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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 G03F
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G03F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F
管理番号 1376176
審判番号 不服2020-11211  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-12 
確定日 2021-07-15 
事件の表示 特願2016-1382「感光性樹脂積層体」拒絶査定不服審判事件〔平成29年7月13日出願公開,特開2017-122818〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2016-1382号(以下「本件出願」という。)は,平成28年1月6日に出願された特許出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
令和元年10月25日付け:拒絶理由通知書
令和元年12月24日付け:意見書
令和元年12月24日付け:手続補正書
令和2年 5月12日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和2年 8月12日付け:審判請求書
令和2年 8月12日付け:手続補正書

第2 補正の却下の決定
[結論]
令和2年8月12日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の(令和元年12月24日にした手続補正後の)請求項1の記載は,次のとおりである。
「 支持層と,前記支持層上に積層される感光性樹脂層と,前記感光性樹脂層上に積層されるカバー層とを含み,前記感光性樹脂層の厚みが60μm以上であり,かつ前記カバー層は,前記カバー層のMD方向に沿って縦20cm及び幅15cmに切り出した略矩形シートを前記MD方向端部が重なるように折り返して平板上に静置した際の最大高さが18mm以上である,感光性樹脂積層体。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の請求項1の記載は,次のとおりである。下線は補正箇所を示す。
「 支持層と,前記支持層上に積層される感光性樹脂層と,前記感光性樹脂層上に積層されるカバー層とを含み,前記感光性樹脂層の厚みが60μm以上であり,かつ前記カバー層は,前記カバー層のMD方向に沿って縦20cm及び幅15cmに切り出した略矩形シートを前記MD方向端部が重なるように折り返して平板上に静置した際の最大高さが18mm以上であり,
前記感光性樹脂層がアルカリ可溶性高分子成分とエチレン性不飽和二重結合含有成分を含有し,
前記アルカリ可溶性高分子成分が,その側鎖に芳香族基を有し,
前記アルカリ可溶性高分子成分中の芳香族の構成単位の含有割合が25質量%以上であり,かつ
露光後の前記感光性樹脂層における未露光部を現像除去するものである,感光性樹脂積層体。」

(3) 補正についての判断
本件補正前の請求項1に記載された発明の解決しようとする課題は,「厚い(例えば,感光性樹脂層の厚さが60um以上である)感光性樹脂層を用いて,通常の保管環境下で皺が発生しない感光性樹脂積層体…を実現すること」(【0007】)にある。これに対して,本件補正後の請求項1に記載された発明の解決しようとする課題は,本件補正により追加された構成を勘案すると,「硬化膜の強度及び感光性樹脂組成物の塗工性」(【0018】)にある。
(当合議体注:補正により追加された,側鎖に芳香族基を有する構成に関して,審判請求人は,スタッキング相互作用により感光性樹脂層全体の流動性が抑制されるメカニズムにより,発明の効果を一層奏する旨主張している(審判請求書の2.)。しかしながら,このような事項は,本件出願の明細書には記載されておらず,側鎖に芳香族基を有する構成に関して明細書に記載された事項は,【0018】に記載の事項にとどまる。)
そうしてみると,本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の解決しようとする課題が同一であるものということができない(異質な課題が追加されている)から,特許法17条の2第5項2号に掲げる事項を目的とするものに該当しない。また,本件補正が,同項1号,3号又は4号に掲げる事項を目的とするものに該当しないことは明らかである。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第5項の規定に違反してされたものである。

ところで,本件補正は,本件補正前の請求項1に係る発明の発明を特定するために必要な事項である「感光性樹脂層」を,「アルカリ可溶性高分子成分とエチレン性不飽和二重結合含有成分を含有し」,「前記アルカリ可溶性高分子成分が,その側鎖に芳香族基を有し」,「前記アルカリ可溶性高分子成分中の芳香族の構成単位の含有割合が25質量%以上であり,かつ」「露光後の前記感光性樹脂層における未露光部を現像除去するもの」に限定することを念頭に置いた補正である。
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が,同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

2 独立特許要件についての判断
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された特開平11-38631号公報(以下「引用文献1」という。)は,本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,感光性エレメントに関する。
【0002】
【従来の技術】
…省略…
【0003】感光性エレメントは,支持体フィルム上に感光性樹脂組成物の溶液を均一に塗布し,乾燥により溶剤を揮散させて感光性樹脂層を形成し,次いで,感光性樹脂層の上に保護フィルムを貼り合わせ,ロール上に巻取って製造される。また,感光性エレメントを使用する時には,保護フィルムを剥がしながら感光性樹脂層を基板面に加熱圧着し貼り合わせる。次いで,支持体フィルム上にネガマスクを載置し,露光した後現像することにより,基板上に感光性樹脂パターンを形成することができる。
…省略…
【0005】
【発明が解決しようとする課題】請求項1記載の発明は,保存中にシワ,折れ,はがれ,エッジフュージョン等の不具合が発生しない,保存安定性に優れた感光性エレメントを提供するものである。請求項2記載の発明は,請求項1記載の発明の効果を奏し,表面の凹凸の大きい被着体,厚膜パターンの要求される分野に好適に使用できる感光性エレメントを提供するものである。」

イ 「【0007】
【発明の実施の形態】本発明に用いられる保護フィルムは,弾性係数が50kg/mm^(2)以上でかつ融点が130℃以上のプラスチックフィルムである。弾性係数は70?1000kg/mm^(2)であることが好ましく,110?800kg/mm^(2)であることがより好ましい。融点は,140?400℃であることが好ましく,160?350℃であることがより好ましい。弾性係数が50kg/mm^(2)未満又は融点が130℃未満のフィルムを保護フィルムとして用いると感光性エレメントの保存中にシワや折れ,剥がれ,エッジフュージュン等の不具合が発生する。なお,弾性係数は,ASTM-D882に準じて測定することができ,融点は,示差走査熱量計(DSC)により測定することができる。弾性係数,融点が前記本発明の範囲内のプラスチックフィルムは,例えば,市販のポリプロピレンフィルム,ポリエチレンテレフタレートフィルムなどから選択し使用できる。
【0008】本発明における感光性樹脂層は,光照射されることによりその性質(溶媒等に対する溶解性,粘着性,粘度,流動性,弾性率,伸び,強度等の粘弾性,表面張力など)が変化するものであり,このようなものとしては,特に制限なく公知のものを使用でき,例えば,ネガ型感光性樹脂組成物,ポジ型感光性樹脂組成物等を使用して形成することができる。ポジ型感光性樹脂組成物としては,特に制限なく公知のものを使用でき,例えば,1,2-ナフトキノンジアジド系化合物,o-ニトロベンジル系化合物等を用いた可溶性基光生成型の組成物,オニウム塩等を用いた光酸発生・酸分解型の組成物などが挙げられる。ネガ型感光性樹脂組成物は,特に制限はなく公知のものを使用でき,例えば,(a)エチレン性不飽和化合物,(b)フィルム形成性付与ポリマ及び(c)光重合開始剤を必須成分として含み,(d)染料又は顔料,(e)その他添加物,(f)有機溶剤等を任意成分として含んでいてもよい。
【0009】前記(a)エチレン性不飽和化合物としては,例えば,ブチルアクリレート,テトラエチレングリコールジアクリレート,γ-クロロ-β-ヒドロキシプロピル-β′-メタクリロイルオキシエチル-o-フタレート,テトラプロピレングリコールジアクリレート,2,2-ビス〔(4-メタクリロキシペンタエトキシ)フェニル〕プロパン,トリメチロールプロパントリアクリレート,ペンタエリスリトールトリアクリレート,ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のアクリレート,これらに対応するメタクリレートが挙げられる。
【0010】(b)フィルム形成性付与ポリマとしては,例えば,アクリル酸,メタクリル酸,アクリル酸の炭素数1?22のアルキルエステル,メタクリル酸の炭素数1?22のアルキルエステル,2-ヒドロキシエチルアクリレート,,2-ヒドロキエチルシメタクリレート,2-ヒドロキシプロピルアクリレート,,2-ヒドロキシプロピルメタクリレート,メタクリル酸グリシジル,ジエチルアミノエチルメタクリレート,ジメチルアミノプロピルメタクリレート,アクリロニトリル,N?メチロールアクリルアミド,N?メチローメタアクリルアミド,スチレン,ビニルトルエン等のビニル単量体とこれらのビニル単量体と共重合可能な単量体とを共重合してなるビニル共重合体,ポリエステル,ポリアミド酸等が挙げられる。環境性に優れたアルカリ現像液で現像可能となる点から,(b)フィルム形成性付与ポリマがカルボキシル基を有するポリマであることが好ましい。
【0011】(c)光重合開始剤としては,例えば,ベンゾフェノン,4,4′-ジエチルアミノベンゾフェノン,2-エチルチオキサントン,1,7-ビス(9-アクリジニル)ヘプタン,ベンゾインメチルエーテル,ベンジルジメチルケタール等が挙げられる。
…省略…
【0015】感光性樹脂層の厚さは,特に制限されないが,75μm以上の場合,更には100μm以上の場合,特に160μm以上の場合には本発明の効果がよく発現し,またそのような感光性樹脂層を有する感光性エレメントは,表面の凹凸の大きい被着体,厚膜パターンの要求される分野等に好適に使用できる。この厚さの上限は,通常,300μmである。
【0016】本発明に用いられる支持体フィルムは,次述する感光性エレメントの製造の際,溶媒,熱によるダメージに耐性があり,最終的に感光性樹脂層を支持できるものであれば特に制限なく公知のものを使用しうるが,このようなものとしてはポリエチレンテレフタレートフィルムが好適である。支持体フィルムの厚さは,解像度,強度,取り扱い性の点から3?100μmであることが好ましい。
【0017】本発明の感光性エレメントは,例えば,支持体フィルム上に感光性樹脂組成物の溶液(有機溶剤等の溶媒を含む)を塗布し,加熱乾燥することにより溶媒を揮散除去して,感光性樹脂層を形成し,次いで,感光性樹脂層の上に保護フィルムを貼り合わせて得ることができ,この感光性エレメントを巻き取ってロール状物とすることができる。ロール状物とするときは,支持体フィルムが外側になるように巻きとることが,その後の取扱性の点で好ましい。
…省略…
【0020】本発明において,保護フィルムと支持体フィルムの両方にポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた感光性エレメントは,熱変形,感光性樹脂層の変形等の影響をほとんど受けないため,経日安定性に優れた。特に,ポリエチレンテレフタレートフィルムは厚さが均一であること,フィルム同士の滑り性が悪いので低テンションでロール状に巻き取れることから,エッジフュージョン発生が少なく,非常に好ましい。
【0021】また,支持体フィルムは,保護フィルムより厚さの小さいフィルムを使用した方が,支持体フィルムと感光性樹脂層との接着をより保持でき,支持体フィルムと感光性樹脂層の好ましくない剥離を防ぐことができる。
…省略…
【0024】
【実施例】次に,本発明を実施例により説明する。
実施例1?5及び比較例1?3
メタクリル酸メチル/アクリル酸エチル/メタクリル酸共重合体(53/30/17(重量比),重量平均分子量10万)の41重量%メチルセロソルブ/トルエン(8/2(重量比))溶液137g(固形分55g),2,2′-ビス〔(4-メタクリロキシペンタエトキシ)フェニル〕プロパン34g,γ-クロロ-β-ヒドロキシプロピル-β′-メタクリロイルオキシエチル-o-フタレート11g,2,2′-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)0.1g,トリブロモメチルフェニルスルフォン1.2g,1,7-ビス(9-アクリジニル)ヘプタン0.2g,ベンジルジメチルケタール3g,ロイコクリスタルバイオレット1.0g,マラカイトグリーン0.05g,トルエン7g,メチルエチルケトン13g,メタノール3gを配合し,アルカリ現像タイプの感光性樹脂組成物の溶液を得た。
【0025】この感光性樹脂組成物の溶液を支持体フィルムとしての20μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)上に均一に塗布し,110℃の熱風対流式乾燥機で10分間乾燥して感光性樹層を形成した。塗布厚を変えて,3種類の厚さの異なる感光性樹脂層を形成した。感光性樹脂層の乾燥後の膜厚はそれぞれ50μm,160μm,200μmであった。なお,実施例5のみは,支持体フィルムとして30μmのポリプロピレンフィルム(OPP)を用い,80℃の熱風対流式乾燥機で20分間乾燥して150μm厚の感光性樹脂層を形成した。
【0026】次いで,表1に示す各種厚さの感光性樹脂層の上に保護フィルムとして,実施例1,2及び5ではポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)を,実施例3,4ではポリプロピレンフィルム(OPP)を,比較例1?3ではポリエチレンフィルム(PE)を貼り合わせ感光性エレメントとした。得られた感光性エレメントを400mm幅に切断し,長さ60mを内径75mmの巻芯に支持体フィルムが外側となるようにロール状に巻き取り,これらのロール状感光性エレメントについて基板との貼り合わせ時の保護フィルムの剥離性,30℃-90%RH中に5日間保管した時の感光性エレメントのシワ,折れ,エッジフュージョン等の発生の有無について調べた。これらの結果を表1及び表2に示す。
【0027】
【表1】


【0028】
【表2】

【0029】各フィルムの弾性係数は,ASTM-D882に準拠して行った。具体的にはPET,OPPの場合,試験片サイズを15mm(幅)×70mm(長さ)とし,チャック間距離を50mm,引っ張り速度を10mm/分として23℃で測定し,得られたSSカーブの伸び1%までの傾きにより求めた。PEの場合は,引っ張り速度を50mm/分とした以外は上記と同様にして求めた。なお,各フィルムの試験片のサンプリングにあたっては,各フィルム(ロール形態)の巻取りの方向と試験片の長さ方向が平行となるようにサンプリングした。また,各フィルムの融点は,DSCでサンプル量20mg,(PET,OPP),10mg(PE),昇温速度20℃/分(PET,OPP),10℃/分(PE)で測定して求めた。表1,表2から明らかなように,保護フィルムに弾性係数110kg/mm^(2)以上でかつ,融点160℃以上のプラスチックフィルムを用いた感光性エレメントは,保存安定性が著しく向上していることが分かった。
【0030】
【発明の効果】請求項1記載の感光性エレメントは,保存中にシワ,折れ,はがれ,エッジフュージョン等の不具合が発生しない,保存安定性に優れたものである。請求項2記載の感光性エレメントは,請求項1記載の感光性エレメントの効果を奏し,好適に使用できるものである。」

(2) 引用発明
引用文献1の【0024】?【0027】には,実施例1として,次の「感光性エレメント」の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,「感光性樹脂組成物」は,「アルカリ現像タイプの感光性樹脂組成物」に用語を統一した。また、【0025】の「感光性樹層」は、「感光性樹脂層」の誤記であるとして訂正した。

「 アルカリ現像タイプの感光性樹脂組成物の溶液を支持体フィルムとしての20μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム上に均一に塗布し,乾燥して感光性樹脂層を形成し,
次いで,感光性樹脂層の上に保護フィルムとして,ポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り合わせ感光性エレメントとし,得られた感光性エレメントを400mm幅に切断し,長さ60mを内径75mmの巻芯に支持体フィルムが外側となるようにロール状に巻き取った,ロール状感光性エレメントであって,
感光性樹脂層厚が200μmであり,保護フィルムの厚さが20μmであり,保護フィルムの弾性係数が503kg/mm^(2)であり,
アルカリ現像タイプの感光性樹脂組成物の溶液の調製方法及び弾性係数の測定方法は以下のとおりである,ロール状感光性エレメント。
(アルカリ現像タイプの感光性樹脂組成物の溶液の調製方法)
メタクリル酸メチル/アクリル酸エチル/メタクリル酸共重合体(53/30/17(重量比),重量平均分子量10万)の41重量%メチルセロソルブ/トルエン(8/2(重量比))溶液137g(固形分55g),2,2′-ビス〔(4-メタクリロキシペンタエトキシ)フェニル〕プロパン34g,γ-クロロ-β-ヒドロキシプロピル-β′-メタクリロイルオキシエチル-o-フタレート11g,2,2′-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)0.1g,トリブロモメチルフェニルスルフォン1.2g,1,7-ビス(9-アクリジニル)ヘプタン0.2g,ベンジルジメチルケタール3g,ロイコクリスタルバイオレット1.0g,マラカイトグリーン0.05g,トルエン7g,メチルエチルケトン13g,メタノール3gを配合し,アルカリ現像タイプの感光性樹脂組成物の溶液を得た。
(弾性係数の測定方法)
試験片サイズを15mm(幅)×70mm(長さ)とし,チャック間距離を50mm,引っ張り速度を10mm/分として23℃で測定し,得られたSSカーブの伸び1%までの傾きにより求め,各フィルムの試験片のサンプリングにあたっては,各フィルム(ロール形態)の巻取りの方向と試験片の長さ方向が平行となるようにサンプリングした。」

(3) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比する。
ア 感光性樹脂層
引用発明の「ロール状感光性エレメント」は,「アルカリ現像タイプの感光性樹脂組成物の溶液を支持体フィルムとしての20μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム上に均一に塗布し,乾燥して感光性樹脂層を形成し」,「次いで,感光性樹脂層の上に保護フィルムとして,ポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り合わせた」ものである。
上記の製造工程からみて,引用発明の「ロール状感光性エレメント」は,「支持体フィルム」と,「支持体フィルム」上に積層される「感光性樹脂層」と,「感光性樹脂層」上に積層される「保護フィルム」を含むものである。また,引用発明の「ロール状感光性エレメント」,「支持体フィルム」,「感光性樹脂層」及び「保護フィルム」は,当業者がその用語から理解されるとおりのものである。
そうしてみると,引用発明の「支持体フィルム」,「感光性樹脂層」,「保護フィルム」及び「ロール状感光性エレメント」は,それぞれ本件補正後発明の「支持層」,「感光性樹脂層」,「カバー層」及び「感光性樹脂積層体」に相当する。また,上記積層構造からみて、引用発明の「ロール状感光性エレメント」は,本件補正後発明の「感光性樹脂積層体」における,「支持層と,前記支持層上に積層される感光性樹脂層と,前記感光性樹脂層上に積層されるカバー層とを含み」という要件を満たす。

イ 感光性樹脂層の厚み
引用発明の「ロール状感光性エレメント」は,「感光性樹脂層厚が200μmであ」る。
そうしてみると,引用発明の「ロール状感光性エレメント」は,本件補正後発明の「感光性樹脂積層体」における,「前記感光性樹脂層の厚みが60μm以上であり」という要件を満たす。

ウ 感光性樹脂層の材料等
引用発明の「アルカリ現像タイプの感光性樹脂組成物の溶液の調製方法」は,前記(2)で述べたとおりである。また,引用発明の「感光性樹脂層」は,「アルカリ現像タイプの感光性樹脂組成物の溶液を支持体フィルムとしての20μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム上に均一に塗布し,乾燥し」たものである。
ここで,引用発明の「感光性樹脂層」には,その材料からみて,「メタクリル酸メチル/アクリル酸エチル/メタクリル酸共重合体」,「2,2′-ビス〔(4-メタクリロキシペンタエトキシ)フェニル〕プロパン」及び「ベンジルジメチルケタール」が含まれる。そして,「メタクリル酸メチル/アクリル酸エチル/メタクリル酸共重合体」は,その化合物名からみて,アルカリ可溶性高分子成分である。また,引用発明の「2,2′-ビス〔(4-メタクリロキシペンタエトキシ)フェニル〕プロパン」は,ビスフェノールAの両端にエチレンオキシド鎖を介してメタクリロイル基を有する化合物と理解されるから,エチレン性不飽和二重結合含有成分といえる(当合議体注:引用文献1の【0009】においても,「エチレン性不飽和化合物」として例示されている。)。さらに,引用発明の「ベンジルジメチルケタール」は,光重合開始剤として機能する(当合議体注:引用文献1の【0011】においても,「光重合開始剤」として例示されている。)から,引用発明の「感光性樹脂層」は,紫外線に露光され光重合が起こらなかった部分がアルカリ現像液によって除去される(ネガ型の)ものである。
そうしてみると,引用発明の「メタクリル酸メチル/アクリル酸エチル/メタクリル酸共重合体」及び「2,2′-ビス〔(4-メタクリロキシペンタエトキシ)フェニル〕プロパン」は,それぞれ本件補正後発明の「アルカリ可溶性高分子成分」及び「エチレン性不飽和二重結合含有成分」に相当する。また,引用発明の「感光性樹脂層」と,本件補正後発明の「感光性樹脂層」とは,「アルカリ可溶性高分子成分とエチレン性不飽和二重結合含有成分を含有し」,「露光後の前記感光性樹脂層における未露光部を現像除去するものである」点で共通する。

(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 支持層と,前記支持層上に積層される感光性樹脂層と,前記感光性樹脂層上に積層されるカバー層とを含み,前記感光性樹脂層の厚みが60μm以上であり,
前記感光性樹脂層がアルカリ可溶性高分子成分とエチレン性不飽和二重結合含有成分を含有し,
露光後の前記感光性樹脂層における未露光部を現像除去するものである,感光性樹脂積層体。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
「カバー層」が,本件補正後発明は,「前記カバー層のMD方向に沿って縦20cm及び幅15cmに切り出した略矩形シートを前記MD方向端部が重なるように折り返して平板上に静置した際の最大高さが18mm以上であり」という要件を満たすものであるのに対して,引用発明は,「厚さが20μmであり」,「弾性係数が503kg/mm^(2)であ」る「ポリエチレンテレフタレートフィルム」である点。

(相違点2)
「アルカリ可溶性高分子成分」が,本件補正後発明は,「その側鎖に芳香族基を有し」,「芳香族の構成単位の含有割合が25質量%以上であ」るのに対して,引用発明は,その側鎖に芳香族基を有さない点。

(5) 判断
ア 相違点1について
引用発明の「保護フィルム」は,「弾性係数が503kg/mm^(2)」の「ポリエチレンテレフタレートフィルム」であるから,その曲げ弾性率についても,引用発明の比較例(引用文献1の【0028】【表2】)や,本件補正後発明の比較例(本件特許の明細書の【0068】【表2】の「C-2」?「C-4」)において用いられているポリエチレンフィルムに比して,十分に大きなものと理解される。そして,「厚さが20μm」であることを勘案すると,引用発明の「保護フィルム」は,相違点1に係る「MD方向に沿って縦20cm及び幅15cmに切り出した略矩形シートを前記MD方向端部が重なるように折り返して平板上に静置した際の最大高さが18mm以上であり」という要件を満たすと考えられる。
仮にそうでないとしても,引用文献1の【0021】及び【0016】には,それぞれ,「支持体フィルムは,保護フィルムより厚さの小さいフィルムを使用した方が,支持体フィルムと感光性樹脂層との接着をより保持でき,支持体フィルムと感光性樹脂層の好ましくない剥離を防ぐことができる。」及び「支持体フィルムの厚さは,解像度,強度,取り扱い性の点から3?100μmであることが好ましい。」と記載されている。そうしてみると,引用発明の「保護フィルム」の厚さは,100μm以上のものであっても良く,このようにしたものは,「MD方向に沿って縦20cm及び幅15cmに切り出した略矩形シートを前記MD方向端部が重なるように折り返して平板上に静置した際の最大高さが18mm以上であり」という要件を優に満たすと考えられる。
(当合議体注:本件補正後発明の「感光性樹脂積層体」は形状を特定しないものであるが,発明の詳細な説明の記載を考慮し,本件補正後発明の「MD方向」とは,引用文献1でいう「各フィルム(ロール形態)の巻取りの方向」のことと理解した。)
したがって,相違点1は,相違点ではないか,仮に相違点であるとしても,引用発明において相違点1に係る本件補正後発明の構成を採用することは,引用文献1の記載が示唆する範囲内の事項である。

イ 相違点2について
相違点2に係る本件補正後発明の構成を具備する共重合体は,例えば,特開2012-215676号公報(以下「周知例1」という。)の【0028】?【0031】並びに【0115】【表2】の「A-1」及び「A-3」,特開2008-175957号公報(以下「周知例2」という。)の【0089】の「A-1」及び「A-2」,国際公開第2014/014087号(以下「周知例3」という。)の[0080]の「P-7」?「P-9」,特開2011-215366号公報(以下「周知例4」という。)の【0108】【表1】の「P-1」?「P-4」に記載され,周知技術といえる。そして,周知例1の【0100】?【0106】,周知例2の【0069】?【0072】,周知例3の[0071]及び[0072]及び周知例4の【0093】?【0099】等の記載からも確認できるとおり,周知技術の共重合体は,いわゆるドライフィルムレジストとしての利用に適したものであるから,引用発明の「ロール状感光性エレメント」の「メタクリル酸メチル/アクリル酸エチル/メタクリル酸共重合体」に替えて採用して良いものと理解される。また,このような変更は,引用文献1の【0010】の記載が示唆する範囲内の事項といえる(当合議体注:「ビニル単量体」として「スチレン」が挙げられている。)。
そうしてみると,例えば,「レジストの現像性及び高密着性」(周知例1の【0031】)を考慮した当業者が,引用発明において上記周知技術を採用し、相違点2に係る本件補正後発明の構成に到ることは,容易になし得たことである。

(6) 発明の効果について
本件補正後発明の効果に関して,本件出願の明細書の【0009】には,「本発明によれば,厚さが60μm以上である感光性樹脂層を含む感光性樹脂積層体を,ロール形状にしたとしても,感光性樹脂層の厚み均一性を維持し,かつロール表面の皺の発生を低減させることができる。」と記載されている。
しかしながら,このような効果は,引用発明も奏する効果である。
なお,本件出願の明細書の【0018】には,「アルカリ可溶性高分子は…硬化膜の強度及び感光性樹脂組成物の塗工性の観点から,その側鎖に芳香族基を有することも好ましい。」と記載されているが、この効果も,引用発明に周知技術を採用した発明が奏する効果であって、当業者が期待を超えるものではない。

(7) 審判請求人の主張について
請求人は,審判請求書2.において,「アルカリ可溶性高分子成分中の芳香族の構成単位を本件発明の「25質量%以上」使用した場合,スタッキング相互作用により感光性樹脂層全体の流動性が抑制されるため,このメカニズムから,補正後請求項1に記載の支持フィルムにアルカリ可溶性高分子成分を併せることで,顕著な膜厚均一性の効果を発現し,本件明細書の段落[0009]に記載の優れた効果を一層奏します。」と主張する。
しかしながら,このような事項は,本件出願の明細書には記載されておらず、また、記載がなくとも当業者に自明な事項でもない。
したがって、上記主張は採用の限りでない。

(8) 小括
本件補正後発明は,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定についてのまとめ
本件補正は,特許法17条の2第5項に規定する要件に違反するものであり,また,同条6項において準用する同法126条7項の規定にも違反するものであるから,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,前記[補正の却下の決定の結論]に記載のとおり,決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり本件補正は却下されたので,本件出願の請求項1に係る発明は,前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は,概略,[A]本願発明は,本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1(特開平11-38631号公報)に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができない,[B]本願発明は,本件出願前異に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1に基づいて,本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 引用文献1の記載及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明は,前記「第2」[理由]2(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明から,同1(3)で述べた限定事項を除いたものである。また,本願発明の構成を全て具備し,これにさらに限定を付したものに相当する本件補正後発明は,前記「第2」[理由]2(3)?(8)で述べたとおり,引用文献1に記載された発明に基づいて,本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。さらに,本件補正により付された限定事項が,相違点2に係る本件補正後発明の構成であることを考慮すると,本願発明と引用発明は,同一である。
そうしてみると,本願発明は,引用文献1に記載された発明である。あるいは,本願発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて,本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができない。あるいは,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
そうしてみると,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-04-23 
結審通知日 2021-05-11 
審決日 2021-05-27 
出願番号 特願2016-1382(P2016-1382)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G03F)
P 1 8・ 57- Z (G03F)
P 1 8・ 572- Z (G03F)
P 1 8・ 121- Z (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 外川 敬之  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 河原 正
樋口 信宏
発明の名称 感光性樹脂積層体  
代理人 青木 篤  
代理人 三橋 真二  
代理人 中村 和広  
代理人 齋藤 都子  
代理人 三間 俊介  

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