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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C01B
管理番号 1376413
審判番号 不服2019-13204  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-03 
確定日 2021-07-28 
事件の表示 特願2016-556692「AEIゼオライトの合成」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月11日国際公開、WO2015/084834、平成28年12月 8日国内公表、特表2016-538237〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)12月 2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年12月 2日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする出願であって、平成30年 6月22日付けで拒絶の理由が通知され、同年12月27日に意見書及び手続補正書が提出され、令和 1年 5月28日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年10月 3日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、これに対し、当審において、令和 2年10月13日付けで拒絶理由が通知され、令和 3年 1月18日に意見書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1?4に係る発明は、令和 1年10月 3日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】
AEI骨格構造と、ゼオライトの空洞及びチャネル内に分散されたインサイチュの遷移金属とを有する合成ゼオライトを含む組成物であって、
AEI骨格とITE骨格を合わせたものが、ゼオライトの総重量に基づいて、ゼオライトの少なくとも70重量パーセントであるという条件で、ゼオライトがITE骨格をさらに含み、AEI骨格及びITE骨格が4:1から20:1の相対的な重量比で存在し、遷移金属が0.1から5重量パーセントの量で存在し、ゼオライトを構成するアルミノケイ酸塩が10から50のシリカのアルミナに対する比を有する、組成物。
【請求項2】
遷移金属が銅又は鉄である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ゼオライトが均一に分布したイオン性の銅を含有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
ゼオライトがゼオライトの総重量に基づいて5重量パーセント未満のCuOを含有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。」

なお、便宜上、当審決において、本願の請求項1?4に係る発明のうちいずれか一つまたは複数の発明を、単に「本願発明」ということがある。

3 当審が通知した拒絶理由の概要
令和 2年10月13日付けで当審が通知した拒絶理由は、概略、次のとおりのものである。

(拒絶理由)
発明の詳細な説明には、【0022】及び【0023】によれば、反応混合物の組成及び合成時の反応条件に関し、典型的又は好適な範囲が記載されているから、これらの記載に従えば、「JMZ-2ゼオライト」に該当する何らかのゼオライトが合成されるものと解される。
しかしながら、「JMZ-2ゼオライト」のうち、本願発明の「AEI骨格及びITE骨格が4:1から20:1の相対的な重量比で存在」するゼオライトを合成するためには、AEI骨格とITE骨格の質量比(当審注:「重量比」の誤記である。以下、同様。)を何らかの手段により制御することが必要であるところ、発明の詳細な説明には、本願発明の「AEI骨格及びITE骨格が4:1から20:1の相対的な重量比で存在」するゼオライトが合成できたことを示す具体例は記載されていないし、また、AEI骨格とITE骨格の質量比の制御方法も記載も示唆もされていないし、さらに、技術常識から上記のような特定の構造のゼオライトを製造することが当業者に期待できる程度の試行錯誤の範囲で可能であるとはいえない。
そのため、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、JMZ-2ゼオライトのうち、本願発明の「AEI骨格及びITE骨格が4:1から20:1の相対的な重量比で存在」するゼオライトを当業者が合成することができたとはいえないから、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施できるように記載されたものでない。
したがって、この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

4 当審の判断
(1)発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には、下記の記載がある。

ア 「【0007】
出願人らは、本明細書において「JMZ-2ゼオライト」又は「JMZ-2」と称される、遷移金属含有ゼオライトの特有のファミリを開発した。このゼオライト材料は、AEI骨格及び任意選択的にITE骨格を、混合相金属として及び/又は連晶として含有し、かつ、非骨格の遷移金属を含有する。」
イ 「【0008】
本発明の特定の態様によれば、JMZ-2は、第1のSDA及び異なる第2のSDAとしての役割を果たす、遷移金属-アミン複合体を取り込むことにより、ワンポット合成混合物を経由して調製することができる。本明細書用いられるSDAに関する用語「第1の」及び「第2の」は、2種類のSDAは異なる化合物であるが、これらの用語が作業又は合成反応混合物への添加の順番又は順序(sequent)を示唆又は提示しないことを明確にするために用いられる。2種類のSDAを組み合わせて単一反応混合物とすることは、ここでは、混合テンプレートと称され、また、結晶化の間のゼオライト内への遷移金属の取り込みはワンポット合成と称される。」
ウ 「【0009】
本発明のある特定の実施態様では、AEI骨格及び任意選択的にITE骨格を有する合成ゼオライトと、ゼオライトの空洞及びチャネル内に均一に分散されたインサイチュ遷移金属とを含む触媒組成物が提供される。」
エ 「【0010】
本発明の別の実施態様では、ゼオライトの総重量に基づいて約0.1から約7重量パーセントの非骨格の銅を含有し、ゼオライトの総重量に基づいて5重量パーセント(1)未満のCuOを含む、AEI骨格及び任意選択的にITE骨格を有する合成ゼオライトを含有する、触媒組成物が提供される。」
オ 「【0014】
一般に、JMZ-2ゼオライトは、シリカ源、アルミナ源、遷移金属-アミンの形態の第1の骨格有機テンプレート剤、及び第2の有機テンプレート剤を含有する、ワンポット合成混合物から調製される。遷移金属-アミンは、結晶化の間にゼオライトのチャネル及び/又は空洞内に銅などの遷移金属のイオン種を取り込むために用いられる。合成の間にゼオライト内に取り込まれる非骨格遷移金属は、本明細書ではインサイチュ金属と称される。ある特定の実施態様では、シリカ、アルミナ、テンプレート剤、及び種結晶が混合されて、例えばゲルなどの反応混合物を形成し、次に、結晶化を促進するために加熱される。金属含有ゼオライト結晶は反応混合物から沈殿する。これらの結晶は、回収、洗浄、及び乾燥される。」
カ 「【0016】ある場合には、ゼオライト材料は、ITE骨格と比較して過半数のAEI骨格を含む。例えば、JMZ-2ゼオライトは、AEI骨格を有するアルミノケイ酸塩とITE骨格を有するアルミノケイ酸塩とを、AEI:ITEの比が約1.05:1、約1.5:1、約2:1、約3:1、約4:1、約5:1、約10:1、約20:1、又は約100:1で含有しうる。」
キ 「【0018】
本明細書で用いられる用語「ゼオライト」は、アルミナ及びシリカで構成される骨格(すなわち、SiO_(4)とAlO_(4)の4面体単位の繰り返し)を有し、好ましくは、少なくとも10、例えば約20から約50のシリカのアルミナに対するモル比(SAR)を有する、合成アルミノケイ酸塩モレキュラーシーブを意味する。」
ク 「【0022】
第1のSDAとして、遷移金属-アミン複合体が利用される。適切な遷移金属としては、排ガス中のNO_(x)化合物のSCRの促進に使用することが知られているものが挙げられ、Cu及びFeが好ましく、Cuが特に好ましい。金属-アミン複合体に適したアミン成分としては、AEI骨格の形成を誘導可能な有機アミン及びポリアミンが挙げられる。好ましいアミン成分はテトラエチレンペンタミン(TEPA)である。金属-アミン複合体(すなわち、Cu-TEPA)は、前もって形成されうる、又は個別の金属成分及びアミン成分から合成混合物中インサイチュで形成されてもよい。」
ケ 「【0023】
上記の銅-アミン複合体以外に、第2の骨格テンプレート剤がAEI合成を誘導するために選択される。適切な第2のテンプレート剤の例としては、N,N-ジエチル-2,6-ジメチルピペリジニウムカチオン;N,N-ジメチル-9-アゾニアビシクロ3.3.1ノナン;N,N-ジメチル-2,6-ジメチルピペリジニウムカチオン;N-エチル-N-メチル-2,6-ジメチルピペリジニウムカチオン;N,N-ジエチル-2-エチルピペリジニウムカチオン;N,N-ジメチル-2-(2-ヒドロキシエチル)ピペリジニウムカチオン;N,N-ジメチル-2-エチルピペリジニウムカチオン;N,N-ジメチル-3,5-ジメチルピペリジニウムカチオン;N-エチル-N-メチル-2-エチルピペリジニウムカチオン;2,6-ジメチル-1-アゾニウム5.4デカンカチオン;N-エチル-N-プロピル-2,6-ジメチルピペリジニウムカチオン;2,2,4,6,6-ペンタメチル-2-アゾニアビシクロ3.2.1オクタンカチオン;及びN,N-ジエチル-2,5-ジメチル-2,5-ジヒドロピロリウムカチオンが挙げられ、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルピペリジニウム又は1,1-ジエチル-2,6-ジメチルピペリジニウムが特に好ましい。カチオンと関連するアニオンは、ゼオライトの形成に有害でない、いずれかのアニオンでありうる。代表的なアニオンとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素などのハロゲン、水酸化物、酢酸、硫酸、テトラフルオロホウ酸、カルボン酸などが挙げられる。水酸化物が最も好ましいアニオンである。ある特定の実施態様では、反応混合物及びその後のゼオライトは、フッ素を含まない又は本質的に含まない。」
コ 「【0024】
ワンポット合成は、当業者にとってすぐに明らかになるように、さまざまな混合及び加熱レジメンの下、所定の相対的な量のシリカ源、アルミニウム源、遷移金属-アミン複合体、第2の有機テンプレート剤、ならびに、任意選択的にNaOHなどの水酸化物イオン源、及びAEIゼオライトなどの種結晶を合わせることによって行われる。JMZ-2は、表1に示す(重量比として示す)組成を有する反応混合物から調製することができる。反応混合物は溶液、ゲル、又はペーストの形態でありうるが、ゲルが好ましい。ケイ素含有反応物及びアルミニウム含有反応物は、それぞれ、SiO_(2)及びAl_(2)O_(3)として表される。


サ 「【0025】
通常のAEI合成技法に適した反応温度、混合する時間及び速度、ならびに他のプロセスパラメータは概して、本発明にとっても、好ましい。限定はされないが、JMZ-2を合成するためには、次の合成工程を追従してもよい。アルミニウム源(例えば、脱アルミニウム化ゼオライトY)は、アルミナの溶解を促進するために、水中で水酸化ナトリウムと混合される。混合物は、有機テンプレート剤(例えば、1,1-ジエチル-2,6-ジメチルピペリジニウム)とを合わせて、数分間(例えば、約5から30分間)、攪拌又はかき混ぜることによって混合される。シリカ源(例えば、TEOS)が添加され、均質な混合物が形成されるまで、数分間(例えば、約30?120分間)、混合される。その後、銅源(例えば硫酸銅)及びTEPAが混合物に加えられ、数分間(例えば、約15?60分間)、攪拌又はかき混ぜることによって混合される。水熱結晶化は、通常は自生圧力下で、約100から200℃の温度で、数日間、例えば約1?20日間、好ましくは約1?3日間の期間行われる。」
シ 「【0030】
出願人らはまた、前述のワンポット合成法が、出発合成混合物の組成に基づいて、結晶の遷移金属含量を調節可能にすることを発見した。例えば、所望のCu又はFe含量は、材料への銅担持を増加または低下させるために合成後の含浸又は交換をする必要なしに、合成混合物に所定の相対的な量のCu又はFe源を提供することによって導かれうる。ある特定の実施態様では、合成されたゼオライトは、約0.1から約5重量パーセント、例えば、約0.5重量%から約5重量%、約1から約3重量%、約0.5から約1.5重量%、及び約3.5重量%から約5重量%の銅、鉄、又はこれらの組み合わせを含有する。例えば、0.5?5重量%、0.1?1.5重量%又は2.5?3.5重量%の制御されたCu担持は、例えば、追加的な合成後の処理なしに達成することができる。ある特定の実施態様では、ゼオライトは、銅及び鉄を含め、合成後の交換金属を含まない。」
ス 「【0038】
出願人らはさらに、前述のワンポット合成法により、出発合成混合物の組成に基づいて、触媒のSARの調整が可能であることを発見した。例えば10?50、20?40、30?40、10?15、及び25?35のSARは、出発合成混合物の組成に基づいて、及び/又は他のプロセス変数を調整することによって、選択的に達成することができる。ゼオライトのSARは、通常の解析手段によって決定されうる。この比は、ゼオライト結晶の硬い原子骨格における比にできるだけ近づけて表すこと、及び、結合剤中の、又は、チャネル内のカチオン又は他の形態をした、ケイ素又はアルミニウムを除外することが意図されている。結合剤材料と合わせた後に、ゼオライトのSARを直接的に測定することは極めて困難でありうることが認識されよう。したがって、SARは、このゼオライトを他の触媒成分と組み合わせる前に測定された、親ゼオライトすなわち、触媒を調製するために用いられるゼオライトのSARに関して、上記のように表される。」

(2)実施可能要件の判断
一般に「特許法(現行法)36条4項1号,6項1号所定の実施可能要件,サポート要件等の具備は,特許権の発生要件であるから,出願人が立証責任を負うというべきである」(平成20年(行ケ)第10483号判決参照。)とされているところであるから、この観点に立って判断する。

(2-1)請求項1に係る発明について
ア 請求項1に係る発明の組成物における「合成ゼオライト」は、「AEI骨格及びITE骨格が4:1から20:1の相対的な重量比で存在」するものであるから、AEI骨格及びITE骨格の存在を必須とし、かつ、AEI骨格とITE骨格の重量比が特定の範囲に限定されたものである。
イ この点を踏まえて、発明の詳細な説明に記載された請求項1に係る組成物の製造方法について検討するに、まず、上記(1)アから、請求項1に係る発明の組成物中の「合成ゼオライト」は、発明の詳細な説明において「JMZ-2ゼオライト」又は「JMZ-2」と称される、「AEI骨格及び任意選択的にITE骨格を、混合相金属として及び/又は連晶として含有し、かつ、非骨格の遷移金属を含有する」ものの一態様に該当するものである。
ウ そして、上記JMZ-2ゼオライトは、上記(1)イ、オ、ク?コによれば、「シリカ源、アルミナ源、遷移金属-アミンの形態の第1の骨格有機テンプレート剤、及び第2の有機テンプレート剤を含有する、ワンポット合成混合物から調製される」ものである。
エ 反応混合物の組成について、上記(1)コ及びサによれば、上記JMZ-2ゼオライトは、SiO_(2)/Al_(2)O_(3)が典型例では10-100、好適例では15-65、OH-SiO_(2)(段落【0024】の「表1に示す(重量比として示す)組成」との記載からみて、OH/SiO_(2)を意味すると解される。)が典型例では0.5-2、好適例では0.7-1.5、テンプレート1/テンプレート2が典型例では0.01-0.3、好適例では0.05-0.15、テンプレート1/SiO_(2)が典型例では0.05-0.5、好適例では0.10-0.25、遷移金属/テンプレート1が典型例では0.02-5、好適例では0.1-2、H_(2)O/SiO_(2)が典型例では20-80、好適例では30-45の範囲の組成の反応混合物からワンポット合成することができるというものである。
オ 上記反応混合物からの合成方法について、上記JMZ-2ゼオライトは、上記(1)サによれば、通常のAEI合成技法に適した反応温度、混合する時間及び速度、ならびに他のプロセスパラメータが好ましく用いられ、例えば、「アルミニウム源(例えば、脱アルミニウム化ゼオライトY)は、アルミナの溶解を促進するために、水中で水酸化ナトリウムと混合される。混合物は、有機テンプレート剤(例えば、1,1-ジエチル-2,6-ジメチルピペリジニウム)とを合わせて、数分間(例えば、約5から30分間)、攪拌又はかき混ぜることによって混合される。シリカ源(例えば、TEOS)が添加され、均質な混合物が形成されるまで、数分間(例えば、約30?120分間)、混合される。その後、銅源(例えば硫酸銅)及びTEPAが混合物に加えられ、数分間(例えば、約15?60分間)、攪拌又はかき混ぜることによって混合される。水熱結晶化は、通常は自生圧力下で、約100から200℃の温度で、数日間、例えば約1?20日間、好ましくは約1?3日間の期間行われる。」という方法が用いられる。
カ また、上記(1)シによれば、ワンポット合成法は、出発合成混合物の組成に基づいて、結晶の遷移金属含量を調節可能にするものであり、上記(1)スによれば、ワンポット合成法により、出発合成混合物の組成に基づいて、触媒のSARの調整が可能である。
キ ここで、上記エ及びオから、発明の詳細な説明には、反応混合物の組成及び合成時の反応条件に関し、典型的又は好適な範囲が記載されているから、これらの記載に従えば、上記JMZ-2ゼオライトに該当する何らかのゼオライトが合成されると解され、上記カから、前記JMZ-2ゼオライトが、請求項1に係る発明の「遷移金属が0.1から5重量パーセントの量で存在し、ゼオライトを構成するアルミノケイ酸塩が10から50のシリカのアルミナに対する比を有する」との発明特定事項を満たすように調節できるものと解される。
ク しかしながら、JMZ-2ゼオライトのうち、請求項1に係る発明の「AEI骨格及びITE骨格が4:1から20:1の相対的な重量比で存在」との発明特定事項を満たすゼオライトを合成するためには、AEI骨格とITE骨格の重量比を何らかの手段により制御することが必要である。
ケ この点、発明の詳細な説明には、AEI骨格とITE骨格の重量比をどのようにすれば調節することができるのか、直接記載された箇所はない。また、上記(1)ア及びカに摘示した記載によれば、発明の詳細な説明に記載されたゼオライト材料は、AEI骨格を含み、ITE骨格を含まないものから、AEI骨格とITE骨格の比を約1.05:1?約100:1となるように含有するものまで包含しているから、AEI骨格とITE骨格の比を請求項1に係る発明の「AEI骨格及びITE骨格が4:1から20:1の相対的な重量比」とすることは、発明の詳細な説明に記載されたゼオライト材料のうちの、あくまで一実施形態であるといえ、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたゼオライト材料そのものであるとはいえないため、上記(1)イ、オ、ク?スに摘示した製造方法に関する記載は、AEI骨格とITE骨格の重量比を4:1から20:1の範囲内に調節されたゼオライトを製造する手段として記載されたものであると解することはできない。その他、発明の詳細な説明には、AEI骨格とITE骨格の重量比をどのようにすれば調節することができるのかが示唆された箇所もない。
コ さらに、本願明細書及び図面、請求項1に係る発明の「AEI骨格及びITE骨格が4:1から20:1の相対的な重量比で存在」との発明特定事項を満たすゼオライトが実際に合成できたことを示す、XRD(X線回折)を含む実験データが示されておらず、当該ゼオライトが実際に合成されるか否かも不明である。
サ また、ゼオライトの技術分野において、一般に特定の構造のゼオライトを合成するためには、反応混合物の組成や、反応温度、反応時間等の反応条件として特定のものを選択する必要があり、その際、どのようなゼオライトが合成されるのかを、反応混合物の組成や反応条件から予測ないし調節することは困難であることが技術常識であるところ、AEI骨格及びITE骨格の重量比を反応混合物の組成や反応条件から予測ないし調節するための具体的手法は技術常識からも明らかでない。
シ そして、予測や調節のための具体的手法が明らかでない状況で、「AEI骨格及びITE骨格が4:1から20:1の相対的な重量比で存在」との発明特定事項を満たす特定の構造のゼオライトを合成することは、各原料の種類や比率、反応時の各条件の組み合わせは膨大な数に上る以上、当業者に期待できる程度の試行錯誤の範囲で可能であるとはいえない。
ス 上記ケ?シの事情を考慮すると、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、JMZ-2ゼオライトのうち、請求項1に係る発明の「AEI骨格及びITE骨格が4:1から20:1の相対的な重量比で存在」するゼオライトを当業者が合成することができたとはいえない。
セ よって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

(2-2)請求項2?4に係る発明について
請求項2?4に係る発明は、請求項1に係る発明の発明特定事項をすべて有する組成物の発明であるから、上記(2-1)と同様に、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項2?4に係る各発明に対しても実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

(3)請求人の主張について
ア 請求人は、上記拒絶理由に対し、令和 3年 1月18日提出の意見書において下記のとおり主張する。

「●拒絶理由に対する意見
理由1(実施可能要件):請求項1-4
本願請求項に係る組成物は、明細書段落[0007],[0009],[0010],[0016],[0018],[0030],[0038]に十分に開示されています。更に、本願は、本願請求項1に記載の組成物の製造に使用することができる合成方法を記載しています。そのような方法の1つは、明細書段落[0025]に記載されています。それゆえ、ゼオライトを合成するための合成方法に従うことができる当業者は、本願明細書に開示された方法に従うことによって、本願請求項に係る組成物を合成する方法を教えられます。従って、当業者は、本願請求項に係る発明を実施する少なくとも1つの方法を教示されているので、本願請求項に係る組成物は、本願全体の教示によって実施可能になります。
以上より、本願請求項に係る発明は、当該拒絶理由に該当しません。」(第1頁第29?40行)

イ 上記主張について、本願明細書の発明の詳細な説明のうち請求人の指摘する段落【0007】、【0009】、【0010】、【0016】、【0018】、【0030】、【0038】及び【0025】には、上記(1)ア、ウ、エ、カ、キ、シ、ス及びサに摘示したとおり記載されている。
そして、段落【0007】、【0009】、【0010】、【0016】及び【0018】には、ゼオライトの物としての特徴について記載されており、製造方法について記載されたものではない。また、段落【0030】、【0038】及び【0025】には、上記(2)(2-1)ケで検討したとおり、AEI骨格とITE骨格の重量比を4:1から20:1の範囲内に調節する手段は直接記載されていないし、当該手段を示唆する記載もない。
よって、請求人が主張する本願明細書の記載を参酌しても、「ゼオライトを合成するための合成方法に従うことができる当業者」が「本願明細書に開示された方法に従うことによって、本願請求項に係る組成物を合成する方法を教えられ」るとはいえず、請求人の主張は採用できない。
そうすると、令和 3年 1月18日提出の意見書において、請求人は、請求項1?4に係る発明に関し、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすことを立証するに足る主張を行っていないから、上記(1)で示した判断を覆すには至らない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願請求項1?4に係る発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

5 むすび
したがって、本願は、当審において令和 2年10月13日付けで通知した拒絶理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-02-16 
結審通知日 2021-02-24 
審決日 2021-03-09 
出願番号 特願2016-556692(P2016-556692)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西山 義之  
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 岡田 隆介
後藤 政博
発明の名称 AEIゼオライトの合成  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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