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審決分類 審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:83  D21F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D21F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D21F
審判 全部申し立て 2項進歩性  D21F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D21F
管理番号 1376699
異議申立番号 異議2020-700324  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-05-02 
確定日 2021-05-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6601516号発明「蒸気による加熱効率向上方法及び抄紙方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6601516号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第6601516号の請求項1、2、4、5に係る特許を維持する。 特許第6601516号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。  
理由 第1 手続の経緯
特許6601516号の請求項1ないし5に係る特許は、令和1年10月18日に特許権の設定登録がされ、令和1年11月6日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年5月2日:特許異議申立人 高橋勇(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和2年7月22日付け:取消理由通知書
令和2年9月14日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年9月24日付け:訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)
令和2年10月24日:申立人による意見書の提出
令和2年12月17日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和3年3月3日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年4月10日:申立人による意見書の提出
なお、令和3年3月3日に訂正請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、令和2年9月14日の訂正請求は取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の請求
1 訂正の内容
令和3年3月3日付けの訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次の事項からなる(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「該凝縮水膜形成抑制性アミンの添加量を、ドレン中の凝縮水膜形成抑制性アミン濃度、ドレンのpH、ドレンの電気伝導率、ドレン量、ドレン温度、ドレン中の金属材料溶出量、のいずれか1以上に基づいて制御する」とあるのを、「前記加熱工程は、蒸気ドライヤにより、前記被加熱物を加熱する工程であり、該蒸気ドライヤに蒸気を供給する蒸気配管または蒸気ヘッダの該蒸気ドライヤ直前の箇所に前記凝縮水膜形成抑制性アミンを添加し、
該凝縮水膜形成抑制性アミンの添加量を、ドレン量、ドレン温度のいずれか1以上に基づいて制御する」と訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に、
「請求項1ないし3のいずれか1項に記載の」とあるのを、「請求項1又は2に記載の」と訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1ないし4のいずれか1項に記載の」とあるのを、「請求項1、2又は4に記載の」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、「加熱工程」について「蒸気ドライヤにより、前記被加熱物を加熱する工程であ」ることを限定し、「凝縮水膜形成抑制性アミンを添加する」ことについて、「該蒸気ドライヤに蒸気を供給する蒸気配管または蒸気ヘッダの該蒸気ドライヤ直前の箇所に前記凝縮水膜形成抑制性アミンを添加」することを限定し、「ドレン中の凝縮水膜形成抑制性アミン濃度、ドレンのpH、ドレンの電気伝導率、ドレン量、ドレン温度、ドレン中の金属材料溶出量、のいずれか1以上に基づいて」とあったものから、「ドレン量、ドレン温度のいずれか1以上に基づいて」として、選択肢である「ドレン中の凝縮水膜形成抑制性アミン濃度」、「ドレンのpH」、「ドレンの電気伝導率」、及び「ドレン中の金属材料溶出量」を削除するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項3、本願特許明細書の段落【0015】、及び図1の記載に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、上記アのように訂正前の請求項1における記載をさらに限定し、選択肢について削除するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(2) 訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、請求項3を削除するというものであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、請求項3を削除する訂正であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、上記アのように訂正前の請求項3を削除するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(3) 訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、上記訂正事項2による請求項3の削除に伴い、請求項4が引用する請求項から請求項3を除くというものであるから、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、上記アのとおり、引用する請求項を除くというものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、上記アのとおり、引用する請求項を除くというものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(4) 訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、上記訂正事項2による請求項3の削除に伴い、請求項5が引用する請求項から請求項3を除くというものであるから、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4は、上記アのとおり、引用する請求項を除くというものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4は、上記アのとおり、引用する請求項を除くというものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

3 一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1?5について、請求項2?5はそれぞれ請求項1を直接または間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正は、訂正前の請求項〔1?5〕の一群の請求項について請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正後の特許請求の範囲の記載は以下のとおりであり、本件訂正後の本件特許の請求項1、2、4及び5に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」などという。)は、それぞれ本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1、2、4及5に記載された事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
金属材料を介して蒸気により被加熱物を加熱する加熱工程において、凝縮水膜形成抑制性アミンを添加することにより該蒸気による加熱効率を向上させる方法であって、
前記加熱工程は、蒸気ドライヤにより、前記被加熱物を加熱する工程であり、該蒸気ドライヤに蒸気を供給する蒸気配管または蒸気ヘッダの該蒸気ドライヤ直前の箇所に前記凝縮水膜形成抑制性アミンを添加し、
該凝縮水膜形成抑制性アミンの添加量を、ドレン量、ドレン温度のいずれか1以上に基づいて制御することを特徴とする蒸気による加熱効率向上方法。
【請求項2】
前記凝縮水膜形成抑制性アミンが、下記一般式(1)で表されるポリアミンを含むことを特徴とする請求項1に記載の蒸気による加熱効率向上方法。
R^(1)-[NH-(CH_(2))_(m)]_(n)-NH_(2) …(1)
(式中、R^(1)は炭素数10?22の飽和又は不飽和炭化水素基を示し、mは1?8の整数であり、nは1?7の整数である。nが2以上の場合、複数のNH-(CH_(2))_(m)は同一でも異なっていてもよい。)
【請求項3】 (削除)
【請求項4】
前記加熱工程に、前記凝縮水膜形成抑制性アミンと中和性アミンとを共存させることを特徴とする請求項1又は2に記載の蒸気による加熱効率向上方法。
【請求項5】
前記加熱工程に、前記凝縮水膜形成抑制性アミンとトレーサー物質とを共存させ、トレーサー物質の濃度を基に、凝縮水膜形成抑制性アミンの濃度管理を実施することを特徴とする請求項1、2又は4に記載の蒸気による加熱効率向上方法。」

第4 特許異議申立理由の概要及び証拠方法
特許異議申立書における特許異議申立理由の概要及び証拠方法は以下のとおりである。
1 特許異議申立理由の概要
(1) 理由1:特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号)について
本件特許の請求項1、2及び4に係る発明は、甲第1号証に記載の発明又は甲第3号証に記載の発明と同一である。
(2) 理由2:特許法第29条第2項(同法第113条第2号)について
本件特許の請求項1?5に係る発明は、甲第1?6号証に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。
(3) 理由3:特許法第36条第4項第1号(同法第113条第4号)について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があり、当業者が請求項1、3及び5に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4) 理由4:特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号)について
本件特許の請求項3及び5に係る発明は、特許を受けようとする発明が明確ではなく、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 証拠方法
甲第1号証:The International Association for the Properties of Water and Steam,“Technical Guidance Document: Application of Film Forming Amines in Fossil, Combined Cycle, and Biomass Power Plants,IAPWS TGD8-16”,2016年9月,pp.1-43
甲第2号証:A. V. Ryzhenkov,et al.,“Prospects for the application of film-forming amines in power engineering”、WIT Transactions on Engineering Sciences,2015年, Vol91,pp.127-137
甲第3号証:カナダ国特許出願公開第2800545号明細書
甲第4号証:特開2017-154049号公報
甲第5号証:特開2011-12921号公報
甲第6号証:特公平8-14536号公報
(当審注:以下、上記「甲第1号証」ないし「甲第6号証」を「甲1」ないし「甲6」という。)

第5 取消理由の概要
当審において、令和2年7月22日付けで通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
理由1(新規性)
本件特許の請求項1、2及び4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明又は甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当するから、請求項1、2及び4に係る発明の特許は同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
理由2(進歩性)
本件特許の請求項1、2及び4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明又は甲3に記載された発明に基いて、本件特許の請求項3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明及び甲5に記載された事項又は甲3に記載された発明及び甲5に記載された事項に基いて、本件特許の請求項5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明及び甲6に記載された事項又は甲3に記載された発明及び甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?5に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

さらに、当審において、令和2年12月17日付けで通知した取消理由(決定の予告)で追加して通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
理由5(進歩性)
本件特許の請求項1、2、4及び5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲1?6に記載された発明(甲5に記載された発明を主発明として)又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

第6 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由の理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
(1) 各甲号証の記載等
ア 甲1
(ア) 甲1の記載
「 Summary
This Technical Guidance Document addresses the use of film forming amines in the water/steam cycles of fossil, combined cycle,and biomass power plants.」(1ページ)(当審注:「括弧」内は、翻訳である。また、下線は参考のため当審で付与したものであり、「・・・」は、文の省略を意味する。以下同様である。)
(要約 この技術ガイダンスは、火力、コンバインドサイクル、バイオマスの発電プラントの水/蒸気循環系における皮膜形成アミンの適用に関する。)
「3. Terminology
・・・
・ Film forming amines (FFA): defined group of organic substances with specific functional groups.
・・・
Octadecylamine (ODA) CAS-no.: 124-30-1
Oleylamine (OLA) CAS-no.: 112-90-3
Oleyl Propylenediamine (OLDA) CAS-no.: 7173-62-8」(6ページ)
(3 用語
・・・
・皮膜形成アミン:特別の官能基を有する有機物質として定義されたグループ。
・・・
オクタデシルアミン(ODA) CAS-no.: 124-30-1
オレイルアミン(OLA) CAS-no.: 112-90-3
オレイルプロピレンジアミン(OLDA) CAS-no.: 7173-62-8)
「・ Film forming amine products (FFAP):Commercially available products which contain a FFA but can also contain further substances such as alkalizing amines, emulsifiers, reducing agents, and dispersants (e.g., polycarboxylates).」(6ページ)
(・皮膜形成アミン製品:皮膜形成アミンを含む商業的に入手可能な製品であり、中和性アミン、乳化剤、還元剤、分散剤(例えばポリカルボン酸塩)のような更なる物質を含むことができる。)
「Examples of alkalizing amines are listed below. They are defined with a unique numerical identifier assigned by CAS:
2-Aminoethanol (Monoethanolamine) CAS-no.: 141-43-5
Cyclohexylamine CAS-no.: 108-91-8
2-Amino-2-methylpropanol CAS-no.: 124-68-5
2-Diethylaminoethanol CAS-no.: 100-37-8
Morpholine CAS-no.: 110-91-8
3-Methoxypropylamine CAS-no.: 5332-73-0」(6?7ページ)
(中和性アミンの例を以下に挙げる。それらはCASによって割り当てられた番号と識別名によって定義される:
2-アミノエタノール(モノエタノールアミン) CAS-no.: 141-43-5
シクロへキシルアミン CAS-no.: 108-91-8
2-アミノ-2-メチルプロパノール CAS-no.: 124-68-5
2-ジエチルアミノエタノール CAS-no.: 100-37-8
モルホリン CAS-no.: 110-91-8
3-メトキシプロピルアミン CAS-no.: 5332-73-0」
「5.2 Application
・・・
The objectives of a FFA treatment include:
・ Corrosion reduction in continuous operation;
・ Minimization of corrosion product transport;
・ Formation of clean, smooth heat transfer surfaces;
・ Corrosion protection during shutdown/layup.
The formation of hard scales such as calcium carbonate or silicates due to poor water purity cannot be prevented, and it is currently not clear whether such scales can be (partially) removed with a FFA/FFAP treatment.」(9ページ)
(5.2 適用
・・・
皮膜形成アミン処理の目的は、
・連続運転時の腐食低減
・腐食生成物の移動の最小化
・清浄で滑らかな伝熱表面の形成
・定期修理と保管の間の腐食からの保護
水純度の悪化に伴う炭酸カルシウムやケイ酸塩等の固いスケールの形成は防ぐことはできないし、また皮膜形成アミンや皮膜形成アミン製品によりそれらが(部分的に)除去することができるかどうかは現時点で明らかでない。)
「5.3 Advantages and Benefits
・・・
・ Clean and smooth heat transfer surfaces; (Section 5.4)
・・・
・Applicability to many different systems; (Section 9)
・Improvement of heat transfer (Section5.5).
」(9ページ)
(5.3 利点と利益
・・・
・伝熱表面を清浄かつ滑らかにする(第5.4節)
・・・
・多くの異なるシステムへの適用可能性(第9節)
・伝熱の改善(第5.5節))
「5.4 Disadvantages / Critical Aspects
・・・
・ Risks related to overdosage;」(10?11ページ)
(5.4 欠点/批判的な面
・・・
過剰添加に関するリスク」
「Some of these are discussed further:
・・・
Overdosing
The dosing and control of the FFA and FFAP are critical aspects (see Sections 8.3 and 8.4 for guidance). The key to the control of freely available FFA is to keep its concentration constantly low.Several physical properties of the aqueous phase will change when micelle formation begins at the critical concentration [24, 25]. It has also been reported that constant overdosing of FFA can lead to the formation of “gunk”balls (clumps of gel-like material) which have the potential to form blockages of vessels or tubes [19, 26].」(11ページ)
(これらのいくつかについて更に記述する。
・・・
・過剰添加
皮膜形成アミンと皮膜形成アミン製品の注入と制御は難しい面がある(第8.3節と第8.4節を見よ)。容易に入手可能な皮膜形成アミンを制御する鍵は、その濃度を定常的に低く保つことである。臨界濃度においてミセルが形成するとき、水相のいくらかの物理特性は変化するであろう[24,25]。皮膜形成アミンの定常的な過剰添加は容器や管を閉塞させる可能性がある粘着性のあるボール(ゲル状物質の凝集塊)を形成させることが報告されている[19,26]。)
「5.5 Basic Properties/Mode of Action
Alkalinity
FFA, as all amines, are bases and therefore increase the pH and conductivity by dissociation in water. Due to the low concentration of FFA required, the impacton pH and conductivity is negligible compared to alkalizing agents (ammonia,alkalizing amines, etc.) [27, 28].
Adsorption
The intended effect of FFA is the strong adsorption on the metal/metal-oxide surfaces [13, 28-30] by a combination of physical and chemical bonding, and thus modification of the surface properties.」(11?12ページ)
(5.5 基本特性/作用形式
・アルカリ度
アミンと同様に皮膜形成アミンは塩基であるため、水で解離してpHと電気伝導率を増加させる。皮膜形成アミンは必要な添加量が低いため、pHや電気伝導率への影響は中和剤(アンモニア、中和性アミン等)よりも低い[27,28]。
・吸着
皮膜形成アミンの意図した効果は、物理的、化学的結合による金属/金属酸化物表面への強い吸着[13,28-30]であり、これによる表面特性の改質である。)
「As discussed in Section 8, prior to a new application, each FFAP supplier should provide the operator the FFAP decomposition products and, more importantly, the impact of these products on the steam CACE and on the pH of early condensate especially at low steam moisture.
Heat Transfer
FFA form a film on the inner surfaces of the water/steam cycle and thus also on the heated surfaces. Due to their surface active properties, FFA feature a theoretical potential for improving the heat transfer in nucleate boiling near metal surfaces. The intensifying impact of FFA on bubble evaporation was qualitatively demonstrated [34] and quantitatively measured compared to phosphate-based water chemistry[49].Significantly higher heat transfer coefficients have been determined for FFAP-treated steel tubes compared to phosphate-based treatment.
The heat transfer coefficient was determined on copper surfaces as a function of ODA concentration [50]. An improvement in heat transfer coefficient was measured over the tested concentration range.Furthermore, an improvement of heat transfer was reported in the condensation process [51] due to the improved droplet formation on the hydrophobic surfaces in the condenser.」(13?14ページ)
(第8章で議論したように、新しい適用の前に皮膜形成アミン製品の供給業者はオペレーターに皮膜形成アミン製品の分解生成物、そしてより重要であるが、これらの生成物の蒸気の酸電気伝導率や特に低い蒸気水分量の初期凝縮液のpHへの影響を知らせるべきである。
・熱伝導
皮膜形成アミンは水/蒸気循環系の内部表面と伝熱表面に皮膜を形成する。それらの表面活性特性により、皮膜形成アミンは金属表面近傍の核沸騰による伝熱を改善する理論的可能性がある。泡沸騰における皮膜形成アミンの影響は、定性的に実証され[34]そしてリン酸塩ベースの水化学と比較して定量的に実証された[49]。リン酸塩ベース処理と比較して皮膜形成アミン製品で処理した鋼管には十分高い熱伝導率係数が得られた。
ODA濃度の関数として銅表面の熱伝達係数が測定された[50]。評価された濃度範囲で熱伝導係数の改善が認められた。さらに復水器の疎水性表面上の改質された水滴の形成により凝縮プロセス[51]における伝熱の改善が報告された。)
「5.6 Monitoring Concepts
Monitoring and control of FFA dosing
FFAP dose rates should be monitored by measurement of the residual FFA concentration in the sampled water. Different test methods are available to accurately determine the amount of FFA in the water. In Section 8.5 of this TGD, the two most applied methods are described.The FFA residual should be controlled at all available sample points because of the different distribution ratios, volatility, and adsorption/desorption processes. Due to the intended adsorption of the film forming amine on the metal/oxide surfaces, there is no straight forward correlation between the FFA added to the system and the resulting concentration in the water sample.Nevertheless, most FFA and FFAP are dosed as a function of flow.
Control of the cycle chemistry using pH,conductivity, or TOC (total organic carbon) measurement is not accurate enough for monitoring dosing of FFA.However,conductivity or pH can be used to control the dosing of a FFAP that contains alkalizing amines.」(14ページ)
(5.6 モニタリング概念
・皮膜形成アミン注入のモニタリングと制御
皮膜形成アミン製品の注入速度は試料水中の残留皮膜形成アミン濃度の測定によってモニタリングされるべきである。水中の皮膜形成アミンの量を正確に決定するための異なるテスト方法がある。この技術ガイダンスの第8.5節に最も適用されている2つの方法が記述されている。異なる分配比、揮発度、吸着/脱着プロセスのため、皮膜形成アミンの残留は入手可能な全ての試料採取ポイントで管理されるべきである。
金属/金属酸化物表面への被膜形成アミンの意図した吸着のため、システムに添加した皮膜形成アミンと水サンプル中の濃度とには直接的な相関はない。にもかかわらず、殆どの皮膜形成アミンや皮膜形成アミン製品は流量の関数として添加される。
pH、電気伝導率、あるいはTOC測定を用いた循環系の制御は、皮膜形成アミンの注入をモニタリングする十分正確な方法ではない。しかしpHや電気伝導率は中和性アミンを含む皮膜形成アミン製品の注入を制御するのに使用することができる。)
「8.2 What does an Operator need to do before Applying a FFA/FFAP?
It is extremely important that the key objectives and performance indicators are identified and monitored prior to and during the application of a FFA/FFAP, just as it is for any major chemistry change on any plant. Historically, this has been the most common missing aspectin the application of film forming products and has led to concern as any improvements and benefits provided by the FFA/FFAP could not be quantitatively validated.」(20ページ)
(8.2 皮膜形成アミン/皮膜形成アミン製品を適用する前にオペレーターがする必要があることは何か?
そのプラントでも主要な薬品の変更を行うとき、皮膜形成アミン/皮膜形成アミン製品を適用する前あるいは適用中に、鍵となる目的や性能指針が確認されモニタリングされることは非常に重要である。歴史的にみて、皮膜形成製品の適用において、これらが最も見失われる点であり、いかなる改善にも係わるが、皮膜形成アミン/皮膜形成アミン製品によって与えられた利益を定量的に確証することができなくなる。)
「The key parameters from the IAPWS Instrumentation TGD [3] should be monitored in parallel and recorded. It is recognized that some plants might not have this fundamental level of instrumentation and will only be able to use grab samples. The following locations and parameters should be monitored as a minimum: feedwater pH,oxygen, and CACE; drum pH and CACE; and main, reheat, or HP steam sodium and CACE」(21ページ)
(IAPWSの機器類の技術ガイダンス[3]による鍵となる因子は、併行してモニタリングし記録されるべきである。いくらかのプラントでは基本的レベルの機器類を保有しておらず、手分析のサンプルを用いるのみかもしれない。最低でも次の箇所と因子がモニタリングされるべきである:給水のpH、酸素、酸電気伝導率、ドラムのpHと酸電気伝導率、主蒸気、再熱蒸気、HP蒸気のナトリウムと酸電気伝導率。)
「8.3 Determining Product Dosage Levels and Initial Usage of a FFA/FFAP ・・・
As FFA are adsorbed as a hydrophobic film onto the available steam/water internal oxide surfaces, the objective of a treatment with FFA/FFAP is to establish as complete a film as possible on these internal surfaces.
The required initial dosage is determined by the available surface oxide/deposit area, the surface properties such as porosity and roughness, the concentration and chemistry of active FFA injected, and the estimated thermal decomposition of the active chemical in high temperature/pressure plants.
・・・
Therefore, the analytical proof of the FFA in the return condensate is used to verify the distribution of FFA. If the dosage is not sufficient, the film formation will remain incomplete.
The control of dosage is carried out via the determination of the residual free FFA in the various samples taken around the steam/water circuit.Dosage of the FFAP has to be adjusted to achieve the specified value in the control samples, predominantly in the condensate. The dosage should be adjusted accordingly if the measured concentration is outside of the specified range.」(23ページ)
(8.3 皮膜形成アミン/皮膜形成アミン製品の製品添加量レベルと初期使用量を決定すること
・・・
皮膜形成アミンは蒸気/水内面の酸化物表面上に疎水性皮膜として吸着されることから、皮膜形成アミン/皮膜形成アミン製品による処理の目標は、内面上にできるだけ完全な皮膜を形成することである。必要な初期添加量は、表面酸化物/付着物の有効面積、多孔性や粗さのような表面特性、注入された皮膜形成アミンの活性濃度、高温/高圧プラントによる活性成分の熱分解予想量によって決定される。
・・・
それ故、戻りの凝縮液中の皮膜形成アミンの分析試験が、皮膜形成アミンの分配を確かめるために用いられる。もし添加量が不十分なとき、皮膜形成は不完全となる。
水/蒸気回路各所から取り出されたいろいろな試料の中の残留遊離皮膜形成アミンの測定によって、添加量の制御が実行される。
皮膜形成アミン製品の添加量は、制御用試料(主に凝縮液)における規格値を達成するために調整されなければならない。もし測定された濃度が規格値を外れていた場合、添加量は適切に調整されなければならない。)
「・ An overdosage of FFA for a long period of time must be avoided. Overdosing increases the risk of higher metaloxide transport and the formation of sticky deposits especially in strainers,filters, steam traps, and small pipes. There will also be a detrimental effect on the condensate polishing plant (see Section 9.10).」(24?25ページ)
(・長期間にわたる皮膜形成アミンの過剰添加は避けなければならない。過剰添加は、金属酸化物が移動して特にストレーナー、濾過器、蒸気トラップ、小口径の配管に粘着性の付着物を形成するリスクを増加させる。凝縮液浄化プラントにも有害な影響があり得る(セクション9.10を参照))
「8.4 How and Where to Dose the FFA/FFAP
・・・
It is also not preferable to add the FFA/FFAP into the drum or stream he aders,as the high temperature superheated steam will result in significant thermal degradation of the FFA/FFAP and neutralizing amines contained in the product.
However,FFAP containing non-volatile components such as polycarboxylates, sodium hydroxide,or phosphate must not be dosed into the feedwater because this is the source for attemperation water.In these cases,they should be dosed into the drum.」(25ページ)
( 8.4 皮膜形成アミン/皮膜形成アミン製品をどういう方法でどこに注入するのか?
・・・
皮膜形成アミン/皮膜形成アミン製品をドラムや蒸気ヘッダーに注入するのは、高温の過熱蒸気は皮膜形成アミン/皮膜形成アミン製品や中和性アミンを熱分解するため好ましくない。
しかし、ポリカルボン酸や水酸化ナトリウムやりん酸塩のような非揮発性化合物を含む皮膜形成アミンは、給水が過熱低減水に使用されるため給水に添加してはいけない。このような場合、それらはドラムに注入すべきである。)
「9.2 FFA in Combinative Mixtures
FFA can be blends into FFAP with other treatment chemicals that have previously been applied to high pressure boilers and HRSG systems.Such materials sometimes include alkalizing amines(e.g., ammonia, monoethanolamine),reducing agents (e.g., hydrazine, carbohydrazide, hydroxylamines), dispersants(mainly polycarboxylates, e.g., polyacrylates), and solid alkalizing agents(e.g., sodium hydroxide, alkali phosphates).」(29ページ)
(9.2 混合物における皮膜形成アミン
皮膜形成アミンは、以前に高圧ボイラやHRSGシステムに適用されていた他の処理薬品とともに製品にブレンドすることができる。そのような物質は、中和性アミン(例えばアンモニア、モノエタノールアミン)、脱酸素剤(ヒドラジン、カルボヒドラジド、ヒドロキシルアミン類)、分散剤(主にポリカルボン酸塩、例えばアクリル酸塩)、固形のアルカリ剤(例えば、水酸化ナトリウム、アルカリ性りん酸塩)を含む。)
(イ) 甲1発明
上記(ア)の記載事項を総合すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「火力、コンバインドサイクル、バイオマスの発電プラントの水/蒸気循環系における、オクタデシルアミン、オレイルアミン、オレイルプロピレンジアミン等の皮膜形成アミンの適用するものであり、
皮膜形成アミンの適用は、伝熱表面を清浄かつ滑らかにし、多くの異なるシステムへの適用可能性があり、伝熱の改善をするものであり、
皮膜形成アミン製品の注入速度は、試料水中の残留皮膜形成アミン濃度の測定によってモニタリングされ、pHや電気伝導率は中和性アミンを含む皮膜形成アミン製品の注入を制御するのに使用することができ、
水/蒸気回路の各所から取り出されたいろいろな試料の中の残留遊離皮膜形成アミンの測定によって、添加量の制御が実行される、方法。」
(ウ) 甲1記載事項
上記(ア)の記載事項を総合すると、以下の事項(以下「甲1事項1」という。)が記載されていると認められる。
「膜形成アミン/皮膜形成アミン製品は、ドラムに注入することができること。」
イ 甲2
(ア) 甲2の記載
「Surfactants such as film-forming amines possess a number of unique properties, the combination of which determines the possibility of their successful application in the energy sector.
Under certain conditions, some film-forming amines (FFA) are formed on the metal surfaces of closely packed molecular layers due to the processes of physical or chemical sorption.
One of the most distributed FFAs is octadecylamine, which is a white waxy solid with the chemical formula C_(18)H_(37)NH_(2).」(128ページ)
(皮膜形成アミンのような界面活性剤は多くのユニークな特性を有し、その組み合わせがエネルギー分野でのそれらの応用の成功の可能性を決定する。
ある条件下では、物理的または化学的収着過程によって、皮膜形成アミン(FFA)が密に充填された分子層が金属表面上に形成される。
最も広く使用されている皮膜形成アミンの1つはオクタデシルアミンであり、これは化学式C_(18)H_(37)NH_(2)の白色蝋状固体である。)
「3 Improving the efficiency of heat supply systems
The conditioning of a heat carrier by FFA molecules and, consequently, the formation of molecular layers, can significantly improve the energy efficiency of heat supply systems, restore piping and equipment sections, locking the corrosion processes and dramatically slowing down the processes of formation deposits of different natures [5-9].」(131ページ)
(3 熱供給システムの効率化
皮膜形成アミン分子による熱媒体の処理、および結果としての分子層の形成は、熱供給システムのエネルギー効率を大幅に改善し、配管および機器セクションを修復し、腐食プロセスを防止し、異なる性質のデポジットの形成プロセスを劇的に遅くすることができる[5-9]。)
「7 Improving energy efficiency of powerunits of thermal and nuclear power plants
One of the most effective ways of intensification of heat exchange for the steam side of the capacitor in steam-turbine plantsis for transfer film condensation to dropwise condensation by hydrophobisation the outer surface of the tubes (figure11).
When there is film condensation, heat is transferred from vapor to wall through the film of the condensate and this film represents the main thermal resistance.When there is dropwise condensation, thermal resistance is absent or greatly reduced. Steam is in direct contact with the wall on the section of the surface in between the drops.」(134?135ページ)
(7 火力・原子力発電所のエネルギー効率向上
蒸気・タービンプラントにおける熱交換器の蒸気側の熱交換を強化する最も効果的な方法の一つは、膜凝縮熱伝達を管の外表面(図11)を疎水化することにより滴状凝縮にすることである。膜凝縮があると、凝縮液の膜を通して蒸気から壁へ熱が伝達され、この膜が主な熱抵抗となる。滴状凝縮が存在する場合、伝熱抵抗は存在しないか、大幅に減少する。蒸気は液滴の間の表面部分の壁に直接接触している。」
「The modification of outer surfaces of the condenser tubes using FFA also promotes intensification of heat and mass transfer in the intertube space due to additional dispersion of condensate, which ultimately leads to lower condensate supercooling.」(136ページ)
(皮膜形成アミンを用いた凝縮管の外面の改質は、凝縮液の付加的分散による管間空間における熱と物質移動を促進し、最終的に凝縮液の過冷却を低下させる。)






Figure 12: Hydrophobicity of brass condenser tubes (steam side) after adsorption of FFA molecules on the surface.」
(イ) 甲2記載事項
上記(ア)の記載事項を総合すると、甲2には以下の事項(以下「甲2事項」という。)が記載されていると認められる。
「物理的または化学的収着過程によって、皮膜形成アミン(FFA)が密に充填された分子層が金属表面上に形成されると、膜凝縮熱伝達を管の外表面を疎水化することにより滴状凝縮にし、その結果、熱供給システムのエネルギー効率を大幅に改善すること。」
ウ 甲3
(ア) 甲3の記載
「Abstract
The present invention relates to a medium in the form of an aqueous mixture for improving the heat transfer coefficient and use thereof in power plant technology, in particular in steam generating plants. The medium contains at least one film-forming amine (component a) with the general formula: R- (NH- (CH2)m)n-NH2/, where R is an aliphatic hydrocarbon radical with a chain length between 12 and 22 and m is an integral number between 1 and 8 and n is an integral number between 0 and 7, contained in amounts up to 15%.」(アブストラクト)
(要約:本発明は、熱伝達係数を改善するための水性混合物の形態の媒体、および発電プラント技術、特に蒸気発生プラントにおけるその使用に関する。その媒体は、一般式:R-(NH-(CH2)m)n-NH2 (Rは、鎖長12から22の脂肪族炭化水素基で、mは1から8までの整数で、nは0から7までの整数で、15%まで含まれる)で表される少なくとも一つの皮膜形成アミン(成分a)を含有する。)
「 [0021] The invention is specified in greater detail below with the aid of the claims:
1. A medium for improving the heat transfer coefficient in steam generating plants, wherein this medium contains at least one film-forming amine (component a) with the general formula:
a. R-(NH-(CH_(2))_(m))_(n) -NH_(2),wherein R is an aliphatic hydrocarbon radical with a chain length ranging from 12 to 22, in is a whole number between 1 and 8 and n is a whole number between 0 and 7, in amounts of up to 15%.
・・・
4. The medium according to claim 1,characterized in that ammonia and/or cyclohexylamine and/or morpholine and/or diehtylaminoethanol and/or aminomethylpropanol are used as component b,preferably in amounts of up to 30%.
・・・
6. The use of the medium according to claims 1 to 5, as a medium for improving the heat transfer in steam generating plants,characterized in that the concentration of the film-forming amine (component a)in the condensate ranges from 0.05 to 2 ppm and preferably from 0.1 to 1 ppm.」
([0021] 本発明は、特許請求の範囲を援用して、以下により詳細に特定される。
1. 蒸気発生プラントの熱伝導率を改善するための媒体であって、この媒体は、一般式:a. R-(NH-(CH_(2))_(m))_(n) -NH_(2)(Rは鎖長が12から22の脂肪族炭化水素基で、mは1から8までの整数、nは0から7までの整数)で表される少なくとも一つの皮膜形成アミン(成分a)を15%以下の量で含む。
・・・
4. アンモニア及び/又はシクロヘキシルアミン及び/又はモルホリン及び/又はジエチルアミノエタノール及び/又はアミノメチルプロパノールを成分bとして、好ましくは30%以下の量で用いることを特徴とする、請求項1に記載の媒体。
・・・・
6. 蒸発プラントにおける熱伝達を改善するための媒体としての請求項1?5に記載の媒体の使用において、凝縮液中の皮膜形成アミン(成分a)の濃度が0.05?2ppm、好ましくは0.1?1ppmであることを特徴とする媒体の使用。)
「Test program
The test program comprises the following points during the long-term treatment at a saturation pressure of ps, =15bar and recurring determination of the heat transfer coefficient at different pressure stages (2,15bar).
1. Reference treatment of blank metal tubes with sodium phosphate up to the steady-state for the oxide layer, demonstrated with measuring technology.
2. Treatment of blank metal sample bodies with inventive medium (EGM) up to the steady-state.
3. Change in the treatment from sodiumphosphate to EGM, continued treatment with the organic product up to the demonstrated steady-state for the heat flux coefficient. The initial conditioning for the reference treatment with sodium phosphate and the subsequent operations with the inventive medium (EGM)are summarized in the following Table 1.
The EGM material contains the following components for this experiment:
a. 2 weight % of oleyl propylene diamine
b. 7 weight % of cyclohexylamine
c. 18 weight % of monoethanolamine
d. 0.5 weight % of non-ionized tenside
e. residual water to 100%.
The inventive medium, however, is not restricted to this composition which only represents an exemplary variant.」(9?10ページ)
(試験プログラム
試験プログラムは、飽和圧力ps = 15barでの長期処理の段階と、異なる圧力段階(2,15bar)での熱伝達率の繰り返し測定から構成される。
1. 測定技術で実証された、酸化物層の定常状態までのリン酸ナトリウムによるブランク金属管の参照処理。
2. ブランク金属試料体の定常状態までの本発明の媒体(EGM)による処理。
3. 処理をリン酸ナトリウムからEGMへ変更し、熱流束係数について示された定常状態までの有機製品での継続的な処理。
リン酸ナトリウムによる参照処理のための最初の処理及び本発明の媒体(EGM)によるその後の操作を、以下の表1に要約する。
この実験用のEGM物質には、次の成分が含まれている。
a.2重量%のオレイルプロピレンジアミン
b.7重量%のシクロヘキシルアミン
c.18重量%のモノエタノールアミン
d.0.5重量%の非イオン化界面活性剤
e.100%への残部の水分
しかしながら、本発明の媒体はこの組成に限定されず、これは代表的な変形例を示しているに過ぎない。)
「Guaranteeing the operating conditions
To guarantee the conditions in the boiler as listed in Table 1, the concentration of applied boiler additives is determined regularly, so as to meter in additional additives and/or to dilute a concentration that is too high.
With an inorganic operation, the pH value of the boiler water is viewed as control variable which should be in the range of10.0≦ pH≦ 10.5. Since the pH value in the batch operation is determined discontinuously, the adaptation to the desired value is also discontinuous.In the process, a volume of approx. 1 liter boiler water is removed following the sample taking (approx.50m1) if the value drops below the lower pH limit, which is then replaced with a correspondingly conditioned equivalent and is subsequently degased several times. Should the pH value be sufficient,no further measures are taken, so that as little influence as possible is exerted on the oxide layer formation.」(11ページ)
(運転条件の保証
表1に記載されているボイラ条件を保証するために、追加の添加剤を計量および/または高すぎる濃度の希釈のために、適用するボイラ添加剤の濃度が定期的に決定される。
無機系の運転では、ボイラ水のpH値は、10.0 ≦pH≦10.5の制御変数の範囲内とすべきであるが、バッチ運転ではpH値が不連続に決定されるため、所望の値への適合も不連続となる。このプロセスでは、サンプルの採取後(約50ml)、値がpH下限を下回ると、約1リットルのボイラ水が除去される。これは、その後対応する条件の同等物と交換され、続いて数回脱気されます。pH値が十分であれば、それ以上の措置は講じられないので、酸化物層の形成に及ぼす影響は可能な限り少ない。)
「During the water treatment with the inventive medium, the concentration of the free film-forming amine (FA) in the condensate serves as benchmark, wherein respectively one sample is removed from the liquid and the condensate for determining it. A calibrated photometric test provides information on the amount of film-forming amine contained therein. If the actual value falls below the desired value window of 0.5 ppm ≦S [fA] ≦ 1.0 ppm, an adjustment is made by adding formula via a N_(2) overpressure metering system.」(11?12ページ)
(本発明の媒体による水処理では、凝縮液中の皮膜形成アミン(FA)の遊離濃度が基準として用いられ、液体及び凝縮液からそれぞれ一つの試料を取り出してそれを決定する。校正された光度測定試験は、そこに含まれる皮膜形成アミンの量に関する情報を提供する。実際の値が0.5 ppm≦[fA] ≦1.0 ppmの目標値を下回る場合、N_(2)過圧計量システムを介して処方量を添加することによって処理が行われる。)
(イ) 甲3発明
上記(ア)の記載事項を総合すると、甲3には以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「蒸気発生プラントの熱伝導率を改善するための方法であって、
一般式: R-(NH-(CH_(2))_(m))_(n) -NH_(2)(Rは鎖長が12から22の脂肪族炭化水素基で、mは1から8までの整数、nは0から7までの整数)で表される少なくとも一つの皮膜形成アミン(成分a)を15%以下の量で含み、
アンモニア及び/又はシクロヘキシルアミン及び/又はモルホリン及び/又はジエチルアミノエタノール及び/又はアミノメチルプロパノールを成分bとして、好ましくは30%以下の量で用い、
凝縮液中の皮膜形成アミン(FA)の遊離濃度が基準として用いられ、液体及び凝縮液からそれぞれ一つの試料を取り出して遊離濃度を決定し、その値が0.5 ppm≦[fA]≦1.0 ppmの目標値を下回る場合、N_(2)過圧計量システムを介して処方量を添加することによって処理が行われる方法。」
エ 甲4
(ア) 甲4の記載
「【0025】
特許文献1に記載されるような皮膜性アミンとアンモニアもしくは中和性アミンなどの塩基性アミンとによる処理は、脱酸素剤を使用しないため、系内に酸素が存在することになる。そのため、補給水の悪化や復水器の漏洩などで系内の不純物濃度が高まると腐食が進行しやすいと考えられる。また、リン酸塩等の清缶剤も使用しないため復水器の漏洩などでスケール付着の恐れもある。
【0026】
本発明は、皮膜性アミンと給水pH調整剤を用いた従来のボイラ水の水処理におけるこのような問題を解決し、水質の悪いボイラ給水であっても、ボイラの腐食やスケールを効果的に防止するボイラ水の水処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、皮膜性アミンと給水pH調整剤と共に、清缶剤及び/又は脱酸素剤を併用してボイラ給水に添加することにより、ボイラの腐食やスケールを効果的に防止することができることを見出した。
【0028】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0029】
[1]ボイラ給水に皮膜性アミンと給水pH調整剤に加えて清缶剤及び/又は脱酸素剤を添加する、ボイラ水の水処理方法。」
「【0054】
[薬注量]
各薬剤の添加量は、好ましくは以下の通りである。
【0055】
皮膜性アミンは、補給水に対して0.01?10ppm、特に0.1?1ppmの割合で添加することが好ましい。この範囲よりも添加量が少な過ぎると皮膜性アミンによる防食効果を十分に得ることができず、多過ぎると系統内に粘着性の付着物が生じるおそれがある。」
(イ) 甲4記載事項
上記(ア)の記載事項を総合すると、甲4には以下の事項(以下「甲4事項」という。)が記載されていると認められる。
「皮膜性アミンと給水pH調整剤と共に、清缶剤及び/又は脱酸素剤を併用してボイラ給水に添加することにより、ボイラの腐食やスケールを効果的に防止することができること。」
オ 甲5
(ア) 甲5の記載
「【0001】
本発明は、回転式のドラム内に水蒸気を供給し、ドラム外面と接触する被乾燥物を乾燥するようにした蒸気ドライヤの伝熱効率改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転式のドラムを備えた蒸気ドライヤは抄紙設備等において広く用いられている。紙を生産する抄紙機(ペーパーマシン)は、一般に紙料流出部、脱水部、圧搾・搾水部、乾燥部、サイズ部(表面強度・耐水性を持たせる加工部)、光沢部、及び巻取り部から構成される。乾燥部では水分含有率50%前後の湿紙をカンバスなどで保持して数十本の直径1.2?1.8mの円筒形の乾燥機表面に接触させて水分を蒸発させて水分含有率5?10%程度まで乾燥させる。
【0003】
また、ティッシュペーパー・トイレットペーパー・キッチンペーパー・紙おむつなどの家庭紙用原料紙や片艶包装紙などの製造では、圧搾・搾水部を出た湿紙を、ヤンキードライヤと称される直径3?5.5mの円筒形で円周部外表面を鏡面仕上げした1本の乾燥機に張り付け、乾燥機内側を蒸気で加熱し、外側の湿紙に熱風を吹きつけて乾燥させる。」
「【0013】
本発明では、ドラム内の凝縮水に、ドラム内周面と水との接触角を増大させる接触角増大剤を含有させるので、水膜のリフトが抑制され、ドラム内周面と水蒸気との接触面積が大きくなり、伝熱効率が改善される。
【0014】
また、水膜が形成され難く、形成された水膜の剥離も容易になることで、ドラムの回転速度を増大させてもドラム内周面と水蒸気との接触面積を確保できるところから、単位時間当りの乾燥量の増大例えば湿紙の生産性の向上も可能となる。
【0015】
この接触角増大剤としては、CH_(3)(CH_(2))_(m)NH_(2)(m=9?23)で表わされる直鎖状長鎖脂肪族アミンが好適である。この長鎖脂肪族アミン分子のアミノ基-NH_(2)がドラム内周面を構成する金属材料に吸着する。この長鎖脂肪族アミンは、水分子と親和性の低い疎水基である炭素数10?24の直鎖状アルキル基を有しているため、ドラム内周面に撥水性が付与され、ドラム内周面と水との接触角が増大する。」
(イ)甲5記載事項
上記(ア)の記載事項を総合すると、甲5には以下の事項(以下「甲5事項」という。)が記載されていると認められる。
「ドラム内の凝縮水に、ドラム内周面と水との接触角を増大させる、CH_(3)(CH_(2))_(m)NH_(2)(m=9?23)で表わされる直鎖状長鎖脂肪族アミンからなる接触角増大剤を含有させると、水膜のリフトが抑制され、ドラム内周面と水蒸気との接触面積が大きくなり、伝熱効率が改善されること。」
カ 甲6
(ア) 甲6の記載
「【請求項1】水処理用組成物に不活性で水溶性で、かつ光分解性の染料を加えてなる混合物であって、前記染料が前記水処理用組成物の既知量に比例した既知量で加えられている該混合物を水系中の水に加えること、及び
前記水系中の前記不活性染料の濃度を光学的に定量し、前記水処理用組成物の既知量に比例する染料の検出濃度から前記水中に存在する水処理用組成物の濃度の定量することからなる
水系中の水の中に存在する水処理用組成物の濃度を検出する方法。」
「〔発明の詳細な記述〕
本発明は水循環系中の水処理組成物の濃度を検出する方法である。水処理組成物は既知量の1種又はそれ以上の水処理化学薬品だけでなく既知量の水溶性染料を混合する水系濃厚組成物である。循環水系中の染料の濃度を検知することによつて水処理組成物の活性成分の相当する濃度を検知することも又は添加された処理生成物の量を測定することもできる。また、処理のスラグ用量(slugdoses)が最初に添加されるとき、系の水の容積は測定できる。即ち、この発明は
水処理用組成物に不活性で水溶性で、かつ光分解性の染料を加えてなる混合物であって、前記染料が前記水処理用組成物の既知量に比例した既知量で加えられている該混合物を水系中の水に加えること、及び
前記水系中の前記不活性染料の濃度を光学的に定量し、前記水処理用組成物の既知量に比例する染料の検出濃度から前記水中に存在する水処理用組成物の濃度の定量することからなる
水系中の水の中に存在する水処理用組成物の濃度を検出する方法に関する。」(4欄28?47行)
(イ) 甲6記載事項
上記(ア)の記載事項を総合すると、水系中の不活性染料の濃度を光学的に定量し、水処理用組成物の既知量に比例する染料の検出濃度から水中に存在する水処理用組成物の濃度を定量することは、不活性染料が水処理用組成物のトレーサーとして機能するものであるといえる。そうすると、甲6には以下の事項(以下「甲6事項」という。)が記載されていると認められる。
「組成物とトレーサー物質を共存させ、トレーサー物質の濃度を基に、組成物の濃度を定量すること。」
(2) [理由1]及び[理由2]についての判断
[1]甲1を主引用例とした場合の検討
ア 請求項1([理由1]、[理由2])
(ア) 本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「火力、コンバインドサイクル、バイオマスの発電プラントの水/蒸気循環系」は、「伝熱表面」について、「伝熱の改善をするもの」であって、水/蒸気循環系の蒸気による熱を、鋼管等の金属面を介して伝熱させることは明らかであり、被加熱物である水を加熱するものであるので、本件訂正発明1の「金属材料を介して蒸気により被加熱物を加熱する加熱工程」を備えるものである。そして、甲1発明は、「伝熱の改善をするもの」であるので、本件訂正発明1の「蒸気による加熱効率を向上させる方法」に相当する。
甲1発明の「皮膜形成アミン製品の注入速度は、試料水中の残留皮膜形成アミン濃度の測定によってモニタリングされ、pHや電気伝導率は中和性アミンを含む皮膜形成アミン製品の注入を制御するのに使用することができ、
水/蒸気回路の各所から取り出されたいろいろな試料の中の残留遊離皮膜形成アミンの測定によって、添加量の制御が実行される」ものは、水/蒸気回路の各所から取り出されたいろいろな試料の中には、ドレンが包含される。そうすると、ドレンに基づいてアミンの添加量を制御しているといえるので、本件訂正発明1の「該凝縮水膜形成抑制性アミンの添加量を、ドレン量、ドレン温度のいずれか1以上に基づいて制御する」ことと、「アミンの添加量を、ドレンに基づいて制御する」ことの限りで一致している。

そうすると、本件訂正発明1と甲1発明とは、以下の一致点、及び相違点を有する。

[一致点]
「金属材料を介して蒸気により被加熱物を加熱する加熱工程において、アミンを添加することにより該蒸気による加熱効率を向上させる方法であって、
該アミンの添加量を、ドレンに基づいて制御する、蒸気による加熱効率向上方法。」

[相違点1]
アミンについて、本件訂正発明1は、「凝縮水膜形成抑制性アミン」としているのに対して、甲1発明は、「皮膜形成アミン」としている点。

[相違点2]
本件訂正発明1は、「前記加熱工程は、蒸気ドライヤにより、前記被加熱物を加熱する工程であり、該蒸気ドライヤに蒸気を供給する蒸気配管または蒸気ヘッダの該蒸気ドライヤ直前の箇所に前記凝縮水膜形成抑制性アミンを添加」するとしているのに対して、甲1発明は、そのような特定はなされていない点。

[相違点3]
アミンの添加量を、ドレンに基づいて制御することについて、本件訂正発明1は、「ドレン量、ドレン温度のいずれか1以上に基づいて」制御するのに対して、甲1発明は、「pHや電気伝導率は中和性アミンを含む皮膜形成アミン製品の注入を制御するのに使用することができ、
水/蒸気回路の各所から取り出されたいろいろな試料の中の残留遊離皮膜形成アミンの測定によって、添加量の制御が実行される」とされている点。

(イ) 相違点1の検討
甲1発明の皮膜形成アミンは、その適用によって伝熱表面を清浄かつ滑らかにし、多くの異なるシステムへの適用可能性があり、伝熱の改善をするものである。
そして、その作用機序は、皮膜形成アミンが、物理的または化学的収着過程によって、皮膜形成アミン(FFA)が密に充填された分子層が金属表面上に形成し、管の外表面を疎水化することにより、膜凝縮熱伝達を滴状凝縮にし、その結果、熱供給システムのエネルギー効率を大幅に改善するというものである(例えば、甲2事項参照。)。
そうすると、甲1発明において用いる「皮膜形成アミン」は、管の外表面の凝縮水膜形成を抑制する機能を有するものであるので、「凝縮水膜形成抑制性アミン」といえる。
よって、相違点1は、実質的な相違点ではない。
(ウ) 相違点2の検討
甲1発明は、「火力、コンバインドサイクル、バイオマスの発電プラントの水/蒸気循環系における、オクタデシルアミン、オレイルアミン、オレイルプロピレンジアミン等の皮膜形成アミンの適用するものであり」、加熱工程として、蒸気ドライヤによる、被加熱物を加熱する工程は想定されておらず、また、該蒸気ドライヤに蒸気を供給する蒸気配管または蒸気ヘッダの該蒸気ドライヤ直前の箇所に前記凝縮水膜形成抑制性アミンを添加することも記載されていない。
そして、甲5事項が、「ドラム内の凝縮水に、ドラム内周面と水との接触角を増大させる、CH_(3)(CH_(2))_(m)NH_(2)(m=9?23)で表わされる直鎖状長鎖脂肪族アミンからなる接触角増大剤を含有させると、水膜のリフトが抑制され、ドラム内周面と水蒸気との接触面積が大きくなり、伝熱効率が改善される」ことを開示するものの、被加熱物を加熱する蒸気ドライヤを想定していない発電プラントである甲1発明をして、加熱工程として、蒸気ドライヤにより、被加熱物を加熱する工程である甲5事項を適用する動機付けを見いだせない。
(エ) そうすると、上記相違点2は、実質的な相違点であって、本件訂正発明1は甲1発明ではなく、また、相違点3を検討するまでもなく、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 請求項2([理由1]、[理由2])
(ア) 本件訂正発明2は、本件訂正発明1における発明特定事項である「凝縮水膜形成抑制性アミン」が「下記一般式(1)で表されるポリアミンを含む」、
「 R^(1)-[NH-(CH_(2))_(m)]_(n)-NH_(2) …(1)
(式中、R^(1)は炭素数10?22の飽和又は不飽和炭化水素基を示し、mは1?8の整数であり、nは1?7の整数である。nが2以上の場合、複数のNH-(CH_(2))_(m)は同一でも異なっていてもよい。)」ことをさらに特定するものである。
そして、甲1発明は、「オクタデシルアミン、オレイルアミン、オレイルプロピレンジアミン等の皮膜形成アミンの適用するもの」であり、このうち、オレイルプロピレンジアミンは、 R^(1)-[NH-(CH_(2))_(m)]_(n)-NH_(2) (式中、R^(1)は炭素数10?22の飽和又は不飽和炭化水素基を示し、mは1?8の整数であり、nは1?7の整数である。nが2以上の場合、複数のNH-(CH_(2))_(m)は同一でも異なっていてもよい。)に相当し、本件訂正発明2において新たに特定される点について、本件訂正発明2は、甲1発明と相違するものではないが、上記本件訂正発明1について検討したとおり、本件訂正発明2は、甲1発明との対比において、相違点2を有している。
(イ) そうすると、本件訂正発明1において検討したのと同様に、相違点2は甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではないから、本件訂正発明2は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。
ウ 請求項4([理由1][理由2])
(ア) 本件訂正発明4は、本件訂正発明1における発明特定事項である「加熱工程に」に、「前記凝縮水膜形成抑制性アミンと中和性アミンとを共存させること」をさらに特定するものである。
そして、甲1発明は、「中和性アミンを含む皮膜形成アミン製品」であるので、本件訂正発明4において新たに特定される点について、本件訂正発明4は甲1発明と相違するものではないが、上記本件訂正発明1について検討したとおり、本件訂正発明4は、甲1発明との対比において、相違点2を有している。
(イ) そうすると、本件訂正発明1において検討したのと同様に、相違点2は甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではないから、本件訂正発明4は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。
エ 請求項5([理由2])
(ア) 本件訂正発明5は、本件訂正発明1における発明特定事項である「加熱工程」を「前記凝縮水膜形成抑制性アミンとトレーサー物質とを共存させ、トレーサー物質の濃度を基に、凝縮水膜形成抑制性アミンの濃度管理を実施する」とさらに特定したものである。
そして、組成物とトレーサー物質を共存させ、トレーサー物質の濃度を基に、組成物の濃度を定量することは、本願出願前に周知の事項であるが(上記甲6記載事項参照。)、本件訂正発明5は、甲1発明と、上記相違点2を有している。
(イ) そうすると、相違点2は、上記本件訂正発明1について検討したのと同様に、甲1発明から当業者が容易に想到し得たものではないから、本件訂正発明5は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

[2]甲3を主引用例とした場合の検討
ア 請求項1([理由1]、[理由2])
(ア) 本件訂正発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明における「蒸気発生プラントの熱伝導率を改善する」ものは、蒸気発生プラントにおける熱を、金属管等の金属面を介して伝熱させるものであることは明らかであり、被加熱物である水を加熱するものであるので、本件訂正発明1の「金属材料を介して蒸気により被加熱物を加熱する加熱工程」を備えるものである。そして、甲3発明の「蒸気発生プラントの熱伝導率を改善するための方法」は、本件発明1の「蒸気による加熱効率を向上させる方法」に相当する。
甲3発明の「一般式: R-(NH-(CH_(2))_(m))_(n) -NH_(2)(Rは鎖長が12から22の脂肪族炭化水素基で、mは1から8までの整数、nは0から7までの整数)で表される少なくとも一つの皮膜形成アミン(成分a)を15%以下の量で含み、アンモニア及び/又はシクロヘキシルアミン及び/又はモルホリン及び/又はジエチルアミノエタノール及び/又はアミノメチルプロパノールを成分bとして、好ましくは30%以下の量で用い」るものは、本件発明1の「凝縮水膜形成抑制性アミンを添加すること」と、「アミンを添加すること」の限りで一致する。
甲3発明の「凝縮液中の皮膜形成アミン(FA)の遊離濃度が基準として用いられ、液体及び凝縮液からそれぞれ一つの試料を取り出して遊離濃度を決定し、その値が0.5 ppm≦[fA]≦1.0 ppmの目標値を下回る場合、N_(2)過圧計量システムを介して皮膜形成アミンを添加することによって処理が行われる」ことは、凝縮液はドレンといえるものであり、ドレンに基づいて制御しているので、本件訂正発明1の「該凝縮水膜形成抑制性アミンの添加量を、ドレン量、ドレン温度のいずれか1以上に基づいて制御する」ことと、「アミンの添加量を、ドレンに基づいて制御する」ことの限りで一致している。

そうすると、本件訂正発明1と甲3発明とは、以下の一致点、及び相違点を有する。

[一致点]
「金属材料を介して蒸気により被加熱物を加熱する加熱工程において、アミンを添加することにより該蒸気による加熱効率を向上させる方法であって、
該アミンの添加量を、ドレンに基づいて制御する、蒸気による加熱効率向上方法。」

[相違点4]
アミンについて、本件訂正発明1は、「凝縮水膜形成抑制性アミン」としているのに対して、甲3発明は、「一般式:R-(NH-CH_(2))_(m))_(n)-NH_(2)(Rは鎖長が12から22の脂肪族炭化水素基で、mは1から8までの整数、nは0から7までの整数)で表される少なくとも一つの皮膜形成アミン(成分a)を15%以下の量で含み、アンモニア及び/又はシクロヘキシルアミン及び/又はモルホリン及び/又はジエチルアミノエタノール及び/又はアミノメチルプロパノールを成分bとして、好ましくは30%以下の量で用い」るものとしている点。

[相違点5]
本件訂正発明1は、「前記加熱工程は、蒸気ドライヤにより、前記被加熱物を加熱する工程であり、該蒸気ドライヤに蒸気を供給する蒸気配管または蒸気ヘッダの該蒸気ドライヤ直前の箇所に前記凝縮水膜形成抑制性アミンを添加」するとしているのに対して、甲3発明は、そのような特定はなされていない点。

[相違点6]
アミンの添加量を、ドレンに基づいて制御することについて、本件訂正発明1は、「ドレン量、ドレン温度のいずれか1以上に基づいて」制御するのに対して、甲3発明は、「凝縮液中の皮膜形成アミン(FA)の遊離濃度が基準として用いられ、液体及び凝縮液からそれぞれ一つの試料を取り出して遊離濃度を決定し、その値が0.5 ppm≦[fA]≦1.0 ppmの目標値を下回る場合、N_(2)過圧計量システムを介して皮膜形成アミンを添加することによって処理が行われる」としている点。

(イ) 相違点4の検討
甲3発明において、皮膜形成アミンを用いるのは、熱伝達率を改善するためにであり、その作用機序は、一般に、皮膜形成アミンが、物理的または化学的収着過程のために、皮膜形成アミン(FFA)が密に充填された分子層が金属表面上に形成し、管の外表面を疎水化することにより、膜凝縮熱伝達を滴状凝縮にし、その結果、熱供給システムのエネルギー効率を大幅に改善するとされており(例えば、甲2事項参照。)、蒸気利用の分野における熱伝達改善のための技術常識といえるものである。
そうすると、甲3発明において用いている「皮膜形成アミン」は、管の外表面の凝縮水膜形成を抑制する機能を有するものであるので、「凝縮水膜形成抑制性アミン」といえる。
そうすると、上記相違点4、実質的な相違点ではない。
(ウ) 相違点5の検討
甲3発明は、「蒸気発生プラント」であるものの、加熱工程として、蒸気ドライヤによる、被加熱物を加熱する工程は想定されておらず、また、該蒸気ドライヤに蒸気を供給する蒸気配管または蒸気ヘッダの該蒸気ドライヤ直前の箇所に前記凝縮水膜形成抑制性アミンを添加することは記載されていない。
そして、甲5事項が、「ドラム内の凝縮水に、ドラム内周面と水との接触角を増大させる、CH_(3)(CH_(2))_(m)NH_(2)(m=9?23)で表わされる直鎖状長鎖脂肪族アミンからなる接触角増大剤を含有させると、水膜のリフトが抑制され、ドラム内周面と水蒸気との接触面積が大きくなり、伝熱効率が改善される」ことを開示するものの、被加熱物を加熱する蒸気ドライヤを想定していない発電プラント等の蒸気発生プラントである甲3発明をして、加熱工程として、蒸気ドライヤにより、被加熱物を加熱する工程である甲5事項を適用する動機付けを見いだせない。
(エ) そうすると、上記相違点5は、実質的な相違点であって、本件訂正発明1は甲3発明ではなく、また、相違点6を検討するまでもなく、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 請求項2([理由1]、[理由2])
(ア) 本件訂正発明2は、本件訂正発明1における発明特定事項である「凝縮水膜形成抑制性アミン」が「下記一般式(1)で表されるポリアミンを含む」、「R_(1)-[NH-(CH_(2))_(m)]_(n)-NH_(2 )…(1)(式中、R_(1)は炭素数10?22の飽和又は不飽和炭化水素基を示し、mは1?8の整数であり、nは1?7の整数である。nが2以上の場合、複数のNH-(CH_(2))_(m)は同一でも異なっていてもよい。)」ことをさらに特定するものである。
そして、甲3発明は、「一般式: R-(NH-(CH_(2))_(m))_(n) -NH_(2)(Rは鎖長が12から22の脂肪族炭化水素基で、mは1から8までの整数、nは0から7までの整数)で表される少なくとも一つの皮膜形成アミン(成分a)を15%以下の量で含」ものであり、本件訂正発明2において新たに特定される点について、本件訂正発明2は、甲3発明と相違するものではないが、上記本件訂正発明1で検討したとおり、本件訂正発明2は、甲3発明との対比において、相違点5を有している。
(イ) そうすると、本件訂正発明1において検討したのと同様に、相違点5は甲3発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではないから、本件訂正発明2は、甲3発明ではなく、また、甲3発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。
ウ 請求項4([理由1][理由2])
(ア) 本件訂正発明4は、本件訂正発明3における発明特定事項である「加熱工程に」に、「前記凝縮水膜形成抑制性アミンと中和性アミンとを共存させること」をさらに特定するものである。
そして、甲3発明は、「アンモニア及び/又はシクロヘキシルアミン及び/又はモルホリン及び/又はジエチルアミノエタノール及び/又はアミノメチルプロパノールを成分bとして、好ましくは30%以下の量で用い」るものであり、中和性アミンを用いるものであるので、本件訂正発明4において新たに特定される点について、本件訂正発明4は甲3発明と相違するものではないが、上記本件訂正発明1で検討したとおり、本件訂正発明4は、甲3発明との対比において、相違点5を有している。
(イ) そうすると、本件訂正発明1において検討したのと同様に、相違点5は甲3発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではないから、本件訂正発明4は、甲3発明ではなく、また、甲3発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。
エ 請求項5([理由2])
(ア) 本件訂正発明5は、本件訂正発明1における発明特定事項である「加熱工程」を「前記凝縮水膜形成抑制性アミンとトレーサー物質とを共存させ、トレーサー物質の濃度を基に、凝縮水膜形成抑制性アミンの濃度管理を実施する」とさらに特定したものである。
そして、組成物とトレーサー物質を共存させ、トレーサー物質の濃度を基に、組成物の濃度を定量することは、本願出願前に周知の事項であるが(上記甲6記載事項参照。)、本件訂正発明5は、甲3発明と、上記相違点5を有している。
(イ) そうすると、相違点5は、上記本件訂正発明1について検討したのと同様に、甲3発明から当業者が容易に想到し得たものではないから、本件訂正発明5は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 特許異議申立書における特許異議申立理由の理由3:特許法第36条第4項第1号及び理由4:特許法第36条第6項第2号について
(1) 理由3:特許法第36条第4項第1号について
ア 申立人は、以下のように主張している。
(ア) 本件特許明細書の【0042】には、「ドレン温度または金属材料温度、例えばドライヤ温度を測定し、ドレン温度または金属材料温度が低下した場合は、マシンの停止と判断し、凝縮水膜形成抑制性アミンの薬注を停止させ、ドレン温度またはドライヤ温度が上昇した場合は、マシンの再稼働と判断し、予め設定した薬注量の範囲内で凝縮水膜形成抑制性アミンの薬注を再開する。」と記載されているが、これはドラム温度によりマシンの停止と再稼働を判断し、薬剤の停止と再開を行うだけのものであり、本件訂正発明1及び3の凝縮液膜形成抑制性アミンの添加量を、ドレンの温度に基づいて制御する具体的な方法が示されていない。
(イ) 実施例は、N-オクタデセニルプロパン-1,3-ジアミン濃度をベンガルローズによる発色法により分析しており、トレーサー物質としてのN,N-ジエチルヒドロキシルアミン濃度との関連性が明確にされず、本件特許明細書にN,N-ジエチルヒドロキシルアミンの分析方法に関する記載はなされていない。
(ウ) したがって、本件訂正発明1、3及び5について、本件特許明細書の発明の詳細な説明が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
イ そこで、以下に検討する。
(ア) 実施可能要件の判断基準
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しなければならない旨規定するところ、実施可能要件を充足するためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する。
(イ) 本件訂正発明1及び5について(請求項3は本件訂正により削除された。)
a 本件訂正発明1の「前記加熱工程は、蒸気ドライヤにより、前記被加熱物を加熱する工程であり、該蒸気ドライヤに蒸気を供給する蒸気配管または蒸気ヘッダの該蒸気ドライヤ直前の箇所に前記凝縮水膜形成抑制性アミンを添加し、該凝縮水膜形成抑制性アミンの添加量を、ドレン量、ドレン温度のいずれか1以上に基づいて制御する」との記載は、文言上、「該蒸気ドライヤに蒸気を供給する蒸気配管または蒸気ヘッダの該蒸気ドライヤ直前の箇所」に「前記凝縮水膜形成抑制性アミンを添加」すること、及び「該凝縮水膜形成抑制性アミンの添加量を、ドレン量、ドレン温度のいずれか1以上に基づいて制御する」ことと理解することができる。
そして、当業者は、本件特許明細書の「なお、ここで、『ドレン』は、凝縮水膜形成抑制性アミンを含む凝縮液であればよく、特にその採取場所の制限はないが、蒸気ドライヤ出口のドレンが好適である。」(【0028】)、「ドレン量または蒸気量、ドレン温度または金属材料温度に基づいて、凝縮水膜形成抑制性アミンの薬注量を制御してもよい。上述の分析制御項目の2以上を組み合わせて凝縮水膜形成抑制性アミンの薬注制御を実施してもよい。」(【0029】)、「ドレン温度または金属材料温度、例えばドライヤ温度を測定し、ドレン温度または金属材料温度が低下した場合は、マシンの停止と判断し、凝縮水膜形成抑制性アミンの薬注を停止させ」ること(【0042】)、「ドレン温度またはドライヤ温度が上昇した場合は、マシンの再稼働と判断し、予め設定した薬注量の範囲内で凝縮水膜形成抑制性アミンの薬注を再開する」こと(【0042】)の記載を参考にして、ドレン温度またはドライヤ温度の上昇に応じた薬注量を予め設定することにより、過度の試行錯誤を要することなく、「前記加熱工程は、蒸気ドライヤにより、前記被加熱物を加熱する工程であり、該蒸気ドライヤに蒸気を供給する蒸気配管または蒸気ヘッダの該蒸気ドライヤ直前の箇所に前記凝縮水膜形成抑制性アミンを添加し、
該凝縮水膜形成抑制性アミンの添加量を、ドレン量、ドレン温度のいずれか1以上に基づいて制御する」との構成を備えた本件訂正発明1を実施することができるというべきである。
b 本件訂正発明5の「前記加熱工程に、前記凝縮水膜形成抑制性アミンとトレーサー物質とを共存させ、トレーサー物質の濃度を基に、凝縮水膜形成抑制性アミンの濃度管理を実施する」との記載は、文言上、「前記加熱工程に、前記凝縮水膜形成抑制性アミンとトレーサー物質とを共存させ」て、「トレーサー物質の濃度を基に、凝縮水膜形成抑制性アミンの濃度管理を実施する」ことと理解することができる。
そして、当業者は、本件特許明細書の「凝縮水膜形成抑制性アミンにN-オクタデセニルプロパン-1,3-ジアミン、中和性アミンにシクロヘキシルアミンを用い、ポリアミンはポリオキシエチレンココアミンで乳化させて添加した。ポリオキシエチレンココアミンおよびシクロヘキシルアミンの配合量はN-オクタデセニルプロパン-1,3-ジアミン100重量部に対し15重量部、500重量部とした。また、凝縮水膜形成抑制性アミンのトレーサー物質としてDEHA(N,N-ジエチルヒドロキシルアミン)を5重量部添加した。」(【0061】)の記載を参考にして、当業者は、凝縮水膜形成抑制性アミンとトレーサー物質とを共存させて、トレーサー物質の濃度を基に、凝縮水膜形成抑制性アミンの濃度管理することは、過度の試行錯誤を要することなく行い得るものであり、本件訂正発明5を実施することができるというべきである。
なお、具体的な分析方法の記載が明細書に記載されていないからといって、トレーサーの物質の濃度について常法に従い測れないとするところはない。
c よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1及び5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているということができる。
(2) 理由4:特許法第36条第6項第2号について
ア 申立人は、以下のように主張している。
(ア) 請求項3に係る発明(訂正前)に記載された「前記蒸気ドライヤのドレンの凝縮水膜形成抑制性アミン濃度、pH、量、温度、金属材料溶出量、のいずれか1以上に基づいて、該凝縮水膜形成抑制性アミンの添加量を制御する」の「量」が何を表すか不明である。
(イ) 本件訂正発明5は、「前記加熱工程に、前記凝縮水膜形成抑制性アミンとトレーサー物質とを共存させ、トレーサー物質の濃度を基に、凝縮水膜形成抑制性アミンの濃度管理を実施する」ものであるが、本件特許明細書の【0030】には、「ドレン中の凝縮水膜形成抑制性アミン濃度の分析には例えば、ベンガルローズを用いて発色させて濃度を測定する方法などを採用することができる」ことが記載され、さらにトレーサー物質を加える理由が明確となっていない。
(ウ) したがって、請求項3に係る発明及び本件訂正発明5について、特許を受けようとする発明が明確ではない。
イ そこで、以下に検討する。
(ア) 明確性要件の判断基準
特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者の利益が不当に害されることがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにある。
そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(イ) 請求項3について
本件訂正により、訂正前の請求項3は削除されたので、請求項3に係る取消理由は解消した。
(ウ) 請求項5について
本件訂正発明5の「前記加熱工程に、前記凝縮水膜形成抑制性アミンとトレーサー物質とを共存させ、トレーサー物質の濃度を基に、凝縮水膜形成抑制性アミンの濃度管理を実施する」とは、「前記加熱工程に、前記凝縮水膜形成抑制性アミンとトレーサー物質とを共存させ」て、「トレーサー物質の濃度を基に、凝縮水膜形成抑制性アミンの濃度管理を実施する」ることを意味するものであり、本件訂正発明5は、その記載のとおり理解できるものであり、当該記載により、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者の利益が不当に害されるといえるものでもない。
なお、申立人は、本件特許明細書の【0030】には、「ドレン中の凝縮水膜形成抑制性アミン濃度の分析には例えば、ベンガルローズを用いて発色させて濃度を測定する方法などを採用することができる」ことが記載され、その上、さらにトレーサー物質を加える理由が明確となっていないとしているが、ベンガルローズを用いて発色させて濃度を測定する方法などは例示として記載されているもので、別途、ドレン中の凝縮水膜形成抑制性アミン濃度の分析をトレーサー物質を加えることにより行うことを排除するものではない。
(エ) よって、本件訂正発明5は、明確なものであるといえる。

3 理由5(進歩性)について
(1) 各甲号証の記載等
甲1?甲6に記載された事項は、上記「第6 1(1) 各甲号証の記載等」に記載された事項に加え、以下のとおりである。
ア 甲1
(ア) 甲1の記載
「・It is most important that the total iron (and total copper) concentration be monitored across the cycle using the procedures in the IAPWS sampling TGD [7] with full digestion and as outlined in Section 8.2. This ensures that, in case of large amounts of corrosion products, they are identified by the operator and not allowed to flow around the cycle. In the case of elevated concentrations of corrosion products, the operator may need to reduce or stop the addition rate.」 (24ページ)
(・第8.2節で述べたようにIAPWSのサンプリング手順[7]に基づき循環系の各所で全鉄(全銅)濃度をモニタリングすることは非常に重要である。大量の腐食生成物がある場合、循環系全体に流入することは許されないことをオペレーターによって認識されているべきである。腐食生成物の濃度上昇が認められた場合、オペレーターは皮膜形成アミンの添加速度を減らすか、添加を中止する必要があるかもしれない。)
(イ) 甲1記載事項
上記「第6 1 (1) ア (ア)」の記載事項及び上記(ア)の記載事項を総合すると、甲1には、さらに以下の事項(以下「甲1事項2」等という。)が記載されていると認められる。
甲1事項2:皮膜形成アミンの定常的な過剰添加は容器や管を閉塞させる可能性がある粘着性のあるボール(ゲル状物質の凝集塊)を形成させることがあり、
ドラムのpH、電気伝導率、水/蒸気回路各所から取り出されたいろいろな試料の中の残留遊離皮膜形成アミンの測定、循環系の各所での、腐食生成物である全鉄(全銅)濃度によって、皮膜形成アミン製品の添加量の制御が実行されること。
甲1事項3:水/蒸気循環系において、オクタデシルアミン、オレイルアミン、オレイルプロピレンジアミン等の皮膜形成アミンの適用すること。
甲1事項4:皮膜形成アミンは、中和性アミンを含むことができること。
甲1事項5:必要な初期添加量は、高温/高圧プラントによる活性成分の熱分解予想量によって決定されること。
イ 甲5
(ア) 甲5の記載
「【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】湿紙乾燥設備の系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0018】
本発明は、蒸気ドライヤの回転式のドラム内の凝縮水に、ドラム内周面と水との接触角を増大させる接触角増大剤を含有させるようにしたものである。
【0019】
接触角増大剤は、ドラムに供給される水蒸気に添加されてもよく、この水蒸気を発生させるボイラの給水に添加されてもよく、双方に添加されてもよい。ドラム内に直接に接触角増大剤を添加してもよいが、設備がやや複雑になると共に、接触角増大剤が凝縮水と均一に混合しない可能性もあるので、ボイラ給水又は水蒸気に添加するのが好ましい。
【0020】
接触角増大剤は、この水蒸気又は給水に連続的に添加されてもよく、間欠的に添加されてもよい。また、蒸気ドライヤの運転開始時に所定時間継続して水蒸気又はボイラ給水に添加し、その後は間欠的に添加するようにしてもよい。蒸気ドライヤの運転開始時に接触角増大剤を多く添加し、その後は添加量を減少させるようにしてもよい。
【0021 】
本発明で用いる接触角増大剤としては、長鎖脂肪族アミン特にCH_(3)(CH_(2))_(m)NH_(2 )m=9?23)で表わされる直鎖状長鎖脂肪族アミンが好適である。なお、mが9よりも小さいと接触角増大作用が不足することがあり、mが24よりも大きいとゲル化し易くなることがある。
【0022】
この長鎖脂肪族アミンをボイラ給水又は水蒸気に添加する場合、水蒸気中の長鎖脂肪族アミン濃度が0.01?3mg/kg-水蒸気、特に0.05?1mg/kg-水蒸気となるように添加するのが好ましい。
【0023】
長鎖脂肪族アミンの具体例としては、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ノナデシルアミン、エイコシルアミン、ドコシルアミンなどの飽和脂肪族アミン、オレイルアミン、リシノレイルアミン、リノレイルアミン、リノレニルアミンなどの不飽和脂肪族アミン、ヤシ油アミン、硬化牛脂アミンなどの混合アミン及びこれらの混合物を挙げられる。
【0024】
長鎖脂肪族アミンは、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の溶媒に溶解させて水蒸気又はボイラ給水に添加してもよいが、乳化剤を用いて水性エマルジョンとし、これを水蒸気又はボイラ給水に添加するのが好ましい。乳化剤としては、脂肪酸アルカリ金属塩、特に炭素数8?24とりわけ炭素数10?22の飽和又は不飽和の脂肪酸アルカリ金属塩を好適に用いることができ、具体的には、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸などの飽和又は不飽和の脂肪酸のナトリウム塩やカリウム塩が挙げられる。また、この脂肪酸アルカリ金属塩としては、食用油脂から製造される脂肪酸のナトリウム塩やカリウム塩も好ましく用いることができる。脂肪酸アルカリ金属塩としては、特に炭素数14?22の不飽和脂肪酸、例えば、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸から選ばれる少なくとも1種を25重量% 以上含有する脂肪酸のアルカリ金属塩が好適である。
【0025】
長鎖脂肪族アミンと脂肪酸アルカリ金属塩との配合割合は重量比(長鎖脂肪族アミン/脂肪酸アルカリ金属塩) で40/1?1/1特に20/1?2/1程度が好適である。その他、グリセリンと前述の脂肪酸とのエステルを好適に用いることができ、特にステアリン酸とのエステルを好ましく用いることができる。
【0026】
蒸気ドライヤは各種産業設備のいずれに設置されたものであってもよい。蒸気ドライヤは、湿紙の乾燥工程に広く用いられているので、ヤンキードライヤを用いた湿紙乾燥設備に本発明方法を適用した場合の一例を第1図に示す。
【0027】
補給水装置1、給水槽2、配管3及び給水ヘッダ4を介してボイラ5へ給水が供給される。ボイラ5で発生した水蒸気は、水蒸気配管6、水蒸気ヘッダ7、配管8、流量調節バルブ9及び配管10を介してヤンキードライヤのドラム11内に供給される。
【0028】
このドラム11は、第1図において時計方向に回転駆動されており、湿紙Pは、このドラム11の外周面に接触して乾燥され、該外周面から剥離された後、製品巻取り工程へ送られる。乾燥された紙の含水率とドラム外周面の温度とがセンサによって測定され、これらに基づいて前記バルブ9によって水蒸気流量が調節される。
【0029】
ドラム内で水蒸気が凝縮して生じた凝縮水Wは、サイホン管12及び配管13を介してフラッシュタンク14へ送られ、濾過器15を介して給水槽2へ返送される。
【0030】
ドラム11の回転に伴う遠心力によって、凝縮水Wはドラム11の内周面に押し付けられ、ドラム11の回転方向にリフトされ、ドラム11の内周面に水膜が形成される。
【0031】
この実施の形態では、ボイラ給水又は発生した水蒸気に対し前記接触角増大剤を添加する。この接触角増大剤の添加位置としては、給水に添加する場合は前記配管3が好適であり、水蒸気に添加する場合は水蒸気ヘッダ7が好適である。配管3にて給水に添加する場合は、給水槽2に添加する場合に比べて、ボイラ給水中の該増大剤の濃度を迅速に変更することができる。また、安定性が低い接触角増大剤の場合であっても、配管3で添加したときには添加後直ちにボイラ5に供給されるので、給水槽2に添加するときよりも好適である。ボイラ給水に添加された接触角増大剤は、水相から水蒸気相に移行し、水蒸気と共にドラム11 へ送られる。
【0032】
なお、ヤンキードライヤ以外の多筒式ドライヤなど各種の抄紙機ドライヤにも本発明を適用でき、抄紙機ドライヤ以外の蒸気ドライヤにも本発明を適用できる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0034】
[実施例1]
第1図に示す抄紙乾燥設備において、ヤンキードライヤのドラム直径3m 、供給水蒸気圧力0.6MPa、水蒸気供給量約900kg/hとし、ドラムの外表面温度が100℃となり、乾燥後の製品(紙)の含水率が20?30%となるように、ヤンキードライヤへの水蒸気供給量を流量調節弁9で制御した。
【0035】
配管3から重油焚ボイラ給水に対しオクタデシルアミンを、給水中の濃度が0.2mg/Lとなるように添加した。なお、オクタデシルアミンは、オレイン酸ソーダで乳化させてボイラ給水に添加した。オレイン酸ソーダの配合量は、オクタデシルアミン100重量部に対し15重量部とした。水蒸気中のオクタデシルアミン濃度は0.2mg/kg-水蒸気であった。
【0036】
[実施例2]
実施例1において、オクタデシルアミンの給水への添加量を2.0mg/Lとしたこと以外は同様にして湿紙の乾燥を行った。
【0037】
[実施例3]
オクタデシルアミンの代わりにドデシルアミンを給水への添加量が0.2mg/Lとなるように添加したこと以外は同様にして湿紙の乾燥を行った。」
(イ) 甲5発明
上記「第6 1 (1) オ (ア)」の記載事項及び上記(ア)の記載事項を総合すると、甲5には、さらに以下の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
「回転式のドラム11内に水蒸気を供給し、ドラム11外面と接触する被乾燥物を乾燥するようにした蒸気ドライヤの伝熱効率改善方法であって、
回転式のドラム11を備えた蒸気ドライヤは抄紙設備等において用いられているヤンキードライヤであり、
補給水装置1、給水槽2、配管3及び給水ヘッダ4を介してボイラ5へ給水が供給され、ボイラ5で発生した水蒸気は、水蒸気配管6、水蒸気ヘッダ7、配管8、流量調節バルブ9及び配管10を介してヤンキードライヤのドラム11内に供給され、
ドラム11内の凝縮水に、ドラム11内周面と水との接触角を増大させる接触角増大剤を含有させて、水膜のリフトが抑制され、ドラム11内周面と水蒸気との接触面積が大きくなり、伝熱効率が改善され、
接触角増大剤としては、CH_(3)(CH_(2))_(m)NH_(2)(m=9?23)で表わされる直鎖状長鎖脂肪族アミンであり、長鎖脂肪族アミンは、水分子と親和性の低い疎水基である炭素数10?24の直鎖状アルキル基を有しているため、ドラム11内周面に撥水性が付与され、ドラム11内周面と水との接触角が増大し、
接触角増大剤は、ドラム11に供給される水蒸気に添加されてもよく、この水蒸気を発生させるボイラ5の給水に添加されてもよく、また、双方に添加されてもよく、
接触角増大剤の添加位置としては、給水に添加する場合は前記配管3が好適であり、水蒸気に添加する場合は水蒸気ヘッダ7が好適であり、
接触角増大剤は、この水蒸気又は給水に連続的に添加されてもよく、間欠的に添加されてもよく、蒸気ドライヤの運転開始時に所定時間継続して水蒸気又はボイラ給水に添加し、その後は間欠的に添加するようにしてもよく、蒸気ドライヤの運転開始時に接触角増大剤を多く添加し、その後は添加量を減少させるようにしてもよい、
蒸気ドライヤの伝熱効率改善方法。」
(2) 理由5についての判断
ア 本件訂正発明1について
(ア) 本件訂正発明1と甲5発明とを対比する。
甲5発明における「回転式のドラム11内に水蒸気を供給し、ドラム11外面と接触する被乾燥物を乾燥するようにした蒸気ドライヤ」であって、「回転式のドラム11を備えた蒸気ドライヤは抄紙設備等において用いられているヤンキードライヤ」による乾燥する工程は、ヤンキードライヤが金属からなることは技術常識であるから、本件訂正発明1の「金属材料を介して蒸気により被加熱物を加熱する加熱工程」であり、「前記加熱工程は、蒸気ドライヤにより、前記被加熱物を加熱する工程」に相当する。
甲5発明の「接触角増大剤としては、CH_(3)(CH_(2))_(m)NH_(2)(m=9?23)で表わされる直鎖状長鎖脂肪族アミン」は、「長鎖脂肪族アミンは、水分子と親和性の低い疎水基である炭素数10?24の直鎖状アルキル基を有しているため、ドラム11内周面に撥水性が付与され、ドラム11内周面と水との接触角が増大」させ、「水膜のリフトが抑制され」るものであるから、甲2事項も参酌するに、直鎖脂肪族アミンが皮膜を形成していることは明らかであり、本件訂正発明1の「凝縮水膜形成抑制性アミン」に相当する。
そうすると、甲5発明の「ドラム11内の凝縮水に、ドラム11内周面と水との接触角を増大させる接触角増大剤を含有させて、水膜のリフトが抑制され、ドラム11内周面と水蒸気との接触面積が大きくなり、伝熱効率が改善され」る「伝熱効率改善方法」は、本件訂正発明1の「凝縮水膜形成抑制性アミンを添加することにより該蒸気による加熱効率を向上させる方法」に相当する。
甲5発明が「ボイラ5で発生した水蒸気は、水蒸気配管6、水蒸気ヘッダ7、配管8、流量調節バルブ9及び配管10を介してヤンキードライヤのドラム11内に供給され」るので、「水蒸気ヘッダ7」は「ドラム11」の直前に配置されているといえるものである。そうすると、甲5発明の「接触角増大剤は、ドラム11に供給される水蒸気に添加されてもよく、この水蒸気を発生させるボイラ5の給水に添加されてもよく、また、双方に添加されてもよく、
接触角増大剤の添加位置としては、給水に添加する場合は前記配管3が好適であり、水蒸気に添加する場合は水蒸気ヘッダ7が好適であ」ることは、本件訂正発明1の「該蒸気ドライヤに蒸気を供給する蒸気配管または蒸気ヘッダの該蒸気ドライヤ直前の箇所に前記凝縮水膜形成抑制性アミンを添加」することに、相当する。
甲5発明の「接触角増大剤は、この水蒸気又は給水に連続的に添加されてもよく、間欠的に添加されてもよく、蒸気ドライヤの運転開始時に所定時間継続して水蒸気又はボイラ給水に添加し、その後は間欠的に添加するようにしてもよく、蒸気ドライヤの運転開始時に接触角増大剤を多く添加し、その後は添加量を減少させるようにしてもよい」と、本件訂正発明1の「該凝縮水膜形成抑制性アミンの添加量を、ドレン量、ドレン温度のいずれか1以上に基づいて制御すること」とは「該凝縮水膜形成抑制性アミンの添加量を、調整すること」の限りで一致する。

そうすると、本件訂正発明1と甲5発明とは、以下の一致点、及び相違点を有する。

[一致点]
「金属材料を介して蒸気により被加熱物を加熱する加熱工程において、凝縮水膜形成抑制性アミンを添加することにより該蒸気による加熱効率を向上させる方法であって、
前記加熱工程は、蒸気ドライヤにより、前記被加熱物を加熱する工程であり、
該蒸気ドライヤに蒸気を供給する蒸気配管または蒸気ヘッダの該蒸気ドライヤ直前の箇所に前記凝縮水膜形成抑制性アミンを添加し、
該凝縮水膜形成抑制性アミンの添加量を、調整する、
蒸気による加熱効率向上方法。」

[相違点7]
凝縮水膜形成抑制性アミンの添加量を、調整することについて、本件訂正発明1は、「該凝縮水膜形成抑制性アミンの添加量を、ドレン量、ドレン温度のいずれか1以上に基づいて制御する」としているのに対して、甲5発明は、「接触角増大剤は、この水蒸気又は給水に連続的に添加されてもよく、間欠的に添加されてもよく、蒸気ドライヤの運転開始時に所定時間継続して水蒸気又はボイラ給水に添加し、その後は間欠的に添加するようにしてもよく、蒸気ドライヤの運転開始時に接触角増大剤を多く添加し、その後は添加量を減少させるようにしてもよい」としている点。

(イ) 相違点7の検討
甲1事項2は、皮膜形成アミンの過剰添加が容器や管を閉塞させる可能性が有り、そのため、ドラムのpH、電気伝導率によって、皮膜形成アミン製品の添加量の制御を実行するものであるが、ドレン量及びドレン温度によって制御するものではない。
そして、容器や管に相当する「ドラム」や「配管」を有する甲5発明においても、接触角増大剤としての直鎖状長鎖脂肪族アミン(皮膜形成アミン)の過剰添加の問題を考慮する必要性は当然に存在するものの、甲1事項2の「水/蒸気回路の各所から取り出されたいろいろな試料の中の残留遊離皮膜形成アミンの測定によって、添加量の制御が実行される」ことや、甲3発明の「凝縮液中の皮膜形成アミン(FA)の遊離濃度が基準として用いられ、液体及び凝縮液からそれぞれ一つの試料を取り出して遊離濃度を決定し、その値が0.5 ppm≦[fA]≦1.0 ppmの目標値を下回る場合、N_(2)過圧計量システムを介して処方量を添加すること」(以下「甲3発明特定事項」という。)を参酌するに、アミンの濃度に着目して添加量を制御するものの、ドレン量及びドレン温度に着目して、接触角増大剤としての直鎖状長鎖脂肪族アミン(皮膜形成アミン)の添加量を制御することの記載や示唆するところはなく、そもそも直鎖状長鎖脂肪族アミン(皮膜形成アミン)の添加量と、ドレン量及びドレン温度との関係を当業者に想起させるものはない。
そして、本件訂正発明1は、凝縮水膜形成抑制性アミンの添加量を、ドレン量及びドレン温度に着目して制御することにより、「製造する紙の種類や厚さにより抄紙速度やドライヤに吹き込む蒸気量は変動、調整されるのに対して、凝縮水膜形成抑制性アミンを定量注入すると適正薬注量に対する凝縮水膜形成抑制性アミンの過不足で様々な問題が起きる。」、「抄紙装置の短期間の停止時にも、凝縮水膜形成抑制性アミンを注入し続けることで、薬剤使用量の適正化ができないばかりでなく、系内の粘着物質の析出の問題も起こる。」(【0010】)との問題に対処し、「凝縮水膜形成抑制性アミンの薬注量を適正に制御して、凝縮水膜形成抑制性アミンの過不足に基づく、粘着物質の析出や薬注効果の低減といった問題を改善し、高い加熱効率向上効果を安定して得ることができる。」(以下「本件効果」という。)との顕著な効果を奏するものであり、当該効果は当業者が予測できたものとすることができない。
そうすると、甲5発明において、上記相違点7に係る本件訂正発明1の構成を採用することは当業者が容易に想到し得たことではない。
(ウ) 以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲5発明、甲1に記載された事項(甲1事項2、甲1事項5)及び甲3に記載された事項(甲3発明特定事項)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件訂正発明2について
(ア) 本件訂正発明2は、本件訂正発明1における発明特定事項である「凝縮水膜形成抑制性アミン」が「下記一般式(1)で表されるポリアミンを含む」、
「R^(1)-[NH-(CH_(2))_(m)]_(n)-NH_(2) …(1)
(式中、R^(1)は炭素数10?22の飽和又は不飽和炭化水素基を示し、mは1?8の整数であり、nは1?7の整数である。nが2以上の場合、複数のNH-(CH_(2))_(m)は同一でも異なっていてもよい。)」ことをさらに特定するものである。
一方、甲1事項3は、「オクタデシルアミン、オレイルアミン、オレイルプロピレンジアミン等の皮膜形成アミンの適用するもの」であり、このうち、オレイルプロピレンジアミンは、 R^(1)-[NH-(CH_(2))_(m)]_(n)-NH_(2) (式中、R^(1)は炭素数10?22の飽和又は不飽和炭化水素基を示し、mは1?8の整数であり、nは1?7の整数である。nが2以上の場合、複数のNH-(CH_(2))_(m)は同一でも異なっていてもよい。)に相当する。
そうすると、甲5発明の「接触角増大剤としての直鎖状長鎖脂肪族アミン(皮膜形成アミン)」として、甲1事項3を適用して、本件訂正発明2において、新たに特定する構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
しかしながら、本件訂正発明2は、甲5発明との対比において、相違点7を有している。
(イ) そうすると、本件訂正発明1において検討したのと同様に、相違点7は甲5発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではないから、本件訂正発明2は、甲5発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。
よって、上記本件訂正発明1で検討したことを踏まえると、本件訂正発明2は、甲5発明、甲1に記載された事項(甲1事項2、甲1事項5、甲1事項3)及び甲3に記載された事項(甲3発明特定事項)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件訂正発明4について
(ア) 本件訂正発明4は、本件訂正発明1における発明特定事項である「加熱工程に」に、「前記凝縮水膜形成抑制性アミンと中和性アミンとを共存させること」をさらに特定するものである。
そして、甲1事項4は、皮膜形成アミンには、中和性アミンを含んで良いとするものであるから、甲5発明において、甲1事項4を適用して、本件訂正発明4において、新たに特定する構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
しかしながら、本件訂正発明4は、甲5発明との対比において、相違点7を有している。
(イ) そうすると、上記本件訂正発明1、2で検討したことを踏まえると、本件訂正発明4は、甲5発明、甲1に記載された事項(甲1事項2、甲1事項5、甲1事項3、甲1事項4)及び甲3に記載された事項(甲3発明特定事項)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件訂正発明5について
(ア) 本件訂正発明5は、本件訂正発明1における発明特定事項である「加熱工程」を「前記凝縮水膜形成抑制性アミンとトレーサー物質とを共存させ、トレーサー物質の濃度を基に、凝縮水膜形成抑制性アミンの濃度管理を実施する」とさらに特定したものである。
そして、組成物とトレーサー物質を共存させ、トレーサー物質の濃度を基に、組成物の濃度を定量することは、本願出願前に周知の事項であり(上記甲6事項参照。)、甲5発明に、上記周知の事項を採用して、本件訂正発明5において新たに特定する構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
しかしながら、本件訂正発明5は、甲5発明との対比において、相違点7を有している。
(イ) よって、上記本件訂正発明1、2、4で検討したことを踏まえると、本件訂正発明5は、甲5発明、甲1に記載された事項(甲1事項2、甲1事項5、甲1事項3、甲1事項4)、甲3に記載された事項(甲3発明特定事項)及び上記周知の事項(甲6事項)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 申立人の意見について
申立人は、ドレン温度について、「ドライヤに注入される水蒸気には接触角増大剤が含まれているから、『接触角増大剤を添加した水蒸気の流量をドラム外周面の温度によって調節』することは、『ドライヤに添加される接触角増大剤の添加量をドラム外周面の温度によって調節する』ことに他ならない。」(令和3年4月10日意見書3ページ)と主張する。
しかしながら、本件訂正発明1が特定するのは、「該蒸気ドライヤに蒸気を供給する蒸気配管または蒸気ヘッダの該蒸気ドライヤ直前の箇所に前記凝縮水膜形成抑制性アミンを添加し、
該凝縮水膜形成抑制性アミンの添加量を、ドレン量、ドレン温度のいずれか1以上に基づいて制御すること」であり、申立人の主張するように、本件訂正発明1が、単に、「ドライヤに添加される接触角増大剤の添加量をドラム外周面の温度によって調節する」ことを特定するものではない。また、本件訂正発明1は、「該蒸気ドライヤに蒸気を供給する蒸気配管または蒸気ヘッダの該蒸気ドライヤ直前の箇所に前記凝縮水膜形成抑制性アミンを添加し、
該凝縮水膜形成抑制性アミンの添加量を、ドレン量、ドレン温度のいずれか1以上に基づいて制御すること」によって、上記本件効果を奏するものである。
そうすると、申立人のいうように、「接触角増大剤を添加した水蒸気の流量をドラム外周面の温度によって調節」することと、「ドライヤに添加される接触角増大剤の添加量をドラム外周面の温度によって調節する」こととを同一視できるとする主張は理由がなく、これを採用できない。
また、申立人は、ドレン量について、甲5の「この長鎖脂肪族アミンをボイラ給水又は水蒸気に添加する場合、水蒸気中の長鎖脂肪族アミン濃度が0.01?3mg/kg-水蒸気、特に0.05?1mg/kg-水蒸気となるように添加するのが好ましい。」(【0022】)との記載を参酌し、「ドライヤに入る蒸気量とドライヤから出るドレン量は同じであるから、添加量を、『ドレン量に基づいて制御すること』と『蒸気量に基づいて制御すること』では、制御された薬注量に実質的な差異はない。」(同4ページ)と主張する。
しかしながら、甲5には、単に、水蒸気中の長鎖脂肪族アミン濃度の目安を示すことが記載されているにすぎず、蒸気量を測定し、アミンの添加量を制御することまでが記載されているとはいえない。
よって、申立人の主張を採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許取り消すべき理由を発見できない。
さらに、本件特許の請求項3に係る特許に対する特許異議の申立てについては、本件特許の請求項3が本件訂正により削除されたことにより、申立ての対象が存在しないものとなったため、不適法な特許異議の申立てであって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料を介して蒸気により被加熱物を加熱する加熱工程において、凝縮水膜形成抑制性アミンを添加することにより該蒸気による加熱効率を向上させる方法であって、
前記加熱工程は、蒸気ドライヤにより、前記被加熱物を加熱する工程であり、該蒸気ドライヤに蒸気を供給する蒸気配管または蒸気ヘッダの該蒸気ドライヤ直前の箇所に前記凝縮水膜形成抑制性アミンを添加し、
該凝縮水膜形成抑制性アミンの添加量を、ドレン量、ドレン温度のいずれか1以上に基づいて制御することを特徴とする蒸気による加熱効率向上方法。
【請求項2】
前記凝縮水膜形成抑制性アミンが、下記一般式(1)で表されるポリアミンを含むことを特徴とする請求項1に記載の蒸気による加熱効率向上方法。
R^(1)-[NH-(CH_(2))_(m)]_(n)-NH_(2) …(1)
(式中、R^(1)は炭素数10?22の飽和又は不飽和炭化水素基を示し、mは1?8の整数であり、nは1?7の整数である。nが2以上の場合、複数のNH-(CH_(2))_(m)は同一でも異なっていてもよい。)
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記加熱工程に、前記凝縮水膜形成抑制性アミンと中和性アミンとを共存させることを特徴とする請求項1又は2に記載の蒸気による加熱効率向上方法。
【請求項5】
前記加熱工程に、前記凝縮水膜形成抑制性アミンとトレーサー物質とを共存させ、トレーサー物質の濃度を基に、凝縮水膜形成抑制性アミンの濃度管理を実施することを特徴とする請求項1、2又は4に記載の蒸気による加熱効率向上方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-05-14 
出願番号 特願2018-25228(P2018-25228)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (D21F)
P 1 651・ 113- YAA (D21F)
P 1 651・ 537- YAA (D21F)
P 1 651・ 536- YAA (D21F)
P 1 651・ 83- YAA (D21F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 土屋 正志  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 山崎 勝司
林 茂樹
登録日 2019-10-18 
登録番号 特許第6601516号(P6601516)
権利者 栗田工業株式会社
発明の名称 蒸気による加熱効率向上方法及び抄紙方法  
代理人 重野 剛  
代理人 重野 隆之  
代理人 重野 剛  
代理人 重野 隆之  

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