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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1375336
審判番号 不服2020-13608  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-29 
確定日 2021-06-18 
事件の表示 特願2017-506402「薬物使用、薬物乱用および昏睡、核間性眼筋麻痺、注意欠陥多動性障害(ADHD)、慢性外傷性脳症、統合失調症スペクトラム障害、およびアルコール摂取を診断、評価、または定量化するための方法およびキット」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月11日国際公開、WO2016/022414、平成29年10月12日国内公表、特表2017-529891〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件出願(以下「本願」と記す。)は、2015年(平成27年)7月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年8月4日 米国、2014年10月17日 米国、2014年10月24日 米国、2015年1月12日 米国)を国際出願日とする出願であって、令和元年6月26日付けで拒絶理由が通知され、令和2年1月6日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年5月26日付けで拒絶査定されたところ、同年9月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同時に手続補正がなされたものである。

2 令和元年9月29日付けの手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
令和元年9月29日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
〔理由〕
(1)補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであって、その補正内容は、特許請求の範囲について、【請求項1】を補正前の
「【請求項1】
対象における薬物使用、薬物乱用、または昏睡の指標を提供するためのコンピューティングデバイスの作動方法であって、
前記コンピューティングデバイスは、プロセッサ、ディスプレイ及び眼球運動/視線追跡器コンポーネントを備え、前記コンピューティングデバイスの作動方法は、
a)前記ディスプレイ上に視覚刺激を表示するステップであって、前記視覚刺激は、前記ディスプレイ上の一部分の表示領域に表示される継続的に再生される動画であり、前記表示領域を、開口部を有する経路上を周回するように移動させるステップと;
b)前記視覚刺激を見ている前記対象の眼球運動のデータを前記眼球運動/視線追跡器コンポーネントにより取得するステップであって、前記眼球運動/視線追跡器コンポーネントによる測定値と前記対象の視線位置との較正を行わずに、前記視覚刺激が前記経路上を複数回周回する期間にわたって、前記眼球運動/視線追跡器コンポーネントにより前記対象の眼球運動を追跡し、前記対象の瞳孔の向きの瞬間角の2つの成分(水平、垂直)をサンプリングする、ステップと;
c)前記眼球運動/視線追跡器コンポーネントにより取得した前記対象の眼球運動のデータを出力するステップであって、前記対象の瞳孔の向きの瞬間角の2つの成分(水平、垂直)に対応する平面座標上の2つの値(x、y)を生成し、前記ディスプレイ上にプロットして散布図を表示する、ステップ、
を含む、方法。」
から、
「【請求項1】
対象における薬物使用、薬物乱用、または昏睡の指標を提供するためのコンピューティングデバイスの作動方法であって、
前記コンピューティングデバイスは、プロセッサ、ディスプレイ及び眼球運動/視線追跡器コンポーネントを備え、前記コンピューティングデバイスの作動方法は、
a)前記ディスプレイ上に視覚刺激を表示するステップであって、前記視覚刺激は、前記ディスプレイ上の一部分の表示領域に表示される継続的に再生される動画であり、前記表示領域を、開口部を有する経路上を周回するように移動させるステップと;
b)前記視覚刺激を見ている前記対象の眼球運動のデータを前記眼球運動/視線追跡器コンポーネントにより取得するステップであって、前記眼球運動/視線追跡器コンポーネントによる測定値と前記対象の視線位置との較正を行わずに、前記視覚刺激が前記経路上を複数回周回する期間にわたって、前記眼球運動/視線追跡器コンポーネントにより前記対象の眼球運動を追跡し、前記対象の瞳孔の向きの瞬間角の2つの成分(水平、垂直)をサンプリングする、ステップと;
c)前記眼球運動/視線追跡器コンポーネントにより取得した前記対象の眼球運動のデータを出力するステップであって、前記対象の瞳孔の向きの瞬間角の2つの成分(水平、垂直)に対応する平面座標上の2つの値(x、y)を生成し、前記ディスプレイ上にプロットして散布図を表示する、ステップと;
d)前記散布図に基づいて、前記対象における薬物使用、薬物乱用、または昏睡の前記指標を提供するステップと
を含む、方法。」(下線は補正箇所を示す。)
と補正するものを含むものである。

(2)本件補正の目的
本件補正のうち、請求項1についての補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、「コンピューティングデバイスの作動方法」のステップとして、「d)前記散布図に基づいて、前記対象における薬物使用、薬物乱用、または昏睡の前記指標を提供するステップ」を付加して限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3)独立特許要件について
本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明1」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

ア 本願補正発明
本願補正発明1は、前記「2(1)」に記載したとおりのものである。

イ 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前である2013年(平成25年)10月3日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった「国際公開第2013/148557号」(以下「引用例」という。)には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている。(なお、当審仮訳は、引用例の日本語ファミリー出願である特願2015-503430号の公表特許公報である特表2015-512299号公報の対応箇所の表記を参照したものである。また、下線は当審で付与したものである。以下、同様。)

(ア)「FIELD OF THE INVENTION
[0001] The present invention relates to methods and kits for assessing physiologic function of the cranial nerves, screening for, diagnosing, and quantitating the extent of elevated intracranial pressure, transtentorial herniation as manifested by cranial nerve III palsy, concussion, normal pressure hydrocephalus, posterior fossa mass effect as manifested by cranial nerve VI palsy, optic neuropathy, and locating and monitoring progression of intracranial lesions and disease processes.」
(当審仮訳:発明の分野
【0001】
本発明は、脳神経の生理学的機能を評価し、上昇した頭蓋内圧、第III脳神経麻痺を呈するテント切痕ヘルニア、脳振盪、正常圧水頭症、第VI脳神経麻痺を呈する後頭蓋窩腫瘤効果、視神経症についてスクリーニングし、それらを診断し、それらの程度を定量し、頭蓋内病変および疾患プロセスの進行を位置付けおよびモニタリングするための方法およびキットに関する。)

(イ)「[0021] In a eleventh aspect, the invention provides a computer system. The computer system or computing device 1000 can be used to implement a device that includes the processor 106 and the display 108, the eye movement/gaze tracker component 104, etc.
・・・」
(当審仮訳:【0021】
第11の態様では、本発明は、コンピュータシステムを提供する。このコンピュータシステムまたはコンピューティングデバイス1000は、プロセッサ106およびディスプレイ108、眼球運動/視線追跡器コンポーネント104などを含むデバイスを実装するために使用され得る。・・・」)

(ウ)「 [0024] According to the methods described, tracking eye movement may be performed using any suitable device such as, for example, an Eyelink 1000 monocular eye tracker (500 Hz sampling, SR Research). ・・・」
(当審仮訳:【0024】
記載される方法によれば、眼球運動を追跡する工程は、任意の適切なデバイス、例えばEyelink 1000単眼眼球追跡器(500Hzでのサンプリング、SR Research)などを使用して実施され得る。・・・」)

(エ)「 [0026] According to the methods described, eye movement may be tracked in response to a visual stimulus. In some instances, the visual stimulus may be, for instance, a video such as a music video that may move, for instance clockwise, along the outer edge, of a computer monitor. In some instances, such a video may be provided starting at the upper or lower, left or right hand corners, of a screen. The visual stimulus such as a video, e.g. a music video, may be provided in a substantially square aperture with an area of approximately 10, 12, 14, 16, 18, 20, 25, or degrees, for example, approximately 1/10, 1/8, 1/6, 1/5,1/4, 1/3, 1/2 of the size of the screen or so. The visual stimulus, such as, for example a music video, may play substantially continuously during the eye movement tracking, and it may in some instances move across the screen at a relatively or substantially constant speed.・・・」
(当審仮訳:【0026】
記載される方法によれば、視覚刺激に応答した眼球運動が追跡され得る。ある例では、視覚刺激は、例えば、コンピュータモニタの外縁に沿って例えば時計回りに動き得る、ミュージックビデオなどのビデオであり得る。ある例では、スクリーンの上部または下部の、左側または右側の角で開始するかかるビデオが、提供され得る。視覚刺激、例えばビデオ、例えばミュージックビデオは、およそ10、12、14、16、18、20、25の面積、または例えば、スクリーンのサイズのおよそ1/10、1/8、1/6、1/5、1/4、1/3、1/2ほどの角度で、実質的に正方形の開口部中に提供され得る。この視覚刺激、例えばミュージックビデオなどは、眼球運動追跡の間に実質的に継続的に再生され得、ある場合には、相対的にまたは実質的に一定の速度で、スクリーンを横断して動き得る。・・・」)

(オ)「 [0027] According to the methods described, comparing eye movement of the subject to a control may be performed by analyzing data. Data from the tracking eye movement may provide an indication of whether an individual subject's ocular motility differs from that of healthy controls. Comparing eye movement of the subject to a control may feature generating scatterplots. Comparing eye movement of the subject to a control may feature plotting the horizontal eye position along one axis and vertical eye position along an orthogonal axis. Such comparing eye movement of the subject to a control may feature generating, plotting pairs of (x,y) values, for instance, 50,000, 100,000 or more pairs of values (x,y). Such pairs of values (x,y) may be plotted representing, for instance, the two components of the instantaneous angle of pupil reflection (horizontal, vertical) over a period of time, for instance, 100 or 200 seconds or more.
(当審仮訳:【0027】
記載される方法によれば、対象の眼球運動を対照と比較する工程は、データを分析することによって実施され得る。眼球運動を追跡する工程からのデータは、個々の対象の眼筋運動が健康な対照の眼筋運動とは異なるかどうかの指標を提供し得る。対象の眼球運動を対照と比較する工程は、散布図を生成することを特徴とし得る。対象の眼球運動を対照と比較する工程は、1つの軸に沿った水平眼位および直交軸に沿った垂直眼位をプロットすることを特徴とし得る。このように対象の眼球運動を対照と比較する工程は、(x、y)値の対、例えば50,000、100,000またはそれ以上の対の値(x、y)を生成し、プロットすることを特徴とし得る。例えば、所与の時間、例えば100または200秒間またはそれ以上にわたり瞳孔反射の瞬間角(instantaneous angle)の2つの成分(水平、垂直)を示す値(x、y)のかかる対が、プロットされ得る。)

(カ)「[0028] As such, comparing eye movement of the subject to a control may feature generating figures substantially resembling boxes that reflect the trajectory traveled by the visual stimulation, such as when it moves across a screen. In healthy controls, these figures substantially resembling boxes may look like, for instance, substantially equilateral rectangles or squares, reflecting the trajectory traveled by the visual stimulus across a screen. In instances of neurological damage or increased intracranial pressure, such figures may not substantially resemble a box, a rectangle or a square. In fact, in some instances, the cranial nerve having reduced or impaired function or conduction may be identified. In some instances, the figures generated that reflect the trajectory traveled by the visual stimulation may demonstrate abnormal distribution of or absence of normal plotting pairs in particular areas. Increased variability along the y-axis may for example reflect cranial nerve II dysfunction. Decreased variability along the y-axis, or decreased height to width ratio may reflect CN III dysfunction. Increased height to width ratio may reflect CN IV or VI dysfunction. The height of the box may be mathematically determined by assessing the position of the pupil as the video traverses the top and bottom of the presented visual stimulus. This "actual" height may be different from the perceived height mathematically, since the perceived height can represent aberrant pupillary motion due to the patient's ocular motility dysfunction. The integrity of the box walls may also be indicative of other types of dysfunction.・・・」
(当審仮訳:【0028】
このように、対象の眼球運動を対照と比較する工程は、例えば、視覚刺激がスクリーンを横断して動く場合、視覚刺激が移動する軌跡を反映するボックスと実質的に類似した図形を生成することを特徴とし得る。健康な対照では、ボックスと実質的に類似したこれらの図形は、例えば、スクリーンを横断する視覚刺激が移動する軌跡を反映する、実質的に等辺の矩形または正方形のように見え得る。神経学的損傷または増加した頭蓋内圧の場合、かかる図形は、ボックス、矩形または正方形と実質的に類似していない可能性がある。実際、ある例では、低減されたまたは機能損傷された機能または伝導を有する脳神経が同定され得る。ある例では、視覚刺激が移動する軌跡を反映する生成された図形は、特定の領域における正常なプロッティング対の異常な分布または非存在を示し得る。y軸に沿った増加した変動性は、例えば第II脳神経の機能不全を反映し得る。y軸に沿った減少した変動性、または減少した高さ対幅の比率は、CN IIIの機能不全を反映し得る。増加した高さ対幅の比率は、CN IVまたはVIの機能不全を反映し得る。ボックスの高さは、提示された視覚刺激の上部および底部をビデオが行き来する際の瞳孔の位置を評価することによって、数学的に決定され得る。この「実際の」高さは、数学的に把握された高さとは異なり得るが、この理由は、この把握された高さが、患者の眼筋運動の機能不全に起因する異常な瞳孔挙動を示し得るからである。ボックス壁の完全性もまた、他の型の機能不全の指標であり得る。・・・」

(キ)「[0097] The methods described herein have many clinical applications including, for instance, i) assessing function of cranial nerves II, III, IV and VI, and perhaps even VII, VIII, and/or X; ii) detecting and quantitatively monitoring any process impeding or improving the function of the above (e.g. demonstrating elevated ICP or increased brain mass effect, that may be applied to such things as aneurysms, multiple sclerosis, sarcoidosis, tumors, aging, alcohol abuse, intoxicants/narcotics, etc.), iii) localizing pathology and identifying the nature of that pathology within the brain (e.g. differentiating between lesions that compress nerves and those that only create mass effect or elevate ICP far away); iv) monitoring patients via home computer/webcam, in-hospital or outpatient "TV shows" that perform "neuro-checks" on a regular basis; v) quantitatively measuring outcome for assessment of persistently vegetative and minimally conscious state, aphasia, and recovery from brain injury; vi) characterizing types of aphasia and localizing pathology; vii) quantitatively assessing dementia/cognitive function. Likewise, the methods described herein may provide means for in-person screening such as to, for example, assess vision, assess ocular motility, and assess cognitive dysfunction all relatively simultaneously (e. g. for a driver's or pilot's license, employment etc.). Further, the methods described herein may be used to assess variance, which appears to increase with cognitive decay. This could be used, for instance, to target advertising by stratification of intelligence. Still further, the methods described herein may be used for intelligence or neurologic function testing.」
(当審仮訳:【0097】
本明細書に記載される方法は、例えば以下を含む多くの臨床的適用を有する、i)第II、第III、第IVおよび第VI脳神経であるが、おそらくはさらには第VII、第VIIIおよび/または第X脳神経の機能を評価すること;ii)上記の機能を妨害または改善する任意のプロセスを検出し、定量的にモニタリングすること(例えば、動脈瘤、多発性硬化症、サルコイドーシス、腫瘍、加齢、アルコール乱用、中毒性物質/麻薬などに適用され得る、上昇したICPまたは増加した脳腫瘤効果を実証すること);iii)病理を限局化することおよび脳内のその病理の性質を同定すること(例えば、神経を圧迫する病変と、腫瘤効果を創出するまたはICPを大きく上昇させるだけの病変との間を識別すること);iv)定期的に「ニューロチェック(neuro-check)」を実施する家庭用コンピュータ/ウェブカメラ、院内または外来患者「テレビ番組」を介して患者をモニタリングすること;v)持続的に植物状態のおよび最小に意識のある状態、失語症、ならびに脳傷害からの回復の評価のためにアウトカムを定量的に測定すること;vi)失語症の型を特徴付け、病理を限局化すること;vii)認知症/認知機能を定量的に評価すること。同様に、本明細書に記載される方法は、例えば、全て比較的同時に、視覚を評価し、眼筋運動を評価し、認知機能不全を評価するためなどの、じかに行うスクリーニングのための手段を提供し得る(例えば、運転免許またはパイロット免許、雇用などのため)。さらに、本明細書に記載される方法は、認知の衰えと共に増加するように見える分散を評価するために使用され得る。これは、例えば、知能の層別化により広告の的を絞るために使用され得る。なおさらには、本明細書に記載される方法は、知能試験または神経学的機能試験に使用され得る。)

(ク)「 [0125] Eye Movement Tracking. Observers' eye movements were recoreded using an Eyelink 1000 monocular eye tracker (500 Hz sampling, SR Research). ・・・」
(当審仮訳:【0125】
眼球運動追跡。観察者の眼球運動を、Eyelink 1000単眼眼球追跡器(500Hzでのサンプリング、SR Research)を使用して記録した。・・・)

(ケ)「[0126] Visual Stimulus. The visual stimulus provided as a music video that played continuously while it moved clockwise along the outer edges of a computer monitor. ・・・」
(当審仮訳:【0126】
視覚刺激。視覚刺激は、コンピュータモニタの外縁に沿って時計回りに動きながら、継続的に再生されたミュージックビデオとして提供した。・・・」

(コ)「[0128] Data preprocessing. There was no spatial calibration so the units of the raw timecourses were of limited value. ・・・」
(当審仮訳:【0128】
データ事前処理。空間的較正は行わなかったので、生の経時変化の単位は限定的な値になった。・・・」

(サ)「[0130] Visualization: Scatterplots. For visualization, scatterplots of the entire time series were created by plotting the 100,000 (x,y) pairs representing the two orthogonal components of the instantaneous angle of pupil reflection over 200 seconds. In neurologically intact controls, these figures look like boxes, reflecting the timing of the visual stimulus as it moved around the screen (Figure Id).」
(当審仮訳:【0130】
視覚化:散布図。視覚化のために、時系列全体の散布図を、200秒間にわたって瞳孔反射の瞬間角の2つの直交成分を示す100,000の(x、y)対をプロットすることによって創出した。神経学的に損傷のない対照では、これらの図形は、視覚刺激がスクリーンの周囲を動いた際の視覚刺激のタイミングを反映して、ボックスのように見える(図1d)。」

上記引用例の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「脳神経の生理学的機能を評価し、診断し、それらの程度を定量し、頭蓋内病変および疾患プロセスの進行を位置付けおよびモニタリングするためのコンピューティングデバイス1000が、
プロセッサ106およびディスプレイ108、眼球運動/視線追跡器コンポーネント104などを含むデバイスを実装し、
Eyelink 1000単眼眼球追跡器(500Hzでのサンプリング、SR Research)を使用して、コンピュータモニタの外縁に沿って時計回りに動きながら、継続的に再生されたミュージックビデオである視覚刺激を用いて、視覚刺激に応答した眼球運動を追跡する工程を行い、
個々の対象の眼筋運動が健康な対照の眼筋運動とは異なるかどうかの指標を提供し得る眼球運動を追跡する工程からのデータを、空間的較正は行わず、1つの軸に沿った水平眼位および直交軸に沿った垂直眼位を所与の時間、200秒間にわたり瞳孔反射の瞬間角(instantaneous angle)の2つの成分(水平、垂直)を示す100,000の(x、y)対をプロットすることによって創出した散布図を生成することにより、対象の眼球運動を対照と比較する工程を行う、
作動方法であって、
対象の眼球運動を対照と比較する工程は、例えば、視覚刺激がスクリーンを横断して動く場合、視覚刺激が移動する軌跡を反映するボックスと実質的に類似した図形を生成することを特徴とし得るものであり、健康な対照では、ボックスと実質的に類似したこれらの図形は、例えば、スクリーンを横断する視覚刺激が移動する軌跡を反映する、実質的に等辺の矩形または正方形のように見え得るのに対し、神経学的損傷または増加した頭蓋内圧の場合、かかる図形は、ボックス、矩形または正方形と実質的に類似していない可能性があり、ボックス壁の完全性もまた、他の型の機能不全の指標であり得るものである、
作動方法。」

ウ 対比
本願補正発明1を、引用発明と比較する。
(ア)引用発明の「プロセッサ106およびディスプレイ108、」「Eyelink 1000単眼眼球追跡器(500Hzでのサンプリング、SR Research)」である「眼球運動/視線追跡器コンポーネント104などを含むデバイスを実装し」た「コンピューティングデバイス1000」は、本願補正発明1における「プロセッサ、ディスプレイ及び眼球運動/視線追跡器コンポーネントを備え」た「コンピューティングデバイス」に相当する。
(イ)引用発明における「コンピュータモニタの外縁に沿って時計回りに動きながら、継続的に再生されたミュージックビデオである視覚刺激」は、本願補正発明1の「ディスプレイ上の一部分の表示領域に表示される継続的に再生される動画であり、前記表示領域を、開口部を有する経路上を周回するように移動させる」「視覚刺激」に相当する。
(ウ)引用発明の「Eyelink 1000単眼眼球追跡器(500Hzでのサンプリング、SR Research)を使用して、コンピュータモニタの外縁に沿って時計回りに動きながら、継続的に再生されたミュージックビデオである視覚刺激を用いて、視覚刺激に応答した眼球運動を追跡する工程」は、本願補正発明1における「a)前記ディスプレイ上に視覚刺激を表示するステップであって、前記視覚刺激は、前記ディスプレイ上の一部分の表示領域に表示される継続的に再生される動画であり、前記表示領域を、開口部を有する経路上を周回するように移動させるステップと;b)前記視覚刺激を見ている前記対象の眼球運動のデータを前記眼球運動/視線追跡器コンポーネントにより取得するステップであって、」「前記視覚刺激が前記経路上を複数回周回する期間にわたって、前記眼球運動/視線追跡器コンポーネントにより前記対象の眼球運動を追跡」「する、ステップ」に相当する。
(エ)引用発明の「眼球運動を追跡する工程からのデータを、空間的較正は行わず」という処理は、本願補正発明1の「眼球運動/視線追跡器コンポーネントによる測定値と前記対象の視線位置との較正を行わず」という処理に相当する。
(オ)引用発明では「個々の対象の眼筋運動が健康な対照の眼筋運動とは異なるかどうかの指標を提供し得る眼球運動を追跡する工程からのデータを、空間的較正は行わず、1つの軸に沿った水平眼位および直交軸に沿った垂直眼位を所与の時間、200秒間にわたり瞳孔反射の瞬間角(instantaneous angle)の2つの成分(水平、垂直)を示す100,000の(x、y)対をプロットすることによって創出した散布図を生成することにより、対象の眼球運動を対照と比較する工程を行」うことから、「眼球運動を追跡する工程からのデータ」には「1つの軸に沿った水平眼位および直交軸に沿った垂直眼位を所与の時間、200秒間にわたり瞳孔反射の瞬間角(instantaneous angle)の2つの成分(水平、垂直)を示す100,000の(x、y)対」が含まれることが示されており、このことは、本願補正発明1と「前記視覚刺激が前記経路上を複数回周回する期間にわたって、前記眼球運動/視線追跡器コンポーネントにより前記対象の眼球運動を追跡し、前記対象の瞳孔の向きの瞬間角の2つの成分(水平、垂直)をサンプリングする」点で一致する。
(カ)引用発明における「個々の対象の眼筋運動が健康な対照の眼筋運動とは異なるかどうかの指標を提供し得る眼球運動を追跡する工程からのデータを、空間的較正は行わず、1つの軸に沿った水平眼位および直交軸に沿った垂直眼位を所与の時間、200秒間にわたり瞳孔反射の瞬間角(instantaneous angle)の2つの成分(水平、垂直)を示す100,000の(x、y)対をプロットすることによって創出した散布図を生成することにより、対象の眼球運動を対照と比較する工程」は、「コンピューティングデバイス1000」が「ディスプレイ108」を備えており、引用発明の散布図は「ディスプレイ108」に表示されるのは、明らかであることから、本願補正発明1の「c)前記眼球運動/視線追跡器コンポーネントにより取得した前記対象の眼球運動のデータを出力するステップであって、前記対象の瞳孔の向きの瞬間角の2つの成分(水平、垂直)に対応する平面座標上の2つの値(x、y)を生成し、前記ディスプレイ上にプロットして散布図を表示する、ステップ」に相当する。
(キ)引用発明における「脳神経の生理学的機能を評価し、診断し、それらの程度を定量し、頭蓋内病変および疾患プロセスの進行を位置付けおよびモニタリングするためのコンピューティングデバイス1000が、」「眼球運動を追跡する工程」と「対象の眼球運動を対照と比較する工程を行い」、「脳神経の機能を妨害または改善する任意のプロセス、例えば中毒性物質/麻薬を検出し、定量的にモニタリングする臨床的適用に付される、作動方法」は、「対象の眼球運動を対照と比較する工程」において「散布図」により「視覚刺激がスクリーンを横断して動く場合、視覚刺激が移動する軌跡を反映するボックスと実質的に類似した図形を生成」して「機能不全の指標であり得るもの」を提供していることから、本願補正発明1とは、「対象における」「指標を提供するためのコンピューティングデバイスの作動方法」である点で共通する。

すると、本願補正発明1と、引用発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
「対象における指標を提供するためのコンピューティングデバイスの作動方法であって、
前記コンピューティングデバイスは、プロセッサ、ディスプレイ及び眼球運動/視線追跡器コンポーネントを備え、前記コンピューティングデバイスの作動方法は、
a)前記ディスプレイ上に視覚刺激を表示するステップであって、前記視覚刺激は、前記ディスプレイ上の一部分の表示領域に表示される継続的に再生される動画であり、前記表示領域を、開口部を有する経路上を周回するように移動させるステップと;
b)前記視覚刺激を見ている前記対象の眼球運動のデータを前記眼球運動/視線追跡器コンポーネントにより取得するステップであって、前記眼球運動/視線追跡器コンポーネントによる測定値と前記対象の視線位置との較正を行わずに、前記視覚刺激が前記経路上を複数回周回する期間にわたって、前記眼球運動/視線追跡器コンポーネントにより前記対象の眼球運動を追跡し、前記対象の瞳孔の向きの瞬間角の2つの成分(水平、垂直)をサンプリングする、ステップと;
c)前記眼球運動/視線追跡器コンポーネントにより取得した前記対象の眼球運動のデータを出力するステップであって、前記対象の瞳孔の向きの瞬間角の2つの成分(水平、垂直)に対応する平面座標上の2つの値(x、y)を生成し、前記ディスプレイ上にプロットして散布図を表示する、ステップと;
d)前記散布図に基づいて、前記対象における指標を提供するステップと
を含む、方法。」

一方で、両者は、次の点で相違する。
<相違点>
対象における指標が、本願補正発明1では、「薬物使用、薬物乱用、または昏睡」の指標であるのに対し、引用発明では「脳神経の生理学的機能」「の機能不全の指標」である点。

エ 判断
前記「ウ」で記載した相違点について検討する。
(ア)引用例の上記(キ)で摘記した段落[0097]では、脳神経の生理学的機能を妨害する任意のプロセスとして、「中毒性物質/麻薬」を挙げている。
(イ)よって、引用発明において、脳神経の生理学的機能の機能不全のうち「中毒性物質/麻薬」による「脳神経の生理学的機能」の「機能不全」をモニタリング対象とすることは当業者が容易になし得たことである。
(ウ)そして、本願補正発明1の効果は、引用発明から当業者が予測しうる程度のものにすぎない。

オ 小括
したがって、本願補正発明1は、引用発明及び引用例の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

3 本願発明について
(1)本願発明1
令和2年9月29日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし9に係る発明は、令和2年1月6日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
対象における薬物使用、薬物乱用、または昏睡の指標を提供するためのコンピューティングデバイスの作動方法であって、
前記コンピューティングデバイスは、プロセッサ、ディスプレイ及び眼球運動/視線追跡器コンポーネントを備え、前記コンピューティングデバイスの作動方法は、
a)前記ディスプレイ上に視覚刺激を表示するステップであって、前記視覚刺激は、前記ディスプレイ上の一部分の表示領域に表示される継続的に再生される動画であり、前記表示領域を、開口部を有する経路上を周回するように移動させるステップと;
b)前記視覚刺激を見ている前記対象の眼球運動のデータを前記眼球運動/視線追跡器コンポーネントにより取得するステップであって、前記眼球運動/視線追跡器コンポーネントによる測定値と前記対象の視線位置との較正を行わずに、前記視覚刺激が前記経路上を複数回周回する期間にわたって、前記眼球運動/視線追跡器コンポーネントにより前記対象の眼球運動を追跡し、前記対象の瞳孔の向きの瞬間角の2つの成分(水平、垂直)をサンプリングする、ステップと;
c)前記眼球運動/視線追跡器コンポーネントにより取得した前記対象の眼球運動のデータを出力するステップであって、前記対象の瞳孔の向きの瞬間角の2つの成分(水平、垂直)に対応する平面座標上の2つの値(x、y)を生成し、前記ディスプレイ上にプロットして散布図を表示する、ステップ、
を含む、方法。」

(2)原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1-9に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、この出願の請求項1-9に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:国際公開第2013/148557号

(3)引用された電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
原査定の拒絶の理由で引用された電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明並びにその記載事項は、前記「2(3)イ」に記載したとおりである。

(4)対比・判断
本願発明1は、前記「2(3)」で検討した本願補正発明1から、「d)前記散布図に基づいて、前記対象における薬物使用、薬物乱用、または昏睡の前記指標を提供するステップ」を削除して拡張した構成としたものである。
そうすると、本願発明1の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明1が、前記「2(3)」に記載したとおり、引用発明及び引用例の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様の理由により、引用発明及び引用例の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例に記載された発明及び引用例の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-01-20 
結審通知日 2021-01-21 
審決日 2021-02-03 
出願番号 特願2017-506402(P2017-506402)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門田 宏  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 伊藤 幸仙
森 竜介
発明の名称 薬物使用、薬物乱用および昏睡、核間性眼筋麻痺、注意欠陥多動性障害(ADHD)、慢性外傷性脳症、統合失調症スペクトラム障害、およびアルコール摂取を診断、評価、または定量化するための方法およびキット  
代理人 山本 秀策  
代理人 山本 健策  
代理人 飯田 貴敏  
代理人 森下 夏樹  
代理人 石川 大輔  

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