• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C12P
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12P
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12P
管理番号 1376097
審判番号 無効2017-800021  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-02-24 
確定日 2021-05-14 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3651002号発明「アミノ酸生産菌の構築方法及び構築されたアミノ酸生産菌を用いる醗酵法によるアミノ酸の製造法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3651002号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?8]について訂正することを認める。 特許第3651002号の請求項1?2及び4に係る発明についての審判請求は成り立たない。 特許第3651002号の請求項3及び5?8に係る発明についての審判請求を却下する。 審判費用は参加によって生じた費用を含めて、請求人及びその参加人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3651002号に係る出願は、平成11年9月22日(優先権主張 平成10年9月25日)を国際出願日とする特願2000-572382号の一部を平成16年7月8日に新たな特許出願とした特願2004-202121号であって、平成17年3月4日に特許権の設定登録がなされたものである。
本件特許についての無効審判の手続の経緯の概要は以下のとおりである。
平成29年2月24日 審判請求書
平成29年4月20日 手続補正書及び上申書
平成29年7月7日 答弁書及び訂正請求書
平成29年10月2日 弁駁書
平成29年11月2日 参加申請書
平成29年12月25日 参加許否の決定
平成30年4月12日 審理事項通知書
平成30年5月22日 口頭審理陳述要領書(請求人及び被請求人)
平成30年6月5日 口頭審理
平成30年6月13日 上申書(請求人)

第2 訂正請求について
1.平成29年7月7日付け訂正請求(以下、「本件訂正」という。)の内容
本件訂正における訂正事項は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「コリネ型細菌の染色体上のグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)、クエン酸合成酵素(CS)、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(ICDH)、ピルビン酸デヒドロゲナーセ(PDH)及びアルギニノコハク酸シンターゼからなる群から選ばれる遺伝子のプロモーター配列の-35領域に、TTGTCA、TTGACA、TTGCTA及びTTGCCAからなる群から選ばれる少なくとも一種のDNA配列及び/又は-10領域にTATAAT配列若しくはTATAAC配列を導入したコリネ型細菌」とあるのを、「コリネ型細菌の染色体上の、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列、並びに/或いはクエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を導入したコリネ型細菌」に訂正し、「L-グルタミン酸又はL-アルギニンを」とあるのを、「L-グルタミン酸を」に訂正し、「L-グルタミン酸又はL-アルギニンの」とあるのを、「L-グルタミン酸の」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)産生遺伝子」とあるのを、「GDH遺伝子」に訂正し、「-35領域に、TTGTCA、TTGACA及びTTGCCAからなる群から選ばれる少なくとも一種のDNA配列及び/又は-10領域にTATAAT配列を有する」とあるのを、「-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を有する」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「CSのプロモーターが、-35領域にTTGACA配列及び/又は-10領域にTATAAT配列又はTATAAC配列を有するものである」とあるのを、「CS遺伝子のプロモーターが、-10領域にTATAAT配列を有するもの、又は-35領域にTTGACA配列及び-10領域にTATAAT配列を有するものであり、GDH遺伝子のプロモーターが、-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を有するものである」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

2.訂正請求の適否
(1)一群の請求項について
訂正事項1?8に係る訂正前の請求項1?8について、請求項2及び4?7は請求項1を引用し、請求項3及び8はそれぞれ請求項2及び7を引用するものであって、訂正事項1により訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1?8に対応する訂正後の請求項1?8は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。

(2)訂正事項1
訂正前の請求項1では、コリネ型細菌の染色体上の遺伝子として、「グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)、クエン酸合成酵素(CS)、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(ICDH)、ピルビン酸デヒドロゲナーセ(PDH)及びアルギニノコハク酸シンターゼ」が選択的に記載されていたところ、「グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)及び/又はクエン酸合成酵素(CS)」に限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
また、訂正前の請求項1では、遺伝子のプロモーター配列に導入される配列及びその領域として、領域は「-35領域」、「-10領域」及び「-35領域及び-10領域」が択一的に記載され、配列は-35領域ではTTGTCA、TTGACA、TTGCTA及びTTGCCAが、-10領域にはTATAAT及びTATAACが、それぞれ択一的に記載されていたところ、GDH遺伝子のプロモーター配列に導入される配列及びその領域を、-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列に限定し、CS遺伝子のプロモーター配列に導入される配列及びその領域を、-10領域にTATAAT配列に限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
さらに、訂正前の請求項1では、請求項1に記載の製造方法により製造される物質として「L-グルタミン酸又はL-アルギニン」が択一的に記載されていたところ、「L-グルタミン酸」に限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1に選択的又は択一的に記載されていた、遺伝子、それらの遺伝子のプロモーター配列に導入される配列及びその領域、並びに製造される物質を一部削除することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項1は、訂正前の請求項1に選択的又は択一的に記載されていた要素を一部削除したものであり、当該訂正により訂正前の請求項1に記載された発明のカテゴリーを変更するものではなく、かつ、訂正前の請求項1に記載された発明の対象や目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
本件特許無効審判事件においては、すべての請求項が無効審判の請求の対象とされているので、訂正事項1に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

(3)訂正事項2
訂正前の請求項2では、「グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)産生遺伝子」と記載されていたところ、請求項2が引用する請求項1の記載と整合するよう「GDH遺伝子」に訂正するものであるから、訂正事項2は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正前の請求項2では、GDH遺伝子のプロモーター配列に導入される配列及びその領域として、領域は「-35領域」、「-10領域」及び「-35領域及び-10領域」が択一的に記載され、配列は-35領域にTTGTCA、TTGACA及びTTGCCA配列が択一的に記載され、-10領域にTATAAT配列が記載されていたところ、GDH遺伝子のプロモーター配列に導入される配列及びその領域を、GDH遺伝子の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列に限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項2は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、請求項1の記載と整合するよう「GDH遺伝子」に訂正するものであり、また、訂正前の請求項2に択一的に記載されていた、遺伝子のプロモーター配列に導入される配列及びその領域を一部削除することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項2は、請求項1の記載と整合するよう「GDH遺伝子」に訂正するものであり、また、訂正前の請求項2に択一的に記載されていた要素を一部削除したものであり、当該訂正により訂正前の請求項2に記載された発明のカテゴリーを変更するものではなく、かつ、訂正前の請求項2に記載された発明の対象や目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
本件特許無効審判事件においては、すべての請求項が無効審判の請求の対象とされているので、訂正事項2に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

(4)訂正事項3及び5?8
訂正事項3及び5?8は、訂正前の請求項3及び5?8を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3及び5?8は、請求項の削除であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項3及び5?8は、請求項の削除を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

(5)訂正事項4
訂正前の請求項4では、「CS」と記載されていたところ、請求項4が引用する請求項1の記載と整合するよう「CS遺伝子」に訂正するものであるから、訂正事項4は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正前の請求項4では、CSのプロモーターが有する配列及びその領域として、領域は「-35領域」、「-10領域」及び「-35領域及び-10領域」が択一的に記載され、-35領域にTTGACA配列が、-10領域にはTATAAT配列又はTATAAC配列が記載されていたところ、CS遺伝子のプロモーターが有する配列及びその領域を、「-10領域にTATAAT配列」又は「-35領域にTTGACA配列及び-10領域にTATAAT配列」に限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであり、また、訂正前の請求項4が引用する訂正前の請求項1にCS遺伝子と並列的に記載されていたGDH遺伝子のプロモーター配列について、訂正事項1と同様の「GDH遺伝子のプロモーターが、-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を有するものである」との構成要件を直列的付加することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項4は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項4は、請求項1の記載と整合するよう「CS遺伝子」に訂正するものであり、また、訂正前の請求項4に択一的に記載されていた、遺伝子のプロモーター配列に導入される配列及びその領域を一部削除し、訂正前の請求項4が引用する訂正前の請求項1に記載されていたGDH遺伝子のプロモーター配列に係る構成要件を直列的付加することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項4は、請求項1の記載と整合するよう「CS遺伝子」に訂正するものであり、また、訂正前の請求項4に択一的に記載されていた要素を一部削除し、訂正前の請求項4が引用する訂正前の請求項1に記載されていたGDH遺伝子のプロモーター配列に係る構成要件を直列的付加したものであり、当該訂正により訂正前の請求項4に記載された発明のカテゴリーを変更するものではなく、かつ、訂正前の請求項4に記載された発明の対象や目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
本件特許無効審判事件においては、すべての請求項が無効審判の請求の対象とされているので、訂正事項4に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

3.訂正請求に対する結論
以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
よって、本件訂正を認める。

第3 本件訂正発明
本件訂正により訂正された請求項1?2及び4に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1?2及び4に記載された次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件訂正発明1」?「本件訂正発明2」及び「本件訂正発明4」という。)。なお、請求項3及び5?8は削除された。

「【請求項1】コリネ型細菌の染色体上の、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列、並びに/或いはクエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を導入したコリネ型細菌を、培地で培養し、培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ、これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法。
【請求項2】GDH遺伝子のプロモーターが、-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を有するものである請求項1記載の方法。
【請求項4】CS遺伝子のプロモーターが、-10領域にTATAAT配列を有するもの、又は-35領域にTTGACA配列及び-10領域にTATAAT配列を有するものであり、GDH遺伝子のプロモーターが、-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を有するものである請求項1記載の方法。」

第4 当事者の主張の概要
1.請求人の主張
請求人は、本件特許第3651002号を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、以下のように主張する。

(無効理由1)本件訂正発明1?2及び4は、甲第2号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第34号証等に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(無効理由2)本件訂正発明1?2及び4は、甲第5号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第34号証等に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(無効理由3)本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1?2及び4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、本件発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものである。

(無効理由4)本件訂正発明1?2及び4は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものである。

(無効理由5)本件特許の請求項1?8に係る発明は、明確に記載されているとはいえないから、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものである。

そして、請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:特許第3651002号公報
甲第2号証:Microbiology(1996)142,p.1297-1309
甲第3号証:Mol.Microbiol.(1992)6(3),p.317-326
甲第4号証:Microbiology(1994)140,p.1817-1828
甲第5号証:国際公開第95/34672号
甲第6号証:EMBO J.(1982)1(7),p.875-881
甲第7号証:J.Biol.Chem.(1985)260(6),p.3539-3541
甲第8号証:特開平3-147792号公報
甲第9号証:J.Bacteriol.(1992)174(4),p.1119-1123
甲第10号証:特開平5-7491号公報
甲第11号証:特開昭61-268185号公報
甲第12号証:特開昭62-201585号公報
甲第13号証:岩波生物学辞典 第4版(1996)p.67、342-343、366、1179、1245
甲第14号証:生化学辞典(第3版)(2002.7)p.91
甲第15号証:ベーシックマスター分子生物学(2015)p.156-159、216-217
甲第16号証:Arch.Microbiol.(1991)155,p.607-612
甲第17号証:J.Bacteriol.(1993)175(23),p.7715-7719
甲第18号証:J.Bacteriol.(1991)173(2),p.801-809
甲第19号証:J.Bacteriol.(1990)172(11),p.6223-6231
甲第20号証:特開平2-276576号公報
甲第21号証:特開平1-265887号公報
甲第22号証:特表平8-504596号公報
甲第23号証:国際公開第98/18937号
甲第24号証:国際公開第88/09819号
甲第25号証:欧州特許出願公開第152613号明細書
甲第26号証:国際公開第91/10739号
甲第27号証:国際公開第98/07846号
甲第28号証:国際公開第96/36721号
甲第29号証:「作業報告書 資料“CJ Promate”からのDNA調製、MiSeqシーケンス、マッピング、および比較解析」
甲第30号証:J.Biotechnol.(1987)5,p.305-312
甲第31号証:Nucleic Acids Res.(1985)13(9),p.3101-3110
甲第32号証:Gene(1989)78,p.189-194
甲第33号証:Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1983)80,p.21-25
甲第34号証:特開昭63-214189号公報
甲第35号証:Gene(1987)53,p.191-200

2.被請求人の主張
被請求人は、本件無効審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の主張する無効理由及び証拠によっては、本件訂正発明を無効にすることはできないと主張した。

そして、被請求人の提出した証拠方法は以下のとおりである。
乙第1号証:特許第5343303号公報
乙第2号証:「遺伝子工学の技術」と題した福岡大学理学部化学科機能生物化学研究室のウェブサイトのプリントアウト(http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/ ̄bc1/Biochem/genetech.htm)
乙第3号証:PROCESS: INITIATING TRANSCRIPTION IN BACTERIA」と題したStudy Blue Inc.のウェブサイトのプリントアウト(https://classconnection.s3.amazonaws.com/681/flashcards/894681/jpg/transcrop1330724646218.jpg)
乙第4号証:真野佳博=川向誠編著『ポイントがわかる分子生物学 第2版』(2010)p.2-3、18-19
乙第5号証:「形質転換と形質導入|生物分子科学科|東邦大学」と題した東邦大学理学部のウェブサイトのプリントアウト(http://www.toho-u.ac.jp/sci/biomol/glossary/bio/transformation_and_transduction.html)
乙第6号証:竹林滋編『研究社新英和大辞典第6版』(2002)p.510
乙第7号証の1:Bernhard O.Palsson教授による専門家意見書p.20
乙第7号証の2:Joseph M.Fernandez及びJames P.Hoeffler編「Gene expression systems」(1999)p.46
乙第7号証の3:J.Mol.Biol.(1994)239,p.455-465
乙第8号証:特表2008-523802号公報
乙第9号証:J.Bacteriol.(1995)177(3),p.774-782
乙第10号証:国際公開第96/06180号

第5 甲号証の記載事項
甲第2?12、16?19、23?28、30?35号証には、以下の事項が記載されている(英語で記載されている証拠は、日本語訳で摘記する。)。

1.甲第2号証
(甲2-1)「C.グルタミカム由来の新たに特徴づけられたプロモーター配列と共に公開されたプロモーターを比較分析することにより、保存された配列は、TSサイト上流のおよそ35bp(ttGcca)及び10bp(TA.aaT)であることが明らかになった。これらモチーフの位置及びモチーフ自体は、他のグラム陽性及びグラム陰性細菌の-35及び-10プロモーターコンセンサス配列に相当し、それらはC.グルタミカムでの転写開始シグナルを表すことを示唆している。」(第1297頁、要約第11行?第18行)

(甲2-2)「

図1.TSサイトに従って並べられたC.グルタミカムプロモーターのヌクレオチド配列。プロムスキャンプログラムにより同定された推定-35及び-10領域に下線を引いた。hom、thrC、fda、lysA、ask、gdh、glt、gap、pgk、及びtrpのプロモーター配列は、本文で参照した参考文献より取得した。」(第1301頁、図1)

(甲2-3)「試験した全18フラグメントは、大腸菌においてcatの転写を作動させ、単離されたプロモーターがこの生物においても活性であったことが示唆される。この結果は予想できないものではなかった。なぜなら、C.グルタミカムからクローン化された遺伝子の多くは、適切な栄養要求体の異種相補性により示されるように(Jetten&Sinskey、1985でレビューされる)、大腸菌で発現したからである。反対に、いくつかの大腸菌遺伝子は、C.グルタミカムで効率的に発現し(例えば、Eikmannsら、1991;Patekら、1989)、そして大腸菌 tac、lacUV5、及びtrpプロモーターはコリネバクテリアで機能的であることが示されている(Morinagaら、1987)。これらすべての結果は、C.グルタミカムのプロモーターの一般的構造は、大腸菌のプロモーターのものと類似していることを示唆する。」(第1305頁右欄第11行?第24行)

(甲2-4)「C.グルタミカム由来のプロモーターと他の細菌由来のプロモーターの一次構造の類似性は、比較コンピュータ分析により立証された。本研究で適用した両プログラムは、C.グルタミカムプロモーターの我々のセットにおいて、最も関連する領域が、TS部位の上流10bp周辺に位置し、ヘキサマーTA.AATを含むことを示した。当該または類似のモチーフをすべてのプロモーターで見つけることができる。別の保存領域はTS部位の上流およそ35pbで検出された。この領域で見いだされたコンセンサスヘキサマーTTGCCAは、大腸菌のコンセンサスTTGACAと、4番目の位置でのみ異なる。」(第1306頁左欄第3行?第14行)

(甲2-5)「しかしながら、TS部位に関連する位置から、スペーシング(17・35bpの平均)から、及び2つの保存されたヘキサマーモチーフの配列から、C.グルタミカムにおけるこれらのシグナルは、大腸菌(Harley&Reynolds、1987)及びその他の真正細菌、例えばバチルス(Helmann、1995;Graves&Rabinowitz、1986;Moranら、1982)、ラクトバチルス(Pouwels&Leer、1993)、及びストレプトコッカス(van der Vossenら1987;Morrison&Jaurin、1990)の-10及び-35プロモーターコンセンサス配列に相当することが明らかである。我々の分析により明らかになったC.グルタミカムのコンセンサスモチーフの優位性は、tacプロモーター(12個の位置中11がコンセンサスと同一)がC.グルタミカムで非常に効率的であることが判明し(Eikmannsら、1991;Morinagaら、1987)、並びに大腸菌lacプロモーターにおいて-10ヘキサマーをTATGTTからTATATTへ変更し、コンセンサス配列との類似性を高めることは、C.グルタミカムでのプロモーターのより高い効率を導く(Brabetzら、1991)という事実により裏付けられる。」(第1306頁左欄第18行?第38行)

(甲2-6)「-10及び-35ヘキサマーはさておき、その他の位置もC.グルタミカムプロモーターにおいて保存されているようである:-10エレメントの5’末端に隣接する二つのG、-35エレメントの2bp下流のA残基及び-35エレメントの直ぐ上流のT残基(図5)。実際、-10及び-35ヘキサマー付近の保存された塩基は、コンセンサスモチーフをggTA.aaT及びtttGcca.aにそれぞれ拡張する。多数のバチルス及びラクトバチルスのプロモーターにおいて、-10ヘキサマーの上流に又は1bp隔てて見いだされたTGモチーフの存在により、伸張されたプロモーターコンセンサスがグラム陽性細菌で提案されている(Helmann、1995;Graves&Rabinowitz、1986;van der Vossenら、1987:Maternら、1994)。ここで分析した33プロモーターのうち11が、-10ヘキサマーの5’近傍でTGモチーフを含む、したがって、-10ヘキサマーに隣接するTGダブレットは、C.グルタミカムにおいても、プロモーター機能に有意性を有するかもしれない。-10領域上流の比較的高いA+T含量も有意なようである、特に、C.グルタミカムの平均A+T含量はほんの約43.5%だからである(Liebl、1991)。」(第1306頁左欄第39行?第59行)

(甲2-7)「表2.異なる生物に由来するプロモーターのコンパイルでの、-35及び-10モチーフにおけるコンセンサス保存の程度
異なる生物のプロモーターコンパイルを以下の参考文献より取得した:C.グルタミカム、33プロモーター(本研究);大腸菌、263プロモーター(Harley&Reynolds、1987);バチルス・ズブチリス、237プロモーター(Helmann、1995);ラクトバチルス、30プロモーター(Pouwels&Leer、1993);ストレプトコッカス、17プロモーター(Morrison&Janrin、1990)。

*C.グルタミカム-35コンセンサス配列において、4番目のヌクレオチドはAではなくCである。この位置でのAは、33プロモーターのうち7のみで見られた(21%保存)。
」(第1307頁、表2)

2.甲第3号証
(甲3-1)「細菌では、L-グルタミン酸は主なアンモニア同化産物の一つであり、それはアミノ酸及びプリン合成におけるアミノ基の供与体として働き、そして、それはアミノ酸のL-グルタミン酸ファミリーの前駆体である。したがって、L-グルタミン酸合成は、炭水化物と窒素代謝の間のつなぎを提供する。微生物において、L-グルタミン酸は、2つの異なる経路により合成され得る。グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)は、NADPH+H^(+)の同時酸化を伴うα-ケトグルタル酸のL-グルタミン酸への還元的アミノ化を触媒し(反応1)、そして高濃度のアンモニア(>1mM)でのL-グルタミン酸生成に関わる(Magasanik、1982)。アンモニア濃度が低い(<1mM)場合、L-グルタミン酸はグルタミンシンターゼ(GS)(反応2a)とグルタミン酸シンターゼ(グルタミン:2-オキソグルタル酸アミノトランスフェラーゼ(GOGAT)のカップル反応により生成される(反応2b)(Magasanik、1982)。

GDH
α-ケトグルタル酸+NH_(4)^(+)+NADPH+H^(+) ⇔ L-グルタミン酸+H_(2)O+NADP (1)

GS
L-グルタミン酸+NH_(4)^(+)+ATP ⇔ グルタミン+ADP+Pi+H_(2)O (2a)

GOGAT
グルタミン+α-ケトグルタル酸+NADPH+H^(+) ⇔ L-グルタミン酸+NADP (2b)

コリネバクテリウム グルタミカムは、ある培養条件下、例えばビオチン制限下(Shiioら、1962)で大量のL-グルタミン酸を生成することができる。この生物のGDH及びGSは、同定され、精製されている(Kimuら、1962;Oshimaら1964;Tachikiら1981)。C.グルタミカムの近縁種、ブレビバクテリウム フラバム(Abeら、1967)から、3つの酵素(GDH、GS、及びGOGAT)すべてが精製された(Shiio及びOzaki、1970;Sungら、1984;Tochikuraら、1984)。これらのデータは、両経路はコリネ型グルタミン酸生産細菌で機能していることを示唆する。しかしながら、B.フラバムのGDH変異体は、グルタミン酸栄養要求であることが示され(Shiio及びUjigawa、1978)、そして、これら生物でのグルタミン酸生成、及びそれによるアンモニア同化は、主にGDH反応により行われることが一般的に受け入れられている(Kinoshita、1985)。
C.グルタミカムの代謝におけるGDHの明白な重要な役割にも関わらず、遺伝子レベルでのこの酵素の研究に対する努力はほとんどなされていない。グルタミン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の単離は、コリネバクテリウム メラセコラで最近報告された(Takedaら、1990;Leblonら、1990)。しかしながら、コリネバクテリウムに関する発現データや対応する遺伝子構造に関するデータはこれらの著者により提供されなかった。ここで、我々は、NADP-依存性GDH(EC1.4.1.4)をコードするC.グルタミカムgdh遺伝子の単離、同種及び異種発現、並びに明らかな構造分析を記載する。我々の知る限り、これは、グラム陽性生物から単離されたこの遺伝子についての分子分析の最初の報告である。」(第317頁左欄第26行?第318頁左欄第3行)

(甲3-2)「

図3.C.グルタミカム13032由来のgdh遺伝子の核酸配列及びその推定タンパク配列。推定のリボソーム結合部位(RBS)、停止コドン(*)、転写開始部位(→)、推定-10領域(’-10’)、及び潜在的な転写ターミネーター(反転矢印)を示す。これらの配列データは、EMBL/GenBank/DDBJヌクレオチド配列データライブラリーにおいて、アクセッション番号X59404で出ている。」(第321頁、図3)

3.甲第4号証
(甲4-1)「コリネバクテリウム グルタミカムは、好気的グラム陽性生物であり、アミノ酸、例えばL-グルタミン酸及びL-リジンの産業的生産に広く用いられる(Liebl、1991)。ここ数年の間に、この生物の遺伝子技術の開発が大きく進歩し(Martin、1989;Schwarzer&Puhler、1991)、C.グルタミカムの遺伝子及び酵素の構造、組織、発現、及び制御に関する研究を可能とした。アミノ酸の生合成、特にL-リジン、L-スレオニン、及びL-イソロイシン合成に関わるいくつかの遺伝子が特徴づけられた(Eikmannsら、1993でレビューされている)。最近、C.グルタミカムの中心的な代謝に関わる遺伝子のいくつか、例えばアナプレロティック酵素、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(Eikmannsら、1989;O’Reganら、1989)並びに解糖系酵素、フラクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、3-ホスホグリセリン酸キナーゼ、及びトリオースリン酸イソメラーゼ(von der Ostenら、1989;Eikmanns、1992)に関し、分析されている。Reyesら(1991)は、C.グルタミカムの近縁種であるC.メラセコラ由来のクエン酸合成酵素遺伝子のクローニングを報告した;しかしながら、当該遺伝子の構造データは示されなかった。クエン酸合成酵素(EC4.1.3.7)はクエン酸経路のエントリーでの重要なステップ、即ち、アセチルCoAとオキサロ酢酸を縮合してクエン酸とCoAを生成するステップを触媒する。中心的な代謝におけるこの酵素の重要な位置は、その構造的、動力学的、制御的及び分子的特性において大いに興味をかきたて、それゆえに、様々な生物で詳細に研究されている(Witzman、1981によりレビュー;Wiegand&Remington、1986;Kay&Weitzman、1987)。研究されたクエン酸合成酵素のすべては、Mr値40000-50000の同一サブユニットの多量体である。グラム陽性細菌及び真核生物は、二量体のクエン酸合成酵素を有し(Mr?100000)、それはATPにより阻害される。一方、グラム陰性細菌は、一般に、六量体型(Mr?250000)を有し、それはアロステリックにNADHにより阻害され、そして、通性嫌気性細菌においては、2-オキソグルタル酸により阻害される。しかしながら、両タイプのクエン酸合成酵素のサブユニットは、およそ同じ大きさであり、かつ、いくつかの領域において、アミノ酸配列の一致を示す(Kay&Weitzman、1987;Surherlandら、1990;Schendelら、1992)。
C.グルタミカムssp.フラバム(かつてのブレビバクテリウム フラバム)のクエン酸合成酵素は、部分的に精製され、グラム陽性型酵素に典型的な特性:Mr約92000、ATPに対する感受性、及びNADH及び2-オキソグルタル酸に対する非感受性を有することが示されている(Shiioら、1977)。同じ著者は、低下したクエン酸合成酵素活性を有する、C.グルタミカムssp.フラバムの古典的に得られた変異体は、著量のアスパラギン酸及びリジンを生成できたことを報告した(Shiioら、1982)。このことと、炭水化物からクエン酸経路、そしてそれに由来するアミノ酸への炭素フローにおける当該酵素の重要な位置づけは、クエン酸合成酵素が定義されたアミノ酸生産C.グルタミカム種の遺伝的構築における重要な標的かもしれないことを示唆する。我々は、制御、クエン酸合成酵素遺伝子(gltA)の単離、その核酸配列、同種及び異種発現、並びにその転写機構との関連で、C.グルタミカムのクエン酸合成酵素を記載する。」(第1817頁左欄第2行?第1818頁左欄第40行)

(甲4-2)「gltA過剰発現C.グルタミカム株が試験したすべての培地において、より遅い生育を示したこと(例えば、LB培地において、80分ではなく120分の倍増時間)から、クエン酸合成酵素の増加した濃度による細胞の軽度の障害が示唆されることは、特筆すべきである。」(第1820頁右欄第32行?第36行)

(甲4-3)「増強されたクエン酸合成酵素活性のグルタミン酸分泌への効果を試験するために、標準的なグルタミン酸醗酵(Hoischen&Kramer、1989)をC.グルタミカムWT及びWT(pJC-gltA3A)で実施した。これらの実験で、約17μmol min^(-1)(g乾燥重量)^(-1)の同一グルタミン酸分泌速度が、両株に関して見いだされた。したがって、クエン酸合成酵素の濃度を単に増強することによっては、C.グルタミカムのグルタミン酸を分泌する能力を増強することはできない。」(第1821頁左欄第17行?第26行)

(甲4-4)「

図2.3007bpSalI-HindIIIフラグメントの核酸配列及び推定のクエン酸シンターゼのアミノ酸配列。転写開始部位(→)、推定-10領域(?)、停止コドン(*)、及び潜在的な転写ターミネーター(反転矢印)を示す。」(第1822頁?第1823頁、図2)

4.甲第5号証
(甲5-1)「従来よりL-グルタミン酸はブレビバクテリウム属又はコリネバクテリウム属に属するコリネ型細菌を用いた発酵法により工業的に生産されている。」(第1頁第13行?第14行)

(甲5-2)「このようにして取得した変異が導入されて改変又は破壊された遺伝子をコリネ型L-グルタミン酸生産菌の染色体上の正常な遺伝子と置換する方法としては、相同性組換えを利用した方法(Experiments in Molecular Genetics,Cold Spring Harbor Laboratory press(1972);Matsuyama,S.及びMizushima,S.、J.Bacteriol.,162,1196(1985))がある。相同性組換えは、染色体上の配列と相同性を有する配列を持つプラスミド等が菌体内に導入されると、ある頻度で相同性を有する配列の箇所で組換えを起こし、導入されたプラスミド全体を染色体上に組み込む。この後さらに染色体上の相同性を有する配列の箇所で組換えを起こすと、再びプラスミドが染色体上から抜け落ちるが、この時組換えを起こす位置により変異が導入された遺伝子の方が染色体上に固定され、元の正常な遺伝子がプラスミドと一緒に染色体上から抜け落ちることもある。このような菌株を選択することにより、塩基の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を持つ変異が導入されて改変又は破壊された遺伝子が染色体上の正常な遺伝子と置換された菌株を取得することができる。」(第9頁最終行?第10頁第13行)

(甲5-3)「なお、L-グルタミン酸生産性を向上させるには、グルタミン酸生合成系遺伝子を強化することが有利である。グルタミン酸生合成系遺伝子を強化した例としては、解糖系のホスフォフルクトキナーゼ(PFK、特開昭63-102692号)、アナプレロティック経路のホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC、特開昭60-87788号、特開昭62-55089号)、TCA回路のクエン酸合成酵素(CS、特開昭62-201585号、特開昭63-119688号)、アコニット酸ヒドラターゼ(ACO、特開昭62-294086号)、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(ICDH、特開昭62-166890号、特開昭63-214189号)、アミノ化反応としてはグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH、特開昭61-268185号)等がある。」(第11頁第11行?第20行)

(甲5-4)「目的遺伝子の発現を強化するには、強力なプロモーターの下流に目的遺伝子を連結することが考えられる。コリネ型細菌の細胞内で機能するプロモーターのうち強力なものとしては、大腸菌のlacプロモーター、tacプロモーター、trpプロモーター等がある(Y.Morinaga、M.Tsuchiya、K.Miwa及びK.Sano、J.Biotech.,5,305-312(1987))。また、コリネバクテリウム属細菌のtrpプロモーターも好適なプロモーターである(特開昭62-195294号公報)。本発明の実施例においては、PEPC遺伝子の発現にコリネ型細菌のtrpプロモーターを用いた。」(第12頁第9行?第16行)

(甲5-5)「1.染色体上に存在するα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子又はそのプロモーターの塩基配列中に1又は2以上の塩基の置換、欠失、挿入、付加又は逆位が生じたことにより、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性が欠損したコリネ型L-グルタミン酸生産菌。
2.請求項1記載のコリネ型L-グルタミン酸生産菌を液体培地中に培養し、培養液中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ、これを採取することを特徴とするL-グルタミン酸の製造法。」(請求項1?2)

5.甲第6号証
(甲6-1)「野生型と比較してプロモーター強度が21倍に増強した6つの変異体は、-35プロモーター領域において、TTGTCAからコンセンサス配列TTGACAに変異されていた。野生型より7倍強いampCプロモーターを示す3つの変異体において、-10領域配列TACAATは、コンセンサス配列TATAATに変異されていた。」(第875頁、要約第4行?第10行)

(甲6-2)「-35領域の非常に保存されたTTG配列の下流には、3つのより厳密でない保存されたヌクレオチドが続く。」(第875頁左欄第40行?第42行)

6.甲第7号証
(甲7-1)「

」(第3540頁、図1b))

7.甲第8号証
(甲8-1)「1.TAGACAで示される塩基配列(a)と、該塩基配列(a)の15?20塩基対下流のTATAATで示される塩基配列(b)とを有することを特徴とするコリネ型細菌細胞内でプロモーターとして機能するDNA断片(c)。」(第1頁左欄第5行?第9行)

(甲8-2)「実施例2
合成プロモーターのpPR3への導入:
プロモーターはDNA合成装置(BECKMAN System I Plus)を用いて合成した(その両末端がBamHI断片になるようにした)。そのDNA断片の塩基配列を下記に示す。
GATCCCGAAACTAGACAAGAACCCAAAAATGATTTATAATTTAG
GGCTTTGATCTGTTCTTGGGTTTTTACTAAATATTAAATCCTAG
実施例1で調製したプラスミドpPR3 0.5μgに制限酵素BamHI(5units)を37℃で1時間反応させ、プラスミドDNAを完全に分解した。
上記合成プロモーターDNAとプラスミドDNA解物を混合し、制限酵素を不活化するために65℃で10分間加熱処理した後、該失活溶液中の成分が最終濃度として各々50mMトリス緩衝液pH7.6、10mM MgCl_(2)、1.0mMジチオスレイトール、1mM ATP及びT4リガーゼ1unitsになるように各成分を強化し、16℃で15時間保温した。この溶液を用いてエシェリヒア・コリHB101コンピテントセル(宝酒造製)を形質転換した。
形質転換株は50μg/ml(最終濃度)のカナマイシンを含むL培地(トリプトン10g、酵母エキス5g、NaCl5g、純水1l、pH7.2)で37℃にて24時間培養し、生育株として得られた。これら生育株のプラスミドをアルカリ-SDS法[T.Maniatis、E.F.Fritsch、J.Sambrook;「Molecular cloning」(1982)90?91参照]により抽出した。
得られたプラスミドは実施例1の(E)項に記載の方法に従い、ブレビバクテリウム・フラバムMJ-233株(FERM BP-1497)プラスミド除去株へ形質転換し、実施例1の(A)項に記載の方法を用いてプラスミドを抽出した。
このプラスミドの制限酵素BamHI、KpnI、SacI等の制限酵素による切断パターンによってpPR3に合成DNAが組み込まれていることを確認し、このプラスミドを「pPR3BT2」と命名した。
実施例3
合成プロモーター強度の測定:
実施例2でpPR3に挿入したプロモーターの強度を、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)の活性を測定することによって調べた。
pPR3を保有するブレビバクテリウム フラバムMJ-233株とpPR3BT2を保有するブレビバクテリウム・フラバムMJ-233株をそれぞれ、実施例1の(A)項に記載の半合成培地Aにカナマイシンを50μg/ml加えた培地10m1の入った試験管で一晩前培養し、その培養液を上記の培地100mlの入った三角フラスコで約6時間培養後集菌し、活性測定に用いた。CATの活性はW.V.Shawらの方法[J.Bacteriology Jan.(1968)28?36参照]により測定した。その結果、pPR3BT2を有するMJ-233株は、プロモーターの挿入されていないpPR3を有するMJ-233株の約14倍のCAT活性をもっていた。」(第6頁右上欄第13行?第7頁左上欄第11行)

8.甲第9号証
(甲9-1)「しかしながら、3塩基を変更し、コンセンサス-10配列、TATAATを作出した場合、好気的及び嫌気的発現のいずれにおいても、およそ10倍に増加した(pMW646)。」(第1120頁右欄第5行?第9行)

9.甲第10号証
(甲10-1)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】プラスミドは染色体外で増殖・機能するので、プラスミドDNAを用いて菌の遺伝的性質を改変する場合、宿主である菌の染色体までその改変を及ぼすことができない。とくに、欠失、変異等、宿主菌のDNAの性質が問題となる場合には、計画的な対策が立てられなかった。これまでは、変異処理剤などで宿主菌を処理し、ランダムに変異が入った菌から目的通り改変された株を選択する方策が用いられていたが、大きな労力と困難を伴っていた。また、プラスミドDNAを用いた場合は、プラスミドが不安定で脱落し、十分な発現が得られない、または、目的遺伝子を含むプラスミドが多コピー存在することにより、発現が過剰になり、菌の生育、物質生産に悪影響を与える、などの問題点がしばしば生じていた。本発明は、染色体上の特定の遺伝子を計画的に改変し、また、定まったコピー数の遺伝子を安定に染色体上に固定することにより、これら問題点を解決しようというものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記問題点を解決すべく鋭意研究を行った結果、コリネ型細菌中で自律増殖可能なプラスミドDNAの複製起点を、培養温度を上昇させることにより複製不能になる、温度感受性変異型の複製起点に改変することに成功した。この温度感受性複製起点をもつプラスミドに目的遺伝子を接続し、コリネ型細菌に導入し、プラスミドを保持した菌株を10?27℃、好ましくは20?25℃にて培養後、31?37℃、好ましくは33?36℃にて培養してプラスミドを除去し、染色体へ遺伝子が組み込まれた株を選択する。この際、プラスミド上にある薬剤耐性遺伝子などのマーカー遺伝子が染色体上に組み込まれ、プラスミドを保持しなくてもマーカー遺伝子の発現により薬剤耐性などの形質を示すことで組み込み株の選択ができる。この段階では、染色体上に、ベクタープラスミドDNAと目的遺伝子が、同時に組み込まれているが、組み込み株から薬剤耐性などのマーカー遺伝子の形質の除去を指標にして、再び相同組換えを起こして、ベクター部分が染色体上から除去された株を選択することができる。このとき、目的遺伝子と対応する宿主の染色体遺伝子が同時に除去されプラスミドにて導入した遺伝子と置き変わる遺伝子置換を起こすことが出来る。」(段落【0003】?【0004】)

10.甲第11号証
(甲11-1)「グルタミン酸は高濃度アンモニアイオン存在下でグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(Glutamate dehydrogenase、GDH)の触媒作用により合成される。従って、もし微生物細胞内でのGDH活性を増強することができれば、微生物細胞内におけるグルタミン酸の産生を促進することができる。」(第3頁左上欄第5行?第10行)

11.甲第12号証
(甲12-1)「このトリカルボン酸回路の第1段反応を触媒するのが、クエン酸合成酵素(Citrate Synthase:CS)である。従って、このCSを強化すればトリカルボン酸回路の働きが活発になり、その結果多量の中間体を供給できるためそれから合成されるアミノ酸や核酸などの物質の生産性を大きく改善することができる。」(第3頁左上欄第13行?第20行)

12.甲第16号証
(甲16-1)「大腸菌ラクトースオペロン全体を大腸菌/コリネバクテリウム グルタミカム シャトルベクターに挿入し、宿主生物C.グルタミカムR163に導入した。効率的なプロモーターの下流にlac遺伝子を有する組換えC.グルタミカム株は、唯一の炭素源としてのラクトースで迅速な生育を示した。ラクトースでのC.グルタミカムR163の良好な生育を得るためには、二つの条件が必要であった:lacZに加えてlacY遺伝子の存在、及びC.グルタミカムでの効率的な転写のための適切なプロモーター。ラクトースのガラクトース部分は利用されなかったが、培養ブロスに蓄積した。lacZ(β-ガラクトシダーゼ)のみを有しlacY(ラクトースパーミアーゼ)を有さないC.グルタミカム株は、ラクトース最小培地で生育できなかった。」(第607頁、要約)

(甲16-2)「コリネバクテリウム・グルタミカムのためのlacプラスミドの構築
本研究で構築したlac遺伝子を有する全てのプラスミドは、C.グルタミカム/大腸菌シャトルベクターpWST4B(Lieblra、1989b)に基づく。大腸菌よりクローン化されたlacオペロンを有するプラスミドpSKS105(Shapiraら、1983)は、A.Bock(ミュンヘン大学)の好意により提供され、lac遺伝子のソースとして使用された。ラクトースシャトルプラスミドの構築のためのスキームを図1に示す。構築ステップのいくつかにおいて、lacY遺伝子に位置するClaIサイト(図1中、アスタリスクで印を付けた)は、dam^(+)大腸菌宿主株を経由する場合、ClaIでの開裂から保護されるという事実から有利であった。
pECL1は、野生型lacプロモーター(P_(lac))の転写制御下でlacオペロン全体を含むシャトルプラスミドである。比較のため、pECL3と命名したpECL1の欠損誘導体を構築した。それはlacZを有するが、lacYとlacA遺伝子を有さない。それ以外は、pECL3はpECL1と同一である。pECL1由来のラクトースパーミアーゼ及びトランスアセチラーゼ遺伝子を欠損するための慣用法は存在しなかったため、オリゴヌクレオチド指向性の部位特異的変異(「材料と方法」参照)によりlacZとlacYのシストロン間領域にStuIサイトを導入した。この目的のために合成した17merは、5’-pCGGGCAGACAAGGCCTG-3’を有し、相補的lacZ-lacYのシストロン間領域との関係で1つのミスマッチ(11番目において、Tの代わりにA)を含んでいた。オペロンの変異された部分をpECL1に再び導入した。結果として得られるプラスミド、pECL1S、lacYA領域が2つのStuIサイトの側面に位置する。pECL1Sの2kb StuIフラグメントの切り出し及びその後の再ライゲーションにより、最終的にpECL3がもたらされた。pECL1又はpECL3を有するC.グルタミカムR163トランスフォーマントはいずれも、β-ガラクトシダーゼ活性を示したが、そのうちの1株、R163/pECL1のラクトース最小培地でのゆっくりとした生育が達成されるのみであった(図2)。従って、pECL1x及びpECL3xと命名される、第2セットのラクトースプラスミドを構築した(図1)。これらのベクターは、遺伝子変異的に改変されたlacプロモーター(lacZのATG開始コドンの上流-47位でのGをAに変更した)を含んでおり、該プロモーターは、C.グルタミカムにおいて野生型プロモーターよりも効率的である(Brabetz及びLiebl、準備中)。40μg/ml 5-ブロモ-4-クロロ-3-インドイル-β-D-ガラクトピラノシド(X-Gal)を有するLBプレート上での表現型、並びにR163/pECL1x及びR163/pECL3xそれぞれを有する株の細胞質性β-ガラクトシダーゼ活性を比較することによって、R163/pECL1x及びR163/pECL3xでの増強されたプロモーター効率が示された(表1)。」(第608頁左欄下から第12行?右欄第38行)

(甲16-3)「

」(第610頁、表1)

13.甲第17号証
(甲17-1)「オクトピン-タイプTiプラスミドのoccQ及びtraRプロモーターを制御するOccRは、LysRタイプの転写活性因子である。オピン オクトパインはOccRを、リプレッサーからoccQのアクチベーターへ変換し、タンパク質のDNaseIフットプリントを短くし、そしてoccQプロモーターでのoccRが引き起こすDNAベンドの角度を減少する。この研究では、我々は、まずoccQの調整された発現に必要なシス-活性DNA配列の位置を突き止めた。OccRの活性化の機構をより理解するために、野生型とは異なって機能するoccQプロモーター及びoccR遺伝子の両者での変異を単離した。occQの推定-35領域をTTGACCからTTGACAに変更するoccQプロモーターの変異は、occQの基礎発現を約15倍増加させた。occRでの3つの変異も同様であった、そのうちの1つは、オクトピンの非存在下及び存在下のいずれにおいても、十分に構成的なレベルでoccQを活性化する。この変異(E23G)は、推定のヘリックス-ターン-へリックスDNA結合モチーフの第一へリックスに存在する。他2つのoccR変異は、野生型OccRタンパク質がするよりも、ずっと低いオクトピン濃度の検出をタンパク質に引き起こした。これらの変異(F113L及びG148D)は、リガンド結合部位を含むと推定されるタンパク質の領域に位置している。」(第7715頁、要約)

14.甲第18号証
(甲18-1)「

図1.φ(proV-lacZ)(Hyb2)発現におけるシス-結合変異の効果。親株GM37並びに2つの変異誘導体BRE2074(proU601)及びJML21(proU603)の細胞を、指定された量のNaClを有するグルコースMMA中で一晩生育させ、そして特定のβ-ガラクトシターゼ(β-gal)活性(タンパク質 ミリグラム当たり、1分間に開裂されOPNGのマイクロモルとして表現)を測定した。全3株は、染色体中のproU座位で、単一コピーとして、同じlac融合を有する。」(第804頁、図1)

(甲18-2)「φ(proV-lacZ)(Hyb2)融合に隣接して連結された変更を有する8つの変異株の浸透圧制御された発現を分析するために、我々は、これらの株を様々な浸透圧の培地で培養し、特定のβ-ガラクトシダーゼ活性を定量した。同じ酵素活性が全ての変異株で見いだされた;1つの代表的変異、JML21のデータを図1に示した。低浸透圧で、φ(proV-lacZ)(Hyb2)の発現レベルは、GM37におけるよりも、JML21においておよそ40倍高かった。」(第804頁左欄第12行?第20行)

15.甲第19号証
(甲19-1)「pKM101は、mucAB、umuDCオペロンのアナログを有する天然に存在するプラスミドであり、その遺伝子産物は、ほとんどの遺伝子変異に必要な損傷したDNAのSOS依存性プロセッシングに必要とされる。遺伝子研究により、mucAB発現は、直接のリプレッサーとしてのLexA作用で、SOS調節回路により制御されることが示唆された。pGW16は、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン変異により得られたpKM101誘導体であり、元々、自発的な変異率の穏やかな上昇を引き起こすその能力に基づいて同定された。この報告では、我々は、pGW16は、lexA3宿主において、メチルメタンスルホネート変異を増強できること、及びUV殺菌に対する相当な抵抗性を付与できることにおいて、pKM101と異なる。pGW16に保持される変異はドミナントであり、そしてmucABコーディング領域及びおよそ0.6kbの5’-フランキング領域を含有するpGW16の2.4-kb領域に局在化していた。我々は、mucABの上流領域を含む119-bp断片の配列を決定し、そしてその領域での一塩基ペアの変化、既知のLexA結合部位に対して相同な配列を変更するG・CからA・Tへのトランスロケーションを同定した。DNAゲルシフト実験は、LexAタンパク質はこの変異を含有する125-bpフラグメントにはほとんど結合しない一方、野生型配列を含む断片は、LexAにより効率的に結合された。この変異は、また、大腸菌プロモーターの-10領域に対して相同である重複配列を変更し、コンセンサス配列により近づける。pGW16にコードされるmucABタンパク質のマキシセルでの合成は、lexA+プラスミドの不在下でさえも、pKM101にコードされるmucABタンパク質の合成よりも増強されたという観察は、この変異は、mucABプロモーターの活性も増強させることを示唆する。」(第6223頁、要約)

(甲19-2)「以前記載したように、一塩基ペア置換は、E.coliプロモーターの-10領域に対して相同である配列を変更し、そしてそれをE.coliプロモーターのコンセンサス配列によりよく類似させる。それゆえに、pGW16 mucABプロモーターの活性は、野生型mucABプロモーターのそれより高いようである、そしてこの活性はmpGW16によるmucA及びmucB遺伝子産物の過剰発現にも貢献するようである。」(第6229頁右欄最終行?第6230頁左欄第8行)

16.甲第23号証
(甲23-1)「エッシェリヒア種、及びセラチア、バチルス、コリネバクテリウムないしブレビバクテリウム属の微生物、並びに慣用的なアミノ酸法で知られる他の株は、生産生物としての使用に適している。エッシェリヒア コリは、特に適している。」(第15頁第29行?第34行)

(甲23-2)「遺伝子構造は、1つの遺伝子に割り当てられる少なくとも1つの調節遺伝子配列を含むのが有利である。したがって、調節因子の強化は、特に、転写シグナルを強化することによって、転写のレベルで好適に有効にされ得る。これは、例えば、プロモーター活性の増強により、或いは、構造遺伝子の上流に位置するプロモーター配列の変更又はより効率的なプロモーターで完全に置き換えることによるプロモーターにより、有効にされ得る。」(第18頁第27行?第19頁第2行)

17.甲第24号証
(甲24-1)「S1ヌクレアーゼ研究から予測されるように、Dra1-Sal1 hom-thrBフラグメントは、-10及び-35領域の両方を含む、これらは、HawleyとMcClure、Nucleic Acid Res.11:2232(1983)により報告されるように、E.coliでのプロモーター活性に重要である。」(第27頁第5行?第9行)

18.甲第25号証
(甲25-1)「H.A.deBoerらは、以下の因子はプロモーターの強度に影響することを示した(H.A.deBoerら、「プロモーター:その構造及び機能」、R.L.Rodriguezら、M.J.Chamberlin編集(Praeger Co.)462-481(1982)):
(1)「-10」領域の核酸配列
(2)「-35」領域の核酸配列
(3)「-10」及び「-35」領域間の距離
(4)「-35」領域の5’フランキング領域でのAT含量
(5)これら因子の適切な組み合わせ。
因子(1)、(2)、及び(3)は、プロモーターの強度に重要な影響を有することが知られる。」(第3頁第21行?第32行)

19.甲第26号証
(甲26-1)「別のコンセンサス配列TTGACAは、-35付近を中央とし、この領域は、また、ほとんどの細菌の遺伝子にとって、転写の正確かつ迅速な開始のために重要である(Darnellら、1986,Molecular Cell Biology,Scientific American Books Inc.参照)。-10及び-35領域は、それらの間のスペーシングと同様に、「プロモーター強度の主要な決定因子」である。」(第1頁第12行?第17行)

20.甲第27号証
(甲27-1)「さらに、ランダムDNA配列を2つのコンセンサス配列のうちの1つの場所にクローン化する場合、その結果得られるプロモーターの強度は、一般に、コンセンサス配列に対する相同性の程度と相関する。」(第4頁第1行?第4行)

(甲27-2)「2つのコンセンサス配列を分離するスペーサーの長さがプロモーターの強度に重要な役割を果たすことが知られる一方で、コンセンサス配列間のスペーサーの配列はプロモーターの強度に関してほとんど重要でないと一般に考えられてきた、そして、遺伝子変異によりスペーサー配列中で更なるコンセンサス配列を同定する試みは、実際に、不成功であった。」(第4頁第15行?第22行)

(甲27-3)「ほとんどしばしば、原核生物のための人工的プロモーターライブラリーは、-35シグナル(-35?-30):TTGACA及び-10シグナル(-12?-7):TATAAT、あるいは、それぞれの3つの保存されたヌクレオチドを少なくとも含む両者の部分を含むであろう。」(第7頁第24行?第28行)

21.甲第28号証
(甲28-1)「実施例2 形質転換した宿主の発現
PTHベクターを有する形質転換体を、0.5%グルコースとテトラサイクリンを含有する2YTブロスにて、30℃で一晩培養し、同じ組成の新鮮な培地中に接種し、対数増殖中期に達するまで30℃で培養を継続した。培養物を1時間の増殖インターバルで誘導(1mM IPTG)し、培養物の一部を抜き取り、分画し、培養メディウムのサンプルを生産し、抽出されたPTH産物を標準のAllegroアッセイを用いて同定した。これらアッセイの結果は、以下の表1に示される:
表1

Allegroアッセイの結果は、18bp lpp及びlacUV5配列を取り込むプロモーターが、不均一なPTHタンパク質の増強されたレベルを促進することを示唆する。修飾されたlacオペレーター配列(lacO)でスペーサーが置換されたプロモーター#3;並びに、-35及び-10領域がバクテリオファージT7に由来し、かつスペーサーがlacOプロモーターであるプロモーター#に比べて、プロモーター#1及び#2は好ましい。クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)をコードする遺伝子を発現する、同じプロモーターを用いる研究は、プロモーター#1及び#2に関して増強された発現の類似の結果を示した。また、研究した各プロモーターは、lac由来RBSに比べて、バクテリオファージT5RBSと組み合わせた場合に、増強されたタンパク質収率を示した。」(第10頁第21行?第11頁第19行)

22.甲第30号証
(甲30-1)「グルタミン酸生産細菌ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムにおける遺伝子発現試験のための、プロモーターをプロービングする新規ベクターを構築した。このプラスミドpEB003、B.ラクトファーメンタム又は大腸菌のいずれかで複製可能なシャトルベクターは、プロモーターレスのクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子をプロモーター強度をプロービングするための指標遺伝子として有する。pEB003を用いることにより、我々は、大腸菌プロモーター、tac、trp、及びlacUV5プロモーターは、B.ラクトファーメンタムで効率的に作用することを示した。CAT活性により評価されるように、プロモーターの相対強度は、大腸菌でのものとB.ラクトファーメンタムでのものとで同じであった。したがって、B.ラクトファーメンタムは、大腸菌と類似の転写機構を有するようである。」(第305頁、要約)

23.甲第31号証
(甲31-1)「主要な外部膜リポタンパク質、大腸菌において最も豊富に存在するタンパク質、の遺伝子のプロモーターは、大腸菌で最も強いプロモーターの一つであると考えられる。合成オリゴヌクレオチド指向性部位特異的変異により、lppプロモーターの-10及び-35領域の核酸配列をステップワイズで変更し、それぞれのコンセンサス配列に適合させた。変異プロモーターをlacZ遺伝子と融合させ、プロモーター活性を測定した。-10領域(AATACT)をTATACT(P1)及びTATAAT(コンセンサス配列;P2)に変更した場合、β-ガラクトシダーゼ活性はおよそ1.9倍及び2.4倍にそれぞれ増強された。同様に、-35領域(TTCTCA)をTTCACA(R1)及びTTGACA(コンセンサス配列;R2)に変更した場合、当該活性はおよそ1.2倍及び4.2倍にぞれぞれ増強された。」(第3101頁、要約第2行?第12行)

24.甲第32号証
(甲32-1)「

図2.pER23、pER23(-Nsi)、及びpER23P_(2)consの天然及び修飾されたP_(2)プロモーター、並びにpKKA3のPtacプロモーター。-35及び-10(プリブノーボックス)領域、lacオペレーター、及びlacZ開始コドン(ATG)に下線を引く。」(第190頁、図2)

(甲32-2)「

図3.pER23、pER23(-Nsi)、及びpER23P_(2)consの天然及び修飾されたP_(2)プロモーターにより駆動された、Lacαペプチドの合成。指定されたプラスミドを有する大腸菌JM107(Yanisch-Perronら、1985)の一晩培養物を、新鮮な酵母-トリプトファンブロス(37℃)へ接種し、30分後、1mM IPTGの添加により誘導した。指定されたインターバルのアリコットを採取し、LacZα活性を相補アッセイ(Miller、1972)により測定した。OD_(420)の測定値を培養液の光学密度(OD_(550))で割り、これらの比活性値をプロットした。」(第191頁、図3)

(甲32-3)「

図4.P_(2)プロモーター上流の配列修飾。プロモーターの-35及び-10領域に下線を引く。」(第191頁、図4)

(甲32-4)「(d)プロモーターの上流の修飾の効果
次の一連の実験では、我々は、プロモーターの上流の変化の効果を厳密に調査することを望んだ。-35領域がHinfIサイトを含んでいるという事実を利用し、pER23から挿入変異体を構築した。プラスミドpER23をHinfIで部分的に消化し、電気泳動し、そして、直鎖の全長分子(ワンカットのみ有する)を単離した。突出末端をPolIkで満たし、プラスミドをHindIIIリンカーの挿入で再環状化し、再形質転換した。個々のコロニーを分析し、好ましい構造を有するものをピックした。このプラスミド、pER23-35H32の関連領域の配列を図4に示す。プロシージャーは、-35領域プラス2bp上流を再構築したが、残りの上流配列は11bpの挿入によりシフトした。別の変異体、pER23-35H38では、pER23-35H32をHindIII及びPstIで処理することにより、上流全体のA+Tリッチ領域を除去し、そしてプラスミドpKKA3(T.L.,G.Baliko,A.Orosz及びP.V.,投稿中)由来の1224bp長のPstI-HindIII断片を挿入した。この断片のHindIII末端は、16SrRNAをコードするrrnB遺伝子の構造領域に由来する(Brosiusら、1981のナンバリングによると、1597と1787の位置の間)。
図5に示されるように、シフトは、プロモーター活性を劇的に低下させるのに十分である、一方、A+Tリッチ上流領域は、僅かに更なる低下をもたらすに過ぎない。」(第191頁右欄第18行?第192頁左欄第15行)

(甲32-5)「

図5.上流領域を欠損する変異におけるLacZαペプチド合成。詳細及びシンボルについては図3のレジェンドを、配列については図4を参照。」(第192頁、図5)

25.甲第33号証
(甲33-1)「

図2.trp、lac UV5、tac1及びtac2のプリブノーボックス領域に下線を引く。」(第23頁、図2)

26.甲第34号証
(甲34-1)「L-グルタミン酸は調味料として幅広い用途があり、グルタミン酸生産性コリネ型細菌を培養して該細菌にL-グルタミン酸を生産せしめ、生成するL-グルタミン酸を該細菌の培養物から分離する発酵法により工業的に生産されている。」(第2頁左下欄第10行?第14行)

(甲34-2)「これらの細菌を用いてグルタミン酸を製造する際には、発酵終了時のL-グルタミン酸の培地中への蓄積濃度を高めること、および使用原料(W)当りのグルタミン酸の生成量(対糖収率)を向上させることが工業的に重要である。上記目的を達成するために、生産菌の育種改良が種々検討されている.たとえば、グルタミン酸のアナログ(構造類似体)またはグルタミン酸生合成経路の各種中間体のアナログ等に耐性を示す菌株を作製することにより、各種酵素活性のフィードバック阻害や抑制の解除された菌株を育種する方法.またグルタミン酸生合成経路の途中より分岐して副生産物の合成に向かう経路の酵素活性の低下した菌株を育種する方法等が試みられている。一方、グルタミン酸生合成に関与する酵素の活性を強化することによりL-グルタミン酸の生産速度を高めるとともに効率良くL-グルタミン酸を生成させる試みも近年行われるようになり、この目的省達成するためにグルタミン酸の生合成経路に関与する各種酵素遺伝子のクローニングが行われつつある。」(第2頁左下欄第19行?右下欄第19行)

(甲34-3)「しかしながら、L-グルタミン酸発酵においてその生産性を十分向上することのできる菌株については、これまでに報告された例がなかった。
(問題点を解決するための手段および作用)
本発明者らは上記問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、グルタミン酸生合成経路に関与する酵素遺伝子のうち、少なくとも2種以上の酵素遺伝子を組換えDNA技術を用いることにより同時に強化した種々の菌株を作製することに成功し、これらの菌株を用いてグルタミン酸発酵を行ったところ、少なくともグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(Glutamate dehydrogenase:GDH)遺伝子とイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(Isocitrate dehydrogenase:ICDH)遺伝子を含む少なくとも2種以上のグルタミン酸生合成経路に関与するグルタミン酸生産性コリネ型細菌由来の酵素遺伝子を含む組換え体DNAで形質転換された菌株を用いてグルタミン酸発酵を行なった場合には親株を使用した場合に比較して培地中へのL-グルタミン酸の蓄積レベルのみならず対糖収率も著しく向上していることを見出し、本発明を完成するに到った。」(第3頁右上欄第5行?左下欄第6行)

(甲34-4)「多重強化株を作製する際の材料となる組換えプラスミドとして、GDH遺伝子を含むpAG1001、ICDH遺伝子を含むpAG3001、AH遺伝子を含むpA5001、およびCS遺伝子を含むpAG4003等が挙げられる。」(第6頁右下欄第8行?第12行)

(甲34-5)「第2表

」(第17頁、第2表)

(甲34-6)「第10表

」(第41頁、第10表)

(甲34-7)「pCI31およびpCG5はそれぞれCSとICDHを同時に含む組換えプラスミドおよびCSとGDH同時に含む組換えプラスミドである。」(第42頁右下欄第12行?第14行)

(甲34-8)「第11表

」(第43頁、第11表)

(甲34-9)「第13表

」(第44頁、第13表)

27.甲第35号証
(甲35-1)「このプロモーターの-35及び-10領域、それぞれTACACA及びAATAATは、大腸菌のtrpプロモーターととてもよく似ている。B.ラクトファーメンタムのtrpプロモーターは、大腸菌で機能する。」(第191頁、要約第8行?第9行)

第6 乙号証の記載事項
乙第7号証の1?3には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。)。

1.乙第7号証の1
(乙7の1-1)「69.複数のプロモーターにわたって平均化された所与の相対的位置に見られるいくつかの典型的な核酸からなるコンセンサス配列は、可能性のあるポリメラーゼ結合位置を識別するのに有用であったー方、特定のプロモーターにおいてコンセンサスからずれることがプロモーターの強度に関してどのような影響を及ぼすかは予測不能であったと思われる。例えば、1つの非コンセンサスなヌクレオチドが特定のプロモーターの別の場所にあるヌクレオチドと協働する場合があり、したがって、コンセンサス配列とずれた位置(deviant position)にコンセンサスを導入する変異を行うことによってこの関係が破壊され、プロモーターの強度を実質的に低下させることがあり得る。
70.例えば、Fernandezは、よりコンセンサスに類似の構造を導入するようなプロモーターの改変によって得られたものが、「いくぶん強度の劣る」プロモーターであった例を示し、「大腸菌において最も強力なプロモーターが必ずしもコンセンサス配列に付着するわけではないことがわかった」と述べている(証拠1009、第46頁、第3段落)。
71.プロモーターコンセンサス配列からずれることは、完全に一致する場合よりもはるかに一般的である。さらに、コンセンサスプロモーター配列に合致させることは、発現活性の強さではなく、ポリメラーゼによる結合の堅固さとより正確な相関関係にある。例えば、Ellingerら(J.Mol.Biol.,239,455-465(1994))によって、「プロモーター配列がコンセンサスパターンとどのように合致しているかによって転写レベルを予測することは全くできなかった」ことが確認され、「このような予測不能性は、これまでの多くの研究において確認されている」ことも記載されている(証拠1011、第462頁、第2欄第3段落)。」(第20頁第3行?第20行)

2.乙第7号証の2
(乙7の2-1)「しかしながら、インビボでは、二つの独立したレポーター遺伝子(4.5S RNAを含む)を用いた際、trcプロモーターは、元のtacプロモーターと比較して、いくぶん強度の劣るものであったことが示された(ブロシウスら、1985)。大腸菌において最も強力なプロモーターが必ずしもコンセンサス配列に付着するわけではないことがわかった。」(第46頁第34行?第39行)

3.乙第7号証の3
(乙7の3-1)「すべてのプロモーターは、大腸菌において、適切で、大部分は予測可能な開始部位から転写を開始したことが分かった。しかしながら、プロモーター配列がコンセンサスパターンとどのように合致しているかによって転写レベルを予測することは全くできなかった。」(第462頁右欄第46行?第50行)

(乙7の3-2)「このような予測不能性は、これまでの多くの研究において確認されている(クナウス及びブジャール、1988、1990;グラナら、1988)。よって、コンセンサス要素は、特有の位置での開始の特定の際に主要な役割を果たすようであるが、転写の強度を必ずしも支配するものではない。」(第462頁右欄第54行?第463頁左欄第2行)

第7 当審の判断
1.無効理由1(甲第2号証を主引用例とする進歩性)について
(1)本件訂正発明1について
本件訂正発明1を、「コリネ型細菌の染色体上の、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を導入したコリネ型細菌を、培地で培養し、培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ、これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法」に係る発明(以下、「本件訂正発明1-1」という)、「コリネ型細菌の染色体上の、クエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を導入したコリネ型細菌を、培地で培養し、培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ、これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法」に係る発明(以下、「本件訂正発明1-2」という)、「コリネ型細菌の染色体上の、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列、並びにクエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を導入したコリネ型細菌を、培地で培養し、培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ、これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法」に係る発明(以下、「本件訂正発明1-3」という)に分けて以下検討を行う。

(2)甲第2号証に記載された発明
上記記載事項(甲2-2)中の「P-glt」の「glt」が、クエン酸合成酵素(CS)を表すことは技術常識であり、上記記載事項(甲2-2)中の「P-gdh」、「P-glt」が、それぞれ、コリネバクテリウム グルタミカム(C.グルタミカム)のグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列、クエン酸合成酵素(CS)のプロモーター配列を表すことは明らかであるから、上記記載事項(甲2-2)によると、甲第2号証には、「コリネ型細菌の染色体上の、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTGGTCA配列及び-10領域にCATAAT配列を有し、クエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTGGCTA配列及び-10領域にTAGCGT配列を有する、コリネ型細菌」の発明(以下、「甲2発明」という)が記載されていると認められる。

(3)本件訂正発明1-1について
ア 本件訂正発明1-1と甲2発明との対比
本件訂正発明1-1と甲2発明とを対比すると、両者は、コリネ型細菌の染色体上の、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の-35領域に特定の塩基配列及び-10領域に特定の塩基配列を有する、コリネ型細菌に係る発明である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)本件訂正発明1-1のコリネ型細菌は、GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を導入したものであるのに対し、甲2発明のコリネ型細菌は、GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTGGTCA配列及び-10領域にCATAAT配列を有するものである点。
(相違点2)本件訂正発明1-1は、コリネ型細菌を培地で培養し、培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ、これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法の発明であるのに対し、甲2発明は、コリネ型細菌の発明である点。

イ 相違点についての検討
相違点1について検討する。
上記記載事項(甲2-1)及び(甲2-4)?(甲2-7)には、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターのコンセンサス配列についての記載があるものの、コリネバクテリウム・グルタミカムの複数の遺伝子のプロモーターについて、-35領域及び-10領域の塩基配列を解析した結果が記載されているだけで、上記記載事項(甲2-1)?(甲2-7)は、コリネ型細菌の染色体上の遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌の染色体上の遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第4号証には、クエン酸合成酵素(CS)活性をプラスミドで増強することによっては、コリネバクテリウム・グルタミカムのL-グルタミン酸を分泌する能力を増強することはできないこと(上記記載事項(甲4-3))、コリネバクテリウム・グルタミカムにおいて、クエン酸合成酵素(CS)の過剰発現により菌の生育が悪くなったこと(上記記載事項(甲4-2))、CS遺伝子のプロモーターの-10領域の塩基配列がTATAGCであること(上記記載事項(甲4-4))が記載されているが、上記記載事項(甲4-1)?(甲4-4)は、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第5号証には、コリネ型細菌において、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を欠損させること(上記記載事項(甲5-1)及び(甲5-5))、相同性組換えを利用して、変異が導入されて改変又は破壊された遺伝子をコリネ型細菌の染色体上の正常な遺伝子と置換することができること(上記記載事項(甲5-2))、L-グルタミン酸生産性を向上させるために、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子を強化すること(上記記載事項(甲5-3))、大腸菌のlacプロモーター、tacプロモーター、trpプロモーター等のコリネ型細菌の細胞内で機能する強力なプロモーターの下流に目的遺伝子を連結することにより、目的遺伝子の発現を強化することができること(上記記載事項(甲5-4))が記載されているが、上記記載事項(甲5-2)は、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を欠損させる手段として記載されているだけで、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子に変異を導入する手段として記載されているわけではなく、また、上記記載事項(甲5-3)及び(甲5-4)は、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列を改変することを開示も示唆もしていない。
甲第6号証には、大腸菌において、-35領域のTTGTCA配列をコンセンサス配列TTGACAにすることにより、プロモーター強度が21倍に増強したこと、-10領域のTACAAT配列をコンセンサス配列TATAATにすることにより、プロモーター強度が7倍に増強したこと、-35領域にTTG配列が保存されていることが記載されている(上記記載事項(甲6-1)?(甲6-2))が、甲第6号証は、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターに関する文献ではなく、また、大腸菌の特定の遺伝子のプロモーターについての結果が記載されているだけで、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターの-35領域及び-10領域のコンセンサス配列に関する記載はないから、上記記載事項(甲6-1)?(甲6-2)は、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第7号証には、大腸菌のtacプロモーターは、-35領域にTTGACA配列及び-10領域にTATAAT配列を有すること、大腸菌のlacUV5プロモーターは、-10領域にTATAAT配列を有することが記載されている(上記記載事項(甲7-1))が、甲第7号証は、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターに関する文献ではなく、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターの-35領域及び-10領域のコンセンサス配列に関する記載はないから、上記記載事項(甲7-1)は、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第8号証には、-10領域にTATAAT配列を有するプロモーターがコリネ型細菌で機能し、目的遺伝子の発現を14倍に高めたことが記載されている(上記記載事項(甲8-1)?(甲8-2))が、甲第8号証は、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のプロモーターに関する文献ではなく、また、特定の配列を有するプロモーターを用いた結果が記載されているだけで、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターの-35領域及び-10領域のコンセンサス配列に関する記載はないから、上記記載事項(甲8-1)?(甲8-2)は、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第34号証には、グルタミン酸生合成経路に関与する酵素遺伝子のうち、少なくとも2種以上の酵素遺伝子を組換えDNA技術を用いることにより同時に強化した種々の菌株を作製し、これらの菌株を用いてグルタミン酸発酵を行ったところ、少なくともグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子とイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(ICDH)遺伝子を含む少なくとも2種以上のグルタミン酸生合成経路に関与するコリネ型細菌由来の酵素遺伝子を含む組換え体DNAで形質転換された菌株を用いてグルタミン酸発酵を行なった場合には親株を使用した場合に比較して培地中へのL-グルタミン酸の蓄積レベルが向上したこと(上記記載事項(甲34-3))、GDH遺伝子を含む組換えプラスミドpAG1001で形質転換された菌株(801(pAG1001))、CS遺伝子を含む組換えプラスミドpAG4003で形質転換された菌株(801(pAG4003))、CSとGDH遺伝子とCS遺伝子を含む組換えプラスミドpCG5で形質転換された菌株(801(pCG5))を作製し、これらの菌株を用いてグルタミン酸発酵を行ったことが記載されている(上記記載事項(甲34-4)?(甲34-9))が、GDH遺伝子単独で増強させた菌株(801(pAG1001))もCS遺伝子単独で増強させた菌株(801(pAG4003))もL-グルタミン酸の生産性は9.2g/dlであり、親株801の生産性(9.1g/dl)と実質的に変わらなかったことが記載されており(上記記載事項(甲34-9))、上記記載事項(甲34-1)?(甲34-9)は、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
また、乙7号証の1?乙7号証の3等の記載から、大腸菌についても、プロモーターのコンセンサス配列との類似性が、プロモーター活性の向上を必ず引き起こすとは考えられておらず、コリネ型細菌において、プロモーター配列をコンセンサス配列に類似させた場合に、プロモーター活性が必ず向上するとの技術常識があったとは認められない。
よって、甲第2、4?8、34号証の記載は、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。また、技術常識ないし周知事項を示す証拠として提出された甲第3、9?12、16?19、23?28、30?33、35号証にも、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列を改変することの動機付けとなるような記載はないから、甲第2、4?8、34号証の記載及び本願優先日前の周知事項に基づいても、甲2発明のコリネ型細菌において、GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域のTGGTCA配列について、2番目の塩基の「G」を「T」に置換してTTGTCA配列にし、さらに、GDH遺伝子のプロモーター配列の-10領域のCATAAT配列について、1番目の塩基の「C」を「T」に置換してTATAAT配列にすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

次に、相違点2について検討する。
上記記載事項(甲5-1)及び(甲5-5)から、コリネ型細菌を培地で培養し、培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ、これを該培地から採取してL-グルタミン酸を製造することは、本願優先日前周知事項であるから、甲2発明のコリネ型細菌を培地で培養し、培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ、これを該培地から採取して、発酵法によりL-グルタミン酸を製造することは、当業者が容易に想到し得ることである。

ウ 本件訂正発明1-1の効果について
本件明細書の実施例2には、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を有する変異株(FGR2)が、染色体上のGDH遺伝子のプロモーターの-35領域及び-10領域に変異を有しない株に比べて、GDH比活性が3.4倍増強され、L-グルタミン酸の収率を1.2倍向上させたことが記載されている(表5)から、本件訂正発明1-1は、L-グルタミン酸の収率を向上させた発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法を提供することができるという、甲2発明に比べて格別顕著な効果を奏するといえる。

エ まとめ
したがって、本件訂正発明1-1は、甲第2号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第34号証に記載された発明、並びに周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件訂正発明1-2について
ア 本件訂正発明1-2と甲2発明との対比
本件訂正発明1-2と甲2発明とを対比すると、両者は、コリネ型細菌の染色体上の、クエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-10領域に特定の塩基配列を有する、コリネ型細菌に係る発明である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)本件訂正発明1-2のコリネ型細菌は、CS遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を導入したものであるのに対し、甲2発明のコリネ型細菌は、CS遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTAGCGT配列を有するものである点。
(相違点2)本件訂正発明1-2は、コリネ型細菌を培地で培養し、培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ、これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法の発明であるのに対し、甲2発明は、コリネ型細菌の発明である点。

イ 相違点についての検討
相違点1について検討する。
上記記載事項(甲2-1)及び(甲2-4)?(甲2-7)には、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターのコンセンサス配列についての記載があるものの、コリネバクテリウム・グルタミカムの複数の遺伝子のプロモーターについて、-35領域及び-10領域の塩基配列を解析した結果が記載されているだけで、上記記載事項(甲2-1)?(甲2-7)は、コリネ型細菌の染色体上の遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌の染色体上の遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第4号証には、クエン酸合成酵素(CS)活性をプラスミドで増強することによっては、コリネバクテリウム・グルタミカムのL-グルタミン酸を分泌する能力を増強することはできないこと(上記記載事項(甲4-3))、コリネバクテリウム・グルタミカムにおいて、クエン酸合成酵素(CS)の過剰発現により菌の生育が悪くなったこと(上記記載事項(甲4-2))、CS遺伝子のプロモーターの-10領域の塩基配列がTATAGCであること(上記記載事項(甲4-4))が記載されているが、上記記載事項(甲4-1)?(甲4-4)は、コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のCS遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第5号証には、コリネ型細菌において、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を欠損させること(上記記載事項(甲5-1)及び(甲5-5))、相同性組換えを利用して、変異が導入されて改変又は破壊された遺伝子をコリネ型細菌の染色体上の正常な遺伝子と置換することができること(上記記載事項(甲5-2))、L-グルタミン酸生産性を向上させるために、クエン酸合成酵素(CS)遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子を強化すること(上記記載事項(甲5-3))、大腸菌のlacプロモーター、tacプロモーター、trpプロモーター等のコリネ型細菌の細胞内で機能する強力なプロモーターの下流に目的遺伝子を連結することにより、目的遺伝子の発現を強化することができること(上記記載事項(甲5-4))が記載されているが、上記記載事項(甲5-2)は、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を欠損させる手段として記載されているだけで、コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子に変異を導入する手段として記載されているわけではなく、また、上記記載事項(甲5-3)及び(甲5-4)は、コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列を改変することを開示も示唆もしていない。
甲第6号証には、大腸菌において、-35領域のTTGTCA配列をコンセンサス配列TTGACAにすることにより、プロモーター強度が21倍に増強したこと、-10領域のTACAAT配列をコンセンサス配列TATAATにすることにより、プロモーター強度が7倍に増強したこと、-35領域にTTG配列が保存されていることが記載されている(上記記載事項(甲6-1)?(甲6-2))が、甲第6号証は、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターに関する文献ではなく、また、大腸菌の特定の遺伝子のプロモーターについての結果が記載されているだけで、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターの-10領域のコンセンサス配列に関する記載はないから、上記記載事項(甲6-1)?(甲6-2)は、コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第7号証には、大腸菌のtacプロモーターは、-35領域にTTGACA配列及び-10領域にTATAAT配列を有すること、大腸菌のlacUV5プロモーターは、-10領域にTATAAT配列を有することが記載されている(上記記載事項(甲7-1))が、甲第7号証は、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターに関する文献ではなく、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターの-10領域のコンセンサス配列に関する記載はないから、上記記載事項(甲7-1)は、コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第8号証には、-10領域にTATAAT配列を有するプロモーターがコリネ型細菌で機能し、目的遺伝子の発現を14倍に高めたことが記載されている(上記記載事項(甲8-1)?(甲8-2))が、甲第8号証は、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のプロモーターに関する文献ではなく、また、特定の配列を有するプロモーターを用いた結果が記載されているだけで、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターの-10領域のコンセンサス配列に関する記載はないから、上記記載事項(甲8-1)?(甲8-2)は、コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第34号証には、グルタミン酸生合成経路に関与する酵素遺伝子のうち、少なくとも2種以上の酵素遺伝子を組換えDNA技術を用いることにより同時に強化した種々の菌株を作製し、これらの菌株を用いてグルタミン酸発酵を行ったところ、少なくともグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子とイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(ICDH)遺伝子を含む少なくとも2種以上のグルタミン酸生合成経路に関与するコリネ型細菌由来の酵素遺伝子を含む組換え体DNAで形質転換された菌株を用いてグルタミン酸発酵を行なった場合には親株を使用した場合に比較して培地中へのL-グルタミン酸の蓄積レベルが向上したこと(上記記載事項(甲34-3))、GDH遺伝子を含む組換えプラスミドpAG1001で形質転換された菌株(801(pAG1001))、CS遺伝子を含む組換えプラスミドpAG4003で形質転換された菌株(801(pAG4003))、CSとGDH遺伝子とCS遺伝子を含む組換えプラスミドpCG5で形質転換された菌株(801(pCG5))を作製し、これらの菌株を用いてグルタミン酸発酵を行ったことが記載されている(上記記載事項(甲34-4)?(甲34-9))が、GDH遺伝子単独で増強させた菌株(801(pAG1001))もCS遺伝子単独で増強させた菌株(801(pAG4003))もL-グルタミン酸の生産性は9.2g/dlであり、親株801の生産性(9.1g/dl)と実質的に変わらなかったことが記載されており(上記記載事項(甲34-9))、上記記載事項(甲34-1)?(甲34-9)は、コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
また、乙7号証の1?乙7号証の3等の記載から、大腸菌についても、プロモーターのコンセンサス配列との類似性が、プロモーター活性の向上を必ず引き起こすとは考えられておらず、コリネ型細菌において、プロモーター配列をコンセンサス配列に類似させた場合に、プロモーター活性が必ず向上するとの技術常識があったとは認められない。
よって、甲第2、4?8、34号証の記載は、コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。また、技術常識ないし周知事項を示す証拠として提出された甲第3、9?12、16?19、23?28、30?33、35号証にも、コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列を改変することの動機付けとなるような記載はないから、甲第2、4?8、34号証の記載及び本願優先日前の周知事項に基づいても、甲2発明のコリネ型細菌において、CS遺伝子のプロモーター配列の-10領域のTAGCGT配列について、3番目の塩基の「G」を「T」に置換し、4番目の塩基の「C」を「A」に置換し、さらに、5番目の塩基の「G」を「A」に置換してTATAAT配列にすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

次に、相違点2について検討する。
上記記載事項(甲5-1)及び(甲5-5)から、コリネ型細菌を培地で培養し、培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ、これを該培地から採取してL-グルタミン酸を製造することは、本願優先日前周知事項であるから、甲2発明のコリネ型細菌を培地で培養し、培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ、これを該培地から採取して、発酵法によりL-グルタミン酸を製造することは、当業者が容易に想到し得ることである。

ウ 本件訂正発明1-2の効果について
本件明細書の実施例3には、コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を有する変異株(GB02)が、染色体上のCS遺伝子のプロモーターの-10領域に変異を有しない株に比べて、CS比活性が1.9倍増強され(表10)、L-グルタミン酸の収率を1.1倍向上させた(表12)ことが記載されているから、本件訂正発明1-1は、L-グルタミン酸の収率を向上させた発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法を提供することができるという、甲2発明に比べて格別顕著な効果を奏するといえる。

エ まとめ
したがって、本件訂正発明1-2は、甲第2号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第34号証に記載された発明、並びに周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件訂正発明1-3について
本件訂正発明1-3は、本件訂正発明1-1に更なる限定を加えた発明であるから、上記(3)で述べたように、本件訂正発明1-1が、甲第2号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第34号証に記載された発明、並びに周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件訂正発明1-3も、甲第2号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第34号証に記載された発明、並びに周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6)請求人の主張について
請求人は、平成29年10月2日付け弁駁書において、以下のア?オの点を主張しているので、以下この点について検討する。

ア コリネ型細菌のプロモーターの-35領域のコンセンサス配列はTTGCCAであり、1?3番目の塩基「TTG」は、コリネ型細菌以外の他の細菌でも保存されているから、-35領域の変異を試みる場合、1?3番目の塩基については「TTG」を維持するはずであり、コリネ型細菌のプロモーターの-35領域のコンセンサス配列TTGCCAについて、4番目の塩基「C」を「T」に変異させて、甲2発明のコリネ型細菌のGDH遺伝子のプロモーターの-35領域を、コリネ型細菌のプロモーターの-35領域のコンセンサス配列に近づけて、TTGTCAとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、コリネ型細菌のプロモーターの-35領域のコンセンサス配列はTTGCCAであり、1?3番目の塩基「TTG」は、コリネ型細菌以外の他の細菌でも保存されているから、-35領域の変異を試みる場合、1?3番目の塩基については保存性の高い「TTG」を採用するはずであり、甲2発明のコリネ型細菌の野生型GDH遺伝子のプロモーターの-35領域のTGGTCA配列について、2番目の「G」を「T」に変異させて、TTGTCAとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

イ 甲第2号証に記載されているように、コリネ型細菌のプロモーターの-10領域のコンセンサス配列TA.AATの3番目の塩基「.」は、Tである確率が最も高く、大腸菌等の細菌のプロモーターの-10領域のコンセンサス配列はTATAATで3番目の塩基がTであるから、TA.AAT配列の3番目の塩基がTであるTATAATを、当業者は第一に認識し、その使用を動機付けられるので、コンセンサス配列TA.AATの3番目の塩基をTにしたTATAAT配列を、GDH遺伝子のプロモーター-10領域に適用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、コリネ型細菌のプロモーターの-10領域のコンセンサス配列は、TA.aaTであり、1番目の塩基「T」は、コリネ型細菌以外の他の細菌でも保存されており、そして、tac、lacUV5プロモーターのような-10領域の配列がTATAATであるプロモーターがコリネ型細菌で強力に機能し、GDH遺伝子の発現を増強することが知られていた(甲第5号証、甲第30号証、等)から、甲2発明のコリネ型細菌の野生型GDH遺伝子のプロモーターの-10領域の1番目の塩基「C」を「T」に変異し、TATAATとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

ウ 本件明細書の実施例は、GDH遺伝子のプロモーターの-35領域において、TGGTCAをTTGTCAに変更してもL-グルタミン酸生成量に差が生じないことを示しており、GDH遺伝子のプロモーターの-35領域をTTGTCAに、かつ-10領域をTATAATに変異したことによる効果は、-10領域のみをTATAATに変異したことによる効果と変わりがない。
そして、プロモーターの-10領域の配列をTATAATにすることにより、目的遺伝子によりコードされるタンパク質の相対活性は、コリネ型細菌において14倍(甲第8号証)に上昇すること、大腸菌においても目的遺伝子が7倍(甲第6号証)乃至10倍(甲第9号証)に上昇することが知られていたから、上記実施例に示される程度のGDHの相対活性の上昇は、当業者の予測可能な範囲に過ぎない。
また、親株に対するGDH活性の増強を2.9倍に調整することにより、L-グルタミン酸の生産性が1.23倍に向上することが既に知られていた(甲第34号証)から、GDH活性の増強を適度に調整(3倍前後)することにより、L-グルタミン酸の生産性を1.1?1.2倍に向上させるとの本件訂正発明1の効果は、当業者の予測可能な範囲に過ぎない。

エ 甲第2号証に記載されているように、コリネ型細菌のプロモーターの-10領域のコンセンサス配列は、TA.AATであり、3番目の塩基「.」がTであるTATAATを当業者は第一に認識し、その使用を動機付けられるので、コンセンサス配列TA.AATの3番目の塩基をTにしたTATAAT配列を、CS遺伝子のプロモーター-10領域に適用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、コリネ型細菌のプロモーターの-10領域のコンセンサス配列は、TA.aaTであり、1番目の塩基「T」は、コリネ型細菌以外の他の細菌でも保存されており、そして、コリネ型細菌において、GDH遺伝子とCS遺伝子の発現を増強することによって、L-グルタミン酸の生産性が向上すること、当該遺伝子の発現を-10領域がTATAAT配列のプロモーターにより増強することが知られていた(甲第5号証、甲第34号証、等)から、甲2発明のコリネ型細菌の野生型CS遺伝子のプロモーターの-10領域の3?5番目の塩基「GCG」を「TAA」に変異し、TATAATとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
甲第4号証では、CS遺伝子のプロモーター-10領域の配列が、甲2発明の-10領域より2bp上流にずれているに過ぎないことは当業者にとり一目瞭然であるから、甲第4号証の記載を参考にして、CS遺伝子の野生型プロモーター-10領域の配列がTATAGCである可能性を当業者は認識するので、甲2発明のコリネ型細菌の野生型CS遺伝子のプロモーターの-10領域を変異し、TATAATとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

オ 本件明細書の実施例には、CS遺伝子を単独で増強することによるL-グルタミン酸の生産性は示されていない。実施例3には、GDH遺伝子のプロモーターに変異が導入された菌株(FGR2)にCS遺伝子のプロモーターの変異をさらに導入した変異株によるL-グルタミン酸の生産性が示されているが、CS遺伝子を単独で増強させた変異株の生産性は示されていない。CS活性を単独で増強してもL-グルタミン酸の生産性は向上しないことが知られていたことに鑑みれば、実施例3の結果から、CS遺伝子を単独で増強させたことによりL-グルタミン酸の生産性が向上することを理解できない。
実施例3では、GDH遺伝子のプロモーターの-35領域がTTGTCA、-10領域がTATAATに変異され、CS遺伝子のプロモーターの-10領域がTATAATに変異されたGB02が取得されているが、GB02は、親株FGR2に対して、CS相対活性は1.9倍、L-グルタミン酸の生産性は約1.1倍に向上した(表10及び表12)。
そして、プロモーターの-10領域の配列をTATAATにすることにより、目的遺伝子によりコードされるタンパク質の相対活性は、コリネ型細菌において14倍(甲第8号証)に上昇すること、大腸菌においても目的遺伝子が7倍(甲第6号証)乃至10倍(甲第9号証)に上昇することが知られていた。
また、親株に対するCS活性の増強を3.3倍に調整することにより、L-グルタミン酸の生産性が1.23倍に向上することが既に知られていた(甲第34号証)から、CS活性の増強を適度に調整(2?4倍前後)することにより、L-グルタミン酸の生産性を1.1倍向上させるとの本件訂正発明1の効果は、当業者の予測可能な範囲に過ぎない。

主張アについて
請求人は、コンセンサス配列TTGCCAについて、4番目の塩基「C」を「T」に変異させて、TTGTCAとすることは、当業者が容易に想到し得ると主張しているが、そもそも、甲2発明は、「コリネ型細菌の染色体上の、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTGGTCA配列」を有するコリネ型細菌の発明であり、-35領域にコンセンサス配列を有するコリネ型細菌の発明ではないから、請求人の上記主張は失当であり、仮に、請求人の上記主張が、甲2発明の「TGGTCA配列」をコンセンサス配列TTGCCAにして、さらに、そのコンセンサス配列TTGCCAを変更してTTGTCAとすることは、当業者が容易に想到し得るという主張である場合には、「コンセンサス配列を変更してTTGTCAにすること」は、コンセンサス配列に近づけることにはならないから、請求人の上記主張は採用できない。
そして、上記(3)イで述べたように、請求人が提出したいずれの証拠にも、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35の塩基配列を改変することの動機付けとなるような記載はなく、また、コリネ型細菌において、プロモーター配列をコンセンサス配列に類似させた場合に、プロモーター活性が必ず向上するとの技術常識があったとは認められないから、甲2発明のコリネ型細菌の野生型GDH遺伝子のプロモーターの-35領域のTGGTCA配列について、2番目の塩基の「G」を「T」に変異させて、TTGTCA配列にすることは、当業者といえども容易に想到し得ることとはいえない。
また、仮に、請求人が主張するような「コンセンサス配列に近づけ」る改変を試みたとしても、野生型GDH遺伝子のプロモーターの-35領域のTGGTCA配列については、コンセンサス配列に近づけるのであれば、1?3番目の塩基について「TTG」を採用するだけでなく、4番目の塩基もCを採用して、TTGCCAとすることになるから、請求人の上記主張は採用できない。

主張イについて
請求人は、コンセンサス配列TA.AATについて、3番目の塩基をTにして、TATAATとすることは、当業者が容易に想到し得ると主張しているが、そもそも、甲2発明は、「コリネ型細菌の染色体上の、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の・・・・・・-10領域にCATAAT配列」を有するコリネ型細菌の発明であり、-10領域にコンセンサス配列を有するコリネ型細菌の発明ではないから、請求人の上記主張は失当である。
甲第5号証は、「tac、lacUV5プロモーターのような-10領域の配列がTATAATであるプロモーターがコリネ型細菌で強力に機能し、GDH遺伝子の発現を増強すること」が実施例等により具体的に記載されているわけではなく、また、甲第30号証には、CAT(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子を、大腸菌のtac、lacUV5及びtrpプロモーターによってコリネ型細菌で発現させた結果が記載されているだけで、GDH遺伝子の発現を増強することは全く記載されていない。
また、tac、lacUV5プロモーターのような-10領域の配列がTATAATであるプロモーターがコリネ型細菌で強力に機能することが知られていたとしても、tac、lacUV5プロモーターの-10領域のTATAAT配列は、コリネ型細菌の遺伝子のプロモーターのコンセンサス配列とは無関係であり、また、プロモーター活性は-10領域の配列のみで決まるものではなく、それ以外の構造もプロモーター活性に影響を与えることは技術常識であるから、tac、lacUV5プロモーターのような-10領域の配列がTATAATであるプロモーターがコリネ型細菌で強力に機能することが、コリネ型細菌の染色体上の遺伝子のプロモーターの-10領域の塩基配列を改変して、TATAAT配列にすることの動機付けになるとはいえない。
そして、上記(3)イで述べたように、請求人が提出したいずれの証拠にも、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10の塩基配列を改変することの動機付けとなるような記載はなく、また、コリネ型細菌において、プロモーター配列をコンセンサス配列に類似させた場合に、プロモーター活性が必ず向上するとの技術常識があったとは認められないから、甲2発明のコリネ型細菌の野生型GDH遺伝子のプロモーターの-10領域のCATAAT配列について、1番目の塩基の「C」を「T」に変異させて、TATAAT配列にすることは、当業者といえども容易に想到し得ることとはいえない。

主張ウについて
甲第8号証は、特定の配列を有するプロモーターを用いた結果が記載されているだけで、しかも、14倍の比較の対照となった株は、プロモーターレスの(プロモーターのない)株であり、また、甲第6号証、甲第9号証は、コリネ型細菌ではなく大腸菌における結果であるから、本件訂正発明1の効果が当業者の予測可能な範囲に過ぎないことを証明する証拠として採用できない。
また、甲第34号証に記載のGDH活性が2.9倍に増強された株(801(pCIG231))は、GDH遺伝子だけでなく、CS遺伝子及びICDH遺伝子も組み合わせてプラスミド導入によって増強させた場合の効果であるから、請求人の上記主張は採用できない。

主張エについて
請求人は、コンセンサス配列TA.AATについて、3番目の塩基をTにして、TATAATとすることは、当業者が容易に想到し得ると主張しているが、そもそも、甲2発明は、「コリネ型細菌の染色体上の、・・・・・・クエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTGGCTA配列及び-10領域にTAGCGT配列」を有するコリネ型細菌の発明であり、-10領域にコンセンサス配列を有するコリネ型細菌の発明ではないから、請求人の上記主張は失当である。
甲第5号証は、「コリネ型細菌において、GDH遺伝子とCS遺伝子の発現を増強することによって、L-グルタミン酸の生産性が向上すること、当該遺伝子の発現を-10領域がTATAAT配列のプロモーターにより増強すること」が実施例等により具体的に記載されているわけではなく、また、甲第34号証には、GDH遺伝子単独で増強させた場合(801(pAG1001))もGDH遺伝子とCS遺伝子とを組み合わせて増強させた場合(801(pCG5))も、CS遺伝子単独で増強させた場合(801(pAG4003))と同程度のL-グルタミン酸の収率であること(上記記載事項(甲34-4)?(甲34-9)、平成29年10月2日付け弁駁書の別紙1参照)が記載されているだけで、「コリネ型細菌において、GDH遺伝子とCS遺伝子の発現を増強することによって、L-グルタミン酸の生産性が向上すること」は確認されていない。
また、コリネ型細菌において遺伝子の発現を-10領域がTATAAT配列のプロモーターにより増強することが知られていたとしても、tac、lacUV5プロモーターの-10領域のTATAAT配列は、コリネ型細菌の遺伝子のプロモーターのコンセンサス配列とは無関係であり、また、プロモーター活性は-10領域の配列のみで決まるものではなく、それ以外の構造もプロモーター活性に影響を与えることは技術常識であるから、コリネ型細菌において遺伝子の発現を-10領域がTATAAT配列のプロモーターにより増強することが、コリネ型細菌の染色体上の遺伝子のプロモーターの-10領域の塩基配列を改変して、TATAAT配列にすることの動機付けになるとはいえない。
そして、上記(4)イで述べたように、請求人が提出したいずれの証拠にも、コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列を改変することの動機付けとなるような記載はなく、また、コリネ型細菌において、プロモーター配列をコンセンサス配列に類似させた場合に、プロモーター活性が必ず向上するとの技術常識があったとは認められないから、甲2発明のコリネ型細菌の野生型CS遺伝子のプロモーターの-10領域のTAGCGT配列について、3番目の塩基の「G」を「T」に変異させ、4番目の塩基の「C」を「A」に変異させ、さらに、5番目の塩基の「G」を「A」に変異させて、TATAAT配列にすることは、当業者といえども容易に想到し得ることとはいえない。
また、請求人は、「甲第4号証の記載を参考にして、CS遺伝子の野生型プロモーター-10領域の配列がTATAGCである可能性を当業者は認識する」と主張しているが、甲第2号証に記載されているCS遺伝子のプロモーターの-10領域の配列に代えて、わざわざ別の文献に記載されている異なる配列を「可能性」があるからといって当業者が採用することは通常行うことではないから、請求人の上記主張は採用できない。

主張オについて
本件明細書の実施例3には、コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を有する変異株(GB02)が、染色体上のCS遺伝子のプロモーターの-10領域に変異を有しない株に比べて、CS比活性が1.9倍増強され(表10)、L-グルタミン酸の収率を1.1倍向上させた(表12)ことが記載されているから、CS遺伝子のプロモーター配列の-10領域のみに特定の変異を導入して適度な範囲に調節した場合には、グルタミン酸生産が向上することは容易に理解できるものである。
また、甲第34号証には、プラスミドを用いて、GDH遺伝子単独で増強させた場合(801(pAG1001))もGDH遺伝子とCS遺伝子とを組み合わせて増強させた場合(801(pCG5))も、CS遺伝子単独で増強させた場合(801(pAG4003))と同程度のL-グルタミン酸の収率であることに鑑みれば、本件明細書の実施例3の実験結果は、当業者であっても予測し得ないものである。
甲第8号証は、特定の配列を有するプロモーターを用いた結果が記載されているだけで、しかも、14倍の比較の対照となった株は、プロモーターレスの(プロモーターのない)株であり、また、甲第6号証、甲第9号証は、コリネ型細菌ではなく大腸菌における結果であるから、本件訂正発明1の効果が当業者の予測可能な範囲に過ぎないことを証明する証拠として採用できない。
また、甲第34号証に記載のGDH活性が2.9倍に増強された株(801(pCIG231))は、CS遺伝子だけでなく、GDH遺伝子及びICDH遺伝子も組み合わせてプラスミド導入によって増強させた場合の効果であるから、請求人の上記主張は採用できない。

(7)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1-1と実質的に同一の発明であるから、上記(3)で述べたように、本件訂正発明1-1が、甲第2号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第34号証に記載された発明、並びに周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件訂正発明2も、甲第2号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第34号証に記載された発明、並びに周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(8)本件訂正発明4について
本件訂正発明4は、本件訂正発明1-1に更なる限定を加えた発明であるから、上記(3)で述べたように、本件訂正発明1-1が、甲第2号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第34号証に記載された発明、並びに周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件訂正発明4も、甲第2号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第34号証に記載された発明、並びに周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.無効理由2(甲第5号証を主引用例とする進歩性)について
(1)甲第5号証に記載された発明
上記記載事項(甲5-1)及び(甲5-4)によると、甲第5号証には、「染色体上に存在するα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子又はそのプロモーターの塩基配列中に1又は2以上の塩基の置換、欠失、挿入、付加又は逆位が生じたことにより、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性が欠損したコリネ型L-グルタミン酸生産菌を、培地で培養し、培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ、これを該培地から採取することを特徴とするL-グルタミン酸の製造方法」の発明(以下、「甲5発明」という)が記載されていると認められる。

(2)本件訂正発明1-1について
ア 本件訂正発明1-1と甲5発明との対比
本件訂正発明1-1と甲5発明とを対比すると、両者は、コリネ型細菌の染色体上の、遺伝子のプロモーター配列に1又は2以上の塩基の置換させた配列を導入したコリネ型細菌を、培地で培養し、培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ、これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)本件訂正発明1-1のコリネ型細菌は、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を導入したものであるのに対し、甲5発明のコリネ型細菌は、そのような特定がされていないる点。

イ 相違点についての検討
上記相違点について検討する。
甲第5号証には、コリネ型細菌において、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を欠損させること(上記記載事項(甲5-1)及び(甲5-5))、相同性組換えを利用して、変異が導入されて改変又は破壊された遺伝子をコリネ型細菌の染色体上の正常な遺伝子と置換することができること(上記記載事項(甲5-2))、L-グルタミン酸生産性を向上させるために、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子を強化すること(上記記載事項(甲5-3))、大腸菌のlacプロモーター、tacプロモーター、trpプロモーター等のコリネ型細菌の細胞内で機能する強力なプロモーターの下流に目的遺伝子を連結することにより、目的遺伝子の発現を強化することができること(上記記載事項(甲5-4))が記載されているが、上記記載事項(甲5-2)は、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を欠損させる手段として記載されているだけで、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子に変異を導入する手段として記載されているわけではなく、また、上記記載事項(甲5-3)及び(甲5-4)は、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列を改変することを開示も示唆もしていない。
上記記載事項(甲2-1)及び(甲2-4)?(甲2-7)には、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターのコンセンサス配列についての記載があるものの、コリネバクテリウム・グルタミカムの複数の遺伝子のプロモーターについて、-35領域及び-10領域の塩基配列を解析した結果が記載されているだけで、上記記載事項(甲2-1)?(甲2-7)は、コリネ型細菌の染色体上の遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌の染色体上の遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第4号証には、クエン酸合成酵素(CS)活性をプラスミドで増強することによっては、コリネバクテリウム・グルタミカムのL-グルタミン酸を分泌する能力を増強することはできないこと(上記記載事項(甲4-3))、コリネバクテリウム・グルタミカムにおいて、クエン酸合成酵素(CS)の過剰発現により菌の生育が悪くなったこと(上記記載事項(甲4-2))、CS遺伝子のプロモーターの-10領域の塩基配列がTATAGCであること(上記記載事項(甲4-4))が記載されているが、上記記載事項(甲4-1)?(甲4-4)は、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第6号証には、大腸菌において、-35領域のTTGTCA配列をコンセンサス配列TTGACAにすることにより、プロモーター強度が21倍に増強したこと、-10領域のTACAAT配列をコンセンサス配列TATAATにすることにより、プロモーター強度が7倍に増強したこと、-35領域にTTG配列が保存されていることが記載されている(上記記載事項(甲6-1)?(甲6-2))が、甲第6号証は、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターに関する文献ではなく、また、大腸菌の特定の遺伝子のプロモーターについての結果が記載されているだけで、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターの-35領域及び-10領域のコンセンサス配列に関する記載はないから、上記記載事項(甲6-1)?(甲6-2)は、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第7号証には、大腸菌のtacプロモーターは、-35領域にTTGACA配列及び-10領域にTATAAT配列を有すること、大腸菌のlacUV5プロモーターは、-10領域にTATAAT配列を有することが記載されている(上記記載事項(甲7-1))が、甲第7号証は、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターに関する文献ではなく、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターの-35領域及び-10領域のコンセンサス配列に関する記載はないから、上記記載事項(甲7-1)は、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第8号証には、-10領域にTATAAT配列を有するプロモーターがコリネ型細菌で機能し、目的遺伝子の発現を14倍に高めたことが記載されている(上記記載事項(甲8-1)?(甲8-2))が、甲第8号証は、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のプロモーターに関する文献ではなく、また、特定の配列を有するプロモーターを用いた結果が記載されているだけで、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターの-35領域及び-10領域のコンセンサス配列に関する記載はないから、上記記載事項(甲8-1)?(甲8-2)は、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第34号証には、グルタミン酸生合成経路に関与する酵素遺伝子のうち、少なくとも2種以上の酵素遺伝子を組換えDNA技術を用いることにより同時に強化した種々の菌株を作製し、これらの菌株を用いてグルタミン酸発酵を行ったところ、少なくともグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子とイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(ICDH)遺伝子を含む少なくとも2種以上のグルタミン酸生合成経路に関与するコリネ型細菌由来の酵素遺伝子を含む組換え体DNAで形質転換された菌株を用いてグルタミン酸発酵を行なった場合には親株を使用した場合に比較して培地中へのL-グルタミン酸の蓄積レベルが向上したこと(上記記載事項(甲34-3))、GDH遺伝子を含む組換えプラスミドpAG1001で形質転換された菌株(801(pAG1001))、CS遺伝子を含む組換えプラスミドpAG4003で形質転換された菌株(801(pAG4003))、CSとGDH遺伝子とCS遺伝子を含む組換えプラスミドpCG5で形質転換された菌株(801(pCG5))を作製し、これらの菌株を用いてグルタミン酸発酵を行ったことが記載されている(上記記載事項(甲34-4)?(甲34-9))が、GDH遺伝子単独で増強させた菌株(801(pAG1001))もCS遺伝子単独で増強させた菌株(801(pAG4003))もL-グルタミン酸の生産性は9.2g/dlであり、親株801の生産性(9.1g/dl)と実質的に変わらなかったことが記載されており(上記記載事項(甲34-9))、上記記載事項(甲34-1)?(甲34-9)は、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
また、乙7号証の1?乙7号証の3等の記載から、大腸菌についても、プロモーターのコンセンサス配列との類似性が、プロモーター活性の向上を必ず引き起こすとは考えられておらず、コリネ型細菌において、プロモーター配列をコンセンサス配列に類似させた場合に、プロモーター活性が必ず向上するとの技術常識があったとは認められない。
よって、甲第2、4?8、34号証の記載は、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。また、技術常識ないし周知事項を示す証拠として提出された甲第3、9?12、16?19、23?28、30?33、35号証にも、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のGDH遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-35領域及び-10領域の塩基配列を改変することの動機付けとなるような記載はないから、甲第2、4?8、34号証の記載及び本願優先日前の周知事項に基づいても、甲5発明のコリネ型細菌において、GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域の塩基配列をTTGTCA配列にし、さらに、GDH遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列をTATAAT配列にすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

ウ 本件訂正発明1-1の効果について
本件明細書の実施例2には、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を有する変異株(FGR2)が、染色体上のGDH遺伝子のプロモーターの-35領域及び-10領域に変異を有しない株に比べて、GDH比活性が3.4倍増強され、L-グルタミン酸の収率を1.2倍向上させたことが記載されている(表5)から、本件訂正発明1-1は、L-グルタミン酸の収率を向上させた発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法を提供することができるという、甲5発明に比べて格別顕著な効果を奏するといえる。

エ まとめ
したがって、本件訂正発明1-1は、甲第5号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第34号証に記載された発明、並びに周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件訂正発明1-2について
ア 本件訂正発明1-2と甲5発明との対比
本件訂正発明1-2と甲5発明とを対比すると、両者は、コリネ型細菌の染色体上の、遺伝子のプロモーター配列に1又は2以上の塩基の置換させた配列を導入したコリネ型細菌を、培地で培養し、培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ、これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)本件訂正発明1-2は、クエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を導入したものであるのに対し、甲5発明は、そのような特定がされていないる点。

イ 相違点についての検討
上記相違点について検討する。
甲第5号証には、コリネ型細菌において、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を欠損させること(上記記載事項(甲5-1)及び(甲5-5))、相同性組換えを利用して、変異が導入されて改変又は破壊された遺伝子をコリネ型細菌の染色体上の正常な遺伝子と置換することができること(上記記載事項(甲5-2))、L-グルタミン酸生産性を向上させるために、クエン酸合成酵素(CS)遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子を強化すること(上記記載事項(甲5-3))、大腸菌のlacプロモーター、tacプロモーター、trpプロモーター等のコリネ型細菌の細胞内で機能する強力なプロモーターの下流に目的遺伝子を連結することにより、目的遺伝子の発現を強化することができること(上記記載事項(甲5-4))が記載されているが、上記記載事項(甲5-2)は、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を欠損させる手段として記載されているだけで、コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子に変異を導入する手段として記載されているわけではなく、また、上記記載事項(甲5-3)及び(甲5-4)は、コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列を改変することを開示も示唆もしていない。
上記記載事項(甲2-1)及び(甲2-4)?(甲2-7)には、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターのコンセンサス配列についての記載があるものの、コリネバクテリウム・グルタミカムの複数の遺伝子のプロモーターについて、-35領域及び-10領域の塩基配列を解析した結果が記載されているだけで、上記記載事項(甲2-1)?(甲2-7)は、コリネ型細菌の染色体上の遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌の染色体上の遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第4号証には、クエン酸合成酵素(CS)活性をプラスミドで増強することによっては、コリネバクテリウム・グルタミカムのL-グルタミン酸を分泌する能力を増強することはできないこと(上記記載事項(甲4-3))、コリネバクテリウム・グルタミカムにおいて、クエン酸合成酵素(CS)の過剰発現により菌の生育が悪くなったこと(上記記載事項(甲4-2))、CS遺伝子のプロモーターの-10領域の塩基配列がTATAGCであること(上記記載事項(甲4-4))が記載されているが、上記記載事項(甲4-1)?(甲4-4)は、コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のCS遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第6号証には、大腸菌において、-35領域のTTGTCA配列をコンセンサス配列TTGACAにすることにより、プロモーター強度が21倍に増強したこと、-10領域のTACAAT配列をコンセンサス配列TATAATにすることにより、プロモーター強度が7倍に増強したこと、-35領域にTTG配列が保存されていることが記載されている(上記記載事項(甲6-1)?(甲6-2))が、甲第6号証は、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターに関する文献ではなく、また、大腸菌の特定の遺伝子のプロモーターについての結果が記載されているだけで、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターの-10領域のコンセンサス配列に関する記載はないから、上記記載事項(甲6-1)?(甲6-2)は、コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第7号証には、大腸菌のtacプロモーターは、-35領域にTTGACA配列及び-10領域にTATAAT配列を有すること、大腸菌のlacUV5プロモーターは、-10領域にTATAAT配列を有することが記載されている(上記記載事項(甲7-1))が、甲第7号証は、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターに関する文献ではなく、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターの-10領域のコンセンサス配列に関する記載はないから、上記記載事項(甲7-1)は、コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第8号証には、-10領域にTATAAT配列を有するプロモーターがコリネ型細菌で機能し、目的遺伝子の発現を14倍に高めたことが記載されている(上記記載事項(甲8-1)?(甲8-2))が、甲第8号証は、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のプロモーターに関する文献ではなく、また、特定の配列を有するプロモーターを用いた結果が記載されているだけで、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターの-10領域のコンセンサス配列に関する記載はないから、上記記載事項(甲8-1)?(甲8-2)は、コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第34号証には、グルタミン酸生合成経路に関与する酵素遺伝子のうち、少なくとも2種以上の酵素遺伝子を組換えDNA技術を用いることにより同時に強化した種々の菌株を作製し、これらの菌株を用いてグルタミン酸発酵を行ったところ、少なくともグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子とイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(ICDH)遺伝子を含む少なくとも2種以上のグルタミン酸生合成経路に関与するコリネ型細菌由来の酵素遺伝子を含む組換え体DNAで形質転換された菌株を用いてグルタミン酸発酵を行なった場合には親株を使用した場合に比較して培地中へのL-グルタミン酸の蓄積レベルが向上したこと(上記記載事項(甲34-3))、GDH遺伝子を含む組換えプラスミドpAG1001で形質転換された菌株(801(pAG1001))、CS遺伝子を含む組換えプラスミドpAG4003で形質転換された菌株(801(pAG4003))、CSとGDH遺伝子とCS遺伝子を含む組換えプラスミドpCG5で形質転換された菌株(801(pCG5))を作製し、これらの菌株を用いてグルタミン酸発酵を行ったことが記載されている(上記記載事項(甲34-4)?(甲34-9))が、GDH遺伝子単独で増強させた菌株(801(pAG1001))もCS遺伝子単独で増強させた菌株(801(pAG4003))もL-グルタミン酸の生産性は9.2g/dlであり、親株801の生産性(9.1g/dl)と実質的に変わらなかったことが記載されており(上記記載事項(甲34-9))、上記記載事項(甲34-1)?(甲34-9)は、コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。
また、乙7号証の1?乙7号証の3等の記載から、大腸菌についても、プロモーターのコンセンサス配列との類似性が、プロモーター活性の向上を必ず引き起こすとは考えられておらず、コリネ型細菌において、プロモーター配列をコンセンサス配列に類似させた場合に、プロモーター活性が必ず向上するとの技術常識があったとは認められない。
よって、甲第2、4?8、34号証の記載は、コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列を改変することを示唆する記載であるとはいえない。また、技術常識ないし周知事項を示す証拠として提出された甲第3、9?12、16?19、23?28、30?33、35号証にも、コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することやそのコンセンサス配列に基づきコリネ型細菌のCS遺伝子等のグルタミン酸生合成系遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列を改変することの動機付けとなるような記載はないから、甲第2、4?8、34号証の記載及び本願優先日前の周知事項に基づいても、甲5発明のコリネ型細菌において、CS遺伝子のプロモーター配列の-10領域の塩基配列をTATAAT配列にすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

ウ 本件訂正発明1-2の効果について
本件明細書の実施例3には、コリネ型細菌の染色体上のCS遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を有する変異株(GB02)が、染色体上のCS遺伝子のプロモーターの-10領域に変異を有しない株に比べて、CS比活性が1.9倍増強され(表10)、L-グルタミン酸の収率を1.1倍向上させた(表12)ことが記載されているから、本件訂正発明1-1は、L-グルタミン酸の収率を向上させた発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法を提供することができるという、甲5発明に比べて格別顕著な効果を奏するといえる。

エ まとめ
したがって、本件訂正発明1-2は、甲第5号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第34号証に記載された発明、並びに周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件訂正発明1-3について
本件訂正発明1-3は、本件訂正発明1-1に更なる限定を加えた発明であるから、上記(2)で述べたように、本件訂正発明1が、甲第5号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第34号証に記載された発明、並びに周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件訂正発明1-3も、甲第5号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第34号証に記載された発明、並びに周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)請求人の主張について
請求人は、平成29年10月2日付け弁駁書において、以下のア?イの点を主張しているので、以下この点について検討する。

ア 甲第10号証に挙げられているプラスミドの使用による課題は、アミノ酸生産菌としてのコリネ型細菌との関連で指摘されているものであるから、同じくコリネ型細菌を用いる甲5発明にも関係があり、プラスミドのコリネ型細菌への導入により起こる上記課題を、染色体への遺伝子導入により回避することは当業者が当然に考えることである。また、コリネ型細菌におけるCS遺伝子の発現増強をプラスミドにより行うと、CSの過剰発現により菌の生育が悪くなるという具体的な課題があることも知られていた(甲第4号証)から、L-グルタミン酸の生産性向上を目的とする甲5発明において、ベクターの使用により生じる上記の一般的ないし具体的課題を解決するために、GDH遺伝子ないしCS遺伝子の発現増強を、ベクター上ではなく、特定の配列を有するプロモーターを用いて染色体上で行うことは、当業者が容易に想到し得ることである。

イ 本件訂正発明1のGDH遺伝子、CS遺伝子のプロモーターの-10領域の配列は、TATAAT配列であるが、甲第5号証には、GDH遺伝子、CS遺伝子の発現増強のための強力なプロモーターとしてtacプロモーター等の使用が記載されているから、当該tacプロモーター等の、-35領域にTTGACA、-10領域にTATAATを有するプロモーターがコリネ型細菌におけるGDH遺伝子、CS遺伝子の発現増強に利用できることが示唆されているといえる。

主張アについて
甲第10号証等にプラスミドの使用による課題が記載されているからといって、そのような課題を解決する手段としては様々な手段が考えられるから、「染色体への遺伝子導入により回避することは当業者が当然に考えることである」とはいえず、また、「ベクターの使用により生じる上記の一般的ないし具体的課題を解決するために、GDH遺伝子ないしCS遺伝子の発現増強を、ベクター上ではなく、特定の配列を有するプロモーターを用いて染色体上で行うことは、当業者が容易に想到し得ることである」とはいえない。また、仮に、当業者が「染色体への遺伝子導入」や「発現増強を、ベクター上ではなく、特定の配列を有するプロモーターを用いて染色体上で行うこと」を考えたとしても、染色体上の遺伝子を発現増強するために改変する手段には様々な手段があるから、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子、CS遺伝子のプロモーター配列の-35領域、-10領域に変異を導入することは、当業者といえども容易に想到し得ることとはいえない。

主張イについて
甲第5号証に、目的遺伝子の発現を強化するプロモーターとしてtacプロモーター等の使用が記載されているのは、それらの強力なプロモーターの下流にGDH遺伝子、CS遺伝子等の目的遺伝子を連結し、プラスミドを用いて発現させることを目的としたものであり、そのような記載があるからといって、コリネ型細菌の染色体上のGDH遺伝子、CS遺伝子のプロモーターの-10領域にTATAAT配列を導入することの動機付けになるとはいえない。

(6)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1-1と実質的に同一の発明であるから、上記(2)で述べたように、本件訂正発明1-1が、甲第5号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第34号証に記載された発明、並びに周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件訂正発明2も、甲第5号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第34号証に記載された発明、並びに周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(7)本件訂正発明4について
本件訂正発明4は、本件訂正発明1-1に更なる限定を加えた発明であるから、上記(2)で述べたように、本件訂正発明1-1が、甲第5号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第34号証に記載された発明、並びに周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件訂正発明4も、甲第5号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第34号証に記載された発明、並びに周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.無効理由3(実施可能要件)及び無効理由4(サポート要件)について
(1)本件発明の詳細な説明の記載内容
本件発明の詳細な説明には、以下の内容が記載されている。

ア.「【0006】
本発明は、プラスミドを用いることなく目的遺伝子の発現量の適度な強化および調節を行うことができ、アミノ酸を高収率で生産する能力を有する変異株を遺伝子組換え又は変異により構築する方法を提供することを目的とする。
本発明は、副生アスパラギン酸およびアラニンの著しい増加を引き起こすことなく、コリネバクテリア菌株にグルタミン酸を高収率で生産する能力を付与することができるGDH用プロモーターを提供することを目的とする。
本発明は、又、上記GDH用プロモーター配列を持つGDH遺伝子を提供することを目的とする。
本発明は、又、上記遺伝子を有するL-グルタミン酸生産性コリネバクテリア菌株を提供することを目的とする。
本発明は、構築されたアミノ酸生産菌を用いる醗酵法によるアミノ酸の製造法を提供することを目的とする。
本発明は、コリネ型グルタミン酸生産菌を用いる、グルタミン酸の収率を向上させ、より安価にグルタミン酸を製造するグルタミン酸発酵法を提供することを目的とする。」(段落【0006】)

イ.「【0017】
本発明では、特に、GDH遺伝子のプロモーターの-35領域のDNA配列がCGGTCA、TTGTCA、TTGACA及びTTGCCAからなる群から選ばれる少なくとも一種のDNA配列となっているか、及び/又は該プロモーターの-10領域のDNA配列がTATAATとなっているか、若しくは-10領域にTATAAT配列のATAATの塩基が別の塩基で置換されており、プロモーター機能を阻害しない配列となっているものが好ましい。-10配列のTATAAT配列のATAATの塩基が別の塩基で置換されており、プロモーター機能を阻害しない配列となっているものを選択できるのは、野生型の-10配列であるCATAATの最初の「C」を「T」に代えただけで劇的にGDH比活性の上昇が観察されたので(表1、p6-4参照)、他の塩基にかえてもかまわないと考えられるからである。
GDH遺伝子のプロモーター配列は、例えば、前出のSahm et al.Molecular Microbiology(1992),6,317-326に記載されており、又、配列番号1に記載されている。又、GDH遺伝子自体の配列は、例えば、同じくSahm et al.Molecular Microbiology(1992),6,317-326に記載されており、又、配列番号1に記載されている。
同様にして、クエン酸合成酵素(CS)やイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(ICDH)のプロモーターについても変異を起こさせることができる。
このようにして、GDH用プロモーターとしては、-35領域にCGGTCA、TTGTCA、TTGACA及びTTGCCAからなる群から選ばれる少なくとも一種のDNA配列及び/又は-10領域にTATAAT配列若しくは該配列のATAATの塩基が別の塩基で置換されており、プロモーター機能を阻害しない配列を有するものがあげられる。又、上記プロモーターを有するグルタミン酸デヒドロゲナーゼ産生遺伝子を提供する。
【0018】
CS用プロモーターとしては、-35領域にTTGACA配列及び/又は-10領域にTATAAT配列を有しており、プロモーター機能を阻害しない配列を有するものがあげられる。又、上記プロモーターを有するCS遺伝子を提供する。・・・・・・」(段落【0017】?【0018】)

ウ.「【0022】
次に実施例により本発明を説明する。
実施例1:変異型GDHプロモーターの作製
部位特異変異法を用い:次の方法で変異型GDHプロモーターを調製した。
(1)各種変異型のプロモーターを持つGDH遺伝子の作製
コリネ型細菌のGDH遺伝子のプロモーターの-35領域および-10領域の野生型配列を配列1に示す。但し、野生型のプロモーター配列は既に報告されている(Molecular Microbiolgy(1992),6,317-326)。」(段落【0022】)

エ.「【0025】
上記ATCC 13869/p6-2?ATCC 13869/p6-8は配列番号2?6に対応するものであり、これらの配列は配列番号1記載の配列(野生型)を基に下線部を下記の通り変更したものである。

尚、これらの配列は、直鎖状、2本鎖の合成DNAである。」(段落【0025】)

オ.「【0026】
実施例2:変異株の取得
・・・・・・・・・
その結果、この約50株を培養しグルタミン酸収率が親株より高く、GDH活性も高い株を2株分離した(A株およびB株)。それぞれのGDH活性を測定したところ両株ともGDHの比活性が上昇していた(表5)。GDH活性の測定はE.R.Bormann等の方法(Molecular Microbiol.,6,317-326(1996))に従った。そこでGDH遺伝子の塩基配列を解析したところGDHのプロモーター領域内にのみ変異点が存在していた(表6)。
・・・・・・・・・
【0031】
表5 変異株のグルタミン酸生成とGDH活性

【0032】
表6 変異株のGDHプロモーター領域の塩基配列

」(段落【0026】?【0032】)

カ.「【0033】
実施例3 コリネ型グルタミン酸生産菌のCS遺伝子プロモーター領域への変異の導入
本実施例ではグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)およびクエン酸合成酵素(CS)をコードする遺伝子のプロモーター強化株を作成した例を示す。
(1)gltA遺伝子のクローニング
コリネ型細菌のクエン酸合成酵素をコードする遺伝子gltAの塩基配列は既に明らかにされている(Microbiol.140 1817-1828(1994))。この配列をもとに配列番号7および配列番号8に示すプライマーを合成した。
・・・・・・・・・
(8)gltAプロモーター変異株のクエン酸合成酵素活性測定
(7)で得られたFGR2,GB01,GB02,GB03株及びFGR2/pSFKC株を(4)に記載した方法と同様にしてクエン酸合成酵素の活性を測定した。測定結果を表10に示す。gltAプロモーター置換株はその親株に比しクエン酸合成酵素活性が上昇していることが確認された。
【0045】
表10

【0046】
(9)gltAプロモーター置換株の培養成績
上記(7)で取得した各株を表11に示す組成の種培養培地に接種し、31.5℃に24時間振とう培養して種培養を得た。表11に示す組成の本培養培地を500ml容ガラス製ジャーファーメンターに300mlずつ分注し加熱殺菌した後、上記種培養を40ml接種した。攪拌速度を800?1300rpm、通気量を1/2?1/1vvmとし、培養温度31.5℃で培養を開始した。培溶液のpHはアンモニアガスで7.5に維持した。培養を開始して8時間後に37℃にシフトした。いずれも20?40時間でグルコースが完全に消費された時点で培養を終了し、培溶液中に生成蓄積されたL-グルタミン酸の量を測定した。
その結果、表12に示すようにGB01やFGR2/pSFKC株よりは、むしろGB02やGB02株ではL-グルタミン酸の大幅な収率向上が認められた。以上のことより、これらの株のグルタミン酸収率向上において、プロモーターに変異を導入しCS活性を2?4倍に強めることで好成績となりうることが示された。
・・・・・・・・・
【0048】
表12

」(段落【0033】?【0048】)

(2)本件訂正発明の課題
本件訂正発明の課題は、プラスミドを用いることなく目的遺伝子の発現量の適度な強化および調節を行うことができ、アミノ酸を高収率で生産する能力を有する変異株を遺伝子組換え又は変異により構築する方法を提供すること、構築されたアミノ酸生産菌を用いる醗酵法によるアミノ酸の製造法を提供すること、又は、コリネ型グルタミン酸生産菌を用いる、グルタミン酸の収率を向上させ、より安価にグルタミン酸を製造するグルタミン酸発酵法を提供することである(上記記載内容ア.)。

(3)GDH遺伝子のプロモーターへの変異導入について
請求人は、本件特許の請求項1?3について、本件明細書には、染色体上のGDH遺伝子のプロモーターの-35領域及び/又は-10領域に変異が導入されたコリネ型細菌の具体例として、-10領域のみに変異(TATAAT)を有する変異株、-35領域(TTGTCA)及び-10領域(TATAAT)に変異を有する変異株を取得し、各変異株のL-グルタミン酸の生産能を確認したことが記載されているが、本件特許の請求項1?3に記載された変異の組み合わせを導入した場合に、L-グルタミン酸の収率が向上できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されておらず、L-グルタミン酸の収率が向上することを当業者が認識できない、また、本件明細書には、L-アルギニンの生産性がどのように変化するのか何ら具体的に記載されていないので、L-アルギニンの収率が向上できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されておらず、L-アルギニンの収率が向上することを当業者が認識できない、と主張している。
しかしながら、訂正請求により、請求項1は、「コリネ型細菌の染色体上の、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列・・・・・・を導入したコリネ型細菌」に訂正され、請求項2は、「GDH遺伝子のプロモーターが、-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を有するものである」に訂正され、請求項3は削除され、請求項1?2から、「L-アルギニン」に係る発明は削除され、本件訂正発明1?2は、-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を有する変異株がL-グルタミン酸の収率を向上させた(上記記載内容オ.の表5)ことが示されている本件明細書の実施例等で記載される内容に対応するものとなったから、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1?2の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、また、本件訂正発明1?2は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。

(4)CS遺伝子のプロモーターへの変異導入について
請求人は、本件訂正発明1について、本件明細書には、染色体上のCS遺伝子のプロモーターの-10領域に変異が導入されたコリネ型細菌の具体例として、-10領域のみに変異(TATAAT)を有する変異株、-35領域(TTGACA)及び-10領域(TATAAT)に変異を有する変異株を取得し、そのL-グルタミン酸の生産能を確認したことが記載されているが、これらの変異株は、CS遺伝子のプロモーターの変異に加えて、GDH遺伝子のプロモーターに変異が導入されたものであり、コリネ型細菌においてGDH活性を増強せずにCS活性を増強させてもL-グルタミン酸の生産性は向上しないことが本件特許の出願時に知られていた(甲第34号証、甲第4号証)から、CS遺伝子のプロモーターへの変異を単独で導入した場合に、L-グルタミン酸の収率が向上できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されておらず、L-グルタミン酸の収率が向上することを当業者が認識できない、と主張している。
しかしながら、本件明細書の実施例3には、GDH遺伝子のプロモーターに変異が導入された変異株を基にしたものであるものの、染色体上のCS遺伝子のプロモーターの-10領域のみに変異(TATAAT)を有する変異株が、染色体上のCS遺伝子のプロモーターの-10領域に変異を有しない株に比べて、CS比活性が1.9倍増強され(上記記載内容カ.の表10)、L-グルタミン酸の収率を向上させた(上記記載内容カ.の表12)ことが記載されており、コリネ型細菌のCS遺伝子のプロモーターへの特定の変異導入が、L-グルタミン酸の生産性の向上に寄与することは当業者であれば理解することができるから、本件訂正発明1のうちの、コリネ型細菌の染色体上のクエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を導入したコリネ型細菌を用いたL-グルタミン酸の製造方法に係る発明について、発明の詳細な説明が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。
また、甲第34号証、甲第4号証に記載されている事項は、プラスミド導入によるCS活性の増強に関する技術であり、本件訂正発明1のように、染色体上のCS遺伝子のプロモーターに変異を導入したものではなく、また、甲第34号証に記載されている実験結果は、GDH遺伝子単独で増強させた場合(801(pAG1001))もGDH遺伝子とCS遺伝子とを組み合わせて増強させた場合(801(pCG5))も、CS遺伝子単独で増強させた場合(801(pAG4003))と同程度のL-グルタミン酸の収率である(上記記載事項(甲34-4)?(甲34-9)、平成29年10月2日付け弁駁書の別紙1参照)ことを開示するものであるから、甲第34号証、甲第4号証の記載事項が、本件訂正発明1のうちの、コリネ型細菌の染色体上のクエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を導入したコリネ型細菌を用いたL-グルタミン酸の製造方法に係る発明について、L-グルタミン酸の収率が向上することを当業者が認識できないことの根拠になるとはいえない。
よって、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、また、本件訂正発明1は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。

(5)ICDH遺伝子のプロモーターへの変異導入について
請求人は、本件特許の請求項1、5について、本件明細書には、染色体上のICDH遺伝子のプロモーターの-35領域及び/又は-10領域のみに変異が導入されたコリネ型細菌の実施例がないので、本件特許の請求項1、5に記載された変異の組み合わせを導入した場合に、L-グルタミン酸の収率が向上できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されておらず、L-グルタミン酸の収率が向上することを当業者が認識できない、また、本件明細書には、L-アルギニンの生産性がどのように変化するのか何ら具体的に記載されていないので、L-アルギニンの収率が向上できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されておらず、L-アルギニンの収率が向上することを当業者が認識できない、と主張している。
しかしながら、訂正請求により、請求項1から、「ICDH遺伝子のプロモーター」に係る発明、「L-アルギニン」に係る発明は削除され、請求項5は、削除されたので、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、また、本件訂正発明1は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。

(6)PDH遺伝子のプロモーターへの変異導入について
請求人は、本件特許の請求項1、6について、本件明細書には、染色体上のPDH遺伝子のプロモーターの-35領域及び/又は-10領域のみに変異が導入されたコリネ型細菌の実施例がないので、本件特許の請求項1、6に記載された変異の組み合わせを導入した場合に、L-グルタミン酸の収率が向上できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されておらず、L-グルタミン酸の収率が向上することを当業者が認識できない、また、本件明細書には、L-アルギニンの生産性がどのように変化するのか何ら具体的に記載されていないので、L-アルギニンの収率が向上できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されておらず、L-アルギニンの収率が向上することを当業者が認識できない、と主張している。
しかしながら、訂正請求により、請求項1から、「PDH遺伝子のプロモーター」に係る発明、「L-アルギニン」に係る発明は削除され、請求項6は、削除されたので、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、また、本件訂正発明1は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。

(7)アルギニノコハク酸シンターゼ遺伝子のプロモーターへの変異導入について
請求人は、本件特許の請求項1、8について、本件明細書には、染色体上のアルギニノコハク酸シンターゼ遺伝子のプロモーターの-35領域及び/又は-10領域に変異が導入されたコリネ型細菌の実施例がないので、本件特許の請求項1、8に記載された変異の組み合わせを導入した場合に、L-グルタミン酸の収率が向上できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されておらず、L-グルタミン酸の収率が向上することを当業者が認識できない、また、本件明細書には、L-アルギニンの生産性がどのように変化するのか何ら具体的に記載されていないので、L-アルギニンの収率が向上できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されておらず、L-アルギニンの収率が向上することを当業者が認識できない、と主張している。
しかしながら、訂正請求により、請求項1から、「アルギニノコハク酸シンターゼ遺伝子のプロモーター」に係る発明、「L-アルギニン」に係る発明は削除され、請求項8は、削除されたので、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、また、本件訂正発明1は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。

(8)野生株ATCC13869のプロモーター配列について
請求人は、コリネバクテリウム・グルタミカムの野生株ATCC13869のプロモーター配列について、本件明細書の段落【0025】に記載の配列と甲第29号証の第19頁に記載の配列とが異なり、本件明細書の段落【0025】に記載の配列番号1の配列では、-35領域と-10領域の間の6番目と7番目の塩基「TG」が不足しており、-10領域よりも3’末端側に「T」が追加されているから、本件明細書の実験は、野生株ATCC13869ではなく、別の菌株に基づいて行われたものといわざるを得ず、本件明細書は、少なくともGDHに関し、野生株のプロモーター配列を変異させたことによる活性の変化を実証したものとはいえないので、L-グルタミン酸又はL-アルギニンの収率が向上できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されておらず、L-グルタミン酸又はL-アルギニンの収率が向上することを当業者が認識できない、と主張している。
しかしながら、-35領域と-10領域の間の6番目と7番目の塩基「TG」の不足については、本件明細書の段落【0025】に記載の配列は、プロモーターに変異を導入したプラスミドが有する配列であって、実施例2以降の実験で用いたFGR1、FGR2株等の該当箇所の配列は、表6に示されているように「TG」の欠落はなく、また、-10領域よりも3’末端側の「T」の追加については、本件明細書の段落【0025】に記載の配列は、本件特許の優先日当時にコリネバクテリウム・グルタミカムの野生株の配列として唯一知られていた配列に基づくものであるが、甲第29号証の第19頁に記載の配列は、本件特許の優先日後に公開された配列に基づくものであり、本件明細書の段落【0025】に記載の配列と甲第29号証の第19頁に記載の配列とが異なることが、本件明細書の実験が、野生株ATCC13869ではなく、別の菌株に基づいて行われた根拠になるとはいえないから、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、また、本件訂正発明1は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。

(9)プロモーター-35領域及び-10領域の周辺領域について
請求人は、本件訂正発明1について、GDH遺伝子、CS遺伝子のプロモーターの-35領域及び-10領域の間の領域、-35領域の上流領域、並びに-10領域の下流領域(以下、総称して「-35領域及び-10領域の周辺領域」という。)が何ら特定されていないため、-35領域及び-10領域の周辺領域にはいずれの配列及び長さを有するものも包含されるところ、本件明細書には、GDH遺伝子のプロモーターの-35領域及び-10領域の周辺領域の具体例として、特定の配列のみが記載されているだけで、プロモーターの-35領域及び-10領域の周辺領域の配列や長さがプロモーター活性に大きく影響することが知られている(甲第26号証、甲第27号証、甲第28号証、甲第32号証、甲第2号証)から、本件訂正発明1のように、GDH遺伝子、CS遺伝子のプロモーターの-35領域及び-10領域の周辺領域を任意の長さや配列にした場合に、L-グルタミン酸の収率が向上できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されておらず、L-グルタミン酸の収率が向上することを当業者が認識できない、と主張している。
しかしながら、本件訂正発明1は、GDH遺伝子、CS遺伝子のプロモーターの-35領域及び/又は-10領域に特定の配列の変異を導入したコリネ型細菌変異株を用いて、L-グルタミン酸の収率を向上させたL-グルタミン酸の製造方法を提供するものであり、GDH遺伝子、CS遺伝子のプロモーターの-35領域及び-10領域の周辺領域の配列や長さを発明特定事項とするものではなく、GDH遺伝子、CS遺伝子のプロモーターの-35領域及び-10領域の周辺領域の配列や長さについては、本件明細書の記載(上記記載内容イ.?カ.)及び技術常識に基づき、当業者であれば容易に理解することができるから、本件訂正発明1について、発明の詳細な説明が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。
また、甲第26号証、甲第27号証、甲第28号証、甲第32号証、甲第2号証に、プロモーターの-35領域及び-10領域の周辺領域の配列や長さがプロモーター活性に影響を与えることが記載されていたとしても、GDH遺伝子、CS遺伝子のプロモーターの-35領域及び-10領域の周辺領域の配列や長さは、本件明細書の記載(上記記載内容イ.?カ.)及び技術常識に基づき、L-グルタミン酸の収率に影響を与えない範囲内で当業者が適宜定めることができるから、甲第26号証、甲第27号証、甲第28号証、甲第32号証、甲第2号証の記載事項が、本件訂正発明1について、L-グルタミン酸の収率が向上することを当業者が認識できないことの根拠になるとはいえない。
よって、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、また、本件訂正発明1は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。

(10)まとめ
したがって、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1?2及び4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえるから、本件発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、とすることはできず、また、本件訂正発明1?2及び4は、発明の詳細な説明に記載されたものといえるから、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、とすることはできない。

4.無効理由5(明確性要件)について
請求人は、本件特許の請求項1の記載について、GDH等はタンパク質であるから、それらのタンパク質の選択肢からどのような遺伝子が選択されるのか不明であり、本件特許の請求項2の「グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)産生遺伝子」がどのような遺伝子を指すのか不明であり、また、本件特許の請求項3?8の記載について、GDH等はタンパク質であり、その「プロモーター」がどういうものを指すのか不明であるから、本件特許の請求項1?8に係る発明は、明確に記載されているとはいえない、と主張している。
しかしながら、訂正請求により、請求項1は、「コリネ型細菌の染色体上の、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列」、「クエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列」に訂正され、請求項2は、「GDH遺伝子のプロモーター」に訂正され、請求項4は、「CS遺伝子のプロモーター」、「GDH遺伝子のプロモーター」に訂正され、「・・・遺伝子のプロモーター」という記載になっているので、本件訂正発明1?2及び4は、明確に記載されているといえる。
したがって、本件訂正発明1?2及び4は、明確に記載されているといえるから、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、とすることはできない。

5.本件特許の請求項3及び5?8に係る発明についての審判請求
本件特許の請求項3及び5?8は、上記第2のとおり、本件訂正により削除された。その結果、本件特許の請求項3及び5?8に係る発明についての審判請求は、その対象を欠くこととなったので、不適法な請求であり、その補正をすることができないものであるから、特許法第135条の規定により却下すべきものである。

第8 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件訂正発明1?2及び4の特許を無効とすることはできない。
また、本件特許の請求項3及び5?8に係る発明は、本件訂正により削除されたため、それらに対して請求人がした審判の請求については却下する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、参加によって生じた費用を含めて請求人及びその参加人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コリネ型細菌の染色体上の、
グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列、並びに/或いは
クエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を導入したコリネ型細菌を、培地で培養し、培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ、これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法。
【請求項2】
GDH遺伝子のプロモーターが、-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を有するものである請求項1記載の方法。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
CS遺伝子のプロモーターが、-10領域にTATAAT配列を有するもの、又は-35領域にTTGACA配列及び-10領域にTATAAT配列を有するものであり、
GDH遺伝子のプロモーターが、-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を有するものである請求項1記載の方法。
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-12-21 
結審通知日 2018-12-26 
審決日 2019-01-08 
出願番号 特願2004-202121(P2004-202121)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (C12P)
P 1 113・ 537- YAA (C12P)
P 1 113・ 536- YAA (C12P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松田 芳子鈴木 恵理子  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 松浦 安紀子
高堀 栄二
登録日 2005-03-04 
登録番号 特許第3651002号(P3651002)
発明の名称 アミノ酸生産菌の構築方法及び構築されたアミノ酸生産菌を用いる醗酵法によるアミノ酸の製造法  
代理人 鶴喰 寿孝  
代理人 白石 真琴  
代理人 飯村 敏明  
代理人 末吉 剛  
代理人 中野 亮介  
代理人 山本 修  
代理人 末吉 剛  
代理人 白石 真琴  
代理人 鶴喰 寿孝  
代理人 西川 喜裕  
代理人 森▲崎▼ 博之  
代理人 西川 喜裕  
代理人 中野 亮介  
代理人 飯村 敏明  
代理人 森▲崎▼ 博之  
代理人 山本 修  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ