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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16J
管理番号 1375462
審判番号 不服2020-16083  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-20 
確定日 2021-07-15 
事件の表示 特願2015-153110「軸シール」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月 9日出願公開、特開2017- 32076、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年8月3日の出願であって、平成31年1月24日付けで拒絶理由通知がされ、同年2月21日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ、令和1年7月4日付けで拒絶理由通知がされ、同年8月26日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ、令和2年1月8日付けで拒絶理由通知がされ、同年3月6日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、同年8月24日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされた。これに対し、同年11月20日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正(以下、「審判請求時の補正」という。)がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

この出願願の請求項1?4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である以下の引用文献1?3に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
引用文献1:実願昭60-109581号(実開昭62-18468号)の
マイクロフィルム
引用文献2:特開2003-336748号公報
引用文献3:特開2002-276819号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、次に述べるとおり特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
請求項1に「装着運転状態において」という事項を追加する補正は、請求項1に係る発明における、ダストシール(7)の孔(17)の内径寸法(d7)と回転軸(K)の外形寸法(D)との関係について、補正後において、装着運転状態における寸法関係であることを限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
また、当該事項は、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の段落【0020】に記載されているから、当該補正は新規事項を追加するものではなく、同法第17条の2条第3項に規定する要件に適合する。
請求項1に「なってダストシール(7)の内周面(7b)が回転軸(K)の外周面(Ka)を弾発的に押圧しない」という事項を追加する補正は、請求項1に係る発明における、孔(17)の内周面(7b)と回転軸(K)の外周面(Ka)との隙間が零でありかつ摺接面圧力が零であるという状態をさらに限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
また、当該事項は、当初明細書の段落【0020】に記載されているから、当該補正は新規事項を追加するものではなく、同法第17条の2条第3項に規定する要件に適合する。
さらに、明細書の記載の補正は、上記請求項1の補正に伴って生じる、特許請求の範囲の記載と明細書の記載の不整合を整合させるための補正であって、当該補正が新規事項の追加にならないことは明白であり、同法17条の2第3項の規定する要件に適合する。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1及び請求項1を引用する請求項2?4に係る発明は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、令和2年11月20日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
回転軸(K)に摺接するシールエレメント(6)と、大気側(X)からのダストの侵入を防止するためのダストシール(7)と、を備えた軸シールに於て、
上記ダストシール(7)は、上記回転軸(K)の軸心(L)に直交する平面形状で、かつ、縦断面の肉厚が均一のストレート状であり、
組み付け完成状態で、上記ダストシール(7)の外周面(7a)をアウターケース(1)の円筒壁部(11)の内周面に当接状態として、上記ダストシール(7)はラジアル方向に位置決めされ、
上記ダストシール(7)は円形の孔(17)を有し、該円形の孔(17)の自由状態における内径寸法(d7)は、上記回転軸(K)の外径寸法(D)よりも極微小寸法をもって小さく設定され、上記回転軸(K)の回転が開始されて起こる初期摩耗によって、自由状態における上記ダストシール(7)の上記孔(17)の内径寸法(d7)は上記回転軸(K)の外径寸法(D)と同一となって、装着運転状態において、上記孔(17)の内周面(7b)と上記回転軸(K)の外周面(Ka)との間隙が零でありかつ摺接面圧力が零となってダストシール(7)の内周面(7b)が回転軸(K)の外周面(Ka)を弾発的に押圧しないことを特徴とする軸シール。
【請求項2】
上記ダストシール(7)の肉厚寸法(T7)を、上記シールエレメント(6)のリップ部(62)の肉厚寸法(T6)の0.3倍以上1.3倍以下に設定した請求項1記載の軸シール。
【請求項3】
上記シールエレメント(6)及び上記ダストシール(7)は、PTFEから成る請求項1又は2記載の軸シール。
【請求項4】
上記ダストシール(7)の上記内周面(7b)を、平滑円周面とした請求項1,2又は3記載の軸シール。」

第5 引用文献、引用発明等
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付したものである。)。

「〔従来の技術〕
従来より、たとえば第4図に示すように、後背部外周に環状溝(6)を有し、該環状溝(6)に装着されたゴム様弾性材製Oリング(7)を介して機器ハウジング(1)の軸孔(2)に形成された段部(3)に気密的に嵌着され、スナップリング(4)により固定された環状の金属ケース(5)と、該金属ケース(5)の内周にカシメ固定された断面略L字形状の環状のリテーナ(8)および前記環状溝(6)の前記側壁(6a)により外径部が気密的に挾着保持されたディスク状のダストリップ(9)および漏斗状の主リップ(10)とよりなり、内封流体(A)側へ突出するごとく軸方向に屈曲変形してなる主リップ(10)の内径部(10′)が、前記ハウジング(1)の軸孔(2)内に遊挿された回転軸(11)の外周面に適宜面圧をもって摺接することにより前記内封流体(A)の大気(B)側への漏出を阻止するとともに、該主リップ(10)に背向するごとく回転軸(11)の外周面に摺接するダストリップ(9)の内径端部(9′)によって、大気(B)内の塵埃や異物等が前記主リップ(10)と回転軸(11)との摺接部へ侵入するのを防止するよう構成されたリップシールが広く知られている。」(明細書第2ページ第1行?第3ページ第8行)

第4図


したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

[引用発明]
「環状の金属ケース(5)の内周に外径部が気密的に挾着保持されたディスク状のダストリップ(9)および漏斗状の主リップ(10)とよりなり、内封流体(A)側へ突出するごとく軸方向に屈曲変形してなる主リップ(10)の内径部(10′)が、回転軸(11)の外周面に適宜面圧をもって摺接することにより前記内封流体(A)の大気(B)側への漏出を阻止するとともに、回転軸(11)の外周面に摺接するダストリップ(9)の内径端部(9′)によって、大気(B)内の塵埃や異物等が前記主リップ(10)と回転軸(11)との摺接部へ侵入するのを防止するよう構成されたリップシール。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「塵埃や異物等」は、本願発明1の「ダスト」に相当する。
したがって、引用発明の「ダストリップ(9)の内径端部(9′)によって、大気(B)内の塵埃や異物等が前記主リップ(10)と回転軸(11)との摺接部へ侵入するのを防止する」ことは、本願発明1の「大気側(X)からのダストの侵入を防止する」ことに相当する。
引用発明の「主リップ(10)」及び「回転軸(11)」は、それぞれ、本願発明1の「シールエレメント」及び「回転軸」に相当する。
したがって、引用発明の「内封流体(A)側へ突出するごとく軸方向に屈曲変形してなる主リップ(10)の内径部(10′)が、回転軸(11)の外周面に適宜面圧をもつて摺接することにより前記内封流体(A)の大気(B)側への漏出を阻止する」ことは、本願発明1の「シールエレメント」が「回転軸(K)に摺接する」ことに相当する。
引用発明の「ダストリップ(9)」は、本願発明1の「ダストシール」に相当し、引用発明の「ダストリップ(9)の内径端部(9′)によって、大気(B)内の塵埃や異物等が前記主リップ(10)と回転軸(11)との摺接部へ侵入するのを防止する」ことは、本願発明1の「大気側(X)からのダストの侵入を防止するためのダストシール(7)と、を備え」ることに相当する。
引用発明の「リップシール」は、「ディスク状のダストリップ(9)および漏斗状の主リップ(10)とより」なるから、本願発明1の「軸シール」に相当する。
したがって、上記を踏まえると、引用発明の「環状の金属ケース(5)の内周に外径部が気密的に挾着保持された」「ダストリップ(9)および漏斗状の主リップ(10)とよりなり、内封流体(A)側へ突出するごとく軸方向に屈曲変形してなる主リップ(10)の内径部(10′)が、回転軸(11)の外周面に適宜面圧をもつて摺接することにより前記内封流体(A)の大気(B)側への漏出を阻止するとともに、回転軸(11)の外周面に摺接するダストリップ(9)の内径端部(9′)によって、大気(B)内の塵埃や異物等が前記主リップ(10)と回転軸(11)との摺接部へ侵入するのを防止するよう構成されたリップシール」は、本願発明1の「回転軸に摺接するシールエレメントと、大気側からのダストの侵入を防止するためのダストシールと、を備えた軸シール」に相当する。
引用発明の「ダストリップ(9)」は、「ディスク状」、すなわち、平面形状でであり、引用文献1の第4図からみて、回転軸(11)を通す円形の孔を有し、ディスクの径方向を回転軸(11)の軸心に直交する状態で環状の金属ケース(5)に保持されているといえる。
したがって、引用発明の「ダストスリップ(9)」が「ディスク状」であることは、本願発明1の「上記ダストシールは、上記回転軸の軸心に直交する平面形状で、かつ、縦断面の肉厚が均一のストレート状であり」、「円形の孔を有」することとの対比において、「上記ダストシールは、上記回転軸の軸心に直交する平面形状であり」、「円形の孔を有」するとの限度で一致する。
引用発明の「ダストスリップ(9)」の「外径部」は、本願発明1の「ダストシールの外周面」に相当する。また、引用発明の「環状の金属ケース(5)」は、本願発明1の「アウターケース」に相当し、金属ケース(5)が環状であることからすれば、その内周(面)形状が円筒状の壁部となっているといえる。さらに、引用発明の「ダストリップ(9)」は、「環状の金属ケース(5)の内周に外径部が気密的に挾着保持され」るものであるから、組み付け完成状態で、ダストスリップの外径部を環状の金属ケース(5)の内周面に当接状態として、ラジアル方向に位置決めされているといえる。
したがって、引用発明の「環状の金属ケース(5)の内周に外径部が気密的に挾着保持されたディスク状のダストリップ(9)」は、本願発明1の「組み付け完成状態で、」「外周面をアウターケースの円筒壁部の内周面に当接状態として、ラジアル方向に位置決めされ」る「ダストシール」に相当する。
以上のとおりであるので、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。

[一致点]
「回転軸に摺接するシールエレメントと、大気側からのダストの侵入を防止するためのダストシールと、を備えた軸シールにおいて、
上記ダストシールは、上記回転軸の軸心に直交する平面形状で、かつ、縦断面の肉厚が均一であり、
組み付け完成状態で、上記ダストシールの外周面をアウターケースの円筒壁部の内周面に当接状態として、上記ダストシールはラジアル方向に位置決めされ、
上記ダストシールは、円形の孔を有する軸シール。」
[相違点1]
「ダストシール」に関し、本願発明1の「ダストシール」は、「縦断面の肉厚が、均一のストレート状である」のに対し、引用発明の「ダストリップ(9)」は、縦断面の肉厚が均一のストレート状であるとの限定はされていない点。
[相違点2]
同じく「ダストシール」に関し、本願発明1の「ダストシール」は、「該円形の孔の自由状態における内径寸法は、上記回転軸の外径寸法よりも極微小寸法をもって小さく設定され、上記回転軸の回転が開始されて起こる初期摩耗によって、自由状態における上記ダストシールの上記孔の内径寸法は上記回転軸の外径寸法と同一となって、装着運転状態において、上記孔の内周面と上記回転軸の外周面との間隙が零でありかつ摺接面圧力が零となってダストシールの内周面が回転軸の外周面を弾発的に押圧しない」とされているのに対し、引用発明は、「ダストリップ(9)の内径端部(9′)」が「回転軸(11)の外周面に摺接する」とされている点。

(2)判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
ア 拒絶査定で引用された引用文献2(特開2003-336784号公報)、及び引用文献3(特開2002-276819号公報)には、それぞれ、ダストリップ部(本願発明1の「ダストシール」に相当する。)を備えたオイルシール(本願発明1の「軸シール」に相当する。)が記載されているところ、どちらのダストリップ部も軸に対して押圧力が作用するように当接させた状態で装着されるものとされているから(引用文献2の段落【0042】、引用文献3の段落【0023】を参照。)、ダストリップ部の内径寸法が、軸の外径寸法よりも小さく設定されているとはいえる。しかしながら、引用文献2及び3に記載されたオイルシールのダストリップ部は、慣らし運転による初期摩耗によって、その内径寸法が軸の外形寸法と同一になるとの記載も示唆もない(引用文献2及び3のダストリップ部は、引用発明のダストリップ(9)と同じく、後述のいわゆる接触型の軸シールであると認められる。)。
そうしてみると、引用文献2及び3に記載の、オイルシールのダストリップ部を、引用発明のダストリップ(9)として適用しても、相違点2に係る本願発明1の構成に至ることはできない。
イ 引用文献1には、引用発明のダストリップ(9)について、いわゆる慣らし運転後の装着運転状態においてダストリップ(9)の内径端部(9′)(本願発明1のダストシールの「内周面」に相当する。)が回転軸(11)の外周面を弾発的に押圧しないものとなることの記載や示唆はない。
ところで、軸シールは、接触型(例、リップシール)と非接触型(例、ラビリンスシール)に分類されるものであるところ、引用発明の「ダストリップ(9)」は、「内径端部(9′)」が「回転軸(11)の外周面に摺接する」とされているから、接触型に分類され、引用発明は、慣らし運転後の装着運転状態においてもダストリップ(9)の内径端部(9′)は、回転軸(11)の外周面を弾発的に押圧してシール機能を発揮しているものと解される。
そうしてみると、引用発明において、引用文献1の記載事項に基づいて相違点2に係る本願発明1の構成となすことは、当業者であっても容易にはなし得ない。
ウ そして、本願発明1は、相違点2に係る構成を有することにより、「初期摩耗以上の摩擦が発生せず、摺動発熱を低減して(物性が変化する程の高温の摺動発熱を発生させず)、シール性能が保持されると共に十分な耐久性が得られる」(本願明細書段落【0020】)という格別の作用効果を奏するものである。
エ したがって、相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1?3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2?4について
本願発明2?4は、本願発明1をさらに減縮したものであり、本願発明1の「該円形の孔の自由状態における内径寸法は、上記回転軸の外径寸法よりも極微小寸法をもって小さく設定され、上記回転軸の回転が開始されて起こる初期摩耗によって、自由状態における上記ダストシールの上記孔の内径寸法は上記回転軸の外径寸法と同一となって、装着運転状態において、上記孔の内周面と上記回転軸の外周面との間隙が零でありかつ摺接面圧力が零となってダストシールの内周面が回転軸の外周面を弾発的に押圧しない」との構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1?3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

第7 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1?4は「該円形の孔の自由状態における内径寸法は、上記回転軸の外径寸法よりも極微小寸法をもって小さく設定され、上記回転軸の回転が開始されて起こる初期摩耗によって、自由状態における上記ダストシールの上記孔の内径寸法は上記回転軸の外径寸法と同一となって、装着運転状態において、上記孔の内周面と上記回転軸の外周面との間隙が零でありかつ摺接面圧力が零となってダストシールの内周面が回転軸の外周面を弾発的に押圧しない」という事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1?3に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-07-02 
出願番号 特願2015-153110(P2015-153110)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 谷口 耕之助  
特許庁審判長 間中 耕治
特許庁審判官 平田 信勝
尾崎 和寛
発明の名称 軸シール  
代理人 中谷 武嗣  

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