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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16J
管理番号 1375816
審判番号 不服2020-15890  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-17 
確定日 2021-07-27 
事件の表示 特願2016-142657「止水作業空間形成装置および止水作業空間形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 1月11日出願公開、特開2018- 4068、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 理 由
第1 手続の経緯
本件に係る出願は、平成28年 7月20日の出願(優先権主張:平成28年 6月27日 日本)であって、令和 2年 3月11日付けで拒絶理由通知がされ、同年 4月 8日に意見書及び手続補正書が提出され、同年 9月 2日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年11月17日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである
この出願の請求項1-6に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2012-202082号公報

第3 審判請求時の補正について
1. 審判請求時の補正(以下、「本件補正」という。)について
本件補正により、特許請求の範囲の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。

【請求項1】
一側が開放する開口部を有する剛体のチャンバと、
前記チャンバの内部から外部に水を排出する排水機構と、
前記チャンバの前記開口部に沿って設けられたシール部材を有する止水機構と、
前記止水機構の前記シール部材をシール対象面に押し付ける押付機構と、
を備え、
前記止水機構は、前記シール部材が、前記シール対象面に接触可能な接触面が形成された弾性を有する第一シール層と、前記第一シール層の前記接触面と相反する側で前記第一シール層と一体に設けられた第二シール層と、で構成され、前記シール対象面側に向けて荷重が付与されて前記第一シール層の接触面が前記シール対象面に接触する場合、前記第一シール層の変位量ΔX1と、前記第二シール層の変位量ΔX2と、前記第一シール層のバネ定数k1と、前記第二シール層のバネ定数k2との関係をk1・ΔX1=k2・ΔX2とし、前記バネ定数k1と前記バネ定数k2との関係をk1<k2とし、
前記押付機構は、前記排水機構により前記チャンバから水を排出する前に、前記シール部材をシール対象面に押し付ける荷重を付与するものであり、当該荷重は、前記排水機構により前記チャンバから水を排出した後で外部から前記チャンバに掛かる水圧による荷重と同等である、
止水作業空間形成装置。
【請求項2】
前記止水機構は、荷重が付与された場合の前記第一シール層および前記第二シール層の圧縮率が30%以上である請求項1に記載の止水作業空間形成装置。
【請求項3】
前記止水機構は、前記第一シール層の接触面を前記シール対象面に押し付ける面圧が0.15Mpa以上である請求項1または2に記載の止水作業空間形成装置。
【請求項4】
前記止水機構は、加圧流体を発生させる加圧部と、加圧流体を前記第一シール層よりも前記第二シール層側に送る送出部と、前記送出部に送る加圧流体の圧力を検出する圧力検出部と、前記加圧部を制御する制御部と、を有する加圧流体供給手段を備え、
前記制御部は、前記第一シール層の変位量ΔX1と前記第二シール層の変位量ΔX2とを加えた総変位量ΔXとする前記加圧部における加圧流体の発生圧力の範囲が予め設定され、前記圧力検出部により検出される圧力に応じて前記加圧部を制御して前記発生圧力を前記範囲に維持する請求項1から3のいずれか1つに記載の止水作業空間形成装置。
【請求項5】
前記加圧流体供給手段は、前記加圧部を複数有する請求項4に記載の止水作業空間形成装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の止水作業空間形成装置を用いる止水作業空間形成方法であって、
前記押付機構により、水中のシール対象面に対して前記止水機構の第一シール層を接触させつつ前記チャンバを前記シール対象面側に押し付ける押付工程と、
前記押付工程中に前記排水機構により前記チャンバの内部の水を外部に排出する排水工程と、
前記排水工程の後に前記押付機構による押し付けを解除する解除工程と、
を含む止水作業空間形成方法。

2.本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の記載は、令和 2年 4月 8日に手続補正された特許請求の範囲の記載によって特定される次のとおりである。

【請求項1】
一側が開放する開口部を有する剛体のチャンバと、
前記チャンバの内部から外部に水を排出する排水機構と、
前記チャンバの前記開口部に沿って設けられたシール部材を有する止水機構と、
前記止水機構の前記シール部材をシール対象面に押し付ける押付機構と、
を備え、
前記止水機構は、前記シール部材が、前記シール対象面に接触可能な接触面が形成された弾性を有する第一シール層と、前記第一シール層の前記接触面と相反する側で前記第一シール層と一体に設けられた第二シール層と、で構成され、前記シール対象面側に向けて荷重が付与されて前記第一シール層の接触面が前記シール対象面に接触する場合、前記第一シール層の変位量ΔX1と、前記第二シール層の変位量ΔX2と、前記第一シール層のバネ定数k1と、前記第二シール層のバネ定数k2との関係をk1・ΔX1=k2・ΔX2とし、前記バネ定数k1と前記バネ定数k2との関係をk1<k2とし、
前記押付機構は、前記排水機構により前記チャンバから水を排出した後に外部から前記チャンバに掛かる水圧による荷重と同等の荷重を付与する、
止水作業空間形成装置。
【請求項2】
前記止水機構は、荷重が付与された場合の前記第一シール層および前記第二シール層の圧縮率が30%以上である請求項1に記載の止水作業空間形成装置。
【請求項3】
前記止水機構は、前記第一シール層の接触面を前記シール対象面に押し付ける面圧が0.15Mpa以上である請求項1または2に記載の止水作業空間形成装置。
【請求項4】
前記止水機構は、加圧流体を発生させる加圧部と、加圧流体を前記第一シール層よりも前記第二シール層側に送る送出部と、前記送出部に送る加圧流体の圧力を検出する圧力検出部と、前記加圧部を制御する制御部と、を有する加圧流体供給手段を備え、
前記制御部は、前記第一シール層の変位量ΔX1と前記第二シール層の変位量ΔX2とを加えた総変位量ΔXとする前記加圧部における加圧流体の発生圧力の範囲が予め設定され、前記圧力検出部により検出される圧力に応じて前記加圧部を制御して前記発生圧力を前記範囲に維持する請求項1から3のいずれか1つに記載の止水作業空間形成装置。
【請求項5】
前記加圧流体供給手段は、前記加圧部を複数有する請求項4に記載の止水作業空間形成装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の止水作業空間形成装置を用いる止水作業空間形成方法であって、
前記押付機構により、水中のシール対象面に対して前記止水機構の第一シール層を接触させつつ前記チャンバを前記シール対象面側に押し付ける押付工程と、
前記押付工程中に前記排水機構により前記チャンバの内部の水を外部に排出する排水工程と、
前記排水工程の後に前記押付機構による押し付けを解除する解除工程と、
を含む止水作業空間形成方法。

3.本件補正の適否
本件補正は、請求項1の「押付機構」について、「前記排水機構により前記チャンバから水を排出した後に外部から前記チャンバに掛かる水圧による荷重と同等の荷重を付与する、」とあるのを、「前記排水機構により前記チャンバから水を排出する前に、前記シール部材をシール対象面に押し付ける荷重を付与するものであり、当該荷重は、前記排水機構により前記チャンバから水を排出した後で外部から前記チャンバに掛かる水圧による荷重と同等である、」と発明特定事項を限定するものあるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものである。

当該押付機構の構成は、願書に最初に添付した明細書の段落【0041】に、「そして、図5に示すように、押付機構15のジャッキ15cにより剛体であるチャンバ1をシール対象面である側壁面101bに押し付けるように荷重を付与する(押付工程)。これにより、チャンバ1の開口部1Aがシール部材20により止水状態となって側壁面101bに設置される。なお、押付機構15による荷重は、後に排水機構16によりチャンバ1と側壁面101bとの間の領域から水Wを排出した後に燃料ピット101の内部の水Wによりチャンバ1に掛かる水圧による荷重Gと同等にする。」と記載されているから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものである。

ここで、補正後の請求項1-6に係る発明は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないので、以下、検討する。

4.独立特許要件について
4-1 本願発明1?6について
本願の請求項1?6に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明6」という。)は、令和 2年11月17日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、上記第3の1.のとおりである。

4-2 引用文献に記載された事項及び引用発明
(1)引用文献1に記載された事項及び引用発明について
引用文献1には、以下の事項が記載されている。

ア「【技術分野】
【0001】
本発明は、止水作業空間の構築方法および止水作業函に関し、さらに詳しくは、水際の壁状体や水中に立設する杭状体や構造物の表面形状に凹凸があっても、漏水を生じさせることなく、止水作業函を安定して固定することができる止水作業空間の構築方法およびその止水作業函に関するものである。」

イ「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、水際の壁状体や水中に立設する杭状体や構造物の表面形状に凹凸があっても、漏水を生じさせることなく、止水作業函を安定して固定することができる止水作業空間の構築方法およびその止水作業函を提供することにある。」

ウ「【0018】
図1?図4に例示するように、本発明の止水作業函1の第1実施形態は、前面および上面を開口した函体2と、函体2の前面の前端部に延設された止水材3とを備えている。この実施形態では、函体2の前面の前端部は鋼等で形成されたチャネルで構成され、函体2の左右側面、後面および底面は、鋼板等の剛性材により構成されている。函体2の材質、部材等はこれに限定されるものではない。」

エ「【0020】
止水材3は、函体2の前面の前端部を覆うように取付けられている。止水材3は、不透水性の軟質独立気泡体であり、厚さは例えば、10mm?200mm程度である。止水材3として、例えば、樹脂材料、ゴム材料、エラストマー、或いはこれらの複合材料で形成されたスポンジ体が使用される。具体的には、止水材3としてEPDM製のスポンジ体が挙げられる。
【0021】
止水材3の硬度は、例えば、25%圧縮荷重が10kPa?50kPa程度である。この値は、厚さ12.5mm×縦50mm×横50mmのサンプルをオートグラフにて圧縮速度50mm/minで圧縮した際の測定値である。
【0022】
止水材3の背面には、止水材3に沿ってゴムチューブ4が延設されている。ゴムチューブ4は流体配管5を介して、壁状体12の上に設置された流体給排手段10に接続されている。流体給排手段10によって、空気や水などの流体Lが注入されることにより、ゴムチューブ4は膨張し、注入された流体Lが排出されることにより収縮する。ゴムチューブ4の両側面および背面は、鋼板等の剛性材で囲うようにするとよい。これにより、ゴムチューブ4を膨張させた際に、止水材4側に向かって大きく突出させることができる。ゴムチューブ4の背面と剛性材(函体2の前面)との間に追加的に止水材3を介在させることもできる。
【0023】
流体給排手段10は制御装置11によって制御される。即ち、制御装置11によってゴムチューブ4の膨張圧力や膨張および収縮させるタイミングが制御される。
【0024】
函体2には、函体2上部を固定する上部固定手段7と、函体2下部を固定する下部固定手段8とが設けられている。この実施形態では、上部固定手段7として、L字状の剛性アングル部材が用いられ、函体2上部が壁状体12の上面に固定されている。また、下部固定手段8は、水中の壁状体12の表面に突設されたアンカーボルト8aとアンカーボルト8aと函体2の下部との間に張設されるワイヤ8bとで構成されている。上部固定手段7および下部固定手段8は、これに限定されず、他の構造(部材)を用いることもできる。」

オ「【0027】
止水材3は、図6に例示するように2つの層3A、3Bで構成し、それぞれの層3A、3Bの硬さを異ならせて、層3Aを層3Bよりも柔らかくした仕様にすることもできる。」

カ「【0030】
まず、図8に例示するように、止水作業函1の前面を、鋼矢板等の水際の壁状体12の表面に対向させる。この際に、連通口6は開いたままにしておき、ゴムチューブ4は膨張させない状態にしておく。
【0031】
そして、函体2の前面を壁状体12の表面に向かって移動させ、止水材3を壁状体12の表面に当接させる。止水材3は、不透水性の軟質独立気泡体なので変形性能に優れ、壁状体12の表面形状にすき間なく沿うように変形することができる。このようにして図1に例示するように、連通口6を通じて、函体2内部に外部の水Wが自由に出入りする状態になる。
【0032】
尚、壁状体12の表面との密着性をより高めるために、図9に例示するように止水材3の前面を、概略、壁状体12の表面形状に沿った形状(対応させた形状)に予め形成しておくこともできる。
【0033】
次いで、函体2上部を上部固定手段7により壁状体12に固定し、函体2下部を下部固定手段8により壁状体12に固定する。その後、ゴムチューブ4に流体Lを注入して所定の膨張圧力を負荷して膨張させ、膨張させた状態を維持する。
【0034】
次いで、連通口6を閉じた状態にして、函体2内部の水Wをポンプ等により函体2外部に排出することにより、函体2の内部に止水作業空間を構築することができる。
【0035】
函体2を所定位置に設置する際に、連通口6を開いて函体2内部に水Wを流入させた状態にしているので、函体2内部と外部とが常に同じ水面位置になる。そのため、函体2(止水作業函1)を壁状体12の所定位置に固定するまでの間に、潮の干満等により水面が上昇しても函体2(止水作業函1)には追加的な浮力が生じることがない。また、水面が下降することにより浮力が減じても、函体2内部に存在する水Wによって下方に追加的な力が生じることもない。また、函体2の内部と外部の水面位置の違い(水圧差)による外力が函体2に作用することもない。
【0036】
このように、函体2(止水作業函1)の外部の水面位置の変動に起因して、函体2(止水作業函1)に上下方向に不要な追加的な力や水圧差に起因する外力が生じることがない。これにより、函体2(止水作業函1)を壁状体12に対して強固に安定して固定することができる。
【0037】
また、止水材3は不透水性の軟質独立気泡体であるので、壁状体12の表面に凹凸があっても、その凹凸に沿って容易に変形させることができる。そして、膨張するゴムチューブ4によって、凹凸に沿って変形した止水材3を壁状体12に押付けるので、すき間なく密着させることができる。そのため、漏水を生じさせることなく、壁状体12に対して止水作業函1を安定して固定することができる。
【0038】
尚、連通口6を閉じて函体2の内部の水Wを外部に排出した後に、ゴムチューブ4に流体Lを注入して所定の膨張圧力を負荷して膨張させることもできる。
【0039】
図6に例示した仕様のように、止水材3の硬さを厚さ方向で異ならせ、前面側をゴムチューブ4側よりも柔らかくした仕様にすると、層3Aを壁状体12の表面にすき間なく密着させ易く、かつ、層3Bによって、膨張するゴムチューブ4の押圧力を広範囲に層3Aに伝え易くなる。図7に例示した仕様の場合も、剛性体9によって、膨張するゴムチューブ4の押圧力を広範囲に止水材3に伝え易くなる。」

キ「【図6】



ク 摘記事項ウの段落【0018】に、「函体2の前面の前端部は鋼等で形成されたチャネルで構成され、函体2の左右側面、後面および底面は、鋼板等の剛性材により構成されている。」と記載されているから、函体2は、剛体であると認められる。

ケ 摘記事項カの段落【0033】?【0034】に、「ゴムチューブ4に流体Lを注入して所定の膨張圧力を負荷して膨張させ、膨張させた状態を維持」し、「次いで、連通口6を閉じた状態にして、函体2内部の水Wをポンプ等により函体2外部に排出することにより、函体2の内部に止水作業空間を構築する」と記載されているから、ゴムチューブ4は、ポンプ等により函体2から水Wを排出する前に膨脹させるものと認められる。

コ 上記【図6】から、止水材3は、壁状体12に接触する面が形成された層3Aと、層3Aの壁状体12に接触する面と相反する側で層3Aと一体に設けられた層3Bを備えることが看取できる。


上記摘記事項ア?キ及び認定事項ク?コから、引用文献1には、次の発明が記載されているものといえる(以下、「引用発明」という。)。

(引用発明)
「前面および上面を開口した剛体の函体2と、
函体2内部の水Wを函体2外部に排出するポンプと、
函体2の前面の前端部に延設された止水材3と、
函体2上部を上部固定手段7により壁状体12に固定し、函体2下部を下部固定手段8により壁状体12に固定し、ゴムチューブ4に流体Lを注入して所定の膨張圧力を負荷して膨張させ、膨張するゴムチューブ4によって、凹凸に沿って変形した止水材3を壁状体12に押付け、
止水材3は、壁状体12に接触する面が形成された層3Aと、層3Aの壁状体12に接触する面と相反する側で層3Aと一体に設けられた層3Bを備え、層3Aは層3Bよりも柔らかく、
ゴムチューブ4は、ポンプ等により函体2から水Wを排出する前に膨脹させるものである、
止水作業空間の構築の装置。」

4-3 対比・判断
(1)本願発明1について
ア 対比
引用発明の「前面および上面を開口した剛体の函体2」は、本願発明1の「一側が解放する開口部を有する剛体のチャンバ」に相当する。

また、引用発明の「函体2内部の水Wを函体2外部に排出するポンプ」は、本願発明1の「前記チャンバの内部から外部に水を排出する排水機構」に相当し、引用発明の「函体2の前面の前端部」、「止水材3」は、それぞれ本願発明1の「開口部」、「シール部材」に相当する。

そして、引用発明の「函体2の前面の前端部に延設された止水材3」は、本願発明1の「前記チャンバの前記開口部に沿って設けられたシール部材」に相当するから、引用発明は、「止水機構」を備えるものと認められる。

また、引用発明の「ゴムチュ-ブ4」は、「函体2上部を上部固定手段7により壁状体12に固定し、函体2下部を下部固定手段8により壁状体12に固定し」た状態で「ゴムチューブ4に流体Lを注入して所定の膨張圧力を負荷して膨張させ」、「膨張するゴムチューブ4によって、凹凸に沿って変形した止水材3を壁状体12に押付け」るものであるから、本願発明1の「前記止水機構の前記シール部材をシール対象面に押し付ける押付機構」と一致する。

引用発明の止水材3の「層3A」、「層3B」は、それぞれ本願発明1の「第一シール層」、「第二シール層」に相当する。

そして、引用発明の「層3Aは層3Bよりも柔らかく」は、層3Aのバネ定数が層3Bのばね定数より小さいことを意味するから、本願発明1の「前記バネ定数k1と前記バネ定数k2との関係をk1<k2とし」に一致する。

また、引用発明は、「壁状体12に接触する面が形成された層3Aと、層3Aの壁状体12に接触する面と相反する側で層3Aと一体に設けられた層3B」であるから、壁状体12に層3Aが接触して押し付けられた時、層3Aと層3Bとの間におけるバネ力である「バネ定数×変位」がバランスすることが技術常識から理解できるので、引用発明の上記構成は、本願発明1の「前記シール対象面側に向けて荷重が付与されて前記第一シール層の接触面が前記シール対象面に接触する場合、前記第一シール層の変位量ΔX1と、前記第二シール層の変位量ΔX2と、前記第一シール層のバネ定数k1と、前記第二シール層のバネ定数k2との関係をk1・ΔX1=k2・ΔX2」に一致する。

また、引用発明の「ゴムチューブ4は、ポンプ等により函体2から水Wを排出する前に膨脹させるものである」は、「膨張するゴムチューブ4によって、凹凸に沿って変形した止水材3を壁状体12に押付け」るものであるから、本願発明1の「前記押付機構は、前記排水機構により前記チャンバから水を排出する前に、前記シール部材をシール対象面に押し付ける荷重を付与するもの」に一致する。

そして、引用発明の「止水作業空間の構築の装置」は、本願発明1の「止水作業空間形成装置」に相当する。

してみると、本願発明1と引用発明とは、両者が
「一側が開放する開口部を有する剛体のチャンバと、
前記チャンバの内部から外部に水を排出する排水機構と、
前記チャンバの前記開口部に沿って設けられたシール部材を有する止水機構と、
前記止水機構の前記シール部材をシール対象面に押し付ける押付機構と、
を備え、
前記止水機構は、前記シール部材が、前記シール対象面に接触可能な接触面が形成された弾性を有する第一シール層と、前記第一シール層の前記接触面と相反する側で前記第一シール層と一体に設けられた第二シール層と、で構成され、前記シール対象面側に向けて荷重が付与されて前記第一シール層の接触面が前記シール対象面に接触する場合、前記第一シール層の変位量ΔX1と、前記第二シール層の変位量ΔX2と、前記第一シール層のバネ定数k1と、前記第二シール層のバネ定数k2との関係をk1・ΔX1=k2・ΔX2とし、前記バネ定数k1と前記バネ定数k2との関係をk1<k2とし、
前記押付機構は、前記排水機構により前記チャンバから水を排出する前に、前記シール部材をシール対象面に押し付ける荷重を付与するものである、
止水作業空間形成装置」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
本願発明1では、押付機構による荷重が「当該荷重は、前記排水機構により前記チャンバから水を排出した後で外部から前記チャンバに掛かる水圧による荷重と同等である」のに対して、引用発明では、「函体2上部を上部固定手段7により壁状体12に固定し、函体2下部を下部固定手段8により壁状体12に固定し、ゴムチューブ4に流体Lを注入して所定の膨張圧力を負荷して膨張させ」ることにより荷重がどの程度が不明な点。

イ 判断
上記相違点について検討する。
引用発明の「上部固定手段7」と「下部固定手段8」とは、それぞれ函体上部と函体下部とを壁状体12に固定する作用・機能を備えるのみであるから、止水材3を壁状体12に押し付ける荷重を発生させる機能は、備えないものと解するのが相当である。

してみると、引用発明において止水材3を壁状体12に押し付ける荷重は、ゴムチューブ4の膨脹圧力によるものと解されるが、当該膨脹圧力を「前記排水機構により前記チャンバから水を排出した後で外部から前記チャンバに掛かる水圧による荷重と同等」とすることは、引用文献に記載されておらず、荷重を示唆する記載もない。

そして、技術常識を参酌しても、ゴムチューブ4の膨脹圧力によって止水材3を壁状体12に押し付ける荷重を「前記排水機構により前記チャンバから水を排出した後で外部から前記チャンバに掛かる水圧による荷重と同等」とすることが、当業者にとって容易であったということはできないものである。

してみると、本願発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明ではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明ではない。

(2)本願発明2-6について
本願発明2?6は、本願発明1を直接又は間接的に引用するものであって、本願発明1の「当該荷重は、前記排水機構により前記チャンバから水を排出した後で外部から前記チャンバに掛かる水圧による荷重と同等である」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明に基いて容易に発明できたものとはいえない。

5.小括
以上のとおりであるから、本願発明1?6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明ではなく、その他の拒絶理由も発見できないから、特許出願の際独立して特許を受けることができる発明であるので、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

第4 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1?6は、「当該荷重は、前記排水機構により前記チャンバから水を排出した後で外部から前記チャンバに掛かる水圧による荷重と同等である」という発明特定事項を備えるものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用発明に基いて、容易に発明できたものとはいえない。

したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。



 
審決日 2021-07-07 
出願番号 特願2016-142657(P2016-142657)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 谷口 耕之助  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 間中 耕治
杉山 健一
発明の名称 止水作業空間形成装置および止水作業空間形成方法  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  
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