• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61G
管理番号 1374702
審判番号 不服2020-9027  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-29 
確定日 2021-06-10 
事件の表示 特願2016-142784号「気圧制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 1月25日出願公開、特開2018- 11729号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年7月20日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 2月 1日 :手続補正書の提出
平成31年 3月25日付け:拒絶理由通知書
令和 1年 5月30日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年 9月 6日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
令和 1年12月25日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 3月11日付け:令和1年12月25日の手続補正についての補正の却下の決定、拒絶査定
令和 2年 6月29日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和 2年 6月29日の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和 2年 6月29日の手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
令和 2年 6月29日の手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び明細書を補正するものであって、請求項1について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。
(1)本件補正前(令和 1年 5月30日の手続補正)の請求項1
「【請求項1】
人が存在する閉鎖空間の気圧を制御する気圧制御装置であって、
前記閉鎖空間の気圧の制御を開始するときの前記閉鎖空間の外部気圧を取得し、前記閉鎖空間の気圧が前記取得した外部気圧の1.01?1.03倍になるように制御することを特徴とする気圧制御装置。」

(2)本件補正後の請求項1
「【請求項1】
閉鎖空間に存在する人の交感神経の緊張を抑制する気圧制御装置であって、
前記閉鎖空間の気圧の制御を開始するときの前記閉鎖空間の外部気圧(大気圧)を取得し、前記閉鎖空間の気圧(大気圧)が、前記取得した外部気圧の1.01?1.03倍(ただし、前記外部気圧よりも20?50hPa高い気圧を除く。)の気圧になるように制御することを特徴とする気圧制御装置。」

2 補正の適否
2-1 補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「気圧制御装置」に関し、「人が存在する閉鎖空間の気圧を制御する」ものを、「閉鎖空間に存在する人の交感神経の緊張を抑制する」と限定し、「前記閉鎖空間の気圧の制御を開始するときの前記閉鎖空間の外部気圧」に関し、「(大気圧)」(下線は当審にて付与した。以下、同様。)を追加し、「前記閉鎖空間の気圧」に関し、「(大気圧)」を追加し、「前記閉鎖空間の気圧」が「前記取得した外部気圧の1.01?1.03倍の気圧になるように制御する」ことに関し、「(ただし、前記外部気圧よりも20?50hPa高い気圧を除く。)」として、前記閉鎖空間の気圧の制御範囲を減縮するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。

2-2 独立特許要件
(1)明確性について
ア 本件補正発明には「前記閉鎖空間の外部気圧(大気圧)」、及び「前記閉鎖空間の気圧(大気圧)」との記載があるが、「前記閉鎖空間の外部気圧」と「大気圧」の関係、及び「前記閉鎖空間の気圧」と「大気圧」の関係が、いかなるものであるか明らかではなく、上記記載の技術的な意味が不明であり、明確でない。

イ 本件補正発明には「前記閉鎖空間の外部気圧(大気圧)」、及び「前記閉鎖空間の気圧(大気圧)」との記載があり、両方に「(大気圧)」との記載があるが、両記載が同一のものを特定するのであるか否か、その関係が明らかではない。

ウ 本件補正発明には「前記閉鎖空間の気圧の制御を開始するときの前記閉鎖空間の外部気圧(大気圧)を取得し、前記閉鎖空間の気圧(大気圧)が、前記取得した外部気圧の1.01?1.03倍(ただし、前記外部気圧よりも20?50hPa高い気圧を除く。)の気圧になるように制御する」との記載があるが、「前記取得した外部気圧」は「前記閉鎖空間の気圧の制御を開始するとき」のタイミングにより変わるものであり、「前記取得した外部気圧の1.01?1.03倍」「の気圧」と、「20?50hPa」「前記外部気圧よりも」「高い気圧」とは、気圧を算出する手法が異なるものを同様に扱うものであり、技術的な意味が明確でない。外部気圧が大気圧(例えば、1013hPa)の場合、その外部気圧より50hPa高い1063hPaは、その外部気圧の1.01?1.03倍である1023?1043hPaに含まれないから、1063hPaを除くことは、技術的な意味が明確でない。

エ 本件補正発明には「前記閉鎖空間の気圧(大気圧)が、前記取得した外部気圧の1.01?1.03倍(ただし、前記外部気圧よりも20?50hPa高い気圧を除く。)の気圧になるように制御する」との記載があるが、前記閉鎖空間の気圧を制御することにより、大気圧とは異なる気圧となることから、上記記載の技術的な意味が不明であり、明確でない。

したがって、本件補正発明は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものではなく、特許法第36条第6項の規定を満たさないものである。

(2)進歩性について
(2-1)引用文献の記載事項等
(2-1-1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用文献1として示され、本願の出願日前に頒布された特開平5?311768号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 高断熱、高気密構造の家屋において、断熱を外断熱構造とすると共に、家屋内空間を1気圧以上の高気圧としたことを特徴とする家屋。」

「【0021】48は窓で2重、もしくは3重で気密性のある構造である。49はコンプレッサーでパイプ50を介して外断熱構造4内の空隙のどこにでも空気を圧送するものであり、外気と外断熱構造4内の空間の気圧差を保持するのに役立つものである。圧力差としては20?50ミリバール位高い気圧にし、湿度、露点を上げ、外断熱構造4内の結露を最小限に抑制したものである。
【0022】51は除、加湿機で必要に応じて居住空間2内等の空間の湿度をコントロールするものである。52はコントローラでセンサー27からの情報によって稼動、停止を行うものである。勿論、熱交換型換気扇23、その他のファン等も全て集中的にコントロールするシステムである。53はブザーで危険を伝達するためのものである。」

「【0026】56は2次排出口で図14に示すように熱交換型換気扇23の先端に気密を保持して排気するための構造であり、ほぼ外断熱構造内空間を1060?1100mmbに維持することができるような簡易逆止弁57を設けたものである。その他ファン30は排気口22、パイプ24、25の任意場所に設置することができる。
【0027】
【発明の効果】上述したように本発明に係る家屋によれば、(1)高断熱、高気密構造とし、かつ外気圧より20?100mmb程度高い圧力としたため、高圧下の空気の露点が上がり、浴室、押入、その他空気貯留しやすい場所に結露が殆ど発生しない。(2)気密性を強化した構造は省エネルギーに役立つ。(3)外気より幾分高い圧力としたため、酸素の吸収量が増大し新陳代謝がよく健康増進になる。(4)家屋の所要部位にセンサーを配置し、これをコントローラに接続し、このコントローラで温度、湿度、煙、臭い、空気圧力等を検知し、所定数値にシステム的に制御して安全に、かつ快適に、しかも省エネルギーの家屋とすることができる。等の特徴、効果がある。」

また、引用文献1には、以下の図が示されている。
【図1】


以上のとおり、引用文献1には、高気密構造の家屋の家屋内空間を外気より幾分高い気圧とするシステムに関する技術について開示されており(【特許請求の範囲】【請求項1】)、かかるシステムを実施するための形態について、以下の事項が認定できる。
・【特許請求の範囲】【請求項1】の「高気密構造の家屋において、・・・家屋内空間を1気圧以上の高気圧としたことを特徴とする家屋」との記載、段落【0027】の「外気より幾分高い圧力としたため、・・・健康増進になる。」との記載、及び【図1】を参照すると、健康増進のため、高気密構造の家屋の家屋内空間を外気より幾分高い気圧とするシステムであること。
・段落【0021】の「49はコンプレッサーでパイプ50を介して外断熱構造4内の空隙のどこにでも空気を圧送するものであり、外気と外断熱構造4内の空間の気圧差を保持するの」との記載、段落【0022】の「52はコントローラでセンサー27からの情報によって稼動、停止を行うものである。」との記載、及び段落【0027】の「家屋の所要部位にセンサーを配置し、これをコントローラに接続し、このコントローラで・・・空気圧力等を検知し、所定数値にシステム的に制御し」、「全て集中的にコントロールするシステム」との記載から、空気圧力を検知するセンサー27を家屋の所要部位に配置し、前記センサー27に接続されたコントローラ52により、外気と家屋内空間の気圧差を制御するシステムであること。

以上によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「健康増進のため、高気密構造の家屋の家屋内空間を外気より幾分高い気圧とするシステムであって、
前記家屋の所要部位のセンサー27により空気圧力を検知し、前記センサー27に接続されたコントローラ52により、外気と前記家屋内空間の気圧差を制御する
システム。」

(2-1-2)引用文献5
令和 2年 3月11日付けの補正の却下の決定で引用文献5として示され、本願の出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献(伊藤和弘,日経Gooday”気圧の変化で体調を崩す人がいるのはなぜ? “気象病”から逃れるための5つのコツとは…” ,[online],日本経済新聞社,2016年 4月15日,[2020年3月11日検索],インターネット,URL,https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/14/091100018/041400036/、以下「引用文献5」という。)には、以下の事項が記載されている。

「気圧が低くなると、交感神経が優位になることで、血圧や心拍数が上がる。逆に気圧が高くなると交感神経の活動が抑えられる(下図)。その結果、リラックスして心拍数が減り、痛みや不安などが少なくなる。ちょっとヘンな表現だが、晴れた日に気分がいいのも気のせいではないわけだ。」(第3ページ第10行?第13行)

また、引用文献5には、以下の図が示されている。
(図)高気圧は交感神経の働きを抑える


上記記載から、気圧が高くなると交感神経の緊張が抑制され、図からその際の気圧として、1020hPa弱程度の値とすることが看取れ、この値は大気圧(1013hPa)よりも幾分か高いものであると認められる。

以上によれば、引用文献5には次の事項(以下、「引用文献5に記載された事項」という。)が記載されていると認められる。
「大気圧よりも幾分か高い気圧によって、交感神経の緊張が抑制されること。」

(2-2)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 後者の「高気密構造の家屋の家屋内空間」は、前者の「閉鎖空間」に相当する。したがって、後者の「高気密構造の家屋の家屋内空間を外気より幾分高い気圧とするシステム」は、前者の「閉鎖空間の気圧制御装置」に相当する。

イ 前者の「前記閉鎖空間の気圧(大気圧)が、前記取得した外部気圧の1.01?1.03倍(ただし、前記外部気圧よりも20?50hPa高い気圧を除く。)の気圧になるように制御すること」は、前記閉鎖空間の気圧(大気圧)が前記取得した外部気圧より高い気圧になるように制御することであるから、後者の「高気密構造の家屋の家屋内空間を外気より幾分高い気圧とするシステムであって、前記家屋の所要部位のセンサー27により空気圧力を検知し、前記センサー27に接続されたコントローラ52により、外気と前記家屋内空間の気圧差を制御するシステム」と、前者の「前記閉鎖空間の気圧の制御を開始するときの前記閉鎖空間の外部気圧(大気圧)を取得し、前記閉鎖空間の気圧(大気圧)が、前記取得した外部気圧の1.01?1.03倍(ただし、前記外部気圧よりも20?50hPa高い気圧を除く。)の気圧になるように制御することを特徴とする気圧制御装置」とは、「前記閉鎖空間の気圧を、前記閉鎖空間の気圧が外部気圧より高い気圧となるように制御する気圧制御装置」において共通する。

上記ア、イによれば、本件補正発明と引用発明とは、
「閉鎖空間の気圧制御装置であって、
前記閉鎖空間の気圧を、外部気圧よりも高い気圧になるように制御する
気圧制御装置」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

<相違点1>
本件補正発明の「気圧制御装置」が、「閉鎖空間に存在する人の交感神経の緊張を抑制する」のに対し、引用発明は「健康増進のため」である点。

<相違点2>
本件補正発明が「前記閉鎖空間の気圧の制御を開始するときの前記閉鎖空間の外部気圧(大気圧)を取得」するのに対し、引用発明は外部気圧の取得について明らかではない点

<相違点3>
「前記閉鎖空間の気圧」の「制御」について、本件補正発明が「前記閉鎖空間の気圧(大気圧)が、前記取得した外部気圧の1.01?1.03倍(ただし、前記外部気圧よりも20?50hPa高い気圧を除く。)の気圧になるように」するのに対し、引用発明は「外気と前記家屋内空間の気圧差を」「家屋内空間を外気より幾分高い気圧とする」ものである点。

(2-3)判断
ア 相違点1について
引用文献5に記載された事項に例示されるように(上記(2-1)(2-1-2)を参照。)、大気圧よりも幾分か高い気圧によって、交感神経の緊張が抑制されることは、従来周知の事項であり、引用発明は健康増進のためのものであり、家屋内空間を外気より幾分高い気圧としていることから、引用発明に上記周知の事項を適用することにより、人の交感神経の緊張を抑制するためのものとして機能させ、上記相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。

イ 相違点2について
引用発明は外部気圧の取得について明らかではないが、「家屋内空間を外気より幾分高い気圧とする」ものであり、「前記家屋の所要部位のセンサー27により空気圧力を検知し、前記センサー27に接続されたコントローラ52により、外気と前記家屋内空間の気圧差を制御する」ことから、外部気圧についても何らかの手段により取得していると認められる。また、少なくとも家屋内空間の気圧の制御開始時点では、制御開始時点の外部気圧に基づいて家屋内空間の気圧を制御していると認められる。
したがって、相違点2は実質的な相違点とはいえない。また、仮に、相違点2が実質的な相違点であったとしても、引用発明において、「外気と前記家屋内空間の気圧差を制御する」ためには、外部気圧が必要であり、上記相違点2に係る本件補正発明の構成を想到することは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。

ウ 相違点3について
上記「(1)ア?エ」で述べたように、「前記閉鎖空間の気圧の制御を開始するときの前記閉鎖空間の外部気圧(大気圧)を取得し、前記閉鎖空間の気圧(大気圧)が、前記取得した外部気圧の1.01?1.03倍(ただし、前記外部気圧よりも20?50hPa高い気圧を除く。)の気圧になるように制御する」との記載は明確でないが、仮に「前記閉鎖空間の気圧の制御を開始するときの前記閉鎖空間の外部気圧を取得し、前記閉鎖空間の気圧が、前記取得した外部気圧の1.01?1.03倍(ただし、前記外部気圧よりも20?50hPa高い気圧を除く。)の気圧になるように制御する」ことを意味するものと解して検討すると、前記閉鎖空間の気圧(家屋内空間の気圧)の制御について、引用発明は、「外気と前記家屋内空間の気圧差を」「家屋内空間を外気より幾分高い気圧とする」ものであるから、前記閉鎖空間の気圧(家屋内空間の気圧)について、制御を開始するときの前記閉鎖空間の外部気圧の「1.01?1.03倍(ただし、前記外部気圧よりも20?50hPa高い気圧を除く。)の気圧」になるように制御することが示唆されていると認められる。
また、仮に「前記閉鎖空間の気圧の制御を開始するときの前記閉鎖空間の外部気圧として大気圧を取得し、前記閉鎖空間の気圧が、前記取得した外部気圧の1.01?1.03倍(ただし、前記外部気圧よりも20?50hPa高い気圧を除く。)の気圧になるように制御する」ことを意味するものと解して検討すると、前記閉鎖空間の気圧(家屋内空間の気圧)の制御を開始するときの前記閉鎖空間の外部気圧として大気圧が用いられるとしても、引用文献5に記載された事項に例示されるように(上記(2-1)(2-1-2)を参照。)、大気圧よりも幾分か高い気圧によって、交感神経の緊張が抑制されることは、従来周知の事項であり、引用発明の前記閉鎖空間の気圧(家屋内空間の気圧)について、制御を開始するときの前記閉鎖空間の外部気圧(大気圧)の「1.01?1.03倍(ただし、前記外部気圧よりも20?50hPa高い気圧を除く。)の気圧」になるように制御することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
そして、前記閉鎖空間の気圧(家屋内空間の気圧)の制御を開始するときの前記閉鎖空間の外部気圧の大気圧を1013hPaと仮定して、1013×1.01?1013×1.03hPa(1023?1043hPa)となる気圧の範囲から、1013+20?1013+50hPa(1033?1063hPa)の範囲を除いた気圧を算出し、その気圧の範囲1023?1033hPaとすることについては、引用発明(例えば、外部気圧よりも20mmb(20hPa)程度高い気圧。上記(2-1)(2-1-1)引用文献1段落【0027】を参照。)や、引用文献5に記載された事項(1020hPa弱。上記(2-1)(2-1-2)引用文献5図を参照。)の提示する気圧からみて、臨界的な意義も認められない。

エ 上記ア?ウから、本件補正発明は、引用発明、及び引用文献5に記載された事項に例示される上記周知の事項に基いて、当業者が容易に想到し得るものである。

オ そして、本件補正発明の作用効果も、引用発明、及び引用文献5に記載された事項に例示される上記周知の事項から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別なものとはいえない。
したがって、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定を満たさない。

カ 請求人の主張について
請求人は、審判請求書(6.(6-2)、7.)で、 「本願発明は、上記(A)のとおり「閉鎖空間に存在する人の交感神経の緊張を抑制する気圧制御装置」であるのに対し、引用発明1?4は、このような特殊用途のために使用する装置ではありません。・・・補正後の本願請求項1?13に係る発明は、引用文献1?5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の要件を満たすと思料いたします。」と主張しているが、上記ア?オで述べたとおり、本件補正発明は、引用発明、及び引用文献5に記載された事項に例示される上記周知の事項により、当業者が容易に想到し得るものであり、その作用効果も、引用発明、及び引用文献5に記載された事項に例示される上記周知の事項から当業者が予測し得る範囲のもののであって、格別なものとはいえない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(3)まとめ
上記(1)、(2)のとおり、本件補正発明は明確でなく、また、本件補正発明は引用発明、及び引用文献5に記載された事項に例示される上記周知の事項に基いて当業者が容易に想到し得るものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和 1年 5月30日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 1(1)補正前の請求項1」に記載されたとおりのものである。
なお、令和 1年12月25日付けの手続補正は、令和 2年 3月11日付けの補正の却下の決定により却下されている。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、次の理由1、2を含むものである。

【理由1】本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
【理由2】本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 当審の判断
〔引用文献〕
引用文献1:特開平5?311768号公報
引用文献1は、本願の出願日前に頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由、及び上記「第2 2 2-2(2)(2-1)(2-1-1)」で引用文献1として示された文献である。
引用文献1には、引用発明に加えて、「外気より幾分高い気圧として、20mmb程度高い圧力とする」ことが記載されている(段落【0027】)。

(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。

ア 後者の「高気密構造の家屋の家屋内空間」は、前者の「人が存在する閉鎖空間」に相当する。したがって、後者の「高気密構造の家屋の家屋内空間を外気より幾分高い気圧とするシステム」は、前者の「人が存在する閉鎖空間の気圧を制御する気圧制御装置」に相当する。

イ 前者の「前記閉鎖空間の気圧の制御を開始するときの前記閉鎖空間の外部気圧を取得し、前記閉鎖空間の気圧が前記取得した外部気圧の1.01?1.03倍になるように制御すること」は、前記閉鎖空間の気圧が前記取得した外部気圧より高い気圧になるように制御することであるから、後者の「高気密構造の家屋の家屋内空間を外気より幾分高い気圧とするシステムであって、前記家屋の所要部位のセンサー27により空気圧力を検知し、前記センサー27に接続されたコントローラ52により、外気と前記家屋内空間の気圧差を制御するシステム」と、前者の「前記閉鎖空間の気圧の制御を開始するときの前記閉鎖空間の外部気圧を取得し、前記閉鎖空間の気圧が前記取得した外部気圧の1.01?1.03倍になるように制御することを特徴とする気圧制御装置」とは、「前記閉鎖空間の気圧を、前記閉鎖空間の気圧が外部気圧より高い気圧となるように制御する気圧制御装置」において共通する。

上記ア、イによれば、本願発明と引用発明とは、
「人が存在する閉鎖空間の気圧を制御する気圧制御装置であって、
前記閉鎖空間の気圧を、外部気圧よりも高い気圧になるように制御する
気圧制御装置」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

<相違点4>
本願発明が「前記閉鎖空間の気圧の制御を開始するときの前記閉鎖空間の外部気圧を取得」するのに対し、引用発明は外部気圧の取得について明らかではない点

<相違点5>
「前記閉鎖空間の気圧」の「制御」について、本願発明が「前記閉鎖空間の気圧が、前記取得した外部気圧の1.01?1.03倍の気圧になるように」するのに対し、引用発明は「外気と前記家屋内空間の気圧差を」「家屋内空間を外気より幾分高い気圧とする」ものである点。

(2)判断
ア 相違点4について
引用発明は外部気圧の取得について明らかではないが、「家屋内空間を外気より幾分高い気圧とする」ものであり、「前記家屋の所要部位のセンサー27により空気圧力を検知し、前記センサー27に接続されたコントローラ52により、外気と前記家屋内空間の気圧差を制御する」ことから、外部気圧についても何らかの手段により取得していると認められる。また、少なくとも家屋内空間の気圧の制御開始時点では、制御開始時点の外部気圧に基づいて家屋内空間の気圧を制御していると認められる。
したがって、上記相違点4は実質的な相違点ではない。仮に、上記相違点4が実質的な相違点であったとしても、引用発明において、「外気と前記家屋内空間の気圧差を制御する」ためには、外部気圧が必要であり、上記相違点4に係る本件補正発明の構成を想到することは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。

イ 相違点5について
前記閉鎖空間の気圧(家屋内空間の気圧)の制御について、引用発明は、「外気と前記家屋内空間の気圧差を」「家屋内空間を外気より幾分高い気圧とする」ものであり、前記閉鎖空間の気圧(家屋内空間の気圧)の制御を開始するときの前記閉鎖空間の外部気圧を大気圧(1013hPa)と仮定した場合に、外部気圧よりも20hPa程度高い気圧(1033hPa)とすることは、外部気圧の1.01?1.03倍の気圧の範囲(1023.13?1043.39hPa)を充足するものである。
したがって、上記相違点5は実質的な相違点ではない。仮に、上記相違点5が実質的な相違点であったとしても、引用発明は、「外気と前記家屋内空間の気圧差を」「家屋内空間を外気より幾分高い気圧とする」ものであり、特に「外気」と「幾分高い」という事項に鑑みると、引用発明において、外部気圧を取得し、制御開始時点の外部気圧に基づいて家屋内空間の気圧を制御し、当該家屋内空間の気圧を外部気圧の「1.01?1.03倍の気圧」とすることは、当業者が通常の創作能力を発揮することにより容易になし得たことである。

ウ 上記ア、イから、上記相違点4、5は実質的な相違点ではなく、本願発明は引用文献1に記載された発明(引用発明)である、または、引用文献1に記載された発明(引用発明)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。

エ そして、本願発明の作用効果も、引用発明から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別なものとはいえない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明(引用発明)である、または、引用文献1に記載された発明(引用発明)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、または、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2021-03-30 
結審通知日 2021-04-07 
審決日 2021-04-22 
出願番号 特願2016-142784(P2016-142784)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (A61G)
P 1 8・ 121- WZ (A61G)
P 1 8・ 113- WZ (A61G)
P 1 8・ 537- WZ (A61G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 一ノ瀬 薫永石 哲也  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 出口 昌哉
須賀 仁美
発明の名称 気圧制御装置  
代理人 熊崎 陽一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ