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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1376491
審判番号 不服2020-9714  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-10 
確定日 2021-07-27 
事件の表示 特願2017-530747「核酸増幅と組合せたイムノアッセイによる固体支持体上の被検体検出」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月23日国際公開、WO2016/099999、平成30年 3月 1日国内公表、特表2018-506020〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)12月8日(パリ条約による優先権主張 2014年12月18日 米国)を国際出願日とする出願であって、令和元年8月23日付けで拒絶理由が通知され、同年11月20日付けで意見書及び手続補正書が提出され、令和2年3月5日付けで拒絶査定されたところ、同年7月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 令和2年7月10日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年7月10日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び21の記載は、次のとおり補正された。(なお、本件補正前の請求項21は、本件補正により請求項20となった。また、下線部は、補正箇所である。)

ア 「 【請求項1】
試料由来の1種以上の被検体の検出方法であって、
a)固体支持体の表面に試料を堆積させる工程と、
b)固体支持体の少なくとも一部分を1種以上の被検体に対する特異的結合アッセイの実施に適した容器に移す工程と、
c)一部分を必要に応じて洗浄する工程と、
d)各被検体に対する単一の特異的結合パートナーであって、オリゴヌクレオチド配列で標識された結合パートナーを容器に添加する工程と、
e)一部分を核酸増幅試薬と混合する工程と、
f)オリゴヌクレオチド配列を増幅する工程と、
g)増幅された核酸を検出する工程と
を含み、
固体支持体表面が、カオトロープで含浸される、方法。」

イ 「 【請求項20】
固体支持体と、オリゴヌクレオチド配列で標識された各被検体に対する特異的結合パートナーと、オリゴヌクレオチド配列を増幅するための試薬と、ユーザー用取扱説明書とを含むキットであって、
固体支持体表面がカオトロープで含浸される、キット。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和元年11月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び21の記載は次のとおりである。

ア 「 【請求項1】
試料由来の1種以上の被検体の検出方法であって、
a)固体支持体の表面に試料を堆積させる工程と、
b)固体支持体の少なくとも一部分を1種以上の被検体に対する特異的結合アッセイの実施に適した容器に移す工程と、
c)一部分を必要に応じて洗浄する工程と、
d)各被検体に対する単一の特異的結合パートナーであって、オリゴヌクレオチド配列で標識された結合パートナーを容器に添加する工程と、
e)一部分を核酸増幅試薬と混合する工程と、
f)オリゴヌクレオチド配列を増幅する工程と、
g)増幅された核酸を検出する工程と
を含み、
固体支持体表面が、弱塩基、キレート剤、アニオン性界面活性剤、及び必要に応じて酸化防止剤等の化学物質で含浸される、方法。」

イ 「 【請求項21】
固体支持体と、オリゴヌクレオチド配列で標識された各被検体に対する特異的結合パートナーと、オリゴヌクレオチド配列を増幅するための試薬と、ユーザー用取扱説明書とを含むキット。」

2 補正の適否
(1)本件補正前の請求項1についての補正について
本件補正のうち、本件補正前の請求項1についての補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「固体支持体表面が、弱塩基、キレート剤、アニオン性界面活性剤、及び必要に応じて酸化防止剤等の化学物質で含浸される」旨の構成を「固体支持体表面がカオトロープで含浸される」旨の構成とするものであって、「カオトロープ」は、「弱塩基、キレート剤、アニオン性界面活性剤、及び必要に応じて酸化防止剤等の化学物質」を限定したものであるとはいえないから、該補正は、請求項の削除ではなく、特許請求の範囲の減縮でもなく、誤記の訂正であるともいえず、さらに、明りょうでない記載の釈明ともいえないから、特許法17条の2第5項各号のいずれを目的とするものでもない。

(2)本件補正前の請求項21についての補正について
本件補正のうち、本件補正前の請求項21についての補正は、「固体支持体表面がカオトロープで含浸される」旨の限定を付加するものであって、本件補正前の請求項21に記載された発明と本件補正後の請求項20に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項20に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)イに記載したとおりのものである。

イ 引用文献の記載事項
(ア)引用文献1
a 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2009-124990号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(引1a)「【0013】
(9)血液中の抗原の検出用キットであって、繊維と、オリゴヌクレオチド鎖と、各抗原に特異的に結合する抗体とを含有するオリゴヌクレオチド複合抗体を含み、前記オリゴヌクレオチド複合抗体は、前記オリゴヌクレオチド鎖を切り離すことができる切断部位を有する、キット。
【0014】
(10)繊維が濾紙であることを特徴とする(9)に記載のキット。」

(引1b)「【0039】
(1-1)オリゴヌクレオチドの合成
まず、1つ目の 131merのオリゴヌクレオチドは、5’プライマーとして、3’末端にビオチンが結2合したプライマー1(配列番号1)、3’プライマーとして、プライマー2(配列番号2)を使用し、鋳型1(配列番号3)を使用して、PCRにより合成した。2つ目の136merのオリゴヌクレオチドは、5’プライマーとして、3’末端にビオチンが結合したプライマー1(配列番号1)3’プライマーとして、プライマー2(配列番号2)を使用し、鋳型2(配列番号4)を使用して、同様に合成した。3つ目の161merのオリゴヌクレオチドは、5’プライマーとして、3’末端にビオチンが結合したプライマー1(配列番号1)3’プライマーとして、プライマー2(配列番号2)を使用し、鋳型3(配列番号5)を使用して、同様に合成した。各PCR後の増幅産物は、MinElute PCR Purification spin column(キアゲン社製)又はMiniprepカラム(Invitrogen社製)を用いて精製した。以下に、プライマーの配列及び反応条件を示す。
プライマー1:CTTACTGGCTTATCGAAA(配列番号1)
プライマー2:GGCAAGCCACGTTTGGTG(配列番号2)
鋳型1:CACTGCTTACTGGCTTATCGAAATGGAATTCTGCATGCATCTAGAGGGCCCTATTCTATAGCATAGTGTCACCTAAATGCTAGGCACCTTCTAGTTGCCAGCCATCTGTTGCACACCAAACGTGGCTTGCC(配列番号3)
鋳型2:CACTGCTTACTGGCTTATCGAAATGGAATTCTGCATGCATCTAGAGGGCCCTATTCTATAGCATAGTGTCACCTAAATGCTAGGCAATCAGCCTCGACTGTGCCTTCgcaGCAtgGCACACCAAACGTGGCTTGCC (配列番号4)
鋳型3:CACTGCTTACTGGCTTATCGAAATGGAATTCTGCATGCATCTAGAGGGCCCTATTCTATAGCATAGTGTCACCTAAATGCTAGGCAACCGACAATTGCATGAAGAAcTCGCACATTGACGTCAATAATGACGTATGTTCCCAcCACCAAACGTGGCTTGCC(配列番号5)
反応条件:
〈反応液組成〉
鋳型DNA(100μg/μL): 1μL
Taq polymerase: 2.5u
プライマー(各20μM): 2μL x2
dNTP(各2.5mM): 8μL
10×Buffer: 10μL
滅菌水: 77μL(合計 100μL)
〈条件〉
「95℃・1分間→55℃・1分間→72℃・30秒間」
を1サイクルとして30サイクル。」

(引1c)「【0045】
(3)検量線用検体の作製
α-Gal(FABRAZYME)、GCR(CEREZYME)、GAA(全てGenzyme社)の各タンパク質 を1% BSA含有PBSでそれぞれ1.2 μg/mL、3 μg/mL、60 μg/mLになるように混合し、そこから5倍希釈ずつ7段階希釈した。φ3 mmに切り取り、マウス血液をしみ込ませた濾紙に、各混合タンパク質溶液を、1 μL/paperで滴下した。1.5 mL マイクロチューブに入れ、蓋を開けた状態で60分間そのまま乾燥させた。チューブに0.05% Tween20含有5 mM Tris-HCl (pH 7.4)を 60 μL/tubeで添加し、60分間室温で静置してタンパク質を濾紙から溶出した。この溶出液を検量線用抗原として用いた。
【0046】
(4)サンプルの調製
健常者から採取した血液を濾紙に滴下し、完全に乾燥させた。血液が浸透した部分の濾紙をパンチングしてφ3 mmに切り取り、1.5 mL tubeに入れて、0.05% Tween20含有5 mM Tris-HCl (pH 7.4) 60μL/tubeを添加した。60分間、室温で静置して、抗原を濾紙から抽出した後、溶液をサンプルとして回収した。
次に、検量線用抗原と、sampleを(2)で準備したプレートに50 μL/wellで添加し、一晩4℃で静置した後、ウエルを3回洗浄した。」

(引1d)「【0048】
(6)オリゴヌクレオチドの検出
ウエルから洗浄用緩衝液を除去し、0.3 units/30μL /wellでEcoR Iを添加した。プレートシールを貼って、37℃で15分静置することにより、オリゴヌクレオチドを抗原抗体複合体より切り離し、オリゴヌクレオチドを含んだ溶液をReal-Time PCR用サンプルとして回収した。この溶液3μLに対し、以下のプライマー(Forward : TGCATCTAGAGGGCCCTATTCTATA:配列番号6)(Reverse : GGCAAGCCACGTTTGGTG:配列番号7)を用いてReal-Time PCR(条件は、95℃15分の後、95℃-60℃を35サイクル)を行い、DNA Intercarator法またはTaqMan法により蛍光強度(Ct)を測定した。検量線用検体に対する測定値を用いて検量線を作製し、被検者のサンプルについて抗原量を算出した。」

b 上記(引1a)より、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「血液中の抗原の検出用キットであって、濾紙である繊維と、オリゴヌクレオチド鎖と、各抗原に特異的に結合する抗体とを含有するオリゴヌクレオチド複合抗体を含み、前記オリゴヌクレオチド複合抗体は、前記オリゴヌクレオチド鎖を切り離すことができる切断部位を有する、キット。」

(イ)参考文献に記載された事項
本件補正により追加された事項についての技術を示す文献として、以下の参考文献を示す。
a 米国特許出願公開第2013/0338351号明細書(以下「参考文献1」いう。)に記載された事項

(参1a)「[0002] The invention relates to solid substrates and methods for ambient extraction and stabilization of nucleic acids from a biological sample in a dry format. Methods for collecting, extracting, preserving, and recovering nucleic acids from the dry solid substrates are also described.」(当審訳:「[0002]本発明は、固体基質、並びに乾燥フォーマットの生物学的試料からの核酸の周囲抽出及び安定化のための方法に関する。乾燥固体基質から、核酸を、収集、抽出、保存、回収するための方法についても記載されている。」)

(参1b)「[0029] The term "extraction" refers to any method for separating or isolating the nucleic acids from a sample, more particularly from a biological sample. Nucleic acids such as RNA and DNA may be released, for example, by cell-lysis. In one embodiment, nucleic acids may be released during evaporative cell-lysis. In another embodiment, the cells are lysed upon contact with the matrix comprising cell lysis reagents. Contacting a biological sample comprising cells to the matrix results in cell lysis which releases nucleic acids, for example by using FTA^(TM) Elute cellulose papers.
[0030] The solid matrix may be porous. In one embodiment, the solid matrix is a porous cellulose paper, such as a cellulose matrix from Whatman^(TM). In one example, the cellulose matrix from Whatman^(TM) comprises 903-cellulose, FTA^(TM) or FTA^(TM) Elute.
[0031] In one or more examples, the extraction matrix is impregnated with one or more reagents. As noted, in an example embodiment, the matrix comprises one or more protein denaturants impregnated in a dry state. In one embodiment, the matrix further comprises one or more acids or acid-titrated buffer reagents. In another embodiment, the matrix further comprises one or more reducing agents. In some embodiments, the impregnated reagents comprise lytic reagents, nucleic acid-stabilizing reagents, nucleic acid storage chemicals and combinations thereof.
[0032] In some embodiments, the dried reagents impregnated in the matrix are hydrated by adding a buffer, water or a sample. In one embodiment, the impregnated dried reagents are hydrated by a sample, more specifically a biological sample, which is disposed on the matrix for extraction or storage of nucleic acids. In some other embodiments, in addition of a sample, water or buffer is added to hydrate the matrix and reconstitute or activate the reagents embedded in the matrix. In some embodiments, the hydration of the matrix generates an acidic pH on the matrix. In some embodiments, the hydration further results in reconstituting the reagents, such as protein denaturant, acid or acid titrated buffer reagents that are present in a dried form in the matrix.
[0033] In one or more embodiments, the matrix comprises a protein denaturant. The protein denaturant may comprise a chaotropic agent or detergent. Without intending to be limited to a particular denaturant, protein denaturants may be categorized as either weak denaturants or strong denaturants depending on their biophysical properties and ability to completely inhibit biological enzyme activity (e.g. RNases). In some embodiments, weak protein denaturants (e.g. detergent) may be used for lysing cells and disrupting protein-protein interactions without denaturing nucleic acids. In further embodiments, use of strong protein denaturants (e.g. chaotropic salts) may also denature nucleic acid secondary structure in addition to denaturing cells and proteins. Numerous protein denaturants are known in the art and may be selected for use in the compositions and methods described herein. Without intending to be limited to a particular protein denaturant, exemplary protein denaturants include guanidinium thiocyanate, guanidinium hydrochloride, sodium thiocyanate, potassium thiocyanate, arginine, sodium dodecyl sulfate (SDS), urea or a combination thereof. Exemplary detergents may be categorized as ionic detergents, non-ionic detergents, or zwitterionic detergents. The ionic detergent may comprise anionic detergent such as, sodium dodecylsulphate (SDS) or cationic detergent, such as ethyl trimethyl ammonium bromide. Non-limiting examples of non-ionic detergent for cell lysis include TritonX-100, NP-40, Brij 35, Tween 20, Octyl glucoside, Octyl thioglucoside or digitonin. Some zwitterionic detergents may comprise 3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]-1-propanesulfonate (CHAPS) and 3-[3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]-2-hydroxy-1-propanesulfonate (CHAPS 0).」(当審訳:「[0029]用語「抽出」は、試料から、より詳細には生物学的試料から、核酸を分離する又は単離するための任意の方法を指す。RNA及びDNA等の核酸は、例えば細胞溶解によって放出され得る。一実施形態では、核酸は、蒸発細胞溶解中に放出され得る。別の実施形態では、細胞は、細胞溶解試薬を含むマトリックスとの接触時に溶解する。細胞を含む生物学的試料をマトリックスと接触させることで、例えばFTA(商標)溶出セルロース紙を使用することによって、核酸を放出する細胞溶解をもたらす。
[0030]固体マトリックスは多孔質であってよい。一実施形態では、固体マトリックスは、ワットマン(商標)製のセルロースマトリックス等の多孔質セルロース紙である。一例において、ワットマン(商標)製のセルロースマトリックスは、903-セルロース、FTA(商標)又はFTA(商標)溶出を含む。
[0031]1以上の例において、抽出マトリックスに、1以上の試薬を含浸させる。前述した通り、例の実施形態では、マトリックスは、乾燥状態で含浸した1種以上のタンパク質変性剤を含む。一実施形態では、マトリックスは、1種以上の酸又は酸滴定緩衝剤をさらに含む。別の実施形態では、マトリックスは、1以上の還元剤をさらに含む。いくつかの実施形態では、含浸試薬は、溶解試薬、核酸安定化試薬、核酸保存化学物質及びそれらの組合せを含む。
[0032]いくつかの実施形態では、マトリックスに含浸した乾燥試薬は、緩衝液、水又は試料を添加することによって水和される。一実施形態では、含浸乾燥試薬は、核酸の抽出又は保存のためにマトリックス上に配置された試料、より具体的には生物学的試料によって水和される。いくつかの他の実施形態では、試料に加えて、水又は緩衝液を添加してマトリックスを水和し、マトリックスに埋め込まれている試薬を再構成する又は活性化する。いくつかの実施形態では、マトリックスの水和は、マトリックスにおいて酸性pHを生じさせる。いくつかの実施形態では、水和はさらに、マトリックス中に乾燥形態で存在するタンパク質変性剤、酸又は酸滴定緩衝剤等の試薬を再構成するという結果をもたらす。
[0033]1以上の実施形態では、マトリックスはタンパク質変性剤を含む。タンパク質変性剤は、カオトロピック剤又は洗剤を含み得る。特定の変性剤に限定することは意図しないが、タンパク質変性剤は、それらの生物物理学的特性及び生物学的酵素活性(例えば、RNase)を完全に阻害する能力に応じて、弱い変性剤又は強い変性剤のいずれかとして分類され得る。いくつかの実施形態では、弱いタンパク質変性剤(例えば、洗剤)は、細胞を溶解し、核酸を変性させることなくタンパク質間相互作用を妨害するために使用され得る。さらなる実施形態では、強いタンパク質変性剤(例えば、カオトロピック塩)の使用は、細胞及びタンパク質を変性させるのに加えて核酸二次構造も変性させ得る。多数のタンパク質変性剤が当技術分野において公知であり、本明細書において記載されている組成物及び方法において使用するために選択され得る。特定のタンパク質変性剤に限定することは意図しないが、例示的なタンパク質変性剤は、チオシアン酸グアニジン、塩酸グアニジン、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、アルギニン、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、尿素又はそれらの組合せを包含する。例示的な洗剤は、イオン洗剤、非イオン洗剤又は両性イオン洗剤として分類され得る。イオン洗剤は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等のアニオン洗剤又はエチルトリメチルアンモニウムブロミド等のカチオン洗剤を含み得る。細胞溶解のための非イオン洗剤の非限定的な例は、トリトンX-100、NP-40、ブリッジ35、ツイン20、オクチルグルコシド、オクチルチオグルコシド又はジギトニンを包含する。いくつかの両性イオン洗剤は、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホネート(CHAPS)及び3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホネート(CHAPSO)を含み得る。」)

b 米国特許第5939259号明細書(以下「参考文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(参2a)「The present invention relates to devices and methods for the collection, storage, and purification of nucleic acids, such as DNA or RNA, from fluid samples for subsequent genetic characterization, primarily by conventional amplification methods.」(1欄5-9行、当審訳:「本発明は、その後の遺伝的特徴づけのための、流体サンプルから、DNAまたはRNAのような核酸の収集、保管、および精製するためのデバイスおよび方法に関し、主として、従来の増幅法である。」)

(参2b)「A poster disclosure at the annual American Association of Clinical Chemistry in 1995 by Dr. Michael A. Harvey et alia revealed that chaotropic salts can be used to prepare DNA from dried and untreated whole blood spots for PCR amplification. Hemoglobin present in dried untreated whole blood spots was known to cause an inhibition of PCR reactions. A cellulosic paper treated with a chaotropic salt was found to overcome the problem of hemoglobin inhibition in untreated whole blood spots.」(2欄36-44行、当審訳:「マイケルA.ハーベイ博士らによる1995年の年次米国臨床化学協会でのポスター開示は、カオトロピック塩を使用して、PCR増幅のために乾燥および未処理の全血スポットからDNAを調製できることを明らかにした。乾燥した未処理の全血スポットに存在するヘモグロビンは、PCR反応の阻害を引き起こすことが知られていた。カオトロピック塩で処理されたセルロース紙は、未処理の全血スポットにおけるヘモグロビン阻害の問題を克服することがわかった。」)

(参2c)「For example, the present invention can be used to detect pathogens such as bacteria or viruses that can be found in the circulatory system. More importantly, these nucleic acids can be released after collection or storage in a manner that enables them to be amplified by conventional techniques such as polymerase chain reaction. The release of amplifiable nucleic acids is substantially more than in the presence of the inhibitory composition alone. In particular, an absorbent material that does not bind nucleic acids irreversibly is impregnated with a chaotropic salt. A biological source sample is contacted with the impregnated absorbent material and dried. Any nucleic acids present in the biological source can be either eluted or re-solubilized off the absorbent material. The present device can collect nucleic acids not only from point sources such as humans or animals, but also can be used to collect widely disseminated sources such as fungal spores, viruses, or bacterial spores, or bodily fluids present at crime scenes.」(2欄62行-3欄14行、当審訳:「例えば、本発明は、循環系に見出され得る細菌またはウイルスなどの病原体を検出するために使用することができる。 さらに重要なことは、これらの核酸は、ポリメラーゼ連鎖反応などの従来の技術によって増幅されることによって可能となる方法により収集または保存された後に、検出される。増幅可能な核酸の検出は、阻害性組成物のみの存在下よりも実質的に多い。特に、核酸に不可逆的に結合しない吸収性材料には、カオトロピック塩が含浸されている。 生物学的試料は、含浸された吸収材料に吸着され、乾燥される。 生物学的試料における任意の核酸組成物は、吸収性材料から溶出または再可溶化することができる。本装置は、ヒトや動物などの特定の試料から核酸を収集できるだけでなく、真菌胞子、ウイルス、細菌胞子などや、または、犯罪現場に存在する体液のような広く普及している試料を収集するためにも使用できる。」)

(参2d)「Preferred embodiments of the present invention use cellulosics, in particular, flat sheet paper as an absorbent material. The shape or configuration of the absorbent material can vary. One can choose from flat sheets or spherical shapes. For example, FIG. 1 shows a flat sheet device (10) having a ready made perforation lines (12). One can simply contact the sheet with a biological source fluid or tissue and break off a piece of the absorbent material at the perforation. (Alternatively, FIG. 2 shows a ovoid dip device (20), shaped much like a match stick.) The device comprises three elements. The first is a handle means (22) that has a distal end (24) and a proximal end (26). The distal end is easily separable manually from the handle end. This can be achieved either by a perforation or a scribing (28) that weakens the connection to the handle. Absorbent material (30) that does not bind to nucleic acids is disposed about the distal end of the handle means. Finally, a chaotropic salt is impregnated about the absorbent material by dipping the absorbent material into a solution containing from 0.5M to 2.0M chaotropic salt, such as guanidine (iso)thiocyanate. The absorbent material is then dried. In use, one holds the proximal end (26) and contacts the distal absorbent head (24) with the biological source.」(4欄15-37行、当審訳:「本発明の好ましい実施形態は、セルロース系物質、特に、吸収性材料として平らなシート紙を使用する。吸収性材料の形状または構成は変化し得る。平らなシートまたは球形から選択で きます。例えば、図1は、図1は、既製の穿孔ライン(12)を有するフラットシートデバイス(10)を示している。シートを生体源の液体または組織と接触させるだけで、穿孔時に吸収性材料の一部を破壊することができる。(あるいは、図2は、マッチ棒のような形をした卵形の浸漬装置(20)を示している。)デバイスは3つの要素で構成されている。第1は、遠位端(24)および近位端(26)を有するハンドル手段(22)である。遠位端は、ハンドル端から手動で簡単に分離できる。これは、ハンドルへの接続を弱めるミ シン目またはスクライビング(28)のいずれかによって達成できる。核酸に結合しない吸収性材料(30)は、ハンドル手段の遠位端の周りに配置されている。最後に、カオトロピック塩は、グアニジン(イソ)チオシアネートなどの0.5Mから2.0Mのカオトロピック塩を含む溶液に吸収材料を浸漬することによって、吸収材料の周りに含浸される。」)

c 周知技術について
(a)参考文献1には、「核酸を、収集、抽出、保存、回収するための方法」において、「固体マトリックス」は、「多孔質セルロース紙であ」り、「抽出マトリックスに、1以上の試薬を含浸させ」、「マトリックスは、乾燥状態で含浸した1種以上のタンパク質変性剤を含」み、「タンパク質変性剤は、カオトロピック剤又は洗剤を含」み、「タンパク質変性剤は、それらの生物物理学的特性及び生物学的酵素活性を完全に阻害」し、「カオトロピック塩の使用は、細胞及びタンパク質を変性させるのに加えて核酸二次構造も変性させ得る」旨記載されている。
「核酸」は、オリゴヌクレオチド配列であるから、参考文献1の「抽出マトリックス」は、オリゴヌクレオチド配列を、収集、抽出、保存、回収するためのものであるといえる。そして、参考文献1に記載された「固体マトリックス」「抽出マトリックス」及び「マトリックス」は何れも同じものであって、本件補正発明の「固体支持体」に相当する。また、「抽出マトリックスに、1以上の試薬を含浸させ」た場合に、「抽出マトリックス」の表面が「1以上の試薬」で含浸されていることは明らかである。そして、上記記載の「カオトロピック剤」は、本件補正発明の「カオトロープ」に相当する。
そうすると、参考文献1には、オリゴヌクレオチド配列を、収集、抽出、保存、回収するため「固体支持体」の表面が「カオトロープ」で含浸されるものである旨記載されているといえる。

(b)参考文献2には、「DNAまたはRNAのような核酸の収集、保管、および精製するためのデバイスおよび方法に関し」、「カオトロピック塩を使用して、PCR増幅のために乾燥および未処理の全血スポットからDNAを調製できること」、「カオトロピック塩で処理されたセルロース紙は、未処理の全血スポットにおけるヘモグロビン阻害の問題を克服すること」から、「増幅可能な核酸の検出」において「吸収性材料には、カオトロピック塩が含浸され」、「生物学的試料は、含浸された吸収材料に吸着され、乾燥され」るものであり、「カオトロピック塩」は、「カオトロピック塩を含む溶液に吸収材料を浸漬することによって、吸収材料の周りに含浸され」るものである旨記載されており、参考文献2の「吸収性材料」及び「カオトロピック塩」は、それぞれ、本件補正発明の「固体支持体」及び「カオトロープ」に相当し、「DNA」、「RNA」及び「核酸」は、「オリゴヌクレオチド配列」である。そして、参考文献2の「カオトロピック塩」は、「カオトロピック塩を含む溶液に吸収材料を浸漬することによって、吸収材料の周りに含浸され」ることから、参考文献2の「吸収材料」の表面は「カオトロピック塩」で含浸されているといえる。
そうすると、参考文献2には、オリゴヌクレオチド配列を、収集、保管、および精製ための「固体支持体」の表面が「カオトロープ」で含浸されるものである旨記載されているといえる。

(c)上記(a)及び(b)より、参考文献1及び2には、いずれも、オリゴヌクレオチド配列を、収集、保存等するための「固体支持体」の表面が「カオトロープ」で含浸されるものである旨記載されていることから、「オリゴヌクレオチド配列を、収集、保存等するための固体支持体を、固体支持体表面がカオトロープで含浸されるものとする技術」は、周知技術であるといえる。

ウ 引用発明との対比
(ア)本件補正発明と引用発明とを対比する。
a 引用発明の「濾紙からなる繊維」は、(引1c)に「健常者から採取した血液を」「滴下し、完全に乾燥させ」ためのものである旨記載されていることから、本件補正発明の「固体支持体」に相当する。

b 引用発明の「オリゴヌクレオチド鎖と、各抗原に特異的に結合する抗体とを含有するオリゴヌクレオチド複合抗体」は、本件補正発明の「オリゴヌクレオチド配列で標識された各被検体に対する特異的結合パートナー」に相当する。

(イ) 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)「固体支持体と、オリゴヌクレオチド配列で標識された各被検体に対する特異的結合パートナーとを含むキット。」

(相違点1)キットが、本件補正発明は、「オリゴヌクレオチド配列を増幅するための試薬と、ユーザー用取扱説明書とを含む」のに対し、引用発明は、そのような特定はない点。

(相違点2)固体支持体が、本件補正発明は、「固体支持体表面がカオトロープで含浸される」ものであるのに対し、引用発明はそのような特定はない点。

エ 判断
以下、相違点について検討する。

(ア)相違点1について
上記(引1b)及び(引1d)の記載より、引用発明の「血液中の抗原の検出用キット」は、PCRによりオリゴヌクレオチド配列を増幅するものであって、その際には、通常、プライマー等を含む試薬を使用するものである。そして、キットにその後の処理で使用する試薬をあらかじめ含ましておくことは常套手段にすぎない。
また、キットにユーザー用取扱説明書を含ませることも、通常行われていることである。
そうすると、引用発明の「血液中の抗原の検出用キット」に、PCRによりオリゴヌクレオチド配列を増幅する際の試薬及びユーザー用取扱説明書を含ませることは、当業者が容易に想到できることであるといえるから、上記相違点1に係る構成は、引用発明より、当業者が容易に想到できたことであるといえる。

(イ)相違点2について
上記2(2)イ(イ)cで検討したとおり、「オリゴヌクレオチド配列を、収集、保存等するための固体支持体を、固体支持体表面がカオトロープで含浸されるものとする技術」は、周知技術である。そして、引用発明の「濾紙からなる繊維」もオリゴヌクレオチド配列を検出するためのものであって、オリゴヌクレオチド配列を検出するためには、引用発明の「濾紙からなる繊維」にオリゴヌクレオチド配列を、収集、保存等しなければならないから、引用発明の「濾紙からなる繊維」は、「オリゴヌクレオチド配列を、収集、保存等するための固体支持体」であるといえる。
そうすると、「オリゴヌクレオチド配列を、収集、保存等するための固体支持体」である引用発明の「濾紙からなる繊維」の表面がカオトロープで含浸されるものとした方が好ましいといえるから、引用発明の「濾紙からなる繊維」の表面がカオトロープで含浸されるものとすることは、当業者が容易に想到できことであるといえる。

(ウ)効果について
本件補正発明の奏する作用効果は、引用文献1に記載された技術及び参考文献1及び2に記載された周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正のうち、本件補正前の請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件に違反するものであり、また、本件補正のうち、本件補正前の請求項21についての補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年7月10日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?23に係る発明は、令和元年11月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?23に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項21に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項21に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)イに記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本件補正前の請求項21?23に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2及び3に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものであるといえる。

引用文献1:特開2009-124990号公報
引用文献2:本間かおり ほか,乾燥濾紙血液による妊婦抗HIV抗体スクリーニングの検討,札幌市衛研年報,1999年,26,35-38(周知技術を示す文献)
引用文献3:特表平7-501149号公報(周知技術を示す文献)

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)イ(ア)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2(2)で検討した本件補正発明から、「固体支持体表面がカオトロープで含浸される」ものである旨の限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明と引用発明とを対比すると、前記第2の[理由]2(2)ウで検討した相違点の内、相違点1のみで相違する。そして、前記第2の[理由]2(2)エ(ア)に記載したとおり、相違点1に係る構成は、引用発明より当業者が容易に想到できたことであるといえるから、本願発明も、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2021-02-17 
結審通知日 2021-02-22 
審決日 2021-03-10 
出願番号 特願2017-530747(P2017-530747)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 57- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤坂 祐樹亀田 宏之  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 福島 浩司
伊藤 幸仙
発明の名称 核酸増幅と組合せたイムノアッセイによる固体支持体上の被検体検出  
代理人 飯田 雅人  
代理人 崔 允辰  
代理人 田中 研二  

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