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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F04D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04D
管理番号 1376636
審判番号 不服2020-10189  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-20 
確定日 2021-08-05 
事件の表示 特願2016- 20633「真空ポンプ並びにこれに用いられるロータ及びステータ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月10日出願公開、特開2017-137840〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成28年2月5日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。

令和元年 9月20日付け 拒絶理由通知書
令和2年 1月30日 意見書、手続補正書
令和2年 4月16日付け 拒絶査定
令和2年 7月20日 審判請求書、手続補正書


第2 令和2年7月20日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年7月20日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「ロータシャフトと該ロータシャフトに少なくとも円環部を介して連接されると共にロータ軸方向に複数段に形成されたロータ翼とを備えたロータと、
前記ロータ翼の間に配設されるステータ翼が形成されたステータと、
を備え、
前記ロータ翼を前記ステータ翼に対して相対的に回転させることにより気体を排気するターボ分子ポンプ排気部が形成され、前記ターボ分子ポンプ排気部の真空排気方向下流側に粘性流領域のガスを排気し、ネジ溝が形成されたネジステータを備えている排気部が形成された真空ポンプであって、
前記ステータは、前記ロータ軸方向の撓み変形で前記ロータに接触する際に前記円環部に接触することを特徴とする真空ポンプ。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和2年1月30日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「ロータシャフトと該ロータシャフトに少なくとも円環部を介して連接されると共にロータ軸方向に複数段に形成されたロータ翼とを備えたロータと、
前記ロータ翼の間に配設されるステータ翼が形成されたステータと、
を備え、
前記ロータ翼を前記ステータ翼に対して相対的に回転させることにより気体を排気するターボ分子ポンプ排気部が形成され、前記ターボ分子ポンプ排気部の真空排気方向下流側に粘性流領域のガスを排気する排気部が形成された真空ポンプであって、
前記ステータは、前記ロータ軸方向の撓み変形で前記ロータに接触する際に前記円環部に接触することを特徴とする真空ポンプ。」

2 補正の適否
(1)本件補正の目的
本件補正が、特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。
令和2年1月30日に提出された意見書において、請求人は本件補正前の特許請求の範囲について、
「真空ポンプが、ターボ分子ポンプ排気部(ターボ分子ポンプ機構PAに相当)、粘性流領域のガスを排気する排気部(ネジ溝ポンプ機構PBに相当)を備えていること、及び、粘性流領域のガスを排気する排気部が、ターボ分子ポンプ排気部に対して真空排気方向の下流側に設けられている、との構成で補正前の請求項1を限定するものであり」
と主張している。
してみると、本件補正前の「粘性流領域のガスを排気する排気部」は、本願明細書におけるところの「ネジ溝ポンプ機構PB」であり、当該「粘性流領域のガスを排気する排気部」がターボ分子ポンプ排気部(本願明細書における「ターボ分子ポンプ機構PA」)の真空排気方向下流側に形成され、ターボ分子ポンプ排気部とともに真空ポンプを構成することが特定されていたものと認められる。
そして、本件補正は、請求人が審判請求書において、「補正前の請求項1を限定するものであり、・・・(中略)・・・また、本補正は、いわゆる限定的減縮に該当します。」と主張するように、本件補正前の請求項1の発明特定事項である前記「粘性流領域のガスを排気する排気部」について、「ネジ溝が形成されたネジステータを備えている」という限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載された発明とは、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(2)本件補正発明
本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(3)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定(令和2年4月16日付けの拒絶査定)の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特開2000-9088号公報(平成12年(2000年)1月11日出願公開。以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は注目箇所を示すために当審で付したものである。)

「【請求項4】 モータにより回転されるロータ本体と、
このロータ本体の回転軸方向に複数段配設され、前記ロータ本体の回転軸に対して所定角度で傾斜させて放射状に複数のロータブレードが設けられたロータ翼と、
この複数段のロータ翼の間に配置され、外周部が固定保持される少なくとも2分割された外側円環部と、内径が前記ロータ本体の外径よりも大きく、前記外側円環部の分割に対応して分割された内側円環部と、前記外側円環部と前記内側円環部とにより両端が放射状に支持された複数のステータブレードからなる、複数段のステータ翼と、を備えたターボ分子ポンプであって、
前記各段におけるロータ翼部の前記各ブレードは、当該段に対応して前記ロータに設けられたロータ円環部に設けられ、
前記ステータブレードは、その内径側端部が前記ロータ円環部の外周面よりも内側に配置されていることを特徴とするターボ分子ポンプ。」
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、ターボ分子ポンプに係り、詳細には、ステータ翼を改良したターボ分子ポンプに関する。」
「【0002】【従来の技術】半導体製造装置などの真空装置としてターボ分子ポンプが広く使用されている。このターボ分子ポンプは、ステータ部とロータ部にステータ翼とロータ翼を軸方向に多段配置し、モータによりロータ部を高速回転することで、真空(排気)処理を行うものである。図11は、このようなターボ分子ポンプのロータ翼とステータ翼の構成を表したものである。図11(a)は、ロータ翼とステータ翼の配置関係を表した断面図で、(b)は、ロータをロータ翼の上下面に沿って切断した場合の断面斜視図で、(c)はステータ翼の一部を表した斜視図である。」
「【0003】この図11に示されるように、ターボ分子ポンプは、高速回転するロータ軸に固定配置されたロータ60とステータ70とで構成されている。ロータ60は、モータや磁気軸受を内側に収容するロータ本体61と、このロータ本体61の外周に配設されたロータ円環部64と、このロータ円環部64に径方向放射状に回転軸に対して所定角度傾斜して設けられた複数のロータブレード63とから構成されてる。」
「【0006】このように形成されたターボ分子ポンプにおいて、ロータ60がモータにより数万rpmで回転駆動されると、図面上側から下側に向かって排気作用が行われるようになっている。」
「【0008】そこで、本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたもので、強い振動等によっても比較的たわみにくい構造のステータ翼を有するターボ分子ポンプを提供することを第1の目的とする。また、本発明はたわみによってロータ翼に接触したとしても破損しにくい構造のステータ翼を有するターボ分子ポンプを提供ずることを第2の目的とする。」
「【0010】第2の目的を達成するために、請求項4記載の発明では、各段におけるロータ翼部の各ブレードを、当該段に対応してロータに設けられたロータ円環部に設け、ステータブレードの内径側端部をロータ円環部の外周面よりも内側に配置する。また、請求項5記載の発明では、各段におけるロータ翼部の各ブレードを、当該段に対応してロータに設けられたロータ円環部に設け、ステータ翼がたわんだ場合にロータ円環部に接触する当接部材を内側円環部に配設する。また、請求項6に記載の発明では、ロータブレードがたわんだ場合に外側円環部に接触するように、外側円環部に段差を設ける。」
「【0012】第4の実施形態では、ステータ翼72とロータ翼62とが接触した場合であっても、不連続面であり構造的に弱も弱いステータブレード75とロータブレード63とが接触しない構造とする。具体的には、ステータブレード75の径方向の長さを内側方向に伸ばす(延長する)ことで、ステータ翼72がたわんだ場合に中心側上端部76がロータ翼62の連続面であるロータ円環部64と接触し、ロータブレード63に接触しないようにする。また、ステータ翼72の内側円環部74に当接部(脚部)を配設することで、ステータ翼72が大きくたわんだ場合であっても、脚部がロータ円環部64に接触する構成とする。このような構成とすることで、不連続面同士(ステータブレード75とロータブレード63)が直接接触することが防止され、ステータ翼72およびロータ翼62が破損しにくくなる。」
「【0013】(2)実施形態の詳細
以下、本発明に好適な実施の形態について、図1から図10を参照して詳細に説明する。なお、図11で示した従来のターボ分子ポンプの構成と同一構成部分には同一の符号を付して適宜その説明を省略すると共に、従来の構成に相当する本実施形態の構成部分には同一の符号を付し相違する箇所について説明することとする。」
「【0014】図1は、ターボ分子ポンプの全体構成の断面を表わしたものである。このターボ分子ポンプ1は、例えば半導体製造装置内等に設置され、チャンバ等からプロセスガスの排出を行うものである。この例では、円筒状に形成された外装体10の上端部にフランジ11が形成され、ボルト等によって半導体製造装置等に接続されるようになっている。
「【0015】図1に示すように、ターボ分子ポンプ1は、略円筒形状の外装体10の中心部に配置される略円柱形状のロータ軸18を備えており、このロータ軸18の外周には断面略逆U字状のロータ本体61が配置されてロータ軸18の上部にボルト19で取り付けられている。このロータ本体61の外周には、ロータ円環部64が多段に配設され、各ロータ円環部64にはロータ翼62が配設されている。各段のロータ翼62はその外側が開放された複数のロータブレード(羽根)63を有している。」
「【0016】また、ターボ分子ポンプ1は、ロータ60とステータ70を備えている。ステータ70は、複数のステータ翼72と、段部を有する円筒状のスペーサ71とから構成されている。各段のステータ翼72は後述するように2分割されており、各段のロータ翼62間に外側から挿入して組み立てるようになっている。各段のステータ翼72は、それぞれスペーサ71とスペーサ71との段部により、外側円環部73が周方向に挟持されることで、ロータ翼62間に保持される。このステータ70は、外装体10の内周に固定配置されている。」
「【0024】モータ30は、外装体10の内側の半径方向センサ22と半径方向センサ26との間で、ロータ軸18の軸方向ほぼ中心位置に配置されている。このモータ30に通電することによって、ロータ軸18および、これに固定されたロータ60、ロータ翼62が回転するようになっている。」
「【0026】図2は、第1の実施形態におけるステータ翼72の構成を表したものである。この図2に示されるように、ステータ翼72は、外周側の一部がスペーサ71によって周方向に挟持される外側円環部73と、内側円環部74と、外側円環部73と内側円環部74とにより両端が放射状に所定角度で支持された複数のステータブレード75とから構成されている。内側円環部74の内径は、ロータ本体61の外径よりも大きく形成され、内側円環部74の内周面77とロータ本体61の外周面65(図11参照)とが接触しないようになっている。」
「【0029】この第1の実施形態におけるステータ翼72では、軸方向のたわみ量を少なくするために補強部としてリブ構造80を内側円環部74にプレス形成した場合について説明したが、補強部としては他の構成を採用することも可能である。例えば、円周2分割された内側円環部74の2分割端面78から他方の2分割端面78まで補強部材を周方向に溶接等により固着するようにしてもよい。補強部材の長手方向と直交する方向の断面形状としては、四角形状、三角形状、半円形状、半楕円形状、半長円形状等の各種形状とすることが可能である。」
「【0041】図7は、第4の実施形態におけるターボ分子ポンプのロータ翼とステータ翼を表した断面図である。この第4の実施形態では、不連続面であり構造的に弱も弱い、ステータブレード75とロータブレード63とが接触しない構造とすることで、ステータ翼72、ロータ翼62の破損を防止するようにしたものである。具体的には、ステータブレード75の中心側上端76がロータ円環部64、64間に配置されるようにロータブレード63の径方向の長さを軸心方向に延長する。このようにステータブレード75の中心側上端76がロータ円環部64、64間に配置されることで、ステータ翼72が大きくたわんだ場合に中心側上端部76がロータ円環部64に接触するが、このロータ円環部64は回転方向に連続面を形成しているので、ステータブレード75の破損が抑止される。」
「【0050】以上説明したように、第1から第3の本実施形態によれば、誤動作などにより、大きなガス負荷の変動があった場合にも、ステータ翼72の剛性が向上されているので、ステータ翼72のたわみが抑制され、ステータ翼72とロータ翼62同士が接触しにくくなる。さらに、第4の実施形態によれば、ステータ翼72とロータ翼62同士が接触した場合にも、構造的に弱い部分同士(ステータブレード75とロータブレード73)が接触する前に、他の部分が接触することにより致命的な破壊に至ることを防ぐことができる。磁気軸受20が保護ベアリングにタッチダウンした場合も同様に、第1から第3実施形態の場合にたわみが抑制され、第4実施形態の場合にブレード同士の接触が防止される。」
「【0051】【発明の効果】以上説明したように、請求項1、請求項2、および、請求項3に記載した発明によれば、強い振動等によっても比較的たわみにくい構造のステータ翼を有したターボ分子ポンプを提供することができる。ステータ翼がたわみにくいため、ステータ翼とロータ翼との間隔を狭くすることが可能になり、この間隔を狭くした場合にはターボ分子ポンプを小型化することができると共に、排気性能を向上させることができる。請求項4から請求項6に記載した発明によれば、ステータ翼がたわんだ場合であっても、ステータブレードとロータブレードとの接触が避けられるため、破損しにくいステータ翼とすることができる。」

(イ)図面からは以下の事項が看取される。
a 図1から、ターボ分子ポンプ1は、ロータ軸18とロータ60とからなる回転体を備えていること、当該ロータ60は、ロータ本体61とロータ翼62とからなることが看取でき、また、図7から、ロータ翼62は、ロータブレード63とロータ円環部64とを備えていることが看取できることから、回転体はロータ軸18とロータブレード63とを備えていることが理解できる。



(ウ)
a 上記(ア)の段落【0016】【0026】から、ステータ70はスペーサ71とステータ翼72とを備え、前記ステータ翼72は外側円環部73、内側円環部74、ステータブレード75を備えていることが理解できる。
b 上記(ア)の【請求項4】及び段落【0015】【0026】【0029】【0041】【0050】の記載から、ステータ翼72はロータ本体61の回転軸方向にたわんでステータ翼72(が備えているステータブレード75の中心側上端部76)が回転体(の一部であるロータ円環部64)に接触するといえる。

(エ)引用発明
上記(ア)-(ウ)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ロータ軸18と、前記ロータ軸18に取り付けられているロータ本体61の外周に配設されたロータ円環部64に設けられるとともに、前記ロータ本体61の回転軸方向に複数段配設されたロータブレード63とを備えた回転体と、
前記ロータブレード63の間に配置されるステータブレード75を有するステータ翼72と、を備え、
前記ステータブレード75を外装体10の内周に固定配置し、前記ロータブレード63をモータ30に通電して回転することで排気作用が行われるターボ分子ポンプ1であって、
前記ステータ翼72は、前記回転軸方向にたわんで前記回転体に接触する場合に、前記ロータ円環部64に接触するターボ分子ポンプ1。」

(4)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「ロータ軸18」は本件補正発明の「ロータシャフト」に相当する。
(イ)引用発明の「前記ロータ軸18に取り付けられているロータ本体61の外周に配設されたロータ円環部64に設けられる」「ロータブレード63」は、少なくとも「ロータ円環部64」を介して「ロータ軸18」に「ロータブレード63」がつながり続いているといえる。一方、本願発明の「連接」とは、一般に「つながり続くこと。また、つらね続けること。(デジタル大辞泉)」という意味であり、引用発明の「ロータ円環部64」は本件補正発明の「円環部」に、引用発明の「ロータブレード63」は本件補正発明の「ロータ翼」に、それぞれ相当するから、引用発明の「前記ロータ軸18に取り付けられているロータ本体61の外周に配設されたロータ円環部64に設けられる」「ロータブレード63」は、本件補正発明の「該ロータシャフトに少なくとも円環部を介して連接される」「ロータ翼」に相当する。
(ウ)引用発明における「ロータ本体61」は、「ロータ軸18」に取り付けられており、一体となって回転するから、引用発明の「ロータ本体61の回転軸方向」は本件補正発明の「ロータ軸方向」に相当する。また、引用発明の「配設」は、本件補正発明の「形成」に相当する。
してみると、引用発明の「前記ロータ本体61の回転軸方向に複数段配設されたロータブレード63」は、本件補正発明の「ロータ軸方向に複数段に形成されたロータ翼」に相当する。
(エ)引用発明における「回転体」は、「ロータ軸18」と「ロータブレード63」とを備えるものであるから、本件補正発明の「ロータ」に相当する。
(オ)引用発明の「配置」は本件補正発明の「配設」に相当し、以下同様に、
「ステータブレード75」は「ステータ翼」に、
「有する」は「形成された」に、
「ステータ翼72」は「ステータ」に、それぞれ相当する。
してみると、引用発明の「前記ロータブレード63の間に配置されるステータブレード75を有するステータ翼72」は、本件補正発明の「前記ロータ翼の間に配設されるステータ翼が形成されたステータ」に相当する。
(カ)引用発明の「前記ステータブレード75を外装体10の内周に固定配置し 、前記ロータブレード63をモータ30に通電して回転することで排気作用が行われ」ることは、「ロータブレード63」が、固定されている「ステータブレード75」に対して相対的に回転し、排気作用が行われるように形成されていることと同意であるから、本件補正発明の「前記ロータ翼を前記ステータ翼に対して相対的に回転させることにより気体を排気するターボ分子ポンプ排気部が形成され」ることに相当する。
(キ)引用発明の「ターボ分子ポンプ1」は、本件補正発明の「真空ポンプ」に相当する。
(ク)引用発明における「ステータ翼72」がたわむと、撓み変形が起こるのは当然のことであるから、引用発明の「前記ステータ翼72は、前記回転軸方向にたわんで前記回転体に接触する場合に、前記ロータ円環部64に接触する」ことは、本件補正発明の「前記ステータは、前記ロータ軸方向の撓み変形で前記ロータに接触する際に前記円環部に接触する」ことに相当する。

イ 一致点及び相違点
以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「ロータシャフトと該ロータシャフトに少なくとも円環部を介して連接されると共にロータ軸方向に複数段に形成されたロータ翼とを備えたロータと、
前記ロータ翼の間に配設されるステータ翼が形成されたステータと、
を備え、
前記ロータ翼を前記ステータ翼に対して相対的に回転させることにより気体を排気するターボ分子ポンプ排気部が形成された真空ポンプであって、
前記ステータは、前記ロータ軸方向の撓み変形で前記ロータに接触する際に前記円環部に接触する真空ポンプ。」

<相違点1>
本件補正発明では、「前記ターボ分子ポンプ排気部の真空排気方向下流側に粘性流領域のガスを排気し、ネジ溝が形成されたネジステータを備えている排気部が形成され」ているのに対し、引用発明では、当該排気部が形成されていない点。

(5)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
真空ポンプの分野において、幅広い真空領域(高真空領域から低真空領域)で排気性能を確保するために、ターボ分子ポンプ排気部の真空排気方向下流側に粘性流領域のガスを排気する排気部が形成されることは周知の技術的事項であり(例えば、特開2015-135074号公報(【0013】-【0014】、図1等参照。)、当該排気部はネジ溝が形成されたネジステータを備えていることも、特開2003-184785号公報(【0024】、図1等を参照。)、特開2007-224924号公報(【0021】-【0026】、図1等参照。)、特開2015-143513号公報(【0014】、図1等参照。)、特開2015-132340号公報(【0018】、図1等参照。)等に開示されているとおり、本願の出願前から周知の技術的事項(以下、「周知技術」という。)である。
幅広い真空領域(高真空領域から低真空領域)で排気性能を確保することは、真空ポンプの技術分野における一般的な課題であることが当業者にとって明らかであり、半導体製造装置などの真空装置に用いられる引用発明においても内在する課題であるといえるから、引用発明において周知技術を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。また、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 請求人の主張
請求人は審判請求書において、「引用文献1?3には、補正後の請求項1に係る発明に特有の発明特定事項である『排気部が、ターボ分子ポンプ排気部の真空排気方向下流側に粘性流領域のガスを排気し、ネジ溝が形成されたネジステータを備えている』構成が開示されていません。特に、引用文献3には、ネジステータ11がベース50上に取り付けられ、ロータ円筒部8とネジステータ11とが協働して排気動作を行うことが単に記載されているに過ぎず、ネジステータ11の具体的構成は開示されていません(段落[0013]、[0014])。一方、本願の請求項1に係る発明は、「ガスが、ロータ円筒部29とネジステータ54との隙間に移送された後に、ネジ溝部53内で圧縮されてガス排気口51に移送される」ように構成されていることから(段落[0051])、大気開放時にガス排気口から大気が突入した場合であっても、排気動作時と同様に、大気はネジ溝内を通るため、ロータは風圧の影響を受けにくく、ロータの上下動が抑制されるとともにロータ翼とステータ翼との衝突が抑制されます。」と主張している。
しかしながら、「ターボ分子ポンプ排気部の真空排気方向下流側に粘性流領域のガスを排気し、ネジ溝が形成されたネジステータを備えている排気部」は、上記[理由]2(5)アで検討したとおり、周知技術であるから、引用発明に周知技術を適用したものも、請求人が主張するような効果を当然に有するものと認められる。また、請求人が主張している、引用文献3(特開2015-135074号公報(上記[理由]2(5)アに記載された周知技術を示す文献の一つに相当))には「ネジステータ11」の具体的構成が開示されていない点について、ネジステータ側にネジ溝を設けることは、極めて一般的な構成であることから引用文献3に開示されているということができ、仮にそうでないとしても、上記[理由]2(5)アに記載した周知技術の他の例に明記されている。そのため、「ネジ溝が形成されたネジステータ」を備えることは、当業者が容易に想到し得たことであると言わざるを得ない。
したがって、請求人の主張を採用することはできない。

4 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年7月20日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和2年1月30日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲1ないし11に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、日本国内又は外国において、その出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び周知技術(周知技術を示す文献として引用文献3(前記第2の[理由]2(5)アに記載された周知技術を示す文献の一つに相当))に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2000-9088号公報
引用文献3:特開2015-135074号公報

3 引用文献及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(3)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「ターボ分子ポンプ排気部の真空排気方向下流側に粘性流領域のガスを排気する排気部」に係る限定事項である「ネジ溝が形成されたネジステータを備えている」という事項を削除したものである。
そうすると、本願発明と引用発明との相違点は、「前記ターボ分子ポンプ排気部の真空排気方向下流側に粘性流領域のガスを排気する排気部が形成された」点のみとなり、当該事項は引用文献3(【0013】-【0014】、図1等参照。)等に開示されているとおり、周知技術である。
本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(4)(5)で検討したとおり、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、「ターボ分子ポンプ排気部の真空排気方向下流側に粘性流領域のガスを排気する排気部」に係る上記限定事項が削除された本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

 
審理終結日 2021-05-26 
結審通知日 2021-06-01 
審決日 2021-06-16 
出願番号 特願2016-20633(P2016-20633)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F04D)
P 1 8・ 121- Z (F04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田谷 宗隆  
特許庁審判長 小川 恭司
特許庁審判官 木戸 優華
柿崎 拓
発明の名称 真空ポンプ並びにこれに用いられるロータ及びステータ  
代理人 清水 貴光  

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