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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1376180 |
審判番号 | 不服2020-13569 |
総通号数 | 261 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-09-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-09-29 |
確定日 | 2021-07-15 |
事件の表示 | 特願2016- 49340「電子装置およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月21日出願公開、特開2017-168486〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年3月14日の出願であって、令和元年10月25日付けで拒絶理由が通知され、令和元年12月13日に手続補正がなされ、令和2年6月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、令和2年9月29日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。 第2 令和2年9月29日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和2年9月29日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。) 「【請求項1】 上面に第1の電極が形成された第1の基板と、 前記第1の基板上に固定され、上面に第2の電極が形成された第2の基板と、 前記第1の電極と前記第2の電極とを接続し、導電性を有するワイヤと、 前記第2の基板を全て覆うように樹脂で形成された樹脂封止層と、 前記第2の基板の上方に前記樹脂を介して配置され、円柱形状または直方体形状の部分を有し、熱伝導性の固体である封止体と、 を備え、 前記封止体の下面は、前記第2の基板と前記樹脂を介して対向し、前記第1の基板の平面に対して垂直方向の前記ワイヤの最高点よりも低く配置されていることを特徴とする電子装置。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、令和元年12月13日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 上面に第1の電極が形成された第1の基板と、 前記第1の基板上に固定され、上面に第2の電極が形成された第2の基板と、前記第1の電極と前記第2の電極とを接続し、導電性を有するワイヤと、 前記第2の基板を全て覆うように樹脂で形成された樹脂封止層と、 前記第2の基板の上方に前記樹脂を介して配置され、熱伝導性を有する固体である封止体と、 を備え、 前記封止体の下面は、前記第2の基板と前記樹脂を介して対向し、前記第1の基板の平面に対して垂直方向の前記ワイヤの最高点よりも低く配置されていることを特徴とする電子装置。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「封止体」について「熱伝導性を有する固体である」とあったところを「円柱形状または直方体形状の部分を有し、熱伝導性の固体である」と限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項 ア 引用文献1 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1(特開2008-135688号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。)。 「【0001】 本発明は、大きな発熱量の半導体素子を搭載する場合に適した半導体装置、およびその製造方法に関するものである。」 「【0026】 本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、製造工程中に半導体装置の金属細線がショートあるいは、未充填が発生することなく製造でき、且つ、放熱性に優れ、品質の安定した半導体装置およびその製造方法を提供することである。」 「【0059】 以下、本発明の実施の形態における半導体装置101について図面を参照しながら説明する。なお、理解し易いように、以下の説明では、基板の半導体素子搭載面側を上方として説明する。また、従来の半導体装置100と略同機能の構成要素には同じ符号を付す。 【0060】 (第1の実施の形態) 図1は本発明の第1の実施の形態における半導体装置101の断面図を示すものである。 【0061】 図1に示すように、本実施の形態の半導体装置101は、絶縁性樹脂からなり、その両面にビアホール7を介して互いに電気的に接続された配線パターン2が形成されている基板3と、下面側に複数の電極端子(図示せず)を有し、基板3の主面である上面(半導体素子搭載面とも称す)に接着剤4を介して搭載された半導体素子1と、半導体素子1と基板3の配線パターン2とを電気的に接続した金属細線5と、基板3における半導体素子搭載面と反対側の面にマトリクス状に配置され、基板3の配線パターン2と電気的に接続したボール電極8と、基板3の半導体素子搭載面側を覆い、この半導体素子1の主面(半導体素子1の回路面であり、図1における半導体素子1の上面)に対向するように配置された、側面視して断面略台形形状の熱伝導体91と、基板3の半導体素子搭載面、半導体素子1、および熱伝導体91の一部を封止する封止樹脂体6とを備えている。 【図1】 」 「【0065】 本実施の形態における半導体装置101の製造方法は、まず、図3(a)に示すように、両面に配線パターン2が形成されている基板3を用意し、図3(b)に示すように、基板3の上面の各ボンディング位置に対して、半導体素子1を接着剤4により接着固定して搭載する。 【0066】 次に、図3(c)に示すように、基板3上に搭載した半導体素子1の電極パッド(図示せず)と基板3の上面に設けられた配線パターン2とを金属細線5により電気的に接続する。 【図3】 」 「【0108】 (第3の実施の形態) 本第3の実施の形態の半導体装置104では、上記第1の実施の形態における半導体装置101とは熱伝導体の形状が異なる。この半導体装置104について、図11、12を用いて説明する。なお、上記第1の実施の形態と重複する箇所については、詳細な説明を省略する。また、図11は、本第3の実施の形態における半導体装置を示す断面図である。また、図12は本第3の実施の形態の半導体装置における熱伝導体の製造工程を説明する図である。」 「【0115】 なお、熱伝導体の形状は、本実施の形態の熱伝導体94の形状に限定されない。以下に本実施の形態における変形の形態1を図13、図14を用いて説明する。ここで、本実施の形態における半導体装置104と変形の形態1における半導体装置105とでは、熱伝導体95の形状のみが異なる。以下において、本第3の実施の形態における半導体装置104と対応する部分には同一符号を付し、その説明を省略している。」 「【0116】 (変形の形態1) 図13は、変形の形態1における半導体装置を示す断面図である。また、図14は、変形の形態1における熱伝導体の製造工程を説明する図である。 【0117】 図13に示すように、この半導体装置105でも、熱伝導体95の露出部の一部に半導体素子1に近づくような窪み部19が設けられている。なお、この実施の形態でも窪み部19はすり鉢状に一体形成されているが、窪み部19の側面部のみ複数の開口部15が設けられ、窪み部19の底面部分には開口部が設けられていない(開口されていない)。そして、窪み部19の底面部19bが半導体素子1の主面と略平行な状態で近接された配置とされている。 【図13】 【0118】 ここで、図14を参照しながら、この熱伝導体95の製造方法について説明する。 図14(a)に示すように、熱伝導体95は、Cu、Cu合金、Al、Al合金、またはFe-Ni合金等の熱伝導性の良好な材料からなる金属板をエッチング加工またはプレス加工により所望する形状に加工して作製する。熱伝導体95には、板厚方向に貫通する複数の開口部15が形成されている。なお、開口部15は、1つでも、複数でも構わない。また、開口部15の形状は、丸形状だけでなく、多角形状であっても構わない。 【0119】 次に、図14(b)に示すように、熱伝導体95の角部に上記実施の形態1と同様の支持部9aが形成されると共に、絞り加工などを施し、開口部15が窪み部19の傾斜部19a内に配置されるように、その外周部をすり鉢状に下方に成形して、封止樹脂体6内に埋没する窪み部19が形成される。 【図14】 【0120】 ここで、窪み部19は金属細線5に接触しないように形成され、窪み部19の底面部19bが半導体素子1の主面と略平行になっている。また、窪み部19は、封止金型の内壁面に臨むように形成する。 【0121】 また、窪み部19を半導体素子1の主面の中心の鉛直方向に位置するように設け、窪み部19の内径が注入ゲートの外形よりも大きく形成することが望ましい。なお、熱伝導体95の開口部15の形状は多角形状でも構わないし、窪み部19の形状も注入ゲートの外形よりも大きくできれば、多角形状であっても構わない。それ以外の点は、上記第3の実施の形態における半導体装置104と同一である。 【0122】 そして、この変形の形態1の半導体装置105が奏する効果は、本第3の実施の形態が奏する上記の効果に付け加え、熱伝導体95の窪み部19の底面19bには開口部を設けていないので、底面19bを半導体素子1の主面に近接させたり当接させたりすることが可能になる。したがって、図13に示すように、熱伝導体95の窪み部19の底面19bを半導体素子1の主面に近接させることで、放熱効果を高めることができ、さらには、当接させる構成とする(但し、図13においては当接させていない場合を図示している)ことで放熱効果を一層高めることができる、というものである。」 したがって、引用文献1には、次の技術事項が記載されているものと認められる。 a 段落【0001】より、引用文献1は、「半導体装置」に関するものであることがわかる。 b 段落【0061】より、(第1の実施の形態)における「半導体装置101」は、「絶縁性樹脂からなり、配線パターン2が形成されている基板3と、基板3の主面である上面(半導体素子搭載面とも称す)に搭載された半導体素子1と、金属細線5と、基板3の半導体素子搭載面側を覆い、この半導体素子1の主面(半導体素子1の回路面であり、半導体素子1の上面)に対向するように配置された熱伝導体91と、基板3の半導体素子搭載面、半導体素子1、および熱伝導体91の一部を封止する封止樹脂体6とを備え」ていることを読み取ることができる。 c 段落【0065】、【0066】より、(第1の実施の形態)における「半導体装置101」は、「基板3の上面の各ボンディング位置に対して、半導体素子1を接着剤4により接着固定して搭載し、次に、基板3上に搭載した半導体素子1の電極パッドと基板3の上面に設けられた配線パターン2とを金属細線5により電気的に接続」することを読み取ることができる。 d 段落【0116】より、(変形の形態1)における「半導体装置105」では、「熱伝導体95の露出部の一部に半導体素子1に近づくような窪み部19が設けられ、窪み部19はすり鉢状に一体形成され、窪み部19の底面部19bが半導体素子1の主面と略平行な状態で近接された配置とされ」ていることを読み取ることができる。 e 段落【0118】より、(変形の形態1)における「半導体装置105」の「熱伝導体95は金属板を加工して作製」することを読み取ることができる。 f 段落【0119】より、(変形の形態1)における「半導体装置105」の「窪み部19」は「封止樹脂体6内に埋没」することを読み取ることができる。 g 段落【0120】、【0121】より、(変形の形態1)における「半導体装置105」では、「窪み部19は金属細線5に接触しないように形成され、」「窪み部19を半導体素子1の主面の中心の鉛直方向に位置するように設け、窪み部19の形状」は「多角形状であっても構わ」ないことを読み取ることができる。 h 段落【0122】より、(変形の形態1)における「半導体装置105」では、「熱伝導体95の窪み部19の底面19bを半導体素子1の主面に近接させることで、放熱効果を高めることができ」ることを読み取ることができる。 ここで、引用文献1の段落【0108】に「(第3の実施の形態) 本第3の実施の形態の半導体装置104では、上記第1の実施の形態における半導体装置101とは熱伝導体の形状が異なる。」と記載され、段落【0115】及び【0121】に「本実施の形態における半導体装置104と変形の形態1における半導体装置105とでは、熱伝導体95の形状のみが異なる。」、「それ以外の点は、上記第3の実施の形態における半導体装置104と同一である。」と記載されていることから、段落【0116】以降に記載された「(変形の形態1)」における「半導体装置105」は、「第1の実施の形態における半導体装置101とは熱伝導体の形状が異なる」だけであると認められる。 よって、上記aないしhより、引用文献1には、(変形の形態1)の「半導体装置105」として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる(なお、用語の統一を図るため、第1の実施の形態について記載された上記b、cにおける「熱伝導体91」を、「熱伝導体95」と書き換えた。)。 「絶縁性樹脂からなり、配線パターン2が形成されている基板3と、基板3の主面である上面(半導体素子搭載面とも称す)に搭載された半導体素子1と、金属細線5と、基板3の半導体素子搭載面側を覆い、この半導体素子1の主面(半導体素子1の回路面であり、半導体素子1の上面)に対向するように配置された熱伝導体91と、基板3の半導体素子搭載面、半導体素子1、および熱伝導体91の一部を封止する封止樹脂体6とを備え、 基板3の上面の各ボンディング位置に対して、半導体素子1を接着剤4により接着固定して搭載し、次に、基板3上に搭載した半導体素子1の電極パッドと基板3の上面に設けられた配線パターン2とを金属細線5により電気的に接続し、 熱伝導体95の露出部の一部に半導体素子1に近づくような窪み部19が設けられ、窪み部19はすり鉢状に一体形成され、窪み部19の底面部19bが半導体素子1の主面と略平行な状態で近接された配置とされ、熱伝導体95は金属板を加工して作製し、窪み部19は封止樹脂体6内に埋没し、窪み部19は金属細線5に接触しないように形成され、窪み部19を半導体素子1の主面の中心の鉛直方向に位置するように設け、窪み部19の形状は多角形状であっても構わず、 熱伝導体95の窪み部19の底面19bを半導体素子1の主面に近接させることで、放熱効果を高めることができる、 半導体素子1。」 (3)対比・判断 ア 対比 本件補正発明と引用発明とを対比すると、次のことがわかる。 (ア)引用発明における「基板3」は、「基板3の上面に」「配線パターン2」が「設けられ」ている。そして、該「配線パターン2」のうち、「基板3の上面の各ボンディング位置」に当たる「配線パターン2」は、「金属細線5」が「ボンディング」される電極とみなすことができる。 よって、引用発明における「基板3」は、「基板3の上面に」、「金属細線5」が「ボンディング」される電極が形成されているといえるから、本件補正発明における「上面に第1の電極が形成された第1の基板」に相当するといえる。 (イ)引用発明における「半導体素子1」は、「基板3の主面である上面(半導体素子搭載面とも称す)に」「接着剤4により接着固定して搭載」され、「電極パッド」を備えているから、本件補正発明における「前記第1の基板上に固定され、上面に第2の電極が形成された第2の基板」に相当する。 (ウ)引用発明における「金属細線5」は、「基板3上に搭載した半導体素子1の電極パッドと基板3の上面に設けられた配線パターン2とを」「電気的に接続」しているから、本件補正発明における「前記第1の電極と前記第2の電極とを接続し、導電性を有するワイヤ」に相当する。 (エ)上記(イ)で述べたとおり、引用発明における「半導体素子1」は、本件補正発明における「第2の基板」に相当する。 そして、引用発明における、「封止樹脂体6」は、「半導体素子1」と、該「半導体素子1」が「搭載」される「基板3の半導体素子搭載面」とを「封止」しているから、「封止樹脂体6」は「半導体素子1」(本件補正発明でいう「第2の基板」)全体を覆っていることは明らかである。 よって、引用発明における「封止樹脂体6」は、本件補正発明における「前記第2の基板を全て覆うように樹脂で形成された樹脂封止層」に相当する。 (オ)a 引用発明における「熱伝導体95」には「一部に半導体素子1に近づくような窪み部19が設けられ、窪み部19はすり鉢状に一体形成され、窪み部19の底面部19bが半導体素子1の主面と略平行な状態で近接された配置とされ」、「窪み部19は封止樹脂体6内に埋没し」、「窪み部19を半導体素子1の主面の中心の鉛直方向に位置するように設け」ているから、引用発明における「熱伝導体95」の「一部に」「設けられ」た「窪み部19の底面部19b」と「半導体素子1の主面」との間には「封止樹脂体6」が介在していることは明らかである。 b よって、引用発明における「熱伝導体95」は、「一部に」「すり鉢状」あるいは「多角形状」の「窪み部19」が「設けられ」、「金属板を加工して作製」され、「半導体素子1の主面の」「鉛直方向に位置し」、「半導体素子1の主面」との間には「封止樹脂体6」が介在しているから、本件補正発明における「前記第2の基板の上方に前記樹脂を介して配置され、円柱形状または直方体形状の部分を有し、熱伝導性の固体である封止体」とは、「前記第2の基板の上方に前記樹脂を介して配置され、立体形状の部分を有し、熱伝導性の固体である封止体」の点で一致する。 c しかしながら、本件補正発明では、封止体が有する部分が「円柱形状または直方体形状」であるのに対し、引用発明では、「熱伝導体95」の「一部に」「設けられ」た部分が、「すり鉢状」あるいは「多角形状」の「窪み部19」である点で相違する。 (カ)上記(オ)aのとおり、引用発明における「熱伝導体95」の「一部に」「設けられ」た「窪み部19の底面部19b」と「半導体素子1の主面」との間には「封止樹脂体6」が介在していることは明らかである。 よって、引用発明と本件補正発明とは、「前記封止体の下面は、前記第2の基板と前記樹脂を介して対向し、前記第1の基板の平面に対して垂直方向に低く配置されている」の点で一致する。 しかしながら、本件補正発明では、前記封止体の下面が「前記ワイヤの最高点よりも低く」配置されているのに対し、引用発明では、窪み部19の底面部19bが金属細線5の最高点よりも低く配置されているか明らかでない点で相違する。 したがって、本件補正発明と引用発明とは、次の点で一致し、また相違する。 (一致点) 上面に第1の電極が形成された第1の基板と、 前記第1の基板上に固定され、上面に第2の電極が形成された第2の基板と、 前記第1の電極と前記第2の電極とを接続し、導電性を有するワイヤと、 前記第2の基板を全て覆うように樹脂で形成された樹脂封止層と、 前記第2の基板の上方に前記樹脂を介して配置され、立体形状の部分を有し、熱伝導性の固体である封止体と、 を備え、 前記封止体の下面は、前記第2の基板と前記樹脂を介して対向し、前記第1の基板の平面に対して垂直方向に低く配置されていることを特徴とする電子装置。」 (相違点1) 本件補正発明では、封止体が有する部分が「円柱形状または直方体形状」であるのに対し、引用発明では、「すり鉢状」あるいは「多角形状」の「窪み部19」である点。 (相違点2) 本件補正発明では、前記封止体の下面が「前記ワイヤの最高点よりも低く」配置されているのに対し、引用発明では、「窪み部19の底面部19b」(本件補正発明の「封止体の下面」に相当する。)が金属細線5(本件補正発明の「ワイヤ」に相当する。)の最高点よりも低く配置されているか明らかでない点。 イ 判断 そこで上記相違点について検討する。 (ア)(相違点1)について 熱伝導体の立体形状として「円柱形状または直方体形状」は、ありふれた形状である(なお、直方体形状については、必要であれば、特開平1-244652号公報の図1ないし図3に記載された「下面凸形状部8a」参照。)。 よって、引用発明において、「熱伝導体95」の「一部に」「設けられ」た「すり鉢状」あるいは「多角形状」の「窪み部19」を、「円柱形状または直方体形状」とし、上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 (イ)(相違点2)について 引用文献1の段落【0122】には「熱伝導体95の窪み部19の底面19bを半導体素子1の主面に近接させることで、放熱効果を高めることができ、さらには、当接させる構成とする(但し、図13においては当接させていない場合を図示している)ことで放熱効果を一層高めることができる」と記載されている。 そして、引用発明における熱伝導体95の「窪み部19」は、「金属細線5に接触しないように」「半導体素子1の主面の中心の鉛直方向に位置するように設け」られているのであるから、引用発明において放熱効果を高めるため、引用文献1の段落【0122】の上記記載に基づき、「熱伝導体95の窪み部19の底面19bを半導体素子1の主面に」、「当接」の直前にまで「近接させ」、「金属細線5」の「鉛直方向」の最高点よりも低く配置するようにして、上記相違点2に係る構成とすることは、「当接」による利益、不利益を考慮して当業者が適宜になし得たことである。 (ウ)そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 (4)まとめ したがって、本件補正発明は、引用文献1に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび 以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和2年9月29日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし10に係る発明は、令和元年12月13日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由の「理由2」は、この出願の請求項1-5、7-10に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 <引用文献等一覧> 1.特開2008-135688号公報 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「封止体」についての限定事項を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2021-04-30 |
結審通知日 | 2021-05-11 |
審決日 | 2021-05-25 |
出願番号 | 特願2016-49340(P2016-49340) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 庄司 一隆 |
特許庁審判長 |
酒井 朋広 |
特許庁審判官 |
山本 章裕 清水 稔 |
発明の名称 | 電子装置およびその製造方法 |
代理人 | 下坂 直樹 |
代理人 | 机 昌彦 |