ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N |
---|---|
管理番号 | 1374784 |
審判番号 | 不服2019-12861 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-09-27 |
確定日 | 2021-06-09 |
事件の表示 | 特願2016-557588「マルチレイヤ・ビデオコーディングのためのPOC値設計」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月24日国際公開、WO2015/142921、平成29年 6月 1日国内公表、特表2017-514354〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2015年(平成27年)3月17日(パリ条約による優先権主張 2014年3月17日 (US)アメリカ合衆国、2014年3月31日 (US)アメリカ合衆国、2015年3月16日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成28年10月13日 :国際出願翻訳文提出 平成30年 2月23日 :手続補正 平成31年 2月13日付け:拒絶理由通知 令和 1年 5月15日 :意見書提出 令和 1年 5月30日付け:拒絶査定 令和 1年 9月27日 :拒絶査定不服審判請求 令和 2年 8月14日付け:当審拒絶理由通知 令和 2年11月12日 :意見書提出および手続補正 第2 本件発明について 特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、本件発明という)は、令和2年11月12日付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。(符号A?C4は請求項の記載を分節するため当審で付したものであり、請求項の記載を、符号A?C4を用いて、以下、「発明特定事項A」?「発明特定事項C4」と称する。) 【請求項1】 A ビデオデータをコーディングする方法であって、前記方法は、 B マルチレイヤ・ビットストリームの独立して復号可能な非ベースレイヤのピクチャの少なくとも一部分をコーディングすることと、 C 前記ピクチャのピクチャ順序カウント(POC)最下位ビット(LSB)値のためのPOC値リセットを示すデータをコーディングすること、前記POC値リセットを示す前記データをコーディングすることが、前記POC値リセットを示す1つまたは複数のシンタックス要素をコーディングすることを備え、 C1 前記1つまたは複数のシンタックス要素をコーディングすることが、POC値リセットインデックスをコーディングすることを備え、 C2 前記ピクチャが、0に等しいPOC LSB値を有するとき、前記POC値リセットインデックスをコーディングすることが、2に等しいpoc_reset_idcシンタックス要素を前記ピクチャのスライスセグメントヘッダ中でコーディングすることを備え、 C3 前記ピクチャが、0に等しくないPOC_LSB値を有するとき、前記POC値リセットインデックスをコーディングすることが、2以外の値に等しいpoc_reset_idcシンタックス要素を前記ピクチャのスライスセグメントヘッダ中でコーディングすることを備え、 C4 ここにおいて、2に等しいpoc_reset_idcシンタックス要素は、前記ピクチャの前記POCのLSB値と前記ピクチャの前記POCの最上位ビット(MSB)値との両方のリセットを示す、と、 を備える、方法。 第3 当審拒絶理由の概要 令和2年8月14日付けで通知した当審拒絶理由の概要は以下のとおりである。 1.(明確性) 本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 2.(サポート要件) 本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 3.(委任省令要件) 本件出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 ●理由1(明確性)について 請求項4の記載は発明を明確に特定していない。請求項4を引用する請求項15についても、同様の理由がある。 ●理由2(サポート要件)、理由3(委任省令要件)について 1 本件明細書【0131】?【0137】、および図4の記載から、従来技術は、課題1があるといえる。また、本件明細書の【0152】?【0157】、および図5の記載から、従来技術は、課題2があるといえる。 課題1 参照ピクチャのPOC LSB値が、参照ピクチャを参照するピクチャのスライスヘッダ中でシグナリングされたPOC LSB値と一致しない。 課題2 2つのピクチャを含んでいるアクセスユニットにおいて、異なるPOC値を有するピクチャを含むことになるが、これはビットストリーム適合性について許可されない。 そこで、本件の発明の詳細な説明には、上記課題1、2を解決するために、以下の(1)?(3)(以下、課題解決手段1?3という)を備えるようにしたものが記載されているといえる。 (1) poc_lsb_not_present_flagが1に等しく、slice_poc_order_cnt_lsbが0より大きいとき(すなわち、0でないとき)poc_reset_idcを2に等しく設定しない(すなわち、2以外の値に設定しうる)(【0103】、【0122】、【0141】、【0142】、【0165】)。このとき、コーディングされているピクチャが0に等しいPOC LSB値を有するときのみ、2に等しくなるようにpoc_reset_idcシンタックス要素を符号化し得る(【0165】)。 (2) マルチレイヤ・ビットストリームが、非0のPOC LSB値をもつ非IDRピクチャであるベースレイヤピクチャと、IDRピクチャであるエンハンスメントレイヤピクチャとを有するアクセスユニットを含んでいるとき、poc_lsb_not_present_flagが1にならないように(すなわち、0になるように)する(【0160】)。 (3) poc_reset_idcシンタックス要素を3に等しいように符号化(復号)するとき、さらにfull_poc_reset_flagシンタックス要素とpoc_lsb_valシンタックス要素とをさらに符号化(復号)し得る。この場合、poc_lsb_not_present_flagが1に等しく、かつfull_poc_reset_flagが1に等しいとき、poc_lsb_valを0に等しく設定する(【0104】、【0123】、【0166】、【0175】)。 また、課題解決手段3により、以下の効果Aを有する旨の記載がある。 (効果A) このようにして、ビデオエンコーダ20(ビデオデコーダ30)は、POC値リセッティングが、0に等しいPOC LSB値を有するピクチャのためにのみ実行されることを保証し得、参照ピクチャが適切に識別されることを可能にし得る。 しかしながら、請求項1は課題解決手段1?3のいずれをも発明特定事項として含むものではなく、効果Aを奏するものでもない。 そうすると、本件発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているものであって、本件発明と発明の詳細な説明に発明として記載されたものとが実質的に対応しているとはいえない(サポート要件)。 2 また、本件発明について、なぜ上記課題1、2を解決することになるのか理解できない。 そうすると、本件発明は上記課題1、2を解決するものではないといえる。 一方、発明の詳細な説明には、次の記載がある。 「【0006】(略)」 「【0023】・・・ 【0024】・・・独立してコーディングされるべきマルチレイヤ・ビットストリームの非ベースレイヤを与えることは、いくつかの課題を提示し得る。たとえば、図4に関して以下でより詳細に説明するように、独立非ベースレイヤのピクチャのPOC LSB値をリセットすることは、参照ピクチャセット(RPS:reference picture set)の長期参照ピクチャ(LTRP:long-term reference picture)を適宜に識別することに関する問題を引き起こし得る。別の例として、独立非ベースレイヤのピクチャのPOC LSB値をリセットすることは、アクセスユニットがクロスレイヤ整合されないピクチャを含んでいることを引き起こし得る。」 「【0073】(略)」 「【0080】・・・ 【0081】・・・上記で説明した例は、独立非ベースレイヤをコーディングするときに課題を提示し得る。説明のための非限定的な例では、HEVC準拠ビデオデコーダが、IDRピクチャのPOC LSB値を0に等しくなるようにリセットし得る。そのような例では、HEVC準拠ビデオデコーダは、POC LSB値が0であるので、IDRピクチャのスライスのスライスヘッダからPOC LSB値の指示を復号するように構成されないことがある。したがって、HEVC準拠ビデオデコーダが、IDRピクチャのスライスヘッダからPOC LSB値を復号するように構成されないことがあるので、HEVC準拠ビデオデコーダは、POC LSB値がIDRピクチャのスライスヘッダ中でシグナリングされるとき、誤動作し(malfunction)得る。次いで、デコーダは、順次、次のIRAPピクチャにスキップし得、それにより、ユーザエクスペリエンス(a user experience)の連続性を劣化させ得る。」 しかしながら、本件発明は、なぜ上記記載の課題を解決することになるのかについて、具体的な説明はなく、理解することができない。 そうすると、本件発明は上記の課題に関係しないものにすぎないか、これらの課題を解決しないものにすぎない。 また、本件明細書中には、他に本件発明が解決すべき課題や、本件発明により、なぜそのような課題を解決できたのかについて、具体的にされている箇所が見当たらない。 以上から、発明の詳細な説明には、「発明が解決しようとする課題」として、本件発明が解決しようとする技術上の課題が少なくとも一つ記載されているとも、「その解決手段」として、本件発明によってどのようにして課題が解決されたかについて記載されているともいえない。 したがって、この出願の発明の詳細な説明は、本件発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものでない。(委任省令要件) ●理由3(委任省令要件)について また、本件明細書には、上記課題1、2を解決するための手段として、課題解決手段1?3が記載されている。 しかしながら、上記課題1、2は、課題解決手段2、3をとることによって解決するものではなく、また、課題解決手段1だけでは上記課題1、2の解決にほとんど何も寄与しないと考えられ、本件明細書には上記の課題を達成するための構成は、実施例中には示されていないといえる。 そうすると、この出願の発明の詳細な説明は、本件発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものでない。 第4 判断 1.明細書および図面の記載事項 (1) 本件明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。(下線は審決において付した。以下同じ。) 「【0006】 ・・・本開示の技法を使用してビデオコーダを制約することは、マルチレイヤ・ビットストリームのビデオデータのレイヤが、レイヤのスライスヘッダ中のデータを変更することなしに抽出されることを可能にし得る。さらに、POC値リセッティングが行われるロケーションを制御することは、ビデオコーダが復号ピクチャバッファ(DPB:decoded picture buffer)中の長期参照ピクチャ(long-term reference pictures)を適宜に識別し得ることを保証するのを助け得る。」 「【0023】 [0029]クロスレイヤ整合を維持するためのPOC値リセッティングに関して、説明のための例では、アクセスユニットは、POC値リセッティングを実行させるベースレイヤIDRピクチャと、IDRピクチャでない非ベースレイヤピクチャとを含み得る。アクセスユニットの非ベースレイヤピクチャのPOC値がベースレイヤピクチャのPOC値に一致することを保証するために、ビデオコーダは、非ベースレイヤピクチャのPOC値をリセットし得る。 【0024】 [0030]上述のように、独立非ベースレイヤは、非ベースレイヤがマルチレイヤ・ビットストリームから抽出されることを可能にするために特定の規格に関連付けられた特定のコーディングプロファイルに準拠し得る。しかしながら、独立してコーディングされるべきマルチレイヤ・ビットストリームの非ベースレイヤを与えることは、いくつかの課題を提示し得る。たとえば、図4に関して以下でより詳細に説明するように、独立非ベースレイヤのピクチャのPOC LSB値をリセットすることは、参照ピクチャセット(RPS:reference picture set)の長期参照ピクチャ(LTRP:long-term reference picture)を適宜に識別することに関する問題を引き起こし得る。別の例として、独立非ベースレイヤのピクチャのPOC LSB値をリセットすることは、アクセスユニットがクロスレイヤ整合されないピクチャを含んでいることを引き起こし得る。」 「【0073】 [0079]本開示の態様によれば、ビデオエンコーダ20およびビデオデコーダ30は、POC値リセッティングが実行される様式を制御し得る。本技法は、いくつかの事例では、独立非ベースレイヤを復号するときに、スライスヘッダ中でシグナリングされるLTRPのPOC値が、ビデオデコーダのDPBに記憶された参照ピクチャのPOC値との一貫性を維持することを可能にし得る。」 「【0080】 [0086]本開示の技法はまた、マルチレイヤアクセスユニットのピクチャのPOC値整合を維持すること(たとえば、アクセスユニットのすべてのピクチャが同じPOC値を有することを維持すること)に関する。たとえば、POC値リセッティングは、一般に、IDRピクチャのために実行されるが、マルチレイヤコーディングにおけるいくつかの事例では、ビデオエンコーダ20およびビデオデコーダ30は、IDRピクチャのPOC値をリセットしないことがある。説明のための例では、アクセスユニットは、IDRピクチャでないベースレイヤピクチャ、IDRピクチャである非ベースレイヤピクチャを含み得る。ビデオエンコーダ20およびビデオデコーダ30は、一般に、非ベースレイヤのIDRピクチャのためのPOC値リセッティングを実行し得るが、アクセスユニット中のPOC値整合を維持するために、ビデオエンコーダ20は、代わりに、非ベースレイヤピクチャのためのベースレイヤのPOC LSB値をシグナリングし得る(およびビデオデコーダ30がそのPOC LSB値を復号し得る)。たとえば、ビデオエンコーダ20は、非ベースレイヤピクチャのスライスヘッダ中に(0に等しくない)ベースレイヤのPOC LSB値の指示を含め得る。 【0081】 [0087]しかしながら、上記で説明した例は、独立非ベースレイヤをコーディングするときに課題を提示し得る。説明のための非限定的な例では、HEVC準拠ビデオデコーダが、IDRピクチャのPOC LSB値を0に等しくなるようにリセットし得る。そのような例では、HEVC準拠ビデオデコーダは、POC LSB値が0であるので、IDRピクチャのスライスのスライスヘッダからPOC LSB値の指示を復号するように構成されないことがある。したがって、HEVC準拠ビデオデコーダが、IDRピクチャのスライスヘッダからPOC LSB値を復号するように構成されないことがあるので、HEVC準拠ビデオデコーダは、POC LSB値がIDRピクチャのスライスヘッダ中でシグナリングされるとき、誤動作し(malfunction)得る。次いで、デコーダは、順次、次のIRAPピクチャにスキップし得、それにより、ユーザエクスペリエンス(a user experience)の連続性を劣化させ得る。」 (2) 次に、本件明細書の発明の詳細な説明の【0131】?【0137】、及び図4には以下の記載がある。 「【0131】 [0137]図4は、マルチレイヤ・ビットストリームの独立非ベースレイヤのためのPOC値リセッティングを示す概念図である。図4の例では、マルチレイヤ・ビットストリームはベースレイヤ(レイヤ0)90と独立非ベースレイヤ(レイヤ1)92とを含む。概して、図4に記載されている例示的な図の上半分は、たとえば、ビデオエンコーダ20などのビデオエンコーダによって符号化されるような、(「レイヤ1の抽出の前」という句によって示されている)抽出より前のマルチレイヤ・ビットストリームを示す。図4に記載されている例示的な図の下半分は、たとえば、ビデオデコーダ30などのビデオデコーダによって復号するための、(「レイヤ1の抽出の後」という句によって示されている)マルチレイヤ・ビットストリームからの抽出の後の非ベースレイヤ92を含んでいるサブビットストリームを示す。 【0132】 [0138]抽出の前に、ビデオエンコーダ20は、特定のビデオコーディング規格、たとえば、MV-HEVCまたはSHVCを使用してベースレイヤ90と非ベースレイヤ92とを符号化し得る。たとえば、ビデオエンコーダ20は、IDRピクチャ94のためのPOC値リセッティングを実行するように構成され得る。ビデオエンコーダは、2に等しいPOC値リセットインデックス(poc_reset_idc)をシグナリングし得る。POC値リセッティングの前に、ピクチャ94は、0のPOC MSB値と20のPOC LSB値とを有する。POC値リセッティングの後に、ピクチャ94は、0のPOC MSB値と0のPOC LSB値とを有する。さらに、POC値のクロスレイヤ整合を維持するために、ビデオエンコーダ20は、非ベースレイヤ92中に含まれるピクチャ96のPOC値リセッティングを実行し得る。したがって、POC値リセッティングの前に、ピクチャ96は、0のPOC MSB値と20のPOC LSB値とを有する。POC値リセッティングの後に、ピクチャ96は、0のPOC MSB値と0のPOC LSB値とを有する。 【0133】 [0139]POC値リセッティングを実行するときに、ビデオエンコーダ20はまた、POC値リセッティングを考慮するために、DPBに記憶されたピクチャのPOC LSB値を減分し得る。たとえば、ビデオエンコーダ20は、DPBに記憶された各参照ピクチャのPOC LSB値を20(たとえば、元のPOC LSB値とリセットPOC LSB値との間の差)だけ減分し得る。したがって、POC値リセッティングの前に、参照ピクチャ98は、0のPOC MSB値と3のPOC LSB値とを有する。POC値リセッティングの後に、参照ピクチャ98は、0のPOC MSB値と-17のPOC LSB値とを有する。同様に、POC値リセッティングの前に、参照ピクチャ100は、0のPOC MSB値と3のPOC LSB値とを有する。POC値リセッティングの後に、参照ピクチャ100は、0のPOC MSB値と-17のPOC LSB値とを有する。 【0134】 [0140]ビデオエンコーダ20はまた、インター予測を使用して非ベースレイヤ92のピクチャ102を符号化する。たとえば、ビデオエンコーダ20は、参照ピクチャ100をLTRPとして識別し、ピクチャ102(たとえば、長期参照ピクチャセット(LT-RPS))を符号化するためにRPS中に参照ピクチャ100を含める。ビデオエンコーダ20はまた、参照ピクチャ100をLTRPとして識別するために、ピクチャ102のスライスのスライスヘッダ中で、またはピクチャ102によって参照されるパラメータセット中で参照ピクチャ100のPOC LSB値をシグナリングし得る。すなわち、ビデオエンコーダ20は、(変換アルゴリズムを使用して正数への-17の変換の後に)シグナリングされる参照ピクチャ100のPOC LSB値が15になるようにPOC値リセッティングを実行した後にそのPOC LSB値をシグナリングし得る。 【0135】 [0141]抽出の後に、上述のように、ビデオデコーダ30は、非ベースレイヤを符号化するために使用されるマルチレイヤ規格と必ずしも同じとは限らない特定のシングルレイヤ規格、たとえば、HEVCに準拠することによって非ベースレイヤ92を復号するように構成され得る。したがって、ビデオデコーダ30は、非ベースレイヤ92を復号し、他のシンタックスを廃棄するか、またはさもなければ無視するために、その規格に関連付けられたシンタックスを使用し得る。本明細書では、HEVC、および/またはHEVCのマルチレイヤ拡張に準拠するビデオデコーダ30が参照されるが、本開示の技法は、必ずしもこのように限定されるとは限らず、他の規格とともに使用され得ることを理解されたい。 【0136】 [0142]ピクチャ102を復号するために、ビデオデコーダ30は、ビデオエンコーダ20によって実行される様式とは逆の様式でインター予測を実行するように構成され得る。したがって、ビデオデコーダ30は、LT-RPSから1つまたは複数のピクチャを含み得る参照ピクチャリストを構成し得る。たとえば、ビデオデコーダ30は、参照ピクチャ100を含む1つまたは複数の長期参照ピクチャを識別するために、ピクチャ102のスライスのスライスヘッダ、またはピクチャ102によって参照されるパラメータセットを復号し得る。 【0137】 [0143]上述のように、参照ピクチャ100のPOC LSB値は、(たとえば、POC値リセッティングを実行した後の-17のPOC LSB値に対応する)15に等しいものとして、ピクチャ102のスライスヘッダ中でシグナリングされ得る。しかしながら、ビデオデコーダ30は、POC値リセッティングを実行するように構成されないことがある。たとえば、ピクチャ96を復号するときに、ビデオデコーダ30はpoc_reset_idcシンタックス要素を復号しないことがあり、DPBに記憶されたピクチャのPOC LSB値を減分しないことがある。したがって、参照ピクチャ100のPOC LSB値は3に等しい。しかしながら、参照ピクチャ100は15のPOC LSB値によってスライスヘッダ中で識別される。したがって、図4の例では、参照ピクチャ100のPOC LSB値が、スライスヘッダ中でシグナリングされたPOC LSB値に一致しないので、ビデオデコーダ30は、DPB中で参照ピクチャ100の位置を特定し得る。」 「 」 (3) また、本件明細書の発明の詳細な説明の【0152】?【0157】、及び図5には、以下の記載がある。 「【0152】 [0156]図5は、マルチレイヤ・ビットストリームの独立非ベースレイヤのためのPOC値リセッティングを示す別の概念図である。図5の例では、マルチレイヤ・ビットストリームはベースレイヤ(レイヤ0)110と独立非ベースレイヤ(レイヤ1)112とを含む。ベースレイヤ110はIDRピクチャ114とピクチャ116とを含む。非ベースレイヤ112は、ベースレイヤ110のピクチャ114と同じアクセスユニット中にあるピクチャ118と、ベースレイヤ110のピクチャ116と同じアクセスユニット中にあるIDRピクチャ120とを含む。 【0153】 [0157]ビデオデコーダ30などのビデオデコーダは、特定のビデオコーディング規格、たとえば、MV-HEVCまたはSHVCを使用してベースレイヤ110と非ベースレイヤ112とを復号するように構成され得る。ビデオデコーダ30は、ピクチャ114がIDRピクチャであるので、ベースレイヤ110のピクチャ114のためにPOC値リセッティングを実行するように構成され得る。ビデオデコーダは、ピクチャ114の場合、2に等しいPOC値リセットインデックス(poc_reset_idc)を復号し得る。さらに、POC値のクロスレイヤ整合を維持するために、ビデオデコーダ30はまた、非ベースレイヤ112中に含まれるピクチャ118のPOC値リセッティングを実行し得る。したがって、POC値リセッティングの後に、ベースレイヤ110のピクチャ114と非ベースレイヤ112のピクチャ118の両方は、0に等しいPOC LSB値を有する。 【0154】 [0158]MV-HEVCおよびSHVCに含まれる、シンタックス要素poc_lsb_not_present_flag[i]は、POC LSB情報が、非ベースレイヤ112などの独立エンハンスメントレイヤのIDRピクチャに属するスライスのスライスセグメントヘッダ中に含まれないことを可能にする。シンタックス要素は、非ベースレイヤ112がマルチレイヤ・ビットストリームから抽出されること、および、レイヤ中のピクチャのスライスセグメントヘッダを変更することなしに、およびNALユニットヘッダ中のnuh_layer_idのみを変更することによって(たとえば、MV-HEVCまたはSHVCのために構成されたデコーダではなく)HEVCデコーダによって復号されること、を可能にすることを助け得る。たとえば、現在、MV-HEVCおよびSHVCのワーキングドラフトに記載されているように、1に等しいpoc_lsb_not_present_flagは、POC LSB値がIDRピクチャのスライスヘッダ中に存在しないことを指定する。0に等しいpoc_lsb_not_present_flagは、POC LSB値がIDRピクチャのスライスヘッダ中に存在することも存在しないこともあることを指定する。 【0155】 [0159]上述のMV-HEVCおよびSHVC規格に含まれるpoc_lsb_not_present_flag[i]に対する唯一の明示的制限は、レイヤが独立であるときのみ、poc_lsb_not_present_flag[i]の値が非ベースレイヤのために1に設定され得る(たとえば、インターレイヤ予測は、レイヤのビデオデータを予測するために使用されない)ということである。しかしながら、POC LSB値が非ベースレイヤ112などの独立非ベースレイヤのスライスヘッダ中に含まれないことを示すことは、0のPOC LSB値を有しないピクチャについて問題を生じ得る。 【0156】 [0160]たとえば、図5の例に示されているように、非ベースレイヤ112は、POC LSB値が、HEVCデコーダとの適合性を維持するためにIDRピクチャのスライスヘッダ中に含まれないことがあるように、1に等しく設定されたpoc_lsb_not_present_flag[i]に関連付けられ得る。ピクチャ120は、IDRピクチャのためのPOC値リセッティングが実行される(たとえば、poc_reset_idcが1に等しい)そのIDRピクチャである。したがって、ピクチャ120のスライスのスライスヘッダはPOC LSB値の指示を含まないことがある。ビデオデコーダ30は、ピクチャ120のPOC LSB値が0に等しいと推論(たとえば、自動的に決定)し得る。 【0157】 [0161]しかしながら、ピクチャ120のPOC LSB値が0に等しいと推論することは、(非ベースレイヤ112のピクチャ120と同じアクセスユニット中にある)ベースレイヤ110のピクチャ116のPOC LSB値が0に等しくないので、マルチレイヤ・ビットストリームがHEVC規格に対して非適合になることを生じ得る。そうではなく、ベースレイヤ110のピクチャ116のPOC LSB値は4である。したがって、ピクチャ116および120を含んでいるアクセスユニットは、ビットストリーム適合性について許可されない、異なるPOC値を有するピクチャを含む。」 「 」 (4) さらに、本件明細書の発明の詳細な説明には、【0160】、【0165】?【0166】に以下の記載がある。 「【0160】 [0164]このようにして、本開示の態様によれば、poc_lsb_not_present_flag[i]の値は、マルチレイヤ・ビットストリームが、非0のPOC LSB値をもつ非IDRピクチャであるベースレイヤピクチャと、IDRピクチャである(VPS中のi番目のレイヤに対応する)エンハンスメントレイヤピクチャとを有する1つまたは複数のアクセスユニットを含んでいるとき、poc_lsb_not_present_flag[i]の値が1に等しくないものとするように制約され得る。一例では、以下の制約は、MV-HEVCおよびSHVCのpoc_lsb_not_present_flag[i]のセマンティクスの一部として(たとえば、poc_lsb_not_present_flag[i]のセマンティックへの注釈として)追加され、ここで、追加は、イタリック体を使用して表される。 VPSを参照するすべてのCVS内で、0に等しいnuh_layer_idと0よりも大きいslice_pic_order_cnt_lsbとをもつ非IDRピクチャを含んでおり、および、layer_id_in_nuh[i]に等しいnuh_layer_idをもつIDRピクチャを含んでいる、少なくとも1つのアクセスユニットがあるとき、poc_lsb_not_present_flag[i]が1に等しくないものとするということは、ビットストリーム適合性の要件である。」 「【0165】 [0169]たとえば、図2に関して上記で説明したように、ビデオエンコーダ20は、poc_reset_idcシンタックス要素を符号化し得る。本開示の態様によれば、ビデオエンコーダ20は、poc_reset_idc値が1つまたは複数の制約に基づいて符号化される様式を制御し得る。たとえば、ビデオエンコーダ20は、コーディングされているピクチャが0に等しいPOC LSB値を有するときのみ、2に等しくなるようにpoc_reset_idcシンタックス要素を符号化し得る。すなわち、コーディングされている特定のレイヤのためのpoc_lsb_not_present_flagが(たとえば、レイヤが独立非ベースレイヤであることを示す)1に等しく、ピクチャのPOC LSB値を示すslice_pic_order_cnt_lsbシンタックス要素が0よりも大きいとき、ビデオエンコーダ20は、poc_reset_idcの値を2に等しく設定しないことがある。」 【0166】 [0170]ビデオエンコーダ20がpoc_reset_idcシンタックス要素を3に等しくなるように符号化するとき、ビデオエンコーダ20はfull_poc_reset_flagシンタックス要素とpoc_lsb_valシンタックス要素とをさらに符号化し得る。本開示の態様によれば、符号化されているレイヤのための(符号化されているレイヤが独立非ベースレイヤであることを示し得る)poc_lsb_not_present_flagが1に等しく、full_poc_reset_flagが1に等しいとき、ビデオエンコーダ20は、poc_lsb_valの値を0に等しく設定し得る。このようにして、ビデオエンコーダ20は、POC値リセッティングが、0に等しいPOC LSB値を有するピクチャのためにのみ実行されることを保証し得、それにより、本明細書で説明するように、参照ピクチャが適切に識別されることを可能にし得る。」 2. 本件明細書に記載された従来技術、課題及び課題解決手段とその効果 (1)課題1について 本件明細書【0024】、【0131】?【0137】、および図4の記載から、従来技術は、次の(i)?(iii)のものであり、(iv)の課題(「第3 当審拒絶理由の概要」の課題1と同じ内容の課題であるから、以下、課題1という)があるといえる。 (i)図4の上半分のように独立非ベースレイヤ(以下、INBLと記載する)92を含むマルチレイヤビデオを符号化する場合、ビデオエンコーダ20は、ベースレイヤ90と非ベースレイヤ92とを符号化し、IDRピクチャ94のためのPOC値リセッティングを実行し、IDRピクチャ94とピクチャ96の符号化時にPOC LSB値が20であったのを0にリセットし、参照ピクチャ98と参照ピクチャ100のPOC LSB値がリセットの前には3であったのをPOC値リセッティングの後に-17のPOC LSB値とを有するように減分する(【0131】?【0133】)。 (ii)ビデオエンコーダ20は、INBL92のピクチャ102を符号化するために、ピクチャ102のスライスヘッダ中で、または、ピクチャ102によって参照されるパラメータセット中で、参照ピクチャ100のPOC LSB値を-17から正数15になるように変換してPOC値リセッティングを実行した後に、そのPOC LSB値をシグナリングする(【0134】)。 (iii)一方、図4の下半分のようにINBL92を抽出して復号する場合は、ビデオデコーダ30は、POC値リセッティングを実行しないため、ピクチャ96を復号する場合、poc_reset_idcシンタックス要素を復号せず、DPBに記憶されたピクチャのPOC LSB値を減算しない(【0137】)。 DPBに記憶されたピクチャのPOC LSB値を減分しないことから、参照ピクチャ100のPOC LSB値は3に等しい。一方、ピクチャ102のスライスヘッダ中では参照ピクチャ100はPOC LSB値15によって識別される。 (iv)したがって、参照ピクチャ100のPOC LSB値が、ピクチャ102のスライスヘッダ中でシグナリングされたPOC LSB値と一致しない(【0137】)。 (2)課題2について 本件明細書の【0081】、【0152】?【0157】、および図5の記載から、従来技術は、次の(v)?(vii)のものであり、(viii)の課題(「第3 当審拒絶理由の概要」の課題2と同じ内容の課題であるから、以下、課題2という)があるといえる。 (v) シンタックス要素poc_lsb_not_present_flagは、POC LSB情報がINBLのIDRピクチャに属するスライスのスライスヘッダセグメント中に含まれないことを可能にする(【0154】)ものであり、図5のINBL112は、POC LSB値が、IDRピクチャのスライスヘッダ中に含まれないことがあるように、1に等しく設定されたpoc_not_present_flagに関連付けられ得る(【0156】)。 (vi) このとき、POC値リセッティングが実行されるIDRピクチャであるピクチャ120のスライスのスライスヘッダは、POC LSB値の指示を含まないことがあり、IDR120のPOC LSB値は0に推論(自動的に決定)し得る(【0156】)。 (vii) 一方、ベースレイヤ110のIDR114でリセットされたPOC LSB値はその後増分され、IDR120と同じアクセスユニット中にあるベースレイヤ110のピクチャ116のPOC LSB値は4である(図5、【0157】)。 (viii) したがって、ピクチャ116およびピクチャ120を含んでいるアクセスユニットは異なるPOC値を有するピクチャを含むことになるが、これはビットストリーム適合性について許可されない(【0157】)。 (3) 課題解決手段1?3及び発明の効果について 一方、本件明細書の【0160】、【0165】-【0166】の記載から、上記課題1,2を解決することに関連して、以下の(ix)?(xi)(以下、課題解決手段1?3という)を備えるようにしたものが記載されているといえる。 (ix) ビデオエンコーダ20は、poc_lsb_not_present_flagが1に等しく、slice_pic_order_cnt_lsbが0より大きいとき(すなわち、0でないとき)poc_reset_idcを2に等しく設定しない(すなわち、2以外の値に設定する)(【0165】)。 このとき、ビデオエンコーダ20は、コーディングされているピクチャが0に等しいPOC LSB値を有するときのみ、2に等しくなるようにpoc_reset_idcシンタックス要素を符号化し得る(【0165】)。 (x) マルチレイヤ・ビットストリームが、非0のPOC LSB値をもつ非IDRピクチャであるベースレイヤピクチャと、IDRピクチャであるエンハンスメントレイヤピクチャとを有するアクセスユニットを含んでいるとき、poc_lsb_not_present_flagが1にならないように(すなわち、0になるように)することで、ビットストリーム適合性の要件を満たすようにする(【0160】)。 (xi) ビデオエンコーダ20がpoc_reset_idcシンタックス要素を3に等しいように符号化するとき、full_poc_reset_flagシンタックス要素とpoc_lsb_valシンタックス要素とをさらに符号化し得る。この場合、poc_lsb_not_present_flagが1に等しく、かつfull_poc_reset_flagが1に等しいとき、poc_lsb_valを0に等しく設定する。(【0166】) また、課題解決手段3により、以下の(xii)の効果(以下、効果Aという)を有することが記載されているといえる。 (xii) このようにして、ビデオエンコーダ20(ビデオデコーダ30)は、POC値リセッティングが、0に等しいPOC LSB値を有するピクチャのためにのみ実行されることを保証し得、参照ピクチャが適切に識別されることを可能にし得る(【0166】)。 3. 本件発明の発明特定事項と、課題及び課題解決手段との関係 (1)本件発明の発明特定事項Bを踏まえた、発明特定事項C?C4は、「マルチレイヤ・ビットストリームの独立して復号可能な非ベースレイヤのピクチャ」である「前記ピクチャが、0に等しい前記ピクチャのためのピクチャ順序カウント(POC)最下位ビット(LSB)値を有するときのみ、前記ピクチャのPOC LSB値のためのPOC値リセットを示すデータをコーディングする」ことを特定する。 (2) しかしながら、上記発明特定事項C?C4は、上記2(2)の課題解決手段1の一部を含むにすぎず、課題解決手段2?3のいずれをも発明特定事項として含むものではなく、効果Aを奏するものでもない。 (3) また、本件発明について、特に発明特定事項Bを踏まえた、発明特定事項C?C4を具備することにより、なぜ上記課題1、2を解決することになるのか理解できない。 すなわち、本件発明により、なぜDPBに記憶されたピクチャのPOC LSB値とスライスヘッダ中でシグナリングされたPOC LSB値を一致させることができるのか、理解することはできない。 また、本件発明により、なぜベースレイヤのピクチャ116およびINBLのピクチャ120を含んでいるアクセスユニットは同じPOC値を有することになるのか、理解することはできない。 そうすると、本件発明は上記課題1、2を解決するものではないといえる。 (4) 上記2(1)(iv)、2(2)(viii)における課題1,2及び上記2(3)における課題解決手段1-3について、さらに検討する。 本件明細書には、上記課題1、2を解決するための手段として、上記課題解決手段1?3が記載されている。 しかしながら、まず上記課題解決手段1だけでは上記課題1、2の解決にほとんど何も寄与しないと考えられる。 また、上記課題1、2は、上記課題解決手段2、3をとることによって解決するものではなく、課題解決手段2、3に加えて、少なくともさらに以下の下線部の条件を備える必要があると考えられる。 課題解決手段2については、課題解決手段1を前提とした上で、マルチレイヤ・ビットストリームが、非0のPOC LSB値をもつ非IDRピクチャであるベースレイヤピクチャ(図5のピクチャ116)と、INBLであるエンハンスメントレイヤについてIDRピクチャ(図5のピクチャ120)とを有するアクセスユニットを含んでいるとき、IDRピクチャであるエンハンスメントレイヤピクチャ(図5のピクチャ120)のスライスヘッダにベースレイヤ(図5のピクチャ116)と同じPOC LSB値を、poc_lsb_not_present_flagに0を、それぞれ設定する。 下線部の条件が備えられることで、ピクチャ120のPOC LSB値が明示的にシグナリングされ(0に推定されることがなくなり)、ピクチャ116と同じPOC LSB値(この場合、4)が設定される。その結果、ピクチャ116およびピクチャ120を含んでいるアクセスユニットは同じPOC値を有することになり、上記課題2が解決されるものと考えられる。 課題解決手段3については、課題解決手段1を前提とした上で、マルチレイヤ・ビットストリームが、IDRピクチャであるベースレイヤピクチャ(図4のピクチャ94)と、INBLであるエンハンスメントレイヤ(図4のレイヤ92)についてのエンハンスメントレイヤピクチャ(図4のピクチャ96)を有するアクセスユニットを含んでいるとき、このエンハンスメントレイヤピクチャ(図4のピクチャ96)に対してpoc_reset_idcシンタックス要素を3に等しいように符号化し、poc_lsb_not_present_flagが1に等しく、かつfull_poc_reset_flagが1に等しいとき、poc_lsb_valを0に等しく設定する。 下線部の条件が備えられることで、INBLであるレイヤ92を抽出して復号する場合、ピクチャ96を復号したときにPOCリセットが行われる。この結果、POC LSB値が0に設定されるとともに、DPB中のPOC LSB値が減分されることで、上記課題1が解決されるものと考えられる。 しかしながら、本件明細書には上記下線部の条件を考慮することについての記載がなく、本件明細書の記載から自明のものであるということもできない。 すなわち、上記の課題を解決するための構成は、実施例中には示されていないといえる。 また、本件発明は、上記下線部の条件を考慮することについて特定する事項を含むものではないことはもちろん、課題解決手段2,3を含むものですらない。 そうすると、本件発明において特定される事項によっては、上記の課題を解決することはできないといえる。 (5) その他の課題及び課題解決手段について また、本件明細書中には、他に本件発明が解決すべき課題や、本件発明について、特に発明特定事項Bを踏まえた、発明特定事項C?C4を具備することにより、なぜ本件発明が解決すべき課題を解決できたといえるのかについて、具体的に説明されている箇所が見当たらない。 (6) 小括 (1)?(5)から、この出願の発明の詳細な説明は、本件発明について、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載したものということはできないことから、経済産業省令で定めるところにより記載されたものでなく、特許法第36条第4項第1号の規定を満たすものではない。 請求項1を引用する請求項2-6、11に係る発明、本件発明をデバイスという物の発明として特定した請求項7に係る発明、請求項7を引用する請求項8-10に係る発明についても、同様である。 4. まとめ 以上のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、「発明が解決しようとする課題」として、請求項1-11に係る発明のいずれかの発明が解決しようとする技術上の課題が少なくとも一つ記載されているとも、「その解決手段」として、本件発明によってどのようにして課題が解決されたかについて記載されているともいえないから、この出願の発明の詳細な説明は、請求項1-11に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものでなく、特許法第36条第4項第1項に規定する要件を満たしていない。 5. 審判請求人の主張について 審判請求人は、令和2年11月12日付意見書において、 「本願発明は、明細書の段落0006にも明記されている通り、「マルチレイヤ・ビットストリームの独立非ベースレイヤ(an independent non-base layer)のピクチャのためのピクチャ順序カウント(POC:picture order count)値リセッティングを制御すること」を開示します。 そして、補正後の請求項1に記載した通り、「(中略)」というPOCリセッティングに関連する構成を有し、例えば明細書の段落0074?0075に記載された通りに動作します。」 と主張しているので、これについて検討する。 明細書の段落0074?0075には、以下の記載がある(下線は合議体が付した。)。 「【0074】 [0080]一例では、ビデオエンコーダ20およびビデオデコーダ30は、マルチレイヤ・ビットストリームの独立して復号可能なレイヤのピクチャをコーディング(符号化または復号)し得る。ビデオエンコーダ20およびビデオデコーダ30はまた、ピクチャが、0に等しいピクチャのためのPOC LSB値を有するときのみ、ピクチャのPOC LSB値のためのPOC値リセットを示すデータをコーディングし得る。そのような事例では、POC値リセットを実行することは、POC LSB値がすでに0に等しいので、ビデオエンコーダ20またはビデオデコーダ30に、DPBに記憶されたピクチャのPOC値を減分するように要求しない。 【0075】 [0081]説明のために上記で説明した例に戻ると、ビデオエンコーダ20およびビデオデコーダ30が、(たとえば、上述した60のPOC LSB値ではなく)0のPOC LSB値を有するピクチャにおいてPOC値リセッティングを実行する場合、ビデオエンコーダ20およびビデオデコーダ30は、POC LSB値と0との間の差が0であるので、DPBに記憶されたピクチャのPOC LSB値を減分しない。したがって、スライスヘッダ中でシグナリングされたLTRPのPOC LSB値は、ビデオデコーダ30においてDPBに記憶されたピクチャのPOC LSB値に一致する。」 そして、上記下線部は、発明特定事項C?C4のうち、特に発明特定事項C2を裏付ける事項である。 ここで、発明特定事項C?C4は、課題解決手段1の一部を含むものにすぎず、課題解決手段2?3のいずれを発明特定事項として含むものではなく、効果Aを奏するものではないことから、本件発明において特定される事項によっては、上記2(1)(iv)、2(2)(viii)における課題1、2をどのように解決したのか、具体的な説明がなく、理解することができないことは、上記3の(2)?(3)において示したとおりである。 また、上記下線部に関連して、マルチレイヤ・ビットストリームのINBLのピクチャのためのPOC値リセッティングを制御することに関して、その他どのような課題が存在したのか不明であること、およびその解決手段についても不明であること、については、上記3(5)に示したとおりである。 そうすると、上記4のとおり、発明の詳細な説明には、「発明が解決しようとする課題」として、本件発明が解決しようとする技術上の課題が少なくとも一つ記載されているとも、「その解決手段」として、本件発明によってどのようにして課題が解決されたかについて記載されているともいえない。 したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。 第4 むすび 以上のとおり、発明の詳細な説明には、「発明が解決しようとする課題」として、本件発明が解決しようとする技術上の課題が少なくとも一つ記載されているとも、「その解決手段」として、請求項1-11に係る発明によってどのようにして課題が解決されたかについて記載されているともいえず、この出願の発明の詳細な説明は、請求項1-11に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものでなく、特許法第36条第4項第1項に規定する要件を満たしていない。 したがって、本願は、拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審理終結日 | 2020-12-23 |
結審通知日 | 2021-01-05 |
審決日 | 2021-01-22 |
出願番号 | 特願2016-557588(P2016-557588) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(H04N)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 岩井 健二 |
特許庁審判長 |
清水 正一 |
特許庁審判官 |
川崎 優 千葉 輝久 |
発明の名称 | マルチレイヤ・ビデオコーディングのためのPOC値設計 |
代理人 | 岡田 貴志 |
代理人 | 井関 守三 |
代理人 | 蔵田 昌俊 |