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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1375327
審判番号 不服2020-10718  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-03 
確定日 2021-06-17 
事件の表示 特願2019-8413「部品保持装置、および部品把持方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年4月11日出願公開、特開2019-57743〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)9月23日を国際出願日(以下「もとの国際出願日」という。)とする出願である特願2016-549689号の一部を平成31年1月22日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 元年10月25日付け :拒絶理由通知書
令和 2年 2月25日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 4月27日付け :拒絶査定
令和 2年 8月 3日 :審判請求書と同時に手続補正書の提出

第2 令和2年8月3日にされた手続補正についての補正の却下の決定[補正の却下の決定の結論]
令和2年8月3日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「部品支持面に散在された対向する1対の平面を備えたひとつの種類の複数の部品を保持する部品保持装置であって、
前記部品支持面に散在された複数の部品のうちのひとつの部品の対向する1対の平面を1対の爪部で把持する把持具と、
前記把持具をその軸心周りに回転させる把持具回転装置と、
前記把持具を前記部品支持面の上方において任意の位置に移動させる移動装置と、
前記把持具と前記把持具回転装置と前記移動装置との作動を制御する制御装置と
を備え、
前記制御装置が、
前記複数の部品をひとつの2次元撮像装置で上方から撮像した撮像データに基づいて、前記ひとつの部品のXY座標上の位置および散在された角度を演算し、演算された前記ひとつの部品のXY座標上の位置および散在された角度に基づいて、前記1対の爪部を前記ひとつの部品の対向する1対の平面と対向させて把持するように、前記把持具回転装置と前記移動装置の作動を制御することを特徴とする部品保持装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和2年2月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「部品支持面に散在された対向する1対の平面を備えたひとつの種類の複数の部品を保持する部品保持装置であって、
前記部品支持面に散在された複数の部品のうちのひとつの部品の対向する1対の平面を1対の爪部で把持する把持具と、
前記把持具をその軸心周りに回転させる把持具回転装置と、
前記把持具を前記部品支持面の上方において任意の位置に移動させる移動装置と、
前記把持具と前記把持具回転装置と前記移動装置との作動を制御する制御装置と
を備え、
前記制御装置が、
前記複数の部品を上方から撮像した撮像データに基づいて、前記ひとつの部品のXY座標上の位置および散在された角度を演算し、演算された前記ひとつの部品のXY座標上の位置および散在された角度に基づいて、前記1対の爪部を前記ひとつの部品の対向する1対の平面と対向させて把持するように、前記把持具回転装置と前記移動装置の作動を制御することを特徴とする部品保持装置。」

2 補正の適否
本件補正のうち請求項1に係る補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「複数の部品を上方から撮像した撮像データ」について、上記のとおり「ひとつの2次元撮像装置で」という限定を付加するものである。
そして、本件補正のうち請求項1に係る補正は、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願のもとの国際出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2008-62376号公報(2008年(平成20年)3月21日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は理解の便のため当審にて付与。以下同じ。)。

「【0028】
以下、各図面を参照するのであるが、図1は、ロボット14を用いて整理箱であるビン12内の対象物Aを拾い上げるためのビンピッキングシステム10を図示している。
【0029】
整理箱であるビン12はトレーに似ているが、側壁13も備えており、該側壁13は側壁13の近くに位置する対象物Aの到達範囲を制限する可能性がある一方で、ビン12が移動されたとき、すなわち持ち上げ、傾斜、揺動などされたときに対象物がビンから落ちる可能性を最小にもする。特別に設計したプラスチック製のビンを使用することができるが、ボール箱などの対象物の出荷用に使用される箱も、蓋を取り除くか、閉鎖折り蓋を取り除くか開口位置に保持した場合、ビン12として使用することができる。ビン12は典型的には搬送され、所定のビン位置または場所で停止する。ビン12はロボット14の到達範囲内で、適切な位置に手動で置くこともできる。視覚システム20はビン12内の対象物を認識するのに使用され、所定の許容差内で拾い上げプロセスのためにビン12が適切に位置づけられたか否かを検査するためのビンの位置決め用カメラ24を備えている。もし、該当しない場合、コンベヤ(図示せず)を用いてビン12を置き直すか、ロボット14によってビン12を持ち上げ、後述のごとくそれを移動してもよい。ビン12は、手動で移動してもよい。
【0030】
図示した実施態様において、ロボット14は、関節的結合のアーム18上に取り付けられた把持部16を有する関節的結合のアームロボットである。なお、図1のロボットは、図示のためにだけ提供されたものであり、図1ではアームは三つの平行な運動の軸心を有して図示されているが、当業者には自明のごとく、適切な関節的結合のロボットは典型的には少なくとも三つの異なって配置された軸心を有し、把持部16は、用途分野と拾い上げられるべき対象物の形状に応じて、二つまたは三つの追加の運動の軸心を備えたアーム18に典型的には関節的結合自在に取り付けられることになる。ビンピッキングシステムに適したロボットの例は、関節的結合のロボット、選択的・受容的・関節結合・ロボット・アーム(Selective Compliant Articulated/Assembly Robot Arms)(SCARA)、および直交座標ロボットである。
【0031】
把持部16は、拾い上げられるべき対象物と、把持部16で対象物を把持するのに用いられる対象物上の形体とに適している。典型的には、二本の指を有する空気圧力ハンドグリッパを用いることができる。孔の形の把握形体部を有する対象物は、ロボット指を孔の内部に挿入し、指を拡げて対象物を保持することによって拾い上げることができる。ほぼ平坦な表面を有する対象物は、吸引把持部を用いて典型的には把持することができる。対象物の把握形体部に応じて、単一ロッドまたはプレートなどの、他のタイプの把持部を用いて対象物を把持することができる。
【0032】
ロボットは典型的には対象物を拾い上げることができる操作範囲を有する。この範囲はロボットのそれぞれの関節的結合の角度およびロボットと把持部が占める容積に対する制限を考慮に入れ、把握形体部を備えた対象物にロボットが到達して把持できるように適切な角度と位置で把持部を位置付けることが可能か否かを判定するのに用いられる。対象物がビン内に置かれているこの場合において、対象物はロボットのアームのすぐ下に置いてもよいが、把持部はビンの側壁または他の対象物に衝突することなしに対象物を拾い上げるために適切に回転したり下げることができないので、ロボットは対象物に到達できないままである。
【0033】
必要な場合(後述のごとく)整理箱であるビン12内の対象物を再配置するためにビン12を傾けたり揺動するために、ビン12は把持部を用いてロボットによって把持するのに適合させることができる。把持部16が空気圧力ハンドグリッパである場合、把持部16は側壁13の頂部でハンドを閉じることによってビン12の一つの側壁13を簡単に把持することができる。代案として、把持部16がビンの一つの側壁13または隅を把持して持ち上げることができるように、とくに適合した把握形体部をビンの側壁13または隅に取り付けるか、側壁13と共に画成することができる。ビン12は、把持部16によって把持または持ち上げるのに適合させることができる。例えば、非制限的に、ビン12は、識別され把持部16によって把持される、側壁13内に画成された孔などの、形体を含むことができる。代案としてビン12は、ビン12を載せた作動テーブルを用いて傾け、揺動させることができる。ビン12を揺動するために傾斜自在なコンベヤを用いてもよい。
【0034】
ビンピッキングシステム10は、拾い上げプロセスにおいてロボット14を誘導するための視覚システム20を備えている。視覚システム20は、ビン12内の対象物の2次元画像を取得するためにビン12上に配置された二台の3次元造影ビデオカメラ22を備えている。2次元画像は例えば、立体化方法を用いてビン12内の対象物の3次元画像を提供するために画像処理ユニット26によって処理される。画像処理ユニット26は2次元または3次元画像を処理することによってビン12内の対象物Aを認識する。拾い上げられるべき対象物Aのモデルが、画像処理ユニット26に提供される。モデルには、例えば、対象物の全体的形状または対象物上の判別幾何形状もしくは標的を記述する認識特性、および対象物を把持するために把持部16によって使用され、対象物A上に存在しなければならない、対象物内の孔などの把握形体部の定義が含まれる。例えば、もし、拾い上げられるべき対象物の全てが判別標識、例えば、一端の上の図形や特別な幾何形状を有するとき、判別標識が認識特性を提供するので、対象物を認識するのにその判別標識を認識することが要求されるだけかも知れない。画像処理ユニット26は、認識特性を有する対象物を認識することによってビン内の拾い上げられるべき対象物Aを識別する。把握形体部も画像処理ユニット26によって認識され、後述のごとく、把持部16によって把握可能な対象物を識別するのに用いられる。
【0035】
認識された対象物のリストはビン12内のそれらの位置と配向と共にロボット制御器28に提供され、後者は一つの対象物A’に到達し、それを把持し、それを拾い上げるためにアーム18と把持部16を動かす。それぞれの対象物は、ロボット14によって順次拾い上げられ、ビン12内の対象物の中から所与の時間に拾い上げられるべき対象物A’は、ロボット制御器28によって選択される。拾い上げられるべき対象物を、どれかを選択する際に、ロボット制御器は、対象物の把握形体部の位置と配向の軸心、ビン12の上から視覚システム20によって見た対象物A’の表面視認性および把握形体部の視認性などの、リストと共に画像処理ユニット26によって提供されたいくつかの追加データを計算に入れる。第一のルーチンによれば、ロボット制御器28は、該表面視認性が、拾い上げられるべき対象物A’の上に積み重なり、ロボット14が対象物A’を拾い上げるのを妨げている対象物がないと結論するのに十分であることを確認する。第二のルーチンによれば、ロボット制御器28は、対象物A’の把握形体部が十分に視認できて、把握形体部が十分に対象物A’の頂部の上にあり、重なり合った対象物がないので把持部によって把持されると結論するに足ることも確認する。最後に、第三のルーチンによれば、ロボット制御器28は、把握形体部がビン12の側壁13にほぼ向かい合っていることで把持部16が側壁13にぶつからずに把握形体部に到達するのを阻止しているかを確認して、把握形体部が把持部16によって到達可能であるかを評価する。これらのルーチンは例として提供されるものであり、対象物をロボット14によって拾い上げることができるかを判定するために、ロボット制御器28によってより多い、あるいは、より少ないルーチンを確認することができる。」

「【0060】
図6と図7は、把握可能な対象物が把持部によって到達可能かどうかを評価するのに可能な二つの基準を示している。図6の方法によれば、把持部が拾い上げられるべき対象物に到達する間にビンの側壁に当たらないときその対象物は到達可能である。図7の方法によれば、もし、把持部が拾い上げられるべき対象物に到達する間にビンの側壁にも当たらず、ビン内の他の対象物にも当たらないとき、そのときは、その対象物は到達可能である。
【0061】
つぎに図6を参照して説明するが、把握可能な対象物が把持部によって到達可能かどうかを評価するための基準122が提供される。まず、ビンの側壁13のきわめて近くに位置する把握形体部は、把持部が所与の操作範囲を有し、対象物を把持するために動いて自らを位置づけるために所与の空間を必要とするので、把持部によって到達できないだろう。このように、把握形体部はビンの側壁13の内側に定義される所与の拾い上げ区域内に位置することが要求される。したがって、過程610において、拾い上げ区域がビン内に定義される。把握可能な対象物A’の把握形体部がこの拾い上げ区域内にあり、把持部16が垂直に接近することによって対象物A’に到達できるように把握形体部が上を向いているとき、把握可能な対象物は把持部によって到達可能である。この拾い上げ区域は典型的にはロボット14の操作範囲によって、より詳細には把持部16の幅によって定義される。しかしながら、把握形体部が上を向いていないとき、把握形体部がビンの側壁13に向いているならば、対象物を把持できないかも知れない。したがって、過程620において、把握形体部の3次元位置から離れて、ロボットの操作範囲に従って、把握配向の軸心上に位置するクリアランス点が定義される。クリアランス点は、把持部が把握形体部を把持するときの把持部16とロボットのアーム18との間の関節的結合の3次元位置を定義する。この関節的結合は、ビン内の、傾いた位置にある対象物に到達するために把持部を傾けるのに用いられる。過程630において、クリアランス点と把握可能な対象物の把握形体部の位置とが共に拾い上げ区域内にあるとき、対象物は到達可能である。この条件で、対象物が傾いているとき、傾けられた把持部は把握形体部に到達するのにビンの側壁13に当たらない。
【0062】
つぎに図7において、把握可能な対象物が把持部16によって到達可能かどうかを評価するための代替基準122’が提供されている。この基準は把持部の寸法とビンの側壁13とを考慮に入れるが、図6に示した基準とは反対に、ビン12内の他の対象物の位置も計算に入れる。過程720において、把握形体部の3次元位置と把持方向の軸心ならびに把持部の寸法に従って、把握形体部のクリアランス空間が定義される。クリアランス空間は、把持部16が把握形体部に到達するために必要とする、該把握形体部に隣接する空間に対応し、把持部をアーム18に結合する関節的結合を含む、把持部16の寸法を典型的に有する。過程740において、ビン内の対象物によって占められる空間に対応する容積がそれぞれの対象物について定義される。過程760において、少なくとも一つの把握可能な対象物のクリアランス空間に、他の対象物とビンの側壁13とに対応する容積がないとき、対象物は把持部16によって到達可能である。」


(イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
図1の図示内容から、複数の「対象物A」は、散在された状態で「ビン12の底面」に支持されていると認められる。
また、段落【0031】の「把持部16は、拾い上げられるべき対象物と、把持部16で対象物を把持するのに用いられる対象物上の形体とに適している。典型的には、二本の指を有する空気圧力ハンドグリッパを用いることができる。」の記載から、拾い上げられるべき「対象物A」は、「二本の指」で把持すると認められる。
さらに、段落【0032】の「・・・把握形体部を備えた対象物にロボットが到達して把持できるように適切な角度と位置で把持部を位置付けることが可能か否かを判定する・・・」の記載から、「把持部」の「二本の指」が対象物と対向するように、適切な角度と位置で「把持部」を位置付ける「機構」を有すると認められる。
さらにまた、段落【0030】、【0035】の記載、及び図1の図示内容から、「把持部16」を「ビン12」の底面の上方において任意の位置に移動させるのは「ロボット14」であり、「把持部16」と上記「把持部」を位置付ける「機構」と「ロボット14」との作動を「ロボット制御器28」が制御することが認められる。
さらにまた、段落【0031】、【0034】-【0035】、【0060】-【0062】の記載、及び図1の図示内容の記載から、「ロボット制御器28」が、複数の「対象物A」を二台の「3次元造影ビデオカメラ22」で上方から撮像した画像データに基づいて、一つの「対象物A’」の位置及び配向が提供されるものであること、及び、アーム18と把持部16が、一つの対象物A’に到達して拾い上げるために、提供された一つの「対象物A’」の位置及び配向に基づいて、把持部16の「二本の指」を一つの「対象物A’」と対向させて把持するように、「機構」と「ロボット14」の作動を制御することが、認められる。

(ウ)上記(ア)及び(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「ビン12の底面に散在された複数の対象物Aを支持するビンピッキングシステム10であって、
前記ビン12の底面に散在された複数の対象物Aのうちの一つの対象物A’を二本の指で把持する把持部16と、
前記二本の指が適切な角度と位置で前記把持部16を位置付ける機構と、
前記把持部16を前記ビン12の底面の上方において任意の位置に移動させるロボット14と、
前記把持部16と前記機構と前記ロボット14との作動を制御するロボット制御器28と
を備え、
前記ロボット制御器28が、
前記複数の対象物Aを二台の3次元造影ビデオカメラ22で上方から撮像した画像データに基づいて、前記一つの対象物A’の位置及び配向が提供され、提供された前記一つの対象物A’の位置及び配向に基づいて、前記二本の指を前記一つの対象物A’と対向させて把持するように、前記機構と前記ロボット14の作動を制御する
ビンピッキングシステム10。」

イ 引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用された本願のもとの国際出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平4-240087号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。

「【0016】
【実施例】本発明による把持装置構成の一実施例を図2に示す。把持装置は、把持ハンド61とコンピュータ62とで構成される。コンピュータ62はセンサ信号65を入力し、把持ハンド61に手首回転コントロール信号63、把持ハンド開閉コントロール信号64を送り、把持ハンド61の動作を制御する。把持ハンド61は図1に示すように、2本の指を互いに独立に開閉移動させる機構を有する平行開閉型把持ハンド本体52、触覚または近接センサ54を取り付けた指53、ロボットアーム55に取り付けられ把持ハンド本体を同図(a)の矢印の方向に回転させる回転リスト51で構成される。指は把持ハンド本体に取り付けられたものであるため、この回転リスト51の回転により同図(b)の矢印の方向に回転する。触覚または近接センサ54は、指の開動作および閉動作による把持に対応できるように、指の裏表に取り付け、物体が傾いていても接触を検出できるように、できるだけ端に取り付ける。
【0017】図3に、上記センサ54を触覚センサとした把持ハンドを把持ハンドの第1の実施例としてコンピュータ62にプログラムされる把持動作制御のフローチャートを、また、この把持ハンドで物体の把持を行ったときの動作の様子を図4に示す。以下、図3,図4を参照しつつ把持装置の動作を説明する。
【0018】(1)物体は各指から非対称の位置(L_(A),L_(B))に、各指の把持面の方向から角度θ傾いて置かれている。
【0019】(2)指Aと指Bは閉動作を開始する。指Aは物体に接触し、触覚センサにより検出された力が、設定された接触荷重値以上になると停止する。
【0020】(3)指Bは閉動作を継続し、物体に接触し(2)と同様の力を検出すると停止する。この時点で、各指の物体からの相対位置が一致する。
【0021】(4)回転リストを非接触側のセンサを接触させる方向に、そのセンサが接触するまで回転させ、物体の傾き角度を認識する。
【0022】(5)回転リストを(4)の回転と逆方向に、物体の傾き角度の1/2回転させることにより、指と物体とが平行、すなわち相対角度がゼロになる。
【0023】(6)安定な把持を行うために両指を閉じても、両指と物体との相対位置が同じで、しかも相対角度がゼロであるため、物体の最初設定された位置,姿勢を動かすことはない。」

ウ 引用文献3
原査定の拒絶の理由で引用された本願のもとの国際出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開昭60-217089号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。

「ここで、第6図(d)のように、指(4a),(4b)の把持面と、指(4a),(4b)が接触している面とのなす角度θ_(3)が零でない場合には、z軸まわりのモーメントMzが検出される(第7図のP11)。モーメントMzが零になるまでz軸まわりにモーメントMzの方向ヘハンド(1)の姿勢を変えて(第7図のP12,P13)、指(4a),(4b)の把持面と、指(4a),(4b)の接触している面とのなす角度θ_(3)が零となる状態で、角形物体(3)を把持する。」(公報第4ページ左上欄第1?10行。)

エ 引用文献4
原査定の拒絶の理由で引用された本願のもとの国際出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開昭60-221281号公報(以下「引用文献4」という。)には、次の記載がある。

「物体(2)に接触していない指(4b)は、物体(2)に接触するまで移動させる。第6図(c)に示すように、指(4a),(4b)の両方が物体(2)に接触した状態となると、指位置検出器(13a),(13b)からの距離情報により指間隔lが得られ(第7図のP5)、物体(2)の幅tと指の幅hより、次式からグリッパ(1)と物体(2)との傾き角θが得られる(第7図のP6)。
(t/cosθ)+h・tanθ=l (1)
ついで、物体(2)に接触している接触検出器(5a)?(5d)の相互関係から、物体(2)とグリッパ(1)との傾きの方向を求め(第7図のP7)、たとえば、第6図(c)に示すように、接触検出器(5a),(5d)が接触しておれば、時計回りに角度θだけグリッパ(1)の姿勢を位置決め装置(3)(第1図)で変え(第7図のP8)、指(4a),(4b)の把持面(41)を物体(2)の被把持面(2a)と平行にしたうえで、第6図(d)に示すように、指(4a),(4b)を閉じて物体(2)を把持する(第7図のP9)。」(公報第3ページ左上欄第16行?右上欄第15行。)

オ 上記イないしエの記載から、引用文献2ないし4には、次の周知技術(以下「周知技術1」という。)が記載されていると認められる。
「把持対象物が、対向する1対の平面を備えた部品であり、把持装置が、1対の爪部が前記対向する1対の平面と対向するように、把持具をその軸心周りに回転させる把持具回転装置を備えること。」

カ 引用文献5
この審決で新たに引用する本願のもとの国際出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特公昭61-54556号公報(以下「引用文献5」という。)には、次の記載がある。

「(1) 発明の技術分野
本発明は視覚認識によつて得られる情報に基づきロボツトを駆動するハンドリング装置のロボツト用視覚認識装置に関するものである。
(2) 従来技術
従来、ベルトコンベア等で供給される試料、部品等を視覚認識に基づきロボツトのハンドを操作してハンドリング装置はよく知れている。この場合の把握動作は対象物体が単体と考えられる程度に間隔をあけて配置されている場合に適するものである。第1図はこのようなロボツトを用いたハンドリングシステムの1例を示すものである。同図においてロボツト1は回転位置決め可能な関節1-1,1-2,1-3,1-4,1-5,1-6を有し、制御部4により作業空間内で自在に位置決めができる。また先端に2本爪よりなるハンド1-7を有している。
制御部4は対象物体3の鉛直上方に配置されたTVカメラ2による視覚認識によりロボツト1のハンド1-7の位置制御と把握制御を行なう。この場合、対象物体3が他の物体と近接したり重ね合つたりしていると鉛直上方からTVカメラ2で視覚認識してハンド1-7を対象物体に合せてセツトした時、ハンド位置が近接した他物体と重なつて把握することができない。この場合、対象物体とハンドとの衝突による両者の破損を防ぐための安全確認機能をもたせることが望ましい。
(3) 発明の目的
本発明の目的は視覚認識ハンドリング装置でハンドリングを行なう際の対象物体とハンドの衝突による破損を防止することのできるロボツト用視覚認識装置を提供することである。
(4) 発明の構成
前記目的を達成するため、本発明のロボツト用視覚認識装置の構成は対象物体を鉛直上方から視覚認識し、ロボツトのハンドにより上方から把握させるハンドリング装置のロボツト用視覚認識装置において、前記ロボツトのハンドが認識結果に基づいて掴み動作を実行する時に把握対象と衝突するか否かを、視覚認識によつて得られた前記対象物体の位置・姿勢情報と、前記ハンドの掴み幅および爪形状により定まる爪の先端部の位置・姿勢情報との重なりの有無により判断する把握動作安全確認手段を設けたことを特徴とするものである。
(5)発明の実施例
第2図は本発明の実施例の構成説明図である。第3図a?fはその動作説明図である。
第2図において、TVカメラ2は認識対象画像入力用で認識対象の鉛直上方に設置し、対象物体を平画像として入力し、インタフエース部11はTVカメラ2から得られる映像信号をデジタル信号に変換して画像メモリ12に格納する。画像メモリ12はたとえば256×256画素で構成し、各画素の値はその画素のアドレスを用いて参照できる。位置・姿勢計測部13は画像メモリ12を参照して、ロボツト1が対象物体3を把握するために必要な対象物体の位置と姿勢を計測する。たとえば、対象物体像が第3図aに示すような長方形であるとすると、位置を重心の座標とし、姿勢を長辺がX軸となす角θと定義する。危険領域算出部14は対象物体3の位置・姿勢と第3図bに示すロボツトハンド1-7の掴み幅Wおよび爪先端部の寸法R(b×l)から第3図cに示すような危険領域を算出する。ハンドの掴み幅Wおよび爪先端部の寸法Rはハンド情報格納部15から参照する。安全判定部16は画像メモリ12を参照して、危険領域内に対象物体上の点が存在するか否かにより衝突するか否かを判定する。第3図dに示すように正しい計測がなされた場合には安全と判定し、ロボツト制御部17に対して計測した位置姿勢に基づくハンドリングを指令し、ロボツト駆動部18を制御する。第3図eに示すように、危険領域内に対象物体内の点を検出した場合には危険と判定し警告を発し、勿論ハンドリングは行なわない。
上述の実施例では視野内に物体が1個存在する場合を例示したが、本発明を複数物体処理に適用することが可能である。第3図fは2個の物体を処理する場合であり、Aは把握対象物とする。すなわち、Aの位置・姿勢は正しく計測されており、危険領域内にA自身はないが他の物体Bの一部が含まれる。この場合にも危険と判定することにより衝突を未然に防止することができる。」(公報第1ページ第1欄第14行?第2ページ第4欄第13行。)

キ 引用文献6
この審決で新たに引用する本願のもとの国際出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平3-251386号公報(以下「引用文献6」という。)は、上記引用文献5を従来技術として引用しており、次の記載がある。
「〔従来の技術〕
ロボットによって物体の自動搬送を行うためには、ロボットがハンドにて把持可能なように物体を正確に位置決めするか、あるいは画像情報などによって物体の位置や姿勢を求め、さらにその物体が把持可能かどうかを判断させる必要がある。後者の視覚認識装置として例えば特公昭61-54556号公報に示されるものがある。これを第5図に示す。上方に設置されたテレビカメラ53で物体54を撮像して、コントローラ52を介してその画像(第5図(b))から物体54の重心位置Pと姿勢(傾き)θを求め、これを基にロボット51のハンド55降下位置を計算する。さらに求められた物体の位置P、姿勢θとロボット51のハンド55の掴み幅W、底部の寸法bとlからハンド55と物体54の衝突の可能性がある危険領域Rを算出して、この危険領域内に物体54が存在するか否かを判断することにより物体54とロボット51のハンド55の衝突を未然に防ぐものである。」(公報第1ページ右下欄第13行?第2ページ左上欄第11行。)

ク 上記カ、キの記載から、引用文献5及び6には、次の周知技術(以下「周知技術2」という。)が記載されていると認められる。(括弧内は、引用文献5の対応する用語を記載。)
「複数の部品(把握対象物A、他の物体B)をひとつの2次元撮像装置(TVカメラ2)で上方から撮像した撮像データに基づいて、前記複数の部品のうちのひとつの部品(把握対象物A)のXY座標上の位置(重心の座標)および散在された角度(長辺がX軸となす角θ)を演算し、演算された前記ひとつの部品のXY座標上の位置および散在された角度に基づいて、把持具(ロボットハンド1-7)の1対の爪部を前記ひとつの部品の対向する1対の平面と対向させて把持するように、前記把持具をその軸心周りに回転させる把持具回転装置(ロボット1の回転位置決め可能な関節1-6)と前記把持具を前記部品支持面の上方において任意の位置に移動させる移動装置(ロボット1の回転位置決め可能な関節1-1?1-5)の作動を制御する部品保持装置。」

(3)引用発明1との対比
ア 本件補正発明と引用発明1とを対比すると、以下のとおりとなる。

(ア)引用発明1の「ビン12の底面」は本件補正発明の「部品支持面」に相当し、以下同様に「対象物A」は「部品」に、「ビンピッキングシステム10」は「部品保持装置」に、「一つの対象物A’」は「ひとつの部品」に、「二本の指」は「1対の爪部」に、「把持部16」は「把持具」に、「ロボット14」は「移動装置」に、「画像データ」は「撮像データ」にそれぞれ相当する。

(イ)引用発明1の「前記二本の指が適切な角度と位置で前記把持部16を位置付ける機構」と、本件補正発明の「前記把持具をその軸心周りに回転させる把持具回転装置」とを対比すると、「前記把持具を位置付ける機構」という点で一致する。

(ウ)引用発明1の「前記把持部16と前記機構と前記ロボット14との作動を制御するロボット制御器28」と、本件補正発明の「前記把持具と前記把持具回転装置と前記移動装置との作動を制御する制御装置」とを対比すると、「前記把持具と前記機構と前記移動装置との作動を制御する制御装置」という点で一致する。

(エ)引用発明1において「前記一つの対象物A’の位置及び配向が提供」されることは、一つの対象物A’について、位置については座標上の数値で表された位置として、配向については数値で表された角度として演算されて提供されるものであるから、本件補正発明において「前記ひとつの部品のXY座標上の位置及び散在された角度を演算」することと対比すると、「前記ひとつの部品の座標上の位置及び散在された角度を演算」することという点で一致する。

(オ)引用発明1の「3次元造影ビデオカメラ22」は、本件補正発明の「2次元撮像装置」とは、「撮像装置」である点では共通であり、引用発明1の「前記複数の対象物Aを二台の3次元造影ビデオカメラ22で上方から撮像した画像データに基づいて、前記一つの対象物A’の位置及び配向が提供され」と、本件補正発明の「前記複数の部品をひとつの2次元撮像装置で上方から撮像した撮像データに基づいて、前記ひとつの部品のXY座標上の位置および散在された角度を演算し」とを対比すると、「前記複数の部品を撮像装置で上方から撮像した撮像データに基づいて、前記ひとつの部品の座標上の位置および散在された角度を演算し」という限りにおいて一致する。

(カ)引用発明1の「提供された前記一つの対象物A’の位置及び配向に基づいて、前記二本の指を前記一つの対象物A’と対向させて把持するように、前記機構と前記ロボット14の作動を制御する」と、本件補正発明の「演算された前記ひとつの部品のXY座標上の位置および散在された角度に基づいて、前記1対の爪部を前記ひとつの部品の対向する1対の平面と対向させて把持するように、前記把持具回転装置と前記移動装置の作動を制御する」とを対比すると、「演算された前記ひとつの部品の座標上の位置および散在された角度に基づいて、前記1対の爪部を前記ひとつの部品と対向させて把持するように、前記機構と前記移動装置の作動を制御する」という限りにおいて一致する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「部品支持面に散在された複数の部品を保持する部品保持装置であって、
前記部品支持面に散在された複数の部品のうちのひとつの部品を1対の爪部で把持する把持具と、
前記把持具を位置付ける機構と、
前記把持具を前記部品支持面の上方において任意の位置に移動させる移動装置と、
前記把持具と前記機構と前記移動装置との作動を制御する制御装置と
を備え、
前記制御装置が、
前記複数の部品を撮像装置で上方から撮像した撮像データに基づいて、前記ひとつの部品の座標上の位置および散在された角度を演算し、演算された前記ひとつの部品の座標上の位置および散在された角度に基づいて、前記1対の爪部を前記ひとつの部品と対向させて把持するように、前記機構と前記移動装置の作動を制御することを特徴とする部品保持装置。」

【相違点1】
本件補正発明は、「複数の部品」が、「ひとつの種類」であるのに対し、引用発明1は、「部品」の種類について不明な点。

【相違点2】
本件補正発明は、把持対象物である「部品」が「対向する1対の平面を備え」ており、把持具を位置付ける機構が「前記把持具をその軸心周りに回転させる把持具回転装置」を備え、「制御装置」は「把持具回転装置」を制御し、ひとつの部品の座標上の位置が「XY座標上の位置」で演算されるのに対して、引用発明1は、把持対象物である「対象物A」が「対向する1対の平面」を備えているかどうか不明であり、把持具を位置付ける機構が「前記二本の指が適切な角度と位置で前記把持部16を位置付ける機構」を備え、「ロボット制御器28」は前記「機構」の作動を制御し、一つの対象物A’の「位置」が提供されるものであり、したがって、物品が「対向する一対の平面」を備えるか否か、前記「機構」が「把持部16」をその軸心周りに回転させる装置を含むか否か、及び、一つの部品の座標上の位置が「XY座標上の位置」であるか否かが不明な点。

【相違点3】
「撮像データ」が、本件補正発明は、「ひとつの2次元撮像装置」で撮像されるものであるのに対し、引用発明1は、「二台の3次元造影ビデオカメラ」で撮像されるものである点。

(4)判断
上記相違点について、判断する。

ア 相違点1について
引用発明1の複数の「対象物A」の種類の数については、引用文献1に具体的な記載は無く、例えば、段落【0034】の「画像処理ユニット26は、認識特性を有する対象物を認識することによってビン内の拾い上げられるべき対象物Aを識別する。」との記載からみて、「対象物A」が複数の種類であっても対応できることは推認されるが、これが「ひとつの種類」であっても特に技術的な障害は見出せず、ビン内の少なくともひとつの利用可能な対象物を拾い上げれば足りるのであるから、当該種類の数を「ひとつ」に限定することは、部品保持装置に求められる仕様や使用態様に応じて、当業者が適宜なし得る程度の設計変更である。

イ 相違点2について
把持具により把持する複数の対象物を、どのような形状の物にするかは、部品保持装置に求められる仕様や使用態様に応じて、当業者が適宜選択し得る設計事項であるから、引用発明1において、「対象物A」を対向する1対の平面を備えた物にすることに困難性は認められない。
また、把持装置において、把持対象物が、対向する1対の平面を備えた部品であり、1対の爪部が前記対向する1対の平面と対向するように、把持具をその軸心周りに回転させる把持具回転装置を備えるものは、上記(2)オで周知技術1として挙げたとおり本願出願前から周知の技術である。
引用発明1において、二本の指が対向する1対の面と対向するように、適切な角度と位置で把持部16を位置付けるために、前記周知技術1を適用して、把持部16をその軸心周りに回転させる把持具回転装置を備えさせることは、部品保持装置に求められる仕様や使用態様に応じて、対象物を選択することに伴って、当業者が容易に想到し得たことであり、この際、把持対象物の位置をXY座標で演算することも、単に画像データ上の位置を把握する座標の設定上の問題に過ぎず、適宜選択し得た事項である。

ウ 相違点3について
周知技術2は、上記(2)クのとおり、「複数の部品をひとつの2次元撮像装置で上方から撮像した撮像データに基づいて、前記複数の部品のうちのひとつの部品のXY座標上の位置および散在された角度を演算し、演算された前記ひとつの部品のXY座標上の位置および散在された角度に基づいて、把持具の1対の爪部を前記ひとつの部品の対向する1対の平面と対向させて把持するように、前記把持具をその軸心周りに回転させる把持具回転装置と前記把持具を前記部品支持面の上方において任意の位置に移動させる移動装置の作動を制御する部品保持装置。」というものであり、撮像データをひとつの2次元撮像装置で撮像することが示されている。
そもそも、撮像装置は、2次元の画像を撮影するものであったが、画像のデジタル化に伴って3次元の画像データを撮像できるように開発されたという技術的な経緯があるところ、引用文献1では、2次元画像を立体化処理することで3次元画像を提供している(引用文献1の【0034】)ように、3次元の画像データに比べて、2次元の画像データの方が、より簡単に撮像できることは、当業者にとって自明である。
そして、上記周知技術2を例示する引用文献4は、本願のもとの国際出願日よりも30年以上も前に公開されたものであり、また、当該公開から7年後に出願された引用文献5で引用されているように、当業者に着目された文献であることを考慮すれば、引用発明の撮像データを撮像するにあたり、「二台の3次元造影ビデオカメラ」で撮像するよりも簡単に撮像できるように上記周知技術2を適用して、「ひとつの2次元撮像装置」で撮像するように構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。

エ したがって、本件補正発明は、引用発明1、引用文献2ないし4に例示される周知技術1、並びに、引用文献5及び6に例示される周知技術2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)請求書の主張に対して
ア 請求書の主張の概要
請求人は、請求の理由において、概ね、以下の(ア)-(ウ)の主張をしている。
(ア)拒絶査定においては、引用発明1を本件補正前の請求項1、7に係る発明と対比すると、ひとつの部品の位置を「3次元位置」で認識しており、「XY座標上の位置」では認識していないことを相違点とするが、その相違点について、「物体の位置を、3次元位置で認識するか、2次元のXY座標上の位置で認識するかは、制御の精度や容易性、計算の簡素化の観点から適宜定めうるものである。」ことを認定している。
(イ)また、拒絶査定においては、意見書でされた「本願発明は、装置として安価に供給できることとなり、また安定的にかつ適切に、散在されたん部品を保持することが可能である」旨の主張に対して、「物体の位置を、3次元位置で認識していたものを、2次元のXY座標上の位置で認識するようにすれば、当然に計算が簡素化され、ひいては装置として安価になるもの」であり、引用発明1も「一定程度、安定的かつ適切に、散在された部品を保持することが可能である」から、出願人が主張する効果は格別のものではない旨を認定している。
(ウ)上記(ア)及び(イ)の認定に鑑みて補正したことで、本件補正後の請求項1に係る発明の部品保持装置や請求項7に係る発明の部品把持方法が、「装置として安価に供給できること、また安定的かつ適切に、散在された部品を保持することが可能であること」が、明確になったものである。

イ 請求書の主張の検討
しかしながら、本件補正で新たに記載された「ひとつの2次元撮像装置」の発明特定事項について、その補正の根拠とされた出願当初の明細書の段落【0042】,【0094】、並びに図3及び23、さらには他の箇所をみても、「2次元」の用語やこれに関する言及は無く、その撮像対象も、引用発明1の図1と同様の「散在された」複数の部品であるから、当該発明特定事項は、一般的なテレビカメラやビデオカメラのような撮像装置をひとつだけ撮像に用いることを特定したに過ぎない。
そして、既に上記(4)ウで検討したとおり、「撮像データ」が「ひとつの2次元撮像装置」で撮像されることは、3次元の画像データを撮像できる撮像装置が開発される以前の技術であって、上記(2)クで周知技術2として挙げたとおり本願出願前から周知の技術であり、引用発明1への適用も当業者が容易になしえたことであって、カメラの台数を少なくし、計算の簡素化がされることで「装置として安価に供給できる」という効果も、技術的に特段の創意が発揮されているものではなく、予測し得た範囲内のものである、
さらに、「安定的かつ適切に、散在された部品を保持することが可能である」という効果については、一般的には情報量が2次元画像より多い3次元画像を用いた方が有利であると推定されるのに対して、明細書の記載や請求人の主張からは、2次元画像の方が優れていることの根拠を見出すことができない。
よって、上記請求人の主張は採用できない。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年8月3日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲に係る発明は、令和2年2月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に関する原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願のもとの国際出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし4に例示される周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし4及びその記載事項は、前記第2の2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
(1)本願発明と引用発明1を対比する。
本願発明は、前記第2の2で補正の適否を検討した本件補正発明から、「ひとつの2次元撮像装置で」に係る限定事項を省いたものである。
よって、本願発明と引用発明1との一致点は、次のとおりであり、相違点は、上記第2の2(3)に記載した【相違点1】及び【相違点2】のとおりである。

【一致点】
「部品支持面に散在された複数の部品を保持する部品保持装置であって、
前記部品支持面に散在された複数の部品のうちのひとつの部品を1対の爪部で把持する把持具と、
前記把持具を位置付ける機構と、
前記把持具を前記部品支持面の上方において任意の位置に移動させる移動装置と、
前記把持具と前記機構と前記移動装置との作動を制御する制御装置と
を備え、
前記制御装置が、
前記複数の部品を上方から撮像した撮像データに基づいて、前記ひとつの部品の座標上の位置および散在された角度を演算し、演算された前記ひとつの部品の座標上の位置および散在された角度に基づいて、前記1対の爪部を前記ひとつの部品と対向させて把持するように、前記機構と前記移動装置の作動を制御することを特徴とする部品保持装置。」

(2)相違点1及び2について
本願発明と引用発明1の相違点は、上記第2の2(3)の【相違点1】及び【相違点2】と同じものであるから、その判断は、上記第2の2(4)ア及びイに説示する理由により、いずれも当業者が容易に想到できたものである。
なお、本願発明は、上記(1)のとおり本件補正発明の「ひとつの2次元撮像装置で」との限定事項を省いたものであるから、上記第2の2(3)の【相違点3】は、引用発明1との相違点とはならない。

(3)よって、本願発明は、引用発明1及び引用文献2ないし4に例示される周知技術1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2021-03-26 
結審通知日 2021-03-30 
審決日 2021-04-27 
出願番号 特願2019-8413(P2019-8413)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05K)
P 1 8・ 575- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 亀田 貴志  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 河端 賢
田々井 正吾
発明の名称 部品保持装置、および部品把持方法  
代理人 特許業務法人ネクスト  

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