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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F24F
管理番号 1374746
審判番号 不服2020-14690  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-10-21 
確定日 2021-06-07 
事件の表示 特願2017- 15427号「空気調和機」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月 9日出願公開、特開2018-124001号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年1月31日を出願日とする出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和2年 6月10日付けで拒絶の理由の通知
令和2年 7月31日に意見書及び手続補正書の提出
令和2年 9月 1日付けで拒絶査定
令和2年10月21日に拒絶査定不服審判の請求及び手続補正書の提出
令和2年12月 2日付けで当審における拒絶の理由の通知
令和3年 1月27日に意見書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1?3係る発明は、令和2年10月21日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載によれば、特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
熱交換器を有する空気調和機であって、
前記熱交換器は、熱交換を行うフィンと、該フィンに向けて光を照射するLEDとを具備し、
前記フィンには、前記LEDから光が照射される表面に光触媒である酸化チタンが融着で直接結合されているものであることを特徴とする空気調和機。」

第3 令和2年12月2日付けで通知した拒絶の理由
当審において、令和2年12月2日付けで通知した拒絶の理由のうち、本願の請求項1に係る発明についての理由は、概略以下のとおりである。
<理由1(進歩性)について>
本願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明に基いて、本願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。


1.特開2005-300110号公報
2.特開2004-189803号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2005-127606号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2006-61580号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2006-242401号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載
当審において通知した拒絶の理由に引用された引用文献であって、本願の出願前に頒布された引用文献1には、「空気調和機の室内機」に関し、次の記載がある(なお、下線は理解の一助として当審において付したものである。以下同様。)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を調和する空気調和機の室内機(2)であって、
所定の波長領域の光が照射されることにより前記空気に浮遊する浮遊物を分解、死滅、または不活化させる浮遊物分解等部と、
前記光を発するLED(61,62,63,64,65,66)と、
を備える、空気調和機の室内機(2)。
・・・
【請求項14】
前記空気と熱交換を行う熱交換器(20)をさらに備え、
前記反射部(81a,81b)は、前記熱交換器(20)のフィンとして取り付けられる、
請求項13に記載の空気調和機の室内機(2)。」
「【0001】
本発明は、空気を調和する空気調和機の室内機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光半導体触媒と、その光半導体触媒を活性化させるための光源とを内部に備えた空気調和機の室内機がある(例えば、特許文献1参照)。このような空気調和機では、吸い込んだ空気に浮遊する浮遊物(塵埃、菌、およびウィルスなど)が積極的に分解、死滅、あるいは不活化され、空気が清浄される。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、通常、空気調和機の室内機には、熱交換器や送風機などの要素部品がコンパクトに配置されている。一般的に、光半導体触媒を活性化させるための光源としては主に紫外線ランプが利用されているが、この紫外線ランプは、全ての要素部品間の隙間に挿入できるほど十分に小さいものでない。このため、室内機に配置することができる紫外線ランプの個数やその配置場所などは、実質的に制限されている。このため、室内機内部においては、ある限られた範囲でしか光半導体触媒を利用することができなかった。
【0004】
本発明の課題は、光半導体触媒の利用場所の制限をなくすことができる空気調和機の室内機を提供することある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1発明に係る空気調和機の室内機は、空気を調和する空気調和機の室内機であって、浮遊物分解等部およびLEDを備える。なお、ここにいうLEDとは、紫色LED(中心波長が約380nmのもの)などである。浮遊物分解等部は、所定の波長領域の光が照射されることにより空気に浮遊する浮遊物を分解、死滅、または不活化させる。なお、ここにいう「浮遊物分解等部」とは、例えば、光半導体触媒(酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、および酸化鉄などに代表される金属酸化物、C_(60)などのフラーレンに代表される炭素系の光半導体触媒、遷移金属からなるナイトライド、オキシナイトライド、光触媒機能を有するアパタイトなど)などである。LEDは、その光を発する。」
「【0015】
第10発明に係る空気調和機の室内機は、第1発明から第9発明のいずれかに係る空気調和機の室内機であって、浮遊物分解等部は、光半導体触媒を含む。なお、ここにいう「光半導体触媒」とは、例えば、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、および酸化鉄などに代表される金属酸化物、C_(60)などのフラーレンに代表される炭素系の光半導体触媒、遷移金属からなるナイトライド、オキシナイトライド、光触媒機能を有するアパタイトなどである。」
「【0038】
[空気調和機のセルフクリーニング機能]
この空気調和機1の室内機2を構成する部材であるクロスフローファン21、前面グリル25a(吸込み口251、吹出し口252、スクロール24、およびドレンパン29a,29bを含む)、フロントパネル26a、およびフラップ253は樹脂成形体であり、この樹脂には、チタンアパタイトが配合されている。また、そのチタンアパタイトの一部は、樹脂表面に露出している。
【0039】
また、室内熱交換器20はアルミニウムなどの金属体であり、その表面にはチタンアパタイトがコーティングされている。
上述したように、このチタンアパタイトは、臭気成分や有害ガス、菌、ウィルス等を特異的に吸着する。そして、このチタンアパタイトは、外光および紫色LED(図3参照)61,62,63,64,65によって、強力な酸化力を発揮し、臭気成分や有害ガス、菌、ウィルス等を分解して無害化することができる。なお、紫色LED61,62,63,64,65は、光触媒フィルタ52の空気流れ方向上流側、ならびに熱交換器20の空気流れ方向上流側および下流側の両方に配置される。また、この紫色LED61,62,63,64,65は、図5に示されるように中心波長がおおよそ380nmにあり、チタンアパタイトを活性化するのに十分な光エネルギーを供給することができる。また、吸込み口251、吹出し口252、およびスクロール24、フラップ253、フロントパネル26aの外面に存在するチタンアパタイトは、主に外光によって活性化される。」
「【0069】
また、ここで、図8に示すように、背面側のスクロール24にミラー75が設けられてもよい。このようにすれば、前面側のスクロール24にも紫外線を供給することができる。
(E)
第1実施形態に係る空気調和機1の室内機2では、クロスフローファン21、前面グリル25a(吸込み口251、吹出し口252、スクロール24、およびドレンパン29a,29bを含む)、フロントパネル26a、フラップ253、および室内熱交換器20にチタンアパタイトが担持またはコーティングされていたが、これに代えて、これらの部材・部品20,21,25a,26a,253に、二酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、および酸化鉄などに代表される金属酸化物、C_(60)などのフラーレンに代表される炭素系の光半導体触媒、遷移金属からなるナイトライド、オキシナイトライドなどが担持またはコーティングされてもかまわない。また、さらにカルシウムヒドロキシアパタイトなどのアパタイトを担持させてもかまわない。」
「【0079】
2 室内機
20 室内熱交換器
21 クロスフローファン
61,62,63,64,65,66 LED
52 光触媒フィルタ(エアフィルタ)
60 紫外線ランプ(光源)
75,81a,81b ミラー(反射部)」
「【図3】



(2) 上記(1)記載から認められること
ア 上記(1)の記載(特に、請求項14、図3の記載)からみて、引用文献1の空気調和機の室内熱交換器は、フィンを備えている。
イ 上記(1)(特に、請求項1、【0055】及び図3の記載)によれば、空気調和機のLEDは、フィンに向けて光を発している。
(3)引用発明
上記(1)及び(2)を総合すると、引用文献1には、次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「空気を調和する空気調和機であって、
前記空気調和機の室内機は、
所定の波長領域の光が照射されることにより前記空気に浮遊する浮遊物を分解、死滅、または不活化させる浮遊物分解等部と、
前記光を発するLEDと、
を備え、
前記室内機の前記室内熱交換器の部材・部品に、二酸化チタンが担持またはコーティングされ、
前記室内熱交換器はフィンを備え、
前記LEDは、前記フィンに向けて光を発している、
空気調和機。」

2 引用文献2
当審において通知した拒絶の理由に引用された引用文献であって、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献2には、「無機膜形成用塗布剤、無機膜形成方法及び無機膜被覆基材」に関して、次の記載がある。
「【0002】
【従来の技術及びその課題】
酸化チタン膜は、光活性、抗菌性、親水性、耐汚染性、防曇性、ガス分解性、脱臭性、水処理性、エネルギー変換性、脱色性、耐熱性、防食性、ガスバリヤ-性等の優れた性能を有することから、近年、酸化チタン膜の開発が急速に進んできた。
【0003】
従来の酸化チタン膜形成方法としては、(1)酸化チタンゾルを基材に塗布後、焼結する方法、(2)塩化チタンや硫酸チタンの水溶液を基材に塗布後、加熱処理する方法、(3)固体粒子を大気中で発生させたプラズマ中で溶融し、基材表面にたたき付けるプラズマ溶射方法、(4)真空中で酸化物のターゲットをスパッタリングし、基材上に成膜するスパッタ法、(5)有機金属化合物等を揮発させ電気炉の中で分解して基材上に膜を形成させるCVD法、(6)金属アルコキシドの加水分解で得たゾルを基材に塗布後、焼結するゾルーゲル法等が挙げられる。
【0004】
しかしながら、上記した方法において、(1)の方法は0.1μm以上の膜厚ではワレ、剥がれを生じるため造膜性が劣り、また数百度以上の温度で焼結する必要があり手間が掛かること、(2)の方法は熱分解物による基材への悪影響や、数百度以上の温度で焼結する必要があり手間が掛かること、(3)の方法は緻密な膜が形成できないこと、基材に対する付着性が劣ること、(4)及び(5)の方法は減圧下でなければ良好な膜が得られず、真空排気できる反応容器が必要であり、一般に成膜速度が遅く、緻密な膜を得るためには数百度以上に基体を加熱しなければならないこと、(6)の方法のゾル中には酸やアルカリあるいは有機物が加えられており、被コーティング材の腐蝕の問題があり、有機物除去のためには高温(400℃以上)が必要あること等の問題があった。」

3 引用文献3
当審において通知した拒絶の理由に引用された引用文献であって、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献3には、「空調装置」に関し、次の記載がある。
「【0009】
酸化チタンを代表とする光触媒材料は、光(特に紫外線)の照射により活性化され、有機物および化学物質に対する強力な酸化分解力、表面を親水化する機能、防汚・脱臭・抗菌作用を発揮することが知られており、これらの機能を利用した外装タイルや窓ガラス、道路資材(ガードレール、標示板等)、医療施設用の壁・床材などが実用化されている。」
「【0015】
光触媒材料としては、例えば酸化チタン(二酸化チタン等)を使用する(請求項2)。二酸化チタン(TiO_(2))は、波長380nm以下の紫外光(太陽光にも蛍光灯の光にも含まれている)を吸収することにより活性化され、上記防汚・親水化・抗菌等の各作用を発揮する。尚、光触媒材料による上記各作用を当初からより十分に得るために、空調装置のパネル面に予め紫外線を照射しておく(例えば工場出荷時に紫外線照射を行う)ようにしても良い。」
「【0027】
各パネル21a,21bの表面には、光触媒材料を含む皮膜を形成する。例えば二酸化チタン(TiO_(2))を含む皮膜(以下、光触媒層という)である。光触媒層の形成方法は、特に問わない。例えば、パネル表面塗装用の塗料に光触媒材料を混合し塗装(例えば静電粉体塗装)することにより光触媒層を形成することが出来る。また、光触媒材料自体の塗布、ゾルゲル法による成膜、スパッタリング、蒸着あるいは溶射等によっても光触媒層を形成可能である。光触媒層の厚さは、例えば0.001μmから数百μm程度とすることができ、これにより後に述べる防汚・抗菌・除湿量増大等の十分な効果を得ることが可能である。」

4 引用文献4
当審において通知した拒絶の理由に引用された引用文献であって、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献4には、「空気の浄化方法および装置」に関し、次の記載がある。
「【0037】
光触媒は、被処理空気が接触する基材上に付着されるが、このような基材としては、不織布、紙、織物、プラスチック、金属板、セラミックボード等があげられる。付着方法としては、低温溶射法により直接付着させる方法と、バインダーを含有させた塗料として基材上に付着する方法がある。低温溶射法では、上記の基材上に、例えば融点が2000℃以下である酸化チタンの微粒子(5?50μm)と、前記金属微粒子1?10μmを酸素、アセチレン等を用いたガス溶射法法により、約2900?3000℃で溶融したセラミックスとともに溶射する。溶射後は、光触媒粒子を含む粒子を30?40μの偏平積層粒子となり、溶融によるアンカー効果により基材上に強固に付着する。」

5 引用文献5
当審において通知した拒絶の理由に引用された引用文献であって、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献5には、「冷風生成装置」に関し、次の記載がある。
「【0025】
少なくとも表面層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる基体が表面部形成層と心材とで構成されていてそれらの材質が異なっている場合には、その表面部形成層の厚さは形成される炭素ドープ酸化チタン層の厚さと同一であっても(即ち、表面部形成層全体が炭素ドープ酸化チタン層となる)、厚くてもよい(即ち、表面部形成層の厚さ方向の一部が炭素ドープ酸化チタン層となり、一部がそのまま残る)。また、その心材の材質は第1の発明の製造方法における加熱処理の際に燃焼したり、溶融したり、変形したりするものでなければ、特に制限されることはない。例えば、心材として鉄、鉄合金、非鉄合金、セラミックス、その他の陶磁器、高温耐熱性ガラス等を用いることができる。このような薄膜状の表面層と心材とで構成されている基体としては、例えば、心材の表面にチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる皮膜をスパッタリング、蒸着、溶射等の方法で形成したもの、あるいは、市販の酸化チタンゾルをスプレーコーティング、スピンコーティングやディッピングにより心材の表面上に付与して皮膜を形成したもの等を挙げることができる。」

第5 対比
本願発明と引用発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者の「空気調和機」は、前者の「空気調和機」に相当し、同様に、「室内熱交換器」は「熱交換器」に、「LED」は「LED」に、「二酸化チタン」は「酸化チタン」に、「光を発している」は「光を照射する」に、それぞれ相当する。
・後者の「フィン」は、熱交換を行うことが明らかであり、前者の「熱交換を行うフィン」に相当する。
・後者の「前記LEDは、前記フィンに向けて光を発している」態様は、前者の「該フィンに向けて光を照射するLED」を備える態様に相当する。
・また、後者の「前記室内機の前記室内熱交換器の部材・部品に、二酸化チタンが担持またはコーティングされ、
前記室内熱交換器はフィンを備え」ていることは、室内熱交換器の部材・部品としてのフィンの表面に二酸化チタンが担持またはコーティングされていて、二酸化チタンが担持またはコーティングされた態様は、二酸化チタンとフィンとが結合しているといえるので、前者の「前記フィンには、前記LEDから光が照射される表面に光触媒である酸化チタンが融着で直接結合されているものであること」と、「前記フィンには、前記LEDから光が照射される表面に光触媒である酸化チタンが結合されているものであること」の限りで一致する。

したがって、両者の間に次の一致点及び相違点が認められる。
[一致点]
「熱交換器を有する空気調和機であって、
前記熱交換器は、熱交換を行うフィンと、該フィンに向けて光を照射するLEDとを具備し、
前記フィンには、前記LEDから光が照射される表面に光触媒である酸化チタンが結合されているものである、空気調和機。」

[相違点]
酸化チタンが結合されていることについて、本願発明では、「融着で直接結合されている」のに対して、引用発明では、どのような方法で結合されているのか不明な点。

第6 判断
1 相違点の検討
上記相違点について検討する。
まず、本願明細書には、酸化チタンの「結合」に関して、以下の事項が記載されている。
「【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、熱交換器を有する空気調和機であって、前記熱交換器は、熱交換を行うフィンと、該フィンに向けて光を照射するLEDとを具備し、前記フィンには、前記LEDから光が照射される表面に光触媒である酸化チタンが直接結合されている空気調和機を提供する。
【0009】
このような空気調和機であれば、十分な脱臭効果を得ることができる。また、フィンに酸化チタンが直接結合されており、バインダーを不要とすることができることから材料費を低減させることができる。また、脱臭は熱交換器のフィンの表面で行われるため、別の部材を必要とせず、無駄なスペースを低減させることができる。さらに、圧力損失が発生するフィルターも不要であるので、フィルターレスでの脱臭・殺菌が可能となり、省電力化やメンテナンスフリーを実現することができる。
【0010】
このとき、前記酸化チタンの前記フィンへの直接結合は、溶射又は融着でなされているものであることが好ましい。
【0011】
このように、本発明において、酸化チタンのフィンへの直接結合は、例えば溶射又は融着でなされているものとすることができる。」
「【0026】
この場合、フィン10の表面には、図3に示すように、LEDから光が照射される表面に光触媒である酸化チタン13が直接結合されている。本発明の空気調和機では、LEDからフィンの表面上に結合されている酸化チタンに光を照射して光触媒反応を起こすことで脱臭を行うことができる。また、本発明では、フィンに酸化チタンが直接結合されているため、酸化チタンのフィンへの結合にバインダーを不要とすることができる。これにより材料費の節約のみならず、光触媒を空気調和機中に配置するのにほとんどスペースを要しない。しかも、全く空気の流れの妨げも生じない。
【0027】
フィン10の表面には酸化チタン13が直接結合されているが、酸化チタン13のフィン10への直接結合は、溶射又は融着でなされているものであることが好ましい。」
「【0031】
ここで、酸化チタンをフィンに溶射によって直接結合させる場合について一例を挙げて説明する。以下に説明する通り、プラズマ溶射によって酸化チタンをアルミフィンに直接結合させることができる。」
【0032】
まず、アルミフィンの基材として、ロール状のアルミ板を用意する。
【0033】
次に、アルミ板に酸化チタン粒子を用いて、プラズマ溶射を行う。用いる酸化チタン粒子の平均粒径としては10?70μmが好ましい。また、プラズマ溶射の条件としては、プラズマガスとして水素を含むものを用いることが好ましく、電力は40kW以上とすることが好ましい。
【0034】
このような条件でプラズマ溶射を行うことにより、高い活性の酸化チタン粒子が生成し、しかもその酸化チタン粒子が高速で基材の表面に放出されるため、酸化チタン粒子がアルミ板に衝突して食い込み、アルミ板に強固に結合する。このように形成される酸化チタン粒子の被膜は、単に金属表面を持つ金属製基材の上に形成された酸化チタン粒子の被膜よりも結合力は数段大きくなる。
【0035】
このようにして得られたアルミ板をアルミフィンに仕上げることで、酸化チタンが溶射により表面に直接結合したアルミフィンを得ることができる。」

これらの記載事項から、酸化チタンのフィンへの直接結合は、溶射又は融着によりなされることが理解できる。
そして、具体的な態様については、溶射について、その態様が明細書には記載されているものの、融着について、その具体的な態様について記載はなされていない。
ここで、溶射とは、「金属・セラミックスなどを溶融し、金属表面に吹きつけて被覆する方法。」(デジタル大辞泉)であり、金属が溶融したものが、金属表面を被覆するものである。
一方、融着とは、上述のとおり、本願明細書に、その具体的な態様が記載されていないが、その用語の意味からみて、「融」けて、付「着」するものが想定され、溶射と融着は、溶けたものを対象物に付着させるという点で軌を一にするものである。
よって、融着は、溶射と、溶けたものを対象物に付着させるという点で共通するものであると認められる。
そうすると、一般に酸化チタン層を形成するために、溶けた酸化チタンを対象物に付着させるの様々な方法(溶射を含む。)が、上記引用文献2(【0002】?【0004】参照。特に、【0003】参照。)、引用文献3(【0027】参照)、引用文献4(【0037】参照)あるいは引用文献5(【0025】参照)に記載されているように本願出願前に周知の事項(以下「周知の事項」という。)であることを踏まえると、二酸化チタンを担持またはコーティングする引用発明において、二酸化チタンの層を設けるにあたり、融着(溶けたものを対象物に付着させると意味において)で行うように構成し、上記相違点に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

2 請求人の主張について
(1) 請求人は、令和3年1月27日の意見書において、以下のように主張している。
ア 「(2) 本願発明における融着の具体的な態様について文献を挙げつつ説明します。なお、融着に関する文献(以下、証明文献とも言います)は、例えば特開2017-119273号公報です。
本発明において『前記フィンには、前記LEDから光が照射される表面に光触媒である酸化チタンが融着で直接結合されているもの』とありますが、この融着の具体的な態様(すなわち、融着の仕方)として、フィン(基材)の表面上に、酸化チタン(及び/又はその前駆体)を含む塗膜を形成し、熱処理し、塗膜中の酸化チタン粒子と基材とを焼結させています。『焼結』とは、『粉体を融点以下または部分的溶融の程度に加熱して強固な結合体とすることをいう。…』(化学大辞典編集委員会(編集),化学大辞典4(縮刷版),共立出版株式会社,1963,p.764)であり、本発明における融着の態様では、上記の部分的溶融に当たるものであり、塗膜中の酸化チタン及び/又は基材を溶融して直接結合しているものです。」
この点を検討するに、本願発明の直接結合について、請求人が主張する、「この融着の具体的な態様(すなわち、融着の仕方)として、フィン(基材)の表面上に、酸化チタン(及び/又はその前駆体)を含む塗膜を形成し、熱処理し、塗膜中の酸化チタン粒子と基材とを焼結させています。」との事項は、本願明細書に記載されておらず、本願明細書に記載に基づかない主張である。また、融着が焼結を必ず意味しているとする技術常識もない。
イ 「ここで証明文献を見ると、以下にその一部(46、50、58、60-61段落)を引用するように、基材としてアルミニウム材が挙げられており、その表面に酸化チタン(すなわち、二酸化チタン)粒子を含む塗膜を形成し、熱処理して、アルミニウム材と二酸化チタン粒子との焼結(また、二酸化チタン粒子同士の焼結)が起こることが記載されています。
(46段落)
『工程1は、アルミニウム材の片面又は両面に二酸化チタン及び/又はその前駆体を含む塗膜を形成する。』
(50段落)
『アルミニウム材の表面(片面又は両面)に二酸化チタン及び/又はその前駆体を含む塗膜を形成する方法は特に限定されない。例えば、チタン金属を含むアルコキシドの有機化合物又は金属塩の加水分解及び重縮合を利用して酸化物前駆体粒子を含む溶液(ゾル)からゲル化させた塗布液、又は、二酸化チタン粒子を溶液中で攪拌機等を用いて分散させた塗布液、又は上記の二つの塗布液の混合物を調製し、アルミニウム材の表面上に塗布すればよい。…(中略)…』
(58段落)
『工程2は、工程1で形成した前記塗膜を、酸化性雰囲気中、400℃以上、660℃未満の温度で熱処理することにより光触媒層を得る。』
(60段落)
『加熱温度は400℃以上、660℃未満とし、500℃以上、640℃以下が好ましい。加熱温度を400℃以上とすることで、後述の非晶質の二酸化チタン前駆物質の結晶化や、有機系バインダーの分解、二酸化チタン粒子同士の焼結、アルミニウムの酸化物の層の形成がより効率的に進む。熱処理工程において、加熱雰囲気の圧力は特に限定されず、常圧、減圧又は加圧下であってもよい。』
(61段落)
『酸化性雰囲気中で加熱する工程を備えることで、塗布液にゾルゲル法等の非晶質の二酸化チタン前駆物質を用いた場合には、二酸化チタンの結晶化を促進し、光触媒性能を高めることができる。…(中略)…また、二酸化チタン粒子同士の焼結により適度にネッキングが進むことで、光触媒層の強度を上げると共に、アルミニウム材とも焼結が起こり、アルミニウム材と光触媒層との密着性が向上する。…(中略)…』
(3) 上記のように証明文献では基材としてアルミニウム材が挙げられており、アルミニウム材の融点は約660℃であることからすると、660℃近傍で加熱した場合に上記の部分的な溶融が生じているものと考えられます。そして、そのような酸化チタンを含む塗膜と基材との溶融(また塗布膜中の酸化チタン粒子同士の溶融)による結合の態様が本発明における融着の態様に相当します(「塗膜+溶融」という態様になります)。」
この点について、検討するに請求人のいう上記証明文献(特開2017-119273号公報)において、「融着」の定義や「融着」を説明する具体的な記載はなされていない。そうすると、請求人の上記主張は、具体的な根拠を欠いたものである。
さらに、上記請求人が引用する上記文献の参照した46、50、58、60、61段落をみても、「融着」との用語は一切記載されておらず、また「融着」がどのような態様のものであるのかについて、直接的な説明はなされていない。結局、上記文献の他の段落を含めてみても、「融着」についてどのようなものであるかについての記載はなされていない。
また、上記請求人が参照している、上記(50段落)の「二酸化チタン粒子を溶液中で攪拌機等を用いて分散させた塗布液、又は上記の二つの塗布液の混合物を調製し、アルミニウム材の表面上に塗布すればよい」、上記(60段落)の「加熱温度は400℃以上、660℃未満とし、500℃以上、640℃以下が好ましい。加熱温度を400℃以上とすることで、後述の非晶質の二酸化チタン前駆物質の結晶化や、有機系バインダーの分解、二酸化チタン粒子同士の焼結、アルミニウムの酸化物の層の形成がより効率的に進む。」の記載によると、二酸化チタンの結合に際して、「二酸化チタン粒子を溶液中で攪拌機等を用いて分散させた塗布液」や、「有機系バインダー」を用いることが記載されている。
他方、本願明細書においては、「本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、十分な脱臭効果を得ることができるとともに、材料費を低減させることができ、かつ無駄なスペースを低減させることができる空気調和機を提供することを目的とする。」(【0007】)、「このような空気調和機であれば、十分な脱臭効果を得ることができる。また、フィンに酸化チタンが直接結合されており、バインダーを不要とすることができることから材料費を低減させることができる。・・・」(【0009】)、「この場合、フィン10の表面には、図3に示すように、LEDから光が照射される表面に光触媒である酸化チタン13が直接結合されている。本発明の空気調和機では、LEDからフィンの表面上に結合されている酸化チタンに光を照射して光触媒反応を起こすことで脱臭を行うことができる。また、本発明では、フィンに酸化チタンが直接結合されているため、酸化チタンのフィンへの結合にバインダーを不要とすることができる。これにより材料費の節約のみならず、光触媒を空気調和機中に配置するのにほとんどスペースを要しない。しかも、全く空気の流れの妨げも生じない。」(【0026】)と記載されて、材料費を低減するために、二酸化チタンの他にバインダーなどを用いないことが記載されている。
そうすると、バインダーを用いる融着と、バインダーを用いないとする本願の課題が矛盾している、つまり、本願当初明細書に記載された課題と令和3年1月27日の意見書の主張が矛盾していることとなる。この点からも、本願発明の「融着」が、バインダーを用いることを前提とする、請求人が上記主張する、「この融着の具体的な態様(すなわち、融着の仕方)として、フィン(基材)の表面上に、酸化チタン(及び/又はその前駆体)を含む塗膜を形成し、熱処理し、塗膜中の酸化チタン粒子と基材とを焼結させています」、「酸化チタンを含む塗膜と基材との溶融(また塗布膜中の酸化チタン粒子同士の溶融)による結合の態様が本発明における融着の態様に相当します(『塗膜+溶融』という態様になります)」とすることはできず、請求人の主張は採用できない。
ウ 「なお、特に引用文献2の3段落には、例えば『(1)酸化チタンゾルを基材に塗布後、焼結する方法』のように、『焼結』による酸化チタン膜の形成についての記載がありますが、4段落に、その焼結温度として『数百度以上』あるいは『高温(400℃以上)』との記載しかなく、せいぜい200?400℃付近程度の熱処理温度にすぎません。例えば証明文献に記載の基材(アルミニウム材)を溶融し得る660℃のような高温の焼結温度については引用文献2には記載されておらず、このことからすると、引用文献2における焼結とは、融点よりもずっと下の温度で熱処理し、基材等を溶融することなく焼き固める程度のものと思料致します。
したがって、『塗膜+溶融』という本発明における融着の態様とはやはり異なっており、引用文献1に引用文献2(さらには、他の引用文献3-5)を組み合わせたところで本発明を導き出すことはできません。」
この点について、検討するに、本願発明が、「基材(アルミニウム材)を溶融し得る660℃のような高温の焼結温度」とするものであることや、本願発明の融着の態様が「塗膜+溶融」であるとすることについては、本願の特許請求の範囲及び明細書には記載されておらず、この点は、特許請求の範囲及び明細書に基づかない主張である。
エ 以上のとおりであるから、請求人の令和3年1月27日の意見書における主張は、いずれも採用できない。
(2) また、仮に「融着」が、請求人が主張する上記「融着の具体的な態様(すなわち、融着の仕方)として、フィン(基材)の表面上に、酸化チタン(及び/又はその前駆体)を含む塗膜を形成し、熱処理し、塗膜中の酸化チタン粒子と基材とを焼結させています」としている、「焼結」の態様をいうとしても、上記引用文献2には、「従来の酸化チタン膜形成方法としては、(1)酸化チタンゾルを基材に塗布後、焼結する方法」(【0003】)と記載されており、焼結による酸化チタン膜形成方法が記載されている。
そうすると、室内機の室内熱交換器の部材・部品に、二酸化チタンを担持またはコーティングする引用発明において、酸化チタンゾルを基材に塗布後、焼結する方法を採用することも、当業者が容易に想到し得たことである。

3 効果について
そして、本願発明を全体としてみても、その奏する効果は、引用発明及び周知の事項から、当業者が予測し得る範囲のものである。

4 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-03-26 
結審通知日 2021-03-30 
審決日 2021-04-15 
出願番号 特願2017-15427(P2017-15427)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F24F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安島 智也  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 川上 佳
山崎 勝司
発明の名称 空気調和機  
代理人 好宮 幹夫  
代理人 小林 俊弘  

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