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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12G
審判 全部申し立て 特174条1項  C12G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12G
管理番号 1375889
異議申立番号 異議2021-700211  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-26 
確定日 2021-07-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第6746275号発明「低糖質ビールテイストアルコール飲料およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6746275号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯の概要
特許第6746275号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成27年2月17日に特許出願され、令和2年8月7日にその特許権の設定登録がされ、令和2年8月26日にその特許公報が発行され、その後、その全請求項に係る発明の特許に対し、令和3年2月26日に田中 眞喜子(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?3に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件発明1」などと、それらをまとめて「本件発明」ということがある。)である。

「【請求項1】
麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とする低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料であって、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10?20kDa(ゲル濾過法)のペプチド画分を含んでなり、該ペプチド画分に含まれるペプチドの、前記低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料中の濃度(ペプチドの合計量)が0.115mg/ml以上0.177mg/ml以下であり、かつ、前記低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対する、前記分子量10?20kDa(ゲル濾過法)のペプチド画分に含まれるペプチドの量(mg/mL)の比率が3.2%以上5.7%以下であり、前記ペプチド画分が、大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、大麦由来のセルピン-Z4および大麦由来の非特異的脂質転移タンパク1を含むものである、低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項2】
麦芽使用比率が3分の2未満である、請求項1に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項3】
グルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度が5.6mg/ml以下である、請求項1または2に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は次のとおりである。

[理由1]本件発明1?3について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に適合しない。
したがって、本件発明1?3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
[理由2]本件発明1?3について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合しない。
したがって、本件発明1?3に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
[理由3]本件発明1?3について、特許を受けようとする発明が明確でないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合しない。
したがって、本件発明1?3に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
[理由4]本件発明1?3について、令和2年3月31日付けの手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。
したがって、本件発明1?3に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。
[理由5]本件発明1?3は、甲第5、3、6?11号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1?3に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。

第4 当審の判断
1 甲各号証及びそれらの記載事項
甲各号証及びそれらの記載事項は以下のとおりである(なお、以下甲第1号証を「甲1」、などという)。

甲1:特開2009-91323号公報
甲2:化学と生物、Vol.54、No.6、2016、pp.377-378
甲3:特表平9-505997号公報
甲4:新村出編、広辞苑 第六版、株式会社岩波書店、2008年1月11日第6版第1刷発行、机上版あ-そ、p.502,机上版た-ん、p.2507
甲5:宮地秀夫著、ビール醸造技術、株式会社食品産業新聞社、1999年12月28日初版発行、pp.383-385
甲6:国際公開第2011/052483号
甲7:特開2014-158502号公報
甲8:"KIRIN News Release 「淡麗グリーンラベル」リニューアル発売?「カラダもココロも心地よい」"糖質70%オフ"の発泡酒?"、[online]、2015年1月9日、インターネット、
甲9:Food Research International、54(2013)、pp.1013-1020
甲10:J.Inst.Brew.、2014、120、pp.85-92
甲11:International Journal of Food Microbiology、147(2011)、pp.17-25
甲12:J.Agirc.Food Chem.、(2015)、63、pp.3579-3586
甲13:醸協、(2005)、第100巻、第11号、pp.787-795
甲14:生物工学、2012年、第90巻、第5号、pp.242-245
甲15:におい・かおり環境学会誌、平成25年、44巻、1号、pp.13-20

甲1:
1a)「【0002】
植物由来の非特異的リピドトランスファープロテイン(nonspecific lipid transfer protein、以下LTPと略記することもある)は、91?95個のアミノ酸で構成され、分子量が約9kDaの塩基性タンパク質で、種々の穀類や野菜、果樹などに広く見出されている(非特許文献1?3参照)。穀類種子では分子量が約7kDaのLTPも報告されており、約9kDa蛋白質がLTP1、約7kDa蛋白質がLTP2と呼ばれている(非特許文献2参照)が、本明細書では「LTP」とはすべてLTP1のみを指す。」

1b)「【0024】
実施例1(抗小麦LTPペプチド抗体の作製と交差反応)
各種農作物のLTP配列(表1)を比較し、修飾の受け難さや分子表面露出の可能性等を考慮して、小麦種子アリューロン層由来LTPの17番?27番アミノ酸11個の部分ペプチド(vqggpgpsgqc:配列番号1)を合成して抗ペプチド抗体を作製した。
【0025】
抗小麦LTPペプチド抗体の作製は以下のように行なった。
HPLCで精製した合成ペプチド3mgをMBS法(Liu, F., Zinnecker, M. and Katz, D. H., New procedures for preparation and isolation of conjugates of proteins and a synthetic copolymer of D-amino acids and immunochemical characterization of such conjugates. Biochemistry, 18,690-697 (1979)参照)でヘモシアニンに結合した後、ウサギ1羽に3回に分けて感作を行い、1回目の感作から63日後に全採血し、さらにProtein-Aカラムにより血清から免疫グロブリンG(IgG)を精製した。Protein-Aカラム精製後のIgGは5.75 mg/mL濃度で42mL得られた。
【0026】
次に、小麦、大麦、ライ麦、エン麦、コメ、トウモロコシ、落花生、ニンジン及びリンゴの各農作物の水抽出物をタンパク量にして20μgずつ用いてイミュノブロッティングを行った。
まず、上述の方法により得られた農作物水抽出物をSDS-PAGEに供した。試料を等容量の「トリスSDS-β-MEサンプル処理液」(第一化学薬品)と混合後、95℃で5分間熱処理してから、10?20%アクリルアミドゲル(オリエンタルインスツルメンツ)、または15?25%アクリルアミドゲル(第一化学薬品)と「SDS-トリスグリシンバッファー」(第一化学薬品)を用いて電気泳動し、「2D-銀染色試薬・II」(第一化学薬品)によりタンパク質を検出した。次いで、上記で得られた抗小麦LTPペプチドIgGを用いて、上述の方法によりイミュノブロットを行った。
銀染色及びイミュノブロット法の結果を、それぞれ図1の(A)及び(B)に示す。図1中、aは小麦、bは大麦、cはライ麦、dはエン麦、eはコメ、fはトウモロコシ、gは落花生、hはニンジン、iはリンゴを示す。
【0027】
図1(B)において、小麦とライ麦では,約9kDaのLTPの位置に強い発光が認められ,バンドの中央部が白くなっている。大麦やエン麦でもLTPの位置に発光が少し認められたが、コメなどの他の農作物には発光が認められなかった(図1)。
【0028】
次に、これらのうち麦類の水抽出物について,試料のタンパク量を5μgおよび1μgとして、上記と同様にイミュノブロット法を行なった結果を図2に示す。図2中、aは小麦、bは大麦、cはライ麦;dはエン麦を示す。
その結果、大麦やエン麦のLTPの位置に発光は認められなかったのに対して、小麦やライ麦ではタンパク量が1μgでもLTPの位置に発光が認められた(図2)。なお、タンパク量が20μgの場合、ライ麦では約30kDaの位置に、エン麦では約18kDaの位置にそれぞれ副バンドが認められたが(図1(B))、タンパク量が5μgおよび1μgの場合はこれらの副バンドも認められなかった(図2)。
【0029】
本実施例において、小麦LTPの部分ペプチドに対するポリクローナル抗体を初めて得た。抗原として用いたコムギ種子アリューロン層LTPの部分ペプチドのアミノ酸(17?27番)配列は、特にオオムギ種子アリューロン層LTPと相同性が高い箇所(アミノ酸11個中10個が合致,表1)であったが(非特許文献2参照)、得られた抗ペプチドIgGはオオムギ種子LTPとの交差性は低かった。LTPの配列は主に欧州で解析されているため、抗原に用いたLTPの部分ペプチドのアミノ酸配列が、日本のオオムギ品種と異なっている可能性がある。」

1c)「【図1】



甲2:
2a)「もとよりアレルゲンとなるタンパク質はその生物が生きていくために重要な働きをしており,特に植物では種を超えて高い相同性で保存されているためにIgE抗体が交差反応しやすい.そのため一度アレルギーを発症すると,多くの食べ物で症状が誘発されるという特徴をもつ.特に感染特異的タンパク質(pathogenesis-related protein)にはPR-5: thaumatin-like protein, PR-10: Bet v1類似タンパク質,PR-14: lipid transfer protein(LTP)などの代表的なアレルゲンがある.
近年増加傾向にある果物アレルギーも,コンポーネント解析から病態・対応の違いを説明することができる.特定の果物を食べたとき,口腔粘膜に局限して症状が現れる口腔アレルギー症候群は,花粉により経粘膜・経気道的に感作されていることが多い.変性しやすいタンバク質が原因であることが多く,果物の生食で症状が誘発されても,加熱すれば食べられることがほとんどである.一方,果物摂取により全身症状を引き起こす場合もあり,この場合のアレルゲンとしてLTPがよく知られている. LTPは9kDaと低分子サイズながら4対のS-S結合をもち,pHや熱の変化に強いため消化されにくく,発酵食品においても残存している^((4)).さまざまな植物性食品で重篤な全身症状を引き起こすため,LTP症候群といわれるほど注目されてきた.われわれはLTPに対するモノクローナル抗体を確立する過程で,偶然不純物であるGibberellin Regulated Protein (GRP) に対する抗体を取得し,実はこれまでLTPと考えられてきた日本人の重症桃アレルギーの主要アレルゲンがGRPであることを明らかにした^((5)).GRPはLTPと同様に低分子サイズ(約7kDa)の塩基性タンパク質であるため,通常の精製方法では両者を完全分離することは極めて難しいが,われわれは抗GRPモノクローナル抗休カラムを用いることにより.迅速・簡便に純化することを可能にした.さらに,LTP,GRPそれぞれに対するモノクローナル抗休で特異的定量系を構築したところ,LTPは皮に,GRPは果肉に局在していた.LTPは桃を皮ごと食べる地中海地方の重篤な桃アレルギーの原因であるが,皮を除くと食べられることが多い.一方,日本人の多くは桃を食べるときには皮をむくためLTPによる感作はほとんどなく,GRPが重要なアレルゲンになると考えられる.」(377ページ左欄21行?右欄21行)

甲3:
3a)「例2
ビール泡からのLTP1の精製
図1に示すようなホウケイ酸塩ガラス容器の中に連続的な泡の塔を作った。泡は、ラガー・ビール15l(以下に述べる化学薬品の量をすべて9分の1にした場合には1.65l)に、窒素ガスを一晩の間450ml/minで吹き込むことによってできたものである。窒素ガスは、泡の塔に吹き込む前に水蒸気によって飽和しておいた。出口に集めた泡をつぶし、もとのビールの容積まで蒸留水で希釈して、泡の塔に戻した。上記のように2度目及び3度目のフローテーション(flotation)を行ったところ、ラガー・ビールの3度目のフローテーションで集めた泡は、もとのビール中の泡の総含有量の35%を含んでいることがわかった。
50mM酢酸アンモニウムで平衡されたpH4.5のカラム(5cm×87cm、1700ml)中のSephadex G-75上でのゲル濾過により、分子量に従って最後のフローテーションからつぶした泡に含まれていた成分を分離した。3度目のフローテーションからつぶした泡をSephadex G-75上でゲル濾過したところ、280nmに吸収を有する3つのピークが生じた(図2)。これらのピークのうち2つを、図2に示すとおり、それぞれHMW、LMWと名付けた。HMW画分は約90%の炭水化物と10%のタンパク質からなり、LMW画分は90%のタンパク質と10%の炭水化物からなる。第3のピークは、アミノ酸、イソフムロン類(isohumulones)、炭水化物のような低分子量化合物を含むことがわかった。
LMW画分及びプールされた画分のアミノ酸組成は、公知のオオムギ脂質移送タンパク(LTP1)のアミノ酸組成に類似していた(参考文献18)(表II)。LMWのSDSポリアクリルアミド・ゲル電気泳動は、6000?18000Daltonの範囲の分子量をカバーするCoomassie Blue R350で染色すると着色を示した。しかしながら、オオムギ-LTP1に対する特異的な抗体を用いたウェスタン・ブロッティングを行ったところ、オオムギ-LTP1(分子量9700Dalton)がLMWの主成分であることがわかった(図5)。このことは、N-末端アミノ酸配列決定によっても確認された。
LMWのアミノ酸組成は、オオムギ-LTP1のアミノ酸組成と比べて高いProとGlxの値を示した(参考文献18)(表II)。」(19ページ10行?20ページ10行)

甲4:
4a)「分画2に同じ。」(「画分」の項)

4b)「○1(当審注:○の中に1。以下同様)分割して区画すること。また、その区画。○2混合物質を構成成分に分けること。また、分けられたそれぞれの成分。画分。」(「分画・分劃」の項)

甲5:
5a)「13. 2. 2. 1. ポリペプチド
大麦蛋白質は製麦中に分解してポリペプチドを生成する。Narziss(1968)によるとポリペプチドと泡の相関係数は次のようである。

Andersonら(1966)はポペプチドの高分子部分(>5000)が泡の安定に寄与するが、低分子部分は役に立たないとし、寄与物質は炭水化物35%、ポリペプチド65%からなるとした。炭水化物としてグルコース、アラビノース、キシロースなどの細胞壁分解生産物であり、フェルラ酸複合体が含まれかは疑わしいとした。Bateson (1969)はポリペプチドを等電点(pI)が4から7に高まると泡の安程度が増すとした。Wenn(1972)は、分子量5,000?30,000の8種のポリペプチドを分離し32%がグルコース多糖類であった。1-6区分のplは4.5より9.5で47-69%がポリペプチドで泡の安定に寄与するがシリカゲルと結合する区分である、7.8区分(pl<4.5)は泡持ち効果は1-6区分より劣るが、シリカゲルと結合しない、この区分は焙燥中にメラノイジンと結合して生ずると思われる。糖蛋白はグルコース、マンノースのオリゴサッカロイドやペントサン、マンノースの痕跡と結合した約20種の巽なるポリペプチドがある。plは約4である。これら物質は麦芽、小麦、玉蜀黍、米及び大麦に含まれ、分離された糖蛋白はRudinの半減期を30%向上した。アミロースグルコシーダゼ処理により、Rudin半減期は7%低下する。
この他、泡に関与する糖蛋白としてはポリペプチド-β-グルカン複合体がある。焙燥ではメラノイジン反応によりアミノ酸と糖が結合して泡安定を高めるが、麦汁煮沸を長くすると蛋白質が凝固除去され泡持ちは低下する。メラノイジンは脂肪の泡持ち低下にたいし保護作用がある。
Slackら(1983)は疎水性ポリペプチドの分子量5,000?50,000を分離し親水性、稍親水性疎水性を調べた。

泡持ちには疎水性の高い分子量50,000以上のものが最も効果があった。
狩野ら(1993)は泡の蛋白質は40KDが最も効果あり湿潤粉砕仕込は泡持ちが良いとした。横井らはこのアルブミン成分はプロティンZであるとし、前田らは更に80%のプロティンZ_(4)と20%のZ_(7)より成るとした。またDouma(1998)は泡持ち高分子の40KDばかりでなく低分子の8?18KDのポリペブチドがあると相乗効果があるとしている。

大西ら(1995)は更に泡ポリペプチドを5種に分割し分子量の分布を測定した。No.5が最も疎水性があり泡持ち効果が高いとした。泡ポリペプチド含量は、製麦中に増加し発芽4日で最高となるが焙燥により減ずる。麦汁、ビール中では麦汁中に最も高いが、発酵、低温熟成により次第に低下する。イソフムロンの添加は表面粘度を増加し泡持ち効果を高める。

製麦中の泡ポリペプチドの変化は図4のようである。
麦汁から製品までの泡ポリペプチドは次第に減少する。

横井ら(1989)は、泡蛋白プロティンZをカチオン交換樹脂で4分別して疎水性アミノ酸の多いF4が泡持ちに良いことを認めた。F4の表面粘度は非常に高い。F1-F4の含量はビールによって異なる値を示した。
Bamforth(1993)は、ビールボリペプチドを親水性部分(A)と疎水性5成分と>3,000以上に分別し、ビール中には1群が最も多く、泡の中には1、5群次いで3群が多い。泡安定性には、親水性(A)と疎水性I群は効果が非常に小さく、疎水性の高い4、5群は効果あるとした。
疎水性ポリペフチドについてBamforth、横井、前田らにより泡持ち効果が明らかになったが、最近脂肪運搬蛋白(LTPI)の存在も注目されている。
Sφrensen (1993)は、ビール泡には脂肪運搬蛋白の存在があるとした。泡の成分をSephadex G-75により高分子、低分子の2成分に分離した。高分子(HMV)は主として炭水化物よりなり蛋白は10%に過ぎない。低分子部分(LMV)は脂肪運搬蛋白I(LTPI)であり、分子量は9,700Daltonでホルデリンまたはグルテリン片よりなっているとした。この両者が存在すると強い泡立ちと泡持ちとなる。
大麦LTPIは大麦種子のアロイロン層の基礎蛋白として豊富にある。大麦よりのLTPIはあまり泡立ないが、製麦・醸造により変性して泡持ちに最も重要なものとなる。LMVは泡立ちに、HMVは泡持ちに効果がある。HMVの蛋白は横井が重要としたプロティンZであり、LTPIは脂肪酸やacyl-CoAと実験室的に結合させることができる。
従来糖脂質はあまり重要視されていなかつたが、穀物に通常見られるdigalactosyl diglycerideはガス抜きしたビールに75μg/50ml添加でHRVは最高となるが、それ以上ではHRVは低下する。
仲谷ら(1997)は、泡蛋白含量はAlexis、Triump品種が高く、淡色麦芽(680mg/l)に対しカラメル麦芽は焙煎度により(350-105mg/l)と低くなる。蛋白休止温度は68℃より75℃の方が泡蛋白は増加するとした。
Evans(1998)はビール、麦芽の諸性質とHRVとの相関を調べた。KI(コールバッハ指数)が進むと泡持ち劣りZ7は泡持ち効果は認められなかった。

」(383ページ1行?385ページ下から6行)

甲6:
6a)「[請求項1] 疎水性ポリペプチドを1.1g/L以上含有する
ことを特徴とする発泡性飲料。
[請求項2] 前記疎水性ポリペプチドは、修正レッカー定数の合計値が10.3以上である
ことを特徴とする請求項1に記載された発泡性飲料。
[請求項3] 前記疎水性ポリペプチドは、プロリン含有量が13.5モル%以上である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載された発泡性飲料。
[請求項4] 前記疎水性ポリペプチドは、分子量が10?25kDaのポリペプチドを含む
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載された発泡性飲料。
[請求項5] 前記疎水性ポリペプチドは、大麦から得られたポリペプチドである
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載された発泡性飲料。
[請求項6] 大麦を含む原料を使用して発泡性飲料を製造する方法であって、前記大麦をプロテアーゼで処理することによって、前記大麦を前記プロテアーゼで処理しない場合に比べて、疎水性ポリペプチドの含有量が増加した前記発泡性飲料を製造する
ことを特徴とする発泡性飲料の製造方法。
[請求項7] 前記原料は大麦麦芽をさらに含み、
前記大麦を前記大麦麦芽と混合することなく前記プロテアーゼで処理する
ことを特徴とする請求項6に記載された発泡性飲料の製造方法。
[請求項8] 前記大麦をプロテアーゼで処理することによって、前記疎水性ポリペプチドの含有量が、前記大麦を前記プロテアーゼで処理しない場合に比べて、0.05g/L以上増加した前記発泡性飲料を製造する
ことを特徴とする請求項6又は7に記載された発泡性飲料の製造方法。
[請求項9] 大麦と大麦麦芽とを含む原料を使用して発泡性飲料を製造する方法であって、
第一の槽内で、前記大麦及びプロテアーゼを含む大麦組成物を、前記プロテアーゼが作用する温度で保持する大麦処理工程と、
前記大麦処理工程と並行して、第二の槽内で、前記大麦麦芽を含む麦芽組成物を、前記大麦麦芽に含まれる酵素が作用する温度で保持する麦芽処理工程と、
前記大麦処理工程において前記プロテアーゼで処理された前記大麦組成物と、前記麦芽処理工程において前記酵素で処理された前記麦芽組成物と、を混合する混合工程と、
を含む
ことを特徴とする発泡性飲料の製造方法。
[請求項10] 疎水性ポリペプチドを有効成分として含有する
ことを特徴とする泡特性改善剤。
[請求項11] 請求項10に記載された泡特性改善剤を使用する
ことを特徴とする発泡性飲料の製造方法。」(請求の範囲)

6b)「[0020] 発泡性飲料は、例えば、発泡性アルコール飲料とすることができる。本実施形態において、発泡性アルコール飲料とは、上述のような泡特性を有する発泡性飲料であって、例えば、エタノールを1体積%以上の濃度で含有する飲料である。具体的に、発泡性アルコール飲料としては、例えば、ビール、発泡酒、発泡酒にスピリッツを添加してなる発泡性アルコール飲料(日本の酒税法で定義されるリキュール類)が挙げられる。」

6c)「[0202] 図10Aに示すように、0?40%飽和硫安沈殿物においては、大麦抽出物をプロテアーゼで処理することにより(図中の「P5」)、大麦抽出物をプロテアーゼで処理しない場合(図中の「プロテアーゼなし」)に比べて、分子量10?25kDaに相当する保持時間26?30分の範囲内に検出されるピークの高さが顕著に増加した。」

6d)「[0229][官能検査]
9種類の発泡性アルコール飲料について、熟練した8人のパネリストによる官能検査を行った。すなわち、発泡性アルコール飲料の香りや味等に関する多数の項目についてパネリストが総合的に評価を行い、点数を付けた。
[0230] 図14には、官能検査の結果を示す。図14において、縦軸は、官能検査で得られた評価に基づく点数を示す。点数が高いほど、好ましい評価が得られたことを示す。図14に示すように、大麦をプロテアーゼで処理することにより、発泡性アルコール飲料の官能評価が向上した。ただし、プロテアーゼの添加量が0.5重量%の場合には、当該プロテアーゼを添加しない場合(図中の「無添加」)よりも評価が低くなった。」

6e)「



甲7:
7a)「【請求項1】
カルボキシアルキルアミノ酸に対する抗体と反応性を有する物質であって、カルボキシメチルリジン又はカルボキシエチルリジンを含み、かつ分子量10?20kDaのペプチドであるコク味付与物質。
【請求項2】
麦汁、ワイン、ビール、味噌、日本酒、又はチーズに由来するものである請求項1に記載のコク味付与物質。
【請求項3】
麦芽煮沸液由来のものである請求項1又は2に記載のコク味付与物質。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載のコク味付与物質を添加した飲食品。
【請求項5】
ビールである請求項4に記載の飲食品。
【請求項6】
請求項1?3のいずれかに記載のコク味付与物質を指標とした、飲食品の評価方法又は製造工程管理方法。
【請求項7】
請求項1?3のいずれかに記載のコク味付与物質の量を測定する工程を含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
カルボキシアルキルアミノ酸に対する抗体を使用し、該抗体に対する反応性を指標とするコク味付与物質のスクリーニング方法を行うための、カルボキシアルキルアミノ酸に対する抗体を含むコク味付与物質検出用キットであって、コク味付与物質がカルボキシメチルリジン又はカルボキシエチルリジンを含み、かつ分子量10?20kDaのペプチドであるキット。」

甲8:
8a)




甲9(訳文により示す。):
9a)「2. 4. オオムギ二量体αアミラーゼ阻害剤-l(BDAI-1)
ビールにおいていくつかのアミラーゼ阻害剤が同定されている。これらの中で、二量体αアミラーゼ阻害剤-1(BDAI-1)は、泡持ち関連タンパク質および濁り活性関連タンパク質であることが示唆されている(表1)。Okada et al.(2008)は、あり得る泡持ちタンパク質としてオオムギ二量体αアミラーゼ阻害剤-1(BDAI-1)を同定した。泡安定性は一般的に、麦芽改変に伴って減少する。Okada et al.は、カナダ産品種由来の麦芽を使用して生じたビールの泡安定性は、麦芽改変に関わらず高いレベルで一定であるが、2つの日本産品種から作製したビールは安定性が低いことを見出した。ビールの泡安定性の原因となるタンパク質を同定するために、Okada et al. は、3つの画分、すなわち全ビールタンパク質、塩沈殿タンパク質およびビールの泡から濃縮させたタンパク質中のビールプロテオームを分析した。2DE分析およびMS分析により、BDAI-1は、25%硫酸アンモニウムを使用して分画され、泡画分中で濃縮された、試験したカナダ品種に特異的な泡関連タンパク質であることが示唆された。パンのクラム構造に影響を及ぼすドウ由来の泡陽性可溶性タンパク質が同定された(Salt, Robertson, Jenkins, Mulholland, & Mills, 2005)。これらの結果は、αアミラーゼ阻害剤がドウリカーを左右することを示し、それにより、これらのタンパク質がドウの水相に影響する可能性があることが示唆された。これらの結果は、オオムギ二量体αアミラーゼ阻害剤が、あり得る泡安定化タンパク質であることを示唆したOkada et al.(2008)と一致した。
Iimure et al.(2009)は、濁り活性タンパク質として、BDAI-1 に加えて、CMbおよびBTI-CMeを同定した。」(1016ページ右欄下から3行?1017ページ左欄23行)

甲10(訳文により示す。):
10a)「Hordeum vulgareのセルピンプロテインZの最も豊富な形態であるプロテインZ4は、ビールの泡の主成分の1つであり、セリンプロテアーゼの活性を阻害する。麦芽の品質に影響を与える麦芽プロテアーゼに対するタンパク質Z4の影響の可能性は、醸造者にとって興味深いものである。さらに、醸造プロセスにおけるZ4の持続性と、それに続くビール中のZ4の存在は、泡への影響のために醸造者にとって重要である。プロテアーゼ阻害とビールの噴出に対するZ4の影響を分析するために、Pichia pastoris細胞をZ4コーディング遺伝子で異種形質転換し、タンパク質を形質転換体の液体培養物の上清から回収した。寒天拡散アッセイは、組換えZ4タンパク質が大麦麦芽に存在するプロテアーゼに対して阻害効果を有することを示した。このタンパク質の熱変性はプロテアーゼ阻害を損ない、Z4の構造の分解を明らかにした。クラス2ハイドロフォビンFcHyd5pで前処理したビールにこのタンパク質を添加することにより、ハイドロフォビン誘発性の噴出に対するZ4の影響を分析した。結果は、噴出するビールにプロテインZ4を添加すると、オーバーフロー量が大幅に減少することを示した。熱処理は、Z4の噴出低減能力に再び悪影響を及ぼした。」(85ページ、要約)

甲11(訳文により示す。):
11a)「開封時のビールの自発的な過剰発泡、すなわちビールの噴出は、醸造業界にとって望ましくない現象である。現在、糸状菌由来の界面活性タンパク質およびオオムギ由来の非特異的脂質転移タンパク質(nsLTP1)が、噴出誘導物質として議論されている。私たちの研究では、Fusarium culmorumからのクラスIハイドロフォビンFcHyd3p、Trichoderma reeseiからのクラスIIハイドロフォビンHfb2、F.graminearumからのアルカリ泡プロテインA(AfpA)とHordeum vulgare cv. マーニー(オオムギ)からのnsLTP1はPichia pastrisで異種発現され、噴出テストで使用された。クラスIハイドロフォビンFcHyd3pは、ビールの噴出を誘発できなかった。クラスIIハイドロフォビンHfb2はビールの噴出を誘発することができたが、熱処理および豊富なホップ化合物の存在によって阻害されることが証明された。両方とも、噴出の可能性の減少をもたらした。AfpAとnsLTP1は、ビールに添加された量では噴出を誘発する可能性を示さなかった。事前にクラスIIハイドロフォビンで処理されたビールまたは炭酸水にこれらのタンパク質を添加すると、噴出を抑制する特性が明らかになった。」(17ページ、要約)

甲12(訳文により示す。):
12a)「電気泳動に基づくヴァイスビアのプロテオミクス分析。改変マイクロLowryアッセイで測定した場合、ヴァイスビア試料の総タンパク質含有量は、2.7?2.9g/L(3回の測定の平均)であり、BMB(1.4 g/L)よりも約2倍高かった。しかしながら、分析方法に応じてビールのタンパク質含有量に不一致が見られる。^(1)20% TCA沈殿後、タンパク質画分と称される>6kDaのポリペプチドは、G-25 Econo-Pak 10 DGカラムを使用したSECにより低分子量(低MW)ペプチドから大まかに分離された。^(9)WBおよびBMB試料由来のタンパク質は、図lに示されるように、1D SDS-PAGEにより分析した。WBの主要なバンドは、見かけのMWがBMB Z4セルピンおよびns-LTPの見かけのMWに対応するように移動した。実際に、約43および約9.5kDaでのバンドは、切り出しおよびゲル内トリプシン消化後にMALDI-TOF MSベースPMFにより測定すると、オオムギZ4セルピン(UniProt Knowledge Base, UniProt: P06293)およびns-LTPl (UniProt: P07597)と同じであった。」(3581ページ左欄下から12行?右欄図1の下5行)

12b)「

図1.全オオムギ麦芽ビール(all-barley-malt beer) (BMB)試料と比較した、ヴァイスビア試料(WB#l、WB#2およびWB#3)からのタンパク質のSDS-PAGE分離。約43kDaのバンドおよび低分子量のかなり広いバンドは、それぞれZ型セルピンおよびns-LTPである。」(3581ページ右欄)

12c)「表1.ショットガンアプローチによる小麦ビールタンパク質の同定^(a)

」(3583ページ、表1の一部)

甲13:
13a)「 2. ビールと発泡酒の麦汁
いわゆるオールモルトビールと呼ばれている麦芽100%のビールから,徐々に原料中に占める麦芽の割合を下げていって25%の発泡酒とした場合に,その麦汁の成分はどのように変化するであろうか。勿論,発酵終了後のアルコール度数は等しくなるように,麦芽以外の副原料(発泡酒ではこれが主原料になる訳だが)として米その他の政令で定める物品(多くは,コーンスターチやシロップが使用される)を発泡酒では使用し,ビール麦汁と糖濃度(原麦汁エキス分)が同じになるように調整することが多い。この場合には,麦汁に添加される酵母によって資化されアルコールに変換する炭素源(C源)はビールも発泡酒もほぼ同量ということになる。異なるのは,麦芽から麦汁中に抽出されるアミノ酸を中心とした窒素源(N源),脂肪酸,ミネラル,ビタミン等といった類のものであり,これらは麦芽比率が25%になるとオールモルトの場合と比較して1/3?1/4となる(第1図)。この量的,質的な違いが後述する酵母の働きや発酵パフォーマンス,最終製品の香味成分組成といったものに大きな影響を及ぼすことになる。」(787ページ右欄9行?788ページ左欄6行)

甲14:
14a)「ビールから温泉の匂い? 栄養源の不足と硫化水素
最後に日本特有の市場条件により研究が進んだ事例を紹介する.日本のビール類は,原料や製法の違いでいくつかの種類に分類されるのが特徴的である.酒税法では,ビール,発泡酒,その他の醸造酒(発泡性)○1, リキュール(発泡性)○1の4品目に分けられ,それぞれの品目で麦芽の使用量が決められている.その中でも,発泡酒などではビールに比べて,麦芽の使用量が少なく,糖分として麦芽の代わりに液化した糖類を使用していることが多い.
こうした発泡酒では,原料中の糖分は十分なのだが,他の栄養分,麦芽に含まれているアミノ酸などが不足する傾向がある.そのような場合,深刻な発酵性の低下や,香りや味に負の影響を与える可能性があった.特に,温泉様の匂いである硫化水素(H_(2)S)の発生が予測された.H_(2)Sは,温泉様の他にも腐敗した卵の匂いなどに例えられるオフフレーバーであり,数μg/lでも人が感じられる閾値の低い物質である.
H_(2)Sは酵母では,側鎖に硫黄を含んだアミノ酸であるメチオニン生合成の中間代謝産物として生成される.酵母はメチオニンが不足すると硫酸イオンを膜透過性のトランスポーターによって能動的に取り込みメチオニンを合成しようとする(図6).その中間体としてH_(2)Sが生成される.1990?2000年代の発泡酒などの発売と時期を同じくして,分子生物学の技術が加速的に進む中,下面酵母のゲノムの解読,マイクロアレイを用いた網羅的な遺伝子の発現解析や,代謝産物のメタボローム解析など様々な手法が行われた.その結果,下面酵母特有のH_(2)S生成機構が明らかになってきている^(6,13)).
また,麦芽の使用率が下がると,アミノ酸だけではなく,ビタミンやミネラルなどの微量な栄養素の含有量も低下し,これらの欠乏も品質に影響を与えることもある.
たとえば,筆者らは,ビールテイスト飲料製造時に微量な栄養素が製造性や香り,味にどのような影響を与えるのかを研究している中で,ビタミン類のひとつであるピリドキシン(ビタミンB_(6))が欠乏した際に,これまでのビール醸造では感じられなかった腐敗様の香りが発生することを発見した^(14)).匂い嗅ぎGC(GC-O)やGC-MSでの測定の結果,その腐敗様の香りはインドールであることがわかった.ビール製造中のインドール発生は大腸菌群などの微生物汚染が原因として知られているが,微生物汚染以外の理由で酵母が生成する事例はこれまでのビール醸造ではみられない事象であった.インドールは酵母の代謝中,トリプトファン合成の中間体として生成される(図7).トリプトファンは,(3-indolyl)-glycerol phosphateからトリプトファン合成酵素(Tryptophan synthase)によって生成される.このTryptophan synthaseはα,βの2つのサブユニットからなる酵素で,αサブユニットは(3-indolyl)-glycerol phosphateからインドール,βサブユニットはインドールからトリプトファンの反応を触媒すると考えられている.中でもβサブユニットの反応には,PLP(pridoxal 5'-phosphate)が補酵素として必要である.PLPの供給源となるピリドキシン(ビタミンB_(6))が欠乏した場合,αサブユニットの反応だけが進行し,βサブユニットの反応が進まないため,腐敗様の香りをもつインドールが中間代謝産物として過剰蓄積されたのではと考えられた.
なお,各企業の研究努力もあり,現在市場で販売されている製品ではH_(2)Sなどのオフフレーバーが閾値以上の多量に含まれているビール類はない.」(244ページ右欄25行?245ページ右欄図7の下9行)

甲15:
15a)「3.3 硫化水素臭
硫化水素は,発酵中に生成する良く知られたオフフレーバーであり,ビール業界ではその生成メカニズム解明に古くから取り組まれ知見が蓄えられているが,未だ不明な点も多い.硫化水素は,酵母がメチオニンやシステインといった含硫アミノ酸を合成する際に中間代謝物として生成される.図-3に示すように,酵母が含硫アミノ酸を合成する過程で菌体外の硫酸イオンが酵母細胞内に取り込まれ,亜硫酸を経て硫化水素が生成される.ビールの製造で用いられる下面酵母の方がその生成量は多い.
硫化水素の生成を抑制する方法として,麦汁の組成,酵母菌株,酵母増殖条件,発酵条件の検討などが行われている.例えば,近年市場で多く販売されている発泡酒などの麦汁中の窒素含量は,ビールに比べて少ない.麦汁中の含硫アミノ酸が少ないと,酵母細胞内でそれらのアミノ酸を積極的に合成しようと働くため,中間体である硫化水素を多く生成する.また,発酵温度を上げると酵母は硫化水素を生成しやすくなる.さらに,硫化水素および亜硫酸に着目した酵母育種も報告されている.」(15ページ右欄下から4行?16ページ左欄16行)

15b)「3.5 含硫化合物によるコゲ様,ゴム様香気
発酵工程にて生成される低閾値のオフフレーバー成分群(図-2) である.濃色のビールにおいてはビールが持つ香調と類似しているためにオフフレーバーと認識されないが,軽快なピルスナータイプのビールでは,微量の濃度で存在するだけでその軽決さを損なうためにオフフレーバーとして認識される.香調に寄与する原因成分として2-furfurylthiol(コーヒー様;閾値2.8μg/L),2-mercaptoethyl acetate (ゴム様;閾値1.6μg/L),3-methyl-2-butene-1-thiol(コゲ様;閾値0.002μg/L),benzyl mercaptan(ロースト様;閾値0.002μg/L)を同定している(図-2).
2-furfurylthiolは黒麦芽にも含まれ,システインなどの含硫アミノ酸とリボース等の還元糖がメイラード反応を起こすことによって生成される.そのためビールの醸造工程においては麦汁中の糖・アミノ酸の組成,加熱された温度と時間が影響を与えている.2-mercaptoelhyl acetateはアミノ酸含量が低い発泡酒などの麦汁で,かつ緩慢ではなく短期間にラッシュな状態で発酵が進んだ場合にその濃度が上昇する傾向がある.3-methyl-2-butene-1-thiolは後にも解説しているようにビールヘの光照射により生成してくる日光臭としてしられるが,光照射により生成される経路以外に,発泡酒などのアミノ酸含有量が低い麦汁中でメチオニンが不足した場合,煮沸時のpHを低くした場合,煮沸工程で生成した熱凝固物(熱トルーブ)がワールプールで麦汁から除去されずに発酵タンクまで持ち込まれた場合に,その濃度が上昇
する傾向がある.」(16ページ右欄5行?最終行)

2 理由1?4について
2-1 特許異議申立人の理由1?4についての具体的な主張の概要は次の(1)?(3)とおりである。
理由1?4は、「ペプチド画分」の規定、香味改善に寄与したペプチド、麦芽使用比率に関して、実質的に同内容に関連して主張したものであるので、併せて検討することとする。

(1)「ペプチド画分」の規定について
(1-A)請求項に記載の規定が本件明細書に記載された範囲を超えている
本件発明1では「ペプチド画分」に関して規定されているが、明確性要件違反、サポート要件違反、実施可能要件違反、新規事項の追加である。
「画分」とは、「混合物質を構成成分に分けること。また、分けられたそれぞれの成分。画分。」(甲4)を意味するから、本件発明で規定される「ペプチド画分を含む」との記載は、「分画により混合物質から分けられて得られたペプチド成分を含む」という意味である。即ち、添加画分を用いて調製する態様を指すと理解され、それ以外の態様(ペプチド画分を添加しない態様など)は想定できない。
このことは、本件明細書の段落0025において、ペプチド画分を用いる場合には、別途調製して添加していることからも分かる。
同様に、「該ペプチド画分に含まれるペプチドの、前記低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料中の濃度」とは、添加画分に由来するペプチドの飲料中の濃度を示すものと読むのが自然であり、その後に続く「ペプチドの合計量」という括弧書きを参酌すると、添加画分に由来する総ペプチドの飲料中の濃度が示されているとみるのが相当である。
しかしながら、本件明細書では、添加画分のみに由来するペプチドの濃度を特定の範囲とすることで所望の効果が得られることは何ら記載されていない。
従って、「該ペプチド画分に含まれるペプチドの、前記低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料中の濃度(ペプチドの合計量)」が特定範囲内であることを規定する本件発明は、本件明細書に記載した範囲を超えるものであり、サポート要件、実施可能要件に違反する。また、当該規定を追加した令和2年3月31日付けの補正は新規事項を追加するものである。
上記のとおり、「該ペプチド画分に含まれるペプチドの、前記低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料中の濃度(ペプチドの合計量)」との規定は、添加画分に由来する総ペプチドの濃度を示すとみるのが相当であり、現クレームの規定からは、添加先の飲料(ベース飲料)に由来するペプチドとの合計濃度と解することはできない。そもそも、添加先の飲料(ベース飲料)に由来するペプチドは分画されて得られたものではないのであるから、添加先の飲料(ベース飲料)においては、ペプチド画分自体を観念し得ないと考えるのが自然である。従って、当該規定が、飲料中のペプチドの濃度を規定する意図であるとすれば、現クレームの規定からはそのような意味が理解できず不明確であるといえる。
本件発明1及びこれを引用する本件発明2及び3については、明確性要件違反、サポート要件違反、実施可能要件違反、新規事項の追加である。

(1-B)分子量10?20kDaのペプチド画分中に10kDa未満のペプチドや20kDa以上のペプチドを含むことについて
本件発明1では、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10?20kDa(ゲル濾過法)のペプチド画分」を含むこと、及び「前記ペプチド画分が、大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、大麦由来のセルピン-Z4および大麦由来の非特異的脂質転移タンパク1」を含むことが規定されている。
しかしながら、非特異的脂質転移タンパク1(LTP1)は、分子量が約9kDaであることが一般的に知られており(甲1の段落0002、甲2の377頁右欄1行)、本件の審査において引用文献2として挙げられた甲3の19頁11行-20頁8行においてもビール泡から精製したオオムギ-LTP1の分子量が9700Daltonあることが記載されている。従って、本件発明1の10?20kDaのペプチド画分中には、9700Daltonのようなペプチドは含み得ない筈であるところ、本件発明1では9700Daltonである非特異的脂質転移タンパク1(LTPl)を含むとしており、ペプチド画分の外縁が不明確である。
また、大麦由来のセルピン-Z4は、分子量が約43kDaであることが一般的に知られている(甲12のFigure1及びp.3581の左欄下から1行? 右欄5行では、オオムギZ4セルピン(UniProt Knowledge Base, UniProt: P06293)が約43kDaであることが記載されており、Table1では「serpin-Z4 (H)」が43277Daであることが記載されている。Table1の注釈には「H=H. vulgare」と記載されており、Table1の「serpin-Z4 (H)」が大麦由来のセルピン-Z4であることが分かる。)。
本件発明1の10?20kDaのペプチド画分中には、分子量が約43kDaのようなペプチドは含み得ない筈であるところ、本件発明1では約43kDaであるセルピン-Z4を含むとしており、この観点からもペプチド画分の外縁が不明確である。
本件発明と同様に低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料を製造する第三者は、自己の製品が本件特許発明1で規定するペプチドの濃度や比率を充足するか否かを判断する必要があるが、上記のとおり、当該ペプチド画分の外縁が不明確であると、充足性判断ができない。してみると、このような不明確な請求項では、第三者に不測の不利益を与えるおそれがあるというべきである。
また、本件発明は分子量10?20kDaのペプチド画分中に含まれるペプチドの濃度や比率が規定されているところ、本件明細書には分画条件が詳細に記載されていないことから、どのような分画条件を用いればよいのかが明らかでない。ゲル濾過法で分画しても条件次第では少なくとも数%?十数%のような無視できないレベルで結果にブレが生じるおそれがある。上記のとおり、ペプチド画分の外縁が不明確であるにも関わらず、分画条件も厳密に定まっていないのであるから、この点からも、第三者に不測の不利益を与えるおそれがあるといえる。
また、本件発明1では分子量10?20kDaのペプチド画分中に含まれるペプチドの濃度や比率が規定されているが、本件明細書において具体的に開示されているのは、9700Dalton のペプチド(LTPl) や約43kD aのペプチド(セルピン-Z4) を含むペプチドの濃度や比率であるから(本件明細書の表3)、本件明細書において、分子量10?20kDaのペプチドの濃度や比率が正しく開示されているとはいえない。
さらに、10?20kDaには9700Daltonのペプチド(LTPl) や約43kDaのペプチド(セルピン-Z4) は実質的には含まれ得ないとみるのが相当であるから、これを必須とする本件発明1において、課題が解決されているとみることはできない。
従って、本件発明1及びこれを引用する本件発明2及び3は、特許発明の外縁が不明確である。また、発明の詳細な説明で記載された範囲を超えるものであり、サポート要件及び実施可能要件を欠くものである。

(2)香味改善に寄与したペプチドが特定されていないことについて
「大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、大麦由来のセルピン-Z4および大麦由来の非特異的脂質転移タンパク1を含むオオムギ由来のペプチド」自体が香味に効果があるか否かは不明であり、サポート要件を欠くものである。
本件発明1では、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10?20kDa(ゲル濾過法)のペプチド画分」という極めて広い規定となっており、例えば、麦芽は原料としてわずかに1%で残りは全てコメというような場合も当該規定に含まれていると考えられる。
しかしながら、本件の実施例においては、大麦麦芽、大麦などを使用して得られたビールテイスト発酵アルコール飲料(段落0041、0055?0059)に由来するペプチド画分について香味改善効果があったこと以外は示されていない。従って、上記のように麦芽が極めて少量であり、麦芽以外の原料を主たる原料として使用した飲料に由来するペプチド画分においても所望の効果を奏するのか否かは全く不明であり、効果を奏するとの推測は困難である。
ここで、本件の実施例で効果を示したビールテイスト発酵アルコール飲料に由来するペプチド画分と、これ以外のビールテイスト発酵アルコール飲料(上記のように麦芽が極めて少量であり、麦芽以外の原料を主たる原料として使用した飲料)に由来するペプチド画分とは、ペプチド画分中に含まれるペプチドの組成が異なると考えられる。
このように使用する原料組成が異なった場合においてまで、本件実施例と同様の香味改善効果があるとの技術常識は存在せず、また、香味改善効果に寄与するペプチドも具体的に特定されていないのであるから、本件発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであり、サポート要件を欠くものである。
また、仮に、ペプチド画分の調製に使用する原料が異なった場合において何らかの香味改善効果があったとしても、原料の由来により分子量10?20kDaのペプチドの組成が異なる筈である。即ち、本件明細書の段落0085?0095において「ビールらしい味わいに寄与するタンパク質」として同定されたオオムギ(Hordeum vulgare) 由来のタンパク質の量も変化する筈であるから、本件発明1で規定する濃度や比率において所望の効果が得られるかどうかは全く不明であり、所望の効果を得るために過度の試行錯誤を強いるものである。従って、本件発明1及びこれを引用する本件発明2、3は、実施可能要件を欠くものである。

(3)麦芽使用比率ついて
本件発明1の「該ペプチド画分に含まれるペプチドの、前記低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料中の濃度(ペプチドの合計量)」との規定に関しては、サポート要件に違反する。
即ち、分子量10?20kDaのペプチド画分中のペプチドの濃度については、「0.115mg/ml以上0.177mg/ml」と規定されているが、当該数値の根拠である[表5]のサンプルNo.5及び[表6]の添加1、2ではいずれも麦芽使用比率25%未満の飲料における効果が示されているのみであり、より高い麦芽使用比率の飲料において同量で所望の効果が発揮されることについては何ら具体的に示されていない。
一方、本件特許発明1、3では低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の麦芽使用比率は規定されておらず、本件特許発明2では「麦芽使用比率が3分の2未満である」と規定されており、現請求項の記載では高麦芽使用比率の飲料を含み得る規定となっている。
しかしながら麦芽使用比率が高い飲料と、麦芽使用比率の低い飲料とは呈味が全く異なるものであることは周知の事実であるところ(甲13?15)、麦芽使用比率が25%未満のような極めて低い麦芽使用比率の飲料において効果を確認できたからといって、より高い麦芽使用比率の飲料においても「0.115mg/ml以上0.177mg/ml」という量で同様に発明の課題を解決できるとは理解できない。
従って、本件明細書の記載からは、麦芽使用比率25%以上の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料全般において、同様の効果が常に奏されて課題が解決できると理解することは困難であり、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているから、本件特許発明1?3は、サポート要件を欠くものである。

2-2 本件明細書の記載
本件明細書には、以下の記載がある。
a)本件発明の課題及びその解決手段についての記載
「【0004】
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、香味が改善された低糖質ビールテイストアルコール飲料とその製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、低糖質ビールテイストアルコール飲料の風味改善剤と風味改善方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、低糖質ビールテイストアルコール飲料において、特定分子量のペプチドがビールらしい柔らかなテクスチャーやスムーズな味の流れを付与するとともに、雑味の低減や調和の取れた味わいの付与に寄与することを見出した。本発明者らはまた、特定分子量のペプチドの濃度を特定の濃度範囲内にすることで、よりビールらしい調和感のある味わいが実現できることを見出した。本発明者らはさらに、ビールテイストアルコール飲料の風味改善に寄与するペプチドを具体的に特定した。本発明はこれらの知見に基づくものである。」

b)本件発明による効果、図面に関する記載
「【0008】
本発明によれば、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10?20kDaのペプチドを配合するか、該ペプチドの濃度を所定値の範囲内にすることによって、ビールらしい柔らかなテクスチャーやスムーズな味の流れがあり、雑味が低減され、調和のとれた味わいを有する低糖質のビールテイストアルコール飲料を提供することができる。特に、麦芽使用比率25%未満の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料では、ビールで感じられるような味わい(特に柔らかくスムーズなテクスチャー)が不十分な場合があり、また、香味上の改善点(渋味やざらつきなどの雑味)が存在する場合や、味わいの調和が不十分である場合があり、本発明はこのような飲料のビールテイスト飲料としての風味を改善ないし向上させることができる点で有利である。また、分子量10?20kDaのペプチドは麦芽や未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に存在するものであることから、該ペプチドを低糖質ビールテイストアルコール飲料に上乗せして配合しても異味を生じさせることがない点でも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1(5)でビール系麦芽アルコール飲料に添加したペプチド量を示した図である。
【図2】実施例1(5)の官能評価結果を示した図である。添加した画分ごとに官能評価スコアを示した。図2Aはビールらしい味わいの官能評価結果、図2Bは口内に残るざらつきの官能評価結果である。
【図3】実施例2(4)において実施したHPLCゲル濾過分画の保持時間と既知物質の分子量から作成した検量線を示した図である。
【図4】実施例2(5)の官能評価結果(スムーズさ)を示したバブルグラフである。縦軸をグルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度(mg/ml)とし、横軸を10?20kDaペプチド濃度(mg/ml)として各サンプルをプロットした。横縞模様は市販品に、縦縞模様は試験醸造品にそれぞれ対応する。バブルサイズはスムーズさのスコアを表す。
【図5】実施例2(5)の官能評価結果(スムーズさ)を示したバブルグラフである。縦軸を10?20kDaペプチド比率(%)とし、横軸を10?20kDaペプチド濃度(mg/ml)として各サンプルをプロットした。横縞模様は市販品に、縦縞模様は試験醸造品にそれぞれ対応する。バブルサイズはスムーズさのスコアを表す。
【図6】実施例2(5)の官能評価結果(香味の総合評価)を示したバブルグラフである。縦軸をグルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度(mg/ml)とし、横軸を10?20kDaペプチド濃度(mg/ml)として各サンプルをプロットした。横縞模様は市販品に、縦縞模様は試験醸造品にそれぞれ対応する。バブルサイズは香味の総合評価のスコアを表す。
【図7】実施例2(5)の官能評価結果(香味の総合評価)を示したバブルグラフである。縦軸を10?20kDaペプチド比率(%)とし、横軸を10?20kDaペプチド濃度(mg/ml)として各サンプルをプロットした。横縞模様は市販品に、縦縞模様は試験醸造品にそれぞれ対応する。バブルサイズは香味の総合評価のスコアを表す。
【図8】実施例2(5)の官能評価結果(スムーズさ)を示したバブルグラフである。縦軸を栄養表示基準に基づく糖質濃度(mg/ml)とし、横軸を10?20kDaペプチド濃度(mg/ml)として各サンプルをプロットした。横縞模様は市販品に、縦縞模様は試験醸造品にそれぞれ対応する。バブルサイズはスムーズさのスコアを表す。
【図9】実施例3(2)の官能評価結果(スムーズさ)を示したバブルグラフである。縦軸をグルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度(mg/ml)とし、横軸を10?20kDaペプチド濃度(mg/ml)として各サンプルをプロットした。横縞模様はサンプルNo.1が添加先のもの(No.1ベース)、縦縞模様はサンプルNo.2が添加先のもの(No.2ベース)、菱形模様はサンプルNo.4が添加先のもの(No.4ベース)にそれぞれ対応する。バブルサイズはスムーズさのスコアを表す。
【図10】実施例3(2)の官能評価結果(スムーズさ)を示したバブルグラフである。縦軸を10?20kDaペプチド比率(%)とし、横軸を10?20kDaペプチド濃度(mg/ml)として各サンプルをプロットした。横縞模様はサンプルNo.1が添加先のもの(No.1ベース)、縦縞模様はサンプルNo.2が添加先のもの(No.2ベース)、菱形模様はサンプルNo.4が添加先のもの(No.4ベース)にそれぞれ対応する。バブルサイズはスムーズさのスコアを表す。
【図11】精製された画分についての2D-PAGE電気泳動の結果を示した図である。STDは、分子量マーカーである。図11AはサンプルNo.9についての結果であり、図11BはサンプルNo.10についての結果である。また、図11CはサンプルNo.11についての結果であり、図11DはサンプルNo.12についての結果である。」

c)本件発明の用語の説明等についての記載
「【0010】
本明細書において「ビールテイストアルコール飲料」とは、通常にビールを製造した場合、すなわち、酵母等による発酵に基づいてビールを製造した場合に得られるビール特有の味わい、香りを有するアルコール飲料を意味する。
【0011】
ビールテイストアルコール飲料には、炭素源、窒素源、および水などを原料として酵母により発酵させた「ビールテイストの発酵アルコール飲料」も含まれ、「ビールテイストの発酵アルコール飲料」としては、ビール、発泡酒、原料として麦または麦芽を使用しないビールテイスト発泡アルコール飲料(例えば、酒税法上、「その他の醸造酒(発泡性)(1)」に分類される醸造系新ジャンル飲料)および原料として麦芽を使用するビールや発泡酒にアルコールを添加してなる飲料(例えば、酒税法上、「リキュール(発泡性)(1)」に分類されるリキュール系新ジャンル飲料)が挙げられる。
【0012】
本明細書において「低糖質」のビールテイストアルコール飲料とは、糖質の量(糖質濃度)が通常の製法で作られた同等の比較対象の飲料に対して70%以上削減されたもの(すなわち、糖質オフ表示がなされた飲料)、あるいは糖質の量が0.5g/100ml未満(すなわち、糖質ゼロ表示がなされた飲料)であるものを意味する。このうち前者(糖質オフ表示がなされた飲料)の糖質濃度は、1.1g/100ml以下とすることができ、好ましくは0.7?1.1g/100mlの範囲である。ここで、糖質の量の測定は公知の方法に従って行うことができ、当該試料の質量から、水分、タンパク質、脂質、灰分および食物繊維量を除いて算出する方法(栄養表示基準(平成21年12月16日消費者庁告示第9号 一部改正)参照)に従って測定することができる。
【0013】
本発明の第一の面によれば麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とする低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料が提供される。本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料は麦由来の原料として少なくとも麦芽を使用するものとすることができ、その場合、麦芽使用比率は3分の2未満とすることができ、好ましくは麦芽使用比率が50%未満、さらに好ましくは25%未満である。本明細書において「麦芽使用比率」とは、醸造用水を除く全原料の質量に対する麦芽質量の割合をいう。麦芽使用比率が25%未満であるビールテイスト発酵アルコール飲料としては、麦芽使用比率が25%未満の発泡酒や、麦芽使用比率が25%未満のリキュール系新ジャンル飲料が挙げられる。
【0014】
本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料ではビールテイスト発酵アルコール飲料の原料に由来する分子量10?20kDaのペプチド濃度が特定値以上であることを特徴とする。本明細書において「ペプチド濃度」は10?20kDaの分子量を有する1種または2種以上のペプチドの含有量を合計して算出されるものである。また本明細書においてペプチドの「分子量」はゲル濾過法により測定されるものであり、測定の具体例は後記実施例2に示される通りである。ペプチドの定量はローリー法(Lowry法)により実施することができる。
【0015】
本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料では分子量10?20kDaのペプチド濃度を0.050mg/ml以上とすることができ、好ましくは0.055mg/ml以上、より好ましくは0.11mg/ml以上である。該ペプチド濃度は味の調和の観点から上限を設けることができ、例えば、0.45mg/mlを上限とすることができる。また、全タンパク量に対する分子量10?20kDaのペプチド量の比率を2.7%以上とすることができ、好ましくは3.2%以上、より好ましくは3.9%以上である。該比率は味の調和の観点から上限を設けることができ、例えば、8.0%を上限とすることができる。後記実施例2および3に示されるように分子量10?20kDaのペプチドの濃度や比率を特定値以上に設定することによって、低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料(特に、麦芽使用比率が25%未満であるビールテイスト発酵アルコール飲料)の雑味を抑制するとともに、該飲料をビールらしい柔らかなテクスチャーやスムーズな味の流れがあり、調和のとれた味わいがある飲料とすることができる。
【0016】
本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料ではまた、グルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度が特定値以下とすることができる。本明細書において「グルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度」は、グルコアミラーゼを用いて糖質を分解したときにグルコースとして測定された糖質濃度を指す。測定の具体例は、後記実施例2に示される通りである。
【0017】
本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料ではグルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度を5.6mg/ml以下とすることができ、好ましくは4.9mg/ml以下、より好ましくは3.9mg/ml以下である。該糖質濃度は味の調和の観点から下限を設けることができ、例えば、0.5mg/mlを下限とすることができる。
【0018】
本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料ではまた、α-グルカンの濃度を所定値にすることができ、例えば、重合度5?10のα-グルカンの濃度を3.9mg/ml未満、3.3mg/ml未満あるいは2.1mg/ml未満に設定することができる。本明細書において、「α-グルカン濃度」は重合度5?10の1種または2種以上のα-グルカンの含有量を合計して算出されるものである。また本明細書において「α-グルカン」とは複数のグルコース分子がα-1,4-グルコシド結合により結合して構成された直鎖状または分岐状のグルカンを意味する。さらに、本明細書においてα-グルカンの「重合度」はグルカンを構成するグルコース残基の個数を意味し、直鎖状グルカンを構成するグルコース残基の個数のみならず、分岐構造を構成するグルコース残基の個数を含む。α-グルカンの重合度と含有量の測定はLC-MS/MS(液体クロマトグラフ-質量分析法)により実施することができる。
【0019】
本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料ではグルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度が所定値以下であっても分子量10?20kDaのペプチドを所定の濃度に調整することにより、雑味を抑制するとともに、ビールらしい柔らかなテクスチャーやスムーズな味の流れ、さらには、調和のとれた味わいを図ることができる。グルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度が所定値以下の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料において、分子量10?20kDaのペプチドを所定の濃度に調整することにより、雑味が抑制されるとともに、ビールらしい柔らかなテクスチャーやスムーズな味の流れ、さらには、調和のとれた味わいが図られることはこれまで報告されていない。すなわち、本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料(特に、麦芽使用比率が25%未満である本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料)では、グルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度を5.6mg/ml以下、好ましくは4.9mg/ml以下、より好ましくは3.9mg/ml以下とし、かつ、分子量10?20kDaのペプチド濃度を0.05mg/ml以上(好ましくは0.055mg/ml以上、より好ましくは0.11mg/ml以上)とすることができ、さらに、全タンパク量に対する分子量10?20kDaのペプチド量の比率を2.7%以上(好ましくは3.2%以上、より好ましくは3.9%以上)とすることができる。ペプチド濃度およびペプチド量の比率はいずれも前記のような上限を設けることができる。またグルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度は前記のような下限を設けることができる。」

d)本件発明の飲料の製造方法等についての記載
「【0020】
本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料は分子量10?20kDaのペプチド濃度が所定値の範囲内に調整される限り、通常の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造手順に従って製造することができる。例えば、麦芽、ホップ、副原料、醸造用水等の醸造原料から調製された麦汁に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、発酵麦芽飲料を醸成させることができる。得られた低糖質ビールテイストの発酵アルコール飲料は、低温にて貯蔵した後、濾過工程により酵母を除去することができる。
【0021】
上記製造手順において麦汁の作製は常法に従って行うことができる。例えば、醸造原料と醸造用水の混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得、その麦汁にホップを添加した後、煮沸し、煮沸した麦汁を冷却することにより麦汁を調製することができる。また、麦汁は、糖化工程中に市販の酵素製剤を添加して作製することもできる。例えば、タンパク分解のためにプロテアーゼ製剤を、糖質分解のためにα-アミラーゼ製剤、βアミラーゼ製剤、グルコアミラーゼ製剤、プルラナーゼ製剤等を、繊維素分解のためにβ-グルカナーゼ製剤、繊維素分解酵素製剤(例えば、ヘミセルラーゼ製剤)等をそれぞれ用いることができ、あるいはこれらの混合製剤を用いることもできる。
【0022】
本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造では、麦芽以外に、未発芽の麦類(例えば、未発芽大麦(エキス化したものを含む)、未発芽小麦(エキス化したものを含む));米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖)等の酒税法で定める副原料;タンパク質分解物や酵母エキス等の窒素源;香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物を醸造原料として使用することができる。すなわち、本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料は、醸造用水以外の使用原料を少なくとも麦芽、未発芽の麦類(好ましくは、未発芽大麦)およびホップとすることができ、場合によっては更に糖類、米、とうもろこし、でんぷん等を使用原料とすることができる。
【0023】
本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の製法において製造飲料中の分子量10?20kDaのペプチド濃度を所定値の範囲内に調整するためには、例えば、原料である麦芽および/または未発芽の麦類の仕込み・糖化工程におけるタンパク分解を抑制することや、原料である麦芽の製麦工程におけるタンパク分解度を抑制することなどにより、調整することができる。なお、タンパク分解としては、麦芽や未発芽の麦類に内在するプロテアーゼ、あるいは外から添加するプロテアーゼ製剤によるものが挙げられる。分解の抑制は、プロテアーゼ製剤の添加量を減じる、タンパク分解の作用温度における処理時間を減じる、作用pHを至適条件から変更するなどにより行うことができる。
【0024】
本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の製法において製造飲料中の栄養表示基準による糖質濃度やグルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度を所定値の範囲内に調整するためには、例えば、原料である麦芽および/または未発芽の麦類等の仕込みや糖化工程における糖質分解を促進すること、原料である麦芽の製麦工程における糖質分解を促進すること、それにより麦芽および/または未発芽の麦類等に由来する糖質が酵母に資化できる糖(資化性糖)まで充分に分解すること、あるいは糖質が酵母に資化できる糖まで充分分解された液糖を用いることなどにより、調整することができ、さらには発酵・貯蔵工程において、これらの資化性糖が酵母に十分に資化され、本発明の所定の糖質濃度以下に低下するまで酵母発酵を行うことなどにより、調整することもできる。なお、糖質分解としては、麦芽や未発芽の麦類に内在するαアミラーゼやβアミラーゼ等、あるいは外から添加するαアミラーゼ製剤、βアミラーゼ製剤、グルコアミラーゼ製剤、プルラナーゼ製剤等によるものが挙げられる。分解の促進は、αアミラーゼ製剤、βアミラーゼ製剤、グルコアミラーゼ製剤、プルラナーゼ製剤等の添加量を増加させること、糖質分解の作用温度における処理時間を延長すること、作用pHを至適条件に合わせることなどにより行うことができる。
【0025】
あるいは、実施例3の記載に従って、ビールテイスト発酵アルコール飲料から分子量10?20kDaのペプチドが含まれる画分や全糖質画分を調製し、該画分をそれぞれ低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料に添加することによって、分子量10?20kDaのペプチド濃度が所定値の範囲内に調整された低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料やグルコアミラーゼ感受性の糖質濃度が所定値の範囲内に調整された低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することもできる。
【0026】
本発明の第二の面によれば、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10?20kDaの1種または2種以上のペプチドを配合してなる低糖質ビールテイストアルコール飲料と、該飲料の製造方法が提供される。該ペプチドが配合されてなる飲料は低糖質ビールテイストアルコール飲料としての風味が改善あるいは向上されており、具体的には、柔らかなテクスチャーやスムーズな味の流れが感じられ、雑味が低減された調和のとれた味わいがある飲料である。
【0027】
麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10?20kDaの1種または2種以上のペプチドの例としては、α-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、セルピン-Z4および非特異的脂質転移タンパク1(non-specific lipid-transfer protein 1)が挙げられ、好ましくは、これらのタンパク質およびペプチドは大麦由来のものである。α-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、セルピン-Z4あるいは非特異的脂質転移タンパク1を低糖質ビールテイストアルコール飲料に配合するときは、これらのペプチドあるいはタンパク質は麦芽または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料から調製したもの以外のペプチドあるいはタンパク質であってもよい。
【0028】
本発明の低糖質ビールテイストアルコール飲料における分子量10?20kDaのペプチド濃度は0.05mg/ml以上とすることができ、好ましくは0.055mg/ml以上、より好ましくは0.11mg/ml以上である。該ペプチド濃度は味の調和の観点から上限を設けることができ、例えば、0.45mg/mlを上限とすることができる。また、全タンパク量に対する分子量10?20kDaのペプチド量の比率は2.7%以上とすることができ、好ましくは3.2%以上、より好ましくは3.9%以上である。該比率は味の調和の観点から上限を設けることができ、例えば、8.0%を上限とすることができる。後記実施例2および3に示されるように分子量10?20kDaのペプチドの濃度や比率を特定値以上に設定することによって、低糖質ビールテイストアルコール飲料(特に、麦芽使用比率が25%未満である低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料)の雑味を抑制するとともに、ビールらしい柔らかなテクスチャーやスムーズな味の流れ、さらには、調和のとれた味わいがある飲料とすることができる。分子量10?20kDaのペプチドの分子量や含有量の測定は本発明の第一の面である低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料についての記載を参照することができる。
【0029】
本発明の低糖質ビールテイストアルコール飲料ではまた、グルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度が特定値以下とすることができる。本明細書において「グルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度」は、グルコアミラーゼを用いて糖質を分解したときにグルコースとして測定された糖質濃度を指す。測定の具体例は、後記実施例2に示される通りである。
【0030】
本発明の低糖質ビールテイストアルコール飲料ではグルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度を5.6mg/ml以下とすることができ、好ましくは4.9mg/ml以下、より好ましくは3.9mg/ml以下である。該糖質濃度は味の調和の観点から下限を設けることができ、例えば、0.5mg/mlを下限とすることができる。
【0031】
本発明の低糖質ビールテイストアルコール飲料ではまた、α-グルカンの濃度を所定値にすることができ、例えば、重合度5?10のα-グルカンの濃度を3.9mg/ml未満、3.3mg/ml未満あるいは2.1mg/ml未満に設定することができる。
【0032】
本発明の低糖質ビールテイストアルコール飲料ではグルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度が所定値以下であっても分子量10?20kDaのペプチドを所定の濃度に調整することにより、雑味を抑制するとともに、ビールらしい柔らかなテクスチャーやスムーズな味の流れ、さらには、調和のとれた味わいを図ることができる。グルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度が所定値以下の低糖質ビールテイストアルコール飲料において、分子量10?20kDaのペプチドを所定の濃度に調整することにより、雑味が抑制されるとともに、ビールらしい柔らかなテクスチャーやスムーズな味の流れ、さらには、調和のとれた味わいが図られることはこれまで報告されていない。すなわち、本発明の低糖質ビールテイストアルコール飲料では、グルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度を5.6mg/ml以下(好ましくは4.9mg/ml以下、より好ましくは3.9mg/ml以下)とし、かつ、分子量10?20kDaのペプチド濃度を0.05mg/ml以上(好ましくは0.055mg/ml以上、より好ましくは0.11mg/ml以上)とすることができ、さらに、全タンパク量に対する分子量10?20kDaのペプチド量の比率を2.7%以上(好ましくは3.2%以上、より好ましくは3.9%以上)とすることができる。ペプチド濃度およびペプチド量の比率はいずれも前記のような上限を設けることができる。ペプチド濃度およびペプチド量の比率はいずれも前記のような上限を設けることができる。またグルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度は前記のような下限を設けることができる。
【0033】
低糖質ビールテイストアルコール飲料に配合される分子量10?20kDaの1種または2種以上のペプチドは、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料(好ましくは麦由来の原料として少なくとも麦芽を使用するビールテイスト発酵アルコール飲料)から調製することができる。例えば、実施例1に記載された手順に従ってビールテイスト発酵アルコール飲料を製造し、実施例1に記載のようにゲル濾過分画や固相抽出カラムを用いて該飲料から分子量10?20kDaのペプチドが含まれる画分を調製することができる。分子量10?20kDaのペプチドは必ずしも単離・精製されている必要はなく、ビールテイスト発酵アルコール飲料から分画処理されて得られたペプチド画分を低糖質ビールテイストアルコール飲料へ配合することができる。
【0034】
低糖質ビールテイストアルコール飲料への配合は発酵前の発酵前液、発酵中の発酵液、あるいは発酵後の発酵液への添加により行うことができる。例えば、実施例3に記載されるように、実施例1に記載された手順に従ってビールテイスト発酵アルコール飲料を製造し、該飲料から実施例1に記載された手順に従って分子量10?20kDaのペプチドが含まれる画分を調製し、該画分を発酵後の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料に添加することによって、分子量10?20kDaのペプチドが配合された低糖質ビールテイストアルコール飲料を製造することができる。
【0035】
本発明の低糖質ビールテイストアルコール飲料は分子量10?20kDaのペプチドが特定濃度となるよう配合されること以外は、通常の低糖質ビールテイストアルコール飲料の製造手順に従って製造することができる。例えば、麦芽、ホップ、副原料、醸造用水等の醸造原料から調製された麦汁に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、発酵麦芽飲料を醸成させることができる。得られた低糖質ビールテイストの発酵アルコール飲料は、低温にて貯蔵した後、ろ過工程により酵母を除去することができる。
【0036】
上記製造手順において麦汁の作製は常法に従って行うことができる。例えば、醸造原料と醸造用水の混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得、その麦汁にホップを添加した後、煮沸し、煮沸した麦汁を冷却することにより麦汁を調製することができる。
【0037】
本発明の低糖質ビールテイストアルコール飲料の製造では麦芽以外の原料を使用でき、具体的には、本発明の第一の面の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料に関する記載に従って麦芽以外の原料を使用できる。
【0038】
以上、本発明の第二の面である低糖質ビールテイストアルコール飲料を中心に説明したが、本発明の低糖質ビールテイストアルコール飲料の製造方法は該飲料についての上記記載に従って実施することができる。」

e)実施例の記載
「【実施例】
【0040】
以下の例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、以下の例において割合(%)は特に断りがない限り質量%を表す。
【0041】
実施例1:ペプチド画分のビールテイストアルコール飲料への添加と官能評価
(1)ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造
パイロットプラントでビールテイストアルコール飲料の製造を行った。50℃の湯100質量部に対して、大麦麦芽15.0質量部、大麦18.7質量部、酵素製剤を投入して70分保持後65℃に昇温して130分保持してさらに78℃に昇温して5分保持した後、濾過して麦汁を得た。上記の麦汁調製工程に続いて、得られた麦汁にホップを投入して100℃で60?70分煮沸した後、麦汁静置を行い、トリューブを分離した後、冷却して発酵前液を得た。その後、発酵前液に下面発酵酵母を添加して発酵液を調整した。この発酵液を所定の温度で所定期間維持することにより主発酵を行った。さらに、主発酵後の発酵液を所定の温度で所定期間維持することにより後発酵を行った。続いて、後発酵後の発酵液を、より低温で所定期間維持することにより貯蔵を行い、濾過して、清澄なビールテイストアルコール飲料(麦芽使用比率50%未満の発泡酒)を得た。
【0042】
(2)ゲル濾過分画
上記(1)で得られたビールテイストアルコール飲料を計量して凍結乾燥した。乾燥物を100mM NaCl溶液で溶解して5倍濃縮液を調製し、分画用サンプルとした。サンプルは、以下の条件にてゲル濾過分画を行った。
【0043】
カラム:Hiload Superdex30pg 26/600(GEヘルスケア社製)
サンプル注入量: 5ml
溶離液組成:100mM NaCl
流速:2.5mL/分(流速一定)
検出波長:215nm
分取:0.29cv(カラム・ボリューム)から19.1ml(フラクション0)、その後0.35cvから5mlずつ分画(フラクション1?51)
【0044】
分画物の官能評価により、香味の特徴の違いによって、表1のようにフラクションをプレ画分、A1、A2、B、C、D、E、F、Gの9つのグループに分けた。
【0045】
【表1】


【0046】
(3)ペプチド画分の精製
上記(2)で得られた各画分は、固相抽出カラム(画分プレ、A1、A2、Bは、Bond Elute C18 EWP、画分CはBond Elute C18を使用、Agilent technologies社製)にて吸着処理を行い、脱塩水で洗浄した後、50%エタノール水溶液にて溶出して、濃縮乾固を行い、これを脱塩水にて復水し、濃縮液とした。これをペプチド画分とした。
【0047】
(4)ローリー法によるタンパク定量
上記(3)のゲル濾過分画によって得られたペプチド画分のタンパク定量は市販のキット(DCプロテインアッセイ、Bio-Rad社製)を用いたLowry法で行った。まず、上記分画液を50μL採って遠心減圧濃縮乾固し、超純水10μLを加えて再溶解して分析サンプルとした。そこにA液を50μL加えて撹拌し、続いてB液を400μL加えて攪拌した。室温で15分発色反応を行った後、96ウェルプレートに350μL移して750nmの吸光度を測定した。得られた吸光度と予め作成した検量線に基づき、ペプチド量を算出した。なお、検量線はBSA(ウシ血清アルブミン)を用いて作成した。
【0048】
(5)官能評価
これらの分画・精製サンプルを、大麦と大麦麦芽を使用した市販の麦芽使用比率50%未満のビール系アルコール飲料に、その飲料に含まれる各画分量の約20%、あるいは50%上乗せとなるよう添加し(表2および図1参照)、6名のパネルにより官能評価を行った。
【0049】
官能評価は、評価項目1として、ビールらしい味わい(ビールにあるような柔らかくスムーズなテクスチャーが感じられる、調和がとれている)を1点(ビールらしくない)?9点(ビールらしい)の9段階で実施した。官能評価はまた、評価項目2として、口内に残るざらつき(渋みや舌に残るざらざらした感触といった雑味)を1点(弱い)?9点(強い)の9段階で実施した。
【表2】


【0050】
結果は表2および図2に示される通りであった。精製した画分プレ、A1+A2およびB+Cを、市販の麦芽使用比率50%未満のビール系アルコール飲料に添加した場合には、画分A1+A2が最もビールらしい味わいのスコアが高く、ざらつきも低減していることが明らかとなった。また、プレ画分では、柔らかいが味自体は少ないとの官能評価コメントだった。画分B+Cは、厚み、ボディ、旨味の寄与がより強いとのコメントだった。すなわち、プレ画分、A1、A2、B、Cで、それぞれ味質が異なっており、画分A1、A2は、ビールらしい柔らかさ、雑味低下等の効果がある事がわかった。
【0051】
ペプチド分画物は、実施例2に記載の、Superdex75 10/300カラムにて分析を行い、分子量を推定したところ、画分A1のペプチドが分子量約10?20kDaに分布し、SDS-PAGE電気泳動上でも、画分A1?A2において、同様の分子量約10?20kDaのペプチドが分布している事が確認された(データ省略)。
【0052】
以上の結果より、分画・精製した分子量約10?20kDaのペプチド画分A1およびA2は、雑味が抑制され調和のとれたビールらしい味わいをビールテイストアルコール飲料に付与できることが明らかとなった。
【0053】
実施例2:低糖質ビールテイストアルコール飲料の成分分析と官能評価
(1)低糖質ビールテイストアルコール飲料の製造
パイロットプラントで低糖質ビールテイストアルコール飲料の製造を行った。低糖質ビールテイストアルコール飲料の使用原料中の麦芽比率は25%未満とした。
【0054】
低糖質ビールテイストアルコール飲料の製造においては、主原料として、大麦麦芽を使用し、副原料として、大麦および液糖のいずれかまたは両方を使用した。糖化に際しては酵素製剤を用い、糖化の温度、時間を調整し、濾過することで、異なる組成の麦汁を得た。すなわち、糖化の温度帯は、50、60、あるいは65℃など、50?65℃の中で選択した。糖化の時間は、それぞれの温度工程において、5分から140分の間で調整した。また、原料の熱処理温度は70から100℃の中から選択した。具体的には以下のようにして麦汁を得た。
【0055】
(ア)サンプルNo.5の糖化条件
50℃の湯100質量部に対して、大麦麦芽11.4質量部、大麦12.1質量部、酵素製剤を投入して60分保持してさらに65℃に昇温して90分保持した後、78℃に昇温して5分保持した後、濾過して麦汁を得た。
【0056】
(イ)サンプルNo.6の糖化条件
50℃の湯100質量部に対して、大麦26.2質量部、酵素製剤を投入して60分保持後60℃に昇温して30分保持してさらに70℃に昇温して30分保持したものをA醪とした。また、別の釜で、50℃の湯85.7質量部に大麦麦芽24.8質量部、酵素製剤を投入して60分保持したものB醪とした。得られたA醪とB醪を直ちに混合させて65℃とした。その後、65℃で90分保持した後、78℃に昇温して5分保持した後、濾過して麦汁を得た。
【0057】
(ウ)サンプルNo.7、8の糖化条件
50℃の湯100質量部に対して、大麦21.1質量部と酵素製剤を投入して60分保持してさらに65℃に昇温して90分保持したものをA醪とした。別の釜で50℃の湯93質量部に大麦麦芽19.4質量部、酵素製剤を投入し60分保持後65℃に昇温して90分保持したものをB醪とした。得られたA醪およびB醪を直ちに混合し、AB混合醪として78℃に昇温して5分保持後、濾過して麦汁を得た。
【0058】
上記の麦汁調製工程(ア)、(イ)および(ウ)に続いて、得られたそれぞれの麦汁にホップおよび液糖をさらに投入して100℃で60?70分煮沸した後、麦汁静置を行い、トリューブを分離した後、冷却して発酵前液を得た。その後、発酵前液に下面発酵酵母を添加して発酵液を調整した。この発酵液を所定の温度で所定期間維持することにより主発酵を行った。さらに、主発酵後の発酵液を所定の温度で所定期間維持することにより後発酵を行った。続いて、後発酵後の発酵液を、より低温で所定期間維持することにより貯蔵を行い、濾過して、清澄な低糖質ビールテイストアルコール飲料(発泡酒、サンプルNo.5?8)を得た。
【0059】
また、麦芽使用比率25%未満の市販の低糖質ビールテイストアルコール飲料(発泡酒および新ジャンル系アルコール飲料)をサンプルNo.1?4としてそれぞれ分析試験に供した。なお、サンプルNo.1および2は発泡酒、サンプルNo.3および4はリキュール系新ジャンル飲料である。
【0060】
(2)グルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度の分析
・・・
【0061】
(3)栄養表示基準に基づく糖質濃度の分析
・・・
【0062】
(4)10?20kDaペプチド量の分析
(ア)ゲル濾過分画用のサンプル調製
パイロットプラントで製造した製品サンプルおよび市販品は、計量して凍結乾燥した。乾燥物を50mMリン酸緩衝液(150mM NaCl含む)で溶解して2.5倍濃縮液を調製し、分画用サンプルとした。
【0063】
(イ)HPLCゲル濾過分画
HPLCゲル濾過分画の条件は以下の通りであった。
<HPLCゲル濾過分画条件>
カラム:Superdex75 10/300(GEヘルスケア社製)
サンプル注入量:100μL
溶離液組成:50mMリン酸、20%(v/v)アセトニトリル、150mM NaCl流速:0.5mL/分(流速一定)
検出波長:215nm
分画プログラム:
【0064】
【表3】


【0065】
(ウ)分画範囲の設定
上記HPLCゲル濾過分画条件記載のカラム、溶離液、流速、検出波長において、分子量既知のペプチドを0.1?5mg/mLで適宜超純水に溶解したものを50μL注入してHPLC分析を行い、保持時間を確認した(表4)。その保持時間、分子量から検量線(図3)を作成し、分子量範囲と分画範囲を決定した。
【0066】
【表4】


【0067】
(エ)分画液のLowry法によるタンパク定量
タンパク定量は、実施例1に記載のLowry法により行った。なお、得られた吸光度とBSA濃度から検量線を作成し、分画液のペプチド量(BSA換算)を計算し、分画液量、濃縮倍率から、当該画分の製品相当ペプチド濃度(mg/ml)を算出した。
【0068】
(オ)10?20kDaペプチドの定量
10?20kDaペプチド濃度は、上記HPLCゲル濾過分画における、検量線から決定した分子量10?20kDaの範囲である画分3に含まれるタンパク濃度を、製品相当ペプチド濃度(mg/ml)に換算して求めた。また、10?20kDaペプチド量が全タンパク量の中に占める比率、すなわち10?20kDaのペプチド比率は、以下の算出式にて求めた。
10?20kDaのペプチド比率(%)=10?20kDaペプチド量(mg/製品ml)/全タンパク量(mg/製品ml)×100
【0069】
(5)低糖質ビールテイストアルコール飲料の官能評価
製造して得られた低糖質ビールテイストアルコール飲料、および市販品のビールテイストアルコール飲料に関して、8名の訓練されたパネラーによって官能評価した。評価項目は以下のとおりとした。
【0070】
評価項目1として、ビールらしい味わい(ビールにあるような柔らかくスムーズなテクスチャーが感じられる、調和がとれている)を1点(ビールらしくない)?9点(ビールらしい)の9段階で官能評価した。また、評価項目2として、スムーズな味の流れ(飲み始め、味の中盤、余韻といった飲み込んだときの味の抑揚の流れ方)を1点(弱い)?9点(強い)の9段階で官能評価した。また、評価項目3として、口内に残るざらつき(渋みや舌に残るざらざらした感触といった雑味)を1点(弱い)?9点(強い)の9段階で官能評価した。成分分析の結果および官能評価の結果は表5および図4?8に示される通りであった。
【0071】
【表5】


【0072】
表5に示されるように、麦芽比率25%未満の市販の低糖質ビールテイストアルコール飲料であるサンプルNo.1は、ビールらしい味わいが3.0、スムーズな味の流れは3.0と低くなり、口内に残るざらつきは5.0であった。また、大豆タンパク分解物、水溶性食物繊維および高甘度甘味料であるアセスルファムKなどを一部または全部含む、市販の低糖質ビールテイストアルコール飲料であるサンプルNo.2?4では、サンプルNo.1に比較して、ビールらしい味わいが3.2?3.5と高くなっているのに対して、スムーズな味の流れは3.4?3.8と低くなり、口内に残るざらつきが5.6?5.8と高くなった。
【0073】
一方、麦芽比率25%未満のサンプルNo.5およびNo.6では、サンプルNo.1に比較して、ビールらしい味わいが3.1?3.7と高めとなり、スムーズな味の流れは3.9?4.8と高めとなり、口内に残るざらつきが4.4?4.9と低めであり、香味評価が良好になる傾向が認められた。すなわち、10?20kDaのペプチド濃度が0.05mg/mL製品以上であり、10?20kDaのペプチド比率が2.7%以上であり、かつ、グルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度が4.9mg/ml以下の場合に、好ましい官能評価結果が得られることが分かった。
【0074】
すなわち、サンプルNo.1?4はいずれも、ビールらしい柔らかなテクスチャーや、飲み始め・中盤・余韻のスムーズな味の流れに欠けるという香味上の問題、および/または、渋さ・酸味・ざらつきなどの雑味があるという香味上の問題を有しており、これらの結果として全体の味わいの調和に欠けるという課題があった。一方、サンプルNo.5?8ではこれらの問題がいずれも解決されており、ビールらしい柔らかなテクスチャーやスムーズな味の流れがあり、雑味が低減され、調和のとれた味わいを有する低糖質のビールテイストアルコール飲料であった。
【0075】
また、3つの香味評価項目のスコアを元に以下の計算式にて、香味の総合評価スコアを算出したところ、市販の低糖質ビールテイストアルコール飲料であるサンプルNo.1?4に比較して、試醸品であるサンプルNo.5?8は、そのスコアが大幅に改善されていた。
香味の総合評価スコア=(ビールらしい味わいスコア)+(スムーズな味の流れスコア)-(口内に残るざらつきスコア)
【0076】
また、図4および図5にスムーズな味の流れの官能評価結果のバブルグラフを示した。いずれの図でも、枠で囲われた範囲内にプロットされるサンプルにおいて、スムーズな味の流れの官能評価スコアが3.9以上となることが分かった。
【0077】
また、図6および図7に香味の総合評価スコアのバブルグラフを示した。いずれの図でも、枠で囲われた範囲内にプロットされるサンプルにおいて、香味の総合評価スコアが2.5以上となることが分かった。
【0078】
また、図4のグラフの縦軸を、栄養表示基準に基づく糖質濃度とした場合においても、分析値の絶対値は異なるが、枠で囲われた範囲内のプロットされるサンプルにおいて、同様にスコアが良好であることが分かった(図8)。
【0079】
以上の結果から、低糖質ビールテイストアルコール飲料において、10?20kDaのペプチドが特定濃度の範囲内、かつ、特定比率の範囲内で含まれ、さらに、グルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度が4.9mg/ml製品以下の場合に、ビールのように柔らかくスムーズなテクスチャーや、スムーズな味の流れが感じられ、渋味やざらつきなどの雑味が少なく、味わいの調和感が向上することが示された。
【0080】
実施例3:ペプチド画分および糖質画分の低糖質ビールテイストアルコール飲料への添加と官能評価
(1)ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造と分画精製物の調製および分析
実施例1に記載したビールテイスト発酵アルコール飲料から、実施例1に記載した方法に従って、ペプチド画分(A1、A2)を精製した。さらに、以下の方法にて同サンプルから全糖質画分を調製した。すなわち、実施例1に記載した分画前のビールテイスト発酵アルコール飲料を、固相抽出カラム(Bond Elute C18 EWPおよびBond Elute C18の両方を使用、Agilent technologies社製)にて吸着処理を行い、その素通り液および脱塩水による洗浄液を回収した。この固相抽出カラムの素通り画分は、さらにアニオン・カチオン・イオン交換樹脂(アンバーライトIR120HおよびアンバーライトXE583、オルガノ社製)にて脱塩後、少量の活性炭にて脱臭処理し、濃縮乾固を行い、これを脱塩水にて復水し、濃縮液とした。これを全糖質画分とした。10?20kDaペプチド量の定量とグルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度の分析は、実施例2に記載した方法と同様の方法で行った。調製した分画・精製サンプルを下記表6に示した量となるように、サンプルNo.1、2、4の市販製品に添加し、5名のパネルにより官能評価を行った。
【0081】
(2)官能評価
官能評価の項目は実施例2と同様にした。すなわち、評価項目1として、ビールらしい味わい(ビールにあるような柔らかくスムーズなテクスチャーが感じられる、調和がとれている)を1点(ビールらしくない)?9点(ビールらしい)の9段階で官能評価した。また、評価項目2として、スムーズな味の流れ(飲み始め、味の中盤、余韻といった飲み込んだときの味の抑揚の流れ方)を1点(弱い)?9点(強い)の9段階で官能評価した。また、評価項目3として、口内に残るざらつき(渋みや舌に残るざらざらした感触といった雑味)を1点(弱い)?9点(強い)の9段階で官能評価した。官能結果および分析結果は表6並びに図9および図10に示される通りであった。
【0082】
【表6】


【0083】
表6並びに図9および図10に記載された結果から、糖質量が一定値以下であるサンプルNo.1に対し、10?20kDaペプチド量が0.18mg/mlとなるようにした添加1は、スムーズな味の流れが4.0、香味の総合評価が3.3と高くなった。また、併せて全糖質画分を添加してグルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度を5.6mg/mlとした添加2においても、スムーズな味の流れが3.6、香味の総合評価が2.7と改善される傾向が認められた。また、大豆タンパク分解物、水溶性食物繊維および高甘度甘味料であるアセスルファムKなどを一部または全部含む、市販の低糖質ビールテイストアルコール飲料であるサンプルNo.2および4に対し、10?20kDaペプチド量が0.17mg/mlまたは0.16mg/mlとなるようにした添加4および6は、スムーズな味の流れが4.0以上、香味の総合評価が2.8以上と高くなった。また10?20kDaペプチド量が0.12mg/mlまたは0.09mg/mlとなるようにした添加3および5においても、スムーズな味の流れが3.5以上、香味の総合評価が2.1以上と改善される傾向が認められた。すなわち、糖質量が一定値以下の領域において、大豆タンパク分解物、水溶性食物繊維および高甘度甘味料であるアセスルファムKなどを一部または全部含み、スムーズな味の流れや、香味の総合評価が損なわれていたサンプルNo.2および4においても、10?20kDaペプチド量が一定値以上になると官能評価スコアは向上することが明らかになった。
【0084】
また、実施例2のデータと合わせると、グルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度が5.6mg/ml製品以下の、麦芽比率25%未満のビールテイストアルコール飲料において、10?20kDaのペプチド濃度が0.05mg/mL製品以上、かつ、10?20kDaのペプチド比率が2.7%以上の場合に、スムーズな味の流れが3.5以上と高くなり、また、香味の総合評価スコアが2.1以上と高くなり、官能評価スコアは改善する傾向があることが明らかになった。
【0085】
実施例4:タンパク画分の分子種同定
本実施例では2D-PAGEおよびMALDI-TOF-MSによりビールらしい味わいに寄与するタンパク質の同定を試みた。
【0086】
(1)ビールテイストアルコール飲料の製造
サンプルNo.9および10はラボスケールにて、サンプルNo.11および12はパイロットプラントで、それぞれビールテイストアルコール飲料の製造を行った。サンプルNo.9および10の使用原料中の麦芽使用比率は100%、サンプルNo.11および12の使用原料中の麦芽使用比率は25%未満とした。
【0087】
(ア)サンプルNo.9および10の調製条件
サンプルNo.9は、50℃のお湯300mlに大麦麦芽100gを入れ、酵素製剤を添加して60分保持後、65℃に昇温して60分保持し、さらに78℃に昇温して5分保持後、濾過して麦汁を得た。サンプルNo.10は、50℃工程を行わず、酵素製剤を添加しない以外は同様に麦汁を得た。続いて、ホップを0.8g/L投入して100℃で90分煮沸したのち、濾過して発酵前液を得た。その後、常法に従ってビール酵母により発酵を行い、ビールテイストアルコール飲料(ビール)を調製した。
【0088】
(イ)サンプルNo.11の調製条件
60℃の湯100質量部に対して、コーングリッツ27.1質量部と大麦麦芽2.1質量部を投入して5分保持後78℃に昇温して5分保持してさらに100℃に昇温して30分保持したものをA醪とした。また、別の釜で、50℃の湯246.4質量部に大麦麦芽27.1質量部、大麦45.0質量部、酵素製剤を投入して50分保持したものをB醪とした。得られたA醪とB醪を直ちに混合させて65℃とした。その後、65℃で100?140分保持した後、78℃に昇温して5分保持した後、濾過して麦汁を得た。
【0089】
(ウ)サンプルNo.12の調製条件
50℃の湯100質量部に対して、コーングリッツ30.4質量部と大麦麦芽2.8質量部を投入して5分保持後78℃に昇温して5分保持してさらに100℃に昇温して40分保持したものをA醪とした。また、別の釜で、50℃の湯148.0質量部に大麦麦芽4.8質量部、大麦50.4質量部、酵素製剤を投入して60分保持した後、さらに70℃に昇温させて30分保持したものをB醪とした。また、さらに別の釜で、50℃の湯140.0質量部に大麦麦芽25.2質量部、酵素製剤を投入して30分保持したものをC醪とした。得られたB醪とC醪を直ちに混合し60℃として15分保持したものをD醪とした。得られたA醪とD醪を直ちに混合し65℃として80分保持し、さらに78℃に昇温して10分間保持した後、濾過して麦汁を得た。
【0090】
上記の麦汁調製工程(イ)および(ウ)に続いて、得られたそれぞれの麦汁にホップおよび液糖をさらに投入して100℃で60?70分煮沸した後、麦汁静置を行い、トリューブを分離した後、冷却して発酵前液を得た。その後、発酵前液に下面発酵酵母を添加して発酵液を調整した。この発酵液を所定の温度で所定期間維持することにより主発酵を行った。さらに、主発酵後の発酵液を所定の温度で所定期間維持することにより後発酵を行った。続いて、後発酵後の発酵液を、より低温で所定期間維持することにより貯蔵を行い、濾過して、清澄なビールテイストアルコール飲料(発泡酒)を得た。
【0091】
(2)ペプチド画分の精製
得られたビールテイストアルコール飲料を用いて、実施例1に記載した方法に従って、ペプチド画分(A1、A2)を精製した。
【0092】
(3)タンパク質の同定
得られたペプチド画分A1、A2の等量混合液200μLをTCAアセトン沈殿によってタンパク質を精製し、2D-PAGEによる電気泳動後、銀染色を行った。図11に、2D-PAGEの結果を示す。図11Aは、サンプルNo.9由来のペプチド画分であり、図11Bは、サンプルNo.10由来のペプチド画分である。また、図11Cは、サンプルNo.11由来のペプチド画分であり、図11Dは、サンプルNo.12由来のペプチド画分である。図11のAおよびBから分かるように、サンプルNo.9とサンプルNo.10由来のペプチド画分の間では、丸で囲った範囲のバンドにおいて量的な差があることが分かった。また、図11のCおよびDから分かるように、サンプルNo.11とサンプルNo.12由来のペプチド画分の間では、丸で囲った範囲のバンドにおいて量的な差があることが分かった。
【0093】
次に、図11で示す矢印のバンドを切り出し、トリプシン(In-Solution Tryptic Digestion and Guanidination Kit、Thermo Scientific社製)を用いてタンパク質を消化した。得られたトリプシン消化ペプチド溶液を、レジン充填ピペットチップ(Zip-Tip C18、Merck Millipore社製)を用いて脱塩濃縮した。脱塩濃縮したペプチド溶液とマトリックス(10μg/μLα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸・メタノール溶液)をプレート上で等量ずつ混合した後、MALDI-TOF-MS(Bruker Daltonics社製)を用いてMSスペクトルを取得し、Mascot/SWISS-PROTデータベース検索によってタンパク質の同定を行った。
【0094】
MALDI-TOF-MSによるタンパク質同定の結果は表7に示される通りであった。
【表7】


【0095】
サンプルNo.9および10のペプチド画分(画分A1?A2)中の量差のあるタンパク質としては、α-アミラーゼ/トリプシンインヒビターCMb、、α-アミラーゼ/トリプシンインヒビターCMd、トリプシンインヒビターCmeが同定された。また、サンプルNo.11および12のペプチド画分(画分A1?A2)中の量差のあるタンパク質としては、α-アミラーゼ/トリプシンインヒビターCMb、α-アミラーゼ/トリプシンインヒビターCMd、トリプシンインヒビターCme、セルピン-Z4、非特異的脂質転移タンパク1(non-specific lipid-transfer protein 1)が同定された。なお、同定されたタンパク質はいずれもオオムギ(Hordeum vulgare)由来のタンパク質である。α-アミラーゼ/トリプシンインヒビターCMb、α-アミラーゼ/トリプシンインヒビターCMd、トリプシンインヒビターCme、セルピン-Z4は、プロテアーゼ阻害タンパク質として知られており、non-specific lipid-transfer protein 1は、脂質転移タンパク質として知られている。」

f)図面の記載
「【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】



本件明細書及び図面については、一度も補正、訂正はされていない。

2-3 判断
(1-A)2-1の(1-A)について
ア 本件発明の「ビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する・・・ペプチド画分」との特定事項は、特許請求の範囲全体の記載を技術常識(構成成分に分けること又は分けられた各成分)を参酌して判断すれば、ペプチドに分子量分布があるところ、分子量の範囲で構成成分に分けた特定分子量の部分と理解できる。
したがって、後述のとおり、特許請求の範囲の記載、発明の詳細な説明の記載、及び令和2年3月31日付けの補正に、明確性要件違反、サポート要件違反、実施可能要件違反、新規事項の追加の理由は存在しない。

イ 特許異議申立人の主張は、要するに、本件明細書では、添加画分のみに由来するペプチドの濃度を特定の範囲とすることで所望の効果が得られることは何ら記載されていないから、「該ペプチド画分に含まれるペプチドの飲料中の濃度(ペプチドの合計量)」が特定範囲内であることを規定する本件発明1?3については、実施可能要件、サポート要件を満たすものでなく、また、かかる規定を追加した、令和2年3月31日付けの補正は新規事項を追加するものであり、さらに、仮に当該規定が、飲料中のペプチドの濃度を規定する意図であるとすれば、本件発明1?3は明確でないというものであり、この主張は、本件発明1?3における「ペプチド画分」は、ビールテイスト発酵アルコール飲料に添加されるものを意味し、添加先のビールテイスト発酵アルコール飲料に存在するペプチドは該「ペプチド画分」には含まれないことをその根拠とするものであると解される、というものである(下線は当審が付与。以下同様。)。
そこで、検討する。
本件発明1における「ペプチド画分」について、本件明細書にその定義の記載はない。
本件明細書には、「【0014】本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料ではビールテイスト発酵アルコール飲料の原料に由来する分子量10?20kDaのペプチド濃度が特定値以上であることを特徴とする。本明細書において「ペプチド濃度」は10?20kDaの分子量を有する1種または2種以上のペプチドの含有量を合計して算出されるものである。また本明細書においてペプチドの「分子量」はゲル濾過法により測定されるものであり、測定の具体例は後記実施例2に示される通りである。ペプチドの定量はローリー法(Lowry法)により実施することができる。
【0015】本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料では分子量10?20kDaのペプチド濃度を0.050mg/ml以上とすることができ、好ましくは0.055mg/ml以上、より好ましくは0.11mg/ml以上である。該ペプチド濃度は味の調和の観点から上限を設けることができ、例えば、0.45mg/mlを上限とすることができる。また、全タンパク量に対する分子量10?20kDaのペプチド量の比率を2.7%以上とすることができ、好ましくは3.2%以上、より好ましくは3.9%以上である。該比率は味の調和の観点から上限を設けることができ、例えば、8.0%を上限とすることができる。後記実施例2および3に示されるように分子量10?20kDaのペプチドの濃度や比率を特定値以上に設定することによって、低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料(特に、麦芽使用比率が25%未満であるビールテイスト発酵アルコール飲料)の雑味を抑制するとともに、該飲料をビールらしい柔らかなテクスチャーやスムーズな味の流れがあり、調和のとれた味わいがある飲料とすることができる。」との記載があり、これらの記載においては、分子量10?20kDaのペプチド濃度は飲料全体に対するものであることが理解できる。
そして、これらの記載に続いて、本件明細書には、ペプチド画分を添加する製法に関する【0025】、【0034】の記載とともに、ペプチド画分、α-グルカン画分をビールテイスト発酵アルコール飲料に添加することがない製法として、「【0020】本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料は分子量10?20kDaのペプチド濃度が所定値の範囲内に調整される限り、通常の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造手順に従って製造することができる。」、「【0023】本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の製法において製造飲料中の分子量10?20kDaのペプチド濃度を所定値の範囲内に調整するためには、例えば、原料である麦芽および/または未発芽の麦類の仕込み・糖化工程におけるタンパク分解を抑制することや、原料である麦芽の製麦工程におけるタンパク分解度を抑制することなどにより、調整することができる。」との記載がある。
また、それら一般的な記載に対応するものとして、本件明細書の【0053】?【0079】の実施例2において、ペプチド画分を添加することなく、各種低糖質ビールテイストアルコール飲料を製造し、その分子量10?20kDaペプチド量の分析を行い、表3において、10?20kDaのペプチド濃度を「画分3」と記載し、表5において、飲料全体の10?20kDaのペプチドの濃度及び比率が記載されており、同【0080】?【0084】の実施例3における飲料についても、表6において、飲料全体の10?20kDaのペプチドの濃度及び比率が記載されており、具体的な実施例においては、10?20kDaのペプチドの濃度について、それが添加された場合、添加されていない場合にかかわらず、飲料全体におけるものとして記載されている。
さらに、【0041】?【0052】の実施例1には、分画・精製したサンプルを市販のビール系アルコール飲料に添加することについて、「【0048】(5)官能評価 これらの分画・精製サンプルを、大麦と大麦麦芽を使用した市販の麦芽使用比率50%未満のビール系アルコール飲料に、その飲料に含まれる各画分量の約20%、あるいは50%上乗せとなるよう添加し(表2および図1参照)、6名のパネルにより官能評価を行った。」として、飲料自体に画分が含まれると解される記載もある。
これら本件明細書の記載からみて、本件明細書における「ペプチド画分」とは、低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料に添加されるペプチド画分のみではなく、HPLCゲル濾過分画等によって分画することができる当該飲料に含まれるペプチド画分を意味するといえるところ、本件発明1においても、「低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料であって、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10?20kDa(ゲル濾過法)のペプチド画分を含んでなり、該ペプチド画分に含まれるペプチドの、前記低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料中の濃度(ペプチドの合計量)が0.115mg/ml以上0.177mg/ml以下であり」と、飲料が全体として「ペプチド画分」を含むと解される特定がされているから、当該特定の意味を本件明細書の記載から把握できる上記のような意味と捉えることと矛盾するものではない。
したがって、本件発明1については、明確性要件、サポート要件、実施可能要件を満たすものであり、令和2年3月31日付けの補正は新規事項を追加するものではない
本件発明2?3についても同様である。
してみると、「ペプチド画分」は、ビールテイスト発酵アルコール飲料に添加されるものを意味し、添加先のビールテイスト発酵アルコール飲料に存在するペプチド該「ペプチド画分」には含まれないことを前提として、本件発明について、実施可能要件、サポート要件を満たすものでなく、令和2年3月31日付けの補正は新規事項を追加するものであり、明確でない、という特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(1-B)2-1の(1-B)について
ア 本件発明の「分子量10?20kDa(ゲル濾過法)のペプチド画分に含まれるペプチド」について、特許請求の範囲、明細書及び図面の全体の記載及び出願時の技術常識からみて、「非特異的脂質転移タンパク1 (LTP1)」、「セルピン-Z4」はいずれも上記ペプチドに該当するといえ、また、本件明細書には、分画条件が記載されている。
したがって、特許請求の範囲の記載、発明の詳細な説明の記載に明確性要件違反、サポート要件違反、実施可能要件違反の理由は存在しない。以下、特許異議申立人の主張を検討するとともに、具体的に述べる。

イ 特許異議申立人の主張は、要するに、本件発明1?3について、当該発明で特定される「分子量10?20kDaのペプチド」が、970ODaltonである「非特異的脂質転移タンパク1 (LTP1)」、約43kDaである「セルピン-Z4」を含むものであり、また、本件明細書には分画条件が詳細に記載されていないから、明確でなく、本件発明1?3はサポート要件及び実施可能要件を欠くというものであると解される。
そこで、検討する。
本件明細書には、【0085】?【0095】に実施例4として、タンパク画分の分子種同定に関する記載があり、同定の結果として、表11にスポットD2、D5、D6がSerpin-Z4(すなわち、セルピン-Z4)を含むこと、スポットD8がNon-specific lipid-transfer protein 1(すなわち、非特異的脂質転移タンパク質1)であることが記載されており、サンプルNo.12由来の2D-PAGEの結果である図11Dからみて、スポットD2、D5、D6、D8の分子量は、本件発明1で特定される10?20kDaの範囲にあるといえる。
また、ペプチドの分画条件、定量方法については、本件明細書【0062】?【0068】にその具体的な記載がある。
そして、分画により決定した分子量等に測定誤差等の誤差が生じることがあるとしても、そのような誤差が生じることは出願時の技術常識であり、本件発明1においては、分子量、濃度、比率について数値範囲を以て明確に特定されているから、本件発明1について、明確性要件、サポート要件、実施可能要件についての不備があるとはいえず、これらの要件を満たすものである。
本件発明2?3についても同様である。
なお、甲1?3、12に特許異議申立人が主張する記載があるとしても、上述のとおり、本件明細書において、非特異的脂質転移タンパク質1及びセルピン-Z4の分子量が本件発明1で特定される分子量の範囲内であることが記載されているのであるから、上記判断を左右しない。
したがって、本件発明1で特定される「分子量10?20kDaのペプチド」が970ODaltonである「非特異的脂質転移タンパク1 (LTP1)」、約43kDaである「セルピン-Z4」を含むものであり、また、本件明細書には分画条件が詳細に記載されていないことを前提とする、本件発明1について、明確性要件、実施可能要件、サポート要件を満たすものでない、という特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(2)2-1の(2)について
ア 本件明細書及び図面の記載からみて、本件発明は、特定分子量のペプチドが上記課題の解決に寄与することを見出したことにより上記課題を解決したことを技術思想とする発明であると解することができ、また、本件明細書には、大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、大麦由来のセルピン-Z4および大麦由来の非特異的脂質転移タンパク1を含む低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料が香味改善に関する一定の効果があることが示されているといえるから、当該飲料について、香味を改善することができることを認識できるといえる。また、本件明細書及び図面の記載を参酌すれば、原料組成が異なった場合においても一定程度効果を奏すると認識できるといえる。
したがって、特許請求の範囲の記載、発明の詳細な説明の記載にサポート要件違反、実施可能要件違反の理由は存在しない。以下、特許異議申立人の主張を検討するとともに、具体的に述べる。

イ 特許異議申立人の主張は、要するに、大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、大麦由来のセルピン-Z4および大麦由来の非特異的脂質転移タンパク1を含むオオムギ由来のペプチド自体が香味に効果があるか否かは不明であるため、サポート要件を欠き、麦芽が極めて少量である場合等、使用する原料組成が異なった場合においてまで、本件実施例と同様の香味改善効果があるとの技術常識は存在しないため、本件発明1?3はサポート要件、実施可能要件を欠くということである。
上記主張を検討する。

(ア)本件明細書及び図面の全体の記載事項、特に【0005】の記載並びに出願時の技術常識からみて、本件発明1?3の解決しようとする課題は「香味が改善された低糖質ビールテイストアルコール飲料とその製造方法を提供すること」であると認める。
当該課題を解決するための手段について、本件明細書には、「【0006】本発明者らは、低糖質ビールテイストアルコール飲料において、特定分子量のペプチドがビールらしい柔らかなテクスチャーやスムーズな味の流れを付与するとともに、雑味の低減や調和の取れた味わいの付与に寄与することを見出した。本発明者らはまた、特定分子量のペプチドの濃度を特定の濃度範囲内にすることで、よりビールらしい調和感のある味わいが実現できることを見出した。本発明者らはさらに、ビールテイストアルコール飲料の風味改善に寄与するペプチドを具体的に特定した。本発明はこれらの知見に基づくものである。」と記載されることから、第一義的には、本件発明は、特定分子量のペプチドが上記課題の解決に寄与することを見出したことにより上記課題を解決したものであると解することができる。
【0006】には、ビールテイストアルコール飲料の風味改善に寄与するペプチドを具体的に特定したことが記載されており、当該特定された「ペプチド」とは、本件明細書の「【0027】麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10?20kDaの1種または2種以上のペプチドの例としては、α-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、セルピン-Z4および非特異的脂質転移タンパク1(non-specific lipid-transfer protein 1)が挙げられ、好ましくは、これらのタンパク質およびペプチドは大麦由来のものである。」との記載、実施例4、表7、図11Dの記載からみて、本件発明1で特定されるペプチドを指すと一応認められる。
当該図11Dは、実施例4のサンプルNo.12の2D-PAGEの結果であるとされるところ(【0092】)、当該サンプルには、大麦由来(【0095】)のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、セルピン-Z4及び非特異的脂質転移タンパク1が含まれることが示されている(表7と図11D)。また、実施例4のサンプルNo.11は同様の原料を用いて製造されたサンプルであるところ(【0088】、【0089】)、それらの2D-PAGEの結果について、バンドに量的な差があると記載され(【0092】)、バンドの種類には差がないと解されることから、サンプル中に含まれるペプチドの種類も共通し、α-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、セルピン-Z4及び非特異的脂質転移タンパク1が含まれるといえるところ、実施例2のサンプルNo.5及び6は、実施例4のNo.11及び12と同様に大麦を原料として得られた飲料であるから、上記サンプルNo.12と同様に、大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、セルピン-Z4及び非特異的脂質転移タンパク1を含むと解される。
そして、実施例2のサンプルNo.5及び6の飲料について、ビールらしい味わいが高めとなり、口内に残るざらつきが低めとなり、香味評価が良好になる傾向が認められたこと、好ましい官能評価結果が得られることが分かったこと、ビールらしい柔らかなテクスチャーやスムーズな味の流れがあり、雑味が低減され、調和のとれた味わいを有する低糖質のビールテイストアルコール飲料であったこと、香味の総合評価スコアが大幅に改善されていたことが記載されている(【0073】?【0075】)。
さらに、本件明細書には、実施例1として、ペプチド画分のビールテイストアルコール飲料への添加と官能評価についての記載があり、大麦を原料として製造されたビールテイストアルコール飲料を元にゲル濾過分画を経て得られた分子量10?20kDaのペプチドが分布している画分A1?A2をビール系アルコール飲料に添加したものについて評価した結果として、「分画・精製した分子量約10?20kDaのペプチド画分A1およびA2は、雑味が抑制され調和のとれたビールらしい味わいをビールテイストアルコール飲料に付与できることが明らかとなった」との記載があり(【0041】?【0052】)、実施例3として、ペプチド画分および糖質画分の低糖質ビールテイストアルコール飲料への添加と官能評価についての記載があり、上記A1及びA2を添加した市販の低糖質ビールテイストアルコール飲料に添加したものについて、香味の総合評価が向上、改善する旨の記載がある(【0080】?【0084】)。
してみると、本件明細書には、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10?20kDa(ゲル濾過法)のペプチド画分を含んでなり」、「前記ペプチド画分が、大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、大麦由来のセルピン-Z4および大麦由来の非特異的脂質転移タンパク1を含むものである」、「低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料」である、本件発明1の飲料について、香味改善に関する一定の効果があることが示されているといえる。
そして、本件明細書において「大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、大麦由来のセルピン-Z4および大麦由来の非特異的脂質転移タンパク1を含むオオムギ由来のペプチド」自体が香味に効果があるか否かが直接示されていないとしても、そのことで、サポート要件を満たさないとする理由はない。

(イ)また、本件発明1が実施例で効果を示した以外のビールテイスト発酵アルコール飲料に由来するペプチド画分についても包含することについて、本件発明1は「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10?20kDa(ゲル濾過法)のペプチド画分」と特定するものであるところ、本件明細書には、使用原料について「【0022】本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造では、麦芽以外に、未発芽の麦類(例えば、未発芽大麦(エキス化したものを含む)、未発芽小麦(エキス化したものを含む));米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖)等の酒税法で定める副原料;タンパク質分解物や酵母エキス等の窒素源;香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物を醸造原料として使用することができる。すなわち、本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料は、醸造用水以外の使用原料を少なくとも麦芽、未発芽の麦類(好ましくは、未発芽大麦)およびホップとすることができ、場合によっては更に糖類、米、とうもろこし、でんぷん等を使用原料とすることができる。」との記載、ペプチドについて「【0027】麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10?20kDaの1種または2種以上のペプチドの例としては、α-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、セルピン-Z4および非特異的脂質転移タンパク1(non-specific lipid-transfer protein 1)が挙げられ、好ましくは、これらのタンパク質およびペプチドは大麦由来のものである。α-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、セルピン-Z4あるいは非特異的脂質転移タンパク1を低糖質ビールテイストアルコール飲料に配合するときは、これらのペプチドあるいはタンパク質は麦芽または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料から調製したもの以外のペプチドあるいはタンパク質であってもよい。」との記載がある。

かかる記載に接した当業者は、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10?20kDa(ゲル濾過法)のペプチド画分」が必須であるものの、原料としては麦芽および/または未発芽の麦類以外のものを用いることができると理解するといえ、上述のとおりの実施例の記載からは、「大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、大麦由来のセルピン-Z4および大麦由来の非特異的脂質転移タンパク1を含むオオムギ由来のペプチド」を含む上記分子量10?20kDa(ゲル濾過法)のペプチド画分によって、香味を改善することができることを認識できるといえる。すなわち、当業者は、飲料の原料として、麦芽以外の物が多く、ペプチド画分に含まれるペプチドの組成が異なることがあったとしても、少なくとも、大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、大麦由来のセルピン-Z4および大麦由来の非特異的脂質転移タンパク1を含むオオムギ由来のペプチドを含む、所定の分子量10?20kDa(ゲル濾過法)のペプチド画分を含むことによって、実施例に記載のサンプルと同様に香味を改善することを認識できるといえる。
そして、実施例に記載されたものとは異なる原料を用いた場合に上記課題を解決できないという具体的な根拠や出願時の技術常識もない。

してみると、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10?20kDa(ゲル濾過法)のペプチド画分」を含み、「ペプチド画分が、大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、大麦由来のセルピン-Z4および大麦由来の非特異的脂質転移タンパク1を含むものである」、本件発明1の低糖質ビールテイストアルコール飲料については、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえる。

(ウ)さらに、上で指摘した実施例2のサンプルNo.5、6は本件発明1で特定されるペプチドの濃度、比率について、それぞれ、0.115?0.123mg/mL、5.0?5.3%の値を有するものであり(表5)、また、実施例3には、同様に上記の値について、0.118?0.177mg/mL、3.2?5.7%の値を有するものが記載され(表6、添加1?4、6)、実施例2及び3について、本件明細書には、「【0079】以上の結果から、低糖質ビールテイストアルコール飲料において、10?20kDaのペプチドが特定濃度の範囲内、かつ、特定比率の範囲内で含まれ、さらに、グルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度が4.9mg/ml製品以下の場合に、ビールのように柔らかくスムーズなテクスチャーや、スムーズな味の流れが感じられ、渋味やざらつきなどの雑味が少なく、味わいの調和感が向上することが示された。」、「【0083】表6並びに図9および図10に記載された結果から、糖質量が一定値以下であるサンプルNo.1に対し、10?20kDaペプチド量が0.18mg/mlとなるようにした添加1は、スムーズな味の流れが4.0、香味の総合評価が3.3と高くなった。また、併せて全糖質画分を添加してグルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度を5.6mg/mlとした添加2においても、スムーズな味の流れが3.6、香味の総合評価が2.7と改善される傾向が認められた。また、大豆タンパク分解物、水溶性食物繊維および高甘度甘味料であるアセスルファムKなどを一部または全部含む、市販の低糖質ビールテイストアルコール飲料であるサンプルNo.2および4に対し、10?20kDaペプチド量が0.17mg/mlまたは0.16mg/mlとなるようにした添加4および6は、スムーズな味の流れが4.0以上、香味の総合評価が2.8以上と高くなった。また10?20kDaペプチド量が0.12mg/mlまたは0.09mg/mlとなるようにした添加3および5においても、スムーズな味の流れが3.5以上、香味の総合評価が2.1以上と改善される傾向が認められた。すなわち、糖質量が一定値以下の領域において、大豆タンパク分解物、水溶性食物繊維および高甘度甘味料であるアセスルファムKなどを一部または全部含み、スムーズな味の流れや、香味の総合評価が損なわれていたサンプルNo.2および4においても、10?20kDaペプチド量が一定値以上になると官能評価スコアは向上することが明らかになった。」、「【0084】また、実施例2のデータと合わせると、グルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度が5.6mg/ml製品以下の、麦芽比率25%未満のビールテイストアルコール飲料において、10?20kDaのペプチド濃度が0.05mg/mL製品以上、かつ、10?20kDaのペプチド比率が2.7%以上の場合に、スムーズな味の流れが3.5以上と高くなり、また、香味の総合評価スコアが2.1以上と高くなり、官能評価スコアは改善する傾向があることが明らかになった。」と記載されている。
したがって、本件発明1で特定されるペプチドの濃度、比率、α-グルカンの濃度について、相当程度の範囲の実施例が記載されている。そして、実施例に記載されたものとは異なる原料を用いた場合に香味を改善することができないという具体的な根拠や出願時の技術常識もない。
よって、本件明細書における製造方法の一般的な記載(【0020】?【0038】)も参照することによって、それらと同様にして本件発明1で特定される範囲の飲料について当業者が製造することができ、使用することができるといえる。
以上のとおり、本件発明1は実施可能要件及びサポート要件を満たすといえる。
本件発明2?3についても同様であり、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

(3)2-1の(3)について
ア 本件明細書及び図面には、本件発明の飲料が香味改善に関する一定の効果があることが示されており、当該効果が麦芽使用比率の違いによる呈味の違いに影響を受け、例えば麦芽使用比率が高い場合に当該効果を奏しないものとなるという出願時の技術常識はない。
したがって、特許請求の範囲の記載にサポート要件違反の理由は存在しない。以下、特許異議申立人の主張を検討するとともに、具体的に述べる。

イ 特許異議申立人の主張は、要するに、甲13?15から、麦芽使用比率によって呈味が異なることが周知であるから、麦芽使用比率25%未満のもので効果が確認できても、本件明細書の記載からは、麦芽使用比率25%以上の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料全般において、同様の効果が常に奏されて課題が解決できると理解することは困難であり、本件発明1?3はサポート要件を欠くというものである。
そこで、検討する。
本件発明1及び3では麦芽使用比率の特定はなく、本件発明2では、麦芽使用比率が3分の2未満であると特定している。
本件明細書には、「【0013】本発明の第一の面によれば麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とする低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料が提供される。本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料は麦由来の原料として少なくとも麦芽を使用するものとすることができ、その場合、麦芽使用比率は3分の2未満とすることができ、好ましくは麦芽使用比率が50%未満、さらに好ましくは25%未満である。本明細書において「麦芽使用比率」とは、醸造用水を除く全原料の質量に対する麦芽質量の割合をいう。麦芽使用比率が25%未満であるビールテイスト発酵アルコール飲料としては、麦芽使用比率が25%未満の発泡酒や、麦芽使用比率が25%未満のリキュール系新ジャンル飲料が挙げられる。」と記載され、麦芽使用比率が25%未満等の低い場合が好ましいことの記載があるが、麦芽使用比率が特定のものに限られるとの記載はない。

しかしながら、上記(2)で述べたとおり、本件明細書には、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10?20kDa(ゲル濾過法)のペプチド画分を含んでなり」、「前記ペプチド画分が、大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、大麦由来のセルピン-Z4および大麦由来の非特異的脂質転移タンパク1を含むものである」、「低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料」である、本件発明1の飲料について、香味改善に関する一定の効果があることが示されているといえ、本件発明1は、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえる。
そして、本件発明1の構成において、当該効果が麦芽使用比率の違いによる呈味の違いに影響を受け、例えば麦芽使用比率が高い場合に当該効果を奏しないものとなるという出願時の技術常識はない。
したがって、仮に、甲13?15の記載から、麦芽使用比率が高い飲料と麦芽使用比率が低い飲料とで呈味が異なることが周知であるといえるとしても、そのことによって、本件発明1が上記課題を解決できないということはできず、本件発明1は、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲内のものである。
本件発明2及び3についても同様である。
よって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

2-4 理由1?4についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1?3について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に適合しない旨の理由1、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合しない旨の理由2、特許を受けようとする発明が明確でないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合しない旨の理由3、令和2年3月31日付けの手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない旨の理由4にはいずれも理由がない。

3 理由5について
(1)引用発明
上記1の摘示6a)の請求項1を引用する請求項4を引用する請求項5の記載からみて、甲6には、
「大麦から得られた、分子量が10?25kDaのポリペプチドを含む疎水性ポリペプチドを1.1g/L以上含有することを特徴とする発泡性飲料。」の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認める。
また、甲8は、淡麗グリーンラベルと称される発泡酒のリニューアル発売に関する2015年1月9日付けの広告であるところ、「「淡麗グリーンラベル」は2002年の発売以来、「おいしい糖質オフ」としてお客様に好評いただいています。」、「今回のリニューアルでは、アロマホップの一種で柑橘類を思わせる華やかな香りが特長のカスケードホップを増量し、麦芽と大麦をそれぞれしっかり仕込む」、「淡麗○R(当審注:○の中にR)ブランドの発泡酒NO.1※3としての存在感をさらに高め、発泡酒市場全体のさらなる活性化を目指します。※3 2013年発泡酒課税出荷数量による」との記載からみて、「淡麗グリーンラベル」は2002年に発売され、少なくとも2013年頃には、日本国内において公知の発泡酒であったと認められる。
また、甲8には、「”糖質70%オフ”※1で人気」であること、商品のラベルに「糖質70%オフ」と記載されている。
したがって、甲8の記載からみて、
「「淡麗グリーンラベル」と称される糖質70%オフの発泡酒」の発明(以下「甲8発明」という。)が本件出願時に公知であったといえる。

(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)甲6発明について
本件発明1と甲6発明とを対比する。
甲6発明の「発泡性飲料」は、飲料である限りにおいて本件発明1の「低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料」に相当する。
本件発明1の「ペプチド画分」は、飲料が含む成分であり、その分子量からみて、ポリペプチドであるといえる。したがって、ポリペプチドである限りにおいて、甲6発明の「ポリペプチドを含む疎水性ポリペプチド」は、本件発明1の「ペプチド画分」に相当する。
甲6発明は、「大麦から得られた、分子量が10?25kDaのポリペプチドを含む疎水性ポリペプチド」を含有するものであるから、大麦を原料の一部として含むといえるところ、大麦は麦類であるから、「麦類を原料の一部とする」限りにおいて、本件発明1と一致する。
また、甲6発明の「ポリペプチドを含む疎水性ポリペプチド」は大麦から得られたものであり、甲6発明の発泡性飲料に含まれるものであるから、本件発明1の「麦類を原料の一部とする」、「飲料に由来する」、「ペプチド画分」に相当する。
したがって、本件発明1と甲6発明とは、
「麦類を原料の一部とする飲料であって、
麦類を原料の一部とする飲料に由来するペプチド画分を含んでなる、飲料。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
原料について、本件発明1が「麦芽および/または未発芽の麦類」と特定されているのに対し、甲6発明は「大麦」である点。

<相違点2>
飲料について、本件発明1が「低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料」と特定されているのに対し、甲6発明は「発泡性飲料」である点。

<相違点3>
ペプチド画分について、本件発明1が「分子量10?20kDa(ゲル濾過法)のペプチド画分」と特定されているのに対し、甲6発明は「分子量が10?25kDaのポリペプチドを含む疎水性ポリペプチド」である点。

<相違点4>
飲料について、本件発明1が「該ペプチド画分に含まれるペプチドの、前記低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料中の濃度(ペプチドの合計量)が0.115mg/ml以上0.177mg/ml以下であり、かつ、前記低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対する、前記分子量10?20kDa(ゲル濾過法)のペプチド画分に含まれるペプチドの量(mg/mL)の比率が3.2%以上5.7%以下であり、前記ペプチド画分が、大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、大麦由来のセルピン-Z4および大麦由来の非特異的脂質転移タンパク1を含むものである」と特定されているのに対し、甲6発明はそのような特定がされていない点

上記相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点4について検討する。
甲6発明は、「分子量が10?25kDaのポリペプチドを含む疎水性ポリペプチドを1.1g/L以上含有する」ものであり、その濃度は、本件発明1の「0.115mg/ml以上0.177mg/ml以下」とは異なる範囲である。
また、甲6には、相違点4に係る、低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対する、前記分子量10?20kDa(ゲル濾過法)のペプチド画分に含まれるペプチドの量(mg/mL)の比率を3.2%以上5.7%以下とすること、ペプチド画分が、大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、大麦由来のセルピン-Z4および大麦由来の非特異的脂質転移タンパク1を含むものであることについては記載も示唆もされていない。
甲5には、泡の蛋白質は40KDが最も効果あること、このアルブミン成分はプロテインZであるとしたこと、泡持ち高分子の40KDばかりでなく低分子の8?18KDのポリペプチドがあると相乗効果があるとしていること等が(摘示5a)、甲3には、オオムギ-LTP1(分子量9700Dalton)がLMWの主成分であることがわかったこと等が(摘示3a)、甲7には、カルボキシアルキルアミノ酸に対する抗体と反応性を有する物質であって、カルボキシメチルリジン又はカルボキシエチルリジンを含み、かつ分子量10?20kDaのペプチドであるコク味付与物質等が(摘示7a)、甲8には、「淡麗グリーンラベル」と称される発泡酒が(摘示8a)、甲9には、オオムギ二量体α-アミラーゼ阻害剤が、あり得る泡安定化タンパク質であることを示唆したことが(摘示9a)、甲10には、噴出するビールにプロテインZ4を添加すると、オーバーフロー量が大幅に減少することを示したことが(摘示10a)、甲11には、AfpAとnsLTP1は、ビールに添加された量では噴出を誘発する可能性を示さず、事前にクラスIIハイドロフォビンで処理されたビールまたは炭酸水にこれらのタンパク質を添加すると、噴出を抑制する特性が明らかになったことが(摘示11a)、それぞれ記載されているものの、これら各甲号証には、上記相違点4に係る本件発明1で特定される全ての技術的事項が記載ないし示唆されていないから、甲6発明において、相違点4に係る本件発明1の技術的事項を採用することが、当業者が容易になし得た事項であるということはできない。
したがって、相違点1?3について検討するまでもなく、本件発明1は甲6に記載された発明及び甲3、5?11に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)甲8発明について
本件発明1と甲8発明とを対比する。
甲8発明は「糖質70%オフ」であるのに対し、本件発明1は「低糖質」である。甲8発明の「糖質70%オフ」とは、通常の同等品と比較して糖質が70%削減されたものであることを意味すると認める。一方、本件発明1の「低糖質」について、本件明細書には、「【0012】本明細書において「低糖質」のビールテイストアルコール飲料とは、糖質の量(糖質濃度)が通常の製法で作られた同等の比較対象の飲料に対して70%以上削減されたもの(すなわち、糖質オフ表示がなされた飲料)、あるいは糖質の量が0.5g/100ml未満(すなわち、糖質ゼロ表示がなされた飲料)であるものを意味する。」との記載があり、「低糖質」の飲料が、糖質の量(糖質濃度)が通常の製法で作られた同等の比較対象の飲料に対して70%以上削減されたもの(すなわち、糖質オフ表示がなされた飲料)である旨記載されている。
したがって、甲8発明の「糖質70%オフ」は、本件発明1の「低糖質」に相当する。
甲8発明の「発泡酒」は、アルコール飲料である限りにおいて、本件発明1の「ビールテイスト発酵アルコール飲料」に相当する。
したがって、本件発明1と甲8発明とは、
「低糖質アルコール飲料」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点5>
低糖質アルコール飲料について、本件発明1が「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とする」こと、「ビールテイスト発酵」であることが特定されているのに対し、甲8発明はそのような特定がされていない点。

<相違点6>
低糖質アルコール飲料について、本件発明1が「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10?20kDa(ゲル濾過法)のペプチド画分を含んでなり」と特定されているのに対し、甲8発明はそのような特定がされていない点。

<相違点7>
飲料について、本件発明1が「該ペプチド画分に含まれるペプチドの、前記低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料中の濃度(ペプチドの合計量)が0.115mg/ml以上0.177mg/ml以下であり、かつ、前記低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対する、前記分子量10?20kDa(ゲル濾過法)のペプチド画分に含まれるペプチドの量(mg/mL)の比率が3.2%以上5.7%以下であり、前記ペプチド画分が、大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、大麦由来のセルピン-Z4および大麦由来の非特異的脂質転移タンパク1を含むものである」と特定されているのに対し、甲8発明ではそのような特定がされていない点。

上記相違点について検討するに、相違点7は、上記相違点4と同様の相違点であり、甲8には、相違点7に係る本件発明1の技術的事項は記載も示唆もされていないから、相違点4について上で検討したのと同様の理由により、甲8発明において、相違点7に係る本件発明1の技術的事項を採用することが、当業者が容易になし得た事項であるということはできない。
したがって、相違点5及び6について検討するまでもなく、本件発明1は甲8に記載された発明及び甲3、5?11に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1について麦芽使用比率をさらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2は、甲6に記載された発明及び甲3、5?11に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、また、甲8に記載された発明及び甲3、5?11に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1、2についてグルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度をさらに限定するものであるから、本件発明1、2と同様に、本件発明3は、甲6に記載された発明及び甲3、5?11に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、また、甲8に記載された発明及び甲3、5?11に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)理由5についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1?3は、甲3、5?11に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではないとはいえない。
したがって、理由5にも理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-06-25 
出願番号 特願2015-29005(P2015-29005)
審決分類 P 1 651・ 55- Y (C12G)
P 1 651・ 537- Y (C12G)
P 1 651・ 121- Y (C12G)
P 1 651・ 536- Y (C12G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鳥居 敬司植原 克典  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 齊藤 真由美
冨永 保
登録日 2020-08-07 
登録番号 特許第6746275号(P6746275)
権利者 キリンホールディングス株式会社
発明の名称 低糖質ビールテイストアルコール飲料およびその製造方法  
代理人 榎 保孝  
代理人 大森 未知子  
代理人 横田 修孝  

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