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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G03F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G03F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03F
管理番号 1374703
審判番号 不服2020-9062  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-30 
確定日 2021-06-10 
事件の表示 特願2015-71551「ドライエッチング用感光性樹脂組成物,及びドライエッチング用レジストパターンの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月10日出願公開,特開2016-191813〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2015-71551号(以下「本件出願」という。)は,平成27年3月31日を出願日とする特許出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成30年10月31日付け:拒絶理由通知書
平成30年12月20日付け:意見書
平成30年12月20日付け:手続補正書
平成31年 4月 1日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 5月20日付け:意見書
令和 元年 5月20日付け:手続補正書
令和 元年 8月 1日付け:拒絶理由通知書
令和 元年10月 7日付け:意見書
令和 2年 3月27日付け:拒絶査定
令和 2年 6月30日付け:審判請求書
令和 2年 6月30日付け:手続補正書
令和 2年10月15日付け:上申書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年6月30日にした手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の(令和元年5月20日にした手続補正後の)特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。
「 (A)水溶性樹脂と,(B)光重合性モノマーと,(C)光重合開始剤と,シランカップリング剤とを含有し,無機物を含有しないドライエッチング用感光性樹脂組成物。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。なお,下線は補正箇所を示す。
「 (A)水溶性樹脂と,(B)光重合性モノマーと,(C)光重合開始剤と,シランカップリング剤とを含有し,無機物を含有しないドライエッチング用感光性樹脂組成物であって,前記感光性樹脂組成物は,基板加工方法に用いられるドライエッチング用感光性樹脂組成物であり,前記基板加工方法は,基板のダイシングに用いられる基板加工方法である感光性樹脂組成物。」

(3) 本件補正の内容
本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明の,発明を特定するために必要な事項である「ドライエッチング用」という用途限定を,「基板加工方法に用いられるドライエッチング用」であって「前記基板加工方法は,基板のダイシングに用いられる基板加工方法である」ものに,さらに用途限定するものである。また,この補正は,本件出願の出願当初の明細書の【0102】の記載に基づくものである。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第3項の規定に適合するものであり,また,同条5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。

そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が,同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

2 独立特許要件についての判断(新規性及び進歩性)
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1(特開平11-202486号公報)は,本件出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 有機高分子化合物,重合性モノマー,光重合開始剤を含有する感光性組成物において,前記有機高分子化合物として,N,N-2置換(メタ)アクリルアミド,またはN-1置換(メタ)アクリルアミドを構成成分とし且つ水系現像液で現像可能な高分子化合物,及びセルロース系水溶性高分子の群から選択される少なくとも一種を主成分として用い,前記重合性モノマーとして,エポキシ化合物の(メタ)アクリル酸付加物で水可溶性のものを必須成分として用いることを特徴とする感光性組成物。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,水系現像型の感光性組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】重合型の感光性組成物は,高感度であるため,さまざまな分野で利用されている。その中でも水現像可能なものは作業環境上好ましい。また,スルホン酸,カルボン酸,もしくはその塩等を含むものは,基材,充填材他と化学反応を起こす場合があり,適用範囲が限定されるため,非イオン性(ノニオン性)の感光性組成物がより望ましい。
…省略…
【0003】
【発明が解決しようとする課題】これらの例では,感度,解像度が不十分であり,分解残渣が多いなど,実用範囲が限定されている。また,PVA系の高分子化合物を成分とするものは,保存安定性に問題がある。
【0004】本発明はこのような事情に鑑み,広い適応性を持ち,保存安定性に優れ,かつ高感度,高解像度の感光性組成物を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上述した課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果,N-置換アクリルアミド系およびN-置換メタアクリルアミド系(両者を,N-置換(メタ)アクリルアミド系と標記する),またはセルロース系で,水系現像液による現像が可能な高分子化合物と,重合性モノマーとして,エポキシ化合物の(メタ)アクリル酸付加物で水可溶性の物とを組み合わせることにより,保存安定性に優れ,高感度,高解像度の感光性組成物を得ることを知見し,本発明に至った。
【0006】本発明に用いることができる高分子化合物は,基本的には,水系現像液で現像可能なものであり,N,N-2置換(メタ)アクリルアミド,またはN-1置換(メタ)アクリルアミドを構成成分とする高分子化合物,またはセルロース系高分子である。具体的には,例えば,ヒドロキシエチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系高分子化合物;N-メチルアクリルアミド,N-エチルアクリルアミド,N-プロピルアクリルアミド,N-イソプロピルアクリルアミド,ダイアセトンアクリルアミド,アクリロイルモルホリン,N-メチルメタクリルアミド,N-エチルメタクリルアミド,N,N-ジメチルアクリルアミド,N,N-ジエチルアクリルアミド,N,N-ジメチルメタクリルアミド,N,N-ジエチルメタクリルアミド等,N-置換(メタ)アクリルアミド類の単独重合体,共重合体,およびそれらの混合物を挙げることができる。
…省略…
【0013】本発明で重合性モノマーとして用いられるエポキシ化合物の(メタ)アクリル酸付加物は,エポキシ樹脂からアクリル酸またはメタクリル酸を,常法に従って付加することにより合成することができる。
…省略…
【0017】本発明に用いることができる光重合開始剤としては,開裂型,水素引き抜き型等,公知のもの挙げることができる。
…省略…
【0019】本発明の組成物には塗布性調整のため,溶剤を用いることが好ましい。本発明の組成物を溶解する溶剤であれば,特に制限なく使用できるが,水溶性有機溶媒,水,及びこれらの混合物が好ましい。
【0020】本発明の感光性組成物には,他の成分として,重合禁止剤,可塑剤,顔料,染料,消泡剤,カップリング剤等,従来公知のものを必要に応じて配合できる。
【0021】本発明の感光性組成物は,溶液,またはペーストとして塗布される。塗布方法は特に制限されないが,スクリーン印刷,カーテンコート,ブレードコート,スピンコート,スプレーコート,ディップコート,スリットコート等が適用される。塗布された溶液,またはペーストは,乾燥工程を経た後,所定のマスクを介し,UV,もしくは電子線で露光が行われる。露光した塗膜を湿式で現像し,パターンを形成する。
【0022】現像方法は,スプレー式,パドル式,浸漬式等,いずれも可能であるが,残渣の少ないスプレー式が好ましい。必要に応じて,超音波等を照射することもできる。
【0023】現像液は中性の水が好ましいが,弱酸性,弱アルカリ性であってもかまわない。現像性補助の目的で有機溶剤,界面活性剤等を添加することも可能である。以下に本発明の感光性組成物における各成分の好ましい配合比を述べるが,この配合比は各成分の種類,使用目的によって異なるのであくまで目安であり,本発明の範囲を制限するものではない。
【0024】重合性モノマーの添加量は,高分子化合物100重量部に対し,1?100重量部,さらに好ましくは,10?60重量部である。重合性モノマーが少なすぎれば,光硬化性が低下し,画像形成が出来ない場合がある。逆に多すぎる場合には,塗膜に粘着性が生じ,接触露光の場合には好ましくない。
【0025】光重合開始剤の添加量は,適用する開始剤の種類,及び目的により添加される顔料,着色剤に大きく影響されるため,一概には言えないが,一般には0.1?50重量部である。」

ウ 「【0026】
【実施例】以下に,本発明の実施例を説明するが,使用目的,成分の種類により,組成,配合は異なるため,本発明の範囲を限定するものではない。
【0027】(高分子化合物の合成)N,N-ジメチルアクリルアミド 94g,メチルメタクリレート 60g,AIBN 1.25gを良く混合した後,窒素気流下,70℃に保持した2-(2-メトキシエトキシ)エタノール 190g中に1時間かけて滴下した。そのまま70℃で3時間保持し,透明な粘凋性高分子溶液(A)を得た。
【0028】(実施例1)下記の組成に従い,混合,溶解し,感光性組成物を得た。
【0029】
高分子溶液 (A) 100 重量部
エチレングリコールジグリシジルエーテルジメタクリレート
(ナガセ化成工業(株)製 DM811)
20 重量部
光重合開始剤(CIBA-GEIGY社製 IRGACURE-369)
0.1 重量部
シランカップリング剤 (信越化学(株)製 KBM-503)
8.0 重量部
ヒドロキノンモノメチルエーテル 0.05 重量部
【0030】次に,この溶液をブレードコーターで,ガラス基板上に全面塗布,80℃のクリーンオーブンで30分間乾燥した後,室温まで冷却,所定のパターンを備えたマスクを介し,照度5.0mW/cm^(2)の超高圧水銀灯で5mj/cm^(2)の紫外線を照射した。続いてイオン交換水で30秒間スプレー現像し,目的のパターンを得た。パターンの膜厚は10μm,解像度は4μmであった。
…省略…
【0040】
【発明の効果】以上に説明したように,本発明の感光性組成物は高感度,高解像度であり,適応範囲の広い有用なものである。」

(2) 引用発明
ア 引用発明A
引用文献1の請求項1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明A」という。)。
「 有機高分子化合物,重合性モノマー,光重合開始剤を含有する感光性組成物において,
有機高分子化合物として,N,N-2置換(メタ)アクリルアミド又はN-1置換(メタ)アクリルアミドを構成成分とし水系現像液で現像可能な高分子化合物,及びセルロース系水溶性高分子の群から選択される少なくとも一種を主成分として用い,
重合性モノマーとして,エポキシ化合物の(メタ)アクリル酸付加物で水可溶性のものを必須成分として用いた,
感光性組成物。」

イ 引用発明B
引用文献1の【0027】?【0029】には,実施例1として,次の「感光性組成物」の発明(以下「引用発明B」という。)が記載されている。なお,「AIBN」は「アゾビスイソブチロニトリル」に書き改めた。
「 高分子溶液(A)を100重量部,エチレングリコールジグリシジルエーテルジメタクリレートを20重量部,光重合開始剤(IRGACURE-369)を0.1重量部,シランカップリング剤(KBM-503)を8.0重量部及びヒドロキノンモノメチルエーテル0.05重量部を混合,溶解して得た感光性組成物であって,
高分子溶液(A)は,N,N-ジメチルアクリルアミドを94g,メチルメタクリレートを60g及びアゾビスイソブチロニトリルを1.25gを良く混合した後,窒素気流下,70℃に保持した2-(2-メトキシエトキシ)エタノール190g中に1時間かけて滴下し,そのまま70℃で3時間保持して得た,透明な粘凋性高分子溶液(A)である,
感光性組成物。」

(3) 対比
本件補正後発明と引用発明Aを対比する。
ア 水溶性樹脂
引用発明Aの「感光性組成物」は,「有機高分子化合物として,N,N-2置換(メタ)アクリルアミド又はN-1置換(メタ)アクリルアミドを構成成分とし水系現像液で現像可能な高分子化合物,及びセルロース系水溶性高分子の群から選択される少なくとも一種を主成分として用い」たものである。
上記構成からみて,引用発明Aの「感光性組成物」に含まれる「有機高分子化合物」は,水溶性の樹脂である。
そうしてみると,引用発明Aの「有機高分子化合物」は,本件補正後発明の「(A)水溶性樹脂」に相当する。

イ 光重合性モノマー
引用発明Aの「感光性組成物」は,「有機高分子化合物,重合性モノマー,光重合開始剤を含有する」。
上記構成及び技術常識からみて,引用発明Aの「重合性モノマー」は,「光重合開始剤」の作用により重合するモノマーである。
そうしてみると,引用発明Aの「重合性モノマー」は,本件補正後発明の「(B)光重合性モノマー」に相当する。

ウ 光重合開始剤
前記イで述べた構成からみて,引用発明Aの「光重合開始剤」は,本件補正後発明の「(C)光重合開始剤」に相当する。

エ ドライエッチング用感光性樹脂組成物
前記イで述べた構成からみて,引用発明Aの「感光性組成物」と本件補正後発明の「ドライエッチング用感光性樹脂組成物」は,「(A)水溶性樹脂と,(B)光重合性モノマーと,(C)光重合開始剤と」「を含有」する「感光性樹脂組成物」の点で共通する。

(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明Aは,次の構成で一致する。
「(A)水溶性樹脂と,(B)光重合性モノマーと,(C)光重合開始剤とを含有する感光性樹脂組成物。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明Aは,以下の点で相違する。
(相違点1)
「感光性樹脂組成物」が,本件補正後発明は,「シランカップリング剤とを含有し,無機物を含有しない」ものであるのに対して,引用発明Aは,このように特定されたものではない点。

(相違点2)
「感光性樹脂組成物」が,本件補正後発明は,「基板加工方法に用いられるドライエッチング用感光性樹脂組成物であり,前記基板加工方法は,基板のダイシングに用いられる基板加工方法である」のに対して,引用発明Aは,このように特定されたものではない点。

(5) 判断
ア 相違点1について
引用文献1の【0020】には,引用発明Aの「感光性組成物」に,「他の成分として,重合禁止剤,可塑剤,顔料,染料,消泡剤,カップリング剤等,従来公知のものを必要に応じて配合できる。」と記載されている。また,当業者ならば,「カップリング剤」の典型例として,シランカップリング剤を心得ており,実施例1(【0029】)においても「シランカップリング剤」として「KBM-503」,すなわち「3-(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシラン」が用いられている。他方,引用文献1の【0020】には,無機物は具体的に例示されておらず,また,無機物の可能性がある「顔料」も,永久膜等の特定用途で用いられるにとどまる。
以上勘案すると,引用発明Aの「感光性組成物」を相違点1に係る本件補正後発明の構成を具備したものとすることは,引用文献1の記載が示唆する範囲内の事項である。

イ 相違点2について
引用文献1の【0021】の記載からは,引用発明Aの「感光性組成物」は,「溶液,またはペーストとして塗布され」,「乾燥工程を経た後」,「露光が行われ」,「湿式で現像」され,「パターンを形成する」ことに用いられることが理解される。また,引用文献1の【0040】には,「本発明の感光性組成物は高感度,高解像度であり,適応範囲の広い有用なものである。」と記載されているから,引用発明Aの「感光性組成物」は,上記「パターン」をマスクとした,種々の加工に用いられるものと理解される。
ところで,本件出願の出願前の当業者ならば,「ドライエッチングにより基板のダイシングを行う技術」を,周知技術として心得ている。
すなわち,サムコ(株)開発部,「多種多様な材料のプラズマダイシング」,[online],2014年10月発行,サムコ株式会社,[令和3年2月9日検索],インターネット<URL:https://www.samco.co.jp/products/document/uploads/87_technical-report.pdf>(以下「周知例1」という。)には,「Siウエハーのプラズマダイシングは,F系ガスによる化学的エッチングであるため,ブレードダイシングのように機械的な接触がなく,チッピングやクラックが発生しない。」(左欄2?4行)と記載されている。また,特表2014-523113号公報(以下「周知例2」という。)の【0039】及び【0040】,特開2006-49403号公報(以下「周知例3」という。)の【0055】及び【0056】,特開2012-124211号公報(以下「周知例4」という。)の【0035】?【0038】,特開2014-29975号公報(以下「周知例5」という。)の【0391】及び【0392】にも,上記周知技術に該当する技術が開示されている。そして,この周知技術に用いられるエッチングガスとしては,フッ素系のガスが想定され,基板としては,Siが想定されるから,主に「有機高分子化合物」及び「重合性モノマー」からなる引用発明Aの「感光性組成物」は,「ドライエッチングにより基板のダイシングを行う」という用途に特に適したものと理解される。
そうしてみると,相違点2は,実質的な相違点ではない。あるいは,「感光性組成物」という物としては,引用文献1の【0040】の記載が示唆する範囲のものである。仮にそうでないとしても,上記周知技術を考慮した当業者が,材料の取捨選択により想到し得る特性である。

(6) 発明の効果について
本件補正後発明の効果について,本件出願の明細書の【0009】には,「本発明によれば,アルカリ及び有機溶剤を使用しなくても現像及び剥離が可能であり,かつ,剥離液及びアッシングのいずれによっても良好に剥離することのできるレジストパターンを与えるドライエッチング用感光性樹脂組成物」「を提供することができる。」と記載されている。
しかしながら,このような効果は,引用発明Aが具備する効果であるか,前記(5)イで述べたとおり容易推考する当業者が期待する効果にとどまる。

(7) 請求人の主張について
請求人は,「ドライエッチング用」という用途に特に適した物といえる程度でなければ,用途限定発明が開示されているとはいえないと主張する。
しかしながら,本件出願の明細書を参照すると,【0012】には,「(A)水溶性樹脂としては,特に限定されず,従来公知の水溶性樹脂を用いることができる。」と記載され,【0016】には,「(B)光重合性モノマーとしては,特に限定されず,従来公知の光重合性モノマーを用いることができる。」と記載され,【0020】には,「(C)光重合開始剤としては,特に限定されず,従来公知の光重合開始剤を用いることができる。」と記載されている。また,シランカップリング剤及び無機物については【0091】において「<その他の成分>」として言及されるにとどまる。
そうしてみると,本件補正後発明の「感光性樹脂組成物」は,樹脂が水溶性であることを除いては,通常の感光性樹脂組成物と特段の差異がない幅広いものと理解されるから,請求人が主張する「特に適した」とされる程度も,引用発明Aの「感光性組成物」を含む程度にまで幅広いものと理解するのが自然である。
なお,仮に,通常の感光性樹脂組成物との相違点である,水溶性樹脂の具体的な材料に着目して検討しても,本件出願の明細書の【0013】に記載されたポリアクリルアミドや,特に好ましいとされるセルロース系重合体は,引用発明Aの「有機高分子化合物」の主成分に他ならない。また,実施例の感光性樹脂組成物(本件出願の明細書の【0106】?【0108】)の樹脂(ヒドロキシプロピルセルロース)についてみても,引用文献1の【0006】に挙げられた選択肢にすぎない。また,「(B)光重合性モノマー」に着目して検討しても,本件出願の明細書の【0018】に記載されたエチレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート,ジエチレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレートは,引用文献1の【0014】において言及されたものにすぎない。加えて,本件補正後発明の実施例(【0107】)において用いられているDPHAも,引用文献1の【0016】に挙げられた選択肢にすぎない。

請求人は,上申書において,原査定の理由で挙げられた3つの引用文献に記載された発明を除くことを目的とした補正案を示している。しかしながら,このような除くクレームによる補正案は,既に行われた先行技術文献調査の結果を有効に活用して迅速に審理を行うことを妨げるものであり,4つめの引用文献の有無について新たな先行技術調査が必要となるものであるから,審理の対象外とするのが妥当である。

以上のとおりであるから,請求人の主張は,採用できない。

(8) 引用発明Bについて
引用発明Aに替えて,引用発明Bに基づいて検討しても,同様である。
あるいは,引用発明Bとの関係においては,前記(4)イで述べた相違点1は相違点とはならないから,本件補正後発明は,引用文献1に記載された発明である。

(9) 小括
本件補正後発明は,引用文献1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許出願の際独立して特許を受けることができない。また,本件補正後発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 独立特許要件についての判断(明確性)
本件補正後発明は,「前記感光性樹脂組成物は,基板加工方法に用いられるドライエッチング用感光性樹脂組成物であり,前記基板加工方法は,基板のダイシングに用いられる基板加工方法である」という構成を具備する。
そうしてみると,本件補正後発明の「感光性樹脂組成物」は,このような用途に特に適したものと理解される可能性がある。
しかしながら,この構成に関して,本件出願の明細書には,【0102】に「上記ドライエッチング工程において,上記基板をドライエッチングして小片に分割してもよい。このように,本発明に係る基板加工方法を用いれば,Si基板等の基板をダイシングすることができる。従来の物理的なダイシング方法と異なり,より少ないダメージで基板のダイシングを行うことができる。」と記載されているにとどまる。そして,前記(7)で挙げた本件出願の明細書の記載を考慮すると,本件補正後発明の「感光性樹脂組成物」は,樹脂が水溶性であることを除いては,通常の感光性樹脂組成物と特段の差異がない幅広いものと理解され,物としての「感光性樹脂組成物」のいかなる構成が,上記用途との関係において特に適したものなのかは,不明であり,この点において,本件補正後発明は,明確であるということができない。
そうしてみると,本件補正後の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしておらず,本件補正後発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 補正の却下の決定のむすび
本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,前記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり,本件補正は却下されたので,本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,前記「第2」[理由]1(1)に記載された事項によって特定されるとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,[A]本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1(特開平11-202486号公報)に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない,[B]本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,という理由を含むものである。

3 引用文献の記載及び引用発明
引用文献1の記載並びに引用発明A及び引用発明Bは,前記「第2」[理由]2(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明から,前記「第2」[理由]1(3)で述べた限定を除いたものである。また,本願発明の構成を全て具備し,これにさらに限定を付したものに相当する本件補正後発明は,前記「第2」[理由]2(3)?(9)で述べたとおり,引用文献1に記載された発明であるか,引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用文献1に記載された発明であるか,引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条1項3号に該当し,また,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-03-31 
結審通知日 2021-04-06 
審決日 2021-04-23 
出願番号 特願2015-71551(P2015-71551)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03F)
P 1 8・ 113- Z (G03F)
P 1 8・ 537- Z (G03F)
P 1 8・ 575- Z (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 外川 敬之  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 河原 正
樋口 信宏
発明の名称 ドライエッチング用感光性樹脂組成物、及びドライエッチング用レジストパターンの製造方法  
代理人 正林 真之  

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