• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01H
管理番号 1375772
審判番号 不服2020-15378  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-06 
確定日 2021-07-27 
事件の表示 特願2018-561174「操作部構造およびこれを備えた電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月19日国際公開、WO2018/131137、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)1月13日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和元年10月18日付け:拒絶理由通知書
令和元年12月25日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年 4月20日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
令和2年 6月12日 :意見書の提出
令和2年 9月16日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
令和2年11月 6日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和3年 1月 7日 :上申書の提出


第2 原査定の概要
原査定の概要は以下のとおりである。

(進歩性)この出願の請求項1?9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:米国特許出願公開第2016/0161105号明細書
引用文献2:特開2012-248488号公報
引用文献3:特開2013-175333号公報
引用文献4:特開2015-133273号公報
引用文献5:実願平5-65927号(実開平7-30426号)のCD- ROM


第3 審判請求時の補正
1.令和2年11月6日に審判請求と同時にした手続補正(以下、「本件補正」という。)について
本件補正により、特許請求の範囲の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。

【請求項1】
操作パネルの開口部から表側が外部に露出された、透光性または半透光性を有する意匠部材と、
前記意匠部材の裏側に組み付けられて前記操作パネルの内部に配置され、前記意匠部材に対する操作に応じて動作する透光性の操作部材と、
前記操作パネルの内部に設けられた光源と、
前記操作部材と一体に設けられ、前記光源から前記意匠部材の裏側までの光路上に配置されたレンズ部と
を備え、
前記操作部材の内周面は、前記レンズ部から前記意匠部材に向けて広がりながら前記意匠部材の裏側面に至るテーパ面であり、前記意匠部材の裏側面で反射されて戻ってきた光を、前記意匠部材の裏側面へ反射するように設けられていることを特徴とする操作部構造。
【請求項2】
前記意匠部材は、釦部であり、
前記操作部材は、前記釦部が押し込まれると押し込み方向に摺動して前記操作パネルの内部に設けられたスイッチを押す部材であること
を特徴とする請求項1記載の操作部構造。
【請求項3】
前記レンズ部は、前記意匠部材および前記光源のうちの少なくとも一方側に設けられた凹形状または凸形状であること
を特徴とする請求項1記載の操作部構造。
【請求項4】
前記意匠部材に設けられた第1の係合部と、
前記操作部材に設けられた第2の係合部とを備え、
前記意匠部材と前記操作部材とは、前記第1の係合部と前記第2の係合部とが係合して組み付けられること
を特徴とする請求項1記載の操作部構造。
【請求項5】
前記操作パネルの内部に設けられて、前記操作パネルの開口部と前記意匠部材との隙間へ向かう光を遮断する第1の遮光用リブを備えたこと
を特徴とする請求項1記載の操作部構造。
【請求項6】
前記意匠部材から張り出して側面に沿って延びた突出部と、
前記操作パネルの内部に設けられて、前記操作部材から前記突出部までの間を通る光を遮断する第2の遮光用リブとを備えたこと
を特徴とする請求項1記載の操作部構造。
【請求項7】
前記操作部材は、透光性の樹脂からなる前記レンズ部と、非透光性の樹脂からなる前記レンズ部以外の部分とが2色成型された部材であること
を特徴とする請求項1記載の操作部構造。
【請求項8】
前記操作部材は、前記レンズ部以外の部分に非透光性のマスキングを施した部材であること
を特徴とする請求項1記載の操作部構造。
【請求項9】
請求項1記載の操作部構造を備えた電子機器。

2.本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の記載は、令和元年12月25日に手続補正した特許請求の範囲の記載によって特定される次のとおりである。

【請求項1】
操作パネルの開口部から表側が外部に露出された意匠部材と、
前記意匠部材の裏側に組み付けられて前記操作パネルの内部に配置され、前記意匠部材に対する操作に応じて動作する透光性の操作部材と、
前記操作パネルの内部に設けられた光源と、
前記操作部材と一体に設けられ、前記光源から前記意匠部材の裏側までの光路上に配置されたレンズ部と
を備え、
前記操作部材の内周面は、前記レンズ部から前記意匠部材に向けて広がりながら前記意匠部材の裏側面に至るテーパ面であり、前記意匠部材の裏側面で反射されて戻ってきた光を、前記意匠部材の裏側面へ反射するように設けられていることを特徴とする操作部構造。
【請求項2】
前記意匠部材は、釦部であり、
前記操作部材は、前記釦部が押し込まれると押し込み方向に摺動して前記操作パネルの内部に設けられたスイッチを押す部材であること
を特徴とする請求項1記載の操作部構造。
【請求項3】
前記レンズ部は、前記意匠部材および前記光源のうちの少なくとも一方側に設けられた凹形状または凸形状であること
を特徴とする請求項1記載の操作部構造。
【請求項4】
前記意匠部材に設けられた第1の係合部と、
前記操作部材に設けられた第2の係合部とを備え、
前記意匠部材と前記操作部材とは、前記第1の係合部と前記第2の係合部とが係合して組み付けられること
を特徴とする請求項1記載の操作部構造。
【請求項5】
前記操作パネルの内部に設けられて、前記操作パネルの開口部と前記意匠部材との隙間へ向かう光を遮断する第1の遮光用リブを備えたこと
を特徴とする請求項1記載の操作部構造。
【請求項6】
前記意匠部材から張り出して側面に沿って延びた突出部と、
前記操作パネルの内部に設けられて、前記操作部材から前記突出部までの間を通る光を遮断する第2の遮光用リブとを備えたこと
を特徴とする請求項1記載の操作部構造。
【請求項7】
前記操作部材は、透光性の樹脂からなる前記レンズ部と、非透光性の樹脂からなる前記レンズ部以外の部分とが2色成型された部材であること
を特徴とする請求項1記載の操作部構造。
【請求項8】
前記操作部材は、前記レンズ部以外の部分に非透光性のマスキングを施した部材であること
を特徴とする請求項1記載の操作部構造。
【請求項9】
請求項1記載の操作部構造を備えた電子機器。

3.本件補正の適否
本件補正は、請求項1の「意匠部材」について、「透光性または半透光性を有する」との発明特定事項を追加するものである。
本件補正で追加された事項は、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の段落【0014】に記載されているから、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであって、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。
また、本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「意匠部材」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、補正前の請求項1?9は、請求項2?9が、補正の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件補正後の請求項1?9に係る発明は、特許法第17条の2第4項に規定する一群の発明に該当する。

上記のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項?第5項に規定する要件を満たすものである。

そして、補正後の請求項1?9に係る発明は、同法同条第6項で準用する同法第126条第7項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないので、以下、検討する。

4.独立特許要件について
(1)本願発明1?9について
本願の請求項1?9に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明9」という。)は、令和2年11月6日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される、上記第3の1.のとおりである。

(2)引用文献に記載された事項及び引用発明
ア 引用文献1に記載された事項及び引用発明について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審において付与した。以下同様。)。

(ア)「[0002] The present invention generally relates to an operating button, especially to an operating button with a light source.」
(当審訳)「[0002]本発明は、一般的には、操作ボタン、特に光源と操作ボタンに関するものである。」

(イ)「[0003] An operating button can output light rays to the outside of the operating button via a light source provided therein, so as to identify the state of the operating button or a device. Because of the limitation of the volume and structure of the operating button, when in operation, the output light rays of the operating button have a long light path such that the brightness of the output light rays is insufficient. In addition, the light rays output by the operating button are not in parallel such that the light rays irradiated thereby are not even and have light spots.」
(当審訳)「[0003]操作ボタンは、その内部に光源が設けられた操作ボタンの外部に光を出力することができ、操作ボタンや装置の状態を識別するようにする。操作ボタンの大きさ及び構造の制限のために、操作中に、操作ボタンの出力光線は長い光経路を有する出力光線の明るさが不足するようになっている。また、操作ボタンから出力される光線は平行にされず、それにより照射された光は一様ではなく、光スポットを有するようなものである。」

(ウ)「[0004] An embodiment of the present invention provides an operating button for improving the brightness of the light rays output by the operating button.」
(当審訳)「[0004]本発明の実施形態は、操作ボタンによって出力される光の輝度を向上させるための操作ボタンを提供する。」

(エ)「[0022] FIG. 2 is a sectional view along the line II-II in FIG. 1 and shows the assembled operating button. Referring to FIGS. 1 and 2, the operating button comprises a light source 10, a push rod 20 and an operating head 30.
[0023] The light source 10 can output light rays. The light rays output by the light source 10 pass through the push rod 20 and the operating head 30 successively and are irradiated from the operating head 30. In one illustrative embodiment of the operating button, the light source 10 is a light-emitting diode (LED) and it is certain that other light sources can also be used according to requirements.
[0024] The push rod 20 is of a hollow structure such that the light rays emitted from the light source 10 can pass through the push rod 20. The push rod 20 has a diverging lens 22, and the light rays emitted from the light source 10 pass through the diverging lens 22 when propagating in the push rod. In one illustrative embodiment of the operating button, the diverging lens 22 is a concave lens.
[0025] The operating head 30 has a condensing lens 32, and the light rays passed through the diverging lens 22 illuminate towards the outside of the operating button after passing through the condensing lens 32. In one illustrative embodiment of the operating button, the condensing lens 32 is a convex lens.」
(当審訳)「[0022]図2は、図1のII-II線に沿った断面図であり、組み立てられた作動ボタンを示している。図1及び図2を参照して、操作ボタンは、光源10と、プッシュロッド20および操作ヘッド30を備えている。
[0023]光源10は、光線を出力することができる。光源10から出力された光線は、プッシュロッド20および操作ヘッド30を連続的に通過し、操作ヘッド30から照射される。操作ボタンの1つの例示的な実施形態では、光源10は、発光ダイオード(LED)であり、これは他の光源も必要に応じて使用することができることは確かである。
[0024]プッシュロッド20は、光源10からの光線はプッシュロッド20を介して通過することができるように中空構造になっている。プッシュロッド20は、発散レンズ22を備え、この光源10から出射された光は、ロッド内を伝播する場合、発散レンズ22を通過する。操作ボタンの1つの例示的な実施形態では、発散レンズ22は凹レンズである。
[0025]操作ヘッド30は、集光レンズ32を備え、発散レンズ22を通過した光束は、集光レンズ32を通過した後、操作ボタンの外側に向かって照射する。操作ボタンの1つの例示的な実施形態では、集光レンズ32は、凸レンズである。」

(オ)「[0028] In one illustrative embodiment of the operating button, the condensing lens and the operating head are integrally formed, for example, the two may be plastic components and are integrally formed by means of an injection molding process. The diverging lens and the push rod may also be integrally formed, for example formed by plastic injection-molding.」
(当審訳)「[0028]操作ボタンの1つの例示的な実施形態では、集光レンズと、操作ヘッドは、一体的成形されており、例えば、2つはプラスチック部品であってもよく、射出成形法によって一体的に形成されている。発散レンズとプッシュロッドもまた、プラスチック射出成形によって形成され、一体的に形成されてもよい。」

(カ)「FIG.6



(キ)摘記事項(エ)に示すとおり、「操作ヘッド30は、集光レンズ32を備え、発散レンズ22を通過した光束は、集光レンズ32を通過した後、作動ボタンの外側に向かって照射する。」ものであるから、「操作ヘッド30」は、透光性または半透光性を有するものと認められる。

(ク)摘記事項(エ)に示すとおり、「プッシュロッド20は、発散レンズ22を備え、この光源10から出射された光は、ロッド内を伝播する場合、発散レンズ22を通過する。」ものであり、摘記事項(オ)に示すとおり、「発散レンズとプッシュロッドもまた、プラスチック射出成形によって形成され、一体的に形成されてもよい。」ものであるから、「プッシュロッド20」は、透光性を有するものと認められる。

(ケ)摘記事項(カ)のFIG.6より、プッシュロッド20の内周面は、発散レンズ22から操作ヘッド30に向けて広がるテーパ面を有することが看取できる。

摘記事項(ア)?(カ)並びに認定事項(キ)?(ケ)から、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「透光性または半透光性を有する操作ヘッド30と、
操作ヘッド30と組み立てられた透光性を有するプッシュロッド20と、
光源10と、
プッシュロッド20と一体的に形成され、光源10から出射された光が通過する発散レンズ22と
を備え、
プッシュロッド20の内周面は、発散レンズ22から操作ヘッド30に向けて広がるテーパ面を有する操作ボタン。」

イ 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
本発明は、照光式押ボタンスイッチに関するものである。」

(イ)「【0007】
そこで本発明は、上記状況に鑑みて、ボタンの照光面をムラなく均一に照光するとともにスポット照光を改善することができる照光式押ボタンスイッチを提供することを目的とする。」

(ウ)「【0014】
これらの図において、1はボタン、2は凹レンズ、3はプランジャ、4はスイッチ本体、5はスペーサ、6は丸ナットである。ボタン1は、角形状の照光面1aを有し、照光面1aの4辺から垂下する側面が形成され、対向する1対の側面に嵌合孔1bが形成されている。凹レンズ2は、角形状の天板の裏面に凹面部2aが形成されている。プランジャ3は、角形状の枠体の内側面から中央部に向かってすり鉢状の傾斜面3aが形成され、中央部に貫通孔3bが形成され、枠体の対向する1対の外側面に嵌合孔1bと嵌合する嵌合凸部3cが形成され、貫通孔3bの下方に垂下する1対の嵌合爪3dが形成されている。スイッチ本体4は、内部に発光素子4aと接触機構部(図示なし)が配設され、上部に鍔部4bが形成されている。
【0015】
ボタン1底部に凹レンズ2が配置され、ボタン1の嵌合孔1bにプランジャ3の嵌合凸部3cが嵌合される。このとき、凹レンズ2の凹面部2aはプランジャ3側に配置され、ボタン1とプランジャ3の嵌合によって凹レンズ2が挟持される。そして、プランジャ3の嵌合爪3dをスイッチ本体4の嵌合部(図示なし)に嵌合し、スペーサ5をスイッチ本体4の下方から配設し、丸ナット6をスイッチ本体4に螺合することで、照光式押ボタンスイッチが完成される。スイッチ本体4は、鍔部4bとスペーサ5とでパネル(図示なし)を挟持することでパネルに固定される。
【0016】
以上のように構成された本発明の照光式押ボタンスイッチは、発光素子4aからの光が直接またはプランジャ3の傾斜面3aによって反射されて凹レンズ2の凹面部2aに投光され、凹面部2aで屈折された光はボタン1の照光面1aに投光される。また、照光面1aよりも外側に屈折された光はプランジャ3の傾斜面3aによって反射されて照光面1aに投光される。よって、発光素子4aからの光は照光面1aのほぼ全域に投光されるため、ムラなく均一な照光ができる。また、図3および図5に示すように、ボタン1押下時にも凹面部2aでの屈折により広範囲を照光することができるため、スポット照光を改善することができる。」

ウ 引用文献6に記載された事項
当審が新たに引用する文献である実願昭61-100566号(実開昭63-6630号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献6」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「この考案はこのような従来の欠点にかんがみ、簡単な構成をもつて押ボタンの自由位置における反射効率を向上させるとともに、そのロツク位置における光むらを解消し、安定した照光効果を得ることを目的とするものである。」(明細書第5ページ第3行?第7行)

(イ)「すなわち第1図においてハウジング1は角筒状に形成され、その一端には内蔵スイツチ2が固定され、またその他端にはキヤツプ状の押ボタン3がそのハウジングの軸心線に沿つて往復動可能に嵌合されている。」(明細書第5ページ第11行?第15行)

(ウ)「さらにハウジング1内にはベース6が収容され、かつこのベースには発光ダイオード7がハウジング1の軸心線上に取付けられている。押ボタン3の内側には透光性を有するカラープレート8が収容され、かつ押ボタン3にはラツパ状の反射壁11がカラープレート8の周縁部と衝合するように嵌合される。」(明細書第5ページ第17行?第6ページ第3行)

(エ)「また反射壁11は押ボタン3とともに往復駆動され、かつ発光ダイオード7からの光をカラープレート8すなわち押ボタン3側に反射する。したがつてこの反射壁は押ボタン3側に向つてしだいに広がるように摺り鉢状に形成されている。そして発光ダイオード7はその反射壁の一端に設けた小径孔14を貫通して反射壁11内に位置している。またその反射壁は押ボタン3側に形成され、比較的急しゆんな傾斜角を有する第1の反射面15と、発光ダイオード7側に形成され比較的緩やかな傾斜角を有する第2の反射面16とから構成され、第1図および第3図に示すように押ボタン3が第1の位置にあるとき発光ダイオード7からの光を主として第1の反射面15で反射し、また第2図および第4図に示すように押ボタン3が第2の位置にあるとき発光ダイオード7からの光を主として第2の反射面16で反射するようにされている。」(明細書第6ページ第12行?第7ページ第9行)

(オ)「なおカラープレート8に投射された光はすべてが直接押ボタン3側に透過されるのではなく、カラープレート8によつても反射され、さらに第2の反射面16で反射され、その後第1の反射面15で反射され、カラープレート8に投射されるものもある。この繰返し反射作用はカラープレート8と反射壁11の反射率によつて異るが、平均3?4回位繰返し、これによつてカラープレート8を通過する光線が増加するとともに、押ボタン3に照射される光線はより平均化される。」(明細書第8ページ第9行?第18行)

エ 引用文献7に記載された事項
当審が新たに引用する文献である特開2005-347067号公報(以下、「引用文献7」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「【0031】
押釦部12は、反射プランジャ13と、拡散プレート14と、彫刻プレート15と、キャップ16とで構成してある。
【0032】
反射プランジャ13は、円筒形状の嵌合部19と、この嵌合部19の端部に連なる漏斗状の反射部20と、この反射部20の端部に連なる円筒形状の保持部21とで構成してあり、嵌合部19の内周部には、その端側に位置させて凹溝部からなる押釦側パッキン嵌合部22が形成してある。
【0033】
そして、反射プランジャ13の保持部21には拡散プレート14が載置され(溶着或いは接着等により固着する場合もある)、拡散プレート14には彫刻プレート15が着脱可能に嵌めてあり、さらには、彫刻プレート15を覆うようにして保持部21にはキャップ16が被せてある。」

(3)対比・判断
ア 本願発明1について
(ア)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「透光性または半透光性を有する操作ヘッド30」は、「透光性または半透光性を有する意匠部材」の限りにおいて、本願発明1と一致する。
引用発明の「透光性を有するプッシュロッド20」は、「操作ヘッド30と組み立てられ」ることで、操作ヘッド30に対する操作に応じて動作するものであるから、「前記意匠部材の裏側に組み付けられて、前記意匠部材に対する操作に応じて動作する」限りにおいて、本願発明1の「透光性の操作部材」と一致する。
引用発明の「光源10」は、「光源」の限りにおいて、本願発明と一致する。
引用発明の「プッシュロッド20と一体的に形成され、光源10から出射された光が通過する発散レンズ22」は、発散レンズ22が光源10から操作ヘッド30までの光路上に配置されることにより、光源10から出射された光が発散レンズ22を通過するものであるから、本願発明1の「前記操作部材と一体に設けられ、前記光源から前記意匠部材の裏側までの光路上に配置されたレンズ部」に相当する。
引用発明の「テーパ面」は、「前記レンズ部から前記意匠部材に向けて広が」る限りにおいて、本願発明1の「テーパ面」と一致する。

以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「透光性または半透光性を有する意匠部材と、
前記意匠部材の裏側に組み付けられ、前記意匠部材に対する操作に応じて動作する透光性の操作部材と、
光源と、
前記操作部材と一体に設けられ、前記光源から前記意匠部材の裏側までの光路上に配置されたレンズ部と
を備え、
前記操作部材の内周面は、前記レンズ部から前記意匠部材に向けて広がるテーパ面である操作部構造。」

【相違点1】
本願発明1では、「意匠部材」が「操作パネルの開口部から表側が外部に露出され」、「透光性の操作部材」が「前記操作パネルの内部に配置され」、「光源」が「前記操作パネルの内部に設けられた」ものであるのに対し、引用発明では、「操作パネル」が特定されていない点。

【相違点2】
本願発明1では、「テーパ面」が、「前記レンズ部から前記意匠部材に向けて広がりながら前記意匠部材の裏側面に至る」のに対し、引用発明では、「テーパ面」が、「操作ヘッド30」の裏側面に至っていない点。

【相違点3】
本願発明1では、「テーパ面」が、「前記意匠部材の裏側面で反射されて戻ってきた光を、前記意匠部材の裏側面へ反射するように設けられている」のに対し、引用発明では、このような特定が無い点。

(イ)判断
事案に鑑みて、まず相違点2について検討する。
4.(2)イで示したとおり、引用文献2には、ボタン1は、プランジャ3を有し、プランジャ3は、角形状の枠体の内側面から中央部に向かってすり鉢状の傾斜面3aが形成され、発光素子4aからの光がプランジャ3の傾斜面3aによって反射されることが記載されている。
しかしながら、引用文献2に記載された技術的事項は、プランジャ3とボタン1との間に凹レンズ2が介在するものであって、本願発明1のような「レンズ部から意匠部材に向けて広がりながら意匠部材の裏側面に至るテーパ面」ではない。
そうしてみると、発散レンズ22から操作ヘッド30に向けて広がるテーパ面を有する引用発明に対し、引用文献2に記載された技術的事項を採用する動機付けは、存在しないというべきである。

よって、引用発明に対し、引用文献2に記載された技術的事項を採用し、上記相違点2に係る本願発明1の構成とすることは、当業者といえども容易に想到し得たものではない。

してみると、相違点1及び3について論じるまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないものである。

(ウ)当審が新たに引用する引用文献について
4.(2)ウで示したとおり、引用文献6には、押ボタン3にはラツパ状の反射壁11がカラープレート8の周縁部と衝合するように嵌合され、反射壁は押ボタン3側に向つてしだいに広がるように摺り鉢状に形成され、発光ダイオード7はその反射壁の一端に設けた小径孔14を貫通して反射壁11内に位置していることが記載されている。
そして技術常識を参酌すれば、引用文献6に記載された技術的事項において、発光ダイオード7は、光を適切な範囲に照射するために、レンズを有しているものと考えられるから、引用文献6に記載された事項は、レンズ側から押ボタン3のカラープレート8に向つてしだいに広がるようにカラープレート8の周縁部と衝合するラツパ状の反射壁11であるといえる。
しかしながら、引用文献6に記載された技術的事項の発光ダイオード7は、押ボタン3の反射壁との相対的な位置が、押ボタン3の第1の位置と第2の位置とで変化しても、安定した照光効果を得るものであるから、引用文献6に記載された技術的事項は、発光ダイオード7が有しているレンズと、押ボタン3の反射壁11とは別体で構成される構成を前提としたものである。
一方、引用発明は、発散レンズ22はプッシュロッド20と一体的に形成されるものであるから、引用発明と引用文献6に記載された技術的事項とは、前提とする構成が相違するものである。
そうしてみると、発散レンズ22がプッシュロッド20と一体的に形成されている引用発明に対し、引用文献6に記載された技術的事項のように、発光ダイオード7が有しているレンズが押ボタン3の反射壁11と別体で形成されていることを前提とする構成を採用する動機付けは、存在しないというべきである。

また、4.(2)エで示したとおり、引用文献7には、押釦部12は、反射プランジャ13を備え、反射プランジャ13は、円筒形状の嵌合部19と、この嵌合部19の端部に連なる漏斗状の反射部20と、この反射部20の端部に連なる円筒形状の保持部21とで構成していることが記載されている。
しかしながら、引用文献7に記載された技術的事項は、本願発明1の「レンズ部」に相当する構成を有していないから、本願発明1のような「レンズ部から意匠部材に向けて広がりながら意匠部材の裏側面に至るテーパ面」ではない。
そうしてみると、発散レンズ22から操作ヘッド30に向けて広がるテーパ面を有する引用発明に対し、引用文献7に記載された技術的事項を採用する動機付けは、存在しないというべきである。

よって、引用発明に対し、引用文献6及び7に記載された技術的事項を採用し、上記相違点2に係る本願発明1の構成とすることは、当業者といえども容易に想到し得たものではない。

してみると、引用文献6及び7に記載された技術的事項を参酌しても、本願発明1は、引用発明並びに引用文献6及び7に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないものである。

イ 本願発明2?9について
本願発明2?9は、本願発明1を引用するものであって、本願発明1の「前記レンズ部から前記意匠部材に向けて広がりながら前記意匠部材の裏側面に至るテーパ面」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2、6及び7に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものとはいえない。

5.小括
以上のとおりであるから、本願発明1?9は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明ではなく、その他の拒絶理由も発見できないから、特許出願の際独立して特許を受けることができる発明であるので、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適応する。


第4 原査定について
本件補正により、本願発明1?9は、「前記レンズ部から前記意匠部材に向けて広がりながら前記意匠部材の裏側面に至るテーパ面」という発明特定事項を備えるものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用発明及び引用文献2?5に記載された技術的事項に基いて、容易に発明できたものとはいえない。

したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-07-07 
出願番号 特願2018-561174(P2018-561174)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 太田 義典  
特許庁審判長 間中 耕治
特許庁審判官 内田 博之
中村 大輔
発明の名称 操作部構造およびこれを備えた電子機器  
代理人 特許業務法人山王内外特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ