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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1376708
異議申立番号 異議2020-700525  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-28 
確定日 2021-06-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6635976号発明「燃料電池用電極触媒及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6635976号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第6635976号の請求項1?5、7に係る特許を維持する。 特許第6635976号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6635976号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?7に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)4月28日に出願され、令和1年12月27日にその特許権の設定登録がされ、令和2年1月29日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和2年7月28日に、その特許の請求項1?7に係る特許に対し、特許異議申立人 目黒茂(以下、「申立人」という。)により、甲第1号証?甲第8号証(以下、「甲1」等という。)を証拠方法とする特許異議の申立てがされ、当審は、同年11月30日付けで取消理由を通知し、特許権者からは、その指定期間内である令和3年1月21日付けで意見書及び訂正請求書が提出され、また、申立人からは、令和3年3月12日付けで意見書(以下、「申立人意見書」という。)並びに甲第9号証及び甲第10号証(以下、「甲9」等という。)が提出された。

(証拠方法)
甲第1号証(甲1):特開2010-27364号公報
甲第2号証(甲2):特開平10-69914号公報
甲第3号証(甲3):国際公開第2006/088194号
甲第4号証(甲4):特表2009-500789号公報
甲第5号証(甲5):特開2003-142112号公報
甲第6号証(甲6):特開2014-2981号公報
甲第7号証(甲7):特開2011-240245号公報
甲第8号証(甲8):特開2014-221448号公報
甲第9号証(甲9):特許第4880064号公報
甲第10号証(甲10):特許第5152942号公報

第2 本件訂正請求について
令和3年1月21日付けで提出された訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の適否について検討する。

1.訂正請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6635976号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?7について訂正することを求める、というものである。

2 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(なお、訂正箇所に下線を付した。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記触媒金属粒子を構成する金属を担持した前記担体粒子を、830℃以上の温度で0.2時間以上2時間以内で熱処理をすることを含み、」
とあるのを
「前記触媒金属粒子を構成する金属を担持した前記担体粒子を、830℃以上980℃以下の温度で0.2時間以上2時間以内で熱処理をすることを含み、」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7に、
「請求項1?6のいずれか一項に記載の電極触媒」
とあるのを
「請求項1?5のいずれか一項に記載の電極触媒」
に訂正する。

なお、訂正前の請求項1?7について、請求項2?7はそれぞれ直接または間接的に請求項1を引用しているものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1?7に対応する訂正後の請求項1?7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

3.訂正事項の検討
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の存否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1による訂正は、「830℃以上」と下限値のみが特定されていた本件訂正前の請求項1の発明特定事項である熱処理の温度範囲について、「980℃以下」と、その上限値についても限定するものである。
よって、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。

イ 新規事項の有無
本件特許の願書に添付した明細書、図面又は特許請求の範囲(以下、本件特許の願書に添付した明細書及び図面を、それぞれ「本件明細書」及び「本件図面」といい、さらに、特許請求の範囲までも含めたものを総称して「本件明細書等」という。)には、以下の記載がある。(なお、下線は当審による。)

「【請求項5】
前記熱処理を、880?980℃の温度で1.5時間以内で行う、請求項1?4のいずれか一項に記載の製造方法。」

「【0007】
本発明者らは、以下の態様を有する本発明により、上記課題を解決できることを見出した。
《態様1》
白金又は白金合金を含む触媒金属粒子及び前記触媒金属粒子を担持している担体粒子を含む燃料電池用電極触媒であって、
前記担体粒子が、BET比表面積が700m^(2)/g以上の炭素質材料であり、
前記触媒金属粒子の平均粒径が、2.5?4.5nmであり、かつ
前記触媒金属粒子の粒径の標準偏差が、1.30nm以下である、
燃料電池用電極触媒。
《態様2》
前記担体粒子が、BET比表面積が900?1500m^(2)/gの炭素質材料である、態様1に記載の燃料電池用電極触媒。
《態様3》
前記触媒金属粒子の平均粒径が、2.8?3.8nmであり、かつ前記触媒金属粒子の粒径の標準偏差が、0.95?1.15nmである、態様1又は2に記載の燃料電池用電極触媒。
《態様4》
前記触媒金属粒子が、モル比が4:1?11:1の範囲である白金とコバルトとの合金を含む、態様1?3のいずれか一項に記載の燃料電池用電極触媒。
《態様5》
態様1?4のいずれか一項に記載の電極触媒を含む、燃料電池。
《態様6》
以下を含む、態様1?4のいずれか一項に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法:
前記触媒金属粒子を構成する金属を担持した前記担体粒子を、830℃以上の温度で0.2時間以上2時間以内で熱処理をすること。
《態様7》
前記熱処理を、880?980℃の温度で1.5時間以内で行う、態様6に記載の製造方法。
《態様8》
前記熱処理の最高温度が、1000℃である、態様6又は7に記載の製造方法。」

「【0033】
830℃以上で行われる熱処理は、850℃以上、880℃以上、900℃以上、又は930℃以上の温度であってもよく、その最高温度は、1100℃以下、1050℃以下、1000℃以下、980℃以下、950℃以下、930℃以下、900℃以下、又は880℃以下であってもよい。」

「【0035】
830℃以上で行われる熱処理は、例えば、830℃以上880℃以下の温度で2時間以内又は1.8時間以内行うか、880℃超920℃以下の温度で1.5時間以内又は1.2時間以内で行うか、920℃超980℃以下の温度で0.8時間以内又は0.5時間以内で行ってもよい。例えば、880?980℃の温度で1.5時間以内、1.0時間以内又は0.5時間以内で行ってもよい。」

上記のとおり、熱処理の温度範囲を「980℃以下」とすることは、本件明細書等に記載されているから、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項6を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求範囲の減縮を目的としたものである。
また、訂正事項2が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかであるし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項2により訂正前の請求項6が削除されたことに伴い、訂正前の請求項7においてなされている請求項6の引用をしないようにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかであるし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。

(4)独立特許要件について
申立人による特許異議の申立ては、訂正前の請求項1?7の全てに対してなされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

4 本件訂正請求の適否についての結論
以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
以上のとおり、本件特許の請求項1?7に係る発明は、本件訂正請求が認められるので、その訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のものである。
なお、以下では、特に断り書きがない限り、訂正特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明を「本件発明1」等といい、総称して「本件発明」ということもある。また、本件訂正請求前の令和1年12月27日に本件特許が登録された時点における特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明を「訂正前の本件発明1」等といい、総称して「訂正前の本件発明」ということもある。

「【請求項1】
白金又は白金合金を含む触媒金属粒子及び前記触媒金属粒子を担持している担体粒子を含む燃料電池用電極触媒の製造方法であって、
前記触媒金属粒子を構成する金属を担持した前記担体粒子を、830℃以上980℃以下の温度で0.2時間以上2時間以内で熱処理をすることを含み、
前記担体粒子が、BET比表面積が700m^(2)/g以上の炭素質材料であり、
前記触媒金属粒子の平均粒径が、2.5?4.5nmであり、かつ
前記触媒金属粒子の粒径の標準偏差が、1.30nm以下である、
燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項2】
前記担体粒子が、BET比表面積が900?1500m^(2)/gの炭素質材料である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記触媒金属粒子の平均粒径が、2.8?3.8nmであり、かつ前記触媒金属粒子の粒径の標準偏差が、0.95?1.15nmである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記触媒金属粒子が、モル比が4:1?11:1の範囲である白金とコバルトとの合金を含む、請求項1?3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理を、880?980℃の温度で1.5時間以内で行う、請求項1?4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
請求項1?5のいずれか一項に記載の電極触媒を製造することを含む、燃料電池の製造方法。」

第4 特許異議の申立ての理由及び当審から通知した取消理由の概要
1 特許異議の申立ての理由の概要
特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由は、次のとおりである。
なお、以下(1)?(4)の申立理由1?4で挙げた特許法第29条第1項第3号(新規性)及び第2項(進歩性)に関する証拠方法は、特許異議申立書3.(1)第10頁の「理由の要点」に記載されたとおりである。また、この特許異議の申立ての理由の概要で述べる「本件発明1」等は、実質的に訂正前の本件発明を念頭に置いたものとなっている。

(1)申立理由1(新規性進歩性)
特許異議申立書3.(4)ウ(i)第33?34頁、3.(4)ウ(v)第39?42頁
本件発明1?3、7は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。また、本件発明1?7は、甲1に記載された発明に基いて、または、甲1に記載された発明と甲5に記載された発明とに基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1?7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(新規性進歩性)
特許異議申立書3.(4)ウ(ii)第34?36頁、3.(4)ウ(v)第39?42頁
本件発明1?7は、甲2に記載された発明であるか、甲2に記載された発明に基いて、または、甲2に記載された発明と甲5に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1?7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(3)申立理由3(新規性進歩性)
特許異議申立書3.(4)ウ(iii)第36?38頁、3.(4)ウ(v)第39?42頁
本件発明1?3、7は、甲3に記載された発明であり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。また、本件発明1?7は、甲3に記載された発明に基いて、または、甲3に記載された発明と甲5に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1?7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(4)申立理由4(新規性進歩性)
特許異議申立書3.(4)ウ(iv)第第38?39頁、3.(4)ウ(v)第39?42頁
本件発明1?3、5、7は、甲4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。また、本件発明1?7は、甲4に記載された発明に基いて、または、甲4に記載された発明と甲5に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1?7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(5)申立理由5(明確性要件)
特許異議申立書3.(4)エ第42頁
請求項1の記載が以下ア?オの点で明確でないため、本件発明1及びこれを引用する本件発明2?7は、明確でなく、本件発明1?7について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、請求項1?7に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

ア 「白金または白金合金を含む触媒粒子」という記載について
本件発明の白金合金は、どのような金属と白金の合金であるのか、また、白金または白金合金以外のどのようなものを含むのか不明確である。

イ 熱処理温度の範囲について
本件発明の「830℃以上」という熱処理温度は、上限が特定されてないので発明の範囲が不明確である。

ウ 担体粒子の炭素質材料のBET比表面積について
本件発明の「700m^(2)/g以上」という担体粒子の炭素質材料のBET比表面積は、上限が特定されていないので発明の範囲が不明確である。

エ 触媒金属粒子の粒径の標準偏差について
本件発明の「1.30nm以下」という触媒金属粒子の粒径の標準偏差は、下限が特定されていないので発明の範囲が不明確である。

オ BET比表面積、平均粒径、標準偏差の定義について
本件発明のBET比表面積、平均粒径、標準偏差については、測定方法等が記載されてなく不明確である。

(6)申立理由6(サポート要件)
特許異議申立書3.(4)オ第42?44頁
以下のア?ウのとおり、本件発明1?7は、発明の詳細な説明において「電極触媒の初期活性が高く、かつその活性を長期間維持できる燃料電池用電極触媒及びその製造方法を提供する」(段落【0006】)という発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、発明の詳細な説明に記載したものでなく、本件発明1?7について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、請求項1?7に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

ア 燃料電池用電極触媒の触媒金属粒子の成分について
実施例1?3のような白金:コバルトのモル比が7:1の燃料電池用電極触媒であれば本件発明の課題を解決できることは認識できるとしても、コバルトとの合金ではない「白金」、コバルト以外の金属との「白金合金」、または白金とコバルトとの合金であっても、なんらそれらの比率が特定されていない白金コバルト合金を使用した場合に、本件発明による課題を解決できるか否かを当業者が認識できるとはいえない。また、本件発明4によるように、モル比が4:1?11:1の範囲である白金とコバルトの合金を使用した場合であっても、モル比が7:1である白金コバルト合金を使用した場合と同様に、本件発明による課題を解決できるか否かを当業者が認識できるとはいえない。

イ 担体粒子のBET比表面積について
実施例1?3のBET比表面積を有する担体粒子を使用した場合には、本件発明による課題を解決できることを認識できる一方で、本件発明の担体粒子のBET比表面積が「700m^(2)/g以上」という上限のない範囲で、本件発明による課題を解決できるか否かを当業者が認識できるとはいえない。

ウ 触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子の熱処理条件について
実施例1?3の温度条件かつアルゴン雰囲気下で触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子を熱処理した場合には、本件発明による課題を解決できることを認識できる一方で、本件発明が、アルゴン雰囲気以外の雰囲気下で、「850℃以上の温度」という上限のない範囲で、本件発明による課題を解決できるか否かを当業者が認識できるとはいえない。

2 当審から通知した取消理由の概要
当審は、上記1の特許異議の申立ての理由及その他の理由を検討した結果、以下の取消理由1、2(新規性進歩性)及び取消理由3(明確性要件)を通知した。

(1)取消理由1、2(新規性進歩性):申立理由3を一部採用
訂正前の本件発明1、3と本件発明5を直接的にも間接的にも引用しない場合の本件発明6、7は、甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、訂正前の本件発明1?4と本件発明5を直接的にも間接的にも引用しない場合の本件発明6、7は、甲3に記載された発明に基いて、または、甲3に記載された発明と甲5に記載された発明とに基いて、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、訂正前の請求項1?4、6?7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)取消理由3(明確性要件):職権により発見
訂正前の請求項5には、「前記熱処理を、880?980℃の温度で1.5時間以内で行う、請求項1?4のいずれか一項に記載の製造方法。」と記載されている一方、訂正前の請求項6には、「前記熱処理の最高温度が、1000℃である、請求項1?5のいずれか一項に記載の製造方法。」と記載されているが、訂正前の請求項5を引用する場合の請求項6について検討すると、訂正前の請求項5記載の熱処理温度の上限値である「980℃」は、訂正前の請求項6記載の熱処理の最高温度の「1000℃」よりも低い値となっていることから、訂正前の請求項5に係る発明は、「880?980℃の温度で1.5時間以内」という熱処理のほか、訂正前の請求項6に記載されるような最高温度が1000℃の熱処理を別途行う余地を含ませる意図のものか否かが、その技術的意味が明確でないといえる。
よって、訂正前の本件発明5?7は明確でないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであり、訂正前の請求項5?7に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

第5 本件明細書及び各甲号証に記載された事項
1 本件明細書及び本件図面に記載された事項
本件明細書及び本件図面には、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審が付した。)。
「【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒及びその製造方法に関する。」
「【0003】
燃料電池は、一対の電極及び電解質から構成されており、電極は、触媒金属粒子及びそれを担持する担体からなる電極触媒を含む。一般的に、従来から燃料電池用の担体としては、カーボンが使用されており、また触媒金属粒子としては、白金又は白金合金が使用されている。」
「【0006】
本発明は、電極触媒の初期活性が高く、かつその活性を長期間維持できる燃料電池用電極触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。」
「【0010】
従来では、平均粒径が2.5?4.5nmの範囲の触媒金属粒子を得ようとした場合、粒径の分布の均一性が悪化する傾向にあった。また、粒径分布の均一性を高めようとした場合には、平均粒径が小さくなりすぎる傾向にあった。これに対して、本発明者らは、比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造した場合には、得られる触媒金属粒子が、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)となることを見出した。触媒金属粒子の平均粒径が小さい場合には、電極触媒の初期活性が高くなるもののその活性を長期間維持できない傾向にあるが、本発明の電極触媒では、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できることがわかった。」
「【0011】
〈触媒金属粒子〉
本発明で使用される触媒金属粒子は、白金又は白金合金を含み、好ましくは白金又は白金合金の粒子、特に好ましくは白金合金の粒子である。触媒金属粒子の平均粒径は、2.5?4.5nmであり、触媒金属粒子の粒径の標準偏差は、1.30nm以下である。
【0012】
触媒金属粒子の平均粒径は、2.6nm以上、2.8nm以上、3.0nm以上、3.2nm以上、又は3.4nm以上であってもよく、4.5nm以下、4.2nm以下、4.0nm以下、3.8nm以下、又は3.6nm以下であってもよい。また、触媒金属粒子の粒径の標準偏差は、1.25nm以下、1.20nm以下、1.15nm以下、1.10nm以下、又は1.05nm以下であってもよく、0.10nm以上、0.30nm以上、0.50nm以上、0.80nm以上、0.90nm以上、又は0.95nm以上であってもよい。触媒金属粒子の粒径がこのような範囲である場合には、電極触媒の初期活性が高く、かつその活性を長期間維持できる傾向にある。
【0013】
触媒金属粒子の平均粒径はX線回折の測定ピークから、解析ソフトJADEを用いて算出する。この場合、平均粒径は、個数平均の平均粒径となる。触媒金属粒子の粒径の標準偏差は、X線小角散乱法によって解析ソフトを用いて算出することができる。解析ソフトとしては、例えば、nano-solver(株式会社リガク製)等を挙げることができる。」
「【0017】
〈担体粒子〉
本発明で使用される担体粒子は、BET比表面積が700m^(2)/g以上の炭素質材料である。炭素質材料のBET比表面積は、750m^(2)/g以上、800m^(2)/g以上、850m^(2)/g以上、900m^(2)/g以上、又は950m^(2)/g以上であってもよく、2500m^(2)/g以下、2000m^(2)/g以下、1800m^(2)/g以下、1500m^(2)/g以下、又は1200m^(2)/g以下であってもよい。このような範囲である場合には、得られる白金合金の粒径が、非常に均一でかつ好適な大きさとなることが分かった。」
「【0027】
《担持工程》
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法は、触媒金属粒子を担体粒子に担持する工程を含んでもよい。触媒金属粒子を担体粒子に担持する工程は、白金酸塩溶液を担体粒子と接触させること、還元剤によって白金酸塩を還元することを含んでもよい。白金酸塩溶液としては、例えばジニトロジアンミン白金硝酸溶液を挙げることができる。
【0029】
還元剤としては、特に限定されないが、アルコール、例えばエタノールを使用することができる。還元工程においては、還元剤を添加した後に、加熱処理を行うことができる。加熱処理の条件は、還元剤の種類によって異なるが、例えばエタノールを還元剤として使用する場合には、60℃?90℃の温度で、1時間?3時間程度加熱することができる。」
「【0032】
〈熱処理工程〉
このようにして触媒金属粒子を担体粒子に担持させたあと、触媒金属粒子及びそれを担持した担体粒子を、830℃以上の温度で0.2時間以上2時間以内で熱処理を行う。上述のように、この熱処理は、比較的短時間でかつ高温で行われる。
【0033】
830℃以上で行われる熱処理は、850℃以上、880℃以上、900℃以上、又は930℃以上の温度であってもよく、その最高温度は、1100℃以下、1050℃以下、1000℃以下、980℃以下、950℃以下、930℃以下、900℃以下、又は880℃以下であってもよい。
【0034】
830℃以上で行われる熱処理の時間は、2時間以内、1.8時間以内、1.5時間以内、1.2時間以内、1.0時間以内、0.8時間以内、又は0.5時間以内であってもよい。この熱処理では、880℃以上で行われる熱処理の時間が、1.5時間以内、1.2時間以内、1.0時間以内、0.8時間以内、又は0.5時間以内であってもよく、920℃以上で行われる熱処理の時間が、1.0時間以内、0.8時間以内、又は0.5時間以内であってもよい。また、これらの熱処理は、0.2時間以上、0.3時間以上、0.5時間以上、0.8時間以上、1.0時間以上、又は1.5時間以上行ってもよい。このような熱処理を長時間行うと触媒金属粒子の粒径分布が不均一化する傾向があることが分かった。」
「【実施例】
【0042】
《製造例》
〈実施例1〉
BET比表面積が約1000m^(2)/gの樹状カーボン7グラムを、1リットルの0.1Nの硝酸水溶液に分散させた。この分散液に、白金の担持率が40重量%となるように、白金量2.8グラムを含むジニトロジアミン白金硝酸溶液を加え、還元剤として99.5%のエタノール27グラムをさらに加え、十分に馴染ませた。そして、エタノールを還元剤として還元担持を行った。還元処理後の分散液を、ろ液の廃液の電導率が50μS/cm以下になるまで繰り替えしろ過洗浄を行った。ろ過洗浄して得られた粉末ケーキを、80℃で15時間以上送風乾燥し、白金担持カーボンを得た。
【0043】
白金担持カーボンを、カーボン量に対して80倍の純水に分散させ、硝酸コバルト溶液を滴下投入した。この硝酸コバルト水溶液は、市販の硝酸コバルト6水和物を純水に溶解させて調製されており、白金:コバルトのモル比が7:1となるように使用された。硝酸コバルト水溶液を投入した後、さらに純水に溶解した水素化ホウ素ナトリウムを還元剤として還元担持を行った。その分散液を、ろ液の廃液の電導率が5μS/cm以下になるまで繰り替えしろ過洗浄を行った。ろ過洗浄して得られた粉末ケーキを、80℃で15時間以上送風乾燥し、白金合金担持カーボンを得た。
【0044】
このようにして得た白金合金担持カーボンを、アルゴン雰囲気中で、10℃/分で昇温して加熱処理を行い、950℃に達した時点で昇温を止めた。昇温を止めた後、数分以内に750℃程度まで温度を低下させ、最終的に室温付近まで冷却した。これにより、実施例1の燃料電池用電極触媒を得た。実施例1で行った加熱処理温度と加熱処理の経過時間を、図1に示した。
【0045】
〈実施例2〉
加熱処理において10℃/分で昇温して900℃に達してから1時間その温度に保持したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の燃料電池用電極触媒を得た。実施例2で行った加熱処理温度と加熱処理の経過時間も図1に示した。
【0046】
〈実施例3〉
加熱処理において10℃/分で昇温して850℃に達してから1.5時間その温度に保持したこと、及び担体粒子としてBET比表面積が約800m^(2)/gの中実カーボンを使用したこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の燃料電池用電極触媒を得た。実施例3で行った加熱処理温度と加熱処理の経過時間も図1に示した。
【0047】
〈比較例1〉
加熱処理において800℃で4時間加熱したこと以外は実施例1と同様にして、比較例
1の燃料電池用電極触媒を得た。
【0048】
〈比較例2〉
加熱処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の燃料電池用電極
触媒を得た。
【0049】
〈比較例3〉
担体粒子としてBET比表面積が約600m^(2)/gの中実カーボンを使用したこと以外
は実施例1と同様にして、比較例3の燃料電池用電極触媒を得た。」
「【0055】
《結果》
結果を以下の表に示す。
【表1】

【0056】
実施例1?3は、触媒金属粒子の粒径が比較的小さかったため、初期触媒活性が高かった。触媒金属粒子の粒径が小さい場合には、活性維持率の低下が懸念されるが、予想外にも活性維持率が高かった。理論に拘束されないが、これは触媒金属粒子の粒径が均一であることに起因していると考えられる。
【0057】
比較例1は、触媒金属粒子の平均粒径が好適な範囲であり、初期触媒活性は十分であったが、標準偏差が大きく触媒金属粒子の粒径が均一ではなかった。その結果、活性維持率が低くなった。比較例2は、触媒金属粒子の平均粒径が小さかったため、初期触媒活性は十分であったものの、平均粒径が小さすぎたために触媒金属粒子の粒径が均一であっても活性維持率が低下した。比較例3は、触媒金属粒子の平均粒径が大きかったため、活性維持率が高かったが、初期触媒活性が低くなった。」
「【図1】



2 各甲号証に記載された事項
申立人が令和2年7月28日に特許異議の申立てを行った際に提示をした証拠方法の甲1?甲8、及び、申立人が令和3年3月12日付けで意見書(申立人意見書)とともに提出した甲9?甲10には、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審が付し、また、「…」は記載の省略を表す。)。

(1)甲1に記載された事項
「【請求項4】
白金および遷移金属を炭素材料に担持させる担持工程と、
白金および遷移金属が担持された炭素材料を熱処理する熱処理工程と、
熱処理後の触媒前駆体を酸に接触させる酸処理工程と、
を含む、燃料電池用電極触媒の製造方法。」
「【請求項6】
前記熱処理は、N_(2)雰囲気下、または20体積%以下のH_(2)を含むH_(2)およびN_(2)の混合雰囲気下で、1000?1200℃で10分間?1時間行われる、請求項4または5に記載の製造方法。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒およびその製造方法に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、触媒活性を最大にするための白金原子間距離に関しては開示されていない。そのため、高活性な白金合金触媒を開発する際には、合金化する金属の種類や原子比を変えながら試行錯誤を重ねる必要があり、十分な触媒活性を有する電極触媒を得ることは困難であった。
【0007】
そこで本発明は、触媒活性に優れた電極触媒を提供することを目的とする。」
「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を行った。その結果、CuKα線を用いたX線回折分析によるPt(111)面に由来するピークが2θにして40.3?40.8°の格子面に帰属される白金合金触媒を用いた場合に触媒活性が最大になることを見出し、本発明を完成させた。」
「【発明の効果】
【0009】
本発明の電極触媒は、触媒活性に優れた電極触媒であるため、燃料電池に適用した場合に自動車用、家庭用、電子機器用などに幅広く応用可能である。」
「【0014】
炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;カーボンナノチューブ;カーボンナノファイバー;カーボンナノホーン;カーボンフィブリルなどの導電性炭素材料が挙げられる。カーボンブラックは、黒鉛化処理が施されていてもよい。中でも、低コストで大量生産に向いていることから、カーボンブラックを原材料となる炭素材料として用いることが好ましい。また、上記炭素材料は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。上記炭素材料は自ら調製してもよいし、市販品を用いてもよい。市販品としては、バルカン、ケッチェンブラック(登録商標)、BlackPearl(登録商標)などが挙げられる。
【0015】
炭素材料のBET比表面積は、特に限定されないが、触媒粒子の分散性、触媒利用率などの点から、好ましくは100?2000m^(2)/gであり、より好ましくは200?1000m^(2)/gである。」
「【0018】
合金化する遷移金属としては、触媒作用を有するものであれば特に制限はなく、例えば、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム、銅、亜鉛などが挙げられる。好ましくは、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの第4周期遷移金属である。上記遷移金属は、白金との親和性が高く、白金原子より原子サイズが小さいため、Pt-Pt原子間距離を短縮させるために有効である。」
「【0021】
Pt合金粒子は、平均結晶子径が、好ましくは1?8nmであり、より好ましくは2?7nmであり、さらに好ましくは3?6nmである。平均結晶子径が8nm以下であれば、十分な有効電極面積が得られ、高い触媒活性が得られる。また、平均結晶子径が1nm以上であれば、白金面積あたりの活性が高い触媒が得られうる。本発明において、平均結晶子径は、X線回折法(XRD)によって測定される回折ピークの半値幅により求められるものを採用する。具体的には、実施例中で採用された方法によって求められる。」
「【0023】
白金の合金触媒においては、Pt(111)の2θの値を上述の値に制御するためには、例えば遷移金属元素を2種類含む3元系の合金触媒を作製する方法が考えられる。しかしながら、3元系の合金触媒を作製するためには調製の複雑さが増し、コストも上昇しうる。そこで、2元系の合金触媒でPt(111)の2θの値を上述の値に制御するためには、液相還元法によって触媒金属を炭素材料に担持させた後、熱処理、酸処理を順次行う方法が適する。」
「【0025】
(担持工程)
担持工程では、液相還元法によって、炭素材料に白金前駆体または遷移金属前駆体を溶媒中で含浸させた後、還元剤を溶媒に添加して白金または遷移金属を析出させる。白金および遷移金属の担持は、順次行ってもよく、溶媒中に白金前駆体および遷移金属前駆体を共に溶解、分散させ、同一の還元剤を用いて同時に還元を行ってもよい。特に液相同時還元法を用いると、白金と遷移金属とができるだけ隣り合った状態が得られるため好ましい。
【0026】
白金前駆体としては、白金の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、アミン、炭酸塩、重炭酸塩、ハロゲン塩、亜硝酸塩、シュウ酸塩などの無機塩類、ギ酸塩などのカルボン酸塩および水酸化物、アルコキサイド、酸化物などが例示でき、これらを溶解する溶媒の種類やpHなどによって適宜選択することができる。好ましくは塩化物、硝酸塩、アンモニウム塩、アミン、炭酸塩である。具体的には、ジニトロジアンミン白金硝酸、塩化白金酸(ヘキサクロロ白金酸)、硝酸白金などが挙げられる。これらの原料は、担持される触媒金属の粒子径を制御しやすく、また触媒金属の分散性を向上させやすい。」
「【0032】
(熱処理工程)
熱処理工程では、白金および遷移金属が担持された炭素材料を熱処理して、白金および遷移金属を固溶化させる。
【0033】
熱処理の温度は、好ましくは1000?1200℃であり、より好ましくは1000?1100℃である。熱処理温度が1000℃以上であれば、Ptおよび遷移金属の固溶化が促進されうる。また、熱処理温度が1200℃以下であれば、触媒粒子の凝集、担持体であるカーボンと水素のメタン化反応を抑制できる。また、上記熱処理温度まで昇温する際の昇温速度は、好ましくは5?20℃/分であり、より好ましくは10?15℃/分である。昇温速度が上記範囲であれば、触媒金属粒子の凝集を防ぐことができる。また、熱処理時間は、好ましくは10分間?1時間であり、より好ましくは10?30分であり、さらに好ましくは10?20分である。かような範囲の熱処理時間であれば、固溶体化が促進されて触媒活性が向上し、さらに触媒成分の粒子径も適切な範囲となる。ここで、熱処理時間は、温度が上記範囲の熱処理温度に保たれている時間を意味する。」
「【0036】
(酸処理)
酸処理工程では、熱処理後の触媒前駆体を酸に接触させる。酸処理によって触媒金属の表面の遷移金属を溶解させ、表面近傍の白金の存在比を高めることでXRD測定で得られるPt(111)に由来するピークの角度を制御できる。さらにこの方法によれば、上記ピークの角度の分布も狭くすることができる。」
「【0039】
本発明はまた、本発明の燃料電池用電極触媒を用いた燃料電池を提供する。本発明の電極触媒は、アノードおよびカソードの双方の電極触媒として好適に用いられる。しかしながら、アノードにおける水素の酸化反応に対してカソードでの還元反応が遅く、過電圧が大きい。したがって、前記電極触媒は少なくともカソードに使用される形態が効果が大きく好ましい。」
「【0060】
<実施例1>
(触媒金属担持)
炭素材料としてケッチェンブラック(一次粒子径40nm、比表面積800m2/g)(ライオン社製、ケッチェンブラックEC)を用いた。ジニトロジアンミン白金硝酸水溶液(Pt濃度2質量%)を準備した。白金担持量が炭素材料100質量%に対して30質量%となるように炭素材料を秤量し、この溶液100mLと混合し、25℃にて8時間撹拌し、分散させた。その後、このPt/C溶液を撹拌しながらArガスを流した。
【0061】
還元剤として、10mLの無水エタノールに水素化ホウ素ナトリウムを飽和量混合した。次に、この水素化ホウ素ナトリウム溶液をゆっくりとPt/C溶液に入れ、そのままArガスを流しながら約1時間撹拌した。その後、そのままの状態で超純水を約2倍量入れ、ろ過し、超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、白金が担持された炭素材料を得た。
【0062】
次いで、コバルト溶液として、Co濃度1質量%の塩化コバルト水溶液を準備した。この塩化コバルト水溶液10mLに、上記の白金が担持された炭素材料100mgを浸漬させて25℃にて3時間撹拌し、分散させた。コバルト担持量は、炭素材料100質量%に対して3質量%となるようにした。この溶液に、Arガス雰囲気中で上記と同様の水素化ホウ素ナトリウム溶液5mLを添加して、約1時間撹拌した。1時間後、そのままの状態で超純水を約2倍量入れ、ろ過し、超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、白金およびコバルトが担持された炭素材料を得た。
【0063】
(熱処理)
以上の工程により白金およびコバルトを担持させた炭素につき、熱処理を行って合金化させた。この熱処理は、100%N_(2)ガス中で、10℃/分の昇温速度で1200℃まで昇温し、10分間保持することにより行った。
【0064】
(酸処理)
上述のような熱処理を行った後、Pt-Co合金が担持された炭素材料を0.5Mの硫酸水溶液に浸漬させ、90℃で20時間保持した。その後、沈殿物をろ過し、得られた固形物を超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、Pt-Co合金触媒を得た。」
「【0108】
【表1】



(2)甲2に記載された事項
「【請求項1】 ガリウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケルおよび銅からなる群の少なくとも1つの卑金属と白金との合金にして、空格子点型格子欠陥構造を有する合金が、導電性カーボン粉末に担持されてなる電極用触媒。」
「【請求項7】 ガリウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケルおよび銅からなる群の少なくとも1種と白金との合金を導電性カーボン粉末に担持させる第一の工程と、該合金の結晶格子から卑金属原子の少なくとも一部を除去して空格子点型格子欠陥構造を生ぜしめる第二の工程とを有する、請求項1に記載の電極触媒の製法。」
「【0007】
【発明が解決しようとする課題】酸電解質と酸素が共存する燃料電池の使用条件下では、白金と合金化していない卑金属のみではなく、卑金属と白金との合金結晶中の卑金属も徐々に電解質に溶出することが避けられない。電解質中に溶出した卑金属は電池内のより卑なる電位の個所で還元されて析出するか、あるいはより低温部分で溶解度が低下して結晶化析出し、ガス拡散電極の細孔を塞ぐ恐れがある。また、特に陽イオン交換膜型燃料電池の場合、卑金属イオンが電解質と反応して電解質の導電性を低下させる恐れもある。このため燃料電池の長寿命化を図るには、合金中の卑金属の溶出を低減することが求められている。
【0008】他方、卑金属と白金との担持合金触媒は通常その調製工程で高温での合金化処理が不可欠である。この高温処理によって白金は卑金属と合金化するとともにまた粒子成長も起こしてしまう。この為、例えば平均結晶粒子径50Å(オングストローム、1Å=0.1nm,以下同様)以下の白金合金触媒を調製することは必ずしも容易ではなかった。このため燃料電池用電極触媒として酸素還元に高活性な合金の結晶形を保持しなおかつ微細化されしかも卑金属成分の少ない白金合金粒子を有する担持白金触媒が望まれた。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するために本発明の発明者らはカーボンに担持された白金合金の結晶形が燃料電池電極触媒としての活性と寿命に及ぼす影響について鋭意検討を重ねた結果、特定の卑金属成分と白金との合金結晶から卑金属成分を選択的に除去してなるスケルトン触媒が燃料電池電極触媒として予想以上の高活性と長期安定性を示すことを見いだし、本発明を成すに至った。」
「【0011】
【発明の実施の形態】
触媒
白金スケルトン合金
本発明の触媒の活性金属である白金スケルトン合金は、微細粒子状態で導電性カーボン粉未担体に担持される。
【0012】白金スケルトン合金は、その前駆体である白金-卑金属合金の結晶格子中の卑金属が少なくとも部分的に除去されたものであるが、この前駆体合金は置換型固溶体合金である。一般に、単身白金は面心立方晶(fcc)であるが、白金とその他の金属元素との間で形成される置換型固溶体合金には種々の結晶形があり得る。しかし、ガリウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケルおよび銅からなる群から選ばれる少なくとも1種の卑金属と白金との間で形成される固溶体合金は不規則性面心立方晶か規則性立方晶もしくは規則性正方晶のいずれかである。しかもこれらの合金はそのX線回折において主回折線(111)に対応する回折角2θは単身白金のそれに比べて高角度側にあり、立方晶合金の結晶格子定数a_(c )あるいは正方晶合金の格子定数a_(t )およびc_(t )は単身白金の格子定数a_(o )に対してa_(c )<a_(o )またはa_(t) {3/(2+a_(t )^(2 )/c_(t )^(2 ))}^(1/2) <a_(o) なる関係にある。このような白金-卑金属合金から合金の結晶形を保持したまま、卑金属成分のみを少なくとも一部選択的に除去すると卑金属元素が占めていた格子点が空になって空格子点型格子欠陥を有する合金すなわち白金スケルトン合金が得られることが分かった。卑金属の除去の度合いが高ければ合金粒子の割れによる合金の微細化が進行する。」
「【0015】白金スケルトン合金に残存する卑金属の量は極端に言うと0%でもよいが、そのように完全に除去する実用上の利点はない。通常、該白金スケルトン合金における白金対卑金属の原子比は1:1?1:0.05が好ましく、1:0.5?1:0.1が特に好ましい。
【0016】導電性カーボン粉末
本発明の触媒に担体として用いられる導電性カーボン粉末としては、燃料電池電極触媒用担体として公知のものを使用することができる。すなわちBET比表面積50?1500cm2 /g,グラファイト(002)結晶子径7?80Å、同結晶面間隔dc (002)3.40?3.70Å、DBP吸油量50?700ml/100gCの特性を有するオイルファーネスブラックやアセチレンブラツク等のカーボンブラック粉末が使用される。これらのカーボンブラックは酸電解質燃料電池の使用条件下における耐久性を増すために不活性ガス中または真空中1600℃?2800℃で熱処理してグラファィト化度を上げても良いし、また水蒸気雰囲気中500℃?900℃で熱処理して揮発性成分を除去しかつ触媒活性金属の担持安定化のための表面粗さを向上させてもよい。特に、リン酸型燃料電池用カソード触媒担体としては、BET比表面積50?180m^(2 )/g、グラファィト(002)結晶子径10?70Åの少なくとも部分グラファィト化カーボンブラックが好適であり、陽イオン交換膜燃料電池用カソード触媒担体としてはBET比表面積120?1500m^(2 )/g、グラファイト(002)結晶子径7?35Åのカーボンブラツクが特に好ましい。
触媒の製造方法
このような空格子点型格子欠陥構造を有する本発明のカーボン担持白金スケルトン合金触媒は以下のようにして製造される。
【0017】すなわち、第一の工程においてまず、ガリウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケルおよび銅からなる群から選ばれる少なくとも1種の卑金属と白金との固溶体合金を導電性カーボン粉末に高分散状態で担持させ、次いで第二の工程において、該カーボン担持白金合金触媒の結晶格子から、その結晶形を保持したまま卑金属成分のみを少なくとも一部、選択的に除去する処理を施すことにより空格子点型格子欠陥構造を生ぜしめることによって製造される。」(当審注:【0016】記載の導電性カーボン粉末のBET比表面積の単位「cm^(2)/g」は、「m^(2)/g」の誤記と思われる。)
「【0019】合金化の度合として、カーボンに担持された卑金属の大部分(90%以上)が白金との合金として存在し、カーボン上に白金と離れて存在する卑金属は10%未満であり、また担持された白金の大部分(90%以上)が卑金属との合金として存在し、白金単身で存在する割合は10%未満であることが好ましい。このような十分な合金化を達成するには、例えば、二段階担持+熱処理合金化法では、まずカーボン粉末に高分散状態で白金を担持させ白金担持カーボン粉末を製造し、次いでこれを上記の卑金属元素の塩の希薄水溶液中にスラリー化しアルカリ処理や湿式還元等で卑金属元素を白金担持カーボン上に吸着若しくは固定化し、ろ過、洗浄、乾燥して、卑金属を担持させた白金担持カーボン粉末を調製し、これを窒素、ヘリウム等の不活性ガス中、または真空中、あるいは水素ガス気流下で、カーボン担体に担持された卑金属と白金を完全に合金化させるに必要かつ十分で、生成した合金結晶の過度の凝集(シンタリング)を来さない程度の温度に、必要かつ十分な時間保持した後、室温まで冷却すればよく、所要のカーボン担持白金合金触媒を得る方法による。熱処理合金化の温度は、例えば750℃?1000℃、より好ましくは800℃?900℃であり、保持時間は1分?5時間でよく、より好ましくは20分?2時間の範囲である。」
「【0026】カーボン担体の構造、物性を変化させず、前駆体である担持された白金固溶体合金の結晶形を保持しつつ結晶格子中の卑金属を選択的に除去する方法として特に好ましいのは、白金固溶体合金担持カーボン粉末を、酸素分圧を空気より低めた雰囲気下、好ましくは実質的に酸素を含まない雰囲気下、例えば窒素気流下、100℃?200℃の熱リン酸中、または、室温?100℃の鉱酸の水溶液中に懸濁させ、一定時間撹袢保持した後冷却し、ろ過し、温脱イオン水でろ液の電導度20μs/cm以下まで洗浄し、次いで真空中または窒素ガス気流下110℃で乾燥して得られる。鉱酸としては硫酸、硝酸が好ましく、その濃度は0.1?1.0Nが好ましい。熱リン酸の濃度は85?105%が好ましい。このような酸による湿式リーチングを、大気雰囲気下で行うと触媒スラリーが酸素と接触する界面で触媒は1V以上の開回路電位に晒され、合金中の白金の溶出が起こったり、担体カーボンの腐食が進行するので好ましくない。大気雰囲気下では白金スケルトン合金の格子定数が大幅に白金リッチ固溶体合金のそれに近づく傾向がある。」
「【0030】こうして得られる本発明のカーボン担持白金スケルトン合金触媒の白金結晶子径にも特に制限はないが15?100Åが好ましく、20?60Åが特に好ましい。
【0031】白金の金属表面積にも制限はないが30?200m^(2 )/gPtが好ましく、50?150m^(2 )/gPtが特に好ましい。なお本明細書においては、白金の金属表面積は、触媒電極のサイクリックボルタメトリーのカソーディックスィープにおける白金表面への水素吸着の電気量を測定して得られる電気化学的金属表面積EC.MSA(m^(2 )/gPt)で表す。」
「【0034】本発明のカーボン担持白金スケルトン合金触媒においては白金は著しく高活性化されている。特に燃料電池用カソード触媒として用いた場合、単身白金担持触媒に比べては勿論のこと、空格子点をもたない前駆体の担持白金合金触媒や卑金属除去後の組成に対応した空格子点をもたない担持合金触媒のいずれに比べても、高い酸素還元活性を示す。」
「【0043】
【実施例】以下、本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
1.触媒の製造
比較例1(製造例1)カーボン担持白金触媒の製造
110m^(2 )/gなる比表面積を有する熱処理済み導電性カーボンブラック(Cabot.VulcanXC-72R)81gを氷酢酸4.0gを含む脱イオン水1500ml中に超音波分散機で分散しスラリー化させた。Pt9.0gをH_(2 )Pt(OH)_(6 )として600mlの脱イオン水中にアミンとともに溶解させ、白金溶液を調製した。カーボンスラリーを攪拌しながら、これに白金溶液を添加した後、5%の蟻酸水溶液50gを還元剤として添加し95℃まで昇温し、95℃で30分保持後、室温まで冷却し、ろ過し、脱イオン水で洗浄した。得られたろ過ケークを窒素気流中95℃、16時間乾燥した。得られた10wt%Pt/C(C-1*)(*は比較例を意味する、以下同様)は粉末法XRDでPt(111)結晶子径15Å、面心立方晶格子定数a=3.923Åであった。
【0044】比較例2(製造例2?9)カーボン担持白金-銅合金触媒の製造
製造例1で得られたPt/C粉末(C*-1)50gを脱イオン水1000mlに超音波で分散させ均一スラリー化させた。このスラリーを十分激し〈攪拌しながらCu0.435gを硝酸銅(II)として含む水溶液150mlをスラリーに添加した後、5%ヒドラジン希釈水溶液をゆっくり滴下しながらスラリーのpHを8.0に調整した。室温で1時間攪拌後スラリーをろ過し、脱イオン水で洗浄後、得られたケークを窒素気流中95℃にて16時間乾燥させた。次いで7容量%水素(残部窒素)の気流中900℃にて1.2時間加熱保持後、室温まで冷却し、Pt-Cu合金/C(C-2*)を得た。元素分析の結果金属成分含有量はPt10.2wt%,Cu0.87wt%でありPt:Cu原子比は79%:21%であった。XRDにより面心立方晶固溶体合金の結晶子径は40Å、格子定数はa=3.876Åであった。なお、合金触媒のXRDスペクトルからは単一の面心立方晶固溶体合金相のみが検出され、単身白金の回折ピークや単身Cuの回折ピークは全く検出されなかった。また分析透過電子顕微鏡観察でカーボンに担持された金属粒子の各々のEDX分析は各粒子毎の合金組成がいずれもバルクのPt:Cu原子比とよく対応しており、ほぼ完全に合金化しており、白金単身あるいは銅単身の粒子はほとんど存在しないことが確認された。」
「【0048】実施例1(製造例11)カーボン担持白金スケルトン合金触媒の製造
比較例3のPt-Cu合金触媒(C-9*)粉末20gを蓋付きの300mlテフロンビーカーに入れ105%ポリリン酸160mlを加えてビーカー内を窒素ガスでパージしながらテフロン製攪拌棒で均一な懸濁状態を保持するよう攪拌した。マントルヒーターでビーカーを加熱し200℃に昇温し、4時間攪拌保持した。室温まで冷却後スラリーを、300mlの冷脱イオン水中に注ぎ希釈した後、ろ過し、脱イオン水でろ液の電導度20μS/cm以下まで洗浄し、得られたケークを95℃で窒素気流中16時間乾燥し、リーチング処理済みPt-Cu合金触媒(C-11)を得た。元素分析から9.8%Pt-1.03%Cu/C(Pt:Cu原子比76:24)の組成であった。ろ液と洗浄液の混合溶液の分析から、Ptの溶出はごくわずか(仕込みのPtの1%以下)でありCuのみが選択的に溶出されたことが判った。XRDより、Pt(111)結晶子径は39Å、面心立方晶で格子定数はa=3.745であった。ところで図1のベガード則曲線から読み取れる組成Pt:Cu=76:24に対応する合金結晶の格子定数はa=3.868であった。実際、10%Pt/C(C-1*)から製造例2に従って別途製造したPt:Cu原子比76:24の組成の固溶体合金触媒(C-3*)の格子定数は3.863Åであった。」
「【0061】実施例5(製造例39)カーボン担持白金スケルトン合金触媒
比較例2において10%Pt/C(C*-1)の代わりに30%Pt/C(C-36*)50gを使用し脱イオン水3000ml中にスラリー化し、Cuの代わりにCo2.25gを含む硝酸コバルト(II)とNi2.25gを含む硝酸ニッケル(II)の混合水溶液を添加したこと以外は比較例2と同様にして担持Pt-Co-Ni固溶体合金触媒(C-38*)を得た。ついでこれを実施例1と同様に処理してPt:Co:Ni原子比=74:13:13なる組成のカーボン担持白金スケルトン合金触媒(C-39)を得た。他方、C-36*からこの組成の固溶体合金触媒(C-40*)を直接製造した。」
「【0063】これらの合金触媒の結晶形、格子定数の比較を表3に示す。
【0064】
【表3】

2.電極の製造
上記の製造例1,3,9,11?43によって得られた触媒C-1*、C-3*、C-9*、C-11、C-12*?C-43*をそれぞれポリテトラフルオロエチレンの水性分散液(Du Pont社、商品名TEFLON、TFE-30)中に超音波で分散させ、触媒とポリテトラフルオロエチレンとを乾燥重量比50:50で含む均一スラリーを得た。この混合スラリーに塩化アルミニウムを添加する事により綿状の塊を析出させた。予めポリテトラフルオロエチレンで撥水処理したカーボンペーパー支持基質(東レ製、TGP-H-12)上に、この綿状の塊を堆積させ、プレスした後乾燥させ窒素気流中350℃で15分間焼成して電極を得た。触媒C-1*、C-3*、C-9*、C-11、C-12*?C-43*から調製された電極をそれぞれE-1*、E-3*、E-9*、E-11、E-12*?E-43*と称する。これらの電極は全て電極1cm^(2 )当たり5.0mgの触媒(乾燥重量換算)を含むように製造された。このように製造した実施例および比較例に係る触媒の電極を以下の性能試験に供した。
3.性能試験
(1)酸素還元反応に対する質量活性試験
200℃に保持された105%リン酸電解質に直径24mmの円形の電極試験片の触媒被覆層側を接触させ、他方ガス拡散層側に酸素(0_(2 ))ガスを600ml/minの流量で供給した電極を動作極とし、白金金網からなるカウンター電極に対し白金線に沿って水素ガスをバブリングしたルギン管からなる参照電極(RHE)との間に0から600mA/cm^(2 )程度までの種々の電流密度を流した場合の分極電位を測定した。内部抵抗はカレントインターラプション法で補正した。電極E-1*,E-3*,E-11、E-12*?E-43*の各々の電極に対し、電流密度対内部抵抗なし(IR-フリー)の電極電位を片対数グラフにプロツトし、対RHEプラス900mVにおける電流密度を求め、これから各触媒の質量活性(mA/mgPt)を求めた。結果を第4、5、6および7表に示す。」
「【0067】
【表6】


「【0068】

(2)燃料電池単電池試験
電極E-1*をアノードとし、電極E-12*、E-33*,又はE-34をカソードとして、それぞれの触媒被覆層側を向かい合わせ、その間にSiCマトリックスシートに105%リン酸を含浸させた電解質シートを挟みこみ、電極有効面積7.4cmx7.4cmの小型単電池を組み立てた。」

(3)甲3に記載された事項
「[0001] 本発明は、電極触媒、特に燃料電池用電極触媒に関し、より詳しくは、耐久性に優 れる電極触媒、特に燃料電池用電極触媒に関する。本発明の電極触媒を備えた燃料電池は、例えば、車両用駆動源や定置型電源として用いられる。」
「[0004] ところが、PEFCでは、一般的に、停止時にアノード触媒層内の燃料(水素)を除去するために空気で置換するが、再起動時に燃料(水素)が供給されると、アノード触媒層内で局部電池が形成され、力ソード触媒層内が部分的に高電位(約0.8V以上)に曝される。このように高電位に曝されると、白金等の貴金属が水分解を引き起こして酸素が発生し、これにより貴金属近傍の炭素材料が酸化され腐食し、電極層構造(三次元空孔構造)が破壊される。このように、起動停止の繰り返しによって炭素材料の酸化腐食が進行して三次元空孔構造が破壊されると、ガス拡散性や生成水の排水性が低下し、濃度過電圧分が増大し、フラッデイングが起こり易くなり、また、発電性能が悪化する。また、白金等の貴金属触媒の溶出やアイオノマーの分解が促進してしまうという問題もある。」
「[0005] そこで、本発明の目的は、PEFCの触媒層において担体として作用する炭素材料の腐食を抑制する手段を提供することである。」
「[0007] そこで、本発明者は、耐久性と性能との両立を図るために鋭意検討を行なった結果、性能を向上するために、粒子径の小さい貴金属触媒を高分散させて担持した炭素材料を不活性ガス雰囲気下で熱処理することによって、貴金属をシンタリングさせて粒子径を大きくする一方で、触媒粒子の分散性は高い状態に維持でき、これにより、触媒粒子の溶出が抑制でき、耐久性改善および長期寿命が達成できることを知得した。さらに、熱処理する際に、炭素材料表面のアモルファス部分を貴金属触媒(例えば、Pt、Pt合金)の触媒作用を利用して消失させ、担体表面の黒鉛化度を向上させ、カーボン腐食に対する耐性をさらに向上させることができることをも知得した。上記知見に基づいて、本発明を完成させた。」
「[0012] 本発明の第一は、貴金属触媒を担持した炭素材料を不活性ガス雰囲気下で熱処 理してなる電極触媒に関するものである。また、本発明の第二は、炭素材料に貴金 属触媒を担持させる段階と、前記貴金属触媒を担持した炭素材料を、不活性ガス雰 囲気下で熱処理する段階と、を含む、電極触媒の製造方法に関するものである。予 め、小さい触媒粒子が高分散した状態の触媒を調製した後、これを熱処理することで、触媒粒子をシンタリングさせて粒子径を大きくする一方で、触媒粒子の分散性は高い状態に維持できる。」
「[0020] 本発明において使用される貴金属触媒は、力ソード触媒層に用いられる触媒では、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用でき、また、アノード触媒層に用いられる触媒でもまた、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、及びそれらの合金等などから選択される。…
[0021] 本発明による貴金属触媒の形状や大きさは、特に制限されず公知の貴金属触媒と 同様の形状及び大きさが使用できるが、貴金属触媒は、粒状であることが好ましい。この際、貴金属触媒粒子の平均粒子径は、小さいほど電気化学反応が進行する有効電極面積が増加するため、酸素還元活性が高くなる。これら粒子径を小さくして酸素還元活性を改善することは、いわゆる粒径効果と呼ばれるもので、2?3nmで最大酸素還元活性を示すことが知られている。さらに、このように粒子径を小さくすることは、炭素材料上に高分散できて好ましい。また、本発明の熱処理によれば、粒子径の小さい触媒粒子を使用しても、触媒粒子の分散性を高い状態で維持したまま、シンタリングにより粒子径を大きくすることができるため、貴金属の溶出もまた抑制でき、耐久性が改善でき、かつ寿命の長期化が図れる。したがって、本発明による貴金属触媒粒子の熱処理前の平均粒子径は、1?6nm、より好ましくは2?4nm、特に好ましくは2?3nmであることが好ましい。この際、貴金属触媒粒子の平均粒子径は、X線回折における貴金属触媒の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径あるいは 透過型電子顕微鏡像より調べられる貴金属触媒の粒子径の平均値により測定することができる。本発明では、貴金属触媒粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡を用い、代表サンプルについて数?数10視野中に観察される粒子の粒子径を測定し、平均値を算出することによって測定する。なお、この測定方法では観察するサンプルや視野によって平均粒子径に有意差が生じる。
[0022] 本発明において使用される炭素材料は、貴金属触媒の担体となる材料であれば、特に限定されないが、貴金属触媒を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、集電体として十分な電子導電性を有しているものが好ましい。具体的には、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック;カーボンナノチューブ;カーボンナノファイバー;カーボンナノホーン;カーボンフィブリルなどの導電性炭素材料が用いられる。カーボンブラックは、黒鉛化処理が施されていてもよい。これらの炭素材料は、BET比表面積が大きいため、触媒成分が担体表面に高分散され、電気化学的表面積を増大し、高い発電性能を得るのに有利であり、また、白金や白金合金の凝集を抑制し、平均粒子径や粒子分布を制御することが容易である。また、上記炭素材料は、単独で使用されてもあるいは2種以上が併用されてもよい。なお、炭素材料には、2?3質量%程度以下の不純物の混入が許容される。」
「[0025] 炭素材料の比表面積(BET比表面積)は、貴金属触媒を高分散担持させるのに十分な比表面積であればよいが、好ましくは100?2000m^(2)/g、より好ましくは200?1500m^(2)/gである。このような範囲であれば、貴金属触媒が炭素材料に高分散担持できる。
[0026] また、炭素材料の大きさは、特に限定されないが、担持の容易さ、触媒利用率、電極触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、例えば、炭素材料が粒子状である場合には、平均粒子径が0.1?1μm程度とするのがよい。」
「[0030] このようにして炭素材料に貴金属触媒を担持した後、これを不活性ガス雰囲気下で熱処理して、腐食しやすい部分を消失させる。高温で熱処理することにより生じうる効果としては、上記した効果に加えて、触媒粒子の粒子径を大きくして、燃料電池の稼動初期における白金などの触媒金属の溶出を防止する効果が挙げられる。高温で熱処理すると、微小粒子がシンタリングし成長することにより、平均粒子径1nm未満の表面エネルギーが高く不安定で溶出し易い微小な触媒粒子が少なくなる。その結果、燃料電池の稼動初期における、触媒金属の溶出が抑制され、燃料電池の経時劣化が抑制される。一方、平均粒子径1nm以上の触媒粒子は、熱処理によって平均粒子径3?6m程度に成長するが、成長した粒子は、粒子自体の表面エネルギーが低下し安定化する。このため、やはり、燃料電池の稼動初期における触媒金属の溶出が抑制され、燃料電池の経時劣化が抑制される。つまり、貴金属触媒を担持する炭素材料を高温で熱処理することによって、燃料電池の寿命を延ばすことが可能である。」(当審注:「平均粒子径3?6m程度に成長する」は「平均粒子径3?6nm程度に成長する」の誤記と認める。)
「[0033] 本発明において、熱処理条件は、上記効果が達成される条件であれば特に制限されないが、例えば、熱処理温度は、300?1200℃、より好ましくは400?1150℃である。この際、熱処理温度が300℃未満であると、白金および白金合金の粒子径成長(シンタリング)が起こらないので、粒子径を所望の大きさにすること困難である可能性があり、逆に、1200℃を超えると、白金および白金合金の粒子径成長(シンタリング)が進み過ぎて、粒子径を所望の大きさより大きくなりすぎるおそれがある。また、熱処理時間は、特に制限されず、熱処理温度などによって適宜選択されるが、好ましくは10?600分、より好ましくは30?300分である。」
「[0043] 上述したように、本発明の熱処理によると、微小な貴金属触媒を、触媒粒子の分散性を高い状態で維持したまま、シンタリングにより成長させて粒子径を大きくすることができる。したがって、本発明の熱処理後の前記貴金属触媒の平均粒子径は、3?8nm、より好ましくは3?6nmであることが好ましい。貴金属触媒粒子は、平均粒子径が小さいほど比表面積が大きくなるため、電気化学的表面積が増大し触媒活性も向上すると推測される。しかし、実際は、触媒粒子径を極めて小さくしても、比表面積の増加分に見合った触媒活性は得られないおそれがあるため、上記範囲とするのが好ましい。また、平均粒子径が上記範囲であると、燃料電池の稼動初期における金属の溶出が抑制され、燃料電池の経時劣化が少なくなる。また、成長した粒子は、粒子自体の表面エネルギーが低下し安定化するため、やはり、燃料電池の稼動初期における触媒金属の溶出が抑制され、燃料電池の経時劣化が抑制される。この際、貴金属触媒の平均粒子径の測定方法としては、走査型電子顕微鏡を用い、代表サンプルについて数?数10視野中に観察される粒子の粒子径を測定し、平均値を算出する方法が挙げられる。なお、この測定方法では観察するサンプルや視野によって平均粒子径に有意差が生じるが、実施例のような平均値として表記する。」
「[0061] (実施例1)
1.アノード触媒層の作製
まず、カーボンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル(株)社製ケッチェンブラックEC、BET表面積=800m^(2)/g)4.0gを準備し、このカーボンブラックにジニトロジアンミン白金水溶液(Pt濃度1.0%)400gを加えて1時間攪拌した。その後、還元剤としてメタノール50gを混合し、1時間攪拌した後、30分で80℃まで加温して80℃で6時間攪拌した後、1時間で室温まで降温した。沈殿物を濾過した後、得られた固形物を減圧下、85℃で12時間乾燥し、乳鉢で粉砕して、平均粒子径は2.6nmであるPt粒子をPt担持濃度48質量%として担持した炭素担体を得た。
[0062] なお、白金触媒の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡を用い、代表サンプルについて数?数10視野中に観察される粒子の粒子径を測定し、平均値を算出した。」
「[0065] 2.力ソード触媒層の作製
カーボンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックEC)4.0gに、ジニトロジアンミン白金水溶液(Pt濃度1.0%)400gを加えて1時間撹拌した。さらに、還元剤としてメタノール50gを混合し、1時間攪拌した後、30分で80℃まで加温して80℃で6時間攪拌した後、1時間で室温まで降温した。沈殿物を濾過した後、得られた固形物を減圧下、85℃で12時間乾燥し、乳鉢で粉砕して、平均粒子径は2.6nmであるPt粒子をPt担持濃度48質量%として担持した炭素担体を得た。
[0066] 得られた電極触媒を、水素5体積%を含有したアルゴンガス流通下において、100℃で30分間熱処理した。ラマンスペクトルより求めた熱処理前後の強度比は、2.05→1.87で黒鉛化が進んでいることが確認された。また、熱処理前後のPt担持濃度50質量%として担持した炭素担体を得た。白金触媒の平均粒子径は、2.6nm→3.9nmで粒子径の成長が進んでいることが確認された。」
「[0083] (実施例3?17)
燃料電池の構成を表1及び表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、MEA を作製し、性能および耐久性を評価した。構成および結果を表1および表2に示す。」
「[0100] [表1]


「[0103] 表1?3からは、触媒担持後に熱処理を施すことによって、電極触媒が用いられる 燃料電池の耐久性が向上することがわかる。 」
「請求の範囲

[6] 炭素材料に貴金属触媒を担持させる段階と、
前記貴金属触媒を担持した炭素材料を、不活性ガス雰囲気下で熱処理する段階とを含む、電極触媒の製造方法。

[13] 前記貴金属触媒を担持した炭素材料を、不活性ガス雰囲気下で400?1150℃で熱処理する、請求項6?12のいずれか 1項に記載の電極触媒の製造方法。

[15] 前記貴金属触媒を担持した炭素材料を、不活性ガス雰囲気下で900?1100℃で熱処理する、請求項13に記載の電極触媒の製造方法。

[24] 熱処理後の前記貴金属触媒の平均粒子径が3?8nmである、請求項6?23のいずれか1項に記載の電極触媒の製造方法。
[25] 熱処理後の前記貴金属触媒の平均粒子径が3?6nmである、請求項24に記載の電極触媒の製造方法。

[27] 電解質膜、アノード触媒層及び力ソード触媒層を有する膜電極接合体であって、アノード触媒層および/または力ソード触媒層は、請求項1?5のいずれか1項に記載の電極触媒または請求項6?26のいずれか 1項に記載の方法によって製造される電極触媒を有する、膜電極接合体。

[35] 請求項27?34のいずれか1項に記載の膜電極接合体を有する、固体高分子型燃料電池。」

(4)甲4に記載された事項
「【請求項1】
担持構造体上に堆積され約3?約15nmの平均粒径を有するアニールされた白金粒子を含む燃料電池電極触媒層であって、該アニールされた白金粒子がアニール前の表面積の約80%未満である表面積を有する電極触媒層。」
「【請求項3】
該白金粒子が、約800?約1400℃の温度で熱処理されている、請求項1に記載の電極触媒層。」
「【請求項4】
該担持構造体が、約5m^(2)/gより大きい表面積を有する、請求項1に記載の電極触媒層。」
「【請求項5】
該担持構造体が、約50?約2000m^(2)/gの表面積を有する炭素材料を含む、請求項4に記載の電極触媒層。」
「【請求項11】
アノード、
カソード、
アノードとカソードの間に配置されたプロトン交換膜、及び
アノード又はカソードに隣接して配置されるかあるいはアノード及びカソードの両方に隣接して配置された少なくとも1の電極触媒層
を含む燃料電池であって、
該電極触媒層が、約800?約1400℃の温度でアニールされている約3?約15nmの平均粒径を有する白金粒子を含む、燃料電池。」
「【0003】
白金は熱力学的に不安定であり、Pourbaixダイアグラムにて報告されるように、小電圧レジーム(small voltage regime)において1V付近の高電圧で、低いpHで溶解する可能性がある。したがって、白金/炭素触媒を高い電位で長期間保持すると、白金の溶解につながる。白金は溶解し、より大きな析出物として再析出するかあるいは燃料電池の膜領域中へと移動する。静的条件下で特に約80?約100℃のより低い操作温度では白金及び白金合金の安定性は満足できるが、自動車用途における頻繁な負荷サイクル(load cycle)又は電圧サイクルは白金表面積をさらに迅速に損失させる。公知の白金触媒への電圧サイクルの影響は、0.6?1.0Vでの10000回以内の電圧サイクルによって、白金表面積の量が元の白金表面積の60?70%あるいはそれ以上まで減少することにより示されている。触媒は約5000?約10000時間の耐久性又は寿命を有するべきであり、これは百万回かそれ以上までの電圧サイクルに相当する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、反復された負荷サイクルの後でも充分な電気化学的反応を触媒する表面積をより良好に維持する電圧サイクル耐性触媒の必要性が存在する。」
「【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の概要
本発明は、担持構造体(support structure)上に堆積され約3?約15nmの平均粒径を有するアニールされた白金粒子を含んでなる燃料電池電極触媒を提供する。白金粒子は、約800?約1400℃の温度で、アニール後の表面積がアニール前の表面積の約80%未満となるような時間、熱処理あるいはアニールされる。一定の態様において、担持構造体は、有機材料、無機材料、又はその両方を含む。好ましくは、担持構造体は5m^(2)/gよりも大きい表面積を有する。多様な他の態様では、担持構造体は約50?約2000m^(2)/gの表面積を有する炭素材料を含む。」
「【0015】
本発明の多様な好ましい態様において、電極触媒担持構造体は、有機材料、無機材料、又はその両方を含むことができる。好ましくは、担持構造体は、約5m^(2)/gより大きい表面積を有する。一定の態様において、電極触媒担持構造体は、好ましくは約50?約2000m^(2)/gの表面積を有する炭素担体材料を含む。担体材料として有用な炭素材料の非限定的な例には、グラファイト化炭素(50?300m^(2)/gの表面積を有する)、バルカンカーボン(vulcan carbon)(約240m^(2)/gの表面積を有する)、ケッチェンブラックカーボン(Ketjen black carbon)(約800m^(2)/gの表面積を有する)、及びブラックパールカーボン(Black Pearls carbon)(約1500?2000m^(2)/gの表面積を有する)が含まれる。」
「【0018】
白金表面積は白金粒径にほぼ反比例することは知られている。白金粒子のサイズ効果はリン酸型燃料電池(PAFC)に関連してよく理解されており、白金粒子の直径が12nmから2.5nmへと減少するにつれリン酸中の白金の比活性(specific activity)が3分の1に減少し、一方、質量活性(mass activity)は3nmで最大を示す結果により説明され、これはPAFC文献の他の報告とも一致する。この効果は、一般的に、異なる結晶面へのアニオンの特異的吸着の妨害効果に起因し、その分布は白金粒径とともに変化する。本発明の多様な好ましい態様において、アニールされた白金粒子の大きさは均一であり、それらの平均粒径は約3?約15nm、より好ましくは約4?約8nmである。」
「【0020】
本発明の予測できない利益を示すために、PEM燃料電池に用いられる多様な白金触媒について比活性と質量活性を測定した。以下の表1に示される値は、0.9V、80℃、及び100kPa_(abs)のO_(2)分圧で計算した。試験例1は炭素上の高度に分散された白金である(?50% Pt/C);試験例2は炭素上の高温(1000℃)でアニールされた白金である(?50% Pt/Cアニール);試験例3は炭素上の高い重量%の白金合金である(?50% PtCo/C);試験例4は炭素上の低重量%の白金合金である(?30% PtCo/C);そして試験例5は炭素触媒上の標準的な低分散白金である(?40% Pt/C低分散)。
【0021】
【表1】

【0022】
白金合金は典型的には高温アニール工程(すなわち800?1000℃)経ており、一方、標準的な白金触媒は一般にもっと低い温度範囲(すなわち25?200℃)内で合成される。標準的な白金粒子が高温へアニールされるにつれ、白金粒径は増加し、白金表面積は減少する。これは表1に示されており、標準的な白金触媒の表面積は、試験例1の80m^(2)/g^(Pt)から、高温アニール工程後に、試験例2の50m^(2)/g^(Pt)へと減少している。しかし、予期せぬことに、減少した表面積は、比活性の増大を伴い、それによりアニールされた白金粒子の質量活性は標準的な白金触媒に比べて予測不可能なほど大きくなっている。アニール工程はほんの少し質量活性を向上させる一方で、図2、図3、及び以下に示すように電圧サイクル耐性を劇的に改善する。標準的な白金触媒(例えば試験例5)におけるより低い白金分散に起因して白金粒径が単に増加することは、質量活性の大きな減少にはつながらず、電圧サイクル耐性を増加させるとは考えられないことに注意すべきである。」
「【0028】
多様な態様において、白金粒子は、アニール前に、約1?約4.5nmの平均一次粒径を有する。熱処理後、アニールされた平均粒径は好ましくは約4?約8nmである。好ましくは、白金触媒粒子は、白金粒子のアニール後の表面積がアニール前の表面積の約80%未満となるように白金/炭素電極触媒粒子の大きさを増加させるのに充分な時間、約800?約1400℃、より好ましくは約900?約1200℃の温度でアニールされる。多様な態様において、白金粒子は、約0.5?約10時間以上の間、好ましくは約1?約3時間の間熱処理され、あるいはアニールされる。」
「【図2】


「【図3】



(5)甲5に記載された事項
「【請求項1】炭素粉末担体上に白金と1の補助金属とを合金化してなる触媒粒子が担持された高分子固体電解質形燃料電池の空気極用の触媒であって、前記補助金属は、鉄又はコバルトであり、白金と補助金属との配合比は6:1?3:2(モル比)であることを特徴とする高分子固体電解質形燃料電池の空気極用の触媒。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は高分子固体電解質形燃料電池用の触媒に関する。特に、高分子固体電解質形燃料電池の空気極に使用される触媒に関する。」
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】一方、空気極に関しては水素極とは燃料が異なり、燃料中に一酸化炭素が含まれていないこともあり、上記一酸化炭素による触媒被毒を考慮した触媒の設計は不要であり、触媒活性の向上が要求される。ここで従来の空気極用の触媒の活性改善の手法としては、担体の特性の改善や触媒粒子となる白金の微細化、分散性の向上等が行なわれている。
【0006】しかしながら、担体の特性の改善や白金粒子の微細化等の物理的な特性の変更には限界があり、これらにより達成される触媒活性の向上も無制限に可能であるはずはない。本発明は、以上のような背景のもとになされたものであり、高分子固体電解質形燃料電池の空気極用の触媒について、従来の方法とは異なる観点から製造され高い触媒活性を有する触媒を明らかとし、これを提供することを目的とし、更に、かかる触媒の製造方法を提供することを目的としたものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的を達成すべく、触媒活性向上の手段として、補助金属の適用を検討した、補助金属とは、白金のような触媒金属以外の金属であり触媒金属の触媒活性や耐久性を向上させる機能を有するものをいう。かかる補助触媒金属の適用は、触媒の分野においては必ずしも新規のものではなく、燃料電池用触媒でもリン酸形燃料電池用の触媒については適用例もある。これに対し、本発明の対象である高分子固体電解質形燃料電池の空気極用触媒においては、このような補助金属を担持した触媒についての成功例は少ないことから純粋な白金触媒が一般に使用されている。これは、補助金属が触媒から脱離し、高分子膜に混入し高分子膜の特性を悪化させるおそれがあるからであり、その悪化の程度も無視できないものがあるからである。
【0008】そこで、本発明者等は、高分子固体電解質形燃料電池の空気極用触媒に対して最適の補助触媒金属を見出すと共に、上記高分子膜への補助金属の混入を抑制する手段を検討した結果、触媒活性を向上させることのできる補助触媒金属としては鉄、コバルトを用いるのが適当であることを見出し、更に、白金とこれら補助金属とを合金化することで補助金属を拘束し、高分子膜への補助金属の混入を抑制することができることに想到し本発明を完成させるに至った。
【0009】即ち、本発明は、炭素粉末担体上に白金と1の補助金属とを合金化してなる触媒粒子が担持された高分子固体電解質形燃料電池の空気極用の触媒であって、前記補助金属は、鉄又はコバルトであり、白金と補助金属との配合比は6:1?3:2(モル比)であることを特徴とする高分子固体電解質形燃料電池の空気極用の触媒である。」
「【0013】以上のように、本発明においては、従来の白金に補助触媒金属として鉄又はコバルトを所定比率で合金化しこれを担持させることで、優れた触媒活性を示すものである。ここで、本発明者らは、この触媒をより有効に機能させるため、この触媒粒子を担持させる担体について更に検討を行った。その結果、比表面積が600?1200m^(2)/g の炭素粉末が担体として特に好ましいとの結論に至った。比表面積を600m^(2)/g以上とすることで、触媒が付着する面積を増加させることができるので触媒粒子を高い状態で分散させ有効表面積を高くすることができる一方、比表面積が1200m^(2)/gを超えると、電極を形成する際にイオン交換樹脂の浸入できない超微細細孔(約20Å未満)の存在割合が高くなり触媒粒子の利用効率が低くなるからである。そこで、比表面積を上記の範囲とすることで、貴金属粒子を高い状態で分散させ触媒単位質量あたりの活性を向上させる一方、触媒の利用効率を確保するものである。」
「【0016】そして、担持された白金と補助金属との合金化についてであるが、上記のように本発明において白金と補助金属とを合金化する目的は、触媒活性の向上もあるが同時に補助金属が触媒から脱離し高分子固体電解質膜を汚染しないようにするためである。従って、本発明においては十分な合金状態を実現することが必要である。本発明者等はこの合金化の条件として、担体を水素還元雰囲気下で800℃?1200℃加熱するのが適正であるとする。ここで、反応雰囲気の水素濃度は略100%とするのが好ましい。」
「【0038】
【表3】

【0039】表3から、本実施形態で製造した触媒は、第1実施形態同様、コバルトの合金化をしない場合よりもいずれも酸素質量活量が高く、白金:コバルト=3:1の合金比率をピークとし、白金:コバルト=3:2において酸素質量活量が低下することが確認された。
【0040】実験例4:上記酸素活量の測定に加え、実際の空気極の電池特性の検討を行った。このときの触媒の白金と補助触媒金属(鉄、コバルト)との担持比率は3:1とし、担持密度は42%のものを用いた。電池特性は、所定の電流密度におけるセル電圧を基に評価し、測定条件は以下の通りとした。」
「【0042】この結果を図1に示すが、図1からわかるように、補助触媒として鉄、コバルトを適用した本実施形態に係る触媒は、白金単独担持触媒よりも実用領域において高い電極特性を有することが確認された。」

(6)甲6に記載された事項
「【請求項1】
貴金属の微粒子が担持されている担体粒子と前記貴金属と同一の貴金属のイオンとを水中に分散させた分散液と、-0.5V vs. NHE以上の酸化還元電位を有する0.2 mol/L以下の濃度の還元剤溶液とを20?40℃の反応温度で混合することによって前記貴金属のイオンを還元して、前記貴金属の微粒子上に、還元された貴金属を析出させる還元工程を含む、電極触媒の製造方法。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記のように、従来技術の電極触媒の製造においては、加熱条件下で還元剤を用いて貴金属のイオンを還元処理することによって、貴金属の粒子を形成させる。このとき、特許文献1(50?70℃)又は特許文献2(沸騰温度)に記載のような高温条件下で還元処理するか、或いは特許文献3に記載の水素化ホウ素ナトリウムのような酸化還元電位の低い、強い還元剤を用いると、貴金属のイオンが急速に還元されて析出し、さらに析出した貴金属の微粒子が熱によって凝集するため、結果として得られる貴金属の粒子の粒径分布が不均一になるという問題点が存在した。通常、電極触媒に含まれる貴金属の粒子の平均粒径が小さくなる程、電極触媒の触媒活性、すなわち該貴金属の粒子上での酸素還元活性(質量活性及び比活性)が低下する。このため、電極触媒に含まれる貴金属の粒子の平均粒径が同程度であっても、粒径分布が不均一な場合には、小粒径の貴金属の粒子の存在比率が高くなるため、結果として電極触媒の触媒活性が低下することとなる。
【0011】
それ故、本発明は、電極触媒に含まれる貴金属の粒子の粒径の均一性を向上させて電極触媒の触媒活性向上を可能にする、電極触媒の製造方法を提供することを目的とする。」
「【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、予め用意した貴金属の微粒子が担持されている担体粒子の存在下で、酸化還元電位の高い、弱い還元剤を用いて貴金属のイオンを徐々に還元することにより、前記貴金属の微粒子上に還元された貴金属を析出させて該微粒子を粒成長させ、均一な粒径分布を有する貴金属の粒子を形成させることができることを見いだし、本発明を完成した。」
「【0013】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) 貴金属の微粒子が担持されている担体粒子と前記貴金属と同一の貴金属のイオンとを水中に分散させた分散液と、-0.5V vs. NHE以上の酸化還元電位を有する0.2 mol/L以下の濃度の還元剤溶液とを20?40℃の反応温度で混合することによって前記貴金属のイオンを還元して、前記貴金属の微粒子上に、還元された貴金属を析出させる還元工程を含む、電極触媒の製造方法。」
「【0021】
前記貴金属の微粒子の平均粒径は、1?3 nmの範囲であることが好ましい。また、前記貴金属の微粒子の平均粒径の標準偏差は、0.6 nm以下であることが好ましく、0.2 nm以下であることがより好ましい。前記範囲の標準偏差である場合、還元された貴金属を析出させることで粒成長させた粒子の粒径分布が均一な状態となるため、好ましい。また、前記範囲の平均粒径である場合、還元された貴金属を析出させることで粒成長させた粒子の平均粒径を、以下で説明する範囲とすることができるため、好ましい。」
「【0052】
本発明の方法で製造される電極触媒に含まれる貴金属の粒子の平均粒径は、通常、2.0?5.0 nmの範囲であり、典型的には、2.0?4.0 nmの範囲である。また、前記金属の粒子の平均粒径の標準偏差は、通常、0.2?1.5 nmの範囲であり、典型的には、0.2?0.8 nmの範囲である。前記範囲の平均粒径及び標準偏差である場合、貴金属の粒子の粒径分布が均一な状態となるため、好ましい。」
「【0069】
実施例1?3の電極触媒粒子の平均粒径及び標準偏差を対比した結果を表1?3に示す。
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】



(7)甲7に記載された事項
「【請求項1】
分散溶媒内に導電性担体を投入し、触媒金属の酸性塩と塩基性塩を投入して、酸性塩および塩基性塩のそれぞれから触媒金属を導電性担体に還元担持させる触媒担持担体の製造方法。」
「【0007】
たとえば、還元担持後の白金粒径が小さい場合には、熱処理して白金同士をシンタリングさせることで粒径成長を図るという方策が実行されるが、これによって粒径のばらつきが大きくなってしまう。したがって、所望する平均粒径の白金に対して微細な白金は、たとえば耐久試験中に溶出してしまい、これは電極触媒の性能低下に直結する。
【0008】
上記するように、熱処理のみによるシンタリングにて粒径を制御する方法では、カーボン粉末表面の担持サイトによっては白金粒子の移動のし易さに違いがあり、シンタリングしない微細な白金粒子が存在して特にこの微細な白金粒子が耐久試験中に溶出し易いというものである。また、たとえば窒素雰囲気下で熱処理のみによって粒径を制御しようとすると、カーボン中に残存している酸素の酸化や熱によってカーボンが劣化し得ることから、この熱処理のみによって担持後の触媒金属の粒径制御をおこなう方法に代わる粒径制御方法の開発が望まれている。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、導電性担体表面に触媒金属の前駆体から触媒金属を還元担持させて触媒担持担体を得る方法に関し、担持後の触媒金属の粒径が比較的大きく、しかも粒径のばらつきが極めて少ない触媒担持担体の製造方法と、この方法で得られた触媒担持担体を使用する電極触媒の製造方法を提供することを目的とする。」
「【0012】
本発明の触媒担持担体の製造方法は、分散溶媒内に導電性担体と、触媒金属の酸性塩と塩基性塩の2種類の触媒金属前駆体を投入することにより、これら酸性塩と塩基性塩を中和させて双方の前駆体から触媒金属を析出させることにより、この中和と還元析出の段階で比較的大きな粒径を有する触媒金属を導電性担体表面に担持させることのできるものである。」
「【0014】
また、本発明者等の検証によれば、導電性担体の表面に所望する大きさの粒径(平均粒径)の触媒金属を担持できることのほかに、触媒金属の粒径のばらつきを少なくすることができ、このことは、粒径が小さ過ぎて耐久性に乏しい触媒金属を解消できることに繋がる。」
「【0023】
本発明の導電性担体の製造方法、この方法で得られた導電性担体を使用してなる電極触媒の製造方法で得られた電極触媒を有する燃料電池は、上記のごとき効果を奏するものであることから、近時その生産が拡大しており、車載機器に一層の高性能を要求している電気自動車やハイブリッド車用の燃料電池に好適である。」
「【0039】
(実施例の触媒担持担体の製造方法)
本発明の製造方法にて触媒担持担体を得る具体的な内容を説明すると、市販の導電性担体であるケッチェンEC(ケッチェンブラックインターナショナル製)5.0gを純粋1.2L(リットル)に加えて分散させ、この分散液に、白金2.5gを含むヘキサヒドロキソ白金硝酸(白金塩、触媒金属塩)の溶液と、テトラアンミン白金水酸化物の混合液を滴下し、十分に攪拌した。これにギ酸を加えて100℃で還元をおこない、還元後の分散液を濾過し、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた。そして、乾燥後の粉末を窒素雰囲気下、300℃で1時間熱処理をおこなった。この方法で得られた触媒担持担体粉末の白金担持密度は、廃液分析の結果、白金50質量%であった。
【0040】
(比較例1の触媒担持担体の製造方法)
一方、比較例1の触媒担持担体の製造に関し、ケッチェンEC5.0gを純粋1.2L(リットル)に加えて分散させ、この分散液に、白金5.0gを含むヘキサヒドロキソ白金硝酸(白金塩、触媒金属塩)の溶液を滴下し、十分に攪拌した。そして、この溶液に0.1Nアンモニア約100mLを添加し、溶液pHを約10として水酸化物を形成し、カーボン表面に析出させ、さらに、エタノールを用いて90℃でヘキサヒドロキソ白金硝酸から白金を還元して分散液を濾過し、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた。そして、乾燥後の粉末を窒素雰囲気下、300℃で1時間熱処理をおこない、触媒担持担体を得た。この方法で得られた触媒担持担体粉末の白金担持密度も実施例のものと同様、廃液分析の結果、白金50質量%であった。
【0041】
(比較例2の触媒担持担体の製造方法)
一方、比較例2の触媒担持担体の製造に関し、ケッチェンEC5.0gを純粋1.2L(リットル)に加えて分散させ、この分散液に、白金5.0gを含むテトラアンミン白金水酸化物の溶液を滴下し、十分に攪拌した。これにギ酸を加えて100℃で還元をおこない、還元後の分散液を濾過し、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた。そして、乾燥後の粉末を窒素雰囲気下、300℃で1時間熱処理をおこなった。この方法で得られた触媒担持担体粉末の白金担持密度は、廃液分析の結果、白金50質量%であった。そして、上記溶液を十分に攪拌し、超音波照射やビーズミルなどによる分散処理をおこない、実施例、比較例1,2の触媒溶液(触媒インク)を生成した。」
「【0044】
実験の結果、30000回サイクル時の白金表面積維持率は、比較例1が58.66%、比較例2が54.68%であるのに対して、実施例は75.11%であり、比較例に対して30?40%程度も白金表面積維持率が向上することが実証されている。
【表1】

【0045】
また表1より、比較例1,2に対して、実施例の触媒白金の平均粒径は相対的に大きくなっており、所望する3.3nmに制御されている。さらに、そのばらつきも少なくなっており、たとえば比較例1の2.4?3.8nmに対して3.1?3.5nmの範囲であって、特に小さな粒径でも所望径に近い3.1nmに制御されている。このように、触媒白金の平均粒径が相対的に大きく、しかも所望する径に制御されていること、および最小径のものであってもその粒径が小さ過ぎないことから、すべての触媒白金の耐久性が高く、このことが上記する耐久試験の結果に繋がっている。」

(8)甲8に記載された事項
「【請求項1】
パラジウムを含むコアと、白金を含み且つ前記コアを被覆するシェルと、を備えるコアシェル触媒粒子の製造方法であって、
平均粒径が5nm以下かつ粒径分布の標準偏差が1.4nm以下であるパラジウム含有粒子が、導電性担体に担持されたパラジウム粒子担持体を準備する工程と、
銅イオンを含有する電解液中において、前記パラジウム粒子担持体に銅の酸化還元電位よりも貴な電位を印加することによって、前記パラジウム含有粒子の表面に銅を析出させる銅析出工程と、
前記パラジウム含有粒子の表面に析出した前記銅を白金に置換する置換工程と、
を有することを特徴とするコアシェル触媒粒子の製造方法。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、コアシェル触媒粒子は、製造工程においてシェルを均一に形成することができず、欠陥が生じていると、耐久性が低下するという問題がある。
本発明は上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、本発明の目的は、耐久性の高いコアシェル触媒粒子、及び、コアシェル触媒粒子の製造方法を提供することである。」
「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のコアシェル触媒粒子の製造方法は、パラジウムを含むコアと、白金を含み且つ前記コアを被覆するシェルと、を備えるコアシェル触媒粒子の製造方法であって、
平均粒径が5nm以下かつ粒径分布の標準偏差が1.4nm以下であるパラジウム含有粒子が、導電性担体に担持されたパラジウム粒子担持体を準備する工程と、
銅イオンを含有する電解液中において、前記パラジウム粒子担持体に銅の酸化還元電位よりも貴な電位を印加することによって、前記パラジウム含有粒子の表面に銅を析出させる銅析出工程と、
前記パラジウム含有粒子の表面に析出した前記銅を白金に置換する置換工程と、を有することを特徴とする。
本発明では、平均粒径が5nm以下かつ粒径分布の標準偏差が1.4nm以下であるパラジウム含有粒子を用いることによって、前記シェルにより前記コアを均一に被覆することができるため、コアシェル触媒粒子の耐久性を高くすることができる。」
「【0031】
パラジウム含有粒子の粒径分布の標準偏差は、1.4nm以下であればよく、特に、1.2nm以下であることが好ましい。尚、粒径分布の標準偏差は小さければ小さいほどよい。 本発明に使用される粒子の粒径分布の標準偏差は、X線小角散乱法(Small Angle X-ray Scattering;SAXS)により算出したものであり、以下の方法で算出できる。すなわち、パラジウム含有粒子を板状に薄く伸ばした試料にX線を照射し、5度以下の散乱角度領域に現れる小角散乱から、粒径分布を測定し、得られた粒径分布から標準偏差を算出することができる。」

(9)甲9に記載された事項
「【請求項1】
炭素粉末担体上に、白金からなる触媒粒子が担持されてなる固体高分子形燃料電池用触媒において、
前記炭素粉末担体は、0.7?3.0mmol/g(担体重量基準)の親水基が結合されており、
前記白金粒子は、平均粒径3.5?8.0nmであり、CO吸着による白金比表面積(COMSA)が40?100m^(2)/gであることを特徴とする固体高分子形燃料電池用触媒。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の白金触媒は、比較的簡易な方法で白金触媒の耐久性向上を図ることができる。しかしながら、本発明者等によると、この従来の触媒は、初期における活性(初期発電特性)が劣ることが確認されている。初期活性の低い触媒からなる電極を適用する場合、燃料電池に対し十分な時間をかけた発電前処理が必要となり、効率的な運用が望めなくなる。
【0008】
そこで本発明は、初期活性(初期発電特性)に優れ、かつ、耐久性も良好な固体高分子形燃料電池用触媒を提供する。また、その製造方法についても詳細に説明する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、アニール処理された白金触媒の初期活性(初期発電特性)が低い要因を検討した。その結果、アニール処理された白金触媒は、その担体表面の官能基、特に親水性の官能基が著しく減少しており、これが触媒活性低減の要因であると推察した。固体高分子形燃料電池は、電極中の触媒表面における反応で生じるプロトンが、水分及び電解質を介して伝導することで発電が生じる。そのため触媒には、上記水分等に対する親水性(濡れ性)が必要である。これに対し、アニール処理を受けた白金触媒は、処理による熱の影響で担体表面の官能基が消失するため濡れ性が悪化することから、初期において十分な活性(特性)を発揮できないと推察される。そこで、本発明者等は、この検討結果を基にアニール処理された白金触媒に、消失した親水基を導入することで初期活性を確保できると考え、本発明を想到した。
【0010】
即ち、本発明は、炭素粉末担体上に、白金粒子が担持されてなる固体高分子形燃料電池用触媒において、前記炭素粉末担体は、0.7?3.0mmol/g(担体重量基準)の親水基が結合されており、前記白金粒子は、平均粒径3.5?8.0nmであり、CO吸着による白金比表面積(COMSA)が40?100m^(2)/gであることを特徴とする固体高分子形燃料電池用触媒である。」
「【0022】
[アニール処理]
上記工程により製造した白金触媒を100%水素ガス中で、1時間、900℃に保持することにより行った。」

(10)甲10に記載された事項
「【請求項1】
白金、コバルト、マンガンからなる触媒粒子が炭素粉末担体上に担持されてなる固体高分子形燃料電池用触媒において、
前記触媒粒子の白金、コバルト、マンガンの構成比(モル比)が、Pt:Co:Mn=1:0.06?0.39:0.04?0.33であり、
前記触媒粒子についてのX線回折分析において、2θ=27°近傍に現れるCo-Mn合金のピーク強度比が、2θ=40°近傍に現れるメインピークを基準として0.15以下であることを特徴とする固体高分子形燃料電池用触媒。」
「【0008】
このように、近年の燃料電池の普及が現実的なものとなっていることを考えれば、合金触媒については初期活性及び耐久性の更なる改善が必要といえる。そこで本発明は、白金と他の金属とを合金化した固体高分子形燃料電池用の合金触媒について、初期活性、耐久性がより改善されたもの、及び、その製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成すべく、Pt-Co触媒に各種の金属を添加した3元系触媒を試作しその活性を検討するスクリーニング試験を行い、その結果、マンガン添加により従来のPt-Co触媒以上の活性を発揮する可能性を見出した。その一方、本発明者等は、この検討過程でマンガンを添加した合金触媒であっても、場合によっては活性向上が認められないことを確認した。そこで、この要因について検討した結果、Pt-Co-Mn3元系触媒について、各添加金属(Co、Mn)の構成比を最適な範囲に設定する必要があることと共に、触媒粒子の構造としてCo-Mn合金相が存在すると十分な活性が発揮されないことを見出した。そして、この触媒粒子中のCo-Mn合金相について一定の制限を設定することで初期活性に優れるとして本発明に想到した。
【0010】
即ち、本発明は、白金、コバルト、マンガンからなる触媒粒子が炭素粉末担体上に担持されてなる固体高分子形燃料電池用触媒において、前記触媒粒子の白金、コバルト、マンガンの構成比(モル比)が、Pt:Co:Mn=1:0.06?0.39:0.04?0.33であり、前記触媒粒子についてのX線回折分析において、2θ=27°近傍に現れるCo-Mn合金のピーク強度比が、2θ=40°近傍に現れるメインピークを基準として0.15以下であることを特徴とする固体高分子形燃料電池用触媒である。」
「【0036】
[触媒金属の担持]
触媒金属を担持した触媒について合金化のための熱処理を行った。本実施形態では、100%水素ガス中で熱処理温度を900℃として30分の熱処理を行った。この合金化熱処理によりPt-Co-Mn3元系触媒を製造した。」

第6 当審の判断
当審は、特許権者が提出した令和3年1月21日付けの意見書及び訂正請求書、並びに申立人が提出した令和3年3月12日付けの申立人意見書を踏まえて本件発明の内容を検討した結果、以下のとおり、取消理由は解消するとともに、特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によって本件特許の請求項1?5、7に係る特許を取り消すことはできないと判断した。
なお、申立理由3(新規性進歩性)は、取消理由1,2(新規性進歩性)とまとめて検討した。

1 取消理由について
1-1 取消理由1、2(申立理由3)(新規性進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 甲3に記載された発明
(ア)甲3に記載された発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段
甲3に記載された発明が解決しようとする課題は、甲3の[0005]より、「PEFCの触媒層において担体として作用する炭素材料の腐食を抑制する手段を提供すること」と把握される。
また、甲3に記載された発明の上記課題を解決する手段は、甲3の [0007]記載の「本発明者は、耐久性と性能との両立を図るために鋭意検討を行なった結果、性能を向上するために、粒子径の小さい貴金属触媒を高分散させて担持した炭素材料を不活性ガス雰囲気下で熱処理することによって、貴金属をシンタリングさせて粒子径を大きくする一方で、触媒粒子の分散性は高い状態に維持でき、これにより、触媒粒子の溶出が抑制でき、耐久性改善および長期寿命が達成できることを知得した。さらに、熱処理する際に、炭素材料表面のアモルファス部分を貴金属触媒(例えば、Pt、Pt合金)の触媒作用を利用して消失させ、担体表面の黒鉛化度を向上させ、カーボン腐食に対する耐性をさらに向上させることができることをも知得した。上記知見に基づいて、本発明を完成させた。」との説明を踏まえた[0008]記載の「貴金属触媒を担持した炭素材料を不活性ガス雰囲気下で熱処理してなる電極触媒」と、理解することができる。

(イ)甲3に記載された発明の認定
甲3には、特にその請求項6、13、15、24、25、27、[0062]、[0065]、[0066]、[0083]、[0100][表1]の記載を参酌すると、実施例12をもとにして把握される以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと、認められる。
<甲3発明>
ブラックパールにPtを担持させる段階と、前記Ptを担持したブラックパールを、1000℃で30分間で熱処理する段階とを含み、熱処理後の前記Ptについて、走査型電子顕微鏡を用い、代表サンプルについて数?数10視野中に観察される粒子の粒子径を測定し、平均値を算出した平均粒子径が3.4nmとなる固体高分子型燃料電池の電極触媒の製造方法。

イ 本件発明1と甲3発明との一致点・相違点
本件発明1と甲3発明とを対比する。
a 甲3発明において熱処理後の平均粒子径が提示されている「Pt」は、本件発明1の「白金又は白金合金を含む触媒金属粒子」に相当する。
b 甲3発明の「ブラックパール」は、本件発明1の「炭素質材料」に相当するとともに、本件発明1の「触媒金属粒子を担持している担体粒子」に対しては、「触媒金属粒子を担持している担体」である点と、熱処理が施される点とにおいて共通する。
c 甲3発明の「固体高分子型燃料電池の電極触媒」は、本件発明1の「燃料電池用電極触媒」に相当する。
d 甲3発明の熱処理後のPtは、「走査型電子顕微鏡を用い、代表サンプルについて数?数10視野中に観察される粒子の粒子径を測定し、平均値を算出した平均粒子径が3.4nm」であり、これは一見すると、本件発明1の触媒金属粒子の「平均粒径が、2.5?4.5nm」に対応するが、本件明細書の発明の詳細な説明の【0013】における「触媒金属粒子の平均粒径はX線回折の測定ピークから、解析ソフトJADEを用いて算出する。この場合、平均粒径は、個数平均の平均粒径となる。」との記載に照らし、本件発明1の触媒金属粒子の「平均粒径」は、甲3発明とは異なる求め方によるものである。
そして、「平均粒径」の測定方法が異なれば、同じ試料に対して得られる平均粒径の値にも有意な差が生じうることは一般にも知られており、甲3発明の熱処理後のPtに関する「走査型電子顕微鏡を用い、代表サンプルについて数?数10視野中に観察される粒子の粒子径を測定し、平均値を算出した平均粒子径」の「3.4nm」という値は、それとは異なる測定方法で算出された本件発明1の「触媒金属粒子の平均粒径」の「2.5?4.5nm」という範囲に、見かけ上入っているに止まるもので、それのみをもって、両者の「触媒金属粒子の平均粒径」が一致するとは判断できない。

e そうすると、両者は以下の一致点、及び相違点1?4を有している。

[一致点]
白金又は白金合金を含む触媒金属粒子及び前記触媒金属粒子を担持している担体を含む燃料電池用電極触媒の製造方法であって、
前記触媒金属粒子を構成する金属を担持した前記担体を、熱処理をすることを含み、
前記担体が炭素質材料である、
燃料電池用電極触媒の製造方法。

[相違点1]
本件発明1は、触媒金属粒子を担持している担体が「担体粒子」であるのに対し、甲3発明においてPtを担持しているブラックパールは、「担体粒子」といえるような粒子状のものであるかが不明な点。

[相違点2]
本件発明1は、触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体の熱処理を、「830℃以上980℃以下の温度で0.2時間以上2時間以内」で行っているのに対し、甲3発明では、Ptを担持したブラックパールの熱処理を「1000℃で30分間」で行っており、両者は熱処理条件が異なる点。

[相違点3]
本件発明1の炭素質材料である担体粒子は、「BET比表面積が700m^(2)/g以上」のものであるのに対し、甲3発明におけるブラックパールは、本件発明1のようなBET比表面積を有するものであるかが不明な点。

[相違点4]
本件発明1の触媒金属粒子は、「平均粒径が、2.5?4.5nmであり」、かつ「粒径の標準偏差が、1.30nm以下である」であるのに対し、甲3発明におけるPtは、「熱処理後の前記Ptについて、走査型電子顕微鏡を用い、代表サンプルについて数?数10視野中に観察される粒子の粒子径を測定し、平均値を算出した平均粒子径が3.4nm」であるものの、本件発明1のような平均粒径範囲と粒径の標準偏差範囲を満たすものであるかが不明な点。

ウ 相違点に関する判断
事案に鑑み、上記イの相違点2及び4についてまとめて検討する。
(ア)甲3についての検討
a 本件発明1に関し、本件明細書の発明の詳細な説明の【0010】には、「本発明者らは、比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造した場合には、得られる触媒金属粒子が、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)となることを見出した。触媒金属粒子の平均粒径が小さい場合には、電極触媒の初期活性が高くなるもののその活性を長期間維持できない傾向にあるが、本発明の電極触媒では、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できることがわかった。」と記載され、【0012】には、【0011】記載の「触媒金属粒子の平均粒径は、2.5?4.5nmであり、触媒金属粒子の粒径の標準偏差は、1.30nmである」との前提において、「触媒金属粒子の粒径がこのような範囲である場合には、電極触媒の初期活性が高く、かつその活性を長期間維持できる傾向にある。」との効果が記載されている。そして、かかる効果は、本件明細書の発明の詳細な説明の【0055】【表1】に、本件発明1の触媒金属粒子のように「平均粒径が、2.5?4.5nmであり」、「粒径の標準偏差が、1.30nm以下である」との条件をいずれも満たす実施例では、初期触媒活性及び活性維持率がともに良好な結果となっているのに対し、「平均粒径が、2.5?4.5nmであり」、「粒径の標準偏差が、1.30nm以下である」との条件のいずれかを満たさない比較例では、初期触媒活性又は活性維持率のいずれかの結果が良好でないことが示されていることなど、【0010】?【0012】以外の本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載からも、裏付けられている。
そして、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の上記各記載によれば、本件発明1のような触媒金属粒子の「平均粒径」の「2.5?4.5nm」との範囲及び「粒径の標準偏差」の「1.30nm以下」との範囲を実現するにあたっては、【0010】に記載されるように、比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造することが必要かつ十分であることが理解できる。
そうすると、相違点4に係る本件発明1における触媒金属粒子の「平均粒径」及び「粒径の標準偏差」に関する発明特定事項を実現することに対し、本件発明1におけるこれら以外の発明特定事項を兼ね備えた製造方法、すなわち、
「白金又は白金合金を含む触媒金属粒子及び前記触媒金属粒子を担持している担体粒子を含む燃料電池用電極触媒の製造方法であって、
前記触媒金属粒子を構成する金属を担持した前記担体粒子を、830℃以上980℃以下の温度で0.2時間以上2時間以内で熱処理をすることを含み、
前記担体粒子が、BET比表面積が700m^(2)/g以上の炭素質材料である、
燃料電池用電極触媒の製造方法。」
は、必要十分条件の関係にあり、以下、これを「必要十分条件たる製造方法」という。

b しかしながら、甲3発明は、相違点2に挙げたように、触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体の熱処理条件が本件発明1とは異なり、この点において、必要十分条件たる製造方法とは製造条件が異なるものであるから、本件発明1のような触媒金属粒子の平均粒径範囲及び粒径の標準偏差範囲が両立して実現されるとまでいえるものではなく、相違点4も実質的な相違点と判断される。
そして、相違点2及び4以外の他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3に記載された発明であるとはいえない。

c また、本件発明1は、上記aの本件明細書の発明の詳細な説明の【0010】の記載から理解されるように、比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造することで、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により実現するとの技術思想を有しており、必要十分条件たる製造方法も、かかる技術思想に基づいて、担体粒子の炭素質材料の比表面積、及び触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子の熱処理条件の組み合わせが選択されるものと解される。
これに対し、甲3発明は、上記ア(ア)に示したような解決しようとする課題及び課題を解決する手段を有するものであり、本件発明1とは、技術思想が共通するものとはいえない。

d そうすると、本件発明1とも技術思想が異なる甲3発明では、本件発明1の触媒金属粒子の平均粒径範囲及び粒径の標準偏差範囲を両立して実現するように、担体粒子の炭素質材料の比表面積、及び触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子の熱処理条件の組み合わせを選択する動機がなく、相違点2及び4以外の他の相違点について検討するまでもなく、当業者といえども、甲3発明に基づいて本件発明1の触媒金属粒子の平均粒径範囲及び粒径の標準偏差範囲を同時に実現することは困難である。

e なお、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を実現できるという本件発明1の効果も、甲3発明から示唆されるものでない異質な効果であり、当業者が予測することができない顕著な効果であるといえる。

(イ)他の甲号証についての検討
また、本件発明1の相違点2及び4に係る事項について、甲3発明と他の甲号証に記載された発明とを組み合わせることによって実現できる可能性についても確認する。
甲1?2、4に記載された発明については後記するように、少なくとも本件訂正発明1とは、それぞれ相違点4と同趣旨の相違点を有するものであるから、以下、甲5?10について検討する。
なお、甲5?10に記載された事項については、それぞれ上記第5 2(5)?(10)を参照。

a.甲5について
特許異議申立書における甲5は、訂正前の本件発明4及びそれを直接または間接的に引用する本件発明5?7に対し、甲1?甲4いずれかの証拠方法とともに用いることで、進歩性を否定できるとする主張の証拠方法として説明されている。具体的には、特許異議申立書3.(4)ウ(v)第41頁に、「燃料電池用の電極触媒に関する発明が記載されており、白金と、補助金属としての鉄またはコバルトを合金化してなる触媒粒子において、白金と補助金属との配合比は6:1?3:2(モル比)であること、これにより酸素質量活量が高く、電極特定が高い触媒が得られること:が記載されている(甲第5号証、段落【0001】、【0006】、【0009】、【0039】、【0042】等)。」と記載されているような事項が、甲5には示されている。
また、申立人意見書3.(2)(2-2)第5頁で言及されている甲5の請求項1には、かかる事項を反映した発明として「炭素粉末担体上に白金と1の補助金属とを合金化してなる触媒粒子が担持された高分子固体電解質形燃料電池の空気極用の触媒であって、前記補助金属は、鉄又はコバルトであり、白金と補助金属との配合比は6:1?3:2(モル比)であることを特徴とする高分子固体電解質形燃料電池の空気極用の触媒。」が記載されている。
しかしながら、甲5は、比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造することで、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により実現する(上記(ア)c)本件発明1と同様の技術思想を開示するものでなく、当業者が甲3発明と組み合わせることによって、本件発明1の相違点2及び4に係る事項がともに実現できるものとはいえない。

b.甲6について
特許異議申立書における甲6は、特許異議申立書3.(4)ウ(v)第40頁に「触媒金属粒子の平均分布が不均一であると触媒活性が低下すること、従って粒径の標準偏差もしくは粒径のばらつきが小さい方が好ましいこと等は、本件特許の出願時には当業者にとって周知の事実である」と記載された周知の事実の例の一つとして示され、具体的参照箇所として【0010】、【0021】、【0052】、【0069】等が挙げられたものである。
そして、甲6には、【0011】に「電極触媒に含まれる貴金属の粒子の粒径の均一性を向上させて電極触媒の触媒活性向上を可能にする、電極触媒の製造方法を提供する」との課題が記載され、かかる課題を解決するための手段に関し、【0012】に「本発明者は、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、予め用意した貴金属の微粒子が担持されている担体粒子の存在下で、酸化還元電位の高い、弱い還元剤を用いて貴金属のイオンを徐々に還元することにより、前記貴金属の微粒子上に還元された貴金属を析出させて該微粒子を粒成長させ、均一な粒径分布を有する貴金属の粒子を形成させることができることを見いだし、本発明を完成した。」と記載され、請求項1には、かかる手段をより具体化した発明として「貴金属の微粒子が担持されている担体粒子と前記貴金属と同一の貴金属のイオンとを水中に分散させた分散液と、-0.5V vs. NHE以上の酸化還元電位を有する0.2 mol/L以下の濃度の還元剤溶液とを20?40℃の反応温度で混合することによって前記貴金属のイオンを還元して、前記貴金属の微粒子上に、還元された貴金属を析出させる還元工程を含む、電極触媒の製造方法。」が記載されている。
しかしながら、甲6は、比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造することで、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により実現する(上記(ア)c)本件発明1と同様の技術思想を開示するものでなく、当業者が甲3発明と組み合わせることによって、本件発明1の相違点2及び4に係る事項がともに実現できるものとはいえない。

c.甲7について
特許異議申立書における甲7は、特許異議申立書3.(4)ウ(v)第40頁に「触媒金属粒子の平均分布が不均一であると触媒活性が低下すること、従って粒径の標準偏差もしくは粒径のばらつきが小さい方が好ましいこと等は、本件特許の出願時には当業者にとって周知の事実である」と記載された周知の事実の例の一つとして示され、具体的参照箇所として【0010】、【0014】、【0023】、【表1】等が挙げられたものである。
そして、甲7には、【0010】に「導電性担体表面に触媒金属の前駆体から触媒金属を還元担持させて触媒担持担体を得る方法に関し、担持後の触媒金属の粒径が比較的大きく、しかも粒径のばらつきが極めて少ない触媒担持担体の製造方法と、この方法で得られた触媒担持担体を使用する電極触媒の製造方法を提供する」との課題が記載され、かかる課題を解決するための手段に関し、【0012】に「本発明の触媒担持担体の製造方法は、分散溶媒内に導電性担体と、触媒金属の酸性塩と塩基性塩の2種類の触媒金属前駆体を投入することにより、これら酸性塩と塩基性塩を中和させて双方の前駆体から触媒金属を析出させることにより、この中和と還元析出の段階で比較的大きな粒径を有する触媒金属を導電性担体表面に担持させることのできるものである。」と、また【0014】に「本発明者等の検証によれば、導電性担体の表面に所望する大きさの粒径(平均粒径)の触媒金属を担持できることのほかに、触媒金属の粒径のばらつきを少なくすることができ、このことは、粒径が小さ過ぎて耐久性に乏しい触媒金属を解消できることに繋がる。」と記載され、請求項1には、かかる手段を反映した発明として「分散溶媒内に導電性担体を投入し、触媒金属の酸性塩と塩基性塩を投入して、酸性塩および塩基性塩のそれぞれから触媒金属を導電性担体に還元担持させる触媒担持担体の製造方法。」が記載されている。
しかしながら、甲7は、比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造することで、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により実現する(上記(ア)c)本件発明1と同様の技術思想を開示するものでなく、当業者が甲3発明と組み合わせることによって、本件発明1の相違点2及び4に係る事項がともに実現できるものとはいえない。

d.甲8について
特許異議申立書における甲8は、特許異議申立書3.(4)ウ(v)第40頁に「触媒金属粒子の平均分布が不均一であると触媒活性が低下すること、従って粒径の標準偏差もしくは粒径のばらつきが小さい方が好ましいこと等は、本件特許の出願時には当業者にとって周知の事実である」と記載された周知の事実の例の一つとして示され、具体的参照箇所として請求項1、【0005】、【0031】等が挙げられたものである。
そして、甲8には、【0005】に「耐久性の高いコアシェル触媒粒子、及び、コアシェル触媒粒子の製造方法を提供する」との課題が記載され、かかる課題を解決するための手段に関し、【0006】に「本発明のコアシェル触媒粒子の製造方法は、パラジウムを含むコアと、白金を含み且つ前記コアを被覆するシェルと、を備えるコアシェル触媒粒子の製造方法であって、 平均粒径が5nm以下かつ粒径分布の標準偏差が1.4nm以下であるパラジウム含有粒子が、導電性担体に担持されたパラジウム粒子担持体を準備する工程と、 銅イオンを含有する電解液中において、前記パラジウム粒子担持体に銅の酸化還元電位よりも貴な電位を印加することによって、前記パラジウム含有粒子の表面に銅を析出させる銅析出工程と、 前記パラジウム含有粒子の表面に析出した前記銅を白金に置換する置換工程と、を有することを特徴とする。 本発明では、平均粒径が5nm以下かつ粒径分布の標準偏差が1.4nm以下であるパラジウム含有粒子を用いることによって、前記シェルにより前記コアを均一に被覆することができるため、コアシェル触媒粒子の耐久性を高くすることができる。」と記載され、請求項1には、かかる手段を反映した発明として「パラジウムを含むコアと、白金を含み且つ前記コアを被覆するシェルと、を備えるコアシェル触媒粒子の製造方法であって、 平均粒径が5nm以下かつ粒径分布の標準偏差が1.4nm以下であるパラジウム含有粒子が、導電性担体に担持されたパラジウム粒子担持体を準備する工程と、 銅イオンを含有する電解液中において、前記パラジウム粒子担持体に銅の酸化還元電位よりも貴な電位を印加することによって、前記パラジウム含有粒子の表面に銅を析出させる銅析出工程と、 前記パラジウム含有粒子の表面に析出した前記銅を白金に置換する置換工程と、を有することを特徴とするコアシェル触媒粒子の製造方法。」が記載されている。
しかしながら、甲8は、比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造することで、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により実現する(上記(ア)c)本件発明1と同様の技術思想を開示するものでなく、当業者が甲3発明と組み合わせることによって、本件発明1の相違点2及び4に係る事項がともに実現できるものとはいえない。

e 甲9について
甲9は、申立人意見書3.(2)(2-2)第5?6頁において、「熱処理を880?980℃とし、熱処理時間を1.5時間以内とすることは、電極触媒の活性と耐久性を改善するという課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化であり、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。」と主張された点に関し、【0022】の「[アニール処理] 上記工程により製造した白金触媒を100%水素ガス中で、1時間、900℃に保持することにより行った。」との記載が引用されているものである。
そして、甲9には、【0008】に「本発明は、初期活性(初期発電特性)に優れ、かつ、耐久性も良好な固体高分子形燃料電池用触媒を提供する。」との課題が記載され、かかる課題を解決するための手段に関し、【0009】に「本発明者らは、上記目的を達成すべく、アニール処理された白金触媒の初期活性(初期発電特性)が低い要因を検討した。その結果、アニール処理された白金触媒は、その担体表面の官能基、特に親水性の官能基が著しく減少しており、これが触媒活性低減の要因であると推察した。固体高分子形燃料電池は、電極中の触媒表面における反応で生じるプロトンが、水分及び電解質を介して伝導することで発電が生じる。そのため触媒には、上記水分等に対する親水性(濡れ性)が必要である。これに対し、アニール処理を受けた白金触媒は、処理による熱の影響で担体表面の官能基が消失するため濡れ性が悪化することから、初期において十分な活性(特性)を発揮できないと推察される。そこで、本発明者等は、この検討結果を基にアニール処理された白金触媒に、消失した親水基を導入することで初期活性を確保できると考え、本発明を想到した。」と記載され、請求項1には、かかる手段をより具体化した発明として「炭素粉末担体上に、白金からなる触媒粒子が担持されてなる固体高分子形燃料電池用触媒において、 前記炭素粉末担体は、0.7?3.0mmol/g(担体重量基準)の親水基が結合されており、 前記白金粒子は、平均粒径3.5?8.0nmであり、CO吸着による白金比表面積(COMSA)が40?100m2/gであることを特徴とする固体高分子形燃料電池用触媒。」が記載されている。
しかしながら、甲9の【0022】記載のアニール処理は、比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造することで、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により実現する(上記(ア)c)本件発明1と同様の技術思想に則って行われるものでないから、相違点2及び4に関し何ら参照できるものでもなく、当業者が甲3発明と組み合わせることによって、本件発明1の相違点2及び4に係る事項がともに実現できるものともいえない。

f 甲10について
甲10は、申立人意見書3.(2)(2-2)第5?6頁において、「熱処理を880?980℃とし、熱処理時間を1.5時間以内とすることは、電極触媒の活性と耐久性を改善するという課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化であり、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。」と主張された点に関し、【0036】の「[触媒金属の担持] 触媒金属を担持した触媒について合金化のための熱処理を行った。本実施形態では、100%水素ガス中で熱処理温度を900℃として30分の熱処理を行った。この合金化熱処理によりPt-Co-Mn3元系触媒を製造した。」との記載が引用されているものである。
そして、甲10には、【0008】に「そこで本発明は、白金と他の金属とを合金化した固体高分子形燃料電池用の合金触媒について、初期活性、耐久性がより改善されたもの、及び、その製造方法を提供する。」との課題が記載され、かかる課題を解決するための手段に関し、【0009】に「本発明者等は、上記目的を達成すべく、Pt-Co触媒に各種の金属を添加した3元系触媒を試作しその活性を検討するスクリーニング試験を行い、その結果、マンガン添加により従来のPt-Co触媒以上の活性を発揮する可能性を見出した。その一方、本発明者等は、この検討過程でマンガンを添加した合金触媒であっても、場合によっては活性向上が認められないことを確認した。そこで、この要因について検討した結果、Pt-Co-Mn3元系触媒について、各添加金属(Co、Mn)の構成比を最適な範囲に設定する必要があることと共に、触媒粒子の構造としてCo-Mn合金相が存在すると十分な活性が発揮されないことを見出した。そして、この触媒粒子中のCo-Mn合金相について一定の制限を設定することで初期活性に優れるとして本発明に想到した。」と記載され、請求項1には、かかる手段をより具体化した発明として「白金、コバルト、マンガンからなる触媒粒子が炭素粉末担体上に担持されてなる固体高分子形燃料電池用触媒において、 前記触媒粒子の白金、コバルト、マンガンの構成比(モル比)が、Pt:Co:Mn=1:0.06?0.39:0.04?0.33であり、 前記触媒粒子についてのX線回折分析において、2θ=27°近傍に現れるCo-Mn合金のピーク強度比が、2θ=40°近傍に現れるメインピークを基準として0.15以下であることを特徴とする固体高分子形燃料電池用触媒。」が記載されている。
しかしながら、甲10の【0036】記載の熱処理は、比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造することで、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により実現する(上記(ア)c)本件発明1と同様の技術思想に則って行われるものでないから、相違点2及び4に関し何ら参照できるものでもなく、当業者が甲3発明と組み合わせることによって、本件発明1の相違点2及び4に係る事項がともに実現できるものともいえない。

g 小括
以上のとおり、少なくとも本件発明1の相違点2及び4に係る事項は、甲3発明と他の甲号証に記載された事項とを組み合わせることによって、実現できるものとはいえない。

エ 甲3発明以外の発明を甲3に記載された発明として抽出した場合についての検討
また、甲3に記載された発明として、仮に実施例12以外の他の実施例に基づく発明など、甲3発明以外の発明内容を抽出するとした場合でも、本件発明1の比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造することで、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により実現するとの技術思想(上記ウ(ア)c)は、甲3に記載されていないから、そのような甲3に記載された発明からも、上記ウ(ア)dの甲3発明に関する検討内容と同様、本件発明1の触媒金属粒子の平均粒径範囲及び粒径の標準偏差範囲を同時に実現する動機はなく、いずれにしろ、本件発明1を当業者が容易になし得た、ということはできない。

オ 申立人の主張について
(ア)申立人意見書における申立人の主張
申立人は、申立人意見書3.(2)(2-1)第2?4頁において本件発明1は、取消理由1、2(新規性進歩性)によって取り消されるべきものであるとして、以下のように主張する。

a 甲3には、電極触媒の製造方法が開示されており、
(a)甲3の[0007]には、「粒子径の小さい貴金属触媒を高分散させて担持した炭素材料を不活性ガス雰囲気下で熱処理することによって、貴金属をシンタリングさせて粒子径を大きくする一方で、触媒粒子の分散性は高い状態に維持でき、これにより、触媒粒子の溶出が抑制でき、耐久性改善および長期寿命が達成できることを知得した」ことが記載され、
(b)甲3の[0021]には、貴金属触媒粒子の平均粒子径は、1?6nm、より好ましくは2?4nm、特に好ましくは2?3nmであること(本件発明1の「触媒金属粒子の平均粒径」「2.5?4.5nm」に相当)、2?3nmで最大酸素還元活性を示すことが記載され、
(c)甲3の[0025]には、BET被表面積が好ましくは100?2000m^(2)/g、より好ましくは200?1500m^(2)/gの炭素材料(本件発明1の「BET比表面積が700m^(2)/g以上の炭素質材料」に相当)であれば、貴金属触媒が炭素材料に高分散担持できることが記載され、
(d)甲3の[0033]には、貴金属触媒が担持された炭素材料の熱処理温度が300?1200℃、より好ましくは400?1150℃であり、300℃未満であると、白金および白金合金の粒子径成長(シンタリング)が起こらず、1200℃を超えると、シンタリングが進み過ぎること、熱処理時間は、好ましくは10?600分、より好ましくは30?300分であること(本件発明1の触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子を、「830℃以上980℃以下の温度で0.2時間以上2時間以内で熱処理をすること」に相当)が記載されている。

b 従って、たとえ、甲3に、830℃以上980℃以下の温度で触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子の熱処理する具体例の記載がないとしても、甲3の上記aの記載は、830℃以上980℃以下の熱処理温度を排除するものではないから、本件発明1は、依然として甲3に記載された発明である。

c また、甲3には、初期発電性能及び耐久性に優れた電極触媒が得られたことも記載されているから、本件発明1は、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

d なお、本件発明1における、甲3に記載された発明との触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体材料の熱処理温度の差(20℃)は、何ら格別顕著な効果を奏するものではない。
以下の試験結果は、甲3の[0100][表1]に記載されている実施例1および実施例12について、熱処理温度を本件発明1による830?980℃の範囲内である975℃および900℃に変更して測定した結果を示し、Pt平均粒子径、ラマンスペクトル強度比(ラマンスペクトル半値幅比)は実施例1、12と同程度であり、熱処理温度を1000℃ではなく、980℃以下とした場合でも、得られた触媒の性質は、他の実施例で得られた触媒と同等である。

従って、触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体材料の熱処理温度を830℃以上980℃以下の温度とすることに何らの技術的意義も存在しないことは明らかである。

(イ)申立人意見書における申立人の主張の検討
上記(ア)の申立人意見書における申立人の主張は、以下のとおり採用するに足る十分な理由を示したものとはいえないので、上記ア?エにおける当審の判断を、何ら左右するものでもない。

a 甲3の[0021]には、上記(ア)a(b)に示されるような範囲の貴金属触媒粒子の平均粒子径について記載されているが、かかる平均粒子径は熱処理前のものである。これに対し、本件発明1の触媒金属粒子の平均粒径は、本件明細書の発明の詳細な説明の【0010】に「比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造した場合には、得られる触媒金属粒子が、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)となることを見出した。」とも記載されるとおり熱処理後の平均粒子径を意図しており、甲3の[0021]記載の平均粒子径とは測定されるタイミングも異なり、その技術的意義も明らかに異なるものであるから、本件発明1の平均粒子径と甲3の[0021]に記載された平均粒子径とが一致すると判断することはできない。

b また、申立人は、甲3に記載された発明が、本件発明1の「粒径の標準偏差が、1.30nm以下である」との状態を実現しているといえる具体的理由も、甲3に記載された発明から当該状態を実現することが当業者にとって容易になしえたといえる具体的理由も、何ら示していない。

c また、甲3に関し、たとえ上記(ア)cのように、初期発電性能及び耐久性に優れた電極触媒が得られることが記載されているといえる余地はあったとしても、甲3に記載された発明は、比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造することで、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を実現しようとする(上記ウ(ア)c)本件発明1と、技術思想が共通するものとはいえないから、たとえ、甲3の[0033]には、上記(ア)a(d)のとおり、貴金属触媒が担持された炭素材料の熱処理温度に関し、「300?1200℃」との、本件発明1の「830℃以上980℃以下」とも重複する範囲が記載されているとしたところで、甲3に記載された発明において、必要十分条件たる製造方法を構成する具体的な製造条件の組み合わせを選択する動機があるともいえない。

d なお、申立人が、上記(ア)dのように示している試験結果は、本件発明1の効果が、甲3に記載された発明から示唆されるものでない異質な効果(上記ウ(ア)e)であるといえない理由を示すものではない。また、甲3に記載された発明が、本件発明1の製造方法のように触媒金属粒子の特定の平均粒径範囲及び粒径の特定の標準偏差範囲を実現することを示唆したものでなく、本件発明1が、甲3に記載された発明である理由を示すものでも、甲3に記載された発明に基づき当業者が容易になしえたといえる理由を示すものでもない。

e 以上のとおりであるから、本件発明1の製造方法における触媒金属粒子の平均粒径範囲及び粒径の標準偏差範囲は、甲3に記載された発明において実現されるとも、甲3に記載された発明に基づき当業者が容易になし得たともいえない。

f よって、上記(ア)bのように、本件発明1が依然として甲3に記載された発明であるとする申立人の主張も、上記(ア)cのように、本件発明1が甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとする申立人の主張も、いずれも採用するに足る十分な理由を示したものとはいえない。

(ウ)申立理由3(新規性進歩性)の検討
取消理由1,2(新規性進歩性)は、申立理由3(新規性進歩性)の具体的理由を変更しながら一部を採用したものであるので、申立理由3(新規性進歩性)自体についても改めて検討しておく。(なお、申立理由3(新規性進歩性)記載の「本件特許発明1」等は、訂正前の「本件発明1」等に相当する。)

a 本件発明1は、訂正前の本件発明1における、触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子の熱処理温度の範囲について、訂正前の本件発明5における当該熱処理温度と同様、その範囲の上限として「980℃」なる温度を採用し、「830℃以上980℃以下」と訂正したに等しいともいえる。
本件発明1に対しては、申立理由3(新規性進歩性)のうち、特に訂正前の本件発明1及び本件発明5についての主張が関連する一方、訂正前の本件発明2?4、6?7についての主張は直接関連しないものと判断されるので、ここでの検討対象は、訂正前の本件発明1及び本件発明5についての主張に絞る。

b 訂正前の本件発明1について、
(a)特許異議申立書3.(4)ウ(iii)第36?37頁には、
「本件特許発明1と甲第3号証に記載された発明とを対比すると、いずれの発明も電極触媒の製造方法であって、BET比表面積が700m^(2)/g以上(甲第3号証:200?1500m^(2)/g)の炭素質材料に白金を担持させ、830℃以上の温度(甲第3号証:900?1100℃)で0.2時間以上2時間以内(甲第3号証:30?300分)で熱処理することを含み、触媒金属粒子の平均粒径が、2.5?4.5nm(甲第3号証:3?6nm)である点で一致する(甲第3号証の請求項6、15、25、段落[0025]、段落[0033]等)。
甲第3号証に、触媒金属粒子の粒径の標準偏差が、1.30nm以下であることについて明確な記載はないが、前記標準偏差は、上記の燃料電池用電極触媒の製造方法によって得られた電極触媒が備えている特定であること、甲第3号証に記載されている触媒金属および炭素質の担体は同一であり、熱処理温度および熱処理時間も同一であることから、甲第3号証に記載されている燃料電池用電極触媒の製造方法によって製造された電極触媒における触媒金属粒子の粒径の標準偏差が、1.30nm以下であることは自明である。」
との主張が記載され、
(b)特許異議申立書3.(4)ウ(v)第40頁には、
「また、甲第4号証には、熱処理後の触媒金属粒子の大きさが均一であることも記載されている(段落【0018】)。
甲第6号証?甲第8号証には、本件特許発明1に記載される「触媒金属粒子の平均粒径が、2.5?4.5nm」に相当する触媒金属粒子の平均粒径、及び、「触媒金属粒子の粒径の標準偏差が、1.30nm以下」に相当する粒径の標準偏差もしくは粒径のばらつきが記載されている。粒径の標準偏差もしくは粒径のばらつきは小さい方が好ましく、燃料電池用電極触媒において、触媒金属粒子の平均粒径が、2.5?4.5nmであるときに、触媒金属粒子の粒径の標準偏差を、1.30nm以下とすることは、本件特許の出願時には当業者にとって周知の事項である。」
との主張が記載されている。

c 訂正前の本件発明5について、
特許異議申立書3.(4)ウ(v)第41頁には、
「本件特許発明5による熱処理温度…は、『電極触媒の初期活性が高く、かつその活性を長期間維持できる燃料電池用電極触媒及びその製造方法を提供する』(段落【0006】)という、本件特許発明による課題を解決するための数値範囲の最適化または好適化にすぎない。」
との主張が記載されている。

d そして、これらの主張について検討しても、甲3には、担体粒子の炭素質材料の比表面積、並びに触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子の熱処理の温度及び時間について、申立人が主張するように、それぞれ本件発明1と範囲の一部が重複する記載は存在しているものの、担体粒子の炭素質材料の比表面積、並びに触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子の熱処理の温度及び時間に関する製造条件を組み合わせて選択した具体例として、必要十分条件たる製造方法に相当するものが記載されているとも、また、本件発明1のように比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造することで、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により実現するとの技術思想(上記ウ(ア)c)が示されているともいえないから、少なくとも相違点4は、実質的な相違点であり、かつ、甲3に記載された発明から当業者が容易になしえたともいえない相違点と判断される。

e よって、本件発明1に関しては、特許異議申立書に記載された申立理由3(新規性進歩性)の申立人の主張も、採用するに足る十分な理由を示したものとはいえない。

カ 小括
したがって、本件発明1は、甲3に記載された発明であるとも、また、甲3に記載された発明と甲1?2、4?10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえないから、本件発明1についての、取消理由通知に記載した取消理由1、2(新規性進歩性)は解消した。

(2)本件発明2?5、7について
ア 本件発明2?5、7に関する判断
本件発明2?5、7は、いずれも本件発明1を直接または間接的に引用し、減縮する内容のものである。そして、本件発明2?5、7と甲3発明とを対比すると、それぞれの相違点には、相違点2及び4と同じ、または、内容を相違点2または4よりも限定的にした相違点が含まれるから、そのような相違点に着目して、本件発明1に対する上記(1)ウ及びエと同様の判断を行うことができる。

イ 申立人の主張について
(ア)申立人意見書における申立人の主張の検討
申立人は、申立人意見書3.(2)(2-2)第4?6頁において本件発明2?5、7は、取消理由1、2(新規性進歩性)によって取り消されるべきものであるとの主張をしているが、いずれも本件発明1の取消理由1、2(新規性進歩性)が解消しないことを前提とした内容であると解され、上記(1)の「本件発明1についての、取消理由通知に記載した取消理由1、2(新規性進歩性)は解消した。」との判断に照らし、採用することはできない。

(イ)特許異議申立書に記載された申立理由3(新規性進歩性)の検討
本件発明2?5、7における引用先の本件発明に対するさらなる限定事項に関しては、申立理由3(新規性進歩性)のうち、特に訂正前の本件発明2?5,7についての主張がそれぞれ関連する。
しかしながら、本件発明2?5、7に対する申立理由3(新規性進歩性)は、本件発明1に対して申立理由3(新規性進歩性)に基づく取消理由が存在しない限り成立しえないものであって、上記(1)の「本件発明1に関しては、特許異議申立書に記載された申立理由3(新規性進歩性)の申立人の主張も、採用するに足る十分な理由を示したものとはいえない。」との判断に照らし、本件発明2?5、7に関しても、特許異議申立書に記載された申立理由3(新規性進歩性)の申立人の主張も、採用するに足る十分な理由を示したものとはいえない。

ウ 小括
したがって、本件発明2?5、7は、甲3に記載された発明であるとも、また、甲3に記載された発明と甲1?2、4?10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとも、いえないものとなっているから、本件発明2?5、7についての、取消理由通知に記載した取消理由1、2(新規性進歩性)も解消した。

(3)取消理由1、2(申立理由3)(新規性進歩性)に関する検討のまとめ
したがって、本件発明1?5、7は、取消理由通知に記載した取消理由1、2(新規性進歩性)によっては拒絶できないものとなっており、当該取消理由は解消した。
なお、具体的理由を変更しながら取消理由1、2(新規性進歩性)として一部を採用した申立理由3(新規性進歩性)の主張についても採用できる余地はなく、申立理由3(新規性進歩性)によっても、本件特許の請求項1?5、7に係る特許を取り消すことはできない。

1-2 取消理由3(明確性要件)について
(1)本件発明に対する判断
取消理由3(明確性要件)は、訂正前の請求項5記載の熱処理温度の上限値である「980℃」は、訂正前の請求項6記載の熱処理の最高温度の「1000℃」よりも低い値となっていたことから、訂正前の請求項5に係る発明は、「880?980℃の温度で1.5時間以内」という熱処理のほか、訂正前の請求項6に記載されるような最高温度が1000℃の熱処理を別途行う余地を含ませる意図のものか否かが、その技術的意味が明確でないといえる状況にあったために通知されたものであるが、本件訂正請求により請求項6が削除されたため、特許請求の範囲記載の熱処理温度の技術的意味は、いずれも明確に把握できるものとなった。

(2)申立人意見書の検討
申立人意見書において、申立人から、取消理由3(明確性要件)が解消していないとの主張も、特になされていない。

(3)取消理由3(明確性要件)に関する検討のまとめ
したがって、本件発明1?5、7は、取消理由通知に記載した取消理由3(明確性要件)により明確でないとはいえないものとなっており、当該取消理由は解消した。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由について
(1)申立理由1(新規性進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア) 甲1に記載された発明
a 甲1に記載された発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段
甲1に記載された発明が解決しようとする課題は、甲1の【0007】より、「触媒活性に優れた電極触媒を提供すること」と把握される。
また、甲1に記載された課題を解決する手段は、甲1の【0008】の記載から、「触媒活性が最大になることを見出し、本発明を完成させた。」と説明される「CuKα線を用いたX線回折分析によるPt(111)面に由来するピークが2θにして40.3?40.8°の格子面に帰属される白金合金触媒」と把握することができる。
なお、そのように課題を解決する白金合金触媒の製造に関しては、【0023】に記載されるとおり「2元系の合金触媒でPt(111)の2θの値を上述の値に制御するためには、液相還元法によって触媒金属を炭素材料に担持させた後、熱処理、酸処理を順次行う方法が適する。」ものと理解することができ、また、その熱処理温度に関しては、【0033】に「熱処理の温度は、好ましくは1000?1200℃であり、より好ましくは1000?1100℃である。熱処理温度が1000℃以上であれば、Ptおよび遷移金属の固溶化が促進されうる。また、熱処理温度が1200℃以下であれば、触媒粒子の凝集、担持体であるカーボンと水素のメタン化反応を抑制できる。また、上記熱処理温度まで昇温する際の昇温速度は、好ましくは5?20℃/分であり、より好ましくは10?15℃/分である。昇温速度が上記範囲であれば、触媒金属粒子の凝集を防ぐことができる。また、熱処理時間は、好ましくは10分間?1時間であり、より好ましくは10?30分であり、さらに好ましくは10?20分である。かような範囲の熱処理時間であれば、固溶体化が促進されて触媒活性が向上し、さらに触媒成分の粒子径も適切な範囲となる。ここで、熱処理時間は、温度が上記範囲の熱処理温度に保たれている時間を意味する。」とも記載されている。

b 甲1に記載された発明の認定
甲1には、特にその請求項4、6、【0060】-【0064】の記載を参酌すると、実施例1をもとにして把握される以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと、認められる。
<甲1発明>
白金およびコバルトが担持されたケッチェンブラック(一次粒子径40nm、比表面積800m^(2)/g)(ライオン社製、ケッチェンブラックEC)に対し、100%N_(2)ガス中で、10℃/分の昇温速度で1200℃まで昇温し、10分間保持することにより熱処理を行って合金化させ、そのようにして得られたPt-Co合金が担持されたケッチェンブラックを0.5Mの硫酸水溶液に浸漬させ、90℃で20時間保持する燃料電池用電極触媒の製造方法。

(イ)本件発明1と甲1発明との一致点・相違点
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明においてケッチェンブラックに担持された「Pt-Co合金」は、本件発明1の「白金又は白金合金を含む触媒金属粒子」に相当する。
b 甲1発明の「ケッチェンブラック(一次粒子径40nm、比表面積800m^(2)/g)(ライオン社製、ケッチェンブラックEC)」は、本件発明1の「BET比表面積が700m^(2)/g以上の炭素質材料」に相当するとともに、「触媒金属粒子を担持している担体」である点において本件発明1の「触媒金属粒子を担持している担体粒子」と一致する。
c 甲1発明の「白金およびコバルトが担持されたケッチェンブラック」は、本件発明1の「触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子」に相当し、かつ、これらは互いに熱処理が施される点においても共通する。

d そうすると、両者は以下の一致点、及び相違点1?2を有している。
[一致点]
白金又は白金合金を含む触媒金属粒子及び前記触媒金属粒子を担持している担体粒子を含む燃料電池用電極触媒の製造方法であって、
前記触媒金属粒子を構成する金属を担持した前記担体粒子を熱処理することを含み、
前記担体粒子が、BET比表面積が700m^(2)/g以上の炭素質材料である、
燃料電池用電極触媒の製造方法。

[相違点1]
本件発明1は、触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子の熱処理を、「830℃以上980℃以下の温度で0.2時間以上2時間以内」との条件で行っているのに対し、甲1発明の白金およびコバルトが担持されたケッチェンブラックに対する熱処理は、「10℃/分の昇温速度で1200℃まで昇温し、10分間保持する」ものであって、両者は熱処理条件が異なる点。

[相違点2]
本件発明1の触媒金属粒子は、「平均粒径が、2.5?4.5nmであり」、かつ「粒径の標準偏差が、1.30nm以下である」であるのに対し、甲1発明におけるPt-Co合金は、本件発明1のような平均粒径範囲と粒径の標準偏差範囲を満たすものであるかが不明な点。

(ウ)相違点に関する判断
事案に鑑み、上記(イ)の相違点1及び2についてまとめて検討する。
a 甲1についての検討
(a)上記1 1-1(1) ウ(ア)aにおいて検討したとおり、本件発明1における触媒金属粒子の「平均粒径」及び「粒径の標準偏差」に関する発明特定事項は、必要十分条件たる製造方法が実施された際に、自ずと実現される蓋然性が高いものといえる。

(b)しかしながら、甲1発明は、相違点1に挙げたように、本件発明1とは触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体の熱処理条件(少なくとも熱処理温度)が異なる。また、この点において、上記(a)の必要十分条件たる製造方法とは製造条件が異なるものであるから、本件発明1のような触媒金属粒子の平均粒径範囲及び粒径の標準偏差範囲が両立して実現されるとまでいえるものではなく、相違点2も実質的な相違点と判断される。
そうすると、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

(c)また、上記1 1-1 (1)ウ(ア)cにおいて検討したとおり、本件発明1は、比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造することで、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により実現するとの技術思想を有しているのに対し、甲1発明は、上記(ア)aに示したような解決しようとする課題及び課題を解決する手段を有するものであり、本件発明1とは、技術思想が共通するものとはいえない。

(d)そうすると、本件発明1とも技術思想が異なる甲1発明では、本件発明1の触媒金属粒子の平均粒径範囲及び粒径の標準偏差範囲を両立して実現するように、担体粒子の炭素質材料の比表面積、及び触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子の熱処理条件の組み合わせを選択する動機がなく、当業者といえども、甲1発明に基づいて本件発明1の触媒金属粒子の平均粒径範囲及び粒径の標準偏差範囲を同時に実現することは困難である。

(e)なお、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を実現できるという本件発明1の効果も、甲1発明から示唆されるものでない異質な効果であり、当業者が予測することができない顕著な効果であるといえる。

b 他の甲号証についての検討
また、事案に鑑み、相違点2について、甲1発明と他の甲号証に記載された発明とを組み合わせることによって実現できる可能性についても確認する。
甲3については、上記1 1-1(1)イの[相違点4]として挙げたように、また、甲2、4については後記するように、少なくとも本件発明1とは、それぞれ相違点2と同趣旨の相違点を有するものであり、参照できない。そして、甲5?10についても、上記1 1-1(1)ウ(イ)で判断したのと同様、参照できない。
以上のとおり、少なくとも本件発明1の相違点2に係る事項は、甲1発明と他の甲号証に記載された事項とを組み合わせることによって、実現できるものとはいえない。

(エ)甲1発明以外の発明を甲1に記載された発明として抽出した場合についての検討
また、甲1に記載された発明として、仮に実施例1以外の他の実施例に基づく発明など、甲1発明以外の発明内容を抽出するとした場合でも、本件発明1の比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造することで、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により実現するとの技術思想(上記1 1-1(1)ウ(ア)c)は、甲1に記載されていないから、そのような甲1に記載された発明からも、上記(ウ)a(d)の甲1発明に関する検討内容と同様、本件発明1の触媒金属粒子の平均粒径範囲及び粒径の標準偏差範囲を同時に実現する動機はなく、いずれにしろ、本件発明1を当業者が容易になし得た、ということはできない。

(オ)申立人の主張について
a 申立人意見書における申立人の主張
申立人は、申立人意見書3.(3)(3-1)(3-1-1)第6?7頁において本件発明1は、特許異議申立書に記載された申立理由1(新規性進歩性)によって取り消されるべきものであるとして、以下のように主張する。

(a)甲1には、白金を含む触媒金属を、BET比表面積が100?2000m^(2)/gの炭素質材料に担持させ、1000?1200℃で10分間?1時間熱処理をすることにより燃料電池用電極触媒を製造することが記載されており、触媒金属粒子の平均粒径は1?8nmである。(異議申立書3.(4)ウ(i)第33頁をも併せて参酌すると、甲1の参照箇所としては、請求項4、6、【0015】、【0021】等が対応するものと考えられる。)
甲1記載の製造方法では、熱処理温度が1000?1200℃であるが、上記1 1-1(1)オ(ア)dにおける説明したように、熱処理温度において20℃程度の違いによって格別顕著な効果が奏されるものではないし、熱処理温度を980℃以下とすることは、電極触媒の活性と耐久性を改善するという課題を課題するための数値範囲の最適化又は好適化であり、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。

(b)本件明細書の【0033】には、「830℃以上で行われる熱処理は、850℃以上、880℃以上、900℃以上、又は930℃以上の温度であってもよく、その最高温度は、1100℃以下、1050℃以下、1000℃以下、980℃以下、950℃以下、930℃以下、900℃以下、又は880℃以下であってもよい。」と、最高温度は1100℃であってもよいことが記載されている。もし最高温度が1100℃の場合と、980℃の場合とで、得られる効果に違いがあるのであれば、訂正前の発明と訂正後の発明は別発明ということになる。そのため、熱処理温度の上限を980℃とする訂正後の本件発明1は、本件特許の出願時の明細書には記載されていなかった発明であることになり、訂正後の本件発明1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定を満たしていないことになる。

b 申立人意見書における申立人の主張の検討
上記aの申立人意見書における申立人の主張は、以下のとおり採用するに足る十分な理由を示したものとはいえないので、上記(ア)?(エ)における当審の判断を、何ら左右するものでもない。

(a)上記a(a)で取り上げた、甲1に記載されているものと申立人が主張する内容は、甲1のあちらこちらに記載された内容を拾い集めた結果のものであって、甲1に、必要十分条件たる製造方法を構成する具体的な製造条件の組み合わせが開示されているとまではいえない。
また、上記a(a)の申立人の主張を検討しても、甲1に記載された発明は、比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造することで、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を実現しようとする(上記1 1-1(1)ウ(ア)c)本件発明1と、技術思想が共通するものとまではいえないから、たとえ、上記a(a)で申立人が主張するような記載が甲1にあるとしたところで、甲1に記載された発明において、必要十分条件たる製造方法を構成する具体的な製造条件の組み合わせを選択する動機があるともいえない。

(b)申立人による上記a(b)の主張は、本件発明1の効果が、甲1に記載された発明から示唆されるものではない異質な効果とする上記1 1-1(1)ウ(ア)eの判断を覆すに足る具体的理由を示すものではない。また、甲1に記載された発明が、本件発明1の製造方法のように触媒金属粒子の特定の平均粒径範囲及び粒径の特定の標準偏差範囲を実現することを示唆したものでなく、本件発明1が、甲1に記載された発明である理由を示すものでも、甲1に記載された発明に基づき当業者が容易になしえたといえる理由を示すものでもない。

(c)以上のとおりであるから、本件発明1の製造方法における触媒金属粒子の平均粒径範囲及び粒径の標準偏差範囲は、甲1に記載された発明において実現されるとも、甲1に記載された発明に基づき当業者が容易になし得たともいえない。

(d)よって、申立人意見書における本件発明1に関する申立人の主張は、いずれも採用するに足る十分な理由を示したものとはいえない。

c 特許異議申立書に記載された申立理由1(新規性進歩性)の検討
上記aの申立人意見書における申立人の主張は、特許異議申立書に記載された申立理由1(新規性進歩性)に基づくものであり、本件発明1について、特許異議申立書に記載された申立理由1(新規性進歩性)を直接検討するにあたり、上記bで検討したこと以外に申立人の主張内容について検討すべきことは、特に見当たらない。
よって、本件発明1に関して、特許異議申立書に記載された申立理由1(新規性進歩性)の申立人の主張も、採用するに足る十分な理由を示したものとはいえない。

(カ)小括
よって、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとも、また、甲1に記載された発明と甲2?10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

イ 本件発明2?5、7について
(ア)本件発明2?5、7に関する判断
本件発明2?5、7は、いずれも本件発明1を直接または間接的に引用し、減縮する内容のものである。そして、本件発明2?5、7と甲1発明とを対比すると、それぞれの相違点には、相違点1及び2と同じ、または、本件発明の内容を相違点1または2よりも限定的にした相違点が含まれるから、そのような相違点に着目し、結果として本件発明1に対する上記ア(ウ)及び(エ)と同様の判断を行うことができる。

(イ) 申立人の主張について
a 申立人意見書における申立人の主張の検討
申立人は、申立人意見書3.(3)(3-1)(3-1-1)第6?7頁において本件発明2?3、5、7は、申立理由1(新規性進歩性)によって取り消されるべきものであるとの主張をしているが、本件発明2?3、5、7が直接または間接的に引用する本件発明1が、申立理由1(新規性進歩性)により取り消されるべきといえない限りは、本件発明2?3、5、7についても、取り消されるべきものとはいえない。
そして、本件発明1に対する申立理由1(新規性進歩性)については、上記ア(オ)bで検討したとおりであるから、本件発明2?3、5、7に対する申立人意見書における申立人の主張も、採用することはできない。

b 特許異議申立書に記載された申立理由1(新規性進歩性)の検討
また、本件発明2?5、7に対し、特許異議申立書に記載された申立理由1(新規性進歩性)により取り消されるべき理由があるか否かについても検討すると、上記aの検討手法と同様、本件発明2?5、7が直接または間接的に引用する本件発明1が、申立理由1(新規性進歩性)により取り消されるべきといえない限りは、本件発明2?5、7についても、取り消されるべきものとはいえない。
そして、本件発明1に対する申立理由1(新規性進歩性)については、上記ア(オ)bで検討したとおりであるから、本件発明2?3、5、7に関し、特許異議申立書に記載された申立理由1(新規性進歩性)も採用することはできない。

(ウ)小括
よって、本件発明2?5、7は、甲1に記載された発明であるとも、また、甲1に記載された発明と甲2?10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

ウ 申立理由1(新規性進歩性)に関する検討のまとめ
したがって、申立理由1(新規性進歩性)によっては、本件特許の請求項1?5、7に係る特許を取り消すことはできない。

(2)申立理由2(新規性進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア)甲2に記載された発明
a 甲2に記載された発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段
甲2に記載された発明が解決しようとする課題は、甲2の【0008】より、「燃料電池用電極触媒として酸素還元に高活性な合金の結晶形を保持しなおかつ微細化されしかも卑金属成分の少ない白金合金粒子を有する担持白金触媒」を提供することと把握される。
また、甲2に記載された課題を解決する手段は、甲2の【0009】の記載から、「燃料電池電極触媒として予想以上の高活性と長期安定性を示す」と説明される「特定の卑金属成分と白金との合金結晶から卑金属成分を選択的に除去してなるスケルトン触媒」と把握することができる。

b 甲2に記載された発明の認定
甲2には、特にその請求項1、7、【0009】、【0019】、【0043】、【0044】、【0061】、【0064】【表3】の記載を参酌すると、実施例5をもとにして把握される以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと、認められる。
<甲2発明>
Pt:Co:Ni原子比=74:13:13なる組成のカーボン担持白金スケルトン合金触媒である燃料電池電極触媒の製法であって、
ニッケルおよびコバルトを担持させた白金担持カーボン粉末を、900℃にて1.2時間加熱保持してニッケルおよびコバルトと白金とを合金化し、さらに、ポリリン酸を用い、かかる合金の結晶格子からニッケルおよびコバルトの少なくとも一部を除去して空格子点型格子欠陥構造を生ぜしめるものであり、
前記カーボン粉末が、110m^(2 )/gなる比表面積を有する熱処理済み導電性カーボンブラック(Cabot.VulcanXC-72R)である、
燃料電池電極触媒の製法。

(イ)本件発明1と甲2発明との一致点・相違点
本件発明1と甲2発明とを対比する。
a 甲2発明においてカーボンに担持された「Pt:Co:Ni原子比=74:13:13なる組成」の「白金スケルトン合金触媒」は、本件発明1の「白金又は白金合金を含む触媒金属粒子」に相当する。
b 甲2発明における「燃料電池電極触媒」及び「製法」は、本件発明1の「燃料電池用電池触媒」及び「製造方法」に相当する。
c 甲2発明のカーボン粉末を構成する「熱処理済み導電性カーボンブラック(Cabot.VulcanXC-72R)」は、本件発明1の「炭素質材料」に相当するとともに、「触媒金属粒子を担持している担体」である点において本件発明1の「触媒金属粒子を担持している担体粒子」と一致する。
d 甲2発明の「ニッケルおよびコバルトを担持させた白金担持カーボン粉末」は、本件発明1の「触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子」に相当し、かつ、これらは互いに熱処理が施される点においても共通する。

e そうすると、両者は以下の一致点、及び相違点1?3を有している。
[一致点]
白金又は白金合金を含む触媒金属粒子及び前記触媒金属粒子を担持している担体粒子を含む燃料電池用電極触媒の製造方法であって、
前記触媒金属粒子を構成する金属を担持した前記担体粒子を熱処理することを含み、
前記担体粒子が、炭素質材料である、
燃料電池用電極触媒の製造方法。

[相違点1]
本件発明1は、触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子の熱処理を、「830℃以上980℃以下の温度で0.2時間以上2時間以内」で行っているのに対し、甲2発明のニッケルおよびコバルトを担持させた白金担持カーボン粉末に対する熱処理は、「900℃にて1.2時間加熱保持」するものであって、両者は熱処理条件が異なる点。

[相違点2]
本件発明1の担体粒子たる炭素質材料は「BET比表面積が700m^(2)/g以上」であるのに対し、甲2発明の熱処理済み導電性カーボンブラック(Cabot.VulcanXC-72R)は「110m^(2 )/gなる比表面積を有する」ものであって、両者は比表面積が異なる点。

[相違点3]
本件発明1の触媒金属粒子は、「平均粒径が、2.5?4.5nmであり」、かつ「粒径の標準偏差が、1.30nm以下である」であるのに対し、甲2発明における白金スケルトン合金触媒は、本件発明1のような平均粒径範囲と粒径の標準偏差範囲を満たすものであるかが不明な点。

(ウ)相違点に関する判断
事案に鑑み、上記(イ)の相違点1?3についてまとめて検討する。
a 甲2についての検討
(a)上記1 1-1(1)ウ(ア)aにおいて検討したとおり、本件発明1における触媒金属粒子の「平均粒径」及び「粒径の標準偏差」に関する発明特定事項は、必要十分条件たる製造方法が実施された際に、自ずと実現される蓋然性が高いものといえる。

(b)しかしながら、甲2発明は、相違点1に挙げたように、本件発明1とは触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体の熱処理条件(少なくとも熱処理温度)が異なり、かつ、相違点2に挙げたように、担体粒子たる炭素質材料の比表面積が異なり、また、これらの点において、必要十分条件たる製造方法とは製造条件が異なるものであるから、本件発明1のような触媒金属粒子の平均粒径範囲及び粒径の標準偏差範囲が両立して実現されるとまでいえるものではなく、相違点3も実質的な相違点と判断される。
そうすると、本件発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえない。

(c)また、上記1 1-1(1)ウ(ア)cにおいて検討したとおり、本件発明1は、比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造することで、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により実現するとの技術思想を有しているのに対し、甲2発明は、上記(ア)aに示したような解決しようとする課題及び課題を解決する手段を有するものであり、本件発明1とは、技術思想が共通するものとはいえない。

(d)そうすると、本件発明1とも技術思想が異なる甲2発明では、本件発明1の触媒金属粒子の平均粒径範囲及び粒径の標準偏差範囲を両立して実現するように、担体粒子の炭素質材料の比表面積、及び触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子の熱処理条件の組み合わせを選択する動機がなく、当業者といえども、甲2発明に基づいて本件発明1の触媒金属粒子の平均粒径範囲及び粒径の標準偏差範囲を同時に実現することは困難である。

(e)なお、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を実現できるという本件発明1の効果も、甲2発明から示唆されるものでない異質な効果であり、当業者が予測することができない顕著な効果であるといえる。

b 他の甲号証についての検討
また、事案に鑑み、相違点3について、甲2発明と他の甲号証に記載された発明とを組み合わせることによって実現できる可能性についても確認する。
甲3については、上記1 1-1(1)イの[相違点4]として挙げたように、また、甲1については、上記(1)ア(イ)の[相違点2]として挙げたように、そして、甲4については後記するように、少なくとも本件発明1とは、それぞれ相違点2と同趣旨の相違点を有するものであり、参照できない。そして、甲5?10についても、上記1 1-1(1)ウ(イ)で判断したのと同様、参照できない。
以上のとおり、少なくとも本件発明1の相違点2に係る事項は、甲2発明と他の甲号証に記載された事項とを組み合わせることによって、実現できるものとはいえない。

(エ)甲2発明以外の発明を甲2に記載された発明として抽出した場合についての検討
また、甲2に記載された発明として、仮に実施例5以外の他の実施例に基づく発明など、甲2発明以外の発明内容を抽出するとした場合でも、本件発明1の比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造することで、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により実現するとの技術思想(上記1 1-1(1)ウ(ア)c)は、甲2に記載されていないから、そのような甲2に記載された発明からも、上記(ウ)a(d)の甲2発明に関する検討内容と同様、本件発明1の触媒金属粒子の平均粒径範囲及び粒径の標準偏差範囲を同時に実現する動機はなく、いずれにしろ、本件発明1を当業者が容易になし得た、ということはできない。

(オ)申立人の主張について
a 申立人意見書における申立人の主張
申立人は、申立人意見書3.(3)(3-1)(3-1-2)第7?8頁において本件発明1は、特許異議申立書に記載された申立理由2(新規性進歩性)によって取り消されるべきものであるとして、以下のように主張する。

(a)甲2には、電極触媒の製造方法であって、BET比表面積が50?1500m^(2)/gの導電性カーボン粉末に白金の合金を担持させ、750℃?1000℃、より好ましくは800?900℃の温度で、20分?2時間、熱処理をする方法と、触媒金属粒子の平均粒径が、20?60Å=2?6nmであることが記載されている。

b 申立人意見書における申立人の主張の検討
上記aの申立人意見書における申立人の主張は、以下のとおり採用するに足る十分な理由を示したものとはいえないので、上記(ア)?(エ)における当審の判断を、何ら左右するものでもない。

(a)上記a(a)で取り上げた、甲2に記載されているものと申立人が主張する内容は、甲2においてあちらこちらに記載された内容を拾い集めた結果のものであって、甲2に、必要十分条件たる製造方法を構成する具体的な製造条件の組み合わせが開示されているとまではいえない。
また、上記a(a)の申立人の主張を検討しても、甲2に記載された発明は、比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造することで、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を実現しようとする(上記1 1-1(1)ウ(ア)c)本件発明1と、技術思想が共通するものとまではいえないから、たとえ、上記a(a)で申立人が主張するような記載が甲2にあるとしたところで、甲2に記載された発明において、必要十分条件たる製造方法を構成する具体的な製造条件の組み合わせを選択する動機があるともいえない。

(b)以上のとおりであるから、本件発明1の製造方法における触媒金属粒子の平均粒径範囲及び粒径の標準偏差範囲は、甲2に記載された発明において実現されるとも、甲2に記載された発明に基づき当業者が容易になし得たともいえない。

(c)よって、申立人意見書における本件発明1に関する申立人の主張は、採用するに足る十分な理由を示したものとはいえない。

c 特許異議申立書に記載された申立理由2(新規性進歩性)の検討
上記aの申立人意見書における申立人の主張は、特許異議申立書に記載された申立理由2(新規性進歩性)に基づくものであり、本件発明1について、特許異議申立書に記載された申立理由2(新規性進歩性)を直接検討するにあたり、上記bで検討したこと以外に申立人の主張内容について検討すべきことは、特に見当たらない。
よって、本件発明1に関して、特許異議申立書に記載された申立理由2(新規性進歩性)の申立人の主張も、採用するに足る十分な理由を示したものとはいえない。

(カ)小括
よって、本件発明1は、甲2に記載された発明であるとも、また、甲2に記載された発明と甲1、3?10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

イ 本件発明2?5、7について
(ア)本件発明2?5、7に関する判断
本件発明2?5、7は、いずれも本件発明1を直接または間接的に引用し、減縮する内容のものである。そして、本件発明2?5、7と甲2発明とを対比すると、それぞれの相違点には、相違点1?3と同じ、または、内容を相違点1?3のいずれかよりも限定的にした相違点が含まれるから、そのような相違点に着目し、結果として本件発明1に対する上記ア(ウ)及び(エ)と同様の判断を行うことができる。

(イ)申立人の主張について
a 申立人意見書における申立人の主張の検討
申立人は、申立人意見書3.(3)(3-1)(3-1-2)第8頁において本件発明2?5、7は、申立理由2(新規性進歩性)によって取り消されるべきものであるとの主張をしているが、本件発明2?5、7が直接または間接的に引用する本件発明1が、申立理由2(新規性進歩性)により取り消されるべきといえない限りは、本件発明2?5、7についても、取り消されるべきものとはいえない。
そして、本件発明1に対する申立理由2(新規性進歩性)については、上記ア(オ)bで検討したとおりであるから、本件発明2?5、7に対する申立人意見書における申立人の主張も、採用することはできない。

b 特許異議申立書に記載された申立理由2(新規性進歩性)の検討
また、本件発明2?5、7に対し、特許異議申立書に記載された申立理由2(新規性進歩性)により取り消されるべき理由があるか否かについても検討すると、上記aの検討手法と同様、本件発明2?5、7が直接または間接的に引用する本件発明1が、申立理由2(新規性進歩性)により取り消されるべきといえない限りは、本件発明2?5、7についても、取り消されるべきものとはいえない。
そして、本件発明1に対する申立理由2(新規性進歩性)については、上記ア(オ)bで検討したとおりであるから、本件発明2?5、7に関し、特許異議申立書に記載された申立理由2(新規性進歩性)も採用することはできない。

(ウ)小括
よって、本件発明2?5、7は、甲2に記載された発明であるとも、また、甲2に記載された発明と甲1、3?10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

ウ 申立理由2(新規性進歩性)に関する検討のまとめ
したがって、申立理由2(新規性進歩性)によっては、本件特許の請求項1?5、7に係る特許を取り消すことはできない。

(3)申立理由4(新規性進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア)甲4に記載された発明
a 甲4に記載された発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段
甲4に記載された発明が解決しようとする課題は、甲4の【0004】より、「反復された負荷サイクルの後でも充分な電気化学的反応を触媒する表面積をより良好に維持する電圧サイクル耐性触媒」を提供することと把握される。
また、甲4に記載された課題を解決する手段は、甲4の【0005】に「担持構造体(support structure)上に堆積され約3?約15nmの平均粒径を有するアニールされた白金粒子を含んでなる燃料電池電極触媒を提供する。白金粒子は、約800?約1400℃の温度で、アニール後の表面積がアニール前の表面積の約80%未満となるような時間、熱処理あるいはアニールされる。」と記載される燃料電池電極触媒と把握することができる。
なお、かかる手段により奏される効果については、【0022】に「予期せぬことに、減少した表面積は、比活性の増大を伴い、それによりアニールされた白金粒子の質量活性は標準的な白金触媒に比べて予測不可能なほど大きくなっている。」と記載されている。

b 甲4に記載された発明の認定
甲4には、特にその請求項1,3,4の記載を参酌しつつ、それら請求項に記載された電極触媒層の発明に関する製造方法の特徴を抽出すると、以下の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているものと、認められる。
<甲4発明>
約50?約2000m^(2)/gの表面積を有する炭素材料を含む担持構造体上に堆積され約3?約15nmの平均粒径を有する白金粒子を含む燃料電池電極触媒層の製造方法であって、約800?約1400℃の温度で白金粒子をアニールすることで、アニールされた白金粒子をアニール前の表面積の約80%未満とする燃料電池電極触媒層の製造方法。

(イ)本件発明1と甲4発明との一致点・相違点
本件発明1と甲4発明とを対比する。
a 甲4発明における「白金粒子」は、本件発明1の「白金又は白金合金を含む触媒金属粒子」に相当する。
b 甲4発明の「燃料電池電極触媒層」は、本件発明1の「燃料電池用電極触媒」に相当する。
c 甲4発明の「炭素材料」は、本件発明1の「炭素質材料」に相当する。
d 甲4発明の白金粒子が堆積される「担持構造体」は、本件発明1の「触媒金属粒子を担持している担体粒子」に対し、「触媒金属粒子を担持している担体」である点と、熱処理が施される点とにおいて共通する。

e そうすると、両者は以下の一致点、及び相違点1?4を有している。

[一致点]
白金又は白金合金を含む触媒金属粒子及び前記触媒金属粒子を担持している担体を含む燃料電池用電極触媒の製造方法であって、
前記触媒金属粒子を構成する金属を担持した前記担体を、熱処理をすることを含み、
前記担体が炭素質材料である、
燃料電池用電極触媒の製造方法。

[相違点1]
本件発明1は、触媒金属粒子を担持している担体が「担体粒子」であるのに対し、甲4発明において白金粒子が堆積される「担持構造体」は、「担体粒子」といえるような粒子状のものであるかが不明な点。

[相違点2]
本件発明1は、触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体の熱処理を、「830℃以上980℃以下の温度で0.2時間以上2時間以内」で行っているのに対し、甲4発明では、白金粒子が堆積される担持構造体に対し、本件発明1のような条件で熱処理しているのかは不明な点。

[相違点3]
本件発明1の炭素質材料である担体粒子は、「BET比表面積が700m^(2)/g以上」のものであるのに対し、甲4発明における炭素材料は、「表面積約50?約2000m^(2)/g」であり、本件発明1のようなBET比表面積を有するものであるかが不明な点。

[相違点4]
本件発明1の触媒金属粒子は、「平均粒径が、2.5?4.5nmであり」、かつ「粒径の標準偏差が、1.30nm以下である」であるのに対し、甲4発明における白金粒子は、本件発明1のような平均粒径範囲と粒径の標準偏差範囲を満たすものであるかが不明な点。

(ウ)相違点に関する判断
事案に鑑み、上記(イ)の相違点2?4についてまとめて検討する。
a 甲4についての検討
(a)上記1 1-1(1) ウ(ア)aにおいて検討したとおり、本件発明1における触媒金属粒子の「平均粒径」及び「粒径の標準偏差」に関する発明特定事項は、必要十分条件たる製造方法が実施された際に、自ずと実現される蓋然性が高いものといえる。

(b)しかしながら、甲4発明は、相違点2に挙げたような熱処理条件で、本件発明1とは触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体の熱処理しているのかが不明であり、かつ、担持粒子として相違点3に挙げたような比表面積の炭素質材料を用いているのかが不明であり、また、これらの点において、必要十分条件たる製造方法とは製造条件が同じものとはいえないから、本件発明1のような触媒金属粒子の平均粒径範囲及び粒径の標準偏差範囲が両立して実現されるとまでいえるものではなく、相違点4も実質的な相違点と判断される。
そうすると、本件発明1は、甲4に記載された発明であるとはいえない。

(c)また、上記1 1-1(1)ウ(ア)cにおいて検討したとおり、本件発明1は、比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造することで、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により実現するとの技術思想を有しているのに対し、甲4発明は、上記(ア)aに示したような解決しようとする課題及び課題を解決する手段を有するものであり、本件発明1とは、技術思想が共通するものとはいえない。

(d)そうすると、本件発明1とも技術思想が異なる甲4発明では、本件発明1の触媒金属粒子の平均粒径範囲及び粒径の標準偏差範囲を両立して実現するように、担体粒子の炭素質材料の比表面積、及び触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子の熱処理条件の組み合わせを選択する動機がなく、当業者といえども、甲4発明に基づいて本件発明1の触媒金属粒子の平均粒径範囲及び粒径の標準偏差範囲を同時に実現することは困難である。

(e)なお、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を実現できるという本件発明1の効果も、甲4発明から示唆されるものでない異質な効果であり、当業者が予測することができない顕著な効果であるといえる。

b 他の甲号証についての検討
また、事案に鑑み、相違点4について、甲4発明と他の甲号証に記載された発明とを組み合わせることによって実現できる可能性についても確認する。
甲3については、上記1 1-1(1)イの[相違点4]として挙げたように、また、甲1については、上記(1)ア(イ)の[相違点2]として挙げたように、そして、甲2については、上記(2)ア(イ)の[相違点3]として挙げたように、少なくとも本件発明1とは、それぞれ相違点4と同趣旨の相違点を有するものであり、参照できない。そして、甲5?10についても、上記1 1-1(1)ウ(イ)で判断したのと同様、参照できない。
以上のとおり、少なくとも本件発明1の相違点4に係る事項は、甲4発明と他の甲号証に記載された事項とを組み合わせることによって、実現できるものとはいえない。

(エ)甲4発明以外の発明を甲4に記載された発明として抽出した場合についての検討
また、甲4に記載された発明として、仮に甲4の試験例に基づく発明など、甲4発明以外の発明内容を抽出するとした場合でも、本件発明1の比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造することで、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により実現するとの技術思想(上記1 1-1(1)ウ(ア)c)は、甲4に記載されていないから、そのような甲4に記載された発明からも、上記(ウ)a(d)の甲4発明に関する検討内容と同様、本件発明1の触媒金属粒子の平均粒径範囲及び粒径の標準偏差範囲を同時に実現する動機はなく、いずれにしろ、本件発明1を当業者が容易になし得た、ということはできない。

(オ)申立人の主張について
a 申立人意見書における申立人の主張
申立人は、申立人意見書3.(3)(3-1)(3-1-3)第8頁において本件発明1は、特許異議申立書に記載された申立理由4(新規性進歩性)によって取り消されるべきものであるとして、以下のように主張する。

(a)甲4には、電極触媒の製造方法であって、表面積が50?2000m^(2)/gの炭素質材料に白金粒子を担持させ、約800℃?約1400℃で約0.5?約10時間以上熱処理する方法が記載されていると共に、触媒金属粒子の平均粒径が、約3?約15nmであることも記載されている。

b 申立人意見書における申立人の主張の検討
上記aの申立人意見書における申立人の主張は、以下のとおり採用するに足る十分な理由を示したものとはいえないので、上記(ア)?(エ)における当審の判断を、何ら左右するものでもない。

(a)上記a(a)で取り上げた、甲4に記載されているものと申立人が主張する内容は、甲4においてあちらこちらに記載された内容を拾い集めた結果のものであって、甲4に、必要十分条件たる製造方法を構成する具体的な製造条件の組み合わせが開示されているとまではいえない。
また、上記a(a)の申立人の主張を検討しても、甲4に記載された発明は、比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、特定の熱処理条件で製造することで、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を実現しようとする(上記1 1-1(1)ウ(ア)c)本件発明1と、技術思想が共通するものとまではいえないから、たとえ、上記a(a)で申立人が主張するような記載が甲4にあるとしたところで、甲4に記載された発明において、必要十分条件たる製造方法を構成する具体的な製造条件の組み合わせを選択する動機があるともいえない。

(b)以上のとおりであるから、本件発明1の製造方法における触媒金属粒子の平均粒径範囲及び粒径の標準偏差範囲は、甲4に記載された発明において実現されるとも、甲4に記載された発明に基づき当業者が容易になし得たともいえない。

(c)よって、申立人意見書における本件発明1に関する申立人の主張は、採用するに足る十分な理由を示したものとはいえない。

c 特許異議申立書に記載された申立理由4(新規性進歩性)の検討
上記aの申立人意見書における申立人の主張は、特許異議申立書に記載された申立理由4(新規性進歩性)に基づくものであり、本件発明1について、特許異議申立書に記載された申立理由4(新規性進歩性)を直接検討するにあたり、上記bで検討したこと以外に申立人の主張内容について検討すべきことは、特に見当たらない。
よって、本件発明1に関して、特許異議申立書に記載された申立理由4(新規性進歩性)の申立人の主張も、採用するに足る十分な理由を示したものとはいえない。

(カ)小括
よって、本件発明1は、甲4に記載された発明であるとも、また、甲4に記載された発明と甲1?3、5?10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

イ 本件発明2?5、7について
(ア)本件発明2?5、7に関する判断
本件発明2?5、7は、いずれも本件発明1を直接または間接的に引用し、減縮する内容のものである。そして、本件発明2?5、7と甲4発明とを対比すると、それぞれの相違点には、相違点2?4と同じ、または、内容を相違点2?4のいずれかよりも限定的にした相違点が含まれるから、そのような相違点に着目し、結果として本件発明1に対する上記ア(ウ)及び(エ)と同様の判断を行うことができる。

(イ)申立人の主張について
a 申立人意見書における申立人の主張の検討
申立人は、申立人意見書3.(3)(3-1)(3-1-3)第8頁において本件発明2?5、7は、申立理由4(新規性進歩性)によって取り消されるべきものであるとの主張をしているが、本件発明2?5、7が直接または間接的に引用する本件発明1が、申立理由4(新規性進歩性)により取り消されるべきといえない限りは、本件発明2?3、5、7についても、取り消されるべきものとはいえない。
そして、本件発明1に対する申立理由4(新規性進歩性)については、上記ア(オ)bで検討したとおりであるから、本件発明2?3、5、7に対する申立人意見書における申立人の主張も、採用することはできない。

b 特許異議申立書に記載された申立理由4(新規性進歩性)の検討
また、本件発明2?5、7に対し、特許異議申立書に記載された申立理由4(新規性進歩性)により取り消されるべき理由があるか否かについても検討すると、上記aの検討手法と同様、本件発明2?5、7が直接または間接的に引用する本件発明1が、申立理由4(新規性進歩性)により取り消されるべきといえない限りは、本件発明2?5、7についても、取り消されるべきものとはいえない。
そして、本件発明1に対する申立理由4(新規性進歩性)については、上記ア(オ)bで検討したとおりであるから、本件発明2?3、5、7に関し、特許異議申立書に記載された申立理由4(新規性進歩性)も採用することはできない。

(ウ)小括
よって、本件発明2?5、7は、甲4に記載された発明であるとも、また、甲4に記載された発明と甲1?3、5?10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

ウ 申立理由4(新規性進歩性)に関する検討のまとめ
したがって、申立理由4(新規性進歩性)によっては、本件特許の請求項1?5、7に係る特許を取り消すことはできない。

(4)申立理由5(明確性要件)について
明確性要件についての判断手法
特許請求の範囲の記載が、明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

イ 本件発明に関する明確性要件判断
上記アの判断手法を踏まえ、本件発明に関する特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合しているか否かについて検討する。

(ア)「白金または白金合金を含む触媒粒子」という記載について
a 本件発明の「白金または白金合金を含む触媒粒子」は、少なくともそこに含まれる「白金または白金合金」が「燃料電池用電極触媒」として機能をする「触媒粒子」を意味しており、また、本件発明の「白金合金」が、「燃料電池用電極触媒」として機能する白金と他の金属との合金に特定されることも、訂正特許請求の範囲の請求項1の記載から明らかである。
したがって、本件発明の「白金または白金合金を含む触媒粒子」は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確なものであるとはいえない。

b 申立人は、上記第4 1(5)申立理由5(明確性要件)ア及び申立人意見書3.(3)(3-2)第9頁において、白金合金は、どのような金属と白金の合金であるのか、また、触媒金属粒子が、白金または白金合金以外のどのようなものを含むのか不明確である旨を主張しているが、前者については、白金と合金化した白金合金が「燃料電池用電極触媒」として機能する限りは、どのような金属成分のものでも適用可能なこと、また後者については、「白金または白金合金」が「燃料電池用電極触媒」として機能をする「触媒粒子」である限り、他のどのような材料が含まれていても良いことは明らかであるから、いずれの主張も、上記aの当審の判断を左右しない。

(イ)熱処理温度の範囲について
a 本件発明では、訂正特許請求の範囲の請求項1に「830℃以上980℃以下」と記載されているとおり、熱処理温度の範囲の上限及び下限ともに、明確に特定されている。また、本件発明は、上記1 1-1(1)ウ(ア)c.で検討したのと同様に、本件明細書の発明の詳細な説明の【0010】に記載されるように、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により実現するとの技術思想を有し、熱処理条件含めた製造条件の組み合わせは、かかる技術思想に基づき、「平均粒径が、2.5?4.5nmであり」、かつ「粒径の標準偏差が、1.30nm以下である」との発明特定事項が実現できるように選択されるものと理解できるから、本件発明の熱処理温度は、本件明細書との関係からみても、その技術的意義も矛盾なく明確に理解できるものである。
したがって、本件発明の熱処理温度は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確なものであるとはいえない。

b 申立人は、上記第4 1(5)申立理由5(明確性要件)イにおいて、「830℃以上」という熱処理温度は、上限が特定されてないので発明の範囲が不明確である旨を主張しているが、熱処理温度の上限が980℃に特定されている本件発明については、主張の前提となる発明内容が相違しており、採用の余地はない。
なお、上限が特定されていなかった訂正前の本件発明1の燃料電池用電極触媒の製造方法における熱処理温度も、下限が特定されている範囲として、その範囲概念を明確に把握することはできたものである。また、訂正前の本件発明1にしても、上記1 1-1(1)ウ(ア)c.同様に、本件明細書の発明の詳細な説明の【0010】に記載されるように、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により実現するとの技術思想を有し、熱処理条件含めた製造条件の組み合わせは、かかる技術思想に基づき、「平均粒径が、2.5?4.5nmであり」、かつ「粒径の標準偏差が、1.30nm以下である」との発明特定事項が実現できるように選択されるものと理解できるから、上限が特定されていなかった訂正前の本件発明1の熱処理温度は、本件明細書との関係からみても、その技術的意義も矛盾なく明確に理解できるものであって、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確なものであるとはいえなかったものである。

(ウ)担体粒子の炭素質材料のBET比表面積について
a 訂正特許請求の範囲の請求項1に「700m^(2)/g以上」と記載されているとおり、上限が特定されていない本件発明の燃料電池用電極触媒の製造方法における担体粒子の炭素質材料のBET比表面積も、下限が特定されている範囲として、その範囲概念を明確に把握することはできるものである。
また、本件発明は、上記1 1-1(1)ウ(ア)c.で検討したのと同様に、本件明細書の発明の詳細な説明の【0010】に記載されるように、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により実現するとの技術思想を有し、担体粒子の炭素質材料のBET比表面積含めた製造条件の組み合わせは、かかる技術思想に基づき、「平均粒径が、2.5?4.5nmであり」、かつ「粒径の標準偏差が、1.30nm以下である」との発明特定事項が実現できるように選択されるものと理解できるから、本件発明の担体粒子の炭素質材料のBET比表面積は、本件明細書との関係からみても、その技術的意義も矛盾なく明確に理解できるものである。
したがって、本件発明の熱処理温度は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確なものであるとはいえない。

b 申立人は、上記第4 1(5)申立理由5(明確性要件)ウ及び申立人意見書3.(3)(3-2)第9頁において、上記aで検討した以外の根拠を提示することもなく、単に、「700m^(2)/g以上」という担体粒子の炭素質材料のBET比表面積は上限が特定されていないので発明の範囲が不明確である旨を主張するに留まり、かかる主張は上記aの当審の判断を左右しない。

(エ)触媒金属粒子の粒径の標準偏差について
a 訂正特許請求の範囲の請求項1に「1.30nm以下」と記載されているとおり、下限が特定されていない本件発明の燃料電池用電極触媒の製造方法における触媒金属粒子の粒径の標準偏差も、上限が特定されている範囲として、その範囲概念を明確に把握することはできるものである。
また、本件発明は、上記1 1-1(1)ウ(ア)c.で検討したのと同様に、本件明細書の発明の詳細な説明の【0010】に記載されるように、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)により実現するとの技術思想を有するものであり、触媒金属粒子の粒径の標準偏差が小さく、すなわち粒径のばらつきが小さいことで、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できる電極触媒を提供できるとの効果を奏するものであって、触媒金属粒子の粒径の標準偏差が小さすぎることによって、かかる効果が成立しなくなるような特段の事情も見出せない。本件発明の範囲の下限が特定されない触媒金属粒子の粒径の標準偏差は、本件明細書との関係からみても、その技術的意義も矛盾なく明確に理解できるものである。
したがって、本件発明の熱処理温度は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確なものであるとはいえない。

b 申立人は、上記第4 1(5)申立理由5(明確性要件)エ及び申立人意見書3.(3)(3-2)第9頁において、上記aで検討した以外の根拠を提示することもなく、単に、「1.30nm以下」という触媒金属粒子の粒径の標準偏差は下限が特定されていないので発明の範囲が不明確である旨を主張するに留まり、かかる主張は上記aの当審の判断を左右しない。

(オ)BET比表面積、平均粒径、標準偏差の定義について
(オ-1)BET比表面積の定義について
a 本件発明では、炭素質材料のBET比表面積の範囲が特定されている一方、本件明細書等に、かかるBET比表面積の具体的な測定方法や測定条件は記載されていない。
しかしながら、たとえば、特開2006-106245号公報に、
「【0052】
本発明に使用される無定形炭素は、そのBET比表面積の値が900?2000m^(2)/gである。」
「【0055】
BET比表面積とは、ガス吸着法により粒子の比表面積を算出する測定方法である。ガス吸着法による粒子の比表面積算出は、窒素ガスの様な吸着占有面積が分かっているガス分子を粒子に吸着させ、その吸着量から粒子の比表面積を算出する方法である。BET比表面積は、固体表面に直接吸着したガス分子の量(単分子層吸着量)を正確に算出するためのもので、下記に示すBETの式と呼ばれる数式を用いて算出される。
【0056】
下記式に示す様に、BETの式は一定温度で吸着平衡状態にある時の吸着平衡圧Pとその圧力における吸着量Vの関係を示すもので以下の様に表される。
【0057】
式1:
P/V(P_(0)-P)=(1/VmC)+((C-1)/VmC)(P/P_(0))
ただし、P_(0) :飽和蒸気圧
Vm:単分子層吸着量、気体分子が固体表面で単分子層を形成した時の吸着量
C :吸着熱などに関するパラメータ(>0)
そして、上式より単分子吸着量Vmを算出し、これにガス分子1個の占める断面積を掛けることにより、粒子の表面積を求めることができる。
【0058】
BET比表面積の具体的な測定方法としては、例えば、サンプルを温度50℃で10時間の脱気を行って前処理をした後、窒素ガスを吸着ガスとして使用してガス吸着量測定装置にて測定を行う。測定を行う全自動ガス吸着量測定装置としては、オートソーブ1(湯浅アイオニクス社製)やフローソーブ2300(島津製作所社製)が挙げられる。これらの測定装置では、窒素吸着法の1点法あるいは多点法によりBET比表面積を求める。」
と記載されるように、炭素質材料のBET比表面積については、窒素ガスの吸着量測定より求めることが広く行われている。
そして、本件発明1の「700m^(2)/g以上」とのBET比表面積の範囲、及び本件発明2の「900?1500m^(2)/g」とのBET比表面積の範囲は、上記したような測定方法で求められる特開2006-106245号公報の【0052】に無定形炭素のBET比表面積の値がとして記載された「900?2000m^(2)/g」という範囲とも、一部範囲重複するような同程度のものとなっていることからみて、当業者であれば、本件発明の炭素質材料のBET比表面積も、同様の測定方法によって求められたものと推定することは可能であるし、かつ、上記1 1-1(1)ウ(ア)c.で導き出したような本件発明の技術思想のもとにおいて、特定が不十分とまでいえないような精度の測定条件を選択することに、特段の支障もないと判断される。
したがって、本件発明の炭素質材料のBET比表面積は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確なものであるとはいえない。

b 申立人は、上記第4 1(5)申立理由5(明確性要件)オ及び申立人意見書3.(3)(3-2)第9頁において、上記aで検討した以外の根拠を提示することなく、単に、BET比表面積は測定方法等が記載されてないから不明確であるという一般的可能性を主張するに留まり、出願時の技術常識を踏まえてもなお、BET比表面積が十分に特定できないといえる具体的理由を主張するものではないから、かかる主張は上記aの当審の判断を左右しない。

(オ-2)平均粒径の定義について
a 本件発明では、触媒金属粒子の平均粒径の範囲が特定されている一方、かかる平均粒径の具体的な測定方法や測定条件は記載されていない。
しかしながら、本件発明の触媒金属粒子の平均粒径の測定方法は、本件明細書【0013】において、「触媒金属粒子の平均粒径はX線回折の測定ピークから、解析ソフトJADEを用いて算出する。この場合、平均粒径は、個数平均の平均粒径となる。」と説明されており、かつ、当業者が、上記1 1-1(1)ウ(ア)c.で導き出したような本件発明の技術思想のもとにおいて、特定が不十分とまでいえないような精度の測定条件を選択することに、特段の支障もないと判断される。
したがって、本件発明の触媒金属粒子の平均粒径は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確なものであるとはいえない。

b 申立人は、上記第4 1(5)申立理由5(明確性要件)オ及び申立人意見書3.(3)(3-2)第9頁において、上記aで検討した以外の根拠を提示することなく、単に、平均粒径は測定方法等が記載されてないから不明確であるという一般的可能性を主張するに留まり、本件明細書【0013】の記載や出願時の技術常識を踏まえてもなお、平均粒径が十分に特定できないといえる具体的理由を主張するものではないから、かかる主張は上記aの当審の判断を左右しない。

(オ-3)標準偏差の定義について
a 本件発明では、触媒金属粒子の粒径の標準偏差の範囲が特定されている一方、かかる平均粒径の具体的な測定方法や測定条件は記載されていない。
しかしながら、本件発明の触媒金属粒子の粒径の標準偏差の測定方法は、本件明細書【0013】において、「触媒金属粒子の粒径の標準偏差は、X線小角散乱法によって解析ソフトを用いて算出することができる。解析ソフトとして、例えば、nano-solver(株式会社リガク製)等を挙げることができる。」と説明されており、かつ、当業者が、上記1 1-1(1)ウ(ア)c.で導き出したような本件発明の技術思想のもとにおいて、特定が不十分とまでいえないような精度の測定条件を選択することに、特段の支障もないと判断される。
したがって、本件発明の触媒金属粒子の粒径の標準偏差は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確なものであるとはいえない。

b 申立人は、上記第4 1(5)申立理由5(明確性要件)オ及び申立人意見書3.(3)(3-2)第9頁において、上記aで検討した以外の根拠を提示することなく、単に、標準偏差は測定方法等が記載されてないから不明確であるという一般的可能性を主張するに留まり、本件明細書【0013】の記載や出願時の技術常識を踏まえてもなお、標準偏差が十分に特定できないといえる具体的理由を主張するものではないから、かかる主張は上記aの当審の判断を左右しない。

ウ 申立理由5(明確性要件)に関する検討のまとめ
したがって、申立理由5(明確性要件)によっては、本件特許の請求項1?5、7に係る特許を取り消すことはできない。

(5)申立理由6(サポート要件)について
ア サポート要件についての判断手法
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ 本件発明に関するサポート要件判断
上記アの判断手法を踏まえ、本件発明に関する特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しているか否かについて検討する。

(ア)方法の発明たる本件発明の体裁に合わせて本件明細書【0006】の記載を参酌すると、本件発明の課題は、「電極触媒の初期活性が高く、かつその活性を長期間維持できる燃料電池用電極触媒」の製造方法、及びかかる製造方法を含む燃料電池の製造方法を提供することと認められる。

(イ)また、本件明細書【0003】には、「一般的に、従来から燃料電池用の担体としては、カーボンが使用されており、また触媒金属粒子としては、白金又は白金合金が使用されている。」と説明されていることから、本件発明の「白金又は白金合金を含む触媒金属粒子及び前記触媒金属粒子を担持している担体粒子を含む燃料電池用電極触媒の製造方法」との発明特定事項は、当業者に一般的に知られていた前提のものと認められる。

(ウ)そして、本件明細書の記載によれば、上記(イ)の「白金又は白金合金を含む触媒金属粒子及び前記触媒金属粒子を担持している担体粒子を含む燃料電池用電極触媒の製造方法」を前提とする上記(ア)の課題を解決するための手段は、本件明細書の以下の記載により技術的意義が把握される、後記する各要件を備えたものとして把握される。

a 【0026】には「本発明者らは、比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、短時間でかつ高温で熱処理を行った場合に、得られる触媒金属粒子が、従来では得られなかったような粒径分布(すなわち、平均粒径と標準偏差の組合せ)となることを見出した。」と記載され、【0010】には「触媒金属粒子の平均粒径が小さい場合には、電極触媒の初期活性が高くなるもののその活性を長期間維持できない傾向にあるが、本発明の電極触媒では、平均粒径が小さくても活性を長期間維持できることがわかった。」と記載されている。

b また、触媒金属粒子に関しては、【0011】に、「触媒金属粒子の平均粒径は、2.5?4.5nmであり、触媒金属粒子の粒径の標準偏差は、1.30nm以下である。」と記載され、【0012】には、「触媒金属粒子の粒径がこのような範囲である場合には、電極触媒の初期活性が高く、かつその活性を長期間維持できる傾向にある。」との、より具体的な記載がなされている。

c また、担体粒子に関しては、【0017】に、「本発明で使用される担体粒子は、BET比表面積が700m^(2)/g以上の炭素質材料である。」との記載とともに、「このような範囲である場合には、得られる白金合金の粒径が、非常に均一でかつ好適な大きさとなることが分かった。」との、より具体的な記載がなされている。

d また、触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子の熱処理工程に関しては、【0032】に、「このようにして触媒金属粒子を担体粒子に担持させたあと、触媒金属粒子及びそれを担持した担体粒子を、830℃以上の温度で0.2時間以上2時間以内で熱処理を行う。上述のように、この熱処理は、比較的短時間でかつ高温で行われる。」とのより具体的な記載がなされ、また、熱処理の時間に関しては、【0034】に「このような熱処理を長時間行うと触媒金属粒子の粒径分布が不均一化する傾向があることが分かった。」との記載もなされている。

e 以上a?dによると、本件明細書には、上記(イ)の「白金又は白金合金を含む触媒金属粒子及び前記触媒金属粒子を担持している担体粒子を含む燃料電池用電極触媒の製造方法」において、比表面積が高い炭素質材料を担体粒子として使用し、短時間でかつ高温で熱処理を行う、具体的には、BET比表面積が700m^(2)/g以上の炭素質材料を担体粒子として使用し、触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子に対し、830℃以上の温度で0.2時間以上2時間以内で熱処理を行うことで、従来では得られなかったような粒径分布、具体的には、平均粒径は、2.5?4.5nmであり、粒径の標準偏差は、1.30nm以下である触媒金属粒子を得ることで、電極触媒の初期活性が高く、かつその活性を長期間維持できる燃料電池用電極触媒を製造でき、上記(ア)の課題が解決されることが理解できる。

f そうすると、本件明細書の記載から把握される課題を解決するための手段に必要な要件は、以下のとおりである。
[要件a]
触媒金属粒子及び前記触媒金属粒子を担持している担体粒子を、「830℃以上980℃以下の温度で0.2時間以上2時間以内で熱処理をする」こと

[要件b]
「担体粒子が、BET比表面積が700m^(2)/g以上の炭素質材料」であること

[要件c]
要件aとbとを兼ね備える結果として「触媒金属粒子の平均粒径が、2.5?4.5nmであり、かつ前記触媒金属粒子の粒径の標準偏差が、1.30nm以下である」こと

g なお、本件明細書及び本件図面には、【0042】?【0049】及び【図1】に製造例、そして【0055】の【表1】に結果が示される「白金又は白金合金を含む触媒金属粒子及び前記触媒金属粒子を担持している担体粒子を含む燃料電池用電極触媒の製造方法」の実施例1?3及び比較例1?3が記載されており、このうち
(a)実施例1?3は、上記fの要件a?cのすべてを満たし、かつ、初期触媒活性及び活性維持率がともに高く、課題を解決する結果が得られている一方で、
(b)比較例1は、担体粒子がBET比表面積が1000m^(2)/gの樹状カーボンである点において要件bを満足するものではあるが、触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子を「800℃で4時間加熱」したものである点で要件aを満足せず、かつ、触媒金属粒子の平均粒径は3.8nmではあるものの、前記触媒金属粒子の粒径の標準偏差が1.4nmである点で要件cをも満足しないものであって、初期触媒活性は十分であったが、活性維持率が低い結果が得られており、
(c)比較例2は、担体粒子がBET比表面積が1000m^(2)/gの樹状カーボンである点において要件bを満足するものではあるが、触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子に加熱処理を行わない点で要件aを満足せず、かつ、触媒金属粒子の平均粒径が2.2nmであり、前記触媒金属粒子の粒径の標準偏差が0.9nmである点で要件cをも満足しないものであって、初期触媒活性は十分であったが、活性維持率が低い結果が得られており、
(d)比較例3は、触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子に図1に示される実施例1で行った加熱処理温度と加熱処理の経過時間での加熱処理を行ったものである点において要件aを満足するものではあるが、担体粒子がBET比表面積が600m^(2)/gの中実カーボンである点において要件bを満足せず、かつ、触媒金属粒子の粒径の標準偏差が1.3nmではあるものの、触媒金属粒子の平均粒径が5.1nmである点で要件cをも満足しないものであって、活性維持率は高かったが、初期触媒活性が低い結果が得られている。
これらの実施例1?3及び比較例1?3の結果は、上記a?dで述べたような、本件明細書における、要件a?cに関する技術的意義の説明内容とも矛盾するものでもなく、要件a?cの技術的意義に関する本件明細書の説明内容には信憑性があるといえる。

h そうすると、実施例1?3以外の「白金又は白金合金を含む触媒金属粒子及び前記触媒金属粒子を担持している担体粒子を含む燃料電池用電極触媒の製造方法」であっても、要件a?cのすべてを満たす場合であれば、実施例1?3と同様に初期触媒活性及び活性維持率がともに高く、本件発明の課題を解決できるものと推定される。

(エ)以上のように本件明細書の記載を総合すると、要件a?cすべてを満たす「白金又は白金合金を含む触媒金属粒子及び前記触媒金属粒子を担持している担体粒子を含む燃料電池用電極触媒の製造方法」に関する本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、当業者が発明の詳細な説明の記載により本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
以上のとおりであるから、本件発明について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、サポート要件に適合するものである。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、
a 上記第4 1(6)申立理由6(サポート要件)ア及び申立人意見書3.(3)(3-3)第9?10頁において、燃料電池用電極触媒の触媒金属粒子の成分に関し、「実施例1?3のような白金:コバルトのモル比が7:1の燃料電池用電極触媒であれば本件発明の課題を解決できることは認識できるとしても、コバルトとの合金ではない「白金」、コバルト以外の金属との「白金合金」、または白金とコバルトとの合金であっても、なんらそれらの比率が特定されていない白金コバルト合金を使用した場合に、本件発明による課題を解決できるか否かを当業者が認識できるとはいえない。また、本件発明4によるように、モル比が4:1?11:1の範囲である白金とコバルトの合金を使用した場合であっても、モル比が7:1である白金コバルト合金を使用した場合と同様に、本件発明による課題を解決できるか否かを当業者が認識できるとはいえない。」と主張し、

b また、上記第4 1(6)申立理由6(サポート要件)イ及び申立人意見書3.(3)(3-3)第9?10頁において、担体粒子のBET比表面積に関し、「実施例1?3のBET比表面積を有する担体粒子を使用した場合には、本件発明による課題を解決できることを認識できる一方で、本件発明の担体粒子のBET比表面積が『700m^(2)/g以上』という上限のない範囲で、本件発明による課題を解決できるか否かを当業者が認識できるとはいえない。」と主張し、

c さらに、上記第4 1(6)申立理由6(サポート要件)ウにおいて、触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子の熱処理条件に関し、「実施例1?3の温度条件かつアルゴン雰囲気下で触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子を熱処理した場合には、本件発明による課題を解決できることを認識できる一方で、本件発明が、アルゴン雰囲気以外の雰囲気下で、『850℃以上の温度』という上限のない範囲で、本件発明による課題を解決できるか否かを当業者が認識できるとはいえない。」と主張している。

(イ)しかしながら、上記(ア)の申立人の主張は、以下a?cに示すように採用することができない。

a 上記(ア)aの申立人の主張に関して検討すると、本件発明の「白金又は白金合金」に関し、白金が燃料電池用触媒として機能する元素であることは一般に知られており、また、他の金属との合金化した白金合金も、そのような機能を有する白金を成分に含むものであり、燃料電池用触媒として機能することが期待できるものである。
そうすると、本件発明の「白金又白金合金」は、実施例1?3のような白金:コバルトのモル比が7:1の白金合金に限らずとも、「燃料電池用電極触媒」として機能することが期待でき、課題を解決できるものといえるから、この点に関する申立人の主張を採用することはできない。

b 上記(ア)bの申立人の主張に関して検討すると、本件明細書及び本件図面の記載、並びに出願時の技術常識から、担体粒子の炭素質材料のBET比表面積が大きすぎる場合に、課題を解決できない不具合が生じるとの具体的理由は把握できない。
また、仮に、担体粒子の炭素質材料のBET比表面積が大きすぎる場合に、課題を解決できない不具合が生じる可能性があったとしても、本件発明は、「担体粒子が、BET比表面積が700m^(2)/g以上の炭素質材料」であるとの要件bと、触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子を、「830℃以上980℃以下の温度で0.2時間以上2時間以内で熱処理をする」との要件aとを兼ね備える結果として、「触媒金属粒子の平均粒径が、2.5?4.5nmであり、かつ前記触媒金属粒子の粒径の標準偏差が、1.30nm以下である」要件cを実現する白金又は白金合金を含む触媒金属粒子及び前記触媒金属粒子を担持している担体粒子を含む燃料電池用電極触媒の製造方法に関するものであって、本件発明の担体粒子の炭素質材料のBET比表面積は、あくまで「触媒金属粒子の平均粒径が、2.5?4.5nmであり、かつ前記触媒金属粒子の粒径の標準偏差が、1.30nm以下である」要件cを実現する条件の一つとして選択されるものであるから、担体粒子の炭素質材料のBET比表面積の範囲の上限が特定されていないとしても、本件発明全体として課題を解決できるものといえる。
そうすると、この点に関する申立人の主張を採用することはできない。

c 上記(ア)cの申立人の主張に関して検討すると、
(a)熱処理温度が「830℃以上980℃以下」の範囲に特定されている本件発明は、熱処理温度の上限がないという主張の前提たる発明内容が異なっており、この点についての主張は、採用の余地がない。
(b)また、アルゴン雰囲気以外の雰囲気下での熱処理を行った場合に課題を解決できるか否かという点についても、本件発明の触媒金属粒子において触媒作用のある白金元素は化学反応しにくい貴金属であるし、当業者が通常行う白金系の燃料電池用電極触媒の熱処理雰囲気下において、課題を解決できないほどに触媒機能を損なう変質を来すことは想定できない。
仮に、アルゴン雰囲気以外の雰囲気下での熱処理を行った場合に、課題を解決できない不具合が生じる可能性があったとしても、本件発明は、「担体粒子が、BET比表面積が700m2/g以上の炭素質材料」であるとの要件bと、触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子を、「830℃以上980℃以下の温度で0.2時間以上2時間以内で熱処理をする」との要件aとを兼ね備える結果として、「触媒金属粒子の平均粒径が、2.5?4.5nmであり、かつ前記触媒金属粒子の粒径の標準偏差が、1.30nm以下である」要件cを実現する白金又は白金合金を含む触媒金属粒子及び前記触媒金属粒子を担持している担体粒子を含む燃料電池用電極触媒の製造方法に関するものであって、本件発明における要件aの熱処理条件は、あくまで「触媒金属粒子の平均粒径が、2.5?4.5nmであり、かつ前記触媒金属粒子の粒径の標準偏差が、1.30nm以下である」要件cを実現する条件の一つとして選択されるものであるから、熱処理時の雰囲気が特定されていないとしても、本件発明全体として課題を解決できるものといえる。
そうすると、この点に関する申立人の主張を採用することはできない。

エ 申立理由6(サポート要件)に関する検討のまとめ
したがって、申立理由6(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1?5、7に係る特許を取り消すことはできない。

第7 むすび
以上のとおり、請求項〔1?7〕についての訂正は適法であるから、これを認める。
そして、当審の取消理由通知書及び特許異議申立書に記載した理由によっては、本件特許の請求項1?5、7に係る特許を取り消すことはできないし、他に本件特許の請求項1?5、7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項6は、訂正により削除されたから、請求項6に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金又は白金合金を含む触媒金属粒子及び前記触媒金属粒子を担持している担体粒子を含む燃料電池用電極触媒の製造方法であって、
前記触媒金属粒子を構成する金属を担持した前記担体粒子を、830℃以上980℃以下の温度で0.2時間以上2時間以内で熱処理をすることを含み、
前記担体粒子が、BET比表面積が700m^(2)/g以上の炭素質材料であり、
前記触媒金属粒子の平均粒径が、2.5?4.5nmであり、かつ
前記触媒金属粒子の粒径の標準偏差が、1.30nm以下である、
燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項2】
前記担体粒子が、BET比表面積が900?1500m^(2)/gの炭素質材料である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記触媒金属粒子の平均粒径が、2.8?3.8nmであり、かつ前記触媒金属粒子の粒径の標準偏差が、0.95?1.15nmである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記触媒金属粒子が、モル比が4:1?11:1の範囲である白金とコバルトとの合金を含む、請求項1?3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理を、880?980℃の温度で1.5時間以内で行う、請求項1?4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
請求項1?5のいずれか一項に記載の電極触媒を製造することを含む、燃料電池の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-07 
出願番号 特願2017-90309(P2017-90309)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 前田 寛之  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 渡部 朋也
市川 篤
登録日 2019-12-27 
登録番号 特許第6635976号(P6635976)
権利者 株式会社キャタラー トヨタ自動車株式会社
発明の名称 燃料電池用電極触媒及びその製造方法  
代理人 塩川 和哉  
代理人 青木 篤  
代理人 三橋 真二  
代理人 古賀 哲次  
代理人 関根 宣夫  
代理人 青木 篤  
代理人 三橋 真二  
代理人 関根 宣夫  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 関根 宣夫  
代理人 石田 敬  
代理人 出野 知  
代理人 出野 知  
代理人 石田 敬  
代理人 関根 宣夫  
代理人 青木 篤  
代理人 塩川 和哉  

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