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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60R |
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管理番号 | 1376574 |
審判番号 | 不服2020-16835 |
総通号数 | 261 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-09-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-12-07 |
確定日 | 2021-08-17 |
事件の表示 | 特願2015-254281号「車両の乗員保護構造」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月29日出願公開,特開2017-114415号,請求項の数(1)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は,平成27年12月25日の出願であって,令和1年8月20日付けで拒絶理由が通知され,同年10月25日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ,令和2年3月19日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年5月13日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが,同年5月13日の手続補正を却下する補正の却下の決定が同年8月31日付けでされるとともに拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ,これに対し,同年12月7日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。 第2.原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 ・請求項 1 ・引用文献等 1及び2 <引用文献等一覧> 1.特開2009-12514号公報 2.特開2015-160578号公報 第3.本願発明 本願請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,令和2年12月7日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりの発明である。 「乗員の膝部からの荷重の入力によって変形し,前記膝部への衝撃を吸収する車両用ニーボルスター,及び,物を載置できる載置部を有する車両の乗員保護構造であって, 前記車両用ニーボルスターは, 一端が車体部材に支持され,前記一端から車両後方,かつ,下方に向かって延出する基部, 前記基部から連続し,車両後方,かつ,上方に向かって屈曲するように延出する屈曲部であって,衝撃受領時における変形箇所をなす屈曲部, 前記屈曲部から連続し,車両後方,かつ,上方に向かって延出する衝撃受領部, を有し, 前記載置部は, 車両前方から,車両後方,かつ,上方に向かって屈曲するように延出する屈曲面, 前記屈曲面から連続し,車両後方,かつ,上方に向かって延出する載置平面であって,少なくとも一部が,前記車両用ニーボルスターの前記衝撃受領部の上方に位置するとともに,衝撃受領時における前記車両用ニーボルスターの変形範囲内に配置される載置平面, を有し, 前記車両用ニーボルスターの前記屈曲部は,前記載置部の前記屈曲面よりも車両前方に位置している, 車両の乗員保護構造。」 第4.引用文献,引用発明等 (1)引用文献1 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下同様。)。 ・「【技術分野】 【0001】 本発明は,2次衝突によりインストルメントパネルを備えた車両の乗員に加わる衝撃を緩和する乗員保護装置に関する。」 ・「【0012】 まず,構成を説明する。図1は実施例1の乗員保護装置の斜視図である。実施例1の乗員保護装置は,図1に示すように,ダッシュサイドパネルdに横架して固定され,インストルメントパネル(不図示)を支持するステアリングメンバ1と,インストルメントパネルに配置されると共にステアリングメンバ1に固定されるグローブボックス2(インパネ設置器材)と,ステアリングメンバ1に固定され,グローブボックス2の上面に当接される衝撃吸収プレート3とを有している。」 ・「【0023】 ここで,作用説明に入る前に背景技術並びに本発明に至る経緯について説明する。図5は別形態の乗員保護装置の斜視図であり,図6は別形態の乗員保護装置の図5におけるB?B´断面図であり,図7は別形態の乗員保護装置の組立斜視図である。また,図8は別形態の乗員保護装置の作用説明図である。 【0024】 図5及び6に示すように,乗員保護装置Aのニープロテクタ3Aは,2本の衝撃吸収アーム32Aと,その間に架け渡され,衝撃吸収アーム32Aにの端部には,グローブボックス2に加わる荷重を2本の衝撃吸収アーム32Aに分散化して伝達する荷重伝達アーム35Aを有し,前記衝撃吸収アーム32Aには脆弱部w(図6参照)が形成されている。この構成によれば,グローブボックス2Aに対する荷重が中央よりも偏った位置から入力されても,2本の衝撃吸収アーム32Aに荷重が分散されやすく,また,この荷重を脆弱部wに集中させて,図8に示すような衝撃吸収アーム32Aの塑性変形(衝撃吸収アーム32Aの位置から衝撃吸収アーム32A´の位置への変位)させることにより衝撃が吸収され易いものとなる。 【0025】 しかし,グローブボックス2Aの中央よりも偏った位置から荷重が入力されれば,荷重伝達アーム35Aによる荷重の分散化によっても片側の衝撃吸収アーム32Aに塑性変形が偏在する。このため,所期の衝撃吸収性能が得られず,また,衝撃吸収アーム32Aが2次衝突の早い段階から脆弱部w付近で破断して衝撃吸収機能が喪失する問題もある。 【0026】 また,このニープロテクタ3Aは,グローブボックス2Aのボックス21Aの幅よりも大きく寸法設定されているため,グローブボックス2Aの設計寸法のバラツキ等が吸収される。しかし,ニープロテクタ3Aに占有される取り付けスペースが必要となり,インストルメントパネルのレイアウト設定に制限が加えられるという問題が生じる。」 ・「【符号の説明】 【0048】 1 ステアリングメンバ, 11 メンバブラケット, 2 グローブボックス(インパネ設置器材), 3 衝撃吸収プレート, b ビード(強度調節構造)」 ・図5?図8には,以下の内容が示されている。 図6及び図8から,ニープロテクタ3Aの衝撃吸収アーム32Aは,一端がステアリングメンバ1に支持され,前記一端から車両後方,かつ,下方に向かって延出する基部,基部から連続し,車両後方に向かって屈曲するように延出する屈曲部,前記屈曲部から連続し,車両後方,かつ,上方に向かって延出する衝撃受領部,有することが看て取れる。 これらの記載事項及び図示内容からみて,引用文献1には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「2次衝突によりインストルメントパネルを備えた車両の乗員に加わる衝撃を緩和する乗員保護装置Aであって, 乗員保護装置Aのニープロテクタ3Aは,2本の衝撃吸収アーム32Aを有し,前記衝撃吸収アーム32Aには脆弱部wが形成され,荷重を脆弱部wに集中させて,衝撃吸収アーム32Aの位置から衝撃吸収アーム32A´の位置へ変位させることにより衝撃が吸収され易いものとなり, ニープロテクタ3Aの衝撃吸収アーム32Aは,一端がステアリングメンバ1に支持され,前記一端から車両後方,かつ,下方に向かって延出する基部,基部から連続し,車両後方に向かって屈曲するように延出する屈曲部,前記屈曲部から連続し,車両後方,かつ,上方に向かって延出する衝撃受領部,を有する, 車両の乗員に加わる衝撃を緩和する乗員保護装置A。」 (2)引用文献2 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。 ・「【技術分野】 【0001】 本発明は,車両衝突時に乗員の脚部がインストルメントパネル(以下,インパネと略記する)に2次衝突した際の衝撃力を吸収するようにした車両の衝突エネルギー吸収構造に関する。」 ・「【0006】 本発明は,前記従来の状況に鑑みてなされたもので,インパネの手押し剛性感及びコスト,重量等の悪化の問題を招くことなく,衝突時の乗員への影響を効果的に抑制できる車両の衝突エネルギー吸収構造を提供することを課題としている。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明は,乗員の脚部前方に配設されたインパネ内に,その一端側が前記インパネの内壁面に,他端側が該インパネの車両前方に配置された車体部材に結合されたエネルギー吸収部材を配設してなり,車両衝突時に乗員の脚部が前記インパネに2次衝突したときの衝撃力を前記エネルギー吸収部材が座屈変形することにより吸収するようにした車両の衝突エネルギー吸収構造において, 前記エネルギー吸収部材の一端側上方の前記インパネに,車室内に開口し,かつ車両前方に凹む凹部を設け,該凹部は,車両衝突時に座屈変形した前記エネルギー吸収部材及び該エネルギー吸収部材に結合された前記インパネの一部が入り込むことが可能な大きさに設定されていることを特徴としている。 【発明の効果】 【0008】 本発明に係る衝突エネルギー吸収構造によれば,エネルギー吸収部材の一端側上方に位置するインパネに,車両衝突時にエネルギー吸収部材及び該エネルギー吸収部材に結合されたインパネの一部が入り込むことが可能な大きさの凹部を形成したので,車両衝突時に乗員の脚部がインパネに2次衝突すると,エネルギー吸収部材が凹部内に入り込むことで容易に座屈変形し,該エネルギー吸収部材の座屈変形によりインパネの結合部分が凹部内に引きずり込まれ,後方への跳ね返りが防止される。 【0009】 これにより乗員の脚部への衝撃力を吸収しつつ,衝突後期に乗員の頭部が前下方に回動した場合のインパネへの衝突を回避することができ,頭部への影響を抑制することができる。その結果,インパネの上部に脆弱部を設ける必要がなく,通常使用時の手押し剛性感を高めることができるとともに,エアバックを設けた場合のコスト,重量及び生産性が悪化を回避できる。 【0010】 また本発明では,乗員の前方のインパネに凹部を設ける構造であるので,通常時には凹部を小物入れとして利用することができ,使い勝手を高めることができる。」 ・「【0014】 図において,1はシート(不図示)に着座した乗員の脚部前方に配設されたインパネを示しており,該インパネ1は,樹脂製であり,乗員側に出っ張るよう膨出形成されている。 【0015】 前記インパネ1内の車両前方には,車幅方向に延びるパイプ材からなるクロスメンバ(車体部材)2が配設されており,該クロスメンバ2の両端部は左,右のフロントピラー(不図示)に結合されている。 【0016】 前記インパネ1の運転席側にはメーター装着孔1a,ステアリングシャフト挿通凹部1b等が形成され,車幅方向中央部にはエアコン吹き出し口1c,エアコン操作パネル装着孔1d,収納ボックス取付け孔1e等が形成されている。また前記インパネ1の助手席側上部にはエアバック取付け孔1fが,下部にはグローブボックス4を取り付けるためのボックス取付け孔1gが形成されている。 【0017】 前記インパネ1内の助手席側部分には,左,右一対のエネルギー吸収部材3,3が配設されている。この左,右のエネルギー吸収部材3は,板金製のものであり,助手席に着座した乗員の左,右の脚部に対応した部位に配置されている。 【0018】 前記エネルギー吸収部材3は,前後方向に延びる底板部3aと,該底板部3aの左,右側縁に続いて上方に突出するよう屈曲形成された左,右側板部3b,3bと,該左,右側板部3b及び底板部3aの後端同士を接続する後板部3cを有する。 【0019】 前記底板部3aの前後方向中途部には,大略く字形状をなす座屈変形誘発部3a′が形成されている。これによりエネルギー吸収部材3は,衝撃力により座屈変形誘発部3a′を起点に大略V字形状に座屈変形するように構成されている。 【0020】 また前記底板部3aには,所定の大きさを有する開口3eが形成されている。この開口3eの大きさを適宜設定することにより,エネルギー吸収部材3の座屈変形量をコントロールすることが可能となっている。なお,前記開口3eは必ずしも設ける必要はなく,想定される衝撃荷重に応じて設定することとなる。 【0021】 前記エネルギー吸収部材3の後板部(一端側)3cは,前記インパネ1のボックス取付け孔1gの上辺部1h内面に車両後方から装着されたボルト5により締結結合されている。また前記底板部3a及び左,右側板部3bの前端面(他端側)3dは,前記クロスメンバ2に溶接等により結合されている。 【0022】 前記インパネ1の左,右のエネルギー吸収部材3の後板部3c上方には,車室R内に開口し,かつ車両前方に凹む概ね有底角筒状の凹部1iが形成されている。 【0023】 この凹部1iは,箱ティッシュ7等の小物が収納可能な大きさを有し,凹部開口1i′の下縁に続いて前斜め下方に延びる下壁部1jと,該下壁部1jに続いて上方に屈曲して延びる底壁部1kと,前記凹部開口1i′の上縁に続いて前斜め下方に延びる上壁部1mと,上,下壁部1m,1j及び底壁部1kの左,右開口を閉塞する左,右側壁部1n,1nとを有する。 【0024】 また前記凹部1iには,底壁部1kの上半部から上壁部1mの前半部に渡る大きさの作業用開口1pが形成されており,該開口1pからインパネ1内のハーネス等の配索作業が行なえるようになっている。この作業用開口1pには蓋板8が着脱可能に装着されている。従って,前記凹部1iの前記開口1p部分は蓋板8で構成されている。 【0025】 前記凹部1iの下壁部1jと底壁部1kとのコーナー部1qは,前記エネルギー吸収部材3の開口3eに対応した位置に配置されている。これによりエネルギー吸収部材3の座屈変形に伴って前記凹部1iの下壁部1iも屈曲変形するためエネルギー吸収部材3がより一層座屈変形し易くなっている。 【0026】 また,前記エネルギー吸収部材3と前記インパネ1の上辺部1hとの結合部から前記凹部1iの凹部開口1i′に渡る部分はカバー9により覆われている。 【0027】 車両の前面衝突によって乗員の脚部Fがインパネ1に2次衝突すると,エネルギー吸収部材3が座屈変形誘発部3a′を起点に起き上がるように座屈変形し,これに伴ってボルト5により固定されたインパネ1の上辺部1hが凹部1i内に引き込まれるとともに,下壁部1jがコーナー部1qを起点に前方に屈曲変形する。 【0028】 このように本実施例によれば,インパネ1のエネルギー吸収部材3の後板部3c上方に,車両衝突時にエネルギー吸収部材3及び該エネルギー吸収部材3にボルト締め結合されたインパネ1の上辺部1hが入り込む大きさの凹部1iを形成したので,車両衝突時に乗員の脚部Fがインパネ1に2次衝突すると,エネルギー吸収部材3とともにインパネ1の上辺部1h及び下壁部1jが凹部1i内に入り込むように変形する。この時,エネルギー吸収部材3が大きく塑性変形することによってインパネ1の上辺部1h及び下壁部1jの後方への跳ね返りが防止される。 【0029】 これにより乗員の脚部Fへの衝撃力を吸収しつつ,衝突後期に乗員の頭部F1が前下方に回動した場合のインパネ1への衝突を回避することができ,頭部への影響を抑制することができる。その結果,インパネ1の通常使用時の手押し剛性感を高めることができるとともに,コスト,重量及び生産性の悪化を回避できる。 【0030】 本実施例では,前記凹部1iに作業用開口1pを形成したので,該開口1pにより上辺部1h及び下壁部1jの変形が促進されることとなり,エネルギー吸収効果を高めることができる。 【0031】 また本実施例では,エネルギー吸収部材3の底板部3aに開口3eを形成し,該開口3eに凹部1iのコーナー部1qを位置させたので,エネルギー吸収部材3が座屈変形し易くなっており,これによりエネルギー吸収効果をより一層高めることができる。 【0032】 本実施例では,前記インパネ1に凹部1iを形成したので,通常時には凹部1iを小物入れとして利用することができ,使い勝手を高めることができる。」 ・図1,図2には,以下の内容が示されている。 【図1】 ・図2から,凹部1iの下壁部1jの少なくとも一部が,エネルギー吸収部材3の座屈変形誘発部3a′よりも後板部3c側の底板部3a及び後板部3cの上方に位置することが看て取れる。 ・図2から,エネルギー吸収部材3の大略く字形状をなす座屈変形誘発部3a′は,凹部1iのコーナー部1qよりも車両後方に位置していることが看て取れる。 これらの記載事項からみて,引用文献2には,以下の事項(以下「引用文献2に記載された事項」という。)が記載されているといえる。 「車両衝突時に乗員の脚部がインストルメントパネル(以下,インパネと略記する)に2次衝突した際の衝撃力を吸収するようにした車両の衝突エネルギー吸収構造であって, インパネ1内の車両前方には,車幅方向に延びるパイプ材からなるクロスメンバ2が配設され,インパネ1の助手席側下部にはグローブボックス4を取り付けるためのボックス取付け孔1gが形成され, 前記インパネ1内の助手席側部分には,左,右一対のエネルギー吸収部材3,3が配設され,この左,右のエネルギー吸収部材3は,助手席に着座した乗員の左,右の脚部に対応した部位に配置され, 前記エネルギー吸収部材3は,前後方向に延びる底板部3aと,該底板部3aの左,右側縁に続いて上方に突出するよう屈曲形成された左,右側板部3b,3bと,該左,右側板部3b及び底板部3aの後端同士を接続する後板部3cを有し, 前記底板部3aの前後方向中途部には,大略く字形状をなす座屈変形誘発部3a′が形成され,これによりエネルギー吸収部材3は,衝撃力により座屈変形誘発部3a′を起点に大略V字形状に座屈変形するように構成され,前記底板部3aには,所定の大きさを有する開口3eが形成され,この開口3eの大きさを適宜設定することにより,エネルギー吸収部材3の座屈変形量をコントロールすることが可能となり, 前記エネルギー吸収部材3の後板部(一端側)3cは,前記インパネ1のボックス取付け孔1gの上辺部1h内面に車両後方から装着されたボルト5により締結結合され,前記底板部3a及び左,右側板部3bの前端面(他端側)3dは,前記クロスメンバ2に溶接等により結合され, 前記インパネ1の左,右のエネルギー吸収部材3の後板部3c上方には,車室R内に開口し,かつ車両前方に凹む概ね有底角筒状の凹部1iが形成され,この凹部1iは,箱ティッシュ7等の小物が収納可能な大きさを有し,凹部開口1i′の下縁に続いて前斜め下方に延びる下壁部1jと,該下壁部1jに続いて上方に屈曲して延びる底壁部1kと,を有し, 前記凹部1iの下壁部1jの少なくとも一部が,エネルギー吸収部材3の座屈変形誘発部3a′よりも後板部3c側の底板部3a及び後板部3cの上方に位置し, 前記凹部1iの下壁部1jと底壁部1kとのコーナー部1qは,前記エネルギー吸収部材3の開口3eに対応した位置に配置され,これによりエネルギー吸収部材3の座屈変形に伴って前記凹部1iの下壁部1iも屈曲変形するためエネルギー吸収部材3がより一層座屈変形し易くなっており, 車両の前面衝突によって乗員の脚部Fがインパネ1に2次衝突すると,エネルギー吸収部材3が座屈変形誘発部3a′を起点に起き上がるように座屈変形し,これに伴ってボルト5により固定されたインパネ1の上辺部1hが凹部1i内に引き込まれるとともに,下壁部1jがコーナー部1qを起点に前方に屈曲変形し,エネルギー吸収部材3とともにインパネ1の上辺部1h及び下壁部1jが凹部1i内に入り込むように変形し, 前記エネルギー吸収部材3の大略く字形状をなす前記座屈変形誘発部3a′は,前記凹部1iのコーナー部1qよりも車両後方に位置している, 車両の衝突エネルギー吸収構造。」 第5 対比・判断 (1)対比 ア.本願発明と引用発明とを対比すると,後者の「乗員保護装置A」は前者の「乗員保護構造」に相当し,以下同様に,「ニープロテクタ3Aの衝撃吸収アーム32A」は「乗員の膝部からの荷重の入力によって変形し,前記膝部への衝撃を吸収する車両用ニーボルスター」又は「車両用ニーボルスター」に,「ステアリングメンバ1」は「車体部材」に,それぞれ相当する。 イ.後者の「ニープロテクタ3Aの衝撃吸収アーム32Aは,一端がステアリングメンバ1に支持され,前記一端から車両後方,かつ,下方に向かって延出する基部,基部から連続し,車両後方に向かって屈曲するように延出する屈曲部,前記屈曲部から連続し,車両後方,かつ,上方に向かって延出する衝撃受領部,を有する」ことと,前者の「前記車両用ニーボルスターは,一端が車体部材に支持され,前記一端から車両後方,かつ,下方に向かって延出する基部,前記基部から連続し,車両後方,かつ,上方に向かって屈曲するように延出する屈曲部であって,衝撃受領時における変形箇所をなす屈曲部,前記屈曲部から連続し,車両後方,かつ,上方に向かって延出する衝撃受領部,を有」することとは,「前記車両用ニーボルスターは,一端が車体部材に支持され,前記一端から車両後方,かつ,下方に向かって延出する基部,前記基部から連続し,車両後方に向かって屈曲するように延出する屈曲部,前記屈曲部から連続し,車両後方,かつ,上方に向かって延出する衝撃受領部,を有」することにおいて共通する。 そうすると,両者は, 「乗員の膝部からの荷重の入力によって変形し,前記膝部への衝撃を吸収する車両用ニーボルスターを有する車両の乗員保護構造であって, 前記車両用ニーボルスターは, 一端が車体部材に支持され,前記一端から車両後方,かつ,下方に向かって延出する基部,前記基部から連続し,車両後方に向かって屈曲するように延出する屈曲部,前記屈曲部から連続し,車両後方,かつ,上方に向かって延出する衝撃受領部,を有する、 車両の乗員保護構造。」 において一致し,以下の各点において相違する。 <相違点1> 車両用ニーボルスターに加えて車両の乗員保護構造が,本願発明では,「物を載置できる載置部を有する」のに対して,引用発明では,そのような特定はなされていない点。 <相違点2> 車両用ニーボルスターの,前記基部から連続し,車両後方に向かって屈曲するように延出する屈曲部が,本願発明では,車両後方,「かつ上方に」向かって屈曲するように延出し、「衝撃受領時における変形箇所をなす」屈曲部であるのに対して,引用発明では,上方に向かって屈曲しているのかが明らかでなく,屈曲部と脆弱部wの位置が一致していない点。 <相違点3> 本願発明では,「前記載置部は,車両前方から,車両後方,かつ,上方に向かって屈曲するように延出する屈曲面,前記屈曲面から連続し,車両後方,かつ,上方に向かって延出する載置平面であって,少なくとも一部が,前記車両用ニーボルスターの前記衝撃受領部の上方に位置するとともに,衝撃受領時における前記車両用ニーボルスターの変形範囲内に配置される載置平面,を有し,前記車両用ニーボルスターの前記屈曲部は,前記載置部の前記屈曲面よりも車両前方に位置している」のに対して,引用発明では,そのような特定はなされていない点。 (2)相違点の判断 事案に鑑み,先に相違点3について検討する。 ア.本願発明と引用文献2に記載された事項とを対比すると,後者の「衝突エネルギー吸収構造」は前者の「乗員保護構造」に相当し,以下同様に,「凹部1i」は「箱ティッシュ7等の小物が収納可能な大きさを有」するから「物を載置できる載置部」に,「大略く字形状をなす座屈変形誘発部3a′」は「屈曲部」に,「座屈変形誘発部3a′よりも後板部3c側の底板部3a」及び「後板部3c」は「衝撃受領部」に,「該下壁部1jに続いて上方に屈曲して延びる底壁部1k」は「屈曲面」に,「下壁部1j」は「載置平面」に,それぞれ相当する。 また,後者の「衝突エネルギー吸収構造」が「凹部1i」を有することも明らかである。 イ.後者の「エネルギー吸収部材3」は,「助手席に着座した乗員の左,右の脚部に対応した部位に配置され,」「前記エネルギー吸収部材3の後板部(一端側)3cは,前記インパネ1のボックス取付け孔1gの上辺部1h内面に車両後方から装着されたボルト5により締結結合され,前記底板部3a及び左,右側板部3bの前端面(他端側)3dは,前記クロスメンバ2に溶接等により結合され」ているから,その配置からみて,前者の「乗員の膝部からの荷重の入力によって変形し,前記膝部への衝撃を吸収する車両用ニーボルスター」又は「車両用ニーボルスター」に相当する。 ウ.後者は「前記エネルギー吸収部材3は,前後方向に延びる底板部3aと,該底板部3aの左,右側縁に続いて上方に突出するよう屈曲形成された左,右側板部3b,3bと,該左,右側板部3b及び底板部3aの後端同士を接続する後板部3cを有し,前記底板部3aの前後方向中途部には,大略く字形状をなす座屈変形誘発部3a′が形成され,これによりエネルギー吸収部材3は,衝撃力により座屈変形誘発部3a′を起点に大略V字形状に座屈変形するように構成され,前記底板部3aには,所定の大きさを有する開口3eが形成され,この開口3eの大きさを適宜設定することにより,エネルギー吸収部材3の座屈変形量をコントロールすることが可能となり,前記エネルギー吸収部材3の後板部(一端側)3cは,前記インパネ1のボックス取付け孔1gの上辺部1h内面に車両後方から装着されたボルト5により締結結合され,前記底板部3a及び左,右側板部3bの前端面(他端側)3dは,前記クロスメンバ2に溶接等により結合され」るものであるところ,後者の「エネルギー吸収部材3」と,前者の「前記車両用ニーボルスターは,一端が車体部材に支持され,前記一端から車両後方,かつ,下方に向かって延出する基部,前記基部から連続し,車両後方,かつ,上方に向かって屈曲するように延出する屈曲部であって,衝撃受領時における変形箇所をなす屈曲部,前記屈曲部から連続し,車両後方,かつ,上方に向かって延出する衝撃受領部,を有」することとは,「前記車両用ニーボルスターは,一端が車体部材に支持され,前記一端から車両後方,かつ,下方に向かって延出する基部,前記基部から連続し,屈曲するように延出する屈曲部であって,衝撃受領時における変形箇所をなす屈曲部,前記屈曲部から連続し,車両後方に向かって延出する衝撃受領部,を有」することにおいて共通する。 エ.後者は「前記インパネ1の左,右のエネルギー吸収部材3の後板部3c上方には,車室R内に開口し,かつ車両前方に凹む概ね有底角筒状の凹部1iが形成され,この凹部1iは,箱ティッシュ7等の小物が収納可能な大きさを有し,凹部開口1i′の下縁に続いて前斜め下方に延びる下壁部1jと,該下壁部1jに続いて上方に屈曲して延びる底壁部1kと,を有」するものであるところ,後者の「凹部1i」は,上記の相当関係を踏まえると,前者の「前記載置部は,車両前方から,車両後方,かつ,上方に向かって屈曲するように延出する屈曲面,前記屈曲面から連続し,車両後方,かつ,上方に向かって延出する載置平面」「を有」することに相当する。 オ.また,後者の「前記凹部1iの下壁部1jの少なくとも一部が,エネルギー吸収部材3の底板部3a及び後板部3cの上方に位置」することは,前者の「載置平面の」「少なくとも一部が前記車両用ニーボルスターの前記衝撃受領部の上方に位置する」ことに相当する。 カ.後者の「車両の前面衝突によって乗員の脚部Fがインパネ1に2次衝突すると,エネルギー吸収部材3が座屈変形誘発部3a′を起点に起き上がるように座屈変形し,これに伴ってボルト5により固定されたインパネ1の上辺部1hが凹部1i内に引き込まれるとともに,下壁部1jがコーナー部1qを起点に前方に屈曲変形し,エネルギー吸収部材3とともにインパネ1の上辺部1h及び下壁部1jが凹部1i内に入り込むように変形」することは,前者の「衝撃受領時における前記車両用ニーボルスターの変形範囲内に配置される載置平面,を有」することに相当する。 キ.上記エ.からカ.を踏まえると,後者の「凹部1i」は,前者の「前記載置部は,車両前方から,車両後方,かつ,上方に向かって屈曲するように延出する屈曲面,前記屈曲面から連続し,車両後方,かつ,上方に向かって延出する載置平面であって,少なくとも一部が,前記車両用ニーボルスターの前記衝撃受領部の上方に位置するとともに,衝撃受領時における前記車両用ニーボルスターの変形範囲内に配置される載置平面,を有」することに相当する。 ク.後者の「凹部1iのコーナー部1q」と前者の「載置部の屈曲面」とは,「載置部の屈曲面」が屈曲部分を有することが明らかであるから,「載置部の屈曲面の屈曲部分」において共通する。 ケ.以上により,本願発明に倣って整理すると,引用文献2には,以下の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されているといえる。 「乗員の膝部からの荷重の入力によって変形し,前記膝部への衝撃を吸収する車両用ニーボルスター,及び,物を載置できる載置部を有する車両の乗員保護構造であって, 前記車両用ニーボルスターは, 一端が車体部材に支持され,前記一端から車両後方,かつ,下方に向かって延出する基部,前記基部から連続し,屈曲するように延出する屈曲部であって,衝撃受領時における変形箇所をなす屈曲部,前記屈曲部から連続し,車両後方に向かって延出する衝撃受領部,を有し, 前記載置部は, 車両前方から,車両後方,かつ,上方に向かって屈曲するように延出する屈曲面,前記屈曲面から連続し,車両後方,かつ,上方に向かって延出する載置平面であって,少なくとも一部が,前記車両用ニーボルスターの前記衝撃受領部の上方に位置するとともに,衝撃受領時における前記車両用ニーボルスターの変形範囲内に配置される載置平面,を有し, 前記車両用ニーボルスターの前記屈曲部は,前記載置部の屈曲面の屈曲部分よりも車両後方に位置している, 車両の乗員保護構造。」 そうすると,引用文献2記載事項は,「前記載置部は,車両前方から,車両後方,かつ,上方に向かって屈曲するように延出する屈曲面,前記屈曲面から連続し,車両後方,かつ,上方に向かって延出する載置平面であって,少なくとも一部が,前記車両用ニーボルスターの前記衝撃受領部の上方に位置するとともに,衝撃受領時における前記車両用ニーボルスターの変形範囲内に配置される載置平面,を有」するものではあるが,「前記車両用ニーボルスターの前記屈曲部は,前記載置部の屈曲面の屈曲部分よりも車両後方に位置して」おり,「前記車両用ニーボルスターの前記屈曲部は,前記載置部の前記屈曲面よりも車両前方に位置している」ものではない。 したがって,引用発明に引用文献2記載事項を適用しても,上記相違点3に係る本願発明の構成には至らない。 よって,相違点1,2について検討するまでもなく,本願発明は,引用発明及び引用文献2記載事項に基いて,当業者であっても容易に発明をすることができたものではない。 第6.むすび 以上のとおり,本願発明は,引用発明及び引用文献2記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-07-27 |
出願番号 | 特願2015-254281(P2015-254281) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(B60R)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 神田 泰貴 |
特許庁審判長 |
一ノ瀬 覚 |
特許庁審判官 |
八木 誠 藤井 昇 |
発明の名称 | 車両の乗員保護構造 |
代理人 | 太田 知二 |