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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60R |
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管理番号 | 1376220 |
審判番号 | 不服2020-14901 |
総通号数 | 261 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-09-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-10-27 |
確定日 | 2021-07-12 |
事件の表示 | 特願2016- 17733「バッテリ装置、車両、オートマチック車両」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月10日出願公開、特開2017-136901〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年2月2日の出願であって、令和元年9月30日付けで拒絶理由通知がされ、同年11月27日に意見書が提出されるとともに、特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出され、令和2年4月3日付けで拒絶理由通知がされ、同年6月5日に意見書が提出されるとともに、特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたが、同年7月29日付で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して同年10月27日に拒絶査定に対する審判請求がされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし16に係る発明は、明細書、令和2年6月5日の手続補正書により補正された特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項15に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「【請求項15】 バッテリ装置を搭載したオートマチック車両であって、 前記バッテリ装置は、 エンジン始動装置を含む負荷に対して電力を供給する蓄電素子と、 前記蓄電素子から負荷への電流を遮断する電流遮断装置と、 制御部と、を備え、 前記制御部は、 前記車両の駐車状態を検出した場合、前記電流遮断装置を作動させて、前記蓄電素子から前記負荷への電流を遮断する電流遮断処理を実行し、 前記電流遮断処理の実行後、ユーザが運転開始前に車両に対して行う事前動作を検出した場合、前記電流遮断装置の作動を解除することにより電流の遮断を解除する、オートマチック車両。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、本願の請求項15に係る発明は、本願出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基いて、本願出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 1.特開2014-96975号公報 2.特開2001-352687号公報 3.特開2015-70681号公報 4.特開2015-115219号公報 5.実願平5-49908号(実開平7-13585号)のCD-ROM 第4 引用文献に記載された発明 1 引用文献1の記載事項 引用文献1には、次の事項(下線は当審で付与。以下同様。)が図面とともに記載されている。 (1)「【0021】 図1に示すように、本実施形態のバッテリ1は、例えばエンジン自動車やハイブリッド自動車等の車両に搭載され、エンジン2を始動させるためにスタータ3に電力を供給するスタータバッテリである。また、バッテリ1は、エンジン制御ユニット(以下、ECUという)4、更には、時計、ライト、オーディオシステムやセキュリティシステム等の車載機器5にも電力を供給する。一方、バッテリ1は、エンジン2が回転することによりオルタネータ6が発電した電力により充電される。なお、バッテリ1は蓄電装置の一例であり、ECU4や車載機器5は電気負荷の一例である。 【0022】 (バッテリの構成) バッテリ1は、組電池11、リレー12、及び、電池管理装置(Battery Management System 以下、BMSという)13、および、出力端子14を備える。組電池11は、蓄電素子の一例であり、複数のセルCが直列接続された構成であり、各セルCは、繰り返し充電可能な二次電池であり、具体的には、グラファイト系材料で形成された負極を有するリン酸鉄系リチウムイオン電池である。・・・ 【0023】 出力端子14には、スタータ3、ECU4、車載機器5およびオルタネータ6が電気的に接続されている。リレー12は、バッテリ1の内部に設けられ、組電池11と出力端子14との間に電気的に接続されている。リレー12は、後述する制御部22による開閉制御により、オープン(開)状態とクローズ(閉)状態とに切り替えられる。また、リレー12は、いわゆるラッチ型のリレーである。つまり、リレー12は、制御部22からの指示によりオープン状態またはクローズ状態になると、その後、電力供給が停止されても、そのオープン状態またはクローズ状態を保持することができる。リレー12がクローズ状態になると、バッテリ1は、スタータ3、ECU4および車載機器5に電力供給が可能になり、また、オルタネータ6によって充電可能になる。一方、リレー12がオープン状態になると、バッテリ1は、スタータ3等への電力供給が不能になり、また、オルタネータ6による充電が不能になる。 【0024】 BMS13は、電圧検出回路21、制御部22、起動スイッチ23、通信部24、および、4つの均等化回路(放電回路)25を有する。電圧検出回路21は、検出部の一例であり、各セルCの電圧を個別に検出し、その検出結果を制御部22に送信する。なお、電圧検出回路21は、組電池11全体の電圧を検出する構成でもよい。また、BMS13は、電圧検出回路21以外に、組電池11に流れる電流を検出する電流センサや、組電池11の温度を検出する温度センサ等の各種の検出部を備え、それらの検出結果に基づき、組電池11の内部抵抗や充電状態(State Of Charge 以下、単にSOCという)等、組電池11の各種の状態を監視する構成でもよい。 【0025】 制御部22は、中央処理装置(以下、CPU)22A、メモリ22Bを有する。制御部22および電圧検出回路21は、組電池11からの電力により起動する。制御部22は、省電力機能(電力切替機能の一例)を有し、この省電力機能を実行することにより、BMS13が組電池11からの電力を消費する状態を、通常モード、スリープモード、および、ディープスリープモードに切り替えることができる。 【0026】 通常モードは、第1電力消費状態の一例であり、主に車両の走行中におけるBMS13の電力消費状態である。・・・ 【0027】 スリープモードは、第1電力消費状態の一例であり、通常モードよりも消費電力が少ないモードであって、主にエンジン2が停止して車両駐車中におけるBMS13の電力消費状態である。このスリープモードでも、電圧検出回路21、制御部22および通信部24が、組電池11から電力供給され、BMS13は、組電池11の状態を監視可能である。但し、スリープモードでは、制御部22は、例えば、クロック周波数を低くするなどして、通常モードよりも遅い周期で各セルCの電圧を監視する。 【0028】 ディープスリープモードは、第2電力消費状態の一例であり、スリープモードよりも更に消費電力が少ないモードである。このとき、電圧検出回路21、制御部22および通信部24のいずれも、組電池11から電力供給されず、BMS13は、組電池11の状態を監視不能である。」 (2)「【0039】 (2)エンジン停止中の処理 S1で、制御部22は、エンジン2が停止中であると判断した場合(S1:YES)、BMS13の電力消費状態をスリープモードにする(S7)。具体的には、制御部22は、現在、既にスリープモードである場合にそのままスリープモードを維持し、他のモードである場合にスリープモードに切り替える。また、スリープモードでもリレー12は、基本的にはクローズ状態になっている。これにより、組電池11から車載機器5等への電力供給が維持される一方、組電池11は、充電されず、自己放電、BMS13の電力消費、および、車載機器5等の電力消費あるいは暗電流により、SOCが低下していく。」 (3)「【0041】 制御部22は、BMS13の電力消費状態をスリープモードにした後、電圧検出回路21からの検出結果に基づき、少なくとも1つのセルCのセル電圧値Vcが省電力用閾値Vth1(電力低減用閾値およびオープン用閾値の一例)以下であるかどうかを判断する(S8)。省電力用閾値Vth1は、エンジン始動下限閾値Vth3よりも大きい値であり、具体的には、エンジン始動下限閾値Vth3に所定値を加えた値である。このエンジン始動下限閾値Vth3は、エンジン2を始動可能なSOCの下限レベル(下限SOC)に対応するOCV値である。なお、所定値は、例えば1.0V未満、0.5V未満、或いは、0.1V未満の値である。」 (4)「【0044】 S8で、制御部22は、全セルCのセル電圧値Vcが省電力用閾値Vth1よりも高いと判断した場合(S8:NO)、全セルCのSOCは、まだ十分にエンジン2を始動可能なレベルであるとして、S1に戻る。一方、制御部22は、少なくとも1つのセルCのセル電圧値Vcが省電力用閾値Vth1以下であると判断した場合(S8:YES)、そのセルCのSOCは、エンジン2を始動不能な下限SOCに近づきつつあるとして、リレー12をオープン状態に切り替え、BMS13の電力消費状態をディープスリープモードに切り替える(S9)。これにより、制御部22および通信部24は、組電池11から電力供給されなくなる。」 (5)「【0050】 制御部22がディープスリープにより電力供給がされなくなった後、起動スイッチ23がオン操作されると、制御部22は、通電状態になり、組電池11からの電力供給が再開され、図2Bに示す起動処理を実行する。運転手がバッテリ1の起動スイッチ23をオン操作することは、まもなくエンジン2が始動される可能性が高いことを意味する。そこで、制御部22は、リレー12をクローズ状態に復帰させ、BMS13の電力消費状態をスリープモードに復帰させる(S11)。」 (6) 上記(1)ないし(5)の記載より認められること ア 上記(1)の【0021】及び【0023】の記載によれば、電気負荷には、ECU4や車載機器5だけでなく、スタータ3も含まれること、組電池11は電気負荷に対して電力供給をすること、を及び、リレー12は、オープン状態にすることで組電池11から電気負荷への電力供給の不能とすることが認められる。 イ 上記(1)の【0024】の記載によれば、制御部22は、BMS13の一部であり、上記(2)ないし(4)の記載も参酌すると、BMS13は、エンジン2が停止中であると判断した場合で、その後、組電池11の少なくとも1つのセルCのセル電圧値Vcが省電力用閾値Vth1以下であると判断した場合、リレー12をオープン状態にして、組電池11から電気負荷への電力供給が不能になることが認められ、上記(5)の記載も参酌すると、リレー12をオープン状態にした後、運転手が起動スイッチ23をオン操作した場合、BMS13は、リレーをクローズ状態することより電気負荷に電力供給が可能となることが認められる。 2 引用発明 上記(1)ないし(6)を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「バッテリ1を搭載した車両であって、 バッテリ1は、 スタータ3を含む電気負荷に対して電力供給をする組電池11と、 オープン状態にすることで組電池11から電気負荷への電力供給が不能になるリレー12と、 BMS13と、を備え、 BMS13は、 エンジン2が停止中であると判断した場合で、その後、組電池11の少なくとも1つのセルCのセル電圧値Vcが省電力用閾値Vth1以下であると判断した場合、リレー12をオープン状態にして、組電池11から電気負荷への電力供給が不能になり、 リレー12をオープン状態にした後、運転手が起動スイッチ23をオン操作した場合、リレーをクローズ状態することより電気負荷に電力供給が可能となる、車両。」 第5 対比・判断 1 対比 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「バッテリ1」、「スタータ3」、「電気負荷」、「電力供給をする」こと、「組電池11」、「電力供給が不能になる」こと、「リレー12」、「EMS13」、「運転手」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、本願発明における「バッテリ装置」、「エンジン始動装置」、「負荷」、「電力を供給する」こと、「蓄電素子」、「電流を遮断する」こと、「電流遮断装置」、「制御部」、「ユーザ」に、それぞれ相当する。 引用発明における「エンジン2が停止中であると判断した場合」は、本願発明における「車両の駐車状態を検出した場合」に相当し、引用発明における「リレー12をオープン状態にして、組電池11から電気負荷への電力供給が不能にな」ることは、本願発明における「前記電流遮断装置を作動させて、前記蓄電素子から前記負荷への電流を遮断する電流遮断処理を実行」することに相当する。 そして、引用発明における「リレー12をオープン状態にした後」は、本願発明における「電流遮断装置の実行後」に相当し、引用発明における「起動スイッチ23をオン操作した場合」は、「運転開始前に車両に対して行う事前動作を検出した場合」に相当し、引用発明における「リレー12をクローズ状態にすること」は、本願発明における「電流遮断装置の作動を解除すること」に相当し、引用発明における「電力供給が可能となる」ことは、本願発明における「電流の遮断を解除する」ことに相当する。 また、引用発明における「車両」は、本願発明における「オートマチック車両」と、「車両」という点で共通する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、 「複バッテリ装置を搭載した車両であって、 前記バッテリ装置は、 エンジン始動装置を含む負荷に対して電力を供給する蓄電素子と、 前記蓄電素子から負荷への電流を遮断する電流遮断装置と、 制御部と、を備え、 前記制御部は、 前記電流遮断装置を作動させて、前記蓄電素子から前記負荷への電流を遮断する電流遮断処理を実行し、 前記電流遮断処理の実行後、ユーザが運転開始前に車両に対して行う事前動作を検出した場合、前記電流遮断装置の作動を解除することにより電流の遮断を解除する、車両。」 という点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 車両について、本願発明はオートマチック車両であるのに対し、引用発明はオートマチック車両とは特定されていない点。 <相違点2> 電流遮断処理について、本願発明は「車両の駐車状態を検出した場合」に実行するのに対し、引用発明は「車両の駐車状態を検出した場合で、その後、組電池11の少なくとも1つのセルCのセル電圧値Vcが省電力用閾値Vth1以下であると判断した場合」に実行する点。 2 相違点についての判断 (1)相違点1について 引用文献1の【0021】(上記1(1))の記載によれば、引用発明における「車両」は、エンジン自動車やハイブリッド自動車が想定され、本願出願前において、特に日本では、エンジン自動車やハイブリッド自動車の大半がオートマチック車両であり、引用文献1にも、オートマチック車両にすることを阻害することは、何ら記載も示唆もないことを勘案すると、引用文献1に接した当業者であれば、引用発明において、車両をオートマチック車両とすることは、適宜なし得る設計的事項に過ぎない。 (2)相違点2について 上記1(2)ないし(4)の記載に示されるように、引用発明は、「エンジン2が停止中であると判断した場合」(車両の駐車状態を検出した場合)、スリープモードになり、その後、「組電池11の少なくとも1つのセルCのセル電圧値Vcが省電力用閾値Vth1以下であると判断した場合」、電流遮断処理を行うディープスリープモードになるものであるところ、ディープスリープモードの方がスリープモードより電力消費量が少ないことは明らかであるから、組電池11での電力消費量をより少なくするために、「車両の駐車状態を検出した場合」、スリープモードを経ずに直接ディープスリープモードになるようにすること、すなわち、「車両の駐車状態を検出した場合」、電流遮断処理を実行するようにすることは、引用文献1に接した当業者であれば、必要に応じて適宜選択し得る設計的事項である。 (3)効果について そして、本願発明の効果は、引用発明から予測し得る程度のものであり、格別なものとは認められない。 3 小括 以上によれば、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第6 むすび 上記第2ないし第5で述べたとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2021-05-06 |
結審通知日 | 2021-05-11 |
審決日 | 2021-05-27 |
出願番号 | 特願2016-17733(P2016-17733) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B60R)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 森本 康正 |
特許庁審判長 |
氏原 康宏 |
特許庁審判官 |
一ノ瀬 覚 八木 誠 |
発明の名称 | バッテリ装置、車両、オートマチック車両 |
代理人 | 特許業務法人暁合同特許事務所 |