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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07C
管理番号 1374959
異議申立番号 異議2021-700156  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-12 
確定日 2021-06-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6739137号発明「フルオレン骨格を有するアルコールの結晶およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6739137号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6739137号の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、平成28年7月4日(優先権主張 平成27年7月21日 平成28年4月27日)に特許出願され、令和2年7月27日に特許権の設定登録がされ、同年8月12日にその特許公報が発行され、その後、令和3年2月12日に、特許異議申立人 枝木 幸二(以下「特許異議申立人」という。)により、請求項1?12に係る特許に対して、特許異議の申立てがされたものである。

第2 特許請求の範囲の記載
本件の特許請求の範囲の請求項1?12に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明12」という。まとめて、「本件特許発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が173?176℃である、以下式(1)


で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶。
【請求項2】
Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=7.7±0.2°、17.2±0.2°、18.3±0.2°、19.6±0.2°、20.8±0.2°および21.4±0.2°にピークを有する、下記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶。


【請求項3】
示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が190?196℃である、下記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶。

【請求項4】
Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=14.9±0.2°、17.8±0.2°、18.9±0.2°、19.7±0.2°、20.0±0.2°および21.0±0.2°にピークを有する、下記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶。


【請求項5】
示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が167?170℃である、下記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶。


【請求項6】
Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=9.8±0.2°、14.9±0.2°、17.6±0.2°、18.8±0.2°、19.4±0.2°、20.0±0.2および20.6±0.2°にピークを有する、下記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶。


【請求項7】
包接体ではない、請求項1?6いずれか一項記載の上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶。
【請求項8】
上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコール12gを、純度99重量%以上のN,N-ジメチルホルムアミド30mLに溶解させた溶液の黄色度(YI値)が10以下となる、請求項1?7いずれか一項記載の、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶。
【請求項9】
芳香族炭化水素類の含量が1重量%以下である、請求項1?8いずれか一項記載の、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶。
【請求項10】
以下(a)?(c)の工程をこの順で含む、請求項1又は2項記載の上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの製造方法。
(a)
炭素数が4以上の鎖状ケトン類存在下、下記式(2)

で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物とエチレンカーボネートとを反応させ、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールを含む反応液を得る工程。
(b)
前記反応液から、炭素数が4以上の鎖状ケトン類を含有し、かつ芳香族炭化水素類及び環状ケトン類の合計含有量が10重量%未満である晶析溶液を調製する工程。
(c)
前記晶析溶液から75?85℃で結晶を析出させ、析出した結晶を分離する工程。
【請求項11】
以下(d)?(f)の工程をこの順で含む、請求項3又は4記載の上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの製造方法。
(d)
炭素数が4以上の鎖状ケトン類存在下、下記式(2)で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物とエチレンカーボネートとを反応させ、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールを含む反応液を得る工程。


(e)
前記反応液から、炭素数が4以上の鎖状ケトン類を含有し、かつ芳香族炭化水素類及び環状ケトン類の合計含有量が10重量%未満である晶析溶液を調製する工程。
(f)
前記晶析溶液から90?100℃で結晶を析出させ、析出した結晶を分離する工程。
【請求項12】
以下(g)?(i)の工程をこの順で含む、請求項5又は6記載の上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの製造方法。
(g)
炭素数が4以上の鎖状ケトン類存在下、下記式(2)で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物とエチレンカーボネートとを反応させ、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールを含む反応液を得る工程。


(h)
前記反応液から、炭素数が4以上の鎖状ケトン類を含有し、かつ芳香族炭化水素類及び環状ケトン類の合計含有量が10重量%未満である晶析溶液を調製する工程。
(i)
前記晶析溶液から70℃以下で結晶を析出させ、析出した結晶を分離する工程。」

第3 特許異議申立理由
1 進歩性
異議申立理由1A:請求項1?12に係る発明は、本件特許優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物甲第19号証に記載された発明及び甲第20号証及び甲第21号証に記載された結晶析出溶媒等の周知技術に基いて、本件特許優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

異議申立理由1B:請求項1?12に係る発明は、本件特許優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物甲第21号証に記載された発明に基いて、本件特許優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2 サポート要件
異議申立理由2:請求項1?12に係る発明について、融解吸熱最大温度のみ又は粉末X線回折パターンのみの特定では結晶が十分に特定されておらず、本件特許発明1?9の詳細な説明に記載された結晶以外の他の結晶を含み得ることは明らかであり、また、製造条件の僅かな違いにより同一の結晶が得られなくなることは周知であり、本件特許発明10?12の製造条件を経て得られた結晶がすべて本件特許発明1?9の結晶となることは自明でないから、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3 実施可能要件
異議申立理由3:請求項1?12に係る発明について、結晶化の際のパラメータの変化によって得られる多形が変化し、晶析後の転移も考慮すると厳密な条件で製造しなければ同じ多形が得られないことは技術常識であるのに対し、実施例では、一部の条件しか記載されていないから、本件明細書には、請求項1?9に係る発明の結晶を製造するには、過度な試行錯誤が必要であることは明らかで、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

4 明確性要件
異議申立理由4:請求項1,3,5,7?12に係る発明について、本件特許発明1,3,5の「融解吸熱最大温度」が明細書に記載のない変動要因により温度が変動する程度が明らかでなく、本件特許発明10?12の「炭素数4以上の鎖状ケトン類」の炭素数の上限が示されておらず、本件特許発明12の、工程(i)において「晶析溶液から70℃以下で結晶を析出させる」ことが特定され、上限のみで下限が特定されておらず、発明の範囲が不明確となっており、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。


甲第1号証:松岡正邦,結晶多形の最新技術と応用展開-多形現象の基礎からデータベース情報まで-,株式会社シーエムシー出版,2005年8月31日,p.18?19,96?97,104?107,154,155
甲第2号証:Mino.R.Caira,Crystalline Polymorphism of Organic Compounds,Topics in Current Chemistry,Springer Verlag,1998年,Vol.198,Design of Organic Solids,E.Weber 外7名編,p.163?208
甲第3号証:Denis Mangin 外2名,Polymorphism in Processes of Crystallization in Solution:A Practical Review,Organic Process Research & Development,2009年,第13巻,第6号,p.1241?1253
甲第4号証:大嶋 寛,結晶多形におけるスクリーニングのポイントと評価・制御 結晶多形・擬多形の析出挙動と制御,PHARM STAGE,株式会社技術情報協会,2007年1月15日,第6巻,第10号,p.48?53
甲第5号証:特開2008-222708号公報
甲第6号証:特開2012-207008号公報
甲第7号証:国際公開第2013/133106号
甲第8号証:小林 啓二 外1名著,固体有機化学,第1版,株式会社化学同人,2009年11月30日,p.80?83,100?101,124?125
甲第9号証:山野 光久,医薬品のプロセス研究における結晶多形現象への取り組み,有機合成化学協会誌,社団法人有機合成化学協会,平成19年9月1日,第65巻,第9号,p.907?913
甲第10号証:社団法人日本化学会編,化学便覧 応用化学編,第6版,第I巻,丸善株式会社,平成18年2月28日 第2刷発行,p.178
甲第11号証:特開平10-245352号公報
甲第12号証:特開2004-91414号公報
甲第13号証:特開2005-132732号公報
甲第14号証:特開2006-219397号公報
甲第15号証:特開2009-234998号公報
甲第16号証:久保田 徳昭 外1名著,分離技術シリーズ5 分かり易い晶析操作,分離技術会,平成15年12月1日,p.1?3,44?45
甲第17号証:滝山 博志著,増補版 晶析の強化書?有機合成者でもわかる晶析操作と結晶品質の最適化?,第2版,S&T出版株式会社,2015年2月23日,p.64?65,70?71
甲第18号証:特願2016-183751号(甲23:特開2018-48086号公報に対応)の拒絶査定の謄本
甲第19号証:特開2009?173647号公報
甲第20号証:特開平10-45655号公報
甲第21号証:特開2009?256342号公報
甲第22号証:特開2001-206863号公報
甲第23号証:特開2018-48086号公報
甲第24号証:13700の化学商品,化学工業日報社発行,2000年1月26日,p.713「フルオレン」の項目
甲第25号証:川北 公夫 外2名,粉体の基礎物性に関する研究(第II報)-かさ密度と粒径・流動度・かさ体積混合比および流動度と粒径との相関関係-,色材協会誌,1981年,Vol.54,No.7,p.403?408
甲第26号証:中国特許出願公開第106349030号明細書
甲第27号証:PCT/JP2016/070819号(国際公開第2017/014141号)の優先権書類(特願2015-144187号)
甲第28号証:PCT/JP2016/070819号(国際公開第2017/014141号)の優先権書類(特願2016-89742号)

第4 当審の判断
異議申立理由1(進歩性)について

1 甲号証の記載事項
(1)甲第1号証
本願の優先日前頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の記載がある。
訳文にて示す。
(1a)「結晶多形は通常溶液から結晶が析出する過程で現れる。」(19頁下から8行)

(1b)「1 結晶多形の構造に関する理論的な背景

結晶多形は,化合物は同じで,構造が異なる結晶群をいう。また,同じ化合物について異なる構造の結晶が存在することを多形が存在するという。・・・ある化合物の結晶の中でも,溶媒分子が結晶の構成分子として取り込まれている,いわゆる溶媒和物結晶は,擬多形と呼ばれている。
結晶が異なれば結晶の形状,結晶の密度,溶解度,溶解速度が異なるため,結果として,嵩密度,流動性,ろ過性,沈降性,純度,医薬の効き目(BA:Bioavailability),化合物および結晶の安定性などの重要な結晶特性が異なることとなる。したがって,目的の物質について多形の存在を確認し,その特性を把握することは,結晶製品を生産する上で重要である。」(97頁7?19行)

(1c)「多くの有機化合物,無機化合物は,結晶多形・擬似多形を有し,その物理化学的特性は異なることから,結晶多形・擬似多形現象は,医薬品,食品,顔料,染料,光学材料,火薬などの広く様々な分野において研究の対象とされている。本章では,医薬品を中心に,結晶多形・擬似多形を探索するために実施する結晶多形スクリーニングについて紹介する。以降,特に結晶多形と擬似多形を区別する場合を除き,擬似多形を含め結晶多形と記載する。」(105頁3?7行)

(1d)「1 医薬品研究開発における結晶多形スクリーニングの重要性
・・・
化合物の分子構造からの予測が困難であることから,存在し得る結晶多形を見出すためには,できるだけ多くの条件で網羅的に結晶化を試みるというスクリーニング法に頼らざるを得ないのが現状である。
これらの背景から,近年,各製薬企業及び受託企業も結晶多形スクリーニングを重要視し,ロボットを用いることで多数の条件で網羅的に結晶化を行い,結晶多形をスクリーニングする方法やそれに類したシステムを考案している^(7)?15))。
・・・
2 結晶多形スクリーニングの実際
網羅的な結晶多形スクリーニング法の概念は,ここ数年で一般化し,2002年から2004年の間に約20の報告がなされている。
・・・
2.2 結晶多形のスクリーニングで用いられる結晶化方法と結晶化条件
報告された結晶多形スクリーニング法に採用されている結晶化方法は,溶液状態(スラリー状態を含む)からの結晶化法がほとんどであり,冷却法,蒸発法,貧溶媒法(沈殿法),スラリーコンバージョン法等が行われている^(16))。
」(105頁8行?107頁4行)

(1e)「結晶多形スクリーニングでは,これらを組み合わせて多数の条件で結晶化を行うことにより,結晶多形をスクリーニングする。表1に,結晶多形スクリーニング法で採用されている主な結晶化方法と結晶化条件をまとめた。」(107頁12?14行)

(1f)「結晶化条件と結晶多形の関係の理解が十分でない現状では,より多くの結晶化条件でスクリーニングすることが,存在し得る結晶多形を見出す確率を高くする手段であると考えられる。」

(1g)表1には、結晶多形スクリーニングで用いられる主な結晶化方法と結晶化条件として、冷却法、蒸発法、貧溶媒法、スラリーコンバージョン法について、それぞれ、主な結晶化条件として、結晶化溶媒の種類、結晶化温度(蒸発法では、蒸発温度、貧溶媒法では、添加温度)等が示されている。(107頁)

(1h)「多形の析出は,溶媒とその組成,晶析温度,過飽和度,不純物の存在と濃度,撹拌速度,pHなど操作パラメータ全般に支配されている。中でも,溶媒の種類と混合溶媒組成は,多形に大きく影響し,慎重な選択が必要である。溶媒の種類や混合組成比を変えると新しく多形が「発見される」ということは珍しくない。」(154頁14?17行)

(2)甲第2号証
本願の優先日前頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の記載がある。
訳文にて示す。
(2a)「準安定多形から安定多形への転移速度は遅い場合があるので、通常の実験室条件下で単一化合物のいくつかの多形に遭遇することは非常に一般的である。有機化合物は、固体状態で存在する弱くて方向性のない分子間相互作用のために、種々の多形を形成する傾向がある。・・・」(164頁1段落5?15行)

(2b)「所与の物質の多形形態間の自由エネルギーの差は一般的に数kJmol^(-1)程度であり[2]、結晶化のプロセスは多くの物理的パラメータ(例えば、溶媒の性質、冷却及び撹拌速度、温度、圧力、不純物の存在)の影響を受けるので、調製条件のわずかな変化は、必ずしも熱力学的に安定なものでない多形の結晶化にとって決定的な影響を与え得る。結晶化プロセスの結果におけるこの予測不可能な要素は、結晶状態での分子組織の必須の特異性が重要である結晶工学[3]の固体設計に深刻な影響を及ぼす。」(164頁1段落18?27行)

(2c)「結晶化のスケールアップ、乾燥、加熱、圧縮及び粉砕を含む製造プロセスは、多形転移を引き起こなす可能性があり[24]、望ましくない変化を監視するには、すべての段階で慎重な品質管理が必要となる。」(165頁下から8?5行)

(2d)「上記の一般的な検討事項は、核化の重要性と、多形の結晶化並びにそれらの相互変換における環境条件(例えば、溶媒、温度)の役割とを強調している。これらの領域は、特に結晶化における多形制御の文脈において、引き続き強い関心の対象となっている。」(167頁2段落1?5行)

(2e)「新規分子実体の多形に関する研究は、通常、物質の複数の結晶形態の発生を示すことができる実験的スクリーニングから始まる。このような試験の安価な方法はホットステージ顕微鏡法(HSM)であり、この方法は、結晶多形及び擬多形(溶媒和)並びにガラス状(アモルファス)形態の存在の予備的な指標を提供するために、長年にわたり主唱者[80]によって非常に広範かつ効果的に使用されており、これらの形態はすべて実用性を有する可能性がある。擬多形形態は、結晶化の溶媒を含む分子付加物であり、チャンネル、層又はかご型(クラスレート)構造を有する化学量論的溶媒和物及び非化学量論的包接化合物として分類されている[37]。HSMによって複数の形態の存在を検出する手段が概説されている[37,81]。これらの手順としては、例えば、物質を加熱した際の固体-固体転移の観察が挙げられる。」(177頁「3.1Review of Preparative Methods」1段落1?13行)

(2f)「多くの場合、広い極性範囲にわたる溶媒又は溶媒混合物からの化合物の再結晶化は、議論される分析方法による完全なキャラクタリゼーションに十分な量で種々の形態のいくつかを生成するのに効果的である。ほとんどの擬多形は、親有機化合物をそれぞれの溶媒から結晶化することによって調製され、その結果、後者(溶媒)は新たな結晶に組み込まれるようになる。混合溶媒系からの再結晶は、いずれか又は両方の溶媒を含む擬多形を生成する可能性がある。」(177頁「3.1Review of Preparative Methods」1段落18?25行)

(2g)「結晶化による特定の形態の調製におけるその後の再現性を確保するために、溶媒の純度、溶液の撹拌の程度、温度、過飽和度及び溶液の冷却速度の細部にまで注意を払う必要がある。」(177頁下から3行?178頁2行)

(2h)「制御された加熱による擬多形形態の脱溶媒和により、親化合物の多形又は多形の混合物が形成され、従って、このような種を単離するさらなる経路が提供される。」(178頁4?6行)

(2i)「熱分析法のうち、熱重量分析(TGA)、示差熱分析(DTA)及び示差走査熱量測定(DSC)は、多形及び擬多形の制御された加熱に伴う熱イベントを定量化するために広く使用されている[18,23]。」(182頁4段落1?4行)

(2j)「TGAでは、サンプル・・・が所定の速度で加熱され、その重量が温度の関数として計算される。この手法では、所与の有機化合物の多形を区別できないが、それらに含まれる溶媒を親(「ホスト」)化合物の融解又は分解より前に失う擬多形の場合、重量減少率を正確に測定して、擬多形の化学量論を計算するために使用できる。」(182頁1?6行)

(2k)「ホットステージ顕微鏡法(HSM)、X線回折(XRD)及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)などのサポート技術がない場合、DSCデータの解釈に誤りが発生する可能性があることを強調する価値がある。」(184頁2段落6?9行)

(2l)「400?4000cm^(-1)のスペクトル領域における固体赤外(IR)分光法は、同一化合物の種々の多形形態及び種々の擬多形を区別するために広く使用されている。」(184頁3段落1行?185頁1行)

(2m)「同一の親化合物の多形を擬多形から区別するため、又は異なる溶媒を含む擬多形を区別するためにIRスペクトルを使用することは比較的簡単である。なぜなら、擬多形結晶に通常組み込まれる溶媒分子(例えば、水、ケトン類、アルコール類)は、その溶媒独自の特徴的な吸収帯を示すからである。」(186頁3段落1?5行)

(2n)「多形及び溶媒和物のキャラクタリゼーションに利用できるスペクトル技術がレビューされており[27]、良質なスペクトルを取得するためのFT-IR分光法のメソッドが強調されている。」(187頁2段落1?3行)

(2o)「上記で概説した分析方法はその最適な効果を発揮し、組み合わせて使用すると多形性及び擬多形性についてより深い洞察につながることを強調しておく必要がある。」(192頁2段落1?3行)

(2p)「擬多形の脱溶媒和は、多形制御の手段とみなすことができる。」(200頁下から2?1行)

(2q)「しかし、熱処理又は真空乾燥はまた、ホストの純粋な多形形態を調製するために、天然及び合成両方のホスト分子を含む、より一般的な包接化合物に適用されている。」(201頁1?4行)

(3)甲第3号証
本願優先日前頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の記載がある。
訳文にて示す。
(3a)「1.序論
多形の数の増加は過去数十年にわたって記録されており、科学および産業における多形への関心の高まりが示されている。・・・純粋な又は配合された固体を製造するすべての産業界では、多形性によって潜在的に非常に興味深い用途がもたらされること、特に、製薬業界においては多形性が最も重要であることが理解されている。」(1241頁左欄「1.Introduction」1段落1?11行)

(3b)「4.2.2. 実験手法. 実験的な多形スクリーニングは、固相の一次核化速度に大きく依存する。・・・一次核化は主に3つのパラメータに依存する。
?原子核と溶媒との間の界面エナルギーγの値を主に決定する化学組成(溶媒、不純物)
-過飽和比β
-温度T
スクリーニング戦略は、これら3つのパラメータを変化させることにある。広範囲の操作パラメータをカバーするために、結晶化実験は、溶融中、溶液中又は気相中で行うことができる。」(1246頁右欄「4.2.2. Experimental Techniques.」

(3c)1247頁の表1には、多形スクリーニングのための有機溶媒の分類がプロトン性-極性、非プロトン性-極性、非プロトン性-非極性に溶媒のタイプを分けて示されている。

(3d)「4.2.2.2. 溶液からの結晶化.溶媒系の手法は、多形スクリーニングに最も一般的に使用される方法である。・・・
不純物は、特定の結晶形態の核化と成長とを阻害又は促進する可能性があるので、溶解した不純物の影響を考慮することが不可欠である。溶媒はそれ自体が結晶の不純物である。」(1247頁左欄「4.2.2.2 Crystallization from Solution.」1行?右欄11行)

(3e)「とりわけ、種々の手法を組み合わせ、操作条件(溶液からの結晶化の溶媒特性、低及び高過飽和、低温及び高温)を変化させることが重要である。」(1248頁右欄「4.2.3.Conclusion.」11?14行)

(3f)「1.多形の生成及び多形間の転移の間に発生する機構、すなわち、核化、成長及び溶解は、特異的でなく、溶液中での結晶化中に一般的に遭遇する。従って、溶媒の性質、pH、温度、濃度、撹拌、添加剤及び/又は不純物の含有量並びに結晶サイズ分布などのすべてのプロセスパラメータが、多形性の制御に影響を与える。」(1253頁右欄「6.Conclusion」14?21行)

(4)甲第4号証
本願優先日前頒布された刊行物である甲第4号証には、以下の記載がある。
(4a)「ある化合物に構造が異なる結晶が複数存在する場合,結晶多形が存在するという。また,結晶に水などの溶媒が量論的に取り込まれることによって異なる構造の結晶となることもある。この場合,擬多形が存在するという。
それぞれの多型結晶あるいは擬多形結晶は・・・名前をつけて区別される。結晶多形が異なれば・・・重要な結晶特性が異なることとなる。したがって,スクリーニングによって生産すべき多形を選択してからは,それを再現性良く確実に製造することが要求される。」(48頁左欄2?16行)

(4b)「溶媒の種類や組成を変えれば,析出する多形が異なる例は多い。溶媒が異なれば溶質との相互作用が異なり,溶質のコンフォメーションも異なるためであろう。」(50頁左欄12?14行)

(4c)「多形の析出と溶媒媒介転移は,・・・晶析の操作パラメータ全般に支配されている。・・・よく知られているように溶媒の種類や混合組成を変えると新しい多形が「発見される」ということは珍しくない。」(50頁右欄下から13?7行)

(4d)「3 擬多形の析出挙動
3.1.水和物擬多形の析出を決定する重要な因子としての水の活量
テオフィリンには,無水と1水和物の2種の結晶が知られている。・・・得られる結晶が無水物であるか1水和物であるかは,水の活量の極わずかの差で決まることもわかる。

3.2.水難溶性有機溶媒を用いた溶液からの水和物系擬多形の析出
溶媒に有機溶媒であるアセトンやアルコールを用いて,特に水を添加したわけでもないのに,水和物結晶が得られる場合がある。これは,有機溶媒中に溶解している水が作用した結果である。・・・ヘキサンに含まれる極微量の水が,エルゴステロールなどの擬多形析出に影響を及ぼした例である。」(51頁左欄10行?52頁左欄6行)

(5)甲第5号証
本願優先日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、以下の記載がある。
(5a)「【請求項1】
酸触媒の存在下、フルオレノンと2-フェノキシエタノールとを反応させることにより9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの粗精製物を得、次いで、該粗精製物を芳香族炭化水素溶媒、ケトン溶媒およびエステル溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1つの溶媒に溶解させた後に50℃以上で9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの析出を開始させる9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶多形体の製造方法。」

(5b)「【技術分野】
【0001】
本発明は、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの新規結晶多形体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンなどのフルオレン誘導体は、耐熱性、透明性に優れ、高屈折率を備えたポリマー(例えばエポキシ樹脂、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等)を製造するための原料として有望であり、光学レンズ、フィルム、プラスチック光ファイバー、光ディスク基盤、耐熱性樹脂やエンジニヤリングプラスチックなどの素材原料として期待されている。
【0003】
これらの用途において熱的、光学的に優れたポリマーを作るためには、高い分子量、狭い分子量分布および未反応モノマーやオリゴマー含有率が低いことが重要であり、原料モノマーである9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンが高純度で反応性に優れていることが望まれる。このため、原料モノマーの純度や反応性に大きく影響を与える結晶形や融点を制御することはより優れたポリマーを得るための重要な因子である。またポリマーの製造において優れた性能を維持し、より安定した製造を行うためには一定の品質を維持できる特定の結晶形を作り分けることが必要であった。」

(5c)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、一定の品質を維持し、ポリマー原料として優れた9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの新規な結晶多形体を提供することであり、また、その結晶多形体の製造方法を提供することにある。」

(5d)「【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、一定の品質を維持し、ポリマー原料として優れた9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの新規な結晶多形体およびその製造方法を提供することができる。また、本発明により得られる多形体Bは、公知の多形体Aよりも嵩密度が高いため、容積効率等の点で工業的な取扱いに有利である。」

(5e)「【実施例2】
【0036】
多形体Bの製造
実施例1で得られた9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの粗精製物80gとトルエン640gの懸濁液を90℃に加熱し、同温度で1時間攪拌して均一な溶液とした。この溶液を80℃まで冷却し、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(多形体B)0.4gを結晶種として添加し、同温度で2時間攪拌して結晶を析出させた。この液を毎分0.2℃の冷却速度で20℃まで冷却し、同温度で1時間攪拌することにより、さらに結晶を析出させた。析出した結晶を濾過により取り出し、該結晶を減圧乾燥させることにより、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの白色結晶73.0g(収率91.3%、純度99.2%)を得た。得られた結晶の融点(示差走査熱分析による融解吸熱最大)は164.0℃、嵩密度は0.75g/cm^(3)であった。」

(5f)「【実施例5】
【0039】
多形体Bの製造
実施例4で得た9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの粗精製物80gとトルエン640gの懸濁液を90℃に加熱し、同温度で1時間攪拌して均一な溶液とした。この溶液を徐々に冷却したところ、65℃で結晶が析出し始め、そのまま30℃まで冷却し、同温度で1時間保温攪拌した。析出した結晶を濾過により取り出し、該結晶を減圧乾燥させることにより、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの白色結晶70.4g(収率88.0%、純度98.2%)を得た。得られた結晶の融点(示差走査熱分析による融解吸熱最大)は163.5℃、嵩密度は0.70g/cm^(3)であった。
【実施例6】
【0040】
多形体Bの製造
実施例3で得た9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの粗精製物60gとキシレン300gの懸濁液を100℃に加熱し、同温度で1時間攪拌して均一な溶液とした。この液を徐々に冷却したところ、70℃で結晶が析出し始め、そのまま10℃まで冷却し、同温で1時間保温攪拌した。析出した結晶を濾過により取り出し、該結晶を減圧乾燥させることにより、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの白色結晶53.9g(収率89.9%、純度99.5%)を得た。得られた結晶の融点(示差走査熱分析による融解吸熱最大)は163.3℃、嵩密度は0.75g/cm^(3)であった。
【0041】
(比較例1)
多形体Aの製造
実施例4に準じた方法により得られた9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの粗精製物120gとメタノール600gの懸濁液を60℃で1時間攪拌した。この間液は懸濁状態のままであった。この懸濁液を10℃まで冷却し、ろ過した後、得られた結晶を減圧乾燥することにより9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの白色結晶107.0g(収率89.2%、純度98.7%)を得た。得られた結晶の融点(示差走査熱分析による融解吸熱最大)は118.8℃、嵩密度は0.26g/cm^(3)であった。
【実施例7】
【0042】
多形体Bの製造
比較例1で調製された9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(多形体A)80gとトルエン400gの懸濁液を95℃に加熱して均一な溶液とし、この溶液を80℃まで冷却し、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(多形体B)0.4gを結晶種として添加し、同温度で1時間攪拌して結晶を析出させた。この液を10℃まで徐冷し、同温度で1時間保温攪拌することにより、さらに結晶を析出させた。析出した結晶を濾過により取り出し、該結晶を減圧乾燥させることにより、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの白色結晶73.0g(収率91.2%、純度99.7%)を得た。得られた結晶の融点(示差走査熱分析による融解吸熱最大)は164.0℃、嵩密度は0.78g/cm^(3)であった。また、Na含有量25ppb、Fe含有量32ppb、加熱溶解色(220℃/3hr)がAPHA10であった。
【実施例8】
【0043】
多形体Bの製造
実施例5で調製された9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶(多形体B)50gとトルエン250gの懸濁液を90℃に加熱し、同温度で1時間攪拌して均一な溶液とした。この溶液を徐々に冷却したところ、72℃で結晶が析出し始め、そのまま10℃まで冷却し、同温度で1時間保温攪拌した。析出した結晶を濾過により取り出し、該結晶を減圧乾燥させることにより、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの白色結晶45.5g(収率90.8%、純度98.9%)を得た。得られた結晶の融点(示差走査熱分析による融解吸熱最大)は163.7℃、嵩密度は0.77g/cm^(3)であった。また、Na含有量107ppb、Fe含有量79ppb、加熱溶解色(220℃/3hr)がAPHA30であった。」

(6)甲第6号証
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲第6号証には、以下の記載がある。
(6a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、取扱性、作業性、保存安定性などに優れた6,6-(9-フルオレニリデン)-ジ(2-ナフトール)の新規な結晶多形体及びその製造方法に関する。」

(6b)「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、取扱性や作業性が向上した6,6-(9-フルオレニリデン)-ジ(2-ナフトール)の新規な結晶多形体及びその製造方法を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、保存安定性に優れた6,6-(9-フルオレニリデン)-ジ(2-ナフトール)の新規な結晶多形体及びその製造方法を提供することにある。
【0007】
本発明のさらに他の目的は、高温で保存しても、純度の低下及び着色を抑制できる6,6-(9-フルオレニリデン)-ジ(2-ナフトール)の新規な結晶多形体及びその製造方法を提供することにある。」

(6c)「【発明の効果】
【0012】
本発明の6,6-(9-フルオレニリデン)-ジ(2-ナフトール)の結晶多形体は、嵩密度が高く、滑り性にも優れているため、取扱性や作業性を向上できる。また、この結晶多形体は、保存安定性(例えば、高温での保存安定性)にも優れている。特に、高温で長期間に亘り保存しても、純度の低下及び着色を有効に抑制できる。」

(7)甲第7号証
本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的技術情報である甲第7号証には、以下の記載がある。
(7a)「[0001]本発明は、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの製造方法、その結晶体、及びその結晶体の製造方法に関する」

(7b)「発明が解決しようとする課題
[0005]従来の低融点の9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶は嵩密度が低いため、工業的な製造や取り扱いにおいて問題があった。つまり、同じ重量の9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶であっても、嵩密度が低ければ取り扱いの容量が増加するので、輸送時にはより大容量の容器か又はより多数の容器が必要であり、場合によってはそれらを移送できる装置や器具が必要となる。同じく反応原料として使用する場合には、反応容器に投入する際により多くのエネルギーが必要となるだけでなく、反応容器自体も、より大型化させなければならない場合もある。
他方、高融点の9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶の場合には、嵩密度が高いために工業的な製造上、及び取り扱い上において問題を生じない。
また硫酸を使用する方法によればスルホン酸エステルの生成と共に、後工程での加水分解による機器の腐食を防止することが必要であった。
[0006] しかし、高融点結晶から樹脂を工業的に製造する等のように、多量の9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを用いてさらに反応を行う等の加工する際には、溶融させるためにより高い温度まで加熱することが必要になるし、あるいは溶剤を用いて溶解させる場合においても、溶解により長時間を要するか、あるいは溶媒量をより多く必要とする。
これらの問題を解消するために、非晶質の9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを採用することも検討し得るが、一旦、晶析により得られた結晶体を、わざわざ加熱して溶融させる必要があるので、結局9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンをさらなる反応等に使用する際、より多くの手間とエネルギーを要することになる。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、嵩密度が高くかつ融点が低い9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶体及びその製造方法を提供することにある。」

(7c)「[0009]また、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの静嵩密度を0.3?0.6g/cm^(3)とすることにより、従来の低融点の結晶と比較して静嵩密度が数倍にもなるので、輸送の効率がよくなり、反応容器に投入する際の取り扱いもより容易となる。しかも融点が低いことによって、低温にて溶融するので、加工時に必要なエネルギー量を低下させることができる。あるいは、結晶を溶剤に溶解させる際に、より早く又は/及びより低温下にて溶剤に溶解させることができるので、このような結晶を使用した場合の製造コストを低下させることができる。」

(8)甲第8号証
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲第8号証には、以下の記載がある。
(8a)「そのほか,結晶を加熱することにより相転移が起こって多形が生じることもある.アニシルキノン・・・は,このような例である.また,加熱により包接結晶のゲストを脱離させ,ホスト化合物の多形を得る方法もある・・・.
・・・
多形現象を再現させるためには,ときに,非常に厳密な実験条件を設定する必要がある.」(80頁8?14行)

(8b)「同一の化合物が,溶媒和した結晶と溶媒分子を含まない結晶を与える場合がある.・・・このような例は多形の一般的な定義とは異なるが,多形に準ずるものとして扱うことが多く擬多形・・・と呼ばれている.包接結晶など二成分系の結晶において,ゲスト化合物が異なるために結晶構造の異なる複数の結晶を与える場合も擬多形である.有機結晶の15%が再結晶溶媒を含むといわれており,擬多形はかなり一般的な現象といえる.」(81頁下から1行?82頁6行)

(8c)「6.5 包接結晶
剛直でかさ高い部分構造をもつ分子が周期的に並んでも,隙間だらけの配列となって密にパッキングができない.そこで,これらの隙間に,溶媒分子など比較的小さな分子を取り込んで隙間を埋め,より安定な結晶として析出する.このように,他の分子を取り込んで結晶した複数成分の結晶を包接結晶・・・と呼ぶ.結晶格子に空孔を与える化合物をホスト・・・,取り込まれる化合物をゲスト・・・とよぶ.
・・・
またゲストが溶媒分子の場合には溶媒和結晶・・・や擬多形・・・などと呼ばれることもある.現象は同じで,状況によって,より適切なほうを用いればよい.」(101頁8?23行)

(8d)7.5 多形の転移の項目で、図7.8において、多形の転移における二つのタイプが図示され、表7.3において、多形のエナチオトロピーとモノトロピーの比較についての説明がされている。(124?125頁参照)

(9)甲第9号証
本願の優先日前頒布された刊行物である甲第9号証には、以下の記載がある。
(9a)「なお,溶媒和結晶や水和物結晶等のいわゆる擬多形についても,プロセス化学の観点から重要であり,本稿では広い意味での結晶多形現象として考察する.」(907頁左欄19?22行)

(9b)「最近では,積極的に結晶多形を見つけ出すことを目的とした結晶多形スクリーニングが盛んに行われるようになってきた。・・・このように,結晶多形のスクリーニングが盛んに行われるようになってきた背景の1つには,新薬開発のスピードアップに伴い,開発の途上で新しい結晶多形が出現するという現象がみられることがあり,研究の初期段階で,できるだけすべての結晶多形を把握しておこうという意図がある。」(907頁右欄9?20行)

(10)甲第10号証
本願の優先日前頒布された刊行物である甲第10号証には、以下の記載がある。
(10a)「4.3.3 晶析
a.晶析とその役割
晶析は,目的の特性を有する結晶を,再現性よく,確実に製造する技術である.晶析は,化学物質の製造全般に広く用いられており,分離精製のみならず,機能性固体(結晶)の生産という観点からも重要である.たとえば,糖・アミノ酸などの食品の製造,記録媒体としてのα-鉄(α-Fe)・マグへマイト(γ-Fe_(2)O_(3))などの電子材料の製造,ナノ粒子の製造,さらにその90%が結晶である医薬品(原薬)とその中間体の製造などであり,いずれも結晶特性の制御が高度に要求されている.
1998年の調査(化学工学会晶析技術特別研究会)によれば,わが国で行われている晶析は,80%が溶液からの晶析である.また,75%が回分法で行われている.次に融液からの晶析が多く,大規模の精製晶析についても優れた技術,たとえばKCP法(呉羽テクノエンジ)が開発されている.
b.結晶特性
おもな結晶特性は,晶癖・粒径・粒径分布・純度・多形・結晶化度である.これらの特性が異なれば,溶解度・溶解速度・安定性・比容・操作性(ろ過性(注:ろ過の「ろ」は原文ではさんずいに戸であるが、ひらがなで記す。以下も同じ。)・粉じん爆発性・打錠性・計量性)などが異なり,医薬品ではとくにバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が異なることから,結晶特性の制御は非常に重要である.
(i) 晶癖 ・・・
(ii) 粒径・粒径分布・・・
(iii) 純度 結晶への不純物の取込みについては,二つのメカニズムがある.母液の結晶への取込み,あるいは結晶表面への付着によるものと,結晶構造への組込みによるものである.前者は,結晶成長の粗さ,凝集などによって引き起こされるものであり,晶析速度の調整,洗浄などで解決する可能性がある.後者は,溶媒の変更,多形の選択など根本的な変更が必要である.結晶溶媒(結晶構造に組み込まれた溶媒)も不純物と見なすことができる.
(iv) 多形 化合物は同じで,結晶構造が異なるものである.結晶溶媒の有無で溶媒和結晶は擬多形とよばれている.多形結晶は,外観のみでは判断できない.粉末あるいは単結晶X線回折・赤外吸収(IR)・示差走査熱量測定(DSC)などで同定する必要がある.多形は,溶媒の種類・温度・冷却速度・過飽和度・かくはん速度・不純物などに影響を受ける.溶媒によって異なる多形が析出する場合が多く,重要な溶媒については混合溶媒も含めて,どのような結晶が析出するか,点検することが必要である.溶媒を選択することによって,目的の結晶多形が唯一選択的に得られる場合と,いったん析出した結晶多形(準安定結晶)が経時的に他の多形(安定結晶)に転移する,いわゆる溶媒媒介転移が起こる場合がある.溶媒媒介転移が起こるのは,準安定結晶と安定結晶の溶解度が異なるためである.どの多形が析出するかはオストワルドの段階則(Ostwald's step rule;状態の移行は,エネルギー的にもっとも近い状態を経由して順次に進行するという法則)に従うとされており,通常,溶解度が大きいほうの結晶が先に析出する.しかし,オストワルドの段階則に従わない場合もあり,多形を制御するためには,平衡論(オストワルドの段階則)のみではなく,速度論的な検討を行う必要がある.

c.晶析操作
晶析操作としては,冷却晶析,濃縮晶析,反応晶析,貧溶媒晶析が多い.・・・」(178頁左欄5行?右欄下から7行)

(11)甲第11号証
本願の優先日前頒布された刊行物である甲第11号証には、以下の記載がある。
(11a)「【請求項1】炭素数1?3の低級脂肪族アルコール及び炭素数3?7の低級脂肪族ケトンを含む混合溶媒を用いて晶析を行うことを特徴とする9,9-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)フルオレンの精製方法。」

(11b)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、フルオレン誘導品の精製方法に関する。より詳しくは、低級脂肪族アルコール及び低級脂肪族ケトンを含む混合溶媒を用い、9,9-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン(以下「BCF」と略す)の晶析等を行うことによって精製する方法に関する。」

(11c)「【0005】しかしながら、上記方法によれば、BCFと溶媒(特にアルコール類)との間で包接化合物を形成し、その結果としてBCF結晶中に溶媒が約1:1の割合で内包されることとなる。しかも、内包された溶媒は、減圧乾燥によって除去しようとしても、高温で、かつ、多大な時間を要するため、上記方法を工業的規模で適用することは困難である。溶媒が内包されたBCFは、当然ながらエポキシ樹脂、ポリエステル等の製造原料その他の用途において工業的に使用するには問題がある。
【0006】一方、トルエン、n-ヘキサン等を晶析溶媒として用いると、これら溶媒は結晶中に内包されないが、粗結晶に対して10?20倍重量もの大量の溶媒を必要とし、また晶析収率が低い等の問題点がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明は、特に、溶媒が内包されていない結晶を高収率で得られるビスクレゾール類の精製方法を提供することを主な目的とする。」

(11d)「【0015】精製では、精製すべきBCF(BCFを含む混合液等)を、炭素数1?3の低級脂肪族アルコール及び炭素数3?7の低級脂肪族ケトンを含む混合溶媒に加え、この溶液からBCFを晶析させる。上記BCFとしてBCF結晶(粗結晶)を用いる場合も、これを上記混合溶媒に溶解させ、同様にこの溶液からBCFの再結晶を行えば良い。
【0016】上記低級脂肪族アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等が挙げられる。上記低級脂肪族ケトンとしては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、エチルプロピルケトン、ジ-n-プロピルケトン、ジイソプロピルケトン等が挙げられる。これら低級脂肪族アルコール及び低級脂肪族ケトンは、それぞれ1種又は2種以上で用いることができる。これらの中でも、特にメタノール及びアセトンの組合せを含むように用いることが好ましい。」

(11e)「【0024】
【発明の効果】本発明の精製方法によれば、結晶中に溶媒が内包されていないBCFを比較的高収率で得ることができる。また、使用する溶媒量も少なくて済み、操作上、経済上等の点でも有利である。
【0025】このような本発明の精製方法は、工業的規模で高品質のBCFを生産する上で非常に有用である。
【0026】
【実施例】以下、実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより一層明確にする。
【0027】なお、本実施例において、純度はHPLCで分析し面積百分率で表示した。溶媒の含有率はTG(熱分析)により分析した。収率は[BCFのモル数/原料フルオレノンのモル数]により計算した。また、内包する溶媒はNMR分析を行った。
【0028】実施例1
攪拌機、冷却管及びガス吹き込み管を備えた内容積1000mlの容器に純度99.5重量%のフルオレノン90g(0.5mol)とo-クレゾール432g(4.0mol)を仕込み、β-メルカプトプロピオン酸3mlを加えて、反応温度を50℃に保ち、塩酸ガスを200ml/分の割合で吹き込みながら、4時間かけて反応を完結させ、反応液を得た。
【0029】得られた反応液に、メタノール:アセトン=1:1(重量比)の混合溶媒を360gを加え、70℃まで加熱し、攪拌しながらその温度を15分間保持した。その後、攪拌しながら10℃まで冷却した。析出した結晶を濾過により分離し、乾燥させた。得られた結晶の純度は96.9%であり、溶媒の含有率は0%であった。収率は91%であった。
【0030】実施例2
実施例1と同様にして得られた反応液に、メタノール:アセトン=2:1(重量比)に混合溶媒を450gを加え、65℃まで加熱し、攪拌しながらその温度を15分間保持した。その後、攪拌しながら10℃まで冷却した。析出した結晶を濾過により分離し、乾燥させた。得られた結晶の純度は97.2%であり、溶媒の含有率は0%であった。収率は90%であった。
【0031】実施例3
実施例1と同様にして得られた結晶を再結晶することにより精製した。
【0032】実施例1で得られた結晶に、メタノール:アセトン=1:1(重量比)に混合溶媒を450gを加え、70℃まで加熱して攪拌しながらその温度を15分間保持した。その後、攪拌しながら10℃まで冷却した。析出した結晶を濾過により分離し、乾燥させた。得られた結晶の純度は99.2%であり、溶媒の含有率は0%であった。収率は81%であった。
【0033】実施例4
実施例1で得られた結晶を洗浄することにより精製した。
【0034】実施例1で得られた結晶に、メタノール:アセトン=1:1(重量比)に混合溶媒を450gを加え、室温で15分攪拌した後、濾過により分離し、乾燥させた。得られた結晶の純度は98.3%であり、溶媒の含有率は0%であった。収率は86%であった。
【0035】実施例5
エタノール:アセトン=1:1(重量比)である混合溶媒を用いたほかは実施例1と同様にして精製を行った。得られた結晶の純度は97.1%であり、溶媒の含有率は0%であった。収率は89%であった。
【0036】実施例6
プロパノール:アセトン=1:1(重量比)である混合溶媒を用いたほかは実施例1と同様にして精製を行った。得られた結晶の純度は97.2%であり、溶媒の含有率は0%であった。収率は85%であった。
【0037】実施例7
メタノール:メチルエチルケトン=1:1(重量比)である混合溶媒を用いたほかは実施例1と同様にして精製を行った。得られた結晶の純度は97.4%であり、溶媒の含有率は0%であった。収率は85%であった。
【0038】実施例8
メタノール:エタノール:アセトン=1:1:2(重量比)である混合溶媒を用いたほかは実施例1と同様にして精製を行った。得られた結晶の純度は97.3%であり、溶媒の含有率は0%であった。収率は82%であった。
【0039】比較例1
実施例1で得られた反応液に、メタノール900gを加え、64℃まで加熱し、攪拌しながらその温度を15分間保持した。その後、攪拌しながら10℃まで冷却した。析出した結晶を濾過により分離し、乾燥させた。得られた結晶の純度は96.5%であり、溶媒の含有率は9.8%であった。NMR分析より含有されている溶媒はメタノールのみであった。収率は82%であった。
【0040】比較例2
実施例1で得られた反応液に、アセトン360gを加え、65℃まで加熱し、攪拌しながらその温度を15分間保持した。その後、攪拌しながら10℃まで冷却した。析出した結晶を濾過により分離し、乾燥させた。得られた結晶の純度は94.6%であり、溶媒の含有率は22%であった。NMR分析より含有されている溶媒はメタノールのみであった。収率は88%であった。
【0041】比較例3
実施例1で得られた反応液に、アセトン:アセトニトリル=6:1の混合溶媒1260gを加え、64℃まで加熱し、攪拌しながらその温度を15分間保持した。その後、攪拌しながら10℃まで冷却した。析出した結晶を濾過により分離し、乾燥させた。得られた結晶の純度は97.5%であり、溶媒の含有率は19%であった。NMR分析より含有されている溶媒はアセトンのみであった。収率は84%であった。」

(12)甲第12号証
本願の優先日前頒布された刊行物である甲第12号証には、以下の記載がある。
(12a)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、樹脂原料として有用なビスフェノールフルオレン類の回収方法に関し、さらに詳しくは、低分子ゲスト化合物との錯体形成を利用して回収されたビスフェノールフルオレン類ホストゲスト錯体からゲスト化合物を除去して、ビスフェノールフルオレン類を精製および回収する方法に関する。」

(12b)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の方法では、最終的にビスフェノールフルオレン類を回収するには、固体であるホストゲスト錯体を、熱分解温度まで加熱し、蒸気として発生するゲスト化合物を除去する必要がある。このため、工業的に大量の処理を行う場合には、熱伝導性の悪い固体の加熱を行わねばならないため、処理に長時間を要して回収の効率が低下する、固体の撹拌が可能な特殊な装置を必要とする、局部過熱により製品の着色や純度低下などの品質劣化が発生する、といった問題がある。
従って本発明の目的は、ビスフェノールフルオレン類ホストゲスト錯体からのゲスト化合物の除去を、簡単な手段で行い、なおかつ良好な品質のビスフェノールフルオレン類を回収する方法を提供することにある。」

(13)甲第13号証
本願の優先日前頒布された刊行物である甲第13号証には、以下の記載がある。
(13a)「【技術分野】
【0001】
本発明はフルオレン骨格を有する新規アリールアミン誘導体をホスト化合物とする芳香族炭化水素との包接化合物、その製造方法及びフルオレン骨格を有する新規アリールアミン誘導体の分離精製方法に関するものである。」

(13b)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、有機EL素子等の正孔輸送材料に適した新規なアリールアミン誘導体をホスト化合物とする芳香族炭化水素との包接化合物、その製造方法及び効率的にアリールアミン誘導体を分離精製する方法を提供する事である。」

(13c)「【0014】
一般式(2)で表されるアリールアミン誘導体は、ジ(ハロアリール)フルオレンと、アミン化合物とを塩基存在下、パラジウム触媒により反応させることにより合成することができる。ここで得られたアリールアミン誘導体を含有する粗生成物を芳香族炭化水素溶媒で処理する事により、アリールアミン誘導体をホスト化合物とし、芳香族炭化水素の一種以上をゲスト化合物として作用させた包接化合物を調製し、その結果アリールアミン誘導体を精製する事ができる。ここでいう処理とは目的のアリールアミン誘導体をできるだけ溶解させずに副生成物だけを溶解し除くこと、また溶解したアリールアミン誘導体に関しても高選択的に再結晶化させることをさす。この処理に際して目的とするアリールアミン誘導体の溶解度が低く、かつ副生成物を容易に溶解する溶媒を選択することが重要である。」

(13d)「【0038】
実施例1 (包接化合物の合成)
合成例2で得られた9,9-ビス[4-(ジフェニルアミノ)-1,1’-ビフェニル]フルオレンの粗結晶1gにトルエン5gを添加して100℃に加熱し、20分攪拌した。その後、室温で一晩放置し得られた結晶をろ過後、真空下、70℃で5時間乾燥し、0.88gのプリズム晶が得られた。結晶をXRD測定した結果、結晶に特有のシャープなスペクトルが観察された。また、元素分析した結果、9,9-ビス[4-(ジフェニルアミノ)-1,1’-ビフェニル]フルオレンとトルエンが1対1のモル比で構成された包接化合物であることが確認された。この結晶はHPLCによる分析では面積比99.5%であった。元素分析結果を表1に、XRD測定結果を図1に示す。
・・・
【0040】
実施例2
9,9-ビス[4-(ジフェニルアミノ)-1,1’-ビフェニル]フルオレンを9,9-ビス[4-(N-ビフェニル-フェニルアミノ)-1,1’-ビフェニル]フルオレンに変更した以外は実施例1と同様な操作を行い、0.80gの白色固体が得られた。
結晶をXRD測定した結果、結晶に特有のシャープなスペクトルが観察された。また、元素分析した結果、9,9-ビス[4-(N-ビフェニル-フェニルアミノ)-1,1’-ビフェニル]フルオレンとトルエンが1対1のモル比で構成された包接化合物であることが確認された。この結晶はHPLCによる分析では面積比99.6%であった。元素分析結果を表2に、XRD測定結果を図2に示す。」

(14)甲第14号証
本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的技術情報である甲第14号証には、以下の記載がある。
(14a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、高機能ポリイミドの原料として有用な、高純度の9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物の製造方法に関する。」

(14b)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、着色度が低く、高純度な9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物を効率良く製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、コバルト、マンガン及びアルカリ金属等で構成された触媒系の存在下、ビスジアルキルフェニルフルオレンを空気酸化させて得られた反応生成物に、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレンと水素結合して包接結晶を形成する極性溶媒を含む晶析溶媒を添加し、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレンのみを選択的に溶解させ、晶析溶媒に溶解しない触媒や不純物等の残渣を除去した後、結晶化させ、得られた9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレンの熱処理を行うことで着色のない高純度の9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物が得られることを見出し、本発明を完成した。」

(14c)「【0025】
[実施例1]
撹拌器、冷却器、及び温度計を備えた500ミリリットルのガラス製反応器に、純度99質量%の9,9-ビス(3,4-ジメチルフェニル)フルオレン40gと、酢酸コバルト・四水和物2.1gと、酢酸マンガン・四水和物2.2gと、臭化ナトリウム1.1gと、プロピオン酸350ミリリットルとを仕込み、この混合物に空気を0.3ミリリットル/min.で吹き込みながら、還流下、約2日間撹拌することにより、反応を行った。得られた反応混合液は、減圧蒸留により反応溶媒のプロピオン酸を留去した後、得られた残渣にトルエン-アセトンの混合溶媒(混合比率2:1(質量基準))300ミリリットルを加えて加熱・溶解し、不溶分を熱時ろ過により除去した後、ろ液を10℃まで冷却して、再結晶させ、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレンの包接結晶を得た。得られた結晶は、170℃で減圧下、6時間加熱処理することにより、目的生成物である白色の9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物35gを得た。得られた9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物の純度は99.3%であった。
【0026】
[実施例2]
トルエン-アセトンの混合溶媒(混合比率2:1(質量基準))300ミリリットルに代えてトルエン-アセトニトリルの混合溶媒(混合比率2:1(質量基準))300ミリリットルを用いた以外は実施例1と同様にして、目的生成物である白色の9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物32gを得た。得られた9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物の純度は99.1%であった。」

(15)甲第15号証
本願優先日前頒布された刊行物である甲第15号証には、以下の記載がある。
(15a)「【請求項2】
ホスト化合物が、下記式(1)
【化1】

(式中、Z^(1)及びZ^(2)は同一又は異なって芳香族炭化水素環を示す。R^(1a)及びR^(1b)は同一又は異なってアルキレン基を示し、R^(2a)及びR^(2b)は同一又は異なって、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、R^(3a)及びR^(3b)は同一又は異なって炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示す。m及びnは同一又は異なって0又は1以上の整数であり、p及びqは同一又は異なって1以上の整数である。h1及びh2は同一又は異なって0?4の整数であり、j1及びj2は同一又は異なって0?4の整数である)で表される化合物である請求項1記載の包接化合物。」

(15b)「【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオレン骨格を含有する新規な包接化合物およびその製造方法に関する。詳細には、本発明は、除放性材料などの各種用途に有用な新規包接化合物及びその製造方法に関する。」

(15c)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、フルオレン骨格を含有する化合物を用いた新規な包接化合物(フルオレン含有包接化合物)であって、新たな用途への展開が期待できる新規な包接化合物及びその製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、除放性材料、温度感応型材料、気体蓄積材料、分離材料などの用途に適用可能な有用な新規な包接化合物及びその製造方法を提供することにある。」

(15d)「【0014】
一方、ホスト化合物と包接化合物を形成するゲスト化合物は、アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類、アミド類、ニトリル類又は炭化水素類(例えば、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類など)であってもよい。例えば、前記ゲスト化合物は、芳香脂肪族飽和アルコール、脂肪族不飽和アルコール、脂環族飽和アルコール又は少なくとも第三級炭化水素基を有するエーテルであってもよい。本発明の包接化合物には、前記ホスト化合物が、前記式(1)において、Z^(1)及びZ^(2)がベンゼン環であり、R^(2a)及びR^(2b)が炭化水素基であり、m及びnが0であり、p及びqが1であり、h1及びh2が0又は1である化合物であり、ゲスト化合物が、C_(7-15)芳香脂肪族アルコール、C_(3-20)脂肪族不飽和アルコール又は多環式C_(8-20)脂環族飽和アルコールである包接化合物も含まれる。前記包接化合物は、前記ホスト化合物1モルに対し、前記ゲスト化合物を1?2モル程度の割合で含んでいてもよい。前記包接化合物は、除放性材料、温度感応型材料、気体蓄積材料又は分離材料として用いてもよい。
【0015】
本発明には、9,9-ビスアリールフルオレン骨格を少なくとも含有するフルオレン含有化合物であるホスト化合物とゲスト化合物とを混合して前記包接化合物を製造する方法も含まれる。前記製造方法において、溶媒の存在下、加熱下で前記ホスト化合物と前記ゲスト化合物とを混合してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の包接化合物は、ホスト化合物として、特定のフルオレン骨格を含有するフルオレン含有化合物を用いているため、前記ホスト化合物が、ゲスト化合物の種類に応じて様々な包接様式に対応するためか、種々のゲスト化合物と包接化合物を形成することができる。このような新規な包接化合物は、除放性材料、温度感応型材料、気体蓄積材料、分離材料などの種々の用途に利用できる。」

(15e)「【0028】
具体的には、9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類は、R2a及びR2bが炭化水素基であり、h1及びh2が0又は1である化合物が好適に使用される。9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類としては、例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン;9,9-ビス(4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-エチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3-ヒドロキシ-6-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(2-ヒドロキシ-4-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(アルキルヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9-ビス(C_(1-6)アルキルヒドロキシフェニル)フルオレンなど];9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-2,6-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ジアルキルヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9-ビス(ジC_(1-6)アルキルヒドロキシフェニル)フルオレンなど];9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(シクロアルキルヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9-ビス(C5-10シクロアルキルヒドロキシフェニル)フルオレンなど];9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(アリールヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9-ビス(C_(6-10)アリールヒドロキシフェニル)フルオレンなど]などが挙げられる。
・・・
【0031】
なお、前記9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類には、例えば、前記フルオレン類[すなわち、9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類、9,9-ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類、9,9-ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン類]において、m及びnが1以上である化合物(又は前記フルオレン類のアルキレンオキシド付加体)、例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレン(ビスフェノキシエタノールフルオレン,BPEF)などの9,9-ビス[4-(ヒドロキシC_(2-3)アルコキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシエトキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(ビスクレゾールエタノールフルオレン,BCEF)などの9,9-ビス(アルキルヒドロキシC_(2-3)アルコキシフェニル)フルオレンなども含まれる。」

(15f)「【0043】
(ゲスト化合物)
ゲスト化合物は、前記ホスト化合物と包接可能である限り、特に制限されない。前記ゲスト化合物には、例えば、アルコール類、エーテル類、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジエチルケトンなど)、エステル類(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミルなど)、アミド類(例えば、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)、ニトリル類(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなど)、セロソルブ類(例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、セロソルブアセテート類(例えば、エチルセロソルブアセテートなど)、カルビトール類(例えば、メチルカルビトール、エチルカルビトールなど)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシドなど)、炭化水素類[例えば、ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素類、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、ナフタレンなどの無置換芳香族炭化水素類、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの置換基(例えば、アルキル基など)を有する芳香族炭化水素類など)、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類など]などが含まれる。これらのゲスト化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよい。なお、前記ゲスト化合物は、使用(又は反応)条件下(例えば、常温、常圧下)において、通常、液体又は固体(特に液体)である場合が多い。」

(16)甲第16号証
本願優先日前頒布された刊行物である甲第16号証には、以下の記載がある。
(16a)「ところで,結晶そのものの純度が100%となったとしても,製品結晶は付着母液あるいは結晶内に取り込まれた液胞・・・のため必ずしも純度は100%とはならない.・・・液胞による純度低下は,・・・有機化合物の場合は特に著しい.・・・不純物と固溶体を形成する場合は,不純物が分子レベルで結晶に取り込まれる.」(2頁4?11行)

(16b)「結晶多形の制御も簡単ではない.結晶析出以前の過飽和溶液における溶液の構造,すなわち,溶液中で結晶構成成分の分子がどのような並び方をしているかが多形析出のカギを握っていると思われるが,溶液の構造を制御する手段を持たないため,多形析出の制御は依然として難しいといわざるを得ない.実際には,経験的な手法で多形を作り分けている.たとえば,溶液を急冷したり,または,結晶析出温度を高くあるいは低く設定したりして実験的に望みの多形の析出条件を見つけだしている.」(45頁16?22行)

(17)甲第17号証
本願優先日前頒布された刊行物である甲第17号証には、以下の記載がある。
(17a)「分子の結晶内でのパッキングの状態が異なっているので,結晶多形は粉末X線回折(XRD)で分析が可能である。・・・また,多形が異なると融点も異なるため,熱分析によっても結晶多形が同定可能である。ただし,結晶多形を正確に同定するためにはXRDと熱分析の両方を行う方が確実であろう。」(64頁1?6行)

(17b)「原薬となる化合物はその合成から所定の剤形に成型されるまで複数の工程を経験する。これらの工程中,原薬はさまざまな条件下におかれ,その条件の変化に伴い,異なる多形や溶媒和結晶の結晶化や,多形間での転移を引き起こす場合がある。つまり,晶析操作時の多形の選択的な析出の制御はもちろん,乾燥・粉砕・成型・貯蔵時など各工程での多形転移の制御が必要であり,多形を持つ化合物の製造プロセスを検討する場合には,これらのことを充分検討しなければならない。」(65頁18?24行)

(17c)「3.1.2 結晶多形の熱力学的性質」の項目で、多形に関するエネルギー線図(転移熱則)を示し、転移熱則に関して説明している。(70?71頁参照)

(18)甲第18号証
甲第18号証は、特願2016-183751号の拒絶査定書の謄本であって、その備考欄に、「・・・より優れた性質を有する式(1)の化合物の結晶が得られることを期待して、結晶条件を種々検討してみることは当業者が通常実施することであるといえる。」といった審査官の拒絶査定の理由が記載されている。

(19)甲第19号証
本願優先日前頒布された刊行物である甲第19号証には、以下の記載がある。
(19a)「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、フルオレン骨格(9,9-ビスフェニルフルオレン骨格)を有していても、ハンドリング性に優れた新規なフルオレン骨格含有二官能性(メタ)アクリレートおよびその樹脂組成物を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、ハンドリング性に優れるとともに、高屈折率な新規なフルオレン骨格含有二官能性(メタ)アクリレートを提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、上記のハンドリング性に優れた新規な二官能性(メタ)アクリレートで形成され、高屈折率、高硬度などの優れた特性を有する硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、9,9-ビス(モノアリールフェニル)フルオレン骨格などと、分岐オキシアルキレン基(オキシプロピレン基など)とを組み合わせた新規なフルオレン骨格含有二官能性(メタ)アクリレートが、9,9-ビスフェニルフルオレン骨格を有しているにもかかわらず、ハンドリング性に優れていること、さらにはエチレンオキシド付加体の(メタ)アクリレートなどに比べて高屈折率であることを見出し、本発明を完成した。」

(19b)「【0118】
(合成例2)
10Lのセパラブルフラスコに、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン(BOPPF、大阪ガスケミカル(株)製)502g(1mol)、エチレンカーボネート881g(10mol)、溶媒としてのジエチレングリコール1500g(17mol)を入れ、触媒として1-メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)10gを添加した後に、100℃に加熱して5時間反応させた。反応終了後、イソプロピルアルコール5000mlを加えて10℃まで冷却することにより、白色粉末460gを得た。得られた白色粉末を分析した結果、HPLCによる純度94.1%で、原料として用いたBOPPF1モルに対して2モルのオキシエチレン基が付加した目的化合物(下記式で表される化合物、BOPPF-EOという)が得られた。
【0119】
【化12】

【0120】
^( 1)H-NMR(CDCl_(3),δ)ppm:
3.7-3.8ppm(m,6H)、4.0ppm(t、4H)、6.8-7.6ppm(m,22H)、7.8ppm(d,2H)。」

(20)甲第20号証
本願優先日前頒布された刊行物である甲第20号証には、以下の記載がある。
(20a)「【0020】なお、回収した反応生成物〔9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン〕を更に精製する場合の精製方法としては、溶媒として低級脂肪族アルコール、芳香族化合物、ケトン化合物、エステル化合物及びこれらの2種以上の混合物を用いて再結晶する方法が挙げられる。これらの溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級脂肪族アルコール、トルエン、キシレン等の芳香族化合物、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン化合物、メチルアセテート、エチルアセテート、ブチルアセテート等のエステル化合物等が挙げられる。この再結晶溶媒の使用量については、回収した反応生成物に含まれるフルオレン骨格1モルに対して、1000?8000ml、好ましくは2000?6000mlとなる量を用いるとよい。」

(21)甲第21号証
本願優先日前頒布された刊行物である甲第21号証には、以下の記載がある。
(21a)「【請求項1】
酸触媒およびチオール類の存在下、下記式(1)
【化1】

(式中、R^(1)はシアノ基、ハロゲン原子又はアルキル基を示し、kは0?4の整数を示す。)
で表されるフルオレノン類と、下記式(2)
【化2】

(式中、R^(2)はアルキレン基を示し、R^(3)はアリール基を示し、R^(4)は、同一又は異なって、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、mは1以上の整数を示し、nは0?3の整数を示す。)
で表されるアルコールとを反応させ、
下記式(3)
【化3】

(式中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、k、mおよびnは前記と同じ。)
で表される化合物を製造する方法であって、
前記式(2)で表されるアルコールの使用割合が、前記式(1)で表されるフルオレノン類1モルに対して3モル以上であり、かつ前記チオール類の使用割合が、前記式(1)で表されるフルオレノン類100重量部に対して3重量部以上である製造方法。
【請求項2】
式(2)において、R^(2)がC_(2-4)アルキレン基であり、mが1であり、R^(3)がC_(6-10)アリール基であり、nが0又は1である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
式(2)で表されるアルコールが、2-ビフェニリル-(2-ヒドロキシエチル)エーテルである請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
酸触媒が硫酸であり、チオール類がメルカプトC_(2-6)カルボン酸である請求項1?3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
チオール類の使用割合が、式(1)で表されるフルオレノン類100重量部に対して5?30重量部である請求項1?4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
チオール類の使用割合が、酸触媒100重量部に対して4?25重量部である請求項1?5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
(i)式(2)で表されるアルコールの使用割合が、式(1)で表されるフルオレノン類1モルに対して3?15モルであり、(ii)チオール類の使用割合が、式(1)で表されるフルオレノン類100重量部に対して6?25重量部であり、(iii)チオール類の使用割合が、酸触媒100重量部に対して5?20重量部である請求項1?3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
少なくとも芳香族炭化水素類で構成された溶媒の存在下で反応させる請求項1?7のいずれかに記載の製造方法。」

(21b)「【背景技術】
【0002】
9,9-ビス(ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレン類などのフルオレン骨格を有する化合物は、屈折率、耐熱性などにおいて優れた機能を有しており、樹脂原料や添加剤として用いることが知られている。そして、このようなフルオレン骨格を有する化合物の中でも、特に、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9-ビス(フェニルフェニル)フルオレン骨格を有する化合物は、耐熱性に優れ、高い屈折率を示すため、樹脂原料(例えば、ポリエステル原料)などとしての使用が期待される高機能性材料である。
【0003】
このような9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンは、種々の方法により製造されており、例えば、特開2001-122828号公報(特許文献1)には、5,5’-[9H-フルオレン-9-イリデン]ビス[(1,1’-ビフェニル)-2-オール](すなわち、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン)と、エチレンオキサイドとを反応させて、5,5’-[9H-フルオレン-9-イリデン]ビス[(1,1’-ビフェニル)-2-オール]のエチレンオキシド2分子付加物(すなわち、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン)が32.1%、3分子付加物が49.6%、4分子付加物が15.6%の混合物を得たことが記載されている。しかし、このような方法では、2分子付加物に加えて、3分子付加物、4分子付加物が得られ、2分子付加物を高い純度で得ることができない。
【0004】
また、別の方法として、特開2001-206863号公報(特許文献2)には、9-フルオレノンと、o-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテルとを、反応させることにより、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンを得たことが記載されている。具体的には、この文献の実施例6には、純度99.5重量%のフルオレノン100g(0.6モル)とo-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテル321g(1.5モル)、トルエン135gを仕込み、β-メルカプトプロピオン酸もしくはチオ酢酸0.5mlを加えて65℃まで加熱溶融させ、95%の硫酸40mlを10分かけて滴下し、加温したまま1時間攪拌して反応させたのち精製し、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンを純度94.1%、収率81.6%で得たことが記載されている。
【0005】
この文献の方法では、原料としてo-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテルを用いるため、前記のようなエチレンオキシドを付加させる方法に比べると、3分子付加物などを生じないため、比較的高い純度で9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンを得ることができる。しかし、この文献の方法で得られる9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンは、精製後においても着色している場合が多い。このような着色は、光学用途などの用途によっては特に敬遠される場合が多く、できるだけ抑制されることが好ましい。このため、このような着色のない9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンを製造する方法が求められている。
【0006】
また、フルオレン骨格を有する化合物のうち、9,9-ビス[ジ(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス[ジ乃至テトラ(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]フルオレンは、多くのヒドロキシル基を有しており、多官能性の樹脂原料(例えば、ポリ(メタ)アクリレートなど)などとしての使用が期待される。このような化合物の製造方法として、例えば、特開2005-104935号公報(特許文献3)には、フルオレノンと、多価フェノール類(カテコールなど)とを反応させて、9,9-ビス(ジ乃至テトラヒドロキシフェニル)フルオレンを調製した後、アルキレンオキシド又はアルキレンカーボネートを反応させる方法が開示されている。しかし、この方法では、前記と同様に、2分子付加物に加えて、3分子付加物、4分子付加物が得られ、2分子付加物を選択的に高い純度で得ることができず、所望の9,9-ビス[ジ乃至テトラ(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]フルオレンを効率よく得ることが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】、特開2001-122828号公報 (段落番号[0024]?[0025]、実施例3)
【特許文献2】特開2001-206863号公報 (請求項5、実施例)
【特許文献3】特開2005-104935号公報 (段落番号[0034]?[0036]、[0054]?[0055]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、着色が著しく少ない9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ-アリールフェニル)フルオレン類又は9,9-ビス[ジ乃至テトラ(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ)フェニル]フルオレン類を製造する方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、高純度の9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ-アリールフェニル)フルオレン類及び9,9-ビス[ジ乃至テトラ(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ)フェニル]フルオレン類を効率よく製造する方法を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、9,9-ビス[ジ乃至テトラ(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ)フェニル]フルオレン類を効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ-アリールフェニル)フルオレン類は、原料としての9-フルオレノンが残留しているためか着色しやすいこと、そして、このような着色は特定の条件下で反応させることにより、著しく抑制できること、また、特定の触媒の存在下でフルオレノン類と特定のアルコール類を反応させることにより、9,9-ビス[3,4-ジ(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス[ジ乃至テトラ(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ)フェニル]フルオレン類を効率よく製造できること、さらには、前記と同様の条件下で反応させることにより、このような9,9-ビス[ジ乃至テトラ(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ)フェニル]フルオレン類の着色を著しく抑制できることを見出し、本発明を完成した。」

(21c)「【0085】
チオール類としては、例えば、・・・なお、反応において、チオール類は、酸触媒の助触媒又は共触媒として作用するようである。
【0086】
チオール類の使用割合は、前記フルオレノン類100重量部に対して、2重量部以上(例えば、2.5?50重量部)の範囲から選択でき、例えば、3重量部以上(例えば、4?40重量部)、好ましくは5重量部以上(例えば、6?25重量部)、さらに好ましくは7?20重量部(例えば、8?15重量部)程度であってもよく、通常5?30重量部程度であってもよい。
【0087】
また、前記式(7)で表されるアルコールを使用する場合、チオール類の使用割合は、前記フルオレノン類100重量部に対して、例えば、1重量部以上(例えば、1?50重量部、好ましくは3?40重量部、さらに好ましくは5?25重量部程度)であってもよいが、特に、前記式(2)で表されるアルコールを使用する場合と同様の前記範囲(例えば、前記フルオレノン類100重量部に対して3重量部以上)であってもよい。
【0088】
なお、チオール類の使用割合は、前記フルオレン類および前記アルコールの総量100重量部に対して、例えば、0.1重量部以上(例えば、0.2?30重量部)、好ましくは0.3重量部以上(例えば、0.4?20重量部)、さらに好ましくは0.5重量部以上(例えば、0.7?15重量部)、特に0.8?10重量部(例えば、1?7重量部)程度であってもよく、通常1?5重量部(例えば、1.2?3重量部)程度であってもよい。
【0089】
また、チオール類の使用割合は、酸触媒100重量部に対して、例えば、1?50重量部(例えば、2?40重量部)、好ましくは3?35重量部(例えば、3.5?30重量部)、さらに好ましくは4?25重量部(例えば、5?20重量部)、特に6?18重量部(例えば、7?15重量部)程度であってもよい。
【0090】
反応は、通常、溶媒中(又は溶媒の存在下)で行ってもよい。溶媒(反応溶媒)としては、例えば、炭化水素類[例えば、脂肪族炭化水素類(例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンなどのアルカン)、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどのC_(6-12)アレーン、好ましくはC_(6-10)アレーン、さらに好ましくはC_(6-8)アレーン)など]、エーテル類(ジエチルエーテルなどのジアルキルエーテル類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類など)、ハロゲン化炭化水素類(塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素など)などが挙げられる。これらの溶媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0091】
これらの溶媒のうち、芳香族炭化水素類などの疎水性溶媒が好ましく、特に、トルエン、キシレンなどのアルキルベンゼン(モノ又はジC_(1-4)アルキルベンゼン、好ましくはモノ又はジC_(1-2)アルキルベンゼン)が好ましい。
【0092】
このため、溶媒は、少なくとも芳香族炭化水素類で構成するのが好ましく、芳香族炭化水素類単独、又は芳香族炭化水素類と他の溶媒とで構成してもよい。他の溶媒を使用する場合、溶媒全体に対する芳香族炭化水素類の割合は、例えば、50重量%以上(例えば、55?99重量%)、好ましくは60重量%以上(例えば、70?98重量%)、さらに好ましくは80重量%以上(例えば、85?97重量%)程度であってもよい。
【0093】
また、前記式(7)で表されるアルコールを用いる場合、ジオキサンなどの環状エーテル類を溶媒として好適に使用してもよい。
【0094】
溶媒の割合は、例えば、前記フルオレン類および前記アルコールの総量1重量部に対して、例えば、0.1?30重量部(例えば、0.2?20重量部)、好ましくは0.3?10重量部(例えば、0.4?7重量部)、さらに好ましくは0.5?5重量部(例えば、0.7?3重量部)程度であってもよい。
・・・
【0098】
なお、反応終了後の反応混合物(反応混合液)には、目的生成物又は反応生成物である前記式(3)で表される化合物又は前記式(8)で表される化合物以外に、未反応の前記式(2)で表されるアルコール類(フェノキシエタノールなど)又は前記式(7)で表されるアルコール[例えば、ジ(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなど]、酸触媒、チオール類、溶媒、水などが含まれる。このような反応混合物からの前記式(3)で表される化合物の分離(精製)には、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段を利用できる。例えば、慣用の方法(アルカリ水溶液を加えて中和する方法など)により酸触媒(およびチオール類)を除去したのち、前記式(3)で表される化合物又は前記式(8)で表される化合物を結晶化させ、分離(精製)してもよい。」

(21d)「【0145】
(実施例1)
1Lのセパラブルフラスコに、9-フルオレノン18重量部(0.1モル、大阪ガスケミカル(株)製)、o-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテル[又は2-ビフェニリル-(2-ヒドロキシエチル)エーテル]86重量部(0.4モル、明成化学(株)製)、3-メルカプトプロピオン酸1.8重量部および溶媒としてのキシレン104重量部を投入した後に、60℃まで加温して完全に溶解させた。その後、徐々に硫酸を20重量部投入して、60℃で維持して5時間攪拌させたところ、HPLCにて9-フルオレノンの転化率が99.5%以上であることを確認できた。得られた反応液に48%苛性ソーダ水を投入して中和した後に、蒸留水にて数回洗浄し、冷却することで結晶を析出させた。さらにろ過して乾燥させたところ、49重量部(収率83%)の結晶が得られた。得られた結晶のHPLC純度を測定したところ、純度が97.1%と極めて高いことが判明した。また、アセトンに10重量%の割合で溶解させて色相(APHA)を測定したところ、26と極めて着色が少ないことがわかった。さらに得られたサンプルの^(1)H-NMRおよびマススペクトルを測定した結果、目的とする9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン(下記式)であることを確認した。
【0146】
【化14】

【0147】
以下に、得られた反応物の^(1)H-NMRスペクトルデータおよびマススペクトルデータを示す。
【0148】
^( 1)H-NMR(CDCl_(3),δ):7.8ppm(2H)、7.1?7.5ppm(22H)、6.9ppm(2H)、4.0ppm(4H)、3.6-3.8ppm(6H)
マススペクトルm/z=590。
【0149】
(実施例2)
溶媒としてのキシレンをトルエンに変えたこと以外は、実施例1と同様にして結晶を40重量部(収率68%)得た。得られた結晶のHPLC純度を測定したところ、純度が96.4%と極めて高いことが判明した。また、アセトンに10重量%の割合で溶解させて色相(APHA)を測定したところ、27と極めて着色が少ないことがわかった。
【0150】
(実施例3)
実施例1において、中和したのちに、抽出溶媒としてメチルイソブチルケトンを180重量部添加し、50重量部の水にて水層のpHが7になるまで洗浄を繰り返したのちに、冷却したこと以外は実施例1と同様にして結晶35重量部(収率59%)を析出させた。得られた結晶のHPLC純度を測定したところ、純度が97.0%と極めて高いことが判明した。また、アセトンに10重量%の割合で溶解させて色相(APHA)を測定したところ、30と極めて着色が少ないことがわかった。
【0151】
(実施例4)
実施例1において、中和したのちに、抽出溶媒としてメチルエチルケトンを180重量部添加し、50重量部の水にて水層のpHが7になるまで洗浄を繰り返したのちに、冷却したこと以外は実施例1と同様にして結晶29重量部(収率49%)を析出させた。得られた結晶のHPLC純度を測定したところ、純度が95.3%と極めて高いことが判明した。また、アセトンに10重量%の割合で溶解させて色相(APHA)を測定したところ、35と極めて着色が少ないことがわかった。
【0152】
(実施例5)
硫酸量を20重量部から50重量部に増量した以外は実施例1と同様に合成した結果、純度95.3%のBOPPF-EOが20重量部(収率33%)得られた。色相は81であった。
【0153】
(実施例6)
実施例1で得られた9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン40.7重量部(0.07mol)、アクリル酸(東京化成工業(株)製)12.9重量部(0.18mol)、p-トルエンスルホン酸(キシダ化学(株)製)1.5重量部、トルエン67.5重量部及びメトキノン0.15重量部(キシダ化学(株)製)を仕込み、100℃?115℃で還流しながら理論脱水量を得るまで脱水エステル化反応を行った。その後、反応液をアルカリ中和し、20%食塩水および蒸留水での洗浄を行った。洗浄後、トルエンを除去したところ48重量部の白色固体を得た。得られた白色固体のHPLC純度は93.2%と非常に高く、アセトンに10重量%の割合で溶解させて測定した色相(APHA)は15であり、非常に着色が少なかった。
【0154】
(比較例1)
実施例1において、o-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテルを、86重量部(0.4モル)に代えて、54重量部(0.25モル)使用したこと以外は、実施例1と同様にして合成した結果、反応混合物において、HPLCにて測定した9-フルオレノンの転化率は97.0%であった。また、得られた結晶のHPLC純度を測定したところ、純度が92%であり、副生物が大量に生成してしまった。また、アセトンに10重量%の割合で溶解させて色相(APHA)を測定したところ、83であった。
【0155】
(比較例2)
実施例1において、3-メルカプトプロピオン酸を、1.8重量部に代えて、0.18重量部使用したこと以外は、実施例1と同様にして合成した結果、反応混合物において、HPLCにて測定した9-フルオレノンの転化率は53.0%であった。
【0156】
(比較例3)
実施例1において、9-フルオレノンを18重量部に代えて15重量部(0.083モル)、o-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテルを86重量部に代えて48重量部(0.22モル)、3-メルカプトプロピオン酸を1.8重量部に代えて0.1重量部、キシレンを104重量部に代えて107重量部、硫酸を20重量部に代えて18重量部使用したこと以外は実施例1と同様にして合成した結果、反応混合物において、HPLCにて測定した9-フルオレノンの転化率は25%であった。
【0157】
(実施例7)
1Lのセパラブルフラスコに、9-フルオレノン41.4重量部(0.24モル、大阪ガスケミカル(株)製)、1,3-(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン(明成化学(株)製)182.4重量部(0.92モル)、3-メルカプトプロピオン酸3.22重量部および溶媒としての1,4-ジオキサン92重量部を投入した後に、60℃まで加温して完全に溶解させた。その後、徐々に硫酸を48.4重量部投入して、60℃で維持して5時間攪拌させたところ、HPLCにて9-フルオレノンの転化率が99.5%以上であることを確認できた。得られた反応液に48%苛性ソーダ水を投入して中和した後に、蒸留水にて数回洗浄し、冷却することで結晶を析出させた。さらにろ過して乾燥させたところ、57重量部(収率44%)の結晶が得られた。得られた結晶のHPLC純度を測定したところ、純度が96%であった。また、アセトンに10重量%の割合で溶解させて色相(APHA)を測定したところ、54と着色が少ないことがわかった。さらに得られたサンプルの^(1)H-NMRおよびマススペクトルを測定した結果、目的とする9,9-ビス[2,4-ジ(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(下記式)であることを確認した。
【0158】
【化15】

【0159】
^(1)H-NMR(CDCl_(3),δ):7.8ppm(2H)、7.7ppm(2H)、7.3ppm(2H)、7.2ppm(2H)、6.6ppm(2H)、6.5ppm(2H)、6.2ppm(2H)、3.9ppm(8H)、3.7ppm(8H)、3.3ppm(4H)
マススペクトルm/z=558。」

(22)甲第22号証
本願優先日頒布された刊行物である甲第22号証には、以下の記載がある。
(22a)「【請求項1】下記一般式(I)で表されるフルオレン化合物。
【化1】

【請求項2】下記、一般式(II)
【化2】

(式中、n及びn’は独立に1?6の整数、m及びm’は独立に1?6の整数を示し、n及びn’並びにm及びm’は相互に同じであっても、異なっていてもよい)で表されるフルオレン化合物。
【請求項3】n及びn’が1?3の整数、m及びm’が1である請求項2に記載のフルオレン化合物。
【請求項4】フルオレノン(1)とフェニルフェノール(2)をチオ酢酸又はβ-メルカプトプロピオン酸、及び酸触媒(塩酸又は硫酸)の存在下で反応させることを特徴とする一般式(I)で表されるフルオレン化合物の製造方法。
【化3】

【請求項5】フルオレノン(1)とフェノール誘導体(3)及び(4)を反応させることを特徴とする一般式(II)で表されるフルオレン化合物の製造方法。
【化4】

(式中、n、n’、m及びm’は前記に定義されたとおりである。)
・・・
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、新規なフルオレン化合物に関し、高分子材料や樹脂材料の原料、例えば、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂の原料、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等の熱硬化性樹脂の原料、硬化剤、改質剤等として有用な新規なフルオレン化合物に関する。
【0002】
【従来の技術とその課題】ポリカーボネート、ポリアリレート等の熱可塑性樹脂の原料、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂の原料、硬化剤、改質剤等として有用なフルオレン化合物として、2官能型のビスフェノールフルオレンなどが用いられているが、屈折率等の光学特性、耐熱性、耐水性、耐薬品性、電気特性、機械特性、溶解性などの諸特性の一段の向上が求められている。特に光学用途に用いる場合には、高屈折率の材料が要請されている。
・・・
【0019】(式中、n、n’、m及びm’は前記に定義されたとおりである。)
フルオレノン(1)1モルに対しフェノール誘導体(2),(3)を各1モルから過剰量用い、適量のβ-メルカプトプロピオン酸又はチオ酢酸、及び適量の酸触媒(塩酸又は硫酸)の存在下に20?100℃で20分?24時間反応させることにより、目的とする一般式(II)の化合物を得ることができる。」

(22b)「【0023】
【実施例】以下に実施例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明らかにする。
・・・
実施例4
攪拌機、冷却管及びビュレットを備えた内容積1000mlの容器に純度99.5重量%のフルオレノン(フルオレンを液相空気酸化して得たもの)100g(0.6mol)とo-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテル480g(2.2mol)を仕込み、チオール具体的にはβ-メルカプトプロピオン酸もしくはチオ酢酸0.5mlを加えて65℃まで加熱溶融させ、95%の硫酸80mlを10分かけて滴下する。反応液を65℃に加温したまま1時間撹拌して反応を完結させた。反応終了後、反応液にメタノールもしくはイソプロピルアルコール600gを加えて60℃まで加温し、1時間撹拌を継続したあと30℃まで冷却し、純水300gを加えて得られた固形物を濾過し、乾燥させた。得られた化合物9,9-ビス-(3'-フェニル-4'-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-フルオレンの純度は92.3%であり、収量は295.9g、収率は83.6%であった。得られた化合物の構造分析は次のとおりである。
マススペクトルの分子イオンピーク(m/e):590
赤外線吸収スペクトル(cm^(-1)):
フルオレン骨格:1448,745
脂肪族第一級アルコール:3437,2970付近,1050
ベンゼン環:3033付近,1897付近,1597,1500,1484
脂肪族-芳香族混合エーテル:1237,1150
ベンゼン環モノ置換体:750,700
・・・
実施例6
実施例1と同じ容器に純度99.5重量%のフルオレノン100g(0.6mol)とo-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテル321g(1.5mol)、トルエン135gをそれぞれ仕込み、チオール具体的にはβ-メルカプトプロピオン酸もしくはチオ酢酸0.5mlを加えて65℃まで加熱溶融させ、95%の硫酸40mlを10分かけて滴下する。反応液を65℃に加温したまま1時間撹拌して反応を完結させた。反応終了後、反応液にメタノールもしくはイソプロピルアルコール200gを加えて60℃まで加温し、1時間撹拌を継続した。次に純水600gを加えて反応生成物を析出させ、室温まで冷却した後、濾過を行って分離した。得られた固形物を濾過し、乾燥させた。得られた化合物9,9-ビス-(3'-フェニル-4'-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-フルオレンの純度は94.1%であり、収量は288.9gであり、収率は81.6%であった。」

(23)甲第23号証
本願優先日前頒布された刊行物である甲第23号証には、以下の記載がある。
(23a)「【0027】
本発明の結晶が芳香族炭化水素類を包接しているか否かは、赤外スペクトルにおいて包接体特有の1153±2(cm^(-1))のピークを有するか否かで判断することが出来る。1153±2(cm^(-1))のピークを実質的に有していなければ、芳香族炭化水素類を包接する結晶でないと判断することが出来る。なお、本発明における「実質的に含まない」とは、1151?1155(cm^(-1))の範囲にピークを殆ど、または全く検出されないことを意味する。一方、芳香族炭化水素類を包接する結晶でなければ、前述した範囲のピークの代わりに1148±2(cm^(-1))の範囲にピークを有する。赤外スペクトルは、後述する条件にてフーリエ変換赤外分光光度計を用いて測定することが可能である。」

(24)甲第24号証
本願優先日前頒布された刊行物である甲第24号証には、以下の記載がある。
(24a)フルオレンの項目の性状の欄に、「比重1.20(0/4℃水)」との記載が示されている。

(25)甲第25号証
本願優先日前頒布された刊行物である甲第25号証には、以下の記載がある。
(25a)「色材における顔料は,粉体としての粉体としての物性をよく知った上で使用しなければならない。ところで,粉体としての基礎物性の一つである充テン特性を,もっとも普遍的に表わしているものにかさ密度がある。このかさ密度は容積と重量との関係を表わし,これと他の物性,例えば空隙率,安息角,付着力,流動性などは相互に関係している。一般に,かさ密度にもいろいろな種類があるが,日本工業規格(JIS)ではロートダンパーによるかさ密度を定めている^(1))。一方,R.L.Carrは粉体の流動性に関連して,ゆるみかさ密度,固めかさ密度,平均かさ密度,動的かさ密度,流れかさ密度を提案している^(1,2))。
前報^(3))において,著者らは各種モデル粉体について静かさ密度・・・および動かさ密度・・・と粒径・流動度・安息角ならびに粒径と流動度の相関関係について報告した。」(403頁左欄2?16行)

(26)甲第26号証
本願優先日前頒布された刊行物である甲第26号証には、以下の記載がある。
訳文にて示す。
(26a)「1.ベンゼン類溶媒中での結晶化によって得られた高かさ密度の9,9-ビス[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン結晶で、以下の特徴を有する:9,9-ビス[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン結晶多形AのX線粉末回折(XRPD)スペクトルは、2θ値が7.6°(47)、15.6°(57)、16.4°(55)、17.2°(48)、18.7°(49)、19.0°(67)、20.6°(100)、21.5°(38)、23.7°(40)の特徴的な回折ピークを有する。
・・・
3.請求項1に記載の高かさ密度の9,9-ビス[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン結晶で、以下の特徴を有する:9,9-ビス[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン結晶多形Aの示差走査熱分析による分析で、その融解吸熱ピーク範囲が142?180℃。
・・・
5.ベンゼン類溶媒中での結晶化によって得られた高かさ密度の9,9-2[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンをエタノールを溶媒として再結晶し、ゆっくり冷却して得た結晶Cで、結晶CのX線粉末回折(XRPD)スペクトルは、2θ値が5.4°(27)、5.6°(64)、7.9°(80)、11.3°(36)、15.3°(60)、16.1°(59)、17.0°(59)、17.7°(100)、18.5°(57)、19.2°(96)、21.3°(55)、21.9°(79)、23.0°(53)、24.3°(53)、25.1°(30)の特徴的な回折ピークを有する。

6.請求項5に記載の高かさ密度の9,9-2[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン結晶で、以下の特徴を有する:9,9-2[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンの結晶多形Cの充填密度は0.4g/cm^(3)より大きく、結晶流動性はよく、結晶多形Cの示差走査熱分析による分析で、その融解吸熱ピーク範囲が142-180℃。」(特許請求の範囲)

(26b)「[0004] 9,9-2[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンの構造は以下のとおりである:

・・・
[0007] 結晶多形Aはトルエンからの再結晶によって得られた。結晶多形AのX線粉末回折(XRPD)スペクトルは図1の形状のように、2θが7.6°(47)、15.6°(57)、16.4°(55)、17.2°(48)、18.7°(49)、19.0°(67)、20.6°(100)、21.5°(38)、23.7°(40)の特徴的な回折ピークを有し、その融解吸熱ピーク範囲は142-180℃にあり、その充填密度は0.4g/cm^(3)より大きく、結晶流動性は良好である。
・・・
[0009] 結晶多形Cはエタノールからの再結晶で、ゆっくりと冷却及び結晶化することによって得られる。結晶多形CのX線粉末回折(XRPD)スペクトルは図3の形状のように、2θが5.4°(27)、5.6°(64)、7.9°(80)、11.3°(36)、15.3°(60)、16.1°(59)、17.0°(59)、17.7°(100)、18.5°(57)、19.2°(96)、21.3°(55)、21.9°(79)、23.0°(53)、24.3°(53)、25.1°(30)の特徴的な回折ピークを有し、充填密度は同じく0.4g/cm^(3)より大きく、結晶流動性は良好である。この結晶の融解吸熱ピーク範囲は142-180℃にある。」

(26c)
「[0037] 図7は本発明によるエタノール溶媒再結晶化を使用してゆっくりとした冷却及び結晶化によって調製した9,9-2[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン結晶(結晶多形C)のDSC分析スペクトルである。」

(27)甲第27号証
甲第27号証は、特願2015-144187号の明細書であって、【0028】に、
「【0028】
本発明の多形体は、示差走査熱分析による融解吸熱最大温度によって2種類の多形体に区別され得る。具体的には、該融解吸熱最大温度が169?176℃であるもの(以下、多形体Bと称することがある。)、及び、190?196℃であるもの(以下、多形体Cと称することがある。)である。なお、公知の、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコール類の包接化合物(芳香族炭化水素類を包接した化合物。以下、結晶Aと称することもある)の示差走査熱分析による融解吸熱最大温度は125?155℃である。」との記載がある。

(28)甲第28号証
甲第28号証は、特願2016-89742号の明細書であって、【0031】及び【0032】に、
「【0031】
本発明の結晶は、示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度によって3種類の結晶に区別され得る。具体的には、該融解吸熱最大温度が173?176℃であるもの(以下、結晶Bと称することがある。)、190?196℃であるもの(以下、結晶Cと称することがある。)および、167?170℃であるもの(以下、結晶Dと称することがある。)である。なお、公知の、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの包接体(ゲスト分子として芳香族炭化水素類を包接した包接体。以下、結晶Aと称することもある)の示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度は125?147℃である。
【0032】
また、結晶BおよびDの混合結晶が得られる場合があり、該混合結晶は示差走査熱量分析により得られる吸熱ピークを167?176℃の範囲に少なくとも一つ有する。なお、結晶BおよびDの混合結晶であっても高純度かつ着色が少なく、更には包接体でないといった、下記する本発明の結晶の特徴と同じ特徴を有する結晶となる。」との記載がある。

2 甲号証に記載された発明
(1)甲第19号証に記載された発明
ア 甲第19号証は、フルオレン骨格(9,9-ビスフェニルフルオレン骨格)を有していても、ハンドリング性に優れた新規なフルオレン骨格含有二官能性(メタ)アクリレートおよびその樹脂組成物に関する文献(摘記(19a))であるが、甲第19号証の摘記(19b)の合成例2には、「(合成例2)
10Lのセパラブルフラスコに、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン(BOPPF、大阪ガスケミカル(株)製)502g(1mol)、エチレンカーボネート881g(10mol)、溶媒としてのジエチレングリコール1500g(17mol)を入れ、触媒として1-メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)10gを添加した後に、100℃に加熱して5時間反応させた。反応終了後、イソプロピルアルコール5000mlを加えて10℃まで冷却することにより、白色粉末460gを得た。得られた白色粉末を分析した結果、HPLCによる純度94.1%で、原料として用いたBOPPF1モルに対して2モルのオキシエチレン基が付加した目的化合物(下記式で表される化合物、BOPPF-EOという)が得られた。」と記載されているのであるから甲第19号証には、以下の発明が記載されているといえる。

「10Lのセパラブルフラスコに、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン(BOPPF)502g(1mol)、エチレンカーボネート881g(10mol)、溶媒としてのジエチレングリコール1500g(17mol)を入れ、触媒として1-メチルイミダゾール10gを添加し、100℃に加熱し5時間反応させ、反応終了後、イソプロピルアルコール5000mlを加えて10℃まで冷却することにより得た、HPLCによる純度94.1%の、BOPPF1モルに対して2モルのオキシエチレン基が付加した(下記式で表される化合物、BOPPF-EOという)

の白色粉末」に係る発明(以下「甲19白色粉末発明」という。)

イ また、製造方法の発明として、以下の発明も記載されているといえる。

「10Lのセパラブルフラスコに、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン(BOPPF)502g(1mol)、エチレンカーボネート881g(10mol)、溶媒としてのジエチレングリコール1500g(17mol)を入れ、触媒として1-メチルイミダゾール10gを添加した後に、100℃に加熱して5時間反応させ、反応終了後、イソプロピルアルコール5000mlを加えて10℃まで冷却する、HPLCによる純度94.1%で、原料として用いたBOPPF1モルに対して2モルのオキシエチレン基が付加した(下記式で表される化合物、BOPPF-EOという)

の白色粉末の製造方法」に係る発明(以下「甲19白色粉末製造方法発明」という。)

(2)甲第21号証に記載された発明
ア 甲第21号証は、特定のフルオレン骨格を有するアルコールの製造方法に関する文献であって(摘記(21a))、甲第21号証の実施例1には、1Lのセパラブルフラスコに、9-フルオレノン18重量部(0.1モル)、o-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテル[又は2-ビフェニリル-(2-ヒドロキシエチル)エーテル]86重量部(0.4モル)、3-メルカプトプロピオン酸1.8重量部および溶媒としてのキシレン104重量部を投入した後に、60℃まで加温して完全に溶解させ、その後、徐々に硫酸を20重量部投入して、60℃で維持して5時間攪拌させ、得られた反応液に48%苛性ソーダ水を投入して中和した後に、蒸留水にて数回洗浄し、冷却することで結晶を析出させ、さらにろ過して乾燥させ、純度が97.1%で、アセトンに10重量%の割合で溶解させて色相(APHA)を測定した値が26と着色が少ない9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶が得られことが記載され、実施例3には、実施例1において、中和したのちに、抽出溶媒としてメチルイソブチルケトンを180重量部添加し、50重量部の水にて水層のpHが7になるまで洗浄を繰り返したのちに、冷却したこと以外は実施例1と同様にして結晶を析出させ、純度が97.0%で、アセトンに10重量%の割合で溶解させて色相(APHA)を測定した値が30と着色が少ないことがわかったことが記載されている(摘記(21b))。

したがって、甲第21号証には、「1Lのセパラブルフラスコに、9-フルオレノン18重量部(0.1モル)、o-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテル[又は2-ビフェニリル-(2-ヒドロキシエチル)エーテル]86重量部(0.4モル)、3-メルカプトプロピオン酸1.8重量部および溶媒としてのキシレン104重量部を投入した後に、60℃まで加温して完全に溶解させ、その後、徐々に硫酸を20重量部投入して、60℃で維持して5時間攪拌させ、得られた反応液に48%苛性ソーダ水を投入して中和した後に、抽出溶媒としてメチルイソブチルケトンを180重量部添加し、50重量部の水にて水層のpHが7になるまで洗浄を繰り返したのちに、冷却することで結晶を析出させ、さらにろ過して乾燥させた、純度が97.0%で、アセトンに10重量%の割合で溶解させて色相(APHA)を測定した値が30と着色が少ない9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶」に係る発明(以下「甲21結晶発明」という。)が記載されているといえる。

イ また、摘記(21d)には、甲第21号証の結晶の製造方法の記載として、1Lのセパラブルフラスコに、9-フルオレノン18重量部(0.1モル)、o-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテル[又は2-ビフェニリル-(2-ヒドロキシエチル)エーテル]86重量部(0.4モル)、3-メルカプトプロピオン酸1.8重量部および溶媒としてのキシレン104重量部を投入した後に、60℃まで加温して完全に溶解させ、その後、徐々に硫酸を20重量部投入して、60℃で維持して5時間攪拌させ、得られた反応液に48%苛性ソーダ水を投入して中和した後に、抽出溶媒としてメチルイソブチルケトンを180重量部添加し、50重量部の水にて水層のpHが7になるまで洗浄を繰り返したのちに、冷却することで結晶を析出させ、さらにろ過して乾燥させ、純度が97.0%で、アセトンに10重量%の割合で溶解させて色相(APHA)を測定した値が30と着色が少ない9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶を得たことが記載されているので、以下の発明も記載されているといえる。

「1Lのセパラブルフラスコに、9-フルオレノン18重量部(0.1モル)、o-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテル[又は2-ビフェニリル-(2-ヒドロキシエチル)エーテル]86重量部(0.4モル)、3-メルカプトプロピオン酸1.8重量部および溶媒としてのキシレン104重量部を投入した後に、60℃まで加温して完全に溶解させ、その後、徐々に硫酸を20重量部投入して、60℃で維持して5時間攪拌させ、得られた反応液に48%苛性ソーダ水を投入して中和した後に、抽出溶媒としてメチルイソブチルケトンを180重量部添加し、50重量部の水にて水層のpHが7になるまで洗浄を繰り返したのちに、冷却することで結晶を析出させ、さらにろ過し、乾燥させる、純度が97.0%で、アセトンに10重量%の割合で溶解させて色相(APHA)を測定した値が30と着色が少ない9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶の製造方法」に係る発明(以下「甲21結晶製造方法発明」という。)

3 対比・判断
異議申立理由1Aに関して
(1)本件特許発明1について(甲19白色粉末発明との対比・判断)
ア 対比
本件特許発明1と甲19白色粉末発明とを対比すると、甲19白色粉末発明の「9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン」は、本件特許発明1の「式(1)のフルオレン骨格を有するアルコール」であり、本件特許発明1は、甲19白色粉末発明と、「式(1)(化学構造式省略)
で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの固体」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-19-1:本件特許発明1においては、「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が173?176℃である」と特定されているのに対し、甲19白色粉末発明においては、示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が明らかではない点。

相違点2-19-1:本件特許発明1においては、結晶であることが特定されているのに対し、甲19白色粉末発明においては、白色粉末ではあるものの結晶であることが明らかでない点。

イ 判断
(ア)相違点1-19-1について
a 甲第19号証においては、甲19白色粉末発明の認定の根拠となった合成例2の記載以外の他の記載においても、示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度に関する記載がない。
また、甲19白色粉末発明において、記載がなくとも「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が173?176℃である」ことが記載されているに等しいとする本願優先日時点の技術常識もない。
したがって、上記相違点1-19-1は、実質的相違点である。

b また、甲第19号証は、新規なフルオレン骨格を有する新規な二官能性(メタ)アクリレートに関し、高分子材料や樹脂材料の原料として有用な新規なフルオレン化合物に関し、フルオレン骨格を有していても、ハンドリング性に優れ、高屈折率な新規なフルオレン骨格含有二官能性(メタ)アクリレートを提供することを前提とする発明であって、たとえ、甲第1?17号証から、結晶多形体の特性が、多形体毎に種々異なることが多いことや、多形体のスクリーニングが盛んに行われていること、多形体の分析に熱分析が用いられることが技術常識となっているからといって、結晶であることすら明らかでない甲19白色粉末発明において、「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が173?176℃である」という相違点1-19-1の構成の特定をする動機付けがあるとはいえない。
したがって、甲19白色粉末発明において、「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が173?176℃である」とすることは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

c さらに、甲19白色粉末発明に係る製造方法により結晶が析出するのかどうか明らかでなく、反応後の工程である「反応終了後、イソプロピルアルコール5000mlを加えて10℃まで冷却することにより得た」との合成例2の記載を考慮しても、溶媒成分、析出温度、乾燥温度が本件特許発明1と相違しているか又は少なくとも明らかでなく、析出した白色粉末の示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が同じものになるとはいえないし、実施例として適正なものとして確立した条件を変更する動機も存在しない。

d したがって、甲19白色粉末発明において、「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が173?176℃である」という相違点1-19-1の構成を採用することは当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

e 特許異議申立人は、甲19白色粉末発明が、光学材料であっても純度や嵩密度等が研究対象となっていて、フルオレン化合物も結晶多形探索が行われていた旨の主張や、純度や嵩密度等結晶特性向上のために結晶多形探索を行う旨の主張、結晶析出溶媒として、甲第11号証、甲第20号証、甲第21号証の溶媒である炭素数が4以上の鎖状ケトンを代わりに使用してみること、及び析出温度を含めた晶析方法の制御が技術常識から当業者が適宜なし得る事項にすぎない旨の主張をしているが、上述のとおり、結晶を得たことすら明らかでない甲19白色粉末発明の反応溶媒を、低級脂肪族アルコール及び低級脂肪族ケトンにおける混合溶媒の例示としてたまたま記載されている甲第11号証や、芳香族化合物やアルコール、エステル化合物と区別することなく例示されているにすぎない甲第20号証や、抽出溶媒としてたまたまメチルイソブチルケトンが使用されている甲第21号証の記載に基づき、炭素数が4以上の鎖状ケトンを晶析溶媒として使用する態様に代えることには根拠がないし、記載のない析出温度を含めた晶析方法を本件特許明細書の結晶Bと同じ方法とすることは、周知技術を組み合わせただけであって、その場合に、融解吸熱最大温度を測定すれば173?176℃になるのは明らかという上記特許異議申立人の主張はいずれも採用できない。
また、特許異議申立人は、甲第11号証?甲第15号証を提示して、フルオレン化合物が擬多形を形成することが技術常識であったことや甲第3号証、甲第10号証、甲第16号証を提示して、溶媒は不純物で純度を上げるために除去しなければならないことが技術常識であったことを主張しているが、擬多形を形成するからといって、狭義の包接結晶を形成するかどうかもわからないし、擬多形や包接結晶を形成することが常に問題となっているわけでも(甲第13?15号証では、むしろ包接化合物又は包接結晶を有用であると認識しているといえる。)、溶媒を除去することが困難であったことが技術常識であったわけでもないし、甲第3号証、甲第10号証、甲第16号証は、結晶の不純物に関して述べたものであり、溶媒が不純物の原因となり得る(とみなすことができる)ことを述べているだけで、どのような結晶を目的とするかによって溶媒の除去の必要性も異なるといえる。
したがって、特許異議申立人の上記主張もまた採用することはできない。

(イ)本件特許発明1の効果について
a 本件特許発明1は、前記第2の請求項1に特定したように、「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が173?176℃である、以下式(1)(化学構造式省略)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶」との構成を採用することで、本件明細書【0026】に記載される「高純度かつ着色が少なく、更には、包接体ではない、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶が提供可能となる」という顕著な効果を奏している。

ウ 小括
したがって、本件特許発明1は、相違点1-19-2を検討するまでもなく、甲第19号証に記載された発明及び甲第1?17、20、21号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)本件特許発明2について
ア 対比
本件特許発明2と甲19白色粉末発明とを対比すると、甲19白色粉末発明の「9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン」は、本件特許発明2の「式(1)のフルオレン骨格を有するアルコール」であり、本件特許発明2は、甲19白色粉末発明と、「式(1)(化学構造式省略)
で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの固体」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-19-2:本件特許発明2においては、「Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=7.7±0.2°、17.2±0.2°、18.3±0.2°、19.6±0.2°、20.8±0.2°および21.4±0.2°にピークを有する」と特定されているのに対し、甲19白色粉末発明においては、Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおけるピークが明らかでない点。

相違点2-19-2:本件特許発明2においては、結晶であることが特定されているのに対し、甲19白色粉末発明においては、白色粉末ではあるものの結晶であることが明らかでない点。

イ 判断
(ア)相違点1-19-2について
a 甲第19号証においては、甲19白色粉末発明の認定の根拠となった合成例2の記載以外の他の記載においても、粉末X線回折パターンに関する記載がない。
また、甲19白色粉末発明において、記載がなくとも「Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=7.7±0.2°、17.2±0.2°、18.3±0.2°、19.6±0.2°、20.8±0.2°および21.4±0.2°にピークを有する7.6±0.2°にピークを有さ」ないことが記載されているに等しいとする本願優先日時点の技術常識もない。
したがって、上記相違点1-19-2は、実質的相違点である。

b また、甲第19号証は、新規なフルオレン骨格を有する新規な二官能性(メタ)アクリレートに関し、高分子材料や樹脂材料の原料として有用な新規なフルオレン化合物に関し、フルオレン骨格を有していても、ハンドリング性に優れ、高屈折率な新規なフルオレン骨格含有二官能性(メタ)アクリレートを提供することを前提とする発明であって、たとえ、甲第1?18号証から、結晶多形体の特性が、多形体毎に種々異なることが多いことや、多形体のスクリーニングが盛んに行われていること、多形体の分析に粉末X線回折が用いられることが技術常識となっているからといって、結晶であることすら明らかでない甲19白色粉末発明において、「Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=7.7±0.2°、17.2±0.2°、18.3±0.2°、19.6±0.2°、20.8±0.2°および21.4±0.2°にピークを有する」という相違点1-19-2の構成を採用する動機付けがあるとはいえない。

c さらに、甲19白色粉末発明に係る製造方法により結晶が析出するのかどうか明らかでなく、反応後の工程である「反応終了後、イソプロピルアルコール5000mlを加えて10℃まで冷却することにより得た」との合成例2の記載を考慮しても、溶媒成分、析出温度が本件特許発明2と相違しており、析出した白色粉末の粉末X線回折パターンが同じものになるとはいえないし、実施例として適正なものとして確立した条件を変更する動機も存在しない。

d したがって、甲19白色粉末発明において、「Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=7.7±0.2°、17.2±0.2°、18.3±0.2°、19.6±0.2°、20.8±0.2°および21.4±0.2°にピークを有する」という相違点1-19-2の構成の特定をすることは当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

e 特許異議申立人は、本件特許発明2の結晶は、本件特許明細書の結晶Bのパターンで、甲19白色粉末発明に、甲第20号証等の周知技術を組み合わせて得られた結晶は、本件特許明細書の結晶Bの結晶析出方法と同じ方法で得られたものであるから、測定すれば、同じ粉末X線回折パターンになるのは明らかである旨の主張をしているが、上述のとおり、結晶を得たことすら明らかでない甲19白色粉末発明において、甲第20号証等の溶媒を晶析溶媒に用いることには根拠がないし、組み合わせた場合に得られた結晶の粉末X線回折パターンを想定することの前提に妥当性がないのであるから、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

(ウ)本件特許発明2の効果について
a 本件特許発明2は、前記第2の請求項2に特定したように、「Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=7.7±0.2°、17.2±0.2°、18.3±0.2°、19.6±0.2°、20.8±0.2°および21.4±0.2°にピークを有する、下記式(1)(化学構造式省略)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶」との構成を採用することで、本件明細書【0026】に記載される「高純度かつ着色が少なく、更には、包接体ではない、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶が提供可能となる」という顕著な効果を奏している。

ウ 小括
したがって、本件特許発明2は、相違点2-19-2を検討するまでもなく、甲第19号証に記載された発明及び甲第1?17,20,21号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)本件特許発明3について
ア 対比
上記(1)アの本件特許発明1に関する対比と同様に、本件特許発明3と甲19白色粉末発明とは、
「(式(1)の化学構造式省略)
で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの固体」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-19-3:本件特許発明3においては、「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が190?196℃である」と特定されているのに対して、甲19白色粉末発明においては、示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が明らかではない点。

相違点2-19-3:本件特許発明1においては、結晶であることが特定されているのに対して、甲19白色粉末発明においては、白色粉末ではあるものの結晶であることが明らかでない点。

イ 判断
上記(1)イの本件特許発明1の判断と同様に、相違点1-19-3は、実質的相違点であり、甲19白色粉末発明から当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえず、本件特許発明3は、その構成を採用することで、顕著な効果を奏している。

ウ 特許異議申立人は、本件特許発明3の結晶は、本件特許明細書の結晶Cの融解吸熱最大温度を特定した発明で、甲19白色粉末発明から、結晶物性をさらに高めるために多形探索して晶析溶媒と結晶化温度を制御するという甲第20号証等の周知技術を組み合わせて当業者が容易に想到できるものにすぎない旨の主張をしているが、上述のとおり、結晶を得たことすら明らかでない甲19白色粉末発明において、甲第20号証等の溶媒を晶析溶媒に用いることには根拠がないし、結晶物性が異なる多形探索を行うことが一般的に知られているからといって、個別の甲19白色粉末発明において、晶析溶媒や結晶化温度を特定して選択することや、その条件の選択を前提として得られた結晶の融解吸熱最大温度範囲を特定することが容易に想到できるとはいえず、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

エ 小括
したがって、本件特許発明3は、相違点2-19-3について検討するまでもなく、甲第19号証に記載された発明及び甲第1?17,20,21号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)本件特許発明4について
ア 対比
上記(2)アの本件特許発明2に関する対比と同様に、本件特許発明4と甲19白色粉末発明とは、
「(式(1)の化学構造式省略)
で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの固体」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-19-4:本件特許発明4においては、「Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=14.9±0.2°、17.8±0.2°、18.9±0.2°、19.7±0.2°、20.0±0.2°および21.0±0.2°にピークを有する」と特定されているのに対して、甲19白色粉末発明においては、Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおけるピークが明らかでない点。

相違点2-19-4:本件特許発明4においては、結晶であることが特定されているのに対して、甲19白色粉末発明においては、白色粉末ではあるものの結晶であることが明らかでない点。

イ 判断
上記(2)イの本件特許発明2の判断と同様に、相違点1-19-4は、実質的相違点であり、甲19白色粉末発明から当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえず、本件特許発明4は、その構成を採用することで、顕著な効果を奏している。

ウ 特許異議申立人は、本件特許発明4の結晶は、本件特許明細書の結晶Cの粉末X線回折パターンを特定した発明で、甲19白色粉末発明から、結晶物性をさらに高めるために多形探索して晶析溶媒と結晶化温度を制御するという甲第20号証等の周知技術を組み合わせて当業者が容易に想到できるものにすぎない旨の主張をしているが、上述のとおり、結晶を得たことすら明らかでない甲19白色粉末発明において、甲第20号証等の溶媒を晶析溶媒に用いることには根拠がないし、結晶物性が異なる多形探索を行うことが一般的に知られているからといって、個別の甲19白色粉末発明において、晶析溶媒や結晶化温度を特定して選択することや、その条件の選択を前提として得られた結晶の粉末X線回折パターンを特定することが、容易に想到できるとはいえず、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

エ 小括
したがって、本件特許発明4は、相違点2-19-4について検討するまでもなく、甲第19号証に記載された発明及び甲第1?17,20,21号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(5)本件特許発明5について
ア 対比
上記(1)アの本件特許発明1に関する対比と同様に、本件特許発明5と甲19白色粉末発明とは、
「(式(1)の化学構造式省略)
で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの固体」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-19-5:本件特許発明5においては、「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が167?170℃である」と特定されているのに対して、甲19白色粉末発明においては、示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が明らかではない点。

相違点2-19-5:本件特許発明5においては、結晶であることが特定されているのに対して、甲19白色粉末発明においては、白色粉末ではあるものの結晶であることが明らかでない点。

イ 判断
上記(1)イの本件特許発明1の判断と同様に、相違点1-19-5は、実質的相違点であり、甲19白色粉末発明から当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえず、本件特許発明5は、その構成を採用することで、顕著な効果を奏している。

ウ 特許異議申立人は、本件特許発明5の結晶は、本件特許明細書の結晶Dの融解吸熱最大温度を特定した発明で、甲19白色粉末発明から、結晶物性をさらに高めるために多形探索して晶析溶媒と結晶化温度を制御するという甲第20号証等の周知技術を組み合わせて当業者が容易に想到できるものにすぎない旨の主張をしているが、上述のとおり、結晶を得たことすら明らかでない甲19白色粉末発明において、甲第20号証等の溶媒を晶析溶媒に用いることには根拠がないし、結晶物性が異なる多形探索を行うことが一般的に知られているからといって、個別の甲19白色粉末発明において、晶析溶媒や結晶化温度を特定して選択することや、その条件の選択を前提として得られた結晶の融解吸熱最大温度範囲を特定することが容易に想到できるとはいえず、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

エ 小括
したがって、本件特許発明5は、相違点2-19-5について検討するまでもなく、甲第19号証に記載された発明及び甲第1?17,20,21号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(6)本件特許発明6について
ア 対比
上記(2)アの本件特許発明2に関する対比と同様に、本件特許発明6と甲19白色粉末発明とは、
「(式(1)の化学構造式省略)
で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの固体」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-19-6:本件特許発明6においては、「Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=9.8±0.2°、14.9±0.2°、17.6±0.2°、18.8±0.2°、19.4±0.2°、20.0±0.2および20.6±0.2°」と特定されているのに対して、甲19白色粉末発明においては、Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおけるピークが明らかでない点。

相違点2-19-6:本件特許発明6においては、結晶であることが特定されているのに対して、甲19白色粉末発明においては、白色粉末ではあるものの結晶であることが明らかでない点。

イ 判断
上記(2)イの本件特許発明2の判断と同様に、相違点1-19-6は、実質的相違点であり、甲19白色粉末発明から当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえず、本件特許発明6は、その構成を採用することで、顕著な効果を奏している。

ウ 特許異議申立人は、本件特許発明4の結晶は、本件特許明細書の結晶Dの粉末X線回折パターンを特定した発明で、甲19白色粉末発明から、結晶物性をさらに高めるために多形探索して晶析溶媒と結晶化温度を制御するという甲第20号証等の周知技術を組み合わせて当業者が容易に想到できるものにすぎない旨の主張をしているが、上述のとおり、結晶を得たことすら明らかでない甲19白色粉末発明において、甲第20号証等の溶媒を晶析溶媒に用いることには根拠がないし、結晶物性が異なる多形探索を行うことが一般的に知られているからといって、個別の甲19白色粉末発明において、晶析溶媒や結晶化温度を特定して選択することや、その条件の選択を前提として得られた結晶の粉末X線回折パターンを特定することが、容易に想到できるとはいえず、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

エ 小括
したがって、本件特許発明6は、相違点2-19-6について検討するまでもなく、甲第19号証に記載された発明及び甲第1?17,20,21号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(7)本件特許発明7?9について
ア 本件特許発明7?9は、いずれも、本件特許発明1?6において、さらに技術的限定を加えた発明であって、少なくとも上記(1)?(6)で論じたのと同様の相違点を有する。
したがって、上記(1)?(6)で論じたのと同様の理由により、本件特許発明7?9は、第21号証に記載された発明及び甲第1?17,20,21号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

イ 特許異議申立人は、本件特許発明7、8、9のそれぞれ、「包接体でないこと」、「式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコール12gを、純度99重量%以上のN,N-ジメチルホルムアミド30mLに溶解させた溶液の黄色度(YI値)が10以下」、「芳香族炭化水素類の含量が1重量%以下である」との特定に関して、包接結晶であるかどうかの確認の動機付けや手段が周知であることや、高純度化のための着色度の特定が用途等から適宜行う設計事項であることや、芳香族炭化水素類の含量が1重量%以下であることが高純度化のために容易になし得ることを指摘し、進歩性の欠如の主張をしているが、上述のとおり、包接体、溶液の着色、結晶中の芳香族炭化水素類の含量に着目していない甲19白色粉末発明に対して、「包接体でないこと」、「式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコール12gを、純度99重量%以上のN,N-ジメチルホルムアミド30mLに溶解させた溶液の黄色度(YI値)が10以下」、「芳香族炭化水素類の含量が1重量%以下である」との特定することが、当業者が容易に想到できるとはいえず、上記特許異議申立人の主張はいずれも採用できない。

(8)本件特許発明10について(甲19白色粉末製造方法発明との対比・判断)
ア 対比
本件特許発明10と甲19白色粉末製造方法発明を対比すると、
甲19結晶製造方法発明の「9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン」は、本件特許発明10の「式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコール」であり、
甲19白色粉末製造方法発明の「10Lのセパラブルフラスコに、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン(BOPPF)502g(1mol)、エチレンカーボネート881g(10mol)、溶媒としてのジエチレングリコール1500g(17mol)を入れ、触媒として1-メチルイミダゾール10gを添加した後に、100℃に加熱して5時間反応させ」る工程は、本件特許発明10の「
(a)
炭素数が4以上の鎖状ケトン類存在下、下記式(2)

で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物とエチレンカーボネートとを反応させ、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールを含む反応液を得る工程。」
と「上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールを含む反応液を得る工程」である限りにおいて共通している。

したがって、本件特許発明10は、甲19白色粉末製造方法発明と、

「化合物9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの固体の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

上記1ア(又は2ア)の本件特許発明1(又は2)の検討において、認定した相違点1-19-1(又は2)、2-19-1(又は2)に対応する相違点1-19-10、2-19-10に加えて、
相違点3-23?10:本件特許発明10は、
「以下(a)?(c)の工程をこの順で含む、請求項1又は2項記載の上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの製造方法。
(a)
炭素数が4以上の鎖状ケトン類存在下、下記式(2)
(化学構造式省略)
で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物とエチレンカーボネートとを反応させ、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールを含む反応液を得る工程。
(b)
前記反応液から、炭素数が4以上の鎖状ケトン類を含有し、かつ芳香族炭化水素類及び環状ケトン類の合計含有量が10重量%未満である晶析溶液を調製する工程。
(c)
前記晶析溶液から75?85℃で結晶を析出させ、析出した結晶を分離する工程。」と特定されているのに対して、
甲19白色粉末製造方法発明においては、「10Lのセパラブルフラスコに、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン(BOPPF)502g(1mol)、エチレンカーボネート881g(10mol)、溶媒としてのジエチレングリコール1500g(17mol)を入れ、触媒として1-メチルイミダゾール10gを添加した後に、100℃に加熱して5時間反応させ、反応終了後、イソプロピルアルコール5000mlを加えて10℃まで冷却する」と特定されている点。

イ 判断
上記(1)イ(又は(2)イ)で検討したのと同様に、相違点1-19-10は実質的相違点であり、かつ当業者が容易になし得た技術的事項ではないし、相違点3-19-10についても、本件特許発明10と甲19白色粉末製造方法発明とでは、反応剤、反応溶媒、晶析溶媒、晶析温度の点で、相違しているか又は明らかにされておらず、甲19白色粉末製造方法発明において、反応剤、反応溶媒、晶析溶媒、晶析温度を本件特許発明10のように特定する動機付けや条件特定の示唆がないといえる。

ウ 小括
本件特許発明10は、相違点2-19-10について検討するまでもなく、甲第19号証に記載された発明及び甲第1?17,20,21号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(9)本件特許発明11について(甲19白色粉末製造方法発明との対比・判断)
ア 対比
本件特許発明11と甲19白色粉末製造方法発明を対比すると、
甲19白色粉末製造方法発明の「9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン」は、本件特許発明11の「式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコール」であり、
甲19白色粉末製造方法発明の「10Lのセパラブルフラスコに、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン(BOPPF)502g(1mol)、エチレンカーボネート881g(10mol)、溶媒としてのジエチレングリコール1500g(17mol)を入れ、触媒として1-メチルイミダゾール10gを添加した後に、100℃に加熱して5時間反応させ」る工程は、本件特許発明11の「
(d)
炭素数が4以上の鎖状ケトン類存在下、下記式(2)

で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物とエチレンカーボネートとを反応させ、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールを含む反応液を得る工程。」
と「上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールを含む反応液を得る工程」である限りにおいて共通している。

したがって、本件特許発明11は、甲19白色粉末製造方法発明と、

「化合物9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの固体の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

上記3ア(又は4ア)の本件特許発明3(又は4)の検討において、認定した相違点1-19-3(又は4)、2-19-3(又は4)に対応する相違点1-19-11、2-19-11に加えて、
相違点3-19?11:本件特許発明11は、
「以下(d)?(f)の工程をこの順で含む、請求項3又は4項記載の上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの製造方法。
(d)
炭素数が4以上の鎖状ケトン類存在下、下記式(2)
(化学構造式省略)
で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物とエチレンカーボネートとを反応させ、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールを含む反応液を得る工程。
(e)
前記反応液から、炭素数が4以上の鎖状ケトン類を含有し、かつ芳香族炭化水素類及び環状ケトン類の合計含有量が10重量%未満である晶析溶液を調製する工程。
(f)
前記晶析溶液から90?100℃で結晶を析出させ、析出した結晶を分離する工程。」と特定されているのに対して、
甲19白色粉末製造方法発明においては、「10Lのセパラブルフラスコに、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン(BOPPF)502g(1mol)、エチレンカーボネート881g(10mol)、溶媒としてのジエチレングリコール1500g(17mol)を入れ、触媒として1-メチルイミダゾール10gを添加した後に、100℃に加熱して5時間反応させ、反応終了後、イソプロピルアルコール5000mlを加えて10℃まで冷却する」と特定されている点。

イ 判断
上記(3)イ(又は(4)イ)で検討したのと同様に、相違点1-19-11は実質的相違点であり、かつ当業者が容易になし得た技術的事項ではないし、相違点3-19-11ついても、本件特許発明11と甲19白色粉末製造方法発明とでは、反応剤、反応溶媒、晶析溶媒、晶析温度の点で、相違しているか又は明らかにされておらず、甲19白色粉末製造方法発明において、反応剤、反応溶媒、晶析溶媒、晶析温度を本件特許発明11のように特定する動機付けや条件特定の示唆がないといえる。

ウ 小括
本件特許発明11は、相違点2-19-11について検討するまでもなく、甲第19号証に記載された発明及び甲第1?17,20,21号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(10)本件特許発明12について(甲19白色粉末製造方法発明との対比・判断)
ア 対比
本件特許発明12と甲19白色粉末製造方法発明を対比すると、
甲19白色粉末製造方法発明の「9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン」は、本件特許発明12の「式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコール」であり、
甲19白色粉末製造方法発明の「10Lのセパラブルフラスコに、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン(BOPPF)502g(1mol)、エチレンカーボネート881g(10mol)、溶媒としてのジエチレングリコール1500g(17mol)を入れ、触媒として1-メチルイミダゾール10gを添加した後に、100℃に加熱して5時間反応させ」る工程は、本件特許発明12の「
(g)
炭素数が4以上の鎖状ケトン類存在下、下記式(2)

で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物とエチレンカーボネートとを反応させ、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールを含む反応液を得る工程。」
と「上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールを含む反応液を得る工程」である限りにおいて共通している。

したがって、本件特許発明12は、甲19白色粉末製造方法発明と、

「化合物9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの固体の製造方法であって、反応後、冷却する工程を有する方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

上記5ア(又は6ア)の本件特許発明5(又は6)の検討において、認定した相違点1-19-5(又は6)、2-19-5(又は6)に対応する相違点1-19-12、2-19-12に加えて、
相違点3-19?12:本件特許発明12は、
「以下(g)?(i)の工程をこの順で含む、請求項5又は6項記載の上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの製造方法。
(g)
炭素数が4以上の鎖状ケトン類存在下、下記式(2)
(化学構造式省略)
で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物とエチレンカーボネートとを反応させ、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールを含む反応液を得る工程。
(h)
前記反応液から、炭素数が4以上の鎖状ケトン類を含有し、かつ芳香族炭化水素類及び環状ケトン類の合計含有量が10重量%未満である晶析溶液を調製する工程。
(i)
前記晶析溶液から70℃以下で結晶を析出させ、析出した結晶を分離する工程。」と特定されているのに対して、
甲19白色粉末製造方法発明においては、「10Lのセパラブルフラスコに、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン(BOPPF)502g(1mol)、エチレンカーボネート881g(10mol)、溶媒としてのジエチレングリコール1500g(17mol)を入れ、触媒として1-メチルイミダゾール10gを添加した後に、100℃に加熱して5時間反応させ、反応終了後、イソプロピルアルコール5000mlを加えて10℃まで冷却する」と特定されている点。

イ 判断
上記(5)イ(又は(6)イ)で検討したのと同様に、相違点1-19-12は実質的相違点であり、かつ当業者が容易になし得た技術的事項ではないし、相違点3-19-12ついても、本件特許発明12と甲19白色粉末製造方法発明とでは、反応剤、反応溶媒、晶析溶媒、晶析温度の点で、相違しているか又は明らかにされておらず、甲19白色粉末製造方法発明において、反応剤、反応溶媒、晶析溶媒、晶析温度を本件特許発明12のように特定する動機付けや条件特定の示唆がないといえる。

ウ 小括
本件特許発明12は、相違点2-19-12について検討するまでもなく、甲第19号証に記載された発明及び甲第1?17,20,21号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

異議申立理由1Bに関して
(1)本件特許発明1について(甲21結晶発明との対比・判断)
ア 対比
本件特許発明1と甲21結晶発明とを対比すると、甲21結晶発明の「9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン」とは、本件特許発明1の式(1)の化合物であり、フルオレン骨格を有するアルコールであるから、甲21結晶発明の「1Lのセパラブルフラスコに、9-フルオレノン18重量部(0.1モル)、o-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテル[又は2-ビフェニリル-(2-ヒドロキシエチル)エーテル]86重量部(0.4モル)、3-メルカプトプロピオン酸1.8重量部および溶媒としてのキシレン104重量部を投入した後に、60℃まで加温して完全に溶解させ、その後、徐々に硫酸を20重量部投入して、60℃で維持して5時間攪拌させ、得られた反応液に48%苛性ソーダ水を投入して中和した後に、抽出溶媒としてメチルイソブチルケトンを180重量部添加し、50重量部の水にて水層のpHが7になるまで洗浄を繰り返したのちに、冷却することで結晶を析出させ、さらにろ過して乾燥させた、純度が97.0%で、アセトンに10重量%の割合で溶解させて色相(APHA)を測定した値が30と着色が少ない9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶」は、本件特許発明1の「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が173?176℃である」、「

」「で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶」と、
「式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶」である限りにおいて共通する。

したがって、本件特許発明1は、甲21結晶発明と、「

で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-21-1:本件特許発明1においては、「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が173?176℃である」と特定されているのに対して、甲21結晶発明においては、示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が明らかではない点。

イ 判断
(ア)相違点1-21-1について
a 甲第21号証においては、甲21結晶発明の認定の根拠となった実施例3の記載以外の他の記載においても、示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度に関する記載がない。
また、甲21結晶発明において、記載がなくとも「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が173?176℃である」ことが記載されているに等しいとする本願優先日時点の技術常識もない。
したがって、上記相違点1-21-1は、実質的相違点である。

b また、甲第21号証は、高分子材料や樹脂材料の原料として有用なフルオレン化合物に関し、チオ酢酸等の触媒の存在下合成することでフルオレン化合物を合成することを前提とする発明であって、たとえ、甲第1?17号証から、結晶多形体の特性が、多形体毎に種々異なることが多いことや、多形体のスクリーニングが盛んに行われていること、多形体の分析に熱分析が用いられることが技術常識となっているからといって、融解吸熱最大温度に着目していない甲21結晶発明において、「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が173?176℃である」という相違点1-21-1の構成を採用する動機付けがあるとはいえない。
したがって、甲21結晶発明において、「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が173?176℃である」とすることは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

c 特許異議申立人は、甲第11号証?甲第15号証を提示して、フルオレン化合物が擬多形を形成することが技術常識であったことや甲第3号証、甲第10号証、甲第16号証を提示して、溶媒は不純物で純度を上げるために除去しなければならないことが技術常識であったことを主張しているが、擬多形を形成するからといって、狭義の包接結晶を形成するかどうかもわからないし、擬多形や包接結晶を形成することが常に問題となっているわけでも(甲第13?15号証では、むしろ包接化合物又は包接結晶を有用であると認識しているといえる。)、溶媒を除去することが困難であったことが技術常識であったわけでもないし、甲第3号証、甲第10号証、甲第16号証は、結晶の不純物に関して述べたものであり、溶媒が不純物の原因となり得る(とみなすことができる)ことを述べているだけで、どのような結晶を目的とするかによって溶媒の除去の必要性も異なるといえる。
したがって、特許異議申立人の上記主張もまた採用することはできない。

(ウ)本件特許発明1の効果について
a 本件特許発明1は、前記第2の請求項1に特定したように、「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が190?196℃である、下記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶。(化学構造式省略)」との構成を採用することで、本件明細書【0026】に記載される「高純度かつ着色が少なく、更には、包接体ではない、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶が提供可能となる」という顕著な効果を奏している。

b 特許異議申立人は、本件特許発明1の効果について、甲第1?16号証を指摘して、高品質な製品を得るために、高純度化し、包接結晶として組み込まれた溶媒を除去して不純物を減らすために包接体でない結晶をスクリーニングすることは、当業者が通常検討することであるし、高純度化された結果として着色が少なく包接体でない結晶が得られても顕著な効果とはいえない旨主張している。
しかしながら、上述のとおり、甲21結晶発明に関して、純度が高く着色の少ない結晶が得られたことが示されているだけで、上記、本件特許発明1の包接体でない結晶の効果が記載も示唆もされているわけではなく、甲21結晶発明から予測される効果であると理解することはできない(甲第22、23号証による本件化合物の非包接体製造方法の公知性に関する主張や、甲第24、25号証による比重や嵩密度に関する本件明細書の嵩密度の記載の信憑性に関する主張を考慮しても、本件特許発明1の効果が予想の範囲にすぎないことの理由となるものではない。)。
また、本件特許発明1は、上述のとおり、式(1)(化学構造式省略)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールにおいて、「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が173?176℃である」との構成を採用することで構成全体として特定の結晶を特定し、その結晶が効果を奏しており、単に、包接結晶として組み込まれた溶媒を除去して不純物を減らす必要性や可能である場合があることが知られているからといって、個々の結晶において、包接された溶媒分子が除去できるかどうかは不明であり、包接体でない特定の結晶である本件特許発明1の結晶による効果が顕著な効果でないことにはならない。
よって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

ウ 小括
したがって、本件特許発明1は、甲第21号証に記載された発明及び甲第1?17号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2) 本件特許発明2について
ア 対比
本件特許発明2と甲21結晶発明とを対比すると、甲21結晶発明の「9,9-ビス-(3'-フェニル-4'-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-フルオレン」とは、本件特許発明2の式(1)の化合物であり、フルオレン骨格を有するアルコールであるから、本件特許発明2は、甲21結晶発明と、「式(1)(化学構造式省略)
で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-21-2:本件特許発明2においては、「Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=7.7±0.2°、17.2±0.2°、18.3±0.2°、19.6±0.2°、20.8±0.2°および21.4±0.2°にピークを有する」と特定されているのに対して、甲21結晶発明においては、Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおけるピークが明らかでない点。

イ 判断
(ア)相違点1-21-2について
a 甲第21号証においては、甲21結晶発明の認定の根拠となった実施例3の記載以外の他の記載においても、粉末X線回折パターンに関する記載がない。
また、甲21結晶発明において、記載がなくとも「Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=7.7±0.2°、17.2±0.2°、18.3±0.2°、19.6±0.2°、20.8±0.2°および21.4±0.2°にピークを有する」ことが記載されているに等しいとする本願優先日時点の技術常識もない。
したがって、上記相違点1-21-2は、実質的相違点である。

b また、甲第21号証は、高分子材料や樹脂材料の原料として有用なフルオレン化合物に関し、チオ酢酸等の触媒の存在下合成することでフルオレン化合物を合成することを前提とする発明であって、たとえ、甲第1?17号証から、結晶多形体の特性が、多形体毎に種々異なることが多いことや、多形体のスクリーニングが盛んに行われていること、溶媒を原因とする擬多形の発生がめずらしくないこと、多形体の分析に粉末X線回折が用いられることが技術常識となっているからといって、甲21結晶発明において、「Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=7.7±0.2°、17.2±0.2°、18.3±0.2°、19.6±0.2°、20.8±0.2°および21.4±0.2°にピークを有する」という相違点1-21-2の構成を採用する動機付けがあるとはいえない。

c さらに、甲21結晶発明に係る製造方法によって結晶を析出するのかどうか明らかでなく、反応後の工程である「溶媒としてのキシレン104重量部を投入した後に、60℃まで加温して完全に溶解させ、その後、徐々に硫酸を20重量部投入して、60℃で維持して5時間攪拌させ、得られた反応液に48%苛性ソーダ水を投入して中和した後に、抽出溶媒としてメチルイソブチルケトンを180重量部添加し、50重量部の水にて水層のpHが7になるまで洗浄を繰り返したのちに、冷却することで結晶を析出させ、さらにろ過して乾燥させた」との実施例3の記載を考慮しても、晶析溶媒成分、析出温度が本件特許発明2と相違しているか又は少なくとも明らかでなく、析出した結晶の粉末X線回折パターンが同じものになるとはいえないし、実施例として適正なものとして確立した条件を変更する動機も存在しない。

d したがって、甲21結晶発明において、「Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=7.7±0.2°、17.2±0.2°、18.3±0.2°、19.6±0.2°、20.8±0.2°および21.4±0.2°にピークを有する」という相違点1-21-2の構成を採用することは当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

e 特許異議申立人は、甲21結晶発明において、甲21号証実施例3における反応液中のキシレンや抽出に用いたメチルイソブチルケトンのうち、メチルイソブチルケトンを晶析溶媒として用いて再結晶することが容易になし得る旨、及び析出温度は当業者に着目されていた結晶化条件であるからスクリーニングで制御することが技術常識である旨、本件特許発明10のように結晶析出すれば結晶Bが得られ粉末X線回折パターンを測定すれば本件特許発明2の結晶と同様のピークとなる旨主張をしている。
しかしながら、甲第21号証において、メチルイソブチルケトンは、抽出溶媒として用いられているのであり、晶析溶媒として用いて再結晶することなど示唆されてはいないし、析出温度が一般論として、結晶化条件の一つとして認識されているからといって、甲21結晶発明において、特定の晶析溶媒、特定の析出温度範囲を選定して結晶析出を行うことが当業者が容易に想到することになるとはいえない。
さらに、同じ製造方法が容易であるとの前提をおいた上で、本件特許発明10のように結晶析出すれば結晶Bが得られ粉末X線回折パターンを測定すれば本件特許発明2の結晶と同様のピークとなる旨主張には、甲21結晶発明をそのように変更する根拠がなく、上記特許異議申立人の主張はいずれも採用できない。

(イ)本件特許発明2の効果について
a 本件特許発明2は、前記第2の請求項2に特定したように、「Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=7.7±0.2°、17.2±0.2°、18.3±0.2°、19.6±0.2°、20.8±0.2°および21.4±0.2°にピークを有する、下記式(1)(化学構造式省略)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶」との構成を採用することで、本件明細書【0026】に記載される「高純度かつ着色が少なく、更には、包接体ではない、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶が提供可能となる」という顕著な効果を奏している。

ウ 小括
したがって、本件特許発明2は、甲第21号証に記載された発明及び甲第1?17号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)本件特許発明3について
ア 対比
上記(1)アの本件特許発明1に関する対比と同様に、本件特許発明3と甲21結晶発明とは、
「(式(1)の化学構造式省略)
で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-21-3:本件特許発明3においては、「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が190?196℃である」と特定されているのに対して、甲21結晶発明においては、示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が明らかではない点。

イ 判断
上記(1)イの本件特許発明1の判断と同様に、相違点1-21-3は、実質的相違点であり、甲21結晶発明から当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえず、本件特許発明3は、その構成を採用することで、顕著な効果を奏している。

ウ 小括
したがって、本件特許発明3は、甲第21号証に記載された発明及び甲第1?17号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)本件特許発明4について
ア 対比
上記(2)アの本件特許発明2に関する対比と同様に、本件特許発明4と甲21結晶発明とは、
「(式(1)の化学構造式省略)
で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-21-4:本件特許発明4においては、「Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=14.9±0.2°、17.8±0.2°、18.9±0.2°、19.7±0.2°、20.0±0.2°および21.0±0.2°にピークを有する」と特定されているのに対して、甲21結晶発明においては、Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおけるピークが明らかでない点。

イ 判断
上記(2)イの本件特許発明2の判断と同様に、相違点1-21-4は、実質的相違点であり、甲21結晶発明から当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえず、本件特許発明4は、その構成を採用することで、顕著な効果を奏している。

ウ 小括
したがって、本件特許発明4は、甲第21号証に記載された発明及び甲第1?17号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(5)本件特許発明5について
ア 対比
上記(1)アの本件特許発明1に関する対比と同様に、本件特許発明5と甲21結晶発明とは、
「(式(1)の化学構造式省略)
で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-21-5:本件特許発明5においては、「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が167?170℃である」と特定されているのに対して、甲21結晶発明においては、示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が明らかではない点。

イ 判断
上記(1)イの本件特許発明1の判断と同様に、相違点1-21-5は、実質的相違点であり、甲21結晶発明から当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえず、本件特許発明5は、その構成を採用することで、顕著な効果を奏している。

ウ 小括
したがって、本件特許発明5は、甲第21号証に記載された発明及び甲第1?17号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(6)本件特許発明6について
ア 対比
上記(2)アの本件特許発明2に関する対比と同様に、本件特許発明6と甲21結晶発明とは、
「(式(1)の化学構造式省略)
で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-21-6:本件特許発明6においては、「Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=9.8±0.2°、14.9±0.2°、17.6±0.2°、18.8±0.2°、19.4±0.2°、20.0±0.2および20.6±0.2°にピークを有する」と特定されているのに対して、甲21結晶発明においては、Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおけるピークが明らかでない点。

イ 判断
上記(2)イの本件特許発明2の判断と同様に、相違点1-21-6は、実質的相違点であり、甲21結晶発明から当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえず、本件特許発明6は、その構成を採用することで、顕著な効果を奏している。

ウ 小括
したがって、本件特許発明6は、甲第21号証に記載された発明及び甲第1?17号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(7)本件特許発明7?9について
ア 本件特許発明7?9は、いずれも、本件特許発明1?6において、さらに技術的限定を加えた発明であって、少なくとも上記(1)?(6)で論じたのと同様の相違点を有する。
したがって、上記(1)?(6)で論じたのと同様の理由により、本件特許発明7?9は、第21号証に記載された発明及び甲第1?17号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

イ 特許異議申立人は、本件特許発明7、8、9のそれぞれ、「包接体でないこと」、「式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコール12gを、純度99重量%以上のN,N-ジメチルホルムアミド30mLに溶解させた溶液の黄色度(YI値)が10以下」、「芳香族炭化水素類の含量が1重量%以下である」との特定に関して、包接結晶であるかどうかの確認の動機付けや手段が周知であることや、高純度化のための着色度の特定が用途等から適宜行う設計事項であることや、芳香族炭化水素類の含量が1重量%以下であることが高純度化のために容易になし得ることを指摘し、進歩性の欠如の主張をしているが、上述のとおり、包接体、溶液の黄色度、結晶中の芳香族炭化水素類の含量に着目していない甲21結晶発明に対して、「包接体でないこと」、「式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコール12gを、純度99重量%以上のN,N-ジメチルホルムアミド30mLに溶解させた溶液の黄色度(YI値)が10以下」、「芳香族炭化水素類の含量が1重量%以下である」との特定することが、当業者が容易に想到できるとはいえず、上記特許異議申立人の主張はいずれも採用できない。

(8)本件特許発明10について(甲21結晶製造方法発明との対比・判断)
ア 対比
本件特許発明10と甲21結晶製造方法発明を対比すると、
甲21結晶製造方法発明の「9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン」は、本件特許発明10の「式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコール」であり、
甲21結晶製造方法発明の「1Lのセパラブルフラスコに、9-フルオレノン18重量部(0.1モル)、o-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテル[又は2-ビフェニリル-(2-ヒドロキシエチル)エーテル]86重量部(0.4モル)、3-メルカプトプロピオン酸1.8重量部および溶媒としてのキシレン104重量部を投入した後に、60℃まで加温して完全に溶解させ、その後、徐々に硫酸を20重量部投入して、60℃で維持して5時間攪拌させ」「反応液」を得る工程は、本件特許発明10の「(a)
炭素数が4以上の鎖状ケトン類存在下、下記式(2)

で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物とエチレンカーボネートとを反応させ、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールを含む反応液を得る工程。」
と「上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールを含む反応液を得る工程」である限りにおいて共通している。

また、甲21結晶製造方法発明の「得られた反応液に48%苛性ソーダ水を投入して中和した後に、抽出溶媒としてメチルイソブチルケトンを180重量部添加し、50重量部の水にて水層のpHが7になるまで洗浄を繰り返したのちに、冷却することで結晶を析出させ、さらにろ過し、乾燥させる」工程は、本件特許発明10の「(b)
前記反応液から、炭素数が4以上の鎖状ケトン類を含有し、かつ芳香族炭化水素類及び環状ケトン類の合計含有量が10重量%未満である晶析溶液を調製する工程。
(c)
前記晶析溶液から75?85℃で結晶を析出させ、析出した結晶を分離する工程。」と「反応液」を処理後、「結晶を析出させ、析出した結晶を分離する工程。」工程を有する限りにおいて共通している。

したがって、本件特許発明10は、甲21結晶製造方法発明と、

「式(1)(化学構造式省略)
で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶の製造方法であって、反応液を処理後、冷却することで結晶を析出させ、析出した結晶を分離する工程を有する方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

上記1ア(又は2ア)の本件特許発明1(又は2)の検討において、認定した相違点1-21-1(又は相違点1-21-2)に対応する相違点1-21-10、1-21-10’に加えて、
相違点2-21?10:本件特許発明10は、
「以下(a)?(c)の工程をこの順で含む、請求項1又は2項記載の上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの製造方法。
(a)
炭素数が4以上の鎖状ケトン類存在下、下記式(2)
(化学構造式省略)
で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物とエチレンカーボネートとを反応させ、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールを含む反応液を得る工程。
(b)
前記反応液から、炭素数が4以上の鎖状ケトン類を含有し、かつ芳香族炭化水素類及び環状ケトン類の合計含有量が10重量%未満である晶析溶液を調製する工程。
(c)
前記晶析溶液から75?85℃で結晶を析出させ、析出した結晶を分離する工程。」と特定されているのに対して、
甲21結晶製造方法発明においては、「1Lのセパラブルフラスコに、9-フルオレノン18重量部(0.1モル)、o-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテル[又は2-ビフェニリル-(2-ヒドロキシエチル)エーテル]86重量部(0.4モル)、3-メルカプトプロピオン酸1.8重量部および溶媒としてのキシレン104重量部を投入した後に、60℃まで加温して完全に溶解させ、その後、徐々に硫酸を20重量部投入して、60℃で維持して5時間攪拌させ、得られた反応液に48%苛性ソーダ水を投入して中和した後に、抽出溶媒としてメチルイソブチルケトンを180重量部添加し、50重量部の水にて水層のpHが7になるまで洗浄を繰り返したのちに、冷却することで結晶を析出させ、さらにろ過し、乾燥させる」と特定されている点。

イ 判断
上記(1)イ(又は(2)イ)で検討したのと同様に、相違点1-21-10(又は1-21-10’)は実質的相違点であり、かつ当業者が容易になし得た技術的事項ではないし、相違点2-21-10についても、本件特許発明10と甲21結晶製造方法発明とでは、反応剤、反応溶媒、晶析溶媒、晶析温度の点で、相違しているか又は明らかにされておらず、甲21結晶製造方法発明において、反応剤、反応溶媒、晶析溶媒、晶析温度を本件特許発明10のように特定する動機付けや条件特定の示唆がないといえる。

ウ 小括
本件特許発明10は、甲第21号証に記載された発明及び甲第1?17号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(9)本件特許発明11について(甲21結晶製造方法発明との対比・判断)
ア 対比
本件特許発明11と甲21結晶製造方法発明を対比すると、
甲21結晶製造方法発明の「9,9-ビス-(3'-フェニル-4'-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-フルオレン」は、本件特許発明11の「式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコール」であり、
甲21結晶製造方法発明の「1Lのセパラブルフラスコに、9-フルオレノン18重量部(0.1モル)、o-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテル[又は2-ビフェニリル-(2-ヒドロキシエチル)エーテル]86重量部(0.4モル)、3-メルカプトプロピオン酸1.8重量部および溶媒としてのキシレン104重量部を投入した後に、60℃まで加温して完全に溶解させ、その後、徐々に硫酸を20重量部投入して、60℃で維持して5時間攪拌させ」「反応液」を得る工程は、本件特許発明11の「(d)
炭素数が4以上の鎖状ケトン類存在下、下記式(2)

で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物とエチレンカーボネートとを反応させ、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールを含む反応液を得る工程。」と「上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールを含む反応液を得る工程」である限りにおいて共通している。

また、甲21結晶製造方法発明の「得られた反応液に48%苛性ソーダ水を投入して中和した後に、抽出溶媒としてメチルイソブチルケトンを180重量部添加し、50重量部の水にて水層のpHが7になるまで洗浄を繰り返したのちに、冷却することで結晶を析出させ、さらにろ過し、乾燥させる」工程は、本件特許発明11の「(e)
前記反応液から、炭素数が4以上の鎖状ケトン類を含有し、かつ芳香族炭化水素類及び環状ケトン類の合計含有量が10重量%未満である晶析溶液を調製する工程。
(f)
前記晶析溶液から90?100℃で結晶を析出させ、析出した結晶を分離する工程。」
と「反応液」を処理後、「結晶を析出させ、析出した結晶を分離する工程。」工程を有する限りにおいて共通している。

したがって、本件特許発明11は、甲21結晶製造方法発明と、

「式(1)(化学構造式省略)
でされるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶の製造方法であって、反応液を処理後、冷却することで結晶を析出させ、析出した結晶を分離する工程を有する方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

上記3ア(又は4ア)の本件特許発明3(又は4)の検討において、認定した相違点1-21-3(又は相違点1-21-4)に対応する相違点1-21-11、1-21-11’に加えて、
相違点2-21?11:本件特許発明11は、
「以下(d)?(f)の工程をこの順で含む、請求項3又は4項記載の上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの製造方法。
(d)
炭素数が4以上の鎖状ケトン類存在下、下記式(2)
(化学構造式省略)
で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物とエチレンカーボネートとを反応させ、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールを含む反応液を得る工程。
(e)
前記反応液から、炭素数が4以上の鎖状ケトン類を含有し、かつ芳香族炭化水素類及び環状ケトン類の合計含有量が10重量%未満である晶析溶液を調製する工程。
(f)
前記晶析溶液から90?100℃で結晶を析出させ、析出した結晶を分離する工程。」と特定されているのに対して、
甲21結晶製造方法発明においては、「1Lのセパラブルフラスコに、9-フルオレノン18重量部(0.1モル)、o-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテル[又は2-ビフェニリル-(2-ヒドロキシエチル)エーテル]86重量部(0.4モル)、3-メルカプトプロピオン酸1.8重量部および溶媒としてのキシレン104重量部を投入した後に、60℃まで加温して完全に溶解させ、その後、徐々に硫酸を20重量部投入して、60℃で維持して5時間攪拌させ、得られた反応液に48%苛性ソーダ水を投入して中和した後に、抽出溶媒としてメチルイソブチルケトンを180重量部添加し、50重量部の水にて水層のpHが7になるまで洗浄を繰り返したのちに、冷却することで結晶を析出させ、さらにろ過し、乾燥させる」と特定されている点。

イ 判断
上記(3)イ(又は(4)イ)で検討したのと同様に、相違点1-21-11(又は1-21-11’)は実質的相違点であり、かつ当業者が容易になし得た技術的事項ではないし、相違点2-21-11についても、本件特許発明11と甲21結晶製造方法発明とでは、反応剤、反応溶媒、晶析溶媒、晶析温度の点で、相違しているか又は明らかにされておらず、甲21結晶製造方法発明において、反応剤、反応溶媒、晶析溶媒、晶析温度を本件特許発明11のように特定する動機付けや条件特定の示唆がないといえる。

ウ 小括
本件特許発明11は、甲第21号証に記載された発明及び甲第1?17号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(10)本件特許発明12について(甲21結晶製造方法発明との対比・判断)
ア 対比
本件特許発明12と甲21結晶製造方法発明を対比すると、
甲21結晶製造方法発明の「9,9-ビス-(3'-フェニル-4'-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-フルオレン」は、本件特許発明12の「式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコール」であり、
甲21結晶製造方法発明の「1Lのセパラブルフラスコに、9-フルオレノン18重量部(0.1モル)、o-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテル[又は2-ビフェニリル-(2-ヒドロキシエチル)エーテル]86重量部(0.4モル)、3-メルカプトプロピオン酸1.8重量部および溶媒としてのキシレン104重量部を投入した後に、60℃まで加温して完全に溶解させ、その後、徐々に硫酸を20重量部投入して、60℃で維持して5時間攪拌させ」「反応液」を得る工程は、本件特許発明12の「(g)
炭素数が4以上の鎖状ケトン類存在下、下記式(2)

で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物とエチレンカーボネートとを反応させ、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールを含む反応液を得る工程。」と「上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールを含む反応液を得る工程」である限りにおいて共通している。

また、甲21結晶製造方法発明の「得られた反応液に48%苛性ソーダ水を投入して中和した後に、抽出溶媒としてメチルイソブチルケトンを180重量部添加し、50重量部の水にて水層のpHが7になるまで洗浄を繰り返したのちに、冷却することで結晶を析出させ、さらにろ過し、乾燥させる」工程は、本件特許発明12の「(h)
前記反応液から、炭素数が4以上の鎖状ケトン類を含有し、かつ芳香族炭化水素類及び環状ケトン類の合計含有量が10重量%未満である晶析溶液を調製する工程。
(i)
前記晶析溶液から70℃以下で結晶を析出させ、析出した結晶を分離する工程。」
と「反応液」を処理後、「結晶を析出させ、析出した結晶を分離する工程。」工程を有する限りにおいて共通している。

したがって、本件特許発明12は、甲21結晶製造方法発明と、

「式(1)(化学構造式省略)
で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶の製造方法であって、反応液を処理後、冷却することで結晶を析出させ、析出した結晶を分離する工程を有する方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

上記5ア(又は6ア)の本件特許発明5(又は6)の検討において、認定した相違点1-21-5(又は相違点1-21-6)に対応する相違点1-21-12、1-21-12’に加えて、
相違点2-21?12:本件特許発明12は、
「以下(g)?(i)の工程をこの順で含む、請求項5又は6項記載の上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの製造方法。
(g)
炭素数が4以上の鎖状ケトン類存在下、下記式(2)
(化学構造式省略)
で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物とエチレンカーボネートとを反応させ、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールを含む反応液を得る工程。
(h)
前記反応液から、炭素数が4以上の鎖状ケトン類を含有し、かつ芳香族炭化水素類及び環状ケトン類の合計含有量が10重量%未満である晶析溶液を調製する工程。
(i)
前記晶析溶液から70℃以下で結晶を析出させ、析出した結晶を分離する工程。」と特定されているのに対して、
甲21結晶製造方法発明においては、「1Lのセパラブルフラスコに、9-フルオレノン18重量部(0.1モル)、o-フェニルフェノール(2-ヒドロキシエチル)エーテル[又は2-ビフェニリル-(2-ヒドロキシエチル)エーテル]86重量部(0.4モル)、3-メルカプトプロピオン酸1.8重量部および溶媒としてのキシレン104重量部を投入した後に、60℃まで加温して完全に溶解させ、その後、徐々に硫酸を20重量部投入して、60℃で維持して5時間攪拌させ、得られた反応液に48%苛性ソーダ水を投入して中和した後に、抽出溶媒としてメチルイソブチルケトンを180重量部添加し、50重量部の水にて水層のpHが7になるまで洗浄を繰り返したのちに、冷却することで結晶を析出させ、さらにろ過し、乾燥させる」と特定されている点。

イ 判断
上記(5)イ(又は(6)イ)で検討したのと同様に、相違点1-21-12(又は1-21-12’)は実質的相違点であり、かつ当業者が容易になし得た技術的事項ではないし、相違点2-21-12についても、本件特許発明12と甲21結晶製造方法発明とでは、反応剤、反応溶媒、晶析溶媒、晶析温度の点で、相違しているか又は明らかにされておらず、甲21結晶製造方法発明において、反応剤、反応溶媒、晶析溶媒、晶析温度を本件特許発明12のように特定する動機付けや条件特定の示唆がないといえる。

ウ 小括
本件特許発明12は、甲第21号証に記載された発明及び甲第1?17号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

4 異議申立理由1A及び1B(進歩性)についての判断のまとめ
以上のとおり、本件特許発明1?12は、甲第19号証又は甲第21号証記載の発明、及び甲第1?17号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明をすることができるものとはいえないので、異議申立理由1A及び1Bには、理由がない。

異議申立理由2(サポート要件)について
特許異議申立人は、第3 2に記載のようにサポート要件について理由を述べている。
1 異議申立理由2の概要
請求項1?12に係る発明について、融解吸熱最大温度のみ又は粉末X線回折パターンのみの特定では結晶が十分に特定されておらず、本件特許発明1?9の詳細な説明に記載された結晶以外の他の結晶を含み得ることは明らかであり、また、製造条件の僅かな違いにより同一の結晶が得られなくなることは周知であり、本件特許発明10?12の製造条件を経て得られた結晶がすべて本件特許発明1?9の結晶となることは自明でないから、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

2 判断
(1)本願発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件特許発明の課題
本件特許発明の課題は、【0002】?【0009】の【背景技術】の記載、【0011】の【発明が解決しようとする課題】の記載及び明細書全体の記載からみて、高純度かつ着色が少なく、更には包接体ではない、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶を提供することにあるといえる。

(3) 発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書には、【0012】の【課題を解決するための手段】によって、【0026】?【0028】の【発明の効果】として、高純度かつ着色が少なく、更には、包接体ではない、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶が提供可能で、ゲスト分子の除去も沸点以上での乾燥で除去でき工業的意義があることが記載され、【0030】?【0039】の本件特許発明の包接体でない結晶B、C、Dの示差走査熱量測定(DSC)、粉末X線回折、嵩密度上の特徴(従来の結晶Aとの比較)、【0040】?【0050】の式(1)の化合物の反応工程の記載、【0051】?【0058】の晶析溶液調製工程及び晶析工程の記載、【0059】の乾燥工程の記載、【0060】の本件特許発明の精製操作と用途の記載がなされている。
さらに、HPLC純度、残存溶媒量、包接溶媒量、包接体であることの確認、示差走査熱量測定(DSC)、粉末X線回折、YI値、嵩密度の各分析条件が示され(【0062】?【0068】)、実施例1として、「上記式(2)で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物(9,9’-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン)120g(0.239mol)、炭酸カリウム2.8g(0.020mol)、エチレンカーボネート48g(0.545mol)、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと称することもある)180gを仕込み、120℃まで昇温し、同温度で6時間撹拌後、HPLCにて原料が消失していることを確認した。
得られた反応液を80℃まで冷却した後、MIBK180g、水180gを加え、80?85℃で1時間撹拌し、静置後、水層を分離した。同じ操作を3回繰り返した後、MIBK130g、ヘプタン210gを添加し、晶析溶液を得た。
得られた晶析溶液を100℃まで昇温し、30分間撹拌して結晶を完溶させた後、該晶析溶液を0.8℃/分で冷却することにより80℃で結晶を析出させ、同温度で2時間撹拌した。撹拌後、更に25℃まで冷却し、結晶を得た。
得られた結晶を内圧0.4kPaの減圧下、内温85?90℃で9時間乾燥した所、MIBK及びヘプタンの合計含有量が0.2重量%となった為、乾燥終了とした。
【0070】
得られた上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶の各分析値は以下の通り。
得られた結晶の重さ:125g(収率:82%)
HPLC純度:98.6%
101.3kPaにおける沸点が150℃以下の有機溶媒の含有量(MIBK及びヘプタンの含有量を含む):0.24重量%
YI値:5.2
DSC融解吸熱最大温度:175℃
嵩密度:0.5g/cm^(3)」との記載、及び「本実施例で得られた上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールは、回折角2θ=7.7±0.2°、17.2±0.2°、18.3±0.2°、19.6±0.2°、20.8±0.2°および21.4±0.2°に特徴的な回折ピークを示した。(以下、本パターンと同様のX線ピークを有するものを「パターンB」と称することがある。)」との記載がなされている(【0069】?【0071】)。
また、実施例2として、「上記式(2)で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物(9,9’-ビス(4-ヒドロキシー3-フェニルフェニル)フルオレン)138g(0.275mol)、炭酸カリウム3.1g(0.022mol)、エチレンカーボネート50.8g(0.577mol)、MIBK138gを仕込み、120℃まで昇温し、同温度で9時間撹拌後、HPLCにて原料が消失していることを確認した。
得られた反応液を80℃まで冷却した後、MIBK276g、水207gを加え、70?75℃で2時間撹拌し、静置後、水層を分離した。同じ操作を3回繰り返した後、MIBK55g、ヘプタン198gを添加し、晶析溶液を得た。
得られた晶析溶液を105℃まで昇温し、30分間撹拌して結晶を完溶させた後、該晶析溶液を0.1℃/分で冷却することにより95℃で結晶を析出させ、同温度で2時間撹拌した。その後、25℃まで冷却、濾過し、結晶を得た。
得られた結晶を内圧1.3kPaの減圧下、内温80?90℃で3時間乾燥した所、MIBKの含有量が0.06重量%となった為、乾燥終了とした。
【0073】
得られた上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶の各分析値は以下の通り。
得られた結晶の重さ:127g(収率:78%)
HPLC純度:98.7%
101.3kPaにおける沸点が150℃以下の有機溶媒の含有量(MIBK及びヘプタンの含有量を含む):0.07重量%
YI値:7.0
DSC融解吸熱最大温度:195℃
嵩密度:0.6g/cm^(3)」との記載、
「本実施例で得られた上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールは、回折角2θ=14.9±0.2°、17.8±0.2°、18.9±0.2°、19.7±0.2°、20.0±0.2°および21.0±0.2°に特徴的な回折ピークを示した。
(以下、本パターンと同様のX線ピークを有するものを「パターンC」と称することがある。)」との記載がなされている(【0072】?【0074】)。
さらに、実施例3として、「記式(2)で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物(9,9’-ビス(4-ヒドロキシー3-フェニルフェニル)フルオレン)150g(0.298mol)、炭酸カリウム3.4g(0.025mol)、エチレンカーボネート65.7g(0.747mol)、メチルイソアミルケトン(以下、MIAKと称することもある)150gを仕込み、120℃まで昇温し、同温度で7時間撹拌後、HPLCにて原料が消失していることを確認した。
得られた反応液を90℃まで冷却した後、水150gを加え、85?90℃で30分撹拌し、静置後、水層を分離した。同じ操作を3回繰り返した後、MIAK250gを添加し、晶析溶液を得た。
得られた晶析溶液を110℃まで昇温し、30分間撹拌して結晶を完溶させた後、該晶析溶液を0.3℃/分で98℃まで冷却し、同温度で、実施例2で得られた結晶20mgを種晶として接種し、10分撹拌した所、結晶が析出し始めた為、同温度で1時間撹拌した。撹拌後、更に22℃まで冷却した後、濾過し、結晶を得た。
得られた結晶を内圧1.3kPaの減圧下、内温80?90℃で3時間乾燥した所、MIAKの含有量が0.07重量%となった為、乾燥終了とした。
【0076】
得られた上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶の各分析値は以下の通り。
得られた結晶の重さ:112g(収率:64%)
HPLC純度:98.1%
101.3kPaにおける沸点が150℃以下の有機溶媒の含有量(MIAKを含む):0.08重量%
YI値:1.7
DSC融解吸熱最大温度:195℃
嵩密度:0.8g/cm^(3)
X線回折パターン:パターンC」との記載がなされている(【0075】?【0076】)。
そして、実施例4には、「実施例1と同じスケール、同様の方法にて反応工程、水洗工程を行った後、得られた水洗工程後の反応液にMIBK240g、ヘプタン240gを添加し、晶析溶液を得た。
得られた晶析溶液を100℃まで昇温し、30分間撹拌して結晶を完溶させた後、該晶析溶液を1.5℃/分で冷却することにより69℃で結晶を析出させ、同温度で2時間撹拌した。撹拌後、更に20℃まで冷却した後、濾過し、結晶を得た。
得られた結晶を内圧1.3kPaの減圧下、内温80?85℃で3時間乾燥した所、MIBK及びヘプタンの合計含有量が0.8重量%となった為、乾燥終了とした。
得られた上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールの結晶の各分析値は以下の通り。
得られた結晶の重さ:107g(収率:76%)
HPLC純度:98.3%
101.3kPaにおける沸点が150℃以下の有機溶媒の含有量(MIBK及びヘプタンの含有量を含む):0.8重量%
YI値:4.5
DSC融解吸熱最大温度:169℃
嵩密度:1.5g/cm^(3)」との記載との記載、及び、「上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するアルコールは、回折角2θ=9.8±0.2°、14.9±0.2°、17.6±0.2°、18.8±0.2°、19.4±0.2°、20.0±0.2および20.6±0.2°に特徴的な回折ピークを示した。(以下、本パターンと同様のX線ピークを有するものを「パターンD」と称することがある。)」との記載がなされている(【0077】?【0078】)。
そして、実施例1?4と比較例1?5との比較によって、反応溶媒としてMIEK(又はMIAK)、結晶析出溶媒としてMIEKとヘプタン(又はMIAK)を添加して調製すること、結晶析出温度を一定範囲とすることで、一定温度の乾燥で有機溶媒含量を減少できたことが示されている(【0070】【0073】【0076】【0077】)。
さらに、【0092】?【0097】の【表1】?【表6】(粉末X線回折ピークの主なものを列挙したもの)、【図1】?【図10】には、実施例及び従来技術を含めた比較例の示差走査熱量測定(DSC)曲線、粉末X線回折パターン、TG-DTAチャート図が示されている。

(4)判断
上記(3)のとおり、本件特許発明1?7の各特定事項に対応して、本件特許明細書には、「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度」又は「Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターン」に関する特定事項が、結晶が包接体を形成していないものであるとの記載がなされ(【0031】【0032】【0037】)、【0037】には、包接体とならないことによる本件特許発明の効果の記載、【0038】には、包接体であることの確認のための分析手法の記載の一般的記載が存在し、実施例における溶媒含量の分析、比較例1,2において、TG-DTA曲線を用いた包接体であることの確認がなされている(【0081】【0084】)。
また、「Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターン」「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度」に関する特定事項は、それぞれ、結晶の構造自体や、示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度を用いて結晶の特性である融点を特定しているものとして理解でき、実施例において、実際にそれらの特定事項に該当するものが製造方法とともに記載されている。
したがって、本件特許発明1?7に係る結晶の製造方法の記載が存在し、本件特許発明の特定事項の分析手法とともに、本件特許発明の効果を奏した具体的検証結果の記載も存在するのであるから、本件特許発明1?7の構成によって、当業者であれば上記本件特許発明の課題を解決できることを認識できるといえる。

また、本件特許発明8?12に関しても、【0036】【0067】【0070】【0073】【0076】【0077】のYI値に関する記載、【0041】【0042】の反応工程における炭素数が4以上の鎖状ケトン類の技術的意義等の記載、【0051】?【0053】の晶析溶媒中の炭素数が4以上の鎖状ケトン類と「芳香族炭化水素類及び環状ケトン類の合計含有量が10重量%未満」とすることの技術的意議の記載及び具体例の記載、【0054】?【0059】の晶析工程の温度調整の記載、及び乾燥工程の記載について、併せて考慮すれば、本件特許発明1?7と同様に、本件特許発明8?12の構成によって、当業者であれば上記本件特許発明の課題を解決できることを認識できるといえる。

特許異議申立人は、「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度」又は「Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターン」の一部の回折角2θのピーク」を特定しただけで、本件特許発明の課題を解決できるという技術常識がなく、甲第2号証、甲第17号証を挙げて、様々な分析手法を組み合わせて結晶を特定しなければ他の結晶を含み得る旨の主張をしている。
しかしながら、本件特許発明1における特定事項である、「Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=・・・にピークを有する」ことや、「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が・・・℃」であることは、結晶の特性を示すパラメータとして常套手段である粉末X線回折パターンや熱分析による融点の特定事項を用い、結晶を特定しているのであるから、それらを技術思想としている発明として問題があるとはいえず、発明の詳細な説明に記載された、上述した各特定事項の一般的記載や、本件特許発明の条件を外れる従来技術を含めた比較例の具体的検証結果の記載を参考にすれば、本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できるといえる。
甲第2号証、甲第17号証の記載は、様々な分析手法を組み合わせて結晶を正確に特定することの有用性に関して述べているにすぎず、特許異議申立人は、具体的に本件特許発明に含まれる本件特許発明の課題が解決できない結晶を明らかにしているわけでもないのであるから、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない(甲第26号証の融解吸熱最大温度は、本件特許発明の範囲に存在しないし、甲第27、28号証は、本願の優先権主張の基礎となる出願内容の記載であって、結晶B,Dの知見に部分的に追加があったからといって、上記結論に影響があるものではない。)。
また、本件特許発明10?12に関して、実施例で開示されている限られた製造条件から本件特許発明10?12の製造条件を経て得られた結晶がすべて本件特許発明1?6の結晶となることは自明でない旨主張している点は、当業者であれば、実施例の記載だけでなく、上述の比較例の記載、発明の詳細な説明の一般的記載、各工程の技術的意議に関する記載等を考慮することで、本件特許発明10?12の課題を解決できると当業者が認識できるといえる。
したがって、特許異議申立人の上記主張はいずれも採用することはできない。

3 異議申立理由2の判断のまとめ
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載について、請求項1?12に係る発明は、発明の詳細な説明の記載に記載されているといえるので、異議申立理由2には、理由がない。

異議申立理由3(実施可能要件)について
特許異議申立人は、前記第3 3に記載のように実施可能要件について理由を述べている。
1 異議申立理由3の概要
請求項1?12に係る発明について、結晶化の際のパラメータの変化によって得られる多形が変化し、晶析後の転移も考慮すると厳密な条件で製造しなければ同じ多形が得られないことは技術常識であるのに対し、実施例では、一部の条件しか記載されていないから、本件明細書には、請求項1?9に係る発明の結晶を製造するには、過度な試行錯誤が必要であることは明らかで、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

2 判断
異議申立理由2で述べたのと同様に、前記2(4)のとおり、本件特許明細書には、「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度」又は「Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターン」に関する特定事項が、結晶が包接体を形成していないものであるとの記載がなされ(【0031】【0032】【0037】)、【0037】には、包接体とならないことによる本件特許発明の効果の記載、【0038】には、包接体であることの確認のための分析手法の記載の一般的記載が存在し、実施例における溶媒含量の分析、比較例1,2において、TG-DTA曲線を用いた包接体であることの確認がなされている(【0081】【0084】)。
また、「Cu-K_(α)線による粉末X線回折パターン」「示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度」に関する特定事項は、それぞれ、結晶の構造自体や、示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度を用いて結晶の特性である融点を特定しているものとして理解でき、実施例において、実際にそれらの特定事項に該当するものが製造方法とともに記載されている。
したがって、本件特許明細書には、本件特許発明1?7の特定事項の範囲で、本件特許発明の効果を奏した具体的検証結果の記載(具体的製造方法の記載もある)も存在するのであるから、本件特許発明1?7の構成に対応した範囲で、当業者であれば過度な試行錯誤なく実施できるように記載されているといえる。

また、本件特許発明8?12に関しても、【0036】【0067】【0070】【0073】【0076】【0077】のYI値に関する記載、【0041】【0042】の反応工程における炭素数が4以上の鎖状ケトン類の技術的意義等の記載、【0051】?【0053】の晶析溶媒中の炭素数が4以上の鎖状ケトン類と「芳香族炭化水素類及び環状ケトン類の合計含有量が10重量%未満」とすることの技術的意議の記載及び具体例の記載、【0054】?【0059】の晶析工程の温度調整の記載、及び乾燥工程の記載について、併せて考慮すれば、本件特許発明8?12の構成に対応した場合に関しても、本件特許発明1?7と同様に、本件特許発明8?12の構成に対応した場合においても、当業者であれば過度な試行錯誤なく実施できるように記載されているといえる。

特許異議申立人は、甲第1?4号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第16号証、甲第17号証を挙げて、結晶化の際の物理的又は化学的パラメータ全般の僅かな変化により、目的とする多形が得られなかったり、晶析後に容易に転移するので、厳格な条件で製造しなければ同じ多形が得られないのは技術常識で、本件特許明細書の実施例の条件が一部であるので当業者にとっても過度な試行錯誤が必要である旨主張をしている。
しかしながら、上記証拠は、結晶析出時の物理的又は化学的パラメータの変化により、目的とする多形が得られなかったり、晶析後に容易に転移する場合があることについての留意点についての記載にすぎず、特許異議申立人は、発明の詳細な説明の記載を考慮に入れた上でなお、具体的に多形が得られなかったり、晶析後に容易に転移し本件特許発明の結晶が製造できなかったことを明らかにしているわけでもないのであるから、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。異議申立理由2で述べたのと同様に、本件明細書に記載された一般的記載や従来技術を含めた比較例の具体的検証結果考慮すると、当業者が過度な試行錯誤なく実施できるように記載されているといえる。
したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

3 異議申立理由3の判断のまとめ
以上のとおり、本願の発明の詳細な説明の記載が、請求項1?12に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものといえるので、異議申立理由3には、理由がない。

異議申立理由4(明確性要件)について
特許異議申立人は、前記第3 4に記載のように明確性要件について理由を述べている。
1 異議申立理由4の概要
請求項1、3、5、7?12に係る発明について、本件特許発明1,3,5の「融解吸熱最大温度」が明細書に記載のない変動要因により温度が変動する程度が明らかでなく、本件特許発明10?12の「炭素数4以上の鎖状ケトン類」の炭素数の上限が示されておらず、本件特許発明12の、工程(i)において「晶析溶液から70℃以下で結晶を析出させる」ことが特定され、上限のみで下限が特定されておらず、発明の範囲が不明確となっている。

2 判断
本件特許発明1,3,5の「融解吸熱最大温度」は、本件特許明細書において、【0033】に、「示差走査熱量分析を実施した際、最大吸熱ピークが観測される温度のことをいう」と定義されているし、「炭素数4以上の鎖状ケトン類」の炭素数の上限が示されていなくても、本件特許発明10?12の技術思想を実現できる炭素数の鎖状ケトン類には、一定の範囲のあることが当業者であれば理解でき、本件特許発明12は、晶析工程を「晶析溶液から70℃以下で結晶を析出させる」ことを発明特定事項とするものであり、その技術的意味は明確であり、工程(i)において結晶析出温度が上限のみで下限が特定されていないからといって、結晶析出温度の下限は、晶析溶媒の融点等の技術常識からおのずと当業者であれば理解でき、第三者の不測の不利益を及ぼすほどの不明確が存在するとはいえない。
したがって、上記特許異議申立人の主張を採用することはできない。

3 異議申立理由4の判断のまとめ
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の請求項1、3、5、7?12の記載は、明確であるといえるので、異議申立理由4には、理由がない。

第5 むすび
したがって、請求項1?12に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-05-28 
出願番号 特願2016-132178(P2016-132178)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C07C)
P 1 651・ 536- Y (C07C)
P 1 651・ 121- Y (C07C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高橋 直子  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 瀬良 聡機
冨永 保
登録日 2020-07-27 
登録番号 特許第6739137号(P6739137)
権利者 田岡化学工業株式会社
発明の名称 フルオレン骨格を有するアルコールの結晶およびその製造方法  

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