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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01B
管理番号 1374877
異議申立番号 異議2019-700919  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-18 
確定日 2021-03-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6592695号発明「絶縁シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6592695号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正することを認める。 特許第6592695号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6592695号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成29年12月26日の出願であって、令和1年10月4日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年同月23日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年11月15日付け(同年同月18日差出)で特許異議申立人 向井 隆昭(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし4)がされ、令和2年6月19日付けで取消理由が通知され、同年8月21日に特許権者 フィスコ インターナショナル株式会社(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年同月31日付けで特許異議申立人に対し訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年9月10日に特許異議申立人から意見書が提出され、同年10月12日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年12月21日に特許権者から意見書が提出され、令和3年1月8日付けで特許異議申立人に対し審尋がされ、同年同月28日に特許異議申立人から回答書が提出されたものである。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
令和2年8月21日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

・訂正事項
特許請求の範囲の請求項1に「ポリウレタン樹脂からなる電気絶縁層が複数積層されて1枚のシートに形成され、前記ポリウレタン樹脂の紫外線環境下における時間経過に伴った変化を、視覚により色彩の変化で認識することができる色素成分を含む変化視認機能(穴開きや破損に伴う変化を除く)を備えている」と記載しているのを、「ポリウレタン樹脂からなる電気絶縁層が複数積層されて1枚の絶縁シートに形成され、前記絶縁シートは着色されているが自然光下で絶縁対象物の状態を把握可能な透明性を有し、この絶縁シートの絶縁機能が損なわれる前の前記ポリウレタン樹脂の紫外線環境下における時間経過に伴った変化を、視覚により色彩の変化で認識することができる色素成分を含む変化視認機能(穴開きや破損に伴う変化を除く)を備えている」に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし4についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項は、訂正前の請求項1における「1枚のシート」が「1枚の絶縁シート」であることを特定し、「前記絶縁シートは着色されているが自然光下で絶縁対象物の状態を把握可能な透明性を有し」ているものであることを特定し、さらに「視覚により色彩の変化で認識することができる色素成分を含む変化視認機能」が「この絶縁シートの絶縁機能が損なわれる前の前記ポリウレタン樹脂の紫外線環境下における時間経過に伴った変化」を視認する機能であることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおり、訂正事項は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。

なお、訂正前の請求項2ないし4は訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし4は一群の請求項に該当するものである。そして、本件訂正は、これらの請求項1ないし4についてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正することを認めるから、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
ポリウレタン樹脂からなる電気絶縁層が複数積層されて1枚の絶縁シートに形成され、前記絶縁シートは着色されているが自然光下で絶縁対象物の状態を把握可能な透明性を有し、この絶縁シートの絶縁機能が損なわれる前の前記ポリウレタン樹脂の紫外線環境下における時間経過に伴った変化を、視覚により色彩の変化で認識することができる色素成分を含む変化視認機能(穴開きや破損に伴う変化を除く)を備えていることを特徴とする絶縁シート。
【請求項2】
複数の前記電気絶縁層には、厚みが異なった層が含まれている、請求項1に記載の絶縁シート。
【請求項3】
前記電気絶縁層は、前記ポリウレタン樹脂からなるポリウレタンシートにより形成されている、請求項1または2に記載の絶縁シート。
【請求項4】
前記変化視認機能は、シート面に設けられた、紫外線環境下における時間経過に伴って色彩の変化を生じさせる色素成分を用いて印刷した、印刷部に備えられている、請求項1に記載の絶縁シート。」

第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び取消理由(決定の予告)の概要
1 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和1年11月15日付け(同年同月18日差出)で特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

(1)申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許発明1ないし4は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)申立理由2(サポート要件)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は、絶縁シート自体の色彩が変化してしまう現象に関してまでも、“変化視認機能”に含めるような記載になっているが、本件特許の発明の詳細な説明には、絶縁シート自体の色彩が変化する現象を含めた内容で“変化視認機能”が記載されていないため、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載していないものである。
したがって、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

(3)証拠方法
甲第1号証:登録実用新案第3098070号公報
甲第2号証:登録実用新案第3147883号公報
甲第3号証:特開2004-342053号公報
甲第4号証:特開2001-51603号公報
甲第5号証:特開2006-234585号公報
参考資料1:特開2014-22124号公報
参考資料2:特開平8-306406号公報
参考資料3:特開2016-81947号公報
なお、参考資料1ないし3は令和2年9月10日に特許異議申立人から提出された意見書に添付されたものである。以下、甲第1号証を「甲1」という。

2 取消理由(決定の予告)の概要
令和2年10月12日付けで通知した取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の概要は次のとおりである。なお、該取消理由(決定の予告)は申立理由1と同旨である。

本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

第5 取消理由(決定の予告)についての当審の判断
1 甲1に記載された事項及び甲1発明
(1)甲1に記載された事項
甲1には、「絶縁用保護具及び絶縁用防具」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。

・「【請求項3】
工事作業の際、充電部を被う絶縁用防具において、色彩の異なる二枚の絶縁シートを重合した生地を設け、これを裁断、溶着して製作したことを特徴とする、絶縁用防具。」

・「【0001】
【考案の属する技術分野】
この考案は、高圧活線作業及び高圧活線近接作業時等の電気工事作業に義務付けられている絶縁用保護具及び防具に関するものである。」

・「【0006】
【実施の形態例】
以下この考案を図面に基いて詳細に説明する。
図1は、この考案の絶縁用保護具や防具の生地を示すもので、図1に示すように、絶縁性の第1の合成樹脂シート1と、このシート1の地色と異なる色彩の第2の合成樹脂シート2を重ね合わせた、重合生地3である。これらの第1及び第2の合成樹脂シート1、2の材質はウレタン系、エチレン系のも等適宜の合成樹脂でよい。また、これらの第1及び第2の合成樹脂シート1と2とは生地の色が異なるものであり、相互にコントラストの大きいもの、例えば、黄色と赤色、黄色と青色等の生地の組み合わせがより良い。」

・「【0009】
【考案の効果】
請求項1及び2の考案によれば、これらの絶縁用保護具及び防具は、生地が、色彩の異なる二枚のシートから構成されているため、ピンホール等の小さな傷でも、色彩の異なる下の生地が穴や傷口から露出してこれらの穴や傷が目立ち、特に、使用前点検の際、これらの穴や傷等の不具合箇所を目視で容易に見つけることができる。従って、これらの穴や傷のついている絶縁用保護具及び防具を容易に排除することが出来、常に絶縁性の良好な絶縁用保護具及び防具を使用することができる。また、従来の多重式、及び単層式のものに比べ、この考案のものは2層構造としているため機械的強度を備えており、かつ作業性の向上が図れる。しかも、型を用いての成形品でないため、製造上イニシャルコストの低減が図れる。また、請求項2又は4の考案によれば、特に二枚のシートの色彩が、相互にコントラストの大きい色彩を用いるため、傷や穴がより目立ち、使用前点検が確実となる。」

・「



(2)甲1発明
甲1に記載された事項を整理すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「絶縁性の第1のウレタン系の合成樹脂シート1と、このシート1の地色と異なる色彩の絶縁性の第2のウレタン系の合成樹脂シート2を重ね合わせた、重合生地3。」

2 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「絶縁性の第1のウレタン系の合成樹脂シート1」及び「このシート1の地色と異なる色彩の絶縁性の第2のウレタン系の合成樹脂シート2」は本件特許発明1における「ポリウレタン樹脂からなる電気絶縁層」に相当する。
また、甲1発明における「重ね合わせた、重合生地3」は本件特許発明1における「複数積層されて」「形成され」た「1枚の絶縁シート」及び「絶縁シート」に相当する。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリウレタン樹脂からなる電気絶縁層が複数積層されて1枚の絶縁シートに形成された絶縁シート。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点>
本件特許発明1においては、「前記絶縁シートは着色されているが自然光下で絶縁対象物の状態を把握可能な透明性を有し、この絶縁シートの絶縁機能が損なわれる前の前記ポリウレタン樹脂の紫外線環境下における時間経過に伴った変化を、視覚により色彩の変化で認識することができる色素成分を含む変化視認機能(穴開きや破損に伴う変化を除く)を備えている」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

なお、取消理由(決定の予告)においては、「前記絶縁シートは着色されているが自然光下で絶縁対象物の状態を把握可能な透明性を有し」という点を相違点1とし、「この絶縁シートの絶縁機能が損なわれる前の前記ポリウレタン樹脂の紫外線環境下における時間経過に伴った変化を、視覚により色彩の変化で認識することができる色素成分を含む変化視認機能(穴開きや破損に伴う変化を除く)を備えている」という点を相違点2とし、相違点を2つに分けて認定した。
しかし、令和2年12月21日に特許権者から提出された意見書の有色透明のシートの写真及び令和3年1月28日に特許異議申立人から提出された回答書の有色透明のシートの写真を検討した結果、自然光下で絶縁対象物の状態を把握可能な透明性を有するシートが、紫外線環境下における時間経過に伴った変化を、視覚により色彩の変化で認識することができるといえるのかという疑義があり、自然光下で絶縁対象物の状態を把握可能な透明性を有するものの場合において、紫外線環境下における時間経過に伴った変化を、視覚により色彩の変化で認識することができることの記載の有無又はそのようにすることの動機付けの有無が、本件特許発明1の容易想到性の判断を左右するものであると考えられるため、透明性を有することと紫外線環境下における時間経過に伴った変化の視認機能を備えていることをまとめて判断することが適切であると当審は判断し、上記のとおり相違点を1つにまとめて認定した。

(2)相違点についての判断
そこで、上記相違点について検討する。
甲1には、甲1発明の「絶縁性の第1のウレタン系の合成樹脂シート1」及び「このシート1の地色と異なる色彩の絶縁性の第2のウレタン系の合成樹脂シート2」を重ね合わせた「重合生地3」を「着色されているが自然光下で絶縁対象物の状態を把握可能な透明性」を有するものにした場合に、「紫外線環境下における時間経過に伴った変化を、視覚により色彩の変化で認識する」ことができること又はそのようにすることは、記載も示唆もされていない。
また、他の証拠にも、ウレタン系の合成樹脂からなる生地を「着色されているが自然光下で絶縁対象物の状態を把握可能な透明性」を有するものにした場合に、「紫外線環境下における時間経過に伴った変化を、視覚により色彩の変化で認識する」ことができること又はそのようにすることは記載も示唆もされていない。
さらに、甲1発明の上記「重合生地3」を「着色されているが自然光下で絶縁対象物の状態を把握可能な透明性」を有するものにした場合に、別途、「紫外線環境下における時間経過に伴った変化を、視覚により色彩の変化で認識することができる色素成分を含む変化視認機能(穴開きや破損に伴う変化を除く)」を備えるようにすることの動機付けとなる記載は、甲1にはないし、他の証拠にもない。
したがって、甲1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて、上記相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項を想到することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、「電気絶縁不良が発生し難い構造を備えた絶縁シートを提供することができる。」(本件特許の発明の詳細な説明の【0008】)、「絶縁シート10で覆われた絶縁対象物の状態を、絶縁シート10を通して、例えば自然光の下でも、細部まで確実に把握することが可能になる。」(同【0013】)及び「時間経過に連れて絶縁シート10の劣化が進み、例えば破損し易くなったりして、絶縁シート10本来の機能が損なわれてしまう虞があったとしても、使用を止めることができるので、本来の機能が損なわれてしまった絶縁シート10が使用状態にあることを防止することができる。」(同【0019】)という甲1発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

(3)まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1をさらに限定したものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 むすび
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当するものではないので、取消理由(決定の予告)によっては取り消すことはできない。

第6 取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について
取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由2である。
そこで、申立理由2について検討する。

1 サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。

2 発明の詳細な説明及び図面の記載
発明の詳細な説明及び図面の記載
本件特許の発明の詳細な説明及び図面(以下、それぞれ「発明の詳細な説明」及び「図面」という。)には、次の記載がある。

・「【技術分野】
【0001】
この発明は、絶縁素材によりシート状に形成された絶縁シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、活線状態で行う電気通信工事の際に、作業環境において接触による感電等を防止するために用いられる、ポリウレタン樹脂等の絶縁素材によりシート状に形成された絶縁シートが知られている。この絶縁シートにより、露出状態にある絶縁対象物を覆うことで、絶縁対象物における電気絶縁状態を確保することができる。
このようなポリウレタン樹脂を用いて形成されている電気絶縁用部材に関するものとして、例えば、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3147883号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、絶縁シートは、製造中に穴開きや異物混入等が生じた場合、その部分から通電してしまい電気絶縁機能が損なわれてしまうので、製造後に電気絶縁検査を行い、電気絶縁機能が損なわれてしまったものを電気絶縁不良として除外していた。このため、製造中に穴開きや異物混入等を生じさせないようにすることが求められるが、様々な要因で生じる、製造中に穴開きや異物混入等を全く生じなくすることは、容易ではなかった。
この発明の目的は、電気絶縁不良が発生し難い構造を備えた絶縁シートを提供することである。」

・「【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、この発明に係る絶縁シートは、ポリウレタン樹脂からなる電気絶縁層が複数積層されて1枚のシートに形成されていることを特徴とする。
上記構成を有することにより、電気絶縁不良が発生し難い構造を備えることができる。
・・・(略)・・・
【0006】
・・・(略)・・・
この発明の絶縁シートでは、前記ポリウレタン樹脂の紫外線環境下における時間経過に伴った変化を、視覚により認識することができる変化視認機能を設けている、ことが好ましい。この構成によれば、視覚によって、ポリウレタン樹脂の紫外線環境下における時間経過に伴った変化を、認識することができる。
【0007】
この発明の絶縁シートでは、前記変化視認機能は、シート面に設けられた、紫外線環境下における時間経過に伴って色彩の変化を生じさせる色素成分を用いて印刷した、印刷部に備えられている、ことが好ましい。この構成によれば、シート面の、紫外線環境下における時間経過に伴って色彩の変化を生じさせる色素成分を用いて印刷した、印刷部に、変化視認機能が備えられる。」

・「【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、電気絶縁不良が発生し難い構造を備えた絶縁シートを提供することができる。」

・「【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。図1及び図2に示すように、本実施形態の絶縁シート10は、ポリウレタン樹脂からなる電気絶縁層11が複数積層されて1枚のシートに形成されている。電気絶縁層11の積層数は、本実施形態の場合、2層である(図2参照)が、これに限るものではなく、3層或いは3層以上でも良い。
本実施形態の絶縁シート10は、例えば、施設内での活線状態で行う電気通信工事作業の際に、作業環境において接触による感電等を防止するために用いられ、露出状態にある絶縁対象物を絶縁シート10により覆うことで、絶縁対象物における絶縁状態を確保することができる。この絶縁シート10が用いられる作業環境は、紫外線環境下にあり、ポリウレタン樹脂は、紫外線による影響を受けて、時間経過に伴い劣化(脆化)することが避けられない。
【0011】
本実施形態の絶縁シート10は、例えば、長方形状で厚さ0.4mmの、容易に折り曲げることができる柔軟性を有する薄い板状に形成されると共に、薄く着色(一例としてピンク色)されて十分な透明性を備えている。この絶縁シート10は、絶縁対象物を覆うために必要な形状及び大きさを有し、厚さも0.4mmに限らず、好ましくは0.1?1.0mm、より好ましくは0.2?0.6mmに形成され、無色透明ではなく任意の色彩(ピンク色或いはその他の色)を有しつつ透明性を確保している。」

・「【0013】
本実施形態の複数の電気絶縁層11は、各電気絶縁層11が薄く着色されると共に十分な透明性を備えている他、薄く着色されている絶縁電気絶縁層11と、透明性を備えた絶縁電気絶縁層11とを組み合わせても良く、本実施形態の絶縁シート10が薄く着色されると共に十分な透明性を備えることができれば良い。本実施形態の絶縁シート10が、無色透明ではなく任意の色彩を有していることで、覆う必要がある絶縁対象物が絶縁シート10により既に覆われていることと共に、未だ絶縁シート10により覆われていない覆う必要がある絶縁対象物があることを、容易に、且つ、明確に視認することが可能になる。また、本実施形態の絶縁シート10が、透明性を確保していることで、絶縁シート10で覆われた絶縁対象物の状態を、絶縁シート10を通して、例えば自然光の下でも、細部まで確実に把握することが可能になる。」

・「【0016】
・・・(略)・・・
本実施形態の絶縁シート10は、ポリウレタン樹脂の紫外線環境下における時間経過に伴った変化を、視覚により認識することができる変化視認機能を設けている。
この変化視認機能は、本実施形態において、絶縁シート10のシート表面10aに設けられた印刷部13に備えられており(図1参照)、印刷部13は、紫外線環境下における時間経過に伴って色彩の変化を生じさせる色素成分を用いて印刷されている。絶縁シート10のシート表面10aとは、例えば、絶縁対象物を覆った絶縁シート10が紫外線に曝される側の面、即ち、紫外線による影響を確実に反映させることができる面をいう。
【0017】
本実施形態の印刷部13には、時間経過に伴って、具体的には、紫外線に曝される時間の経過に伴って、色彩の変化(退色)を生じさせ易い色、例えば、黄色や赤(紅)色等を用いて、例えば、品名(絶縁シート)、試験電圧や時間等の試験条件、使用温度等の使用条件、製造会社名等が印刷されている(図1参照)。従って、印刷部13において、紫外線環境下における時間経過に伴った変化を、色彩の変化に伴う変色やかすれや色落ち等として視覚により認識することが可能になる。この印刷部13が、本実施形態の絶縁シート10のシート表面10aに設けられていることにより、本実施形態の絶縁シート10が紫外線に曝される環境にあった期間(経過時間)を、印刷部13における、時間経過に伴った色彩の変化に対応させることができるので、視覚により認識した、印刷部13の時間経過に伴った変化に基づき、絶縁シート10の劣化状態を推測することができる。
【0018】
具体的には、目で見て、本実施形態の絶縁シート10の印刷部13の時間経過に伴った変化、即ち、印刷部13の文字等の色褪せ(退色)による変色やかすれや色落ち等の具合を、色褪せ(退色)による変色やかすれや色落ち等していない印刷部13、例えば、製造直後の絶縁シート10の印刷部13の文字等と比較する。比較の結果、印刷部13の色褪せ(退色)による変色やかすれや色落ち等が進み、色褪せ(退色)による変色やかすれや色落ち等の度合いが所定の判断基準に達したと判断した場合、絶縁シート10の劣化状態が絶縁シート10の所定使用期間に達したと推測する。この劣化状態の推測に基づき、使用していた絶縁シート10を、紫外線に曝されておらず、本来の機能を備えた新しい絶縁シート10と交換し、使用していた絶縁シート10の使用を止める。
【0019】
従って、本実施形態の絶縁シート10を紫外線に曝される環境において使用した際に、視覚により認識した印刷部13の変化に基づいて、絶縁シート10の劣化状態を明確に推測することができる。このため、時間経過に連れて絶縁シート10の劣化が進み、例えば破損し易くなったりして、絶縁シート10本来の機能が損なわれてしまう虞があったとしても、使用を止めることができるので、本来の機能が損なわれてしまった絶縁シート10が使用状態にあることを防止することができる。」

・「【0025】
このように、本実施形態の絶縁シート10,20が、ポリウレタン樹脂からなる電気絶縁層11が複数積層されて1枚のシートに形成されていることにより、絶縁シート10,20の製造において、絶縁シート10,20としての不良箇所の発生を極力回避することができる。つまり、絶縁シート10,20の製造において、通常の製造過程では発生することが極力防止され、たとえ発生したとしても製造後の検査過程で除かれる、例えば穴開き(ピンホール)や異物混入等の不良箇所が、電気絶縁層11に万が一存在したとしても、絶縁シート10,20としての不良箇所の発生を極力回避することができる。
なぜなら、電気絶縁層11が複数積層されていることにより、1層の電気絶縁層11に、仮に不良箇所が存在したとしても、その不良箇所が、複数積層されている電気絶縁層11の全てを連通する不良箇所になることは殆どあり得ないからである。
【0026】
従って、本実施形態の絶縁シート10,20に、電気絶縁層11に存在する不良箇所に基づく通電箇所が発生するのを限りなく防止することができる。加えて、本実施形態の絶縁シート10,20にあっては、複数積層されている各電気絶縁層11(即ち、ポリウレタン樹脂からなる電気絶縁層11又はポリウレタン樹脂からなるポリウレタンシート)の形成毎に不良箇所の発生防止対策が可能になるので、階層的な不良箇所の発生防止が可能になる。
このため、本実施形態の絶縁シート10,20は、電気絶縁不良が発生し難い構造を備えることができる。」

・「



3 サポート要件の判断
(1)発明の課題
発明の詳細な説明の【0001】ないし【0004】によると、本件特許発明1の発明が解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「電気絶縁不良が発生し難い構造を備えた絶縁シート」を提供することである。

(2)判断
発明の詳細な説明及び図面には、本件特許発明1の各発明特定事項について具体的に記載されている。
すなわち、本件特許発明1の「ポリウレタン樹脂からなる電気絶縁層が複数積層されて1枚の絶縁シートに形成され」という発明特定事項については、発明の詳細な説明の【0001】、【0005】、【0010】及び図面に具体的に記載され、本件特許発明1の「前記絶縁シートは着色されているが自然光下で絶縁対象物の状態を把握可能な透明性を有し」という発明特定事項については、発明の詳細な説明の【0011】及び【0013】に具体的に記載され、本件特許発明1の「この絶縁シートの絶縁機能が損なわれる前の前記ポリウレタン樹脂の紫外線環境下における時間経過に伴った変化を、視覚により色彩の変化で認識することができる色素成分を含む変化視認機能(穴開きや破損に伴う変化を除く)を備えている」という発明特定事項については、発明の詳細な説明の【0006】、【0007】及び【0016】ないし【0019】に具体的に記載されている。
また、発明の詳細な説明の【0005】、【0025】及び【0026】によると、「ポリウレタン樹脂からなる電気絶縁層が複数積層されて1枚の絶縁シートに形成され」た「絶縁シート」は発明の課題を解決できると当業者は認識する。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。

(3)特許異議申立人の特許異議申立書における主張について
特許異議申立人の特許異議申立書における主張はおおむね次のとおりである。
本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は、絶縁シート自体の色彩が変化してしまう現象に関してまでも、“変化視認機能”に含めるような記載になっているが、本件特許の発明の詳細な説明には、絶縁シート自体の色彩が変化する現象を含めた内容で“変化視認機能”が記載されていないため、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載していないものである。
そこで検討する。
本件特許発明1の「変化視認機能」という発明特定事項について、発明の詳細な説明の【0006】に「この発明の絶縁シートでは、前記ポリウレタン樹脂の紫外線環境下における時間経過に伴った変化を、視覚により認識することができる変化視認機能を設けている、ことが好ましい。」と、「変化視認機能」を「視覚により認識することができる」という以外には特に限定しない形、すなわち絶縁シート自体の色彩が変化する現象を排除しない形で記載している。
したがって、たとえ、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載が、絶縁シート自体の色彩が変化してしまう現象に関してまでも、“変化視認機能”に含めるような記載になっていたとしても、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載していないものであるとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

4 むすび
したがって、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当するものではなく、申立理由2によっては取り消すことはできない。

第7 結語
上記第5及び6のとおり、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂からなる電気絶縁層が複数積層されて1枚の絶縁シートに形成され、前記絶縁シートは着色されているが自然光下で絶縁対象物の状態を把握可能な透明性を有し、この絶縁シートの絶縁機能が損なわれる前の前記ポリウレタン樹脂の紫外線環境下における時間経過に伴った変化を、視覚により色彩の変化で認識することができる色素成分を含む変化視認機能(穴開きや破損に伴う変化を除く)を備えていることを特徴とする絶縁シート。
【請求項2】
複数の前記電気絶縁層には、厚みが異なった層が含まれている、請求項1に記載の絶縁シート。
【請求項3】
前記電気絶縁層は、前記ポリウレタン樹脂からなるポリウレタンシートにより形成されている、請求項1または2に記載の絶縁シート。
【請求項4】
前記変化視認機能は、シート面に設けられた、紫外線環境下における時間経過に伴って色彩の変化を生じさせる色素成分を用いて印刷した、印刷部に備えられている、請求項1に記載の絶縁シート。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-12 
出願番号 特願2017-249832(P2017-249832)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01B)
P 1 651・ 121- YAA (H01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松尾 俊介土谷 慎吾  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 加藤 友也
植前 充司
登録日 2019-10-04 
登録番号 特許第6592695号(P6592695)
権利者 フィスコ インタ-ナショナル株式会社
発明の名称 絶縁シート  
代理人 高木 康志  
代理人 藤飯 章弘  
代理人 高木 康志  
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