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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B32B 審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B32B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B32B |
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管理番号 | 1374944 |
異議申立番号 | 異議2021-700121 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-02-03 |
確定日 | 2021-06-07 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6737388号発明「透明性樹脂フィルム、化粧材、及び、化粧材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6737388号の請求項1?6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6737388号の請求項1?6に係る特許についての出願は、令和元年9月30日(優先権主張 平成31年3月27日 日本国)の出願であって、令和2年7月20日にその特許権の設定登録がされ、令和2年8月5日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年2月3日に特許異議申立人岡本敏夫(以下「申立人」という。)は、本件特許異議の申立てを行った。 第2 本件発明 特許第6737388号の請求項1?6の特許に係る発明(以下「本件発明1?6」という。)は、それぞれ、本件特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 絵柄層を有する基材に積層される透明性樹脂フィルムであって、 前記基材に積層される側と反対側に凹凸形状を有しており、 前記透明性樹脂フィルムの前記基材に積層される側と反対側の表面ヘイズを除いたヘイズ値であるヘイズ値(1)が、70%以上であり、 前記透明性樹脂フィルムの前記基材に積層される側の表面ヘイズと、前記基材に積層される側と反対側の表面ヘイズとを除いたヘイズ値であるヘイズ値(2)が、70%以下である ことを特徴とする透明性樹脂フィルム。 【請求項2】 少なくとも透明性樹脂層を有する請求項1に記載の透明性樹脂フィルム。 【請求項3】 前記透明性樹脂層の前記基材に積層される側と反対側に、表面保護層を有する請求項2に記載の透明性樹脂フィルム。 【請求項4】 前記透明性樹脂層の前記基材に積層される側に、プライマー層を有する請求項2又は3に記載の透明性樹脂フィルム。 【請求項5】 絵柄層を有する基材上に、請求項1、2、3又は4に記載の透明性樹脂フィルムが積層されていることを特徴とする化粧材。 【請求項6】 請求項5記載の化粧材の製造方法であって、 透明性樹脂フィルムの絵柄層が積層される側の面に接着剤層を形成する工程、及び、 前記接着剤層を介して、前記透明性樹脂フィルムと前記絵柄層とを貼り合わせる工程を有する ことを特徴とする化粧材の製造方法。」 第3 申立理由の概要 申立人は、甲第1号証(特開2010-49074号公報。以下「甲1」という。)を提出し、本件発明1?6に係る特許は、以下の理由により、取り消すべきものである旨を主張する。 1.理由1(新規性) 本件発明1、2、5、6は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。 よって、本件発明1、2、5、6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであるから、同法第113条第2号に該当するので、取り消すべきものである。 2.理由2(進歩性) 本件発明3、4は、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、本件発明3、4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同法第113条第2号に該当するので、取り消すべきものである。 3.理由3(実施可能要件) 本件特許の明細書の発明の詳細な説明の、本件発明1?6についての記載は、以下の(1)及び(2)の理由により、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に適合しない。 したがって、本件発明1?6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当するので、取り消すべきものである。 (1)本件特許明細書等に記載された実施例を再現できないため、発明の詳細な説明には、本件発明1?6について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。 (2)本件発明1?6について、ヘイズ値(1)およびヘイズ値(2)の両方を満たす透明性樹脂フィルムを製造することができるように、発明の詳細な説明には記載がない。 4.理由4(サポート要件) 本件発明1?6が、以下の(1)?(3)の理由で、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない。 したがって、本件発明1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当するので、取り消すべきものである。 (1)本件特許明細書等には、透明性樹脂層のみからなる本件発明1?6が、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されていない。 (2)本件特許明細書等には、本件発明1?6で規定するヘイズ値(1)およびヘイズ値(2)の全範囲について、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されていない。 (3)本件特許明細書等には、本件発明1?6における「凹凸形状」がいかなる凹凸であっても、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されていない。 5.理由5(明確性) 本件発明1?6が明確でないから、特許請求の範囲の記載は、以下の(1)の理由により特許法第36条第6項第2号に適合しない。 したがって、本件発明1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当するので、取り消すべきものである。 (1)本件発明1?6の「凹凸形状」及び「透明性樹脂フィルム」が不明である。 第4 引用文献の記載 1.甲1には、図面とともに次の事項が記載されている。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、各種機器に貼付されるラベルに用いるリサイクル可能なオーバーレイ用フィルムに関し、該ラベルに広角視認性や高品質感を与えられる。 【背景技術】 【0002】 筐体材料としてプラスチックを用いているOA機器、パソコン、電子機器、家電機器などには、シール、デカルなどの呼び名で呼ばれているラベルが貼付されることがある。 このラベルには、機器の取扱い方法、注意事項、危険情報など重要な情報が表示されている場合が多く、印刷文字の読み取り易さを長期に亘り維持する必要がある。そこで、印刷されたラベルの表面を保護するために、透明なオーバーレイ用フィルムを用いることが提案されている(特許文献1参照)。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、各種機器に貼付されるラベルの保護と光の反射による広角視認性の低下の抑制をし、更にラベル外観に高品質感を与え、且つリサイクル可能なオーバーレイ用フィルムを提供することを目的とする。」 「【0031】 本発明のフィルムはその少なくとも片面に接着剤層を設けることが好ましい。 本発明のフィルムに接着剤層を設けた後、図1に示すように、表示事項が印刷などにより設けられたラベル13の表面に、該接着剤層12を用いて本発明のオーバーレイ用フィルム11をラミネートし、ラベル13の表面を被覆することができる。 接着剤層に用いる接着剤としては、アクリル系、合成ゴム系、天然ゴム系などの接着剤を適宜選択して使用することができる。接着剤層の形成方法としては、離型紙上に接着剤をグラビア、コンマコーター、ダイコーターなどで塗工、乾燥後に該フィルムと貼り合せて、接着剤を該フィルム面に転写する方法が、フィルムへの直接塗工によるフィルムの膨潤やシワ発生の抑止の面で好ましい。また、接着剤層の厚さは5μm?30μmであることが好ましい。 【0032】 本発明のフィルムは、くもりと光透過性のバランスを調節した透明性を有するものであり、そのくもりによって、光の反射によるラベルの表面印刷等の視認性の低下を抑制し広角視認性を付与し、且つラベル外観に高品質感を与えることができる。また、同時に光透過性をも有するため、ラベルの表面印刷等がフィルムのくもりによって視認できない等のことがない。 このような本発明のフィルムは、以下の透明性(全光線透過率とヘイズ値)、表面粗さ、及び光沢度によって示される特性を有していることが好ましい。 【0033】 [透明性] JIS K7361-1に従いフィルム1枚での全光線透過率(光透過性)が90%以上で、且つヘイズ値(くもり)が70%?90%であることが好ましい。全光線透過率が90%未満の場合、透明性が不十分で、ラベルの表示内容が見難くなる。また、ヘイズ値が70%未満の場合、ラベルの印刷が鮮明に見えるということはあるものの、やや曇った状態で読み取れるというラベルとしての高品質感が不足してしまう。一方、ヘイズ値が90%を超える場合、ラベルの印刷が不鮮明で読み取りにくくなるという不具合が生じる。 なお、ゴム変性ポリスチレンの添加によって、全光線透過率は低くなり、ヘイズ値が高くなる傾向にあり、水添ブロック共重合体の添加によりヘイズ値が低下する傾向が見られる。 【0034】 尚、本発明のフィルムは上記したように片面に接着層を設けることができる。接着層を設けることによりフィルム表面の粗さに起因するヘイズ値が低減される効果が生じる。 この関係を把握する方法として、フィルム表面に流動パラフィンを塗布して透明性を測定することが有用であることが判った。 フィルム片面に流動パラフィンを塗布したときは、全光線透過率が90%以上で、且つヘイズ値が50%?85%であることが好ましい。更に好ましくは、ヘイズ値が65%?80%である。 全光線透過率が90%未満の場合、透明性が不十分で、ラベルの表示内容が見難くなる。ヘイズ値が50%未満ではフィルムの透明性が良好すぎて、やや曇った状態で読み取れるというラベルとしての高品質感が不足してしまう。一方、ヘイズ値が85%を超える場合、ラベルの印刷が不鮮明で読み取りにくくなるという不具合が生じる。 【0035】 [表面粗さ] フィルムの表面粗さはJIS B0601 2001によるRa(算術平均粗さ)が0.30?0.80、Ry(最大高さ)が2.5?4.0であることが好ましい。この表面粗さは、ABS樹脂、ゴム変性ポリスチレンおよび水添ブロック共重合体を所定範囲で混合する際、特にゴム変性ポリスチレンの効果により得ることができる。 尚、フィルムの表面を更に粗くするため、フィルム製膜時にフィルム表面にマット加工を施しても良い。 【0036】 本発明では、ABS樹脂、ゴム変性ポリスチレンおよび水添ブロック共重合体を所定範囲で混合する樹脂組成物を用いることにより、該樹脂組成物より得られる、フィルムの表面粗さを変化させ、フィルムの内部ヘイズ値を調整している。従って、高い全光線透過率を有していながら、ラベルの視認性を失わない程度のヘイズ値を有したフィルムを得ることが可能となり、このフィルムをラベルの表面にラミネートすると、高品質感を有するラベルが得られる。」 「【0042】 [実施例1?3、比較例1?4] 下記に示すABS樹脂、ゴム変性ポリスチレン及び水添ブロック共重合体を表1の配合に従い混合し、樹脂組成物を得た後、該樹脂組成物をインフレーション装置で、ブロー比2.5、厚さ30μmのフィルムを製膜し、得られたフィルムの透明性、表面粗さ、及び光沢度を測定した。 また、得られたフィルム表面に流動パラフィンを全面塗布して、透明性を測定した。 ABS樹脂:ET-70(日本エイアンドエル製) ゴム変性ポリスチレン(HIPS):H8672(PSジャパン製) 水添ブロック共重合体:P-2000(旭化成ケミカルズ製)」 「【0045】 【表1】 」 「【図1】 」 2.上記記載及び図面から、実施例3に着目すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 「表示事項が印刷などにより設けられたラベル13の表面にラミネートされ、ラベル13の表面を被覆するフィルムであって、 フィルムは透明性を有するものであり、 フィルムの表面粗さはJIS B0601 2001によるRa(算術平均粗さ)が0.75μm、Ry(最大高さ)が3.6μmであり、 フィルムを測定したヘイズ値が89.3%であり、 フィルム表面にパラフィンを全面塗布して測定したヘイズ値が77%であるフィルム。」 第5 当審の判断 1.理由1(新規性)、理由2(進歩性)について (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、次のことがいえる。 甲1発明の「ラベル13」は、本件発明1の「基材」に相当する。 甲1発明の「フィルムは透明性を有するもの」であるから、甲1発明の「フィルム」は、本件発明1の「透明性樹脂フィルム」に相当する。 甲1発明の「フィルム」が「ラベル13の表面にラミネートされ、ラベル13の表面を被覆する」ことは、本件発明1の「透明性樹脂フィルム」が「基材に積層される」ことに相当する。 以上から、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「基材に積層される透明性樹脂フィルム。」 <相違点1> 本件発明1では、「基材」が「絵柄層を有する」のに対して、甲1発明では、「ラベル13」が「表示事項が印刷などにより設けられた」ものである点。 <相違点2> 本件発明1の「透明性樹脂フィルム」は、「前記基材に積層される側と反対側に凹凸形状を有して」いるのに対して、甲1発明の「フィルム」は、「表面粗さはJIS B0601 2001によるRa(算術平均粗さ)が0.75μm、Ry(最大高さ)が3.6μm」である点。 <相違点3> 本件発明1の「前記透明性樹脂フィルム」は、「前記基材に積層される側と反対側の表面ヘイズを除いたヘイズ値であるヘイズ値(1)が、70%以上であり、前記基材に積層される側の表面ヘイズと、前記基材に積層される側と反対側の表面ヘイズとを除いたヘイズ値であるヘイズ値(2)が、70%以下である」に対して、甲1発明の「フィルム」は、「ヘイズ値が89.3%であり、フィルム表面にパラフィンを全面塗布して測定したヘイズ値が77%である」点。 イ 判断 まず相違点2について検討する。 本件特許明細書の「化粧材に視覚による意匠性を付与するために、基材上に積層される熱可塑性樹脂フィルムにエンボス加工等を施して、凹凸形状を形成することがある。」(【0003】)、「上記凹凸形状は、JIS B 0601(2001)で定義される最大高さRzが20μm以上、200μm以下であることが好ましい。」(【0019】)の記載から、本件発明1における「凹凸形状」とは、化粧材に視覚による意匠性を付与するために形成されるものであり、最大高さRzが20μm以上、200μm以下の程度のものである。 他方で、甲1の「該樹脂組成物より得られる、フィルムの表面粗さを変化させ、フィルムの内部ヘイズ値を調整している。」(【0036】)の記載から、甲1発明における「表面粗さ」は、フィルムの内部ヘイズ値を調整するためのものであり、高さについても、「Ra(算術平均粗さ)が0.75μm、Ry(最大高さ)が3.6μm」である。 すなわち、本件発明1における「凹凸形状」と甲1発明における「表面粗さ」とは、その機能においても、サイズにおいても大きく異なるものである。 したがって、相違点2は、形式的な相違点ではなく、実質的な相違点であるから、他の相違点を判断するまでもなく、本件発明1は甲1発明であるとはいえない。 (2)本件発明2、5、6について 本件発明2、5、6は、本件発明1の技術的事項をすべて含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)イで検討したのと同じ理由により、甲1発明であるとはいえない。 (3)本件発明3及び4について ア 本件発明1についての検討 理由2(進歩性)の申立理由の対象となっている本件発明3及び4は、本件発明1を直接的あるいは間接的に引用する発明であるから、まず、本件発明1の進歩性について検討する。 甲1には、「フィルムの表面粗さ」を、化粧材に視覚による意匠性を付与するために形成することや、その大きさを最大高さRzが20μm以上、200μm以下の程度とすることの記載はないし、それを示唆する記載もない。 また、「フィルムの表面粗さ」を、化粧材に視覚による意匠性を付与するために形成することや、その大きさを最大高さRzが20μm以上、200μm以下の程度とすることが周知技術であることを示す証拠もない。 したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の事項を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 よって、本件発明1は、他の相違点を検討するまでもなく、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本件発明3、4についての検討 上記アに示したように、本件発明1は、甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件発明1の技術的事項をすべて含み、さらに限定を加えた発明である本件発明3、4も、当業者が甲1発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2.理由3(実施可能要件) (1)本件発明1?6は、「前記基材に積層される側と反対側に凹凸形状を有して」いること、及び「前記透明性樹脂フィルムの前記基材に積層される側と反対側の表面ヘイズを除いたヘイズ値であるヘイズ値(1)が、70%以上であり、前記透明性樹脂フィルムの前記基材に積層される側の表面ヘイズと、前記基材に積層される側と反対側の表面ヘイズとを除いたヘイズ値であるヘイズ値(2)が、70%以下である」ことを発明特定事項として含んでいる。 そこで、発明の詳細な説明に当該発明特定事項が、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるか検討する。 (2)「基材に積層される側と反対側に凹凸形状を有して」いることに関して、発明の詳細な説明には、「透明性樹脂フィルム10の基材に積層される側と反対側に凹凸形状を形成する方法としては、例えば、透明性樹脂フィルム10の基材に積層される側と反対側に、熱によるエンボス加工、賦形シートによって凹凸形状を転写させる方法等が好ましい。上記エンボス加工としては、例えば、周知の枚葉、又は、輪転式のエンボス機によるエンボス加工を施す方法が挙げられ、例えば、シート温度120℃?160℃、1.0?4.0MPaにて凹凸パターンを転写すればよい。」(【0051】)、「なお、透明性樹脂フィルム10にエンボス加工を施す場合は、表面保護層2を形成した後でもよいし、表面保護層2を形成する前でもよい。例えば、具体的な態様として、1)透明性樹脂層1を形成した後、表面保護層2を形成し、最後にエンボス加工を施してもよい。また、別の具体的態様として、2)透明性樹脂層1を形成した後、エンボス加工を施し、最後に表面保護層2を形成してもよい。また、さらに別の具体的態様として、3)透明性樹脂層1を形成すると同時にエンボス加工を施した後、最後に表面保護層2を形成してもよい。」(【0052】)と記載されている。 そうすると、発明の詳細な説明には、「基材に積層される側と反対側に凹凸形状」を形成するための方法、条件、タイミングが記載されており、当該形成方法により、当業者は「基材に積層される側と反対側に凹凸形状」を形成できるといえる。 (3)「ヘイズ値(1)」及び「ヘイズ値(2)」を所定の数値範囲とすることに関して、発明の詳細な説明には、「上記熱ラミネート方式により、2層以上の透明性樹脂層1を積層した後は、ヘイズ値を好適に調整する観点から、急冷されることが好ましい。ここで急冷とは、透明性樹脂フィルム10が、200℃/秒以上で冷却されることを意味する。上記急冷をする方法としては、熱ラミネート方式により、ラミネートされた直後10℃以下に冷やされた金属ロール数秒間触れさせる方法等が挙げられる。上記急冷の速度としては、230℃/秒で冷却することが好ましく、250℃/秒で冷却することがより好ましい。」(【0028】)、「プライマー層3の厚みとしては、透明性樹脂フィルム10のヘイズ値を好適に調整する観点から、1?5μmであることが好ましい。プライマー層の厚みが1μm未満であると、基材に積層される側と反対側の表面ヘイズを除いたヘイズ値が低下して、凹凸形状の賦形性が低下することがあり、プライマー層の厚みが5μmを超えると、基材に積層される側の表面ヘイズと、基材に積層される側と反対側の表面ヘイズとを除いたヘイズ値が上昇して、意匠性が低下することがある。プライマー層3の厚みは、2?4μmがより好ましい。」(【0048】)と記載されて、実施例1?3、比較例1、2として、「冷却方法」、「裏面プライマー層の厚み」を変化させて測定した「ヘイズ値(1)」、「ヘイズ値(2)」が記載されている。 発明の詳細な説明の【0106】【表1】を参照すると、「ヘイズ値(1)」が「ヘイズ値(2)」よりも大きいことが理解できる。また、発明の詳細な説明の【0028】の記載、及び実施例1、比較例2の測定結果に基づき、冷却速度を変えることで、あるいは、発明の詳細な説明の【0048】の記載、及び実施例1?3、比較例1の測定結果に基づき、裏面プライマー層の厚みを変えることで、「ヘイズ値(1)」、「ヘイズ値(2)」を調整できることが、当業者には理解できる。 そうすると、当該発明の詳細な説明に記載された「ヘイズ値(1)」、「ヘイズ値(2)」の調整方法により、「ヘイズ値(1)」及び「ヘイズ値(2)」を本件発明1で特定された数値範囲にできるといえる。 (4)よって、本件発明1?6について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 3.理由4(サポート要件)について (1)本件発明の課題は、「凹凸形状の賦形性に優れ、かつ、意匠性にも優れる透明性樹脂フィルム、該透明性樹脂フィルムを用いた化粧材、及び、該化粧材の製造方法を提供すること」(【0008】)である。 (2)「凹凸形状の賦形性」に関して、発明の詳細な説明には、「熱可塑性樹脂フィルムに十分な凹凸形状を形成させるためには、エンボス加工をする工程において、熱吸収を十分にさせる必要がある。そのための手法の一つとして、熱可塑性樹脂フィルムにヘイズを付与して、赤外線の透過を抑えて熱吸収率を向上させる手法が挙げられる。」(【0005】)、「透明性樹脂フィルム10は、基材に積層される側と反対側の表面ヘイズを除いたヘイズ値(以下、ヘイズ値(1)ともいう)が70%以上である。透明性樹脂フィルム10は、このようなヘイズを有することにより、熱吸収率を高めることができるので、凹凸形状の賦形性に優れる。通常、エンボス加工等により形成された凹凸形状は、熱や時間の経過等により消失してしまうが、本願発明の透明性樹脂フィルム10では、このような凹凸形状の消失を抑制することができる。上記ヘイズ値(1)は、75%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。」(【0015】)と記載されている。 発明の詳細な説明の上記記載から、「基材に積層される側と反対側に凹凸形状を有しており、透明性樹脂フィルムの基材に積層される側と反対側の表面ヘイズを除いたヘイズ値であるヘイズ値(1)が、70%以上であ」ることにより、「熱吸収率を高めることができ」、「凹凸形状の賦形性に優れ」たものとすることができる。 (3)「意匠性」に関して、発明の詳細な説明には、「透明性樹脂フィルム10は、基材に積層される側の表面ヘイズと、基材に積層される側と反対側の表面ヘイズとを除いたヘイズ値(以下、ヘイズ値(2)ともいう)が、70%以下である。透明性樹脂フィルム10は、このようなヘイズを有することにより、後述する絵柄層に形成された柄を明瞭に見ることができるので、意匠性に優れる。上記ヘイズ値(2)は、65%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。」(【0017】)と記載されている。 発明の詳細な説明の上記記載から、「透明性樹脂フィルムの基材に積層される側の表面ヘイズと、基材に積層される側と反対側の表面ヘイズとを除いたヘイズ値であるヘイズ値(2)が、70%以下である」ことにより、「絵柄層に形成された柄を明瞭に見ることができ」、「意匠性に優れ」たものとすることができる。 (4)したがって、本件発明1は、「前記基材に積層される側と反対側に凹凸形状を有しており、前記透明性樹脂フィルムの前記基材に積層される側と反対側の表面ヘイズを除いたヘイズ値であるヘイズ値(1)が、70%以上であり、前記透明性樹脂フィルムの前記基材に積層される側の表面ヘイズと、前記基材に積層される側と反対側の表面ヘイズとを除いたヘイズ値であるヘイズ値(2)が、70%以下である」ことにより、凹凸形状の賦形性に優れ、かつ、意匠性にも優れるものとすることができることから、本件発明1が本件発明の課題を解決することが理解できる。 同様に、本件発明2?6についても、本件発明の課題を解決することが理解できる。 (5)よって、本件発明1?6は、発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。 4.理由5(明確性)について (1)「凹凸形状」について 本件発明1の「前記基材に積層される側と反対側に凹凸形状を有しており」との記載における「凹凸形状」に関して、発明の詳細な説明には、「通常、化粧材では、絵柄層を有する基材のみの構成では耐傷性、耐汚染性、耐候性等の表面性能が不十分となるため、基材上に熱可塑性樹脂フィルムを積層することにより、表面性能を付与している。また、化粧材に視覚による意匠性を付与するために、基材上に積層される熱可塑性樹脂フィルムにエンボス加工等を施して、凹凸形状を形成することがある。」(【0003】)と記載されている。 そうすると、本件発明1における「凹凸形状」は、化粧材に視覚による意匠性を付与するために、化粧材の基材上に積層される熱可塑性樹脂フィルムにエンボス加工等を施して形成されるものであることが理解でき、明確である。 (2)「透明性樹脂フィルム」について 「ヘイズ値」に関して、「ヘーズ (haze)」は「試験片を通過する透過光のうち,前方散乱によって,入射光から0.044rad(2.5°)以上それた透過光の百分率。」(JIS K 7136:2000)を意味する。 そうすると、本件発明1の「透明性樹脂フィルム」は、「入射光」に対して、「透過光」が「試験片を通過する」程度に透明であって、また、発明の詳細な説明の【0016】、【0018】に記載された方法により測定される「ヘイズ値」が「前記透明性樹脂フィルムの前記基材に積層される側と反対側の表面ヘイズを除いたヘイズ値であるヘイズ値(1)が、70%以上であり、前記透明性樹脂フィルムの前記基材に積層される側の表面ヘイズと、前記基材に積層される側と反対側の表面ヘイズとを除いたヘイズ値であるヘイズ値(2)が、70%以下である」ことが理解でき、明確である。 (3)よって、本件発明1?6は、明確である。 第6 むすび 以上のとおり、申立人の主張する特許異議申立理由によっては、本件発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-05-28 |
出願番号 | 特願2019-180482(P2019-180482) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(B32B)
P 1 651・ 121- Y (B32B) P 1 651・ 536- Y (B32B) P 1 651・ 537- Y (B32B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 塩屋 雅弘 |
特許庁審判長 |
井上 茂夫 |
特許庁審判官 |
藤井 眞吾 久保 克彦 |
登録日 | 2020-07-20 |
登録番号 | 特許第6737388号(P6737388) |
権利者 | 大日本印刷株式会社 |
発明の名称 | 透明性樹脂フィルム、化粧材、及び、化粧材の製造方法 |
代理人 | 特許業務法人 安富国際特許事務所 |