• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60B
管理番号 1375303
審判番号 不服2020-9253  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-02 
確定日 2021-06-15 
事件の表示 特願2017-532838号「フロントフランジおよびリムを含む軽合金ハイブリッドホイールの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月23日国際公開、WO2016/097628、平成30年 3月 1日国内公表、特表2018-505806号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)12月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年12月17日、フランス(FR))を国際出願日とする特許出願であって、平成29年 7月27日に翻訳文が提出され、令和 1年 9月13日付けで拒絶理由を通知し、同年12月24日に手続補正書及び意見書が提出され、令和 2年 2月21日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされ、これに対して、同年 7月 2日に本件拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし11に係る発明は、令和 2年 7月 2日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
フロントフランジ(2)およびリム(1)を含む軽合金ハイブリッドホイールの製造方法であって、前記製造方法は、以下の別個の工程フェーズ段階を実施し、
‐ 前記フロントフランジ(2)は、タイヤビードシートを構成することができる内部形状(2a)を有して作られる
‐ 前記リム(1)は、一方の側で、前記タイヤビードシートを構成することができる外部形状(1a)と、他方の側で前記フロントフランジ(2)の一部(2b)と組み立てるための円形フランク(1b)とを有して作られる
‐ 前記フロントフランジ(2)は、前記フロントフランジ(2)の前記一部(2b)と前記リム(1)の前記円形フランク(1b)において前記リム(1)に組み立てられる、
前記リム(1)と前記フロントフランジ(2)との組み立てが、溶接部の両側にアクセス可能な位置でピンを使用する単一摩擦撹拌溶接(5)によって、前記リム(1)の前記円形フランク(1b)と前記フロントフランジ(2)とが溶接されることによって行われ、
前記フロントフランジ(2)が、鋳物プリフォームの鋳造工程と、前記鋳物プリフォームの保管と、加熱することができるオーブンへの前記鋳物プリフォームの移送と、前記鋳物プリフォームの鍛造型への移送と、前記フロントフランジを得るための前記鋳物プリフォームの鍛造工程と、前記フロントフランジ(2)を得るためのバリ取りと、を含む工程によって作られることを特徴とする方法。」
上記補正は、「前記フロントフランジ(2)が、・・・を含む工程によって作られる」との記載とすることにより、日本語として文章を明らかにするためのものであり、明瞭でない記載の釈明を目的としており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
この出願の請求項1?11に係る発明は、本願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2?9に記載された事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1?11
・引用文献等 1?9

<引用文献等一覧>
1.特開2003-054206号公報
2.特開2000-142003号公報
3.特表2003-512219号公報(周知技術を示す文献)
4.米国特許第05271663号明細書(周知技術を示す文献)
5.特開2011-115812号公報(周知技術を示す文献)
6.特表2014-532579号公報(周知技術を示す文献)
7.特開平07-088583号公報(周知技術を示す文献)
8.特開平08-216602号公報(周知技術を示す文献)
9.特開2003-225780号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献の記載事項等
1 引用文献1
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された引用文献である、特開2003-054206号公報(平成15年 2月26日出願公開。以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は当審が付した。以下、同様。)。
(1a)
「【要約】
【課題】 鋳造部のピンホールによるエア漏れを防止し、軽量化を図り、製造コストを低減できる自動車用のアルミホイールを提供する。
【解決手段】 アルミホイールは、ディスク部2をもつ外側部材1のディスク側リム部3に、環状の内側リム部材4を接合してなる。外側部材1は、鋳造または鍛造で作られる一方、内側リム部材4は、熱処理アルミニウム合金の展伸材をロールフォーミング加工して作られる。外側部材1と内側リム部材4は、アルミホイールの幅方向中央よりも外側で突合せ摩擦圧接Wによって接合される。内側リム部材4は、円筒状の上記展伸材を軸方向の中央面に関して対称に成形加工した後、上記中央面で切断して作られる。」
(1b)
「【0002】
【従来の技術】従来、この種のアルミホイールとして、例えば図4に示すようなものが知られている(特開2000-142003号公報)。このアルミホイールは、図示しない車軸に中心穴32aを嵌め込んで固定される円盤状のディスク部32とその外周に車軸方向に連なる環状のディスク側リム部33とを鍛造によって一体成形してなる外側部材31と、板材をロールフォーミングで成形加工してなり、上記外側部材のディスク側リム部33の内側端33bに全周突合せ溶接(W)によって接合された環状の内側リム部材34で構成される。外側部材31のディスク側リム部33は、アルミホイールの全幅の略2/3を占め、内側リム部材34が残る全幅の略1/3を占めている。鍛造製のディスク側リム部33は、ホイール幅の中央に位置する最小外径のドロップ部33aと、その内外両側に連なるサイドウォール部33b,33b'と、外側サイドウォール部33b'の外側に連なるビードシート部33cと、最外かつ最大外径のリムフランジ33dとからなる一方、成形加工製の内側リム部材34は、ビードシート部34cと最内かつ最大外径のリムフランジ34dのみからなる。」
(1c)
「【0007】上記構成の自動車用のアルミホイールによれば、鋳造または鍛造で作られる外側部材と、板材を成形加工して作られる内側部材との突合せ溶接による接合部が、アルミホイールの幅方向中央よりも外側にあるので、厚肉で製造中にピンホールが発生し易い鋳造部または製造手間のかかる鍛造部の幅を、薄肉で欠陥が少なく製造が容易な板材の成形加工部の幅よりも短くできる。従って、鋳造部の幅が狭くなる分だけ、タイヤに充填されたエアが鋳造欠陥であるピンホールを経て漏れる可能性が低減するとともに、鋳型を小型化でき、鋳型と鋳造作業を簡素化でき、ホイールの軽量化が図れ、また、手間が省けて製造コストを低減できる。さらに、外側部材と内側部材が突合せ溶接されているので、隅肉溶接に比して継手効率が良い分だけ、溶接部の所要強度を確保しつつ鋳造部や鍛造部を薄肉にでき、軽量化を図れるうえ、鋳,鍛造によってディスク部に対するユーザのデザイン要求に対応することができる。」
(1d)
「【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。図1は、本発明による自動車用のアルミホイールの一例を示す軸方向断面図であり、このアルミホイールは、外側部材1が鋳造製である点および外側部材1と内側リム部材4との接合部Wの位置が異なる点を除いて、図4で述べた従来例と同じであり、同じ部材には下1桁が同じ参照番号を付している。
【0011】上記アルミホイールは、円盤状のディスク部2とその外周に連なる環状のディスク側リム部3とを鋳造によって一体形成してなる外側部材1と、板材をロールフォーミングで成形加工してなる内側リム部材4とを、アルミホイールの幅方向中央よりも外側、つまり内側リム部材4のドロップ部4aよりも短いディスク側リム部材3のドロップ部3aの先端に摩擦圧接によって突合せ接合している。
【0012】外側部材1の鋳造は、要求される品質や価格に応じて、低圧鋳造法,高圧鋳造法,重力鋳造法,PFダイカスト法,溶融直前の棒材をプレスで金型に圧入するSSF法などから選ぶことができる。また、高級なアルミホイールについては、外側部材の製造に鍛造を用いることもでき、その場合は、ピンホールの発生をなくせるうえ、所要強度を確保しつつ薄肉化できるので、軽量化を図れるという利点がある。一方、内側リム部材4は、(社)日本自動車タイヤ協会規格(JATMA)によってサイズ毎に形状,寸法が決まっているので、量産性に優れる成形加工に適しており、板材には、熱処理合金の展伸材を用い、加工法としては、通常ロールフォーミングを採用し、軽量化が要求される場合は、冷間スピニングを採用して薄肉化を図る。さらに、接合法としては、摩擦圧接の他に、回転ツールを接合部に押し付けつつ移動させて塑性流動により接合する摩擦撹拌溶接法(FSW)を用いることもできる。
【0013】図2は、摩擦圧接前の外側部材1と内側リム部材4の軸方向断面を示しており、互いに接合される外側部材1および内側リム部材4のドロップ部3a,4aの先端は、圧接後の長さよりもアプセット量Lだけ長い寸法になっている。」
(1e)
「【0018】上記実施形態では、外側部材1と内側リム部材3の接合を摩擦圧接で行なったが、接合方法は、これに限られず、例えばMIG溶接やレーザ溶接などアルミニウム合金に適した種々の溶接法を用いることができる。」(審決注:上記「内側リム部材3」は「内側リム部材4」の誤記であると認める。)
(1f)引用文献1には、以下の図が示されている。
【図1】


(2)認定事項
上記(1a)?(1f)の記載事項から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 【要約】の「アルミホイールは、ディスク部2をもつ外側部材1のディスク側リム部3に、環状の内側リム部材4を接合してなる。外側部材1は、鋳造または鍛造で作られる一方、内側リム部材4は、熱処理アルミニウム合金の展伸材をロールフォーミング加工して作られる。外側部材1と内側リム部材4は、・・・突合せ摩擦圧接Wによって接合される」との記載から、引用文献1には、外側部材1及び内側リム部材4を含むアルミホイールの製造方法が記載されていること。
イ 段落【0002】の「従来、この種のアルミホイールとして、例えば図4に示すようなものが知られている・・・ディスク側リム部33は、・・・ビードシート部33c・・・からなる・・・内側リム部材34は、ビードシート部34cからなる」との記載、段落【0010】の「図1は、本発明による自動車用のアルミホイールの一例を示す軸方向断面図であり、・・・図4で述べた従来例と同じであり、同じ部材には下1桁が同じ参照番号を付している」との記載、段落【0011】の「円盤状のディスク部2とその外周に連なる環状のディスク側リム部3とを鋳造によって一体形成してなる外側部材1と、板材をロールフォーミングで成形加工してなる内側リム部材4とを、・・・ディスク側リム部材3のドロップ部3aの先端に摩擦圧接によって突合せ接合している」との記載、段落【0013】の「互いに接合される外側部材1および内側リム部材4のドロップ部3a,4aの先端」との記載、段落【0012】の「接合法としては、・・・回転ツールを接合部に押し付けつつ移動させて塑性流動により接合する摩擦撹拌溶接法(FSW)を用いることもできる」との記載、段落【0018】の「上記実施形態では、外側部材1と内側リム部材3の接合を摩擦圧接で行なったが、接合方法は、これに限られず、例えばMIG溶接やレーザ溶接などアルミニウム合金に適した種々の溶接法を用いることができる。」(審決注:上記「内側リム部材3」は「内側リム部材4」の誤記であると認める。)との記載、及び図1から、外側部材1はビードシート部3c及びドロップ部3aの先端を有して形成されるものであり、内側リム部材4はビードシート部4c及びドロップ部4aの先端を有して成形加工されるものであり、外側部材1及び内側リム部材4は、外側部材1のドロップ部3aの先端と内側リム部材4のドロップ部4aの先端で溶接により接合されること。
ウ 段落【0012】の「外側部材1の鋳造は、要求される品質や価格に応じて、・・・選ぶことができる。また、・・・外側部材の製造に鍛造を用いることもでき」との記載から、外側部材1の製造には、鋳造又は鍛造が用いられること。

(3)引用発明
上記(1)、(2)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「外側部材1及び内側リム部材4を含むアルミホイールの製造方法であって、
外側部材1はビードシート部3c及びドロップ部3aの先端を有して形成されるものであり、
内側リム部材4はビードシート部4c及びドロップ部4aの先端を有して成形加工されるものであり、
前記外側部材1及び前記内側リム部材4は、前記外側部材1のドロップ部3aの先端と前記内側リム部材4のドロップ部4aの先端で溶接により接合され、
前記外側部材1の製造には、鋳造又は鍛造が用いられる
アルミホイールの製造方法。」

2 引用文献2
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された引用文献である、特開2011-115812号公報(平成23年 6月16日出願公開。以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
(2a)
「【0017】
実施の形態による軽合金製車両ホイールの製造方法は、鋳造素材を熱間鍛造してリム一体の車両ホイールを製造する方法であり、鍛造前の鋳造素材としては従来の丸棒ビレットに代えて扁平角型ビレットを使用する。軽合金の材質としては、例えば、A6061等のアルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金等が用いられる。
以下に、実施の形態による軽合金製車両ホイールの製造方法を説明する。」
(2b)
「【0029】
(実施例1)
実施例1では、リム径17インチのアルミ鍛造ホイールを製造した。
まず、型出口形状が略長方形の鋳型を備えた半連続鋳造設備を使用し、縦80mm、横300mmの長方形断面を持つアルミニウム合金製(A6061)の扁平角型ビレットを作製した。なお、この扁平角型ビレットの結晶粒を測定したところ、平均粒径が95μmであることを確認した。次いで、この扁平角型ビレットを長手方向(鋳造方向)の長さ290mmで切断し、切断面のバリ取りならびに意匠面を削り代1mmで切削加工し、長さ290mm、幅(横)300mm、厚み(縦)79mm、重さ約18kgの扁平矩形状の鋳造素材とした。
次に、熱間鍛造工程として、この扁平矩形状の鋳造素材を加熱炉に投入して約500℃に加熱し、金型温度300℃にて扁平矩形状の鋳造素材の略正方形面(鋳造方向に直交する面側)を圧下するように1次鍛造を行って円盤型の1次鍛造上がり品とし、続いて、この円盤型1次鍛造上がり品を金型温度300℃にて粗鍛造と仕上げ鍛造とを行ってリム部とディスク部の形状を整えた鍛造上がり品を得た。
その後、鍛造上がり品をスピニング成形加工し、次いで、温度540℃で5分間の溶体化熱処理、実体温度60℃以下の水焼入れ、温度180℃で5時間の時効熱処理を順次に施した後、機械加工を経て、アルミニウム合金製車両ホイールを得た。」

(2)引用文献2に記載された事項
上記(1)から、引用文献2には、次の事項(以下、「引用文献2に記載された事項」という。)が記載されていると認められる。
「軽合金製車両ホイールの部材が、
軽合金製の鋳造素材とし、
該鋳造素材を加熱炉に投入し、
金型にて鍛造上がり品を得た後、機械加工を経ることによって得られること。」

3 引用文献3
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された引用文献である、特表2014-532579号公報(平成26年12月 8日国内公開。以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
(3a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦溶接によって一体化することが可能なフロントディスク(2)およびリム(1)を含む、軽合金型ハイブリッドホイールを作製する方法であって、
- 初期鋳造プリフォームの鋳造作業、および前記初期鋳造プリフォームの鍛造型への移送作業の二段作業に加えて、前記フロントディスクを得るための前記初期鋳造プリフォームの鍛造作業と、その後の前記フロントディスクを得るためのバリ取り作業とによって得られる前記フロントディスクの作製段階と、
- 軽合金ビレットを作製し、前記ビレットを熱間押出しまたは冷間押出し(P1)によって円形フランクに変形させ、その後前記円形フランクを最終リム寸法まで拡張させる(P2)ことに加えて、前記円形フランクの高温または低温のフロー成形作業(P3)を行って前記リムの最終形状および最終プロファイルを得る、前記リム部分の製造段階と、
- 組み立てるべき領域の機械加工後の、摩擦溶接作業を含む溶接による前記フロントディスク部分と前記リムとの組立て段階とを含むことを特徴とする、方法。」

第5 対比
1 引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 後者の「ビードシート部3c」及び「ビードシート部4c」は前者の「タイヤビードシート」に相当する。
イ 後者の「外側部材1」は「ビードシート部3c」「を有して形成されるものであ」ることから、後者の「外側部材1」は、前者の「フロントフランジ(2)」に相当し、後者の「外側部材1はビードシート部3c及びドロップ部3aの先端を有して形成されるものであ」ることは、前者の「フロントフランジ(2)は、タイヤビードシートを構成することができる内部形状(2a)を有して作られる」ことに相当する。
ウ 後者の「内側リム部材4」は「ビードシート部4c及びドロップ部4aの先端を有して成形加工されるものであり」、「前記外側部材1のドロップ部3aの先端と」「ドロップ部4aの先端で、」「接合され」ることから、後者の「ドロップ部3aの先端」、「前記内側リム部材4のドロップ部4aの先端」、及び「内側リム部材4」は前者の「前記フロントフランジ(2)の一部(2b)」、「円形フランク(1b)」、及び「リム(1)」に相当し、後者の「内側リム部材4はビードシート部4c及びドロップ部4aの先端を有して成形加工されるものであ」ることは前者の「前記リム(1)は、一方の側で、前記タイヤビードシートを構成することができる外部形状(1a)と、他方の側で前記フロントフランジ(2)の一部(2b)と組み立てるための円形フランク(1b)とを有して作られる」ことに相当する。
エ 図1及び段落【0007】の「外側部材と内側部材が突合せ溶接されている」との記載から、外側部材1と内側リム部材4との溶接部Wは、両側にアクセス可能な位置であることは明らかであるところ、上記ウから、後者の「前記外側部材1及び前記内側リム部材4は、前記外側部材1のドロップ部3aの先端と前記内側リム部材4のドロップ部4aの先端で溶接により接合され」ることは、前者の「前記フロントフランジ(2)は、前記フロントフランジ(2)の前記一部(2b)と前記リム(1)の前記円形フランク(1b)において前記リム(1)に組み立てられる、前記リム(1)と前記フロントフランジ(2)との組み立てが、溶接部の両側にアクセス可能な位置でピンを使用する単一摩擦撹拌溶接(5)によって、前記リム(1)の前記円形フランク(1b)と前記フロントフランジ(2)とが溶接されることによって行われ」ることと、「前記フロントフランジ(2)は、前記フロントフランジ(2)の前記一部(2b)と前記リム(1)の前記円形フランク(1b)において前記リム(1)に組み立てられる、前記リム(1)と前記フロントフランジ(2)との組み立てが、溶接部の両側にアクセス可能な位置で、前記リム(1)の前記円形フランク(1b)と前記フロントフランジ(2)とが溶接されることによって行われ」る点で共通する。
オ 上記イ?エから、後者の「外側部材1及び内側リム部材4を含むアルミホイールの製造方法」は、別個の工程フェーズ段階を実施するものであり、引用文献1の【要約】(第4 1(1a))、及び段落【0018】(第4 1(1e))の記載から、外側部材1及び内側リム部材4を含むアルミホイールは、アルミニウム合金を加工して作られるものであり、アルミニウム合金は軽合金であることから、前者の「フロントフランジ(2)およびリム(1)を含む軽合金ハイブリッドホイールの製造方法であって、前記製造方法は、以下の別個の工程フェーズ段階を実施」することと、「フロントフランジ(2)およびリム(1)を含む軽合金ハイブリッドホイールの製造方法であって、前記製造方法は、別個の工程フェーズ段階を実施」する点で共通する。

2 一致点・相違点
以上のことから、本願発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりと認める。
〔一致点〕
「フロントフランジおよびリムを含む軽合金ハイブリッドホイールの製造方法であって、前記製造方法は、以下の別個の工程フェーズ段階を実施し、
‐ 前記フロントフランジは、タイヤビードシートを構成することができる内部形状を有して作られる
‐ 前記リムは、一方の側で、前記タイヤビードシートを構成することができる外部形状と、他方の側で前記フロントフランジの一部と組み立てるための円形フランクとを有して作られる
‐ 前記フロントフランジは、前記フロントフランジの前記一部と前記リムの前記円形フランクにおいて前記リムに組み立てられる、
前記リムと前記フロントフランジとの組み立てが、溶接部の両側にアクセス可能な位置で、前記リムの前記円形フランクと前記フロントフランジとが溶接されることによって行われる方法。」
〔相違点1〕
「前記リムと前記フロントフランジとの組み立て」の「溶接」に関し、本願発明は、「ピンを使用する単一摩擦撹拌溶接(5)によ」るものであるのに対し、引用発明は、そのような事項が特定されていない点。
〔相違点2〕
「フロントフランジ」に関し、本願発明は、「鋳物プリフォームの鋳造工程と、前記鋳物プリフォームの保管と、加熱することができるオーブンへの前記鋳物プリフォームの移送と、前記鋳物プリフォームの鍛造型への移送と、前記フロントフランジを得るための前記鋳物プリフォームの鍛造工程と、前記フロントフランジ(2)を得るためのバリ取りと、を含む工程によって作られる」のに対し、引用発明は、「鋳造又は鍛造が用いられる」点。

第6 判断
以下、相違点について検討する。
1 相違点1について
(1) 引用文献1には、段落【0012】の「接合法としては、摩擦圧接の他に、回転ツールを接合部に押し付けつつ移動させて塑性流動により接合する摩擦撹拌溶接法(FSW)を用いることもできる」との記載、段落【0018】の「上記実施形態では、外側部材1と内側リム部材3の接合を摩擦圧接で行なったが、接合方法は、これに限られず、例えばMIG溶接やレーザ溶接などアルミニウム合金に適した種々の溶接法を用いることができる。」(審決注:上記「内側リム部材3」は「内側リム部材4」の誤記であると認める。)から、種々の溶接法を用いることができる旨が記載され、その方法の1つである「回転ツールを接合部に押し付けつつ移動させて塑性流動により接合する摩擦撹拌溶接法(FSW)」の回転ツールがピンであることは、当業者であれば明らかであり、ピンを使用する単一摩擦撹拌溶接により部材を組み立てることは、本願の優先日前において、例示するまでもない周知技術であって、この周知技術に鑑みることで、引用発明において上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。

2 相違点2について
(1) 引用文献2には、「軽合金製車両ホイールの部材が、軽合金製の鋳造素材とし、該鋳造素材を加熱炉に投入し、金型にて鍛造上がり品を得た後、機械加工を経ることによって得られること」なる事項が記載されており、引用文献2に記載された事項の「軽合金製の鋳造素材と」する工程、及び「該鋳造素材を加熱炉に投入」する工程は、本願発明の「鋳物プリフォームの鋳造工程」、及び「加熱することができるオーブンへの前記鋳物プリフォームの移送」に相当する。
(2) 引用文献2に記載された事項の「金型にて鍛造上がり品を得」る工程が、金型に該鋳造素材を移送する工程を含むことは、当業者であれば明らかであることから、引用文献2に記載された事項の「金型にて鍛造上がり品を得」る工程は、本願発明の「前記鋳物プリフォームの鍛造型への移送と、前記フロントフランジを得るための前記鋳物プリフォームの鍛造工程」と、「前記鋳物プリフォームの鍛造型への移送と、前記部材を得るための前記鋳物プリフォームの鍛造工程」である点で共通する。
(3) 上記(1)、(2)から、引用文献2に記載された事項の「軽合金製車両ホイールの部材が、軽合金製の鋳造素材とし、該鋳造素材を加熱炉に投入し、金型にて鍛造上がり品を得た後、機械加工を経ることによって得られること」と本願発明の「前記フロントフランジ(2)が、鋳物プリフォームの鋳造工程と、前記鋳物プリフォームの保管と、加熱することができるオーブンへの前記鋳物プリフォームの移送と、前記鋳物プリフォームの鍛造型への移送と、前記フロントフランジを得るための前記鋳物プリフォームの鍛造工程と、前記フロントフランジ(2)を得るためのバリ取りと、を含む工程によって作られること」とは、「軽合金ホイールの部材が、鋳物プリフォームの鋳造工程と、加熱することができるオーブンへの前記鋳物プリフォームの移送と、前記鋳物プリフォームの鍛造型への移送と、前記軽合金ホイールの部材を得るための前記鋳物プリフォームの鍛造工程とを含む工程によって作られること」である点で共通する。
(4) 軽合金ホイールの部材の製造方法として、鋳物プリフォームの鋳造工程と、加熱することができるオーブンへの前記鋳物プリフォームの移送と、前記鋳物プリフォームの鍛造型への移送と、部材を得るための前記鋳物プリフォームの鍛造工程とを含む工程によって作られることは、引用文献2に記載された事項に例示されるように、本願の優先日前において周知技術である。
(5) 部材の製造について、製造途中の部材を保管することは、本願の優先日前において、当業者にとって例示するまでもない技術常識である。
(6) 部材の製造について、製造途中の部材の鍛造作業の後に、部材を得るためにバリ取り作業を行うこと(必要であれば、上記引用文献3の記載(第4 3(1a))を参照すること。)、は本願の優先日前において、当業者にとって技術常識である。
(7) そして、引用発明は、ホイールの製造方法として、鋳造又は鍛造が用いられるものであるところ、本願の優先日前における軽合金ホイールの部材の製造方法として、鋳造及び鍛造の両方が用いられることは、上記(4)にあるように周知技術であり、引用発明のフロントフランジ(2)(外側部材1)について、上記周知技術及び上記各技術常識に鑑みることで、引用発明において上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。

3 効果
本願発明の作用効果も、引用発明、周知技術、及び技術常識に接した当業者が予測できる範囲のものである。

4 請求人の主張について
請求人は、審判請求書の(4.本願発明と引用発明との対比)において、「本願請求項1に係る発明における「前記フロントフランジ(2)が、鋳物プリフォームの鋳造工程と、前記鋳物プリフォームの保管と、加熱することができるオーブンへの前記鋳物プリフォームの移送と、前記鋳物プリフォームの鍛造型への移送と、前記フロントフランジを得るための前記鋳物プリフォームの鍛造工程と、前記フロントフランジ(2)を得るためのバリ取りと、を含む工程によって作られる」との方法のステップは、引用文献1及び2には開示されていない。審査官殿は、当業者が、引用文献5及び6の技術的教示により、これらの開示されていない点を達成でき、このため、当業者が、請求項1の要旨を容易に達成できたと認定された。しかしながら、審判請求人は、以下のとおり、このご認定には承服できない。・・・引用文献1、2、5及び6を検討する当業者は、技術的課題を解決することができず、請求項1の要旨を容易に得ることはできない。上記のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用文献1?9に記載の発明に基づいて容易になされるものではなく、進歩性を有する。」と主張している。
しかしながら、上記「第6 2 相違点2について」の(1)?(4)で述べたとおり、「軽合金ホイールの部材の製造方法として、鋳物プリフォームの鋳造工程と、加熱することができるオーブンへの前記鋳物プリフォームの移送と、前記鋳物プリフォームの鍛造型への移送と、部材を得るための前記鋳物プリフォームの鍛造工程とを含む工程によって作られること」は、例えば、引用文献2に記載された事項のごとく、本願の優先日前において周知技術である。
そして、上記「第6 2 相違点2について」の(5)で述べたとおり、部材の製造について、製造途中の部材を保管すること、及び上記「第6 2 相違点2について」の(6)で述べたとおり、製造途中の部材の鍛造作業の後に、部材を得るためにバリ取り作業を行うことは、例えば引用文献3に記載された事項のごとく本願の優先日前において、当業者にとって技術常識であり、上記「第6 2 相違点2について」の(7)で述べたとおり、引用発明のフロントフランジ(2)(外側部材1)について、上記周知技術及び技術常識に鑑みることで、引用発明において上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。
したがって、上記請求人の主張は理由がない。

5 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明、上記周知技術、及び上記技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 結論
以上のとおり、本願発明は、引用発明、上記周知技術、及び上記技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2021-01-07 
結審通知日 2021-01-12 
審決日 2021-01-28 
出願番号 特願2017-532838(P2017-532838)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高島 壮基  
特許庁審判長 一ノ瀬 覚
特許庁審判官 氏原 康宏
須賀 仁美
発明の名称 フロントフランジおよびリムを含む軽合金ハイブリッドホイールの製造方法  
代理人 阿部 達彦  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ