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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01D 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01D 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01D 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01D |
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管理番号 | 1374733 |
審判番号 | 不服2019-14881 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-11-06 |
確定日 | 2021-06-08 |
事件の表示 | 特願2017-562631「ガスタービンエンジンにおいて使用可能なタービン翼用の取付けシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月8日国際公開、WO2016/195656、平成30年8月2日国内公表、特表2018-521260〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 この出願(以下、「本願」という。)は、2015年(平成27年)6月2日を国際出願日とする出願であって、平成30年2月1日に明細書、要約書及び図面が添付された翻訳文提出書並びに特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成30年12月13日付けで拒絶理由(発送日:平成31年1月7日)が通知され、その指定期間内である平成31年4月5に意見書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、令和元年6月28日付けで拒絶査定(発送日:令和元年7月8日)がされ、これに対し、令和元年11月6日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、令和2年2月26日に上申書が提出され、当審において令和2年7月9日付けで拒絶理由(発送日:令和2年7月16日)が通知され、その指定期間内である令和2年10月16日に意見書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。 第2.本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和2年10月16日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本願発明は、以下のとおりである。 タービンエンジン(28)のタービン翼(12)用の取付けシステム(10)において、 前記タービン翼(12)をタービンエンジン(28)内に支持するように構成された少なくとも1つの根元部(14)を備え、 前記少なくとも1つの根元部(14)は、前記タービンエンジン(28)の中心線(26)と平行にされた軸線(24)にほぼ沿って延び、かつ、該少なくとも1つの根元部(14)の第1の側(34)から延びる、第1の側の軸方向に延びる歯(32)を有し、 前記第1の側の軸方向に延びる歯(32)の外側支持面(36)は、前記少なくとも1つの根元部(14)の半径方向軸線(30)に関して第1の鋭角(37)で延びており、 前記第1の側の軸方向に延びる歯(32)の外縁(22)は、前記軸線(30)の周りに湾曲しており、これにより、前記湾曲した外縁(22)は、前記タービンエンジン(28)の前記中心線(26)に対して直交するように観察され、前記第1の側の軸方向に延びる歯(32)の前記湾曲した外縁(22)は、支持ディスク(20)に対する、前記少なくとも1つの根元部(14)に取り付けられた前記タービン翼(12)の移動を実質的に低減し、 前記第1の側の軸方向に延びる歯(32)の前記湾曲した外縁(22)の上流端部(40)と、前記湾曲した外縁(22)の横方向の高い箇所(42)との間の、前記タービンエンジン(28)の前記中心線(26)に対して直交する方向で測定される直線距離(38)が、前記第1の側の軸方向に延びる歯(32)の半径方向内面(46)と、前記支持ディスク(20)の最も近い面(48)との間で測定される歯間隙寸法(44)よりも大きく、 前記湾曲した外縁(22)の前記横方向の高い箇所(42)は、前記湾曲した外縁(22)の幅を二等分し、 前記直線距離(38)は、 【数1】 として計算され、 ここで、Hは前記直線距離(38)であり、 Rは、前記湾曲した外縁(22)の半径であり、 Wは、前記湾曲した外縁(22)の幅である、 ことを特徴とする、タービンエンジン(28)のタービン翼(12)用の取付けシステム(10)。 第3.当審において通知した拒絶の理由2及び3について 当審において令和2年7月9日付けで通知した拒絶の理由2及び3の概要は以下のとおりである。 理由2.(実施可能要件(委任省令)違反) 本願は、明細書の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 理由3.(進歩性要件違反) 本願の請求項1ないし9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) 《引用文献等一覧》 1.特開平4-259601号公報 2.特開2008-95667号公報 第4.当審の判断 1.理由2(実施可能要件(委任省令)違反)について 本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)で定めるところにより、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならないとされている。 しかしながら、本願発明の「前記第1の側の軸方向に延びる歯(32)の前記湾曲した外縁(22)の上流端部(40)と、前記湾曲した外縁(22)の横方向の高い箇所(42)との間の、前記タービンエンジン(28)の前記中心線(26)に対して直交する方向で測定される直線距離(38)が、前記第1の側の軸方向に延びる歯(32)の半径方向内面(46)と、前記支持ディスク(20)の最も近い面(48)との間で測定される歯間隙寸法(44)よりも大きく、 前記湾曲した外縁(22)の前記横方向の高い箇所(42)は、前記湾曲した外縁(22)の幅を二等分し、 前記直線距離(38)は、 【数1】 として計算され、 ここで、Hは前記直線距離(38)であり、 Rは、前記湾曲した外縁(22)の半径であり、 Wは、前記湾曲した外縁(22)の幅である」なる事項に関して、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0006】の「第1の側の第1の軸方向に延びる歯の湾曲した横方向に延びる外縁の上流端部と、湾曲した横方向に延びる外縁の横方向の高い箇所との間の、タービンエンジンの中心線に対して直交する方向で測定される直線距離は、タービン翼の周方向揺動または移動を防止するために、第1の側の第1の軸方向に延びる歯と、支持ディスクとの間で測定される歯間隙寸法よりも大きくてもよい。」との事項において、前記「直線距離(38)」が「歯間隙寸法(44)」より大きく、「前記湾曲した外縁(22)の前記横方向の高い箇所(42)は、前記湾曲した外縁(22)の幅を二等分し」、「前記直線距離(38)」が上記【数1】の数式で計算されたものであることが、「タービン翼の周方向揺動または移動を防止」することに、どのように貢献するのか等について発明の詳細な説明の記載から理解することができないから、本願発明における上記事項の技術上の意義が不明である。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)で定めるところにより記載されたものとはいえず、当業者が本願発明を正確に理解しその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 なお、請求人は、令和2年10月16日付け意見書で「『直線距離(38)』が、『歯間隙寸法(44)』よりも大きいことにより、使用中、ロータ(16)が回転しているときに、タービン翼(12)の根元部(14)が空間内で動くことを阻止されるため、タービン翼(12)の揺動または移動を防止されます。むしろ、この「直線距離(38)」が、「歯間隙寸法(44)」よりも小さくなると、ロータ(16)が回転している間にも、タービン翼(12)は空間内を動いてしまいます。したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願の新請求項1に係る発明を正確に理解しその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているといえます。したがって、理由2は解消するものと思料いたします。」と主張している。 しかし、『歯間隙寸法(44)』の大きさが、使用中、ロータ(16)が回転しているときに、タービン翼(12)の根元部(14)が空間内で動くことに関与することは技術的に明らかであるとしても、「『直線距離(38)』が、『歯間隙寸法(44)』よりも大きい」と何故「使用中、ロータ(16)が回転しているときに、タービン翼(12)の根元部(14)が空間内で動くことを阻止される」のかについて、本願明細書の発明の詳細な説明には記載されておらず、上記意見書においても説明されていない。 また、「直線距離が、歯間隙寸法よりも大きいことにより、使用中、ロータが回転しているときに、タービン翼の根元部が空間内で動くことを阻止される」ことが、本願出願時点での技術常識であったことを認めるに足る証拠もない。 したがって、請求人の主張は当を得たものではなく、採用できない。 2.理由3(進歩性要件違反)について (1)引用文献の記載事項及び引用発明 ア.引用文献1の記載事項及び引用発明 当審の拒絶の理由に引用した引用文献1である特開平4-259601号公報には、「タービン動翼植込構造」の発明に関して、図面と共に以下の事項が記載されている(下線は当審が付与した。)。 (ア)「【0010】図3は、クリスマス形植込構造を有する従来のタービン動翼植込構造を示すもので、図中、符号1はクリスマス形の動翼植込部2を有する動翼であり、この動翼1は、タービンロータ3の外周に形成したロータ植込部4に、動翼植込部2を介して装着されている。 【0011】図3に示すタービン植込構造は、翼幅方向に円弧状をなしているが、翼形や翼のサイズに応じ、直線形の形状が選定されることもあり、比較的サイズの小さな翼では、直線形が多用されている。また、後に詳述する各植込部2,4のフックの段数あるいはその形状についても、動翼1の種類に応じて最適な設計がなされている。 【0012】図4は、前記両植込部2,4の詳細を示すもので、動翼植込部2には、その一部に符号5,6を付して示すように、複数の動翼側フックが設けられ、またロータ植込部4には、その一部に符号7,8を付して示すように、複数のロータ側フックが設けられている。そして、動翼1は、図4に示すように、タービンロータ3の径方向外側に押し上げられ、動翼側フック5,6とロータ側フック7,8とが接触した状態となっており、この状態は、ロータ3の高速回転時はもとより、ターニング時(毎分6回転以下の非常に穏やかな回転)および停止時にも維持されるようになっている。 【0013】すなわち、タービンロータ3の高速回転時には、動翼1に作用する遠心力により、前記両フック5,6および7,8が接触するとともに、ターニング時および停止時には、図示しない押上げばね等の力により、動翼1がタービンロータ3の径方向外側に押圧されるようになっている。そして、これにより、動翼1のがた付きを防止できるようになっている。 【0014】一方、動翼プラットホーム9とロータ植込先端部10との間には、図4に示すように、径方向の間隙11が設けられており、また動翼側フック5,6とロータ側フック7,8との間には、間隙12が設けられている。そして、これらの間隙11,12は、植込部2,4の加工誤差や組立性を考慮して、適正な値に設定されるようになっている。」 (イ)「【図3】 」 (ウ)「【図4】 」 (エ)段落【0011】の「図3に示すタービン植込構造は、翼幅方向に円弧状をなしているが」との記載及び【図3】の図示内容から、動翼側フック5、6の外縁は、動翼1の翼幅方向に円弧状をなしていることが看取され、また、【図4】の図示内容から、動翼側フック5、6は、動翼植込部2の一方の側のある方向に延びるものであり、前記動翼側フック5、6のロータ側フック7、8との接触面は、右肩上がりで傾いていることが看取される。 以上を踏まえると、上記引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 《引用発明》 「動翼1が、タービンロータ3の外周に形成したロータ植込部4に、動翼植込部2を介して装着され、 前記動翼植込部2には、その一方の側のある方向に延びる複数の動翼側フック5、6が設けられ、 前記動翼側フック5、6のロータ側フック7、8との接触面は、右肩上がりで傾いており、 動翼側フック5、6の外縁は、動翼1の翼幅方向に円弧状をなしている、 クリスマス形のタービン動翼植込構造。」 イ.引用文献2の記載事項 当審の拒絶の理由に引用した引用文献2である特開2008-95667号公報には、「タービン動翼の組込方法、タービン動翼、及び該タービン動翼を有するタービン」の発明に関して、図面と共に以下の事項が記載されている。 (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、タービン動翼の組込方法、タービン動翼、及び該タービン動翼を有するタービンに係り、特にタービン動翼体を狭いピッチで組み込むためのタービン動翼の組込方法、タービン動翼、及び該タービン動翼を有するタービンに関する。 【背景技術】 【0002】 従来より、原子力や火力等により得られる熱エネルギーや、流体の圧力によるエネルギーを回転運動のエネルギーに変え、機械的エネルギーに変換するための手法としてタービンが用いられている。タービンは、タービン動翼体がタービンロータ(軸)の円周方向に円弧状に組み合わされ、例えば上述の流体の圧力等を利用してタービン動翼を回転させることで、機械的エネルギーに変換している。 【0003】 このタービン動翼は、例えばタービンディスクに設けられた組み込み溝部に動翼体の根元に設けられた組み込み部を挿入することにより組み込まれ固定されている。なお、上述のタービン動翼体のタービンディスクへの組み込み手法は、一般にアクシャルエントリー方式と呼ばれている。 【0004】 なお、従来では、タービン動翼の設置に関し、出力効率や運転中に発生する振動に対応できるように動翼組込部に改良を加えた技術が提案されている(例えば、特許文献1、2等参照。)。 【0005】 ここで、従来のタービン動翼体の構造例について、図を用いて説明する。図1は、従来のタービン動翼体の構造を説明するための一例の図である。図1(a)に示すようにタービン動翼体10は、翼部11と、プラットホーム12と、翼根部13とを有するよう構成されている。タービン動翼体10は、プラットホーム12により翼部11と翼根部13とを支持している。なお、図1に示すプラットホームは、具体的には矩形形状のプラットホーム12-aであり、また図1に示す翼根部は矩形形状のプラットホーム12-aに対応させた形状からなる翼根部13-aである。 【0006】 タービンディスクの円周方向に組み込まれるタービン動翼体10には、上述したような流体の圧力等から得られるエネルギーを効率的に回転運動のエネルギーに変えるため、例えば円弧(湾曲)を有する所定形状の翼部11を有している。また、翼根部13-aには、円弧状のタービンディスク(ディスク)14に設けられる図1(b)に示すような溝部15に対応したツリー形状の段部(凹凸部)を有する。 【0007】 また、タービン動翼体10をタービンディスク14に組み込む際には、例えば図1(c)に示すようにタービンの軸方向に平行にタービン動翼体10-1?10-3等を1枚毎にスライドさせて溝部15に翼根部13を嵌め込まれるように挿入することで、タービンディスク14の外周上にタービン動翼体10を組み込んでいる。」 (イ)「【0008】 ところで、タービンの出力効率を向上させるために、少ない面積に多くのタービン動翼体を設置させる必要がある場合がある。その場合、狭いピッチでタービン動翼体を組み込まなければならず、特に翼部の形状に対応させた組み込み方法が必要となる。 【0009】 ここで、図2は、従来のタービン動翼の課題を説明するための図である。しかしながら、図2(a)に示すように、例えばタービン動翼体10の翼部11-2の両端を結んだ直線16が、隣接する翼部11-3の背面を通るような構造を性能上の要求等から取らざるを得ない場合には対応することができず、上述した図1(a)に示す矩形形状のプラットホーム12-aは翼部11に対応させ、ある程度の面積を有する必要が生じてしまう。 【0010】 また、図2(b)に示すように、例えばプラットホーム12、及び翼根部13の形状を翼部11の形状に対応させて円弧状にし(図2(b)に示すプラットホーム12-b、翼根部13-b)、またディスクの溝部も翼根部13-bの形状に係合する円弧状の溝部にする構造にすることが考えられる。しかしながら、この構造ではプラットホーム12-bが溝部に沿って円弧状の軌跡を描くため、直線状のアクシャルエントリー方式に比べ隣接するプラットホーム間の干渉や隙間(クリアランス)を生じる危険性が高く、また組み込み位置に対応したプラットホームの形状の選定が困難となる。」 (ウ)「【図1】 」 (エ)「【図2】 」 (2)本願発明との対比、一致点、相違点 引用発明と本願発明とを対比する。 引用発明の「動翼1」は、本願発明の「タービン翼(12)」に相当し、引用発明の「動翼植込部2」は、前記「動翼1」をタービンエンジン内に支持するように構成されたものであることは明らかであるから、本願発明の「根元部(14)」に相当し、引用発明の「その一方の側のある方向に延びる複数の動翼側フック5、6」は、本願発明の「前記タービンエンジン(28)の中心線(26)と平行にされた軸線(24)にほぼ沿って延び、かつ、該少なくとも1つの根元部(14)の第1の側(34)から延びる、第1の側の軸方向に延びる歯(32)」に相当する。 また、引用発明の「動翼側フック5、6のロータ側フック7、8との接触面」は、本願発明の「歯(32)の外側支持面(36)」に相当するところ、引用発明は、「動翼側フック5、6のロータ側フック7、8との接触面は、右肩上がりで傾いて」いるものであるから、引用発明において、「動翼植込部2」に「タービンロータ3」の半径方向に延びる軸線を仮想した場合には、前記「動翼側フック5、6のロータ側フック7、8との接触面」は、前記仮想した軸線に関してある鋭角で延びているものであるといえる。 ゆえに、引用発明の「動翼側フック5、6のロータ側フック7、8との接触面は、右肩上がりで傾いており」は、本願発明の「第1の側の軸方向に延びる歯(32)の外側支持面(36)は、前記少なくとも1つの根元部(14)の半径方向軸線(30)に関して第1の鋭角(37)で延びており」に相当する。 さらに、引用発明において「動翼側フック5、6の外縁は、動翼1の翼幅方向に円弧状をなしている」ことは、「動翼側フック5、6の外縁」が、前記仮想した軸線周りに湾曲しているともいえることが明らかであるから、引用発明の「動翼側フック5、6の外縁は、動翼1の翼幅方向に円弧状をなしている」は、本願発明の「前記第1の側の軸方向に延びる歯(32)の外縁(22)は、前記軸線(30)の周りに湾曲しており」に相当する。 してみると、本願発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。 《一致点》 タービンエンジンのタービン翼用の取付けシステムにおいて、 タービン翼をタービンエンジン内に支持するように構成された少なくとも1つの根元部を備え、 前記少なくとも1つの根元部は、前記タービンエンジンの中心線と平行にされた軸線にほぼ沿って延び、かつ、該少なくとも1つの根元部の第1の側から延びる、第1の側の軸方向に延びる歯を有し、 前記第1の側の軸方向に延びる歯の外側支持面は、前記少なくとも1つの根元部の半径方向軸線に関して第1の鋭角で内方へ延びており、 前記第1の側の軸方向に延びる歯の外縁は、前記軸線の周りに湾曲している、タービンエンジンのタービン翼用の取付けシステム。 《相違点1》 本願発明は「外縁(22)」が、「前記タービンエンジン(28)の前記中心線(26)に対して直交するように観察され」、「支持ディスク(20)に対する、前記少なくとも1つの根元部(14)に取り付けられた前記タービン翼(12)の移動を実質的に低減」するものであるのに対し、引用発明の「動翼側フック5、6」が設けられた「動翼植込部2」は翼幅方向に円弧状をなしているものの、前記タービンの回転軸たる中心線に対して直交するように観察されるとは規定されておらず、また、前記「動翼側フック5、6」の外縁部分が、タービン動翼のロータ周方向への移動を実質的に低減するとは規定されていない点。 《相違点2》 本願発明では「前記第1の側の軸方向に延びる歯(32)の前記湾曲した外縁(22)の上流端部(40)と、前記湾曲した外縁(22)の横方向の高い箇所(42)との間の、前記タービンエンジン(28)の前記中心線(26)に対して直交する方向で測定される直線距離(38)が、前記第1の側の軸方向に延びる歯(32)の半径方向内面(46)と、前記支持ディスク(20)の最も近い面(48)との間で測定される歯間隙寸法(44)よりも大きく、 前記湾曲した外縁(22)の前記横方向の高い箇所(42)は、前記湾曲した外縁(22)の幅を二等分し、 前記直線距離(38)は、 【数1】 として計算され、 ここで、Hは前記直線距離(38)であり、 Rは、前記湾曲した外縁(22)の半径であり、 Wは、前記湾曲した外縁(22)の幅である」のに対し、引用発明では、翼幅方向に円弧状をなしている、「動翼側フック5、6」の外縁部分の端部と頂部との間の、前記タービンの前記中心線に対して直交する方向で測定される直線距離が、前記「動翼側フック5、6」と、「ロータ側フック7、8」との間の「間隙12」よりも大きいとは規定されておらず、前記直線距離は、上記【数1】で計算されるとは規定されていない点。 (3)相違点の判断 ア.相違点1について 上記(1)イ.で摘記したように、引用文献2(特に、段落【0010】の記載及び【図2】(b)の図示内容を参照。)には、プラットホーム12-b、翼根部13-bを翼部11の形状に対応させて円弧状にし、また、ディスクの溝部も翼根部13-bの形状に係合する円弧状の溝部としたタービン動翼組込構造、すなわち、円弧状の翼根部13-bの外縁部分がタービンの回転軸たる中心線に対して直交するように観察されるタービン動翼組込構造が記載されており、引用発明において、引用文献2に記載の上記タービン動翼組込構造を採用し、「動翼側フック5、6」の外縁部分が前記タービンの回転軸たる中心線と平行にされた軸線にほぼ沿って延び、前記タービンの回転軸たる中心線に対して直交するように観察される構造とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本願発明1において「前記第1の側の第1の軸方向に延びる歯(32)の湾曲した前記横方向に延びる外縁(22)は、支持ディスク(20)に対する、前記少なくとも1つの根元部(14)に取り付けられた前記タービン翼(12)の周方向移動を実質的に低減」することは、「外縁(22)」が、「前記軸線(30)の周りに湾曲しており、これにより、前記湾曲した外縁(22)は、前記タービンエンジン(28)の前記中心線(26)に対して直交するように観察され」るような組込構造とすることによって奏される機能であると解されるところ、引用発明において、引用文献2に記載の上記タービン動翼組込構造を採用した際にも、自ずと奏される機能であるというべきである。 イ.相違点2について 引用文献1には、引用発明の「間隙12」の具体的な寸法については記載されていないが、いわゆるツリー型のタービン動翼組込構造における動翼側の歯とロータ側の歯との間隙は1mm以下程度であることが技術常識である(例えば、特許第2877150号公報の12欄47行ないし13欄21行に記載の、間隙を最大0.023mmないし0.003mmとした例等を参照。)ことを踏まえると、引用発明において、「翼幅方向に円弧状をなしている、『動翼側フック5、6』の外縁部分の端部と頂部との間の、前記タービンの前記中心線に対して直交する方向で測定される直線距離」は、前記「動翼側フック5、6」と、「ロータ側フック7、8」との間の「間隙12」よりも大きいと解するのが自然である。 また、上記ア.で示したとおり、引用発明において、引用文献2に記載の上記タービン動翼組込構造を採用し、「動翼側フック5、6」の外縁部分が前記タービンの回転軸たる中心線と平行にされた軸線にほぼ沿って延び、前記タービンの回転軸たる中心線に対して直交するように観察される構造とした際には、前記「動翼側フック5、6の外縁」の横方向の高い箇所が、前記「動翼側フック5、6の外縁」の幅を二等分することになる蓋然性が高いところ、仮に、そうでないとしても、前記「動翼側フック5、6の外縁」の横方向の高い箇所が、前記「動翼側フック5、6の外縁」の幅を二等分するような構造とするか否かは、当業者が適宜決定し得た設計的な事項というべきである。 そして、本願発明における【数1】は、「H」すなわち「直線距離(38)」が、「R」すなわち「湾曲した外縁(22)の半径」と「W」すなわち「湾曲した外縁(22)の幅」からピタゴラスの定理を用いて算出されることを単に示しているにすぎず、当業者にとって何ら格別なものではない。 ゆえに、上記相違点2は実質的な相違点ではない。 また、仮に、上記相違点2が実質的な相違点であったとしても、当業者が適宜なし得た程度のことである。 (4)小括 したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載のタービン動翼組込構造に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第5.むすび 以上のとおり、本願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。 また、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-12-24 |
結審通知日 | 2021-01-06 |
審決日 | 2021-01-19 |
出願番号 | 特願2017-562631(P2017-562631) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(F01D)
P 1 8・ 113- WZ (F01D) P 1 8・ 536- WZ (F01D) P 1 8・ 121- WZ (F01D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 金田 直之 |
特許庁審判長 |
金澤 俊郎 |
特許庁審判官 |
渡邊 豊英 鈴木 充 |
発明の名称 | ガスタービンエンジンにおいて使用可能なタービン翼用の取付けシステム |
代理人 | 二宮 浩康 |
代理人 | 上島 類 |
代理人 | 前川 純一 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 森田 拓 |