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審決分類 審判 一部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C01G
審判 一部申し立て 4項(134条6項)独立特許用件  C01G
審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C01G
審判 一部申し立て 2項進歩性  C01G
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01G
管理番号 1374879
異議申立番号 異議2020-700108  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-25 
確定日 2021-03-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6571275号発明「組成物、組成物の製造方法、硬化膜、カラーフィルタ、遮光膜、固体撮像素子及び画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6571275号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?21〕について訂正することを認める。 特許第6571275号の請求項1?5、8?15、17?21に係る特許を維持する。 特許第6571275号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6571275号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、2017年(平成29年) 3月14日(優先権主張 平成28年 4月 8日)を国際出願日として特許出願され、令和 1年 8月16日にその請求項1?21に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年 9月 4日に特許掲載公報が発行され、その後、請求項1?6、8?15、17?21に係る特許に対して、令和 2年 2月25日付けで特許異議申立人 特許業務法人朝日奈特許事務所(以下、「申立人」という。)により、甲第1?5号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、同年 5月12日付けで当審より取消理由が通知され、その指定期間内である同年 7月17日に、特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年 8月20日に、申立人より意見書が提出され、同年 9月24日付けで当審より訂正拒絶理由が通知され、指定期間内に特許権者から意見書は提出されなかったものである。
そして、その後、同年12月22日付けで当審より取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である令和 3年 2月15日に、特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされたものである。

第2 本件訂正請求による訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項からなる(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
なお、令和 2年 7月17日の訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「原子Aを含有する金属窒化物含有粒子を含有する組成物であって、
前記金属窒化物含有粒子は、3?11族の遷移金属のうち、チタンを除く遷移金属であって、かつ、電気陰性度が1.22?2.36である遷移金属の窒化物を含有し、
前記原子Aは、前記遷移金属の窒化物を構成する遷移金属とは異なる元素であって、ホウ素、アルミニウム、ケイ素、マンガン、鉄、ニッケル及び銀からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記金属窒化物含有粒子中における前記原子Aの含有量が、0.00005?10質量%である、組成物。」
と記載されているのを、
「原子Aを含有する金属窒化物含有粒子を含有する組成物であって、
前記金属窒化物含有粒子は、V、Cr、Y、Zr、Nb、Hf、Ta、W、及びReからなる群から選択される少なくとも1種である遷移金属の窒化物を含有し、
前記原子Aは、マンガン、鉄、ニッケル及び銀からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記金属窒化物含有粒子中における前記原子Aの含有量が、50質量ppm以上10質量%以下である、組成物。」
に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?5、7?21も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7に
「請求項1?6のいずれか一項に記載の組成物。」
と記載されているのを、
「請求項1?5のいずれか一項に記載の組成物。」
に訂正する(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8?21も同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項8に
「請求項1?7のいずれか一項に記載の組成物。」
と記載されているのを、
「請求項1?5、及び7のいずれか一項に記載の組成物。」
に訂正する(請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9?21も同様に訂正する。)。

(5)訂正事項5
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項9に
「請求項1?8のいずれか一項に記載の組成物。」
と記載されているのを、
「請求項1?5、7、及び8のいずれか一項に記載の組成物。」
に訂正する(請求項9の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10?21も同様に訂正する。)。

(6)訂正事項6
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項10に
「請求項1?9のいずれか一項に記載の組成物。」
と記載されているのを、
「請求項1?5、及び7?9のいずれか一項に記載の組成物。」
に訂正する(請求項10の記載を直接的又は間接的に引用する請求項11?21も同様に訂正する。)。

(7)訂正事項7
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項12に
「請求項1?11のいずれか一項に記載の組成物。」
と記載されているのを、
「請求項1?5、及び7?11のいずれか一項に記載の組成物。」
に訂正する(請求項12の記載を直接的又は間接的に引用する請求項13?21も同様に訂正する。)。

(8)訂正事項8
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項13に
「請求項1?12のいずれか一項に記載の組成物。」
と記載されているのを、
「請求項1?5、及び7?12のいずれか一項に記載の組成物。」
に訂正する(請求項13の記載を直接的又は間接的に引用する請求項14?21も同様に訂正する。)。

(9)訂正事項9
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項15に
「請求項1?14のいずれか一項に記載の組成物。」
と記載されているのを、
「請求項1?5、及び7?14のいずれか一項に記載の組成物。」
に訂正する(請求項15の記載を直接的又は間接的に引用する請求項16?21も同様に訂正する。)。

(10)訂正事項10
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項16に
「請求項1?15のいずれか一項に記載の組成物の製造方法であって、」
と記載されているのを、
「請求項1?5、及び7?15のいずれか一項に記載の組成物の製造方法であって、」
に訂正する。

(11)訂正事項11
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項17に
「請求項1?15のいずれか一項に記載の組成物を用いて得られる、硬化膜。」
と記載されているのを、
「請求項1?5、及び7?15のいずれか一項に記載の組成物を用いて得られる、硬化膜。」
に訂正する(請求項17の記載を引用する請求項18?21も同様に訂正する。)。

(12)一群の請求項について
訂正前の請求項2?21は、いずれも訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正事項1?11による特許請求の範囲の訂正は、一群の請求項1?21について請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1による訂正は、「遷移金属の窒化物」における「遷移金属」が、「3?11族の遷移金属のうち、チタンを除く遷移金属であって、かつ、電気陰性度が1.22?2.36である遷移金属」であったものを、「V、Cr、Y、Zr、Nb、Hf、Ta、W、及びReからなる群から選択される少なくとも1種である遷移金属」とし、また、「原子A」が、「前記遷移金属の窒化物を構成する遷移金属とは異なる元素であって、ホウ素、アルミニウム、ケイ素、マンガン、鉄、ニッケル及び銀からなる群から選択される少なくとも1種」であったものを、「マンガン、鉄、ニッケル及び銀からなる群から選択される少なくとも1種」とするものを含むものである。
そして、「V、Cr、Y、Zr、Nb、Hf、Ta、W、及びRe」は、「3?11族の遷移金属のうち、チタンを除く遷移金属であって、かつ、電気陰性度が1.22?2.36である繊維金属」に包含されるものであり、「マンガン、鉄、ニッケル及び銀」は、「V、Cr、Y、Zr、Nb、Hf、Ta、W、及びRe」とは異なる元素であって、「ホウ素、アルミニウム、ケイ素、マンガン、鉄、ニッケル及び銀からなる群から選択される少なくとも1種」に包含されるものであるから、これらの訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
更に、訂正事項1による訂正は、「金属窒化物含有粒子中における原子Aの含有量」が「0.00005?10質量%」であったのを、「50質量ppm以上10質量%以下」とするものを含むものであり、この訂正は、「金属窒化物含有粒子中における原子Aの含有量」の下限値を減縮するとともに、上限値が「10質量%以下」であることを明らかにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
すると、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ そして、願書に添付した明細書の【0016】には、「<遷移金属の窒化物> 上記金属窒化物含有粒子は、3?11族の遷移金属のうち、チタンを除く遷移金属であって、かつ、電気陰性度が1.22?2.36である遷移金属の窒化物を含有する。上記遷移金属(カッコ内は電気陰性度)としては、…V、Cr、Y、Zr、Nb、Hf、Ta、W、又はReが更に好ましく、…Nbが最も好ましい。」と記載され(当審注:「…」は記載の省略を表す。以下、同様である。)、同【0014】には「<原子A> 原子Aは金属窒化物含有粒子に含有される。原子Aは、下記の遷移金属とは異なる元素であって、ホウ素、アルミニウム、ケイ素、マンガン、鉄、ニッケル及び銀からなる群から選択される少なくとも1種である。なかでも、組成物がより優れた本発明の効果を有する点で、アルミニウム、ケイ素、鉄、ニッケル及び銀からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、鉄、ケイ素及びニッケルからなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。原子Aは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。」と記載され、同【0299】の【表1】には、「金属窒化物含有粒子P-1」の「原子Aの含有量」が50ppmであることが記載されているから、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3?11について
訂正事項3?11は、いずれも、訂正事項2による請求項の削除に伴い選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 独立特許要件について
ア 本件特許異議の申立てにおいては、本件訂正前の請求項1?6、8?15、17?21に係る発明の特許に対して特許異議の申立がされているので、前記請求項1?6、8?15、17?21に対応する本件訂正後の請求項1?6、8?15、17?21に係る発明については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件)は適用されない。

イ 本件訂正前の請求項7及び16に係る発明の特許に対しては、特許異議の申立がなされておらず、前記請求項7及び16に対応する本件訂正後の請求項7及び16に係る発明については、独立特許要件について判断する必要があるので、以下、検討すると、本件訂正後の請求項7及び16に係る発明は、いずれも、本件訂正後の請求項1に係る発明を直接的または間接的に引用して更に限定する構成を付加したものである。
そして、本件訂正後の請求項1に係る発明の特許は、後記第6の4のとおり、当審が通知した取消理由によって取り消すことはできないものであり、また、後記第7の3のとおり、本件特許異議申立理由によっても取り消すことはできないものであるから、本件訂正後の請求項7及び16に係る発明の特許を取り消すべき理由を有しないので、本件訂正後の請求項7及び16に係る発明は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

4 小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項及び第7項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?21〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
本件訂正が認められることは前記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1?5、7?21に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明5」、「本件発明7」?「本件発明21」といい、まとめて「本件発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?21に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
原子Aを含有する金属窒化物含有粒子を含有する組成物であって、
前記金属窒化物含有粒子は、V、Cr、Y、Zr、Nb、Hf、Ta、W、及びReからなる群から選択される少なくとも1種である遷移金属の窒化物を含有し、
前記原子Aは、マンガン、鉄、ニッケル及び銀からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記金属窒化物含有粒子中における前記原子Aの含有量が、50質量ppm以上10質量%以下である、組成物。
【請求項2】
前記金属窒化物含有粒子の導電率が100×10^(4)?600×10^(4)S/mである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記金属窒化物含有粒子の平均一次粒子径が10?50nmである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
更にバインダー樹脂を含有する、請求項1?3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記金属窒化物含有粒子に対する前記バインダー樹脂の質量比が0.3以下である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
前記遷移金属が、V、及びNbからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1?5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
更に重合性化合物を含有する、請求項1?5、及び7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
更に重合開始剤を含有する、請求項1?5、7、及び8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
更に溶剤を含有し、固形分が10?40質量%である、請求項1?5、及び7?9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記溶剤が水を含有し、前記水の含有量が、前記組成物の全質量に対して0.1?1質量%である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記金属窒化物含有粒子の含有量が、前記組成物の全固形分に対して20?70質量%である、請求項1?5、及び7?11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
更に分散剤を含有し、前記分散剤がポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、及び、環状又は鎖状のポリエステルからなる群より選択される少なくとも1種の構造を含有する、請求項1?5、及び7?12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記金属窒化物含有粒子に対する前記分散剤の質量比が、0.05?0.30である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記金属窒化物含有粒子が、水酸化アルミニウムを含有する無機化合物で被覆された金属窒化物含有粒子である、請求項1?5、及び7?14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
請求項1?5、及び7?15のいずれか一項に記載の組成物の製造方法であって、
熱プラズマ法によって前記金属窒化物含有粒子を得る工程を含有し、
前記熱プラズマ法によって前記金属窒化物含有粒子を得る工程が、下記工程A、B、C、A3-1、A3-2、A3-3、A2、D、E、及びFをこの順に含有する、組成物の製造方法。
ただし、下記一連の工程において、前記工程A?C、及び前記工程A3-1?A3-3の順序を入れ替えてもよい。
工程A:プラズマトーチ内に窒素ガスを含有しない不活性ガスをプラズマガスとして供給し、熱プラズマ炎を発生する工程。
工程B:前記プラズマトーチ内の前記熱プラズマ炎に、前記遷移金属を含有する金属原料粉末を供給し、前記原料金属粉末を蒸発させ、気相の原料金属を得る工程。
工程C:前記気相の原料金属を冷却し、前記遷移金属を含有する金属微粒子を得る工程。
工程A3-1:プラズマトーチ内に窒素ガスを含有しない不活性ガスをプラズマガスとして供給し、熱プラズマ炎を発生する工程。
工程A3-2:前記プラズマトーチ内の前記熱プラズマ炎に、前記原子Aを含有する原料粉末を供給し、前記原料粉末を蒸発させ、気相の原子Aを得る工程。
工程A3-3:前記気相の原子Aを冷却し、微粒子化された原子Aを得る工程。
工程A2:前記金属微粒子に、前記微粒子化された原子Aを混合する工程。
工程D:プラズマトーチ内に窒素ガスを含有する不活性ガスをプラズマガスとして供給し、熱プラズマ炎を発生する工程。
工程E:前記プラズマトーチ内の前記熱プラズマ炎に、前記工程A2で得られた前記金属微粒子を供給し、前記金属微粒子を蒸発させ、気相の原料金属を得る工程。
工程F:前記気相の原料金属を冷却し、前記金属窒化物含有粒子を得る工程。
【請求項17】
請求項1?5、及び7?15のいずれか一項に記載の組成物を用いて得られる、硬化膜。
【請求項18】
請求項17に記載の硬化膜を含有する、カラーフィルタ。
【請求項19】
請求項17に記載の硬化膜を含有する、遮光膜。
【請求項20】
請求項17に記載の硬化膜を含有する、固体撮像素子。
【請求項21】
請求項17に記載の硬化膜を含有する、画像表示装置。」

第4 特許異議申立理由の概要
申立人は、甲第1?5号証を提出して、以下の特許異議申立理由によって、本件訂正前の請求項1?6、8?15、17?21に係る発明の特許は取り消すべきものである旨を主張している。

甲第1号証:国際公開第2010/147098号
甲第2号証:特開2009-91205号公報
甲第3号証:特開2010-97210号公報
甲第4号証:特開2004-99358号公報
甲第5号証:特開2006-206891号公報

1 特許法第29条第2項について
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
本件訂正前の請求項2?6、8?15、17?21に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、または、甲第1号証に記載された発明及び甲第2、3号証に記載された事項に基づいて、または、甲第1号証に記載された発明、甲第2、3号証に記載された事項及び本件特許出願の優先日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項2?6、8?15、17?21に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

第5 取消理由の概要
当審の令和 2年 5月12日付け取消理由通知による取消理由の概要は、本件訂正前の請求項1?6、8?15、17?21に係る発明の特許は、後記1により、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、というものであり、令和 2年12月22日付け取消理由通知(決定の予告)による取消理由の概要は、令和 2年 7月17日の訂正請求は認められず、本件訂正前の請求項1?6、8?15、17?21に係る発明の特許は、後記1?3により、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、というものである。
1 「原子A」の含有量について
本件特許明細書の【0282】?【0326】に記載される実施例のうち「P-C5」は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項を全て満足する組成物であるが、「金属窒化物含有粒子」が前記「P-C5」である「比較例5」は、課題を解決しないものであり、本件訂正前の請求項1に係る発明は課題を解決しないものを包含するので、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
このことは、本件訂正前の請求項1に係る発明を引用する本件訂正前の請求項2?6、8?15、17?21に係る発明についても同様であるので、本件訂正前の請求項1?6、8?15、17?21に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。

2 「原子A」について
本件特許明細書の実施例において、課題を解決できることが開示されている「原子A」は、「鉄、ニッケル及び銀」のみであり、「ホウ素、アルミニウム、ケイ素、マンガン」については、課題を解決できることは開示されていない。
ここで、「マンガン」については、「マンガン」と同様に重金属であり遷移元素でもある「鉄、ニッケル及び銀」と同様の作用、効果を奏し、本件課題を解決できることが推認されるが、「ホウ素、アルミニウム、ケイ素」については、これらは重金属ではなく、更に典型元素であり、重金属であり遷移元素でもある「鉄、ニッケル及び銀」とは性質が著しく異なることから、「鉄、ニッケル及び銀」と同様の作用、効果を奏し、課題を解決できることを理解できないし、推認することもできない。
そうすると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件訂正前の請求項1?6、8?15、17?21に係る発明において、「原子A」が「ホウ素、アルミニウム、ケイ素」である場合、課題を解決できることを理解できないから、本件訂正前の請求項1?6、8?15、17?21に係る発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。

3 「遷移金属」と「原子A」の選択について
本件訂正前の請求項1?6、8?15、17?21に係る発明は、「原子A」と「遷移金属」とを、例えば鉄族金属のような性質が似通ったものとするものを包含するものであるが、本件特許明細書からは、本件訂正前の請求項1?6、8?15、17?21に係る発明において、「原子A」を「遷移金属」とは異なる元素とすることで、課題を解決する機序が明らかでなく、本件特許明細書の実施例には、「原子A」を「遷移金属」と性質が似通ったものとした場合に課題を解決できることが開示されるものでもない。
そうすると、本件特許明細書の記載からは、「原子A」を「遷移金属」と性質が似通ったものとした場合、例えば、「遷移金属」が「Fe」のときに、「原子A」を「Fe」と性質が似通った鉄族金属である「ニッケル」とした場合、「原子A」が「遷移金属」とは異なる元素であったとしても、課題を解決できることを理解できない。
したがって、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件訂正前の請求項1?6、8?15、17?21に係る発明において、「遷移金属」と「原子A」との性質が似通っている場合、課題を解決できることを理解できないから、本件訂正前の請求項1?6、8?15、17?21に係る発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。

第6 取消理由についての判断
1 「原子A」の含有量について
本件発明1は、「金属窒化物含有粒子中における原子Aの含有量が、50質量ppm以上10質量%以下である」、との発明特定事項を有するものであり、「原子Aの含有量」が45ppmである「P-C5」は、本件発明1の発明特定事項を全て満足する組成物ではない。
そうすると、「金属窒化物含有粒子」が前記「P-C5」である「比較例5」が課題を解決しないものであるとしても、本件発明1は、課題を解決しないものを包含するものではないので、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するというべきである。
そして、このことは、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明2?5、8?15、17?21についても同様であるので、本件発明1?5、8?15、17?21は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するというべきであるから、前記第5の1の取消理由は理由がない。

2 「原子A」について
ア 本件発明1は、「前記原子Aは、マンガン、鉄、ニッケル及び銀からなる群から選択される少なくとも1種であ」る、との発明特定事項を有するものであり、「原子A」が「ホウ素、アルミニウム、ケイ素」を含むものではない。

イ 一方、本件特許明細書には、以下(a)?(d)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)。
(a)「【0001】
本発明は、組成物、組成物の製造方法、硬化膜、カラーフィルタ、遮光膜、固体撮像素子及び画像表示装置に関する。
【0002】
従来から、黒色粉末としては、チタン窒化物を含有する組成物が知られている。チタン窒化物を含有する組成物は、種々の用途に用いられ、例えば液晶表示装置及び固体撮像装置等に設けられた遮光膜の作製に使用されてきた。

【0003】
更に近年では、特定の波長の光の透過率に着目し、チタン窒化物に代えて、特定の波長の光の透過率がより低い(遮光性が高い)金属酸窒化物を用いた黒色粉末が検討されている。例えば特許文献1には、「バナジウム又はニオブの一種又は二種の酸窒化物からなる黒色粉末であり、酸素含有量16wt%以下及び窒素含有量10wt%以上であって、粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて450nmの透過率Xが10.0%以下であることを特徴とする青色遮蔽黒色粉末。」が開示されている。

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の青色遮蔽黒色粉末は、高い遮光性を有する黒色顔料として優れた性質を有している。しかし本発明者の検討によれば、上記のような黒色顔料を含有する組成物は、電極パターンが形成された基板上に、パターン状に加工された硬化膜を形成するために使用された場合、解像性の向上及び電極パターンの劣化(腐食)抑制の点でさらなる改良の余地があることを知見した。なお、解像性とは、所望の微細パターンに対して、得られるパターン形状が所望の形状により近似していること、具体的には、得られるパターン形状が所望の形状よりも太っていない、及び細っていないことを意図する。
【0006】
そこで、本発明は、優れた遮光性、優れた解像性、及び優れた電極の防食性を有する硬化膜を作製できる組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、組成物の製造方法、硬化膜、カラーフィルタ、遮光膜、固体撮像素子及び画像表示装置を提供することも課題とする。」

(b)「【0283】
[金属窒化物含有粒子P-1の作製]
以下の方法により金属窒化物含有粒子P-1を作製した。

【0292】
[金属窒化物含有粒子P-2?P-7、P-C1及びP-C5の作製]
原子Aの含有量を表1に記載したとおりとしたこと以外は、金属窒化物含有粒子P-1と同様にして、金属窒化物含有粒子P-2?P-7、P-C1及びP-C5を作製した。
なお、上記金属窒化物含有粒子の作製に係る金属微粒子の平均一次粒子径、金属窒化物含有粒子の平均一次粒子径、及び導電率を表1にまとめて示した。

【0294】
[金属窒化物含有粒子P-8?P-15の作製]
表1に示した遷移金属原料を用い、原子Aの含有量を表1に記載したとおりとしたこと以外は、金属窒化物含有粒子P-1と同様にして、金属窒化物含有粒子P-8?P-15を作製した。
なお、上記金属窒化物含有粒子の作製に係る金属微粒子の平均一次粒子径、金属窒化物含有粒子の平均一次粒子径、及び導電率を表1にまとめて示した。

【0299】
【表1】



(c)「【0316】
[組成物の調製]
次に、上記金属窒化物含有粒子分散液、バインダー樹脂、重合性化合物、重合開始剤、重合禁止剤、及び界面活性剤を混合、攪拌して、下記表2及び3に示す実施例及び比較例の各組成物を得た。なお、表2における各成分の含有量は、いずれも質量%である。
【0317】
【表2】



(d)「【0318】
<組成物中の水分量の測定>
実施例及び比較例の各組成物の水分量について、カールフィッシャー法を測定原理とするMKV-710(商品名、京都電子工業社製)により測定した。結果を表3に示す。
【0319】
[評価試験]
実施例及び比較例の各組成物について、以下の各評価試験を行った。結果は、表3にまとめて示した。

【0325】
【表3】



ウ 前記イ(a)によれば、本件発明は、組成物、組成物の製造方法、硬化膜、カラーフィルタ、遮光膜、固体撮像素子及び画像表示装置に関するものであって、例えば液晶表示装置及び固体撮像装置等に設けられた遮光膜の作製に使用される青色遮蔽黒色粉末として、近年、「バナジウム又はニオブの一種又は二種の酸窒化物からなる黒色粉末であり、酸素含有量16wt%以下及び窒素含有量10wt%以上であって、粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて450nmの透過率Xが10.0%以下であることを特徴とする青色遮蔽黒色粉末」が開示されており、前記「青色遮蔽黒色粉末」は、高い遮光性を有する黒色顔料として優れた性質を有しているが、そのような黒色顔料を含有する組成物は、電極パターンが形成された基板上に、パターン状に加工された硬化膜を形成するために使用された場合、解像性の向上及び電極パターンの劣化(腐食)抑制の点でさらなる改良の余地があるものである。
そして、本件発明は、優れた遮光性、優れた解像性、及び優れた電極の防食性を有する硬化膜を作製できる組成物を提供することを課題とし、また、組成物の製造方法を提供することを課題(以下、「本件課題」という。)とするものである。

エ そして、前記イ(b)?(d)によれば、本件特許明細書には、「原子A」として「鉄、ニッケル及び銀」を用いることで、本件課題を解決できることが開示されるものである。
更に、「マンガン」については、「マンガン」と同様に重金属であり遷移元素でもある「鉄、ニッケル及び銀」と同様の作用、効果を奏し、本件課題を解決できることが推認されるものである。

オ 前記ア、エによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「前記原子Aは、マンガン、鉄、ニッケル及び銀からなる群から選択される少なくとも1種であ」る、との発明特定事項を有し、「原子A」が「ホウ素、アルミニウム、ケイ素」を含むものではない本件発明1により、本件課題を解決できることを理解するから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載された発明であるというべきである。
そして、このことは、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明2?5、8?15、17?21についても同様であるので、本件発明1?5、8?15、17?21は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するというべきであるから、前記第5の2の取消理由は理由がない。

3 「遷移金属」と「原子A」の選択について
ア 本件発明1は、「前記金属窒化物含有粒子は、V、Cr、Y、Zr、Nb、Hf、Ta、W、及びReからなる群から選択される少なくとも1種である遷移金属の窒化物を含有し、前記原子Aは、マンガン、鉄、ニッケル及び銀からなる群から選択される少なくとも1種であ」る、との発明特定事項を有するものであり、「遷移金属」と「原子A」が重複するものではないし、「遷移金属」は、鉄族元素である「Fe」、「Co」、「Ni」を含まないから、本件発明1は、「原子A」を「遷移金属」と性質が似通ったものとするものではない。

イ そして、前記2イ(b)?(d)によれば、本件特許明細書には、遷移金属を「V、Cr、Y、Zr、Nb、Hf、Ta、W、及びReからなる群から選択される少なくとも1種」としたときに、本件課題を解決できることが開示されているから、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「前記金属窒化物含有粒子は、V、Cr、Y、Zr、Nb、Hf、Ta、W、及びReからなる群から選択される少なくとも1種である遷移金属の窒化物を含有し、前記原子Aは、マンガン、鉄、ニッケル及び銀からなる群から選択される少なくとも1種であ」る、との発明特定事項を有する本件発明1により本件課題を解決できることを理解するので、本件発明1は発明の詳細な説明に記載された発明であるというべきである。
そして、このことは、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明2?5、8?15、17?21についても同様であるので、本件発明1?5、8?15、17?21は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するというべきであるから、前記第5の3の取消理由は理由がない。

4 申立人意見書について
ア 特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号についての申立人意見書の主張の概要は、「原子A」が「ホウ素、アルミニウム、ケイ素」を含む場合、特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号の規定に適合しない、というものである。

イ ところが、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「前記原子Aは、マンガン、鉄、ニッケル及び銀からなる群から選択される少なくとも1種であ」る、との発明特定事項を有し、「原子A」が「ホウ素、アルミニウム、ケイ素」を含むものではない本件発明1により、本件課題を解決できることを理解するから、本件発明1?5、8?15、17?21は発明の詳細な説明に記載された発明であるというべきであり、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するというべきであることは、前記2オに記載のとおりであり、同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するというべきであるので、前記アの主張は採用できない。

5 小括
したがって、前記第5の当審の取消理由通知による取消理由はいずれも理由がない。

第7 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由についての判断
1 特許法第29条第2項について
(1)各甲号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載される発明
(ア)甲第1号証には以下(1a)?(1f)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)。
(1a)「[請求項1]
組成式:TiNxOy・zX
(式中、Xは金属原子、xは0より大きく2未満の数、yは0以上2未満の数、zは0より大きく10未満の数を表す)
で表される黒色複合微粒子。

[請求項9]
少なくとも遮光材、樹脂および溶媒を含み、遮光材として少なくとも請求項1?8のいずれか1項に記載の黒色複合微粒子を含有する黒色樹脂組成物。
[請求項10]
請求項9記載の黒色樹脂組成物を基板上に塗布・パターン加工して形成された樹脂ブラックマトリクスを具備するカラーフィルター基板。
[請求項11]
請求項10記載のカラーフィルター基板を具備する液晶表示装置。」

(1b)「[0001] 本発明は、高い遮光性を有する黒色複合微粒子、および冷陰極管やLED等の光源を用いた表示装置を構成するブラックマトリクスの作製に最適な黒色樹脂組成物、それを用いた樹脂ブラックマトリクス、その樹脂ブラックマトリクスを用いた液晶表示装置用カラーフィルター、ならびに液晶表示装置に関するものである。

[0003] 従来、ブラックマトリクス材料として、クロム系材料を用いた金属薄膜が用いられていたが、近年、コストや環境汚染の面から樹脂と遮光材からなる樹脂ブラックマトリクスが用いられている。樹脂ブラックマトリクスは、樹脂とカーボンブラック等の遮光材を含有する黒色樹脂組成物を基板上に塗布、乾燥して黒色被膜を形成し、これをフォトリソグラフィー法により格子状に微細パターン化して得られる。…

[0006] 遮光材としては、カーボンブラック、低次酸化チタンやチタン酸窒化物等のチタンブラック、酸化鉄等の金属酸化物、その他有機顔料混色系が使用されているが、カーボンブラックおよびチタン酸窒化物が主流となっている。しかしながら、OD値としては十分ではなかった。(特許文献2、3、4)
[0007] そこで、他の新規遮光材が種々検討されており、銀ナノ粒子や錫ナノ粒子、銀錫合金粒子といった金属微粒子および合金粒子(特許文献5、6)、そして高窒化度のチタン酸窒化物やチタン窒化物粒子が挙げられる。銀ナノ粒子は非常に高い遮光性を有するが、樹脂に含有させて塗膜とすると黒色とならず、反射率も非常に高くなるといった問題があった。…一方、チタン酸窒化物やチタン窒化物は、特定の粒子径や結晶構造にする、あるいは無機粉末を混合することで高い遮光性を得られることが知られているが(特許文献8?10)、銀ナノ粒子と比較すると遮光性の点ではまだ十分でないという問題があった。

[0010] 本発明者らは、従来技術の課題を解決するために鋭意検討した結果、遮光材として以下のように特定の黒色複合微粒子を使用することにより、本発明の課題を解決できることを見いだした。
[0011] すなわち、かかる本発明の目的は以下の構成により達成される。
[0012](1) 組成式:TiNxOy・zX
(式中、Xは金属原子、xは0より大きく2未満の数、yは0以上2未満の数、zは0より大きく10未満の数を表す)
で表される黒色複合微粒子。

[0016] 本発明の黒色複合微粒子は、チタン窒化物粒子と金属微粒子からなる複合微粒子であり、以下にその望ましい特性を説明する。

[0018] 本発明の黒色複合微粒子はチタン窒化物粒子と金属微粒子からなる黒色複合微粒子であり、組成式:TiN_(x)O_(y)・zX(組成式中、Tiはチタン原子、Nは窒素原子、Oは酸素原子、Xは金属原子を表す。xは、0より大きく2未満の数、yは0以上2未満の数、zは0より大きく10未満の数を表す)で表される。ここで、チタン窒化物粒子とは、主成分として窒化チタンを含み、通常、副成分として酸化チタンTiO_(2)、Ti_(n)O_(2n-1)(1≦n≦20)で表せる低次酸化チタンおよびTiN_(x)O_(y)(x、yはそれぞれ0より大きく2未満の数)で表せる酸窒化チタンを含有する。…
この複合微粒子を遮光材として用いることにより、本発明の樹脂ブラックマトリクスは、黒色樹脂組成中の遮光材濃度を低く保ったまま、高いOD値を達成することが可能となる。その結果、本発明の樹脂ブラックマトリクスは、高密着性を確保することができる。また、本発明の樹脂ブラックマトリクスは、膜厚当たりのOD値が高いため、実用的なOD値(4.0)で膜厚は0.8μm以下となる。その結果、樹脂ブラックマトリクスを用いた場合でも、保護膜無しで平坦性に実用上の問題のないカラーフィルターを得ることができるようになった。」

(1c)「[0159]黒色複合微粒子の製造
上記実施形態に係る黒色複合微粒子の製造方法により、TiとAgから構成される黒色複合微粒子を製造した。なお、ここでは、黒色複合微粒子材料となるTi粒子並びにAg粒子が、熱プラズマ炎中で容易に蒸発するように、Ti粒子は平均粒子径25μm、Ag粒子は平均粒子径5μmの粉末材料を使用した。
[0160]製造例1
ここで、プラズマトーチ12の高周波発振用コイル12bには、約4MHz、約80kVAの高周波電圧を印加し、プラズマガス供給源22からはプラズマガスとしてアルゴンガス50リットル/min、窒素50リットル/minの混合ガスを供給し、プラズマトーチ12内にアルゴン-窒素熱プラズマ炎を発生させた。また、材料供給装置140の噴霧ガス供給源からは10リットル/minのキャリアガスを供給した。
[0161] 所定の混合比率で予備混合された黒色複合微粒子製造用材料となる粉末材料を、キャリアガスであるアルゴンガスと共に、プラズマトーチ12内の熱プラズマ炎中に供給し、熱プラズマ炎中で蒸発させ、気相状態で高度に分散した混合物とした。
[0162] また、気体供給装置28によって、チャンバ16内に供給される気体としては、窒素を使用した。このときのチャンバ内流速は5m/secで、供給量は、1000L/minとした。
[0163] なお、サイクロン19内の圧力は50kPaとし、また、チャンバ16からサイクロン19への黒色複合微粒子の供給速度は、10m/s(平均値)とした。
[0164] 得られた黒色複合微粒子Bk1のBET比表面積は33.4m^(2)/gであった。また組成分析を行ったところ、チタン含有量は68.3質量%、窒素含有量は19.3質量%、酸素含有量は5.0質量%、銀含有量は6.9質量%であり、TiN(200)面に由来するピークの回折角2θは42.63°、このピークの半値幅より求めた結晶子サイズは36nm、であった。また、TiO_(2)に起因するX線回折ピークは全く見られなかった。」

(1d)「[0174]実施例1
黒色複合微粒子Bk1(96g)にポリアミック酸溶液A-1(120g)、γ-ブチロラクトン(114g)、N-メチル-2ピロリドン(538g)、3メチル-3メトキシブチルアセテート(132g)をタンクに仕込み、ホモミキサー(特殊機化製)で1時間撹拌し、予備分散液1を得た。その後、0.05mmφジルコニアビーズ(ニッカトー製、YTZボール)を70%充填した遠心分離セパレーターを具備したウルトラアペックスミル(寿工業製)に予備分散液1を供給し、回転速度8m/sで2時間分散を行い、固形分濃度12質量%、顔料/樹脂(質量比)=80/20の顔料分散液1を得た。
[0175] この顔料分散液1(728g)に、ポリアミック酸A-1(63g)、γ-ブチロラクトン(82g)、N-メチル-2-ピロリドン(87g)、3メチル-3メトキシブチルアセテート(39g)、界面活性剤LC951(楠本化成製、1g)を添加し、全固形分濃度10質量%、顔料/樹脂(質量比)=70/30の黒色樹脂組成物1を得た。
[0176] この黒色樹脂組成物1を無アルカリガラス(コーニング製“1737材”)基板上にカーテンフローコーターで塗布し、80℃、10^(-1)Torrで2分真空乾燥した。この後、140℃で20分間セミキュアし、ポジ型フォトレジスト(シプレー社製“SRC-100”)をリバースロールコーターで塗布、ホットプレートで120℃、5分間プリベークし、大日本スクリーン(株)製露光機“XG-5000”を用い、フォトマスクを介して露光し、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用いてポジ型レジストの現像およびポリイミド前駆体のエッチングを同時に行なった後、ポジ型レジストをメチルセルソルブアセテートで剥離した。さらに、300℃で30分間キュアした。このようにして、厚さ0.8μmのブラックマトリクス1を作成した。」

(1e)「[0191]
[表1]



(1f)「[0193]
[表3]



(イ)前記(ア)(1a)によれば、甲第1号証には、組成式:TiNxOy・zX(式中、Xは金属原子、xは0より大きく2未満の数、yは0以上2未満の数、zは0より大きく10未満の数を表す)で表される「黒色複合微粒子」が記載されており、前記(ア)(1c)、(1e)の製造例1の「黒色複合微粒子」に注目すると、前記「黒色複合微粒子」は、TiとAgから構成されるものであって、比表面積が33.4m^(2)/g、xが0.97、yが0.22、zが0.04、チタン含有量が68.3質量%、窒素含有量が19.3質量%、酸素含有量が5.0質量%、銀含有量が6.9質量%であり、TiN(200)面に由来するピークの回折角2θは42.63°、このピークの半値幅より求めた結晶子サイズは36nmであり、TiO_(2)に起因するX線回折ピークは全く見られないものである。
また、前記(1a)によれば、甲第1号証には、少なくとも遮光材、樹脂および溶媒を含み、遮光材として少なくとも前記「黒色複合微粒子」を含有する「黒色樹脂組成物」が記載されており、前記(ア)(1d)、(1f)の実施例1の「黒色樹脂組成物」に注目すると、前記「黒色樹脂組成物」は、遮光材が前記「黒色複合微粒子」であり、樹脂成分がポリアミック酸溶液であり、全固形分濃度が10.0質量%、顔料/樹脂(質量比)=70/30であるものである。

(ウ)前記(イ)によれば、甲第1号証には以下の発明が記載されているといえる。
「少なくとも遮光材、樹脂および溶媒を含み、
遮光材が、組成式:TiNxOy・zX(式中、Xは金属原子、xは0より大きく2未満の数、yは0以上2未満の数、zは0より大きく10未満の数を表す)で表される黒色複合微粒子であり、
前記黒色複合微粒子は、TiとAgから構成されるものであって、比表面積が33.4m^(2)/g、xが0.97、yが0.22、zが0.04、チタン含有量が68.3質量%、窒素含有量が19.3質量%、酸素含有量が5.0質量%、銀含有量が6.9質量%であり、
TiN(200)面に由来するピークの回折角2θは42.63°、このピークの半値幅より求めた結晶子サイズは36nmであり、TiO_(2)に起因するX線回折ピークは全く見られないものであり、
樹脂成分がポリアミック酸溶液であり、全固形分濃度が10.0質量%、顔料/樹脂(質量比)=70/30である、黒色樹脂組成物。」(以下、「甲1発明」という。)

イ 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には以下(2a)?(2c)の記載がある。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折プロファイルにおいて、低次酸化ジルコニウムのピークと窒化ジルコニウムのピークを有し、比表面積が10?60m^(2)/gであることを特徴とする微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体。」

(2b)「【0002】
テレビ(テレビジョン)などのディスプレイ用のブラックマトリクスの黒色顔料としては、カーボンブラックが使用されているが、カーボンブラックは電気伝導性が高いため、そのまま使用すると、周囲の導電性デバイスとの間で短絡が生じるおそれがある。そこで、表面を樹脂コーティングすることなどによって、カーボンブラックの電気伝導度を低下させてから、使用に供されている。
しかしながら、上記のような電気伝導度を低下させるための加工も、製品コストをアップさせる原因になるため、カーボンブラックに代えて、直接(つまり、上記のような電気伝導度を低下させるための加工を要することなく)使用できる黒色顔料が要望されている。

【0012】
本発明は、上記のような事情に鑑み、黒色系で電気伝導度の低い微粒子低次酸化ジルコニウムないしはそれよりさらに電気伝導度の低い黒色系物質を工業的規模で提供することを目的とする。

【0015】
本発明の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体は、黒色系で電気伝導性の低い微粒子材料として使用でき、現在、カーボンブラックなどが使用されているテレビなどのディスプレイ用のブラックマトリクスなどへ、より電気伝導性の低い微粒子黒色顔料として使用することができる。」

(2c)「【0033】
実施例1
比表面積の測定値から球径換算した平均一次粒径が19nmの単斜晶系二酸化ジルコニウム(第一稀元素化学工業社製);173gと、微粒子酸化マグネシウム〔協和化学工業社製MF-150、比表面積118m^(2)/g〕80gを小型V型混合機(容量10リットル、回転速度;50rpm)で30分間混合した後、ピンミル〔コロプレックス160Z(商品名),ホソカワミクロン社製、回転速度;14,000rpm、粉砕速度;150g/min〕で粉砕混合を行った混合粉体を得た。この混合粉体を「混合粉体A」とする。
【0034】
つぎに、この混合粉体A;169gに金属マグネシウム(関東金属社製MG45、篩のメッシュパス換算粒径:150?300μm);32gを加え、上記のV型混合機の槽内を窒素置換した状態で30分間混合処理して混合粉体を得た。この混合粉体を「混合粉体B」とする。なお、上記混合粉体A中の二酸化ジルコニウムに対する金属マグネシウムの量は、ジルコニウム(Zr)とマグネシウム(Mg)とのモル比でMg/Zr=1.4であった。
【0035】
つぎに、この混合粉体B;200gをステンレス鋼製容器(容器本体外寸:200mm×200mm×50mm・フタ(蓋)内寸:204mm×204mm×45mm)に入れ、金属ベルトを持つ連続還元焼成炉にて最高温度700℃×1時間で焼成した。この燃成は、窒素ガスを酸素濃度が100ppm以下になるように流速50?100リットル/分で流しながら、昇温(室温?700℃);約1時間、降温(700?室温);約5時間の条件下で行った。
【0036】
上記のようにして得られた焼成物を、1リットルの水に分散し、5%希塩酸を徐々に添加して、pHを1以上で、温度を70?80℃に保ちながら洗浄した後、2%アンモニア水にてpH6に調整し、濾過した。その濾過固形分を水中に400g/リットルに再分散し、もう一度、前記と同様に酸洗浄、アンモニア水でのpH調整をした後、濾過した。このように酸洗浄-アンモニア水によるpH調整を2回繰り返した後、濾過物をイオン交換水に固形分換算で500g/リットルで分散させ、60℃での加熱攪拌とpH6への調整をした後、吸引濾過装置で濾過し、さらに等量のイオン交換水で洗浄し、設定温度;105℃の熱風乾燥機にて乾燥して微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を得た。」

(2)本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「Ag」は、本件発明1における「原子A」であって、「前記原子Aは、マンガン、鉄、ニッケル及び銀からなる群から選択される少なくとも1種であ」るものに相当し、甲1発明における「黒色複合微粒子」は、「TiとAgから構成されるものであって」、「TiN(200)面に由来するピークの回折角2θは42.63°、このピークの半値幅より求めた結晶子サイズは36nm、であり、TiO_(2)に起因するX線回折ピークは全く見られないものであ」り、「金属窒化物」である「TiN」を含有するものであるから、本件発明1における「原子Aを含有する金属窒化物含有微粒子」に相当し、甲1発明における「黒色樹脂組成物」は、本件発明1における「原子Aを含有する金属窒化物含有微粒子を含有する組成物」に相当する。
また、甲1発明において、「黒色複合微粒子」の「銀含有量が6.9質量%である」ことは、本件発明1において、「粒子中における前記原子Aの含有量が、50ppm以上?10質量%以下である」ことに合致する。

(イ)前記(ア)によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「原子Aを含有する金属窒化物含有粒子を含有する組成物であって、
前記原子Aは、マンガン、鉄、ニッケル及び銀からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記粒子中における前記原子Aの含有量が、50ppm以上?10質量%以下である、組成物。」の点で一致し、少なくとも、以下の点で相違する。
・相違点1:本件発明1は、「金属窒化物含有粒子」が、「V、Cr、Y、Zr、Nb、Hf、Ta、W、及びReからなる群から選択される少なくとも1種である遷移金属の窒化物を含有」する、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は、「金属窒化物含有粒子」が、「組成式:TiNxOy・zX(式中、Xは金属原子、xは0より大きく2未満の数、yは0以上2未満の数、zは0より大きく10未満の数を表す)で表される黒色複合微粒子」であって、「前記黒色複合微粒子は、TiとAgから構成されるものであ」る点。

イ 判断
(ア)前記ア(イ)の相違点1について検討すると、前記(1)ア(ア)(1b)によれば、甲1発明は、高い遮光性を有する「金属窒化物含有粒子」、および冷陰極管やLED等の光源を用いた表示装置を構成するブラックマトリクスの作製に最適な「組成物」に関するものであって、従来、ブラックマトリクス材料として、樹脂と遮光材を含有する「組成物」を基板上に塗布、乾燥して黒色被膜を形成し、これをフォトリソグラフィー法により格子状に微細パターン化して得られる樹脂ブラックマトリクスが用いられ、前記遮光材としては、銀ナノ粒子や錫ナノ粒子、銀錫合金粒子といった金属微粒子および合金粒子、高窒化度のチタン酸窒化物やチタン窒化物粒子が挙げられるのであるが、銀ナノ粒子は非常に高い遮光性を有するが、樹脂に含有させて塗膜とすると黒色とならず、反射率も非常に高くなるといった課題があり、チタン酸窒化物やチタン窒化物は、銀ナノ粒子と比較すると遮光性の点ではまだ十分でないという課題があったものである。
そして、甲1発明は、組成式:TiN_(x)O_(y)・zX(組成式中、Tiはチタン原子、Nは窒素原子、Oは酸素原子、Xは金属原子を表す。xは、0より大きく2未満の数、yは0以上2未満の数、zは0より大きく10未満の数を表す)で表される、チタン窒化物粒子と金属微粒子からなる特定の「金属窒化物含有粒子」、具体的には、TiとAgから構成される「金属窒化物含有粒子」を遮光材として用いることにより、樹脂ブラックマトリクスが、「組成物」中の遮光材濃度を低く保ったまま、高いOD値を達成することが可能となり、その結果、高密着性を確保することができ、また、保護膜無しで平坦性に実用上の問題のないカラーフィルターを得ることができるようになることで、前記課題を解決するものである。

(イ)前記(ア)によれば、甲1発明は、チタン窒化物粒子を必須として、これと銀微粒子からなる特定の「金属窒化物含有粒子」を遮光材として用いることで、前記(ア)に記載される課題を解決するものであり、甲1発明において、「組成物」に含有される「金属窒化物含有粒子」を、チタン窒化物粒子以外の「V、Cr、Y、Zr、Nb、Hf、Ta、W、及びReからなる群から選択される少なくとも1種である遷移金属の窒化物」とする動機付けはそもそも存在しない。

(ウ)また、前記(1)イ(2a)?(2c)によれば、甲第2号証には、テレビなどのディスプレイ用のブラックマトリクスなどの、より電気伝導性の低い微粒子黒色顔料として、X線回折プロファイルにおいて、低次酸化ジルコニウムのピークと窒化ジルコニウムのピークを有し、比表面積が10?60m^(2)/gである「微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体」を使用することが記載されているが、より電気伝導性の低い微粒子黒色顔料である前記「微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体」を、電気伝導性が明らかでないそのほかの「組成物」と組み合わせて使用することはもともと想定されない。
そして、甲1発明に係る「組成物」の電気伝導性は明らかでないから、甲第2号証に記載される「微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体」とを組み合わせて使用することを、当業者が容易に想到するものとはいえない。

(エ)すると、甲1発明において、「金属窒化物含有粒子」を、「V、Cr、Y、Zr、Nb、Hf、Ta、W、及びReからなる群から選択される少なくとも1種である遷移金属の窒化物を含有」する、との前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲1発明及び甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本件発明2?5、8?15、17?21について
ア 本件発明2?5、8?15及び17?21は、いずれも、直接的又は間接的に本件発明1を引用するものであって、本件発明2?5、8?15及び17?21のいずれかと甲1発明とを対比した場合、いずれの場合であっても、少なくとも前記(2)ア(イ)の相違点1の点で相違する。
そして、甲1発明において、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないことは、前記(2)イ(エ)に記載のとおりであり、このことは、甲第3?5号証の記載事項に左右されるものでもない。

イ してみれば、前記(2)イ(エ)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2?5、8?15及び17?21を、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、または、甲1発明及び甲第2、3号証に記載された事項に基づいて、または、甲1発明、甲第2、3号証に記載された事項及び本件特許出願の優先日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)まとめ
したがって、本件発明1を、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、本件発明2?5、8?15、17?21を、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、または、甲第1号証に記載された発明及び甲第2、3号証に記載された事項に基づいて、または、甲第1号証に記載された発明、甲第2、3号証に記載された事項及び本件特許出願の優先日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

2 申立人意見書について
ア 特許法第29条第2項についての申立人意見書の主張の概要は、令和 2年 7月17日の訂正請求により訂正された請求項1?6、8?15、17?21に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、というものである。

イ ところが、前記1(4)によれば、本件発明1?5、8?15、17?21は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないので、前記アの主張は採用できない。

3 小括
したがって、前記第4の1の特許異議申立理由はいずれも理由がない。

第8 むすび
以上のとおり、請求項1?5、8?15、17?21に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5、8?15、17?21に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項6は、本件訂正により削除されたため、請求項6に係る特許に対する特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項が準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子Aを含有する金属窒化物含有粒子を含有する組成物であって、
前記金属窒化物含有粒子は、V、Cr、Y、Zr、Nb、Hf、Ta、W、及びReからなる群から選択される少なくとも1種である遷移金属の窒化物を含有し、
前記原子Aは、マンガン、鉄、ニッケル及び銀からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記金属窒化物含有粒子中における前記原子Aの含有量が、50質量ppm以上10質量%以下である、組成物。
【請求項2】
前記金属窒化物含有粒子の導電率が100×10^(4)?600×10^(4)S/mである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記金属窒化物含有粒子の平均一次粒子径が10?50nmである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
更にバインダー樹脂を含有する、請求項1?3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記金属窒化物含有粒子に対する前記バインダー樹脂の質量比が0.3以下である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
前記遷移金属が、V、及びNbからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1?5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
更に重合性化合物を含有する、請求項1?5、及び7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
更に重合開始剤を含有する、請求項1?5、7、及び8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
更に溶剤を含有し、固形分が10?40質量%である、請求項1?5、及び7?9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記溶剤が水を含有し、前記水の含有量が、前記組成物の全質量に対して0.1?1質量%である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記金属窒化物含有粒子の含有量が、前記組成物の全固形分に対して20?70質量%である、請求項1?5、及び7?11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
更に分散剤を含有し、前記分散剤がポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、及び、環状又は鎖状のポリエステルからなる群より選択される少なくとも1種の構造を含有する、請求項1?5、及び7?12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記金属窒化物含有粒子に対する前記分散剤の質量比が、0.05?0.30である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記金属窒化物含有粒子が、水酸化アルミニウムを含有する無機化合物で被覆された金属窒化物含有粒子である、請求項1?5、及び7?14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
請求項1?5、及び7?15のいずれか一項に記載の組成物の製造方法であって、
熱プラズマ法によって前記金属窒化物含有粒子を得る工程を含有し、
前記熱プラズマ法によって前記金属窒化物含有粒子を得る工程が、下記工程A、B、C、A3-1、A3-2、A3-3、A2、D、E、及びFをこの順に含有する、組成物の製造方法。
ただし、下記一連の工程において、前記工程A?C、及び前記工程A3-1?A3-3の順序を入れ替えてもよい。
工程A:プラズマトーチ内に窒素ガスを含有しない不活性ガスをプラズマガスとして供給し、熱プラズマ炎を発生する工程。
工程B:前記プラズマトーチ内の前記熱プラズマ炎に、前記遷移金属を含有する金属原料粉末を供給し、前記原料金属粉末を蒸発させ、気相の原料金属を得る工程。
工程C:前記気相の原料金属を冷却し、前記遷移金属を含有する金属微粒子を得る工程。
工程A3-1:プラズマトーチ内に窒素ガスを含有しない不活性ガスをプラズマガスとして供給し、熱プラズマ炎を発生する工程。
工程A3-2:前記プラズマトーチ内の前記熱プラズマ炎に、前記原子Aを含有する原料粉末を供給し、前記原料粉末を蒸発させ、気相の原子Aを得る工程。
工程A3-3:前記気相の原子Aを冷却し、微粒子化された原子Aを得る工程。
工程A2:前記金属微粒子に、前記微粒子化された原子Aを混合する工程。
工程D:プラズマトーチ内に窒素ガスを含有する不活性ガスをプラズマガスとして供給し、熱プラズマ炎を発生する工程。
工程E:前記プラズマトーチ内の前記熱プラズマ炎に、前記工程A2で得られた前記金属微粒子を供給し、前記金属微粒子を蒸発させ、気相の原料金属を得る工程。
工程F:前記気相の原料金属を冷却し、前記金属窒化物含有粒子を得る工程。
【請求項17】
請求項1?5、及び7?15のいずれか一項に記載の組成物を用いて得られる、硬化膜。
【請求項18】
請求項17に記載の硬化膜を含有する、カラーフィルタ。
【請求項19】
請求項17に記載の硬化膜を含有する、遮光膜。
【請求項20】
請求項17に記載の硬化膜を含有する、固体撮像素子。
【請求項21】
請求項17に記載の硬化膜を含有する、画像表示装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-09 
出願番号 特願2018-510284(P2018-510284)
審決分類 P 1 652・ 851- YAA (C01G)
P 1 652・ 537- YAA (C01G)
P 1 652・ 121- YAA (C01G)
P 1 652・ 853- YAA (C01G)
P 1 652・ 856- YAA (C01G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 廣野 知子  
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 後藤 政博
金 公彦
登録日 2019-08-16 
登録番号 特許第6571275号(P6571275)
権利者 富士フイルム株式会社
発明の名称 組成物、組成物の製造方法、硬化膜、カラーフィルタ、遮光膜、固体撮像素子及び画像表示装置  
代理人 伊東 秀明  
代理人 伊東 秀明  
代理人 三橋 史生  
代理人 三橋 史生  

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