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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1374947
異議申立番号 異議2021-700183  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-18 
確定日 2021-06-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第6742547号発明「全固体リチウムイオン電池用正極活物質、電極及び全固体リチウムイオン電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6742547号の請求項1?14に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6742547号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?14に係る特許についての出願は、令和2年1月17日に出願され、同年7月30日にその特許権の設定登録がされ、同年8月19日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、本件特許に対し、令和3年2月18日に特許異議申立人である秋山重夫(以下、「申立人」という。)は、本件特許の請求項1?14(全請求項)に係る特許について特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?14の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明14」といい、まとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子からなる全固体リチウムイオン電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、
前記粒子は、平均圧壊強度が50MPaを超え、下記式(1)を満たす、全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
1.0μm≦D_(min )・・・(1)
(式(1)中、D_(min)はレーザー回折式粒度分布測定装置によって測定し、得られた累積粒度分布曲線における最小粒子径(μm)である。)
【請求項2】
酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池に用いられる請求項1に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項3】
前記遷移金属が、Ni、Co、Mn、Ti、Fe、V及びWからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム金属複合酸化物は、下記式(A)で表される請求項3に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
Li[Li_(x)(Ni_((1-y-z-w))Co_(y)Mn_(z)M_(w))_(1-x)]O_(2) (A)
(ただし、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の元素であり、-0.10≦x≦0.30、0<y≦0.40、0≦z≦0.40、0≦w≦0.10を満たす。)
【請求項5】
上記式(A)において1-y-z-w≧0.50、かつy≦0.30を満たす請求項4に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項6】
前記粒子は、一次粒子と、前記一次粒子の凝集体である二次粒子と、前記一次粒子及び前記二次粒子とは独立して存在する単粒子と、から構成され、
前記粒子における前記単粒子の含有率は、20%以上である請求項1?5のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項7】
前記粒子は、前記粒子の表面に金属複合酸化物からなる被覆層を有する請求項1?6のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項8】
請求項1?7のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質を含む電極。
【請求項9】
固体電解質をさらに含む請求項8に記載の電極。
【請求項10】
正極と、負極と、前記正極と前記負極とに挟持された固体電解質層と、を有し、
前記固体電解質層は、第1の固体電解質を含み、
前記正極は、前記固体電解質層に接する正極活物質層と、前記正極活物質層が積層された集電体と、を有し、
前記正極活物質層は、請求項1?7のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質又は請求項8もしくは9に記載の電極を含む全固体リチウムイオン電池。
【請求項11】
前記正極活物質層は、前記全固体リチウムイオン電池用正極活物質と、第2の固体電解質とを含む請求項10に記載の全固体リチウムイオン電池。
【請求項12】
前記第1の固体電解質と、前記第2の固体電解質とが同じ物質である請求項11に記載の全固体リチウムイオン電池。
【請求項13】
前記第1の固体電解質は、非晶質構造を有する請求項10?12のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池。
【請求項14】
前記第1の固体電解質は、酸化物固体電解質である請求項10?13のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池。」

第3 申立て理由の概要
1 申立人は、証拠方法として、下記2に示す甲第1号証?甲第5号証(以下、「甲1」?「甲5」という。)を提出し、以下の申立理由1、2により、請求項1?14に係る本件特許は取り消されるべきものである旨主張している。

(1)申立理由1(進歩性)
本件特許の下記ア?ウの請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記ア?ウの刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項1?14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

ア 請求項1
刊行物:甲1、甲2、甲4

イ 請求項2?7
刊行物:甲1?甲4

ウ 請求項8?14
刊行物:甲1?甲5

(2)申立理由2(サポート要件)
請求項1?7に係る発明は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、請求項1?7に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

2 証拠方法
甲1:再公表特許第2019/044733号
甲2:特許第6265211号公報
甲3:菅野了次、鈴木耕太、全固体電池入門、日刊工業新聞社、2020年2月25日初版3刷発行、p.8-9、40-41
(当審注:甲3の発行日(2020年(令和2年)2月25日)は、本件特許の出願日(令和2年1月17日)の後であるが、甲3の刊行物の初版第1刷発行日(2019年(平成31年)2月28日)は、本件特許の出願日前である。以下では、甲3の第8?9、40?41ページについては、甲3の刊行物の初版第1刷発行のものと同じ記載であると推認する。)
甲4:再公表特許第2019/044734号
甲5:特開2019-75355号公報

第4 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?14に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1(進歩性)について
(1)甲号証の記載及び甲号証に記載された発明
ア 甲1の記載及び甲1に記載された発明
(ア)甲1の記載
甲1には、「全固体型リチウム二次電池用正極活物質」(発明の名称)について、以下の記載がある。なお、下線は当審が付し、「・・・」は省略を表す(以下同様)。
「【請求項1】
Li、Mn及びOと、これら以外の2種以上の元素とを少なくとも含むスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物からなる粒子(「本コア粒子」と称する)の表面が、Li、A(AはTi、Zr、Ta、Nb、Zn、W及びAlからなる群から選択される一種または二種以上の元素の組み合わせである。)及びOを含む非晶質化合物で被覆されており、かつ、本コア粒子の一次粒子が多結晶体からなる、金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を有する正極活物質であって、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定による正極活物質のD50、モード径及びD10(それぞれ「D50」「モード径」「D10」と称する)に関し、D50が0.5μm?9μmであり、モード径に対する、モード径とD50との差の絶対値の百分率((|モード径-D50|/モード径)×100)の値が0?25%であり、モード径に対する、モード径とD10との差の絶対値の百分率((|モード径-D10|/モード径)×100)の値が20?58%であり、かつ、
前記D50に対する、走査型電子顕微鏡(SEM)により得られるSEM画像より算出した正極活物質の平均一次粒子径の比率(平均一次粒子径/D50)が0.20?0.99であることを特徴とする、全固体型リチウム二次電池用正極活物質。」
「【請求項8】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定の結果におけるDminが0.1μm?2.0μmであることを特徴とする請求項1?7の何れかに記載の全固体型リチウム二次電池用正極活物質。」
「【0010】
・・・
ところが、5V級正極活物質の中でも、Li、Mn及びOとこれら以外の2種以上の元素とを含むスピネル型複合酸化物に関して検討してみたところ、例えばLiNbO_(3)などのリチウムイオン伝導性酸化物層を形成するだけでは、イオン伝導性を向上しつつ、抵抗を抑制することができず、レート特性、サイクル特性を改善することができないことが判明した。5V級正極活物質を用いた場合、活物質と固体電解質との間の界面抵抗増大が顕著になることが原因であると推定される。
【0011】
そこで本発明は、Li、Mn及びOと、これら以外の2種以上の元素とを含むスピネル型複合酸化物からなる粒子の表面が、リチウムイオン伝導性酸化物で被覆されている正極活物質に関し、イオン伝導性を向上しつつ抵抗を抑制してレート特性、サイクル特性を改善することができる、新たな正極活物質を提供せんとするものである。その中でも特に、正極活物質と固体電解質との接触抵抗低減に着目し、放電時の作動電圧を高く維持することができる正極活物質を提供せんとするものである。」
「【0051】
また、上記モード径に対する、モード径とD50との差の絶対値の百分率((|モード径-D50|/モード径)×100)を上記範囲に調整すること、又は、モード径に対する、モード径とD10との差の絶対値の百分率((|モード径-D10|/モード径)×100)の値を上記範囲にすることにより、粒度分布が正規分布且に近く、シャープな分布となる。つまり、一次粒子および二次粒子の大きさを均一化することができる。
これは、粒度分布全体における微粉領域の割合を小さくすることができることを示している。微粉はサイクル特性に悪影響を及ぼすため、微粉の占める割合を小さくすることで、サイクル特性を改善することができる。
かかる観点から、本正極活物質については、モード径に対する、モード径とD10との差の絶対値の百分率((|モード径-D10|/モード径)×100)の値が20?58%であるのが好ましく、中でも22%より大きい或いは56%未満、その中でも25%より大きい或いは52%未満、さらにその中でも30%より大きい或いは50%未満、その中でも特に35%より大きい或いは47%以下であるのが特に好ましい。
【0052】
(Dmin)
本正極活物質のDmin、すなわちレーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定によるDminは0.1μm?2.0μmであるのが好ましい。
本正極活物質に関しては、Dminが上記範囲であれば、サイクル特性を向上させることができる。
かかる観点から、本正極活物質のDminは0.1μm?2.0μmであるのが好ましく、中でも0.15μm以上或いは2.0μm未満、その中でも特に0.2μm以上或いは1.9μm未満、さらにその中でも0.6μmより大きい或いは1.8μm未満であるのが特に好ましい。
【0053】
本正極活物質の二次粒子の粒度分布を上記のように調整するには、例えば焼成して粉砕すると共に該粉砕後に熱処理をすればよい。但し、かかる方法に限定するものではない。」
「【0118】
<実施例1>
平均粒径(D50)7μmの炭酸リチウムと、平均粒径(D50)23μmで比表面積が40m2/gの電解二酸化マンガンと、平均粒径(D50)22μmの水酸化ニッケルと、平均粒径(D50)2μmの酸化チタンと、平均粒径(D50)3μmの水酸化アルミニウムをそれぞれ秤量した。
イオン交換水中へ、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩水溶液(サンノプコ(株)製 SNディスパーサント5468)を添加した。この際、分散剤の添加量は、前述のLi原料、Ni原料、Mn原料、Ti原料及びAl原料の合計に対して、6wt%になるようにし、イオン交換水中へ十分に溶解混合させた。そして、秤量しておいたNi、Mn、Al原料を、あらかじめ分散剤を溶解させた前記イオン交換水中へ加えて、混合撹拌して、続いて、湿式粉砕機で1300rpm、120分間粉砕して平均粒径(D50)を0.60μm以下の粉砕スラリーを得た。次いで、残りの原料を前記スラリー中に加えて、撹拌し、続いて1300rpm、120分間粉砕して平均粒径(D50)を0.60μm以下の粉砕スラリーを得た。この際の固形分濃度は40wt%とした。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製「RL-10」)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧にはツインジェットノズルを用い、噴霧圧を0.46MPa、スラリー供給量340ml/min、乾燥塔の出口温度100?110℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。
【0119】
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気雰囲気において、900℃を37時間保持するように焼成した後、解砕機(オリエント堅型粉砕機、オリエント粉砕機株式会社製)で解砕した。
前記解砕後、静置式電気炉を用いて、大気雰囲気において、750℃を37時間保持するように熱処理(第1熱処理)し、解砕機(オリエント堅型粉砕機、オリエント粉砕機株式会社製)で解砕した。
前記解砕後、pH6?7、温度25℃のイオン交換水2000mLを入れたプラスチックビーカー(容量5000mL)の中に投入し、攪拌機(プロペラ面積33cm^(2))を用いて400?550rpmの回転で20分間撹拌した。撹拌後、撹拌を停止して攪拌機を水中から取り出し、10分間静置した。そして、デカンテーションにより上澄み液を除去し、残りについて吸引ろ過器(ろ紙No.131)を使用して沈降物を回収し、回収した沈降物を120℃環境下で12時間乾燥させた。その後、品温が500℃となるように加熱した状態で7時間乾燥させた。
【0120】
そして、乾燥後、カウンタージェットミル(粉砕分級装置、ホソカワミクロン株式会社製)で解砕した(解砕条件:分級機回転数11000rpm)。その後、目開き53μmの篩で分級した。
【0121】
その後、管状型静置炉にて酸素供給量0.5L/minにて流入させながら、炉設定温度を725℃として、5時間保持するように熱処理(第2熱処理)を実施した。
第2熱処理後の粉体を目開き53μmの篩で分級し、篩下を回収してリチウムマンガン含有複合酸化物を得た。このリチウムマンガン含有複合酸化物は、後述するように、XRD測定で、スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物であることを同定した。よって、このリチウムマンガン含有複合酸化物をスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物と称する。以後の実施例及び比較例についても同様である。
【0122】
このスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物すなわちコア粒子の化学分析を実施したところ、Li:4.1wt%、Ni:13.6wt%、Mn:41.7wt%、Ti:5.4wt%、Al:0.01wt%であった。一次粒子の断面SEM写真からコア粒子が多結晶体であることを確認した。
表1には、一般式[Li_(x)(M1_(y)M2_(z)Mn_(2-x-y-z))O_(4-δ)](δ=0と仮定)で示した際の組成を示しており、M1は本実施例ではNiであり、置換元素種M2は本実施例ではTi、Alである。
・・・
【0123】
そして、前記A元素をNbとして、リチウム原料としてリチウムエトキシド、Nb原料としてペンタエトキシニオブを使用した。
所定量のリチウムエトキシドとペンタエトキシニオブの量を秤量し、これらをエタノールに加えて溶解させて、被覆用のゾルゲル溶液を調整した。この被覆用ゾルゲル溶液に前記スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末を5g投入し、ロータリーエバポレーターを用いて、60℃で30分間加熱しながら超音波を照射して加水分解させた。その後、60℃を維持しながら30分かけて減圧して溶媒を除去した。溶媒除去後、常温下で16時間放置して乾燥させた。次に箱型の小型電気炉(光洋サーモシステム株式会社製)を用いて、大気雰囲気で350℃を5時間維持するように熱処理(第3熱処理)し、表面被覆処理したスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末すなわち正極活物質(サンプル)を得た。」
「【0147】
(モード径、D50、D10、Dmin)
実施例及び比較例で得られたサンプルについて、レーザー回折粒子径分布測定装置用自動試料供給機(マイクロトラック・ベル株式会社製「Microtorac SDC」)を用い、サンプル(粉体)を水溶性溶媒に投入し、40%の流速中、40Wの超音波を360秒間複数回照射した後、マイクロトラック・ベル株式会社製レーザー回折粒度分布測定機「MT3000II」を用いて粒度分布を測定し、得られた体積基準粒度分布のチャートからモード径、D50、D10及びDminを測定した。
超音波の照射回数は、超音波照射前後におけるD50の変化率が8%以下となるまでの回数とした。
なお、測定の際の水溶性溶媒は60μmのフィルターを通し、溶媒屈折率を1.33、粒子透過性条件を透過、粒子屈折率2.46、形状を非球形とし、測定レンジを0.133?704.0μm、測定時間を30秒とし、2回測定した平均値をそれぞれの値とした。」
「【0164】
(全固体型リチウム二次電池の作製)
正極合材粉末(サンプル)13mgを密閉型セルの絶縁筒内(φ9mm)に充填して、368MPaで一軸成型することで正極合材粉末ペレットを作製した。得られた正極合材粉末ペレットを密閉型セルの絶縁筒内(φ10.5mm)に移し、正極合材粉末ペレット上に固体電解質粉末50mgを充填した。
次に、正極合材粉末ペレットとともに、固体電解質粉末を184MPaで一軸成型した。さらに、上記固体電解質の上に10mgの負極合材粉末を充填し、551MPaで一軸成型し、加圧ネジで締め込み、全固体型リチウム二次電池を作製した。」
「【0166】
【表1】



(イ)甲1に記載された発明
a 上記(ア)で摘示した事項(特に、請求項1、8及び表1参照。)から、請求項1を引用する請求項8に係る発明を踏まえ、実施例1の正極活物質に着目すると、以下の甲1発明が記載されていると認められる。

<甲1発明>
「Li、Mn及びOと、Ni、Ti、Alを含むスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物からなる粒子(「本コア粒子」と称する)の表面が、Li、Nb及びOを含む非晶質化合物で被覆されており、かつ、本コア粒子の一次粒子が多結晶体からなる、金属Li基準電位で4.6Vの作動電位を有する正極活物質であって、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定による正極活物質のD50、モード径及びD10(それぞれ「D50」、「モード径」及び「D10」と称する)に関し、D50が4.64μmであり、モード径に対する、モード径とD50との差の絶対値の百分率((|モード径-D50|/モード径)×100)の値が0.22%であり、モード径に対する、モード径とD10との差の絶対値の百分率((|モード径-D10|/モード径)×100)の値が38%であり、かつ、
前記D50に対する、走査型電子顕微鏡(SEM)により得られるSEM画像より算出した正極活物質の平均一次粒子径の比率(平均一次粒子径/D50)が0.36であり、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定の結果におけるDminが1.78μmである全固体型リチウム二次電池用正極活物質。」

イ 甲2の記載
甲2には、「非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法」(発明の名称)について、以下の記載がある。

「【請求項6】
一般式(B):Li_(z)Ni_(1-x-y)Co_(x)M_(y)O_(2)(ただし、0.10≦x≦0.20、0≦y≦0.10、0.95≦z≦1.10、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、層状構造を有する六方晶系リチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質であって、該正極活物質の表面には被覆層が形成されており、該被覆層を構成するリチウム以外の金属に対するリチウムの組成比が1.50?2.30であり、2032型コイン電池に用いた場合に、190mAh/g以上、199.2mAh/g以下の初期放電容量を有し、かつ、3.6Ω以上、5.5Ω以下の正極抵抗を有する、非水系電解質二次電池用正極活物質。」
「【請求項9】
粒子強度が42MPa以上である、請求項6?8のいずれかに記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。」
「【0061】
(2-f)粒子強度
本発明の正極活物質は、好ましくは42MPa以上、より好ましくは54MPa以上、さらに好ましくは57MPa以上の粒子強度を備える。粒子強度が42MPa未満では、電極を形成するために圧延した際に、正極活物質が変形ないしは割れてしまい、高密度の電極を形成することができなくなる場合がある。なお、粒子強度は、微小圧縮試験機により測定することができる。」
「【0091】
a)粒子強度
微小圧縮試験機(株式会社島津製作所製、MCTーWシリーズ)を用いた測定により、この正極活物質の粒子強度は60MPaであることが確認された。」
「【0100】
このコイン電池1を、以下のようにして作製した。まず、得られた正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して、正極3aを作製した。この正極3aを、真空乾燥機中、120℃で12時間乾燥した。この正極3aと、負極3b、セパレータ3cおよび電解液とを用いて、コイン電池1を、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。」

ウ 甲3の記載
甲3には、「全固体電池」について、以下の記載がある。

「集電体の両面に正極層と負極層を形成したバイポーラ電極と固体電解質の薄層を交互に積層し、単一の電槽内に収めることができ、電池容器が占める体積や重量を大幅に低減することができるとされている(図1.2)。」
(第8ページ第22?25行)



(第9ページ)



(第41ページ)
「リチウム系固体電解質は、酸化物系、硫化物系が主であり、その他には、ハロゲン化物、窒化物などが知られている^(30)-33))。」
(第41ページ「3.3.2 リチウム系固体電解質の分類」の第2行)

エ 甲4の記載及び甲4に記載された発明
(ア)甲4の記載
甲4には、「全固体型リチウム二次電池用正極活物質」(発明の名称)について、以下の記載がある。
「【請求項1】
Li、M元素(Mは、少なくともNi、Co、Mn及びAlからなる群から選択される一種または二種以上の元素の組み合わせを含む。)及びOを含む層状構造を持つリチウム金属複合酸化物からなる粒子(「本コア粒子」と称する)の表面が、Li、A(AはTi、Zr、Ta、Nb、Zn、W及びAlからなる群から選択される一種または二種以上の元素の組み合わせである。)及びOを含む非晶質化合物で被覆されている正極活物質であって、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定によるD50、モード径及びD10(それぞれ「D50」「モード径」「D10」と称する)に関し、D50が0.5μm?11μmであり、モード径に対する、モード径とD50との差の絶対値の百分率((|モード径-D50|/モード径)×100)の値が0?25%であり、モード径に対する、モード径とD10との差の絶対値の百分率((|モード径-D10|/モード径)×100)の値が20?58%であり、かつ、
前記D50に対する、走査型電子顕微鏡(SEM)により得られるSEM画像より算出した正極活物質の平均一次粒子径の比率(平均一次粒子径/D50)が0.01?0.99であることを特徴とする全固体型リチウム二次電池用正極活物質。」
「【請求項3】
前記リチウム金属複合酸化物は、一般式Li_(1+x)M_(1-x)O_(2)(式中、Mは、Ni、Co、Mn及びAlからなる群から選択される一種または二種以上の元素の組み合わせであるか、若しくは、Ni、Co、Mn及びAlからなる群から選択される一種または二種以上の元素の組み合わせと、周期律表の第3族元素から第11族元素の間に存在する遷移金属元素、及び、周期律表の第1周期から第3周期までの典型金属元素からなる群のうちの何れか1種或いは2種以上の組合せとを含む。-0.05≦x≦0.09)で示されるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の全固体型リチウム二次電池用正極活物質。」
「【請求項11】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定の結果におけるDminが0.1μm?6.0μmであることを特徴とする請求項1?10の何れかに記載の全固体型リチウム二次電池用正極活物質。」
「【0010】
・・・
ところが、層状構造の正極活物質の中でも、Li、M元素(MはNi、Co、Mn及びAlからなる群から選択される一種または二種以上の元素の組み合わせである。)及びOを少なくとも含む層状構造を持つリチウム金属複合酸化物に関して検討してみたところ、例えばLiNbO_(3)などのリチウムイオン伝導性酸化物層を形成するだけでは、イオン伝導性を向上しつつ、抵抗を抑制することができず、放電末期の特性、レート特性、サイクル特性を改善することができないことが判明した。層状構造の正極活物質を用いた場合、活物質と固体電解質との間の界面抵抗増大が顕著になることが原因であると推定される。
【0011】
そこで本発明は、層状構造を持つLi、M元素(Mは、少なくともNi、Co、Mn及びAlからなる群から選択される一種または二種以上の元素の組み合わせを含む。)及びOを少なくとも含む層状構造を持つリチウム金属複合酸化物からなる粒子の表面が、リチウムイオン伝導性酸化物で被覆されている正極活物質に関し、イオン伝導性を向上しつつ抵抗を抑制してレート特性、サイクル特性を改善することができる、新たな正極活物質を提供せんとするものである。特に、正極活物質と固体電解質との接触抵抗低減に着目し、放電末期の特性を向上させた新たな正極活物質を提供せんとするものである。」
「【0043】
また、上記モード径に対する、モード径とD50との差の絶対値の百分率((|モード径-D50|/モード径)×100)を上記範囲に調整すること、又は、モード径に対する、モード径とD50との差の絶対値の百分率((|モード径-D10|/モード径)×100)の値を上記範囲にすることにより、粒度分布が正規分布且に近く、シャープな分布となる。つまり、一次粒子および二次粒子の大きさを均一化することができる。
これは、粒度分布全体における微粉領域の割合を小さくすることができることを示している。微粉はサイクル特性に悪影響を及ぼすため、微粉の占める割合を小さくすることで、サイクル特性を改善することができる。
かかる観点から、本正極活物質については、モード径に対する、モード径とD10との差の絶対値の百分率((|モード径-D10|/モード径)×100)の値が20?58%であるのが好ましく、中でも22%より大きい或いは56%未満、その中でも25%より大きい或いは52%未満、さらにその中でも29%より大きい或いは53%未満であるのが特に好ましい。
【0044】
(Dmin)
本正極活物質のDmin、すなわちレーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定によるDminは0.1μm?6.0μmであるのが好ましい。
本正極活物質に関しては、Dminが上記範囲であれば、副反応を抑制することができる。
かかる観点から、本正極活物質のDminは0.1μm?6.0μmであるのが好ましく、中でも0.15μmより大きい或いは5.0μm未満、その中でも特に0.2μmより大きい或いは4.0μm未満、さらにその中でも0.6μmより大きい或いは3.0μm未満が特に好ましい。
【0045】
本正極活物質の二次粒子の粒度分布を上記のように調整するには、例えば焼成して粉砕すると共に該粉砕後に熱処理をすればよい。但し、かかる方法に限定するものではない。」
「【0111】
<実施例3>
先ず、硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸マンガンを溶解した水溶液に、水酸化ナトリウムとアンモニアを供給し、共沈法により、ニッケルとコバルトとマンガンのモル比が0.59:0.20:0.21 である金属複合水酸化物を作製した。
【0112】
次に、炭酸リチウムと金属複合水酸化物を秤量した後、ボールミルを用いて十分混合し、得られた混合粉を、静置式電気炉を用いて720℃で10時間仮焼成した。
得られた仮焼粉を解砕し、再度、静置式電気炉を用いて、870℃で22時間焼成を行った。焼成して得られた焼成塊を乳鉢に入れて乳棒で解砕し、目開き53μmの篩で分級し、篩下の層状リチウム金属酸化物粉体を回収した。
回収した層状リチウム金属酸化物粉体すなわちコア粒子のD50は10.0μmであった。また、該コア粒子の化学分析を行った結果、Li:7.3wt%、Ni:35.6wt%、Co:12.0wt%、Mn:11.5wt%であった。一次粒子の断面SEM写真からコア粒子が多結晶体であることを確認した。
【0113】
次に、水酸化リチウム一水和物及びペルオキソニオブ酸アンモニウムを水に加えて溶解させて、被覆用の水溶液を調整した。この被覆用水溶液33mlに前述の層状リチウム金属酸化物を30gを投入して、スラリーを作製し、撹拌混合した。混合後のスラリーを120℃で90分かけて乾燥させた。得られた乾燥粉を乳鉢でほぐした後、箱型の小型電気炉(光洋サーモシステム株式会社製)を用いて、大気雰囲気で350℃を5時間維持するように熱処理し、表面被覆処理された層状構造を有するリチウム金属複合酸化物、すなわち正極活物質(サンプル)を得た。」
「【0124】
(モード径、D50、D10、Dmin)
実施例及び比較例で得られたサンプルについて、レーザー回折粒子径分布測定装置用自動試料供給機(マイクロトラック・ベル株式会社製「Microtorac SDC」)を用い、サンプル(粉体)を水溶性溶媒に投入し、40%の流速中、40Wの超音波を360秒間複数回照射した後、マイクロトラック・ベル株式会社製レーザー回折粒度分布測定機「MT3000II」を用いて粒度分布を測定し、得られた体積基準粒度分布のチャートからモード径、D50、D10及びDminを測定した。
超音波の照射回数は、超音波照射前後におけるD50の変化率が8%以下となるまでの回数とした。
なお、測定の際の水溶性溶媒は60μmのフィルターを通し、溶媒屈折率を1.33、粒子透過性条件を透過、粒子屈折率2.46、形状を非球形とし、測定レンジを0.133?704.0μm、測定時間を30秒とし、2回測定した平均値をそれぞれの値とした。」
「【0142】
(全固体型リチウム二次電池の作製)
正極合材粉末(サンプル)13mgを密閉型セルの絶縁筒内(φ9mm)に充填して、368MPaで一軸成型することで正極合材粉末ペレットを作製した。得られた正極ペレットを密閉型セルの絶縁筒内(φ10.5mm)に移し、正極ペレット状に固体電解質粉末50mgを充填した。
次に、正極合剤ペレットとともに、184MPaで一軸成型した。さらに、上記固体電解質の上に17mgの負極合材粉末を充填し、551MPaで一軸成型し、加圧ネジで締め込み、全固体型リチウム二次電池を作製した。」
「【0145】
【表1】



(イ)甲4に記載された発明
a 上記(ア)で摘示した事項(特に、請求項1、3、11及び表1参照。)から、請求項1、3を引用する請求項11に係る発明を踏まえ、実施例3の正極活物質に着目すると、以下の甲4発明が記載されていると認められる。

<甲4発明>
「Li、Ni、Co、Mn及びOを含む層状構造を持つリチウム金属複合酸化物からなる粒子(「本コア粒子」と称する)の表面が、Li、Nb及びOを含む非晶質化合物で被覆されている正極活物質であって、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定によるD50、モード径及びD10(それぞれ「D50」、「モード径」及び「D10」と称する)に関し、D50が9.97μmであり、モード径に対する、モード径とD50との差の絶対値の百分率((|モード径-D50|/モード径)×100)の値が1.2%であり、モード径に対する、モード径とD10との差の絶対値の百分率((|モード径-D10|/モード径)×100)の値が30%であり、かつ、
前記D50に対する、走査型電子顕微鏡(SEM)により得られるSEM画像より算出した正極活物質の平均一次粒子径の比率(平均一次粒子径/D50)が0.07であり、
前記リチウム金属複合酸化物は、Li_(1。01)(Ni,Co,Mn)_(0.99)O_(2)で示されるものであり、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定の結果におけるDminが5.04μmである全固体型リチウム二次電池用正極活物質。」

オ 甲5の記載
甲5には、「全固体電池」(発明の名称)について、以下の記載がある。

「【0033】
以上の構成を備える正極は、正極活物質と、任意に含有させる固体電解質、バインダー及び導電助剤とを溶媒に入れて混練することによりスラリー状の電極組成物を得た後、この電極組成物を正極集電体の表面に塗布し乾燥する等の過程を経ることにより容易に製造することができる。ただし、このような湿式法に限定されるものではなく、乾式にて正極を製造することも可能である。このようにして正極集電体の表面にシート状の正極合剤層を形成可能である。この場合の正極合剤層の厚みは、例えば0.1μm以上1mm以下であることが好ましく、1μm以上100μm以下であることがより好ましい。」
「【0055】
[実施例3]
1cm^(2)のセラミックス製の型に固体電解質を0.065g秤量し、1ton/cm^(2)でプレスし固体電解質層を得た。その片側に正極合剤0.018gを入れ、1ton/cm^(2)でプレスして正極を得た。その逆側に負極合剤8を0.0027g入れ1ton/cm^(2)でプレスし、さらにその上に負極合剤5を入れ4ton/cm^(2)でプレスして負極を得た。正極集電体としてアルミニウム箔、負極集電体として銅箔を用い、評価用の全固体電池を得た。」

(2)甲1に記載された発明を主引例とした場合
ア 本件発明1と甲1発明との対比
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「Li、Mn及びOと、Ni、Ti、Alを含むスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物からなる粒子(「本コア粒子」と称する)の表面が、Li、Nb及びOを含む非晶質化合物で被覆されており、かつ、本コア粒子の一次粒子が多結晶体からなる」「全固体型リチウム二次電池用正極活物質」は、本件発明1の「少なくともLiと遷移金属とを含有」する「リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子からなる全固体リチウムイオン電池用正極活物質」に相当する。

(イ)また、甲1発明の「レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定の結果におけるDminが1.78μmである」は、本件発明1の「前記粒子は、」「下記式(1)を満たす」「1.0μm≦D_(min) ・・・(1)(式(1)中、D_(min)はレーザー回折式粒度分布測定装置によって測定し、得られた累積粒度分布曲線における最小粒子径(μm)である。)」に相当する。

(ウ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点、相違点を有する。

<一致点1>
「リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子からなる全固体リチウムイオン電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物は、少なくともLiと遷移金属とを含有し、
前記粒子は、下記式(1)を満たす、全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
1.0μm≦D_(min) ・・・(1)
(式(1)中、D_(min)はレーザー回折式粒度分布測定装置によって測定し、得られた累積粒度分布曲線における最小粒子径(μm)である。)」

<相違点1>
本件発明1では、「リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有」するのに対し、甲1発明では、「リチウムマンガン含有複合酸化物」が「スピネル型」である点。

<相違点2>
本件発明1では、「粒子は、平均圧壊強度が50MPaを超え」るのに対し、甲1発明では、「Li、Nb及びOを含む非晶質化合物で被覆」されている「本コア粒子」の平均圧壊強度は不明である点。

イ 相違点についての検討
(ア)相違点1について
a 上記(1)ア(ア)で示した【0010】、【0011】から、甲1発明は、スピネル型の複合酸化物粒子である正極活物質に関し、そのイオン伝導性を向上しつつ抵抗を抑制してレート特性、サイクル特性を改善するとの課題を解決しようとする発明であるから、本コア粒子がスピネル型であることは、甲1発明における課題解決のための技術手段の前提をなす特徴的部分、すなわち本質的部分であると認められる。

b 一方、上記(1)エ(ア)で示した請求項1、【0010】、【0011】から、甲4には本コア粒子が層状構造であることを前提とする全固体型リチウム二次電池用正極活物質が記載されていると認められる。

c しかし、スピネル型の粒子であることを前提とした発明である甲1発明において、甲4に記載された粒子構造を採用して、スピネル型の粒子を層状構造の粒子に変更することは、甲1発明の前提となる本質的部分を変更することであり、そのような変更を行う動機付けはないから、相違点1に係る構成は、甲1、甲4の記載から当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

d また、甲2、甲3、甲5の記載を参照しても、甲1発明において、スピネル型の粒子を層状構造の粒子に変更する動機付けはない。

e ここで、申立人の主張について検討すると、申立人は、特許異議申立書(第13頁第22?26行、第14頁第14?15行)において、「層状構造」については甲4に記載されており、甲1と甲4は共に二次電池用正極活物質という同一技術分野に属するものであるから組合せに困難性はないと主張しているが、上記cで示したように、スピネル型の粒子を前提とする甲1発明において、甲4に記載された層状構造の粒子という技術事項を適用する動機付けはないから、当該主張は採用できない。

(イ)相違点2について
a 本件特許の明細書には、本件発明1の「平均圧壊強度」に関して以下の記載がある。

「【0063】
(要件2:平均圧壊強度)
本実施形態において、正極活物質に含まれるリチウム金属複合酸化物の粒子の「平均圧壊強度」とは、以下の方法によって測定される値を指す。
【0064】
まず、正極活物質粉末から下記の基準で選択したリチウム金属複合酸化物の粒子1個に対して試験圧力(負荷)をかけ、リチウム金属複合酸化物の粒子の変位量を測定する。
測定には、株式会社島津製作所製「微小圧縮試験機MCT-510」を用いる。
試験圧力を徐々にあげて行った際、試験圧力がほぼ一定のまま変位量が最大となる圧力値を試験力(P)とする。
得られた試験力(P)から、下記数式(A)(日本鉱業会誌,Vol.81,(1965)参照)により、圧壊強度(St)を算出する。この操作を計7回行い、圧壊強度の最大値と最小値を省いた5回の平均値から平均圧壊強度を算出する。下記数式(A)中、dはリチウム金属複合酸化物の粒子径である。
St=2.8×P/(π×d×d) …(A)
【0065】
[粒子選択基準]
後述する方法により測定されるD50(単位:μm)±2μm程度の大きさを持つリチウム金属複合酸化物の粒子を選択する。選択の際には、極端にいびつな形状の粒子は避ける。具体的には、粒子の短径と長径との比(短径/長径)が、0.7以上1.3以下の粒子を選択する。
ここで、「長径」とは、粒子の最も長い径を意味する。「短径」とは粒子の最も短い径を意味する。」

b 一方、甲2には上記(1)イで示した【0061】、【0091】に記載されているように、正極活物質において、微小圧縮試験機(株式会社島津製作所製、MCTーWシリーズ)を用いた測定による粒子強度を42MPa以上とすることで、電極を形成するために圧延した際に、正極活物質が変形ないしは割れてしまい、高密度の電極を形成することができなくなることを防止していることが記載されている。

c ここで、本件特許の技術分野における技術常識を踏まえると、「粒子強度」は本件発明の「圧壊強度」と同様の意味で使われており(例えば、再公表特許第2017/208703号の【0035】参照。)、「圧壊強度」(単位は「MPa」)を、微小圧縮試験機を用いて測定した試験力(P)から、日本鉱業学会誌、Vol.81、(1965)に記載された数式に基づいた「St=2.8×P/(π×d×d)」(dは粒子径)を用いて算出されることも通常行われていることであるから(例えば、特開2017-82091号公報の【0017】参照。)、甲2に記載された「粒子強度」も、上記数式を用いて算出された「圧壊強度」を意味している蓋然性が高い。

d そうすると、甲2に記載された「粒子強度」は、本件特許の「平均圧壊強度」における「圧壊強度」と同様に、微小圧縮試験機を用いて測定していることは上記(1)イで示した【0061】に記載されているとおりであるし、その数値についても、上記aの数式(A)で算出している蓋然性が高い。

e また、甲2には、上記(1)イで示した【0100】に記載されているように、正極活物質、アセチレンブラック、及びPTFEを混合し、100MPaの圧力でプレス成形して正極を形成しているから、正極を形成する際のプレス成形において、100MPaの圧力であれば、粒子強度を42MPa以上とすることで、正極活物質が変形ないしは割れてしまい、高密度の電極を形成することができなくなることを防止できると考えられる。

f ここで、甲1発明において甲2に記載された「粒子強度」を適用することについて、当業者が容易になし得たことであるか否かを検討する。

g 甲1には、甲2に記載されている、正極活物質を用いて正極を製造する際に、正極活物質が変形ないしは割れないようにして高密度の電極を形成することについては記載されていない。

h また、上記(1)ア(ア)の【0164】に記載されているように、甲1に記載された発明は、全固体型リチウム二次電池の発明であって、正極を作製する際には368MPaで一軸成型し、全固体リチウム二次電池を作製する際には551MPaで一軸成型するものである。

i そうすると、甲1発明において、仮に、その粒子強度を、プレス成形時の圧力として高々100MPaを印加することを前提として正極活物質の変形や破壊を防止するために必要とされる42MPa以上に高めたとしても、全固体リチウム二次電池を作製する過程で551MPaもの圧力を印加する一軸成型をした場合には、正極活物質が変形ないし破壊することを十分に防止できるとはいえない。また、甲1発明において、上記551MPaの圧力に対して変形や破壊を防止できる粒子強度がどの程度であるか不明であるし、仮に、その粒子強度が判明したとしても、甲1発明の正極活物質においてその粒子強度が実現できるか不明である。

j そのため、甲1、甲2の記載を参照しても、甲1発明において、甲2に記載された「粒子強度」を42MPa以上とする技術事項を適用する動機付けはない。

k また、甲3?甲5の記載を参照しても、甲1発明において、甲2に記載された「粒子強度」を42MPa以上とする技術事項を適用する動機付けはない。

l ここで、申立人の主張について検討すると、申立人は、特許異議申立書(第13ページ第28行?第14ページ第3行、第14ページ第14?19行)にて、甲1に記載された発明に甲2に記載された「粒子強度が42MPa以上」の構成を適用し、「平均圧壊強度50MPaを超え」、「1.0μm≦D_(min)」を備えた二次電池用正極活物質を得ることは、当業者にとって容易であると主張しているが、当該主張については、上記f?jで示した理由により採用できない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明と甲2?甲5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明2?14と甲1発明との対比・検討
(ア)本件発明2?14と甲1発明とを対比すると、本件発明2?14は本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、少なくとも上記相違点1、2で相違し、相違点1、2についての判断は上記イで示したとおりである。

(イ)そうすると、本件発明2?14は、相違点1、2に係る構成を備えている点で、仮に他の相違点があったとしても他の相違点について検討するまでもなく、甲1に記載された発明と甲2?甲5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)甲4に記載された発明を主引例とした場合
ア 本件発明1と甲4発明との対比
(ア)本件発明1と甲4発明とを対比すると、甲4発明の「Li、Ni、Co、Mn及びOを含む層状構造を持つリチウム金属複合酸化物からなる粒子(「本コア粒子」と称する)の表面が、Li、Nb及びOを含む非晶質化合物で被覆されている」「全固体型リチウム二次電池用正極活物質」は、本件発明1の「層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有」する「リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子からなる全固体リチウムイオン電池用正極活物質」に相当する。

(イ)また、甲4発明の「レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定の結果におけるDminが5.04μmである」は、本件発明1の「前記粒子は、」「下記式(1)を満たす」「1.0μm≦D_(min) ・・・(1)(式(1)中、D_(min)はレーザー回折式粒度分布測定装置によって測定し、得られた累積粒度分布曲線における最小粒子径(μm)である。)」に相当する。

(ウ)そうすると、本件発明1と甲4発明とは、以下の一致点、相違点を有する。

<一致点2>
「リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子からなる全固体リチウムイオン電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、
前記粒子は、下記式(1)を満たす、全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
1.0μm≦D_(min) ・・・(1)
(式(1)中、D_(min)はレーザー回折式粒度分布測定装置によって測定し、得られた累積粒度分布曲線における最小粒子径(μm)である。)」

<相違点3>
本件発明1では、「粒子は、平均圧壊強度が50MPaを超え」るのに対し、甲4発明では、「Li、Nb及びOを含む非晶質化合物で被覆」されている「本コア粒子」の平均圧壊強度は不明である点。

イ 相違点3についての検討
(ア)上記(2)イ(イ)b?dに示したように、甲2に記載された「粒子強度」は、本件特許の「平均圧壊強度」における「圧壊強度」と同様に、微小圧縮試験機を用いて測定していることは上記(1)イで示した【0061】に記載されているとおりであるし、その数値についても、上記(ア)の数式(A)で算出している蓋然性が高い。

(イ)しかし、上記(1)エ(ア)の【0142】に記載されているように、甲4に記載された発明は、全固体型リチウム二次電池の発明であって、正極を作製する際には368MPaで一軸成型し、全固体リチウム二次電池を作製する際には551MPaで一軸成型するものであるから、上記(2)イ(イ)f?jで示した理由と同様の理由で、甲4、甲2の記載を参照しても、甲4発明において、甲2に記載された「粒子強度」を42MPa以上とする技術事項を適用する動機付けはない。

(ウ)また、甲1、甲3、甲5の記載を参照しても、甲4発明において、甲2に記載された「粒子強度」を42MPa以上とする技術事項を適用する動機付けはない。

(エ)ここで、申立人は、特許異議申立書(第13ページ第28行?第14ページ第3行、第14ページ第14?19行)にて、甲4に記載された発明に甲2に記載された「粒子強度が42MPa以上」の構成を適用し、「平均圧壊強度50MPaを超え」、「1.0μm≦D_(min)」を備えた二次電池用正極活物質を得ることは、当業者にとって容易であると主張しているが、当該主張については、上記(イ)で示した理由により採用できない。

(オ)したがって、本件発明1は、甲4に記載された発明と甲1?甲3、甲5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明2?14と甲1発明との対比・検討
(ア)本件発明2?14と甲4発明とを対比すると、本件発明2?14は本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、少なくとも上記相違点3で相違し、相違点3についての判断は上記イで示したとおりである。

(イ)そうすると、本件発明2?14は、相違点3に係る構成を備えている点で、仮に他の相違点があったとしても他の相違点について検討するまでもなく、甲4に記載された発明と甲1?甲3、甲5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)申立理由1(進歩性)についてのまとめ
よって、本件発明1は、甲1、甲2、甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明2?7は、甲1?甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明8?14は、甲1?甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、したがって、本件特許の請求項1?14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。

2 申立理由2(サポート要件)について
(1)特許請求の範囲の記載について
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第2のとおりである。

(2)発明の詳細な説明の記載
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン電池用正極活物質、電極及び全固体リチウムイオン電池に関するものである。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
全固体リチウムイオン二次電池の正極では、正極活物質と固体電解質との間で、リチウムイオンの授受が行われる。全固体リチウムイオン二次電池の検討においては、上述のリチウムイオンの授受をスムーズに行うことを可能とし、サイクル特性等の電池性能を向上させることが可能な正極活物質が求められていた。
【0007】
また、全固体リチウムイオン二次電池の検討においては、従来の液系リチウムイオン二次電池の検討知見が活かせないことがある。そのため、全固体リチウムイオン二次電池に固有の検討が必要となっていた。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、正極において固体電解質との間でリチウムイオンの授受をスムーズに行うことができ、サイクル特性を向上させることができる全固体リチウムイオン電池用正極活物質を提供することを目的とする。また、このような全固体リチウムイオン電池用正極活物質を有する電極及び全固体リチウムイオン電池を提供することを併せて目的とする。
【0009】
本明細書において「サイクル特性が良い」とは、充放電の繰り返しによる、電池容量の低下量が少ない特性を意味し、初期容量に対する再測定時の容量比が低下しにくいことを意味する。」
「【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明は、以下の態様を包含する。
【0011】
[1]リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子からなる全固体リチウムイオン電池用正極活物質であって、前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、前記粒子は、平均圧壊強度が50MPaを超え、下記式(1)を満たす、全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
1.0μm≦D_(min) ・・・(1)
(式(1)中、D_(min)はレーザー回折式粒度分布測定装置によって測定し、得られた累積粒度分布曲線における最小粒子径(μm)である。)」
「【0015】
本実施形態の全固体リチウムイオン電池用正極活物質は、リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子である。・・・
【0016】
本実施形態の正極活物質は、以下の要件を満たす。
(要件1)正極活物質が含むリチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含む。
【0017】
(要件2)正極活物質が含むリチウム金属複合酸化物は、平均圧壊強度が50MPaを超える。
【0018】
(要件3)リチウム金属複合酸化物は、粒度分布が下記式(1)を満たす。
1.0μm≦D_(min) ・・・(1)
(式(1)中、D_(min)はレーザー回折式粒度分布測定装置によって測定し、得られた累積粒度分布曲線における最小粒子径(μm)である。)」
「【0022】
さらに詳しくは、リチウム金属複合酸化物は、下記組成式(A)で表される。
Li[Li_(x)(Ni_((1-y-z-w))Co_(y)Mn_(z)M_(w))_(1-x)]O_(2) ・・・(A)
(ただし、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、La及びVからなる群より選択される1種以上の元素であり、-0.1≦x≦0.30、0≦y≦0.40、0≦z≦0.40、0≦w≦0.10、0<y+z+w、を満たす。)」
「【0075】
発明者らの検討により、従来の液系リチウムイオン二次電池の正極に用いた場合には、良好な電池性能を示す正極活物質であっても、全固体リチウムイオン電池の正極に用いた場合には、性能が不十分であるものがあることが分かった。このような全固体リチウムイオン二次電池に固有の知見に基づいて、発明者らが検討したところ、上述の要件1?要件3を満たす本実施形態の正極活物質は、全固体リチウムイオン電池の正極に用いた場合に、高いサイクル特性が測定されることが分かった。
【0076】
まず、本実施形態の正極活物質においては、要件1を満たすことで、リチウムイオンの挿入及び脱離を良好に行うことができる。
【0077】
また、本実施形態の正極活物質は、要件2?3を満たす。全固体リチウムイオン二次電池の正極においては、正極活物質は、正極活物質と固体電解質との間で、リチウムイオンの授受が行われる。
正極においては、正極活物質同士の間に空隙が存在する。この空隙の大きさに対して、非常に直径が小さいサブミクロン単位の微粒子は周囲の正極活物質と接点を持ちにくい。ここで、正極活物質同士の間の空隙に存在し、非常に直径が小さいサブミクロン単位の微粒子を「孤立粒子」と記載する。
【0078】
液系リチウム二次電池の場合、電解液が空隙に浸透できるため、孤立粒子であってもリチウムイオンの導電経路となりうる。
一方、全固体リチウムイオン二次電池の場合には、孤立粒子は導電経路を確保することが難しい。このため孤立粒子は充電及び放電に寄与しにくい。つまり、全固体リチウムイオン二次電池の場合、孤立粒子の存在量が少ないほど、電池特性は向上する。
【0079】
要件2を満たす正極活物質は、製造時や使用時に圧力がかかった場合に、リチウム金属複合酸化物粒子が割れにくい。
ここで、全固体リチウムイオン電池の製造時においては、粉体を混合する際又は圧粉成形を行う際に正極活物質粉末に圧力がかかる。
さらに、全固体リチウムイオン電池の使用時においては、充電及び放電を繰り返した際の膨張と収縮に伴い正極活物質粉末に圧力がかかる。
例えば固体電解質として酸化物系固体電解質を用いた場合には、50MPa以上の圧力がかかることが想定され、硫化物系固体電解質を用いた場合には、200MPa以上の圧力がかかることが想定される。
【0080】
要件2を満たす正極活物質は、繰返し使用した場合に孤立粒子が発生しにくい。つまり繰り返し使用した場合にもリチウムイオンの導電経路が減少しないため、容量が低下しにくい。このため、全固体リチウムイオン二次電池のサイクル特性を良好なものとすることができる。
【0081】
また、要件3を満たす正極活物質は、孤立粒子が存在しない、又は存在量が非常に少ない。
【0082】
以上の理由から、要件1?3を満たす本実施形態の正極活物質は、全固体リチウムイオン電池の正極に用いた場合に、容量が低下しにくく、全固体リチウムイオン二次電池のサイクル特性を良好なものとすることができる。」
「【0275】
正極活物質層111は、予め正極活物質を含むシート状の成型体として加工し、本発明における「電極」として使用してもよい。また、以下の説明において、このようなシート状の成型体を「正極活物質シート」と称することがある。正極活物質シートに集電体を積層した積層体を、電極としてもよい。」
「【0360】
<実施例1>
・・・
【0366】
・・・正極活物質1を得た。
【0367】
(正極活物質1の評価)
正極活物質1の組成分析を行い、組成式(A)に対応させたところ、x=0.05、y=0.08、z=0.04、w=0であった。
・・・
【0369】
正極活物質1の粒度分布を測定したところ、D_(min)は1.06μmであった。正極活物質1の平均圧壊強度は68.37MPaであった。
【0370】
<実施例2>
・・・【0371】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.50:0.20:0.30となる割合で混合して、混合原料液を調製した。
・・・
【0375】
・・・正極活物質2を得た。
【0376】
(正極活物質2の評価)
正極活物質2の組成分析を行い、組成式(A)に対応させたところ、x=0.05、y=0.50、z=0.30、w=0であった。」(当審注:【0022】、【0371】から、「y=0.50」は「y=0.20」の誤記の可能性がある。)
「【0378】
正極活物質2の粒度分布を測定したところ、D_(min)は3.00μmであった。正極活物質2の平均圧壊強度は94.68MPaであった。
【0379】
<実施例3>
・・・
【0385】
・・・正極活物質3とした。
【0386】
(正極活物質3の評価)
正極活物質3の組成分析を行い、組成式(A)に対応させたところ、x=0.03、y=0.20、z=0.25、w=0であった。
・・・
【0388】
正極活物質3の粒度分布を測定したところ、D_(min)は1.19μmであった。正極活物質3の平均圧壊強度は83.54MPaであった。
【0389】
<比較例1>
・・・
【0391】
・・・正極活物質4を得た。
【0392】
(正極活物質4の評価)
正極活物質4の組成分析を行い、組成式(A)に対応させたところ、x=0.20、y=0.08、z=0.04、w=0であった。
・・・
【0394】
正極活物質4の粒度分布を測定したところ、D_(min)は0.85μmであった。正極活物質3の平均圧壊強度は44.63MPaであった。
【0395】
<全固体リチウムイオン二次電池の製造>
(正極活物質シートの製造)
前述した製造方法で得られる正極活物質と、Li_(3)BO_(3)とを正極活物質:Li_(3)BO_(3)=80:20(モル比)の組成になるように混合し、混合粉を得た。得られた混合粉に、樹脂バインダー(エチルセルロース)と、可塑剤(フタル酸ジオクチル)と、溶媒(アセトン)とを、混合粉:樹脂バインダー:可塑剤:溶媒=100:10:10:100(質量比)の組成となるように加え、遊星式攪拌・脱泡装置を用いて混合した。
【0396】
得られたスラリーを遊星式攪拌・脱泡装置を用いて脱泡し、正極合剤スラリーを得た。
【0397】
ドクターブレードを用い、得られた正極合剤スラリーをPETフィルム上に塗布して、塗膜を乾燥させて、厚さ50μmの正極膜を形成した。
【0398】
正極膜をPETフィルムから剥離して、直径14.5mmの円形に打ち抜き加工し、さらに、正極膜の厚さ方向に20MPa、1分間一軸プレスすることで、厚さ40μmの正極活物質シートが得られた。正極活物質シートに含まれるLi_(3)BO_(3)は、正極活物質シート内で正極活物質と接する固体電解質として機能する。また、Li_(3)BO_(3)は、正極活物質シート内で正極活物質をつなぎとめるバインダーとして機能する。
【0399】
(全固体リチウムイオン電池の製造)
正極活物質シートと、Li_(6.75)La_(3)Zr_(1.75)Nb_(0.25)O_(12)の固体電解質ペレット(株式会社豊島製作所製)とを積層し、積層方向と平行に一軸プレスして積層体を得た。用いた固体電解質ペレットは、直径14.5mm、厚み0.5mmであった。
【0400】
得られた積層体の正極活物質シートに、さらに正極集電体(金箔、厚さ500μm)を重ね、100gfで加圧した状態で、300℃で1時間加熱して有機分を焼失させた。さらに5℃/分で800℃まで昇温した後、800℃で1時間焼結して、固体電解質層と正極との積層体を得た。
【0401】
次いで、以下の操作をアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
【0402】
固体電解質層と正極との積層体の固体電解質層に、さらに、負極(Li箔、厚さ300μm)、負極集電体(ステンレス板、厚さ50μm)、ウェーブワッシャー(ステンレス製)を重ねた。
【0403】
正極からウェーブワッシャーまで重ねた積層体について、正極をコイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋に置き、ウェーブワッシャーに重ねて上蓋をして、かしめ機でかしめることで、全固体リチウムイオン電池を作製した。」
「【0418】
<評価結果>
評価結果を表1に示す。
【0419】
【表1】

【0420】
評価の結果、実施例1?3の正極活物質を用いた全固体リチウムイオン電池は、いずれも高いサイクル特性を示した。
実施例、比較例の正極活物質について、液系リチウムイオン二次電池を作製し、評価したところ、表1に示すように、実施例1?3の正極活物質はいずれも良好に使用可能と評価できた。一方、比較例1の正極活物質は、全固体リチウムイオン二次電池とすると、サイクル特性が低下した。
【0421】
このように、液系リチウムイオン二次電池においてはいずれも良好に動作する正極活物質であっても、全固体リチウムイオン二次電池とすると、電池性能に大きな差が生じ、本発明に係る全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質は良好な電池性能を示すことが分かった。
【0422】
以上より、本発明が有用であることが分かった。」

(3)サポート要件の検討
ア サポート要件を検討する観点について
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
そこで、以下、上記の観点に立って、本件特許の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かについて検討する。
なお、本件特許の請求項8?14に係る特許については、特許異議申立書(第18ページ第11?20行)におけるサポート要件違反についての具体的理由において対象とされていないが、請求項8?14は、直接または間接的に請求項1?7を引用するので、請求項8?14についても念のため以下において検討する。

イ 本件特許における発明が解決しようとする課題について
上記(2)で摘記した【0008】から、本件発明1?14が解決しようとする課題は、「正極において固体電解質との間でリチウムイオンの授受をスムーズに行うことができ、サイクル特性を向上させることができる全固体リチウムイオン電池用正極活物質を提供すること」及び「このような全固体リチウムイオン電池用正極活物質を有する電極及び全固体リチウムイオン電池を提供すること」であると認められる。

ウ 発明の詳細な説明に記載された発明について
(ア)上記(2)で摘記した【0011】には、課題を解決するための手段として、
「リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子からなる全固体リチウムイオン電池用正極活物質であって、前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、前記粒子は、平均圧壊強度が50MPaを超え、下記式(1)を満たす、全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
1.0μm≦D_(min) ・・・(1)
(式(1)中、D_(min)はレーザー回折式粒度分布測定装置によって測定し、得られた累積粒度分布曲線における最小粒子径(μm)である。)」
が記載されている。

(イ)上記(2)で摘記した【0015】から、発明の詳細な説明に記載された全固体リチウムイオン電池用正極活物質は、「リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子」であると認められる。

(ウ)上記(2)で摘記した【0016】、【0076】から、「リチウムイオンの挿入及び脱離を良好に行う」ためには、「(要件1)正極活物質が含むリチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含む」必要があると認められる。

(エ)上記(2)で摘記した【0077】、【0078】から、「全固体リチウムイオン二次電池の場合、孤立粒子の存在量が少ないほど、電池特性は向上する」ことが認められる。

(オ)上記(2)で摘記した【0017】、【0079】、【0080】から、「製造時や使用時に圧力がかかった場合に、リチウム金属複合酸化物粒子が割れにく」く、「繰り返し使用した場合にもリチウムイオンの導電経路が減少しない」ようにすることで、「容量が低下しにく」くし、「全固体リチウムイオン二次電池のサイクル特性を良好なものとする」ためには、「(要件2)正極活物質が含むリチウム金属複合酸化物は、平均圧壊強度が50MPaを超える」必要があると認められる。

(カ)上記(2)で摘記した【0018】、【0081】から、「孤立粒子が存在しない、又は存在量が非常に少ない」ようにするためには、「(要件3)リチウム金属複合酸化物は、粒度分布が下記式(1)を満たす。
1.0μm≦D_(min) ・・・(1)
(式(1)中、D_(min)はレーザー回折式粒度分布測定装置によって測定し、得られた累積粒度分布曲線における最小粒子径(μm)である。)」必要があると認められる。

(キ)上記(2)で摘記した【0082】から、要件1?3を満たす正極活物質であれば、「全固体リチウムイオン電池の正極に用いた場合に、容量が低下しにくく、全固体リチウムイオン二次電池のサイクル特性を良好なものとすることができる」と認められる。

(ク)上記(2)で摘記した【0275】、【0395】?【0403】から、要件1?3を満たす正極活物質を有する電極及び全固体リチウムイオン電池を作製していると認められる。

(ケ)上記(2)で摘記した【0022】の組成式、及び【0360】、【0366】、【0367】、【0369】、【0370】、【0371】、【0375】、【0376】、【0378】、【0379】、【0385】、【0386】、【0388】、【0389】、【0391】、【0392】、【0394】、【0418】?【0422】に記載の実施例1?3、比較例を参照すると、【0016】?【0018】に記載された要件1?3を満たすリチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子からなる正極活物質であれば、全固体リチウムイオン二次電池に使用した場合に、要件2、3を満たさない比較例1よりもサイクル特性が高く、良好に使用可能と評価できたことが理解できる。

(コ)そうすると、発明の詳細な説明に記載された発明は、リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子からなり、【0016】?【0018】に記載された要件1?3を満たす全固体リチウムイオン電池用正極活物質、当該全固体リチウムイオン電池用正極活物質を有する電極及び全固体リチウムイオン電池である。すなわち、発明の詳細な説明に記載された発明は、上記(ア)で示した事項を全て備える全固体リチウムイオン電池用正極活物質、当該全固体リチウムイオン電池用正極活物質を有する電極及び全固体リチウムイオン電池である。
そして、当業者であれば、当該全固体リチウムイオン電池用正極活物質、当該全固体リチウムイオン電池用正極活物質を有する電極及び全固体リチウムイオン電池によって、上記イの課題を解決できると認識できる。

エ 本件発明と発明の詳細な説明に記載された発明との対比
「全固体リチウムイオン電池用正極活物質」である本件発明1?7、「電極」の発明である本件発明8、9が含む「全固体リチウムイオン電池用正極活物質」、及び「全固体リチウムイオン電池」の発明である本件発明10?14が含む「全固体リチウムイオン電池用正極活物質」は、上記ウ(ア)で示した事項を全て含むから、本件発明1?14は、上記ウ(コ)で示した発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲に含まれると認められる。
したがって、本件発明1?14は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識し得る範囲を超えるものではない。

(4)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書(第18ページ第11?20行)にて、本件特許の明細書に記載された3つの実施例は、いずれも正極活物質を構成する粒子が、NiとCoとMnを含むものに限られており、これら3組成以外のものを含む本件発明1?7にまで拡張することは技術常識をもってしてもできない旨主張する。
しかし、上記(2)で摘記した【0016】、【0076】の記載を参照すれば、当業者であれば、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含めば、リチウムイオンの挿入及び脱離を良好に行えることが理解され、Ni、Co、Mn以外の遷移金属であっても、上記イの課題を解決できることを理解し得ると認められる。
また、申立人は、具体的な実施例においてNi、Co、Mn以外のものを含むものがないことを主張するのみであって、それ以外に、Ni、Co、Mn以外のものを含む場合において、上記イの課題を解決できないとする具体的な理由(理論的根拠や具体例)を示していない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(5)申立理由2(サポート要件)についてのまとめ
よって、本件特許の請求項1?14に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1?14に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由1、2によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-05-24 
出願番号 特願2020-6337(P2020-6337)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 式部 玲  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 土屋 知久
増山 慎也
登録日 2020-07-30 
登録番号 特許第6742547号(P6742547)
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 全固体リチウムイオン電池用正極活物質、電極及び全固体リチウムイオン電池  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 加藤 広之  
代理人 佐藤 彰雄  

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