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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A23L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A23L 審判 全部申し立て 2項進歩性 A23L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L |
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管理番号 | 1374941 |
異議申立番号 | 異議2021-700198 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-02-24 |
確定日 | 2021-06-09 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6745258号発明「飲料組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6745258号の請求項1?7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6745258号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成29年12月28日に出願され、令和2年8月5日にその特許権の設定登録がされ、令和2年8月26日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年2月24日に特許異議申立人 松永 健太郎(以下、「異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。 第2 本件特許発明 特許第6745258号の請求項1?7の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 次の成分(A)及び(B); (A)非重合体カテキン類0.03?0.6質量%、及び (B)シネオール1000質量ppb以下 を含有し、 成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が4×10^(-7)以上1×10^(-5)以下である、飲料組成物。 【請求項2】 成分(C)としてミルセンを含み、成分(C)の含有量が0.7?300質量ppbである、請求項1記載の飲料組成物。 【請求項3】 pHが2?7.5である、請求項1又は2記載の飲料組成物。 【請求項4】 茶飲料組成物である、請求項1?3のいずれか1項に記載の飲料組成物。 【請求項5】 不発酵茶飲料組成物である、請求項1?4のいずれか1項に記載の飲料組成物。 【請求項6】 次の成分(A)及び(B); (A)非重合体カテキン類0.03?0.6質量%、及び (B)シネオール1000質量ppb以下 を、両者の質量比[(B)/(A)]が4×10^(-7)以上1.25×10^(-3)以下となる範囲内で飲料組成物中に含有させる、非重合体カテキン類による舌のザラつき抑制方法。 【請求項7】 次の成分(A)及び(B); (A)非重合体カテキン類0.03?0.6質量%、及び (B)シネオール1000質量ppb以下 を、両者の質量比[(B)/(A)]が4×10^(-7)以上1×10^(-5)以下となる範囲内で調製する、飲料組成物の製造方法。」 (以下では、請求項順に、「本件特許発明1」、…、「本件特許発明7」ともいい、まとめて「本件特許発明」ともいう。) 第3 申立理由の概要及び証拠 1 申立理由 異議申立人は、証拠方法として甲第1号証?甲第5号証を提出して、以下の理由1?理由3を主張している。 理由1: 本件特許発明は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、本件特許発明の課題を解決できるとは認識することができず、サポート要件を満たしていない。 よって、本件特許発明に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。 理由2及び理由3: 本件特許発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるか、又は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。 2 異議申立人の提出した証拠 甲第1号証: cookpad ローズマリー緑茶 レシピID:827725 公開日2009年6月4日、更新日2009年6月14日、[online]、[2020年11月4日印刷],インターネットURL:https://www.cookpad.com/recipe/827725(以下、「甲1」という。) 甲第2号証: 神戸保 外2名,“茶葉からの緑茶浸出条件と浸出液中の成分量”,別府大学紀要,第47号(2006年),61-70頁(以下、「甲2」という。) 甲第3号証: Xue Zhao, et al,“Determination of 1,8 Cineole in Fresh Rosemary and Sage Leaves by Solid-phase Microextraction and Gas Chromatography/Mass Spectrometry”, Journal of Research Analytica, Vol.3, No.3, pp.91-95 (2017)(異議申立人による抄訳添付)(以下、「甲3」という。) 甲第4号証: Juta MOOKDASANIT, et al,“Trace Volatile Components in Essential Oil of Citrus sudachi by Means of Modified Solvent Extraction Method”, Food Science and Technology Research, Vol.9, No.1, pp.54-61 (2003)(異議申立人による抄訳添付)(以下、「甲4」という。) 甲第5号証:山本奈美 外1名,“ハーブの日常生活への利用-特にハーブティについて”,日本調理科学会誌, Vol.49, No.5, pp.333-336 (2016) 第4 当審の判断 1.理由1(サポート要件)について (1)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 記載(本-1) 「【背景技術】 【0002】 非重合体カテキン類は、ポリフェノール化合物の1種であり、様々な生理活性を有することから、飲食品への応用が注目されている。中でも、生活習慣として手軽に摂取できることから、非重合体カテキン類を高濃度に含有させた飲料が多数上市されているが、飲用時に舌がザラつくような感覚を伴うことがある(特許文献1)。」 記載(本-2) 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明の課題は、非重合体カテキン類を強化しながらも、舌のザラつきの抑制された飲料組成物を提供することにある。」 記載(本-3) 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、非重合体カテキン類を高含有する飲料に、香気物質として知られるシネオールを特定量含有させ、非重合体カテキン類とシネオールとの質量比を特定範囲内に制御することで、意外なことに、非重合体カテキン類を強化しながらも、舌のザラつきを抑制できることを見出した。」 記載(本-4) 「【発明の効果】 【0008】 本発明によれば、非重合体カテキン類を強化しながらも、舌のザラつきの抑制された飲料組成物を提供することができる。」 記載(本-5) 「【発明を実施するための形態】 【0009】 <飲料組成物> 本発明の飲料組成物は、成分(A)として非重合体カテキン類を含有する。ここで、本明細書において「(A)非重合体カテキン類」とは、カテキン、ガロカテキン、エピカテキン及びエピガロカテキン等の非ガレート体と、カテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピカテキンガレート及びエピガロカテキンガレート等のガレート体を併せての総称である。本発明においては、上記8種の非重合体カテキン類のうち少なくとも1種を含有すればよい。 成分(A)は、飲食品の分野において通常使用されているものであれば由来は特に限定されず、例えば、化学合成品でも、非重合体カテキン類を含有する植物から抽出したものでもよい。 【0010】 本発明の飲料組成物中の成分(A)の含有量は0.03?0.6質量%であるが、非重合体カテキン類の強化、生理効果の観点から、0.06質量%以上が好ましく、0.08質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、0.12質量%以上が殊更に好ましく、また苦味抑制の観点から、0.5質量%以下が好ましく、0.4質量%以下がより好ましく、0.3質量%以下が更に好ましく、0.25質量%以下が殊更に好ましい。成分(A)の含有量の範囲としては、本発明の飲料組成物中に、好ましくは0.06?0.5質量%であり、より好ましくは0.08?0.4質量%であり、更に好ましくは0.1?0.3質量%であり、殊更に好ましくは0.12?0.25質量%である。なお、成分(A)の含有量は、上記8種の非重合体カテキン類の合計量に基づいて定義される。また、成分(A)の含有量は、通常知られている測定法のうち測定試料の状況に適した分析法により測定することが可能であり、例えば、液体クロマトグラフィーで分析することが可能である。具体的には、後掲の実施例に記載の方法が挙げられる。なお、測定の際には装置の検出域に適合させるため、試料を凍結乾燥したり、装置の分離能に適合させるため試料中の夾雑物を除去したりする等、必要に応じて適宜処理を施してもよい。 【0011】 本発明の飲料組成物は、成分(B)としてシネオールを含有する。ここで、本明細書に係る「シネオール」は、1,8-シネオールとも呼ばれ、IUPAC系統名は1,3,3-トリメチル-2-オキサビシクロ[2.2.2]オクタンである。成分(B)は、原料に由来するものでも、新たに加えられたものでもよい。また、成分(B)は、飲食品の分野において通常使用されているものであれば由来は特に限定されず、例えば、化学合成品でも、シネオールを含有する植物の抽出物又は精油でもよい。 【0012】 本発明の飲料組成物中の成分(B)の含有量は、風味の観点から、1000質量ppb以下であり、700質量ppb以下がより好ましく、300質量ppb以下が更に好ましく、100質量ppb以下が更に好ましく、13質量ppb以下がより更に好ましく、10質量ppb以下が殊更に好ましい。また、舌のザラつき抑制の観点から、0.2質量ppb以上が好ましく、0.3質量ppb以上がより好ましく、0.5質量ppb以上が更に好ましく、1質量ppb以上がより更に好ましく、1.7質量ppb以上が殊更に好ましい。成分(B)の含有量の範囲としては、本発明の飲料組成物中に、好ましくは0.2?1000質量ppbであり、より好ましくは0.3?700質量ppbであり、更に好ましくは0.5?300質量ppbであり、更に好ましくは1?100質量ppbであり、より更に好ましくは1.7?13質量ppbであり、殊更に好ましくは1.7?10質量ppbである。なお、成分(B)の含有量は、通常知られている測定法のうち測定試料の状況に適した分析法により測定することが可能であり、例えば、GC/MS法で分析することが可能である。具体的には、後掲の実施例に記載の方法が挙げられる。なお、測定の際には装置の検出域に適合させるため、試料を凍結乾燥したり、装置の分離能に適合させるため試料中の夾雑物を除去したりする等、必要に応じて適宜処理を施してもよい。 【0013】 本発明の飲料組成物は、成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が4×10^(-7)以上1.25×10^(-3)以下であるが、舌のザラつき抑制の観点から、7×10^(-7)以上が好ましく、1.5×10^(-6)以上がより好ましく、2×10^(-6)以上が更に好ましく、2.5×10^(-6)以上がより更に好ましく、3×10^(-6)以上が殊更に好ましく、また風味の観点から、8×10^(-4)以下が好ましく、2×10^(-4)以下がより好ましく、7×10^(-5)以下が更に好ましく、3×10^(-5)以下が更に好ましく、1×10^(-5)以下がより更に好ましく、7×10^(-6)以下が殊更に好ましい。かかる質量比[(B)/(A)]の範囲としては、好ましくは7×10^(-7)以上8×10^(-4)以下であり、より好ましくは1.5×10^(-6)以上2×10^(-4)以下であり、更に好ましくは2×10^(-6)以上7×10^(-5)以下であり、更に好ましくは2.5×10^(-6)以上3×10^(-5)以下であり、より更に好ましくは3×10^(-6)以上1×10^(-5)以下であり、更に好ましくは3×10^(-6)以上7×10^(-6)以下である。なお、質量比[(B)/(A)]の算出は、成分(A)及び成分(B)の含有量について同一の単位に揃えて行うものとする。 【0014】 本発明の飲料組成物は、成分(C)としてミルセンを含有することができる。ここで、本明細書において「ミルセン」とは、β-ミルセンとも呼ばれ、IUPAC系統名は7-メチル-3-メチレンオクタ-1,6-ジエンである。成分(C)は、原料に由来するものでも、新たに加えられたものでもよい。また、成分(C)は、飲食品の分野において通常使用されているものであれば由来は特に限定されず、例えば、化学合成品でも、ミルセンを含有する植物の抽出物又は精油でもよい。 【0015】 本発明の飲料組成物中の成分(C)の含有量は、舌のザラつき抑制の観点から、0.7質量ppb以上が好ましく、1質量ppb以上がより好ましく、3質量ppb以上が更に好ましく、5質量ppb以上が殊更に好ましく、そして300質量ppb以下が好ましく、100質量ppb以下がより好ましく、30質量ppb以下が更に好ましい。かかる成分(C)の含有量の範囲としては、本発明の飲料組成物中に、好ましくは0.7?300質量ppbであり、より好ましくは1?100質量ppbであり、更に好ましくは3?30質量ppbであり、殊更に好ましくは5?30質量ppbである。なお、成分(C)の含有量は、通常知られている分析法のうち測定試料の状況に適した分析法、例えば、GC/MS法により測定することができる。具体的には、後掲の実施例に記載の方法が挙げられる。なお、測定の際には装置の検出域に適合させるため、試料を凍結乾燥したり、装置の分離能に適合させるため試料中の夾雑物を除去したりする等、必要に応じて適宜処理を施してもよい。 【0016】 本発明の飲料組成物は、成分(A)と成分(C)との質量比[(C)/(A)]が、舌のザラつき抑制の観点から、4×10^(-7)以上が好ましく、7×10^(-7)以上がより好ましく、1.5×10^(-6)以上が更に好ましく、2×10^(-6)以上が更に好ましく、2.5×10^(-6)以上がより更に好ましく、3×10^(-6)以上が殊更に好ましく、また風味の観点から、8×10^(-4)以下が好ましく、5×10^(-4)以下がより好ましく、2×10^(-4)以下が更に好ましく、7×10^(-5)以下が更に好ましく、3×10^(-5)下がより更に好ましく、1×10^(-5)以下が殊更に好ましい。かかる質量比[(C)/(A)]の範囲としては、好ましくは4×10^(-7)以上8×10^(-4)以下、より好ましくは7×10^(-7)以上5×10^(-4)以下であり、更に好ましくは1.5×10^(-6)以上2×10^(-4)以下であり、更に好ましくは2×10^(-6)以上7×10^(-5)以下であり、より更に好ましくは2.5×10^(-6)以上3×10^(-5)以下であり、殊更に好ましくは3×10^(-6)以上1×10^(-5)以下である。なお、質量比[(C)/(A)]の算出は、成分(A)及び成分(C)の含有量について同一の単位に揃えて行うものとする。」 記載(本-6) 「【0042】 製造例1 緑茶抽出物の製造 2番煎茶葉(宮崎県産、(2016年度産))10gを90℃の熱水430gに投入し、1分間抽出を行った。その後、液温5℃まで冷却し、緑茶抽出物とした。得られた緑茶抽出物は、非重合体カテキン類の含有量が0.136質量%であり、シネオール、アストラガリン及びミルセンは検出されなかった。」 記載(本-7) 「【0049】 実施例10?11 表8に示す各成分を配合して飲料組成物を調製し、得られた各飲料組成物について分析及び官能評価を行った。その結果を、実施例3及び比較例1の結果とともに表8に示す。 【0050】 【表8】 ![]() 」 記載(本-8) 「【0051】 実施例12?14 表9に示す各成分を配合して飲料組成物を調製し、得られた各飲料組成物について分析及び官能評価を行った。その結果を、実施例3及び比較例1の結果とともに表9に示す。 【0052】 【表9】 ![]() 」 記載(本-9) 「【0055】 実施例19?21及び比較例8 表11に示す各成分を配合して飲料組成物を調製し、得られた各飲料組成物について分析及び官能評価を行った。その結果を表11に示す。 【0056】 【表11】 ![]() 」 記載(本-10) 「【0057】 表5?11から、非重合体カテキン類を高含有する飲料に、シネオールを含有させ、非重合体カテキン類とシネオールとの質量比を特定範囲内に制御することで、意外なことに、非重合体カテキン類を強化しながらも、舌のザラつきを抑制できることがわかる。」 (2)本件特許発明が解決しようとする課題 特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載(特に、記載(本-1)?記載(本-2)、記載(本-4))から、本件特許発明1?5が解決しようとする課題は、非重合体カテキン類を強化しながらも舌のザラつきの抑制された飲料組成物を提供することであり、本件特許発明6が解決しようとする課題は、非重合体カテキン類を強化した飲料における非重合体カテキン類による舌のザラつき抑制方法を提供することであり、本件特許発明7が解決しようとする課題は、非重合体カテキン類を強化しながらも舌のザラつきの抑制された飲料組成物の製造方法を提供することであると認められる。 (3)検討 ア 本件特許発明1、本件特許発明6、本件特許発明7についての検討 上記課題を解決するための手段として、記載(本-3)には、非重合体カテキン類を高含有する飲料に、シネオールを特定量含有させ、非重合体カテキン類とシネオールとの質量比を特定範囲内に制御することで、非重合体カテキン類を強化しながらも、舌のザラつきを抑制できることを見出した旨が記載され、記載(本-4)には、成分(A)として非重合体カテキン類を含有し、その含有量は0.03?0.6質量%であり、成分(B)としてシネオールを含有し、その含有量は1000質量ppb以下であり、成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が4×10^(-7)以上1.25×10^(-3)以下であり、より更に好ましくは1×10^(-5)以下であることが記載されている。 さらに、記載(本-7)?記載(本-10)には、非重合体カテキン類として、カテキン試薬(エピガロカテキンガレート(テアビゴ、太陽化学))またはカテキン試薬(エピガロカテキンガレート(テアビゴ、太陽化学))及び記載(本-6)に示された緑茶抽出物を用い、シネオールとして、シネオール試薬(1,8-シネオール(東京化成工業))を用いた実施例1?9、15?19が比較例と対比されて記載されているところ、実施例1?9、15?19は、本件特許発明1、本件特許発明6及び本件特許発明7の具体例であって、いずれも対応する比較例に対して「舌のザラツキ」の評価が改善しており、本件特許発明1、本件特許発明6及び本件特許発明7が、その解決しようとする課題を解決できることが具体的な裏付けを伴って記載されている。 そうすると、本件特許発明1、本件特許発明6及び本件特許発明7は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者がその解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。 イ 本件特許発明2についての検討 上記課題を解決するための手段として、記載(本-3)には、非重合体カテキン類を高含有する飲料に、シネオールを特定量含有させ、非重合体カテキン類とシネオールとの質量比を特定範囲内に制御することで、非重合体カテキン類を強化しながらも、舌のザラつきを抑制できることを見出した旨が記載され、記載(本-4)には、成分(A)として非重合体カテキン類を含有し、その含有量は0.03?0.6質量%であり、成分(B)としてシネオールを含有し、その含有量は1000質量ppb以下であり、成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が4×10^(-7)以上1.25×10^(-3)以下であり、より更に好ましくは1×10^(-5)以下であることが記載されている。また、記載(本-4)には、成分(C)としてミルセンを含有することができ、その含有量は0.7質量ppb以上が好ましく、300質量ppb以下が好ましいことも記載されている。 さらに、記載(本-7)?記載(本-10)には、非重合体カテキン類として、カテキン試薬(エピガロカテキンガレート(テアビゴ、太陽化学))またはカテキン試薬(エピガロカテキンガレート(テアビゴ、太陽化学))及び記載(本-6)に示された緑茶抽出物を用い、シネオールとして、シネオール試薬(1,8-シネオール(東京化成工業))を用い、ミルセンとして、β-ミルセン(トロントリサーチケミカル)を用いた実施例12?14が比較例と対比されて記載されているところ、実施例12?14は、本件特許発明2の具体例であって、いずれも対応する比較例に対して「舌のザラツキ」の評価が改善しており、本件特許発明2が、その解決しようとする課題を解決できることが具体的な裏付けを伴って記載されている。 そうすると、本件特許発明2は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者がその解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。 ウ 本件特許発明3?5についての検討 本件特許発明3?5は、本件特許発明1又は本件特許発明2の発明特定事項すべてをその発明特定事項とし、さらに限定したものであるから、本件特許発明1及び本件特許発明2が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者がその解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものといえる以上、本件特許発明3?5も、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者がその解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。 エ 異議申立人の主張についての検討 異議申立人は、本件発明は、「(A)非重合体カテキン類」と特定するのみで、エピガロカテキンガレートと特定していないが、本件明細書の発明の詳細な説明の記載からは、1,8-シネオールと所定量で組み合わせた場合に「舌のザラつきの抑制」効果を確認できるのは、エピガロカテキンガレートのみであり、また、本件明細書の発明の詳細な説明の記載からは、エピガロカテキンガレート以外の非重合体カテキン類は、「舌のザラつきの抑制」に対して阻害的に働くことが推認されるので、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、本件発明の課題を解決できるとは認識することができないから、サポート要件を満たしていない旨を主張している(異議申立書1頁下から5行?2頁6行、6頁19行?8頁2行)。 しかし、記載(本-5)には、「……、本明細書において「(A)非重合体カテキン類」とは、カテキン、ガロカテキン、エピカテキン及びエピガロカテキン等の非ガレート体と、カテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピカテキンガレート及びエピガロカテキンガレート等のガレート体を併せての総称である。本発明においては、上記8種の非重合体カテキン類のうち少なくとも1種を含有すればよい。」及び「成分(A)は、飲食品の分野において通常使用されているものであれば由来は特に限定されず、例えば、化学合成品でも、非重合体カテキン類を含有する植物から抽出したものでもよい。」との記載があって、「(A)非重合体カテキン類」が非ガレート体とガレート体を併せての総称であることが示されているところ、エピガロカテキンガレート以外の非重合体カテキン類の「舌のザラつき」は、エピガロカテキンガレートの「舌のザラつき」とは性質が異なるものであって、1,8-シネオールによって抑制できないものであることが、出願時における技術常識から明らかであるといえる根拠は見出せない。 また、記載(本-8)に示される実施例13と記載(本-9)に示される実施例20を対比すると、両者は、非重合体カテキン類として、実施例13ではカテキン試薬(エピガロカテキンガレート(テアビゴ、太陽化学))のみを用いる一方、実施例20ではカテキン試薬(エピガロカテキンガレート(テアビゴ、太陽化学))及び記載(本-6)に示された緑茶抽出物を用いる点でのみ相違するが、「舌のザラツキ」の評価はいずれも「6」であって、対応する比較例に対して「舌のザラツキ」の評価が等しく改善していることから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、エピガロカテキンガレート以外の非重合体カテキン類が「舌のザラつきの抑制」に対して阻害的に働くものであると推認することはできない。 また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載全体をみても、「(A)非重合体カテキン類」として、エピガロカテキンガレート以外の非重合体カテキン類を用いた場合に、本件特許発明が解決しようとする課題が解決できないことを示す記載はない。 したがって、異議申立人の上記主張には理由がない。 (4)小括 以上のとおり、本件特許発明1?7は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。 したがって、理由1によっては、本件特許発明1?7に係る特許を取消すことはできない。 2.理由2(新規性欠如)及び理由3(進歩性欠如)について (1)甲号証の記載 ア 甲1の記載 甲1には、以下の記載がある。 記載(甲1-1) 「若葉のころの新芽はほんのりやさしく香ります。あとから穏やか?におなかすっきりするのがお気に入り♪」(1頁右欄1?2行) 記載(甲1-2) 「 ![]() 」(1頁右欄4?7行) 記載(甲1-3) 「 ![]() 」(1頁左欄1?9行) イ 甲2の記載 甲2には、以下の記載がある。 記載(甲2-1) 「 ![]() 」(63頁) 記載(甲2-2) 「 ![]() 」(64頁) 記載(甲2-3) 「 ![]() 」(67頁) ウ 甲3の記載 甲3には、以下の記載がある。 記載(甲3-1)(当審による邦訳で示す) 「要約 本論文では、固相微量抽出と組み合わせた質量分析を用いたガスクロマトグラフィーによる生のRosmarinus officinalis及びSalvia officinalis葉中の1,8シネオールの定量に焦点を当てた。Rosmarinus officinalisは一般にローズマリーとして知られており、認知作業の成績は、ローズマリーヘの暴露後に吸収された1,8シネオールの濃度と統計的に有意な関係があることが報告されている。一連の実験を行い、ローズマリーとセージの葉の1,8シネオール濃度を測定した。その結果50.0mgの生のローズマリー葉には1,8シネオールが0.23±0.01μg(95%信頼区間)含まれていた。これは,4.6±0.2ppmに相当する。生のローズマリーの葉の他にも、一般にセージと呼ばれるSalvia officinalisは、生のローズマリーの葉よりも高い1,8シネオール濃度を示し、50.0mgの生のセージの葉には1,8シネオールが0.37±0.02μg含まれていた。これは、7.4±0.4ppmに相当する。」(91頁4?14行) エ 甲4の記載 甲4には、以下の記載がある。 記載(甲4-1)(当審による邦訳で示す) 「表3の臭気閾値から、オクタナールの濃度はスダチ精油で最低(1ppb未満)であった。1,8-シネオール、リナロール、ヘキサナール、およびドデカナールの臭気閾値は、約1?9ppbであった。ジイソプロピルジスルフィド、2,6-ジメチル-5-ヘプテナール、ジルエーテル、ウンデカナールは、10?30ppbの比較的低い閾値を有していた。これら低い検出閾値の化合物は、スダチの香りに寄与する可能性がある。」(59頁左欄22行?60頁左欄3行) 記載(甲4-2) 「 ![]() 」(59頁) オ 甲5の記載 甲5には、以下の記載がある。 記載(甲5-1) 「ハーブの香りや作用のもととなる精油は,植物の分泌組織から分泌される^(7))。分泌組織には,腺毛^(8)),油腺,蜜腺などの外部分泌組織と,油管,油室,分泌細胞などの内部分泌組織がある。 図1は,ローズマリー(シソ科)の葉の裏面を走査電子顕微鏡で観察したものである。本来の毛の間に丸い粒状の腺毛が散在していることがわかる。同じシソ科のペパーミント,スイートバジル,オレガノなどの葉の裏面も観察したが,ローズマリー同様に粒状の腺毛が散在していた^(9))。 ![]() 外部分泌組織である腺毛では,図2に示すとおり先端の精油分泌細胞からしみ出た油が表皮を覆っているクチクラの内側に蓄えられている。この状態では香気成分を含んだ精油は外部に放出されないため,強く香ることはない。ところが,葉の表面をこするとよい香りが広がる。図3はその場合の像で,腺毛のクチクラの膜が破れて香気成分が放出されたことを示している。 同様に内部分泌組織においても,揉んだり刻んだりして器官を壊すことによって成分を放出させて利用することができる。……。 ![]() 」(38頁左欄8行?右欄) 「記載(甲5-2) 「ハーブティのようにハーブを熱湯に浸した場合は,クチクラの膜が破れることなく腺毛から徐々に成分が抽出されるようである^(11))。図4は,レモンバーベナ(クマツヅラ科)の葉の裏面を示している。レモンバーベナの葉を熱湯に3分間浸した後に観察すると,図5に見られるように精油がたまっていた腺毛の先端部がお椀状にへこんでいた。熱処理によりクチクラの構造が緩んで,分子量の小さい成分が熱水中にしみ出たと考えられる。その他葉の表面には組織の破壊が見られないことから,分子量の小さいもののみが抽出されており,温浸法は雑味が少ないことがわかる。」(39頁左欄31?40行) (2)甲1に記載された発明 記載(甲1-2)及び記載(甲1-3)から、甲1には、 「生ローズマリー新芽1gと緑茶ティーパック1コに熱湯を注ぎふたをし、荒熱が取れるまでふたをして蒸らすことにより、又は、生ローズマリー新芽1gを15秒くらい煮出した後、すぐ葉を引き上げ、冷めてから水出し用緑茶ティーパックを入れることにより、得られる飲料組成物」の発明(以下、「甲1飲料発明」という。)及び 「生ローズマリー新芽1gと緑茶ティーパック1コに熱湯を注ぎふたをし、荒熱が取れるまでふたをして蒸らすことにより、又は、生ローズマリー新芽1gを15秒くらい煮出した後、すぐ葉を引き上げ、冷めてから水出し用緑茶ティーパックを入れることにより、飲料組成物を製造する方法」の発明(以下、「甲1飲料製法発明」という。) が記載されていると認められる。 (3)本件特許発明についての検討 ア 本件特許発明1について (ア)本件特許発明1と、甲1飲料発明との対比 本件特許発明1と甲1飲料発明とは、 飲料組成物の発明である点で一致し、 本件特許発明1は、 「次の成分(A)及び(B); (A)非重合体カテキン類0.03?0.6質量%、及び (B)シネオール1000質量ppb以下 を含有し、 成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が4×10^(-7)以上1×10^(-5)以下である」 と特定される一方、甲1飲料発明は、含有する成分の量及び比率について特定されていない点で相違する。 (イ)理由2(新規性欠如)についての検討 ((A)非重合体カテキン類の含有割合について) 非重合体カテキン類の含有割合に関して、記載(甲2-3)には、五訂日本食品標準成分表値として、煎茶浸出液に含まれるカテキンの食品標準成分値が70mg/100gであることが示されている。しかし、記載(甲2-1)及び記載(甲2-2)に、緑茶葉乾製品のカテキン含有割合及び緑茶葉浸出液のカテキン含有割合は、緑茶葉品種、注水温度、浸出時間によって大きく異なることが示されていることから、甲2の記載を根拠にして、甲1飲料発明が「(A)非重合体カテキン類0.03?0.6質量%」を含有するものとすることはできない。 ((A)非重合体カテキン類と(B)シネオールとの質量比について) シネオールの含有割合に関して、記載(甲3-1)には、生のローズマリー葉には1,8-シネオールが4.6±0.2ppm含まれていたことが示されており、記載(甲5-1)に、ローズマリーの葉の精油は、葉表皮を覆うクチクラの内側に蓄えられている状態では外部に放出されないが、葉の表面をこするとクチクラの膜が破れて香気成分が放出されることが記載され、記載(甲5-2)に、ハーブを熱湯に浸した場合は、クチクラの膜が破れることなくクチクラの構造が緩んで、分子量の小さい成分が熱水中にしみ出ると考えられることが記載されている。また、記載(甲4-1)に「1,8-シネオール、リナロール、ヘキサナール、およびドデカナールの臭気閾値は、約1?9ppbであった。」と記載され、記載(甲4-2)に記載された表では、1,8-シネオールの臭気閾値が0.003ppm、すなわち3ppbであると表示されている。 しかし、甲1飲料発明に用いられる「生ローズマリー新芽」に含まれる成分の種類及び含有割合が、甲3に記載される「ローズマリーの葉」に含まれる成分の種類及び含有割合と同じであるといえる根拠を見出すことはできず、また、甲1飲料発明に含有される(A)非重合カテキン類及び(B)シネオールの量は、浸出温度及び浸出時間に影響されることが出願時の技術常識から認められるところ、甲1飲料発明における「熱湯を注ぎふたをし、荒熱が取れるまでふたをして蒸らすこと」が相当する浸出温度及び浸出時間並びにそれにより甲1飲料発明に含有される(A)非重合カテキン類及び(B)シネオールの量は不明であり、記載(5-1)及び記載(5-2)を参酌しても、甲1飲料発明に含有される(A)非重合体カテキン類と(B)シネオールとの質量比[(B)/(A)]が4×10^(-7)以上1×10^(-5)以下であるとすることはできない。 また、記載(甲1-1)の「若葉のころの新芽はほんのりやさしく香ります。」が、甲1飲料発明に含まれるシネオールの臭気についての記載であるといえる根拠を見出すことはできず、記載(甲4-1)及び記載(甲4-2)を参酌しても、甲1飲料発明に含有される(A)非重合体カテキン類と(B)シネオールとの質量比[(B)/(A)]が4×10^(-7)以上1×10^(-5)以下であるとすることはできない。 したがって、甲1飲料発明に含有される(A)非重合体カテキン類と(B)シネオールとの質量比[(B)/(A)]が4×10^(-7)以上1×10^(-5)以下であるとすることはできない。 以上より、甲1飲料発明が「(B)シネオール1000質量ppb以下」を含有するものであるかを検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1飲料発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。 (ウ)理由3(進歩性欠如)についての検討 甲1飲料発明に対して、 「次の成分(A)及び(B); (A)非重合体カテキン類0.03?0.6質量%、及び (B)シネオール1000質量ppb以下 を含有し、 成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が4×10^(-7)以上1×10^(-5)以下である」ものとする動機づけは、甲1?甲5の記載を検討しても見出すことはできないので、本件特許発明1は甲1飲料発明及び甲1?甲5の記載に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。 そして、本件特許発明1は、「非重合体カテキン類を強化しながらも、舌のザラつきの抑制された飲料組成物」であるという当業者の予想し得ない効果を奏するものである。 よって、本件特許発明1は、甲1飲料発明及び甲1?甲5の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 イ 本件特許発明2について 本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに、「成分(C)としてミルセンを含み、成分(C)の含有量が0.7?300質量ppbである」との発明特定事項を加えたものである。 したがって、本件特許発明1が、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない以上、本件特許発明2も、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。 ウ 本件特許発明3?5について 本件特許発明3は、本件特許発明1又は本件特許発明2の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに、限定したものである。 したがって、本件特許発明1及び本件特許発明2が、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない以上、本件特許発明3?5も、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。 エ 本件特許発明6について (ア)本件特許発明6と甲1に記載された発明との対比 本件特許発明6と甲1飲料製法発明とは、 方法の発明である点で一致し、 本件特許発明6は、 「次の成分(A)及び(B); (A)非重合体カテキン類0.03?0.6質量%、及び (B)シネオール1000質量ppb以下 を含有し、 成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が4×10^(-7)以上1.25×10^(-3)以下となる範囲内で飲料組成物中に含有させる」及び 「非重合体カテキン類による舌のザラつき抑制方法」 と特定される一方、甲1飲料製法発明は、製造される飲料組成物に含有する成分の量及び比率並びに「非重合体カテキン類による舌のザラつき抑制」について特定されていない点で相違する。 (イ)理由2(新規性欠如)についての検討 ((A)非重合体カテキン類の含有割合について) 非重合体カテキン類の含有割合に関して、記載(甲2-3)には、五訂日本食品標準成分表値として、煎茶浸出液に含まれるカテキンの食品標準成分値が70mg/100gであることが示されている。しかし、記載(甲2-1)及び記載(甲2-2)に、緑茶葉乾製品のカテキン含有割合及び緑茶葉浸出液のカテキン含有割合は、緑茶葉品種、注水温度、浸出時間によって大きく異なることが示されていることから、甲2の記載を根拠にして、甲1飲料製法発明により製造される飲料組成物が「(A)非重合体カテキン類0.03?0.6質量%」を含有するものとすることはできない。 ((A)非重合体カテキン類と(B)シネオールとの質量比について) シネオールの含有割合に関して、記載(甲3-1)には、生のローズマリー葉には1,8-シネオールが4.6±0.2ppm含まれていたことが示されており、記載(甲5-1)に、ローズマリーの葉の精油は、葉表皮を覆うクチクラの内側に蓄えられている状態では外部に放出されないが、葉の表面をこするとクチクラの膜が破れて香気成分が放出されることが記載され、記載(甲5-2)に、ハーブを熱湯に浸した場合は、クチクラの膜が破れることなくクチクラの構造が緩んで、分子量の小さい成分が熱水中にしみ出ると考えられることが記載されている。また、記載(甲4-1)に「1,8-シネオール、リナロール、ヘキサナール、およびドデカナールの臭気閾値は、約1?9ppbであった。」と記載され、記載(甲4-2)に記載された表では、1,8-シネオールの臭気閾値が0.003ppm、すなわち3ppbであると表示されている。 しかし、甲1飲料製法発明に用いられる「生ローズマリー新芽」に含まれる成分の種類及び含有割合が、甲3に記載される「ローズマリーの葉」に含まれる成分の種類及び含有割合と同じであるといえる根拠を見出すことはできず、また、甲1飲料製法発明により製造される飲料組成物に含有される(A)非重合カテキン類及び(B)シネオールの量は、浸出温度及び浸出時間に影響されることが出願時の技術常識から認められるところ、甲1飲料製法発明における「熱湯を注ぎふたをし、荒熱が取れるまでふたをして蒸らすこと」が相当する浸出温度及び浸出時間並びにそれにより甲1飲料製法発明により製造される飲料組成物に含有される(A)非重合カテキン類及び(B)シネオールの量は不明であり、記載(5-1)及び記載(5-2)を参酌しても、甲1飲料製法発明により製造される飲料組成物に含有される(A)非重合体カテキン類と(B)シネオールとの質量比[(B)/(A)]が4×10^(-7)以上1×10^(-5)以下であるとすることはできない。 また、記載(甲1-1)の「若葉のころの新芽はほんのりやさしく香ります。」が、甲1飲料製法発明により製造される飲料組成物に含有されるシネオールの臭気についての記載であるといえる根拠を見出すことはできないので、記載(甲4-1)及び記載(甲4-2)を参酌しても、甲1飲料製法発明により製造される飲料組成物に含有される(A)非重合体カテキン類と(B)シネオールとの質量比[(B)/(A)]が4×10^(-7)以上1×10^(-5)以下であるとすることはできない。 したがって、甲1飲料製法発明で得られる飲料組成物に含有される(A)非重合体カテキン類と(B)シネオールとの質量比[(B)/(A)]が4×10^(-7)以上1×10^(-5)以下であるとすることはできない。 (「非重合体カテキン類による舌のザラつき抑制」について) 甲1には、「非重合体カテキン類による舌のザラつき抑制」についての記載はなく、甲2?甲5の記載を参酌しても、甲1飲料製法発明が「非重合体カテキン類による舌のザラつき抑制方法」に該当するとはいえない。 以上より、本件特許発明6は、甲1飲料製法発明により製造される飲料組成物が「(B)シネオール1000質量ppb以下」を含有するものであるかを検討するまでもなく、甲1飲料製法発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。 (ウ)理由3(進歩性欠如)についての検討 甲1飲料製法発明に対して、 「次の成分(A)及び(B); (A)非重合体カテキン類0.03?0.6質量%、及び (B)シネオール1000質量ppb以下 を含有し、 成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が4×10^(-7)以上1.25×10^(-3)以下となる範囲で飲料組成物中に含有させる」ものとする動機づけ,及び 「非重合体カテキン類による舌のザラつき抑制」をするものとする動機づけは、甲1?甲5の記載を検討しても見出すことはできないので、本件特許発明6は甲1飲料製法発明及び甲1?甲5の記載に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。 そして、本件特許発明6は、「非重合体カテキン類を強化しながらも、舌のザラつきの抑制された飲料組成物」を提供できるという当業者の予想し得ない効果を奏するものである。 よって、本件特許発明6は、甲1飲料製法発明及び甲1?甲5の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 オ 本件特許発明7について (ア)本件特許発明7と甲1に記載された発明との対比 本件特許発明7と甲1飲料製法発明とは、 飲料組成物の製造方法の発明である点で一致し、 本件特許発明7は、 「次の成分(A)及び(B); (A)非重合体カテキン類0.03?0.6質量%、及び (B)シネオール1000質量ppb以下 を含有し、 成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が4×10^(-7)以上1×10^(-5)以下となる範囲内で調製する」と特定される一方、甲1飲料製法発明は、製造される飲料組成物に含有する成分の量及び比率について特定されていない点で相違する。 (イ)理由2(新規性欠如)についての検討 ((A)非重合体カテキン類の含有割合について) 非重合体カテキン類の含有割合に関して、記載(甲2-3)には、五訂日本食品標準成分表値として、煎茶浸出液に含まれるカテキンの食品標準成分値が70mg/100gであることが示されている。しかし、記載(甲2-1)及び記載(甲2-2)に、緑茶葉乾製品のカテキン含有割合及び緑茶葉浸出液のカテキン含有割合は、緑茶葉品種、注水温度、浸出時間によって大きく異なることが示されていることから、甲2の記載を根拠にして、甲1飲料製法発明により製造される飲料組成物が「(A)非重合体カテキン類0.03?0.6質量%」を含有するものとすることはできない。 ((A)非重合体カテキン類と(B)シネオールとの質量比について) シネオールの含有割合に関して、記載(甲3-1)には、生のローズマリー葉には1,8-シネオールが4.6±0.2ppm含まれていたことが示されており、記載(甲5-1)に、ローズマリーの葉の精油は、葉表皮を覆うクチクラの内側に蓄えられている状態では外部に放出されないが、葉の表面をこするとクチクラの膜が破れて香気成分が放出されることが記載され、記載(甲5-2)に、ハーブを熱湯に浸した場合は、クチクラの膜が破れることなくクチクラの構造が緩んで、分子量の小さい成分が熱水中にしみ出ると考えられることが記載されている。また、記載(甲4-1)に「1,8-シネオール、リナロール、ヘキサナール、およびドデカナールの臭気閾値は、約1?9ppbであった。」と記載され、記載(甲4-2)に記載された表では、1,8-シネオールの臭気閾値が0.003ppm、すなわち3ppbであると表示されている。 しかし、甲1飲料製法発明に用いられる「生ローズマリー新芽」に含まれる成分の種類及び含有割合が、甲3に記載される「ローズマリーの葉」に含まれる成分の種類及び含有割合と同じであるといえる根拠を見出すことはできず、また、甲1飲料製法発明により製造される飲料組成物に含有される(A)非重合カテキン類及び(B)シネオールの量は、浸出温度及び浸出時間に影響されることが出願時の技術常識から認められるところ、甲1飲料製法発明における「熱湯を注ぎふたをし、荒熱が取れるまでふたをして蒸らすこと」が相当する浸出温度及び浸出時間並びにそれにより甲1飲料製法発明により製造される飲料組成物に含有される(A)非重合カテキン類及び(B)シネオールの量は不明であり、記載(5-1)及び記載(5-2)を参酌しても、甲1飲料発明に含有される(A)非重合体カテキン類と(B)シネオールとの質量比[(B)/(A)]が4×10^(-7)以上1×10^(-5)以下であるとすることはできない。 また、記載(甲1-1)の「若葉のころの新芽はほんのりやさしく香ります。」が、甲1飲料製法発明により製造される飲料組成物に含まれるシネオールの臭気についての記載であるといえる根拠を見出すことはできず、記載(甲4-1)及び記載(甲4-2)を参酌しても、甲1飲料製法発明により製造される飲料組成物に含有される(A)非重合体カテキン類と(B)シネオールとの質量比[(B)/(A)]が4×10^(-7)以上1×10^(-5)以下であるとすることはできない。 したがって、甲1飲料製法発明により製造される飲料組成物に含有される(A)非重合体カテキン類と(B)シネオールとの質量比[(B)/(A)]が4×10^(-7)以上1×10^(-5)以下であるとすることはできない。 以上より、本件特許発明7は、甲1飲料製法発明により製造される飲料組成物が「(B)シネオール1000質量ppb以下である」ものであるかを検討するまでもなく、甲1飲料製法発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。 (ウ)理由3(進歩性欠如)についての検討 甲1飲料製法発明に対して、 「次の成分(A)及び(B); (A)非重合体カテキン類0.03?0.6質量%、及び (B)シネオール1000質量ppb以下 を含有し、 成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が4×10^(-7)以上1×10^(-5)以下となる範囲内で調製する」ものとする動機づけは、甲1?甲5の記載を検討しても見出すことはできないので、本件特許発明7は甲1飲料製法発明及び甲1?甲5の記載に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。 そして、本件特許発明7は、「非重合体カテキン類を強化しながらも、舌のザラつきの抑制された飲料組成物」を提供できるという当業者の予想し得ない効果を奏するものである。 よって、本件特許発明7は、甲1飲料製法発明及び甲1?甲5の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 カ 異議申立人の主張についての検討 異議申立人は、「甲5にも記載されるとおり、ローズマリーの葉の裏面の表皮を覆っているクチクラの内側にハーブの香りや作用のもととなる精油が蓄えられており、……、ハーブティーのようにハーブを熱湯に浸した場合は、……徐々に成分が抽出されるものである。」(異議申立書11頁11?15行)と述べた上で、甲5の記載事項をより定量的に理解するためとして、一般に市販されている生ローズマリー新芽、緑茶ティーバックを使用した緑茶浸出実験の結果を提示し(異議申立書11頁16行?12頁9行)、「甲1では、ローズマリーに熱湯を注いだ後蒸らす時間は特定されておらず、……甲1発明で想定されているローズマリー緑茶の範囲内には、当然に本件発明で特定している非重合体カテキン類の含有量、及びシネオールの含有量、並びにこれらの比を満たすものが存在することは明らかである。……、仮に新規性があるとしても、……、本件発明は甲1発明が想定している範囲内で極めて容易に到達し得るものに過ぎず、進歩性を有するはずがない。」(異議申立書12頁10?22行)と主張している。 しかし、異議申立人による緑茶浸出実験は、「緑茶ティーバックを30秒で取り出し」とされる点及び「生ローズマリー新芽」を2分間、4分間、又は6分間蒸らした点で、「生ローズマリー新芽1gと緑茶ティーパック1コに熱湯を注ぎふたをし、荒熱が取れるまでふたをして蒸らす」又は「生ローズマリー新芽1gを15秒くらい煮出した後、すぐ葉を引き上げ、冷めてから水出し用緑茶ティーパックを入れる」ものとされる甲1飲料製法発明とは明らかに異なっていることから、異議申立人による緑茶浸出実験により得られる「ローズマリー緑茶」は甲1飲料発明とは相違すると認められる。 また、実験結果も「浸出条件A:生ローズマリー新芽1g及び緑茶ティーバック1コに熱湯180ccを注ぎ、緑茶ティーバックは30秒で取り出し、生ローズマリー新芽を2分間蒸らした。」により得られた「ローズマリー緑茶」中の1,8-シネオール濃度を100%とした相対値で示されており、得られる「ローズマリー緑茶」のに含有される(A)非重合体カテキン類の割合も、(A)非重合体カテキン類と(B)シネオールとの質量比も示されていない。 したがって、異議申立人による緑茶浸出実験結果は、本件特許発明1?7の新規性及び進歩性を否定する根拠となるものではなく、当該実験結果を参酌したとしても、異議申立人の上記主張には理由がない。 3.むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許発明1?7に係る特許を取消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-05-28 |
出願番号 | 特願2017-254432(P2017-254432) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(A23L)
P 1 651・ 537- Y (A23L) P 1 651・ 121- Y (A23L) P 1 651・ 536- Y (A23L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 池上 文緒 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
村上 騎見高 冨永 保 |
登録日 | 2020-08-05 |
登録番号 | 特許第6745258号(P6745258) |
権利者 | 花王株式会社 |
発明の名称 | 飲料組成物 |
代理人 | 特許業務法人アルガ特許事務所 |