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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C01G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01G
管理番号 1375849
異議申立番号 異議2020-700503  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-20 
確定日 2021-04-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6635031号発明「チタン酸バリウム微粒子粉末、分散体及び塗膜」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6635031号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6635031号の請求項2ないし5に係る特許を維持する。 特許第6635031号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6635031号の請求項1?5に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)6月11日(優先権主張:平成26年6月13日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、令和元年12月27日に特許権の設定登録がされ、令和2年1月22日に特許掲載公報の発行がされ、請求項1?5に係る特許に対し、同年7月20日に特許異議申立人菊地いのり(以下「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされた。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。

令和2年 9月24日付け:取消理由通知
同年11月24日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者)
令和3年 1月 6日 :意見書の提出(申立人)

第2.訂正の適否
1.訂正の内容
令和2年11月24日にされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下の(1)ないし(10)のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「一次粒子の粒度分布を一次粒子の平均粒径で除した値が0.20?0.25である請求項1記載のチタン酸バリウム微粒子粉末。」とあるのを、「一次粒子の平均粒径が20?60nmであり、比誘電率が300?800であり、一次粒子の粒度分布を一次粒子の平均粒径で除した値が0.20?0.25であるチタン酸バリウム微粒子粉末。」と訂正する。(下線は、訂正特許請求の範囲に特許権者が付加したもの。以下、同じ。)

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「格子定数比c/aが1.003未満である請求項1又は2記載のチタン酸バリウム微粒子粉末。」とあるのを、「格子定数比c/aが1.003未満である請求項2記載のチタン酸バリウム微粒子粉末。」と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、
「請求項1?3のいずれかに記載のチタン酸バリウム微粒子粉末を含有する分散体。」とあるのを、「請求項2又は3に記載のチタン酸バリウム微粒子粉末を含有する分散体。」と訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、
「請求項1?3のいずれかに記載のチタン酸バリウム微粒子粉末を含有する塗膜。」とあるのを、「請求項2又は3に記載のチタン酸バリウム微粒子粉末を含有する塗膜。」と訂正する。

(6)訂正事項6
明細書の【0013】を削除する。

(7)訂正事項7
明細書の【0014】に、
「また、本発明は、一次粒子の粒度分布を一次粒子の平均粒径で除した値が0.20?0.25である本発明1記載のチタン酸バリウム微粒子粉末である(本発明2)。」とあるのを、「本発明は、一次粒子の平均粒径が20?60nmであり、比誘電率が300?800であり、一次粒子の粒度分布を一次粒子の平均粒径で除した値が0.20?0.25であるチタン酸バリウム微粒子粉末である(本発明1)。」と訂正する。

(8)訂正事項8
明細書の【0015】に、
「また、本発明は、格子定数比c/aが1.003未満である請求項1又は2記載のチタン酸バリウム微粒子粉末である(本発明3)。」とあるのを、「また、本発明は、格子定数比c/aが1.003未満である本発明1に記載のチタン酸バリウム微粒子粉末である(本発明2)。」と訂正する。

(9)訂正事項9
明細書の【0016】に、
「また、本発明は、本発明1?3のいずれかに記載のチタン酸バリウム微粒子粉末を含有する分散体である(本発明4)。」とあるのを、「また、本発明は、本発明1又は2に記載のチタン酸バリウム微粒子粉末を含有する分散体である(本発明3)。」と訂正する。

(10)訂正事項10
明細書の【0017】に、
「また、本発明は、本発明1?3のいずれかに記載のチタン酸バリウム微粒子粉末を含有する塗膜である(本発明5)。」とあるのを、「また、本発明は、本発明1又は2に記載のチタン酸バリウム微粒子粉末を含有する塗膜である(本発明4)。」と訂正する。

ここで、訂正前の請求項2?5は、訂正前の請求項1を引用し、これら請求項1?5は一群の請求項を構成するところ、上記訂正事項1?5に係る特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、この一群の請求項1?5を訂正の単位として請求されたものである。
また、上記訂正事項6?10に係る明細書の訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に従い、この一群の請求項1?5を訂正の単位として請求されたものである。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。また、この訂正により新規事項が発生したり、特許請求の範囲の拡張ないし変更が発生するものでもないことは明らかであるから、訂正事項1は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2が、請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項1との引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるものであるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。また、この訂正により新規事項が発生したり、特許請求の範囲の拡張ないし変更が発生するものでもないことは明らかであるから、訂正事項2は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3ないし5について
訂正事項3ないし5は、それぞれ、訂正前の請求項2ないし4における選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。また、この訂正により新規事項が発生したり、特許請求の範囲の拡張ないし変更が発生するものでもないことは明らかであるから、訂正事項3ないし5は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項6ないし10について
訂正事項6ないし10は、それぞれ、訂正事項1ないし5による訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と願書に添付された明細書の記載を合致させるものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。

第3.本件特許請求の範囲の記載
本件訂正請求により訂正された請求項2ないし5に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明2」ないし「本件発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項2ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項2】
一次粒子の平均粒径が20?60nmであり、比誘電率が300?800であり、一次粒子の粒度分布を一次粒子の平均粒径で除した値が0.20?0.25であるチタン酸バリウム微粒子粉末。

【請求項3】
格子定数比c/aが1.003未満である請求項2記載のチタン酸バリウム微粒子粉末。

【請求項4】
請求項2又は3に記載のチタン酸バリウム微粒子粉末を含有する分散体。

【請求項5】
請求項2又は3に記載のチタン酸バリウム微粒子粉末を含有する塗膜。」

第4.取消理由通知に記載した取消理由について
1.令和2年9月24日付け取消理由通知に記載した取消理由の概要
訂正前の請求項1、3?5に係る特許に対して令和2年9月24日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

<取消理由>
請求項1に係る発明は、下記の甲第1号証(以下、「甲1」という。)又は引用文献1に記載された発明であるか、甲1又は引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項3に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるか、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、さらに、請求項4及び5に係る発明は、甲1又は引用文献1に記載された発明、及び引用文献2に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、3、4及び5に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。

<引用する刊行物一覧>
・甲1:「チタン酸バリウムナノ粒子の構造と巨大誘電特性の発現機構」、保科拓也、日本結晶学会誌、第51巻、第5号(2009)、300?305頁
・引用文献1:「Size and temperature induced phase transition behaviors of barium titanate nanoparticles」、T.Hoshina, H.Kakemoto, T.Tsurumi, M.Yashima and S.Wada: J.Appl.Phys. 99, 054311 (2006)(甲第1号証の引用文献10)
・引用文献2:特開2012-148970号公報

2.取消理由通知に記載した取消理由に対する判断
(1)請求項1に係る特許について
請求項1は、本件訂正請求による訂正により削除されたため、取消理由通知に記載した取消理由の対象となる請求項は存在しない。

(2)請求項3?5に係る特許について
本件発明3?5は、本件訂正請求による訂正により、取消理由を通知していない本件発明2を引用するものとなったため、取消理由通知に記載した取消理由の対象とはならなくなった。

3.小括
以上のとおりであるから、令和2年9月24日付けで特許権者に通知した取消理由に理由はない。

第5.取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
1.特許異議申立書における特許異議申立理由(甲1を主引例とする特許法第29条第2項)について
申立人は、訂正前の請求項2に係る発明及びこれを引用する請求項3?5に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲第2号証(特開2011-132071号公報、以下「甲2」という。)に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。

2.各甲号証について記載
(1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
ア.甲1の記載事項
甲1には、次の事項が記載されている(当審注:「・・・」は省略を表す。以下、同じ。)。
(ア)「図1は2段階熱分解法を用いて得られたBaTiO_(3)超微粒子のTEM写真である.得られた微粒子は平均粒子径約20nmの単結晶粒子であることが明らかとなった.・・・
また,シュウ酸塩の2段階熱分解法で合成した粒子径20nmの微粒子を空気中でさらに熱処理することにより.最終的に粒子径20nmから430nmの範囲でBaTiO_(3)微粒子を作製した.」(301頁左欄22行?右欄2行)

(イ)「



(ウ)「合成したBaTiO_(3)微粒子の誘電率を測定したところ,図2に示すような誘電率のサイズ依存性が得られた.^(8),10))すなわち,・・・粒子径20nmにおいて比誘電率は250という値をとることがわかった.」(301頁右欄「3.チタン酸バリウム微粒子の誘電特性」における13行?22行)

(エ)「



(オ)「2.チタン酸バリウム微粒子の合成
BaTiO_(3)微粒子の合成方法として,これまでに数多くの報告がある.従来からの固相法に加え,シュウ酸法,水熱法,ゾルゲル法,エマルジョン法などの液相法,最近では気相法による合成も行われている.中でもナノオーダーの超微粒子を得る方法であるゾルゲル法や,それよりもやや大きいが数十nm以上の超微粒子を得ることができる水熱法が有名である.しかしながら,液相法による問題点は,不純物や欠陥がBaTiO_(3)中に容易に導入される点である.ゾルゲル法では前駆体に含まれる水や有機炭素などが残留し不純物となること,水熱法においては溶媒である水中の水酸基を結晶格子内に容易に取り込みやすいという問題点がある.^(6))また,固相法やシュウ酸法では欠陥を含まないBaTiO_(3)微粒子を合成できるものの,数十nmの粒子径をもつ微粒子の合成が非常に困難であるという問題点がある.このように,従来の方法では,不純物の存在を無視することができ,Ba/Ti原子比が1:1で,相対密度が100%に近い欠陥の存在を無視できるようなBaTiO_(3)超微粒子の合成が非常に困難であった.
本研究ではこれらの問題を解決し理想的なBaTiO_(3)超微粒子を合成するために,シュウ酸塩の2段階熱分解法^(7)、8))という合成法を開発した.この方法では、シュウ酸バリウムチタニル(BaTiO(C_(2)O_(4))_(2)・4H_(2)O、Ba/Ti=1.000、純度99.98%以上)を原料とし,空気中低温熱処理と真空高温熱処理という2段階の熱処理によって目的のBaTiO_(3)超微粒子を得る。まず、第1段階では、空気中500℃でBaTiO(C_(2)O_(4))_(2)・4H_(2)Oを熱処理することによって,非晶質構造の反応中間体(組成:Ba_(2)Ti_(2)O_(5)CO_(3))を得る.続く第2段階では、雰囲気を真空下(1Pa程度)に切り替え、620℃で熱処理することによって、BaTiO_(3)超微粒子を得る.酸素の存在が必要ではない第2段階の熱分解反応(炭酸基の脱離反応)において,雰囲気を真空下にすることにより,通常のシュウ酸塩法の場合よりも炭酸基の脱離が低温で実現し,結果的に,より粒子サイズの小さなBaTiO_(3)微粒子が得られることがわかった。」(300頁右欄15行?301頁左欄22行)

イ.甲1に記載された発明
上記ア.(ア)及び(イ)の記載事項によると、上記ア.(ウ)の記載事項における「粒子径」は、一次粒子の平均粒子径であるといえる。
また、上記ア.(エ)の記載事項において、粒子径が20?60nmの範囲内、かつ、比誘電率が300?800の範囲内にプロットが見て取れる。
すると、上記ア.(ア)?(エ)の記載事項によれば、甲1には、
「一次粒子の平均粒子径が20?60nmの範囲内、かつ、比誘電率が300?800の範囲内であるBaTiO_(3)微粒子」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(2)甲2の記載事項
甲2には、次の事項が記載されている。
ア.「【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、粒径が小さく、かつ、粒径のバラツキが少ない、誘電体層の薄層化に適した誘電体セラミックス材料を製造する方法を提供することを課題とする。」

イ.「【0050】
BaCO_(3)粉末(比表面積;30m^(2)/g又は50m^(2)/g)とTiO_(2)粉末(比表面積;50m^(2)/g又は100m^(2)/g)とを用意し、用意した粉末をA/B比(Ba/Ti比)1.002となるよう秤量した。次に、秤量した粉末に、実施例においてはエタノール(Etha)、又は、トルエンとエタノールとを重量比30:70で混合したトルエン/エタノール混合溶液(Etha/Tolu)を添加し、比較例においては水を添加し、ミキサーで前混合を行い、得られた混合スラリーをビーズミルで粉砕混合した。次に、粉砕混合した混合スラリーを乾燥させ、乾燥後の混合粉末を乾式粉砕した。次に、乾式粉砕後の混合粉末を下記表1?5に記載の温度で真空仮焼した。
【0051】
得られたチタン酸バリウム(BaTiO_(3))粉末について、XRD測定を行ったところ、得られたXRD測定データより、チタン酸バリウム単相であることが確認された(図4参照)。なお、図4に示すデータは実施例4について得られたものであるが、他の実施例についても同様なデータが得られた。また、得られたBaTiO_(3)粉末をSEM観察し、粒径測定を行った。この際、100個以上の粒子の粒径を測定して、平均粒径とともに標準偏差σを算出した。更に、得られたBaTiO_(3)粉末について、BET法により比表面積(SSA)を測定した。また、得られたBaTiO_(3)粉末をTEM観察し、双晶の存在率を算出した。これらの結果は下記表1?5及び図5に示した。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
【表4】



ウ.「【0010】すなわち本発明に係る誘電体セラミックス材料の製造方法は、炭酸バリウムと二酸化チタンとを固相反応により反応させて誘電体セラミックス材料を製造する方法であって、炭酸バリウム粉末及び二酸化チタン粉末を含有する混合粉末を有機溶媒中で粉砕混合する粉砕混合工程と、粉砕混合した前記混合粉末を焼成してチタン酸バリウム系化合物の粉末を得る仮焼工程とを備えていることを特徴とする。」

3.特許異議申立理由に対する判断
(1)本件発明2について
ア.本件発明2と甲1発明との対比・判断
本件発明2と甲1発明とを対比すると、
甲1発明における「一次粒子の平均粒子径が20?60nmの範囲内、かつ、比誘電率が300?800の範囲内であるBaTiO_(3)微粒子」は、本件発明2における「一次粒子の平均粒径が20?60nmであり、比誘電率が300?800であることを特徴とするチタン酸バリウム微粒子」に相当する。
すると、本件発明2と甲1発明は、
「一次粒子の平均粒径が20?60nmであり、比誘電率が300?800であることを特徴とするチタン酸バリウム微粒子」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点a)
本件発明2は一次粒子の粒度分布を一次粒子の平均粒径で除した値が0.20?0.25であることを特定するのに対して、甲1発明ではそのような特定がない点
(相違点b)
本件発明2はチタン酸バリウム微粒子「粉末」と特定するのに対して、甲1発明ではそのような特定がない点

まず、相違点aについて検討する。
上記2.(2)ア.の記載事項によると、甲2には、粒径が小さく、かつ、粒径のバラツキが少ない、誘電体層の薄層化に適した誘電体セラミックス材料を製造する方法を提供することを課題とすることが記載されており、上記2.(2)イ.及びウ.の記載事項によると、甲2の表1?4には、固相法によって作製されたチタン酸バリウムの粉末の粒子径の標準偏差σとSEM粒径(nm)が開示されており、同記載事項の【0051】の記載からすると、前記SEM粒径は平均粒径のことであると認められる。
そして、表1?4の測定値から、粒度分布を平均粒径で除した値、すなわち、標準偏差σ/SEM粒径を算出し、表にまとめると、以下のようになる。


そうしてみると、甲2には、固相法によってチタン酸バリウムの粉末を作製した際に、その粉末の平均粒径(SEM粒径)が20?60nmであり、粒度分布を平均粒径で除した値(標準偏差σ/SEM粒径)が0.20?0.25であるとの技術的事項が記載されているといえる。

これに対して、甲1には、上記1.(1)ア.(オ)の記載事項によると、BaTiO_(3)微粒子の合成方法としては、従来からの固相法等があるが、固相法では欠陥を含まないBaTiO3微粒子を合成できるものの、数十nmの粒子径をもつ微粒子の合成が非常に困難であるという問題点があり、従来の方法では、不純物の存在を無視することができ、Ba/Ti原子比が1:1で、相対密度が100%に近い欠陥の存在を無視できるようなBaTiO_(3)超微粒子の合成が非常に困難であったこと、そして、これらの問題を解決し理想的なBaTiO_(3)超微粒子を合成するために、シュウ酸塩の2段階熱分解法という合成法を採用したことが示されている。
そうしてみると、甲1発明においては、固相法が有する上記問題を解決すべく、BaTiO_(3)微粒子の合成方法として、上記シュウ酸塩の2段階熱分解法を採用し、当該シュウ酸塩の2段階熱分解法によりBaTiO_(3)微粒子を作製していることからして、甲1発明において、上記シュウ酸塩の2段階熱分解法に代えて、上記問題を有する固相法を採用することには阻害要因があるといえるから、甲1発明において、甲2に記載された固相法を採用して、BaTiO_(3)微粒子の粒度分布を平均粒径で除した値を0.20?0.25とすることは、容易想到な事項であるといえない。
よって、相違点aに係る本件発明2の発明特定事項は、甲1発明及び甲2に記載された技術事項から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

イ.小括
したがって、本件発明2は、相違点bについて検討するまでもなく、甲1発明及び甲2に記載された技術事項から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本件発明3?5について
本件発明3?5は、本件発明2の全てを含んだものであるところ、本件発明3は、前記(1)に記載したとおり、甲1発明及び甲2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明3?5も同様に甲1発明及び甲2に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4.小括
以上のとおりであるから、上記1.の特許異議申立理由は採用できない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項2ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項2ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項1に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項1に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項が準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
チタン酸バリウム微粒子粉末、分散体及び塗膜
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細でありながら高い誘電率(比誘電率)を有するチタン酸バリウム微粒子粉末を提供することを目的とするものである。
【背景技術】
【0002】
高い誘電率を有するチタン酸バリウムは、積層セラミックコンデンサなどの誘電材料として広く用いられている。
【0003】
一方、各種ディスプレーなどに用いられる光学フィルムに対して、透明樹脂にジルコニアなどの無機粒子フィラーを添加し誘電率や屈折率を制御することが行われている。
【0004】
液晶ディスプレー制御用TFTにおいても、低電力化のため、絶縁膜などの材料として微粒子かつ高誘電率なものが求められている。
【0005】
そこで、チタン酸バリウムを前記光学用途に用いるため、粒径を微細化してチタン酸バリウムを含有する樹脂フィルムとした際にフィルムの透明性を確保するとともに、誘電率の大きなチタン酸バリウム粒子粉末を得ることが求められている。
【0006】
従来、500℃以上の熱処理を行うことによって誘電率を高くしたチタン酸バリウム粒子粉末(特許文献1、2)、水熱反応によって得られた微細なチタン酸バリウム粒子粉末(特許文献3)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】 特開2002-211926号公報
【特許文献2】 特開2005-289668号公報
【特許文献3】 特開2007-137759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記諸特性を満たすチタン酸バリウム微粒子粉末は現在最も要求されているところであるが、未だ得られていない。
【0009】
即ち、前出特許文献1及び2には、500℃以上の温度範囲でチタン酸バリウム粒子粉末を熱処理することが記載されているが、熱処理温度が高いので、粒子サイズが粗大化する場合がある。
【0010】
また、特許文献3記載の水熱反応により製造されたチタン酸バリウム粒子粉末では、高い誘電率を有するとは言い難いものであった。
【0011】
そこで、本発明では、粒径を小さく保ったまま、誘電率の大きなチタン酸バリウム粒子粉末を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記技術的課題は、次のとおりの本発明によって達成できる。
【0013】(削除)
【0014】
本発明は、一次粒子の平均粒径が20?60nmであり、比誘電率が300?800であり、一次粒子の粒度分布を一次粒子の平均粒径で除した値が0.20?0.25であるチタン酸バリウム微粒子粉末である(本発明1)。
【0015】
また、本発明は、格子定数比c/aが1.003未満である本発明1に記載のチタン酸バリウム微粒子粉末である(本発明2)。
【0016】
また、本発明は、本発明1又は2に記載のチタン酸バリウム微粒子粉末を含有する分散体である(本発明3)。
【0017】
また、本発明は、本発明1又は2に記載のチタン酸バリウム微粒子粉末を含有する塗膜である(本発明4)。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るチタン酸バリウム微粒子粉末は、非常に微細な粒子でありながら、高い誘電率を有するので、光学材料用として好適である。
【0019】
また、本発明に係るチタン酸バリウム微粒子粉末を用いて樹脂フィルムを形成した場合、透明性に優れたシートが得られるので光学材料用として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1で用いたチタン酸バリウム微粒子粉末(熱処理前)である。
【図2】実施例1で得られたチタン酸バリウム微粒子粉末(熱処理後)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の構成を詳述すれば、次の通りである。
【0022】
本発明に係るチタン酸バリウム微粒子粉末の一次粒子の平均粒径(x)は20?60nmである。チタン酸バリウム微粒子粉末の平均粒径を前記範囲に制御することによって、チタン酸バリウム微粒子粉末を含有する樹脂フィルムを製造した際に透明性に優れた樹脂フィルムを得ることができる。好ましい平均粒径は22?58nmであり、より好ましくは25?55nmである。
【0023】
本発明に係るチタン酸バリウム微粒子粉末は、後述する評価方法で測定した比誘電率が300?800である。チタン酸バリウム微粒子粉末の比誘電率が前記範囲に制御されることによって、粒子成長が抑えられた微粒子を得ることができる。より好ましい比誘電率は410?750である。
【0024】
本発明に係るチタン酸バリウム微粒子粉末の一次粒子の粒度分布(σ)を一次粒子の平均粒径(x)で除した値は0.20?0.25が好ましい。前記数値が前記範囲内に制御されることによって、粒度分布に優れたチタン酸バリウム微粒子粉末となる。より好ましい範囲は0.205?0.248である。
【0025】
本発明に係るチタン酸バリウム微粒子粉末の結晶性は、格子定数のa軸長(a)及びc軸長(c)を用いて格子定数比c/aで示した場合に、1.003未満が好ましい。格子定数比c/aが1.003以上のチタン酸バリウム微粒子粉末は本発明の粒径では工業的に製造することが困難である。
【0026】
本発明に係るチタン酸バリウム微粒子粉末の比表面積は10?80m^(2)/gが好ましい。10m^(2)/g未満の場合には、粒子粉末が粗大となり、粒子相互間で焼結が生じた粒子となっており、バインダを混合する場合に、分散性が損なわれやすい。比表面積値が80m^(2)/gを超えるチタン酸バリウム微粒子粉末を工業的に生産することは困難である。
【0027】
本発明に係るチタン酸バリウム微粒子粉末のX線回折ピークから算出した(111)面の半価幅(FWHM)は0.2?0.4が好ましい。
【0028】
本発明に係るチタン酸バリウム微粒子粉末の粒子形状は球形又は粒状が好ましい。
【0029】
次に、本発明に係るチタン酸バリウム微粒子粉末の製造方法について述べる。
【0030】
本発明に係るチタン酸バリウム微粒子粉末は、あらかじめ水熱反応によって作製した平均粒径が10?50nmのチタン酸バリウム微粒子粉末を100?400℃の温度範囲で熱処理して得ることができる。
【0031】
本発明において、水熱反応は特に限定されるものではないが、例えば、水酸化バリウム水溶液を塩化チタン水溶液に滴下・中和して水酸化チタンコロイドを得、次いで、前記水酸化チタンコロイドを水酸化バリウム水溶液に投入し、得られた混合溶液を加熱してチタン酸バリウムを生成した。冷却、水洗した後、100?250℃の温度範囲で水熱処理を行い、水洗、乾燥、粉砕して得ることができる。
【0032】
水熱反応では、反応温度、濃度、pHなどを変化させることによって大きさの異なるチタン酸バリウムを製造することができる。
【0033】
水熱反応によって得られたチタン酸バリウムの平均粒径は10?50nmが好ましい。
【0034】
水熱反応により作製したチタン酸バリウム粒子(粒径:10?50nm)を100?400℃までの温度範囲で熱処理を行うことにより、本発明の目的とするチタン酸バリウム微粒子粉末を得ることができる。熱処理温度を前記範囲に制御することによって、チタン酸バリウム微粒子の粒径の成長を抑制するとともに、誘電率を増大させることができる。熱処理温度は、高すぎると粒子同士が融着する場合がある。
【0035】
熱処理時間は、1?3時間が好ましい。
【0036】
次に、本発明に係る分散体について述べる。
【0037】
本発明における分散媒体としては、水系及び溶剤系のいずれをも用いることができる。
【0038】
水系分散体の分散媒体としては、水、もしくは、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶剤;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル系溶剤;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン付加重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2,6-ヘキサントリオール等のアルキレングリコール;グリセリン、2-ピロリドン等の水溶性有機溶剤を用いることができる。これらの水系分散体用の分散媒体は、目的とする用途に応じて1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0039】
溶剤系分散体用の分散媒体としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングルコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエー
テルアセテート類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等の酢酸エステル類;乳酸メチルエステル、乳酸エチルエステル、乳酸プロピルエステル等の乳酸エステル類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトン等の環状エステル類及び各種モノマー等を用いることができる。これらの溶剤系分散体用の分散媒体は、目的とする用途に応じて1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0040】
本発明に係る分散体を製造するために用いる分散機としては特に限定されるものではなく、粉体層にせん断力、衝撃力、圧縮力、及び/または摩擦力を加えることのできる装置が好ましく、例えば、ローラーミル、高速回転ミル、分級機内蔵型高速回転ミル、ボールミル、媒体攪拌式ミル、気流式粉砕機、圧密せん断ミル、コロイドミル、ロールミル等を用いることができる。
【0041】
本発明に係る分散体は、チタン酸バリウム粒子粉末を分散体構成基材100重量部に対して0.1?60重量部含有し、好ましくは0.5?50重量部、より好ましくは1?40重量部含有している。チタン酸バリウム粒子粉末の分散体の構成基材としては、上記チタン酸バリウム粒子粉末の他に、分散媒体からなり、必要に応じて分散剤、添加剤(樹脂、消泡剤、助剤等)等を添加することもできる。
【0042】
本発明における分散剤としては、使用するチタン酸バリウム粒子粉末や分散媒体の種類に応じて適宜選択して使用することができ、アルコキシシラン、シラン系カップリング剤及びオルガノポリシロキサン等の有機ケイ素化合物、界面活性剤あるいは高分子分散剤等を用いることができ、これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0043】
上記有機ケイ素化合物としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン及びテトラメトキシシラン等のアルコキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン等のシラン系カップリング剤、ポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、変性ポリシロキサン等のオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0044】
上記界面活性剤としては、脂肪酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアリールエーテル等のポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル等の多価アルコール型非イオン界面活性剤等のノニオン性界面活性剤;アミン塩型カチオン系界面活性剤、第4級アンモニウム塩型カチオン系界面活性剤等のカオチン性界面活性剤;アルキルジメチルアミノ酢酸ベタインなどのアルキルベタイン、アルキルイミダゾリンなどの両性界面活性剤が挙げられる。
【0045】
高分子分散剤としては、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、ポリカルボン酸及びその塩等を用いることができる。
【0046】
分散剤の添加量は、分散体中のチタン酸バリウム粒子粉末の総表面積に依存すると共に、チタン酸バリウム粒子粉末の分散体の用途及び分散剤の種類に応じて適宜調製すればよいが、一般的には、分散媒中のチタン酸バリウム粒子粉末に対して分散剤を0.01?100重量%添加することによって、チタン酸バリウム粒子粉末を分散媒体中に均一且つ微
細に分散させることができると共に、分散安定性も改善することができる。また、上記分散剤は、分散媒体に直接添加する他に、チタン酸バリウム粒子粉末に予め処理しておいてもよい。
【0047】
次に、本発明に係る塗膜について述べる。
【0048】
本発明に係る塗膜の作成は前述の分散体に樹脂を添加し、混合した後、バーコーターやスピンコーターなどのコーターを使用してPETフィルムなどのフィルム上に形成する。
使用する樹脂はアクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)等が一般的に用いられる。
【0049】
本発明に係るチタン酸バリウム微粒子粉末を用いた塗膜は、後述する方法によって評価した場合に、全光透過率が85%以上であって、ヘイズが0.65以上であり、透明性に優れるものである。
【0050】
<作用>
本発明では、微細でありながら高い誘電率を有するチタン酸バリウム微粒子粉末が得られている。
本発明においては、水熱反応後の微細なチタン酸バリウム粒子粉末を、粒子間の焼結が生じにくい温度範囲で加熱処理を行ったことにより、熱処理前のチタン酸バリウム粒子粉末に対して粒径、格子定数比c/aおよび(111)反射の半値幅はほとんど変化することなく、誘電率だけ向上させることができたものである。
チタン酸バリウム粒子の誘電率に影響を及ぼす因子として、粒子のサイズ効果が考えられる。発明者らの測定によると、水熱反応により得られた粒径175nmのチタン酸バリウム粒子粉末の比誘電率は130程度であった。
本発明における熱処理による粒子成長は十分に小さいため、粒径の増大が誘電率に及ぼす影響だけで本発明の結果を説明することはできないと考えられる。
熱処理による誘電率が増大する他の原因として、水酸基除去による粒子表層の改質が考えられる。低温での熱処理では、通常、特性の変化は期待できないが、本発明では熱処理を行うチタン酸バリウム粒子がナノサイズであるため、表面積が大きく、誘電率に大きな増大が発現したものと考えられる。
なお、より高温で熱処理を行い粒子内部まで改質を行うことができれば、誘電率のさらなる向上が期待できるが、高温での熱処理は、粒子同士の融着などにより粒径が急速に成長してしまう可能性があり、光学フィルム用途チタン酸バリウム粒子粉末の製造には適さない。
【実施例】
【0051】
本発明の代表的な実施の形態は、次の通りである。
【0052】
チタン酸バリウム微粒子粉末の一次粒子の平均粒径(x)は、走査型電子顕微鏡((株)日立製作所S-4300)によって観察した写真(倍率5万倍)について、約500個の粒子から粒子径を計測するとともに、粒度分布(σ)を求めた。なお、一次粒子の平均粒径とは各々の粒子に対して写真から求まる面積と同等面積の円の直径を粒子径とし、それを測定全粒子に対して平均した粒子径である。視野による計測値の差が出にくくするため、低倍率で広く各視野を観察し、平均的と思える視野にて測定を行った。
【0053】
チタン酸バリウム微粒子粉末について、粉末X線回折で評価し、格子定数のc/a比、(111)面の半値幅(FWHM)を測定した。
【0054】
比表面積値はBET法により測定した値で示した。
【0055】
チタン酸バリウム微粒子粉末の比誘電率は下記評価方法によって測定した。
即ち、チタン酸バリウム微粒子粉末2.5gと濃度3wt%のポリビニルアルコール水溶液0.5gとを混合したものを、100kg/cm^(2)の圧力で圧粉し、直径25mm、厚さ1?2mmの円盤状圧粉体を作製した。圧粉体は水分を含むため、50℃の乾燥空気中に12時間以上放置した。
乾燥後の圧粉体の重量と体積から、チタン酸バリウム粒子粉末、PVAおよび空隙の体積比率を求めた。なお、圧粉体は、チタン酸バリウム微粒子粉末が41?55vol%、PVAが0.1?3vol%、残部が空隙となるように調整した。
得られた圧粉体について、Agilent社製インピーダンスアナライザー E4991Aおよび誘電率測定フィクスチャー16453Aにより、室温約25℃、湿度約40%RHの環境下で10MHzにおける比誘電率を測定した。得られた比誘電率の測定結果には、チタン酸バリウム粒子粉末、PVAおよび空隙の各成分からの寄与を含んでいるため、本発明では対数混合則を用いて測定値からチタン酸バリウムのみの寄与を見積もった。
【0056】
実施例1:
水酸化バリウム八水塩(関東化学(株)製、97%Ba(OH)2・8H_(2)O試薬特級)1.12kgを水に溶解、精製したものを、塩化チタン水溶液688gに滴下・中和して水酸化チタンコロイドを得た。次に、水酸化バリウム八水塩1.28kgを水に溶解、精製したものを温度70℃、pH12.5で窒素雰囲気の反応容器中に保持した。次に、前記水酸化チタンコロイドを前記水酸化バリウム水溶液に2分間かけて投入した。該混合溶液を100℃で0.5時間かけてチタン酸バリウムを生成した。室温まで冷却した後、ヌッチェで濾液にBaイオンが認められなくなるまで水洗し、濾過、乾燥を行ってチタン酸バリウム微粒子粉末を得た。得られたチタン酸バリウム微粒子粉末の平均粒径は32nmであった。得られたチタン酸バリウム微粒子粉末の電子顕微鏡写真を図1に示す。
【0057】
得られた平均粒径が32nmのチタン酸バリウム粒子粉末を電気炉を用いて400℃下で空気中にて2時間、加熱した。得られた熱処理粉をSEMにより観察したところ、400℃での焼成では、一部に数10nm程度の大きさに融着した粒子がみられるが、粒径は60nm以下であり全体の粒子成長はわずかであった。得られたチタン酸バリウム微粒子粉末の電子顕微鏡写真を図2に示す。
【0058】
実施例2:
水熱反応の条件を変更して平均粒径が46nmのチタン酸バリウム粒子粉末を得、次いで、実施例1に記載と同様の方法により400℃の温度下で熱処理してチタン酸バリウム微粒子粉末を得た。得られたチタン酸バリウム微粒子粉末の諸特性を1に示す。
【0059】
実施例3:
水熱反応の条件を変更して平均粒径が51nmのチタン酸バリウム粒子粉末を得、次いで、実施例1に記載と同様の方法により400℃の温度下で熱処理してチタン酸バリウム微粒子粉末を得た。得られたチタン酸バリウム微粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0060】
実施例4:
熱処理温度を300℃に変更した以外は実施例1と同様にしてチタン酸バリウム微粒子粉末を得た。得られたチタン酸バリウム微粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0061】
実施例5:
熱処理温度を300℃に変更した以外は実施例2と同様にしてチタン酸バリウム微粒子粉末を得た。得られたチタン酸バリウム微粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0062】
実施例6:
水熱反応の条件を変更して平均粒径が20nmのチタン酸バリウム粒子粉末を得、次いで、実施例1に記載と同様の方法により300℃の温度下で熱処理してチタン酸バリウム微粒子粉末を得た。得られたチタン酸バリウム微粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0063】
実施例7:
平均粒径が32nmのチタン酸バリウム粒子粉末を実施例1に記載と同様の方法により100℃の温度下で熱処理し、比誘電率、c/a比、半値幅および比表面積を、実施例1に記載と同様の方法で評価を行った。得られたチタン酸バリウム微粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0064】
比較例1:
実施例1で得られた熱処理前の平均粒径が32nmのチタン酸バリウム粒子粉末の比誘電率、c/a比、半値幅および比表面積を、実施例1に記載と同様の方法で評価を行った。得られたチタン酸バリウム微粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0065】
比較例2:
実施例2で得られた熱処理前の平均粒径が46nmのチタン酸バリウム粒子粉末の比誘電率、c/a比、半値幅および比表面積を、実施例1に記載と同様の方法で評価を行った。得られたチタン酸バリウム微粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0066】
比較例3:
実施例3で得られた熱処理前の平均粒径が51nmのチタン酸バリウム粒子粉末の比誘電率、c/a比、半値幅および比表面積を、実施例1に記載と同様の方法で評価を行った。得られたチタン酸バリウム微粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0067】
比較例4:
平均粒径が32nmのチタン酸バリウム粒子粉末を実施例1に記載と同様の方法により700℃の温度下で熱処理し、比誘電率、c/a比、半値幅および比表面積を、実施例1に記載と同様の方法で評価を行った。高温での熱処理により、比誘電率が大きく増加しているが、平均粒径も大きく増加している。得られたチタン酸バリウム微粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0068】
比較例5:
平均粒径が62nmの熱処理していないチタン酸バリウム粒子粉末の比誘電率、c/a比、半値幅および比表面積を、実施例1に記載と同様の方法で評価を行った。得られたチタン酸バリウム微粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0069】
比較例6:
平均粒径が64nmの熱処理していないチタン酸バリウム粒子粉末の比誘電率、c/a比、半値幅および比表面積を、実施例1に記載と同様の方法で評価を行った。得られたチタン酸バリウム微粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0070】
比較例7:
固相法により作製されたチタン酸バリウム粒子粉末に対して、実施例1に記載と同様の方法により比誘電率測定を行った。結果、10MHzでの比誘電率は約170であった。
【0071】
実施例8:
実施例1で得られたチタン酸バリウム粒子粉末を縦型ビーズミル(コトブキ技研工業株式会社製「ウルトラアペックスミル UAM-05」)のジルコニア製0.5リットル攪拌容器にジルコニアビーズ(粒径50μm)を攪拌容器の70vol%になるように入れ、分散剤としてED153(楠本化成製)、溶媒のPGMEAを混合した溶液を添加し、循環させながら1時間分散させて、チタン酸バリウム粒子粉末の分散体を得た。
【0072】
実施例9:
得られた分散体を、アクリル樹脂(SB-193岐阜セラツク製)と、チタン酸バリウム/バインダ(分散剤含む)=6/4の割合にて混合し、バーコーターにて、ルミラーU-46(東レ製)上に塗布し、膜厚3μm程度の塗膜を作製した。得られた塗膜について、日本電色工業株式会社製「ヘーズメーター NDH 2000」を用いて全光透過率とヘイズを測定した。
【0073】
実施例10、11:
実施例3、6のチタン酸バリウム粒子粉末を実施例8、実施例9の方法に従い、シート化を行った。得られたシートの諸特性を表2に示す。
【0074】
比較例8、9:
比較例1、2のチタン酸バリウム粒子粉末を実施例8、実施例9の方法に従い、シート化を行った。得られたシートの諸特性を表2に示す。
【0075】
表2から明らかなとおり、本発明に係るチタン酸バリウム粒子粉末(実施例)を用いた塗膜(実施例9?11)では、全光透過率が85%以上であって、ヘイズは表2の基材のみの1.05以下であり、透明性に優れることが明らかになった。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係るチタン酸バリウム粒子粉末は、凝集が抑制され分散性に優れているので、各種誘電材料に好適に用いることができる。
本発明に係るチタン酸バリウム粒子粉末は高い誘電率を有するので、チタン酸バリウム粒子粉末と透明樹脂を混合させる場合、従来よりもチタン酸バリウム粒子粉末の使用量を抑えることができると考えられ、また、チタン酸バリウムが微細な粒子であることから、光学フィルム用途に必要とされる透明性の確保が容易になる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
一次粒子の平均粒径が20?60nmであり、比誘電率が300?800であり、一次粒子の粒度分布を一次粒子の平均粒径で除した値が0.20?0.25であるチタン酸バリウム微粒子粉末。
【請求項3】
格子定数比c/aが1.003未満である請求項2記載のチタン酸バリウム微粒子粉末。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のチタン酸バリウム微粒子粉末を含有する分散体。
【請求項5】
請求項2又は3に記載のチタン酸バリウム微粒子粉末を含有する塗膜。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-04-06 
出願番号 特願2016-527858(P2016-527858)
審決分類 P 1 651・ 851- YAA (C01G)
P 1 651・ 113- YAA (C01G)
P 1 651・ 121- YAA (C01G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 廣野 知子  
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 末松 佳記
後藤 政博
登録日 2019-12-27 
登録番号 特許第6635031号(P6635031)
権利者 戸田工業株式会社
発明の名称 チタン酸バリウム微粒子粉末、分散体及び塗膜  
代理人 岡田 数彦  
代理人 岡田 数彦  
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