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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1376714
異議申立番号 異議2020-700167  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-10 
確定日 2021-06-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6572398号発明「樹脂組成物、成形品及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6572398号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?10〕について訂正することを認める。 特許第6572398号の請求項2ないし3、5ないし10に係る特許を維持する。 特許第6572398号の請求項1、4に係る特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6572398号は平成30年8月31日(優先権主張 平成29年8月31日)に出願され、令和元年8月16日に特許権の設定登録がなされ、同年9月11日にその特許公報が発行され、その後、請求項1?10に係る特許に対して、令和2年3月10日に特許異議申立人 岩崎勇(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされたものである。そして、その後の経緯は以下のとおりである。

令和2年 6月 8日付け:取消理由の通知
同年 8月13日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者)
同年11月26日 :意見書の提出(申立人)
同年12月28日付け:取消理由の通知<決定の予告>
令和3年 3月 4日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者)

令和3年3月4日提出の訂正の請求及び意見書に対する申立人からの応答はなかった。
また、この訂正の請求により、令和2年8月13日提出の訂正の請求は取り下げられたものと見なす(特許法第120条の5第7項)。

第2 訂正の可否
1 訂正の内容
令和3年3月4日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。なお、訂正前の請求項1?10は一群の請求項である。

訂正事項1:特許請求の範囲の請求項1を削除する。
訂正事項2:特許請求の範囲の請求項2の
「ISO178に準拠して測定した23℃における曲げ弾性率が8GPa以上であり、」を
「ポリアリーレンサルファイド及び無機充填剤を少なくとも含み、
ISO178に準拠して測定した23℃における曲げ弾性率が8GPa以上であり、」に訂正する。(請求項2を引用する請求項3?10も同様に訂正する。)
訂正事項3:特許請求の範囲の請求項4を削除する。
訂正事項4:特許請求の範囲の請求項3、5?10の各々において、請求項1、4を引用しないものとする。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1及び3は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
訂正事項2は、訂正前の請求項2に係る「無理抜き成形品用樹脂組成物」において、訂正前の請求項4の「ポリアリーレンサルファイド及びポリアミドから選ばれる少なくとも一種の樹脂を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。」、及び、【0027】の「樹脂組成物は、得られる成形品の強度を高めるために、無機充填剤を含有してもよい。」との記載に基づき、「ポリアリーレンサルファイド及び無機充填剤を少なくとも含」むものに限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
訂正事項4は、訂正前に請求項1又は4を引用していた各請求項において、削除された請求項1又は4を引用しないものとしたものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第6項の各規定に適合するので、本件訂正を認める。

第3 本件訂正後の請求項1?10に係る発明
本件訂正により訂正された訂正請求項1?10に係る発明(以下、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明10」、まとめて「本件訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】
ポリアリーレンサルファイド及び無機充填剤を少なくとも含み、
ISO178に準拠して測定した23℃における曲げ弾性率が8GPa以上であり、ISO178に規定の曲げ試験方法に準じて環境温度を150℃として測定した曲げ弾性率が、ISO178に準拠して測定した23℃における曲げ弾性率の40%未満であり、
ISO178に規定の曲げ試験方法に準じて環境温度150℃として測定した曲げ破断歪が、5.5%以上である、無理抜き成形品用樹脂組成物。
【請求項3】
ISO178に準拠して測定した23℃における曲げ弾性率が、10GPa以上である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
溶融粘度が100Pa・s以上200Pa・s以下である少なくとも一種の樹脂を含む、請求項2又は3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項2,3又は5のいずれか一項に記載の樹脂組成物を用いた、無理抜き成形品。
【請求項7】
外表面に高さ0.5mm以上の膨出部を有する、請求項6に記載の無理抜き成形品。
【請求項8】
流体配管用ポート部品である、請求項6又は7に記載の無理抜き成形品。
【請求項9】
請求項2,3又は5のいずれか一項に記載の樹脂組成物を射出成形する工程と、得られた成形品を金型から無理抜き方式により離型させる工程とを有する、成形品の製造方法。
【請求項10】
高さ0.5mm以上の膨出部を有する成形品を得る、請求項9に記載の製造方法。」

第4 取消理由通知で示した取消理由について
1 取消理由通知<決定の予告>について
(1)当審は、取消理由通知<決定の予告>において、令和2年8月13日提出の訂正の請求により訂正された本件発明に対し、概要、以下のとおりの取消理由を通知した。

「A (実施可能要件)本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
B (サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

2 理由Aについて

(3)この実施例及び比較例のみならず、本件発明の詳細な説明のいかなる記載を参考にしても、本件訂正発明に係る「無理抜き成形品用樹脂組成物」の「曲げ弾性率」、「曲げ破断歪」、及び「変形回復率」を同時に請求項2及び3に規定される数値に調整するにはどのようにすればよいのか、当業者といえども理解できない。
「曲げ弾性率」や「曲げ破断歪」の調整は、「樹脂組成物に含まれる樹脂の種類、分子量、溶融粘度、含有量等、充填剤又は添加剤の種類や含有量等を、種々調整することにより行うことができる」といっても、その「種々調整」とはどのような調整なのか理解できず、「曲げ弾性率」と「曲げ破断歪」の一方の調整が、他方にどのような影響があるのか(あるいはないのか)も不明である。
実施例及び比較例をみても、どのような特徴(例えば、「樹脂の種類、分子量、溶融粘度、含有量等、充填剤又は添加剤の種類や含有量」、あるいはそれ以外の何らかの技術的な特徴)が、請求項2及び3に規定される各物性値を規定の範囲に調整するために必要であるのか、理解できない。
「変形回復率」の調整に至っては、皆目見当が付かない。

(4)このため、請求項2及び3に規定される「曲げ弾性率」、「曲げ破断歪」、及び「変形回復率」をどのようにすれば調整しうるのか、本件発明の詳細な説明のいかなる記載を参酌しても理解することができない。
よって、本件発明の詳細な説明は、本件訂正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(5)…
しかし、この実施例の傾向は、本件訂正発明に係る「無理抜き成形品用樹脂組成物」の樹脂として「ポリアリーレンサルファイド樹脂」を用いたものであればともかく、その他の樹脂を用いても同様の現象が生じることを確認することができない。加えて、「融点が150℃以下の結晶性樹脂(ポリエチレンやポリプロピレンなど)や軟化温度が150℃以下の非晶性樹脂(ポリスチレンやABSなど)に耐熱性の高いエンジニアプラスチックをブレンドすることで曲げ弾性率を調整することが出来ることは出願時の技術常識である。」というが、その技術常識の根拠を特許権者は提示しない。

(6)そうであれば、請求項2及び3に規定される「曲げ弾性率」、「曲げ破断歪」、及び「変形回復率」を、一般の「樹脂及び無機充填剤」を用いた樹脂組成物において、どのようにすれば調整しうるのか、本件発明の詳細な説明のいかなる記載を参酌しても、依然として理解することができない。
よって、本件発明の詳細な説明は、本件訂正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

3 理由Bについて

(2)上記2に挙げた本件実施例及び比較例を参照すると、実施例1及び3は「成形品に割れが発生していない」ものである。そうすると、本件特許請求の範囲の規定を満たす実施例1及び3からみて、ポリアリーレンサルファイド樹脂とガラス繊維(更には熱可塑性エラストマー)が配合された樹脂組成物は上記課題を解決することが確認できるものの、それ以外の「樹脂の種類、分子量、溶融粘度、含有量等、充填剤又は添加剤の種類や含有量等」(【0017】)については、どのようにすれば上記課題を解決することができるのか、本件発明の詳細な説明の記載からは理解できない。
よって、本件訂正発明は、本件発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。

(3)…
しかし、本件訂正発明に係る「無理抜き成形品用樹脂組成物」の樹脂として「ポリアリーレンサルファイド樹脂」を用いたものであればともかく、その他の樹脂が「ポリアリーレンサルファイド樹脂」と同様の機械的物性の挙動を有するのか何ら明らかでないから、その他の樹脂を用いても同様に本件訂正発明の課題を解決できることが、本件発明の詳細な説明の記載からは理解できない。

(4)そうであれば、「ポリアリーレンサルファイド樹脂」以外の「樹脂の種類、分子量、溶融粘度、含有量等、充填剤又は添加剤の種類や含有量等」(【0017】)については、どのようにすれば上記課題を解決することができるのか、本件発明の詳細な説明の記載からは、依然として理解できない。
よって、本件訂正発明は、本件発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。」

(2)本件訂正発明2に係る「無理抜き成形品用樹脂組成物」は、「ポリアリーレンサルファイド及び無機充填剤を少なくとも含み」と限定された。
上記取消理由でも示したとおり、「無理抜き成形品用樹脂組成物」の樹脂として「ポリアリーレンサルファイド」を用いたものは、本件発明の詳細な説明において本件訂正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえ、また、本件訂正発明の課題を解決できることが、本件発明の詳細な説明に記載したものといえる。
したがって、<決定の予告>で示した取消理由には、理由がない。

2 令和2年6月8日付け取消理由通知について
令和2年6月8日付け取消理由通知で示した取消理由は、<決定の予告>で示したものと同旨である。
したがって、上記1(2)で示したことと同様、令和2年6月8日付け取消理由通知で示した取消理由には、理由がない。

第5 取消理由通知において採用しなかった異議申立ての理由について
1 申立人の異議申立ての理由について
申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。(以下、登録商標を示す○の中にRの文字は省略した。)
甲第1号証:「Amodel PPA」と題したカタログ、
SOLVAY SPECIALTY POLYMERS社、2013年
甲第2号証:「Amodel AS-1566 HS」のテクニカルデータ、
SOLVAY SPECIALTY POLYMERS社、2012年
参考資料1:「高機能ポリマー 自動車用」と題したカタログ、
SOLVAY SPECIALTY POLYMERS社、2017年
(以下、甲第1?2号証を「甲1」?「甲2」という。)

(1)申立ての理由1(i)
本件請求項1及び2のパラメーター要件は、いずれも達成すべき希望の特性(課題)を単に規定したものにすぎず、課題を達成するための具体的な手段や方法や、当業者の技術常識でもなく、本件特許の明細書に当業者が容易に実施できるように記載されていないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第1号に違反してされたものである。
(2)申立ての理由1(ii)
本件請求項1及び2に記載の各パラメーター値を個々にかつ同時に満たすような制御(調整)方法は、本件特許明細書に記載されておらず、一般的な技術常識に照らしても、そのような制御(調整)は、当業者にとって容易ではないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に違反してされたものである。
(3)申立ての理由1(iii)
本件請求項1及び2に規定されるパラメーター要件を完全に満足しかつ本件特許発明の課題を達成した実施例が極めて少なく、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に違反してされたものである。
(4)申立ての理由1(iv)
本件請求項1及び2に規定されるパラメーター要件は、いずれも本件特許明細書の記載や当業者の技術常識に照らして達成できない範囲を含んでいるため、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に違反してされたものである。当業者が達成できない範囲を含む現状の本件特許の請求項の各パラメーター要件は、少なくとも実施可能であることを示した実施例の範囲に限定されない限り、特許法第36条第6項第1号違反を免れない。
(5)申立ての理由2及び3(特許法第29条第1項及び/又は同法同条第2項違反)
ア 本件特許の開示内容は、無理抜き成形品用樹脂組成物において当業者が希望する特性や当然考慮すべきことを新規な発見の如く述べたものにすぎず、無理抜き成形に関する従来技術に対して新規性進歩性を持つ発明を何ら開示していない。
このように、本件特許発明は、具体的な発明事項を何ら開示していないから、証拠を持ち出すまでもなく、本件特許発明は、従来の無理抜き成形品用樹脂組成物に対して新規性及び/又は進歩性を有さないことは明らかである。
イ また、本件請求項1?10の発明は、甲1、甲2に基づいて新規性及び/又は進歩性を否定されるべきものである。

2 各申立ての理由についての検討
(1)申立ての理由1(i)?(iv)について
上記第3に示したとおり、本件請求項1は削除され、同2は以下のものとなった。
「ポリアリーレンサルファイド及び無機充填剤を少なくとも含み、
ISO178に準拠して測定した23℃における曲げ弾性率が8GPa以上であり、ISO178に規定の曲げ試験方法に準じて環境温度を150℃として測定した曲げ弾性率が、ISO178に準拠して測定した23℃における曲げ弾性率の40%未満であり、
ISO178に規定の曲げ試験方法に準じて環境温度150℃として測定した曲げ破断歪が、5.5%以上である、無理抜き成形品用樹脂組成物。」
すなわち、本件訂正発明2は、「ポリアリーレンサルファイド及び無機充填剤を少なくとも含(む)」ことを発明特定事項としている。
そして、本件発明の詳細な説明には、ポリアリーレンサルファイドと、無機充填剤であるガラス繊維を用いた実施例が記載され、このうち本件請求項2に規定される物性値の規定を満たす実施例1及び3は、高膨出部離型時の割れが発生しておらず、変形回復率の高いものとなることが記載されている。加えて、本件発明の詳細な説明には、上記実施例1及び3と共に、
「150℃における曲げ弾性率が23℃における曲げ弾性率の40%以上である場合、金型からの離型後の成形品の剛性を高める効果と、離型による成形品の変形を防ぐ効果とを両立することが難しい。」(【0012】)、
「本実施形態に係る樹脂組成物は、ISO178に規定の曲げ試験方法に準じて、環境温度を150℃として測定した曲げ破断歪(以下、単に「150℃における曲げ破断歪」ともいう。)が、4%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、5.5%以上であることがさらに好ましい。150℃における曲げ破断歪を4%以上とすることで、無理抜きによる成形品の変形をより小さくすることができる。また、150℃における曲げ破断歪がより大きい材料を用いることで、膨出部の高さが特に高い成形品においても、離型時に成形品に割れが発生することを抑制しやすくなる。150℃における曲げ破断歪の上限は、特に限定されない。」(【0016】)
と記載されており、これらの記載に鑑みると、「ポリアリーレンサルファイド及び無機充填剤を少なくとも含(む)」樹脂組成物を用いれば、「150℃における曲げ弾性率」と「23℃における曲げ弾性率」の比、及び、「150℃における曲げ破断歪」の各パラメーター値を個々にかつ同時に満たすように制御あるいは調整でき、本件訂正発明1の数値範囲を満たした場合に、本件訂正発明の課題である
「無理抜き方式により金型から離型させても離型後の成形品に変形が残ることを防ぐことができ、かつ得られた成形品が優れた剛性を有する無理抜き成形品用樹脂組成物、及びそれを用いた無理抜き成形品、並びにその製造方法を提供すること」(【0005】)を解決できることが理解できるといえる。
そうすると、本件発明の詳細な説明の記載から、本件訂正発明が本件訂正発明の課題を解決しうるものと理解することができ、本件発明の詳細な説明は、本件訂正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。
また、本件訂正発明は、本件発明の詳細な説明に記載したものといえる。
よって、申立ての理由1(i)?(iv)には理由がない。

(2)申立ての理由2及び3について
ア 上記(1)で示したとおり、本件訂正発明は「ポリアリーレンサルファイド及び無機充填剤を少なくとも含(む)」樹脂組成物を用いて、「150℃における曲げ弾性率」と「23℃における曲げ弾性率」の比、及び、「150℃における曲げ破断歪」の各パラメーター値を個々にかつ同時に満たすように制御あるいは調整し、「150℃における曲げ弾性率」と「23℃における曲げ弾性率」の比の上限値、及び、「150℃における曲げ破断歪」の下限値を設定してこれを満たすようになしたものである。そして、本件実施例において、その優位性が確認されている。
したがって、「本件特許発明は、具体的な発明事項を何ら開示していない」とはいえないから、上記1(5)アに示した申立人の主張は、その前段において失当である。

イ 次に甲各号証に基づく理由について検討する。
甲各号証には以下の記載がある。訳文で示す。文中の登録商標記号は省略する。
(ア)甲各号証及び参考資料1の記載事項
a 甲1
「実証されたパフォーマンス
Amodelポリフタルアミド(PPA)は内燃機関冷却システムにおいてダイカストアルミニウムに取って代わり20年以上経過し、熱、湿度、及び化学的耐性を主として考慮されるフード下への適用が日常的になされています。
ポリフェニレンサルファイド(PPS)と同様、Amodel PPAは、耐疲労性や耐衝撃性、長期の冷却液曝露後の130℃(266°F)での卓越した強度や、成形サイクル時間の短縮と共に、腐食性高温環境下での高度な寸法安定性を提供します。

アンダーカット設計
Amodel ASグレードは、アンダーカット設計を成形できる唯一の高機能樹脂です。金型設計が単純になり、パーティングラインに関連する金型のコストが抑えられます。

グリコール耐性Amodel PPAグレード
─────────────────────
Amodel A-1933 HSL 33%ガラス繊維…
─────────────────────
Amodel AS-1933 HS 33%ガラス繊維…
アンダーカット成形
─────────────────────
Amodel AS-1945 HS 45%ガラス繊維…
アンダーカット成形 」(「Proven Performance」、「Undercut Designs」、「Glycol-resistant Amodel PPA grades」の項)

b 甲2
「Amodel AS-1566 HS
ポリフタルアミド

Amodel AS-1566 HS樹脂は、撓み温度と曲げ弾性率が高い65%ガラス・鉱物強化ポリフタルアミド(PPA)樹脂です。このグレードは、高い剛性、優れた寸法安定性、耐薬品性が要求される用途のほとんどにおける費用対効果を考慮して設計されたものです。

──────────────────────
一般
──────────────────────

──────────────────────
充填\強化剤 ・ガラス\鉱物,65重量%
──────────────────────
… 」(1頁)

c 参考資料1
参考資料1の9頁には、「アンダーカット設計」が「無理抜き成形」を意味することが記載されている。

(イ)甲各号証に記載された発明
上記(ア)a及びcに示した記載事項からみて、甲1に記載された発明(「甲1発明」)は以下のとおりである。
「33%あるいは45%ガラス繊維を含有するポリフタルアミドから構成される無理抜き成形品用樹脂組成物」

また、甲2には「アンダーカット設計」あるいは「無理抜き成形」に関する記載はないことに鑑みると、上記(ア)bに示した記載事項からみて、甲2に記載された発明(「甲2発明」)は以下のとおりである。
「65重量%ガラス\鉱物の充填剤\強化剤を含有するポリフタルアミドから構成される樹脂組成物」

(ウ)対比
本件訂正発明2と甲1発明とは以下の点で一致する。
「無機充填剤を含む無理抜き成形品用樹脂組成物」
本件訂正発明2と甲2発明とは以下の点で一致する。
「無機充填剤を含む成形品用樹脂組成物」

本件訂正発明2と甲1発明、本件訂正発明2と甲2発明とは、いずれも、少なくとも以下の点で相違する。
相違点:本件訂正発明2は「ポリアリーレンサルファイド」を含むのに対し、甲1発明及び甲2発明はいずれも「ポリアリーレンサルファイド」を含まず、「ポリフタルアミド」を含む点。

(エ)判断
甲1及び甲2の記載からは、甲1発明及び甲2発明のいずれについても、「ポリアリーレンサルファイド」を用いうることを想起できず、また、甲1発明及び甲2発明のいずれの成形品用樹脂組成物に対しても、「ポリアリーレンサルファイド」を用いることが本件出願前(優先日前)における技術常識であると解することはできない。
このため、その余の相違点があるとしても、本件訂正発明2は甲1に記載された発明から容易になしえたものとも、甲2に記載された発明から容易になしえたものともいえない。
そして、本件訂正発明3、5?10は、本件訂正発明2を更に限定するものである。したがって、本件訂正発明2が甲1に記載された発明から容易になしえたものとも、甲2に記載された発明から容易になしえたものともいえないことに鑑みると、本件訂正発明3、5?10も甲1に記載された発明から容易になしえたものとも、甲2に記載された発明から容易になしえたものともいえない。

ウ まとめ
よって、申立ての理由2及び3には、理由がない。

3 まとめ
以上のことから、申立人が主張する申立ての理由にはいずれも理由がなく、これらの申立ての理由によっては本件訂正発明に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、異議申立ての理由及び当審からの取消理由によっては、請求項2?3、5?10に係る特許を取り消すことはできない。また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項1及び4に係る特許については、上述のとおり、この請求項を削除する訂正を含む本件訂正が認容されるため、特許異議申立ての対象となる特許が存在しないものとなったことから、同請求項に係る特許についての特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
ポリアリーレンサルファイド及び無機充填剤を少なくとも含み、
ISO178に準拠して測定した23℃における曲げ弾性率が8GPa以上であり、ISO178に規定の曲げ試験方法に準じて環境温度を150℃として測定した曲げ弾性率が、ISO178に準拠して測定した23℃における曲げ弾性率の40%未満であり、
ISO178に規定の曲げ試験方法に準じて環境温度150℃として測定した曲げ破断歪が、5.5%以上である、無理抜き成形品用樹脂組成物。
【請求項3】
ISO178に準拠して測定した23℃における曲げ弾性率が、10GPa以上である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
溶融粘度が100Pa・s以上200Pa・s以下である少なくとも一種の樹脂を含む、請求項2又は3に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項2,3又は5に記載の樹脂組成物を用いた、無理抜き成形品。
【請求項7】
外表面に高さ0.5mm以上の膨出部を有する、請求項6に記載の無理抜き成形品。
【請求項8】
流体配管用ポート部品である、請求項6又は7に記載の無理抜き成形品。
【請求項9】
請求項2,3又は5に記載の樹脂組成物を射出成形する工程と、得られた成形品を金型から無理抜き方式により離型させる工程とを有する、成形品の製造方法。
【請求項10】
高さ0.5mm以上の膨出部を有する成形品を得る、請求項9に記載の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-10 
出願番号 特願2018-564428(P2018-564428)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 536- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 内田 靖恵  
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 福井 悟
大熊 幸治
登録日 2019-08-16 
登録番号 特許第6572398号(P6572398)
権利者 ポリプラスチックス株式会社
発明の名称 樹脂組成物、成形品及びその製造方法  
代理人 園田・小林特許業務法人  
代理人 園田・小林特許業務法人  
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