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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  A23J
審判 一部申し立て 2項進歩性  A23J
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23J
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23J
管理番号 1376694
異議申立番号 異議2020-700419  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-17 
確定日 2021-06-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6623148号発明「大豆(「S701」)からの可溶性タンパク質溶液の製造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6623148号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?54〕について訂正することを認める。 特許第6623148号の請求項1?7、9?11に係る特許を維持する。 特許第6623148号の請求項8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6623148号についての出願は、2009年(平成21年)10月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年10月21日 アメリカ合衆国(US)、2008年12月2日 アメリカ合衆国(US)、2009年1月26日 アメリカ合衆国(US)、2009年3月12日 アメリカ合衆国(US)、2009年7月7日 アメリカ合衆国(US)、2009年9月3日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする特願2011-532470号の一部を特許法第44条第1項の規定により平成26年5月28日に新たな特許出願とした特願2014-110273号の一部を特許法第44条第1項の規定により平成28年12月21日に新たな特許出願とした特願2016-247750号であって、令和1年11月29日にその発明について特許権の設定登録がなされ、令和1年12月18日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和2年6月17日に特許異議申立人不二製油株式会社(以下「申立人」という)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和2年9月1日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和2年12月7日付けで意見書を提出し、訂正の請求を行った。当審は、申立人に対して、令和3年1月29日付けで訂正請求があった旨の通知をしたが、申立人からの応答はなかった。

第2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許権者は、令和2年12月7日に訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)を行った。本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1?6のとおりである。

[訂正事項1]
請求項1の
「該大豆タンパク質製品は、フィチン酸を1.5wt%未満含有し、
但し、前記水性媒体は、逆浸透精製水であることを特徴とする、」を、
「該大豆タンパク質製品は、フィチン酸を1.5wt%未満含有し、
該大豆タンパク質製品は、少なくとも90wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質含量を有し、但し、前記水性媒体は、逆浸透精製水であることを特徴とする、」に訂正する。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2乃至7、及び請求項9を同様に訂正する。

[訂正事項2]
請求項8を削除する。

[訂正事項3]
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項10を、請求項1と同様に訂正し、加えて、請求項10の引用先から請求項8を削除する。

[訂正事項4]
請求項10を引用して間接的に請求項1を引用する請求項11を、請求項1と同様に訂正する。

[訂正事項5]
請求項1を直接引用する請求項12を、請求項1と同様に訂正する。

[訂正事項6]
請求項12乃至53のいずれかを引用して間接的に請求項1を引用する請求項13乃至54を、請求項1と同様に訂正し、加えて、請求項31については、引用先を請求項16から17に訂正する。

(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?54について,請求項2?54は,請求項1を直接又は間接的に引用するものであり,上記訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから,訂正前の請求項1?54は,一群の請求項である。
したがって,本件訂正は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。

(3)願書に添付した特許請求の範囲の訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
請求項1に係る「該大豆タンパク質製品は、少なくとも90wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質含量を有し、」との訂正は、訂正前の請求項1において、「少なくとも60wt%(N×6.25)d.b.」とされていたタンパク質含量をさらに限定して、「少なくとも90wt%(N×6.25)d.b.」とするものであるから、請求項1に「該大豆タンパク質製品は、少なくとも90wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質含量を有し、」を加える訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、大豆タンパク質製品が「少なくとも90wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質含量を有」するという事項は、願書に添付した特許請求の範囲の訂正前の請求項8に記載されていた事項であるから、当該訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、新規事項の追加に該当しない。
さらに、当該訂正は、カテゴリーの変更もないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項8を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。また、実質上特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものではない。

ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項10について、訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用して、間接的に訂正後の請求項1に記載された訂正前の請求項8の要件を引用することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3は、訂正事項2に整合させるために、訂正前の請求項10の引用先から請求項8を削除するものであるから、当該訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項の追加に該当しない。

エ 訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項11について、訂正後の請求項10を引用して、間接的に訂正後の請求項1に記載された訂正前の請求項8の内容を引用することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項の追加に該当しない。

オ 訂正事項5について
訂正事項5は、訂正後の請求項1を直接引用して、訂正後の請求項1に記載された訂正前の請求項8の内容を引用することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項5は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項の追加に該当しない。

カ 訂正事項6について
訂正事項6は、請求項13乃至54の訂正について、請求項12乃至53のいずれかを引用して、間接的に訂正後の請求項1を引用して、訂正後の請求項1に記載された訂正前の請求項8の内容を引用することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、当該訂正事項6は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項の追加に該当しない。
請求項31の引用先を請求項16から請求項17に変更する訂正が、誤記の訂正であるかについて検討する。
訂正事項が誤記の訂正を目的としたものとして認められるためには、請求項中の記載が、それ自体で、又は特許された明細書の記載との関係で誤りであることが明らかであり、かつ、特許がされた明細書又は特許請求の範囲の記載全体から、正しい記載が自明な事項として定まることが必要である。
訂正前の請求項31は、訂正前の請求項16に記載の希釈ステップを、「2?70℃の温度を有する1?10倍容の水を用いて実施して、前記大豆蛋白質水溶液の4?18mSの伝導率をもたらすこと」との記載により、より具体的に限定するものであるところ、訂正前の請求項16の記載は、「前記大豆蛋白質水溶液を吸着液で処理して、大豆タンパク質水溶液から色および/または臭気化合物を除去するステップをさらに有することを特徴とする、請求項12?15のいずれか一項に記載の方法。」であり、希釈ステップに関する記載が一切ない。一方、訂正前の請求項17の記載は、「前記大豆タンパク質水溶液を、70mS未満の伝導率まで希釈するステップをさらに有することを特徴とする、請求項12?16のいずれか一項に記載の方法。」であり、希釈ステップについて規定されている。他方、その他の訂正前の請求項には「希釈ステップ」に関する記載は一切ない。以上より、訂正前の請求項31の引用先である訂正前の請求項16が、訂正前の請求項17の誤記であることは明らかである。
よって、請求項31の引用先を請求項16から請求項17に変更する訂正は、誤記の訂正を目的とするものである。

(4)独立特許要件について
請求項12?54は、上記第2(3)オ?カに示したとおり、特許請求の範囲の減縮及び誤記の訂正を目的とする訂正がされたものである。
そして、請求項12?54は、特許異議の申立てがされていない請求項であるから、訂正後の請求項12?54に係る発明について、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件を満たす必要がある。
訂正前の請求項12?54は、特許異議の申立ての対象とされておらず、取消理由の対象ともされていないものであって、訂正前の請求項12?54に対して特許請求の範囲の減縮及び誤記の訂正を目的とする訂正がされた訂正後の請求項12?54に係る発明については、これを独立して特許することができないとする理由を発見しないので、独立特許要件を満たす。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第7項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?54について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?7、9?54に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1?7、9?54に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
少なくとも60wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質含量を有する大豆タンパク質製品であって、
該大豆タンパク質製品は、4.4未満のpHの水性媒体において、1%タンパク質w/vで実質的に完全に可溶であり、
該大豆タンパク質製品は、さらに、下記の(b)?(f)から任意に選択される少なくとも一つの特徴を具え:
(b)該大豆タンパク質製品は、pH7の水性媒体において、1%タンパク質w/vで実質的に完全に可溶である;
(c)該大豆タンパク質製品は、pH2?4の水において1%タンパク質w/vで95%を超える溶解度を有する;
(d)該大豆タンパク質製品は、pH2?4の1%タンパク質w/vの水溶液において、0.150未満の、600nmでの可視光線の吸光度(A600)を有する;
(e)該大豆タンパク質製品は、pH2?4の1%タンパク質w/vの水溶液において、15%未満のヘイズ値を有する;または
(f)該大豆タンパク質製品は、95℃で30秒間の熱処理後の2%タンパク質w/v水溶液が、15%未満のヘイズ値を有する、
該大豆タンパク質製品は、フィチン酸を1.5wt%未満含有し、
該大豆タンパク質製品は、少なくとも90wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質含量を有し、
但し、前記水性媒体は、逆浸透精製水であることを特徴とする、大豆タンパク質製品。
【請求項2】
前記(d)に記載する、600nmでの可視光線の吸光度(A600)が0.100未満である、ことを特徴とする、請求項1に記載の大豆タンパク質製品。
【請求項3】
前記(d)に記載する、600nmでの可視光線の吸光度(A600)が0.050未満であることを特徴とする、請求項2に記載の大豆タンパク質製品。
【請求項4】
前記(e)に記載する、ヘイズ値が10%未満であることを特徴とする、請求項1に記載の大豆タンパク質製品。
【請求項5】
前記(e)に記載する、ヘイズ値が5%未満であることを特徴とする、請求項4に記載の大豆タンパク質製品。
【請求項6】
前記(f)に記載する、ヘイズ値が10%未満であることを特徴とする、請求項1に記載の大豆タンパク質製品。
【請求項7】
前記(f)に記載する、ヘイズ値が5%未満であることを特徴とする、請求項6に記載の大豆タンパク質製品。
……
【請求項9】
前記大豆タンパク質製品は、少なくとも100wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質含量を有することを特徴とする、請求項1?7のいずれか一項に記載の大豆タンパク質製品。
【請求項10】
2?4のpH値で熱安定性である、請求項1?7及び9のいずれか一項に記載の大豆タンパク質製品の水溶液。
【請求項11】
前記水溶液は、大豆タンパク質製品がその中で完全に可溶および透明である透明な飲料であるか、又はその中に溶解した大豆タンパク質製品が不透明度を増大させない不透明な飲料であることを特徴とする、請求項10に記載の水溶液。
【請求項12】
請求項1に記載の大豆タンパク質製品を調製する方法であって、
該調製方法は、下記のステップ(a)?(c)を含み、
(a)カルシウム塩水溶液を使用して、大豆タンパク質源を抽出するステップ、
(b)残留する大豆タンパク質源から大豆タンパク質水溶液を分離するステップ、
(c)前記大豆タンパク質水溶液のpHを、pH1.5?4.4に調整して、透明な酸性化大豆タンパク質水溶液を生成するステップ、
該調製方法は、さらに、
前記透明な酸性化大豆タンパク質水溶液を、そのイオン強度を実質的に一定に維持しながら、濃縮して、50?300g/Lのタンパク質濃度の濃縮した透明な酸性化大豆タンパク質水溶液を調製するステップを含み;
前記濃縮ステップは、10,000?1000,000ダルトンの分画分子量を有する膜を使用して実施され;
前記濃縮した透明な酸性化大豆タンパク質水溶液を乾燥させて、前記大豆タンパク質製品を得ることを特徴とする、大豆タンパク質製品の調製方法。
【請求項13】
前記ステップ(a)のカルシウム塩水溶液は酸化防止剤を含むことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ステップ(a)のカルシウム塩水溶液は、塩化カルシウム水溶液であり、使用される塩化カルシウムは、食品グレードの塩化カルシウムであることを特徴とする、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記ステップ(a)のカルシウム塩水溶液は0.10?0.15Mの濃度を有する塩化カルシウム水溶液であることを特徴とする、請求項12?14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記大豆タンパク質水溶液を吸着剤で処理して、大豆タンパク質水溶液から色および/または臭気化合物を除去するステップをさらに有することを特徴とする、請求項12?15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記大豆タンパク質水溶液を、70mS未満の伝導率まで希釈するステップをさらに有することを特徴とする、請求項12?16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ステップ(c)では、前記大豆タンパク質水溶液のpHを、pH2?4に調整することを特徴とする、請求項12?17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
100?200g/Lのタンパク質濃度を有する濃縮した透明な酸性化大豆タンパク質溶液を生成することを特徴とする、請求項12?18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
濃縮した透明な酸性化大豆タンパク質溶液を、吸着剤により処理して、色及び/又は臭気化合物を除去するステップをさらに有することを特徴とする、請求項12?19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
濃縮した透明な酸性化大豆タンパク質溶液を透析濾過するステップをさらに有することを特徴とする、請求項12?20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
濃縮及び透析濾過をした透明な酸性化大豆タンパク質溶液を、吸着剤により処理して、色及び/又は臭気化合物を除去するステップをさらに有することを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
濃縮及び透析濾過をした透明な酸性化大豆タンパク質溶液を、低温殺菌するステップをさらに有することを特徴とする、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
55?70℃の温度で30秒間?60分間、前記低温殺菌を行うことを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
55?70℃の温度で10?15分間、前記低温殺菌を行うことを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
濃縮し、透析濾過をした大豆タンパク質溶液を、乾燥して、少なくとも60wt%(N×6.25)d.b.の、タンパク質含量を有する大豆タンパク質製品を生成するステップをさらに有することを特徴とする、請求項21?25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
濃縮し、透析濾過をした透明な酸性化大豆タンパク質溶液を、乾燥して、少なくとも90wt%(N×6.25)d.b.の、タンパク質含量を有する大豆タンパク質製品を生成するステップをさらに有することを特徴とする、請求項21?25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
濃縮し、透析濾過をした透明な酸性化大豆タンパク質溶液を、乾燥して、少なくとも100wt%(N×6.25)d.b.の、タンパク質含量を有する大豆タンパク質製品を生成するステップをさらに有することを特徴とする、請求項21?25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記抽出ステップが15?35℃の温度で実施されることを特徴とする、請求項12?28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記カルシウム塩水溶液がpH5?7を有することを特徴とする、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記希釈ステップを、2?70℃の温度を有する1?10倍容の水を用いて実施して、前記大豆タンパク質水溶液の4?18mSの伝導率をもたらすことを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項32】
前記水は、10?50℃の温度を有することを特徴とする、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記水は、20?30℃の温度を有することを特徴とする、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記透明な酸性化大豆タンパク質溶液は70mS未満の伝導率を有することを特徴とする、請求項12?33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記伝導率は4?23mSであることを特徴とする、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記透明な酸性化大豆タンパク質水溶液に熱処理ステップを施して、熱不安定性の抗栄養因子を不活性化し、及び/又は熱処理ステップでは、透明な酸性化大豆タンパク質水溶液の低温殺菌も行うことを特徴とする、請求項12?35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
熱不安定性の抗栄養因子は熱不安定性のトリプシン阻害剤であることを特徴とする、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記熱処理は、70?100℃の温度で10秒間?60分間、実施されることを特徴とする、請求項36または37に記載の方法。
【請求項39】
前記熱処理は、85?95℃の温度で20秒間?5分間、実施されることを特徴とする、請求項36または37に記載の方法。
【請求項40】
前記熱処理をした透明な酸性化大豆タンパク質単離物がさらなる処理のために2?60℃の温度まで冷却されることを特徴とする、請求項36?39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記熱処理をした透明な酸性化大豆タンパク質単離物がさらなる処理のために20?35℃の温度まで冷却されることを特徴とする、請求項36?39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
透明な酸性化大豆タンパク質溶液に対して、その部分的または完全な濃縮の前または後に、水または酸性化した水を使用して前記透析濾過ステップが実施されることを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項43】
酸化防止剤の存在下で、前記透析濾過ステップが実施されることを特徴とする、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
2?40倍容の透析濾過溶液を使用して、前記透析濾過ステップが実施されることを特徴とする、請求項42または43に記載の方法。
【請求項45】
5?25倍容の透析濾過溶液を使用して、前記透析濾過ステップが実施されることを特徴とする、請求項42または43に記載の方法。
【請求項46】
さらなる量の汚染物質および可視色が透過液中に存在しなくなるまで、前記透析濾過ステップが実施されることを特徴とする、請求項42?45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
乾燥すると、少なくとも90wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質含量を有する大豆タンパク質単離物が生成するように保持液を十分に精製するまで、前記透析濾過ステップが実施されることを特徴とする、請求項42?46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記濃縮ステップ及び/又は前記透析濾過ステップが、10,000?1,000,000ダルトンの分画分子量を有する膜を使用して実施されることを特徴とする、請求項19?21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記濃縮ステップ及び/又は前記透析濾過ステップが、10,000?100,000ダルトンの分画分子量を有する膜を使用して実施されることを特徴とする、請求項19?21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記濃縮ステップ及び/又は前記透析濾過ステップが、2?60℃の温度で実施されることを特徴とする、請求項19?21、48および49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記濃縮ステップ及び/又は前記透析濾過ステップが、20?35℃の温度で実施されることを特徴とする、請求項19?21、48および49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
イオン強度を実質的に一定に維持しながら、濃縮して、濃縮した透明な酸性化大豆タンパク質溶液を調製し、次いで、該濃縮した透明な酸性化大豆タンパク質溶液を、透析濾過して、乾燥すると少なくとも60wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質濃度を有する大豆タンパク質製品を生成する、濃縮および透析濾過をした透明な酸性化大豆タンパク質溶液を生成することを特徴とする、請求項19?51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記濃縮ステップが、トリプシン阻害剤の除去に好都合な様式で操作されることを特徴とする、請求項19?21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
(a)抽出ステップの間、及び/又は、
(b)濃縮ステップの間、及び/又は、
(c)乾燥ステップの前に、濃縮した透明な酸性化大豆タンパク質溶液中に、
還元剤が存在することにより、トリプシン阻害剤のジスルフィド結合を破壊または再配置して、トリプシン阻害剤活性の低減を実現することを特徴とする、請求項12?53のいずれか一項に記載の方法。」
(以下、請求項順にそれぞれ「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明3」、「本件発明4」、「本件発明5」、「本件発明6」、「本件発明7」、「本件発明9」、「本件発明10」、「本件発明11」、「本件発明12」、「本件発明13」、「本件発明14」、「本件発明15」、「本件発明16」、「本件発明17」、「本件発明18」、「本件発明19」、「本件発明20」、「本件発明21」、「本件発明22」、「本件発明23」、「本件発明24」、「本件発明25」、「本件発明26」、「本件発明27」、「本件発明28」、「本件発明29」、「本件発明30」、「本件発明31」、「本件発明32」、「本件発明33」、「本件発明34」、「本件発明35」、「本件発明36」、「本件発明37」、「本件発明38」、「本件発明39」、「本件発明40」、「本件発明41」、「本件発明42」、「本件発明43」、「本件発明44」、「本件発明45」、「本件発明46」、「本件発明47」、「本件発明48」、「本件発明49」、「本件発明50」、「本件発明51」、「本件発明52」、「本件発明53」、「本件発明54」という。)

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1?7、10、11に係る特許に対して、当審が令和2年9月1日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
請求項1?7、10、11に係る発明は、引用例1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1?7、10、11に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)引用例1及びその記載
引用例1:国際公開第02/067690号(異議申立書で証拠方法とされた「甲第1号証」。)

記載(1a)
「技術分野
本発明は、酸性域で良好な溶解性を示し、酸性食品に有効に使用され得る大豆蛋白質素材及びその製造法並びに、これを用いた蛋白食品及びその製造法に関する。」(1頁6?9行)

記載(1b)
「実施例1<調製法:フィターゼ処理>
大豆を圧扁し、n-へキサンを抽出溶媒として油を抽出分離除去して得られた低変性脱脂大豆(窒素可溶指数(NSI):91)1重量部に7重量部の水を加え、希水酸化ナトリウム溶液でpH7に調整し、室温で1時間攪拌しながら抽出後、4,000Gで遠心分離しオカラおよび不溶分を分離し、脱脂豆乳を得た。この脱脂豆乳をリン酸にてpH4.5に調整後、連続式遠心分離機(デカンタ一)を用い2,000Gで遠心分離し、不溶性画分(酸沈殿カード)および可溶性画分(ホエー)を得た。酸沈殿カードを固形分10重量%になるように加水し酸沈殿カードスラリーを得た。これをリン酸でpH3.5に調整した後40℃になるように加温した。これらの溶液(フィチン酸含量1.96重量%/固形分、TCA可溶化率4.6%)に固形分あたり8unit相当のフィターゼ(新日本化学工業社製「スミチームPHY」)を加え、30分間酵素作用を行った。反応後この酵素作用物(フィチン酸含量0.04重量%/固形分、TCA可溶化率4.7%)をリン酸または水酸化ナトリウムでpH3.0、3.5、4.0に調整し、それぞれ連続式直接加熱殺菌装置にて120℃15秒間加熱した。これらを噴霧乾燥し大豆蛋白質粉末を得た。
本実施例中のpH3.5で処理して得られた大豆蛋白質粉末のグロブリン含量を、SOYA PROTEIN ASSAY KIT(Tepnel Bio Systems Ltd.社製)を用いELISA法により測定したところ、固形分あたり74.0重量%であり、本蛋白はグロブリンを主成分とするものであった。」(14頁6行?15頁8行)

記載(1c)
「実施例1?5および比較例1で得られた粉末を各々蛋白分が5重量%になるように分散させ十分撹拌した溶液を調製した。この溶液をpH3.5、4.0、4.5に希アルカリまたは希酸溶液でpHを調整し、溶解率・透過率の測定および保存テストを実施した。保存テストは各溶液を95℃達温で加熱殺菌し、冷蔵庫中30日間保存し沈殿状況の目視観察により実施した。それらの結果を表1に示した。」(17頁5?12行)

記載(1d)


」(18頁)

記載(1e)
「<溶解率・透過率・TCA可溶化率>
本発明で用いる溶解率(%)は蛋白の溶媒に対する可溶化の尺度であり、次のようにして定義する。つまり、蛋白粉末を蛋白質分が5.0重量%になるように水に分散させ十分撹拌した溶液を、必要に応じてpHを調整した後、10,000G×5分間遠心分離した上清蛋白の全蛋白に対する割合をケルダール法、ローリ一法等の蛋白定量法により測定したものである。
本発明で用いる透過率(%T)は蛋白を含んだ溶液の透明性の尺度であり、次のようにして定義する。つまり、蛋白粉末を蛋白質分が5.0重量%になるように水に分散させ十分撹拌した溶液を、必要に応じてpHを調整した後、分光光度計(日立社製:U-3210自記分光光度計)にて1cmセルを使用し600nmでの透過率(%T)を測定する。」(6頁19行?7頁7行)

記載(1f)
「実施例10 <飲料の応用例>
実施例1で得られた粉末(加熱pH3.5)8.0部、果糖ブドウ糖液(日本コーンスターチ社製)8.0部、5倍濃縮リンゴ果汁(フードマテリアル社製)2.0部、リンゴ香料(高砂香料社製)0.2部、水81.8部の配合で十分に撹拌混合し、クエン酸ナトリウムでpHを3.8に調整後、95℃達温加熱殺菌し、酸性大豆蛋白質飲料を試作した。得られた飲料は、透明性が高く保存安定性も高いもので、また安定剤・乳化剤フリーにより粘度が低く飲みやすいものであった。」(28頁11?20行)

記載(1g)
「<加熱・乾燥処理>
ポリアニオン物質の除去法としての低フィチン化処理を行いフィチン酸含量を対蛋白重量あたり1重量%以下に低減させる、若しくは二価以上の金属イオンを添加する、又はポリカチオン物質を添加する、或いはさらにそれらを組み合わせた処理を行った大豆蛋白質を含む溶液を固形分3重量%?18重量%、好ましくは固形分8重量%?14重量%でかつpHを2.3?4.3に調整し、100?160℃、好ましくは105℃?145℃で加熱する。pH2.3未満の場合透明性の高い蛋白溶液が得られるものの、使用酸量が著しく増大し、蛋白の風味、実用性の面から好ましくない。」(11頁14?25行)

記載(1h)
「本発明者等は、pHが4.6未満である酸性食品に広く利用できる、pH3.0?4.5で可溶であり、その溶液が外観上好ましい透明性と優れた保存安定性を有し、かつ乳化力、ゲル形成力などの機能性も有した大豆蛋白質を製造するにあたり、鋭意研究を重ねた結果、下記に示す処理を実施することで、元々白濁していた蛋白溶液が透明性を有した可溶化状態になることを発見した。その処理とは、大豆蛋白質を含む溶液において、系中の大豆蛋白質のプラスの表面電荷を増加させる処理として、(A)該溶液中の原料蛋白質由来のポリアニオン物質を除去するか不活性化する処理・・・を行った後、該蛋白質の等電点のpHより酸性域で、100℃を超える温度での加熱処理を行うことである。・・・
系中の大豆蛋白質のプラスの表面電荷を増加させる処理として、一般に植物蛋白に含まれるフィチン酸のようなポリアニオン物質を除去するか若しくは不活性化する処理・・・があげられる。」(4頁21行?5頁21行)

記載(1i)
「本発明の実施においてフィチン酸の低減効果はフィチン酸量が少なくなる程可溶化効果は高くなる」(8頁25?26行)

記載(1j)
「pH4.5以下での溶解率が90%以上で、かつ600nmでの透過率(蛋白5重量%溶液)が20%T以上であり、かつ0.22M/TCA可溶化率が20%以下である、グロブリンを主成分とする請求項6に記載の大豆蛋白質素材。」(31頁5?9行)


(3)引用例1に記載された発明
引用例1には、記載(1a)より、酸性での溶解性や安定性に優れ、酸性食品に有利に利用される大豆蛋白質素材、並びにその蛋白素材を用いる酸性食品に関する技術が記載されている。
また、記載(1b)より、引用例1の実施例1では、フィチン酸含量0.04重量%/固形分の酵素作用物を、リン酸または水酸化ナトリウムでpH3.0、3.5、4.0に調整し、それぞれ連続式直接加熱殺菌装置にて120℃15秒間加熱し、これらを噴霧乾燥することにより大豆蛋白質粉末を得たこと、並びに本実施例中のpH3.5で処理して得られた大豆蛋白質粉末をELISA法によりグロブリン含量を測定したところ固形分あたり74.0重量%であったことが記載されている。
そして、記載(1c)、および(1d)より、引用例1の実施例1で得られた大豆蛋白質粉末の5重量%水溶液であってpH3.5または4.0に調整した溶液の溶解率および透過率は、pH3.5の溶液で溶解率99%、透過率83.3%であり、pH4.0の溶液で溶解率98%、透過率82.8%であったことが記載されており、記載(1e)の記載から、該透過率は大豆蛋白質粉末の5重量%水溶液を1cmセルを使用し600nmで測定した透過率(%T)であることが記載されている。
そうすると、フィチン酸含量0.04重量%/固形分の酵素作用物を乾燥噴霧して得られた大豆蛋白質粉末は同程度の含量でフィチン酸を含有するといえるから、引用例1には、フィチン酸含量が0.04重量%の大豆蛋白質粉末が記載されているといえる。さらに、グロブリンはタンパク質の一種であるため、引用例1には、タンパク質含量が少なくとも74.0重量%の大豆蛋白質粉末が記載されているといえる。
以上のことから、引用例1には、
「少なくとも74.0重量%のタンパク質含量を有する大豆蛋白質粉末であって、
該大豆蛋白質粉末は、5重量%水溶液の溶解率が、pH3.5において99%であり、かつpH4.0において98%であり、
該大豆蛋白質粉末は、5重量%水溶液を1cmセルを使用し600nmで測定した透過率(%T)が、pH3.5において83.3%であり、かつpH4.0において82.8%であり、
該大豆蛋白質粉末は、フィチン酸を0.04重量%で含有する、
大豆蛋白質粉末。」
の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

(4)当審の判断
ア 請求項1について
引用発明1における「大豆蛋白質粉末」は、本件発明1における「大豆タンパク質製品」に相当する。
そうすると、本件発明1と、引用発明1とは、「フィチン酸を1.5%未満含有する大豆タンパク質製品」である点で一致し、
該大豆タンパク質製品の物性について、
本件発明1は、「少なくとも90wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質含量を有する」とされているのに対して、引用発明1は、「少なくとも74.0重量%のタンパク質含量を有する」とされている点(以下、「相違点1」という)、
本件発明1は、「4.4未満のpHの水性媒体において、1%タンパク質w/vで実質的に完全に可溶であり、……、但し、前記水性媒体は逆浸透精製水である」とされるのに対して、引用発明1は、「5重量%水溶液の溶解率が、pH3.5において99%であり、かつpH4.0において98%であり」とされる点(以下、「相違点2」という)、ならびに
本件発明1は、「さらに、下記の(b)?(f)から任意に選択される少なくとも一つの特徴を具え:
(b)該大豆タンパク質製品は、pH7の水性媒体において、1%タンパク質w/vで実質的に完全に可溶である;
(c)該大豆タンパク質製品は、pH2?4の水において1%タンパク質w/vで95%を超える溶解度を有する;
(d)該大豆タンパク質製品は、pH2?4の1%タンパク質w/vの水溶液において、0.150未満の、600nmでの可視光線の吸光度(A600)を有する;
(e)該大豆タンパク質製品は、pH2?4の1%タンパク質w/vの水溶液において、15%未満のヘイズ値を有する;または
(f)該大豆タンパク質製品は、95℃で30秒間の熱処理後の2%タンパク質w/v水溶液が、15%未満のヘイズ値を有する」(但し、水性媒体は逆浸透精製水である)のに対して、引用発明1は、(b)?(f)の特徴について特定されていない点(以下、「相違点3」という)、
で相違する。

そこで、相違点についてさらに検討すると、
上記相違点1について、本件発明1のタンパク質含量は、「少なくとも90wt%(N×6.25)d.b.」は、発明の詳細な説明の段落0004の「大豆タンパク質単離物は、乾燥重量基準(d.b.)で少なくとも約90wt%(N×6.25)」との記載及び段落0252の「Leco FP528窒素測定器を使用してタンパク質含量の定量を実施した。」との記載から、乾燥重量基準のタンパク質含量であって、Leco FP528窒素測定器を使用して窒素含有量を測定し、食品分野において汎用のタンパク質含量算出手段である、測定された窒素含有量に窒素・タンパク質換算係数6.25を掛けることにより算出する手段を用いて決定されるものであると解されるところ、引用発明1のタンパク質含量は、記載(2b)より、固形分基準であって、ELISA法によって測定されたものであるが、窒素・タンパク質換算係数を用いて決定される乾燥重量基準のタンパク質含量とELISA法によって測定される固形分基準のタンパク質含量とは、およそ同じ値であると認められる。してみると、本件発明1では「少なくとも90wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質含量を有する」とされる一方、引用発明1では「少なくとも74.0重量%のタンパク質含量を有する」とされる点は、実質的な相違点である。
相違点1は実質的な相違点であるので、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件発明1は、引用例1に記載された発明ではない。

イ 請求項2?7、10、11について
請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2?7、10、11にかかる、本件発明2?7、10?11も、上記アで検討した本件発明1と同様に、引用例1に記載された発明とは、少なくとも、実質的な相違点である相違点1で相違するから、本件発明2?7、10?11は、引用例1に記載された発明ではない。

ウ 申立人の主張について
申立人は、異議申立書において、証拠方法として次の(イ)に示す甲号証を提出して、以下の主張をしている。

「(ア)本件発明1、2と甲第1号証に記載された発明とを対比する。
上記「イ 引用発明」の甲第1号証記載事項の(ア-1)(当審注:記載(1j))には、pH4.5以下での溶解率が90%以上で、600nmでの透過率(蛋白5重量%溶液)が20%T以上の大豆蛋白質素材が記載されている。
また、同記載事項の(ア-2)(当審注:記載(1h)の一部)には、pH3.0?4.5で可溶であり、その溶液が外観上好ましい透明性と優れた保存安定性を有する大豆蛋白質を製造するにあたり、元々白濁していた蛋白溶液が透明性を有した可溶化状態になることを発見した、と記載されている。
また、同記載事項の(ア-5)(当審注:記載(1b)の一部)には、実施例1の大豆蛋白質粉末のフィチン酸量が0.04重量%であること、(ア-8)(当審注:記載(1d))には実施例1の大豆蛋白質の溶解度や透過率が優れている結果が記載されている。
また、(ア-6)(当審注:記載(1b)最終段落)には、実施例1の大豆蛋白について、ELISA法で測定した大豆グロブリン含量が74.0重量%であることが記載され、高蛋白含量であることがわかる。
従って、甲第1号証の発明と本件発明1、2とは、上記の通り、pH3.5や4.0において、溶解度が高く、透明性が高く、高蛋白含量の大豆蛋白質が記載されている点で一致する。
一方、甲第1号証には、本件発明のヘイズ値や600nmの吸光度、本件発明の方法で溶解度を測定したデータが記載されていないこと、窒素蒸留装置を使用して蛋白含量を測定していない点で一見相違する。
しかし、ヘイズ値は透明性の指標であるし、600nmの吸光度も透明性をみる指標である。一方、甲第1号証記載事項の(ア-4)(当審注:記載(1e)の一部)には、透過率について、透明性の尺度であることが記載されている。
また、溶解度についても溶液に対してどの程度溶解したかを表す指標であり、甲第1号証記載事項の(ア-2)(当審注:記載(1h)の一部)に記載された溶解率と同義の指標である。
また、甲第1号証記載事項の(ア-6)(当審注:記載(1b)最終段落)には、大豆蛋白質の蛋白含量について、「グロブリン含量を、SOYA PROTEIN ASSAY KIT(Tepnel Bio Systems Ltd.社製)を用いELISA法により測定したところ、固形分あたり74.0重量%であり、・・・」との記載があり、蛋白含量が高い大豆蛋白質が製造されていることがわかる。
甲第1号証には、本件発明のpHと重複するpH3.5、4.0の溶液において、大豆蛋白質素材の溶解率が高く、溶液の透明性が高いデータが記載されていることから、甲第1号証の大豆蛋白質素材も本件発明の透明性の指標であるヘイズ値または600nmの吸光度を満たす蓋然性が高く、また、本件発明の溶解度を満たす蓋然性が高い。
すなわち、本件発明1、2を満たす蓋然性が高い。
この点、次の(イ)項の甲第2号証で、甲第1号証の大豆蛋白質素材を分析した結果を示して説明する。
(イ)本件発明1、2と甲第2号証に記載された結果とを対比する。
甲第2号証は、甲第1号証に記載の方法で製造された大豆蛋白質について、蛋白含量、ヘイズ値、600nmの吸光度、溶解度について分析した結果を記載した実験成績証明書である。甲第2号証では、本件発明1の内容について、要件を4つに分け、要件A?Dとしている。
甲第2号証に記載された大豆蛋白質Aの分析値は、蛋白含量が82.0wt%、pH2.1の1%タンパク質w/vの水溶液で、溶解度が100%、吸光度(A600)が0.06であり、また、フィチン酸含量が0.04wt%である。つまり、甲第2号証に記載された大豆蛋白質Aは、本件発明1の要件A、C、D、要件Bのうち、(b)、(C)を満たし、また、本件発明2の要件を満たす結果となっている。
すなわち、甲第1号証の大豆蛋白質と本件発明1、2の大豆蛋白質とは区別がつかない。
従って、本件発明1、2は新規性がない。」(異議申立書の13頁13行?15頁8行)

(イ)甲号証及びその記載
a 甲第1号証:国際公開第02/067690号(引用例1と同じ。以下でも「引用例1」という。)

b 甲第2号証:2020年(令和2年)6月3日付け実験成績証明書(甲第1号証に記載の方法で製造した大豆蛋白素材について)(以下、「引用例2」という。)

記載(2a)
「実験成績証明書 2020年6月3日
・・・
1.大豆蛋白素材
1(丸の中に1)甲第1号証に記載の方法で製造した大豆蛋白質(以下、大豆蛋白質A)と称する。)
すなわち、大豆蛋白質Aを以下の方法で製造した。
大豆を圧扁し、n-ヘキサンを抽出溶媒として油を抽出分離除去して得られた低変性脱脂大豆(窒素可溶指数(NSI):91)1重量部に7重量部の水を加え、希水酸化ナトリウム溶液でpH7に調整し、室温で1時間撹拌しながら抽出後、4000Gで遠心分離しオカラおよび不溶分を分離し、脱脂豆乳を得た。
この脱脂豆乳をリン酸にてpH4.5に調整後、連続式遠心分離機(デカンター)を用い2000Gで遠心分離し、不溶性画分(酸沈殿カード)および可溶性画分(ホエー)を得た。酸沈殿カードを固形分10重量%になるように加水し酸沈殿カードスラリーを得た。これをリン酸でpH3.5に調整した後40℃になるように加温した。これらの溶液に固形分あたり8unit相当のフィターゼ(新日本化学工業社製「スミチームPHY」)を加え、30分間酵素作用を行った。反応後この酵素作用物をリン酸でpH2.1に調整し、それぞれ連続式直接加熱殺菌装置にて159℃ 15秒間加熱した。これらを噴霧乾燥し大豆蛋白質Aを得た。」(1頁1?17行)

記載(2b)「

」(2頁)

(ウ)本件発明1、2について
上記ア、イで検討したとおり、本件発明1、2と引用発明1は、実質的な相違点である相違点1を有するものであり、たとえ引用例2の記載を参酌しても、相違点1に係るタンパク質含量について、引用例1に記載されているとすることはできない。
したがって、申立人の上記主張を採用することはできず、本件発明1、2は、引用例2の記載を参酌しても、引用例1に記載されたものではない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立人の主張の概要
申立人は、異議申立書において、証拠方法として次の(2)に示す甲号証を提出して、以下の申立ての理由を主張している。

ア 請求項1?11に係る発明は、甲第2号証を参酌すると甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
イ 請求項1?7、10、11に係る発明は、甲第4号証の記載から、甲第3号証に記載の大豆ペプチド(ハイニュート DC6)は、特許出願前に公知のものであり、請求項1?7、10、11に係る発明は、甲第3号証に記載されたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
ウ この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?11に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない。
エ この出願の特許請求の範囲の記載は、請求項1?11に係る発明が、発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合しない。

(2)甲号証及びその記載

甲第1号証(引用例1)及び甲第2号証(引用例2)並びにそれらの記載については、上記第4(2)及び(4)ウ(イ)に示したとおりである。

甲第3号証:2020年(令和2年)6月3日付け実験成績証明書(ハイニュートDC6(不二製油株式会社製)について)(以下、「引用例3」という。)

記載(3a)
「実験成績証明書 2020年6月3日
・・・
本件発明の最先の優先日(2008年10月21日)前に公知であった大豆ペプチド製品である、ハイニュート DC6(不二製油株式会社製)について、本件特許の構成要件について分析した結果を報告する。
1.大豆ペプチド製品 ハイニュート DC6(LOT 20.07.17/01、不二製油株式会社製)」(1頁)

記載(3b)「

」(2頁)

甲第4号証:特開2006-271259号公報(公開日 平成18年10月12日(2006.10.12)(以下、「引用例4」という。)

記載(4a)
「大豆ペプチドとして、(商品名)ハイニュート-SMP(平均分子量455:不二製油株式会社製)、(商品名)ハイニュート-R(平均分子量455:不二製油株式会社製)、(商品名)ハイニュート-DC6(平均分子量715:不二製油株式会社製)を使用した。」(段落0022の11?14行)

(3)判断
ア 申立人の上記主張アについて
(ア)本件発明1について
上記第4(4)アで実質的な相違点であると判断した、相違点1について検討する。
引用例1には、酸性域で良好な溶解性を示す大豆蛋白質素材において、タンパク含量を90wt%以上とする旨の記載ないし示唆はなく、本件優先日に、酸性域で良好な溶解性を示す大豆蛋白質素材におけるタンパク含量を90wt%以上とする課題が周知であるともいえないことから、引用例1において、大豆蛋白質素材のタンパク含量を90wt%以上とする動機付けは存在しない。
また、本件優先日に、酸性域で良好な溶解性を示す大豆蛋白質素材においてタンパク含量を90wt%以上とする手段が技術常識であったともいえない。
したがって、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件発明1は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、申立人の上記主張アを採用することはできない。
(イ)本件発明2?7、9?11について
本件発明2?7、9?11は、本件発明1を引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、申立人の上記主張アを採用することはできない。

イ 申立人の上記主張イについて
申立人は、異議申立書の12頁20行?13頁10行において、
「(ウ)甲第3号証
大豆ペプチド製品であるハイニュートDC6について、本件発明の方法で溶解度やヘイズ値を分析した結果を記載した実験成績証明書である。
実験成績書によれば、本件発明の最先の優先日(2008年10月21日)前において公知であって、大豆ペプチド製品であるハイニュートDC6の溶解度やヘイズ値、吸光度(A600)の値が本件発明の請求項1?7、10、11の要件を満たす結果となっている。
(エ)甲第4号証
甲第4号証(特開2006-271259号公報、公開日:2006年10月12日)には以下の記載がある。
「大豆ペプチドとして、(商品名)ハイニュートSMP(平均分子量455:不二製油株式会社製、(商品名)ハイニュート-R(平均分子量455:不二製油株式会社製、(商品名)ハイニュート-DC6(平均分子量715:不二製油株式会社製)を使用した。)(段落0022、実施例2)
すなわち、甲第5号証(甲第3号証の誤記と認められる。)で用いた、ハイニュートDC6は、本件発明の最先の優先日である2008年10月21日の時点において、公知の大豆蛋白製品であるといえる。」と主張し、異議申立書の15頁9行?16頁8行において、
「(ウ)本件発明1?7、10、11と甲第3号証に記載された結果とを対比する。
甲第3号証は、大豆ペプチド製品であるハイニュートDC6(不二製油株式会社製)について、蛋白含量、pH4.0における、ヘイズ値、600nmの吸光度、溶解度について分析した結果を記載した実験成績証明書である。・・・
なお、ハイニュートDC6は甲第4号証で示されるように、本件発明の最先の優先日前に公知となっている大豆ペプチド製品である。
・・・
つまり、甲第3号証に記載されたハイニュートDC6は、本件発明1の要件A、要件Bの(b)?(f)、要件C、要件Dを満たし、また、本件発明2?7の要件も満たしている。
・・・また、本件発明10の要件を満たし、熱安定性のある水溶液が得られることから、その水溶液が飲料であるときも透明であるといえ、本件発明11の要件も満たす。
これらの結果から、甲第3号証のハイニュートDC6が、本件発明1?7、10、11の要件を満たす。
従って、本件発明1?7、10、11は、本件発明の最先の優先日前に公知となっている、ハイニュートDC6と区別がつかない。
従って、本件発明1?7、10、11は新規性がない。」と主張している。
しかしながら、引用例3は、本願の出願日の後に作成されたものであるから、引用例3は、特許法第29条第1項第3号にかかる特許出願前に頒布された刊行物には該当しない。よって、引用例3を根拠として、本件発明1?7、10、11が本願出願前に頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるとすることはできない。
念のため、本件発明1?7、10、11が、引用例3の記載を参酌すると引用例4に記載されたものであるといえるかについて検討する。引用例4には、記載(4a)から、ハイニュートDC6が記載されているところ、一般に、同じ商品名であっても、製造された時期やロットにより内容が異なる場合があり、引用例4が公開された当時のハイニュートDC6と、引用例3の作成時のハイニュートDC6が、物質として何ら変わっていないという立証がなされていないことから、引用例3の実験成績証明書の結果をもって、引用例4に記載されたハイニュートDC6が、本件発明1?7、10、11の要件を満たすものであったとは認められない。
また、仮に、引用例4に記載されたハイニュートDC6が引用例3に記載されたものと同じであったとしても、本件発明1と引用例3に記載されたハイニュートDC6は、タンパク質含量の点でも異なる。
以上より、本件発明1?7、10、11は、引用例3の記載を参酌すると引用例4に記載されたものであるとはいえない。
したがって、申立人の上記主張イを採用することはできない。

ウ 申立人の上記主張ウについて
(ア)本件発明1について
申立人は、異議申立書の16頁22行?17頁25行において、
「本件発明1の要件として、
「該大豆タンパク質製品は、さらに、下記の(b)?(f)から任意に選択される少なくとも一つの特徴を備え:
(b)該大豆タンパク質製品は、pH7の水性媒体において、1%タンパク質w/vで実質的に完全に可溶である;
(c)該大豆タンパク質製品は、pH2?4の水において1%タンパク質w/vで95%を超える溶解度を有する;
(d)該大豆タンパク質製品は、pH2?4の1%タンパク質w/vの水溶液において、0.150未満の、600nmでの可視光線の吸光度(A600)を有する;
(e)該大豆タンパク質製品は、pH2?4の1%タンパク質w/vの水溶液において、15%未満のヘイズ値を有する;または
(f)該大豆タンパク質製品は、95℃で30秒間の熱処理後の2%タンパク質w/v水溶液が、15%未満のヘイズ値を有する、」が記載されている。
すなわち、この要件は、上記(b)?(f)のいずれか1つだけ満たす場合、(b)?(f)のうち、2つ?4つを満たす場合、(b)?(f)の全てを満たす場合がある。
発明の詳細な説明には、表28(段落0154)で記載される、3つの大豆蛋白質製品(S005-K18-08A、S005-K24-08A、S005-L08-08A)が本件発明1の要件を満たしているが、この3つの大豆蛋白質製品はいずれも(b)?(f)の全てを満たすものである(表30、32、33、34。それぞれ、段落0164、0170、0171、0175)。
従って、発明の詳細な説明には、大豆蛋白質製品について、上記(b)?(f)のいずれか1つだけ満たす大豆蛋白質製品や(b)?(f)のうち、2つ?4つを満たす大豆蛋白質製品は記載されておらず、このような大豆蛋白質製品を製造するためには、当業者は多大な検討や試行錯誤が必要であり、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
・・・本件発明1に従属する本件発明についても同様である。」
と主張している。
しかしながら、本件発明1において、(b)?(f)の特定は、タンパク質の可溶性に関するものであるといえるところ、本件発明1本件発明1は、タンパク質の可溶化を阻害する成分として知られているフィチン酸(要すれば、引用例1の記載(1h)及び記載(1i)参照。)の含有量を1.5wt%未満という低い値に特定することにより、本件発明1にかかる大豆蛋白質製品の可溶性を担保していると解される。さらに、発明の詳細な説明の段落0149?154には、実施例の「例12」として、段落(b)?(f)の要件を満たす大豆タンパク質製品を具体的に製造しており、段落0177?0182には、当該「例12」で製造された大豆タンパク質製品が、ソフトドリンク及びスポーツドリンクに極度に可溶であったことも示されている。(b)?(f)は、いずれもタンパク質の可溶化の程度を示すものであり、これらは可溶性を複数の観点から特定するものであるから、同時に複数の要件を満たす場合があっても何ら不合理な点はなく、実施例として、1つの要件又は2?4つの要件のみしか満たさない製品が記載されていないことを根拠に、本件発明1が実施可能要件を満たさないとする理由はない。
したがって、本件発明1についての申立人の上記主張ウを採用することはできない。

(イ)本件発明2?7、9?11について
本件発明2?7、9?11は、本件発明1の発明特定事項をすべてその発明特定事項とし、本件発明1を技術的に限定するものであって、他に実施可能要件を満たさないとする理由は見出せないことから、本件発明1と同様、実施可能要件を満たさないとすることはできない。
したがって、本件発明2?7、9?11についての申立人の上記主張ウを採用することはできない。

エ 申立人の上記主張エについて
(ア)本件発明1について
申立人は、異議申立書の16頁22行?17頁25行において、
「本件発明1の要件として、
「該大豆タンパク質製品は、さらに、下記の(b)?(f)から任意に選択される少なくとも一つの特徴を備え:
(b)該大豆タンパク質製品は、pH7の水性媒体において、1%タンパク質w/vで実質的に完全に可溶である;
(c)該大豆タンパク質製品は、pH2?4の水において1%タンパク質w/vで95%を超える溶解度を有する;
(d)該大豆タンパク質製品は、pH2?4の1%タンパク質w/vの水溶液において、0.150未満の、600nmでの可視光線の吸光度(A600)を有する;
(e)該大豆タンパク質製品は、pH2?4の1%タンパク質w/vの水溶液において、15%未満のヘイズ値を有する;または
(f)該大豆タンパク質製品は、95℃で30秒間の熱処理後の2%タンパク質w/v水溶液が、15%未満のヘイズ値を有する、」が記載されている。
すなわち、この要件は、上記(b)?(f)のいずれか1つだけ満たす場合、(b)?(f)のうち、2つ?4つを満たす場合、(b)?(f)の全てを満たす場合がある。
発明の詳細な説明には、表28(段落0154)で記載される、3つの大豆蛋白質製品(S005-K18-08A、S005-K24-08A、S005-L08-08A)が本件発明1の要件を満たしているが、この3つの大豆蛋白質製品はいずれも(b)?(f)の全てを満たすものである(表30、32、33、34。それぞれ、段落0164、0170、0171、0175)。
・・・
また、発明の詳細な説明には、上記(b)?(f)の数値を全て満たす大豆蛋白質製品が記載されているのみであり、上記(b)?(f)のいずれか1つだけ満たす場合や(b)?(f)のうち、2つ?4つを満たす場合も含む本件発明1の範囲まで拡張ないし一般化することはできない。本件発明1に従属する本件発明についても同様である。」と主張している。
本件発明1は、特許請求の範囲、明細書の全体の記載事項(特に段落0006)及び出願自の技術常識からみて、「低pH条件下で透明な熱安定性溶液を生成し、したがって、タンパク質を沈殿させることなく、特に、ソフトドリンクおよびスポーツドリンク、ならびに他の水系のタンパク質強化(protein fortification)に使用することができる、少なくとも約60wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質含量を有する大豆タンパク質製品の提供」を解決しようとする課題とするものである。また、本件発明1は、タンパク質の可溶化を阻害する成分として知られているフィチン酸(要すれば、引用例1の記載(1h)及び記載(1i)参照。)の含有量を1.5wt%未満という低い値に特定することにより、本件発明1にかかる大豆蛋白質製品の可溶性を担保していると解される。さらに、発明の詳細な説明の段落0149?154には、実施例の「例12」として、段落(b)?(f)の要件を満たす大豆タンパク質製品を具体的に製造しており、段落0177?0182には、当該「例12」で製造された大豆タンパク質製品が、ソフトドリンク及びスポーツドリンクに極度に可溶であったことも示されている。そして、(b)?(f)は、いずれもタンパク質の可溶化の程度を示すものであり、これらは可溶性を複数の観点から特定するものであるから、同時に複数の要件を満たす場合があっても何ら不合理な点はなく、実施例として、1つの要件又は2?4つの要件のみしか満たさない製品が記載されていないことを根拠に、本件発明1がサポート要件を満たさないとする理由はなく、当業者が、本件発明1は、「低pH条件下で透明な熱安定性溶液を生成し、したがって、タンパク質を沈殿させることなく、特に、ソフトドリンクおよびスポーツドリンク、ならびに他の水系のタンパク質強化(protein fortification)に使用することができる、少なくとも約60wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質含量を有する大豆タンパク質製品の提供」という課題を解決できると認識できる範囲内であるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、本件発明1についての申立人の上記主張エを採用することはできない。

(イ)本件発明2?7、9?11について
本件発明2?7、9?11は、本件発明1を引用し、さらに限定するものであり、他にサポート要件を満たさないとする理由はないことから、同様に、本件発明2?7、9?11は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、本件発明2?7、9?11についての申立人の上記主張エを採用することはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?7、9?11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?7、9?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件請求項8は、本件訂正請求により、削除されたため、請求項8に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなり、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも60wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質含量を有する大豆タンパク質製品であって、
該大豆タンパク質製品は、4.4未満のpHの水性媒体において、1%タンパク質w/vで実質的に完全に可溶であり、
該大豆タンパク質製品は、さらに、下記の(b)?(f)から任意に選択される少なくとも一つの特徴を具え:
(b)該大豆タンパク質製品は、pH7の水性媒体において、1%タンパク質w/vで実質的に完全に可溶である;
(c)該大豆タンパク質製品は、pH2?4の水において1%タンパク質w/vで95%を超える溶解度を有する;
(d)該大豆タンパク質製品は、pH2?4の1%タンパク質w/vの水溶液において、0.150未満の、600nmでの可視光線の吸光度(A600)を有する;
(e)該大豆タンパク質製品は、pH2?4の1%タンパク質w/vの水溶液において、15%未満のヘイズ値を有する;または
(f)該大豆タンパク質製品は、95℃で30秒間の熱処理後の2%タンパク質w/v水溶液が、15%未満のヘイズ値を有する、
該大豆タンパク質製品は、フィチン酸を1.5wt%未満含有し、
該大豆タンパク質製品は、少なくとも90wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質含量を有し、
但し、前記水性媒体は、逆浸透精製水であることを特徴とする、大豆タンパク質製品。
【請求項2】
前記(d)に記載する、600nmでの可視光線の吸光度(A600)が0.100未満である、ことを特徴とする、請求項1に記載の大豆タンパク質製品。
【請求項3】
前記(d)に記載する、600nmでの可視光線の吸光度(A600)が0.050未満であることを特徴とする、請求項2に記載の大豆タンパク質製品。
【請求項4】
前記(e)に記載する、ヘイズ値が10%未満であることを特徴とする、請求項1に記載の大豆タンパク質製品。
【請求項5】
前記(e)に記載する、ヘイズ値が5%未満であることを特徴とする、請求項4に記載の大豆タンパク質製品。
【請求項6】
前記(f)に記載する、ヘイズ値が10%未満であることを特徴とする、請求項1に記載の大豆タンパク質製品。
【請求項7】
前記(f)に記載する、ヘイズ値が5%未満であることを特徴とする、請求項6に記載の大豆タンパク質製品。
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記大豆タンパク質製品は、少なくとも100wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質含量を有することを特徴とする、請求項1?7のいずれか一項に記載の大豆タンパク質製品。
【請求項10】
2?4のpH値で熱安定性である、請求項1?7及び9のいずれか一項に記載の大豆タンパク質製品の水溶液。
【請求項11】
前記水溶液は、
大豆タンパク質製品がその中で完全に可溶および透明である透明な飲料であるか、又は
その中に溶解した大豆タンパク質製品が不透明度を増大させない不透明な飲料であることを特徴とする、請求項10に記載の水溶液。
【請求項12】
請求項1に記載の大豆タンパク質製品を調製する方法であって、
該調製方法は、下記のステップ(a)?(c)を含み、
(a)カルシウム塩水溶液を使用して、大豆タンパク質源を抽出するステップ、
(b)残留する大豆タンパク質源から大豆タンパク質水溶液を分離するステップ、
(c)前記大豆タンパク質水溶液のpHを、pH1.5?4.4に調整して、透明な酸性化大豆タンパク質水溶液を生成するステップ、
該調製方法は、さらに、
前記透明な酸性化大豆タンパク質水溶液を、そのイオン強度を実質的に一定に維持しながら、濃縮して、50?300g/Lのタンパク質濃度の濃縮した透明な酸性化大豆タンパク質水溶液を調製するステップを含み;
前記濃縮ステップは、10,000?1000,000ダルトンの分画分子量を有する膜を使用して実施され;
前記濃縮した透明な酸性化大豆タンパク質水溶液を乾燥させて、前記大豆タンパク質製品を得ることを特徴とする、大豆タンパク質製品の調製方法。
【請求項13】
前記ステップ(a)のカルシウム塩水溶液は酸化防止剤を含むことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ステップ(a)のカルシウム塩水溶液は、塩化カルシウム水溶液であり、
使用される塩化カルシウムは、食品グレードの塩化カルシウムであることを特徴とする、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記ステップ(a)のカルシウム塩水溶液は0.10?0.15Mの濃度を有する塩化カルシウム水溶液であることを特徴とする、請求項12?14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記大豆タンパク質水溶液を吸着剤で処理して、大豆タンパク質水溶液から色および/または臭気化合物を除去するステップをさらに有することを特徴とする、請求項12?15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記大豆タンパク質水溶液を、70mS未満の伝導率まで希釈するステップをさらに有することを特徴とする、請求項12?16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ステップ(c)では、前記大豆タンパク質水溶液のpHを、pH2?4に調整することを特徴とする、請求項12?17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
100?200g/Lのタンパク質濃度を有する濃縮した透明な酸性化大豆タンパク質溶液を生成することを特徴とする、請求項12?18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
濃縮した透明な酸性化大豆タンパク質溶液を、吸着剤により処理して、色及び/又は臭気化合物を除去するステップをさらに有することを特徴とする、請求項12?19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
濃縮した透明な酸性化大豆タンパク質溶液を透析濾過するステップをさらに有することを特徴とする、請求項12?20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
濃縮及び透析濾過をした透明な酸性化大豆タンパク質溶液を、吸着剤により処理して、色及び/又は臭気化合物を除去するステップをさらに有することを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
濃縮及び透析濾過をした透明な酸性化大豆タンパク質溶液を、低温殺菌するステップをさらに有することを特徴とする、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
55?70℃の温度で30秒間?60分間、前記低温殺菌を行うことを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
55?70℃の温度で10?15分間、前記低温殺菌を行うことを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
濃縮し、透析濾過をした大豆タンパク質溶液を、乾燥して、少なくとも60wt%(N×6.25)d.b.の、タンパク質含量を有する大豆タンパク質製品を生成するステップをさらに有することを特徴とする、請求項21?25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
濃縮し、透析濾過をした透明な酸性化大豆タンパク質溶液を、乾燥して、少なくとも90wt%(N×6.25)d.b.の、タンパク質含量を有する大豆タンパク質製品を生成するステップをさらに有することを特徴とする、請求項21?25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
濃縮し、透析濾過をした透明な酸性化大豆タンパク質溶液を、乾燥して、少なくとも100wt%(N×6.25)d.b.の、タンパク質含量を有する大豆タンパク質製品を生成するステップをさらに有することを特徴とする、請求項21?25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記抽出ステップが15?35℃の温度で実施されることを特徴とする、請求項12?28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記カルシウム塩水溶液がpH5?7を有することを特徴とする、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記希釈ステップを、2?70℃の温度を有する1?10倍容の水を用いて実施して、前記大豆タンパク質水溶液の4?18mSの伝導率をもたらすことを特徴とする、請求項17記載の方法。
【請求項32】
前記水は、10?50℃の温度を有することを特徴とする、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記水は、20?30℃の温度を有することを特徴とする、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記透明な酸性化大豆タンパク質溶液は70mS未満の伝導率を有することを特徴とする、請求項12?33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記伝導率は4?23mSであることを特徴とする、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記透明な酸性化大豆タンパク質水溶液に熱処理ステップを施して、熱不安定性の抗栄養因子を不活性化し、及び/又は 熱処理ステップでは、透明な酸性化大豆タンパク質水溶液の低温殺菌も行うことを特徴とする、請求項12?35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
熱不安定性の抗栄養因子は熱不安定性のトリプシン阻害剤であることを特徴とする、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記熱処理は、70?100℃の温度で10秒間?60分間、実施されることを特徴とする、請求項36または37に記載の方法。
【請求項39】
前記熱処理は、85?95℃の温度で20秒間?5分間、実施されることを特徴とする、請求項36または37に記載の方法。
【請求項40】
前記熱処理をした透明な酸性化大豆タンパク質単離物がさらなる処理のために2?60℃の温度まで冷却されることを特徴とする、請求項36?39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記熱処理をした透明な酸性化大豆タンパク質単離物がさらなる処理のために20?35℃の温度まで冷却されることを特徴とする、請求項36?39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
透明な酸性化大豆タンパク質溶液に対して、その部分的または完全な濃縮の前または後に、水または酸性化した水を使用して前記透析濾過ステップが実施されることを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項43】
酸化防止剤の存在下で、前記透析濾過ステップが実施されることを特徴とする、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
2?40倍容の透析濾過溶液を使用して、前記透析濾過ステップが実施されることを特徴とする、請求項42または43に記載の方法。
【請求項45】
5?25倍容の透析濾過溶液を使用して、前記透析濾過ステップが実施されることを特徴とする、請求項42または43に記載の方法。
【請求項46】
さらなる量の汚染物質および可視色が透過液中に存在しなくなるまで、前記透析濾過ステップが実施されることを特徴とする、請求項42?45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
乾燥すると、少なくとも90wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質含量を有する大豆タンパク質単離物が生成するように保持液を十分に精製するまで、前記透析濾過ステップが実施されることを特徴とする、請求項42?46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記濃縮ステップ及び/又は前記透析濾過ステップが、10,000?1,000,000ダルトンの分画分子量を有する膜を使用して実施されることを特徴とする、請求項19?21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記濃縮ステップ及び/又は前記透析濾過ステップが、10,000?100,000ダルトンの分画分子量を有する膜を使用して実施されることを特徴とする、請求項19?21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記濃縮ステップ及び/又は前記透析濾過ステップが、2?60℃の温度で実施されることを特徴とする、請求項19?21、48および49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記濃縮ステップ及び/又は前記透析濾過ステップが、20?35℃の温度で実施されることを特徴とする、請求項19?21、48および49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
イオン強度を実質的に一定に維持しながら、濃縮して、濃縮した透明な酸性化大豆タンパク質溶液を調製し、次いで、該濃縮した透明な酸性化大豆タンパク質溶液を、透析濾過して、乾燥すると少なくとも60wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質濃度を有する大豆タンパク質製品を生成する、濃縮および透析濾過をした透明な酸性化大豆タンパク質溶液を生成することを特徴とする、請求項19?51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記濃縮ステップが、トリプシン阻害剤の除去に好都合な様式で操作されることを特徴とする、請求項19?21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
(a)抽出ステップの間、及び/又は、
(b)濃縮ステップの間、及び/又は、
(c)乾燥ステップの前に、濃縮した透明な酸性化大豆タンパク質溶液中に、
還元剤が存在することにより、トリプシン阻害剤のジスルフィド結合を破壊または再配置して、トリプシン阻害剤活性の低減を実現することを特徴とする、請求項12?53のいずれか一項に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-05-17 
出願番号 特願2016-247750(P2016-247750)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (A23J)
P 1 652・ 113- YAA (A23J)
P 1 652・ 536- YAA (A23J)
P 1 652・ 537- YAA (A23J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 池上 文緒  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 吉岡 沙織
冨永 保
登録日 2019-11-29 
登録番号 特許第6623148号(P6623148)
権利者 バーコン ニュートラサイエンス (エムビー) コーポレイション
発明の名称 大豆(「S701」)からの可溶性タンパク質溶液の製造  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 宮崎 昭夫  

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