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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 発明同一 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1374658
審判番号 不服2020-9453  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-06 
確定日 2021-06-29 
事件の表示 特願2015-256561「偏光板」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 7月11日出願公開、特開2016-126346、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2015-256561号(以下「本件出願」という。)は、平成27年12月28日(先の出願に基づく優先権主張 平成26年12月26日)の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和元年 9月13日付け:拒絶理由通知書
令和元年11月21日提出:意見書
令和元年11月21日提出:手続補正書
令和2年 3月31日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和2年 7月 6日提出:審判請求書
令和2年 7月 6日提出:手続補正書
令和3年 1月28日付け:拒絶理由通知書
令和3年 3月31日提出:意見書
令和3年 3月31日提出:手続補正書


第2 本件発明
本件出願の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、令和3年3月31日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるところ、本件発明1は、以下のとおりのものである。

「 第1保護フィルム、第1接着剤層、偏光フィルム、第2接着剤層、及び第2保護フィルムをこの順に含み、
前記第1接着剤層の80℃における貯蔵弾性率が0.1MPa以上800MPa未満であり、前記第2接着剤層の80℃における貯蔵弾性率が800MPa以上10000MPa未満であり、
前記第2接着剤層の80℃における貯蔵弾性率と前記第1接着剤層の80℃における貯蔵弾性率との差が100MPa以上であり、
前記第1保護フィルムが(メタ)アクリル樹脂から構成され、前記第2保護フィルムがポリオレフィン系樹脂又はセルロースエステル系樹脂から構成され、
前記第1保護フィルムは、前記第2保護フィルムよりも破断応力が小さく、
前記第2保護フィルム側に配置される粘着剤層をさらに含む、偏光板。」

なお、本件発明2?6は、本件発明1の「偏光板」に対してさらに他の発明特定事項を付加したものである。


第3 先願明細書等の記載事項、及び先願発明
1 先願明細書等の記載事項
先の出願の日前の他の特許出願であって、先の出願後に出願公開がされた、特願2014-260100号(特開2015-143848号参照)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「先願明細書等」という。)には、以下の記載事項がある。 なお、当合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。

(1) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光フィルムと、偏光子以外の光学フィルムが、低弾性接着剤層(a)を介して積層されている積層偏光フィルムであって、
前記偏光フィルムは、偏光子の少なくとも一方の面に接着剤層(b)を介して透明保護フィルムが積層されており、かつ、当該透明保護フィルムに前記低弾性接着剤層(a)が積層されており、
前記低弾性接着剤層(a)の25℃における貯蔵弾性率が3.0×10^(5)?1.0×10^(8)Paであり、
かつ、前記低弾性接着剤層(a)の厚みが0.1?5μmであることを特徴とする積層偏光フィルム。
・・・省略・・・
【請求項21】
前記偏光フィルムは、前記偏光子の両面に、前記接着剤層(b)を介して前記透明保護フィルムが設けられており、
片面の前記接着剤層(b)は、85℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(6)? 1.0×10^(10)Paであり、かつ、厚みが0.03?3μmを満足する接着剤層(b1)であり、
他の片面の前記接着剤層(b)は、85℃ における貯蔵弾性率1.0×10 ^(4)?1.0×10^(8)Paであり、厚みが0.1?25μmを満足する接着剤層(b2)であることを特徴とする請求項1?18のいずれかに記載の積層偏光フィルム。」

(2) 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光フィルムと偏光子以外の光学フィルムとを低弾性接着剤層を介して積層した積層偏光フィルムおよびその製造方法に関する。当該積層フィルムはこれ単独で、または、さらに光学フィルムを積層した積層光学フィルムとして液晶表示装置(LCD)、有機EL表示装置、CRT、PDPなどの画像表示装置を形成しうる。
・・・省略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記積層偏光フィルムに用いられる位相差フィルムは、フィルム内において分子が面配向しているため、落下等の衝撃により、劈開しやすい。そのため、例えば、偏光フィルムと位相差フィルムの積層物は、耐衝撃性が十分ではなかった。
【0006】
また、前記積層偏光フィルムは、液晶セルに貼り合わせたパネルの状態において、加熱試験や凍結サイクル試験(ヒートショックサイクル試験)等に供される。しかし、特許文献1に記載の粘着剤層では、前記試験によって生じる偏光フィルムの寸法変化に粘着剤層が追随することが難しく、試験後の積層偏光フィルムをクロスニコルの状態で観察するとスジムラ等の表示欠陥を見られた。そのため、積層光学フィルムには、前記試験後においても積層偏光フィルムをクロスニコルの状態でスジムラ等が生じないこと(以下、加熱座屈性という)が求められる。
【0007】
本発明は、偏光フィルムと偏光フィルム以外の光学フィルムとを積層した積層偏光フィルムであって、耐衝撃性および加熱座屈性が良好な積層偏光フィルムおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
さらに本発明は、前記積層偏光フィルムを用いた積層光学フィルム、さらには前記積層偏光フィルムまたは積層光学フィルムを用いた画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を下記偏光フィルム等により、上記課題を解決できることを見出だし本発明を完成するに到った。
【0010】
即ち本発明は、偏光フィルムと、偏光子以外の光学フィルムが、接着剤層(a)を介して積層されている積層偏光フィルムであって、
前記偏光フィルムは、偏光子の少なくとも一方の面に接着剤層(b)を介して透明保護フィルムが積層されており、かつ、当該透明保護フィルムに前記低弾性接着剤層(a)が積層されており、
前記低弾性接着剤層(a)の25℃における貯蔵弾性率が3.0×10^(5)?1.0×10^(8)Paであり、
かつ、前記低弾性接着剤層(a)の厚みが0.1?5μmであることを特徴とする積層偏光フィルム、に関する。
・・・省略・・・
【0024】
また、前記積層光学フィルムにおいて、前記偏光フィルムは、前記偏光子の両面に、前記接着剤層(b)を介して前記透明保護フィルムが設けられている場合には、片面の前記接着剤層(b)としては、85℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(6)?1.0×10^(10)Paであり、かつ、厚みが0.03?3μmを満足する接着剤層(b1)を用いて、他の片面の前記接着剤層(b)としては、85℃ における貯蔵弾性率1.0×10^(4)?1.0×10^(8)Paであり、厚みが0.1?25μmを満足する接着剤層(b2)を用いることができる。
・・・省略・・・
【発明の効果】
【0033】
本発明の積層偏光フィルムは、偏光フィルムと偏光子以外の光学フィルムを、低弾性接着剤層(a)により積層している。接着剤層は、フィルム同士を積層して固着することを目的としており、フィルム同士を積層したのちに再剥離が可能なことを前提に設けられる粘着剤層とは相違する。前記低弾性接着剤層(a)は、偏光フィルムと光学フィルムを強固に接着している。このような低弾性接着剤層(a)は、薄層(0.1?5μm)の厚みにおいてもフィルム間の剥離力を所定以上に維持することができ、かつ、加熱座屈性を満足することができる。なお、薄層(0.1?5μm)の粘着剤層では、剥離力を満足することができない。粘着剤層は厚みを厚くすることで所定の剥離力が得られるが、粘着剤層は厚みが厚くなると、加熱試験や凍結サイクル試験による偏光フィルムの寸法変化に粘着剤層が追随することが難しくなり、加熱座屈性を満足することができない。
【0034】
また、本発明の低弾性接着剤層(a)は、25℃における貯蔵弾性率を3.0×10^(5)?1.0×10^(8)Paに制御しているため、低弾性接着剤層(a)が薄層であるにも拘わらず、積層偏光フィルムは耐衝撃性が良好である。
【0035】
また本発明の積層偏光フィルムは、偏光フィルムを構成する偏光子の厚みが1?10μmの薄型偏光子である場合に加熱座屈性、耐衝撃性の点で特に有効である。薄型偏光子は上記の寸法変化が小さいため、透明保護フィルムや偏光子以外の光学フィルムに対する寸法変化が相対的に大きくなり、厚みが10μm以上の偏光子に比べて加熱座屈性に劣る傾向がある。また、薄型偏光子は、厚みが10μm以上の偏光子に比べて高い弾性率を有することから、厚みが10μm以上の偏光子に比べて衝撃吸収性に劣る傾向がある。本発明の積層偏光フィルムによれば、低弾性接着剤層(a)を有することから、薄型偏光子を用いる場合においても、加熱座屈性、耐衝撃性を満足させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1A】本発明の積層偏光フィルムの一実施形態を示す断面図である。
【図1B】本発明の積層偏光フィルムの一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の積層偏光フィルムの一実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の積層偏光フィルムの一実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明の積層偏光フィルムの一実施形態を示す断面図である。」

(3) 「【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の積層偏光フィルムの実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。
【0038】
図1乃至図4は、本発明の積層偏光フィルムの一実施形態を示す断面図である。図1Aに示す積層偏光フィルムは、偏光子(1)の両面に接着剤層(b)を介して透明保護フィルム(2)が設けられている偏光フィルム(P)を有し、当該偏光フィルム(P)の片側の透明保護フィルム(2)に、低弾性接着剤層(a)を介して、光学フィルム(3)が設けられている。図1Bに示す積層偏光フィルムは、偏光子(1)の片面にのみ接着剤層(b)を介して透明保護フィルム(2)が設けられている偏光フィルム(P)を有し、当該偏光フィルム(P)における透明保護フィルム(2)に、低弾性接着剤層(a)を介して、光学フィルム(3)が設けられている。なお、図1Aでは、偏光フィルム(P)の片側の透明保護フィルム(2)にのみ低弾性接着剤層(a)を介して、光学フィルム(3)が設けられているが、両側の透明保護フィルム(2)に低弾性接着剤層(a)を介して、光学フィルム(3)を設けることができる。図2乃至図4の積層偏光フィルムは、図1Aに記載の偏光フィルム(P)を偏光フィルム(P1)乃至(P3)の態様で用いた場合を示す。
・・・省略・・・
【0045】
図3、図4の積層偏光フィルムにおける偏光フィルム(P2)、(P3)は、偏光子(1)の片面の接着剤層(b)として接着剤層(b1)を、他の片面の前記接着剤層(b)として接着剤層(b2)を用いた場合である。図3では、前記低弾性接着剤層(a)が積層される側の透明保護フィルム(2)を積層する接着剤層(b)として接着剤層(b1)を、図4では、前記低弾性接着剤層(a)が積層される側の透明保護フィルム(2)を積層する接着剤層(b)として接着剤層(b2)が用いられている。
【0046】
図3、図4の接着剤層(b1)についても、図2の接着剤層(b1)と同様に85℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(6)?1.0×10^(10)Paであり、かつ、厚みが0.03?3μmを満足するものを用いることができる。また、前記接着剤層(b1)は、25℃における貯蔵弾性率が5.0×10^(7)?1.0×10 ^(10)Paであることが好ましい。前記接着剤層(b1)の貯蔵弾性率、厚みの好ましい範囲は図2の記載の説明と同様である。
【0047】
図3、図4の接着剤層(b2)は、85℃における貯蔵弾性率1.0×10^(4)?1.0×10^(8)Paであり、厚みが0.1?25μmを満足するものを用いることができる。前記接着剤層(b2)は、85℃における貯蔵弾性率が5.0× 10^(4)?5.0×10^(7)Paであることが好ましく、さらには3.0×10^(5)?1.0×10^(7)Paであることが好ましい。前記接着剤層(b2)の厚みは0.5?15μmが好ましく、さらには0.8?5μmが好ましい。
【0048】
また、前記接着剤層(b2)は、25℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(4)?1.0×10^(8)Pa、5.0×10^(4)?7.0×10^(7)Paであることが好ましく、さらには1.0×10^(5)?1.0×10^(7)Paであることが好ましい。
【0049】
前記接着剤層(b1)、(b2)の貯蔵弾性率、厚みを前記範囲に制御することはヒートショックサイクル試験時の偏光子クラックを抑制できる点、耐衝撃性をより満足する点から好ましい。
・・・省略・・・
【0142】
<偏光子>
偏光子(1)は、特に制限されず、各種のものを使用できる。偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルムなどの親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料などの二色性材料を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物などポリエン系配向フィルムなどが挙げられる。これらのなかでもポリビニルアルコール系フィルムとヨウ素などの二色性物質からなる偏光子が好適である。これら偏光子の厚みは特に制限されないが、一般的に80μm程度以下である。
・・・省略・・・
【0161】
<透明保護フィルム>
透明保護フィルム(2)を構成する材料としては、例えば透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れる熱可塑性樹脂が用いられる。このような熱可塑性樹脂の具体例としては、トリアセチルセルロース等のセルロース樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂(ノルボルネン系樹脂)、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、およびこれらの混合物が挙げられる。透明保護フィルム中には任意の適切な添加剤が1種類以上含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、離型剤、着色防止剤、難燃剤、核剤、帯電防止剤、顔料、着色剤などが挙げられる。透明保護フィルム中の上記熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは50?100重量%、より好ましくは50?99重量%、さらに好ましくは60?98重量%、特に好ましくは70?97重量%である。透明保護フィルム中の上記熱可塑性樹脂の含有量が50重量%以下の場合、熱可塑性樹脂が本来有する高透明性等が十分に発現できないおそれがある。
【0162】
また透明保護フィルム(2)を形成する材料としては、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れるものが好ましく、特に透湿度が150g/m^(2)/24h以下であるものがより好ましく、140g/m^(2)/24h以下のものが特に好ましく、120g/m^(2)/24h以下のものさらに好ましい。透湿度は、実施例に記載の方法により求められる。
【0163】
上記偏光フィルムにおいて、透湿度が150g/m^(2)/24h以下の透明保護フィルムを用いた場合には、偏光フィルム中に空気中の水分が入り難く、偏光フィルム自体の水分率変化を抑制することができる。その結果、保存環境により生じる偏光フィルムのカールや寸法変化を抑えることができる。
【0164】
上記透明保護フィルム(2)の偏光子(1)を接着させない面には、ハードコート層、反射防止層、スティッキング防止層、拡散層ないしアンチグレア層などの機能層を設けることができる。なお、上記ハードコート層、反射防止層、スティッキング防止層、拡散層やアンチグレア層などの機能層は、透明保護フィルム(2)そのものに設けることができるほか、別途、透明保護フィルム(2)とは別体のものとして設けることもできる。
【0165】
透明保護フィルム(2)の厚みは、適宜に決定しうるが、一般には強度や取扱性などの作業性、薄層性などの点より1?500μm程度であり、1?300μmが好ましく、5?200μmがより好ましい。さらには10?200μmが好ましく、20?80μmが好ましい。
【0166】
なお、偏光子(1)の両面に設けられる、前記透明保護フィルム(2)は、その表裏で同じポリマー材料からなる透明保護フィルムを用いてもよく、異なるポリマー材料等からなる透明保護フィルムを用いてもよい。
【0167】
前記透明保護フィルムとして、正面位相差が40nm以上および/または、厚み方向位相差が80nm以上の位相差を有する位相差フィルムを用いることができる。正面位相差は、通常、40?200nmの範囲に、厚み方向位相差は、通常、80?300nmの範囲に制御される。透明保護フィルムとして位相差フィルムを用いる場合には、当該位相差フィルムが透明保護フィルムとしても機能するため、薄型化を図ることができる。
【0168】
位相差フィルムとしては、高分子素材を一軸または二軸延伸処理してなる複屈折性フィルム、液晶ポリマーの配向フィルム、液晶ポリマーの配向層をフィルムにて支持したものなどがあげられる。位相差フィルムの厚さも特に制限されないが、20?150μm程度が一般的である。
【0169】
なお、図1A、B、図2乃至図4で示す積層偏光フィルムにおいては、透明保護フィルム(2)として位相差フィルムを用いることができる。また、偏光子(1)の両側の透明保護フィルム(2)は片側または両側のいずれも位相差フィルムとすることもできる。特に、図3および図4において、接着剤層(b2)の側の透明保護フィルムとして、位相差フィルムを用いるのが好ましい。特に、両側の透明保護フィルム(2)として位相差フィルムを用いる場合には、図4の態様が好ましい。
【0170】
<接着剤層(b)>
前記接着剤層(b)は光学的に透明であれば、特に制限されず水系、溶剤系、ホットメルト系、活性エネルギー線硬化型の各種形態のものが用いられる。接着剤層(b)は、上記のように、所定の厚さで、所定の貯蔵弾性率を満足するものであることが好ましい。
・・・省略・・・
【0181】
本発明の積層偏光フィルムには、液晶セルなどの他部材と接着するための粘着剤層を設けることもできる。粘着剤層を形成する粘着剤は特に制限されないが、例えばアクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテル、フッ素系やゴム系などのポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。特に、アクリル系粘着剤の如く光学的透明性に優れ、適度な濡れ性と凝集性と接着性の粘着特性を示して、耐候性や耐熱性などに優れるものが好ましく用いうる。
【0182】
粘着剤層は、異なる組成または種類などのものの重畳層として積層偏光フィルムまたは積層光学フィルムの片面または両面に設けることもできる。また両面に設ける場合に、積層偏光フィルムまたは積層光学フィルムの表裏において異なる組成や種類や厚みなどの粘着剤層とすることもできる。粘着剤層の厚みは、使用目的や接着力などに応じて適宜に決定でき、一般には1?500μmであり、1?200μmが好ましく、特に1?100μmが好ましい。
・・・省略・・・
【実施例】
【0186】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明の実施形態はこれらに限定されない。
【0187】
<貯蔵弾性率の測定>
実施例および比較例で用いた接着剤層または粘着剤層について下記方法により貯蔵弾性率を求めた。
[貯蔵弾性率の測定方法]
貯蔵弾性率は、レオメトリック社製の粘弾性スペクトロメータ(商品名:RSA-II)を用いて行った。測定条件は、周波数1Hz、サンプル厚2mm、圧着加重100g、昇温速度5℃/minでの-50℃?200℃の範囲に於ける、25℃および85℃での値を測定値とした。
・・・省略・・・
【0189】
<透明保護フィルム>
透明保護フィルム(2a):厚み50μmのラクトン環構造を有する(メタ)アクリル樹脂(透湿度96g/m^(2)/24h)にコロナ処理を施して用いた。
透明保護フィルム(2b):厚さ18μmの環状ポリオレフィンフィルム(日本ゼオン社製:ZEONOR)にコロナ処理を施して用いた。
・・・省略・・・
【0193】
<薄型の偏光子の作成>
薄型偏光膜を作製するため、まず、非晶性PET基材に9μm厚のPVA層が製膜された積層体を延伸温度130℃の空中補助延伸によって延伸積層体を生成し、次に、延伸積層体を染色によって着色積層体を生成し、さらに着色積層体を延伸温度65℃のホウ酸水中延伸によって総延伸倍率が5.94倍になるように非晶性PET基材と一体に延伸された4μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を生成した。このような2段延伸によって非晶性PET基材に製膜されたPVA層のPVA分子が高次に配向され、染色によって吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された高機能偏光膜を構成する、厚さ5μmのPVA層を含む光学フィルム積層体を生成することができた。
【0194】
<図3に記載の偏光フィルム(P2)の作成>
上記光学フィルム積層体の偏光膜の表面に、上記ポリビニルアルコール系接着剤を塗布しながら、上記透明保護フィルム(2a)を貼合せたのち、50℃で5 分間の乾燥を行った。透明保護フィルム(2a)に形成された接着剤層(b1)の厚さは1μmであり、25℃における貯蔵弾性率は1.5×10^(9)Pa、85℃における貯蔵弾性率は1.0×10^(8)Paであった。
【0195】
次いで、非晶性PET基材を剥離し、その剥離面に、下記に示す活性化エネルギー線硬化型系の接着剤(下記の実施例1の低弾性接着剤層(a)に係る活性エネルギー線硬化型接着剤に同じ)を塗布し、上記透明保護フィルム(2b)を貼り合せたのちに紫外線により硬化させて、薄型偏光膜を用いた偏光フィルムを作製した。透明保護フィルム(2b)に形成された接着剤層(b2)の厚さは、5μmであり、25℃における貯蔵弾性率は8.0×10^(6)Pa、85℃における貯蔵弾性率は8.0×10^(6)Paであった。
・・・省略・・・
【0198】
実施例1?4および比較例1
(低弾性接着剤層(a)に係る活性エネルギー線硬化型接着剤の調整)
表1記載の配合表に従い、各成分を混合して50℃で1時間撹拌して、活性エネルギー線硬化型接着剤を得た。表中の活性エネルギー線硬化型接着剤の数値は重量部を示す。
・・・省略・・・
【0202】
<粘着剤層付偏光フィルムの作成>
上記で得られたアクリル系ポリマー溶液の固形分100部に対して、架橋剤としてトリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物からなるポリイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業社製、コロネートL)0.2部を配合したアクリル系粘着剤溶液を調製した。次いで、上記アクリル系粘着剤溶液を、シリコーン処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(三菱化学ポリエステルフィルム社製、厚さ:38μm)の片面に、乾燥後の粘着剤層の厚さが表1に示すようになるように(比較例2では5.5μm;比較例3では4.0μm)塗布し、150℃で3分間乾燥を行い、粘着剤層を形成した。
【0203】
<積層偏光フィルムの作成>
上記粘着剤層を偏光フィルム(P1)または(P2)に貼り合わせた。偏光フィルム(P1)では透明保護フィルム(2b)の側に、偏光フィルム(P2)では透明保護フィルム(2a)の側に粘着剤層を貼り合せた。その後、PETフィルムを剥離して、位相差フィルムを貼り合せて積層偏光フィルムを得た。
【0204】
各例で得られた積層偏光フィルムについて下記評価を行った。結果を表1に示す。
・・・省略・・・
【0209】
【表1】



(4) 図3




(5) 図4




2 先願発明
上記1の記載に基づけば、先願明細書等の請求項1を引用する請求項21には、積層偏光フィルムとして、次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認められる。

「 偏光フィルムと、偏光子以外の光学フィルムが、低弾性接着剤層(a)を介して積層されている積層偏光フィルムであって、
前記偏光フィルムは、前記偏光子の両面に、接着剤層(b)を介して透明保護フィルムが設けられており、かつ、当該透明保護フィルムに前記低弾性接着剤層(a)が積層されており、
前記低弾性接着剤層(a)の25℃における貯蔵弾性率が3.0×10^(5)?1.0×10^(8)Paであり、
かつ、前記低弾性接着剤層(a)の厚みが0.1?5μmであり、
片面の前記接着剤層(b)は、85℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(6)?1.0×10^(10)Paであり、かつ、厚みが0.03?3μmを満足する接着剤層(b1) であり、
他の片面の前記接着剤層(b)は、85℃ における貯蔵弾性率1.0×10^(4)?1.0×10^(8)Paであり、厚みが0.1?25μmを満足する接着剤層(b2)である、積層偏光フィルム。」


第4 特許法第29条の2(先願発明による拡大先願)についての当合議体の判断
1 本件発明1
(1)対比
本件発明1と先願発明とを対比する。

ア 偏光フィルム、偏光板
先願発明の「偏光フィルム」は、「偏光子の両面に、接着剤層(b)を介して透明保護フィルムが設けられ」たものである。
先願発明の「偏光フィルム」の全体構成及び「偏光子」の光学的機能(偏光能)からみて、先願発明の「偏光子」及び「偏光フィルム」が、それぞれ本件発明1の「偏光フィルム」及び「偏光板」に相当する。
(当合議体注:本件明細書等に記載された実施例を参酌すると、本件発明1の「偏光板」は、フィルム状のものを排除していないと理解される。)

イ 第1接着剤層、第2接着剤層
先願発明の「片面の前記接着剤層(b)」である「接着剤層(b1)」及び「他の片面の前記接着剤層(b)」である「接着剤層(b2)」は、「偏光子の両面に、」それぞれ両者を「介して透明保護フィルムが設けられ」るものである。
先願発明の「接着剤層(b1)」及び「接着剤層(b2)」は、上記構成及びその文言からみて、何れか一方が本件発明1の「第1接着剤層」に、もう一方が「第2接着剤層」に相当する。

ウ 第1保護フィルム、第2保護フィルム
先願発明の「透明保護フィルム」は、「偏光子の両面に」、それぞれ「接着剤層(b1)」及び「接着剤層(b2)」を「介して」「設けられ」るものである。
そうしてみると、上記イより、先願発明の「透明保護フィルム」のうち、本件発明1の「第1接着剤層」に相当する側に設けられている「透明保護フィルム」及び本件発明1の「第2接着剤層」に相当する側に設けられている「透明保護フィルム」は、それぞれ本件発明1の「第1保護フィルム」及び「第2保護フィルム」に相当する。

ここで、先願発明の「積層偏光フィルム」は、「偏光フィルムと、偏光子以外の光学フィルムが、低弾性接着剤層(a)を介して積層されている」ものである。
この点と、上記ア?ウの対比結果を踏まえると、先願発明の「積層偏光フィルム」と、本件発明1の「偏光板」とは、「第1保護フィルム、第1接着剤層、偏光フィルム、第2接着剤層、及び第2保護フィルムをこの順に含」む「偏光板」を有する点で共通する。

(2)一致点及び相違点
以上より、本件発明1と先願発明とは、
「 第1保護フィルム、第1接着剤層、偏光フィルム、第2接着剤層、及び第2保護フィルムをこの順に含む、偏光板。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
「第1接着剤層」及び「第2接着剤層」が、本件発明1は、それぞれ「80℃における貯蔵弾性率が0.1MPa以上800MPa未満」及び「80℃における貯蔵弾性率が800MPa以上10000MPa未満」であり、両者の80℃における貯蔵弾性率の差が「100MPa以上であ」るのに対して、先願発明では、それぞれの貯蔵弾性率及びそれらの差が上記のように特定されてない点。

(相違点2)
「第1保護フィルム」及び「第2保護フィルム」が、本件発明1は、それぞれ「(メタ)アクリル樹脂から構成され」及び「ポリオレフィン系樹脂又はセルロースエステル系樹脂から構成され」るのに対して、先願発明は、そのように特定されていない点。

(相違点3)
「第1保護フィルム」が、本件発明1は、「第2保護フィルムよりも破断応力が小さ」いのに対して、先願発明は、そのように特定されていない点。

(相違点4)
「偏光板」が、本願発明1は、「第2保護フィルム側に配置される粘着剤層をさらに含む」のに対して、先願発明では、そのように特定されていない点。

(3)判断
上記相違点1?3に関連して、本件明細書の【0051】には、「第1保護フィルム10と第2保護フィルム20の組み合わせの一例は、80℃における貯蔵弾性率がより小さい第1接着剤層15を介して貼合される第1保護フィルム10が(メタ)アクリル樹脂から構成され、貯蔵弾性率がより大きい第2接着剤層25を介して貼合される第2保護フィルム20がポリオレフィン系樹脂又はセルロースエステル系樹脂から構成される組み合わせである。このように、第1保護フィルム10と第2保護フィルム20とを比較したとき、機械物性(破断応力)のより低い保護フィルムを貯蔵弾性率のより低い第1接着剤層15を介して偏光フィルム30に積層することにより、加工性をより高めることができる。」と記載されている。
上記記載によれば、相違点1?3に係る本件発明1の構成は、技術的にみて相互に関連するひとまとまりの構成と評価できる。
そこで、上記相違点1?3について、まとめて検討する。
先願明細書等には、[A]破断応力のより低い(メタ)アクリル樹脂から構成される透明保護フィルムが、80℃における貯蔵弾性率がより小さい第1接着剤層を介して偏光フィルムに貼合されるとともに、[B]破断応力のより高いポリオレフィン系樹脂又はセルロースエステル系樹脂から構成される透明保護フィルムが、80℃における貯蔵弾性率がより大きい第2接着剤層を介して偏光フィルムに貼合される構成とすることは、記載も示唆もない。むしろ、先願明細書の【0189】、【0193】?【0195】には、実施例として、「透明保護フィルム(2a):厚み50μmのラクトン環構造を有する(メタ)アクリル樹脂」、「透明保護フィルム(2b):厚さ18μmの環状ポリオレフィンフィルム(日本ゼオン社製:ZEONOR)」、「非晶性PET基材に製膜されたPVA層のPVA分子が高次に配向され、染色によって吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された高機能偏光膜を構成する、厚さ5μmのPVA層を含む光学フィルム積層体を生成する」、「上記光学フィルム積層体の偏光膜の表面に、上記ポリビニルアルコール系接着剤を塗布しながら、上記透明保護フィルム(2a)を貼合せたのち、50℃で5 分間の乾燥を行った。透明保護フィルム(2a)に形成された接着剤層(b1)の厚さは1μmであり、25℃における貯蔵弾性率は1.5×10^(9)Pa、85℃における貯蔵弾性率は1.0×10^(8)Paであった。」、「次いで、非晶性PET基材を剥離し、その剥離面に、下記に示す活性化エネルギー線硬化型系の接着剤(下記の実施例1の低弾性接着剤層(a)に係る活性エネルギー線硬化型接着剤に同じ)を塗布し、上記透明保護フィルム(2b)を貼り合せたのちに紫外線により硬化させて、薄型偏光膜を用いた偏光フィルムを作製した。透明保護フィルム(2b)に形成された接着剤層(b2)の厚さは、5μmであり、25℃における貯蔵弾性率は8.0×10^(6)Pa、85℃における貯蔵弾性率は8.0×10^(6)Paであった。」と記載されている。上記記載において、85℃における貯蔵弾性率がより小さい「接着剤層(b2)」を介して貼合される透明保護フィルム(2b)が、(メタ)アクリル樹脂から構成されるとともに、85℃における貯蔵弾性率がより大きい「接着剤層(b1)」を介して貼合される透明保護フィルム(2a)がポリオレフィン樹脂フィルム又はセルロースエステル系樹脂から構成される組み合わせは、想定されていないものである(当合議体注:【0189】、【0193】?【0195】には、上記[A]及び[B]とは逆の組み合わせが記載されている。)。
そして、このような組み合わせ(保護フィルムの破断応力の大小関係と、隣接する接着剤層の80℃における貯蔵弾性率の大小関係の組み合わせ)に技術上の意義が存することは、本件明細書の【0051】の上記記載から理解し得るところであって、当該組み合わせ、すなわち、相違点1?3に係る本件発明の構成を先願発明の構成に対して、付加ないし置換することが、新たな効果を奏するものではないとはいえない。
したがって、上記相違点1?3の接着剤層及び保護フィルムの組み合わせは、課題解決のための具体的手段における微差であるということができない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、先願明細書等に記載された発明と同一であるということができない。

2 本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1の構成を全て具備するものであるから、本件発明2?6も、本件発明1と同じ理由により、先願明細書等に記載された発明と同一であるということができない。


第5 引用文献及び引用発明等
1 引用文献2について
(1)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、引用文献2(特開2009-258589号公報)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光フィルムの一方の面に接着剤層を介して透明保護フィルムが貼合され、偏光フィルムの他方の面に粘着剤層を介して位相差フィルムが貼合されてなる複合偏光板であって、
該位相差フィルムがスチレン系樹脂からなるコア層の両面に、ゴム粒子を含有する(メタ)アクリル系樹脂組成物からなるスキン層が形成された3層構造からなり、
該粘着剤層が80℃の温度において0.1MPa以上の貯蔵弾性率を示す高弾性粘着剤から形成されていることを特徴とする複合偏光板。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光フィルムの片面に透明保護フィルムが、他面には位相差フィルムがそれぞれ貼合された複合偏光板に関するものである。詳しくは、コア層をスキン層で挟んだ3層構造を有する位相差フィルムのスキン層に用いられる(メタ)アクリル系樹脂と偏光フィルムとの接着性に優れる複合偏光板およびそれを用いた液晶表示装置に関するものである。
・・・省略・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、前記特許文献8に開示されるような多層構造の位相差フィルム、特に、スチレン系樹脂からなるコア層の両面をアクリル系樹脂からなるスキン層で挟んだ構造の位相差フィルムを、偏光フィルムの片面に保護フィルムとしての機能を兼ねる層として配置した複合偏光板を開発すべく鋭意検討を行ってきた。その中で、従来の偏光板においてポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロースアセテート系保護フィルムとの接着に用いられている接着剤では、特に温度湿度の変化が激しい条件下で、偏光フィルムと前記のようなスキン層を有する位相差フィルムとが十分な強度で接着しないことが明らかになってきた。
【0011】
したがって本発明の目的は、偏光フィルムの一方の面に透明保護フィルムが積層され、他方の面には、特定の物性を示す粘着剤層を介して、スチレン系樹脂からなるコア層の両面に、ゴム粒子を含有する(メタ)アクリル系樹脂組成物からなるスキン層を有する3層構造の位相差フィルムが積層された、温度湿度の変動に対する耐久性に優れた複合偏光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、80℃の温度において0.1MPa以上の貯蔵弾性率を示す高弾性粘着剤を用いて偏光フィルムと位相差フィルムを貼合することで、温度湿度の変動に対する優れた耐久性を有する複合偏光板が得られることを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明は、偏光フィルムの一方の面に接着剤層を介して透明保護フィルムが貼合され、偏光フィルムの他方の面に粘着剤層を介して位相差フィルムが貼合されてなる複合偏光板であって、位相差フィルムがスチレン系樹脂からなるコア層の両面に、ゴム粒子を含有する(メタ)アクリル系樹脂組成物からなるスキン層が形成された3層構造からなり、粘着剤層が80℃の温度において0.1MPa以上の貯蔵弾性率を示す高弾性粘着剤から形成されていることを特徴とする複合偏光板である。
【0014】
本発明において、偏光フィルムと位相差フィルムの貼合に用いる粘着剤は、80℃の温度における貯蔵弾性率が0.1MPa以上であり、好ましくは0.15MPa?10MPaである。このように高い温度でも一定以上の貯蔵弾性率を示す高弾性粘着剤を用いることにより、偏光フィルムと、ゴム粒子を含有する(メタ)アクリル系樹脂組成物スキン層との密着が極めて良好に向上し、温度湿度の変動に対する耐久性に優れた複合偏光板が得られる。また、前記高弾性粘着剤の23℃の温度における貯蔵弾性率は0.1MPa以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.2?10MPaである。
・・・省略・・・
【発明の効果】
【0019】
本発明の複合偏光板は、スチレン系樹脂からなるコア層の両面にゴム粒子が配合された(メタ)アクリル系樹脂組成物からなるスキン層が形成された3層構造の位相差フィルムが、偏光フィルムの片面に、高い貯蔵弾性率を有する粘着剤層を介して貼合されているため、偏光フィルムと前記位相差フィルムのスキン層とが十分な接着強度で接合したものとなる。したがって、温度や湿度の変化が大きい環境下においても、偏光フィルムと位相差フィルムの剥れが生じ難く、また、外観不良などの問題を起こすことのない耐久性に優れた複合偏光板を提供することができる。さらに、この複合偏光板を用いた液晶表示装置も、偏光フィルムと位相差フィルムが十分な強度で接着しているので、耐久性に優れたものとなる。


ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、適宜添付の図面も参照しながら、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明に係る複合偏光板の層構成の例を示す断面模式図である。本発明の複合偏光板は、図1に示すように、偏光フィルム10の一方の面に、第一の接着剤層41を介して透明保護フィルム20が積層され、偏光フィルム10の他方の面には、粘着剤層42を介して位相差フィルム30が積層されたものである。位相差フィルム30は、スチレン系樹脂からなるコア層31の両面に、ゴム粒子を含有する(メタ)アクリル系樹脂組成物からなるスキン層32が形成された3層構造を有する。位相差フィルム30の偏光フィルム10に貼り合わされた面と反対側の面には、液晶セルなどの他部材に貼り合わせるための第2の粘着剤層50が設けられることが多く、その場合は他部材への貼合まで第2の粘着剤層50の表面を仮着保護するセパレータ55を設けるのが通例である。なお図1では、わかりやすくするために一部の層を離間して示しているが、実際には隣り合う各層が密着貼合されていることになる。
【0021】
[貯蔵弾性率]
本発明において、貯蔵弾性率(動的弾性率)とは、一般的に用いられる粘弾性測定の用語を意味するものであるが、試料に時間によって変化(振動)する歪みまたは応力を与えて、それによって発生する応力または歪みを測定することにより、試料の力学的な性質を測定する方法(動的粘弾性測定)によって求められる値であり、歪みを応力と同位相と位相が90度ずれた2成分の波に分けたとき、振動応力と同位相にある弾性率である。
【0022】
貯蔵弾性率は、市販の粘弾性測定装置、例えば後掲の実施例に示すような動的粘弾性測定装置(Dynamic Analyzer RDA II: Reometric社製)を用いて測定することができる。粘弾性測定装置の温度制御には、循環恒温槽、電気ヒーター、ペルチェ素子等の種々公知の温度制御デバイスが用いられており、これによって測定時の温度を設定することができる。
【0023】
[位相差フィルムと偏光フィルムの貼合に用いる高弾性粘着剤]
本発明において、位相差フィルムと偏光フィルムの貼合に用いられる高弾性粘着剤は、温度80℃での貯蔵弾性率が0.1MPa以上であり、好ましくは0.15MPa?10MPaである。また、この高弾性粘着剤の23℃の温度における貯蔵弾性率は0.1MPa以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.2?10MPaである。
【0024】
なお、貯蔵弾性率は一般的に温度が高い条件ほど低くなる傾向があるため、80℃で測定した材料の貯蔵弾性率が0.1MPa以上であれば、通常は23℃で測定した同じ材料の貯蔵弾性率はそれ以上の値を示す。
【0025】
通常の画像表示装置又はそれ用の光学フィルムに用いられている粘着剤は、その貯蔵弾性率が高々0.1MPa程度であり、それに比べ、本発明で規定する粘着剤層の貯蔵弾性率は上述のような高い値となっている。このような高い貯蔵弾性率を示す、すなわち硬い粘着剤を用いることにより、高温環境下に置かれたときや、高温環境と低温環境が繰り返されたときの凝集力不足を補うことができ、そのときに発生する偏光フィルムの収縮に伴う寸法変化を小さく抑えることが可能となる。すなわち、本発明の複合偏光板は良好な耐久性を有し、特に偏光フィルムと位相差フィルムの剥離が抑えられる。
・・・省略・・・
【0039】
[偏光フィルム]
偏光フィルム10は、自然光からある一方向の直線偏光を選択的に透過する機能を有するものである。例えば、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を吸着・配向させたヨウ素系偏光フィルム、ポリビニルアルコール系フィルムに二色性の染料を吸着・配向させた染料系偏光フィルム、およびリオトロピック液晶状態の二色性染料をコーティングし、配向・固定化した塗布型偏光フィルムなどが挙げられる。これらのヨウ素系偏光フィルム、染料系偏光フィルム、および塗布型偏光フィルムは、自然光からある一方向の直線偏光を選択的に透過し、もう一方向の直線偏光を吸収する機能を有するもので、吸収型偏光フィルムと呼ばれている。本発明に用いる偏光フィルムは、前述した吸収型偏光フィルムだけでなく、自然光からある一方向の直線偏光を選択的に透過し、もう一方向の直線偏光を反射又は散乱する機能を有する反射型偏光フィルム、および散乱型偏光フィルムと呼ばれているものでも構わない。また、ここで具体的に挙げた偏光フィルムは、必ずしもこれらに限定されるわけではなく、自然光からある一方向の直線偏光を選択的に透過する機能を有するものであればよい。これらの偏光フィルムの中でも、視認性に優れている吸収型偏光フィルムを用いるのが好ましく、その中でも、偏光度及び透過率に優れるヨウ素系偏光フィルムを偏光フィルムとして用いるのが、最も好ましい。
・・・省略・・・
【0045】
[位相差フィルム]
偏光フィルム10のもう一方の面に積層される位相差フィルム30は、そのコア層31がスチレン系樹脂からなり、その両面に、ゴム粒子を含有する(メタ)アクリル系樹脂組成物からなるスキン層32が形成されたものである。
・・・省略・・・
【0056】
[透明保護フィルム]
偏光フィルム10の一方の面に積層される透明保護フィルム20は、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性、位相差値の安定性などに優れるものが好ましい。透明保護フィルム20を形成する材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、ジアセチルセルロースやトリアセチルセルロースなどのセルロース系樹脂、ポリメチルメタクリレートなどの(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル/スチレン共重合体、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体、アクリロニトリル/エチレン/スチレン共重合体、スチレン/マレイミド共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体などのスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などが挙げられる。また、ノルボルネン系樹脂をはじめとする環状オレフィン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン/エチレン共重合体などのオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ナイロンや芳香族ポリアミドなどのアミド系樹脂、芳香族ポリイミドやポリイミドアミドなどのイミド系樹脂、スルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ビニルブチラール系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂、エポキシ系樹脂、又はこれらの樹脂のブレンド物からなる高分子フィルムなども、透明保護フィルム20として用いることができる。これらの中でも、偏光フィルムとの接着の容易さなどを考慮すると、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、又はオレフィン系樹脂であることが好ましい。透明保護フィルム20は、偏光フィルム10との貼合に先立って、ケン化処理、コロナ処理、プラズマ処理などを施しておくことが望ましい。
・・・省略・・・
【0058】
[透明保護フィルムと偏光フィルムの接着に用いる接着剤]
偏光フィルム10と透明保護フィルム20とは、接着剤層41を介して積層される。この接着剤層41は、例えば、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、シアノアクリレート系樹脂、アクリルアミド系樹脂などを成分とする接着剤を用いて、接着剤層41を形成することができる。接着剤層を薄くする観点から好ましい接着剤として、水系の接着剤、すなわち、接着剤成分を水に溶解又は水に分散させたものを挙げることができる。水系の接着剤となりうる接着剤成分としては、例えば、水溶性の架橋性エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂などを挙げることができる。また、別の好ましい接着剤として、無溶剤型の接着剤、具体的には、加熱や活性エネルギー線の照射によりモノマー又はオリゴマーを反応硬化させて接着剤層を形成するものを挙げることができる。
・・・省略・・・
【0092】
以上のように構成される本発明の複合偏光板は、その位相差フィルムの外側に、さらに第2の粘着剤を配置して、液晶セルへの貼り合わせが可能となるようにすることができる。このような複合偏光板を、液晶セルの少なくとも一方の側に貼合して、液晶表示装置が構成される。液晶セルの両面に本発明の複合偏光板を配置することもできるし、片面に本発明の複合偏光板を配置し、他面には別の偏光板を配置することもできる。複合偏光板は、液晶セルへの貼合にあたっては、通常、その位相差フィルム側が液晶セルに向き合うように配置される。
・・・省略・・・
【実施例】
【0095】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、使用量または含有量を表す部および%は、特記ないかぎり重量基準である。なお、以下の例において、貯蔵弾性率は次の方法によって測定した。
【0096】
[貯蔵弾性率の測定方法]
以下の実施例および比較例において、粘着剤の貯蔵弾性率(G′)は、測定対象の粘着剤からなる直径8mm×厚み1mmの円柱状の試験片を作製し、動的粘弾性測定装置(Dynamic Analyzer RDA II:Reometric社製)を用いて、周波数1Hzの捻りせん断法で初期歪み1Nとし、温度23℃または80℃の条件で測定を行なった。
【0097】
また、以下の実施例および比較例においては、粘着剤として、次のものを用いた。
【0098】
(粘着剤A:高弾性粘着剤)
粘着剤Aは、アクリル酸ブチルとアクリル酸の共重合体にウレタンアクリレートオリゴマーが配合され、さらにイソシアネート系架橋剤が添加された粘着剤である。粘着剤Aの貯蔵弾性率を上記の方法で測定したところ、23℃において0.40MPa、80℃において0.18MPaであった。
【0099】
以下の実施例において、粘着剤Aは、上記組成の有機溶剤溶液を、離型処理が施された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(セパレータ)の離型処理面に塗工し、乾燥し、さらに紫外線照射することにより、このセパレータの表面に厚さ15μmの粘着剤Aの層が形成されたセパレータ付き粘着剤として調製した。
【0100】
(粘着剤B:低弾性粘着剤)
粘着剤Bは、市販のアクリル系シート状粘着剤であり、ウレタンアクリレートオリゴマーは配合されていない。粘着剤Bの貯蔵弾性率を上記の方法で測定したところ、23℃において0.05MPa、80℃において0.04MPaであった。
【0101】
以下の実施例および比較例においては、粘着剤Bとして、離型処理が施された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(セパレータ)の離型処理面に厚さ15μmの粘着剤Bの層が設けられている市販のセパレータ付き粘着剤を使用した。
【0102】
(粘着剤C:低弾性粘着剤)
粘着剤Cは、市販のアクリル系シート状粘着剤であり、ウレタンアクリレートオリゴマーは配合されていない。粘着剤Cの貯蔵弾性率を上記の方法で測定したところ、23℃において0.10MPa、80℃において0.04MPaであった。
【0103】
以下の比較例においては、粘着剤Cとして、離型処理が施された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(セパレータ)の離型処理面に厚さ15μmの粘着剤Cの層が設けられている市販のセパレータ付き粘着剤を使用した」

エ 図1「



(2)引用発明
上記(1)の記載に基づけば、引用文献2の請求項1には、複合偏光板として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 偏光フィルムの一方の面に接着剤層を介して透明保護フィルムが貼合され、偏光フィルムの他方の面に粘着剤層を介して位相差フィルムが貼合されてなる複合偏光板であって、
該位相差フィルムがスチレン系樹脂からなるコア層の両面に、ゴム粒子を含有する(メタ)アクリル系樹脂組成物からなるスキン層が形成された3層構造からなり、
該粘着剤層が80℃の温度において0.1MPa以上の貯蔵弾性率を示す高弾性粘着剤から形成されていることを特徴とする複合偏光板。」

2 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された、引用文献3(特開2011-17820号公報)には、以下の記載事項がある。なお、当合議体が判断等に用いた箇所に下線を付した。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、二色性色素が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に、光硬化性接着剤を介して透光性樹脂フィルムを接合してなる偏光板、及びその偏光板を含む積層光学部材に関するものである。」

(2)「【発明が解決しようとする課題】
・・・省略・・・
【0011】
そこで本発明の課題は、二色性色素が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に保護膜を貼合するのに用いる接着剤に改良を加えることで、良好な接着性を与え、ヒートショック試験などに対しても高い耐久性を与える偏光板を提供し、さらにはその偏光板を用いた光学部材を提供することにある。
【0012】
本発明者らは、かかる課題を解決するべく鋭意研究を行った結果、光硬化性接着剤組成物を用いた場合には、その硬化物の貯蔵弾性率が、偏光板をヒートショック試験にかけたときのクラックの発生しやすさに影響し、その貯蔵弾性率が所定値以上となる光硬化性接着剤組成物を採用することで、クラックの発生を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち本発明によれば、二色性色素が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に、接着剤層を介して透光性樹脂フィルムが接合されてなり、その接着剤層は、エポキシ化合物及びカチオン重合開始剤を含有し、その硬化物が80℃において600MPa以上の貯蔵弾性率を示す接着剤組成物から形成されている偏光板が提供される。」

(3)「【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を詳しく説明する。本発明では、二色性色素が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に、特定の光硬化性接着剤組成物を用いて、保護膜として機能し、また場合によっては位相差板などの光学層としても機能する透光性樹脂フィルムを接合し、偏光板とする。
【0019】
[接着剤組成物]
本発明において、偏光子と透光性樹脂フィルムとを接合するための接着剤組成物は、エポキシ化合物及びカチオン重合開始剤を含有し、その硬化物が80℃において600MPa以上の貯蔵弾性率を示すもので構成する。ここでエポキシ化合物とは、分子内に平均2個以上のエポキシ基を有し、活性エネルギー線の照射によってカチオン重合硬化することが可能な化合物又はポリマーを意味する。また、この接着剤組成物は、その硬化物が80℃において600MPa以上の貯蔵弾性率を示すもので構成する。このように硬化物としたときに高い貯蔵弾性率を示す接着剤組成物を採用することにより、偏光板をヒートショック試験にかけたときでもクラックなどの発生を抑えることができる。接着剤組成物の硬化物が示す貯蔵弾性率は、700MPa以上であることが好ましく、さらには1,000MPa以上であることが一層好ましい。
・・・省略・・・
【0076】
[偏光板]
本発明では、以上説明した光硬化性接着剤組成物を介して、偏光子の片面又は両面に、保護膜となる透光性樹脂フィルムを接合して、偏光板とする。偏光子は典型的には、一軸延伸され、二色性色素が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成することができる。
・・・省略・・・
【0095】
偏光子の両面に透光性樹脂フィルムを貼合する場合、2枚の透光性樹脂フィルムを段階的に片面ずつ貼合してもよいし、両面に一段階で貼合しても構わない。偏光子の両面に透光性樹脂フィルムを貼合する場合、偏光子の一方の面と他方の面とに貼合される透光性樹脂フィルムは、同じ種類でも異なる種類でもよい。偏光子の両面に相異なる種類の透光性樹脂フィルムを貼合する場合には、例えば、一方の透光性樹脂フィルムとして、アセチルセルロース系樹脂のフィルムを用い、他方の透光性樹脂フィルムとして、トリアセチルセルロースよりも透湿度の低い透明樹脂のフィルムを用いることができる。アセチルセルロース系樹脂フィルムと偏光子との接着には、従来、水を溶媒とする接着剤を用いるウェットラミネーションが採用されていたが、この場合は長大な乾燥炉が必要となる。一方、本発明では乾燥炉を全く必要としない。この場合の利点としては、前述のとおり、乾燥炉への設備投資が必要ないこと、偏光子及び/又は接着剤層の熱劣化が起きないこと、カールの抑制が可能であることなどが挙げられる。
【0096】
より具体的には、一方の透光性樹脂フィルムとして、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートブチレート等のセルロース系樹脂からなるフィルムを用い、他方の透光性樹脂フィルムとして、ポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、アクリル系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム等の透湿度の低い樹脂フィルムを用いる形態をとることができる。
【0097】
なお、偏光子の一方の面にアセチルセルロース系樹脂フィルムのような透湿度の比較的高い透光性樹脂フィルムを設ける場合、かかる透湿度の比較的高い透光性樹脂フィルムと偏光子との貼合面には、ポリビニルアルコール系接着剤等、本発明で規定する光硬化性接着剤以外の接着剤を用いてもよいが、作業効率の面からは両面とも同じ接着剤を用いるのが好ましい。
・・・省略・・・
【実施例】
【0122】
[実施例1及び2並びに比較例1?5]
(1)光硬化性接着剤組成物の調製
上記した各成分を表1に示す割合で混合し、光硬化性接着剤組成物を調製した。なお、光カチオン重合開始剤は上述のとおり、50%プロピレンカーボネート溶液として配合したが、表1にはその溶液量で表示した。したがって、光カチオン重合開始剤である(4-フェニルチオフェニルジフェニルスルホニウム ヘキサフルオロホスフェート自体の配合量(固形分配合量)は、表1に記載の量(8部)の半分の4部となる。
【0123】
(2)光硬化性接着剤組成物の硬化物の80℃における貯蔵弾性率の測定
上で調製した各々の光硬化性接着剤組成物を、延伸ノルボルネン系樹脂フィルム〔商品名”ゼオノアフィルム”、日本ゼオン(株)製)の片面に、塗工機〔バーコーター、第一理化(株)製〕を用いて塗工し、紫外線照射装置(ランプは、Fusion UV Systems 社製の”D バルブ”を使用〕により、積算光量が600mJ/cm2(波長280?315nmのUV-B基準)となるように紫外線を照射して硬化させた。得られた硬化物の膜厚は、約30μmであった。これを3cm×1cmの大きさにカットし、ノルボルネン系樹脂フィルムを剥がして、各接着剤組成物の単独硬化フィルムを得た。アイティー計測制御(株)製の動的粘弾性測定装置”DVA-220”を用い、上で得られた接着剤組成物の単独硬化フィルムをその長辺が引っ張り方向となるように、左右つかみ具の間隔2cmで把持し、周波数1Hz、昇温速度3℃/分に設定して、80℃における貯蔵弾性率を求めた。結果を表1に示す。
【0124】
(3)偏光板の作製
偏光板の一方の面の保護膜となる厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム〔商品名”フジタック”、富士フイルム(株)製〕に、バーコーターを用いて上で調製した光硬化性接着剤組成物を硬化後の膜厚が約5μmとなるように塗工し、その上にポリビニルアルコール-ヨウ素系の偏光子を貼合した。また、偏光板のもう一方の面の保護膜となる厚さ70μmの延伸ノルボルネン系樹脂フィルム〔商品名”ゼオノアフィルム”、日本ゼオン(株)製〕の表面にコロナ放電処理を施した後、そのコロナ放電処理面に、バーコーターを用いて上と同じ光硬化性接着剤組成物を硬化後の膜厚が約5μmとなるように塗工し、先の偏光子のトリアセチルセルロースフィルム貼合面とは反対側の面に貼合した。こうして、偏光子の両面に保護膜を貼合した。
・・・省略・・・
【0129】
【表1】




第6 特許法第29条2項(引用発明による進歩性欠如)についての当合議体の判断
1 本件発明1
(1)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。

ア 偏光フィルム
引用発明の「複合偏光板」は、「偏光フィルムの一方の面に接着剤層を介して透明保護フィルムが貼合され、偏光フィルムの他方の面に粘着剤層を介して位相差フィルムが貼合されてなる」ものである。
その構成からみて、引用発明の「偏光フィルム」は、本件発明1の「偏光フィルム」に相当する。

イ 第1接着剤層、第2接着剤層
引用発明の「粘着剤層」は、上記アの構成からみて、本件発明1の「接着剤層」と、フィルムを貼合わせる機能を有する点で共通する。
また、引用発明の「接着剤層」は、その文言からして、本件発明1の「第1接着剤層」又は「第2接着剤層」の何れか一方に相当する。

ウ 第1保護フィルム、第2保護フィルム
引用発明の「位相差フィルム」は、「偏光フィルムの他方の面に粘着剤層を介して」「貼合されてなる」ものであり、「スチレン系樹脂からなるコア層の両面に、ゴム粒子を含有する(メタ)アクリル系樹脂組成物からなるスキン層が形成された3層構造からな」るものである。引用発明の「位相差フィルム」は、その材料及び構成からして、「偏光フィルム」を保護する機能を有するといえ、本件発明1の「第1保護フィルム」又は「第2保護フィルム」の何れか一方に相当する。
また、引用発明の「透明保護フィルム」は、その文言からして、本件発明1の「第1保護フィルム」又は「第2保護フィルム」の何れか一方に相当する。

エ 偏光板
上記ア?ウを総合すると、引用発明の「複合偏光版」は、本件発明1の「偏光板」に相当する。
また、上記ア?ウの構成からみて、引用発明の「複合偏光板」は、「位相差フィルム」、「粘着剤層」、「偏光フィルム」、「接着剤層」及び「透明保護フィルム」をこの順に含むといえる。
そうしてみると、引用発明の「複合偏光板」と、本件発明1の「偏光板」とは、「保護フィルム」、貼合せる機能を有する「層」、「偏光フィルム」、「接着剤層、及び」「保護フィルムをこの順に含」む「偏光板」を有する点で共通する。

(2)一致点及び相違点
以上より、本件発明1と引用発明とは、
「 保護フィルム、貼合せる機能を有する層、偏光フィルム、接着剤層、及び保護フィルムをこの順に含む、偏光板。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
「貼合せる機能を有する層」が、本件発明1は、「接着剤層」であるのに対して、引用発明は、「粘着剤層」である点。

(相違点2)
「貼合せる機能を有する層」及び「接着剤層」が、本件発明1では、それぞれ、「80℃における貯蔵弾性率が0.1MPa以上800MPa未満であ」る「第1接着剤層」、「80℃における貯蔵弾性率が800MPa以上10000MPaであ」る「第2接着剤層」のいずれかであり、それらの「80℃における貯蔵弾性率の差が100MPa以上であ」るのに対して、引用発明は貯蔵弾性率が上記のとおり特定されていない点。

(相違点3)
本件発明1は、「第1接着剤層」側の「保護フィルム」が「(メタ)アクリル樹脂から構成され」る「第1保護フィルム」であり、「第2接着剤層」側の「保護フィルム」が「ポリオレフィン系樹脂又はセルロースエステル系樹脂から構成され」る「第2保護フィルム」であるのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。

(相違点4)
本件発明1は、「第1接着剤層」側の「保護フィルム」は、「第2接着剤層」側の「保護フィルム」「よりも破断応力が小さ」いのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。

(相違点5)
「偏光板」が、本願発明1は、「第2保護フィルム側に配置される粘着剤層をさらに含む」のに対して、引用発明では、そのように特定されていない点。

(3)判断
技術的関連性に鑑み、相違点1?4をまとめて検討する。
上記第4の1(3)で述べた理由と同様の理由により、上記相違点1?4を、まとめて検討する。
引用文献2には、【0014】に「偏光フィルムと位相差フィルムの貼合に用いる粘着剤は、80℃の温度における貯蔵弾性率が0.1MPa以上であり、好ましくは0.15MPa?10MPaである。」ことが記載されているが、引用発明の接着剤層の80℃における貯蔵弾性率を800MPa以上10000MPa未満とすることは記載も示唆もされていない。また、引用文献3には、【0123】、【0124】、表1に、偏光子と保護膜との間の光硬化性接着剤組成物の硬化物の80℃における貯蔵弾性率を1100MPaとすることが記載されているにとどまり、[A]破断応力のより低い(メタ)アクリル樹脂から構成される透明保護フィルムが、80℃における貯蔵弾性率がより小さい第1接着剤層を介して偏光フィルムに貼合されるとともに、[B]破断応力のより高いポリオレフィン系樹脂又はセルロースエステル系樹脂から構成される透明保護フィルムが、80℃における貯蔵弾性率がより大きい第2接着剤層を介して偏光フィルムに貼合される構成とすることは記載されていない。
さらに、引用文献2及び引用文献3には、接着剤層の80℃における貯蔵弾性率と粘着剤層の80℃における貯蔵弾性率との差を100MPa以上とする技術思想は開示がない。
以上総合すると、引用文献2及び3には、上記相違点1?4に係る構成は記載も示唆もされていない。
仮に、上記相違点1?4に係る構成について、示唆があったとしても、引用発明に、それらを組み合わせる動機付けはない。

以上によれば、相違点1?4に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1の構成を全て具備するものであるから、本件発明2?6も、本件発明1と同じ理由により、引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


第7 原査定について
1 原査定の概要
原査定の理由は、概略、[A]理由1(特許法第29条の2)本件出願の請求項1?7に係る発明は、先の出願の日前の他の特許出願であって、先の出願後に公開されたものとみなされた、特願2013-268349号(特開2015-143848号参照)の明細書等に記載された発明と同一であり、しかも、本件出願の発明者が当該他の特許出願に係る上記発明者と同一の者でなく、また本件出願時において、本件出願人が当該他の特許出願の出願人と同一の者でもないので、特許法29条の2の規定により、特許を受けることができない、[B]理由2(特許法29条2項)本件出願の請求項1?7に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2009-258589号公報に記載された発明及び特開2011-17820号公報に記載された技術的事項に基づいて、先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

2 原査定についての判断
上記第4及び第6で述べたように、本件発明1?6は、特願2013-268349号(特開2015-143848号参照)の明細書等に記載された発明と同一であるということができず、また、特開2009-258589号公報に記載された発明及び特開2011-17820号公報に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第8 当合議体が通知した拒絶の理由について
令和3年1月28日付けの拒絶理由通知書で指摘した、拒絶の理由(サポート要件)は、令和3年3月31日に提出された手続補正書による手続補正で解消した。


第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。


 
審決日 2021-06-11 
出願番号 特願2015-256561(P2015-256561)
審決分類 P 1 8・ 161- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 薄井 義明後藤 大思  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 関根 洋之
井亀 諭
発明の名称 偏光板  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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