との間において移動させる移動手段と, 前記ウェハの中心を通る直径線上に位置する両側縁部を把持するとともに,その把持を開放するために開閉される把持手段と, 前記把持手段を前記ウェハの外周方向に沿う方向に回転させる回転手段とを備え, 前記回転手段は,開放した状態の前記把持手段を前記支持手段によって前記ウェハの下縁部が支持された前記ウェハの外周方向に沿う方向に前記ウェハの中心を中心として角度θ1分だけ回転させるとともに,前記ウェハの両側縁部を把持した状態で前記移動手段によって前記支持手段を前記ウェハの下縁部から下方へ離間させ,前記把持手段を前記ウェハの外周方向に沿う逆方向に前記ウェハの中心を中心として角度(θ1+θ2)分だけ回転させるウェハ洗浄機。」 なお,本願発明2-4は,本願発明1を減縮した発明である。 第4 引用文献 1 引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された前記引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下,同様である。)。 (1)「【請求項1】 洗浄液を収容する洗浄槽と, 該洗浄槽内においてウエハを載置可能に配設された固定アーム手段と, 前記ウエハを保持し前記ウエハを小回転させ回転方向に前記ウエハを順次送るウエハ送り機構と, 該ウエハ送り機構を駆動させる駆動手段と, 前記洗浄槽内の前記ウエハを洗浄する超音波を発生し,発生した超音波を前記ウエハに照射する超音波発生器を備え, 前記固定アーム手段と前記ウエハ送り機構との間で前記洗浄槽内の前記ウエハの受け渡しを行なって前記ウエハの洗浄を行なうウエハ洗浄装置において, 前記固定アーム手段は,前記洗浄槽の底部に面して配設されるとともに距離を持って離隔して平行に形成された左右一対の固定ウエハ載置台を少なくとも含んで構成され, 該各固定ウエハ載置台の頂部の長手方向には,前記ウエハの一部を係止する条溝部が列設され, 前記ウエハ送り機構は,前記洗浄槽内に配設された可動アーム手段を備え, 該可動アーム手段は,振り子状に揺動するとともに昇降可能に構成され,かつ,下部において距離を持って離隔して形成された左右一対の可動ウエハ送り台を含んで構成され, 該各可動ウエハ送り台の頂部の長手方向には,前記ウエハの一部を係止する条溝部が列設され, 前記可動アーム手段は,揺動角度が第1の角度であるときに上昇すると前記固定アーム手段に保持された前記ウエハを受け取って前記ウエハを持ち上げ,揺動角度が前記第1の角度と異なる第2の角度であるときに下降すると前記可動アーム手段が保持する前記ウエハを前記固定アーム手段に受け渡し, 前記洗浄槽内において,前記ウエハを起立させ隣接する前記ウエハを非接触状態に置いて前記ウエハ送り機構を揺動させるとともに昇降可能に構成し,前記固定ウエハ載置台と前記可動ウエハ送り台との間で前記洗浄槽内の前記ウエハの受け渡しを行なうことを特徴とするウエハ洗浄装置。」 (2)「【技術分野】 【0001】 本発明は,超音波を照射して,洗浄槽内のウエハ(Wafer)を洗浄するウエハ洗浄装置およびウエハ洗浄方法に関するものである。」 (3)「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 特許文献1におけるウエハ洗浄装置は,ウエハ支持部材であるウエハ受台とウエハガイドを相対的に上下方向に移動させる構造に形成され,ウエハ支持部材の障害,超音波の減衰,洗浄槽内での処理液の不均一な分布による影響を極力受けないように構成し,処理ムラをなくしてウエハを洗浄することとしている。しかしながら,このウエハ洗浄装置にあっては,少なくとも,次の(1)(2)(3)の問題点があった。 (1)一旦ウエハから除去された微細なパーティクルが洗浄中のウエハに再付着るおそれがある。 (2)ウエハ洗浄装置は,洗浄槽内でウエハを揺動可能に保持するウエハ受台と,ウエハ受台を揺動させるウエハ揺動機構と,洗浄槽内でウエハを昇降可能に保持する一組のウエハガイドと,ウエハガイドを昇降させる昇降機構を個別に必要とし,ウエハ受台とウエハガイドを相対的に上下方向に移動させる構造のため,洗浄槽の容量が大きくなるとともに,洗浄装置が大型化しコンパクトに形成できない。 (3)洗浄槽内で隣接するウエハは,〔i〕ウエハ受台に保持されているとき;〔ii〕ウエハガイドに保持されているとき:〔iii〕ウエハ受台とウエハガイドとの間でウエハの受け渡し(移し替え)が行われるとき;に接触しやすく,洗浄の際に接触部分に洗浄ムラが生じる。 (4)ウエハ洗浄装置の駆動手段の周辺から発生する発麈を速やかに除去することが難しい。 【0006】 したがって,本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり,本発明の目的は,洗浄槽内で各ウエハを起立状態で独立して保持し,隣接する各ウエハを非接触状態に置いて,洗浄槽の下部から供給される洗浄液が,ウエハの回転・昇降に伴い洗浄槽内において上昇する液流としてウエハ間に円滑に流れるようにし,洗浄液がウエハに停滞なく接触し,効率の良い洗浄を保証するとともに,ウエハから除去された微細なパーティクルを液流によって洗浄槽内の上部に導き,パーティクルをオーバーフローさせた洗浄液とともに洗浄槽外に排出し,ウエハから一旦除去された微細なパーティクルが洗浄中のウエハに再付着することを回避するウエハ洗浄装置およびウエハ洗浄方法を提供することにある。 【0007】 本発明の他の目的は,洗浄槽内において,ウエハを保持しながら周方向にウエハの小回転を間欠的に行なってウエハを1回転させながら行なうウエハの洗浄動作を一つの(単独の)ウエハ送り機構に集約し洗浄槽内での動作機構をシンプルな構成とし,洗浄槽の容量の小型化,洗浄装置のコンパクト化が図れるウエハ洗浄装置およびウエハ洗浄方法を提供することにある。 【0008】 本発明のもう一つ他の目的は,洗浄槽内において,隣接するウエハを起立させ非接触状態に置いて,(i)固定アーム手段が具備する固定ウエハ載置台にウエハが保持されているとき;(ii)可動アーム手段を構成する可動ウエハ送り台にウエハが保持されているとき;(iii)固定アーム手段の固定ウエハ載置台と可動アーム手段の可動ウエハ送り台との間でウエハの受け渡し(移し替え)が行われるとき;に隣接するウエハが接触する事態(事故)をなくし,ウエハ周面に洗浄液が均等にまわり洗浄ムラが生じないウエハ洗浄装置およびウエハ洗浄方法を提供することにある。 【0009】 本発明のさらにもう一つ他の目的は,ウエハ送り機構を駆動させる駆動手段を洗浄槽の外部に配設し,駆動手段の動作によって洗浄槽内に発塵物が混入しないウエハ洗浄装置およびウエハ洗浄方法を提供することにある。」 (4)「【発明を実施するための形態】 【実施例】 【0025】 以下,本発明の実施形態について,添付図面とともに説明する。 【0026】 (ウエハ洗浄装置について): 先ず,ウエハ洗浄装置について,添付図面とともに説明する。 図1?図4において,ウエハ洗浄装置1は,洗浄液を収容する洗浄槽10と,該洗浄槽内においてウエハWを載置可能に配設された固定アーム手段21と,ウエハを保持しウエハを小回転させ回転方向にウエハを順次送るウエハ送り機構40と,該ウエハ送り機構を駆動させる駆動手段60と,超音波振動子72を内蔵し前記洗浄槽内のウエハを洗浄する超音波を発生させ,発生した超音波をウエハに照射する超音波発生器70を備えている。前記固定アーム手段と前記ウエハ送り機構との間で前記洗浄槽内のウエハの受け渡しを行ないながらウエハの洗浄を行なう。符号95は,伝播水で満たされた伝播用水槽である。 【0027】 前記洗浄槽10は,横断面形状が略矩形に形成され,開口部側は4面オーバーフロー構造として形成されている。前記洗浄槽10にはオーバーフローする洗浄液を排出する排出口12が形成され,前記洗浄槽よりオーバーフローした洗浄液は前記排出口12を介して回収され,回収された洗浄液は循環液濾過手段90により濾過され,循環液供給手段80により,前記洗浄槽10に洗浄液(循環液)として循環供給される。前記循環液供給手段80は,前記洗浄槽10の側面下部に配設され,前記洗浄槽10内に循環液(洗浄液)を供給する際に前記洗浄槽内の洗浄液に液流を生じさせる。前記循環液濾過手段90は,循環路に配設された循環ポンプ91,フィルタ92を備えている。符号15は洗浄槽台である。」 (5)「【0039】 前記可動アーム手段41は,揺動角度が第1の角度であるときに上昇すると前記固定アーム手段21に保持されたウエハWを受け取って持ち上げ,揺動角度が前記第1の角度と異なる第2の角度であるときに下降すると前記可動アーム手段が保持するウエハを前記固定アーム手段に受け渡し,前記洗浄槽内において,前記ウエハを起立させ隣接する前記ウエハを非接触状態に置いて前記ウエハ送り機構を揺動させるとともに昇降させ,前記固定ウエハ載置台と前記可動ウエハ送り台との間で前記洗浄槽内の前記ウエハの受け渡しを行なうことができる(図16,図17,図18)。 【0040】 ここで,前記ウエハ送り機構40の動作について,説明する。 前記ウエハ送り機構は,前記洗浄槽10内おいて,次の(1)?(4)の動作を行なうことが可能であり,前記固定ウエハ載置台24,25,26と前記可動ウエハ送り台44,45との間で前記ウエハWの受け渡しを行ないながら前記ウエハを周方向に[2θ(10°)分]小回転させ,この2θの小回転を間欠的に36回行なって前記洗浄槽において前記ウエハを1回転させ,前記ウエハの超音波洗浄を行なう. すなわち, (1)前記可動アーム手段41の揺動角度が前記第1の角度にあるときに前記可動アーム手段が上昇し,前記固定ウエハ載置台24,25,26が前記ウエハWを起立保持し非接触状態を保ったままの前記各ウエハを前記可動ウエハ送り台44,45が受け取って隣接する前記各ウエハを起立保持し非接触状態を保ったまま前記ウエハを持ち上げる第1の動作。 (2)該第1の動作後に,前記可動ウエハ送り台が前記各ウエハを起立保持し非接触状態を保ったまま前記可動アーム手段の揺動角度を前記第2の角度に揺動し前記ウエハを周方向に[プラス2θ(+10°)分]小回転させる第2の動作。 (3)該第2の動作後に,前記可動ウエハ送り台が前記各ウエハを起立保持し非接触状態を保ったまま前記可動アーム手段を下降させ,前記固定ウエハ載置台に前記ウエハを受け渡し前記固定ウエハ載置台が隣接する前記各ウエハを起立保持し非接触状態を保ったまま前記可動アーム手段を移動させる第3の動作。 (4)該第3の動作後に,前記固定ウエハ載置台が前記ウエハを起立保持し非接触状態を保ったまま前記可動アーム手段の揺動角度を前記第2の角度から前記第1の角度に揺動[マイナス2θ(-10°)揺動]させて前記可動アーム手段を原状に復帰させる第4の動作。 の各動作である(図16,図17,図18参照)。 【0041】 前記駆動手段60は,前記可動アーム手段41を揺動させる揺動機構部61と,前記可動アーム手段41を昇降させる昇降機構部62(62A,62B)を含んで構成され(図1,図2参照),前記揺動機構部61と前記昇降機構部62は前記洗浄槽10の外部に配設される。前記揺動機構部61は,前記のとおり,前記可動アーム手段41を軸受する前記回動軸受63(63A.63B)を備え,前記回転軸受をバキュームすることにより洗浄槽内に発塵物が混入しない構造としている。また,前記昇降機構部62は上下する軸をシールするPFA製の蛇腹部64(64A,64B)を備え,前記昇降機構部62の動作によって洗浄槽内に発塵物が混入しない構造としている。」 (6)「【図1】 【図2】 【図3】 【図4】 」 (7)「【図16】 【図17】 【図18】 」 2 引用文献2の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された前記引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。 (1)「【技術分野】 【0001】 本発明は,複数の洗浄槽と,半導体ウエハを洗浄槽内に搬送する搬送部と,半導体ウエハを支持する支持部と,半導体ウエハを回転させる回転部と,を有する半導体ウエハ洗浄装置に関するものである。」 (2)「【0014】 図1および図2では1つの洗浄槽10を図示しているが,半導体ウエハ90を加工するには複数の洗浄槽10が必要となる。搬送部20はある洗浄槽10から他の洗浄槽10へと半導体ウエハ90を搬送することで,半導体ウエハ90をその加工に適した洗浄液へと浸漬させる。 【0015】 図1に示すように,搬送部20は保持部21と駆動部22を有する。保持部21は複数の半導体ウエハ90を保持するものである。駆動部22は保持部21を搬送することで,半導体ウエハ90を搬送するものである。図2に示すように半導体ウエハ90は面積の最も大きい主面がx方向とz方向とによって規定される平面に沿う円盤状を成している。保持部21は半導体ウエハ90の側面と接触して,半導体ウエハ90を保持する。この保持部21による保持状態において駆動部22が駆動することで半導体ウエハ90が洗浄層10へと搬送される。なお,保持部21は半導体ウエハ90を洗浄槽10内に載置した後,洗浄槽10内から取り出される。 【0016】 支持部30は半導体ウエハ90の側面と接触して半導体ウエハ90を洗浄槽10内に保持する機能を果たす。図2に示すように支持部30は3つの単位支持部30a?30cを有し,三角形状を成している。単位支持部30a?30cそれぞれの底面が洗浄層10に固定され,半導体ウエハ90の中心点CP(図2に示す×印の交点)をy方向に貫く回転軸の周り方向(図2に示す曲線矢印に沿う方向)に沿って順に並んでいる。単位支持部30a?30cそれぞれの頂点が半導体ウエハ90の側面と接触しており,半導体ウエハ90の側面における紙面左端に位置する第1単位支持部30aと紙面右端に位置する第3単位支持部30cとの間の長さが,半導体ウエハ90と支持部30との接触長さに相当している。この接触長さは,上記した回転軸周り方向での回転角度に換算すると第1角度θ1になっている。 【0017】 図1に示すように,回転部40は保持部21と駆動部22とを連結しており,保持部21を回転させることで半導体ウエハ90を回転させる。回転部40は回転軸周りに半導体ウエハ90を所定角度回転させた後,半導体ウエハ90を支持部30に載置する。この半導体ウエハ90の回転角度θは上記した第1角度θ1よりも大きく設定される。回転部40は,複数の洗浄槽10それぞれに設けられた支持部30へ半導体ウエハ90を設置する度に,予め半導体ウエハ90を回転角度θだけ回転する。したがって半導体ウエハ90が一番初めに設けられる洗浄層10での半導体ウエハ90の回転を0°とすると,二番目に設けられる洗浄層10での回転はθとなり,三番目に設けられる洗浄層10での回転は2θとなる。このように,kを1以上の自然数とすると,k番目に設けられる洗浄層10での半導体ウエハ90の回転は(k-1)θとなる。」 (3)「【0019】 次に,本実施形態に係る半導体ウエハ洗浄装置100の作用効果を説明する。上記したように,回転部40は複数の洗浄槽10それぞれに設けられた支持部30へと半導体ウエハ90を載置する度に,支持部30と半導体ウエハ90との接触長さによって決定される第1角度θ1よりも大きく,予め半導体ウエハ90を回転軸周りの一方向に回転させる。これによれば,複数の洗浄槽に半導体ウエハが設けられる際に,任意の角度だけ半導体ウエハを回転して支持部と接触させる構成と比べて,半導体ウエハ90における特定部位と支持部30とが接触する回数が低減する。したがって支持部30との接触のために半導体ウエハ90の特定部位に洗浄漏れが発生することが抑制され,半導体ウエハ90に欠陥が生じることが抑制される。」 (4)「【図1】 【図2】 」 3 引用文献3の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された前記引用文献3には,図面とともに次の事項が記載されている。 (1)「【0006】 【発明の実施の形態】以下,本発明を,図面を参照し詳細かつ具体的に説明するが,本発明は,これら具体例によりなんらの制限を受けるものではない。図1は,本発明に係る基板挟持機構例を示す図であり,図2は本発明に係る基板挟持機構駆動装置例を説明する構成図であり,図3は本発明に係る基板挟持機構駆動装置例の動作を説明する図であり,図4は従来の基板挟持機構を有する基板洗浄装置を説明する図である。図1の本発明の基板挟持機構例においては,基板(1)の主面が重なり合うように直立し,一定間隔にて配列された復数枚の基板(1)を挾持し,上下左右方向に搬送する基板の搬送装置に併設される基板挟持装置であって,前記復数枚の基板(1)を両側から挟持する左右一対の溝付きバー状の挟持部材(2a)(2c),(2b)(2d)と,該挟持部材の両端に係止され該バー状挟持部材を開閉及び移動する把持アーム(3a)(3c),(3b)(3d)と,該把持アーム(3a)(3c),(3b)(3d)のための開閉機構(4)を有する。 【0007】この図1の挟持機構全体図においては7枚の基板(1)を挟持するようになっているが,基板(1)の枚数は制限されるものではない。把持アーム(3a)(3c),(3b)(3d)を閉じたとき,アーム(3a)(3c),(3b)(3d)先端の2本のV溝付きバー(2a)(2c),(2b)(2d)で基板(1)が挟持される。アーム(3a)(3c),(3b)(3d)の開閉は,挟持駆動部(4m)による。アーム(3a)(3c),(3b)(3d)を開いたとき(3a’)(3c’),(3b’)(3d’)は挟持解除となる。実線で表示の挟持アーム(3a)(3b)は開状態を示し,破線で表示の挟持アーム(3a’)(3b’)は閉状態を示している。 【0008】図2に示される本発明の基板挟持機構駆動装置例において,前記開閉機構(4)は,偏心ローラ(4e)と,左右一対の支持軸(4a)(4b)と,該偏心ローラ及び一対の支持軸の間に配置された一対の揺動アーム(4c)(4d)とからなる。図2(A)(B)は,挟持アーム(4c)(4d)の正面図,図2(C)は平面図,図2(D)は全体駆動装置ケース正面図,図2(E)は側面図であって,図2(A)は開状態を,図2(B)は閉状態を示している。 【0009】そして,前記偏心ローラ(4e)は空圧回転シリンダ(4k)の円周端部上に設けられ,該空圧回転シリンダ(4k)の回動により偏位する。前記一対の支持軸(4a)(4b)にはそれぞれ前記把持アーム(3a)(3c),(3b)(3d)の上端と前記揺動アーム(4c)(4d)の一端(4f)(4g)とが固定支持され,前記揺動アーム(4c)(4d)の他端はスリット(4i)(4j)を介して前記偏心ローラ(4e)に係合している。 【0010】駆動装置ケース(4n)の中心の位置に空圧回転シリンダ(4k)を取り付け,ケース(4n)中心より対称に取り付けられたパイプ即ち支持軸(4a)(4b)に,揺動アーム(4c)(4d)の一端を取り付け固定する。偏心ローラ(4e)は空圧回転シリンダ(4k)先端に取り付けられ固定されており,該空圧回転シリンダ(4k)の回動により偏位する。そしてその偏位により,偏心ローラ(4e)の他端に設けられたスリット(4i)(4j)に係合する前記揺動アーム(4c)(4d)の方角が変化し,その結果揺動アーム(4c)(4d)の前記一端(4f)(4g)に固定された前記支持軸(4a)(4b)を回動させ,これにより,支持軸(4a)(4b)に固定された前記左右一対の挟持アーム(3a)(3c),(3b)(3d)を開閉させる。」 (2)「【図1】 【図2】 」 第5 当審の判断 1 引用文献1に記載された発明 前記第4(1)の記載によれば,引用文献1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「洗浄液を収容する洗浄槽と, 該洗浄槽内においてウエハを載置可能に配設された固定アーム手段と, 前記ウエハを保持し前記ウエハを小回転させ回転方向に前記ウエハを順次送るウエハ送り機構と, 該ウエハ送り機構を駆動させる駆動手段と, 前記洗浄槽内の前記ウエハを洗浄する超音波を発生し,発生した超音波を前記ウエハに照射する超音波発生器を備え, 前記固定アーム手段と前記ウエハ送り機構との間で前記洗浄槽内の前記ウエハの受け渡しを行なって前記ウエハの洗浄を行なうウエハ洗浄装置において, 前記固定アーム手段は,前記洗浄槽の底部に面して配設されるとともに距離を持って離隔して平行に形成された左右一対の固定ウエハ載置台を少なくとも含んで構成され, 該各固定ウエハ載置台の頂部の長手方向には,前記ウエハの一部を係止する条溝部が列設され, 前記ウエハ送り機構は,前記洗浄槽内に配設された可動アーム手段を備え, 該可動アーム手段は,振り子状に揺動するとともに昇降可能に構成され,かつ,下部において距離を持って離隔して形成された左右一対の可動ウエハ送り台を含んで構成され, 該各可動ウエハ送り台の頂部の長手方向には,前記ウエハの一部を係止する条溝部が列設され, 前記可動アーム手段は,揺動角度が第1の角度であるときに上昇すると前記固定アーム手段に保持された前記ウエハを受け取って前記ウエハを持ち上げ,揺動角度が前記第1の角度と異なる第2の角度であるときに下降すると前記可動アーム手段が保持する前記ウエハを前記固定アーム手段に受け渡し, 前記洗浄槽内において,前記ウエハを起立させ隣接する前記ウエハを非接触状態に置いて前記ウエハ送り機構を揺動させるとともに昇降可能に構成し,前記固定ウエハ載置台と前記可動ウエハ送り台との間で前記洗浄槽内の前記ウエハの受け渡しを行なうことを特徴とするウエハ洗浄装置。」 2 対比・判断 (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「洗浄液を収容する洗浄槽」,「ウエハ」,「超音波発生器」,「ウエハ洗浄装置」は,それぞれ,本願発明1の「洗浄液を貯留する洗浄室」,「ウェハ」,「超音波発振手段」,「ウェハ洗浄機」に相当する。 イ 引用発明の「該洗浄槽内においてウエハを載置可能に配設された固定アーム手段」における「載置」とは,文字どおり,載せて置くことを意味するものであり,「ウエハ」を「固定アーム手段」に載せて置くと,「ウエハ」の下端部は,「固定アーム手段」に支持されることは明らかであるから,「固定アーム手段」は,ウエハを下縁部において支持するものであるといえる。 したがって,引用発明の「該洗浄槽内においてウエハを載置可能に配設された固定アーム手段」は,本願発明1の「ウェハを下縁部において支持する支持手段」に相当する。 ウ そうすると,本願発明1と引用発明の一致点と相違点は以下のとおりとなる。 <一致点> 「洗浄液を貯留する洗浄室とともに,ウェハを下縁部において支持する支持手段を前記超音波発振手段に対向して設けたウェハ洗浄機。」 <相違点> 相違点1:本願発明1では,「洗浄液を貯留する洗浄室内に超音波発振手段を設け」ているのに対して,引用発明では,「超音波発生器」を「洗浄室」内に設けているかどうか不明な点。 相違点2:本願発明1では,「前記支持手段を,ウェハの下縁部を支持する支持位置と,その支持位置から下方へ離間する離間位置との間において移動させる移動手段と, 前記ウェハの中心を通る直径線上に位置する両側縁部を把持するとともに,その把持を開放するために開閉される把持手段と, 前記把持手段を前記ウェハの外周方向に沿う方向に回転させる回転手段とを備え, 前記回転手段は,開放した状態の前記把持手段を前記支持手段によって前記ウェハの下縁部が支持された前記ウェハの外周方向に沿う方向に前記ウェハの中心を中心として角度θ1分だけ回転させるとともに,前記ウェハの両側縁部を把持した状態で前記移動手段によって前記支持手段を前記ウェハの下縁部から下方へ離間させ,前記把持手段を前記ウェハの外周方向に沿う逆方向に前記ウェハの中心を中心として角度(θ1+θ2)分だけ回転させる」ものであるのに対して,引用発明では,「前記ウエハを保持し前記ウエハを小回転させ回転方向に前記ウエハを順次送るウエハ送り機構と, 該ウエハ送り機構を駆動させる駆動手段と」を備え, 「前記ウエハ送り機構は,前記洗浄槽内に配設された可動アーム手段を備え, 該可動アーム手段は,振り子状に揺動するとともに昇降可能に構成され,かつ,下部において距離を持って離隔して形成された左右一対の可動ウエハ送り台を含んで構成され, 該各可動ウエハ送り台の頂部の長手方向には,前記ウエハの一部を係止する条溝部が列設され, 前記可動アーム手段は,揺動角度が第1の角度であるときに上昇すると前記固定アーム手段に保持された前記ウエハを受け取って前記ウエハを持ち上げ,揺動角度が前記第1の角度と異なる第2の角度であるときに下降すると前記可動アーム手段が保持する前記ウエハを前記固定アーム手段に受け渡し, 前記洗浄槽内において,前記ウエハを起立させ隣接する前記ウエハを非接触状態に置いて前記ウエハ送り機構を揺動させるとともに昇降可能に構成し,前記固定ウエハ載置台と前記可動ウエハ送り台との間で前記洗浄槽内の前記ウエハの受け渡しを行なう」ものである点。 (2)判断 事案に鑑み,相違点2から検討する。 ア(ア)本願明細書の【0002】?【0010】の記載によれば,従来のウェハ洗浄機では,ウェハの1回あたりの回転角度を大きくすることができず,1回の洗浄工程におけるウェハの回転動作回数を多くする必要があって,洗浄に要する時間が長くなり,効率的な洗浄は困難であったため,本願発明1が解決しようとする課題は,「ウェハを効率的に洗浄できるウェハ洗浄機を提供する」ことであり,本願発明1は,「前記ウェハの中心を通る直径線上に位置する両側縁部を把持するとともに,その把持を開放するために開閉される把持手段と, 前記把持手段を前記ウェハの外周方向に沿う方向に回転させる回転手段とを備え」ることにより,把持手段がウェハの両端縁部を把持して回転するものであるため,ウェハの1回あたりの回転角度を大きくすることができ,その結果,ウェハの回転動作回数を少なくすることができて,洗浄時間を短くでき、効率的な洗浄が可能になる,すなわち,上記課題を解決し得るものであるといえる。 そうすると,本願発明1が解決しようとする課題における「ウェハを効率的に洗浄できる」とは,ウェハの1回あたりの回転角度を大きくし,1回の洗浄工程におけるウェハの回転動作回数を少なくすることによるものであり,相違点2に係る本願発明1の発明特定事項に含まれる「前記ウェハの中心を通る直径線上に位置する両側縁部を把持するとともに,その把持を開放するために開閉される把持手段と, 前記把持手段を前記ウェハの外周方向に沿う方向に回転させる回転手段とを備え」との事項は,上記課題を解決するための手段であるといえる。 (イ)一方,引用文献1の前記第4 1(3)によれば,引用発明が解決しようとする課題は,以下のa?dのいずれかである。 a 洗浄槽内で各ウエハを起立状態で独立して保持し,隣接する各ウエハを非接触状態に置いて,洗浄槽の下部から供給される洗浄液が,ウエハの回転・昇降に伴い洗浄槽内において上昇する液流としてウエハ間に円滑に流れるようにし,洗浄液がウエハに停滞なく接触し,効率の良い洗浄を保証するとともに,ウエハから除去された微細なパーティクルを液流によって洗浄槽内の上部に導き,パーティクルをオーバーフローさせた洗浄液とともに洗浄槽外に排出し,ウエハから一旦除去された微細なパーティクルが洗浄中のウエハに再付着することを回避するウエハ洗浄装置を提供すること。 b 洗浄槽内において,ウエハを保持しながら周方向にウエハの小回転を間欠的に行なってウエハを1回転させながら行なうウエハの洗浄動作を一つの(単独の)ウエハ送り機構に集約し洗浄槽内での動作機構をシンプルな構成とし,洗浄槽の容量の小型化,洗浄装置のコンパクト化が図れるウエハ洗浄装置を提供すること。 c 洗浄槽内において,隣接するウエハを起立させ非接触状態に置いて,(i)固定アーム手段が具備する固定ウエハ載置台にウエハが保持されているとき;(ii)可動アーム手段を構成する可動ウエハ送り台にウエハが保持されているとき;(iii)固定アーム手段の固定ウエハ載置台と可動アーム手段の可動ウエハ送り台との間でウエハの受け渡し(移し替え)が行われるとき;に隣接するウエハが接触する事態(事故)をなくし,ウエハ周面に洗浄液が均等にまわり洗浄ムラが生じないウエハ洗浄装置を提供すること。 d ウエハ送り機構を駆動させる駆動手段を洗浄槽の外部に配設し,駆動手段の動作によって洗浄槽内に発塵物が混入しないウエハ洗浄装置を提供すること。 (ウ)しかし,引用文献1には,ウェハの1回あたりの回転角度を大きくすることができず,1回の洗浄工程におけるウェハの回転動作回数を多くする必要があって,洗浄に要する時間が長くなり,効率的な洗浄は困難であったため,「ウェハを効率的に洗浄できるウェハ洗浄機を提供する」という課題は,何ら記載も示唆もされていない。 そうすると,上記課題を解決する手段を含む,相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を引用発明に採用する動機付けがあるとはいえない。 そして,このことは,引用文献2,3に記載された発明の内容に左右されるものではない。 イ 前記第4 2(1)?(4)の記載によれば,引用文献2に記載された発明は,複数の洗浄槽と,半導体ウエハを洗浄槽内に搬送する搬送部と,半導体ウエハを支持する支持部と,半導体ウエハを回転させる回転部と,を有する半導体ウエハ洗浄装置において,保持部21と駆動部22を有する搬送部20は,ある洗浄槽10から他の洗浄槽10へと半導体ウエハ90を搬送することで,半導体ウエハ90をその加工に適した洗浄液へと浸漬させ,回転部40は複数の洗浄槽10それぞれに設けられた支持部30へと半導体ウエハ90を載置する度に,支持部30と半導体ウエハ90との接触長さによって決定される第1角度θ1よりも大きく,予め半導体ウエハ90を回転軸周りの一方向に回転させるものであって,本願発明1のように,ウェハの1回あたりの回転角度を大きくして,1回の洗浄工程におけるウェハの回転動作回数を少なくするために,「前記ウェハの中心を通る直径線上に位置する両側縁部を把持するとともに,その把持を開放するために開閉される把持手段と,前記把持手段を前記ウェハの外周方向に沿う方向に回転させる回転手段とを備え」るものではない。 したがって,引用文献2には,相違点2に係る本願発明1の発明特定事項が記載されているとはいえない。 そして,引用文献3にも,相違点2に係る本願発明1の発明特定事項は,何ら記載も示唆もされていない。 ウ 前記ア及びイから,引用発明に引用文献2,3に記載された発明を組み合わせる動機付けはないし,また,仮に,引用発明に引用文献2,3に記載された発明を組み合わせたとしても,相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を得ることはできない。 したがって,相違点1について判断するまでもなく,本願発明1は,引用発明及び引用文献2,3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものとはいえない。 3 本願発2-4について 本願発明2-4は,いずれも本願発明1の全ての発明特定事項を有しているから,前記2で検討したのと同じ理由により,引用発明及び引用文献2,3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり,本願発明1-4は,当業者が引用文献1-3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-05-26 |
出願番号 | 特願2019-26613(P2019-26613) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01L)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 古川 哲也、西村 治郎、平野 崇、堀江 義隆 |
特許庁審判長 |
辻本 泰隆 |
特許庁審判官 |
▲吉▼澤 雅博 河本 充雄 |
発明の名称 | ウェハ洗浄機 |
代理人 | 恩田 博宣 |
代理人 | 恩田 誠 |