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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1376682
異議申立番号 異議2020-700578  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-11 
確定日 2021-05-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6644932号発明「光学フィルムおよびその製造方法、偏光板、ならびに画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6644932号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-18〕について訂正することを認める。 特許第6644932号の請求項1-4、6? 18に係る特許を維持する。 特許第6644932号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6644932号の請求項1?18に係る特許についての出願は、令和元年7月19日(先の出願に基づく優先権主張 平成30年7月25日)にされた出願であって、令和2年1月10日にその特許権の設定登録がされ、同年2月12日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、同年8月11日に特許異議申立人安藤宏(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、同年9月30日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年11月30日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)を行った。
なお、本件訂正請求がされたので、期間を指定して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をしたが、当該期間内に申立人からは何ら応答がなかった。


第2.本件訂正の適否についての判断
1.本件訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)?(8)のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1の
「透明フィルム基材の表面に易滑層を備える光学フィルムであって、
前記易滑層は、バインダ樹脂、および無機微粒子を含有し、
前記易滑層のアミンおよびアンモニアの含有量の合計が5?75ppmである、光学フィルム。」
を、
「透明フィルム基材の表面に易滑層を備える光学フィルムであって、
前記易滑層は、バインダ樹脂、および無機微粒子を含有し、厚みが280nm以下であり、
前記易滑層中の前記無機微粒子の含有量が10?50重量%であり、
前記易滑層のアミンおよびアンモニアの含有量の合計が5?75ppmである、光学フィルム。」
に訂正する(請求項1を直接的または間接的に引用する請求項2?4、6?18についても、同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項2の
「前記易滑層の厚みが40?280nmである、請求項1に記載の光学フィルム。」
を、
「前記易滑層の厚みが40nm以上である、請求項1に記載の光学フィルム」
に訂正する(請求項2を直接的または間接的に引用する請求項3、4、6?18についても、同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項6の
「請求項1?5のいずれか1項に記載の」
を、
「請求項1?4のいずれか1項に記載の」
に訂正する(請求項6を直接的または間接的に引用する請求項7?18についても、同様に訂正する。)。

(5)訂正事項5
本件訂正前の請求項7の
「請求項1?6のいずれか1項に記載の」
を、
「請求項1?4および6のいずれか1項に記載の」
に訂正する(請求項7を直接的または間接的に引用する請求項8?18についても、同様に訂正する。)。

(6)訂正事項6
本件訂正前の請求項8の
「請求項1?7のいずれか1項に記載の」
を、
「請求項1?4、6および7のいずれか1項に記載の」
に訂正する(請求項8を直接的または間接的に引用する請求項9?12についても、同様に訂正する。)。

(7)訂正事項7
本件訂正前の請求項13の
「請求項1?7のいずれか1項に記載の」
を、
「請求項1?4、6および7のいずれか1項に記載の」
に訂正する(請求項13を直接的または間接的に引用する請求項14?18についても、同様に訂正する。)。

(8)訂正事項8
本件訂正前の請求項17の
「前記光学フィルムの易滑層非形成面が」
を、
「前記光学フィルムの易滑層形成面が」
に訂正する(請求項17を引用する請求項18についても、同様に訂正する。)。

2.一群の請求項
本件訂正前の請求項1?18において、請求項2?18は、請求項1を直接的又は間接的に引用しているから、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項を対象として請求するものである。

3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の易滑層の厚みを「厚みが280nm以下であり」とし、易滑層中の含有物について、「前記易滑層中の前記無機微粒子の含有量が10?50重量%であり」と技術的に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項1による本件訂正は、願書に添付した明細書の以下の記載(なお、下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
ア.「【0050】
・・・易滑層15における微粒子の含有量は、8重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましく、12重量%以上がさらに好ましい。・・・そのため、易滑層15における微粒子の含有量は、50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、30重量%以下がさらに好ましい。」
イ.「【0075】
易滑層15の厚みは特に限定されないが、加熱によるアルカリ成分の除去を促進する観点から280nm以下が好ましく、250nm以下がより好ましく、230nm以下がさらに好ましい。・・・」

(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項2の
「前記易滑層の厚みが40?280nmである、請求項1に記載の光学フィルム。」
を、
「前記易滑層の厚みが40nm以上である、請求項1に記載の光学フィルム」
に訂正することは、易滑層の厚みを「40nm以上」とし、厚み範囲の下限値のみを特定する記載に変更することにより、請求項2が引用する請求項1における易滑層の厚み範囲の上限に関する記載(「280nm以下」)との重複を排除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項2による本件訂正は、訂正前の請求項2では、易滑層の厚みが「40?280nm」であることが特定されていたものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3
訂正事項3による訂正は、請求項5削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項3による本件訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項4?7
訂正事項4?7は、本件訂正前の請求項6?8、13が本件訂正前の請求項5を引用するものであったところ、請求項5を削除する上記訂正事項3に係る訂正と整合させるために、引用する請求項から請求項5を削除するものであるから、訂正事項4?7は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項4?7による本件訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(5)訂正事項8
本件訂正前の請求項17の
「前記光学フィルムの易滑層非形成面が」
を、
「前記光学フィルムの易滑層形成面が」
に訂正することは、訂正前の請求項17の記載(「易滑層非形成面が・・・前記偏向子の第一主面に貼り合わせられている」)と、訂正前の請求項17が引用する請求項16の記載(「易滑層形成面が、前記偏向子の第一主面に貼り合わせられている」)との間の矛盾を解消するものであり、「易滑層非形成面」との誤記を「易滑層形成面」に訂正し、明瞭でない記載を釈明するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正、又は同第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項8による本件訂正は、明細書の段落【0086】、【0093】、【0113】、【0114】、図2A等を参照すれば、光学フィルムの易滑層形成面に接着剤層を介して偏向子を貼り合わせることが記載されているから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

4.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号乃至第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第4項、並びに同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-18〕について訂正することを認める。


第3.訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?18に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?18に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
透明フィルム基材の表面に易滑層を備える光学フィルムであって、
前記易滑層は、バインダ樹脂、および無機微粒子を含有し、厚みが280nm以下であり、
前記易滑層中の前記無機微粒子の含有量が10?50重量%であり、
前記易滑層のアミンおよびアンモニアの含有量の合計が5?75ppmである、光学フィルム。
【請求項2】
前記易滑層の厚みが40nm以上である、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記透明フィルム基材と前記易滑層との界面において、前記無機微粒子が前記透明フィルム基材に埋設している領域が存在する、請求項1または2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記無機微粒子の平均一次粒子径が10?250nmである、請求項1?3のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
前記透明フィルム基材がアクリル系フィルムである、請求項1?4のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項7】
前記易滑層の前記バインダ樹脂がウレタン系樹脂である、請求項1?4および6のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項8】
請求項1?4、6および7のいずれか1項に記載の光学フィルムを製造する方法であって、
透明フィルム基材の表面に、バインダ樹脂またはその前駆物質、無機微粒子、アミンおよびアンモニアからなる群から選択される1種以上のアルカリ成分、ならびに溶媒を含有する易滑層形成用組成物を塗布し、
前記透明フィルム基材のガラス転移温度よりも10℃以上高い温度で前記易滑層形成用組成物を加熱して、前記溶媒および前記アルカリ成分を揮発させる、光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記アルカリ成分が、前記無機微粒子の分散促進作用を有する、請求項8に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記易滑層形成用組成物は、前記バインダ樹脂の前駆物質としてポリウレタン前駆物質を含有し、前記アルカリ成分として第三級アミンを含む、請求項8または9に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記易滑層形成用組成物が、前記アルカリ成分として、沸点が150℃以下のアミンを含む、請求項8?10のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記透明フィルム基材のガラス転移温度よりも10℃以上高い温度で前記易滑層形成用組成物を加熱しながら、前記易滑層形成用組成物を塗布した前記透明フィルム基材を少なくとも1方向に延伸する、請求項8?11のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項13】
第一主面および第二主面を有するポリビニルアルコール系偏光子、および前記偏光子の第一主面に接着剤層を介して貼り合わせられた透明フィルムを備え、
前記透明フィルムが請求項1?4、6および7のいずれか1項に記載の光学フィルムである、偏光板。
【請求項14】
前記光学フィルムの易滑層非形成面が、前記偏光子の第一主面に貼り合わせられている、請求項13に記載の偏光板。
【請求項15】
前記光学フィルムの易滑層非形成面が、光カチオン重合性の接着剤、または光カチオン重合と光ラジカル重合のハイブリッド型接着剤を介して、前記偏光子の第一主面に貼り合わせられている、請求項14に記載の偏光板。
【請求項16】
前記光学フィルムの易滑層形成面が、前記偏光子の第一主面に貼り合わせられている、請求項13に記載の偏光板。
【請求項17】
前記光学フィルムの易滑層形成面が、光ラジカル重合性の接着剤を介して前記偏光子の第一主面に貼り合わせられている、請求項16に記載の偏光板。
【請求項18】
画像表示セルと、請求項13?17のいずれか1項に記載の偏光板とを有する、画像表示装置。


第4.取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
訂正前の請求項1?13、16?18に係る特許に対して、当審が令和2年9月30日付けで、特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件特許の請求項1?13、16?18に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
<引用例>
甲第1号証:国際公開2018/056225号(以下、「甲1」という。)

2.当審の判断
(1)甲1の記載及び甲1に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)
甲1には、以下の事項が記載されている。下線は当審にて付した。
ア.「[0014] <1.多層フィルム>
本発明の多層フィルムは、熱可塑性樹脂により構成されるA層と、このA層の少なくとも一方の表面に形成されるB層とを備える。」
イ.「[0039] A層は、1mm厚換算での全光線透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上がより好ましい。
・・・
[0041] <1.2.B層>
B層は、重合体Y1及び架橋剤を含む材料Yを用いて構成される層である。
・・・
[0043] 重合体Y1としては、例えば、アクリル重合体、ビニル重合体、ポリウレタン、ポリエステル等の種々のポリマーに官能基を導入したものを好適に用いることができる。・・・」
ウ.「[0073] また、材料Yは、1種類または2種類以上の微粒子を含んでいてもよい。このような構成によれば、B層に微粒子が含まれることにより、B層の表面に凹凸を形成できる。このような凹凸が形成されることにより、多層フィルムを長尺状に形成した場合には、この複層フィルムの巻回時にB層が他の層と接触する面積が小さくなる。そのように面積が小さくなることにより、その分だけB層の表面の滑り性を向上させて、本発明の多層フィルムを巻回する際のシワの発生を抑制できる。
・・・
[0075] 微粒子としては、無機微粒子、有機微粒子のいずれを用いてもよいが、・・・これらの中でも、シリカが好ましい。シリカの微粒子は、シワの発生を抑制する能力及び透明性に優れ、ヘイズを生じ難く、着色が無いため、本発明の多層フィルムの光学特性に与える影響がより小さいからである。また、シリカはウレタン樹脂への分散性および分散安定性が良好だからである。また、シリカの微粒子の中でも、非晶質コロイダルシリカ粒子が特に好ましい。
[0076] 材料Yに含まれる微粒子の量は、重合体Y1の100重量部に対し、通常0.5重量部以上、好ましくは5重量部以上、より好ましくは8重量部以上であり、通常20重量部以下、好ましくは18重量部以下、より好ましくは15重量部以下である。微粒子の量を前記の範囲の下限値以上とすることにより、本発明の多層フィルムを巻回した場合にシワの発生を抑制できる。また、微粒子の量を前記範囲の上限値以下とすることにより、本発明の多層フィルムの白濁の無い外観を維持できる。」
エ.「[0081] <1.4.B層の塩基成分量S>
本発明の多層フィルムにおいては、B層の塩基成分量Sが、下記式(2)を満たす。
0μg/g≦S≦20μg/g 式(2)
[0082] 塩基成分量は、B層を構成する成分のうち、重合体Y1以外の成分であって、アミン、ヒドラジド、及びこれらのいずれかと同等以上の塩基性を有する化合物である。アミド結合(-CO-NR-、Rは水素原子または任意の基)及びウレタン結合(-OCO-NR-)等のカルボニル基に隣接における-NR-は、ここでいうアミンには含まれない。かかるアミンの例としては、トリエチルアミン、アジピン酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジドが挙げられる。
[0083] 塩基成分量Sは、材料Yを構成する成分のうち塩基成分に相当するものの量を、B層において定量することにより測定しうる。例えば、重合体Y1としてのポリウレタンの供給源である組成物において、ポリウレタンの乳化のための塩基性成分としてトリエチルアミンが含まれる場合がある。トリエチルアミンを含む組成物を用いて材料Yを調製し、それを用いてB層を形成した場合、トリエチルアミンがB層に含まれうる。トリエチルアミンは、通常はB層の形成の工程においてほとんどが揮発する等して消失するが、一部が残存しうる。また、B層の剥離強度の向上等の目的で、材料Yに、添加剤としてアジピン酸ジヒドラジドを添加する場合があり、このような材料Yを用いてB層を形成した場合、アジピン酸ジヒドラジドがB層に含まれうる。これらの化合物は、その一部又は全部が揮発又は反応により消失しうる。したがって、形成されたB層中のこれらの成分の割合を定量することにより、B層の塩基成分量Sを求めることができる。」
オ.「[0089] B層の厚みは、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上、さらにより好ましくは150nm以上であり、好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下、さらにより好ましくは1μm以下である。B層の厚みを前記下限値以上にすることにより、十分な剥離強度を得ることができる。B層の厚みを前記上限値以上にすることにより、比較的軟らかい層となるB層の変形の発生が抑制され、多層フィルムを長尺ロールとして巻き取ることが容易となる。B層の厚みが前記範囲内にあることにより、A層とB層との十分な剥離強度が得られ、かつ、多層フィルムの厚みを薄くできる。」
カ.「[0124] 多層フィルムは、光学部材としての機能を安定して発揮させる観点から、全光線透過率が、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。・・・」

以上を総合すると、甲1には、以下の甲1発明が記載されている。
[甲1発明]
「1mm厚換算での全光線透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上がより好ましい、フィルムとして形成されるA層と、このA層の少なくとも一方の表面に形成され、微粒子が含まれることにより表面の滑り性を向上させたB層と、を備え、全光線透過率が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい、光学部材としての機能を発揮する多層フィルムであって、
前記B層は、重合体Y1及び架橋剤を含む材料Yを用いて構成され、微粒子として多層フィルムの光学特性に与える影響がより小さいシリカ微粒子が含有され、B層の厚みは、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上、さらにより好ましくは150nm以上であり、好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下、さらにより好ましくは1μm以下であり、
材料Yに含まれる微粒子の量は、重合体Y1の100重量部に対し、通常0.5重量部以上、好ましくは5重量部以上、より好ましくは8重量部以上であり、通常20重量部以下、好ましくは18重量部以下、より好ましくは15重量部以下であり、
前記B層の塩基成分量Sが0μg/g≦S≦20μg/gを満たし、
塩基成分はB層を構成する成分のうち重合体Y1以外の成分であって、アミン、ヒドラジド、及びこれらのいずれかと同等以上の塩基性を有する化合物である、光学部材としての機能を発揮する多層フィルム。」

(2)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)本件特許明細書の段落【0020】には、本件発明1の「透明フィルム基材」について、「フィルム基材11としては透明フィルムが好ましい。透明フィルム基材の全光線透過率は80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい」と記載されているから、甲1発明の「1mm厚換算での全光線透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上がより好ましいフィルムとして形成されるA層」は、本件発明1の「透明フィルム基材」に相当する。
(イ)本件特許明細書の段落【0031】には、本件発明1の「易滑層」について、「易滑層15が微粒子を含むことにより、易滑層15の表面に微細な凹凸が形成され、フィルムの滑り性が向上する。そのため、光学フィルム1のロール搬送時の傷付きの低減や、ロール状に巻き取る際のブロッキング抑制に寄与する。」と記載されており、甲1発明の「このA層の少なくとも一方の面に形成され、微粒子が含まれることにより表面の滑り性を向上させたB層」と本件発明1の「易滑層」とは、多層フィルムのロール状に巻き取る際の表面の滑り性を向上させる点で作用・機能が共通するから、甲1発明の「このA層の少なくとも一方の面に形成され、微粒子が含まれることにより表面の滑り性を向上させたB層」は、本件発明1の「易滑層」に相当する。
(ウ)甲1発明の「全光線透過率が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい、光学部材としての機能を発揮する多層フィルム」は、本件発明1の「光学フィルム」に相当する。
(エ)甲1発明の「重合体Y1及び架橋剤を含む材料Y」は、シリカ微粒子を含有するB層を構成する樹脂であるから、本件発明1の「バインダ樹脂」に相当し、甲1発明の「微粒子として多層フィルムの光学特性に与える影響がより小さいシリカ」は、本件発明1の「無機微粒子」に相当する。
(オ)甲1発明の「前記B層の塩基成分量Sが0μg/g≦S≦20μg/gを満たし、塩基成分量はB層を構成する成分のうち重合体Y1以外の成分であって、アミン、ヒドラジド、及びこれらのいずれかと同等以上の塩基性を有する化合物である」点は、「μg/g」の単位は「ppm」に相当するから、「易滑層のアミンの含有量の合計が5?20ppm」である限りにおいて、本件発明1の「前記易滑層のアミンおよびアンモニアの含有量の合計が5?75ppm」と一致する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点>
易滑層について、本件発明1は「厚みが280nm以下であり、前記易滑層中の前記無機微粒子の含有量が10?50重量%であり、前記易滑層のアミンおよびアンモニアの含有量の合計が5?75ppm」であるのに対し、
甲1発明のB層は、厚みが好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下、さらにより好ましくは1μm以下であり、微粒子の量は、重合体Y1の100重量部に対し、通常0.5重量部以上、好ましくは5重量部以上、より好ましくは8重量部以上であり、通常20重量部以下、好ましくは18重量部以下、より好ましくは15重量部以下であり、塩基成分量Sが0μg/g≦S≦20μg/gを満たすものである点。

イ.相違点についての検討
(ア)甲1発明の「塩基成分量Sが0μg/g≦S≦20μg/g」という数値限定について、甲1の以下の記載によれば、多層フィルムを偏光子と貼合した場合の偏光子中の色素の脱色の低減及び多層フィルムの剥離強度の向上を目的として、B層の塩基成分量Sの下限値を0μg/g以上、特に好ましくは0.5μg/g以上とし、上限値を20μg/g以下としたものである。
「[0085] B層の塩基成分量Sは、0μg/g以上、好ましくは0.1μg/g以上、より好ましくは0.2μg/g以上、特に好ましくは0.5μg/g以上、20μg/g以下、好ましくは20μg/gより小さく、より好ましくは19μg/g以下、さらに好ましくは18μg/g以下、特に好ましくは12μg/g以下である。塩基成分量Sがこの範囲内であることにより、多層フィルムを偏光子と貼合した場合において、偏光子中の色素の脱色を低減することができる。多層フィルムの剥離強度を向上させる等の目的で、材料Yに塩基成分を添加する場合は、B層における塩基成分量Sが上に述べた範囲内となるよう、添加量を調節する。」
(イ)これに対し、本件発明1の「アミンおよびアンモニアの含有量の合計が5?75ppm」という数値限定について、本件特許明細書の以下のa.?d.の記載によれば、その技術的意義は、易滑層形成用組成物として含有する微粒子の分散性を高めるために用いられた300?500ppm以上のアルカリ成分(アミンやアンモニア等)を、光学フィルムの加湿環境における耐久性向上を目的として、加熱により揮発させた際に不可避的に残存するアミンおよびアンモニアの含有量である。
a.「【0008】
上記課題に鑑み本発明者らが検討の結果、微粒子の分散性向上等を目的として易滑層形成用組成物中に添加されるアンモニアやアミン等のアルカリ成分が易滑層中に残存していることが、加湿環境での耐久性低下の一因であり、易滑層中の残存アルカリ量を所定範囲とすることにより上記課題を解決し得ることを見出した。」
b.「【0011】
透明フィルム基材の表面に易滑層形成用組成物を塗布し、加熱することにより易滑層が形成される。易滑層形成用組成物は、バインダ樹脂またはその前駆物質、微粒子、アルカリ成分および溶媒を含有する。易滑層形成用組成物にアルカリ成分が含まれていることにより、微粒子の分散性が向上し、滑り性に優れる光学フィルムが得られる。また、アルカリ成分は、バインダ樹脂(前駆体)の反応を促進するための触媒としても作用し得る。加熱によるアルカリ成分の揮発を促進する観点から、アルカリ成分の沸点は150℃以下が好ましい。アルカリ成分としては、アミンやアンモニア等が挙げられる。」
c.「【0051】
(残存アルカリ量) 微粒子の分散性を高めるために、アミンやアンモニア等のアルカリ成分を用いると、易滑層には不可避的にアルカリ成分が残存する。光学フィルム1を偏光子保護フィルムとして用いた場合、易滑層15の残存アルカリ成分の水分への溶出や、フィルム基材11を透過したアルカリ成分が、偏光子を劣化させ、偏光板の偏光度の低下や、スジ状のムラ等の光学的な欠陥が発生する場合がある。」
d.「【0059】
微粒子の分散性を向上させる観点から、易滑層形成用組成物に含まれるアルカリ成分の量は、易滑層形成用組成物の固形分に対して300ppm以上が好ましく、500ppm以上がより好ましい。一方、アルカリ成分の含有量が過度に大きいと、残存アルカリ量を低下させることが困難となる場合があるため、易滑層形成用組成物に含まれるアルカリ成分の量は、易滑層形成用組成物の固形分に対して50000ppm以下が好ましく、10000ppm以下がより好ましく、5000ppm以下がさらに好ましい。前述のように、易滑層形成用組成物に含まれるアルカリ成分の具体例としては、アミンおよびアンモニアが挙げられ、これらのアルカリ成分の含有量の合計が上記範囲内であることが好ましい。」

(ウ)甲1発明の「μg/g」という単位は、百万分の一を意味する無次元量であって、本件発明1の「ppm」という単位は、「parts per million」の略記であり、百万分の一を意味する無次元量であるから、両者は百万分の一を意味する同一の無次元量である。
(エ)上記(ア)?(ウ)によれば、甲1発明の「塩基成分量Sが0μg/g≦S≦20μg/g」という数値範囲は、本件発明1の「アミンおよびアンモニアの含有量の合計が5?75ppm」という数値範囲と一部重複するものであるが、本件発明は、「易滑層」の「厚みが280nm以下」であり、「易滑層中」の「無機微粒子の含有量が10?50重量%である」と規定するものにおいて、易滑層形成用組成物として含有する微粒子の分散性を高めるために用いられた300?500ppm以上のアルカリ成分(アミンやアンモニア等)を、光学フィルムの加湿環境における耐久性向上を目的として、加熱により揮発させた際に不可避的に残存する「アミンおよびアンモニアの含有量」を規定するものであり、この点甲1には記載も示唆もない。
したがって、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるということができない。

(3)本件発明2-4、6-18について
本件発明2-4、6-18は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明1と同様の理由から、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができない。

(4)本件発明5について
本件発明5は、本件訂正により削除されたので、本件発明5に係る特許異議の申立ては却下されるべきものである。


第5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1-4、6-18に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことができず、また、他に本件発明1-4、6-18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明フィルム基材の表面に易滑層を備える光学フィルムであって、
前記易滑層は、バインダ樹脂、および無機微粒子を含有し、厚みが280nm以下であり、
前記易滑層中の前記無機微粒子の含有量が10?50重量%であり、
前記易滑層のアミンおよびアンモニアの含有量の合計が5?75ppmである、光学フィルム。
【請求項2】
前記易滑層の厚みが40nm以上である、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記透明フィルム基材と前記易滑層との界面において、前記無機微粒子が前記透明フィルム基材に埋設している領域が存在する、請求項1または2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記無機微粒子の平均一次粒子径が10?250nmである、請求項1?3のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記透明フィルム基材がアクリル系フィルムである、請求項1?4のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項7】
前記易滑層の前記バインダ樹脂がウレタン系樹脂である、請求項1?4および6のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項8】
請求項1?4,6および7のいずれか1項に記載の光学フィルムを製造する方法であって、
透明フィルム基材の表面に、バインダ樹脂またはその前駆物質、無機微粒子、アミンおよびアンモニアからなる群から選択される1種以上のアルカリ成分、ならびに溶媒を含有する易滑層形成用組成物を塗布し、
前記透明フィルム基材のガラス転移温度よりも10℃以上高い温度で前記易滑層形成用組成物を加熱して、前記溶媒および前記アルカリ成分を揮発させる、光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記アルカリ成分が、前記無機微粒子の分散促進作用を有する、請求項8に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記易滑層形成用組成物は、前記バインダ樹脂の前駆物質としてポリウレタン前駆物質を含有し、前記アルカリ成分として第三級アミンを含む、請求項8または9に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記易滑層形成用組成物が、前記アルカリ成分として、沸点が150℃以下のアミンを含む、請求項8?10のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記透明フィルム基材のガラス転移温度よりも10℃以上高い温度で前記易滑層形成用組成物を加熱しながら、前記易滑層形成用組成物を塗布した前記透明フィルム基材を少なくとも1方向に延伸する、請求項8?11のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項13】
第一主面および第二主面を有するポリビニルアルコール系偏光子、および前記偏光子の第一主面に接着剤層を介して貼り合わせられた透明フィルムを備え、
前記透明フィルムが請求項1?4,6および7のいずれか1項に記載の光学フィルムである、偏光板。
【請求項14】
前記光学フィルムの易滑層非形成面が、前記偏光子の第一主面に貼り合わせられている、請求項13に記載の偏光板。
【請求項15】
前記光学フィルムの易滑層非形成面が、光カチオン重合性の接着剤、または光カチオン重合と光ラジカル重合のハイブリッド型接着剤を介して、前記偏光子の第一主面に貼り合わせられている、請求項14に記載の偏光板。
【請求項16】
前記光学フィルムの易滑層形成面が、前記偏光子の第一主面に貼り合わせられている、請求項13に記載の偏光板。
【請求項17】
前記光学フィルムの易滑層形成面が、光ラジカル重合性の接着剤を介して前記偏光子の第一主面に貼り合わせられている、請求項16に記載の偏光板。
【請求項18】
画像表示セルと、請求項13?17のいずれか1項に記載の偏光板とを有する、画像表示装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-04-27 
出願番号 特願2019-133317(P2019-133317)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岩田 行剛河内 浩志  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 藤原 直欣
村山 達也
登録日 2020-01-10 
登録番号 特許第6644932号(P6644932)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 光学フィルムおよびその製造方法、偏光板、ならびに画像表示装置  
代理人 新宅 将人  
代理人 特許業務法人はるか国際特許事務所  
代理人 新宅 将人  
代理人 特許業務法人はるか国際特許事務所  
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