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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1374871
異議申立番号 異議2019-700886  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-07 
確定日 2021-03-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6520055号発明「半導体コンプレッション成型用離型シート及びこれを用いて成型される半導体パッケージ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6520055号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6520055号の請求項1、3ないし5に係る特許を維持する。 特許第6520055号の請求項2に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6520055号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成26年11月6日に出願され、令和元年5月10日にその特許権の設定登録がされ、令和元年5月29日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 元年11月 7日 特許異議申立人 特許業務法人 朝日奈特
許事務所(以下、「特許異議申立人」とい
う。)による請求項1?5に係る特許に対
する特許異議の申立て
令和 2年 3月19日付け 取消理由通知書
令和 2年 5月22日 特許権者による意見書、訂正請求書(以下
、この訂正請求書による訂正請求を「本件
訂正請求」という。)の提出
令和 2年 7月 3日 特許異議申立人による意見書(以下、この
意見書を「意見書」という。)の提出
令和 2年 9月28日付け 取消理由通知書(決定の予告)(以下、こ
の取消理由通知書による取消理由通知を「
取消理由通知」という。)
令和 2年11月30日 特許権者による意見書の提出

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線部は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記離型層中の前記樹脂粒子の含有率が5体積%?65体積%である」とあるのを、「前記離型層中の前記樹脂粒子の含有率が10体積%?65体積%である」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3,4,5も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「樹脂粒子を含む離型層と、基材層と、を含み、」とあるのを「樹脂粒子を含む離型層と、基材層と、を含み、前記樹脂粒子の平均粒子径が1μm?55μmであり、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3,4,5も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は請求項2に記載」とあるのを、「請求項1に記載」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項4,5も同様に訂正する。)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?請求項3のいずれか1項に記載」とあるのを、「請求項1又は請求項3に記載」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。)。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?請求項4のいずれか1項に記載」とあるのを、「請求項1、請求項3及び請求項4のいずれか1項に記載」に訂正する。

なお、訂正前の請求項1ないし5は、請求項2ないし5が訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔1-5〕について請求されている。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、樹脂粒子の含有率を「5体積%?65体積%」であるのを「10体積%?65体積%」とする訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、段落【0019】に基づいて導き出せるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項1についての訂正は、樹脂粒子を含む離型層について、「前記粒子の平均粒子径が1μm?55μmであ」るとする訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、段落【0016】に基づいて導き出せるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項2を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項4ないし6について
訂正事項4ないし6は、訂正事項3にともない、明瞭でない記載となる請求項3ないし5の記載を明瞭な記載とするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
以上のとおりであるから、一群の請求項〔1-5〕についての本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明5」という。また、「本件発明1」ないし「本件発明5」をまとめて、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
樹脂粒子を含む離型層と、
基材層と、
を含み、
前記樹脂粒子の平均粒子径が1μm?55μmであり、
前記離型層中の前記樹脂粒子の含有率が10体積%?65体積%である半導体コンプレッション成型用離型シート。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記樹脂粒子が、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂及びシリコーン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1に記載の半導体コンプレッション成型用離型シート。
【請求項4】
前記基材層が、ポリエステルフィルムである請求項1又は請求項3に記載の半導体コンプレッション成型用離型シート。
【請求項5】
請求項1、請求項3及び請求項4のいずれか1項に記載の半導体コンプレッション成型用離型シートを、コンプレッション成型装置の金型の形状に追従させる工程、並びに
封止材を前記金型に入れて加熱及び圧縮により前記封止材を硬化する工程、
を含む半導体パッケージの製造方法。」

第4 取消理由通知の概要
訂正後の請求項1及び3ないし5に係る特許に関して、当審が令和2年9月28日付けで特許権者に通知した取消理由通知の要旨は、次のとおりである。

A 請求項1、3及び4に係る特許は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、3及び4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

B 請求項1及び3ないし5に係る特許は、下記の引用文献1ないし4に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び3ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

引用文献1:特開2004-200467号公報
引用文献2:特開2014-14980号公報
引用文献3:特開2014-86633号公報
引用文献4:国際公開第2014/106879号

第5 各文献の記載
1 引用文献1
取消理由通知において引用した引用文献1には以下の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は離型シートに関し、さらに詳しくは半導体パッケージのモールド時の剥離を容易にするための離型シートに関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体チップは通常、外気からの遮断・保護のため樹脂で封止されパッケージと呼ばれる成形品として基板上に実装される。従来から、成形品は封止樹脂の流路であるランナーを介して連結した1チップ毎のパッケージ成形品として成形されている。この場合の離型は突き出しピン等の金型構造、封止樹脂への離型剤添加等によりなされている。一方、近年BGA方式の実装が、パッケージの小型化、多ピン化の要請から用いられている。この方式では端子がパッケージの側面に配されるリードフレーム方式と異なり、端子であるボールグリッドがパッケージの底面に設置されるため、側面同士を連結した状態で多数個のパッケージを成形する一括モールド法が適用できる。また、リードフレーム方式でもQFN(Quad Flat Non-Leaded Package)の場合、リードタイプ端子がパッケージ底面に配置されるため、一括モールド法が適用できる。一括モールド法において、従来の離型方式を用いることには主に2つの問題点がある。ひとつは突き出しピン等の金型構造で対応する場合、一括モールド法の特徴である金型の汎用性を損ない、パッケージの形状がかわると金型を新たに製作する必要が生じることであり、今ひとつは成形品が大きくなることにより生じるソリを抑えるために使用される低熱収縮性の封止材は、離型剤の添加によっても離型性が十分に得にくいことである。そこで、この対策として、樹脂製シートを金型内に装着して離型を容易にすることが行なわれている。(例えば、特許文献1参照。)」

「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、半導体パッケージを成形した後の離型シートとパッケージの剥離を容易にする手法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は次のものに関する。
(1) 基材層と剥離層から構成されるシートであって、剥離層に平均粒子径が1?30μmである樹脂製粒子を含有する半導体モールド用離型シート。
(2) 剥離層に含有される樹脂製粒子量が、剥離層100重量部に対し、0.1重量部から20重量部である上記(1)記載の半導体モールド用離型シート。
(3) 樹脂製粒子の主成分がシリコーン樹脂である上記(1)、(2)記載の半導体モールド用離型シート。
(4) 樹脂製粒子の主成分がアクリル樹脂である上記(1)、(2)記載の半導体モールド用離型シート
(5) 樹脂製粒子の主成分がポリエチレン樹脂である上記(1)、(2)記載の半導体モールド用離型シート
【0006】
【発明の実施の形態】
上記課題を達成するために、本発明では次の構成をとった。すなわち、本発明は基材層と剥離層から構成されるシートであって、剥離層に平均粒子径が1?30μmである樹脂製粒子を含有する半導体モールド用離型シートである。この離型シートの剥離層面を成形品に接するように装着することにより、成形後の剥離過程において成形品(パッケージ)からのシートの剥離が容易になる。
本発明に用いる樹脂製粒子は、シリコーン粒子やアクリル酸エステル粒子、またポリエチレン粒子等が用いられる。樹脂製粒子の平均粒子径は1?30μmが好ましい。使用する粒子の平均粒子径が1μmより小さい場合、剥離層表面に十分に凹凸を形成することが困難であるため、成形後のパッケージからシートを剥離し易くする効果が十分得られない。また使用する粒子の平均粒子径が30μmより大きい場合、剥離層中に樹脂粒子を固定するために剥離層厚さを厚くする必要がありコスト上好ましくない、また剥離層を薄くすると樹脂製粒子を固定することが困難になるため、樹脂粒子を含有した離型シートが安定して生産できなくなる。剥離層に含まれる樹脂粒子量としては、100重量部の剥離層に対し0.1重量部から20重量部であることが好ましい。含有量が0.1重量部より少ないと剥離層表面に十分に凹凸を形成することが困難であるため、成形後のパッケージからシートを剥離し難くなる。また含有量が20重量部より多いと剥離層樹脂による固定が難しくなり、また経済的に不利益である。
【0007】
本発明の剥離層の主成分にはパッケージとの離型性や耐熱性の観点から、アクリル系樹脂やシリコーン樹脂が用いられ、より好適には架橋型アクリル系粘着剤が用いられる。この架橋型アクリル系粘着剤はアクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、2-エチルヘキシルアクリレート等の低Tgモノマーを主モノマーとし、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリロニトリル等の官能基モノマーと共重合することで得られ、架橋剤にて架橋することができる。上記アクリル共重合体に添加する架橋剤としては、イソシアネート系、メラミン系、エポキシ系等公知の架橋剤を用いることができる。また、この架橋剤としては、樹脂中に緩やかに広がった網目状構造を形成するために、3官能、4官能といった多官能架橋剤がより好ましく用いられる。
【0008】
本発明の基材層には、耐熱性と高温時の弾性率の観点から、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、6-ナイロン、6、6-ナイロン、ポリ塩化ビニリデン樹脂、4-メチルペンテン、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、等をシート状に成形したものが好適に用いられる。
【0009】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明の範囲はこれら実施例によって何等限定されるものではない。
【0010】
実施例1
アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル及びアクリル酸-2-ヒドロキシエチルを85重量部:10重量部:5重量部の配合で、開始剤に過酸化水素を用いて、乳化剤にノニオン系界面活性剤を用い、乳化重合を行った後、水洗、乾燥を行いアクリル酸共重合体を得た。ついでこの共重合体をトルエンに溶解し、この溶液の固形分100重量部に対し架橋剤としてイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業製、コロネートL)を10重量部、樹脂製粒子として平均粒子径2μmのシリコーン粒子(東レダウコーニング製、トレフィルE-600)を5重量部添加してワニスを調整した。これを2軸延伸変性ポリエチレンテレフタレートシート(ユニチカ製S-38)に固形分で5μm厚みになるように塗布し、100℃、3分加熱乾燥し、離型シートを得た。このシートを、トランスファーモールド金型の上型に装着し、トランスファーモールドした後に、成形品とシートとの離型性を観察した。その結果を表1に示した。
【0011】
実施例2
添加する樹脂製粒子として、平均粒子径20μmのアクリル樹脂粒子(綜研化学製、MR-20G)を5重量部用いた以外は、実施例1と同様にして離型シートを作成し、その結果を表1に示した。」

「【0016】
【表1】

※1 パッケージと離型シートの剥離時の粘着力
剥離角度90°、剥離速度200mm/分
※2 離型シートを剥離した後のパッケージ表面への剥離層の残り具合
○:目視観察で剥離層が付着していない。
×:目視観察で剥離層が付着している。」

【図1】

上記記載から、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「半導体パッケージのトランスファーモールド時の剥離を容易にするための離型シートであって、
基材層と剥離層から構成され、
剥離層は、アクリル系樹脂やシリコーン樹脂を主成分とし、架橋剤と樹脂製粒子を含み、
樹脂製粒子は、シリコーン粒子やアクリル酸エステル粒子、またポリエチレン粒子等であって、平均粒子径が1?30μmであり、剥離層100重量部に対し、0.1重量部から20重量部含み、
基材層は、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等をシート状に成形したものである、
トランスファーモールド時の剥離を容易にするための離型シート。」

2 周知技術が記載された文献
(1)引用文献2
取消理由通知において引用した引用文献2には以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば基板上に電子部品が搭載されたワークをモールド金型でクランプしてレンズ部を含む成形品を樹脂モールドする樹脂モールド装置及び樹脂モールド方法に関する。」

「【0020】
以下、本発明に係る樹脂モールド装置及び方法の好適な実施の形態について添付図面と共に詳述する。以下では、ワークとしてレンズ部を含む発光装置(LED装置)を透明樹脂(シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等)を用いてトランスファ成形及び圧縮成形により樹脂モールドする樹脂モールド装置の構成について説明する。熱硬化性樹脂には、高輝度化に対応するため、フィラー、拡散剤、顔料、蛍光物質、反射性物質などから選択される少なくとも1以上の物質を混合することができる。」

「【0024】
上記第1キャビティ凹部7、上型ランナゲート9、上型カル11を含む上型クランプ面にはリリースフィルム12で覆われる。リリースフィルム12は、上型クランプ面に吸着保持される。リリースフィルム12は、耐熱性を有するもので、金型面より容易に剥離するものであって、柔軟性、伸展性を有するもの、例えば、PTFE、ETFE、PET、FEPフィルム、フッ素含浸ガラスクロス、ポリプロピレンフィルム、ポリ塩化ビニリジン等が好適に用いられる。
【0025】
図6において、キャビティ駒6の第1キャビティ凹部7のキャビティ底部には第1の通気孔13が開口して設けられている。第1の通気孔13は、リリースフィルム12を第1キャビティ凹部7を含む上型クランプ面に吸着保持する際に用いられる。また、第1キャビティ凹部7の底部には、第2キャビティ凹部8に連なる連通溝14が掘り込まれて形成されている。この連通溝14には第2の通気孔15が開口して設けられている。
【0026】
図6では隣接する第2キャビティ凹部8がその外周側に接続する連通溝14にて互いに縦横に連通し、各連通溝14に第2の通気孔15が接続されている。第2の通気孔15は、後述するように第2キャビティ凹部8にモールド樹脂を充填する際に閉じ込められやすいエアーを逃がしたりエアー吸引したりするために用いられる。第1の通気孔13及び第2の通気孔15は、エアー吸排装置27a、27b(図2、図5参照)に接続されている。このエアー吸排装置27a、27bによって、第1の通気孔13及び第2の通気孔15からは、エアー吸引のみならず必要に応じて圧縮エアーを噴出させ金型表面からのリリースフィルム12の剥離やパッケージ表面の硬化を促進させることも可能である。
【0027】
また、図6において、第2キャビティ凹部8の外周縁部には、連通溝14に連なる段付凹溝16が形成されている。この段付凹溝16から連通溝14を介して第2通気孔15へエアーを逃すことができるようになっている(図1参照)。尚、段付き凹溝16を省略して第2キャビティ凹部8に連通溝14が直接連通するようになっていてもよい。また、エアーベント22は、上型ランナゲート9が第1キャビティ凹部7と接続された辺と反対側の辺(対向する辺)に接続するように設けられている。
【0028】
図1において、下型4は、下型チェイス17に下型インサート18が支持されている。下型インサート18の上面は、ワークWの搭載面となっている。また、下型センターインサート19には、ポット20が設けられている。このポット20内にはプランジャ21が昇降可能に挿入されている。プランジャ21は、公知のトランスファ機構により昇降可能に設けられている。
【0029】
次に樹脂モールド装置の樹脂モールド動作について図1乃至図5を参照して説明する。先ず、図1において、型開きしたモールド金型3のうち下型4の下型インサート18にワークWを載置し、ポット20にシリンジなどで液状のモールド樹脂Rを供給する。
【0030】
また、図2に示すように、エアー吸排装置27aを動作させ、下型4に対向する上型5のキャビティ駒6の第1の通気孔13(図6参照)よりエアー吸引を開始して、第1、第2キャビティ凹部7、8、上型ランナゲート9、上型カル11を含む上型クランプ面にリリースフィルム12にテンションを加えた状態で吸着保持させる。なお、同図に示す破線は同図の紙面左右方向において第2の通気孔15と同じ位置に配置され、この断面では図示されない第1の通気孔13(図6参照)からエアー吸排装置27aによりエアー吸引されることを意味している(図3、図4、図8、図9において同じ)。このとき、上型クランプ面に倣って吸着保持されたリリースフィルム12は、第1キャビティ凹部7のキャビティ底部に倣って所定のテンションで吸着保持されており、それより深さが深い第2キャビティ凹部8には進入しない状態にある。
【0031】
次に、図3において、モールド金型3を型閉じする。公知の型開閉機構を通じて下型プラテンを上昇させて下型4と上型5とでワークWをクランプする。尚、上型5に備えた図示しない可動クランパにより下型4との間に形成される第1、第2キャビティ凹部7、8を含む金型空間を密閉し、減圧空間を形成するようにしてもよい。
【0032】
次いで図4に示すように、ポット20内で加熱されたモールド樹脂Rを図示しないトランスファ機構を作動させてプランジャ21を押し上げてリリースフィルム12が第1キャビティ凹部7のキャビティ底部により高さが規定されたまま第1キャビティ凹部7の全体にわたって充填する。この場合、モールド樹脂Rは、リリースフィルム12のテンションよりも小さく、リリースフィルム12を大きく伸ばさない程度の低い第一樹脂圧で充填される。なお、同図では、第2キャビティ凹部8においてもリリースフィルム12は第1キャビティ凹部7と同一面となるように図示しているが、実際には第2キャビティ凹部8内に多少押し込まれた状態となっていてもよい。
このとき、リリースフィルム12は第2キャビティ凹部8の面には貼り付けられていないため、凹凸の小さなリリースフィルム12に沿ってモールド樹脂Rが円滑に充填される。また、第1キャビティ凹部7内のエアーは、上型ランナゲート9と反対側に設けられたエアーベント22より逃すため、金型内にエアーが閉じ込められることはない(図6参照)。
【0033】
最後に図5に示すように、プランジャ21を更に押し上げてリリースフィルム12のテンションより大きい最終樹脂圧を加えて当該リリースフィルム12を第2キャビティ凹部8内に伸ばしながら当該第2キャビティ凹部8にモールド樹脂Rを充填する。このとき、第2キャビティ凹部8に残留するエアーは、連通溝14(若しくは段付凹溝16及び連通溝14)を介して第2の通気孔15に逃しながらモールド樹脂Rが第2キャビティ凹部8に充填される。
或いは、第2キャビティ凹部8にモールド樹脂Rを充填しながら第2キャビティ凹部8に連なる第2の通気孔15からエアー吸排装置27bよりエアー吸引した状態で、リリースフィルム12を第2キャビティ凹部8内に伸ばしながらモールド樹脂を充填してもよい。
【0034】
上記樹脂モールド装置及び樹脂モールド方法によれば、リリースフィルム12の伸びによる金型追従性を利用して第1キャビティ凹部7のキャビティ底部より深さが深い複数の第2キャビティ凹部8へモールド樹脂Rを充填できるので、例えばアスペクト比の高いレンズ部を含む成形品であっても樹脂充填性を向上させることができる。また、また、ワークWの厚みのばらつきやワーク表面の凹凸はリリースフィルム12の厚みで吸収できレンズ部に相当する第2キャビティ凹部8は連続面であるので、成形品に凹凸が形成されることがなく成形品質を向上させることができる。
また、第2キャビティ凹部8に閉じ込められやすいエアーを連通溝14を通じて第2の通気孔15へ確実に逃がすことにより、第2キャビティ凹部8におけるモールド樹脂Rの未充填やボイドの発生を防ぐことができる。
また、第2の通気孔15よりエアー吸引しながら最終樹脂圧を加えてリリースフィルム12を第2キャビティ凹部8内に伸ばしつつ当該第2キャビティ凹部8にモールド樹脂Rが充填される場合には、第2キャビティ凹部8内に残留するエアーの排出を促進することができる。また、モールド樹脂Rを第1キャビティ凹部7に充填後に複数の第2キャビティ凹部8の全てに対して同時に充填するため、モールド樹脂Rの第2キャビティ凹部8内における加熱を均一化することができ、硬化状態が均一となるレンズ成形をすることができる。
【0035】
次に、樹脂モールド装置の他例について説明する。
上述した樹脂モールド装置は、トランスファ成形用のモールド金型を用いていたが、圧縮成形用のモールド金型を用いてもよい。尚、上述した樹脂モールド装置と同様の部材には同一番号を付して説明を援用するものとする。図7において、上型5にはキャビティ駒24を囲んで上型可動クランパ23が設けられている。上型可動クランパ23は図示しない上型ベースにコイルばね等で吊り下げ支持されている。キャビティ駒24は上型ベース(図示せず)に固定されている。キャビティ駒24には、第2キャビティ凹部8及びこれらを連通する連通溝14(段付凹溝16含む)が形成されている。
【0036】
キャビティ駒24にはその底部(第1キャビティ凹部7のキャビティ底部に相当)に開口する第1の通気孔13(図6参照)と、第2キャビティ凹部8どうしを連通する連通溝14に開口する第2の通気孔15が各々設けられている。
【0037】
また、図7において、下型4は下型ベース25に下型インサート18が支持されている。下型ベース25には、下型インサート18を囲んで下型ブロック26が上型可動クランパ23に対向して設けられている。尚、キャビティ駒24には第1キャビティ凹部7に相当する凹部は形成されていないが、モールド金型6をクランプすることにより下型ブロック26の内壁面とキャビティ駒24の底部(下端面)とで形成される凹部が第1キャビティ凹部7に相当する。即ち、キャビティ駒24の下端面が第1キャビティ凹部7のキャビティ底部に相当する。
【0038】
次に樹脂モールド装置の樹脂モールド動作について図7乃至図10を参照して説明する。図7において、型開きしたモールド金型3のうち下型4の下型インサート18に樹脂を搭載したワークWを搬入して載置し、下型インサート18に設けたエアー吸引孔(図示せず)によりワークWを吸着する。尚、ワークWをモールド金型3に搬入した後に基板2の中央部にモールド樹脂R(液状樹脂)を供給することもできる。また、図8に示すように、エアー吸排装置27aを作動して下型4に対向する上型5のキャビティ駒24の第1の通気孔13(図6参照)よりエアー吸引を開始して、上型クランプ面にリリースフィルム12を所定のテンションを加えた状態で吸着保持させる。
【0039】
次に、モールド金型3を型閉じする。公知の型開閉機構を通じて図示しない下型プラテンを上昇させて下型4と上型5とによりワークWの上方に第1キャビティ凹部7を形成し、図9に示すように、第1キャビティ凹部7とワークWでモールド樹脂Rをクランプする。このとき、上型クランプ面に倣って吸着保持されたリリースフィルム12は、キャビティ駒24の底部(第1キャビティ凹部7のキャビティ底部に相当)に倣って所定のテンションで吸着保持されており、第2キャビティ凹部8には進入しない状態にある。リリースフィルム12がキャビティ駒24の底部(第1キャビティ凹部7のキャビティ底部に相当)により高さが規定されたままモールド樹脂Rを第1キャビティ凹部7の全体にリリースフィルム12を大きく伸ばさない程度の低い第一樹脂圧で充填する。本実施例においても、リリースフィルム12は第2キャビティ凹部8の面には貼り付けられていないため、凹凸の小さなリリースフィルム12に沿ってモールド樹脂Rが円滑に充填される。尚、上型可動クランパ23が下型ブロック26に当接して形成される金型空間(第1キャビティ凹部7及び第2キャビティ凹部8)を密閉し、減圧空間を形成するようにしてもよい。
【0040】
最後に図10に示すように、上型可動クランパ23が下型ブロック26に当接した状態から下型4を更に押し上げてリリースフィルム12のテンションより大きい最終樹脂圧を加えて当該リリースフィルム12を第2キャビティ凹部8内に伸ばしながらモールド樹脂Rを第2キャビティ凹部8に充填する。このとき、第2キャビティ凹部8に残留するエアーは、連通溝14(若しくは段付凹溝16及び連通溝14)を介して第2の通気孔15に逃しながらモールド樹脂Rが第2キャビティ凹部8に充填される。
或いは、第2キャビティ凹部8にモールド樹脂Rを充填しながらエアー吸排装置27bを作動させて第2キャビティ凹部8に連なる第2の通気孔15よりエアー吸引しながらリリースフィルム12を第2キャビティ凹部8内に伸ばしながらモールド樹脂を充填するようにしてもよい。
【0041】
最終樹脂圧は、上型可動クランパ23が下型ブロック26に当接したまま上型5と下型4が最終クランプ位置、即ちキャビティ駒24がワークWに近接した位置で維持される。このように圧縮成形を用いても、例えばアスペクト比の高いレンズ部を含む成形品であってもモールド樹脂の充填性並びに成形品質を向上することができる。」

(2)引用文献3
取消理由通知において引用した引用文献3には以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば凸部特にはレンズ部を有する成形品をモールドする樹脂モールド装置及び樹脂モールド方法に関する。」

「【0019】
以下、本発明に係る樹脂モールド装置及び樹脂モールド方法の好適な実施の形態について添付図面と共に詳述する。以下では、ワークWとしてレンズ部(凸部)を含む発光装置(LED)を透明樹脂(シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等)を用いてトランスファ成形する樹脂モールド装置及び樹脂モールド方法について説明する。熱硬化性樹脂には、高輝度化に対応するため、フィラー、拡散剤、顔料、蛍光物質、反射性物質などから選択される少なくとも1以上の物質を混合することができる。また、モールド樹脂は、液状樹脂、顆粒状樹脂、粒体樹脂、シート樹脂、タブレット樹脂等様々な形態の樹脂が利用可能であるが、以下では液状樹脂を用いる例について説明する。尚、発光素子1から照射された照射光の拡散を防ぐリフレクタ(図示せず)を備えていてもよい。
【0020】
図9は、基板2上に成形される成形品単体を示す平面図である。本実施形態におけるLEDは、図9に示すように、発光素子1(図1参照)と、発光素子1を載置する基板2(基材)と、発光素子1を覆う樹脂基部3より突設されたレンズ部4を備え、例えば表面実装型発光装置して成形される。樹脂基部3の上には発光素子1に対向する位置に半球状のレンズ部4が成形されている。本実施例では、1キャビティあたり5個の発光素子1(図1参照)が樹脂基部3及びレンズ部4により封止されている。
【0021】
図1において、ワークWは、発光素子1が基板2上に例えば行列状にフリップチップ接続(或いはワイヤボンディング接続)されたものが用いられる。また、基材として用いられる基板2は、樹脂基板、金属(例えばアルミ、銅等)基板、セラミック基板、リードフレーム、キャリア等の様々な板状の部材が用いられる。また、ワークWとして、バンプが成形されたウェハや、電子部品を接着によって固定して搭載したキャリアなどを用いてもよい。
【0022】
次に、樹脂モールド装置について説明する。尚、樹脂モールド装置の型開閉機構については公知の機構を採用しているため、モールド金型に備えた離型装置の構成を中心に説明するものとする。図1はモールド金型6よりポット、カル、ランナ、ゲート等を省いた模式断面図である(図2乃至図5において同じ)。また、図8では基板2上に成形品が直列状に2個連なって樹脂封止されるようになっているが、図1は1個の成形品を封止するためのモールド金型6の断面構造について模式的に示すものである。
【0023】
図1において、モールド金型6は、ワークWを保持する下型7(一方の金型)と、ワークWをクランプする上型8(他方の金型)とを備えている。本実施例では、上型8を固定型、下型7を可動型として説明する。プレス駆動機構は、駆動源(サーボモータ等)により駆動伝達機構(トグルリンクなど)を用いてプラテンに支持された下型7をタイバーにガイドされて昇降する公知の機構が用いられる。
【0024】
先ず上型8の構成について図6を参照して説明する。上型8は、上型ベース9に上型チェイスブロック10が支持されている。上型チェイスブロック10には、上型センターインサート11の両側に上型キャビティインサート12が各々組み付けられている。上型センターインサート11には、上型カル11a及びこれに接続する複数(例えば6本)の上型ランナ11bが各々彫り込まれている。また、上型キャビティインサート12には、各上型ランナ11bに接続する上型ランナゲート12aと複数(例えば2個)の第1キャビティ凹部13aが連通ランナ12bを介して直列状に連なるように各々彫り込まれている。
【0025】
図6において、上型センターインサート11の長手方向両側には上型エンドブロック14が対向して設けられている。また、上型キャビティインサート12の長手方向両側には上型エンドブロック15が各々対向して設けられている。上型エンドブロック14、15には、後述する下型7のエアブローブロックの逃げが形成されている。
【0026】
また、上型ベース9には、上型キャビティインサート12を含む上型チェイスブロック10(キャビティ凹部の外周側)を囲んで周溝16が形成されている。この周溝16の底部には複数の第1の通気孔16aが所定間隔で開口して設けられている。第1の通気孔16aはエアーを噴出或いは吸引可能なエアー吸排装置17aに接続されている(図2参照)。上型ベース9に設けられた周溝16の外周側には上型シールリング19が嵌め込まれている。上型シールリング19は、後述する下型シールリング32と共にモールド金型6内に密閉空間を形成して減圧可能になっている。
【0027】
図6において、上型キャビティインサート12のクランプ面には平面視で円形状の第1キャビティ凹部13aが行列状に形成されている。各第1キャビティ凹部13aの底部にはレンズ部4に対応する複数(例えば5個)の第2キャビティ凹部13bが第1キャビティ凹部13aの底部より深くなるように半球状の凹部に彫り込まれている。第1キャビティ凹部13aは、基板2上に複数(例えば5個)の発光素子1が散点状に搭載されたワークWを収容して樹脂モールドする(図1参照)。
【0028】
また、第1キャビティ凹部13aの底部であって、第2キャビティ凹部13bの周囲には、複数(例えば4箇所)の第2の通気孔13cが開口して設けられている。この第2の通気孔13cはエアーを噴出或いは吸引可能なエアー吸排装置17b(図3参照)に接続されている。
また、上型カル11aより直列配置された第1キャビティ凹部13aの周囲にはこれらを仕切るように凹溝13dが各々形成されている。この凹溝13dの底部には第2の通気孔13eが開口して設けられている。この第2の通気孔13eはエアーを噴出或いは吸引可能なエアー吸排装置17b(図3参照)に接続されている。
【0029】
また、図6に示すように、上型センターインサート11及び上型キャビティインサート12のクランプ面(ワーク当接面)にはリリースフィルムFを上型クランプ面に吸着させ又はエアーを噴出させてリリースフィルムFを上型クランプ面より離間させることが可能な複数の第2の通気孔18aが設けられている。また、樹脂路に相当する上型カル11a、上型ランナ11b、上型ランナゲート12a、連通ランナ12bにも第2の通気孔18bが開口して設けられている。第2の通気孔18a、18bは、エアーを吸引若しくは噴出可能なエアー吸排装置17bに接続されている(図3参照)。
【0030】
図1に示すように、第1のキャビティ凹部13a及び第2のキャビティ凹部13bを含む上型クランプ面がリリースフィルムFで覆われている。リリースフィルムFは、上型クランプ面に吸着保持される。リリースフィルムFは、厚さ0.5mm程度で耐熱性を有するもので、金型面より容易に剥離するものであって、柔軟性、伸展性を有するもの、例えば、PTFE、ETFE、PET、FEPフィルム、フッ素含浸ガラスクロス、ポリプロピレンフィルム、ポリ塩化ビニリジン等を主成分とした単層又は複層膜が好適に用いられる。」

「【0047】
次に樹脂モールド装置の他例について図10乃至図14を参照して説明する。
上述した樹脂モールド装置及び方法は、トランスファ成形方法を用いた構成であったが、他の方式、例えば圧縮成形方法を用いた樹脂モールド装置及び方法であってもよい。尚。モールド金型は上型が可動型、下型が固定型として説明し、ワークWや型開閉機構は同様であるため、金型構造の相違を中心に説明する。
【0048】
上型35の構成について図10の模式断面図を参照しながら説明する。上型35の四隅には貫通孔が設けられており、該貫通孔にはフィルムサポートピン27(フィルムサポート部材)がリリースフィルムFに向って常時付勢された状態で突設されている。フィルムサポートピン27は、貫通孔内に設けられたコイルばね等の付勢部材により付勢されている。
【0049】
上型35の下面部は、ワークWを吸着保持するワーク保持部となる。また、上型インサートの長手方向両側には図示しない上型エンドブロックが対向して設けられている。一対の上型エンドブロックには、エアブローブロックが対向して設けられている。各エアブローブロックの対向面側には第3の通気孔が各々設けられている。第3の通気孔は、エアーがワークWと平行な向きに拡散して噴出させるように形成されている。この第3の通気孔からリリースフィルムFと成形品との間にエアーを噴出させてリリースフィルムFを成形品から離間させるようになっている。また、図示しないが上型ベースには上型チェイスブロックの周囲を囲んで上型シールリングが設けられている点も同様である。」

(3)引用文献4
取消理由通知において引用した引用文献4には以下の事項が記載されている。

「[0001] 本開示は、放熱部材を備えた半導体装置及びその製造方法に関する。」

「[0067] なお、封止工法は圧縮成形に限られず、例えば、封止材5の流路が確保できれば、通常のトランスファモールド工法も適用が可能である。
[0068] 封止工程の後、リリースフィルム16を放熱部材フレーム15から剥がし、図7、図9(e)及び図10(e)に示すように、放熱部材フレーム15、封止材5及び基台フレーム18をダイシングする。なお、リリースフィルム16は、ダイシング前に剥がさずにダイシングフィルムとして利用することも可能である。」

(4)周知技術
上記引用文献2ないし4の記載から、以下の技術は周知技術(以下、「周知技術」という。)である。

「トランスファーモールド及びコンプレッションモールドにおいて、同じ構成のリリースフィルムを用いること。」

3 甲各号証の記載
(1)甲第1号証
特許異議申立人が異議申立書において引用した、甲第1号証(特開2004-200467号公報)には、上記1(1)に記載した事項が記載されている。

(2)甲第2号証
特許異議申立人が異議申立書において引用した、甲第2号証(特開2001-310336号公報)には以下の事項が記載されている。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】熱可塑性のテトラフルオロエチレン系共重合体よりなる樹脂モールド成形用離型フィルムであって、フィルムの長手方向及び幅方向の長さの伸縮率が、ともに0?-10%の範囲にあることを特徴とする樹脂モールド成形用離型フィルム。ただし、該伸縮率は、JIS K6734の6.6.3操作における100±2℃を180℃に、10分間を30分間に変更する以外、同JIS K6734に記載の方法で測定される。
【請求項2】フィルムの長手方向の長さの伸縮率と幅方向の長さの伸縮率との差が、0?2%の範囲にある請求項1に記載の樹脂モールド成形用離型フィルム。
【請求項3】フィルム表面の算術平均粗さが、0.01?3.5μmの範囲にある請求項1又は2に記載の樹脂モールド成形用離型フィルム。」

「【0013】フィルム表面を粗面形状にすると、粗面形状がモールド成形品表面に転写される結果、樹脂の流れ模様(以下、フローマークという。)が見えにくくなる。この粗面形状は、成形品の外観不良を防止し、歩留まりを向上せしめるとともに、成形品にマーキングされるロット番号の視認性を向上する効果を有する。該粗面形状は、JIS B0601で定義されるRa値で、0.01?3.5μmの範囲が好ましい。0.01μm未満では、モールド成形品表面に樹脂のフローマークが見られる。3.5μmを超えると、樹脂との離型性が十分でなく、モールド成形品表面のロット番号の視認性も低下する。より好ましい範囲は0.15?2.5μmである。該粗面形状は、フィルム成形時にフィルムを加熱しながらエンボスロールを用いて付与する。その他に、フィラーや顔料を含有させフィラーや顔料の形状を利用して付与する方法も使用できる。」

「【0016】[例1]離型フィルムとして、ETFE(旭硝子社製、アフロンCOP88X)を用いた。このフィルムの特性は、MDの長さ伸縮率-2%、TDの長さ伸縮率-1%、Ra0.02μm、引張り伸度600%、膜厚25μmであった。フィルムを180℃の金型に離型フィルムをセットした後、金型上部に貫通している穴から真空吸引して、離型フィルムを金型上部形状に追従・密着させた。半導体を金型下部にセットし、ついで、タブレット状の未硬化の封止用エポキシ樹脂(日立化成工業社製、CEL9200)を半導体上にセットした。金型を閉じて、エポキシ樹脂を半導体上に流動、被覆させた状態で、60秒間保持し、エポキシ樹脂を硬化させた。ついで、金型を開き、離型フィルム表面の粗面形状が転写された成形品を脱型させた。
【0017】離型性の評価は、脱型時の離型性が良好な場合を〇、不良な場合を×とした。金型追従性の評価は、フィルムにシワが入らず、金型形状にフィルムが完全に追従するかどうかを評価するものである。金型にフィルムをセットし、真空度を上げて、フィルムを金型に追従させて、フィルムにシワが入らないものを○、1本でもシワが入ったものを×と評価した。また、金型に追従しないフィルムも×と評価した。また、成形品外観の評価は、樹脂モールド成形後、成形品表面に樹脂のフローマークを目視で評価した。フローマークが、見えにくいものを○、見えるものを△と評価した。以上の評価結果を表1に示す。」

「【0019】
【表1】



(3)甲第3号証
特許異議申立人が異議申立書において引用した、甲第3号証(特開2001-168117号公報)には以下の事項が記載されている。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱可塑性樹脂を含む単層又は多層からなり、以下の(1)?(4)の要件を満たす半導体素子の封止用離型フィルム。
(1)表面層のぬれ指数が36以下
(2)175℃における熱収縮率が3%未満
(3)175℃における弾性率が10?500MPa
(4)離型フィルムの厚さが10?300μm
【請求項2】 離型フィルムの少なくとも表面層が、(A)フッ素系樹脂、(B)主としてシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体または(C)主としてシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体を含む樹脂組成物からなる請求項1に記載の半導体素子の封止用離型フィルム。
【請求項3】 (C)主としてシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体を含む樹脂組成物が、主としてシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体50?100重量%(100重量%は含まず)と、(C-1)ゴム状弾性体,(C-2)シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体以外の熱可塑性樹脂及び(C-3)樹脂組成物用添加剤のうちの少なくとも一成分50?0重量%(0重量%は含まず)とからなる請求項2に記載の半導体素子の封止用離型フィルム。
【請求項4】 離型フィルムを配置した半導体製造用金型に、突起電極を形成した半導体素子を有する半導体基盤を配置した後、封止樹脂を供給して圧縮成形する半導体素子の封止方法において、離型フィルムとして請求項1?3のいずれかに記載の半導体素子の封止用離型フィルムを用いる半導体素子の封止方法。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体素子の封止用離型フィルム及びそれを用いる半導体素子の封止方法に関し、詳しくは、圧縮成形法による半導体素子の封止方法における樹脂封止工程に用いる半導体素子の封止用離型フィルム及びそれを用いる半導体素子の封止方法に関する。
【0002】
【従来の技術】半導体の製造方法は製造効率を高めるべく、新たな方法が生まれてきている。例えば、LSIをウェハーごと超小型パッケージに圧縮成形する半導体封止技術が開発されている(特開平10?125705号公報、特開平10-79362号公報など)。この方法は多数のLSIを設けたウェハーにエポキシ系熱可塑性樹脂を乗せ、金型の中で加熱しながら圧縮成形し、ウェハー全体を上記樹脂で封止するものである。この封止技術において、金型と封止用のエポキシ系熱可塑性樹脂の間に、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリカ-ボネ-ト(PC)、ポリエチレンテレフタレ-ト(PET)等の離型フィルムが、また、金型とウェハーないしは可撓性基板との間に、上記離型フィルムが用いられている。この離型フィルムは、プリント基板を圧着して製造する際に、金型と基板の樹脂が接着しないようにそれらの間に使用する等、製造工程フィルムとして使用されている。」

「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、半導体素子封止工程において、半導体の端子を変形させたり、離型フィルムを変形させず、離型性にも優れた半導体素子の封止用離型フィルム及びそれを用いる半導体の製造効率を高めることができる半導体素子の封止方法を提供することを目的とする。」

「【0014】以上(1)?(4)の要件を満たす離型フィルムは、半導体製造用金型に対して離型がよくため、樹脂層形成後金型を開ける際に、金型から容易に離れ、また封止樹脂に対しては、封止樹脂と熱溶着せず、容易に剥離できる。また、半導体素子の突起電極と金型との間では、突起電極に変形が生じない程度の柔軟性と厚みであるため、半導体素子の製造工程における不良品の発生などのトラブルの発生を抑制できる。」

「【0016】すなわち、単層の離型フィルムにする場合は上記(A)?(C)のいずれかの樹脂又は樹脂組成物を用いればよい。また、多層の離型フィルムにする場合は、(A)?(C)のうちの2以上を用いるか、又は(A)?(C)のいずれか1以上と(D)それら以外の熱可塑性樹脂とを積層し、表面層(最外層)に(A)?(C)のいずれか1以上の樹脂又は樹脂組成物を使用すればよい。」

「【0025】(C-3)樹脂組成物用添加剤
本発明の樹脂組成物には、以下に例示する各種の添加剤を通常の比率において配合することができる。
【0026】アンチブロッキング剤(AB剤)
アンチブロッキング剤としては、以下のような無機粒子又は有機粒子が挙げられる。」

「【0029】有機粒子としては、フッ素樹脂、メラミン系樹脂、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体、アクリル系レジンシリコーン及びおよびそれらの架橋体が挙げられる。ここで、用いる無機粒子の平均粒径は0.1?10μm、添加量は0.01?15重量%が好ましい。なおこれらの無機充填材は1種のみを単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。」

「【0041】図1は、本発明の製造方法に使用できるの半導体素子の封止用金型の概念図(断面図)である。図1において、1は上型、2a,2bは下型、3は半導体基盤、4は突起電極(バンプ)、5は封止樹脂、6a,6bは半導体素子の離型フィルムである。但し6bの離型フィルムは必ずしも必要ではない。下型は2aの下型基体と2bの下型側体から構成されており、1の上型とともにいずれも上下移動可能になっている。また、上型と下型には、共にヒーターが内設されている。
【0042】上記の半導体素子封止用金型を用いて、次のように樹脂封止工程が行われる。先ず、半導体素子形成工程及びバンプ形成工程を経た多数の半導体素子が形成された半導体基板3(ウエハー)を半導体装置製造用金型の下型2a上に図の様に,突起電極4を上側にして装着する。次いで、上型1の下面に上述した本発明の半導体素子封止用離型フィルム6aを取り付ける。その後、封止樹脂5を半導体基盤3の中央に配置する。以上で基盤装着工程が終了する。図1は基盤装着工程が終了した状態を示している。
【0043】次いで、樹脂層形成工程に入る。上型1は下方に、下型側体2bに接触するまで移動する。それにともなって半導体素子の封止用離型フィルム6aも下降し、封止樹脂5を圧縮する。下型基体2aは移動せず、上型1は下型側体2bと共にさらに下降する。したがって、封止樹脂5は押し広げられて基盤3の外周に進んでゆき、半導体基盤3全体が樹脂により封止される。その後、金型内は加熱され、封止樹脂5は硬化する。樹脂層が形成された状態では、半導体素子の封止用離型フィルム6aは、封止樹脂5を圧接するとともに、基板3の表面にある突起電極4の先端がのめり込んだ状態になっている。
【0044】次いで、離型工程が行われる。まず、上型1を上昇させて、上型を半導体素子の封止用離型フィルム6aから離脱させる。続いて、下型基体2aは移動させず下型側体2bをわずかに下降させて、樹脂層を下型側体2bから離脱させる。その後、下型側体2bを上昇させる。これによって、半導体素子の封止用離型フィルム6aとともに樹脂層が形成された基盤3が下型基体2aから離脱する。これで離型工程が終了し、その後の突起電極露出工程、分離の各工程に進む。これらは公知の方法で行えばよい。
【0045】なお、上記の例では離型フィルムを上型1の下面にのみ配置したが、さらに下型基体2aと半導体基盤3との間にも離型フィルム6bを配置してもよい。これにより、半導体素子の封止用離型フィルム6aとともに樹脂層が形成された半導体基盤3が下型基体2aから離脱する工程がより容易になる効果がある。」

【図1】


(4)甲第4号証
特許異議申立人が異議申立書において引用した、甲第4号証(特開2002-110722号公報)には以下の事項が記載されている。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】 半導体チップを配置した金型内に樹脂を注入・硬化させる際に、離型フィルムを樹脂表面と金型内面とに介在させる半導体チップの樹脂封止方法において、
前記離型フィルムは、少なくとも樹脂表面側に配置される面の表面粗度(Ra)が0.10μm以上3.0μm以下のフッ素樹脂フィルムであることを特徴とする半導体チップの樹脂封止方法。
【請求項2】 半導体チップの樹脂封止の際に樹脂表面と金型内面とに介在させて使用される離型フィルムであって、少なくとも片面の表面粗度(Ra)が0.10μm以上3.0μm以下のフッ素樹脂フィルムである半導体チップ樹脂封止用離型フィルム。」

「【0003】一方、半導体パッケージの封止樹脂の表面には、封止樹脂射出時の流動模様の残存等による外観ムラが生じ易く、また、平滑度が高過ぎると封止後のマーキングが良好に行い難いため、外観ムラの防止や印刷性の向上などを目的として、表面を荒らして艶消し状態にするのが一般的であった。この艶消し形状を形成する為、金型の内表面を荒らした状態にし、この形状をパッケージ表面に転写させる方法が一般に行われていた。」

「【0006】そこで、本発明の目的は、パッケージ表面を好適に粗面化して、外観ムラを防止しつつ印刷性を良好にでき、しかも加工性にも優れる半導体チップの樹脂封止方法、及びそれに用いる半導体チップ樹脂封止用離型フィルムを提供することにある。」

「【0012】[作用効果]本発明の樹脂封止方法によると、樹脂表面と金型内面とに介在させる離型フィルムの少なくとも樹脂表面側に配置される面が、表面粗度(Ra)0.10μm以上3.0μm以下のフッ素樹脂フィルムであるため、実施例の結果が示すように、パッケージ表面を好適に粗面化して、外観ムラを防止しつつ印刷性を良好にできる。しかも、金型の凹凸形状を転写するものでないため、フィルムを極端に薄くする必要がなく、加工性にも優れる。
【0013】一方、本発明の離型フィルムによると、少なくとも片面の表面粗度(Ra)が前記の範囲であるため、これを樹脂表面側に配置することによって、上記の如く、パッケージ表面を好適に粗面化して、外観ムラを防止しつつ印刷性を良好にすることができる。」

「【0017】本発明の半導体チップの樹脂封止方法は、半導体チップを配置した金型内に樹脂を注入・硬化させる際に、離型フィルムを樹脂表面と金型内面とに介在させるものである。本発明の対象となる半導体パッケージとしては、半導体チップが樹脂で封止される構造のパッケージであれば何れのパッケージについても適用可能である。従って、半導体チップとしては、半導体チップが基板や各種キャリアに搭載されているもの、電極や端子を介してフレームに保持されているものなどが何れも使用可能である。
【0018】図1?図2は、チップ2が予め基板6に搭載された半導体チップの上部を樹脂で封止した構造を有する半導体パッケージ(いわゆるBGA)を製造する際の樹脂封止工程を示す工程図である。これを例にとり、樹脂封止工程の概要をまず説明する。
【0019】まず、図1に示すように、所定の温度に加熱された樹脂封止用金型の下金型3にチップ2を搭載した基板6を配置し、上金型4に離型フィルムFを配置する。その際、離型フィルムFは、上金型4の吸引口4aから真空吸着を行って、上金型4の内面に密着された状態とするのが好ましい。吸引口4aは、通常、四角形のキャビティーの少なくとも4辺に設けられる。
【0020】次いで図2に示すように、金型を閉じて、加熱条件下で所定の成形圧力下で金型内に樹脂5を注入して所定の成形時間で樹脂5を硬化させるトランスファー成形を行なう。そして上金型4および離型フィルムFを持ち上げ、パッケージの自重により離型フィルムFを剥離した後、ダイシング加工を行い基板1枚につき一つのチップが搭載された半導体パッケージを得る。」

「【0025】表面粗度(Ra)を調整するには、上記のキャスティング法において、塗布濃度や塗布量を調整してFEP層又はPFA層の厚みを変える方法、ディスパージョン中のフッ素樹脂の粒径を変える方法、溶融粘度などの物性を変える方法が挙げられる。」

「【0045】
寸法変化率(%)=|L1-L2|×100/L1
(但し、L1は加熱処理前の寸法、L2は加熱処理後の寸法である。)
【表1】
┌────┬────────┬─────────┐
│ │ │ 寸法変化率(%)│
│ │Ra値(μm) │縦方向 横方向 │
├────┼────────┼────┬────┤
│実施例1│ 0.9 │ 3 │ 3 │
│実施例2│ 1.7 │ 3 │ 3 │
│実施例3│ 0.14 │ 3 │ 2 │
│実施例4│ 2.9 │ 3 │ 3 │
│実施例5│ 0.9 │ 4 │ 2 │
│実施例6│ 1.0 │ 3 │ 2 │
│実施例7│ 1.1 │ 2 │ 2 │
├────┼────────┼────┼────┤
│比較例1│ 0.07 │ 3 │ 4 │
│比較例2│ 3.4 │ 2 │ 2 │
│参考例1│ 0.9 │ 4 │ 2 │
│参考例2│ 1.0 │ 2 │ 3 │
│参考例3│ 1.0 │ 7 │ 0 │
└────┴────────┴────┴────┘
次に樹脂封止による評価について説明する。図1に示すように175℃に加熱された樹脂封止用金型内にチップを搭載した状態の基板と離型フィルムを配置した。その際、離型フィルムについては、真空吸着された状態で、上金型面に密着した状態であった。次いで図2に示すように金型を閉じて175℃の加熱条件下で成形圧力50kg/cm2 で加圧した状態でトランスファーモールドを行なった。なお成形時間120秒で樹脂を硬化させた。そして上金型および離型フィルムを持ち上げ、パッケージの自重により離型フィルムを剥離させることにより、パッケージを得た。この様にして封止加工を行なった半導体パッケージについて離型フィルムと接触している面の評価を行なった。」

【図1】

【図2】

(5)甲第5号証
特許異議申立人が異議申立書において引用した、甲第5号証(特開2004-74713号公報)には以下の事項が記載されている。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、半導体パッケージ成型品の離型を担う剥離層と、前記剥離層を支持する基材層と、を含む離型シートであり、前記基材層の表面粗さRzが1.0μm以上であることを特徴とする半導体モールド用離型シート。
【請求項2】
前記基材層の表面粗さRzが5.0?25μmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の半導体モールド用離型シート。」

「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、半導体パッケージは製造の最終段階においてその表面にメーカ名、品名等の刻印がレーザーマーカー等により刻まれ、画像認識装置等でその刻印が読み取られるが、この刻印の読み取り易さは刻印とパッケージ表面とのコントラストに左右される。そこで、通常は、これらのコントラストを良好なものとするために、内壁表面の状態が制御された金型を使用して半導体チップのモールドを行い、半導体パッケージの表面を梨地状に形成することが行われている。なお、本発明において「梨地状」とは細やかな凹凸がある艶消しの表面状態を意図するものであり、梨地状とすることにより、封止樹脂が流動するときに発生する模様(フローマーク)が目立たなくなり、成形表面が均一となる。」

「【0007】
上記を鑑みて、本発明は、半導体パッケージを樹脂モールドにより成型する際に半導体パッケージの表面状態を適正な梨地状に形成することのできる離型シートを提供することを目的とする。」

「【0010】
本発明の離型シートの基材層は、T型ダイやインフレーション用ダイをもつ押出機により所定の厚さをもつシートに加工したり、必要に応じて2軸延伸を施して所定の厚さに加工した樹脂製シートの片面をサンドブラスト法、エンボスロール転写法、ケミカルマット法、ケミカルエッチング法等により表面処理加工したりすることで、その表面粗さRzを1.0μm以上、好ましくは3.0?35μm、より好ましくは5.0?25μmとすることで製造される。基材層表面の表面粗さRzが1.0μm未満であると半導体パッケージ成型品表面の粗さRzも1.0μm未満となり、刻印とのコントラストが不十分となり、画像認識装置での誤認識発生頻度が高くなる。上記の表面粗さを有する基材層を得る他の方法として、樹脂中にフィラーを添加して成膜するフィラー充填法が挙げられ、フィラーの充填量によりその表面粗さを制御することができる。
【0011】
本発明の基材層としては種々の樹脂を用いることができ、耐熱性や剛性を求める場合には、適宜そのような特性を有する樹脂を選択すればよいが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリエチレンナフタレート、トリ・アセチル・セルロース樹脂等が好ましく用いられる。さらに、これらの樹脂に添加しうるフィラーとしてはガラス繊維、カーボン繊維等が挙げられるが限定されない。また、基材層の厚さは、特に限定されないが、5?50μmであることが好ましい。
【0012】
また、本発明の剥離層に用いる樹脂としては、成型性と離型性の良い樹脂であることが好ましく、特に限定されないが、例えば、アクリル酸ポリマーおよび/またはメタアクリル酸ポリマーを主成分としたアクリル、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタクリル酸ヒドロキシエチル等の重合物またはこれら2種以上の共重合物、ポリ(4-メチルペンテン-1)、シンジオタクチック・ポリスチレン等の耐熱性樹脂、ポリイソブチレン、ポリブタジエン等の合成ゴムが挙げられる。特にアクリル樹脂を用いる場合には架橋を行うことが好ましい。架橋剤としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルイジンジイソシアネート等のイソシアネート系架橋剤、メラミン、ベンゾグアナミン等のメラミン系架橋剤が挙げられるが、限定されない。さらに、その剥離性をより向上させるために適宜加熱発泡性の添加剤を加えても良い。」

「【0017】
本発明の離型シートを半導体パッケージの樹脂封止工程において使用する方法としては、金型内に樹脂封止すべき半導体チップを載置し、剥離層が半導体チップ側になるように本発明の離型シートをセットし、必要に応じてバキューム等により金型内面に離型シートを密着させ、型締めを行い、封止樹脂をトランスファーモールド法等により金型内に注入し、一定時間保持した後、金型を開き半導体パッケージ成型品を取り出す等の方法でよく、従来公知の剥離シートと同様である。ここで、離型シートをロール状にしてセットしている場合には、1回の樹脂封止が完了した段階で金型の大きさだけシートを巻き取り、金型内に容易に新しい離型シートを供給することができるため、好ましい。」

「【0020】
実施例1
基材層として2軸延伸変性ポリエチレンテレフタレートシート(帝人デュポン製テフレックスFT-38)の片面をサンドブラスト処理し、表面粗さRzを14μmとした。処理面に剥離層としてアクリル樹脂を5μm塗工し、離型シートを作成した。このシートを、図1のようなトランスファーモールド金型内の上面に装着し、真空で固定した後、型締めし、封止剤(日立化成工業製CEL9200)により半導体チップを、金型温度175℃、圧力10MPa、時間90秒の条件でトランスファーモールド成型し、半導体パッケージを得た。
【0021】
実施例2
基材層として2軸延伸変性ポリエチレンテレフタレートシート(軟質PET、帝人デュポンシート製テフレックスFT-38)の片面に、シリコン粒子(信越化学製:KMP600)をアクリル樹脂トルエン溶液に分散させたものを塗布・乾燥してケミカルマット処理
し、表面粗さRzを5.5μmとした。次いで、処理面に剥離層としてアクリル樹脂を2μm塗工し、離型シートを作成した。この離型シートを用いて、実施例1と同様の方法、条件により半導体パッケージを得た。」

「【0029】
【表1】



【図1】


(6)甲第6号証
特許異議申立人が異議申立書において引用した、甲第6号証(特開2012-139821号公報)には以下の事項が記載されている。

「【背景技術】
【0002】
半導体素子を樹脂封止して半導体装置に形成するには、半導体素子をマトリクス状に複数個搭載した回路基板(ウエハを含む)を樹脂封止装置における成形金型内にインサートして、半導体素子を一括して樹脂封止し、封止後ダイシングして個片に分離するようにしている。
成形金型内に樹脂を供給する方法として、ポット内に樹脂タブレットを供給して溶融し、溶融した樹脂をプランジャーによって押圧してゲートからキャビティ内に注入するトランスファーモールド法と、キャビティ内に顆粒樹脂又はディスペンサー等によってあらかじめ液状樹脂を供給しておき、キャビティ面で樹脂を加圧してモールドする圧縮成形法とがある(特許文献1等)。
この圧縮成形法の場合、トランスファーモールド法に比較して、封止時、樹脂の流動が少ないことから、ボンディングワイヤの変形や切断といった不具合が少ないという利点がある。」

「【0014】
続いて、図4?図7により、上記圧縮成形金型10を用いて被成形品を樹脂封止する圧縮成形方法について説明する。
圧縮成形金型10は、図示しない樹脂封止装置に装着して用いられる。樹脂封止装置は両金型12、14の型閉じ機構、両金型間への被成形品の搬入機構、両金型間へのリリースフィルムの供給機構、キャビティ内への封止樹脂(液状、粉状、粒状、あるいはシート状樹脂など)の供給機構、樹脂を熱硬化させるための加熱機構等を有する。」

(7)甲第7号証
特許異議申立人が異議申立書において引用した、甲第7号証(特開2009-147014号公報)には以下の事項が記載されている。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
配線層を2層以上有し、前記配線層相互を電気的に接続すべく、それらの厚み方向に貫通する、内周面が導体パターンからなるスルーホールが多数設けられた配線基板と、該配線基板に実装された電子部品と、前記配線基板が搭載された金属ベースと、該金属ベースに取り付けられて前記配線基板と外部とを電気的に接続するコネクタとを備え、前記配線基板の全面と前記金属ベースの一部とが熱硬化性樹脂により一体的に封止成形されている樹脂封止型電子制御装置であって、
前記スルーホール内に、前記熱硬化性樹脂が充填されていることを特徴とする樹脂封止型電子制御装置。
【請求項2】
車載用エンジンコントロールユニットとして構成されていることを特徴とする請求項1に記載の樹脂封止型電子制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の樹脂封止型電子制御装置の封止成形方法であって、前記配線基板、前記金属ベース、及び前記コネクタからなるサブモジュールを金型内にセットし、前記金型内に前記熱硬化性樹脂を注入充填して、t < 2P×d / 3(ただし、dは前記スルーホールの孔径(mm)、tは前記配線基板の板厚(mm))を満足する成形圧力P(kgf/cm^(2))をもって封止成形することを特徴とする封止成形方法。
【請求項4】
請求項1に記載の樹脂封止型電子制御装置の封止成形方法であって、前記配線基板、前記金属ベース、及び前記コネクタからなるサブモジュールを金型内にセットし、前記金型内に前記熱硬化性樹脂を、前記配線基板のどちらか一方の面側から注入して、この一方の面側に充填した後、他方の面側に流動させて、この他方の面側からオーバーフローさせることを特徴とする封止成形方法。
【請求項5】
前記金型にダミーキャビティを設けるとともに、前記金属ベースと前記配線基板の一方の面との間に形成される隙間を介して前記金型のゲート部と前記ダミーキャビティとが連通することを阻止すべく、前記金属ベースに前記配線基板の一方の面に達する隔壁用突部を設けることを特徴とする請求項4に記載の封止成形方法。
【請求項6】
請求項1に記載の樹脂封止型電子制御装置の封止成形方法であって、前記配線基板、前記金属ベース、及び前記コネクタからなるサブモジュールを金型内にセットし、前記金型内に前記熱硬化性樹脂を注入充填して封止成形を行う際、前記金型内を大気圧より低く減圧することを特徴とする封止成形方法。
【請求項7】
トランスファモールド方式又はコンプレッションモールド方式で行うことを特徴とする請求項3から6のいずれか一項に記載の封止成形方法。」

「【0018】
ここで、上記式のt < 2P×d / 3(1)の範囲内において、孔径dの異なる複数のスルーホールがあってもよい。トランスファモールド(移送成形)方式又はコンプレッションモールド(圧縮成形)方式等での封止成形時に、上記の式(1)を満足するように成形圧力Pを調整することで、スルーホール内に溶融樹脂を確実に送り込めて完全に埋めることができ、言い換えれば、所要の穴埋め充填性を確保できるので、熱応力に対するスルーホール(の導体パターン)の耐久性等が高められて、装置の長寿命化を図ることができるとともに、高い信頼性を得ることができる。」

(8)甲第8号証
特許異議申立人が異議申立書において引用した、甲第8号証(特開2012-164951号公報)には以下の事項が記載されている。

「【0096】
なお、図18では、トランスファーモールド法により、第2の封止体91を形成する場合を例に挙げて説明したが、モールド樹脂の流動の影響が小さいコンプレッションモールド装置を用いて(言い換えれば、圧縮成型方式により)、第2の封止体91を形成してもよい。」

(9)甲第9号証
特許異議申立人が異議申立書において引用した、甲第9号証(特開2014-152314号公報)には以下の事項が記載されている。

「【背景技術】
【0002】
従来、ICチップやウェハーを樹脂で封止する技術として、トランスファーモールド法が使用されてきた。トランスファーモールド法は、金型に入れたICチップやウェハーに対して、液状モールド剤を高圧で流し込んだ後、液状モールド剤を硬化させて封止するため、液状モールド剤を流し込むときの圧力により、ICチップやウェハーの表面が破損したり、予めICチップやウェハーに金線によるボンディングが行われている場合には、金線が倒れてショートしてしまう、という問題が発生している。
【0003】
これに対して、ICチップを載せたキャリアを準備し、ICチップ上に常温で液状モールド剤を塗布した後、下の金型上にキャリアを載置し、次に、上の金型により加熱加圧し、液状モールド剤を硬化させて封止するコンプレッションモールド法(圧縮成形法)によるパッケージングが増えつつある。図1に、コンプレッションモールド法によるICチップ封止工程の一例を示す。まず、図1(A)のように、キャリア30上に搭載されたICチップ20上に、液状モールド剤10を塗布する。次に、図1(B)のように、キャリア30を下の金型40上に載置する。この後、図1(C)のように、上の金型50で加熱加圧して、図1(D)のように、硬化した液状モールド剤11で封止されたICチップ20を得る。」

第6 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)訂正後の請求項に係る発明
本件訂正請求により訂正された本件発明1及び本件発明3ないし5は、上記第3で示したとおりのものである。

(2)当審の判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
a 引用発明の「樹脂製粒子」、「剥離層」、「基材層」、「剥離シート」は、それぞれ本件発明1の「樹脂粒子」、「離型層」、「基材層」、「離型シート」に相当する。

b 以上のことから、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「樹脂粒子を含む離型層と、
基材層と、
を含む、
離型シート。」

[相違点1]
本件発明1は「前記樹脂粒子の平均粒子径が1μm?55μm」であるのに対して、引用発明の樹脂製粒子の平均粒子径は、1?30μmである点。

[相違点2]
本件発明1は「前記離型層中の前記樹脂粒子の含有率が10体積%?65体積%」であるのに対して、引用発明の剥離層中の樹脂製粒子の含有率が何体積%であるのか明示されていない点。

[相違点3]
「離型シート」について、本件発明1が「半導体コンプレッション成型用離型シート」であるのに対して、引用発明の剥離シートは「半導体パッケージのトランスファーモールド時の剥離を容易にするための離型シート」であって、コンプレッション成型用の「離型シート」でない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点3について先に検討する。
引用発明の「トランスファーモールド時の剥離を容易にするための離型シート」は、トランスファーモールド時に用いられる剥離シートであって、コンプレッション成型で剥離シートとして用いることは、引用文献1に記載も示唆もされていないから、引用発明が、「半導体コンプレッション成型用離型シート」であるということはできない。
そうすると、本件発明1は引用発明であるということはできない。
また、引用文献2ないし4に記載されているように、トランスファーモールド及びコンプレッションモールドにおいて、同じ構成のリリースフィルムを用いることが本件特許出願前に周知技術であったとしても、引用文献2ないし4には、「基材層と剥離層から構成され、剥離層は、アクリル系樹脂やシリコーン樹脂を主成分とし、架橋剤と樹脂製粒子を含み、樹脂製粒子は、シリコーン粒子やアクリル酸エステル粒子、またポリエチレン粒子等であって、平均粒子径が1?30μmであり、剥離層100重量部に対し、0.1重量部から20重量部含み、基材層は、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等をシート状に成形したものである」剥離シートを、「コンプレッション成型」に用いることは記載されておらず、またこの剥離シートを「コンプレッション成型」に用いることが、本件特許出願前に周知技術であったともいえないから、引用発明の「トランスファーモールド時の剥離を容易にするための離型シート」を、成型開始時の樹脂材料の状態やキャビティ内での樹脂や挙動が「トランスファーモールド」と全く異なる「コンプレッション成型」に用いる動機付けは認められない。そうすると、引用発明について、相違点3に係る本件発明1の構成とすることが容易であったとはいえない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2ないし4に記載された周知技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

イ 本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、「半導体コンプレッション成型用離型シート」であるから、上記アで検討したように、引用発明であるということはできない。
また、上記アで検討したように、本件発明3及び4は、「半導体コンプレッション成型用離型シート」であるから、引用発明及び引用文献2ないし4に記載された周知技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

ウ 本件発明5について
本件発明5は、本件発明1、3及び4の「半導体コンプレッション成型用離型シート」を用いた「半導体パッケージの製造方法」であるから、上記アで検討したように、引用発明及び引用文献2ないし4に記載された周知技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

エ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、意見書において「トランスファー成形と、圧縮成形(トランスファモールド)とは、いずれも同じ離型フィルムを用いることができ、かつ、当業者が適宜設計変更し得る程度のものにすぎない。したがって、トランスファーモールドに関して開示されている引用文献1に記載の発明において、本件特許発明における用途(コンプレッション成形用)を想定しない旨の主張は、失当である。」(意見書第2頁ないし3頁)旨主張している。
しかしながら、上記ア(イ)で判断したように、トランスファーモールド及びコンプレッションモールドにおいて、同じ構成のリリースフィルムを用いることが本件特許出願前に周知技術であったとしても、引用文献1には、引用発明を「半導体コンプレッション成型用離型シート」として用いることは記載されておらず、また、本件発明1の「半導体コンプレッション成型用離型シート」と同様の構成のトランスファーモールド用の離型シートを、「半導体コンプレッション成型用離型シート」として用いることも、引用文献2ないし4には記載されていない。
そうすると、本件発明は引用発明であるということはできないし、本件発明は、引用発明及び引用文献2ないし4の記載に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第36条第6項第2号、同条第4項第1号について
ア 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は異議申立書において、本件特許の訂正前の請求項1について、その請求項1の「前記離型層中の前記樹脂粒子の含有率が5体積%?65体積%である」ことについて、本件特許の発明の詳細な説明の
「【0020】
樹脂粒子の含有率は、例えば、離型シートの特定離型層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより、単位体積当たりの樹脂粒子の割合として算出することができる。詳細には、以下の方法により算出することができる。
まず、特定離型層の断面をSEMで観察し、この断面における任意の面積(以下、「特定面積」とも称する)に含まれる樹脂粒子の数及び粒子径を測定する。更に、上記特定面積に基づいて任意の体積(以下、「特定体積」とも称する)を設定し、この特定体積中に含まれる樹脂粒子の数を算出する。更に、樹脂粒子の粒子径に基づいて、樹脂粒子1つ当たりの体積を算出する。そして、算出された樹脂粒子の数及び樹脂粒子1つ当たりの体積から、特定体積中に含まれる樹脂粒子の総体積を算出し、この樹脂粒子の層体積を特定体積で除することにより、特定離型層中に含まれる樹脂粒子の体積含有率を算出することができる。」
の記載の測定方法では、以下の理由から、離型層の断面を観察することにより離型層中の脂粒子の含有率を測定することは不可能である旨主張し、本件特許の訂正前の請求項1に係る発明の樹脂粒子の含有率は、離型層中に含まれる樹脂粒子の含有率を正確に示しておらず、本件特許の訂正前の特許請求の範囲の記載は明確でないとし、また、離型層の断面を観察することにより離型層中の脂粒子の含有率を測定することは不可能であるため、発明の詳細な説明の記載がその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載していない旨主張している(異議申立書第43頁ないし47頁)。
理由1 特定体積の算出には、特定の断面積に奥行き方向の寸法を乗じる必要があるところ、奥行き方向の寸法をどのように設定するのか開示も示唆もなく、不明である点。
理由2 粒子は離型層中にランダムに分散した状態で存在するため、奥行き方向に粒子がどのような分散状態で存在しているのかは、1つの断面積から推測できない点。
理由3 特定断面に複数の粒子が存在する場合、粒子はランダムに分散されているため、離型層の1つの断面において、複数の粒子が全て中心で切断されることはあり得ない点。

イ 判断
本件発明1は、離型層中の樹脂粒子の含有率が「10体積%?65体積%」であると記載している。
ここで「体積%」は、離型層のある体積に含まれる樹脂粒子の体積の割合であるから、「樹脂粒子の体積/離型層の体積」で計算される値である。そして、「樹脂粒子の体積」及び「離型層の体積」に含まれる、「樹脂粒子」の奥行き及び「離型層の体積」の奥行きは同じ値となるから、「樹脂粒子」の奥行き及び「離型層の体積」の奥行きは、「体積%」の計算結果に影響しないことは、当業者にとって自明である。(理由1)
また、「樹脂粒子」は「離型層」中にランダムに分散した状態であるため、「離型層」全体でみたとき、ある断面に現れる「離型層」中の「樹脂粒子」の割合は、他の断面に現れる「離型層」中の「樹脂粒子」の割合と同じであることは、当業者にとって自明である。(理由2)
そして、「離型層」中の「樹脂粒子」の割合は、他の断面に現れる「離型層」中の「樹脂粒子」の割合と同じであるから、離型層の1つの断面において、複数の粒子が全て中心で切断されることはないことが、「離型層」中の「樹脂粒子」の割合を計算することの妨げにはならない。(理由3)
上記のとおり、離型層の断面を観察することにより離型層中の脂粒子の含有率を測定することは可能であるから、本件特許の発明の詳細な説明が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載していないとはいえず、また、本件特許の特許請求の範囲の記載が明確でないとはいえない。
そうすると、特許異議申立人の異議申立書の上記アの主張を採用することはできない。

(2)特許法第29条第2項について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲第1号証に記載された発明を対比すると、その一致点及び相違点は、上記1(2)アのbに示したとおりのものである。

(イ)事案に鑑み、相違点3について先に検討すると、甲第2号証ないし甲第9号証には、「基材層と剥離層から構成され、剥離層は、アクリル系樹脂やシリコーン樹脂を主成分とし、架橋剤と樹脂製粒子を含み、樹脂製粒子は、シリコーン粒子やアクリル酸エステル粒子、またポリエチレン粒子等であって、平均粒子径が1?30μmであり、剥離層100重量部に対し、0.1重量部から20重量部含み、基材層は、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等をシート状に成形したものである」剥離シートを、「コンプレッション成型」に用いることは記載されておらず、またこの剥離シートを「コンプレッション成型」に用いることが、本件特許出願前に周知技術であったともいえないから、甲第1号証に記載された発明の「トランスファーモールド時の剥離を容易にするための離型シート」を、成型開始時の樹脂材料の状態やキャビティ内での樹脂や挙動が「トランスファーモールド」と全く異なる「コンプレッション成型」に用いる動機付けは認められない。そうすると、引用発明について、相違点3に係る本件発明1の構成とすることが容易であったとはいえない。

(ウ)したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、甲第1号証ないし甲第9号証の記載に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

イ 本件発明3及び4について
上記アで検討したように、本件発明3及び4は、「半導体コンプレッション成型用離型シート」であるから、甲第1号証ないし甲第9号証の記載に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

ウ 本件発明5について
本件発明5は、本件発明1、3及び4の「半導体コンプレッション成型用離型シート」を用いた「半導体パッケージの製造方法」であるから、上記アで検討したように、甲第1号証ないし甲第9号証の記載に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

3 小括
したがって、特許異議申立人の主張する特許異議申立て理由を採用することはできない。

第7 むすび
したがって、取消理由通知に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1及び3ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び3ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
なお、請求項2に係る特許は、上記第2の1のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項2に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂粒子を含む離型層と、
基材層と、
を含み、
前記樹脂粒子の平均粒子径が1μm?55μmであり、
前記離型層中の前記樹脂粒子の含有率が10体積%?65体積%である半導体コンプレッション成型用離型シート。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記樹脂粒子が、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂及びシリコーン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1に記載の半導体コンプレッション成型用離型シート。
【請求項4】
前記基材層が、ポリエステルフィルムである請求項1又は請求項3に記載の半導体コンプレッション成型用離型シート。
【請求項5】
請求項1、請求項3及び請求項4のいずれか1項に記載の半導体コンプレッション成型用離型シートを、コンプレッション成型装置の金型の形状に追従させる工程、並びに
封止材を前記金型に入れて加熱及び圧縮により前記封止材を硬化する工程、
を含む半導体パッケージの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-10 
出願番号 特願2014-226422(P2014-226422)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (H01L)
P 1 651・ 113- YAA (H01L)
P 1 651・ 121- YAA (H01L)
P 1 651・ 537- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 堀江 義隆  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 小田 浩
恩田 春香
登録日 2019-05-10 
登録番号 特許第6520055号(P6520055)
権利者 日立化成株式会社
発明の名称 半導体コンプレッション成型用離型シート及びこれを用いて成型される半導体パッケージ  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  

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