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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1374954
異議申立番号 異議2021-700184  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-18 
確定日 2021-06-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6751278号発明「積層吸音材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6751278号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許6751278号の請求項1?7に係る特許についての出願は、令和元年6月21日に出願され、令和2年8月18日にその特許権の設定登録がされ、令和2年9月2日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年2月18日に特許異議申立人特許業務法人朝日奈特許事務所(以下「申立人」という。)が、本件特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許6751278号の請求項1?7に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、本件発明1?7を総称して、「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
少なくとも1層の第一層と、前記第一層と異なる少なくとも1層の第二層とを含む積層吸音材であって、
前記第一層は、平均流量細孔径が2.0?60μmであり、フラジール形法による通気度が30?200cc/cm^(2)・sであり、
前記第二層は、発泡樹脂、不織布及び織布からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる層であって、厚みが3?40mmであり、密度が前記第一層よりも低く、かつ51?150kg/m^(3)であり、
前記第一層は、前記第二層よりも音の入射側に配置される、積層吸音材。
【請求項2】
前記第二層が、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ガラス繊維、及び天然繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維、又は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ガラス、及び天然物からなる群から選ばれる2種以上が複合化された複合繊維、を含む、不織布又は織布からなる層である、請求項1に記載の積層吸音材。
【請求項3】
前記第一層が、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン6,6、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリスルフォン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン、及びポリプロピレンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む繊維からなる、請求項1又は2に記載の積層吸音材。
【請求項4】
前記第一層及び前記第二層がそれぞれ1層である、請求項1?3のいずれか1項に記載の積層吸音材。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載の積層吸音材であって、500?1000Hzの周波数における、垂直入射吸音率測定法による吸音率が、当該積層吸音材に含まれる第二層1層のみである場合の吸音率と比較して、0.03以上向上する、積層吸音材。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1項に記載の積層吸音材であって、1600?2500Hzの周波数における、垂直入射吸音率測定法による吸音率が、当該積層吸音材に含まれる第二層1層のみである場合の吸音率と比較して、0.03以上向上する、積層吸音材。
【請求項7】
請求項1?6のいずれか1項に記載の積層吸音材であって、5000?10000Hzの周波数における、垂直入射吸音率測定法による吸音率が、当該積層吸音材に含まれる第二層1層のみである場合の吸音率と比較して、0.03以上向上する、積層吸音材。」

第3 申立理由の概要
申立人は、主たる証拠として国際公開第2016/143857号(以下「文献1」という。)及び従たる証拠として特許第6364454号公報(以下「文献2」という。)を提出し、請求項1?7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1?7に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

第4 文献の記載及び引用発明
(1)文献1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

(ア)「[請求項1] 表皮層及び基材層を有する積層不織布であり、
前記表皮層が不織布Aを有し、この不織布Aの密度が100?500kg/m^(3)、厚みが0.5?2.5mm、及び、通気度が4?40cm^(3)/cm^(2)/sであり、
前記基材層が不織布Bを有し、この不織布Bの目付けが200?500g/m^(2)、及び、厚みが5?40mmである、積層不織布。」

(イ)「[請求項7] 請求項1?6のいずれかに記載の積層不織布を有する、吸音材。」

(ウ)「[0011] 本発明の積層不織布は、表皮層及び基材層を有し、前記表皮層が不織布Aを有し、前記不織布Aの密度が100?500kg/m^(3)であり、前記不織布Aの厚みが0.5?2.5mmであり、前記不織布Aの通気度が4?40cm^(3)/cm^(2)/sであり、前記基材層が不織布Bを有し、前記不織布Bの目付け200?500g/m^(2)であり、前記不織布Bの厚みが5?40mmである。」

(エ)「[0015] さらに、不織布Aの通気度は4?40cm^(3)/cm^(2)/sであることが必要である。ここで、通気度とは、実施例の項で述べるようにJIS L 1096-1999 8.27.1 A法(フラジール形法)に準じて測定したものをいう。4cm^(3)/cm^(2)/s以上とすることで、音が一定の流速で繊維と繊維の空隙を通過するときに。空隙の周辺の繊維材料との空気摩擦によって音を熱に効率よく変換することができる。また高周波領域の音を反射させることなく積層不織布内部に音を通すことができる。一方40cm^(3)/cm^(2)/s以下とすることで低周波領域の吸音率を上げることができる。上記の観点から、さらに10cm^(3)/cm^(2)/s以上であることが好ましく、30cm^(3)/cm^(2)/s以下であることが好ましい。
[0016] また、不織布Aは孔の分布についても空気摩擦によるエネルギー損失を増加させるために一定の範囲とすることが好ましく、細孔径分布度数で0を超え10μm以下の孔径分散度が1?20、10?20μmの孔径分散度が15?60とすることが好ましい。」

(オ)「[0021] 不織布Aの構成としては、ナノファイバー100%からなるもの、ナノファイバーとナノファイバーよりも太い繊維(すなわち、単繊維直径が5000nmを超える繊維)を混繊した構成や、ナノファイバー層とナノファイバーよりも太い繊維の層とを積層したものでもよい。より好ましくはナノファイバー層とナノファイバーよりも太い繊維の層を積層したものである。」

(カ)「[0039] 不織布Bの製造方法としては以下の方法が例示される。熱可塑性繊維を、又は必要に応じて熱可塑性バインダー繊維を熱可塑性繊維に混ぜ合わせたものを、開繊する。その後カーディング法又はエアレイド法にてウエブを得る。得られたウエブを複数枚積層し、熱処理を行うことで得る。カーディング法又はエアレイド法を用いれば、熱可塑性繊維とバインダー繊維が偏在していないウエブが得られる。熱処理は、バインダー繊維中のバインダー成分(低融点成分)が軟化又は溶融する温度より高く、バインダー成分以外の成分が溶融する温度で行うことができる。これにより、低融点成分が軟化又は溶融し、熱可塑性繊維を強固に繋ぎ止めることができ、長期形態保持性に優れる積層不織布となる。熱処理の手法は熱風乾燥機、熱風循環式熱処理機、赤外線ヒーター、熱ロールなどが用いられる。」

(キ)「[0110]



(ク)「[0111]



上記(ア)ないし(ク)から、文献1には以下の事項が記載されている。
・上記(ア)及び(イ)によれば、吸音材は、積層不織布を有するものである。
・上記(ウ)によれば、積層不織布は、表皮層及び基材層を有し、前記表皮層が不織布Aを有し、前記基材層が不織布Bを有するものである。
・上記(オ)によれば、表皮層は、少なくとも1層よりなるものである。
・上記(カ)によれば、基材層は、表皮層と異なる少なくとも2層よりなるものである。
・上記(エ)、(キ)、(ク)によれば、不織布Aは、密度が140?433kg/m^(3)、通気度がJIS L 1096-1999 8.27.1 A法(フラジール形法)に準じて測定して5?27cm^(3)/cm^(2)/sとされるものである。なお、通気度については、各種の試験条件及び試験結果が明示されている実施例4及び6の値を採用し、(エ)の値は採用しないこととした。
・上記(キ)、(ク)によれば、不織布Bは、目付が400g/m^(2)、厚みが20mmとされるものである。
・上記(キ)、(ク)によれば、不織布Aは孔の分布について、0を超え10μm以下の細孔径分布度数が7?90、10?20μmの細孔径分布度数が5?53とするものである。

したがって、上記記載事項を総合すると、文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「積層不織布を有する吸音材であって、
積層不織布は、少なくとも1層の表皮層、及び前記表皮層と異なる少なくとも2層の基材層を有し、前記表皮層が不織布Aを有し、前記基材層が不織布Bを有し、
前記不織布Aは、通気度がJIS L 1096-1999 8.27.1 A法(フラジール形法)に準じて測定して5?27cm^(3)/cm^(2)/sであり、
前記不織布Bは、目付が400g/m^(2)、厚みが20mmであり、
前記不織布Aは孔の分布について、0を超え10μm以下の細孔径分布度数が7?90、10?20μmの細孔径分布度数が5?53とする、吸音材。」

(2)文献2には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

(ケ)「【0056】
濾材のFDP(および場合により他の同種の燃料汚染物)隔離に関与する特性を表すさらなる評価手段は、濾材の細孔構造に関連するものである。一般に、多孔質濾材の特性は、平均流量細孔、モード流量細孔、最大流量細孔等のパラメータという観点で特徴付けることができる。「モード細孔径」は、材料中の細孔径の最頻値である。図4に、本発明に従い作製された例示的な濾材材料の流量細孔径の密度分布(Flow Pore Size Density Distribution)を示す。曲線の最も高いピークとして示されるのが「モード細孔径」(矢印で示す)である。「平均細孔径」は、材料中の細孔の平均径であり、「累積流量細孔径(cumulative flow pore size)」は、濾材を通過した流量の百分率の合計を細孔径の関数として測定したものであり、キャピラリー・フロー・ポロメーター装置を用いて測定される。「平均流量細孔径」は、濾材を通過した累積流量が50%となる細孔径として定義される。「空隙率」は、材料中の空隙の量として定義される。図5に流量細孔径の累積分布を示す。「平均流量細孔径」(矢印で示す)は、この曲線がy軸の50%と交差する点である。」

第5 当審の判断
(1)本件発明1について
ア.本件発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1において、「表皮層」は、その名称より、音の入射側に配置されるものと認められ、本件発明1の「第一層」に相当する。引用発明1の「基材層」は、本件発明1の「第二層」に相当する。
また、引用発明1の「基材層」が「不織布B」を有することは、本件発明1の「前記第二層は、発泡樹脂、不織布及び織布からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる層であ」ることに相当する。
引用発明1の不織布Aは「密度が140?433kg/m^(3)」であり、不織布Bは「目付が400g/m^(2)」、「厚みが20mm」である。不織布Bの密度は、下記計算式で求められる。
(目付400g/m^(2))÷(厚み20mm)
=(目付0.4kg/m^(2))÷(厚み20×10^(-3)m)
=20kg/m^(3)
不織布Bの密度20kg/m^(3)は、不織布Aの密度よりも低いから、本件発明1の第二層が「厚みが3?40mmであり、密度が前記第一層よりも低く」との条件を満たす。
引用発明1の不織布Aを有する表皮層及び不織布Bを有する基材層からなる「積層不織布」は、本件発明1の「積層吸音材」に相当する。

そうすると、本件発明1と引用発明1とは、
<一致点>
「少なくとも1層の第一層と、前記第一層と異なる少なくとも2層の第二層とを含む積層吸音材であって、
前記第二層は、発泡樹脂、不織布及び織布からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる層であって、厚みが3?40mmであり、密度が前記第一層よりも低く、
前記第一層は、前記第二層よりも音の入射側に配置される、積層吸音材。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1は、「第一層は、平均流量細孔径が2.0?60μmであり、フラジール形法による通気度が30?200cc/cm^(2)・sであ」るのに対し、引用発明1は、第一層は、平均流量細孔径が不明であり、フラジール形法による通気度が5?27cm^(3)/cm^(2)/sである点。

<相違点2>
本件発明1は、「第二層」は、「密度が51?150kg/m^(3)であ」るのに対し、引用発明1は、第二層は、密度が20kg/m^(3)である点。

イ.上記<相違点1>について検討する。
文献2における「平均流量細孔径」は、濾材を通過した累積流量が50%以上となる細孔径として定義されている。また、文献2において、「平均流量細孔径」は、流量細孔径の累積分布を示す曲線が、y軸の50%と交差する点であることも説明されている。
ここで、仮に文献2の定義を参考にして累積分布が50%以上となる細孔径を「平均流量細孔径」として定義したとする。この場合には、引用発明1の不織布Aは、0を超え10μm以下の細孔径分布度数が7?90、10?20μmの細孔径分布度数が5?53とするものであるから、その累積分布は0を超え10μm以下の範囲で7?90%、10?20μmの範囲で12?100%(7+5=12、90+53=143>100)となり、引用発明1の不織布Aは、10?20μmの孔径の範囲に、累積分布50%以上となる「平均流量細孔径」を有するものを一部含んではいるものの、「平均流量細孔径が2.0?60μm」とならない、すなわち、「0?2.0μm」、「60μm以上」のものを多分に含むこととなる。
さらに、「細孔」に関する特定について、本件発明1における「平均流量細孔径」は、「平均流量細孔径が2.0μm以上であれば、反射波を抑え、音を吸音材内部に取り入れることができ、60μm以下であれば、吸音材内部に取り入れた音波を吸音材として構成される密度差によって、第二層から第一層への反射を促進させることができ、内部での吸音効率を増加できるため好ましい」(本件特許明細書の【0023】)ものであるところ、引用発明1における「細孔径分布度数」は、「空気摩擦によるエネルギー損失を増加させるために一定の範囲とすることが好まし」(文献1の【0016】)いものであり、「細孔」に求める作用・効果が異なるから、引用発明1において、本件発明1の「平均流量細孔径」の範囲とする動機はない。

一方で、文献1の段落[0015]には、低周波領域の吸音率を上げるために、第一層の通気度を好ましくは30cm^(3)/cm^(2)/s以下としたことが記載されているところ、本件発明1のように第一層の通気度を30?200cc/cm^(2)・sの範囲とすることは、引用発明1から容易になし得たこととはいえない。
よって、本件発明1の上記<相違点1>に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。

ウ.上記<相違点2>について検討する。
第二層の密度を51?150kg/m^(3)の範囲とすることは、文献1には記載も示唆もされておらず、引用発明1から容易になし得たこととはいえない。
よって、本件発明1の上記<相違点2>に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。

エ.本件発明の、積層吸音材は、吸音特性のピークが従来の吸音材よりも低い領域にあり、2000Hz以下の領域、特に1000Hz以下の領域における吸音性能に優れるという効果は、所定の平均流量細孔径及び通気度を有する第一層と、所定の密度を有する第二層とを併せ持つことにより達成されたものであって、引用発明1及び文献2に記載された事項から予測できるものではない。

オ.したがって、本件発明1は、引用発明1及び文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。

(2)本件発明2?7について
本件発明2?7は、本件発明1にさらに技術的事項を追加したものである。よって、上記(1)に示した理由と同様の理由により、本件発明2?7は、引用発明1及び文献2に記載された事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。
以上のとおり、本件発明1?7は、引用発明1及び文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-05-28 
出願番号 特願2019-115761(P2019-115761)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 斎藤 克也  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 矢澤 周一郎
石井 孝明
登録日 2020-08-18 
登録番号 特許第6751278号(P6751278)
権利者 JNCファイバーズ株式会社 JNC株式会社
発明の名称 積層吸音材  
代理人 特許業務法人みのり特許事務所  
代理人 特許業務法人みのり特許事務所  

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