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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A24B
管理番号 1376159
審判番号 不服2019-9557  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-18 
確定日 2021-07-14 
事件の表示 特願2016-533394号「タバコ由来の熱分解油」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月12日国際公開、WO2015/021137、平成28年 9月 8日国内公表、特表2016-526921号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年8月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年8月8日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年3月16日 特許協力条約第34条補正の翻訳文提出書の提出
平成30年7月18日付け 拒絶理由の通知
平成30年10月19日 意見書の提出
平成31年3月13日付け 拒絶査定
令和1年7月18日 審判請求書、手続補正書の提出
令和1年8月28日 審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書の提出
令和2年6月25日付け 当審による拒絶理由の通知
令和3年1月4日 手続補正書の提出
令和3年1月5日 意見書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし34に係る発明は、令和3年1月4日の手続補正により補正された特許請求の範囲からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし34に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項18に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項18】
タバコ由来の熱分解油を提供する方法であって、
タバコ材料を得ることと、
前記タバコ材料を熱分解して、炭及び蒸気生成物を産生することと、
前記蒸気生成物を凝縮及び収集して、タバコ由来の熱分解油をもたらすことと、
前記タバコ由来の熱分解油をタバコ製品に組み込むことと、を含み、
タバコ製品は、喫煙物品、無煙タバコ製品、および電子喫煙物品からなる群から選択される、前記方法。」

第3 当審拒絶理由
当審が、令和2年6月25日付けで請求項18に対して通知した拒絶理由は以下のとおりである。

[理由]本願の請求項18に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用例一覧>
1.特開2003-259855号公報(以下、「引用例1」という。)
2.中国特許出願公開第102408410号公報(以下、「引用例2」という。)

第4 当審の判断
1.引用例1
当審による拒絶理由において引用され、本願の優先日前に頒布された引用例1には、「エアロゾルを送る喫煙物品及び喫煙システム」に関して、以下の記載がある(下線は理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。
(1)引用例1の記載
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は喫煙具(物品)及び喫煙システムに関する。特に、本発明は、加熱された空気に反応してエアロゾルを生成する喫煙具(物品)及び喫煙システムに関する。」
「【0031】
【発明の実施の形態】図1は、エアロゾル形成基体14を囲む管12を有する物品10を示す。ここで使用されるように、エアロゾル形成基体14はエアロゾル形成要素を含む基体である。管12は、中空で、加熱端部18とユーザ/口端部20との間で通気路を画定する。管12は、耐熱性で加熱端部18に炎21を当てても燃えない。管12に使用できる好適材料は以下により詳細に説明する。
【0032】エアロゾル形成基体14は、管内に、管の内径いっぱいに配置される。また、エアロゾル形成基体14は、その末端部15が管12の加熱端部18から退避するように、管内に配置される。管は3乃至16mmの内径dを有する。隙間16は、炎とエアロゾル支持基体の末端部との直接接触を防止するのに十分な長さを有する。基体14の末端部は、好ましくは、隙間の径dの2乃至10倍の距離だけ管の加熱端部から退避する。従って、隙間は少なくとも6mmである。これにより、基体14の加熱端部18と末端部との間に空隙又は空気管16が形成される。空気管16は、基体14を点火又は実質的に燃焼せずに基体14を加熱するために、炎21から物品10に入る熱気用通路を提供する。エアロゾル形成基体は通気性であるので、管12の口端部20から加熱端部18に至る通気路を形成する。また、エアロゾル形成基体14は、その内部を通過する加熱された空気にエアロゾルを供給する。
【0033】物品10の使用において、図7にみるように、ユーザは、管12の加熱端部18に炎21を当てる。これにより、ユーザが管12の口端部20に自分の口をつけて吸い込むと、炎21から熱空気及び熱気が管12内の空気管16に入る。これにより、炎21によって生成された熱気は管12内の通気路に入る。ユーザが吸い込むと、熱気がエアロゾル形成基体14を通過し、エアロゾルを熱気に放出する。そして、エアロゾルを含む熱気はユーザの口内へ通過して快適な効果をもたらす。
【0034】空気管又は隙間16は、典型的に少なくとも2センチメートルの長さで、好ましくは2乃至6センチメートルの長さである。基体14を実質的に燃焼又は点火せずに炎21から基体14へ熱気を送るように隙間の長さは選択される。空気管16の長さは、この目的達成のために、管12の径に依存する。2乃至6センチメートルが、従来の巻きタバコの寸法の管に好適である。管12の径が異なれば、末端部15は、退避長さと管12の径との間のアスペクト比を保持するために、上記範囲から多かれ少かれ退避する。
【0035】エアロゾル形成基体14は一以上の蒸留可能物質を内部に染み込ませた支持材からなる。好適な支持材は、通気に十分な多孔性と蒸留可能物質の保持に十分な吸収性があれば実質的に何でもよい。好適な支持材は、例えば、紙、綿、木材パルプ及びそれらの組み合わせなどの繊維状セルロース性物質である。また、支持材は、タバコ又は再構成タバコ、石炭酸で処理されたセルロース性物質、メタル・ウール、セラミック・ウール及び多孔セラミックでもよい。また、十分な多孔性と吸収性を有する高分子材料も使用可能である。
【0036】支持材に吸収させる蒸留可能物質は、ユーザに快い感覚を提供するために選択される。蒸留可能物質は、炎21からの熱気による熱に反応して揮発しなければならない。好適な蒸留可能物質は、水や、グリセリン、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、グリセロールトリアセテート、トリエチレングリコールジアセテート及びそれらの組み合わせ等の多価アルコールを含む。他の例としては、タバコエキス、タバコ熱分解生成物、ステアリン酸メチル、ジメチルドデカンジオアーテ、ジメチルテトラデカンジオアーテ等の、一・二・又は多カルボン酸の脂肪酸エステル及びそれらの混合物である。また、所望の味効果を生むために、蒸留可能物質に香味を添加してもよい。香味づけの例としては、ココア脂、チョコレート酒、蝋、油及びそれらの組み合わせがある。また、従来のメンソール巻きタバコが生む感覚を模倣するためにメンソール香味が添加されてもよい。
【0037】蒸留可能物質は、支持材を蒸留可能物質の混合物に浸したり、蒸留可能物質を支持材に吹き付けたりすることによって、支持材中に染み込ませることができる。あるいは、蒸留可能物質の混合物を加圧して支持材に押し込んでもよい。エアロゾル形成基体14は、既成の管12に挿入してもよいし、管12がエアロゾル形成基体14のまわりを巻き付けてもよいし、耐燃包装材で包装されたものを管12に挿入されてもよい。
【0038】管12は、炎を当てても不燃か少なくとも点火しにくい。管12に好適な材料は、セラミック、海泡石、金属、紙、板紙、再構成タバコ、木材、竹、ガラス、金属薄片及びそれらの組み合わせである。前記材料のいずれかに燃焼防止処理を施してもよい。燃焼傾向低減の化学処理は当業界で公知である。
【0039】また、ベークライトなどの適当なプラスチックが管12に使用されてもよい。管12は、例えば、射出吹込み成形、押出し成形及び従来の成形方法など、適当なやり方を選んで形成することができる。管を既成であれば、エアロゾル形成基体14は、典型的に、成形管12に挿入される。代替的に、管14は、例えば、化学処理を施した枚葉紙等、平滑部材又はシートから形成できる。物品10が管12の材料にシートを使用して作られると、シートは、典型的に、製造中にエアロゾル形成基体14に巻かれる。物品10の特定の形成例を説明したが、物品10を製造するのに適当などのような方法も利用可能である。例えば、管12は複合材料からなるものでもよい。また、管12は、一体又はモノリシックでもよく、複数部分からなるものでもよく、層状でもよい。」








(2)上記(1)から分かること
上記(1)における「【0033】・・炎21によって生成された熱気は管12内の通気路に入る。ユーザが吸い込むと、熱気がエアロゾル形成基体14を通過し、エアロゾルを熱気に放出する。そして、エアロゾルを含む熱気はユーザの口内へ通過して快適な効果をもたらす。」、「【0035】エアロゾル形成基体14は一以上の蒸留可能物質を内部に染み込ませた支持材からなる。・・」、「【0036】支持材に吸収させる蒸留可能物質は、ユーザに快い感覚を提供するために選択される。蒸留可能物質は、炎21からの熱気による熱に反応して揮発しなければならない。・・」、図1及び図7の記載から、支持材に染み込ませた蒸留可能物質を、炎21によって生成された熱気が成形管12内の通気路に入ることによって揮発させることによりユーザの口内に提供することが分かる。


(3)引用発明
上記(1)及び(2)から、引用例1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「一以上の蒸留可能物質を内部に染み込ませた支持材からなるエアロゾル形成基体14を成形管12に挿入することにより物品10を構成し、前記一以上の蒸留可能物質としてタバコ熱分解生成物を含み、支持材に染み込ませた蒸留可能物質を、炎21によって生成された熱気が成形管12内の通気路に入ることによって揮発させることによりユーザの口内に提供する方法。」

2.引用例2
当審による拒絶理由において引用され、本願の優先日前に頒布された引用例2には、「1-メチル-2-(3-ピリジル)テトラヒドロピロールの抽出方法」に関して、以下の記載がある
(1)引用例2の記載




(当審訳:図1に示すように、本発明の具体的手段は以下の通りである:
一、1-メチル-2-(3-ピリジル)テトラヒドロピロール母液のものは以下を調製する:
タバコバイオマスは粉砕後、加熱分解缶中に置いてバイオマス緩速加熱分解を行い、熱分解温度は450℃-550℃とし、加熱分解が生成するバイオマス熱分解の油ガスは冷却管冷却後に凝縮物を収集する。冷却管無加熱分解煙道ガス生成後に加熱分解を停止する。凝縮物沈澱後に3層に分けられる:中間層は水相混合物1とする(すなわち1-メチル-2-(3-ピリジル)テトラヒドロピロール母液);上層および下層は黒色油相流体とし、この油相は副産物の木タールとする。加熱分解後残留固形物はバイオマス炭とし、非凝縮性の排気ガスは加熱あるいは発電のため燃焼させる。本方法はタバコバイオマスの総合利用を実現することができ、且つ過温度の制御を通り、1-メチル-2-(3-ピリジル)テトラヒドロピロールを有効に且つ大量に分解することを避けて揮発させ、同時に、間接的に凝縮することによって、凝縮物中1-メチル-2-(3-ピリジル)テトラヒドロピロール含有量を高める。)
なお、「1-メチル-2(3-ピリジル)テトラヒドロピロール」は、技術常識から「ニコチン」と認められる。

(2)引用例2記載事項
上記(1)からみて、引用例2には次の事項(以下、「引用例2記載事項」という。)が記載されている。

「タバコバイオマスの破砕後加熱分解(450℃-550℃)を行ない、油ガスの凝縮物を収集し、凝縮物沈殿後に3層に分けられたもののうちの中間層である1-メチル-2(3-ピリジル)テトラヒドロピロール(ニコチン)を抽出し、加熱分解後の残留固形物をバイオマス炭とすること。」

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「一以上の蒸留可能物質として」の「タバコ熱分解生成物」は、その文言からタバコの熱分解によって得られたものであり、かつ蒸留可能物質であることから、本願発明における「タバコ由来の熱分解油」に相当し、
引用発明における「物品10」は、本願発明における「喫煙物品、無煙タバコ製品、および電子喫煙物品からなる群から選択される」、「タバコ製品」に相当する。
そして、引用発明における「一以上の蒸留可能物質を内部に染み込ませた支持材からなるエアロゾル形成基体14を成形管12に挿入することにより喫煙物品を構成」することは、「一以上の蒸留可能物質」として「タバコ熱分解生成物」を含むことから、本願発明における「タバコ由来の熱分解油をタバコ製品に組み込む」ことに相当する。
さらに、引用発明における「タバコ熱分解生成物を含」む「蒸留可能物質」を「揮発させることによりユーザの口内に提供する方法」は、本願発明における「タバコ由来の熱分解油を提供する方法」に相当する。

したがって、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「タバコ由来の熱分解油を提供する方法であって、
前記タバコ由来の熱分解油をタバコ製品に組み込むことを含み、
タバコ製品は、喫煙物品、無煙タバコ製品、および電子喫煙物品からなる群から選択される、前記方法。」

[相違点]
本願発明においては、「タバコ由来の熱分解油をもたらす」ために、「タバコ材料を得ることと、前記タバコ材料を熱分解して、炭及び蒸気生成物を産生することと、前記蒸気生成物を凝縮及び収集」するのに対して、引用発明においては、「タバコ熱分解生成物」が、どのように得られたものか明らかでない点。

以下、相違点について検討する。

[相違点について]
引用例2記載事項は、「タバコバイオマスの破砕後加熱分解(450℃-550℃)を行ない、油ガスの凝縮物を収集し、凝縮物沈殿後に3層に分けられたもののうちの中間層である1-メチル-2(3-ピリジル)テトラヒドロピロール(ニコチン)を抽出し、加熱分解後の残留固形物をバイオマス炭とすること」であって、タバコバイオマスの破砕後加熱分解を行なうに先だって、タバコバイオマスを得ることは明らかである。
そうすると、引用例2記載事項から、本願発明の用語に則って整理すると「1-メチル-2(3-ピリジル)テトラヒドロピロール(ニコチン)<タバコ由来の熱分解油>を得る方法が、タバコバイオマス<タバコ材料>を得ることと、タバコバイオマス<タバコ材料>の破砕後加熱分解<熱分解>を行ない、バイオマス炭<炭>と油ガス<蒸気生成物>を得ること、油ガス<蒸気生成物>の凝縮物を収集<凝縮及び収集>して凝縮物沈殿後に3層に分けられたもののうちの中間層である1-メチル-2(3-ピリジル)テトラヒドロピロール(ニコチン)<タバコ由来の熱分解油>の抽出することによるものである技術」(以下、「引用例2技術」という。なお、< >内は対応する本願発明の用語である。)が把握できる。
そして、引用発明は物品10、すなわち「蒸留可能物質」を「揮発させることによりユーザの口内に提供する」、いわゆる喫煙具を構成するものであり、喫煙具がタバコに含まれる成分として代表的なものであるニコチンを含むことに困難性はなく、むしろ自然であるから、引用発明の物品10における支持材からなるエアロゾル形成基体14が含むタバコ熱分解生成物として、上記引用例2技術における方法によって得られた1-メチル-2(3-ピリジル)テトラヒドロピロール(ニコチン)を採用することにより上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、本願発明は、引用発明及び引用例2技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2021-02-05 
結審通知日 2021-02-09 
審決日 2021-02-26 
出願番号 特願2016-533394(P2016-533394)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A24B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 黒田 正法谷川 啓亮  
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 川上 佳
松下 聡
発明の名称 タバコ由来の熱分解油  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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