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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する A61K
審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正する A61K
審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する A61K
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する A61K
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する A61K
管理番号 1375266
審判番号 訂正2021-390041  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2021-02-25 
確定日 2021-05-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5519890号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5519890号特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判に係る特許第5519890号(以下、「本件特許」ともいう。)に係る出願は、平成13年2月28日を出願日として出願され、平成26年4月11日に特許権の設定登録がなされたものである。
そして、令和3年2月25日に、特許権者である、エスエス製薬株式会社より、本件特許に対して本件訂正審判の請求がなされたものである。

第2 請求の趣旨及び訂正の内容
本件訂正審判の請求の趣旨は、「特許第5519890号の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?4について訂正することを認める、との審決を求める。」というものである。
そして、請求人が本件訂正審判請求により求めている訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。(なお、下線は訂正箇所を示す。)

1.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「酸化マグネシウムが、イブプロフェン100重量部に対して50?150重量部となるように配合される」
と記載されているのを、
「酸化マグネシウムが、イブプロフェン100重量部に対して50質量部?100×50/75重量部となるように配合される」
に訂正する。
また、請求項1の記載を引用する請求項2?4も同様に訂正することになる。

2.一群の請求項
訂正前、つまり、本件特許の設定登録時の請求項1?4に関し、請求項2?4はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?4に対応する訂正後の請求項1?4は、特許法第126条第3項に規定する一群の請求項であって、本件訂正は、一群の請求項〔1?4〕について請求されたものである。

第3 当審における判断
1 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び新規事項の有無について
(1)訂正の目的の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1(及び請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項2?4)において、「酸化マグネシウムを有効成分とする、経口用イブプロフェン製剤におけるイブプロフェンの吸収速度増加剤」について、酸化マグネシウムのイブプロフェンに対する配合割合が、「イブプロフェン100重量部に対して50?150重量部」と特定されていたのを、「イブプロフェン100重量部に対して50質量部?100×50/75重量部」として、その配合割合をより狭い範囲に限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項に適合する。

なお、地上において「重量」と「質量」が同じであることは本件特許出願時の技術常識であり、上記訂正事項1における「50質量部」は、「50重量部」と表記が異なるだけで同義であることは当業者に明らかである。

(2)新規事項の有無について
訂正事項1は、酸化マグネシウムのイブプロフェンに対する配合割合の上限値を、「イブプロフェン100重量部に対して」「100×50/75重量部」に訂正するものである。
ここで、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲である本件特許の設定登録時の明細書又は特許請求の範囲(以下、「本件明細書等」という。)の【0019】の【表2】には、「本発明品3」として、経口用イブプロフェン錠剤中に、「イブプロフェン「75(mg/錠)」に対して、酸化マグネシウムを「50(mg/錠)」、すなわち、イブプロフェン100重量部に対し、「100×50/75重量部」配合した例が記載されており、上記上限値は、本件明細書等に記載されているものである。
そうしてみると、本件明細書等には、「酸化マグネシウムを有効成分とする、経口用イブプロフェン製剤におけるイブプロフェンの吸収速度増加剤」として、酸化マグネシウムが、「イブプロフェン100重量部に対し50重量部?100×50/75重量部」の範囲としたものが記載されていたといえる。なお、上記訂正事項1における「50質量部」が「50重量部」と同義であることは上記(1)で記載したとおり、当業者に明らかである。
したがって、訂正事項1は、本件明細書等に記載されていた事項の範囲内のものであり、新規事項の追加にはあたらない。
よって、訂正事項1は、特許法第126条第5項に適合する。

2 独立特許要件について
上記1で説示したとおり、上記訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かかる訂正により、その範囲が減縮された特許請求の範囲の請求項1?4については、本件訂正後の請求項に記載されている事項により特定される発明が特許法第126条第7項に規定する要件(「特許出願の際独立して特許を受けることができるものであること」、いわゆる「独立特許要件」)に適合するか否かの検討を要するものである。
そして、請求人は、独立特許要件について、下記(2)のように主張しているので、それを踏まえて、以下検討する。

(1)本件訂正後の請求項に記載されている事項により特定される発明
本件訂正後の請求項1?4に係る発明は、本件審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?4にそれぞれ特定される以下のとおりのものである(以下、訂正後の請求項1?4に係る発明を、請求項の項番にあわせて「訂正発明1」等といい、訂正発明1?4をまとめて「訂正発明」ともいう。)。

「【請求項1】
酸化マグネシウムを有効成分とする、経口用イブプロフェン製剤におけるイブプロフェンの吸収速度増加剤であって、酸化マグネシウムが、イブプロフェン100重量部に対して50質量部?100×50/75重量部となるように配合される、イブプロフェンの吸収速度増加剤。
【請求項2】
経口用イブプロフェン製剤が、更に、アリルイソプロピルアセチル尿素、及び/又はカフェイン及び無水カフェインから選択されるカフェイン類を含有する請求項1記載の吸収速度増加剤。
【請求項3】
経口用イブプロフェン製剤が解熱鎮痛薬である請求項1又は2記載の吸収速度増加剤。
【請求項4】
経口用イブプロフェン製剤が感冒薬である請求項1又は2記載の吸収速度増加剤。」

(2)「独立特許要件」についての請求人の主張の概要
本件訂正審判の請求人は、審判請求書において、概略、以下の主張をする。
ア 本件訂正後の請求項1?4に係る発明は、本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第1号証(国際公開第89/07439号)(以下「甲1」という。)に記載の発明に対し、新規性及び進歩性を有する。
イ 本件訂正後の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満足するし、また、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
ウ よって、本件訂正後の請求項1?4に係る発明は独立特許要件を満たす。

(3)甲1に基づく新規性進歩性について
ア 甲1の記載及び甲1発明
(ア)甲1の記載
本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲1には、以下の記載がある。(なお、甲1は、英語で記載された文献であるので、甲1の摘記は、当審が作成した和訳で行う。また、訳文を読みやすくするためにスペースの挿入等の形式的な変更を行った。さらに、下線は当審が付した。)

(1a)(1頁3行?2頁2行)
「本発明は、適切な吸収速度、すなわち、加速された、あるいは、遅延された吸収速度を有する医薬製剤を作成するためのプロセスおよびその適用に関するものである。

薬物の経口投与において、予想される薬物効果が早急に必要な場合、薬物の吸収速度が遅いと、問題になることが多い。吸収が遅すぎると、薬物がすべて吸収された場合でも、吸収と同時に起こる排泄によって、薬物濃度が必要な治療レベルまで上昇するのを妨げる可能性がある(図1)。この問題は、例えば、突然の発作や痛みに対して半減期が短い薬物を使用する場合に特に顕著である。例を挙げると、始まったばかりの片頭痛や痛風の痛みは、薬物の吸収が遅いために、結果として時間がかかり、経口投与された通常用量の薬物の効果が不良、あるいは全くないという程度にまでなることがある。このため、多くの場合、薬物は筋肉注射や静脈注射で投与されることで、吸収速度を早くすることを確実にする必要がある。このような投与方法は不便で、医学の専門知識が必要になるだけでなく、そのような注射用の形態で、ほとんどすべての薬物で利用可能なわけではない。

消化管からのトルフェナム酸の吸収は比較的遅く(PJ Pantikainen, PJ Neuvonen &C Backman:European Journal of CIinical Pharmacology 1984:17:67-75)、そのために、治療濃度および望ましい薬物効果が得られないことが多い。

実際、激痛は一般に胃を空にする時間を長くし、そのため、薬剤の吸収も遅くなる。急速に吸収される製剤によって、注射で投与する薬剤(鎮痛薬)の必要性や使用を減らすこともできると思われる。」

(1b)(3頁11?13行)
「本発明のプロセスの特徴は、吸収速度調整剤が、Mg化合物、Al化合物又はNa化合物、あるいはそれらの混合物からなることである。」

(1c)(4頁5?14行)
「吸収速度が調整された本発明の医薬は、従来の製剤成分に加え、吸収速度調整剤としてMg化合物、Al化合物、Na化合物または2種類以上の化合物の混合物などのアルカリ化合物を含有する。
本発明のプロセスに望ましい化合物は、酸性の抗炎症性鎮痛剤である。特に望ましいものはトルフェナム酸又はメフェナム酸又はそれらの塩などのアントラニル酸、あるいはイブプロフェン又はその塩などのプロピオン酸である。」

(1d)(4頁下から6行?5頁6行、及び、図2,3)
「6人の被験者がクロスオーバー研究を受け、水酸化マグネシウム(85mg-1700mgの範囲)とフェナム酸(トルフェナム酸、400mg、「Clotam」(登録商標、AS Gea Farmaceutisk Fabrik,デンマーク)200mg、2錠;またはメフェナム酸、500mg、「Ponstan Forte」(登録商標、Parke-Davies comp.,米国ミシガン州)500mg、1錠を経口投与された。同一のコントロール条件(=水酸化マグネシウムなし)で起こる吸収に比べ、フェナム酸の吸収は急速に起こった。血液中のトルフェナム酸とメフェナム酸のピーク濃度は平均2-3倍高くなり、コントロール条件より、約1時間早く達成された(図2及び3)。



(1e)(6頁3?12行、及び、図7?10)
「図7-10は、イブプロフェン及び酸化マグネシウムを含有する本発明による製剤(例12(当審注;イブプロフェン及び酸化マグネシウムを含有する製剤を記載しているのは例11であることから、「例12」は「例11」の誤記と認める。))を投与した後の、血漿中濃度変化を示している。これらの図は4人の患者で得られた結果を示している。製剤「Burana」(登録商標、Farmos-Yhtyma Oy、フィンランド)は、従来のイブプロフェン製剤で、本発明のアルカリ性化合物を含有していないものであり、比較として使用されるものである。図7から図10での結果は、本発明の製剤によって、血漿中濃度の非常に急速かつ強い上昇が起こることを明らかに示している。」



(1f)(9頁12行?10頁7行)
「例11 錠剤処方
錠剤は例1の従来の錠剤形成技術に従って形成されるが、以下の成分を使用する。

イブプロフェン 200,0mg
酸化マグネシウム.pond. 200,0mg
Aerosil 200 14,0mg
Ac-Di-Sol 3,5mg
Mayd.amyl.Rx-1500 17,5mg
Carbowax 6000 10,5mg
Emcompress 121,5mg
Amyl.solan 32,5mg
Avicel PH 105 121,5mg
Emcocel 90 M 45,0mg
Talc. 31,5mg
Calc. stear 3,5mg
Spir.fort. 適量
精製水 適量
========
700 mg 」

(1g)(10頁下から4?3行)
「上記のすべての例で、水酸化マグネシウムは同等な重量の酸化マグネシウムと交換することができる。」

(イ)甲1発明
上記(ア)の記載、特に摘記(1c)、(1e)及び(1f)によれば、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。
「抗炎症鎮痛剤であるイブプロフェンを含有する錠剤処方中に処方され、前記錠剤を投与した場合に、イブプロフェンの血漿中濃度の非常に急速かつ強い上昇が起こるように調整するための、酸化マグネシウムからなる吸収速度調整剤であって、前記錠剤処方におけるイブプロフェン含有量は200mgであり、また、酸化マグネシウム含有量は200mgである、前記吸収速度調整剤。」(以下「甲1発明」という。)

(ウ)訂正発明1と甲1発明との対比
・甲1発明の「酸化マグネシウムからなる吸収速度調整剤」において、酸化マグネシウムが吸収速度調整剤の「有効成分」であることは当業者に明らかである。
・甲1発明の「吸収速度調整剤」は「抗炎症鎮痛剤であるイブプロフェンを含有する錠剤処方中に処方され、前記錠剤を投与した場合に、イブプロフェンの血漿中濃度の非常に急速かつ強い上昇が起こるように調整するための」ものであるから、これは、訂正発明1の「経口用イブプロフェン製剤におけるイブプロフェンの吸収速度増加剤」に相当する。
・甲1発明において「錠剤処方におけるイブプロフェン含有量は200mgであり、また、酸化マグネシウム含有量は200mgである」ことと、訂正発明1において「酸化マグネシウムが、イブプロフェン100重量部に対して50質量部?100×50/75重量部となるように配合される」ことは、「酸化マグネシウムが、イブプロフェンに対して配合される」ものである限りにおいて一致する。
そうすると、訂正発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

なお、上記第3の1(1)で記載したとおり、経口用イブプロフェン錠剤において、「50質量部」が「50重量部」と表記が異なるだけで同義であることは当業者に明らかであるから、「(3)甲1に基づく新規性進歩性について」の項目での判断は、訂正発明1の発明特定事項を指摘する場合を除き、「重量部」に統一して記載する。

<一致点>
酸化マグネシウムを有効成分とする、経口用イブプロフェン製剤におけるイブプロフェンの吸収速度増加剤であって、酸化マグネシウムが、イブプロフェンに対して配合される、イブプロフェンの吸収速度増加剤。
<相違点1>
酸化マグネシウムのイブプロフェンに対する配合割合について、訂正発明1では、「酸化マグネシウムが、イブプロフェン100重量部に対して50質量部?100×50/75重量部」配合されることが特定されているのに対し、甲1発明では「イブプロフェン含有量は200mgであり、また、酸化マグネシウム含有量は200mgである」と特定される点。

イ 訂正発明1の新規性について
相違点1に関し、「イブプロフェン含有量」「200mg」に対する「酸化マグネシウム含有量」「200mg」は、換算すると、「酸化マグネシウムが、イブプロフェン100重量部に対して100重量部」に相当する。
そうすると、訂正発明1と甲1発明では、酸化マグネシウムのイブプロフェンに対する配合割合が相違点1に記載の点で異なっており、これは実質的な相違点であるから、相違点1で甲1発明と相違する訂正発明1が新規性を有することは明らかである。

ウ 訂正発明1の進歩性について
(ア)甲1には、イブプロフェンに対する酸化マグネシウムの配合割合について、例11の具体的な錠剤処方として、甲1発明で特定したとおりの配合割合のものが記載されているのみで、どの程度の範囲とするかについての一般的な記載はない。
これに対して、甲1には、イブプロフェンと同様、急速に吸収され薬物効果が発揮されることが望まれる抗炎症鎮痛剤薬物であるトルフェナム酸又はメフェナム酸((上記ア(ア)の摘記(1a)及び(1c))を吸収速度調整剤である水酸化マグネシウムと併用した例が記載されている(同摘記(1d))。具体的には、トルフェナム酸又はメフェナム酸400mgに対し、水酸化マグネシウムを添加しなかった場合、あるいは、水酸化マグネシウム85mg-1700mgの範囲で変化させて配合した場合の結果が記載されており(同左)、この結果から、トルフェナム酸又はメフェナム酸に対し、水酸化マグネシウムを配合することで、配合しない場合より、血漿中の薬剤の濃度がより急速かつ強く上昇すること、及び、その効果は、上記例における水酸化マグネシウムの配合量の範囲内では、水酸化マグネシウムの配合量が増加するほど高まることが理解できる。
さらに、甲1には、吸収速度調整剤として、水酸化マグネシウムは同等の重量の酸化マグネシウムと置換可能であることも記載されている(同摘記(1g))。
そうすると、上記甲1の記載から、当業者は、甲1発明においても、抗炎症鎮痛剤であるイブプロフェンに対する酸化マグネシウムの配合割合を高めるほど、よりイブプロフェンが急速に吸収され、より抗炎症鎮痛効果が優れた薬剤となると推測するといえる。
そして、通常、処方例としては、発明者がより好適であると判断した配合処方のものが記載されると解されるから、当業者は、甲1の例11に薬剤が抗炎症鎮痛剤であるイブプロフェンの場合の錠剤処方として示される配合割合、つまり、「酸化マグネシウムが、イブプロフェン100重量部に対して100重量部」の範囲の近傍、あるいは、これより薬剤の吸収速度が速くなると解されるより高い配合割合に変更することを着想することはあるとしても、酸化マグネシウムの配合割合の上限を、例11の錠剤処方例よりもかなり低く、甲1に具体的には記載されていない配合割合である「イブプロフェン100重量部に対して100×50/75重量部」、つまり、イブプロフェン100重量部に対して66.7重量部の上限より低い配合割合とすることを動機づけられるとはいえない。

(イ)一方、訂正発明1の効果に関し、本件明細書には、訂正発明1に相当する例として、【0015】【表1】に「本発明品1」として、経口用イブプロフェン錠剤中に、「イブプロフェン75(mg/錠)」に対して、「酸化マグネシウムを45mg/錠」、つまり、「イブプロフェン100重量部に対して酸化マグネシウムを60重量部」配合した例が、【0019】【表2】に、「本発明品3」として、経口用イブプロフェン錠剤中に、「イブプロフェン「75(mg/錠)」に対して、酸化マグネシウムを「50(mg/錠)」、つまり、イブプロフェン100重量部に対し、換算で「100×50/75重量部」配合した例が記載され、また、訂正発明1の範囲外の例として、「本発明品2」に、「イブプロフェン「75(mg/錠)」に対して、酸化マグネシウムを「83.3(mg/錠)」、つまり、イブプロフェン100重量部に対し、換算で「100×83.3/75重量部(=111.06重量部)」配合した例、「比較例1」に、酸化マグネシウムをイブプロフェン100重量部に対し、40重量部配合した例が、「比較例2」に、酸化マグネシウムが配合されていない例が記載されており、これらの例の経口投与後の血漿中イブプロフェンプロファイルの対比にから、当業者は、訂正発明1の条件を満たす酸化マグネシウムの配合割合の場合(本発明品1及び本発明品3)では、いずれも、訂正発明1の配合割合の数値範囲の上限を上回る場合(本発明品2)や下限値を下回る場合(比較例1及び2)に比べて、イブプロフェン錠剤投与後0.25時間あるいは0.5時間後という早期における、血漿中イブプロフェン濃度が顕著に高くなることが理解できる。
すなわち、本件明細書の記載によれば、経口用イブプロフェン製剤において、酸化マグネシウムの配合割合を、訂正発明1で特定される配合割合である「イブプロフェン100重量部に対して50質量部?100×50/75重量部」とすることで、甲1の記載からは予測できない格別顕著な効果が奏されることが理解できる。

(ウ)したがって、訂正発明1について、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 訂正発明2?4の新規性進歩性について
訂正発明2?4は、いずれも、請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項に係る発明であり、訂正発明1を限定した発明に相当し、少なくとも上記相違点1で甲1発明と相違する。
そして、上記イで記載したとおり、上記相違点1は、実質的な相違点であるから、訂正発明2?4について、甲1発明であるということはできない。
また、上記ウで検討したとおり、訂正発明1について、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、訂正発明1と同様に少なくとも上記相違点1で甲1発明と相違する訂正発明2?4についても、上記ウで記載したと同様の理由によって、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

新規性進歩性のまとめ
以上のとおりであるから、訂正発明1?4について、甲1発明、つまり、甲1に記載された発明に基いて、新規性及び進歩性を否定することはできない。

(4)サポート要件及び実施可能要件について
本件訂正により、酸化マグネシウムのイブプロフェンに対する配合割合は、「イブプロフェン100重量部に対して50?150重量部」から、「イブプロフェン100重量部に対して50質量部?100×50/75重量部」に限定されたが、訂正後の請求項1及びこれを直接的または間接的に引用する請求項2?4に係る発明、つまり、訂正発明1?4について、サポート要件違反又は実施可能要件違反があるとする新たな事情は見いだせない。

(5)独立特許要件についてのまとめ
上記(3)及び(4)に記載したとおり、訂正発明1?4について、甲1に記載された発明に基いて、新規性及び進歩性を否定できるものではなく、また、サポート要件違反又は実施可能要件違反であるとする新たな事情は見いだせない。
したがって、訂正発明1?4について、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする新たな理由は見い出せず、本件訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合する。

第4 むすび
以上のとおり、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウムを有効成分とする、経口用イブプロフェン製剤におけるイブプロフェンの吸収速度増加剤であって、酸化マグネシウムが、イブプロフェン100重量部に対して50質量部?100×50/75重量部となるように配合される、イブプロフェンの吸収速度増加剤。
【請求項2】
経口用イブプロフェン製剤が、更に、アリルイソプロピルアセチル尿素、及び/又はカフェイン及び無水カフェインから選択されるカフェイン類を含有する請求項1記載の吸収速度増加剤。
【請求項3】
経口用イブプロフェン製剤が解熱鎮痛薬である請求項1又は2記載の吸収速度増加剤。
【請求項4】
経口用イブプロフェン製剤が感冒薬である請求項1又は2記載の吸収速度増加剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2021-04-13 
結審通知日 2021-04-16 
審決日 2021-04-27 
出願番号 特願2001-54803(P2001-54803)
審決分類 P 1 41・ 841- Y (A61K)
P 1 41・ 856- Y (A61K)
P 1 41・ 854- Y (A61K)
P 1 41・ 855- Y (A61K)
P 1 41・ 851- Y (A61K)
最終処分 成立  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 穴吹 智子
渕野 留香
登録日 2014-04-11 
登録番号 特許第5519890号(P5519890)
発明の名称 経口用イブプロフェン製剤  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  

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