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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A47D
管理番号 1374829
審判番号 不服2020-17711  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-24 
確定日 2021-06-26 
事件の表示 特願2019-124569号「ヒップシート及びベビーキャリア」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 2月12日出願公開、特開2021- 13406号、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和1年7月3日の出願であって、令和2年6月25日付けで拒絶理由が通知され、同年9月4日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月16日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年12月24日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


・請求項 1?3
・引用文献 1?4

・請求項 4
・引用文献 1?5

<刊行物等一覧>
引用文献1.特開平11-225858号公報
引用文献2.特開2002-262969号公報
引用文献3.特開2006-231033号公報
引用文献4.特開2017-46813号公報
引用文献5.登録実用新案第3026371号公報

第3 本願発明
本願請求項1?4に係る発明(以下「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、令和2年12月24日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「 【請求項1】
装着者の身体に沿って配置可能な基部、乳幼児の臀部を載置可能な座面を有する座部、
前記基部と前記座部とを回動可能に連結する連結部、前記基部に対する前記座部の回動角度を調整及び保持可能な角度調整部を有する台座と、
前記台座に対応した形状を有して前記台座を出し入れ可能に収容する収容部と、
前記収容部における前記基部が収容された基部領域に接続され、前記装着者の腰部に装着可能な腰ベルトと、を備えた、ヒップシートにおいて、
前記基部及び座部は、幅方向両側にリブを有する板状部材で形成され、
前記座部は、前記連結部から先端に向けて幅が漸減する形状に形成され、
前記連結部は、前記基部及び前記座部の幅方向両端部を回動可能に連結され、
前記角度調整部は、前記基部の支持面の反対面と前記座部の座面の反対面とを架設するように設けられ、前記基部に対する前記座部の回動角度が30?180度の範囲で調整可能であり、前記座部を回動させて前記乳幼児を乗せたときに、前記乳幼児の体重負荷を支持しつつ回動角度を維持可能なラチェット機構を有することを特徴とするヒップシート。
【請求項2】
前記基部は、前記装着者の身体により支持可能な支持部を有している、請求項1に記載のヒップシート。
【請求項3】
前記収容部における前記座部を収容する座部領域と前記基部領域との境界付近の前記座面側に前記乳幼児に装着可能な安全ベルトが設けられている、請求項1又は2に記載にヒップシート。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載のヒップシートと、前記収容部における前記座部を収容する座部領域の先端部に着脱可能に連結されて、前記装着者との間で前記乳幼児の胴体部を保持する胴パッドと、前記胴パッドに接続されて前記装着者の肩に装着される肩ベルトと、を備えた、ベビーキャリア。」

第4 引用文献の記載事項等
1 引用文献1
(1)記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与。以下同様。)。
(1a)「【請求項1】 装着者の腰まわりに固着されるベルトと、該ベルトと一体に設けられた当て板と、を備えた子守帯において、
前記当て板は前記装着者の腹部に沿うように位置決めされるとともに、該当て板に対して略平行に折り畳み可能な座板および背当て板とを有しており、
前記当て板に対して略平行に折り畳み状態にある前記座板と前記背当て板とが引き出し動作によって前記当て板から離反して腰掛け部を形成し、
一方、折り畳み動作によって、前記腰掛け部の形成状態から前記座板と前記背当て板とが前記当て板に向けて該当て板に対して略平行に折り畳まれることを特徴とする子守帯。
・・・
【請求項3】 前記子守帯において、
前記当て板を支点として前記座板及び前記背当て板を所定角度に開き且つ折り畳ませるためのリンク機構を構成する連結部材を有することを特徴とする請求項1または2記載の子守帯。
【請求項4】 前記子守帯において、
前記当て板の一端を支点として前記座板の一端に係合して座板を開状態に保持するとともに係合を解除することにより折り畳み状態にするロック部材を備えたことを特徴とする請求項1?3のいずれか1項記載の子守帯。」

(1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、母親などが乳幼児を抱く際に使用される子守帯に関し、特に使用する場合は身体の前面において乳幼児を腰掛けさせて抱き、不使用時には被覆部材に収容して腰部に係止するように構成した子守帯に関する。」

(1c)「【0010】
【発明の実施の形態】次に、図1?図18を参照して本発明に係る子守帯実施形態を説明する。図1は子守帯の外観構成を示す斜視図である。図中符号1は子守帯であり、この子守帯1は、当て板32(図10参照)を包む当て板収納部2と、この当て板収納部2の両側から延び、例えば母親などの子守をする者(以下、装着者という)3(図2参照)の腰部に巻回されるベルト4と、このベルト4の端部を着脱するベルトバックル5と、腰部のうちの背面側等に当てつける幅広の腰パッド6と、使用時に前記当て板収納部2から引き離される座部7と、この座部7から立ち上げられ、この座部7に座った幼児の背もたれとなる背当て部8と、この背当て部8の上部
の両側から引き出される肩ベルト9と、この肩ベルト9に設けられた肩パッド11と、肩ベルト9の両端を固着するラダー12等を備えている。」

(1d)「【0018】連結基板31は、本発明の子守帯1の骨格をなすものであり、ポリプロピレンやポリアミド等の合成樹脂を成型したものである。その構成は図10に示すように、収納部3内に収納されて装着者3の腹部に当てつけられる当て板32、座部7を構成する座板33、背当て部8を構成する背当て板34に大別される。当て板32と座板33とは、連結ピン35により蝶番状に連結されているが、連結ピン35は当て板32に設けた軸受部36と、座板33に設けた軸受部37とを交互に挿通している。当て板32の中央上部には、連結部材38の一端を回動自在に連結する連結軸受部39が設けられている。
【0019】連結部材38の一端は連結ピン41を介して連結軸受部39に回動自在に取付けられ、他端は背当て板34の下端に回動自在に取付られている。連結軸受部39の両側には、ベルト4の両端部を固定する凹状の固定部42A、42Bが設けられ、その外側には引き出し枠43A、43Bが設けられている。当て板32は、装着者3の腹部等に当て付けられるものであるから、横方向に緩く弓なりに形成され、下端はスリット44により短冊状に形成されている。したがって、当て板32の下部は弾性を有するようになり、装着者の腹部の体型の如何に関わらずフィットし、違和感を感じることがなくなる。
【0020】座板33は、幼児22の臀部を載せるものであり、その平面形状は図18に示すように楕円形に近い板体である。しかし、座わり心地を良好にするため中央部がやや窪んだ形状に形成されている。この窪み形状は、底面に形成した補強リブ45(図10参照)の高さ変化によって理解できる。座板33の上端には軸受部46が設けられ、軸受部46を挿通した連結ピン47により、背当て部34が回動自在に取り付けられる。」

(1e)「【0025】次に、連結基板31の折り畳み等の作用について説明する。連結基板31を組み立てた状態では、連結部材38に設けたロック部材61が図15の中央切欠部に示すように座板33の底面に形成した係合突起62の下部に係合している。ロック部材61は、連結ピン41を中心に回動するように形成され、当て板32の一端とに固定されたバネ63によって常に図15中連結ピン41を中心として時計方向に付勢されている。この構成では、座板33に対し自重によって連結ピン35を中心に半時計方向に回動しようとする力が作用している。しかし、ロック部材61がバネ63によって時計方向に引かれ、図示の如く係合突起62の下部に当接している状態では、座板33の重み(幼児22を載せている場合は幼児22の体重が加算される)はロック部材61に掛かり、ロック部材61は連結ピン41により前記重みを受ける。したがって、座板33は幼児22を載せても回動せず、安全に幼児22を抱き続けることができる。」

(1f)「【0028】次に、前記連結基板31とカバーについて説明する。連結基板31を構成する各部材には、図15に示すようにスポンジ65が貼付されている。そして、連結基板31とスポンジ65等の周囲を布等の軟性材料により覆い、図1に示した子守帯1を完成する。図17は、子守帯1の構成を模式的に示したものであり、連結基板31を構成する各部材は板状に図示して同一符号を付してある。当て板収納部2は、当て板32とスポンジ65とを当て板収納部71によって覆った構成になっている。当て板収納部71は合繊等の布製で実現できる。また、当て板収納部71の装着者側の下方には面ファスナ17が設けられている。そして、当て板収納部71の上部に孔711が形成され、この孔711を通してロック解除紐21が引き出されている。
【0029】座部7は、座板33や連結部材38、スポンジ65を布製の被覆部材72で覆った構成になっている。また、背当て部8は、背当て板34や可動背当て板51、スポンジ65を布製の被覆部材73によって覆った構成になっている。被覆部材73に物品収納部75が縫着されており、上部にはファスナ14が設けられている。この物品収納部75に不使用時の肩ベルト9や、テッシュペーパー等の小物、財布等を収納すると便利である。また、被覆部材73の上部にはフラップ13が縫い付けられ、物品収納部75を覆ってフラップ13に設けられた面ファスナ16が物品収納部75の面ファスナ15に係止できるようになっている。
・・・
【0031】更に注目すべきことは、座板33の平面形状が図18に示すように略楕円形に形成され、図18の下側部分、即ち乳幼児22を座らせた時に膝から下げる部分Pが括(えぐ)れ形状に形成されていることである。このため、乳幼児22の両足が従来のように無理に広げられることがなく、乳幼児22が無理な姿勢にならない。したがって、前記座部7の傾斜と相まって、乳幼児22を疲れることなく、楽な姿勢で、しかも落下等の危険がなく抱き続けることができる。」

(1g)「【0032】以上に本発明の実施形態を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず種々の変形が可能である。例えば、ロック部材61か係合部材62のいずれかに段差を形成し、座板33の傾斜角度を複数段に設定することもできる。」(合議体注;「係合部材62」は、発明の詳細な説明全体や【符号の説明】の記載からみて「係合突起62」の誤記と認める。)

(1h)図1、2、5、10、15?17は次のとおりである。
【図1】


【図2】


【図5】


【図10】


【図15】


【図16】


【図17】



(2)認定事項
図10(記載事項(1h))より、「座板33」は幅方向両側にリブを有することが看取できる。

(3)引用発明
上記(1)、(2)より、引用文献1には、段落【0032】(記載事項(1g))に係る事項を有する次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
なお、引用文献1において、符号22に対し「幼児」、「乳幼児」と異なる名称が用いられているが、「発明の属する技術分野」(記載事項(1b))も参酌して「乳幼児」で統一した。
「当て板32と、当て板32を包む当て板収納部2と、この当て板収納部2の両側から延び装着者3の腰部に巻回されるベルト4と、を備えた子守帯1において、
前記当て板32は、装着者3の腹部に当てつけられるものであり、
前記当て板32は前記装着者3の腹部に沿うように位置決めされるとともに、該当て板32に対して略平行に折り畳み可能な座板33および背当て板34とを有しており、
前記座板33は、乳幼児22の臀部を載せるものであり、幅方向両側にリブを有する楕円形に近い板体であって、
前記当て板32に対して略平行に折り畳み状態にある前記座板33と前記背当て板34とが引き出し動作によって前記当て板32から離反して腰掛け部を形成し、
一方、折り畳み動作によって、前記腰掛け部の形成状態から前記座板33と前記背当て板34とが前記当て板32に向けて該当て板32に対して略平行に折り畳まれ、
当て板32と座板33とは、連結ピン35により蝶番状に連結されているが、連結ピン35は当て板32に設けた軸受部36と、座板33に設けた軸受部37とを交互に挿通しており、
前記当て板32を支点として前記座板33及び前記背当て板34を所定角度に開き且つ折り畳ませるためのリンク機構を構成する連結部材38を有し、
前記当て板32の一端を支点として前記座板33の一端に係合して座板33を開状態に保持するとともに係合を解除することにより折り畳み状態にするロック部材61を備え、
ロック部材61が座板33の底面に形成した係合突起62の下部に係合し、座板33は乳幼児22を載せても回動せず、安全に乳幼児22を抱き続けることができ、
ロック部材61か係合突起62のいずれかに段差を形成し、座板33の傾斜角度を複数段に設定し、
当て板収納部2は、当て板32とスポンジ65とを当て板収納部71によって覆った構成になっており、
座部7は、座板33や連結部材38、スポンジ65を被覆部材72で覆った構成になっており、
背当て部8は、背当て板34や可動背当て板51、スポンジ65を被覆部材73によって覆った構成になっている、子守帯1。」

2 引用文献2
(1)記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。
(2a)「【0014】
【発明の実施の形態】図1ないし図5はこの発明の実施形態であるベビーホルダー兼用ウエストバッグを示す図である。これらの図に示すように、このバッグは、両端にウエストベルト(20)が接続されたバッグ本体(10)と、バッグ本体(10)内に収納配置された芯部材(40)と、バッグ本体(10)の内部に接続された吊りバンド(60)とを具備している。」

(2b)「【0025】図6に示すように、芯部材(40)は、例えばインジェクション成形等により容易に製造することができる発泡ポリスチレン等の硬質合成樹脂等からなり、座板部(41)と、その座板部一端から下方に伸びるように設けられた腰当て部(42)とを一体的に有する断面略倒L字状のものにより構成されている。
・・・
【0028】 この構成の芯部材(40)が、座板部(41)をバッグ本体(10)の上カバー(12)に臨ませてスカート部(16)内に嵌め込むとともに、腰当て部(42)を背カバー(11)に臨ませた状態で、バッグ本体(10)内に収納されている。
【0029】更にこの収納状態において、バッグ本体(10)の背カバー(11)に縫着された固定ベルト(50)の両側部が芯部材(40)の固定ベルト挿通孔(46)(46)に挿通され、そのベルト(50)の両端部が対応面に設けられた面ファスナー(51)により着脱自在に固定されることによって、芯部材(40)がバッグ本体(10)に固定されている。なおこの固定ベルト(50)は、少なくとも1つあれば足りるが、もとより2つ以上設けるようにしても良い。」

(2c)「【図面の簡単な説明】
・・・
【図5】実施形態のウエストバッグを開口させて芯部材を取り外した状態で示す斜視図である。
・・・」

(2d)図4?6は次のとおりである。
【図4】


【図5】


【図6】




3 引用文献3
(1)記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、次の事項が記載されている。
(3a)「【0051】
本発明の頭当て部材において、ヘッドガードおよび安全ベルトの有無は任意であり、これらが設けられていないものも本発明に含まれる。ヘッドガードが邪魔にならない場合は、だっこにも使用できる。また、安全ベルトの無い頭当て部材を使用する場合は、図6に示すように、別の安全ベルト(18)を用い、シート(11)の内面のループ(17)に安全ベルト(18)を通して頭当て部材と幼児に巻き止めるようにしても良い。この安全ベルト(18)は、前記頭当て部材(20)の安全ベルト(26)と同様に幼児の落下を防いで安全性を高め得るものである。また、前記安全ベルト(18)は、幼児の身体に直接巻き止めて使用することもでき、頭当て部材を使用しない横抱きや図5に示した縦だっこにも使用できる。なお、図中(19)はバックルである。
【0052】
前記ループ(17)(17)… の取り付け位置はシート(11)の内面であれば限定されないが、幼児の胸腹部の近くに取り付けることが好ましい。本実施形態では、縫着強度を確保するためにメッシュ状シート(13)を避けて織布(14)のメッシュ状シート(14)近くに取り付けた。
シート全体が非伸縮性シートで構成されている場合には、幅方向の中心またはその近くに取り付けても良いし、所要の強度が得られる場合はメッシュ状シートに取り付けても良い。
【0053】
さらに、前記安全ベルト(18)をシート(11)に係止するための係止手段は何ら限定されない。本実施形態のループ(17)は、安全ベルト(18)を通して係止するので安全ベルト(18)が抜け落ちるおそれがなく、また布で製作できるので柔らかく幼児に触れても安全である点で推奨できる。」

(3b)図6は次のとおりである。
【図6】


4 引用文献4
(1)記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、次の事項が記載されている。
(4a)「【請求項1 】
乳幼児を載置するための組立構造体であって、
前記乳幼児が載置されるシート本体と、
前記シート本体に対して前後方向に傾動可能に装着され、アーチ形状の外形を有するトイバーと、
前記トイバーを任意の傾斜角度で保持するための保持手段と、備え、
前記トイバーは、前記アーチ形状で形成される仮想平面の面平行方向における剛性が低く、前記仮想平面に垂直な方向における剛性が高くなるように構成されている、乳幼児載置用の組立構造体。」(合議体注;「と、備え」は「とを備え」の誤記と認める。)

(4b)「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、もし仮に、第1のカテゴリーに属するトイバーにおいて、トイバーの両端部に回転機構を設けても、トイバー自体が柔軟部材で構成されているため、前後方向にトイバーを押しても(あるいは引いても)、トイバー自身が前後方向に変形するのみであり、トイバーの傾斜角度を変化させることが極めて困難もしくは不可能である。
【0013】
また、第2のカテゴリーに属するトイバーにおいては、トイバーの角度の変更は容易であるが、トイバーの剛性が高いため、乳幼児の不慮の事故を防止する観点から、その安全面において改善の余地がある。
【0014】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、簡易な構成により、安全性が高く且つ傾斜角度を容易に変更できる、乳幼児載置用の組立構造体に使用されるトイバーおよび同トイバーを備えた乳幼児載置用の組立構造体を提供することを目的とする。」

(4c)「【0024】
図1に示したように、本実施形態による乳幼児載置用の組立構造体1は、座床部2、背もたれ部3、および脚部4を有するシート本体を備えている。
・・・
【0026】
座床部2の左右両端部には、乳幼児が組立構造体1から落下することを防止するために、サイドガード5が設けられている。サイドガード5は、組立構造体1のシート本体の一部を構成している。サイドガード5には、テーブル6およびトイバー7が装着されている。
・・・
【0031】
サイドガード5に装着されたトイバー7は、外形がアーチ形状をなしている。トイバー7には、中央の略水平部付近にトイ(おもちゃ)17がひも18で吊り下げられ、組立構造体1に載せられた乳幼児が、吊り下げられたトイ17を眺めたり、直接手に触れて遊んだりできる。トイバー7は、背もたれ部3の傾斜角度との関係も考慮して、適切な傾斜角度に傾けることができる構造となっている。トイバー7の傾斜可変機構については後述する。」

(4d)「【0036】
図4および図10に示したように、トイバー7の両端部の取付部にはラチェット機構(保持手段)19が設けられ、このラチェット機構19により、トイバー本体7Aの前後方向の傾動動作および傾斜角度の設定が可能となっている。
・・・
【0038】
トイバー7は、通常、略鉛直方向に立てて使用され、トイバー7に吊るされたトイ17を乳幼児が下方に引いたときには、それに応じて自由に引き下げられることが望ましい。
・・・
【0042】
なお、ラチェット機構19には、従来周知の構造のものを使用することができ、多段階の任意の角度に設定することが可能である。」

(4e)図1、4は次のとおりである。
【図1】

【図4】


(2)引用文献4に記載された技術的事項
上記(1)より、引用文献4には次の技術的事項が記載されているものと認める。
「乳幼児を載置するための組立構造体1であって、
前記乳幼児が載置されるシート本体と、
前記シート本体に対して前後方向に傾動可能に装着され、アーチ形状の外形を有し、トイ17を吊り下げるトイバー7とを備え、
前記トイバー7の両端部の取付部には多段階の任意の角度に設定することが可能であるラチェット機構19が設けられ、このラチェット機構19により、トイバー本体7Aの前後方向の傾動動作および傾斜角度の設定が可能となっており、
前記トイバー7は、前記アーチ形状で形成される仮想平面の面平行方向における剛性が低く、前記仮想平面に垂直な方向における剛性が高くなるように構成されている」技術。

5 引用文献5
(1)記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には、次の事項が記載されている。
(5a)「 【0001】
【産業上の利用分野】
この考案は、乳幼児をだっこする際に使用する補助具に関するものである。
・・・
【0007】
【実施例】
図1はこの考案実施例の使用状態を示すものである。すなわち、腰掛け1の両側に腰掛けを使用者に固定するウエストベルト2が取付けてあり、腰掛け1の前方に使用者の首や肩に掛けるループ状の吊りベルト3の両端が係止具5によって着脱自在に取付けてあり、この吊りベルト3に背板4が固着してある。
前記背板4の吊りベルト3への固着は、背板4の下部両側4aを夫々吊りベルト3に縫合してある。そして、図1においては、吊りベルト3の対向部間に取付けた取付けベルト6を背板4に設けたベルト通し7に挿通させて、背板4の安定性を高めている。」

(5b)図1は次のとおりである。
【図1】




第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 後者の「装着者3」は前者の「装着者」に相当し、以下同様に、「当て板32」は「基部」に、「乳幼児22」は「乳幼児」に、「座板33」は「座部」に、「ベルト4」は「腰ベルト」に、「子守帯」は「ヒップシート」にそれぞれ相当する。

イ 後者の「当て板32と座板33とは、連結ピン35により蝶番状に連結されているが、連結ピン35は当て板32に設けた軸受部36と、座板33に設けた軸受部37とを交互に挿通して」いる構成は、前者の「連結部」に相当する。

ウ 後者の
「前記当て板32を支点として前記座板33及び前記背当て板34を所定角度に開き且つ折り畳ませるためのリンク機構を構成する連結部材38を有し、
前記当て板32の一端を支点として前記座板33の一端に係合して座板33を開状態に保持するとともに係合を解除することにより折り畳み状態にするロック部材61を備え、
ロック部材61が座板33の底面に形成した係合突起62の下部に係合し、座板33は乳幼児22を載せても回動せず、安全に乳幼児22を抱き続けることができ、
ロック部材61か係合突起62のいずれかに段差を形成し、座板33の傾斜角度を複数段に設定し」
ている構成は、前者の「角度調整部」に相当する。

エ 後者の「当て板32」、「座板33」、「ロック部材61」及び「係合突起62」を合わせたものは、前者の「台座」に相当する。

オ 後者の「当て板収納部71」及び「被覆部材72」を合わせたものは、前者の「収容部」に相当する。
また、上記アも踏まえると、後者の「当て板収納部71」は、前者の「基部領域」に相当する。

カ 後者の「前記当て板32は、装着者3の腹部に当てつけられる」ということは、「装着者3」の身体に沿って配置可能なものといえる。
また、後者の「座板33は、乳幼児22の臀部を載せるものであ」るということは、「乳幼児22」の「臀部」を載置可能な座面を有していることは明らかである。
さらに、後者の「ロック部材61が座板33の底面に形成した係合突起62の下部に係合し、座板33は乳幼児22を載せても回動せず、安全に乳幼児22を抱き続けることができ、ロック部材61か係合突起62のいずれかに段差を形成し、座板33の傾斜角度を複数段に設定し」ているということは、「当て板32」に対する「座板33」の回動角度を調整及び保持可能であるであることは明らかである。
そうすると、上記ア?オも踏まえると、後者の
「当て板32と、当て板32を包む当て板収納部2と、この当て板収納部2の両側から延び装着者3の腰部に巻回されるベルト4と、を備えた子守帯1において、
前記当て板32は、装着者3の腹部に当てつけられるものであり、
前記当て板32は前記装着者3の腹部に沿うように位置決めされるとともに、該当て板32に対して略平行に折り畳み可能な座板33および背当て板34とを有しており、
前記座板33は、乳幼児22の臀部を載せるものであり、幅方向両側にリブを有する楕円形に近い板体であって、
前記当て板32に対して略平行に折り畳み状態にある前記座板33と前記背当て板34とが引き出し動作によって前記当て板32から離反して腰掛け部を形成し、
一方、折り畳み動作によって、前記腰掛け部の形成状態から前記座板33と前記背当て板34とが前記当て板32に向けて該当て板32に対して略平行に折り畳まれ、
当て板32と座板33とは、連結ピン35により蝶番状に連結されているが、連結ピン35は当て板32に設けた軸受部36と、座板33に設けた軸受部37とを交互に挿通しており、
前記当て板32を支点として前記座板33及び前記背当て板34を所定角度に開き且つ折り畳ませるためのリンク機構を構成する連結部材38を有し、
前記当て板32の一端を支点として前記座板33の一端に係合して座板33を開状態に保持するとともに係合を解除することにより折り畳み状態にするロック部材61を備え、
ロック部材61が座板33の底面に形成した係合突起62の下部に係合し、座板33は乳幼児22を載せても回動せず、安全に乳幼児22を抱き続けることができ、
ロック部材61か係合突起62のいずれかに段差を形成し、座板33の傾斜角度を複数段に設定し」
ているということは、前者の
「装着者の身体に沿って配置可能な基部、乳幼児の臀部を載置可能な座面を有する座部、
前記基部と前記座部とを回動可能に連結する連結部、前記基部に対する前記座部の回動角度を調整及び保持可能な角度調整部を有する台座と、」「を備えた」
ということに相当するといえる。

キ 後者の「当て板収納部71」及び「被覆部材72」を合わせたものは、図1、2(記載事項(1h))も参酌すると、「当て板32」、「座板33」、「ロック部材61」及び「係合突起62」を合わせたものに対応した形状を有しているといえる。
そうすると、上記エ、オも踏まえると、後者の
「当て板収納部2は、当て板32とスポンジ65とを当て板収納部71によって覆った構成になっており、
座部7は、座板33や連結部材38、スポンジ65を被覆部材72で覆った構成になって」
いるということと、前者の
「前記台座に対応した形状を有して前記台座を出し入れ可能に収容する収容部と、」「を備えた」
ということとは、
「前記台座に対応した形状を有して前記台座を収容する収容部と、」「を備えた」ということにおいて共通するといえる。

ク 上記ア、オと、後者の「当て板収納部2は、当て板32とスポンジ65とを当て板収納部71によって覆った構成になって」いることを踏まえると、後者の「当て板32を包む当て板収納部2と、この当て板収納部2の両側から延び装着者3の腰部に巻回されるベルト4と、を備えた」ことは、前者の「前記収容部における前記基部が収容された基部領域に接続され、前記装着者の腰部に装着可能な腰ベルトと、を備えた」ことに相当するといえる。

ケ 後者の「当て板32」は、板状部材で形成されていることが明らかであるから、上記アも踏まえると、前者の「当て板32」「を備えた」ことと、後者の「前記基部」「は、幅方向両側にリブを有する板状部材で形成され」ていることとは、「前記基部は、板状部材で形成され」ていることにおいて共通するといえる。また、上記アも踏まえると、後者の「座板33」が「幅方向両側にリブを有する板体であって」ということは、前者の「前記」「座部は、幅方向両側にリブを有する板状部材で形成され」ていることに相当するといえる。

コ 以上のことから、本願発明1と引用発明との一致点、相違点は次のとおりと認める。
〔一致点〕
「装着者の身体に沿って配置可能な基部、乳幼児の臀部を載置可能な座面を有する座部、
前記基部と前記座部とを回動可能に連結する連結部、前記基部に対する前記座部の回動角度を調整及び保持可能な角度調整部を有する台座と、
前記台座に対応した形状を有して前記台座を収容する収容部と、
前記収容部における前記基部が収容された基部領域に接続され、前記装着者の腰部に装着可能な腰ベルトと、を備えた、ヒップシートにおいて、
前記基部は、板状部材で形成され、前記座部は、幅方向両側にリブを有する板状部材で形成されているヒップシート。」

〔相違点1〕
「収容部」に関して、本願発明1は、「前記台座を出し入れ可能に」収容するのに対し、引用発明は、「当て板32」、「座板33」、「ロック部材61」及び「係合突起62」を合わせたもの(台座に相当)が、出し入れ可能に収容されていることの特定がない点。

〔相違点2〕
「基部」の「板状部材」に関して、本願発明1は、「幅方向両側にリブを有する」のに対し、引用発明は、当該リブを有していない点。

〔相違点3〕
「座部」の形状に関して、本願発明1は、「前記連結部から先端に向けて幅が漸減する形状に形成され」ているものであるのに対し、引用発明は、「楕円形に近い」ものである点。

〔相違点4〕
「連結部」に関して、本願発明1は、「前記基部及び前記座部の幅方向両端部を回動可能に連結され」るものであるのに対し、引用発明は、「当て板32と座板33とは、連結ピン35により蝶番状に連結されているが、連結ピン35は当て板32に設けた軸受部36と、座板33に設けた軸受部37とを交互に挿通して」いるというものである点。

〔相違点5〕
「角度調整部」に関して、本願発明1は、「前記基部の支持面の反対面と前記座部の座面の反対面とを架設するように設けられ、前記基部に対する前記座部の回動角度が30?180度の範囲で調整可能であり、前記座部を回動させて前記乳幼児を乗せたときに、前記乳幼児の体重負荷を支持しつつ回動角度を維持可能なラチェット機構を有する」ものであるのに対し、引用発明は、「前記当て板32を支点として前記座板33及び前記背当て板34を所定角度に開き且つ折り畳ませるためのリンク機構を構成する連結部材38を有し、前記当て板32の一端を支点として前記座板33の一端に係合して座板33を開状態に保持するとともに係合を解除することにより折り畳み状態にするロック部材61を備え、ロック部材61が座板33の底面に形成した係合突起62の下部に係合し、座板33は乳幼児22を載せても回動せず、安全に乳幼児22を抱き続けることができ、ロック部材61か係合突起62のいずれかに段差を形成し、座板33の傾斜角度を複数段に設定し」ているものである点。

(2)判断
事案に鑑み、上記相違点5について検討する。
ア 上記「第4 4(2)」で述べた引用文献4に記載された技術的事項は、「ラチェット機構19」を有するものであるが、当該「ラチェット機構19」は、「トイ17を吊り下げるトイバー7が装着されている乳幼児載置用の組立構造体1」における「トイバー7」を「多段階の任意の角度に設定する」ためのものである。
そうすると、引用文献4に記載された技術的事項の「ラチェット機構19」が角度調整をする対象物が「トイバー7」であるのに対し、引用発明の「ロック部材61か係合突起62のいずれかに段差を形成し、座板33の傾斜角度を複数段に設定し」ている「ロック部材61」及び「係合突起62」の角度調整の対象物は「座板33」であって、角度調整をする対象物が異なるものである。
その上、引用文献4に記載された技術的事項は、「簡易な構成により、安全性が高く且つ傾斜角度を容易に変更できる、乳幼児載置用の組立構造体に使用されるトイバーおよび同トイバーを備えた乳幼児載置用の組立構造体を提供する」(記載事項(4b)の段落【0014】)という目的のために、「前記トイバー7は、前記アーチ形状で形成される仮想平面の面平行方向における剛性が低く、前記仮想平面に垂直な方向における剛性が高くなるように構成されている」という構成を採用しているものであって、「トイバー7」は「トイ17を吊り下げる」ものであり、乳幼児の体重負荷を支持するためのものではないため、当然「乳幼児の体重負荷を支持しつつ回動角度を維持可能」とするものではない。
さらに、引用文献4に記載された技術的事項は「トイバー7」の角度調整に係るものであるから、当然、上記相違点5に係る本願発明1の「前記基部の支持面の反対面と前記座部の座面の反対面とを架設するように設けられ」るという事項に相当する構成を有しておらず、「前記基部に対する前記座部の回動角度が30?180度の範囲で調整可能であ」るという事項に相当する構成も有していない。
以上のとおりであるから、引用発明に引用文献4に記載された技術的事項を適用する動機付けがあるとはいえず、仮に適用したとしても、上記相違点5に係る本願発明1の事項を有するものには至らない。
また、原査定において、請求項1に係る発明に対して引用された引用文献2、3について検討しても、上記「第4 2、3」から明らかなように、上記相違点5に係る本願発明1の事項を開示ないし示唆するものではない。なお、原査定において、請求項4に係る発明に対して引用された引用文献5について検討しても、上記「第4 5」から明らかなように、上記相違点5に係る本願発明1の事項を開示ないし示唆するものではない
したがって、相違点1?4について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献2?4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2?4について
本願発明2?4は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明及び引用文献2?5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1?4は「前記基部に対する前記座部の回動角度が30?180度の範囲で調整可能であり、前記座部を回動させて前記乳幼児を乗せたときに、前記乳幼児の体重負荷を支持しつつ回動角度を維持可能なラチェット機構を有すること」という事項を有するものとなっており、上記「第5」のとおり、本願発明1?4は、引用発明及び引用文献2?5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1?4は、引用発明及び引用文献2?5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-06-03 
出願番号 特願2019-124569(P2019-124569)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A47D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井出 和水  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 藤井 昇
一ノ瀬 覚
発明の名称 ヒップシート及びベビーキャリア  
代理人 橘 哲男  
代理人 藤本 正紀  

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