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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1374946
異議申立番号 異議2020-701015  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-24 
確定日 2021-06-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第6732070号発明「燃料電池のセルスタック」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6732070号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第6732070号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は,平成31年3月4日の出願であって,令和2年7月9日に特許権の設定登録がされ,令和2年7月29日に特許掲載公報が発行された。
これに対し,特許異議申立人亀崎伸宏より,令和2年12月24日に,請求項1ないし5に係る特許について特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6732070号の請求項1ないし5の特許に係る発明(以下,請求項順に「本件発明1」,「本件発明2」等という。)は,特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
電気化学セルを備えるセルスタックに用いられる接合体であって,
第1被接合部材と,
前記第1被接合部材の表面に接合されるガラス部と,
前記ガラス部を介して前記第1被接合部材に接合される第2被接合部材と,
を備え,
前記ガラス部は,前記第1被接合部材と前記第2被接合部材との隙間をシールし,
前記ガラス部は,前記第1被接合部材の表面から5μm以内の界面領域と,前記第1被接合部材の表面から5μm超100μm以下の内部領域とを含み,
前記セルスタックの稼働時,前記界面領域に熱応力が発生し,
前記界面領域に含まれる結晶粒子の平均粒径は,前記内部領域に含まれる結晶粒子の平均粒径より小さい,
接合体。
【請求項2】
前記界面領域に含まれる結晶粒子の平均粒径は,前記内部領域に含まれる結晶粒子の平均粒径の0.8倍以下である,
請求項1に記載の接合体。
【請求項3】
前記界面領域に含まれる結晶粒子の平均粒径は,0.2μm以上2.5μm以下である,
請求項1又は2に記載の接合体。
【請求項4】
前記内部領域に含まれる結晶粒子の平均粒径は,3μm以上20μm以下である,
請求項1乃至3のいずれかに記載の接合体。
【請求項5】
前記第1被接合部材は,金属部材である,
請求項1乃至4のいずれかに記載の接合体。」

第3 特許異議の申立ての理由の概要
特許異議申立人(以下,「申立人」という。)が主張する特許異議の申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 理由1(新規性違反)
(1)理由1-1
本件発明1ないし5は,その優先日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記甲第1号証(以下,証拠の番号に従って「甲1」などという。)に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,請求項1ないし5に係る特許は同法第29条第1項の規定に違反してされたものであるため,同法第113条第2号により取り消されるべきである。
(2)理由1-2
本件発明1ないし5は,その優先日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記甲2に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,請求項1ないし5に係る特許は同法第29条第1項の規定に違反してされたものであるため,同法第113条第2号により取り消されるべきである。
2 理由2(進歩性違反)
(1)理由2-1
本件発明1ないし5は,その優先日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲2に記載された発明および甲1に記載された事項に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,請求項1ないし5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるため,同法第113条第2号により取り消されるべきである。
(2)理由2-2
本件発明1ないし5は,その優先日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲3に記載された発明,および,甲4に記載された事項,甲1に記載された事項または甲2に記載された事項に基いて,その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり,請求項1ないし5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるため,同法第113条第2号により取り消されるべきである。
3 理由3(サポート要件違反)
請求項1ないし5に係る特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので,同法第113条第4号により取り消されるべきである。
(証拠方法)
甲第1号証:特表2015-532253号公報
甲第2号証:国際公開第2018/097174号
甲第3号証:特開2012-84411号公報
甲第4号証:特開2010-70797号公報
甲第5号証:特開2018-20947号公報

第4 当審の判断
1 各甲号証の記載事項及び各甲号証に記載された発明
(1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載事項(下線は注目箇所を示すために当審で付したものである。甲2以降も同様。)
(ア)「【0001】
本発明は,封止材として使用するためのガラス組成物,特に固体酸化物型燃料電池(SOFC)内又は固体酸化物型電解セル(SOEC)内で封止剤として使用するためのガラス組成物に関する。さらに,本発明は,このガラス組成物を含む封止剤を利用するSOFCおよびSOECに関する。」
(イ)「【0030】
ガラス組成物は,高いガスバリア性を示す。すなわち,H_(2),CO,CO_(2),H_(2)O,アルコール,又は炭化水素などの気体に対する封止剤として作用することができる。これらのガスバリア性のため,本発明に係るガラス組成物は,特に,本明細書中に概略的に記載の使用,とりわけ固体酸化物型燃料電池及び固体酸化物型電解セル用の封止剤としての使用に好適である。ただし,本発明に係るガラス組成物は,これらのバリア特性により,膜センサー又は燃焼チャンバのような,ガスバリアの適用を必要とする他の分野においても利用されてよい。」
(ウ)「【0032】
ガラス組成物は,さまざまな基板上,例えば金属,セラミックなどの上に適用可能である。基板のタイプは限定されない。特に,コーティングは,金属及びセラミックに対する高い接着力を示す。ガラス組成物は,特に,従来のガラス封止剤組成物に適用される従来の方法で,所望の表面に適用可能である。典型的な例としては,スクリーン印刷,テープ成形,及び当業者にとって公知の他のプロセスがある。」
(エ)「【0033】
使用:
本明細書中で概略的に記載されているとおり,全ガラス組成に基づいて,
- 5?70mol%のCaOと,
- 5?45mol%のZnOと,
- 5?50mol%のB_(2)O_(3)と,
- 1?45mol%のSiO_(2)と,
- 1mol%以下の,Ba,Na,及びSrを含む群の各元素と,
を含むガラス組成物が,封止剤として,すなわち,例えば固体酸化物型燃料電池及び固体酸化物型電解セルの利用など,特に気密シールが必要とされる全ての利用において使用されてよい。しかしながら,ガラス組成物は金属及びセラミック材料に対する高い接着力を示すことから,ガラス組成物は,同様に,セラミック部品とセラミック部品,金属部品と金属部品,又はセラミック部品と金属部品の間の接着力を改善するために,すなわちガラス接着剤としても使用されてよい。また,このタイプの使用において,ガラス組成物が,特に互いに接着されるべきさまざまな材料の部品の熱膨張係数と整合するように,その熱特性に関して調整可能であることは,このガラス組成物の利点の1つである。こうして,安全かつ故障のない接着を提供することができる。」
(オ)「【0037】
全ガラス組成に基づいて,
- 5?70mol%のCaOと,
- 5?45mol%のZnOと,
- 5?50mol%のB_(2)O_(3)と,
- 1?45mol%のSiO_(2)と,
- 1mol%以下のBa,Na,及びSrを含む群の各元素と,
を含むガラス組成物を含む封止剤が,SOFC/SOEC型の電池又はスタックの任意の領域を封止するのに好適である。すなわち,基板の場所/領域及びタイプは,具体的に限定されない。封止は,特に,燃料及び(酸化剤)ガスの分離を保証する。封止される領域は,好ましくは,電池又はスタックの縁部内にあり,このことは,スタック内に配置されている平面的電池設計の場合に特に好適である。また,ガラス組成物は,隣接するシートなどのSOEC/SOFCのさらなる部品を封止するためにも好適である。さらに,封止剤は,スタックの外部マニホールドを封止するため,又はSOFC/SOECスタックの内部マニホールド内で,ガス流路を封止するために好適である。ただし,本発明に係る封止剤は,高温で作動させる燃料電池内の他の領域において使用されてもよい。」
(カ)「【0047】
鋼上のガラス1及びガラス2の接着挙動は,以下の方法で測定される:ガラス組成物は粉末の形態で適用される。8mol%のY_(2)O_(3)を有するYSZ(Y_(2)O_(3)-ZrO_(2))をテープ成形及び焼結により生成する。YSZ電解質は,焼結後200μmの厚みを有する。フェライト鋼として,230μmの厚みを有するCrofer22APU(W.-Nr.1.4760,ThysenKrupp VDM,Werdohl,Germany)が使用される。全ての材料を2cm×2cmの部片に切断し,YSZと鋼の間に,それぞれガラス1及びガラス2のガラス粉末を配置し,接合を行なう。封止中の接触を保証するため,4kgの荷重を加える。それぞれ800℃(ガラス2)及び925℃(ガラス2)の最終封止温度まで,100℃/時の速度でアセンブリを大気中で加熱する。これらの温度に20分間保持した後,試料を室温に至るまで10℃/時の冷却速度で冷却する。」
(キ)「【0049】
図3a及び3bは,それぞれガラス1及びガラス2を用いた試料のSEM顕微鏡写真を示す。これらの顕微鏡写真は,ガラス組成物が,いかなる亀裂,空隙,又は層間剥離も認められないことから,優れた接着力及び濡れを示すということを示している。」
(ク)甲1には,以下の図が示されている。
「【図3a】


(ケ)図3aのSEM顕微鏡写真及び当該写真の右下に示される単位長さ(30μm)の記載から,ガラス1が鋼(Crofer22APU)との境界面から少なくとも30μm以上の領域に延びて存在することが看取される。そして,ガラス1に,鋼の表面から5μm以内の領域と,鋼の表面から5μm超の領域があることは明らかである。
(コ)前記(カ)の記載から,ガラス1がYSZ電解質と鋼(Crofer22APU)を接合し,これらで接合体を構成することは明らかである。
(サ)前記(オ)及び(カ)の記載並びに技術常識(例えば,後述の(4)イの甲5の記載事項を参照。)から,固体酸化物型燃料電池(SOFC)/固体酸化物型電解セル(SOEC)型の電池又はスタックの稼働時に,ガラス1と鋼との境界,即ち界面領域において,熱応力が発生することは明らかであるといえる。

イ 甲1に記載された発明
以上から,甲1には,以下の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されている。
「固体酸化物型燃料電池(SOFC)/固体酸化物型電解セル(SOEC)型の電池又はスタックの任意の領域を封止するのに利用される接合体であって,
鋼(Crofer22APU)と,
前記鋼の表面に接合されるガラス1と,
前記ガラス1を介して前記鋼に接合されるYSZ電解質と,
を備え,
前記ガラス1は,前記鋼と前記YSZ電解質との隙間をシールし,
前記ガラス1は,前記鋼の表面から5μm以内の領域と,前記鋼の表面から5μm超の領域とを含み,
前記電池又はスタックの稼働時,前記界面領域に熱応力が発生する,
接合体。」

(2)甲2の記載事項及び甲2に記載された発明
ア 甲2の記載事項
(ア)「[0005] ガラスシール部に接触する2つの構成部材は,燃料電池発電単位の発電動作によって熱膨張する。この際,2つの構成部材の熱膨張差に起因して,ガラスシール部の内の一方の構成部材側の部分と他方の構成部材側の部分とで,各構成部材によって第1の方向に直交する第2の方向に引っ張られる量が異なることがあり,これに伴って,第2の方向に沿ったクラックがガラスシール部に生じ,その結果,構成部材間のシール性が低下するという問題がある。」
(イ)「[0009] (1)本明細書に開示される電気化学反応単位は,電解質層と前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを含む単セルと,1または複数の構成部材と,を備える電気化学反応単位において,前記単セルと前記1または複数の構成部材とのうち,前記第1の方向に互いに対向する2つの部材に接触し,ガラスを含むガラスシール部を備え,前記ガラスシール部は,前記第1の方向に直交する第2の方向の寸法である横寸法に対する,前記第1の方向の寸法である縦寸法の比率が1.5以上である複数の結晶粒子を含む。本電気化学反応単位によれば,ガラスシール部は,横寸法に対する縦寸法の比率が1.5以上である複数の結晶粒子(以下,「縦長結晶粒子」という)を含む。これにより,シール対象である2つの部材の熱膨張差に起因する応力がガラスシール部に生じても,縦長結晶粒子によって,第1の方向(縦方向)に延びる縦クラックが,第2の方向(横方向)に延びる横クラックより優先的にガラスシール部に生じ易くなるため,縦クラックによって応力を逃がすことができる。すなわち,2つの部材が対向する第1の方向にクラックが優先的に入ることで,第2の方向にクラックが入ることを抑制し,2つの部材の間をガスが通り抜けることを抑制することができる。したがって,シール対象である2つの部材の間のシール性が低下することを抑制することができる。」
(ウ)「[0023] 燃料電池スタック100は,複数の(本実施形態では7つの)発電単位102と,第1のエンドプレート104と,第2のエンドプレート106と,集電板18とを備える。7つの発電単位102は,所定の配列方向(本実施形態では上下方向(Z軸方向))に並べて配置されている。集電板18は,最も下に位置する発電単位102の下側に配置されている。第1のエンドプレート104は,最も上に位置する発電単位102の上側に配置され,第2のエンドプレート106は,集電板18の下側に配置されている。なお,上記配列方向(上下方向)は,特許請求の範囲における第1の方向に相当する。」
(エ)「[0028] 燃料電池スタック100には,4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は,金属により形成されており,中空筒状の本体部28と,本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の分岐部29には,ガス配管(図示せず)が接続される。また,図2に示すように,酸化剤ガス導入マニホールド161を形成するボルト22Aの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は,酸化剤ガス導入マニホールド161に連通しており,酸化剤ガス排出マニホールド162を形成するボルト22Bの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は,酸化剤ガス排出マニホールド162に連通している。また,図3に示すように,燃料ガス導入マニホールド171を形成するボルト22Dの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は,燃料ガス導入マニホールド171に連通しており,燃料ガス排出マニホールド172を形成するボルト22Eの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は,燃料ガス排出マニホールド172に連通している。」
(オ)「[0029] 図2および図3に示すように,ボルト22の一方の側(上側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の上端を構成する第1のエンドプレート104の上側表面との間,および,ボルト22の他方の側(下側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の下端を構成する第2のエンドプレート106の下側表面との間には,ガラス材料が結晶化して形成された第1のガラスシール材52が介在している。ただし,ガス通路部材27が設けられた箇所では,ナット24と第2のエンドプレート106の表面との間に,ガス通路部材27とガス通路部材27の上側および下側のそれぞれに配置された第1のガラスシール材52とが介在している。第1のガラスシール材52には,上述した各貫通孔108やガス通路部材27の本体部28の孔に連通する孔が形成されている。第1のガラスシール材52により,第1のガラスシール材52を挟んで配列方向に互いに隣り合う2つの導電性部材(例えば,ナット24と第1のエンドプレート104)が電気的に絶縁され,かつ,2つの導電性部材間のガスシール性が確保される。なお,上記ナット24および第1のエンドプレート104は,特許請求の範囲における第1の構成部材および第2の構成部材に相当する。また,第1のガラスシール材52は,特許請求の範囲におけるガラスシール部に相当する。」
(カ)「[0030](エンドプレート104,106の構成)
第1および第2のエンドプレート104,106は,略矩形の平板形状の導電性部材であり,例えばステンレスにより形成されている。第1のエンドプレート104は,配列方向に略直交する方向(例えばX軸負方向)に突出する第1の突出部14を備える。第1のエンドプレート104の第1の突出部14は,燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能する。」
(キ)「[0034] 図4および図5に示すように,発電の最小単位である発電単位102は,単セル110と,セパレータ120と,空気極側フレーム130と,空気極側集電体134と,燃料極側フレーム140と,燃料極側集電体144と,発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備える。セパレータ120,空気極側フレーム130,燃料極側フレーム140,インターコネクタ150におけるZ方向回りの周縁部には,上述したボルト22が挿入される貫通孔108に対応する孔が形成されている。なお,発電単位102は,特許請求の範囲における電気化学反応単位に相当する。また,セパレータ120は,特許請求の範囲における構成部材に相当する。さらに,一対のインターコネクタ150の一方およびセパレータ120とは,特許請求の範囲における第1の構成部材および第2の構成部材に相当する。」
(ク)「[0047]A-3.ガラスシール材52,54,56の詳細構成:
図6は,本実施形態の第1のガラスシール材52の構成を示す説明図である。図6には,第1のガラスシール材52のXZ破断面のSEM画像(200倍)が示されている。以下,上記配列方向(図6の上下方向であるZ軸方向)における寸法を「縦寸法」といい,当該配列方向に直交する面方向(図6の左右方向であるX軸方向)における寸法を「横寸法」というものとする。」
(ケ)「[0048] 図6に示すように,第1のガラスシール材52は,複数の縦長結晶粒子200を含む。縦長結晶粒子200は,横寸法に対する縦寸法の比率(=縦寸法/横寸法 以下,「縦横比率」という)が1.5以上である針状に延びた結晶粒子である。すなわち,縦長結晶粒子200は,第1のガラスシール材52に接触する2つの構成部材の対向面に平行な方向(X軸方向,Y軸方向 すなわち,2つの構成部材の間に形成され得るガスリーク経路)と交差する方向に延びる結晶粒子である。なお,第1のガラスシール材52に接触する2つの構成部材は,ボルト22の上側に嵌められたナット24および第1のエンドプレート104,第2のエンドプレート106およびガス通路部材27や,ガス通路部材27およびボルト22の下側に嵌められたナット24であり,これらが,特許請求の範囲における第1の構成部材および第2の構成部材に相当する。」
(コ)甲2には,以下の図が示されている。
「[図2]


「[図6]


(サ)前記(ク)及び(ケ)の記載から,図6において2つの構成部材は第1のガラスシール材52のZ軸上方又は下方に位置していると理解され,SEM画像である図6からは,図6左下に記載の単位長さ(50.0μm)に基づき計測すると,第1のガラスシール材52が第1の構成部材(例えば,ナット24)との境界面から200μm程度の領域に広がって存在することが看取される。そして,第1のガラスシール材52に,第1の構成部材の表面から5μm以内の領域と,第1の構成部材の表面から5μm超の領域があることは明らかである。
(シ)図2及び前記(ケ)の記載から,第1のガラスシール材52が第1の構成部材(例えば,ナット24)と第2の構成部材(例えば,第1のエンドプレート104)を接続し結び合わせているものと理解でき,これらで接合体を構成することは明らかである。
(ス)前記(ア)及び(イ)の記載及び技術常識から,燃料電池スタック100の稼働時に,第1のガラスシール材52の境界,即ち界面領域において,熱応力が発生することは明らかであるといえる。

イ 甲2に記載された発明
以上から,甲2には,以下の発明が記載されている。
「単セルを備える燃料電池スタック100に用いられる接合体であって,
第1の構成部材と,
第1の構成部材の表面に接合される第1のガラスシール材52と,
第1のガラスシール材52を介して第1の構成部材に接合される第2の構成部材と,
を備え,
第1のガラスシール材52は,第1の構成部材と第2の構成部材との隙間をシールし,
第1のガラスシール材52は,第1の構成部材の表面から5μm以内の領域と,第1の構成部材の表面から5μm超の領域とを含み,
燃料電池スタック100の稼働時,第1のガラスシール材52の界面領域に熱応力が発生する,
接合体。」

(3)甲3の記載事項及び甲3に記載された発明
ア 甲3の記載事項
(ア)「【0003】
このようなセルスタック装置は,燃料電池セルを保持するセル保持部材と,セル保持部材が載置され一体的に接合された蓋部材と,燃料電池セルと,セル保持部材との隙間をシールするガラス等のシール材とにより構成され,ガスタンクの内外を流通するガスがガスリークしない構成となっている。」
(イ)「【0005】
しかしながら,上記のセルスタック装置においては,セル保持部材の熱膨張係数がシール材の熱膨張係数よりも大きいことから,セルスタック装置の作製時や発電時において,セルスタック装置が高温に曝されるとシール材に引張応力が生じ,シール材にクラックが生じ,ガスタンクの内外を流通するガスがガスリークするおそれがあった。
【0006】
それゆえ,本発明の目的は,作製時や運転時においても燃料ガスおよび空気がリークしない長期信頼性の向上した燃料電池セル装置,燃料電池モジュールおよび燃料電池装置を提供することにある。」
(ウ)「【0007】
本発明の燃料電池セル装置は,燃料電池セルと,底部に開口を有し,上面にセル挿入孔を有するセル保持部材と,開口を覆うようにセル保持部材に接合された蓋部材と,セル保持部材よりも熱膨張係数が小さく,燃料電池セルとセル保持部材との隙間をシールし,燃料電池セルを接合するためのシール材と,を有する燃料電池セル装置において,蓋部材の熱膨張係数が前記セル保持部材の熱膨張係数よりも大きいことを特徴とする。」
(エ)「【0016】
燃料電池セル装置(セルスタック装置)1は,燃料電池セル3の複数個を,それぞれの燃料電池セル3の間に集電部材4を介して立設させた状態で配列し,複数個の燃料電池セル3を両端から集電部材4を介して挟持するように電流を外部に引き出すための導電部材5が配置されており,電気的に直列に接続してセルスタック2を形成している。各燃料電池セル3の下端部は,シール材により燃料電池セル3に燃料ガス(水素含有ガス)または空気(酸素含有ガス)を供給するガスタンク9に固定されて構成されている。詳細は後述するが,ガスタンク9は,セル保持部材7と,セル保持部材7に接合された蓋部材8とを有しており,ガスタンク9の上面には,ガスタンク9内に燃料ガスまたは空気を供給するための反応ガス供給管11が接続されている。」
(オ)「【0019】
また,インターコネクタ15の外面(上面)にはP型半導体層(図示せず)を設けることもできる。集電部材4を,P型半導体層を介してインターコネクタ15に接続させることにより,両者の接触がオーム接触となり,電位降下を少なくし,集電性能の低下を有効に回避することが可能となる。」
(カ)「【0030】
さらに,P型半導体層としては,遷移金属のペロブスカイト型酸化物からなる層を例示することができる。具体的には,インターコネクタ15を構成するランタンクロマイト系のペロブスカイト酸化物(LaCrO_(3))よりも電子伝導性の高いもの,例えばAサイトにSr(ストロンチウム)とLa(ランタン)が共存するLaSrCoFeO_(3)系酸化物(例えばLaSrCoFeO_(3)),LaMnO_(3)系酸化物(例えばLaSrMnO_(3)),LaFeO_(3)系酸化物(例えばLaSrFeO_(3)),LaCoO_(3)系酸化物(例えばLaSrCoO_(3))の少なくとも1種から構成することが好ましく,特に600?1000℃程度の作動温度での電気伝導性が高いという点からLaSrCoFeO_(3)系酸化物から構成することが特によい。なお,BサイトにCoとともにFe,Mnが存在してもよいこのようなP型半導体層の厚みは,一般に,30?100μmの範囲とすることができる。」
(キ)「【0037】
セルスタック2は,セル保持部材7のセル挿入孔18に配置されており,燃料電池セル3(セルスタック2)とセル保持部材7のセル挿入孔18との間にセル挿入孔18の前面にわたってシール材10が充填されて,燃料電池セル3(セルスタック2)をガスタンク9(セル保持部材7)に保持接合している。そのため,ガスタンク9の内部を流れる燃料ガスはセル保持部材7,蓋部材8およびシール材10によりガスタンク9の外部に流出しないように構成されている。そのため,図3に示すようにガスタンク9の内部は燃料ガスを貯蔵するための空間となっている。」
(ク)「【0039】
ガスタンク9を構成するセル保持部材7や蓋部材8は,耐熱性および耐酸化性を有する金属または合金により作製することができる。これらの合金を例示すると,フェライト系ステンレスやオーステナイト系ステンレス等があげられ,これらの合金は,市販されているものを用いてもよい。また,セル保持部材7と蓋部材8とは溶接により接合しガスタンク9を構成すればよい。」
(ケ)「【0040】
セルスタック2を保持接合するためのシール材10は,加工性および絶縁性からセラミックスや非晶質または結晶化ガラス等を用いることができる。」
(コ)甲3には,以下の図が示されている。
「【図1】


「【図2】


「【図3】


(サ)前記(キ)の記載から,シール材10がガスタンク9(セル保持部材7)と燃料電池セル3とを接合するものであると理解でき,これらで接合体を構成することは明らかである。
(シ)シール材10において,ガスタンク9(セル保持部材7)との境界付近において,シール材10の界面領域があることは明らかである。

イ 甲3に記載された発明
以上から,甲3には,以下の発明が記載されている。
「燃料電池セル3を備えるセルスタック2に用いられる接合体であって,
ガスタンク9(セル保持部材7)と,
ガスタンク9(セル保持部材7)の表面に接合されるシール材10と,
シール材10を介してガスタンク9(セル保持部材7)に接合される燃料電池セル3と,
を備え,
シール材10は,ガスタンク9(セル保持部材7)と燃料電池セル3との隙間をシールし,
セルスタック装置1の発電時,シール材10の界面領域に熱応力が発生する,
接合体。」

ウ 申立人の認定に対して
申立人は,特許異議申立書(以下,「申立書」という。)において,甲3の前記ア(オ)及び(カ)の,インターコネクタ15の外面(上面)に設けることもできるP型半導体層に関し,その厚みを「30?100μmの範囲にすることができる」との記載,及び,図1(b)の記載から,ガスタンク9(セル保持部材7)と燃料電池セル3との隙間の幅は,30μm?100μm以上である蓋然性が極めて高いから,その隙間をシールするシール材10の幅が30μm?100μm以上であることが開示されている旨主張する(申立書51頁2-13行)。
しかし,インターコネクタ15の外面(上面)に設けることもできるP型半導体層の厚みと,ガスタンク9(セル保持部材7)と燃料電池セル3との隙間の幅とについて,両者の関連を示唆する記載はなく,両者の間に何ら関連は認められない。また,甲3の図3を参酌すると,ガスタンク9(セル保持部材7)と燃料電池セル3との隙間をシールするシール材10の幅をP型半導体層の厚み以上にしなければならない理由もない。さらに,図1(b)は製品の模式図であると理解されるところ,そのような図面から具体的な数値範囲を特定することはできない。
以上によれば,前記申立人の主張を採用することはできない。

(4)甲4の記載事項及び甲4記載技術
ア 甲4の記載事項
(ア)「【0001】
本発明は,SiC被覆カーボン部材及びSiC被覆カーボン部材の製造方法に関し,特に,複数のSiC被覆カーボン基体を接合したSiC被覆カーボン部材及びSiC被覆カーボン部材の製造方法に関する。」
(イ)「【0005】
このため,高温領域で使用される半導体熱処理用治具の場合は,石英ガラス材と比較して,コストが高いにもかかわらず,上記炭化ケイ素被覆セラミックス製部材が,主として使用されている。
特に,カーボン(C)基体に炭化ケイ素(SiC)を被覆したSiC被覆カーボン部材は,カーボン基体への精密加工が容易であるため,特許文献1に示すようにサセプタを初めとして,複雑な形状を有する部材等に広範に用いられている。
【0006】
ところで,図4に示すように,特許文献1に示されたサセプタ20は,カーボン基体からなる,ウエハWが載置される上側部材21と,前記上側部材21と同様にカーボン基体からなり,前記上側部材21の間に中空部(内部空間部)23を形成する下側部材22とから構成されている。また,前記下側部材22の下面には,上記中空部(内部空間部)23に通じる開孔部22aが形成されている。
更に,前記上側部材21と前記下側部材22には,前記中空部23の内側表面を含む全表面がSiC膜で被覆されている。このSiC膜の被覆はCVD法等によって形成される。尚,図中,符号24はガス供給管であり,25はガス導出口である。またHはヒータである。
【特許文献1】特許第2628394号公報」
(ウ)「【0007】
特許文献1に示されたサセプタは,上側部材と下側部材が接合され,外側表面と中空部の内側表面の全表面がCVD法等によってSiC膜で被覆されたものである。
しかしながら,上側部材と下側部材の組み立て後,CVD法等によって中空部の内側表面をSiC膜で均一にしかも完全に被覆することは困難であった。即ち,前記中空部(内部空間部)に,SiC膜を形成する成膜ガスを満遍なく流通させることが困難であり,特に中空部(内部空間部)の形状が複雑化したした場合には,SiC膜を均一にしかも完全に被覆することは難しかった。
【0008】
これを解決する方法として,予めSiC被覆膜を形成し,SiC被覆膜が形成された部材同士を接着する方法も考えられるが,接合部にSiC被覆膜と異なる接合層が形成され,前記接合層部分において,剥離する等のあらたな技術的課題が生じる虞がある。
【0009】
そこで,本願発明者は,カーボン基体を組み立て後,CVD法等によってSiC膜を均一かつ完全に形成することは困難であり,特に,内部空間の形状が複雑化した際には,SiC膜を均一かつ完全に形成することがより困難になるとの知見に基づき,予め表面にSiC被覆膜が形成された複数のカーボン基体を接合することを前提に鋭意研究を行った。
即ち,本願発明者は,SiC被覆膜が予め形成された部材同士を接合する方法について鋭意研究を行い,接合部分における剥離を抑制できる,SiC被覆カーボン部材及びSiC被覆カーボン部材の製造方法を想到し,本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は,上記したようにSiC被覆膜が予め形成された部材同士を強固に接合することができるとともに,内部空間(中空部)に均一なSiC被覆層が形成されたSiC被覆カーボン部材及びSiC被覆カーボン部材の製造方法を提供することを目的とする。」
(エ)「【0012】
このように,本発明にかかるSiC被覆カーボン部材同士は,単一の層からなるSiC被覆膜で接合されている。即ち,前記カーボン部材を被覆しているSiC被覆膜と異なる接合層を新に形成し,この接合層でSiC被覆カーボン部材同士を接合するものでなく,SiC被覆膜で接合されているため,SiC被覆カーボン部材同士の剥離を抑制できる。
【0013】
ここで,前記カーボン基体を接合する接合層のSiC被覆膜において,前記カーボン基体から離れた接合面近傍のSiC被覆膜の平均粒径が,カーボン基体とSiC被覆膜の界面近傍のSiC被覆膜の平均粒径よりも大きいことが望ましい。
このように,カーボン基体とSiC被覆膜の界面の近傍において小さな粒径のSiC被覆膜とすることで,カーボン基体とSiC被覆膜の界面に発生する熱応力歪みが分散され易くなり,接合温度において接合面の平坦性が損なわれることを抑制できるので,より強固なSiC被覆膜接合体を得るのに有利である。
更に,接合面近傍における大きなSiC被覆膜の粒径は,接合面近傍に,結合の安定性が低いSiC結晶粒界を減らし,強固で化学的に安定なSiC結晶粒子の結合を増加させる。この効果は,カーボン基体とSiC被覆膜の界面の近傍からSiC被覆膜の接合面近傍まで段階的に,あるいは連続的に粒径が増大した場合にも同様である。」
(オ)「【0020】
この導入ガス加熱板1は,溝2cが形成されたカーボン基体2aからなる部材2と,溝3cが形成されたカーボン基体3aからなる部材3とを接合したものである。
前記部材2におけるカーボン基体2aの表面には,SiC被覆膜2bが形成されている。また前記部材3におけるカーボン基体3aの表面には,SiC被覆膜3bが形成されている。そして,SiC被覆膜2b,3bが形成されたカーボン基体2a,3aの溝2cと溝3cとを合致させ,一つの流路(内部空間部)4が形成されるように接合されている。」
(カ)「【0024】
この導入ガス加熱板1はこのように構成されているため,部材2,3の外表面及び流路4の内表面には,均一な単一の層からなるSiC被覆膜で完全に被覆されている。
しかも,部材2,3は,単一の層からなるSiC被覆膜で接合されているため,強固に接合でき,SiC被覆カーボン部材同士の剥離を抑制できる。」
(キ)「【0027】
また,図3に示すように,カーボン基体2,3を接合する接合層のSiC被覆膜2b,3bにおいて,前記カーボン基体2,3から離れた接合面近傍のSiC被覆膜の粒子2e,3eの平均粒径が,カーボン基体2,3とSiC被覆膜の界面近傍のSiC被覆膜の粒子2f,3fの平均粒径よりも,大きいことが望ましい。部材2,3にSiC被覆膜2b,3bを形成する工程の熱処理温度を,部材2,3の接合工程の熱処理温度よりも低くすることにより,図3に示すように,単一の接合層でありながら,SiC被覆膜2b,3bのSiC粒径を接合面2d,3dにおいて大きくすることができる。
このように,カーボン基体とSiC被覆膜の界面の近傍において小さな粒径のSiC被覆膜とすることで,カーボン基体とSiC被覆膜の界面に発生する熱応力歪みが分散され易くなり,接合温度において接合面の平坦性が損なわれることを抑制できるので,より強固なSiC被覆膜接合体を得るのに有利である。
更に,接合面近傍における大きなSiC被覆膜の粒径は,接合面近傍に,結合の安定性が低いSiC結晶粒界を減らし,強固で化学的に安定なSiC結晶粒子の結合を増加させる。この効果は,カーボン基体とSiC被覆膜の界面の近傍からSiC被覆膜の接合面近傍まで段階的に,あるいは連続的に粒径が増大した場合にも同様である。」
(ク)「【0032】
その後,部材2,3の接合面を物理的に接触させて,1800℃,0.1torrで13時間熱処理することにより,図1に示すSiC被覆カーボン部材1を得た。
このときの部材2,3の表面には,厚さ30μmの均一なSiC被覆膜が形成され,接合層は,厚さ65μmの均一なSiC被覆膜が形成された。
このSiC被覆膜の平均粒径は,7μmであり,接合層のSiC被覆膜の平均粒径は20μmであった。」
(ケ)甲4には,以下の図が示されている。
「【図2】


「【図3】



イ 以上の記載事項(ア)?(ケ)によれば,甲4には以下の事項が記載されていると認められる。
「部材2におけるカーボン基体2aの表面にはSiC被覆膜2bが形成され,部材3におけるカーボン基体3aの表面にはSiC被覆膜3bが形成され,SiC被覆膜2b,3bが形成されたカーボン基体2a,3aを接合させたものであって,カーボン基体2a,3aを接合する接合層のSiC被覆膜2b,3bにおいて,前記カーボン基体2a,3aから離れた接合面近傍のSiC被覆膜の粒子2e,3eの平均粒径が,カーボン基体2a,3aとSiC被覆膜の界面近傍のSiC被覆膜の粒子2f,3fの平均粒径よりも大きい,複数のSiC被覆カーボン基体を接合したSiC被覆カーボン部材」(以下,「甲4記載技術」という。)

(5)甲5の記載事項
ア 「【0050】
≪封止用グリーンシートの用途≫
封止用グリーンシートは,被封止部材に貼り付けた後,焼成することによって,封止部の形成に使用することができる。このため,被封止部材にペーストを付与する方法に比べて,作業者の利便性を向上することができる。封止用グリーンシートは,同種部材間または異種部材間の電気的・物理的な封止接合,例えば,複数の金属部材間の封止接合,複数のセラミック部材間の封止接合,セラミック部材と金属部材との封止接合などに好適に用いることができる。一例では,金属部材とセラミック部材との間(封止部分)に封止用グリーンシートを配置して,封止用グリーンシートに含まれるガラス粉末の軟化点以上の温度域,典型的には600℃以上,例えば700℃?900℃で焼成する。これにより,金属部材とセラミック部材との間に封止部を形成することができる。
【0051】
金属部材の具体例としては,SOFCの単セルにガスを供給するためのガス管や,SOFCの単セル間に配置され,該単セル同士を電気的に接続するインターコネクタなどが挙げられる。金属部材の材質としては,ステンレス鋼,アルミニウム,クロム,鉄,ニッケル,銅,銀,マンガン,およびこれらの合金などが挙げられる。それら金属部材の熱膨張係数は,10×10^(-6)K^(-1)?15×10^(-6)K^(-1)程度であり得る。
セラミック部材の具体例としては,SOFCのアノードやカソード,インターコネクタなどが挙げられる。セラミック部材の材質としては,アルミナ,フォルステライト,チタニア,イットリア,ジルコニア,安定化ジルコニアなどが挙げられる。セラミック部材は,いずれか1種のセラミックの単体であっても良いし,2種以上のセラミックが複合化された複合材料(例えば,ムライト,ステアタイト,アルミナジルコニアなど)であっても良い。それらセラミック部材の熱膨張係数は,6×10^(-6)K^(-1)?8×10^(-6)K^(-1)程度であり得る。
【0052】
ここに開示される封止用グリーンシートによれば,各種部材間を高気密に封止することができ,長期にわたって安定して高い気密性を維持することができる。例えば高温域で使用したり,常温域?高温域でヒートサイクルを繰り返したりする場合であっても,高い長期耐久性や耐ヒートサイクル性を実現することができる。したがって,ここに開示される封止用グリーンシートは,例えば高温域に曝され得る部品や,高温作動型の装置,具体的には,SOFCや蓄電素子などの各種発電システム,およびそれらを製造するための製造装置,ゴミ焼却装置,排ガス除去装置などの環境装置,車両用の排ガス処理装置,エンジン燃焼試験装置,真空系乾燥装置,半導体装置などの構築に好適に用いることができる。例えば,SOFCの単セルまたは上記単セルが複数個電気的に接続されてなるSOFCのスタックの構築に好ましく用いることができる。言い換えれば,ここに開示される技術により,封止用グリーンシートの焼成体で構成されている封止部を備えたSOFCの単セルまたはスタックが提供される。」
イ 「【0059】
<検討例I>
まず,ガラス粉末(RO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-B_(2)O_(3)系ガラス,平均粒径:20μm,熱膨張係数:10.8×10^(-6)K^(-1))と,不定形状のジルコニア粉末(電融ジルコニア(昭和電工株式会社製),アスペクト比:3,円形度:0.93,平均粒径:10μm,熱膨張係数:10.8×10^(-6)K^(-1))と,繊維状のジルコニア粉末(アスペクト比:10,円形度:0.5,平均粒径:20μm,熱膨張係数:10.9×10^(-6)K^(-1),Zircar Ziroconia Inc. 製)とを用意し,各例につき,下表1に示す「ガラス粉末:ジルコニア粉末」の体積割合で混合粉末を調製した。
次に,参考例1,2では,上記混合粉末と有機物(アクリル系バインダと分散剤と消泡剤と離型剤)とを有機溶媒中に分散させて,ペースト状に調製した。また,参考例3,4および例1では,上記混合粉末に上記有機物を添加して,噴霧造粒によって造粒粒子を作成し,得られた造粒粒子をロール成形によってシート状に成形した。なお,表1中の「有」機物含有量」の欄には,封止材料全体を100質量%としたときの有機物の含有量(質量%,参考例1,2では,有機溶媒の含有量を含む値。)を表している。」
ウ 「【0060】
【表1】


エ 「【0061】
次に,上記作製したペースト状の封止材料(参考例1,2)およびシート状の封止材料(例1,参考例3,4)を,それぞれ2枚の金属板(SOFCインターコネクタ用フェライト系合金Crofer(商標) 22 APU(マグネクス株式会社製,熱膨張係数:11×10^(-6)K^(-1))の間に挟んで,一方の金属板の側から圧力を加え,金属板と封止材料とを密着させた。この積層体を図2に示す熱処理パターンで焼成し,封止部の形成(1)と2回のヒートサイクル(2),(3)とを行った。そして,以下の項目について評価した。
〔ガスリーク評価〕
(1)?(3)の各パターンの終了後に,それぞれ2枚の金属板の隙間から漏れ出すガス量を測定した。結果を表1の「ガスリーク」の欄に示す。この欄において,「有り」は1回でもガスリークが認められたことを,「無」はガスリークが認められなかったことを表している。
〔封止部の厚みの評価〕
(1)?(3)の各パターンの終了後に,封止部の厚み(一方の金属板から他方の金属板に向かう方向の長さ)を測定し,その変化を評価した。結果を表1の「厚み変化」の欄に示す。この欄において,「大きい」は厚みの変化が10%以上であることを,「有り」は厚みの変化が5%以上10%未満であることを,「無」は厚みの変化が5%未満であることを表している。
〔収縮率の評価〕
参考例4と例1に係るシート状の封止材料をφ25mmの円板状に打ち抜き,測定用の試験片とした。この試験片を,図2の(1)のパターンで焼成したときの収縮率を測定した。具体的には,焼成前の試験片の直径から焼成後の試験片の直径を差し引き,その差分を焼成前の試験片の直径で除して,100を掛けることにより,収縮率を算出した。結果を表1の「収縮率」の欄に示す。この収縮率は円板状の試験片の直径方向の収縮率である。」
オ 「【0062】
表1に示すように,参考例1は,ジルコニア粉末を含まず,かつ,有機物含有量が30質量%を占めているペースト状の封止材料を使用して,封止部を形成した例である。参考例1では,(1)?(3)のパターン終了後の厚み変化がいずれも大きかった。これは,熱処理時に金属部材が膨張収縮することによって封止部に圧力がかかり,徐々に封止部が変形したためと考えられる。その結果,参考例1では,金属部材間の気密性が低くなり,(1)?(3)のパターン終了後にガスリークが生じたものと考えられる。
参考例2は,有機物含有量が30質量%を占めているペースト状の封止材料を使用して,封止部を形成した例である。参考例2では,(1)?(3)のパターン終了後に封止部が徐々に薄くなった。これは,封止材料の有機物含有量が多かったために,封止部の緻密性が低くなったためと考えられる。
参考例3は,ジルコニア粉末を含まないシート状の封止材料を使用して,封止部を形成した例である。参考例3も,参考例1,2と同様に,(1)?(3)のパターン終了後に封止部が徐々に薄くなった。」
カ 甲5には,以下の図が示されている。
「【図2】



2 理由1-1について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明の対比
本件発明1と甲1発明とを,その有する機能に照らして対比すると,甲1発明の「固体酸化物型燃料電池(SOFC)/固体酸化物型電解セル(SOEC)型の電池又はスタック」は本件発明1の「電気化学セルを備えるセルスタック」に相当し,甲1発明の「固体酸化物型燃料電池(SOFC)/固体酸化物型電解セル(SOEC)型の電池又はスタックの任意の領域を封止するのに利用される」は「電気化学セルを備えるセルスタックに用いられる」に相当する。
また,甲1発明の「鋼(Crofer22APU)」は本件発明1の「第1被接合部材」に,同様に,「ガラス1」は「ガラス部」に,「YSZ電解質」は「第2被接合部材」に,それぞれ相当する。
さらに,甲1発明の「5μm以内の領域」及び「5μm超の領域」は,本件発明1の「5μm以内の界面領域」及び「5μm超の内部領域」にそれぞれ相当する。
そうすると,本件発明1と甲1発明とは,以下の点で一致し,相違する。
[一致点]
「電気化学セルを備えるセルスタックに用いられる接合体であって,
第1被接合部材と,
前記第1被接合部材の表面に接合されるガラス部と,
前記ガラス部を介して前記第1被接合部材に接合される第2被接合部材と,
を備え,
前記ガラス部は,前記第1被接合部材と前記第2被接合部材との隙間をシールし,
前記ガラス部は,前記第1被接合部材の表面から5μm以内の界面領域と,前記第1被接合部材の表面から5μm超の内部領域とを含み,
前記セルスタックの稼働時,前記界面領域に熱応力が発生する,
接合体。」
[相違点1]
本件発明1は「前記界面領域に含まれる結晶粒子の平均粒径は,前記内部領域に含まれる結晶粒子の平均粒径より小さい」のに対し,甲1発明は,前記界面領域に含まれる結晶粒子の平均粒径が前記内部領域に含まれる結晶粒子の平均粒径より小さいか明らかでない点。
[相違点2]
本件発明1は内部領域の上限が「100μm以下」と特定されているのに対し,甲1発明は,5μm超の領域の上限が特定されていない点。

イ 判断
(相違点1について)
一般に,ガラス部のSEM画像から看取される全ての図形が,それぞれ1つの結晶粒子の輪郭を表しているとは限らない。甲1の図3aは,前記1(1)ア(キ)によればSEM顕微鏡写真(SEM画像)であるから,甲1において界面領域と内部領域とに含まれる結晶粒子の平均粒径を比較するためには,それに先立ち,甲1の図3aにおいて結晶粒子を特定することが必要である。
この点について,本件特許明細書の段落0044?0045にはSEM顕微鏡写真(SEM画像)で看取される図形の中から結晶粒子を特定する方法について以下のように記載されている。(以下の記載事項において,(a)?(h)の符号は,当審が付与した。また,例えば,(a)で示される手順を「手順(a)」などという。)
「まず,(a)反射電子検出器を用いたFE-SEM(ZEISS社製,型式ULTRA55)によって,マニホールド200の表面200Sに対して垂直な界面領域300aの断面を5000倍で拡大した反射電子像を取得する。次に,(b)反射電子像上において,最も明るく表示される粒子(すなわち,最高輝度で表示される粒子)を特定する。次に,(c)最も明るく表示される粒子の電子回折パターンを走査透過電子顕微鏡(STEM)で取得して,最も明るく表示される粒子が結晶粒子であることを確認する。次に,(d)最も明るく表示される結晶粒子を界面領域300aから無作為に30個選択して,各結晶粒子と同じ断面積を有する円の直径(以下,「円相当径」という。)を算出する。」
すなわち,前記手順(b)において反射電子検出器を用いたFE-SEMによって取得した反射電子像において最も明るく表示される粒子を特定した後,前記手順(c)において,最も明るく表示される粒子の電子回折パターンを走査透過電子顕微鏡(STEM)で取得して,最も明るく表示される粒子が結晶粒子であることを確認することで,反射電子像(SEM画像)において看取される粒子の中から,「結晶粒子」を特定している。
一方,甲1にはSEM顕微鏡写真(SEM画像)の中から「結晶粒子」を特定する手順については何ら記載も示唆もされていない。そのため,甲1の図3aにおいて看取される図形の中から「結晶粒子」を特定しているとはいえないし,その結果,「結晶粒子の平均粒径」を算出することもできないから,甲1に記載されている事項,又は,記載されているに等しい事項から,前記相違点1に係る「界面領域に含まれる結晶粒子の平均粒径は,内部領域に含まれる結晶粒子の平均粒径より小さい」という構成について当業者は把握することはできない。
したがって,前記相違点1は,実質的な相違点であるといえる。
よって,前記相違点2について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1発明であるとはいえない。

ウ 申立人の主張に対して
申立人は,申立書において,「甲第1号証の図3aは,接合体のSEM顕微鏡写真である。この写真において,ガラス封止剤(ガラス1)の領域中,黒色の部分が空隙であり,白色または灰色の部分が粒子である。この写真では,一見して,ガラス封止剤の界面領域における白色または灰色の部分の径は,内部領域における白色または灰色の部分の径より小さくなっている。」(申立書の29頁25行-30頁4行),「粒径の測定は,甲第1号証をA4サイズで印刷し,印刷された図3a(以下,「原写真」という。)を,縦横比を維持しつつ縦横それぞれ2倍に拡大したもの(以下,「測定対象写真」という。)を用いて行った。」(申立書の30頁5-7行)と主張する。
しかし,前記イで検討したようにガラス部のSEM画像から看取される全ての図形が,それぞれ1つの結晶粒子の輪郭を表しているとは限らないところ,申立人はSEM顕微鏡写真(SEM画像)である甲1の図3aにおいて「結晶粒子」を特定しているとはいえないから,申立人の行った前記「粒径の測定」は,界面領域及び内面領域に含まれる「結晶粒子」の粒径を測定したものともいえない。
したがって,申立人の前記主張を採用することはできず,甲1に,相違点1に係る構成が記載されているとはいえない。

(2)本件発明2ないし5について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし5は,本件発明1を特定するための事項を全て含み,本件発明1をさらに減縮したものであるから,前記本件発明1についての判断と同様の理由により,甲1発明であるとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり,本件発明1ないし5に係る特許は,特許法第29条第1項の規定に違反してされたものということはできず,同法第113条第2号により取り消すことができない。

3 理由1-2について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明の対比
本件発明1と甲2発明とを,その有する機能に照らして対比すると,甲1発明の「単セルを備える燃料電池スタック100」は本件発明1の「電気化学セルを備えるセルスタック」に相当し,同様に,「第1の構成部材」は本件発明1の「第1被接合部材」に,「第1のガラスシール材52」は「ガラス部」に,「第2の構成部材」は「第2被接合部材」に,それぞれ相当する。
また,甲2発明の「5μm以内の領域」及び「5μm超の領域」は,本件発明1の「5μm以内の界面領域」及び「5μm超の内部領域」にそれぞれ相当する。
そうすると,本件発明1と甲2発明とは,以下の点で一致し,相違する。
[一致点]
「電気化学セルを備えるセルスタックに用いられる接合体であって,
第1被接合部材と,
前記第1被接合部材の表面に接合されるガラス部と,
前記ガラス部を介して前記第1被接合部材に接合される第2被接合部材と,
を備え,
前記ガラス部は,前記第1被接合部材と前記第2被接合部材との隙間をシールし,
前記ガラス部は,前記第1被接合部材の表面から5μm以内の界面領域と,前記第1被接合部材の表面から5μm超の内部領域とを含み,
前記セルスタックの稼働時,前記界面領域に熱応力が発生する,
接合体。」
[相違点3]
本件発明1は「前記界面領域に含まれる結晶粒子の平均粒径は,前記内部領域に含まれる結晶粒子の平均粒径より小さい」のに対し,甲2発明は,前記界面領域に含まれる結晶粒子の平均粒径が前記内部領域に含まれる結晶粒子の平均粒径より小さいか明らかでない点。
[相違点4]
本件発明1は内部領域の上限が「100μm以下」と特定されているのに対し,甲2発明は,5μm超の領域の上限が特定されていない点。

イ 判断
(相違点3について)
一般に,ガラス部のSEM画像から看取される全ての図形が,それぞれ1つの結晶粒子の輪郭を表しているとは限らないところ,甲2の図6は,前記1(2)ア(ク)によれば,SEM画像であるから,甲2において,界面領域と内部領域とに含まれる結晶粒子の平均粒径を比較するためには,それに先立ち,甲2の図6において結晶粒子を特定することが必要である。
この点について,前記2(1)イにおいて検討したように,本件特許明細書の発明の詳細な説明によれば,反射電子検出器を用いたFE-SEMによって取得した反射電子像において最も明るく表示される粒子を特定した後,最も明るく表示される粒子の電子回折パターンを走査透過電子顕微鏡(STEM)で取得して,最も明るく表示される粒子が結晶粒子であることを確認することで,反射電子像(SEM画像)において「結晶粒子」を特定している。
一方,甲2には,SEM画像である図6から「結晶粒子」を特定する手順については何ら記載も示唆もされていない。そのため,甲2の図6において看取される図形の中から「結晶粒子」を特定しているとはいえないし,その結果,「結晶粒子の平均粒径」を算出することもできないから,甲2に記載されている事項,又は,記載されているに等しい事項から,前記相違点3に係る「界面領域に含まれる結晶粒子の平均粒径は,内部領域に含まれる結晶粒子の平均粒径より小さい」という構成について当業者は把握することができない。
したがって,前記相違点3は,実質的な相違点であるといえる。
よって,前記相違点4について検討するまでもなく,本件発明1は,甲2発明であるとはいえない。

ウ 申立人の主張に対して
申立人は,申立書において,「甲第2号証の図6(上記参考図2)から一見して,第1のガラスシール材52の界面領域に含まれる結晶粒子の粒径は,内部領域に含まれる結晶粒子の粒径より小さくなっていることが把握される。すなわち,甲第2号証の図6において,第1のガラスシール材52の内部領域には,比較的長い針状の粒子が多数存在しているのに対し,界面領域には,細かい粒状の粒子が多数存在しているため,界面領域における平均粒径が内部領域における平均粒径より小さいことは明らかである。」と主張する。(申立書の41頁12行-42頁4行)
しかし,前記イで検討したように,SEM画像である甲2の図6から「一見して」結晶粒子を特定することはできないから,申立人はSEM画像である甲2の図6において「結晶粒子」を特定しているとはいえない。したがって,界面領域と内部領域に含まれる「結晶粒子」の平均粒径を測定したものともいえず,「界面領域における平均粒径が内部領域における平均粒径より小さいことは明らか」であるとはいえない。
以上によれば,申立人の前記主張を採用することはできず,甲2に,相違点3に係る構成が記載されているとはいえない。

(2)本件発明2ないし5について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし5は,本件発明1を特定するための事項を全て含み,本件発明1をさらに減縮したものであるから,前記本件発明1についての判断と同様の理由により,甲2発明であるとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり,本件発明1ないし5に係る特許は,特許法第29条第1項の規定に違反してされたものということはできず,同法第113条第2号により取り消すことができない。

4 理由2-1について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明の対比
本件発明1と甲2発明とは,前記3(1)アで示した一致点で一致し,前記相違点3及び4で相違する。
イ 判断
前記1(1)及び前記2(1)に示したように,甲1発明には,「界面領域に含まれる結晶粒子の平均粒径は,内部領域に含まれる結晶粒子の平均粒径より小さい」点が開示されているとはいえない。
したがって,甲2発明に甲1発明を適用したとしても,依然として相違点3に係る本件発明1の構成は想到し得ない。よって,本件発明1は,甲2発明及び甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(2)本件発明2ないし5について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし5は,本件発明1を特定するための事項を全て含み,本件発明1をさらに減縮したものである。したがって,その余の事項を検討するまでもなく,本件発明2ないし5は,前記本件発明1についての判断と同様の理由により,甲2発明及び甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり,本件発明1ないし5に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものということはできず,同法第113条第2号により取り消すことができない。

5 理由2-2について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲3発明の対比
本件発明1と甲3発明とを,その有する機能に照らして対比すると,甲3発明の「燃料電池セル3を備えるセルスタック2」は本件発明1の「電気化学セルを備えるセルスタック」に相当し,同様に,「ガスタンク9(セル保持部材7)」は本件発明1の「第1被接合部材」に,「燃料電池セル3」は「第2被接合部材」に,それぞれ相当する。
また,甲3発明の「シール材」に「結晶化ガラス」が用いられることから,甲3発明の「シール材10」は本件発明1の「ガラス部」に相当する。
さらに,甲3発明において,セルスタック装置1の発電時,セルスタック2が稼働していることは明らかであるから,甲3発明の「セルスタック装置1の発電時」は本件発明1の「セルスタックの稼働時」に相当する。
そうすると,本件発明1と甲3発明とは,以下の点で一致し,相違する。
[一致点]
「電気化学セルを備えるセルスタックに用いられる接合体であって,
第1被接合部材と,
前記第1被接合部材の表面に接合されるガラス部と,
前記ガラス部を介して前記第1被接合部材に接合される第2被接合部材と,
を備え,
前記ガラス部は,前記第1被接合部材と前記第2被接合部材との隙間をシールし,
前記セルスタックの稼働時,界面領域に熱応力が発生する,
接合体。」
[相違点5]
本件発明1は「ガラス部は,第1被接合部材の表面から5μm以内の界面領域と,第1被接合部材の表面から5μm超100μm以下の内部領域とを含み,」「前記界面領域に含まれる結晶粒子の平均粒径は,前記内部領域に含まれる結晶粒子の平均粒径より小さい」のに対し,甲3発明は,シール材10に界面領域はあるものの,界面領域と内部領域の具体的な範囲は不明であり,界面領域に含まれる結晶粒子の平均粒径と内部領域に含まれる結晶粒子の平均粒径の大きさも不明である点。

イ 判断
(相違点5について)
(ア)前記1(4)イで示したように,甲4には,甲4記載技術が記載されている。
しかし,甲3発明は,燃料電池セル装置に関するものであるのに対し,甲4記載技術は,サセプタ等の半導体熱処理治具に関するものであり,両者の技術分野は大きく異なる。
また,甲3発明は,セル保持部材の熱膨張係数がシール材の熱膨張係数よりも大きいことから,セルスタック装置の作製時や発電時において,セルスタック装置が高温に曝されるとシール材に引張応力が生じ,シール材にクラックが生じるという課題を解決するために作製時や運転時においても燃料ガスおよび空気がリークしない長期信頼性の向上した燃料電池セル装置を提供することを目的としたものであるのに対し,甲4記載技術は,カーボン基体を組み立て後,SiC膜を均一かつ完全に形成することは困難であるという課題を解決するために,SiC被覆膜が予め形成された部材同士を強固に接合することができるとともに,内部空間(中空部)に均一なSiC被覆層が形成されたSiC被覆カーボン部材及びSiC被覆カーボン部材の製造方法を提供することを目的としたものであり,両者の課題も異なる。しかも,甲4記載技術は,互いに接合するカーボン基体2a,3aの両者に被覆膜を形成することを前提とするものであるところ,甲3発明において,ガスタンク9(セル保持部材7)および燃料電池セル3に均一な被覆膜を形成するものではないから,甲3発明において,甲4記載技術に示される課題が自明であるともいえない。
以上によれば,甲3発明に甲4記載技術を適用する動機付けはない。
(イ)また,甲4には「カーボン基体とSiC被覆膜の界面の近傍において小さな粒径のSiC被覆膜とすることで,カーボン基体とSiC被覆膜の界面に発生する熱応力歪みが分散され易くなり,接合温度において接合面の平坦性が損なわれることを抑制できる」(前記1(4)ア(キ))と記載され,また,実施例として「部材2,3の表面には,厚さ30μmの均一なSiC被覆膜が形成され,接合層は,厚さ65μmの均一なSiC被覆膜が形成された。このSiC被覆膜の平均粒径は,7μmであり,接合層のSiC被覆膜の平均粒径は20μmであった。」(前記1(4)ア(ク))ものが記載されているところ,これらの記載によれば,甲4記載技術には,カーボン基体とSiC被覆膜の界面から30μmの範囲で平均粒径が7μmの均一な状態が形成されているものが含まれると理解される。そうすると,甲4記載技術に,「ガラス部は,第1被接合部材の表面から5μm以内の界面領域と,第1被接合部材の表面から5μm超100μm以下の内部領域とを含み,」「前記界面領域に含まれる結晶粒子の平均粒径は,前記内部領域に含まれる結晶粒子の平均粒径より小さい」という技術思想があることを導くことはできない。
したがって,甲3発明に甲4記載技術を採用しても,「ガラス部は,第1被接合部材の表面から5μm以内の界面領域と,第1被接合部材の表面から5μm超100μm以下の内部領域とを含み,」「前記界面領域に含まれる結晶粒子の平均粒径は,前記内部領域に含まれる結晶粒子の平均粒径より小さい」ことについて,導出することができないから,相違点5に係る本件発明1の構成は想到し得ない。よって,本件発明1は,甲3発明及び甲4記載技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
以上によれば,本件発明1は,甲3発明及び甲4記載技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
(ウ)さらに,前記1(1)及び前記2(1)並びに前記1(2)及び前記3(1)に示したように,甲1発明及び甲2発明には,「界面領域に含まれる結晶粒子の平均粒径は,内部領域に含まれる結晶粒子の平均粒径より小さい」点が開示されているとはいえない。
したがって,甲3発明に甲1発明又は甲2発明を適用したとしても,相違点5に係る本件発明1の構成は想到し得ない。よって,本件発明1は,甲3発明及び甲1発明,又は,甲3発明及び甲2発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(2)本件発明2ないし5について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし5は,本件発明1を特定するための事項を全て含み,本件発明1をさらに減縮したものである。したがって,その余の事項を検討するまでもなく,本件発明2ないし5は,前記本件発明1についての判断と同様の理由により,甲3発明及び甲1発明,甲3発明及び甲2発明,又は甲3発明及び甲4記載技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり,本件発明1ないし5に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものということはできず,同法第113条第2号により取り消すことができない。

6 理由3について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が,サポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件発明の課題
本件発明が解決しようとする課題は,本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下,単に「発明の詳細な説明」ということもある。)の段落【0005】,【0006】の記載から,「熱応力がガラス部に発生」しても,「ガラス部にクラックが発生することを抑制可能な接合体の提供」である。

(3)本件発明について
ア 請求項1の記載
本件発明1は,課題解決の手段として「ガラス部は,前記第1被接合部材の表面から5μm以内の界面領域と,前記第1被接合部材の表面から5μm超100μm以下の内部領域とを含み」「前記界面領域に含まれる結晶粒子の平均粒径は,前記内部領域に含まれる結晶粒子の平均粒径より小さい」としたものである。
イ 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
(ア)発明の詳細な説明には,接合体の構造として,「界面領域300aは,マニホールド200の表面200Sから5μm以内の領域である。内部領域300bは,マニホールド200の表面200Sから5μm超の領域である。内部領域300bの範囲は特に規定しなくてもよいが,後述するように,内部領域300bに含まれる結晶粒子の平均粒径を算出する都合上,本実施形態では,マニホールド200の表面200Sから5μm超100μm以下の範囲を内部領域300bとして規定する。」(段落【0038】)と,また,「上記実施形態において,本発明に係る「接合体」は,ガラス部300に接合される「第1被接合部材」としてのマニホールド200を含むこととしたが,これに限られない。「第1被接合部材」は,マニホールド200以外の部材であってもよい。」(段落【0053】)と記載されている。これらの記載から,「ガラス部は,前記第1被接合部材の表面から5μm以内の界面領域と,前記第1被接合部材の表面から5μm超100μm以下の内部領域とを含」むことが理解される。
(イ)また,発明の詳細な説明には,種結晶の平均粒径を実施例ごとに異ならせることによって,界面領域における結晶粒子の平均粒径を表1に示すように調整した実施例1?10の接合体を準備し,また,種結晶の平均粒径を比較例ごとに異ならせることによって,ガラス部全体(内部領域及び界面領域を含む)における結晶粒子の平均粒径を表1に示すように調整した比較例1?2の接合体を準備し,実施例1?10及び比較例1?2について,ガラス部の内部領域及び界面領域それぞれにおける結晶粒子の平均粒径を測定し,界面領域及び内部領域それぞれに含まれる結晶粒子の平均粒径と,内部領域に含まれる結晶粒子の平均粒径に対する界面領域に含まれる結晶粒子の平均粒径の比率を調べ,実施例1?10及び比較例1?2の接合体それぞれについて,熱サイクル試験を実施し,いずれの条件においてガラス部にクラックが発生するかを確認した点が記載されている(段落【0058】?【0070】,【0072】?【0075】)。そして,「表1に示すように,界面領域と内部領域とで平均粒径を同じにした比較例1?2では,耐クラック性とガス性とを両立させることができなかった。このような結果が得られたのは,界面領域と内部領域とで平均粒径を同じにしたため,界面領域における強度向上と,内部領域における流れ性低下抑制とを両立できなかったためである。」(段落【0076】),「一方,内部領域よりも界面領域の平均粒径を小さくした実施例1?10では,耐クラック性とガスシール性とを両立させることができた。」(段落【0077】)と記載されている。これらの記載から,界面領域と内部領域とで結晶粒子の平均粒径を同じにすると耐クラック性に問題が生じる場合があるが,内部領域よりも界面領域の結晶粒子の平均粒径を小さくすると,比率によらず全ての実施例において耐クラック性を達成できていることが理解される。
ウ 以上によれば,当業者は,発明の詳細な説明の記載に基づき,請求項1に記載のとおり,「ガラス部は,前記第1被接合部材の表面から5μm以内の界面領域と,前記第1被接合部材の表面から5μm超100μm以下の内部領域とを含み」「前記界面領域に含まれる結晶粒子の平均粒径は,前記内部領域に含まれる結晶粒子の平均粒径より小さい」とすることによって,本件発明の課題を解決できると認識することができる。
そうすると,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明に当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができ,本件発明1の記載についてサポート要件の違反はない。
また,本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし5は,本件発明1を特定するための事項を全て含み,本件発明1をさらに減縮したものであるから,本件発明1と同様の理由により,本件発明2ないし5の記載についてサポート要件の違反はない。

エ 申立人の主張について
(ア)「本件特許発明がサポート要件を満たさないことについて(ア)」について
a 申立人は,申立書において,「「耐クラック性評価」の結果は,界面領域の結晶粒子の平均粒径と内部領域の結晶粒子の平均粒径との相対的な大小関係で決まるのではなく,界面領域の結晶粒子の平均粒径の絶対的な大きさの程度(具体的には,界面領域の結晶粒子の平均粒径が4.5μm以下であるか否か)によって決まるものと解される」から,界面領域の結晶粒子の平均粒径が4.5μm以下であることを何ら規定されていない,本件発明1,2,4,5は,本件発明の課題を解決できない態様を含んでおり,サポート要件を満たさない旨主張する。(申立書15頁下から6行-17頁10行)
b また,申立人は,申立書において,「「ガスシール性評価」の結果は,内部領域の結晶粒子の平均粒径と界面領域の結晶粒子の平均粒径との相対的な大小関係で決まるのではなく,内部領域の結晶粒子の平均粒径の絶対的な大きさの程度(具体的には,内部領域の結晶粒子の平均粒径が3μm以上であるか否か)によって決まる」から,内部領域の結晶粒子の平均粒径が3μmより小さい態様を含んでいる,本件発明1?3,5は,本件発明の課題を解決できない態様を含んでおり,サポート要件を満たさない旨主張する。(申立書17頁11-27行)
しかしながら,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,「界面領域300aに含まれる結晶粒子の平均粒径は特に制限されない」「内部領域300bに含まれる結晶粒子の平均粒径は特に制限されない」(段落[0043])と記載されており,申立人が主張する界面領域の結晶粒子の平均粒径を4.5μm以下とすることや,内部領域の結晶粒子の平均粒径を3μm以上とすることを課題解決のための必須の条件とはしていないし,段落[0073]の表1や段落[0077]の記載によれば,内部領域よりも界面領域の平均粒径を小さくした実施例1?10の全てにおいて,耐クラック性とガスシール性とを両立させることができた旨が記載されている。一方,申立人が挙げている仮実施例1(界面領域5μm,内部領域10μm)や仮実施例2(界面領域1μm,内部領域2.5μm)では課題を解決し得ないという実験結果は示されていないし,「耐クラック性評価」の結果は,界面領域の結晶粒子の平均粒径と内部領域の結晶粒子の平均粒径との相対的な大小関係で決まるものではないと言い切れるものでもない。
また,本件発明は,「クラックを抑制すること」と「ガスシール性向上」の両方を同時に解決することを前提とした申立人の前記主張は,前提において誤りがある。
したがって,申立人の上記主張を採用することはできない。
(イ)「本件特許発明がサポート要件を満たさないことについて(イ)」について
申立人は,申立書において,5μm以上の平均粒径(例えば6μm)を中心とした所定のばらつきを持った粒径の各結晶粒子が,ガラス部の界面領域および内部領域にわたって一様に含まれる例(仮比較例1)を想定し,そのような仮比較例1も含む,本件発明1ないし5は,本件発明の課題を解決できない態様を含んでおり,サポート要件を満たさない旨主張する。(申立書19頁1行-21頁15行)
しかしながら,本件特許発明は「前記界面領域に含まれる結晶粒子の平均粒径は,前記内部領域に含まれる結晶粒子の平均粒径より小さい」ことを構成要素としており,平均粒径が一様なものは,本件発明に含まれないから,仮比較例1が本件発明1ないし5に含まれることを前提とする申立人の主張は,前提において誤りであり,採用できない。
(ウ)「本件特許発明がサポート要件を満たさないことについて(ウ)」について
a 申立人は,申立書において,「本件特許発明は,ガラス部の内部領域の成形体に用いる種結晶のサイズが,界面領域の成形体に用いる種結晶のサイズより大きい旨の限定を含んでいない」から,本件発明1ないし5は,本件発明の課題を解決できない態様を含んでおり,サポート要件を満たさない旨主張する。(申立書21頁15行-22頁15行)
しかしながら,本件発明はガラス部の内部領域及び界面領域に形成される結晶粒子の平均粒径により特定されるものである。そして,申立人も主張(申立書22頁20-23行)するように,種結晶の粒成長にある程度のばらつきがあることを勘案すると,種結晶のサイズの特定が,結晶粒子の平均粒径のサイズを特定するものとは必ずしもいえない。したがって,結晶粒子の平均粒径のサイズを特定するために,種結晶のサイズを特定しなければならない理由はない。よって,申立人の前記主張は当を得たものでなく,採用できない。
b また,申立人は,申立書において,「同一のサイズの種結晶を用いてガラス部の界面領域および内部領域を製造し,種結晶の粒成長のばらつきの結果,界面領域の結晶粒子の平均粒径が内部領域の結晶粒子の平均粒径より僅かに小さくなった態様では,上述した本件特許発明の課題を解決することができないことは明らかである」と主張する。(申立書22頁16行-23頁11行)
しかし,本件特許明細書の発明の詳細な説明の表1の実施例3や5や10によれば,比率が1.0に近いものであっても,界面領域の結晶粒子の平均粒径が内部領域の結晶粒子の平均粒径より小さいものであれば,本件発明の「クラックを抑制する」という課題を解決できることが確認されおり,「界面領域の結晶粒子の平均粒径が内部領域の結晶粒子の平均粒径より僅かに小さくなった態様では,上述した本件特許発明の課題を解決することができないことは明らかである」といえる理由がない。したがって,申立人の前記主張は採用できない。
オ まとめ
以上によれば,請求項1ないし5に係る特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず,同法第113条第4号により取り消すことができない。

第5 まとめ
以上のとおりであるから,本件特許1ないし5は,申立書に記載された特許異議申立の理由によっては,取り消すことができない。
また,他に本件特許1ないし5を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-05-26 
出願番号 特願2019-38448(P2019-38448)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 今井 貞雄  
特許庁審判長 小川 恭司
特許庁審判官 関口 哲生
神山 貴行
登録日 2020-07-09 
登録番号 特許第6732070号(P6732070)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 燃料電池のセルスタック  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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