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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01B
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
管理番号 1376702
異議申立番号 異議2020-700759  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-06 
確定日 2021-06-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6676479号発明「六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6676479号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 特許第6676479号の請求項1、3?8に係る特許を維持する。 特許第6676479号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6676479号(設定登録時の請求項の数は9。以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成28年6月13日を出願日とする特許出願であって、令和2年3月16日にその特許権の設定登録がされ、同年4月8日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許の請求項1?8に係る特許に対し、特許異議申立人である安藤宏より、令和2年10月6日に特許異議の申立てがされた。
以降の手続の経緯は、次のとおりである。
令和3年 1月 5日付け: 取消理由通知書
同年 3月 4日 : 意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)
同年 4月23日 : 意見書の提出(特許異議申立人)


第2 訂正の適否についての判断
令和3年3月4日に特許権者より請求された訂正(以下、「本件訂正」という。)は適法になされたものと判断する。
以下、その理由につき詳述する。

1 訂正の内容
本件訂正は、本件特許請求の範囲を訂正するものであって、一群の請求項1?8を訂正の単位として請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に従うものであるところ、その訂正の内容(訂正事項)は、次のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「板状六方晶窒化ホウ素粒子の凝集体を含む六方晶窒化ホウ素粉末であって、圧縮破壊強度が0.1?1.0MPaの範囲にある六方晶窒化ホウ素凝集粒子の含有割合が、10?90容量%の範囲であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末。」と記載されているのを、「板状六方晶窒化ホウ素単粒子と、板状六方晶窒化ホウ素粒子の凝集体である六方晶窒化ホウ素凝集粒子からなる六方晶窒化ホウ素粉末であって、前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の含有割合が10?90容量%であり、前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の圧縮破壊強度の平均値が0.1?1.0MPaであり、前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の圧縮破壊強度の標準偏差が0.2MPa以下である、六方晶窒化ホウ素粉末。」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記圧縮破壊強度が0.1?1.0MPaの範囲にある六方晶窒化ホウ素凝集粒子の平均粒子径が30?200μm、凝集粒子を構成する板状六方晶窒化ホウ素粒子の平均粒子径が0.1?20μmである請求項1または2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。」と記載されているのを、「前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の平均粒子径が30?200μm、凝集粒子を構成する板状六方晶窒化ホウ素粒子の平均粒子径が0.1?20μmである請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?3に記載の」と記載されているのを、「請求項1または3に記載の」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5のいずれか一項に記載の」と記載されているのを、「請求項1または3?5のいずれか一項に記載の」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1?5のいずれか一項に記載の」と記載されているのを、「請求項1または3?5のいずれか一項に記載の」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について
ア はじめに、訂正事項1のうちの「板状六方晶窒化ホウ素単粒子と、板状六方晶窒化ホウ素粒子の凝集体である六方晶窒化ホウ素凝集粒子からなる六方晶窒化ホウ素粉末であって、前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の含有割合が10?90容量%であり、前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の圧縮破壊強度の平均値が0.1?1.0MPaであり」の部分(以下、「訂正事項1-1」という。)について検討をする。

(ア)まず、本件明細書に記載された【実施例】などに着目してみると、六方晶窒化ホウ素粉末として、次のものを認めることができる。
・得られた六方晶窒化ホウ素粉末から、六方晶窒化ホウ素凝集粒子と板状六方晶窒化ホウ素単粒子を選別して求めた六方晶窒化ホウ素凝集粒子含有割合(【0076】)が10?90容量%(【0034】)であり、
・任意の六方晶窒化ホウ素凝集粒子の圧縮破壊強度を測定し、その平均値(【0074】)が0.1?1.0MPa(【0024】)の範囲にあり、
・上記六方晶窒化ホウ素凝集粒子含有割合が、六方晶窒化ホウ素凝集粒子と板状六方晶窒化ホウ素単粒子を選別して求められていることからすれば、当該六方晶窒化ホウ素粉末は、六方晶窒化ホウ素凝集粒子と板状六方晶窒化ホウ素単粒子からなるもの、
すなわち、
「板状六方晶窒化ホウ素単粒子と、板状六方晶窒化ホウ素粒子の凝集体である六方晶窒化ホウ素凝集粒子からなる六方晶窒化ホウ素粉末であって、前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の含有割合が10?90容量%であり、前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の圧縮破壊強度の平均値が0.1?1.0MPaである、六方晶窒化ホウ素粉末。」

(イ)これに対し、本件訂正前の請求項1に記載された六方晶窒化ホウ素粉末は、「板状六方晶窒化ホウ素粒子の凝集体を含む六方晶窒化ホウ素粉末であって、圧縮破壊強度が0.1?1.0MPaの範囲にある六方晶窒化ホウ素凝集粒子の含有割合が、10?90容量%の範囲であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末。」であって、「板状六方晶窒化ホウ素単粒子と、板状六方晶窒化ホウ素粒子の凝集体である六方晶窒化ホウ素凝集粒子からなる」点について特定するものではない。また、単に「圧縮破壊強度が0.1?1.0MPaの範囲にある六方晶窒化ホウ素凝集粒子」の含有割合が、10?90容量%の範囲であることを特定するのみで、圧縮破壊強度が当該範囲にはない六方晶窒化ホウ素凝集粒子の含有割合について特定するものではないから、本件訂正前の請求項1に記載された六方晶窒化ホウ素粉末は、上記(ア)において検討した、本件明細書に実施例などとして記載されたものよりも広範にわたるものであることを理解することができる。

(ウ)そして、上記(ア)において検討した、本件明細書に実施例などとして記載されたものは、訂正事項1-1に係る訂正後の請求項1に係る発明にほかならないから、当該訂正事項1-1は、広範にわたるものを包含する訂正前の請求項1の記載を、上記実施例などに相当する範囲に減縮するものということができ、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。

(エ)また、訂正事項1-1に係る訂正後の請求項1に係る発明は、本件明細書に実施例などとして記載されていたものであるから、新規事項の追加には該当しないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 次に、訂正事項1のうち「前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の圧縮破壊強度の標準偏差が0.2MPa以下である」の部分(以下、「訂正事項1-2」という。)についてみると、この訂正事項1-2は、訂正前の請求項2に記載された「前記圧縮破壊強度が0.1?1.0MPaの範囲にある六方晶窒化ホウ素凝集粒子の任意の粒子100個について、圧縮破壊強度の標準偏差が0.2MPa以下である」との記載に基づいて、請求項1において、六方晶窒化ホウ素凝集粒子の「圧縮破壊強度の標準偏差が0.2MPa以下である」との記載を追加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
なお、訂正前の請求項2には、「六方晶窒化ホウ素凝集粒子の任意の粒子100個について、圧縮破壊強度の標準偏差が0.2MPa以下である」と記載されているのに対し、訂正事項1-2では「六方晶窒化ホウ素凝集粒子の任意の粒子100個について」との記載がない点については、本件明細書の【0074】における、「得られた六方晶窒化ホウ素粉末より、任意の凝集粒子を100個ほど選出し、圧縮破壊強度を測定し、その平均値及び標準偏差を求めた。」との記載を参酌すれば、訂正事項1-2により追加された圧縮破壊強度の標準偏差は、実質的に任意の凝集粒子を100個ほど選出し、その圧縮破壊強度を測定して得られる圧縮破壊強度の標準偏差を意味するものと解される。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3?6について
ア 請求項3に係る訂正事項3のうち、「前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の平均粒子径が30?200μm、凝集粒子を構成する板状六方晶窒化ホウ素粒子の平均粒子径が0.1?20μmである」の部分は、訂正事項1-1による請求項1の訂正との整合を図るものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭ではない記載の釈明を目的とするものといえるし、請求項3の引用請求項から請求項2を削除する部分は、同ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものということができる。
そして、当該訂正事項が、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

イ 訂正事項4?6に係る請求項4?6における引用請求項の一部を削除する訂正についても同様である。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。
よって、標記結論のとおり、本件特許第6676479号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。


第3 本件訂正後の本件発明
上記「第2」のとおり本件訂正は適法になされたものと認められるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、3?8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明3」?「本件発明8」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1、3?8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
板状六方晶窒化ホウ素単粒子と、板状六方晶窒化ホウ素粒子の凝集体である六方晶窒化ホウ素凝集粒子からなる六方晶窒化ホウ素粉末であって、
前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の含有割合が10?90容量%であり、
前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の圧縮破壊強度の平均値が0.1?1.0MPaであり、
前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の圧縮破壊強度の標準偏差が0.2MPa以下である、六方晶窒化ホウ素粉末。

【請求項3】
前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の平均粒子径が30?200μm、凝集粒子を構成する板状六方晶窒化ホウ素粒子の平均粒子径が0.1?20μmである請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素凝集粒子。

【請求項4】
板状六方晶窒化ホウ素単粒子を含む請求項1または3に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。

【請求項5】
前記板状六方晶窒化ホウ素単粒子の平均粒子径が5?30μm、長径/厚み比が3?10であることを特徴とする請求項4記載の六方晶窒化ホウ素粉末。

【請求項6】
請求項1または3?5のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素粉末を充填してなる樹脂組成物。

【請求項7】
請求項1または3?5のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素粉末と、酸化アルミニウム粉末及び/ 又は窒化アルミニウム粉末とを充填してなる樹脂組成物。

【請求項8】
請求項6または7に記載の樹脂組成物よりなる電子部品の放熱材。」


第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
設定登録時の請求項1?8に係る特許に対して、当審が令和3年1月5日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)取消理由1(サポート要件違反)
設定登録時の請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)取消理由2(明確性要件違反)
設定登録時の請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(3)取消理由3(実施可能要件違反)
設定登録時の請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 取消理由についての当審の判断
(1)取消理由1(サポート要件違反)及び取消理由2(明確性要件違反)について
ア 上記取消理由1は、要するに、「圧縮破壊強度が0.1?1.0MPaの範囲にある六方晶窒化ホウ素凝集粒子の含有割合が、10?90容量%の範囲である」ことを発明特定事項とする設定登録時の請求項1?8に係る発明は、本件明細書の発明の詳細な説明において、発明の課題解決に至るものとして実質的に開示されている、「板状六方晶窒化ホウ素単粒子と、板状六方晶窒化ホウ素粒子の凝集体である六方晶窒化ホウ素凝集粒子からなる六方晶窒化ホウ素粉末であって、前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の含有割合が10?90容量%であり、前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の圧縮破壊強度の平均値が0.1?1.0MPaである、六方晶窒化ホウ素粉末。」(上記第1の2(1)ア(ア)を参照。)を超えることとなるというものである。

イ また、上記取消理由2は、要するに、上記アの点を踏まえると、設定登録時の請求項1?8に係る発明は、六方晶窒化ホウ素粉末がどのような六方晶窒化ホウ素粒子により構成されているのか、並びに、「圧縮破壊強度」及び「含有割合」が「六方晶窒化ホウ素凝集粒子」に対してどのような物性の特定を意味しているのかを発明の詳細な説明を参酌しても正確に理解することができず、明確でないというものである。

ウ しかしながら、本件訂正により、本件発明は、「板状六方晶窒化ホウ素単粒子と、板状六方晶窒化ホウ素粒子の凝集体である六方晶窒化ホウ素凝集粒子からなる六方晶窒化ホウ素粉末であって、前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の含有割合が10?90容量%であり、前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の圧縮破壊強度の平均値が0.1?1.0MPa」であることが特定されることとなったので、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者において、発明の課題が解決できると認識できる範囲内のものであると認められ、その内容も明確であるといえるから、本件訂正後の請求項1、3?8に係る特許に対しては、もはや上記取消理由1及び2は妥当しない。

(2)取消理由3(実施可能要件違反)について
ア 上記取消理由3は、要するに、設定登録時の請求項1?8に係る発明は、六方晶窒化ホウ素凝集粒子の含有割合が、「10?90容量%」の範囲であることを発明特定事項とするものであるが、本件明細書の発明の詳細な説明には、六方晶窒化ホウ素粉末全体の体積と、その中に含まれる六方晶窒化ホウ素凝集粉末の体積を、具体的にどのようにして測定・算出するのかが記載されていないから、当業者といえども当該六方晶窒化ホウ素凝集粒子の含有割合を求めることができないため、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が設定登録時の請求項1?8に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない、というものである。

イ そこで、あらためて特許権者の令和3年3月4日提出の意見書(以下、「特許権者意見書」という。)における主張にも照らして再検討してみると、本件明細書の【0076】には、上記測定・算出手法に関し、確かに「得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、倍率200倍のSEM観察像10水準から六方晶窒化ホウ素凝集粒子と板状六方晶窒化ホウ素単粒子を選別して六方晶窒化ホウ素凝集粒子含有容量%を求めた。」との記載しかないが、本件特許の出願日当時の技術常識を斟酌すれば、当業者であれば、「板状六方晶窒化ホウ素粒子」は、平面部が楕円形状の柱体であるなどとして体積を算出できるし、「六方晶窒化ホウ素凝集粒子」は、球形であるなどとしてSEM観察像から算出される面積円相当径から体積を算出できると理解するのが合理的である。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に、上記測定・算出手法に関する不備はなく、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであると解するのが相当であるから、上記取消理由3は妥当しない。

3 小括
上記2(1)、(2)のとおりであるから、請求項1、3?8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第113条第4号に該当しないため、取消理由1(サポート要件違反)、取消理由2(明確性要件違反)及び取消理由3(実施可能要件違反)を理由に、当該特許を取り消すことはできない。


第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 標記特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が、特許異議申立書において主張する特許異議申立理由のうち、当審が上記取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
(1)(進歩性の欠如)申立ての理由 その1
設定登録時の請求項1、3?4、6?8に係る発明は、甲第1号証(国際公開2014/003193号)に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、設定登録時の請求項1、3?4、6?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである(以下、「申立理由1」という。)。
(2)(実施可能要件違反)申立ての理由 その2(ア-2)
設定登録時の請求項1?8に係る特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第4号に該当するから、取り消されるべきものである(以下、「申立理由2」という。)。

2 申立理由1(進歩性の欠如)についての当審の判断
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証(国際公開2014/003193号)には、以下の記載事項がある。

ア 「[請求項1] BNの一次粒子が凝集した二次粒子からなるBN球状粒子であって、該BN球状粒子の表面に凹みを有する粒子の個数割合が50%以上で、かつ圧縮強さが0.1?100MPaであることを特徴とする凹部付きBN球状焼結粒子。」
イ 「[請求項8] 請求項1?4のいずれかに記載の凹部付きBN球状焼結粒子を、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂またはゴム中に分散してなることを特徴とする高分子材料。」
ウ 「[0025] 以下、本発明を具体的に説明する。
一般にBN球状粒子は、
(1)微細なBN粒子を水に分散してスラリーを調整する工程、
(2)噴霧乾燥処理により、スラリー中の水分を除去して顆粒化する工程、
(3)得られた粉体を焼成する工程
を経て製造される。」
エ 「[0027] ここに、使用する一次粒子は微細なほどスラリーからの水分の蒸発速度が遅くなるため、噴霧乾燥時に粒子の表面に凹みが生成し易くなる。また、焼成時に焼結の進行を促すには細粒ほど好ましい。一方、あまりに細かいとスラリー化したときの均一性が悪くなる。これらの点を考慮すると、一次粒子の長径の大きさは0.01?5.0μmとする必要がある。好ましくは0.05?1.0μmの範囲である。」

(2)甲第1号証に記載の発明(甲1発明)
上記(1)ア?エの記載によれば、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「鱗片状で六方晶の結晶構造であるBNの一次粒子が凝集した二次粒子からなるBN球状粒子であって、
圧縮強さが0.1?100MPaであり、凹部付きBN球状焼結粒子。」

(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両発明は少なくとも次の相違点を有するものといえる。
<相違点1>
本件明細書【0004】の「このような鱗片状の構造を有する六方晶窒化ホウ素粒子の熱的異方性を改善するために、該粒子が多方向を向いた凝集状態で焼結せしめ、得られる焼結体を粉砕する方法が提案されている(特許文献1参照)。」、同【0005】の「しかしながら、上記破砕後に得られる凝集粒子は、樹脂に充填した際の得られる樹脂組成物の熱伝導性は向上するものの、鱗片状粒子が強固に焼結したものであり、樹脂への充填時に、凝集粒子内部の空隙部に樹脂が浸入し難く、樹脂組成物中に気泡が残存し易くなる。そして、このように気泡を含む脂組成物を成形して得られる成形体は、絶縁耐力が低下するという問題を有する。」及び同【0009】の「本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、含酸素ホウ素化合物、カーボン源、含酸素カルシウム化合物及びホウ素とカルシウムとの複合酸化物を使用して還元窒化反応を行う、特定の製造方法を採用することによって、樹脂に充填した際に、崩壊しながらも、凝集状態を維持し得る適度の圧縮破壊強度を有し、前記目的を全て達成した六方晶窒化ホウ素凝集粒子を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。」、並びに、同実施例の記載などからみて、本件発明1の「六方晶窒化ホウ素凝集粒子」は、実質的に板状六方晶窒化ホウ素単粒子が焼結したものではないと解するのが相当であり、この点は、本件訂正後の本件発明1の「前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の圧縮破壊強度の標準偏差が0.2MPa以下である」という技術的事項として表出しているということができるのに対して、甲1発明における「BN球状焼結粒子」は、噴霧乾燥処理により顆粒化されたBNの一次粒子を焼結して得られたものであって、当該標準偏差が不明である点。
<相違点2>
本件発明1に係る「六方晶窒化ホウ素粉末」は、「板状六方晶窒化ホウ素単粒子と、板状六方晶窒化ホウ素粒子の凝集体である六方晶窒化ホウ素凝集粒子からなる六方晶窒化ホウ素粉末」であり、「板状六方晶窒化ホウ素単粒子」と「六方晶窒化ホウ素凝集粒子」とから構成されるのに対し、甲1発明は、「鱗片状で六方晶の結晶構造であるBNの一次粒子が凝集した二次粒子からなるBN球状粒子」であって、本件発明1の単粒子に相当する「鱗片状で六方晶の結晶構造であるBNの一次粒子」を含んでいない点。

イ 相違点についての検討
甲第1号証を子細にみても、樹脂に充填する六方晶窒化ホウ素粉末として、焼結粒子ではない凝集粒子を用いることや、単粒子と凝集粒子を含むものを用いること、さらには、本件発明1の標準偏差に関する事項について、何ら記載も示唆もされていないので、甲1発明において、当該甲第1号証の記載を参酌して上記相違点に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとは認められない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明に対して進歩性が欠如するということはできない。

(4)本件発明3?8について
本件発明3?8は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記(3)の本件発明1についての検討と同様、甲1発明に対して進歩性が欠如するということはできない。

(5)小括
上記(1)?(4)のとおりであるから、本件発明1、3?8は、甲第1号証に記載された発明に対して進歩性が欠如するということはできないので、請求項1、3?8に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないため、申立理由1(進歩性欠如)を理由に、取り消すことはできない。

3 申立理由2(実施可能要件違反)についての当審の判断
特許異議申立人が指摘する、実施可能要件違反に係る具体的な指摘事項は、要するに、設定登録時の請求項2に係る発明(本件訂正後の請求項1に係る発明)は、「圧縮破壊強度が0.1?1.0MPaの範囲にある六方晶窒化ホウ素凝集粒子の任意の粒子100個について、圧縮破壊強度の標準偏差が0.2MPa以下である」ことを発明特定事項として具備するものであるが、本件明細書の発明の詳細な説明には、具体的に製造条件をどのように制御すれば当該標準偏差を制御することができるのか(当該製造条件と標準偏差との関係)について記載されていないから、当業者が当該発明特定事項を有する当該発明を実施することはできない、というものと解される(特許異議申立書13、14ページの(4)エ(ア-2)及び令和3年4月23日提出の意見書を参酌した。)。
しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例として、「圧縮破壊強度の標準偏差が0.2MPa以下である」六方晶窒化ホウ素凝集粒子の含有割合が10?90容量%の範囲である六方晶窒化ホウ素粉末を製造するための具体的な製造条件が、実際に示されているのであるから、当業者であれば、当該記載に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、「圧縮破壊強度の標準偏差が0.2MPa以下である」六方晶窒化ホウ素凝集粒子を製造するができると解するのが合理的である。
また、実施例において示されている六方晶窒化ホウ素凝集粒子の圧縮破壊強度の標準偏差の値が0.05?0.12MPaの範囲に限られるとしても、この範囲と、本件訂正後の請求項1において特定される圧縮破壊強度の標準偏差の値が0.2MPa以下という範囲とが大きく乖離しているとまでいうことはできず、実施例に示された製造条件を参酌するだけでは、圧縮破壊強度の標準偏差の値が0.2MPa以下の範囲のものが当業者であっても実施できないというに足りる具体的な根拠も見当たらない。
さらに、製造条件と標準偏差との関係や機序が多少不明であったとしても、そのことのみをもって直ちに実施可能要件違反ということもできない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1、3?8につき、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものというべきであるから、請求項1、3?8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、特許法第113条第4号に該当しないため、申立理由2(実施可能要件違反)を理由に、取り消すことはできない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1、3?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、3?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項2に係る特許については、本件訂正により請求項2は削除され、当該請求項2に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状六方晶窒化ホウ素単粒子と、板状六方晶窒化ホウ素粒子の凝集体である六方晶窒化ホウ素凝集粒子からなる六方晶窒化ホウ素粉末であって、
前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の含有割合が10?90容量%であり、
前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の圧縮破壊強度の平均値が0.1?1.0MPaであり、
前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の圧縮破壊強度の標準偏差が0.2MPa以下である、
六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記六方晶窒化ホウ素凝集粒子の平均粒子径が30?200μm、凝集粒子を構成する板状六方晶窒化ホウ素粒子の平均粒子径が0.1?20μmである請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
板状六方晶窒化ホウ素単粒子を含む請求項1または3に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項5】
前記板状六方晶窒化ホウ素単粒子の平均粒子径が5?30μm、長径/厚み比が3?10であることを特徴とする請求項4記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項6】
請求項1または3?5のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素粉末を充填してなる樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1または3?5のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素粉末と、酸化アルミニウム粉末及び/又は窒化アルミニウム粉末とを充填してなる樹脂組成物。
【請求項8】
請求項6または7に記載の樹脂組成物よりなる電子部品の放熱材。
【請求項9】
含酸素ホウ素化合物、カーボン源、含酸素カルシウム化合物及び、ホウ素を酸化物(B_(2)O_(3))換算で33?67質量%含有する、ホウ素とカルシウムとの複合酸化物を使用し、該含酸素ホウ素化合物と複合酸化物とに含まれるホウ素とカーボン源との元素比(B/C)が0.60?0.85、前記含酸素ホウ素化合物と含酸素カルシウム化合物との酸化物換算のモル比(B_(2)O_(3)/CaO)が4?6、含酸素ホウ素化合物、カーボン源及び、含酸素カルシウム化合物の合計量(それぞれB_(2)O_(3)、C、CaO換算値)100質量部に対して上記複合酸化物を5?500質量部となる割合で混合し、該混合物を窒素雰囲気下にて1700?2200℃の温度に加熱して還元窒化した後、反応生成物中に存在する窒化ホウ素以外の副生成物を酸洗浄により除去することを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-01 
出願番号 特願2016-116971(P2016-116971)
審決分類 P 1 652・ 536- YAA (C01B)
P 1 652・ 537- YAA (C01B)
P 1 652・ 121- YAA (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 慶明  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 正 知晃
後藤 政博
登録日 2020-03-16 
登録番号 特許第6676479号(P6676479)
権利者 株式会社トクヤマ
発明の名称 六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法  
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