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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 E04F 審判 全部申し立て 2項進歩性 E04F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 E04F |
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管理番号 | 1374977 |
異議申立番号 | 異議2021-700098 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-01-28 |
確定日 | 2021-06-29 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6754520号発明「免震フリーアクセスフロア」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6754520号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6754520号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成28年2月15日に出願され、令和2年8月26日にその特許権の設定登録がされ、令和2年9月16日に特許掲載公報が発行された。 その後、その特許に対し、令和3年1月28日に、特許異議申立人若林春雄(以下「申立人」という。)より、特許異議申立書(以下「申立書」という。)が提出され、請求項1及び2に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 特許第6754520号の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 建造物のコンクリート床スラブ上に複数の支柱を一定の配置にて立設し、該支柱の先端に球体保持部を有し、該複数の球体保持部において回転自在に保持された第1の球体を介してフロアパネルに積層された鋼板を支持可能なことを特徴とする免震フリーアクセスフロアであって、 前記支柱は、第2の球体を上方向に付勢するボールプランジャーを備え、 前記フロアパネル下面に積層された前記鋼板には、下方に開放された凹部が形成され、 前記凹部には上方向に付勢された前記第1の球体が嵌着され、 地震時の短周期揺動でフロアパネルがスライドするとき、前記凹部から前記第1の球体が外れ、フロアパネルの全重量が前記第1の球体および前記第2の球体に付勢されるように構成したことを特徴とする免震フリーアクセスフロア。 【請求項2】 支柱には設置時の高さ調節用の長ナットとロックナットが具備されていることを特徴とする請求項1記載の免震フリーアクセスフロア。」 第3 申立理由の概要 1 証拠 申立人が、申立書に添付して提出した証拠は、次のものである。 (1)甲第1号証:特許第4218048号公報(以下「甲1」と略す。) 2 特許異議申立ての理由 申立人が申立書において主張する特許異議申立ての理由の概要は、以下のとおりである。 (1)申立理由1(甲1に記載された発明に基づく新規性要件違反(特許法29条1項3号違反)) 本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明であって、特許法29条1項3号の規定により特許をうけることができないものであり、その発明についての特許は、特許法29条の規定に違反してされたものであるから、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由2(甲1に記載された発明に基づく進歩性要件違反(特許法29条2項違反)) 本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明についての特許は、特許法29条の規定に違反してされたものであるから、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)申立理由3(実施可能要件違反(特許法36条4項1号違反)) 本件特許の請求項1に係る発明について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法36条4項1号の規定に適合しないから,その発明についての特許は、同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。 第4 当審の判断 1 申立理由3(実施可能要件違反)について 特許法36条4項1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。 (1)本件特許明細書等の記載 本件特許明細書及び図面(以下「本件特許明細書等」という。)には、次の記載がある。 ア「【課題を解決するための手段】 【0010】 本発明の免震フリーアクセスフロアは、 建造物のコンクリート床スラブ上に複数の支柱を一定の配置にて立設し、該支柱の先端に球体保持部を有し、該複数の球体保持部において回転自在に保持された第1の球体を介してフロアパネルに積層された鋼板を支持可能なことを特徴とする免震フリーアクセスフロアであって、 前記支柱は、第2の球体を上方向に付勢するボールプランジャーを備え、 前記フロアパネル下面に積層された前記鋼板には、下方に開放された凹部が形成され、 前記凹部には上方向に付勢された前記第1の球体が嵌着され、 地震時の短周期揺動でフロアパネルがスライドするとき、前記凹部から前記第1の球体が外れ、フロアパネルの全重量が前記第1の球体および前記第2の球体に付勢されるように構成したことを特徴とする。 また、本発明の免震フリーアクセスフロアは、 支柱には設置時の高さ調節用の長ナットとロックナットが具備されていることを特徴とする。 ・・・ 【発明の効果】 【0013】 フロアパネル1の裏面に積層された鋼板6には下向きの凹部61が形成されており、ボールプランジャー12の先端に保持された球体40が、該凹部61に図2乃至図5に示すように嵌着されている。 【0014】 小さな地震動では変位量が小さいので、前記の嵌着状態に保持されているが、大きな地震動に移行した場合は、図3乃至図6に示すように、凹部61と球体41の嵌着が外れてボールプランジャー12は下降して、フロアパネル1の全重量が球体40,41に付勢される。 【0015】 回転自在の球体40,41に保持されたフロアパネル1は全方向に摺動可能となり免震効果が発揮される。」 イ「【発明を実施するための形態】 【0017】 図2に示すように、建造物のコンクリート床スラブ7上に複数の支柱10を一定の配置にて立設し、該支柱10の先端に球体保持部3を有し該複数の球体保持部3において回転自在に保持された球体40の直上にフロアパネル1に積層された鋼板6が配置されている。 【0018】 小さな地震動では、図2に示すように、フロアパネル1に積層された鋼板6に形成された凹部61に球体41が嵌着されている状態に保持されており、大きな地震動に変化すると、図3に示すように、前記せる嵌着状態が離脱され、板バネ5が下方に押圧されて鋼板が積層されたフロアパネルの全荷重が球体40,41に付加されて、回転自在の球体40,41に保持されたフロアパネル1は全方向に摺動可能となり免震効果が発揮される。 【0019】 フロアパネル1が全方向にスライドしても、球体40,41が回転するのでスライド抵抗が小さく、十分な免震効果を得ることができる」 ウ「【0021】 建造物のコンクリート床スラブ上に配置された複数の支柱10のうち、ボールプランジャー12は、上方向に付勢された球体保持部3が形成されているプランジャーである。」 エ「【0022】 図2に示すように、フロアパネル1の下面には、鋼板6が積層されており、該鋼板6には下方に向いた凹部61が一定の配置にて形成されており、該凹部には上方向に付勢された球体41が嵌着されている。 【0023】 地震時にフロアパネル1がスライドすると、鋼板6の凹部61から球体41が外れ、フロアパネル1の全重量が球体40,41に付加される。 【0024】 フロアパネルの全重量が支柱に付加される場合、地震時には、フロアパネル1が全方向にスライドしても、球体40,41が回転するのでスライド抵抗が小さく、十分な免震効果を得ることができるように構成されている。」 オ「【0025】 図9乃至図10に示すように、建造物のコンクリート床スラブ7上に複数の支柱10を一定の配置にて立設し、該支柱10の先端に球体保持部91を有し、複数の球体保持部91において回転自在に保持された球体8,81を介してフロアパネル1の隣接ジョイント補強に積層された下向凹状鋼板200を支持し、球体8,81の移動量は復元可能に構成されている。 【0026】 また、図9乃至図10に示すように、コンクリート床スラブ7上に立設された支柱10の基部がベースプレート2に溶接されており、先端部は支持プレート9を介して球体保持部91が固定され、該球体保持部91に回転自在に保持された球体8が球体保持部内の摩擦材92に制動されながら下向凹状鋼板200を支持し、該下向凹状鋼板200の端部では球体81が下向凹状鋼板200の端部に達した後、反動で元の位置に復元可能に構成され該下向凹状に沿って球体8,81が復元方向へ移動する。 【0027】 また、全ての支柱10には設置時の高さ調節用の長ナットとロックナット63が具備されている。」 カ 【図1】、【図2】、【図3】には、以下の図が示されている。 「【図1】 ![]() 」 キ 【図4】、【図5】、【図6】には、以下の図が示されている。 「【図4】 ![]() 」 ク 【図7】には、以下の図が示されている。 「【図7】 ![]() 」 ケ 本件発明1は、上記「第2」に示したとおりのものであるところ、本件図面【図5】及び【図6】(上記キ)(以下、単に【図5】などと記す。)において、【図2】(上記カ)と同じ図番号が付されている部材は、同様の部材と認められること、及び、球体40、41は、いずれも回転自在であること(段落【0017】【0018】(上記イ))を踏まえると、本件特許明細書の段落【0010】(上記ア)、段落【0017】ないし【0024】(上記イないしエ)並びに【図5】及び【図6】には、本件発明1の実施例として以下のものが記載されていると認められる。 「建造物のコンクリート床スラブ7上に複数の支柱10を一定の配置にて立設し、該支柱10の先端に回転自在に保持された第1の球体41を介してフロアパネルに積層された鋼板6を支持可能な免震フリーアクセスフロアであって、 支柱10の先端の球体保持部3において第2の球体40が保持され、 前記フロアパネル1下面に積層された前記鋼板6には、下方に開放された凹部61が形成され、 前記凹部61には上方向に付勢された前記第1の球体41が嵌着され、 地震時の短周期揺動でフロアパネルがスライドするとき、前記凹部61から前記第1の球体41が外れ、フロアパネルの全重量が前記第1の球体41および前記第2の球体40に付勢される免震フリーアクセスフロア。」 ここで、「第1の球体41」は、本件発明1のように「球体保持部」において保持することは明記されておらず、「第2の球体40」は、本件発明1のように「ボールプランジャー」により「上方向に付勢」されることは明記されていないが、【図7】(上記ク)において【図5】、【図6】等と同じ図番号が付されている部材は、同じ部材と認められることを踏まえると、【図7】は、球体40、41の支持手段の実施例を示していると認められ、「ボールプランジャーの先端に球体41を保持する球体保持部を備え、球体41は、球体保持部において保持された」ものとしてもよいこと、及び、「球体40を上方向に付勢するボールプランジャを備える」ものとしてもよいことを示唆しているといえる。 そうすると、上記した本件発明1の実施例における「球体41」及び「球体40」を、それぞれ、「球体保持部において保持された」もの及び「上方向に付勢するボールプランジャを備える」ものとすることは、【図7】に示されている上記事項に従うことで実施することができる。 したがって、本件特許明細書等は、当業者が、本件発明1の免震フリーアクセスフロアを、作り、使用することができる程度に、明確かつ十分に記載されているといえる。 (2)申立人の具体的主張について ア 申立人は、凹部61に嵌着される球体について以下のように主張する。 「本件発明1の「・・・前記支柱は、第2の球体を上方向に付勢するボールプランジャーを備え、前記フロアパネル下面に積層された前記鋼板には、下方に開放された凹部が形成され、前記凹部には上方向に付勢された前記第1の球体が嵌着され、・・・」との記載について、「・・・前記凹部には上方向に付勢された前記第1の球体が嵌着され、・・・」との記載があるにもかかわらず、本件特許明細書段落【0013】【0014】【0018】及び【0021】には、「凹部61にボールプランジャー12の先端が保持された球体41(第2の球体)が嵌着されている」との矛盾した記載がある。第1の球体は球体40であり、第2の球体は球体41である。 本件特許明細書段落【0013】には「・・・ボールプランジャー12の先端に保持された球体40が、該凹部61に図2乃至図5に示すように嵌着されている。」と記載されているが、ボールプランジャー12の先端に保持された球体は球体41(第2の球体)でなければならない。 凹部61に嵌着するのは球体40(第1の球体)であるから、球体41は、本件特許明細書段落【0014】【0018】【0022】のように凹部61に嵌着されたり嵌着が外れたりするものではない。」(申立書14頁20行?15頁13行、22頁1?25行) 上記の点について検討する。 本件特許明細書の段落【0013】(上記(1)ア)には、「フロアパネル1の裏面に積層された鋼板6には下向きの凹部61が形成されており、ボールプランジャー12の先端に保持された球体40が、該凹部61に図2乃至図5に示すように嵌着されている。」と記載されている。 しかし、【図2】ないし【図5】(上記(1)カ及びキ)で凹部61に嵌着されているのが全て41の番号が付された球体であること、段落【0014】(上記(1)ア)、段落【0018】(上記(1)イ)、段落【0023】(上記(1)エ)においても凹部61に嵌着されたり凹部61から外れたりするのは全て球体41であることに鑑みると、本件特許明細書の段落【0013】の「球体40」は、「球体41」の誤記と認められる。 そうすると、本件特許明細書等には、球体41が凹部61に嵌着されたり凹部から外れたりすることが開示されていると認められる。 そして、本件特許明細書の「球体41」が本件発明1の「凹部」に「嵌着され」る「第1の球体」に、本件特許明細書の「球体40」が本件発明1の「第2の球体」に対応させたものについて、本件発明1を実施可能な程度に本件特許明細書等に発明の実施についての説明がされていることは、上記(1)で説示したとおりである。 したがって、当該申立人の主張には理由がない。 イ 申立人は、球体保持部に第1の球体を「回転自在」に保持することについて以下のように主張する。 「本件発明1には「・・・該支柱の先端に球体保持部を有し、該複数の球体保持部において回転自在に保持された第1の球体を介してフロアパネルに積層された鋼板を支持可能・・・」と記載されている。球体保持部3と球体40の摩擦、ボールプランジャー12と球体40の摩擦があり、この摩擦を取り除かねば回転自在にならないところ、本件【発明の詳細な説明】および【図面】では摩擦を取り除く方法の説明がない。本件【発明の詳細な説明】には、「・・・球体保持部91に回転自在に保持された球体8が球体保持部内の摩擦材92に制動されながら・・・」と摩擦材に制動されているにもかかわらず、回転自在に保持されていると矛盾した説明がされる。」(申立書14頁8?20行、25頁11?15行、22行?26頁1行) 上記の点について検討する。 上記(1)で説示したところによれば、球体保持部に第1の球体を「回転自在」に保持することは、本件特許明細書等に、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に示されているといえる。 申立人は、「球体保持部3と球体40の摩擦、ボールプランジャー12と球体40の摩擦があり、この摩擦を取り除かねば回転自在にならない」と主張するが、本件発明1において球体が「回転自在」とは、本件特許明細書に「球体40,41が回転するのでスライド抵抗が小さく、十分な免震効果を得ることができるように構成されている」(段落【0024】(上記(1)エ))とあるように、回転してスライド抵抗を小さくできればいいのであり、「摩擦を取り除かねば回転自在にならない」ものではない。 申立人は、また、「摩擦材に制動されているにもかかわらず、回転自在に保持されていると矛盾した説明がされる」と主張するが、摩擦材に制動されていたとしても、回転ができないというわけでなく、回転することによりスライド抵抗を小さくできればよいのであるから、説明に矛盾はない。 したがって、当該申立人の主張には理由がない。 ウ 申立人は、球体保持部での球体40の保持について以下のように主張する。 「本件【図面】【図5】では球体保持部3内で球体40とボールプランジャー12とに空間があり、球体40の保持が出来ない。一般的にこのような構成の機械要素部品は知られていないし、フロアパネル1が摺動すると摩擦により球体40が球体保持部3から飛び出すことになる。」(申立書14頁8?20行、25頁15?21行) 上記の点について検討する。 上記(1)で説示したところによれば、【図7】に示される球体の支持手段を用いることで、球体保持部3内で球体40を「フロアパネル1が摺動」しても「摩擦により球体40が球体保持部3から飛び出す」ことなく保持できることが理解できるから、【図5】の記載にかかわらず、本件特許明細書等に接した当業者であれば、第1の球体を球体保持部に保持するにあたり、球体を保持部から飛び出すことなく保持するように、発明を実施することができる。 したがって、当該申立人の主張には理由がない。 エ 申立人は、板バネ5及びスプリング11による上下動について以下のように主張する。 「そもそも、ボールプランジャーとはワークを位置決め・固定するための機械要素部品で、フロアパネル1の全重量をボールプランジャー12が支える事など出来ないため、本件特許図面の【図2】および【図5】に記載の状態はありえない、また、平常時、フロアパネル1の全重量をボールプランジャー12の球体41で受けているとして、板バネ5およびスプリング11が、地震時の揺動でバネ5およびスプリング11が撓み、伸縮するとなるとフロアパネル1がスライドに加え、フロアパネル1に上下運動が起き、免震フリーアクセスフロアと言えないし、上下するための構成および説明が記載されておらず、いわゆる当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」(申立書15頁14行?最下行) 上記の点について検討する。 スプリングの荷重特性等は適宜設定できるものであるから、フロアパネル1の全重量をボールプランジャー12で支えることは、立設する支柱の本数を考慮しつつスプリングの特性を適当に設定することによって可能である。そして、フロアパネル1が板バネ5及びスプリング11により上下するための構成は、本件特許明細書の段落【0018】、【0029】、【図2】、【図3】、【図5】、【図6】に、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 本件発明は、「地震時の短周期揺動でフロアパネルがスライドするとき、前記凹部から前記第1の球体が外れ、フロアパネルの全重量が前記第1の球体および前記第2の球体に付勢されるように構成した」ものであるから、少なくとも短周期の揺れに対する免震効果を有していることは明らかであり、「免震」フリーアクセスフロアとすることについて、本件特許明細書の段落【0010】、【0014】、【0015】等に当業者が実施可能な程度に記載されているといえる。 したがって、当該申立人の主張には理由がない。 オ 申立人は、本件特許明細書等に記載の実施例2について以下のように主張する。 「本件発明1には「・・・前記支柱は、第2の球体を上方向に付勢するボールプランジャーを備え、」と記載されているが、本件特許明細書段落【0012】及び図面【図9】、【図10】等に記載の実施例2は、「第2の球体を上方向に付勢するボールプランジャーを備え」ておらず、本件発明1の実施例ではない。」(申立書24頁10?14行) この点について検討するに、(1)で説示したとおり、本件特許明細書等には、実施例2に関する記載に依らずとも本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されており、このことは、実施例2に関する上記主張の成否に左右されるものではない。 したがって、当該申立人の主張には理由がない。 (3)小括 したがって、本件特許明細書等の記載は、当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものといえる。 2 申立理由1(新規性要件違反)・申立理由2(進歩性要件違反)について (1)甲第1号証について ア 甲1の記載事項 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲1には、次の記載がある(下線は当審で付した。)。 (ア)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、建物の基礎床面と床パネルとの間に空間を設け、通信・電力ケーブル等を収納、または床パネル上に設置された機器及び机等の配置に従って通信・電力ケーブルの配置換えを容易にするフリーアクセスフロアを構成する床パネル支持装置及びフリーアクセス床構造施工方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】従来の床パネル支持装置には、床パネルのガタ付き・ずれを防ぐために床パネルの隅部をパネル押さえとパネル受板とで、確実かつ強固に上下方向に挟圧している(例えば、特許文献1参照。)。 【0003】 【特許文献1】 特開2001-49856号公報(【発明の効果】、図1) 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 床パネル支持装置は建物の基礎床面と床パネルとの間に空間を設けるためと、床パネルを上下させて相対する床パネル同士の床面の面一を調整するためと、床パネル同士の床面の面一を保持する機能がなければならない。しかし、従来の構造には床パネル同士の床面の面一を保持する機能が無い為、支柱のネジ部とこのネジ部に螺合するパネル受板のネジ部とのネジの緩みによりパネル受板が下がり床パネルのガタ付き・ずれが生じ、床パネル同士の床面の面一を保持する事が出来ないために床面の面一を何度も繰返して調整しなければならない。 【0005】 ネジの緩みとして、軸直角方向振動外力を受けてネジが戻り回転して生じる緩みがあり、この緩みはしばしば起こる緩みできわめて危険である。床パネル上を人が歩行すると、足の動きは踏み込んだ時に往きの水平方向の動きを、又、蹴る時に復する水平方向の動きとなり床パネルを水平往復移動させるため、パネル受板上面と床パネル下面が摩擦を起こし、支柱とパネル受板が螺合しているネジ部に軸直角方向振動外力を与え、相対変位による滑り軌跡に緩みを起こす原動力となり、支柱とパネル受板が螺合しているネジ部が戻り回転して緩みを生じ、パネル受板が下がる。 【0006】 従来の床パネル支持装置はベースプレートの中心にオネジ部を有する支柱を立設し、支柱のオネジ部に螺合するメネジ部を中心に有するパネル受板と、支柱のオネジに螺合するメネジ部を有するパネル押さえとで床パネルを確実かつ強固に上下方向に挟圧しているが、軸直角方向振動外力によるネジの緩み防止を設けていないため、床パネル上を人が歩行すると床パネルが水平往復移動し、パネル受板上面と床パネルの下面が、又、パネル押さえのフランジ面と床板の上面が摩擦により螺合しているそれぞれのネジに軸直角方向振動外力を与え、相対変位による滑り軌跡に緩みを起こしてパネル受板及びパネル押さえのネジが戻り回転して緩みを生じる。 【0007】 このため、従来の床パネル支持装置は床パネル上を人が歩行して生じる軸直角方向振動外力を除去する方策が無く、支柱のネジ部に螺合するパネル受板のネジ部とのネジの緩みの防止が弱いため、長い間に床パネル上を人が歩行すると、パネル受板が下がり、床パネルのガタ付き・ずれが生じるために床パネルを外してパネル受板を上下させて相対する床パネル同士の床面の面一を度々調整しなければならない。 【0008】本発明はこの軸直角方向振動外力を除去する点に鑑みてなされたものであり、従来は無かったボールキャスターを設けることによって、上記問題を解決しようとするものである。」 (イ)「【0009】 【課題を解決するための手段】 上記課題を解決するため、本発明の床パネル支持装置は支持台と、床パネルを受ける面と前記支持台との距離が調整可能に設けられるパネル受部と、前記床パネルを受ける面と前記床パネルとの距離を調整可能に、前記床パネルを受ける面に設けられるボールキャスターとを具備することを特徴とする。 【0010】 本発明の請求項2に係るフリーアクセス床構造施工方法は、建物の基礎床面に請求項1の床パネル支持装置を設置し、前記床パネル支持装置のボールキャスター上にフリーアクセスフロアを構成する床パネルを載せ、人の歩行によって生じる床パネルの水平方向の動きをボールキャスターのボール回転により支持台とパネル受部と螺合するネジ部の緩み原因の軸直角方向振動外力を取除くことを特徴とする。」 (ウ)「【0011】 【発明の実施の形態】 以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。図に示すように、本発明による床パネル支持装置1はベースプレート2の中心部にネジ部3を有する支柱4を立設した支持台5と、パネル受板6の中心部に前記ネジ部3に螺合するネジ部7を有し、前記パネル受板6の上面に床パネル8の隅部9を受ける複数個のボールキャスター10を設けたパネル受部11と、からなる。 【0012】 床パネル支持装置1を建物の基礎床面Aに設置して、ボールキャスター10に床パネル8の隅部9を載せる。パネル受部11を回転させて基礎床面Aから床パネル8の上面までの寸法を設定値に調整して、相対する床パネル8同士の床面を面一に調整する。床パネル支持装置1に載っている四枚の床パネル8の厚みには当然、製造許容誤差があるために前記の調整では相対する床パネル8同士の床面を面一に調整出来ないので、ボールキャスター10のネジ部12で微調整する。」 (エ)「【0013】 【発明の効果】 上記の様に設定された床パネル8上を人が歩行すると、踏み込んだ時、床パネル8にかかる往きの水平方向の動きはボールキャスター10のボール13を回転させる力に変換される。同様に、蹴る時、床パネル8にかかる復りの水平方向の動きもボールキャスター10のボール13を回転させる力に変換される。 【0014】 人の歩行で床パネル8に生じた水平往復移動の力はボール13を回転させる力に変換されるため、従来の構造で生じていた床パネル8の下面とパネル受板6の上面との摩擦が生じないために、支持台5とパネル受部11とが螺合しているネジ部3・7には軸直角方向振動外力が伝わらないため、パネル受部11のネジ部7が戻り回転して緩みを生じることは無くなる。ネジの緩み止めとしてネジ部3・7にダブルナット14・15を設けることによってネジの緩み止めが強化される。 【0015】 建物のフリーアクセスフロア上を長期間に渡って人が歩行しても床パネル8のガタ付き・ずれが生じることなく、床パネル8の面一が保持され、再度の調整が不要となる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明の一例を示す床パネル支持装置及びフリーアクセス床構造施工の斜視図。 【符号の説明】 1は床パネル支持装置、2はベースプレート、3はネジ部、4は支柱、5は支持台、6はパネル受板、7はネジ部、8は床パネル、9は床パネルの隅部、10はボールキャスター、11はパネル受部、12はネジ部、13はボール、14・15はナット。」 (オ)「【図1】 ![]() 」 イ 甲1発明 上記アによれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。 「ベースプレート2の中心部にネジ部3を有する支柱4を立設した支持台5と、パネル受板6の中心部に前記ネジ部3に螺合するネジ部7を有し、前記パネル受板6の上面に床パネル8の隅部9を受ける複数個のボールキャスター10を設けたパネル受部11と、からなる床パネル支持装置1であって、床パネル支持装置1を建物の基礎床面Aに設置して、ボールキャスター10に床パネル8の隅部9を載せ、ボールキャスター10のボール13は回転する、 床パネル支持装置1。」 (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「建物」は本件発明1の「建造物」に相当し、本件発明1の「建造物のコンクリート床スラブ」と甲1発明の「建物の基礎床面A」とは、「建造物の床」である点で共通する。 (イ)甲1発明の「床パネル8」は、本件発明1の「フロアパネル」に相当する。 (ウ)甲1発明の「パネル受板6の上面」に「設けた」「複数個のボールキャスター10」は、本件発明1の「複数の球体保持部」に相当する。 (エ)甲1発明の「ベースプレート2の中心部にネジ部3を有する支柱4を立設した支持台5」の「ネジ部3」に、「パネル受板6の中心部に前記ネジ部3に螺合するネジ部7を有し、パネル受板6の上面に床パネル8の隅部9を受ける複数個のボールキャスター10を設けた」「パネル受部11」の「ネジ部7」を「螺合」した「床パネル支持装置1」の「ネジ部3」及び「ネジ部7」は、本件発明1の「支柱の先端に球体保持部を有し」た「支柱」に相当する。 (オ)甲1発明は「ボールキャスター10に床パネル8の隅部9を載せ」、「ボールキャスター10のボール13は」、「回転する」ものであるから、甲1発明の「ボール13」は、本件発明1の「球体保持部において回転自在に保持された第1の球体」に相当する。 (カ)甲1発明は、「ボールキャスター10に床パネル8の隅部9を載せ」るものであるから、ボールは床パネルを支持可能であることは自明であり、本件発明1の「第1の球体を介してフロアパネルに積層された鋼板を支持可能」であることと、甲1発明の「ボールキャスター10に床パネル8の隅部9を載せ」るものであることとは、「第1の球体を介してフロアパネルを支持可能」である点で共通する。 以上から、本件発明1と甲1発明とは、 <一致点> 「建造物の床上に支柱を立設し、該支柱の先端に球体保持部を有し、該複数の球体保持部において回転自在に保持された第1の球体を介してフロアパネルを支持可能なフリーアクセスフロア」であるで一致し、以下の点で相違している。 <相違点1> 本件発明1は、床が「コンクリート床スラブ」と特定され、フロアパネルは下面に「積層された鋼板」を有し、支柱は「複数の」支柱を「一定の配置にて」立設したものであるのに対し、甲1発明は、上記の点が特定されていない点。 <相違点2> 本件発明1は、「免震」フリーアクセスフロアであって、 「前記支柱は、第2の球体を上方向に付勢するボールプランジャーを備え、 前記フロアパネル下面に積層された前記鋼板には、下方に開放された凹部が形成され、 前記凹部には上方向に付勢された前記第1の球体が嵌着され、 地震時の短周期揺動でフロアパネルがスライドするとき、前記凹部から前記第1の球体が外れ、フロアパネルの全重量が前記第1の球体および前記第2の球体に付勢されるように構成した」ものであるのに対し、甲1発明は、そのように特定されたものではない点。 イ 新規性に関する判断 (ア)相違点2について 事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。 本件発明1は、相違点2に係る発明特定事項を備えることにより、小さな地震動では変位量が小さいので、球体41が凹部61に嵌着状態に保持されているが、大きな地震動に移行した場合には、凹部61と球体41の嵌着が外れ、回転自在の球体40,41に保持されたフロアパネル1は全方向に摺動可能となり免震効果を発揮するという効果を奏する(上記1(1)ア)ものであるから、上記相違点2は実質的な相違点である。 (イ)申立人の意見について 申立人は、上記第4の1(2)ア及びエと同様の主張をし、凹部61に嵌着する球体に関し、矛盾した記載となっていること、ボールプランジャーについて技術常識を無視した構造となっていることから、ボールプランジャー12が構成として含まれていても、機能・作用がない構成のため、本件発明1と甲1発明とは実質的に同一である旨主張する(意見書19頁下から14行?20頁下から4行)。 しかし、上記主張に関しては、上記箇所で既に検討したとおり、本件特許明細書は、矛盾した記載となっているものでも、技術常識を無視した構造となっているものでもないため、申立人の上記主張は採用できない。 (ウ)小括 相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。 ウ 進歩性に関する判断 事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。 (ア)相違点2について フリーアクセスフロアにおいて、「前記支柱は、第2の球体を上方向に付勢するボールプランジャーを備え、 前記フロアパネル下面に積層された前記鋼板には、下方に開放された凹部が形成され、 前記凹部には上方向に付勢された前記第1の球体が嵌着され、 地震時の短周期揺動でフロアパネルがスライドするとき、前記凹部から前記第1の球体が外れ、フロアパネルの全重量が前記第1の球体および前記第2の球体に付勢されるように構成した」ものとすることは、甲第1号証に記載されておらず、また、周知技術であるとも認められない。 (イ)申立人の意見について 申立人は、上記イ(イ)で示したのと同様の主張をしているが(意見書22頁1行?23頁8行)、上記イ(イ)で述べたとおり、本件特許明細書は、矛盾した記載となっているものでも、技術常識を無視した構造でもないため、申立人の上記主張は採用できない。 (ウ)小括 相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明2について 本件発明2は、前記「第2」に示したとおり、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に新たな構成を追加して限定したものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2は甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-06-18 |
出願番号 | 特願2016-40471(P2016-40471) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(E04F)
P 1 651・ 536- Y (E04F) P 1 651・ 121- Y (E04F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 西村 隆 |
特許庁審判長 |
長井 真一 |
特許庁審判官 |
土屋 真理子 西田 秀彦 |
登録日 | 2020-08-26 |
登録番号 | 特許第6754520号(P6754520) |
権利者 | 株式会社金澤製作所 |
発明の名称 | 免震フリーアクセスフロア |
代理人 | 特許業務法人SSINPAT |