• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06K
管理番号 1375356
審判番号 不服2020-14890  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-10-26 
確定日 2021-07-06 
事件の表示 特願2018- 97947「物品管理装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年11月28日出願公開、特開2019-204215、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成30年5月22日の出願であって,令和2年4月16日付けで拒絶理由が通知され,令和2年5月28日付けで手続補正がされ,令和2年9月3日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和2年10月26日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,令和3年4月28日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,令和3年5月12日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願請求項1?8に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明8」という。)は,令和3年5月12日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
高周波に対して封止状態である金属製のキャビネットに後付配置可能であって,
前記キャビネット内に配置される複数の送受信アンテナと,
前記キャビネットを載置する底面基部と,
前記底面基部に集中配置されるアンテナ切替器及びタグリーダとを備え,
前記複数の送受信アンテナは,前記アンテナ切替器に接続されて,前記キャビネット内の複数のRFタグ付き物品に給電すると共に,前記物品から送信されるタグ情報を受信し,
前記アンテナ切替器は,前記タグリーダに接続され,前記複数の送受信アンテナを選択的に切り替え,
前記タグリーダは,前記キャビネットの扉の閉状態を検出しているときに限り,前記アンテナ切替器を介して,前記送受信アンテナから前記RFタグ付き物品に対して給電し,前記送受信アンテナが受信した前記タグ情報を前記アンテナ切替器を介して時分割に選択的に読み取る第1のタグ情報読取処理と,
前記第1のタグ情報読取処理において読取不可能であった特定のRFタグ付き物品から送信されるタグ情報を読み取るための読取電波として,出力電力及び出力周波数の双方を段階的に変更した電波を生成し,前記アンテナ切替器を介して前記送受信アンテナから送信させる第2のタグ情報読取処理と,を実施するプロセッサを備え,
前記第2のタグ情報読取処理において,前記出力電力を段階的に変更するとき,前記読取電波として前記送受信アンテナから送信させる,
物品管理装置。」

なお,本願発明2?8は,本願発明1を減縮した発明である。

第3 引用文献,引用発明等
1.引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特表2013-519177号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0031】
他の態様が,リーダと,プローブアンテナと,受信アンテナとの間にスイッチをさらに備え,リーダが,容器を作動し,容器からデータを受信するために各アンテナをオンまたはオフに切り換えるように構成されるRF使用可能モジュールシステムを含む。ベースのサイズは,ベースが既存の容器のサイズに合致して適合されるように選択されることで,モジュールシステムが,既存の容器に後付けするように使用される。ベースのサイズは,ベースが組み立てられている容器のサイズと合致して適合されるように選択されることで,組み立てられている容器の一体部分を形成するためにモジュールシステムが使用される。」

イ 「【0047】
図3および図4において,エンクロージャにある物品を識別するための追跡システム50が示されており,RFIDリーダの一部としてEMエネルギーの送信機52を備える。送信機52は,送信アンテナ54によってEMエネルギーを引出し20内に送信するために,915MHzなどの特定の周波数を有する。送信機52は,RFIDタグが配置されたエンクロージャ20内に,必要なRFIDのEMエネルギーおよび任意の必要なタイミングパルスおよびデータを送信するように構成される。この場合,エンクロージャは,引出し20である。RFIDリーダ51のコンピュータ44は,送信期間と非送信期間,いわゆる,オフ期間との間を繰り返すように,EM送信機52を制御する。送信期間中,しきい値強度レベル以上で送信されるEMエネルギーは,引出しにあるRFIDタグを取り囲むことによって,RFIDタグを作動する。次に,送信機52は,オフ期間に切り換えられ,オフ期間の間,RFIDタグは,それぞれの格納データに応答する。
【0048】
図3の実施形態は,単一の送信プローブアンテナ54と,引出し20内に設置された作動RFIDタグによって送信されるデータを最適に読み取るように配向された単一の受信アンテナ56とを備える。単一の受信アンテナ56は,引出し20の外側または引出しの内側底部に設置されたリーダ50のコンピュータ44に通信可能に結合される。他の取付け場所も可能である。受信アンテナ56をコンピュータ44に結合するために,同軸ケーブル58または他の適切な単一リンクが使用可能である。異なる実施形態において,ワイヤレスリンクが使用されてもよい。図面には示されていないが,当業者であれば,コンピュータによって使用するために,ディジタルデータをRFエネルギーから分離するために,さまざまな追加の回路およびデバイスが使用されることを認識するであろう。このような回路およびデバイスは,図面が不要に複雑にならないように,図3および図4には示されていない。」

ウ 「【0050】
送信アンテナ(54,60および62)および受信アンテナ(56,64,66および68)は,異なる形をとるものであってもよい。以下にさらに詳細に記述されるように,一実施形態において,複数の「パッチ」またはマイクロストリップアンテナは,リーダの受信アンテナとして使用され,引出しの底部のさまざまな部分に隣接した位置に設置されるのに対して,送信アンテナは,引出しの上部の部分に隣接した位置に設置されたワイヤプローブである。図3および図4の実施形態において,RFIDリーダ50は,引出し20に対して有利な位置に同じキャビネットに永久的に取り付けられてもよいことに留意されたい。」

エ 「【0061】
以下,図13の側断面図を参照すると,この実施形態においてファラデー箱として動作する,本明細書においてキャビティ166とも呼ばれる,エンクロージャ内に取り付けられた2つの天井取付け型160のプローブアンテナ162および164が示されている。図示するように,ファラデー箱166は,壁168(複数の壁のうちの1つを図示)168と,背面170と,床172と,天井160と,正面161(前壁の位置のみを図示)とを備える。キャビティを形成するすべての表面は,導電性であり,互いに電気的に接続され,2つのプローブ162および164によって注入されたエネルギー周波数ffを伝導可能なように構造的に形成される。この実施形態において,キャビティ166は,図2に示すものに類似した医療補給品キャビネットの一部を形成してもよい金属フレーム167として構築されてもよい。金属フレーム内には,スライド可能な引出しが取り付けられてもよい。この実施形態におけるスライド可能な引出しは,電気的に不活性の材料から形成され,すなわち,正面を除き,導電性ではない。引出しがキャビネット内にスライドして閉構成になると,引出しの導電性正面パネルは,金属性フレーム167の1つまたは複数の別の部分と電気的に接触した状態になることで,ファラデー箱167の前壁161を形成する。」

オ 「【0070】
以下,図20を参照すると,上述したエンクロージャにおける場の強度または場の強さは,ボルト/メートル単位で示される縦座標軸およびメートル単位で示される横座標軸で示される。最大の場強度が,約5.0インチ(0.127m)の位置で生じ,この位置は,プローブの位置が前壁から5.0インチ(12.7cm)にあり,動作周波数が915MHzであることから生じていることが図から分かるであろう。以下,図21を参照すると,場の強度の大きな上昇が5.0インチ(12.7cm)で見られるが,スケールが縮小されている。場の強度が右側壁で低下するが,左側壁の非常に近いところで強いままであることが,より明確に見てとれる。したがって,ある実施形態において,右側壁から5.0インチ(12.7cm)の位置にある第2のプローブが使用されたことで,図21に示すものと鏡像の場の強度が得られる。2つのプローブ162および164は,連続的に作動されるものであり,両方が同時には作動されない。エンクロージャ166のより良好なEM場の到達範囲が2つのプローブを用いて得られ,前壁161の付近に位置付けられた物品のRFIDタグが,正面側プローブ162によって作動され,背壁170の付近に位置付けられた物品のRFIDタグが,背面側プローブ164(図13を参照)によって作動されることに留意されたい。」

カ 「【0082】
内蔵式引出しモジュール
本発明の態様によれば,組み込み式のRFID検出システムを含まない薬剤キャビネットが,在庫の自動個体識別および追跡を行うことができるものになるように,RFID使用可能にされるか,変形されるか,または後付けされうる。同様に,組み立てられているキャビネットに,キャビネット,1つまたは複数の引出しを,個体識別および追跡用の自動在庫管理を実行する自動システムにするために,本明細書に開示されたRFID使用可能システムが組立て時に装着されてもよい。本明細書のシステムは,薬剤キャビネットのみに適用可能なものではなく,品物の他のタイプの容器に採用されてもよい。キャビネットは,本明細書において,一例としてのみ使用され,本発明は,これらのキャビネットのみとの使用に限定されるものではない。
【0083】
(中略)
【0084】
以下,図25を参照すると,薬剤キャビネット332内に非金属性のスライド可能な引出し330が取り付けられるように構成される。引出し330は,保管および投与のために薬剤などの医療物品が内部に配置される「ポケット」336を形成する引出しにさまざまな仕切りまたは区分け334を含む。この実施形態において,引出しがスライド可能に内部に取り付けられるキャビネットは,ファラデー箱として動作するように引出しを取り囲む金属性フレーム338を含む。以下,図26を参照しながら,引出し330の正面部分340は,金属342で形成されてもよく,または引出しが非金属性のものである場合,引出しが閉構成にあり,引出しの周りにファラデー箱が完成しているとき,キャビネット332の金属性フレーム338の残りと接触するようなサイズにされ配置される金属性部分を含む。引出しのファラデー箱内に本明細書に記載する内蔵式RF引出しモジュールを据え付けることによって,フレームは,引出しに配置されたRFIDタグ付き物品の存在を検出するためのRFシステムをフレーム内に有する。
【0085】
(中略)
【0086】
図27において,底部引出し402が取り外された薬剤キャビネット400が示されている。この場合,底部引出しはプラスチックで形成され,引出しをRFID使用可能にする際に使用するためのファラデー箱を提供しない。また,引出しに配置されたRFIDタグを有する品物が検出,個体識別および追跡可能である環境を取り外された引出し402に与えるようにされたRFID使用可能な引出しモジュール404が示されている。以下に詳細に記載されるように,モジュールは,この実施形態において,引出し402によって形成され,または引出し402の周囲に形成されるファラデー箱内に取り付けられなければならない,プローブアンテナおよび受信アンテナを含む。本明細書に開示されるRFID使用可能モジュールが,容器の共振周波数に関係なく,容器に安定したEM場を発生できるため,図27に示すような引出しの後付けが可能になる。RFID使用可能モジュールシステムによって生じる安定したEM場は,RFIDタグが読み取られ,タグが付けられた品物が個体識別および追跡可能なように,引出し内のすべてのRFIDタグを作動可能である。
【0087】
(中略)
【0091】
以下,図28を参照すると,RF引出しモジュール404は,2つのメインシステムと,プラスチックベースと,RFIDリーダ/アンテナプリント回路基板とから構成される。プラスチックベース430は,およそ19インチ(48cm)×16インチ(41cm)であるか,または,一般に,RF使用可能な引出し402のサイズである。プラスチックベースは,アンテナ放射要素432の形状のパターン化された導電性材料が,メサ構造434に熱成形された4つのエリアを含む。アンテナ放射要素は,メサの高さおよび空気の誘電体に対して最適化される。プラスチックベースは,アンテナ放射要素の接地基準である遮蔽引出しエンクロージャの部分である金属表面上にある。導電性材料は,プラスチックベースの上部にパターン化され,RFIDリーダプリント回路基板438に放射要素を接続するために,メサおよびプラスチックベースの両方の上に伝導性トレース436を含む。
【0092】
RFIDリーダ/アンテナのプリント回路基板438は,RFIDリーダモジュール440と,2つのX4 RFスイッチ442と,2つのプローブアンテナ444用の取付けパッド446と,プラスチックメサ434上のパッチアンテナ432にスイッチを接続するためのトレース436とに対応するようにされている。プリント回路基板は,RFIDリーダモジュールをプリント回路基板に機械的に取り付けるための取付け孔を含む。プリント回路基板は,電力調整と,USBインタフェースと,RFIDリーダモジュール440をサポートするためのパワー・オーバー・イーサネット回路とを含む。RFIDリーダモジュール440の2つのRFポート450は,2つのMMCXtoMMCX同軸ケーブルを介してプリント回路基板に接続される。これらのケーブルからの信号は,X4RFスイッチ442の入力にそれぞれ接続される448。1つのプローブアンテナ用のはんだ位置,2つのパッチアンテナ用の配線トレースおよび接続なしの1つのスペア出力のように,2つのX4RFスイッチの各々の4つの出力が接続される。
【0093】
(中略)
【0096】
内蔵式のRFID使用可能な引出しモジュール404は,RFID技術または他の技術によって引出しの内容物の検出を与えるために,薬剤引出し,または他のタイプの引出しや容器の隣の場所に位置付けられてもよい。引出しは,例えば,薬剤キャビネット400の内外へスライド可能であってもよく,キャビネット内にスライドされると,モジュールは,引出しにRFIDタグ付き物品を検出および個体識別するように動作可能にされてもよい。上記説明および添付の図面によるモジュール404は,必要に応じて,電力およびデータ通信ラインと接続するだけで,引出しで完全な検出システムを確立するために使用されてもよい。引出しのサイズに応じて,使用するアンテナ要素およびプローブアンテナの数は増減されてもよい。また,異なる位置にある構造が使用されてもよく,例えば,開示されるメサ構造が使用されなくてもよく,または異なる形をなすものであってもよい。別の例として,RFIDリーダのプリント回路基板は,異なる形をなすものであってもよく,または別の方法でベースと一体化されてもよい。」

キ 「図28


(上記図28の記載から,“RF引出しモジュール404は,RFIDリーダモジュール440と2つのプローブアンテナ444と4つのパッチアンテナ432を備え”ることが読み取れる。

(2)上記記載事項について検討する。

ア 上記(1)アの段落0031の「他の態様が,リーダと,プローブアンテナと,受信アンテナとの間にスイッチをさらに備え,リーダが,容器を作動し,容器からデータを受信するために各アンテナをオンまたはオフに切り換えるように構成されるRF使用可能モジュールシステムを含む。・・・モジュールシステムが,既存の容器に後付けするように使用される。」との記載,および上記(1)カの段落0082の「内蔵式引出しモジュール
本発明の態様によれば,組み込み式のRFID検出システムを含まない薬剤キャビネットが,在庫の自動個体識別および追跡を行うことができるものになるように,RFID使用可能にされるか,変形されるか,または後付けされうる。」との記載から,「内蔵式引出しモジュール」は,「組み込み式のRFID検出システムを含まない薬剤キャビネットが,在庫の自動個体識別および追跡を行うことができるものになるように」「後付けされうる」ものであると認められるから,引用文献1には,“組み込み式のRFID検出システムを含まない薬剤キャビネットが,在庫の自動個体識別および追跡を行うことができるものになるように後付けされうる内蔵式引出しモジュール”が記載されていると認められる。

イ 上記(1)カの段落0091の「図28を参照すると,RF引出しモジュール404は,2つのメインシステムと,プラスチックベースと,RFIDリーダ/アンテナプリント回路基板とから構成される。・・・プラスチックベースは,アンテナ放射要素432の形状のパターン化された導電性材料が,メサ構造434に熱成形された4つのエリアを含む。」との記載,段落0092の「RFIDリーダ/アンテナのプリント回路基板438は,RFIDリーダモジュール440と,2つのX4RFスイッチ442と,2つのプローブアンテナ444用の取付けパッド446と,プラスチックメサ434上のパッチアンテナ432にスイッチを接続するためのトレース436とに対応するようにされている。」との記載,及び上記(1)キで引用した図28の記載から,“RF引出しモジュール404は,RFIDリーダモジュール440と2つのプローブアンテナ444と4つのパッチアンテナ432を備え”ることが読み取れることから,引用文献1には,“RF引出しモジュールは,RFIDリーダモジュールと2つのプローブアンテナと4つのパッチアンテナを備え”ることが記載されていると認められる。

ウ 上記(1)イの段落0048の「送信プローブアンテナ54」との記載,上記(1)ウの段落0050の「送信アンテナ(54,60および62)および受信アンテナ(56,64,66および68)は,異なる形をとるものであってもよい。以下にさらに詳細に記述されるように,一実施形態において,複数の「パッチ」またはマイクロストリップアンテナは,リーダの受信アンテナとして使用され,引出しの底部のさまざまな部分に隣接した位置に設置されるのに対して,送信アンテナは,引出しの上部の部分に隣接した位置に設置されたワイヤプローブである。」との記載,及び上記(1)エの段落0061の「この実施形態においてファラデー箱として動作する,本明細書においてキャビティ166とも呼ばれる,エンクロージャ内に取り付けられた2つの天井取付け型160のプローブアンテナ162および164が示されている。」との記載から,引用文献1には,“パッチアンテナは受信アンテナとして使用され,プローブアンテナは送信アンテナとして使用され”ることが記載されていると認められる。

エ 上記(1)カの段落0084の「引出しのファラデー箱内に本明細書に記載する内蔵式RF引出しモジュールを据え付けることによって,フレームは,引出しに配置されたRFIDタグ付き物品の存在を検出するためのRFシステムをフレーム内に有する。」との記載から,引用文献1には,「内蔵式RF引出しモジュールは,引出しのファラデー箱内に据え付け」られることが記載されていると認められる。

オ 上記(1)カの段落0086の「RFID使用可能モジュールシステムによって生じる安定したEM場は,RFIDタグが読み取られ,タグが付けられた品物が個体識別および追跡可能なように,引出し内のすべてのRFIDタグを作動可能である。」との記載から,引用文献1には,「RFID使用可能モジュールシステムによって生じる安定したEM場は,RFIDタグが読み取られ,タグが付けられた品物が個体識別および追跡可能なように,引出し内のすべてのRFIDタグを作動可能であ」ることが記載されていると認められる。

カ 上記(1)オの段落0070の「2つのプローブ162および164は,連続的に作動されるものであり,両方が同時には作動されない。」との記載から,引用文献1には,「2つのプローブは,両方が同時には作動されないものであ」ることが記載されていると認められる。

キ 上記(1)イの段落0047の「RFIDリーダ51のコンピュータ44は,送信期間と非送信期間,いわゆる,オフ期間との間を繰り返すように,EM送信機52を制御する。」との記載から,引用文献1には,「RFIDリーダは,EM送信機を制御するコンピュータを備え」ていることが記載されていると認められる。

ク 上記(1)イの段落0048の「受信アンテナ56は,引出し20の外側または引出しの内側底部に設置されたリーダ50のコンピュータ44に通信可能に結合される。」との記載から,引用文献1には,「受信アンテナは,リーダのコンピュータに通信可能に結合され」ることが記載されていると認められる。

ケ 上記(1)カの段落0096の「引出しは,例えば,薬剤キャビネット400の内外へスライド可能であってもよく,キャビネット内にスライドされると,モジュールは,引出しにRFIDタグ付き物品を検出および個体識別するように動作可能にされてもよい。」との記載から,引用文献1には,「引出しは,薬剤キャビネットの内外へスライド可能であって,キャビネット内にスライドされると,モジュールは,RFIDタグ付き物品を検出および個体識別するように動作可能にされ」ることが記載されていると認められる。

コ 引用文献1の上記記載における,「RF引出しモジュール」,「内蔵式RF引出しモジュール」,及び「モジュール」は,いずれも「内蔵式引出しモジュール」と同じ意味で用いられているものと認められる。

サ 引用文献1の上記記載における,「プローブアンテナ」と「プローブ」は,同一の構成を指しているものと認められるので,以下では,「プローブアンテナ」で表記を統一する。

(3)引用発明
したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「組み込み式のRFID検出システムを含まない薬剤キャビネットが,在庫の自動個体識別および追跡を行うことができるものになるように後付けされうる内蔵式引出しモジュールであって,
前記内蔵式引出しモジュールは,RFIDリーダモジュールと2つのプローブアンテナと4つのパッチアンテナを備え,
前記パッチアンテナは受信アンテナとして使用され,前記プローブアンテナは送信アンテナとして使用され,
前記内蔵式引出しモジュールは,引出しのファラデー箱内に据え付けられ,
RFID使用可能モジュールシステムによって生じる安定したEM場は,RFIDタグが読み取られ,タグが付けられた品物が個体識別および追跡可能なように,引出し内のすべてのRFIDタグを作動可能であり,
2つのプローブアンテナは,両方が同時には作動されないものであり,
RFIDリーダは,EM送信機を制御するコンピュータを備え,
前記受信アンテナは,リーダのコンピュータに通信可能に結合され,
引出しは,薬剤キャビネットの内外へスライド可能であって,キャビネット内にスライドされると,前記内蔵式引出しモジュールはRFIDタグ付き物品を検出および個体識別するように動作可能にされる,
内蔵式引出しモジュール。」

2.引用文献2について
(1)また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2009-53917号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0069】
まず,リーダ1と無線タグTとの間で送受される信号とその送受方法について説明する。図5は,リーダ1と1つの無線タグTの上記無線タグ回路素子Toとの間で送受される信号のタイムチャートの一例を表す図である。なお,この図5に示す信号の送受方法は,公知のSlotted ALOHA方式に基づくものであり,図中では左側から右側に向かって時系列変化するよう示している。また,リーダ1と無線タグTとの間に記載されている矢印は信号の送信方向を示しており,送信相手が不特定である場合には破線で示し,送信相手が特定されている場合には実線で示している。
【0070】
この図5において,リーダ1はまず最初に通信可能領域20に存在する全ての無線タグTに対して「Select」コマンドを送信する。この「Select」コマンドは,それ以降にリーダ1が無線通信を行う無線タグTの条件を指定するコマンドであり,各種の条件を指定して情報の読み取り対象とする無線タグTの個数を限定し,無線通信の効率化を図ることができる。そして,この「Select」コマンドを受信した無線タグTのうちで,指定された条件を満たす無線タグTだけがその後に無線通信を行える状態となる(図中ではこの条件を満たす一つ無線タグTのみを示している)。
【0071】
次にリーダ1は,同じ無線タグ群に対してそれぞれのタグ情報(識別情報であるタグIDを含む)を応答発信させるよう要求する「Query」コマンド(読み取りコマンド)を送信する。この「Query」コマンドは,応答すると予想される無線タグ回路素子Toの数が不確定な条件下において探索を行うための探索指令である。この「Query」コマンドには,所定の数(例えばこの例で0から15までのいずれかの値)で指定するスロット数指定値Qが含まれている。RF通信制御部10からリーダアンテナ3を介し「Query」コマンドが送信されると,各無線タグTの無線タグ回路素子Toは0から2Q-1(=2のQ乗-1)までの乱数を乱数発生器158により生成し,スロットカウント値Sとして保持する。
【0072】
そしてリーダ1がリーダアンテナ3を介して該「Query」コマンドを送信後,所定の識別スロットで無線タグ回路素子Toからの応答を待ち受ける。この識別スロットとは,この「Query」コマンド,または後述する「QueryRep」コマンドを始めに送信してから所定の期間で区分される時間枠である。識別スロットは,通常,所定回数(「Query」コマンドの第1識別スロット1回と「QueryRep」コマンドの第2以降の識別スロット2Q-1回の計2Q回)が連続して繰り返される。
【0073】
そして,図示の例のように無線タグ回路素子Toでスロットカウント値Sとして値0を生成したものは,この「Query」コマンドを含んだ第1識別スロットで応答する。このとき,当該無線タグ回路素子Toはタグ情報を送信する許可を得るための例えば16ビットの擬似乱数を用いた「RN16」コマンドを応答信号としてリーダ1へ送信する。
【0074】
そして,この「RN16」コマンドを受信したリーダ1は,この「RN16」コマンドに対応する内容でタグ情報の送信を許可する「Ack」コマンドを送信する。この「Ack」コマンドを受信した無線タグ回路素子Toは,その無線タグ回路素子To自身が先に送信した「RN16」コマンドと受信した「Ack」コマンドが対応していると判断した場合に,当該無線タグ回路素子Toの個体がタグ情報の送信を許可されたものとみなしてタグ情報(タグID含む)を送信する。このようにして,一つの識別スロットにおける信号の送受信が行われる。
【0075】
その後,さらに2番目以降の識別スロットでは,リーダ1は「Query」コマンドの代わりに「QueryRep」コマンドを送信し,その直後に設けられる識別スロット時間枠で他の無線タグ回路素子To(特に図示せず)の応答を待つ。「QueryRep」コマンドを受信した各無線タグ回路素子Toは自身の上記スロットカウント値Sの値を一つだけ減算して保持し,該スロットカウント値Sが値0になった時点の識別スロットで「RN16」コマンドを初めとした信号の送受信をリーダ1との間で行う。
【0076】
なお,各識別スロットで該当する無線タグ回路素子To(当該識別スロットでスロットカウント値Sが0となるもの)がない場合には,「Query」コマンドまたは「QueryRep」コマンド以外の送受信が行われないまま所定の時間枠でその識別スロットを終了する。
【0077】
このように各無線タグ回路素子Toが異なる識別スロットで応答信号を返信することで,リーダアンテナ3を介し,リーダ1は混信を受けることなく一つ一つの無線タグ回路素子Toのタグ情報を明確に受信し取り込むことができる。そして以上のように「Select」コマンドが送信されてから,「Query」コマンドの送信で始まる第1識別スロット(1回)と,その後の第2識別スロット以降の「QueryRep」コマンドの送信で始まる識別スロットを所定数(通常2Q-1回)繰り返して行うまでの処理単位を読み取り試行処理という(識別スロットは全部で通常2Q個であり,途中で中断する場合については後述の変形例で説明する)。また,リーダ1がこの読み取り試行処理を行う回数を読み取り試行回数という。」

イ 「図5



ウ 「 【0111】
そして,以上の例においては,全部でL個存在する無線タグ回路素子Toうちで,リーダアンテナ3と偏波面が一致する一部の無線タグ回路素子Toのタグ情報を,その回の読み取り試行処理における2Q個の識別スロットで受信する。ここで,リーダ1側で用意する識別スロットの数2Q個が通信対象の無線タグ回路素子Toの全個数Lより十分大きく設定されていれば(つまりスロット数指定値Qが十分に大きく設定されていれば),各無線タグ回路素子Toのスロットカウント値Sが乱数により発生されているために,それぞれの無線タグ回路素子Toが応答信号を送信する識別スロットが2Q個分の識別スロットに渡って均等かつ一意的に分布することが期待できる(これはL個の無線タグ回路素子Toのそれぞれのタグ側アンテナ151が,全てリーダアンテナ3と同じ偏波面方向となる姿勢で配置されている場合でも期待できる)。このようにしてリーダアンテナ3と偏波面が一致する無線タグ回路素子Toの応答信号を一つ一つ衝突・混信させることなく明確に受信することができる。
【0112】
また,リーダ1側で用意する識別スロットの数(2Q個)が,通信対象となる無線タグ回路素子Toの個数Lに対して必要以上に大きくせず適度な値に設定すれば(すなわちスロット数指定値Qを適切に設定すれば),読み取り試行処理全体の時間を短くすることができ,効率のよい通信を行うことができる。
【0113】
そして,リーダ1の移動方向の切り換え(折り返し)が検出されてからその時点で行われている読み取り試行処理が完了次第,アンテナエレメント3Aの接続を切り換えていることで,リーダ1の往復動における折り返し動作から遅れることなく電波の偏波面を切り換えることができる。これにより,L個ある無線タグ回路素子Toのうちで個別に偏波面方向が略縦方向と略横方向で状態が異なっていることに対し,それぞれ折り返し動作前と折り返し動作後でリーダアンテナ3の偏波面をほぼ一致させて良好な無線通信を行うことができる。
【0114】
以上説明したように,本実施形態において,使用者は,携帯型のリーダ1を用いて複数の無線タグ回路素子Toからの情報取得を図る場合に,リーダ1を手に持って振り回して通信を行う。リーダ1は,振り回されるたびに,同一の無線タグ回路素子Toに対し繰り返して通信を試行する。このような使用者の挙動に対応し,リーダ1の移動時の折り返し動作が3軸加速度センサ9で検出される。
【0115】
そして,その3軸加速度センサ9の検出結果に応じ,上記使用者の振り回しによる折り返し前と,折り返し後とで,リーダ1から無線タグ回路素子Toまでの偏波面方向が変更される。この結果,折り返し前の通信時における偏波面方向で情報取得がうまくいかなかった無線タグ回路素子Toに対し,折り返し後には別の偏波面方向でリーダ1からの通信が行われることなる。すなわち,折り返しのたびに,同一無線タグ回路素子Toに対し,順次異なる偏波面方向での通信が試行されることとなるので,情報取得確率を向上し,確実に情報を取得することができる。
【0116】
また,このように,折り返し前と折り返し後とで偏波面方向を切り換え制御することで,特に,無線タグ回路素子Toの姿勢の傾斜による情報取得感度の低下を軽減できる効果もある。
【0117】
なお,この偏波面方向のように無線通信に影響を与える通信パラメータとしては,他にも指向性,送信出力,伝送速度,送信周波数,送信プロトコル,コマンド種類などがあり,本発明は上記偏波面方向の代わりにこれらの通信パラメータの少なくとも1つを折り返し検出前後で切替制御するようにしてもよい。
【0118】
(中略)
【0119】
また,送信出力を制御する場合には,例えばCPU4から出力する「TX_PWR」信号によって可変送信アンプ217の増幅率を切り換えるなどの制御方法(図3参照)がある。このような制御により送信出力を変える場合には,まず出力を比較的小さくして比較的近い位置にある無線タグ回路素子Toに対し情報取得を行った後,その後出力を比較的大きくして(アンテナ感度を増大させ)情報取得できなかった比較的遠い位置にある無線タグ回路素子Toに対し情報取得を行うようにすることで,能率のよい情報取得が可能である。
【0120】
また,送信周波数を制御する場合には,例えばCPU4から出力する制御信号によってRF通信制御部10のPLL215Bからの周波数を切り換えるなどの制御方法(図3参照)がある。このような制御により送信周波数を変える場合には,これによってマルチパス環境を変更することができる。この結果,ヌルポイントの位置に配置されていた無線タグ回路素子Toと通信を行うことが可能となり,情報取得率を向上できる。
【0121】
また送信プロトコルを変える場合には,複数種類の無線タグ回路素子Toが混在する場合(UHF帯とHF帯とで異なる送信プロトコルを用いる無線タグ回路素子Toが混在する場合も)でも各種類に対応した送信プロトコルで通信を行うことができ,情報取得率を向上できる。
【0122】
そして,以上に挙げた通信パラメータのうち複数のものを組み合わせて変化させるよう制御してもよい。例えば,折り返し動作を検出するたびに,偏波面方向と送信出力の組み合わせでそれぞれの通信パラメータ条件を交互に切り換えるよう制御することができる。このように,折り返し前と,折り返し後とで,複数種類の通信パラメータについて,パラメータ条件の組合せを変更することが可能となる。すなわち,折り返し前の通信時における通信パラメータ条件の組合せで情報取得がうまくいかなかった無線タグ回路素子Toに対し,折り返し後には別の通信パラメータ条件の組合せで無線タグ情報読み取り装置からの通信が行われることなる。このように複数の通信パラメータのパラメータ条件組合せを変えていくことで,さらに多彩なバリエーションで情報取得を図ることができる。この結果,情報取得確率をさらに高め,確実に情報を取得することができる。」

(2)上記(1)ア及びイ(特に,下線部の記載)より,引用文献2には,「無線タグ情報読み取り装置において,リーダと無線タグ回路素子との送受信が所定の時間枠で行われること」が記載されていると認められる。
また,上記(1)ウより,引用文献2には,「リーダを用いて複数の無線タグ回路素子からの情報取得を図る場合に,送信出力と送信周波数を組み合わせて変化させることで,情報取得確率を高める技術」が記載されていると認められる。

第4 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。

ア 引用発明における「薬剤キャビネット」と本願発明1の「高周波に対して封止状態である金属製のキャビネット」とは,ともに物品を収容する「キャビネット」である点で共通する。

イ 引用発明の「2つのプローブアンテナ」は,「送信アンテナとして使用され」,また,「4つのパッチアンテナ」は,「受信アンテナとして使用され」るものであるから,引用発明の「2つのプローブアンテナと4つのパッチアンテナ」は,本願発明1の「複数の送受信アンテナ」に相当する。また,引用発明の「2つのプローブアンテナと4つのパッチアンテナ」を備える「内蔵式引出しモジュール」は,「薬剤キャビネットの内外へスライド可能」な「引出し」の「ファラデー箱内に据え付けられ」るものであるから,前記「2つのプローブアンテナと4つのパッチアンテナ」は,「薬剤キャビネット」内に“配置され”ているといえる。
したがって,引用発明の「2つのプローブアンテナと4つのパッチアンテナ」は,本願発明1の「前記キャビネット内に配置される複数の送受信アンテナ」に相当する。

ウ 引用発明の「RFIDリーダ」は,本願発明1の「タグリーダ」に相当する。

エ 引用発明の「RFID使用可能モジュールシステムによって生じる安定したEM場」は,「RFIDタグが読み取られ,タグが付けられた品物が個体識別および追跡可能なように,引出し内のすべてのRFIDタグを作動可能であ」るところ,当該「EM場」は,「2つのプローブアンテナ」,すなわち“複数”の“送信アンテナ”によって生成されて,「引出し内のすべてのRFIDタグ」「が付けられた品物」(本願発明1の「キャビネット内の複数のRFタグ付き物品」に相当する。)に“給電”するためのものであるといえるから,引用発明と本願発明1とは,“複数の送信アンテナは前記キャビネット内の複数のRFタグ付き物品に給電する”点で共通する。
また,引用発明において,「RFIDタグが読み取られ,タグが付けられた品物が個体識別および追跡可能で」あるようにするために,「受信アンテナとして使用され」る「4つのパッチアンテナ」は,「タグが付けられた品物」(本願発明1の「物品」に相当する。)から“送信される”“タグ情報”を受信しているといえる。
そうすると,引用発明と本願発明1とは,“前記複数の送受信アンテナは,前記キャビネット内の複数のRFタグ付き物品に給電すると共に,前記物品から送信されるタグ情報を受信し”ている点で共通する。

オ 引用発明の「RFIDリーダ」が備える「コンピュータ」は,「EM送信機を制御する」とともに,「受信アンテナ」に「通信可能に結合され」ており,「RFIDリーダ」が実行する「RFIDタグ」の読み取り処理を制御しているものと認められる。
そして,当該「コンピュータ」は,“プロセッサ”を備えているといえるから,上記エの検討も踏まえると,引用発明の「RFIDリーダ」の読み取り処理を制御している「コンピュータ」と本願発明1の「前記キャビネットの扉の閉状態を検出しているときに限り,前記アンテナ切替器を介して,前記送受信アンテナから前記RFタグ付き物品に対して給電し,前記送受信アンテナが受信した前記タグ情報を前記アンテナ切替器を介して時分割に選択的に読み取る第1のタグ情報読取処理」「を実施するプロセッサ」とは,
“前記送受信アンテナから前記RFタグ付き物品に対して給電し,前記送受信アンテナが受信した前記タグ情報を読み取る第1のタグ情報読取処理を実施するプロセッサ”である点で共通する。
そうすると,引用発明と本願発明1とは,
“前記タグリーダは,前記送受信アンテナから前記RFタグ付き物品に対して給電し,前記送受信アンテナが受信した前記タグ情報を読み取る第1のタグ情報読取処理を実施するプロセッサを備え”る点で共通する。

カ 引用発明の「内蔵式引出しモジュール」は,「RFIDリーダモジュールと2つのプローブアンテナと4つのパッチアンテナを備え」たものであり,「組み込み式のRFID検出システムを含まない薬剤キャビネット」が「在庫の自動個体識別および追跡」,すなわち,“物品”の“管理”を「行うことができるものになるように後付けされうる」ものであることから,本願発明1の「高周波に対して封止状態である金属製のキャビネットに後付配置可能で」あって,「送受信アンテナ」と,「底面基部」と「アンテナ切替器及びタグリーダ」とを備えた「物品管理装置」とは,“キャビネットに後付配置可能”であって,“送受信アンテナ”と“タグリーダ”とを備えた“物品管理装置”である点で共通する。

キ 以上の検討から,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「キャビネットに後付配置可能であって,
前記キャビネット内に配置される複数の送受信アンテナと,
タグリーダとを備え,
前記複数の送受信アンテナは,前記キャビネット内の複数のRFタグ付き物品に給電すると共に,前記物品から送信されるタグ情報を受信し,
前記タグリーダは,前記送受信アンテナから前記RFタグ付き物品に対して給電し,前記送受信アンテナが受信した前記タグ情報を読み取る第1のタグ情報読取処理を実施するプロセッサを備えた,
物品管理装置。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1のキャビネットは,「高周波に対して封止状態である金属製のキャビネット」であるのに対して,引用発明のキャビネットは,そのようなものではない点。

(相違点2)本願発明1の物品管理装置は,「前記キャビネットを載置する底面基部」と「前記底面基部に集中配置されるアンテナ切替器及びタグリーダ」とを備えているのに対して,引用発明の「内蔵式引出しモジュール」は,「キャビネットを載置する底面基部」を備えておらず,また,「前記底面基部に集中配置されるアンテナ切替器及びタグリーダ」を備えていない点。

(相違点3)本願発明1の「複数の送受信アンテナ」は,「アンテナ切替器に接続されて」おり,「前記アンテナ切替器は,前記タグリーダに接続され,前記複数の送受信アンテナを選択的に切り替え」ているのに対して,引用発明には,「複数の送受信アンテナを選択的に切り替え」るための「アンテナ切替器」が記載されていない点。

(相違点4)本願発明1の「タグリーダ」が備える「プロセッサ」は,「前記キャビネットの扉の閉状態を検出しているときに限り,前記アンテナ切替器を介して」,RFタグ付き物品に対して給電し,また,前記送受信アンテナが受信した前記タグ情報を「前記アンテナ切替器を介して時分割に選択的に」読み取るタグ情報読取処理を実行するのに対して,引用発明のRFIDリーダのコンピュータは,「前記キャビネットの扉の閉状態を検出しているときに限り,前記アンテナ切替器を介して」給電するものではなく,また,「前記アンテナ切替器を介して」読み取るものでもなく,さらに,引用発明では,RFIDリーダのコンピュータが「時分割に選択的に」読み取ることは特定されていない点。

(相違点5)本願発明1の「タグリーダ」が備える「プロセッサ」は,「前記第1のタグ情報読取処理において読取不可能であった特定のRFタグ付き物品から送信されるタグ情報を読み取るための読取電波として,出力電力及び出力周波数の双方を段階的に変更した電波を生成し,前記アンテナ切替器を介して前記送受信アンテナから送信させる第2のタグ情報読取処理」を実施し,「前記第2のタグ情報読取処理において,前記出力電力を段階的に変更するとき,前記読取電波として前記送受信アンテナから送信させる」のに対して,引用発明のRFIDリーダのコンピュータは,「第2のタグ情報読取処理」を実施していない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み,上記相違点2について先に検討する。
引用発明の「内蔵式引出しモジュール」は,「RFIDリーダモジュールと2つのプローブアンテナと4つのパッチアンテナ」を一体に構成したものであり,前記「内蔵式引出しモジュール」は,一体に構成された状態で,「引出しのファラデー箱内に据え付けられ」るものである。
ここで,引用文献1には,「キャビネットを載置する底面基部」に関する記載や示唆はなく,また,「アンテナ切替器」についても記載がない。
そうすると,「キャビネットを載置する底面基部」に関する記載や示唆がない引用文献1の記載に基づいて,引用発明に,「キャビネットを載置する底面基部」を設け,さらに当該「底面基部」に,「内蔵式引出しモジュール」の一部の構成である「タグリーダ」と「アンテナ切替器」とを集中配置する構成とすることは,当業者であっても容易に想到し得たことであるとはいえない。
上記相違点2に係る構成は,上記引用文献2にも記載も示唆もされておらず,また,本願出願日前に周知な構成であったともいえない。
したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明,及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2?8について
本願発明2?8は,本願発明1を引用するものであり,本願発明1の上記相違点2に係る構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,および引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は,請求項1?17について上記引用文献1,2に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら,令和3年5月12日付け手続補正により補正された請求項1は,上記相違点2にかかる構成を備えるものとなっており,上記のとおり,本願発明1?8は,上記引用文献1に記載された発明及び上記引用文献2に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
・特許法第36条第6項第2号について
当審では,本願の請求項1には,本願発明の物品管理装置を金属製のキャビネットに後付配置するために必要となる前提構成が明確に記載されていないため,発明の構成が不明確である旨の拒絶の理由を通知しているが,令和3年5月12日付けの補正において,請求項1が補正された結果,この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明1?8は,当業者が引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-06-18 
出願番号 特願2018-97947(P2018-97947)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G06K)
P 1 8・ 121- WY (G06K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 梅沢 俊  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 石井 茂和
須田 勝巳
発明の名称 物品管理装置  
代理人 辻田 朋子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ