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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 D06M 審判 全部申し立て 2項進歩性 D06M 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 D06M |
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管理番号 | 1376725 |
異議申立番号 | 異議2019-701038 |
総通号数 | 261 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-09-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-12-18 |
確定日 | 2021-07-05 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6533002号発明「合成繊維用処理剤及び合成繊維の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6533002号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第6533002号の請求項1?7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6533002号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成30年12月13日の出願であって、令和元年5月31日にその特許権の設定登録がされ、令和元年6月19日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和 元年12月18日 :特許異議申立人恒川朱美(以下「申立人」と いう。)による請求項1?7に係る特許に対 する特許異議の申立て 令和 2年 2月21日付け:取消理由通知 令和 2年 4月17日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出 令和 2年 6月19日 :申立人による意見書の提出 令和 2年 8月28日付け:訂正拒絶理由通知 令和 2年 9月28日 :特許権者による意見書の提出 令和 2年12月22日付け:取消理由通知(決定の予告) 令和 3年 3月 5日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出 令和 3年 4月 9日 :申立人による意見書の提出 令和 3年 5月28日付け:訂正拒絶理由通知 令和 3年 6月16日 :特許権者による手続補正書及び意見書の提出 なお、令和2年4月17日の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否 1.訂正請求書の補正について 上記令和3年3月5日提出の訂正請求書は、令和3年6月16日提出の手続補正書により、令和3年5月28日付け訂正拒絶理由通知で指摘した訂正事項2’(特許請求の範囲の請求項6の「?2.0質量%」を「?2質量%」に訂正するもの)及び訂正事項4’(明細書の【0010】の「?2.0質量%」を「?2質量%」に訂正するもの)が削除され、添付の訂正明細書及び特許請求の範囲が補正された。この補正は、訂正事項の削除であり、訂正請求書の要旨を変更するものでないから、この補正を認める。 2.訂正の内容 令和3年6月16日提出の手続補正書により補正された訂正請求書による訂正の請求を、以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。 本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。 (1)訂正事項1 訂正前の特許請求の範囲の請求項1において、 「平滑剤として分子中にエステル結合を3つ以上有するエステル化合物、及び分子中に硫黄元素を有するエステル化合物から選ばれる少なくとも一種のエステル化合物を含み、ストレート給油に用いられる合成繊維用処理剤であって、前記合成繊維用処理剤中における水分量が0.1?5質量%であることを特徴とする合成繊維用処理剤。」 と記載されているのを、 「平滑剤として分子中にエステル結合を3つ以上有するエステル化合物、及び分子中に硫黄元素を有するエステル化合物から選ばれる少なくとも一種のエステル化合物を含み、ストレート給油に用いられる合成繊維用処理剤であって、前記合成繊維用処理剤中における水分量が0.1質量%?(0.8×100)/(100+300+0.8)質量%、0.5質量%?(1.8×100)/(100+200+1.8)質量%、(1.6×100)/(100+100+1.6)質量%?(1.0×100)/(100+10+1.0)質量%、(1.3×100)/(100+10+1.3)質量%、(1.7×100)/(100+10+1.7)質量%?2質量%、(2.6×100)/(100+10+2.6)質量%、又は(4.5×100)/(100+10+4.5)質量%?5質量%であることを特徴とする合成繊維用処理剤。」 に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?7も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 訂正前の特許請求の範囲の請求項6において、 「前記合成繊維用処理剤中の水分量が0.5?2.0質量%である請求項1?5のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。」 と記載されているのを、 「前記合成繊維用処理剤中の水分量が0.5質量%?(1.8×100)/(100+200+1.8)質量%、(1.6×100)/(100+100+1.6)質量%?(1.0×100)/(100+10+1.0)質量%、(1.3×100)/(100+10+1.3)質量%、(1.7×100)/(100+10+1.7)質量%?2.0質量%である請求項1?5のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。」 に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正する)。 (3)訂正事項3 訂正前の明細書の【0007】において、 「すなわち本発明の一態様は、平滑剤として分子中にエステル結合を3つ以上有するエステル化合物、及び分子中に硫黄元素を有するエステル化合物から選ばれる少なくとも一種のエステル化合物を含み、ストレート給油に用いられる合成繊維用処理剤であって、前記合成繊維用処理剤中における水分量が0.1?5質量%であることを特徴とする合成繊維用処理剤が提供される。」 と記載されているのを、 「すなわち本発明の一態様は、平滑剤として分子中にエステル結合を3つ以上有するエステル化合物、及び分子中に硫黄元素を有するエステル化合物から選ばれる少なくとも一種のエステル化合物を含み、ストレート給油に用いられる合成繊維用処理剤であって、前記合成繊維用処理剤中における水分量が0.1質量%?(0.8×100)/(100+300+0.8)質量%、0.5質量%?(1.8×100)/(100+200+1.8)質量%、(1.6×100)/(100+100+1.6)質量%?(1.0×100)/(100+10+1.0)質量%、(1.3×100)/(100+10+1.3)質量%、(1.7×100)/(100+10+1.7)質量%?2質量%、(2.6×100)/(100+10+2.6)質量%、又は(4.5×100)/(100+10+4.5)質量%?5質量%であることを特徴とする合成繊維用処理剤が提供される。」 に訂正する。 (4)訂正事項4 訂正前の明細書の【0010】において、 「前記平滑剤、前記非イオン界面活性剤、及び前記イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量部とすると、希釈剤を0.1?400質量部の割合で含むことが好ましい。 前記合成繊維用処理剤中の水分量が0.5?2.0質量%であることが好ましい。」 と記載されているのを、 「前記平滑剤、前記非イオン界面活性剤、及び前記イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量部とすると、希釈剤を0.1?400質量部の割合で含むことが好ましい。 前記合成繊維用処理剤中の水分量が0.5質量%?(1.8×100)/(100+200+1.8)質量%、(1.6×100)/(100+100+1.6)質量%?(1.0×100)/(100+10+1.0)質量%、(1.3×100)/(100+10+1.3)質量%、(1.7×100)/(100+10+1.7)質量%?2.0質量%であることが好ましい。」 に訂正する。 3.一群の請求項について 本件訂正前の請求項1?7について、請求項2?7は、訂正前の請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであって、上記訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項〔1?7〕について請求されたものである。また、本件訂正請求は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項に規定する、一群の請求項の全てについて請求されたものである 4.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的について 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「合成繊維用処理剤中における水分量」について、その数値範囲をさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件特許明細書等」という)に記載した事項の範囲内の訂正であること 令和2年12月22日付け取消理由通知(決定の予告)で引用された引用文献1(国際公開第2016/125577号(甲第1号証))の[0118][表1]に記載された実施例1に着目すると、不揮発分100質量部中において、原料Y-1を1質量部含有している。ここで、引用文献1の「メタノール550部とイオン交換水400部を混合し、45±5℃で調温し、攪拌しながら上記の原料X-1 700部を徐々に投入し、完全に溶解させた。次にこの溶解液を室温で20時間静置し、ボウ硝を沈降させた。ボウ硝の含まれない上澄み液を取り出し、60?80℃で減圧蒸留を行い、メタノールと水の一部を除去し、有機スルホン酸化合物(C)を70重量%含む原料Y-1を得た。」([0103])との記載を参照すると、原料Y-1は、有機スルホン酸化合物(C)70重量%とイオン交換水30重量%を含むものである。そして、引用文献1の「これらの処理剤不揮発分と炭素数13のパラフィンオイルを1:1の重量比で混合して合成繊維用処理剤を調製した。」([0109])の記載から、実施例1に記載された処理剤は、不揮発分100質量部に対してパラフィンオイル100質量部混合されることを踏まえると、引用文献1には、実施例1の合成繊維用処理剤中にイオン交換水が、(30重量%/70重量%)/(100+1×(30重量%/70重量%)+100)×100=約0.21重量%含まれることが記載されている。 同様に、引用文献1には、実施例9、11、12、20の合成繊維用処理剤中にイオン交換水が約0.21重量%、実施例3?5、7の合成繊維用処理剤中にイオン交換水が約0.43重量%、実施例2、17の合成繊維用処理剤中にイオン交換水が約0.64重量%、実施例6、8、16の合成繊維用処理剤中にイオン交換水が約0.74重量%、実施例14、22の合成繊維用処理剤中にイオン交換水が約1.06重量%、実施例10の合成繊維用処理剤中にイオン交換水が約1.48重量%、実施例19の合成繊維用処理剤中にイオン交換水が約2.10重量%、実施例13、21の合成繊維用処理剤中にイオン交換水が約2.20重量%、実施例18の合成繊維用処理剤中にイオン交換水が約3.61重量%含まれることが記載されている。 訂正事項1において、合成繊維用処理剤中における水分量の数値範囲から、(0.8×100)/(100+300+0.8)質量%?0.5質量%を除くことは、引用文献1に記載された約0.21重量%、0.43重量%を除外するものであり、同様に、(1.8×100)/(100+200+1.8)質量%?(1.6×100)/(100+100+1.6)質量%を除くことは、約0.64重量%、約0.74重量%を除外するものであり、(1.0×100)/(100+10+1.0)質量%?(1.3×100)/(100+10+1.3)質量%を除くことは、約1.06重量%を除外するものであり、(1.3×100)/(100+10+1.3)質量%、(1.7×100)/(100+10+1.7)質量%を除くことは、約1.48重量%を除外するものであり、2質量%?(2.6×100)/(100+10+2.6)質量%を除くことは、約2.10重量%、約2.20重量%を除外するものであり、(2.6×100)/(100+10+2.6)質量%?(4.5×100)/(100+10+4.5)質量%を除くことは、約3.61重量%を除外するものである。 そうすると、訂正事項1は、令和2年12月22日付け取消理由通知(決定の予告)で引用された引用文献1に記載された事項のみを除外するものであり、当該事項を除外することによって、本件特許明細書等から導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものとはいえないから、新たな技術的事項を導入しないものである。 したがって、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1は、訂正前の請求項1の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的について 訂正事項2は、訂正前の請求項6の「合成繊維用処理剤中の水分量」について、その数値範囲をさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること 上記(1)イにおける検討と同様に、訂正事項2は、令和2年12月22日付け取消理由通知(決定の予告)で引用された引用文献1に記載された事項のみを除外するものであり、当該事項を除外することによって、本件特許明細書等から導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものとはいえないから、新たな技術的事項を導入しないものである。 したがって、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項2は、訂正前の請求項6の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3、4について ア 訂正の目的について 訂正事項3、4は、それぞれ訂正事項1、2に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、それぞれ本件特許明細書等の【0007】、【0010】の内容を訂正するものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項3、4は、それぞれ訂正事項1、2に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、訂正事項1、2と同様に、訂正事項3、4に係る訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項3、4は、それぞれ訂正事項1、2に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであり、いずれの訂正事項も、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。 5.小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合する。 したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 第2のとおり本件訂正請求が認められたことから、本件特許の請求項1?7に係る発明(以下「本件発明1?7」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 平滑剤として分子中にエステル結合を3つ以上有するエステル化合物、及び分子中に硫黄元素を有するエステル化合物から選ばれる少なくとも一種のエステル化合物を含み、ストレート給油に用いられる合成繊維用処理剤であって、前記合成繊維用処理剤中における水分量が0.1質量%?(0.8×100)/(100+300+0.8)質量%、0.5質量%?(1.8×100)/(100+200+1.8)質量%、(1.6×100)/(100+100+1.6)質量%?(1.0×100)/(100+10+1.0)質量%、(1.3×100)/(100+10+1.3)質量%、(1.7×100)/(100+10+1.7)質量%?2質量%、(2.6×100)/(100+10+2.6)質量%、又は(4.5×100)/(100+10+4.5)質量%?5質量%であることを特徴とする合成繊維用処理剤。 【請求項2】 さらに非イオン界面活性剤、及びイオン界面活性剤を含む請求項1に記載の合成繊維用処理剤。 【請求項3】 前記イオン界面活性剤が、2級アルカンスルホン酸化合物を含み、 前記平滑剤、前記非イオン界面活性剤、及び前記イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記2級アルカンスルホン酸化合物の含有割合が0.01?10質量%である請求項2に記載の合成繊維用処理剤。 【請求項4】 前記イオン界面活性剤が、有機リン酸エステル化合物を含み、 前記平滑剤、前記非イオン界面活性剤、及び前記イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記有機リン酸エステル化合物の含有割合が0.01?10質量%である請求項2又は3に記載の合成繊維用処理剤。 【請求項5】 前記平滑剤、前記非イオン界面活性剤、及び前記イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量部とすると、希釈剤を0.1?400質量部の割合で含む請求項2?4のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。 【請求項6】 前記合成繊維用処理剤中の水分量が0.5質量%?(1.8×100)/(100+200+1.8)質量%、(1.6×100)/(100+100+1.6)質量%?(1.0×100)/(100+10+1.0)質量%、(1.3×100)/(100+10+1.3)質量%、(1.7×100)/(100+10+1.7)質量%?2.0質量%である請求項1?5のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。 【請求項7】 請求項1?6のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤を、紡糸工程において、合成繊 維にストレート給油することを特徴とする合成繊維の製造方法。」 第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について 1.取消理由の概要 本件発明1?7に対して、当審が令和2年12月22日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 (1)理由1(特許法第29条第1項第3号:新規性) 請求項1?7に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (2)理由2(特許法第29条第2項:進歩性) 請求項1?7に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 [引用文献等一覧] 1.国際公開第2016/125577号(甲第1号証) 2.メルソラートH95の添付文書(甲第3号証) 3.HOSTAPUR SAS93の添付文書(甲第4号証) 4.特開2017-57345号公報(当審の職権調査で発見した文献) 2.当審の判断 (1)引用文献の記載事項、引用発明 引用文献1には、次の事項が記載されている。 「[0091] また、本発明の合成繊維用処理剤は、更に原液安定剤(例えば、水、エチレングリコール、プロピレングリコール)を含有してもよい。処理剤に占める原液安定剤の重量割合は、0.1?30重量%が好ましく、0.5?20重量%がさらに好ましい。」 「[0092] 本発明の合成繊維用処理剤は、不揮発分のみからなる前述の成分で構成されていてもよく、不揮発分と原液安定剤とから構成されてもよく、不揮発分を低粘度鉱物油で希釈したものでもよく、水中に不揮発分を乳化した水系エマルジョンであってもよい。本発明の合成繊維用処理剤が水中に不揮発分を乳化した水系エマルジョンの場合、不揮発分の濃度は5?35重量%が好ましく、6?30重量%がより好ましい。不揮発分を低粘度鉱物油で希釈した処理剤の粘度(30℃)は、繊維材料に均一に付与させる点から、3?120mm^(2)/sが好ましく、5?100mm^(2)/sがさらに好ましい。」 「[0100] 以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、ここに記載した実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例における「部」および「%」は、いずれも「重量部」および「重量%」を意味する。 [有機スルホン酸化合物(C)を含む原料X] (原料X-1) 有機スルホン酸化合物(C)を含む原料X-1として、HOSTAPUR SAS93(ヘキスト社製、有機スルホン酸化合物(C)93重量%)を用いた。原料X-1には、多量のボウ硝が含まれている。原料X-1に含まれる硫酸イオン(SO_(4)^(2-))及び塩素イオン(Cl^(-))の含有量(重量割合)をイオンクロマトグラフにて測定したところ、有機スルホン酸化合物(C)に対して、硫酸イオンは23950ppmであり、塩素イオンは62ppmであった。 [0101](原料X-2) 有機スルホン酸化合物(C)を含む原料X-2として、メルソラートH95(バイエル社製、有機スルホン酸化合物(C)95重量%)を用いた。原料X-2には、多量の塩化ナトリウムが含まれている。原料X-2に含まれる硫酸イオン(SO_(4)^(2-))及び塩素イオン(Cl^(-))の含有量(重量割合)をイオンクロマトグラフにて測定したところ、有機スルホン酸化合物(C)に対して、硫酸イオンは820ppmであり、塩素イオンは30170ppmであった。 [0102][有機スルホン酸化合物(C)を含む原料Yの調製] 有機スルホン酸化合物(C)を含む原料Y-1、Y-2は、上記原料X-1、X-2を精製し、無機物を除去することにより得ることができる。無機物の除去方法は公知の方法を用いることができ、実施例に示す精製方法に限定されない。 [0103](原料Y-1の調製) メタノール550部とイオン交換水400部を混合し、45±5℃で調温し、攪拌しながら上記の原料X-1 700部を徐々に投入し、完全に溶解させた。次にこの溶解液を室温で20時間静置し、ボウ硝を沈降させた。ボウ硝の含まれない上澄み液を取り出し、60?80℃で減圧蒸留を行い、メタノールと水の一部を除去し、有機スルホン酸化合物(C)を70重量%含む原料Y-1を得た。 原料Y-1に含まれる硫酸イオン(SO_(4)^(2-))及び塩素イオン(Cl^(-))の含有量(重量割合)をイオンクロマトグラフにて測定したところ、有機スルホン酸化合物(C)に対して、硫酸イオンは1085ppmであり、塩素イオンは60ppmであった。 [0104](原料Y-2の調製) イオン交換水600部を80±5℃に加温し、撹拌しながら上記の原料X-2 400部を徐々に投入し、完全に溶解させた。次にこの溶解液を40℃に冷却後、イオン交換樹脂を用いて塩化ナトリウムを除去し、有機スルホン酸化合物(C)を40重量%含む原料Y-2を得た。 原料Y-2に含まれる硫酸イオン(SO_(4)^(2-))及び塩素イオン(Cl^(-))の含有量(重量割合)をイオンクロマトグラフにて測定したところ、有機スルホン酸化合物(C)に対して、硫酸イオンは105ppmであり、塩素イオンは2115ppmであった。 [0105](実施例1?25、比較例1?17) 下記表1から表5に記載の成分を混合撹拌して、各実施例・比較例の合成繊維用処理剤の不揮発分を調製した。表1から表5における処理剤成分の各記号の詳細は、次の通りである。なお、表1?5の処理剤の不揮発分組成の数字は、処理剤の不揮発分に占める各成分(原料X、Yは、それらの不揮発分)の重量割合を示す。 A1-1 2-エチルヘキシルパルミテート A1-2 イソトリデシルステアレート A1-3 オレイルオレエート A1-4 オクチルドデシルステアレート A2-1 1,6-ヘキサンジオールジオレエート A2-2 ジオレイルアジペート A2-3 グリセリントリオレエート A2-4 トリメチルプロパントリラウレート A2-5 ペンタエリスリトールテトラオレエート A2-6 ジグリセリンテトラオレエート A2-7 ソルビタンテトラステアレート A3-1 ジオレイルチオジプロピオネート A3-2 ジイソセチルアルコールチオジプロピオネート A3-3 ヘキサンジオールジオクタデシルチオプロピオネート A3-4 トリメチロールプロパントリデシルチオプロピオネート B-1 ジグリセリンジオレエート B-2 グリセリンモノオレエート B-3 グリセリンモノステアレート B-4 ポリグリセリンジオレエート B-5 ソルビタンモノオレエート B-6 ソルビタンセスキオレエート D-1 ステアリルPOEOポリエーテル(PO/EO=50/50、分子量1600、ランダム付加) D-2 2-エチルヘキシルPOEOポリエーテル(PO/EO=60/40、分子量1700、ブロック付加) D-3 sec-C12,14アルキルPOEOポリエーテル(PO/EO=30/70、分子量650、ブロック付加) D-4 イソブチルPOEOポリエーテル(PO/EO=50/50、分子量1800、ランダム付加) D-5 ラウリルPOEOポリエーテル(PO/EO=25/75、分子量850、ランダム付加) E-1 C12,13アルキルPOE(3)デカネート E-2 C12,13アルキルPOEO(PO/EO=25/75)ラウレート E-3 デシルPOEO(PO/EO=25/75)オクタネート F-1 POE(25)硬化ヒマシ油エーテルとマレイン酸、ステアリン酸縮合物 F-2 POE(25)硬化ヒマシ油トリイソステアレート F-3 POE(20)硬化ヒマシ油エーテルトリオレエート F-4 POE(20)硬化ヒマシ油エーテル F-5 POE(20)グリセリントリオレエート H-1 ジグリセリン H-2 ソルビタン G-1 イソセチルホスフェート・ステアリルアミン塩 G-2 POE(3)C12,13ホスフェート・POE(10)ラウリルアミノエーテル塩 G-3 POE(3)C12,13ホスフェート・POE(3)オレイルアミノエーテル塩 G-4 イソステアリルホスフェート・ジブチルエタノールアミン塩」 「[0109]これらの処理剤不揮発分と炭素数13のパラフィンオイルを1:1の重量比で混合して合成繊維用処理剤を調製した。次に、470デシテックス、68フィラメントの丸断面ナイロン6,6フィラメントを溶融紡糸し、調製した処理剤をジェットノズル給油法により、得られた糸条に対して1重量%となるように付与した後、巻き取ることなく210℃で延伸倍率5倍にホットローラーを用いて多段熱延伸して巻き取り、エアバッグ用合成繊維フィラメントを得た。このエアバッグ用合成繊維フィラメントについて、下記評価方法にて、製糸時の延伸性、製糸時の延伸ローラー上での発煙量、製糸時の延伸ローラーの汚れ、原糸の処理剤脱落性を評価した。その結果を表1から表5に示す。」 「[0118][表1] [0119][表2] 」 上記の[0118][表1]に示された実施例6に着目すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。 「平滑成分(A)として、オクチルドデシルステアレート(A1-4)10重量%、トリメチロールプロパントリラウレート(A2-4)40重量%、ジオレイルチオジプロピオネート(A3-1)10重量%を含み、さらに、ソルビタンモノオレエート(B-5)10重量%、有機スルホン酸化合物(C)を40重量%含む原料(Y-2)1重量%、ラウリルPOEOポリエーテル(PO/EO=25/75、分子量850、ランダム付加)(D-5)20重量%、C12,13 アルキルPOEO(PO/EO=25/75)ラウレート(E-2)5重量%、POE(20)グリセリントリオレエート(F-5)7重量%、イソステアリルホスフェート・ジブチルエタノールアミン塩(G-4)2重量%を不揮発分として含み、不揮発分と炭素数13のパラフィンオイルを1:1の重量比で混合して調製した合成繊維用処理剤。」 また、上記の[0119][表2]に示された実施例11に着目すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。 「平滑成分(A)として、イソトリデシルステアレート(A1-2)5重量%、トリメチルプロパントリラウレート(A2-4)30重量%、ジイソセチルアルコールチオジプロピオネート(A3-2)20重量%を含み、さらに、ポリグリセリンジオレエート(B-4)20重量%、有機スルホン酸化合物(C)を70重量%含む原料(Y-1)1重量%、ラウリルPOEOポリエーテル(PO/EO=25/75、分子量850、ランダム付加)(D-5)12重量%、C12,13アルキルPOE(3)デカネート(E-1)5重量%、POE(20)グリセリントリオレエート(F-5)5重量%、イソセチルホスフェート・ステアリルアミン塩(G-1)2重量%を不揮発分として含み、不揮発分と炭素数13のパラフィンオイルを1:1の重量比で混合して調製した合成繊維用処理剤。」 (2)本件発明1について ア 引用発明1を主引用発明とした検討 (ア)対比 本件発明1と引用発明1とを対比する。 引用発明1の「トリメチロールプロパントリラウレート(A2-4)」、「ジオレイルチオジプロピオネート(A3-1)」はそれぞれ、本件発明1の「分子中にエステル結合を3つ以上有するエステル化合物」、「分子中に硫黄元素を有するエステル化合物」に相当するから、引用発明1の「平滑成分(A)として、オクチルドデシルステアレート(A1-4)10重量%、トリメチロールプロパントリラウレート(A2-4)40重量%、ジオレイルチオジプロピオネート(A3-1)10重量%を含」むことは、本件発明1の「平滑剤として分子中にエステル結合を3つ以上有するエステル化合物、及び分子中に硫黄元素を有するエステル化合物から選ばれる少なくとも一種のエステル化合物を含」むことに相当する。 また、本件特許明細書等には「ストレート給油」が「合成繊維用処理剤を低粘度鉱物油等の希釈剤で希釈又は希釈せずそのままの状態で付与する」ものであるとの記載があるところ(【0002】)、引用発明1の「合成繊維用処理剤」は、「不揮発分」を「炭素数13のパラフィンオイル」で希釈するものであるから、「ストレート給油に用いられる合成繊維用処理剤」といえる。 上記(1)の引用文献1の[0104]の記載から、原料Y-2には、有機スルホン酸化合物(C)40重量%とイオン交換水60重量%を含むものであるといえる。そして、引用発明1の「合成繊維用処理剤」は「不揮発分と炭素数13のパラフィンオイルを1:1の重量比で混合して調製した」ものであること、及び上記(1)の引用文献1の「合成繊維用処理剤は、更に原液安定剤(例えば、水、エチレングリコール、プロピレングリコール)を含有してもよい。」([0091])の記載から、実施例6に示される引用発明1の合成繊維用処理剤中には、イオン交換水が、(60重量%/40重量%)/(100+1×(60重量%/40重量%)+100)×100=約0.74重量%含まれるといえる。 そうすると、本件発明1と引用発明1とは、次の点で一致し、相違する。 [一致点] 「平滑剤として分子中にエステル結合を3つ以上有するエステル化合物、及び分子中に硫黄元素を有するエステル化合物から選ばれる少なくとも一種のエステル化合物を含み、ストレート給油に用いられる合成繊維用処理剤であることを特徴とする合成繊維用処理剤。」 [相違点1] 本件発明1は、「合成繊維用処理剤中における水分量が0.1質量%?(0.8×100)/(100+300+0.8)質量%、0.5質量%?(1.8×100)/(100+200+1.8)質量%、(1.6×100)/(100+100+1.6)質量%?(1.0×100)/(100+10+1.0)質量%、(1.3×100)/(100+10+1.3)質量%、(1.7×100)/(100+10+1.7)質量%?2質量%、(2.6×100)/(100+10+2.6)質量%、又は(4.5×100)/(100+10+4.5)質量%?5質量%である」のに対して、引用発明1は、合成繊維用処理剤中における水分量が約0.74重量%である点。 (イ)判断 相違点1について検討する。 上記(1)の引用文献1の[0102]、[0104]の記載から、引用発明1における水分量は、イオン交換水に由来するものであり、当該イオン交換水は、原料X-2を溶解させ、イオン交換樹脂を用いて無機物を除去して、Y-2を得るために投入される。 そうすると、本件発明1の課題である糸揺れの低減を図るために、引用発明1において、イオン交換樹脂により無機物を除去するために、原料X-2を溶解させるイオン交換水の量を変えて、相違点1に係る本件発明1の構成とする動機付けはない。 また、相違点1に係る本件発明1の構成は、引用文献1?4及び特開2015-28232号公報(甲第2号証)に記載されておらず、本件出願前において周知技術であるともいえない。 したがって、引用発明1において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 よって、本件発明1は、引用発明1ではなく、また、当業者が引用発明1に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 引用発明2を主引用発明とした検討 (ア)対比 引用発明2の「トリメチロールプロパントリラウレート(A2-4)」、「ジイソセチルアルコールチオジプロピオネート(A3-2)」はそれぞれ、本件発明1の「分子中にエステル結合を3つ以上有するエステル化合物」、「分子中に硫黄元素を有するエステル化合物」に相当するから、引用発明1の「平滑成分(A)として、イソトリデシルステアレート(A1-2)5重量%、トリメチルプロパントリラウレート(A2-4)30重量%、ジイソセチルアルコールチオジプロピオネート(A3-2)20重量%を含」むことは、本件発明1の「平滑剤として分子中にエステル結合を3つ以上有するエステル化合物、及び分子中に硫黄元素を有するエステル化合物から選ばれる少なくとも一種のエステル化合物を含」むことに相当する。 また、本件明細書には「ストレート給油」が「合成繊維用処理剤を低粘度鉱物油等の希釈剤で希釈又は希釈せずそのままの状態で付与する」ものであるとの記載があるところ(段落0002)、引用発明2の「合成繊維用処理剤」は、「不揮発分」を「炭素数13のパラフィンオイル」で希釈するものであるから、「ストレート給油に用いられる合成繊維用処理剤」といえる。 上記(1)の引用文献1の[0103]の記載から、原料Y-1には、有機スルホン酸化合物(C)70重量%とイオン交換水30重量%を含むものであるといえる。そして、引用発明2の「合成繊維用処理剤」は「不揮発分と炭素数13のパラフィンオイルを1:1の重量比で混合して調製した」ものであること、及び上記(1)の引用文献1の「合成繊維用処理剤は、更に原液安定剤(例えば、水、エチレングリコール、プロピレングリコール)を含有してもよい。」([0091])の記載から、実施例11に示される引用発明2の合成繊維用処理剤中には、イオン交換水が、(30重量%/70重量%)/(100+1×(30重量%/70重量%)+100)×100=約0.21重量%含まれるといえる。 そうすると、本件発明1と引用発明2とは、次の点で一致し、相違する。 [一致点] 「平滑剤として分子中にエステル結合を3つ以上有するエステル化合物、及び分子中に硫黄元素を有するエステル化合物から選ばれる少なくとも一種のエステル化合物を含み、ストレート給油に用いられる合成繊維用処理剤であることを特徴とする合成繊維用処理剤。」 [相違点2] 本件発明1は、「合成繊維用処理剤中における水分量が0.1質量%?(0.8×100)/(100+300+0.8)質量%、0.5質量%?(1.8×100)/(100+200+1.8)質量%、(1.6×100)/(100+100+1.6)質量%?(1.0×100)/(100+10+1.0)質量%、(1.3×100)/(100+10+1.3)質量%、(1.7×100)/(100+10+1.7)質量%?2質量%、(2.6×100)/(100+10+2.6)質量%、又は(4.5×100)/(100+10+4.5)質量%?5質量%である」のに対して、引用発明2は、合成繊維用処理剤中における水分量が約0.21重量%である点。 (イ)判断 相違点2について検討するに、上記ア(イ)における判断と同様に、引用発明2において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 よって、本件発明1は、引用発明2ではなく、また、当業者が引用発明2に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2?7について 本件発明2?7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(2)で検討したのと同じ理由により、引用発明1又は引用発明2ではなく、また、当業者が引用発明1又は引用発明2に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について 1.特許異議申立理由の概要 本件訂正前の請求項1?7に係る発明についての特許は、次のとおり特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 本件訂正前の請求項1?7に係る合成繊維用処理剤を、ポリエステル(ポリエチレンテレフタール)以外の合成繊維の製造に用いることは、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではない。 2.当審の判断 本件発明の課題は、「ストレート給油で合成繊維用処理剤を付与する紡糸工程において発生する糸揺れを低減することができる合成繊維用処理剤及び合成繊維の製造方法を提供する」(【0005】)ことである。 そして、「紡糸工程においてストレート給油する合成繊維用処理剤において、平滑剤として所定のエステル化合物を含み、所定の割合の水分を有することが正しく好適である」(【0006】)と記載されているように、「平滑剤として所定のエステル化合物を含み、所定の割合の水分を有する」ことで、課題を解決しようとするものである。 また、「合成繊維」に関して、「本実施形態の合成繊維の製造方法は、第1実施形態の処理剤を紡糸工程において合成繊維にストレート給油により付着させる工程を含む製造方法である。製造する合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ乳酸エステル等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維等が挙げられる。」(【0022】)と記載されている。 本件発明1は、「平滑剤として分子中にエステル結合を3つ以上有するエステル化合物、及び分子中に硫黄元素を有するエステル化合物から選ばれる少なくとも一種のエステル化合物を含み」、「前記合成繊維用処理剤中における水分量」を「0.1質量%?(0.8×100)/(100+300+0.8)質量%、0.5質量%?(1.8×100)/(100+200+1.8)質量%、(1.6×100)/(100+100+1.6)質量%?(1.0×100)/(100+10+1.0)質量%、(1.3×100)/(100+10+1.3)質量%、(1.7×100)/(100+10+1.7)質量%?2質量%、(2.6×100)/(100+10+2.6)質量%、又は(4.5×100)/(100+10+4.5)質量%?5質量%」とすることで、本件特許明細書等の【0022】に例示されたような合成繊維の製造方法において、糸揺れを低減することができるといえる。 したがって、訂正後の本件発明1?7が、当該発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではないから、本件発明1?7は、発明の詳細な説明に記載したものである。 第6 むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び申立人の主張する特許異議申立理由によっては、本件発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 合成繊維用処理剤及び合成繊維の製造方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、ストレート給油用設備を用いる合成繊維の紡糸工程における糸揺れを効果的に低減することができる合成繊維用処理剤及びかかる処理剤を付着させる合成繊維の製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 一般に、合成繊維の紡糸工程において、摩擦を低減し、糸切れ等の繊維の損傷を防止する観点から、合成繊維のフィラメント糸条の表面に合成繊維用処理剤を付着する処理が行われることがある。その付着処理の形態は、合成繊維用処理剤を水に希釈する場合(エマルション給油)と、合成繊維用処理剤を低粘度鉱物油等の希釈剤で希釈又は希釈せずそのままの状態で付与する場合(ストレート給油)がある。 【0003】 従来、特許文献1?4に開示される合成繊維用処理剤が知られている。特許文献1は、減圧処理により脱気した合成繊維用処理剤について開示する。特許文献2は、平滑剤、乳化剤、制電剤を含み、粘度が規定された合成繊維用処理剤について開示する。特許文献3は、鉱物油、脂肪酸エステル、高級アルコールのアルキレンオキシド付加物、高級脂肪族不飽和モノカルボン酸を含有した合成繊維用処理剤について開示する。特許文献4は、有機亜鉛化合物を含み、エステル化合物、ポリエーテル化合物、鉱物油のうち少なくとも1種を含む合成繊維用処理剤について開示する。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特開平11-158770号公報 【特許文献2】特開平6-57541号公報 【特許文献3】特開昭61-19871号公報 【特許文献4】特開2013-7141号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 ところが、これら従来の合成繊維用処理剤では、ストレート給油に用いられる時、紡糸工程における糸揺れの低減に十分に対応できていなかった。 本発明が解決しようとする課題は、ストレート給油で合成繊維用処理剤を付与する紡糸工程において発生する糸揺れを低減することができる合成繊維用処理剤及び合成繊維の製造方法を提供する処にある。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、紡糸工程においてストレート給油する合成繊維用処理剤において、平滑剤として所定のエステル化合物を含み、所定の割合の水分を有することが正しく好適であることを見出した。 【0007】 すなわち本発明の一態様は、平滑剤として分子中にエステル結合を3つ以上有するエステル化合物、及び分子中に硫黄元素を有するエステル化合物から選ばれる少なくとも一種のエステル化合物を含み、ストレート給油に用いられる合成繊維用処理剤であって、前記合成繊維用処理剤中における水分量が0.1質量%?(0.8×100)/(100+300+0.8)質量%、0.5質量%?(1.8×100)/(100+200+1.8)質量%、(1.6×100)/(100+100+1.6)質量%?(1.0×100)/(100+10+1.0)質量%、(1.3×100)/(100+10+1.3)質量%、(1.7×100)/(100+10+1.7)質量%?2質量%、(2.6×100)/(100+10+2.6)質量%、又は(4.5×100)/(100+10+4.5)質量%?5質量%であることを特徴とする合成繊維用処理剤が提供される。 【0008】 前記合成繊維用処理剤は、さらに非イオン界面活性剤、及びイオン界面活性剤を含むことが好ましい。 前記イオン界面活性剤が、2級アルカンスルホン酸化合物を含み、前記平滑剤、前記非イオン界面活性剤、及び前記イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記2級アルカンスルホン酸化合物の含有割合が0.01?10質量%であることが好ましい。 【0009】 前記イオン界面活性剤が、有機リン酸エステル化合物を含み、前記平滑剤、前記非イオン界面活性剤、及び前記イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記有機リン酸エステル化合物の含有割合が0.01?10質量%であることが好ましい。 【0010】 前記平滑剤、前記非イオン界面活性剤、及び前記イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量部とすると、希釈剤を0.1?400質量部の割合で含むことが好ましい。 前記合成繊維用処理剤中の水分量が0.5質量%?(1.8×100)/(100+200+1.8)質量%、(1.6×100)/(100+100+1.6)質量%?(1.0×100)/(100+10+1.0)質量%、(1.3×100)/(100+10+1.3)質量%、(1.7×100)/(100+10+1.7)質量%?2質量%であることが好ましい。 【0011】 本発明の別の態様は、前記合成繊維用処理剤を、紡糸工程において、合成繊維にストレート給油することを特徴とする合成繊維の製造方法が提供される。 【発明の効果】 【0012】 本発明によると、紡糸工程において発生する糸揺れを低減できる。 【発明を実施するための形態】 【0013】 (第1実施形態) 先ず、本発明に係る合成繊維用処理剤(以下、処理剤という)を具体化した第1実施形態について説明する。本実施形態の処理剤は、平滑剤として所定のエステル化合物を含み、ストレート給油に用いられる合成繊維用処理剤であって、処理剤中の水分量が0.1?5質量%のものである。好ましくは、さらに非イオン界面活性剤、及びイオン界面活性剤を含有し、水分量が0.1?5質量%のものである。さらに好ましくは、処理剤中の水分量が0.5?2.0質量%のものである。特に好ましくは、処理剤中の水分量が0.7?1.5質量%のものである。かかる構成により、本発明の効果、つまり紡糸工程において発生する糸揺れをより低減することができる。 【0014】 合成繊維用処理剤に含まれる水分量は、製造時や紡糸直前に合成繊維処理剤中に水を添加することにより調節してもよい、減圧、加熱のような一般的に知られる脱水方法によって水分量を調節してもよい。合成繊維用処理剤中に水分として添加される水は、工業用水や水道水等でもよく、イオン交換樹脂、膜、蒸留等で精製を行った水でもよく、処理剤構成物の原料中にその他成分等として持ち込まれる水でもよい。これらの中でも、水の電気伝導率が300μS/cm以下の水が好ましく、100μS/cm以下の水がより好ましく、10μS/cm以下の精製水がさらに好ましい。または、水の硬度(炭酸カルシウムとして)は100mg/L以下が好ましく、10mg/L以下がより好ましく、5mg/L以下がさらに好ましい。混合する水は、減圧のような公知の方法によって脱気されたものでも良く、大気中の酸素、窒素、二酸化炭素等を含んだものでもよい。また、pHは、中性付近、例えば5.5?8.0の範囲のものが好ましい。合成繊維用処理剤中の水分量は、水の添加量及び合成繊維処理剤の構成物質の原料中の水分量から計算して求めることができる。原料中の水分量が不明な場合は、カールフィッシャー滴定やガスクロマトグラフィーのような公知の分析方法から求めてもよい。 【0015】 本実施形態の処理剤に供する平滑剤としては、分子中にエステル結合を3つ以上有するエステル化合物、及び分子中に硫黄元素を有するエステル化合物から選ばれる少なくとも一種のエステル化合物を含むものが適用される。かかる構成により、本発明の効果、つまり紡糸工程において発生する糸揺れを低減することができる。また、ローラー汚れをより低減することができ、更に後加工工程においてより均一な染色ができる。分子中にエステル結合を3つ以上有するエステル化合物としては、例えば(1)トリメチロールプロパントリラウラート、トリメチロールプロパントリオレアート、グリセリントリオレアート、ペンタエリスリトールテトラオクタノアート、トリメチロールプロパン-ヤシ脂肪酸エステル等の多価アルコールと一価カルボン酸とのエステル化合物、(2)トリオクチルトリメリタート、クエン酸トリエチル等の多価カルボン酸と一価アルコールとのエステル化合物、(3)ひまし油、パーム油、ナタネ白絞油等の天然油脂等が挙げられる。これらのエステル化合物の中でもトリメチロールプロパン-ヤシ脂肪酸エステル、パーム油が好ましい。分子中に硫黄元素を有するエステル化合物は、例えば(4)ジイソセチルチオジプロピオナート、ジイソステアリルチオジプロピオナート、ジオレイルチオジプロピオナート等の二価カルボン酸と一価アルコールとのエステル化合物、(5)ラウリルメルカプトプロピオナート、オクチルメルカプトプロピオナート、ラウリルチオプロピオン酸オレイル等の1価カルボン酸と1価アルコールとのエステル化合物等が挙げられる。これらのエステル化合物の中でもジイソセチルチオジプロピオナート、ジイソステアリルチオジプロピオナートが好ましい。これらの成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。 【0016】 本実施形態の処理剤に供する非イオン界面活性剤の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)有機酸、有機アルコール、有機アミン、及び有機アミドから選ばれる少なくとも一種に炭素数2?4のアルキレンオキサイドを付加した化合物、より具体的には、例えばポリオキシエチレンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンラウリン酸エステルメチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシプロピレンラウリルエーテルメチルエーテル、ポリオキシブチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンラウロアミドエーテル等のエーテル型ノニオン界面活性剤、(2)ソルビタンモノオレアート、ソルビタントリオレアート、グリセリンモノラウラート等の多価アルコール部分エステル型ノニオン界面活性剤、(3)ポリエチレングリコールジオレアート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート、ポリオキシブチレンソルビタントリオレアート、ポリオキシエチレングリセリントリオレアート、ポリオキシプロピレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンプロピレン硬化ひまし油トリオレアート、ポリオキシエチレン硬化ひまし油トリラウラート、ひまし油のエチレンオキサイド(以下、EOという)付加物及び硬化ひまし油のEO付加物から選ばれる少なくとも1種の化合物と、モノカルボン酸及びジカルボン酸とを縮合させたエーテルエステル化合物等のポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤、(4)ジエタノールアミンモノラウロアミド等のアルキルアミド型ノニオン界面活性剤等が挙げられる。これらの成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。 【0017】 本実施形態の処理剤に供するイオン界面活性剤としては、アニオン界面活性剤が好ましい。本実施形態の処理剤に供するアニオン界面活性剤の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)オクタン酸カリウム塩、オレイン酸カリウム塩、アルケニルコハク酸カリウム塩等のカルボン酸石鹸型イオン界面活性剤、(2)2級アルカンスルホン酸ナトリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム塩等のスルホン酸エステル型イオン界面活性剤、(3)ポリオキシエチレンラウリル硫酸エステルナトリウム塩、ヘキサデシル硫酸カリウム塩、牛脂硫化油、ひまし油硫化油等の硫酸エステル型イオン界面活性剤等が挙げられる。アニオン界面活性剤の中でも、2級アルカンスルホン酸化合物、有機リン酸化合物を含有することが好ましい。2級アルカンスルホン酸化合物としては、特に、下記化1で示される2級アルカンスルホン酸塩がより好ましく、そのナトリウム塩がさらに好ましい。有機リン酸化合物としては、特にオレイルホスフェートEO5(EOの付加モル数を示す。以下同じ。)ステアリルアミノエーテル塩、イソセチルホスフェートEO10ラウリルアミノエーテル塩がより好ましい。これらの成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。 【0018】 【化1】 (化1において、 a,b:それぞれ0以上の整数であってa+b=5?17、 M:アルカリ金属、アンモニウム基、又は有機アミン基。) 本実施形態の処理剤は、さらに希釈剤を配合してもよい。本実施形態の処理剤に供する希釈剤の具体例としては、(1)キシレン、トルエン、ベンゼン、フェノール等の芳香族炭化水素、(2)アセトン、メチルエチルケトン等のケトン、(3)メタノール、エタノール、プロパノール、2-エチルヘキサノール、ドデカノール等のアルコール、(4)ヘキサン、へプタン、オクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、オクタデカン等の直鎖飽和炭化水素、(5)イソヘキサン、イソへプタン、イソオクタン、イソデカン、イソウンデカン、イソドデカン、イソトリデカン、イソテトラデカン、イソオクタデカン、イソエイコサン等の分岐炭化水素、(6)シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロドデカン、シクロオクタデカン、シクロイコサン等の環状飽和炭化水素、(7)メチルオクタート、エチルラウラート、プロピルパルミテート、イソブチルステアラート、ノルマルブチルステアラート等の低分子量エステル化合物、(8)パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、オレフィン系炭化水素、芳香族炭化水素のうち少なくとも一種から選ばれる鉱物油等の水以外の溶媒が挙げられる。これらの成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。希釈剤は、紡糸工程中に揮発させることが好ましく、紡糸前後で70質量%程度以上揮発していることがより好ましい。また、希釈剤は、合成繊維処理剤の製造時だけでなく紡糸直前に添加してもよい。これらの中でも40℃でレッドウッド粘度が100秒以下の鉱物油、直鎖飽和炭化水素(C10-C15)、イソブチルステアラート、ノルマルブチルステアラートが好ましい。 【0019】 本実施形態の処理剤において、上述した平滑剤の他、非イオン界面活性剤、及びイオン界面活性剤をさらに含む場合、各成分の含有比率に特に制限ない。本実施形態の処理剤がイオン界面活性剤として2級アルカンスルホン酸化合物を含む場合、平滑剤、非イオン界面活性剤、及びイオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、2級アルカンスルホン酸化合物の含有割合を0.01?10質量%とすることが好ましい。かかる構成により、本発明の効果、つまり紡糸工程において発生する糸揺れをより低減することができる。また、後加工工程においてより均一な染色ができる。 【0020】 本実施形態の処理剤がイオン界面活性剤として有機リン酸エステル化合物を含む場合、平滑剤、非イオン界面活性剤、及びイオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、有機リン酸エステル化合物の含有割合を0.01?10質量%とすることが好ましい。かかる構成により、本発明の効果、つまり紡糸工程において発生する糸揺れをより低減することができる。また、ローラー汚れをより低減することができ、更に後加工工程においてより均一な染色ができる。 【0021】 本実施形態の処理剤が希釈剤を含む場合、平滑剤、非イオン界面活性剤、及びイオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量部とすると、希釈剤を0.1?400質量部の割合で含有するものが好ましい。かかる配合量範囲に規定することにより、本発明の効果、つまり紡糸工程において発生する糸揺れを低減することができる。また、ローラー汚れをより低減することができ、更に後加工工程においてより均一な染色ができる。 【0022】 (第2実施形態) 次に、本発明による合成繊維の製造方法を具体化した第2実施形態を説明する。本実施形態の合成繊維の製造方法は、第1実施形態の処理剤を紡糸工程において合成繊維にストレート給油により付着させる工程を含む製造方法である。製造する合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ乳酸エステル等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維等が挙げられる。製造する合成繊維の繊度としては、特に制限はないが、好ましくは150デシテックス以上であり、さらに好ましくは500デシテックス以上であり、特に好ましいのは1000デシテックス以上である。また、製造する合成繊維の強度としては、特に制限はないが、好ましくは5.0cN/dtex以上であり、さらに好ましくは6.0cN/dtex以上、特に好ましくは7.0cN/dtex以上である。 【0023】 第1実施形態の処理剤を合成繊維に付着させる割合に特に制限はないが、第1実施形態の処理剤を合成繊維に対し0.1?3質量%(希釈剤と水を含まない)の割合となるよう付着させることが好ましい。かかる構成により、本発明の効果をより向上させる。また、第1実施形態の処理剤を付着させる方法は、特に制限はなく、例えばローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等の公知の方法を採用することができ、付着させる工程も紡糸工程であれば特に制限はなく、例えば延伸若しくは熱処理工程において、150℃以上のローラーを通過させる工程を有する製造設備、工程での使用により、発明の効果がより期待できる。 【0024】 上記実施形態の処理剤及びその製造方法によれば、以下のような効果を得ることができる。 上記実施形態の処理剤では、ストレート給油で用いられる処理剤において、平滑剤として所定のエステル化合物を含み、処理剤中に含有する水分量を規定した。したがって、合成繊維の紡糸工程においてゴデットローラーで発生する糸揺れを効果的に低減することができる。また、ゴデットローラー周りに発生するタール汚れを効果的に低減することができ、更に後加工工程において均一な染色を可能とする。それにより得られる本実施形態の合成繊維は、優れた工程通過性を発揮することができる。また、処理剤中にさらに非イオン界面活性剤、イオン界面活性剤を配合して構成した場合、上記効果をより向上させる。 【0025】 なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。 ・本実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤や制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常合成繊維の処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。 【実施例】 【0026】 以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。 【0027】 試験区分1(合成繊維用処理剤の調整) ・合成繊維用処理剤(実施例1)の調整 平滑剤としてトリメチロールプロパン-ヤシ脂肪酸エステル(L-1)を50部、ジイソステアリルチオジプロピオナート(LS-1)を5部、非イオン界面活性剤として硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加したもの(N-1)10部、硬化ひまし油1モルに対しEO20モル付加したものをオレイン酸3モルでエステル化した化合物(N-3)10部、硬化ひまし油1モルに対しEO25モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物(MW5000)(N-6)5部、ポリエチレングリコール(分子量600)ジオレアート(N-7)10部、イオン界面活性剤として上記化1の構造の2級アルカンスルホン酸ナトリウム(a+b=8?11)(S-1)5部、オレイルホスフェート(EO5)ステアリルアミノエーテル塩(P-1)5部を均一混合し、混合物を得た。 【0028】 さらに、前記混合物を100質量部としたとき1.00質量部のイオン交換水、次いで希釈剤として直鎖飽和炭化水素(C12-15)(M-1)10質量部を加えて均一混合し、処理剤中における水分が0.9%となるように実施例1の合成繊維用処理剤を調製した。使用したイオン交換水は、電気伝導率が0.2μS/cmで硬度が0mg/Lのものを使用した。 【0029】 ・合成繊維用処理剤(実施例2)の調製 実施例1の合成繊維処理剤と同様の方法にて調製した。但し、表1の原料以外に酸化防止剤として1,1,3-トリス(2-メチル-4-ハイドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタンを希釈剤添加前の処理剤100部に対し0.8部の割合で添加した。 【0030】 ・合成繊維用処理剤(実施例3?8及び比較例1?3)の調製 実施例1の合成繊維処理剤の調製と同様に、実施例3?8及び比較例1?3の合成繊維用処理剤を調製し、結果を表1に示した。なお、表1においては、合成繊維用処理剤中における各成分の種類を示すとともに、希釈剤及び水以外の成分を100%とした場合の配合比率(%)を示す。また、合成繊維用処理剤中における希釈剤及び水以外の成分を100部とした場合の希釈剤及び水の添加率(部)を示す。また、処理剤中における水の含有量(%)を示す。 【0031】 【表1】 表1において、 L-1:トリメチロールプロパン-ヤシ脂肪酸エステル、 L-2:パーム油、 LS-1:ジイソステアリルチオジプロピオナート、 LS-2:ジイソセチルチオジプロピオナート、 rL-1:イソステアリルオレアート、 N-1:硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加したもの、 N-2:硬化ひまし油1モルに対しEO20モル付加したもの、 N-3:硬化ひまし油1モルにEO20モル付加したものをオレイン酸3モルでエステル化した化合物、 N-4:硬化ひまし油1モルにEO40モル付加したものをオレイン酸2モルでエステル化した化合物、 N-5:ひまし油1モルにEO25モル付加したものをラウリン酸3モルでエステル化した化合物、 N-6:硬化ひまし油1モルに対しEO25モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物(MW5000)、 N-7:ポリエチレングリコール(分子量600)ジオレアート、 N-8:ソルビタンモノオレアート、 S-1:2級アルカンスルホン酸ナトリウム(上記[化1]においてa+b=8?11)、 S-2:2級アルカンスルホン酸ナトリウム(上記[化1]においてa+b=11?14)、 rS-1:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、 P-1:オレイルホスフェート(EO5)ステアリルアミノエーテル塩、 P-2:イソセチルホスフェート(EO10)ラウリルアミノエーテル塩、 M-1:直鎖飽和炭化水素(C12-15)、 M-2:鉱物油(40℃でレッドウッド粘度が80秒)、 M-3:イソブチルステアラート、 M-4:ノルマルブチルステアラート、 を示す。 【0032】 試験区分2(合成繊維処理剤の評価) ・耐熱性タールの評価 ポリエチレンテレフタレートのチップを常法により乾燥した後、エクストルーダーを用いて溶融紡糸し、口金から吐出して冷却固化した後の走行糸条に、前記処理剤を、計量ポンプを用いたガイド給油法にて付着させた。合成繊維処理剤の付着量が0.6質量%(希釈剤、水を含まない)となるように給油した。その後、ガイドで集束させて、245℃の延伸ロール、弛緩ロールを介して全延伸倍率5.5倍となるように延伸し、1100デシテックス192フィラメントの延伸糸を10kg捲きチーズとして得た。耐熱性(タール)について、48時間紡糸した後のゴデットローラー(GR)の汚れ(タール)として下記のように評価した。結果を表1に示す。 【0033】 ・GR汚れの評価基準 ◎:汚れ(タール)がほとんど認められない。 ○:汚れ(タール)がわずかに認められる。 ×:汚れ(タール)が認められる。 【0034】 ・糸揺れの評価 前記紡糸工程において、ゴデットローラー上での糸揺れを観察し、次の基準で評価した。結果を表1に示す。 【0035】 ・糸揺れの評価基準 ◎:ローラー上での糸揺れが認められない。 ○:ローラー上での糸揺れがわずかに認められる。 ×:ローラー上での糸揺れが認められる。 【0036】 ・染色性の評価 前記の紡糸工程において得られた繊維360本を経糸とし、緯糸として560デシテックス-96フィラメントのポリエステル糸を用いて緯糸密度21本/インチで51mm幅のシートベルト用生機を用い、精錬することなしに以下の染液(水1Lに対してDianix Red S-4G 3.4g、Dianix Yellow S-6G 3.3g、Dianix S-2G 3.3gを添加した溶液)に浸漬させ、連続して220℃の発色槽で2分間の処理を行うことにより染色を行った。この時のシートベルト2000m当たりの染色欠点数から以下の基準により染色性を評価した。結果を表1に示す。 【0037】 ・染色性の評価基準 ◎:染色欠点数0?3。 ○:染色欠点数4?10。 ×:染色欠点数11以上。 【0038】 表1の結果からも明らかなように、各実施例の合成繊維処理剤は、糸揺れ、ローラー汚れ、染色性の評価がいずれも良好であった。本発明によれば、合成繊維の紡糸工程において、ゴデットローラー上での糸揺れ、ゴデットローラーの汚れを低減し、染色性の良好な合成繊維を得ることができるという効果が生じる。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 平滑剤として分子中にエステル結合を3つ以上有するエステル化合物、及び分子中に硫黄元素を有するエステル化合物から選ばれる少なくとも一種のエステル化合物を含み、ストレート給油に用いられる合成繊維用処理剤であって、前記合成繊維用処理剤中における水分量が0.1質量%?(0.8×100)/(100+300+0.8)質量%、0.5質量%?(1.8×100)/(100+200+1.8)質量%、(1.6×100)/(100+100+1.6)質量%?(1.0×100)/(100+10+1.0)質量%、(1.3×100)/(100+10+1.3)質量%、(1.7×100)/(100+10+1.7)質量%?2質量%、(2.6×100)/(100+10+2.6)質量%、又は(4.5×100)/(100+10+4.5)質量%?5質量%であることを特徴とする合成繊維用処理剤。 【請求項2】 さらに非イオン界面活性剤、及びイオン界面活性剤を含む請求項1に記載の合成繊維用処理剤。 【請求項3】 前記イオン界面活性剤が、2級アルカンスルホン酸化合物を含み、 前記平滑剤、前記非イオン界面活性剤、及び前記イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記2級アルカンスルホン酸化合物の含有割合が0.01?10質量%である請求項2に記載の合成繊維用処理剤。 【請求項4】 前記イオン界面活性剤が、有機リン酸エステル化合物を含み、 前記平滑剤、前記非イオン界面活性剤、及び前記イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記有機リン酸エステル化合物の含有割合が0.01?10質量%である請求項2又は3に記載の合成繊維用処理剤。 【請求項5】 前記平滑剤、前記非イオン界面活性剤、及び前記イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量部とすると、希釈剤を0.1?400質量部の割合で含む請求項2?4のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。 【請求項6】 前記合成繊維用処理剤中の水分量が0.5質量%?(1.8×100)/(100+200+1.8)質量%、(1.6×100)/(100+100+1.6)質量%?(1.0×100)/(100+10+1.0)質量%、(1.3×100)/(100+10+1.3)質量%、(1.7×100)/(100+10+1.7)質量%?2質量%である請求項1?5のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。 【請求項7】 請求項1?6のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤を、紡糸工程において、合成繊維にストレート給油することを特徴とする合成繊維の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-06-25 |
出願番号 | 特願2018-233077(P2018-233077) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(D06M)
P 1 651・ 121- YAA (D06M) P 1 651・ 113- YAA (D06M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 鈴木 祐里絵、河島 拓未、松岡 美和 |
特許庁審判長 |
井上 茂夫 |
特許庁審判官 |
藤井 眞吾 藤原 直欣 |
登録日 | 2019-05-31 |
登録番号 | 特許第6533002号(P6533002) |
権利者 | 竹本油脂株式会社 |
発明の名称 | 合成繊維用処理剤及び合成繊維の製造方法 |
代理人 | 恩田 誠 |
代理人 | 恩田 博宣 |
代理人 | 恩田 博宣 |
代理人 | 恩田 誠 |