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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01M 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01M |
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管理番号 | 1376730 |
異議申立番号 | 異議2020-700353 |
総通号数 | 261 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-09-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-05-20 |
確定日 | 2021-07-01 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6607670号発明「正極活物質、その製造方法、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6607670号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について」)訂正することを認める。 特許第6607670号の請求項1-10に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6607670号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成26年10月30日を出願日とする出願であって、令和 1年11月 1日にその特許権の設定登録がされ、同年11月20日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許について、令和 2年 5月20日付けで、特許異議申立人金澤毅(以下、「申立人」という。)により、本件の全請求項(請求項1?10)に係る特許について特許異議の申立てがなされ、同年 8月31日付けで取消理由が通知され、同年10月30日に特許権者から意見書が提出され、さらに、同年11月20日に特許権者から上申書が提出され、同年12月 4日に特許権者との面接が行われ、同年12月24日に特許権者から上申書が提出され、令和 3年 1月25日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、特許権者により同年 3月25日に意見書が提出されるとともに、訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、申立人により同年 5月13日に意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正請求の趣旨、及び、訂正の内容 (1)訂正請求の趣旨 本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許第6607670号の特許請求の範囲を、令和 3年 3月25日提出の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?10について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。 (2)訂正の内容 ア 訂正事項1 請求項1について、本件訂正前の「Li、Ni、Co、MnおよびWを含む正極活物質であり、」と記載されているのを、「Li、Ni、Co、Mn、WおよびMからなる正極活物質であり、」に訂正し、本件訂正前の「W の割合が、 0モル%超 5モル%以下であり、」と「Wが前記正極活物質の内部よりも前記正極活物質の表層に偏在しており、」の間に「M の割合が、 0モル%以上 5モル%以下であり、 MはMg、Ba、Sr、Al、Cr、Fe、Ti、Zr、Y、Nb、Mo、Ta、Ce、Laからなる群から選ばれる1以上の金属元素であり、」を挿入する。 請求項1を引用する請求項2、7、9?10も同様に訂正する。 イ 訂正事項2 請求項3について、本件訂正前の「Caをさらに含む正極活物質であり、 Caの割合が、 0モル%超 3モル%以下である、請求項1に記載の正極活物質。」とあるのを「Li、Ni、Co、Mn、W、CaおよびMからなる正極活物質であり、 前記正極活物質に含まれるLi以外の金属元素の合計を100モル%としたとき、 Niの割合が、30モル%以上60モル%以下であり、 Coの割合が、15モル%以上35モル%以下であり、 Mnの割合が、15モル%以上35モル%以下であり、 W の割合が、 0モル%超 5モル%以下であり、 Caの割合が、 0モル%超 3モル%以下であり、 M の割合が、 0モル%以上 5モル%以下であり、 MはMg、Ba、Sr、Al、Cr、Fe、Ti、Zr、Y、Nb、Mo、Ta、Ce、Laからなる群から選ばれる1以上の金属元素であり、 WおよびCaが前記正極活物質の内部よりも前記正極活物質の表層に偏在しており、 W含有結晶性化合物およびCa含有結晶性化合物を含まず、下記W_(b)に対する下記W_(s)の比(W_(s)/W_(b))が、5?20であることを特徴とする正極活物質。 W_(s):正極活物質の表層を除去する前の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するW原子濃度の比(W/Mn)。 W_(b):C_(60)フラーレンを用いたスパッタリングによって正極活物質の表層を除去した後の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するW原子濃度の比(W/Mn)。 但し、前記スパッタリングは、Siウェハの表面に形成された熱酸化SiO_(2)膜を用いて求めたスパッタリング速度が1.4nm/分となる条件で30分間実施するものとする。」に訂正する。 請求項3を引用する請求項4、8?10も同様に訂正する。 ウ 訂正事項3 請求項5について、本件訂正前の「Caをさらに含み、 前記正極活物質に含まれるLi以外の金属元素の合計を100モル%としたとき、 W の割合が、0モル%超3モル%以下であり、 Caの割合が、0モル%超3モル%以下であり、 Caが前記正極活物質の内部よりも前記正極活物質の表層に偏在しており、 W含有結晶性化合物およびCa含有結晶性化合物を含まない、請求項1又は2に記載の正極活物質。」とあるのを「Li、Ni、Co、Mn、W、CaおよびMからなる正極活物質であり、 前記正極活物質に含まれるLi以外の金属元素の合計を100モル%としたとき、 Niの割合が、30モル%以上60モル%以下であり、 Coの割合が、15モル%以上35モル%以下であり、 Mnの割合が、15モル%以上35モル%以下であり、 W の割合が、 0モル%超 3モル%以下であり、 Caの割合が、 0モル%超 3モル%以下であり、 M の割合が、 0モル%以上 5モル%以下であり、 MはMg、Ba、Sr、Al、Cr、Fe、Ti、Zr、Y、Nb、Mo、Ta、Ce、Laからなる群から選ばれる1以上の金属元素であり、 WおよびCaが前記正極活物質の内部よりも前記正極活物質の表層に偏在しており、 W含有結晶性化合物およびCa含有結晶性化合物を含まず、下記W_(b)に対する下記W_(s)の比(W_(s)/W_(b))が、5?20であることを特徴とする正極活物質。 W_(s):正極活物質の表層を除去する前の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するW原子濃度の比(W/Mn)。 W_(b):C_(60)フラーレンを用いたスパッタリングによって正極活物質の表層を除去した後の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するW原子濃度の比(W/Mn)。 但し、前記スパッタリングは、Siウェハの表面に形成された熱酸化SiO_(2)膜を用いて求めたスパッタリング速度が1.4nm/分となる条件で30分間実施するものとする。」に訂正する。 請求項5を引用する請求項6、8?10も同様に訂正する。 2 当審の判断 (1)訂正事項1について ア 訂正事項1は、請求項1について、本件訂正前の「Li、Ni、Co、MnおよびWを含む正極活物質であり、」と記載されているのを、「Li、Ni、Co、Mn、WおよびMからなる正極活物質であり、」に訂正し、本件訂正前の「W の割合が、 0モル%超 5モル%以下であり、」と「Wが前記正極活物質の内部よりも前記正極活物質の表層に偏在しており、」の間に「M の割合が、 0モル%以上 5モル%以下であり、 MはMg、Ba、Sr、Al、Cr、Fe、Ti、Zr、Y、Nb、Mo、Ta、Ce、Laからなる群から選ばれる1以上の金属元素であり、」を挿入することにより、正極活物質の成分組成を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)には、以下の記載がある(なお、「・・・」は記載の省略を表し、下線は当審が付したものである。以下同様。)。 「【0014】 <正極活物質> (金属組成) 本発明の正極活物質(以下、本活物質と記す。)は、Li、Ni、Co、MnおよびWを必須元素として含み、Caをさらに含んでいてもよい。また、本活物質は、必要に応じて、Li、Ni、Co、Mn、WおよびCa以外の他の金属元素Mを含んでいてもよい。・・・」 「【0022】 Li、Ni、Co、Mn、WおよびCa以外の他の金属元素Mとしては、Mg、Ba、Sr、Al、Cr、Fe、Ti、Zr、Y、Nb、Mo、Ta、Ce、La等が挙げられる。・・・ 他の金属元素Mの割合は、0?5モル%が好ましく、0?2モル%がより好ましく、0?1モル%がさらに好ましい。」 そして、訂正事項1に係る訂正により請求項1に挿入された、正極活物質が金属元素Mを含むこと及び金属元素Mの割合及び元素についての記載は、上記【0014】及び【0022】の下線部に記載の事項を根拠にするものである。 したがって、訂正事項1に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前の請求項1に記載の正極活物質の成分組成をさらに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (2)訂正事項2について ア 訂正事項2は、他の請求項の記載を引用する請求項3の記載を当該請求項の記載を引用しないものとするものであり、さらに、正極活物質の成分組成及び存在状態を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。 イ 訂正事項2に係る訂正により請求項3に追加された、正極活物質が金属元素Mを含むこと及び金属元素Mの割合及び元素についての記載は、上記(1)のイで摘示した【0014】及び【0022】の下線部に記載の事項を根拠にするものである。 したがって、訂正事項2に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 訂正事項2に係る訂正は、請求項3に記載の正極活物質の成分組成及び存在状態をさらに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (3)訂正事項3について ア 訂正事項3は、他の請求項の記載を引用する請求項5の記載を当該請求項の記載を引用しないものとするものであり、さらに、正極活物質の成分組成及び存在状態を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。 イ 訂正事項3に係る訂正により請求項5に追加された、正極活物質が金属元素Mを含むこと及び金属元素Mの割合及び元素についての記載は、上記(1)のイで摘示した【0014】及び【0022】の下線部に記載の事項を根拠にするものである。 したがって、訂正事項3に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 訂正事項3に係る訂正は、請求項5に記載の正極活物質の成分組成及び存在状態をさらに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (4)一群の請求項について ア 本件訂正前の請求項1?10について、請求項2?10はそれぞれ請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。よって、本件訂正前の請求項1?10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 イ また、本件訂正前の請求項3?4、8?10について、請求項4、8?10はそれぞれ請求項3を引用するものであって、訂正事項2によって訂正される請求項3に連動して訂正されるものである。よって、本件訂正前の請求項3?4、8?10も、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 ウ さらに、本件訂正前の請求項5?6、8?10について、請求項6、8?10はそれぞれ請求項5を引用するものであって、訂正事項3によって訂正される請求項5に連動して訂正されるものである。よって、本件訂正前の請求項5?6、8?10も、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 エ そして、上記ア?ウに示した3つの一群の請求項は、請求項9?10において共通するから、これら3つの一群の請求項は組み合わされてひとつの一群の請求項とみなされる。 オ したがって、訂正前の請求項1?10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 (5)独立して特許を受けることができるかについて 本件特許異議の申立ては、全請求項(請求項1?10)を対象に申し立てられたものであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件は課されない。 (6)小括 以上のとおりであるから、令和 3年 3月25日に特許権者によって請求された本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2で検討したとおり、本件訂正は適法になされたものであるから、請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明10」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。なお、下線は訂正された箇所を表す。 「【請求項1】 Li、Ni、Co、Mn、WおよびMからなる正極活物質であり、 前記正極活物質に含まれるLi以外の金属元素の合計を100モル%としたとき、 Niの割合が、30モル%以上60モル%以下であり、 Coの割合が、15モル%以上35モル%以下であり、 Mnの割合が、15モル%以上35モル%以下であり、 W の割合が、 0モル%超 5モル%以下であり、 M の割合が、 0モル%以上 5モル%以下であり、 MはMg、Ba、Sr、Al、Cr、Fe、Ti、Zr、Y、Nb、Mo、Ta、Ce、Laからなる群から選ばれる1以上の金属元素であり、 Wが前記正極活物質の内部よりも前記正極活物質の表層に偏在しており、 W含有結晶性化合物を含まず、下記W_(b)に対する下記W_(s)の比(W_(s)/W_(b))が、5?20であることを特徴とする正極活物質。 W_(s):正極活物質の表層を除去する前の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するW原子濃度の比(W/Mn)。 W_(b):C_(60)フラーレンを用いたスパッタリングによって正極活物質の表層を除去した後の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するW原子濃度の比(W/Mn)。 但し、前記スパッタリングは、Siウェハの表面に形成された熱酸化SiO_(2)膜を用いて求めたスパッタリング速度が1.4nm/分となる条件で30分間実施するものとする。 【請求項2】 前記正極活物質に含まれるLi以外の金属元素Meの総モル数に対するLiのモル数の比(Li/Me)が、1?1.3である、請求項1に記載の正極活物質。 【請求項3】 Li、Ni、Co、Mn、W、CaおよびMからなる正極活物質であり、 前記正極活物質に含まれるLi以外の金属元素の合計を100モル%としたとき、 Niの割合が、30モル%以上60モル%以下であり、 Coの割合が、15モル%以上35モル%以下であり、 Mnの割合が、15モル%以上35モル%以下であり、 W の割合が、 0モル%超 5モル%以下であり、 Caの割合が、 0モル%超 3モル%以下であり、 M の割合が、 0モル%以上 5モル%以下であり、 MはMg、Ba、Sr、Al、Cr、Fe、Ti、Zr、Y、Nb、Mo、Ta、Ce、Laからなる群から選ばれる1以上の金属元素であり、 WおよびCaが前記正極活物質の内部よりも前記正極活物質の表層に偏在しており、 W含有結晶性化合物を含まず、下記W_(b)に対する下記W_(s)の比(W_(s)/W_(b))が、5?20であることを特徴とする正極活物質。 W_(s):正極活物質の表層を除去する前の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するW原子濃度の比(W/Mn)。 W_(b):C_(60)フラーレンを用いたスパッタリングによって正極活物質の表層を除去した後の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するW原子濃度の比(W/Mn)。 但し、前記スパッタリングは、Siウェハの表面に形成された熱酸化SiO_(2)膜を用いて求めたスパッタリング速度が1.4nm/分となる条件で30分間実施するものとする。 【請求項4】 前記正極活物質に含まれるLi以外の金属元素Meの総モル数に対するLiのモル数の比(Li/Me)が、1?1.3である、請求項3に記載の正極活物質。 【請求項5】 Li、Ni、Co、Mn、W、CaおよびMからなる正極活物質であり、 前記正極活物質に含まれるLi以外の金属元素の合計を100モル%としたとき、 Niの割合が、30モル%以上60モル%以下であり、 Coの割合が、15モル%以上35モル%以下であり、 Mnの割合が、15モル%以上35モル%以下であり、 W の割合が、 0モル%超 3モル%以下であり、 Caの割合が、 0モル%超 3モル%以下であり、 M の割合が、 0モル%以上 5モル%以下であり、 MはMg、Ba、Sr、Al、Cr、Fe、Ti、Zr、Y、Nb、Mo、Ta、Ce、Laからなる群から選ばれる1以上の金属元素であり、 WおよびCaが前記正極活物質の内部よりも前記正極活物質の表層に偏在しており、 W含有結晶性化合物を含まず、下記W_(b)に対する下記W_(s)の比(W_(s)/W_(b))が、5?20であることを特徴とする正極活物質。 W_(s):正極活物質の表層を除去する前の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するW原子濃度の比(W/Mn)。 W_(b):C_(60)フラーレンを用いたスパッタリングによって正極活物質の表層を除去した後の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するW原子濃度の比(W/Mn)。 但し、前記スパッタリングは、Siウェハの表面に形成された熱酸化SiO_(2)膜を用いて求めたスパッタリング速度が1.4nm/分となる条件で30分間実施するものとする。 【請求項6】 下記Ca_(b)に対する下記Ca_(s)の比(Ca_(s)/Ca_(b))が、5?20である、請求項5に記載の正極活物質。 Ca_(s):正極活物質の表層を除去する前の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するCa原子濃度の比(Ca/Mn)。 Ca_(b):C_(60)フラーレンを用いたスパッタリングによって正極活物質の表層を除去した後の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するCaの原子濃度の比(Ca/Mn)。 但し、前記スパッタリングは、Siウェハの表面に形成された熱酸化SiO_(2)膜を用いて求めたスパッタリング速度が1.4nm/分となる条件で30分間実施するものとする。 【請求項7】 Niを30モル%以上60モル%以下、Coを15モル%以上35モル%以下、Mnを15モル%以上35モル%以下で含有する水酸化物とリチウム化合物とを混合し、得られた第1の混合物を500?700℃で仮焼成する工程と、 得られた仮焼成物とタングステン化合物の水溶液とを混合し、得られた第2の混合物を800?1000℃で本焼成する工程と を有する、請求項1又は2に記載の正極活物質の製造方法。 【請求項8】 Niを30モル%以上60モル%以下、Coを15モル%以上35モル%以下、Mnを15モル%以上35モル%以下で含有する水酸化物とリチウム化合物とを混合し、得られた第1の混合物を500?700℃で仮焼成する工程と、 得られた仮焼成物とタングステン化合物の水溶液とを混合した後、さらにカルシウム化合物を混合し、得られた第2の混合物を800?1000℃で本焼成する、または 得られた仮焼成物とカルシウム化合物とを混合した後、さらにタングステン化合物の水溶液を混合し、得られた第2の混合物を800?1000℃で本焼成する工程と を有する、請求項3?6のいずれか1項に記載の正極活物質の製造方法。 【請求項9】 請求項1?6のいずれか一項に記載の正極活物質を含む、リチウムイオン二次電池用正極。 【請求項10】 請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用正極を有する、リチウムイオン二次電池。」 第4 申立理由の概要 1 申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証を提出し、以下の理由により、本件発明は取り消されるべきものである旨主張している。 (1)申立理由1(サポート要件) 本件発明1?10については、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、その特許は取り消されるべきものである(取消理由として一部採用)。 (2)申立理由2(明確性要件) 本件発明1?10については、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、その特許は取り消されるべきものである(取消理由として不採用)。 (3)申立理由3(実施可能要件) 本件発明1?10については、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、その特許は取り消されるべきものである(取消理由として一部採用)。 2 証拠方法 (1)甲第1号証:「粉末X線解析の実際-リートベルト法入門-」、2004年8月10日、(社)日本分析化学会X線分析研究懇談会、25?43頁 第5 令和 2年 8月31日付けで通知した取消理由の概要 1 サポート要件について(申立理由1を一部採用) (1)本件訂正前の請求項1、2、7、9?10に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないので、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 (2)本件訂正前の請求項3?5、8?10に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないので、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 2 実施可能要件について(申立理由3を一部採用) 本件訂正前の請求項1に係る発明及びこれを直接又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2?10に係る発明は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、その特許は取り消されるべきものである。 第6 令和 3年 1月25日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要 上記第5に示した取消理由は、特許権者から提出された令和 2年10月30日付け意見書、同年11月20日付け上申書及び同年12月24日付け上申書によって解消された上記第5の「2 実施可能要件について」の取消理由を除いて解消していないため、令和 3年 1月25日付けで次の取消理由(決定の予告)を通知した。 1 サポート要件について(申立理由1を一部採用) (1)本件訂正前の請求項1?5、7?10に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないので、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 (2)本件訂正前の請求項1?10に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないので、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 第7 当審の判断 1 令和 3年 1月25日付けで通知した取消理由(決定の予告)(サポート要件)について ア 本件明細書には、以下の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、正極活物質、該正極物質の製造方法、該正極活物質を含むリチウムイオン二次電池用正極、および該正極を有するリチウムイオン二次電池に関する。」 「【0005】 しかし、(1)、(2)の正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、出力特性およびサイクル特性ともに、いまだ不充分である。 ・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明は、リチウムイオン二次電池の出力特性およびサイクル特性をさらに向上できる正極活物質、正極活物質の製造方法、該正極活物質を含むリチウムイオン二次電池用正極、および該正極を有するリチウムイオン二次電池の提供を目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明は、下記の[1]?[10]の態様を有する。 [1]Li、Ni、Co、MnおよびWを含む正極活物質であり、前記正極活物質に含まれるLi以外の金属元素の合計を100モル%としたとき、Niの割合が、30モル%以上60モル%以下であり、Coの割合が、15モル%以上35モル%以下であり、Mnの割合が、15モル%以上35モル%以下であり、Wの割合が、0モル%超5モル%以下であり、Wが前記正極活物質の内部よりも前記正極活物質の表層に偏在しており、W含有結晶性化合物を含まないことを特徴とする正極活物質。 [2]下記W_(b)に対する下記W_(s)の比(W_(s)/W_(b))が、5?20である、[1]の正極活物質。 W_(s):正極活物質の表層を除去する前の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するW原子濃度の比(W/Mn)。 W_(b):C_(60)フラーレンを用いたスパッタリングによって正極活物質の表層を除去した後の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するW原子濃度の比(W/Mn)。 [3]前記正極活物質に含まれるLi以外の金属元素Meの総モル数に対するLiのモル数の比(Li/Me)が、1?1.3である、[1]または[2]の正極活物質。 【0009】 [4]Caをさらに含み、前記正極活物質に含まれるLi以外の金属元素の合計を100モル%としたとき、Wの割合が、0モル%超3モル%以下であり、Caの割合が、0モル%超3モル%以下であり、Caが前記正極活物質の内部よりも前記正極活物質の表層に偏在しており、WおよびCa含有結晶性化合物を含まない、[1]?[3]のいずれかの正極活物質。 [5]下記Ca_(b)に対する下記Ca_(s)の比(Ca_(s)/Ca_(b))が、5?20である、[4]の正極活物質。 Ca_(s):正極活物質の表層を除去する前の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するCa原子濃度の比(Ca/Mn)。 Ca_(b):C_(60)フラーレンを用いたスパッタリングによって正極活物質の表層を除去した後の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するCaの原子濃度の比(Ca/Mn)。・・・」 「【0014】 <正極活物質> (金属組成) 本発明の正極活物質(以下、本活物質と記す。)は、Li、Ni、Co、MnおよびWを必須元素として含み、Caをさらに含んでいてもよい。また、本活物質は、必要に応じて、Li、Ni、Co、Mn、WおよびCa以外の他の金属元素Mを含んでいてもよい。 以下の各元素の割合は、本活物質に含まれるLi以外の金属元素の合計を100モル%としたときの割合である。 ・・・ 【0020】 本活物質がCaを含む場合、Caの割合は、0モル%超3モル%以下であり、0.1?1モル%が好ましい。Caの割合が前記下限値以上であれば、リチウムイオン二次電池の出力特性およびサイクル特性が向上する。Caの割合が前記上限値以下であれば、リチウムイオン二次電池の放電容量の低下を抑えることができる。 ・・・ 【0022】 Li、Ni、Co、Mn、WおよびCa以外の他の金属元素Mとしては、Mg、Ba、Sr、Al、Cr、Fe、Ti、Zr、Y、Nb、Mo、Ta、Ce、La等が挙げられる。高い放電容量が得られやすい点から、Mg、Al、Cr、Fe、TiおよびZrからなる群から選ばれる1以上の金属元素が好ましい。 他の金属元素Mの割合は、0?5モル%が好ましく、0?2モル%がより好ましく、0?1モル%がさらに好ましい。 【0023】 (構成) 本活物質は、Li、Ni、Co、MnおよびWを含み、Wが本活物質の内部よりも本活物質の表層に偏在しており、W含有結晶性化合物を含まない正極活物質である。本活物質は、Li、Ni、CoおよびMnを含む層状構造のリチウム含有複合酸化物とW含有非晶質化合物とを含むことが好ましい。 Caを含む場合は、本活物質は、Caが本活物質の内部よりも本活物質の表層に偏在しており、WおよびCa含有結晶性化合物を含まない正極活物質であることが好ましい。Caを含む場合は、本活物質は、前記リチウム含有複合酸化物とWおよびCa含有非晶質化合物とを含むことが好ましい。・・・ 【0024】 本活物質においては、下記W_(b)に対する下記W_(s)の比(W_(s)/W_(b))は、5?20が好ましく、5?15がより好ましい。 ・・・ 【0025】 W_(s)/W_(b)が前記下限値以上であれば、Wが本活物質の内部よりも正極活物質の表層に充分に偏在していることになり、このような本活物質を用いれば、リチウムイオン二次電池の出力特性およびサイクル特性がさらに向上する。W_(s)/W_(b)が前記上限値以下であれば、本活物質の表層への過剰な偏在によるリチウムイオン二次電池の出力特性の低下が抑えられる。 【0026】 本活物質がCaを含む場合、下記Ca_(b)に対する下記Ca_(s)の比(Ca_(s)/Ca_(b))は、5?20が好ましく、5?15がより好ましく、5?10がさらに好ましい。 ・・・ 【0027】 Ca_(s)/Ca_(b)が前記下限値以上であれば、Caが本活物質の内部よりも正極活物質の表層に充分に偏在していることになり、このような本活物質を用いれば、リチウムイオン二次電池の出力特性およびサイクル特性がさらに向上する。Ca_(s)/Ca_(b)が前記上限値以下であれば、本活物質の表層への過剰な偏在によるリチウムイオン二次電池の出力特性の低下が抑えられる。」 「【0032】 (作用機序) 以上説明した本活物質にあっては、WまたはWおよびCaが本活物質の内部よりも本活物質の表層に偏在しており、W含有結晶性化合物またはWおよびCa含有結晶性化合物を含まないため、本活物質の表層におけるLi脱挿入反応が加速され、また本活物質と電解液との副反応を抑えることができる。したがって、本活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、出力特性およびサイクル特性に優れる。 一方、従来の(1)の正極活物質は、WおよびCaが正極活物質の全体に均一に存在するため、正極活物質の表層におけるLi脱挿入反応の加速および電解液との副反応の抑制が不充分である。したがって、(1)の正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、出力特性およびサイクル特性に劣る。 また、従来の(2)の正極活物質は、WおよびCaが正極活物質の内部よりも正極活物質の表層に偏在しているものの、WおよびCa含有化合物が結晶相として正極活物質内に存在している。そのため、WおよびCa含有化合物が非晶質である場合に比べてLi脱挿入反応およびLi拡散方向に異方性が生じ反応が充分に加速されない、また結晶粒界や欠陥に起因する劣化が起こりやすい。したがって、(2)の正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、出力特性およびサイクル特性に劣る。」 「【実施例】 【0084】 以下に、実施例を用いて本発明を説明する。 例1?3は実施例であり、例4?6は比較例である。 ・・・ 【0097】 (例1) Ni、CoおよびMnの含有割合がモル比で50:20:30である水酸化物(伊勢化学社製)を用いた。水酸化物の比表面積、D_(50)を表1に示す。 【0098】 メタタングステン酸アンモニウム水和物(STREM CHEMICALS社製)を蒸留水に溶解して、0.275モル/Lのメタタングステン酸アンモニウム水溶液を調製した。 硝酸カルシウム・四水和物(関東化学社製)を蒸留水に溶解して、1.473モル/Lの硝酸カルシウム水溶液を調製した。 【0099】 水酸化物の25.0000gと、Li含量26.96モル/kgの炭酸リチウム(SQM社製)の10.9609gとを混合し、得られた第1の混合物を600℃で8時間仮焼成した。 仮焼成物を手もみして解砕し、仮焼成物にメタタングステン酸アンモニウム水溶液の0.7617gおよび硝酸カルシウム水溶液の0.7430gを順に吹き付けて混合し、得られた第2の混合物を、大気雰囲気下、910℃で8時間本焼成して正極活物質を得た。 正極活物質の比表面積、D_(50)、金属組成、W_(s)/W_(b)、Ca_(s)/Ca_(b)、WおよびCa含有化合物の結晶相の有無を表2に示す。正極活物質のXRDパターンを図1に示す。 【0100】 (例2) メタタングステン酸アンモニウム水溶液の濃度を0.125モル/L、メタタングステン酸アンモニウム水溶液の吹き付け量を1.2472gに変更し、硝酸カルシウム水溶液を吹き付けない以外は、例1と同様にして正極活物質を得た。 正極活物質の比表面積、D_(50)、金属組成、W含有化合物の結晶相の有無を表2に示す。正極活物質のXRDパターンを図1に示す。 【0101】 (例3) メタタングステン酸アンモニウム水溶液の濃度を0.065モル/L、メタタングステン酸アンモニウム水溶液の吹き付け量を1.2396gに変更し、硝酸カルシウム水溶液を吹き付けない以外は、例1と同様にして正極活物質を得た。 正極活物質の比表面積、D_(50)、金属組成、W含有化合物の結晶相の有無を表2に示す。正極活物質のXRDパターンを図1に示す。 【0102】 (例4) 例1と同じ水酸化物の24.9997g、炭酸リチウムの10.9393gおよび酸化タングステン(Sigma-Aldrich社製、粒子径100nm未満)の0.1901gを混合した。得られた混合物を910℃で8時間本焼成して正極活物質を得た。 正極活物質の比表面積、D_(50)、金属組成、W含有化合物の結晶相の有無を表2に示す。正極活物質のXRDパターンを図1に示す。 【0103】 (例5) 例1と同じ水酸化物の24.9998g、炭酸リチウムの10.9607gおよび酸化タングステン(Sigma-Aldrich社製、粒子径100nm未満)の0.3175gを混合し、1.482モル/Lの硝酸カルシウム水溶液の1.2620gを吹き付けて混合した。得られた混合物を、大気雰囲気下、910℃で8時間本焼成して正極活物質を得た。 正極活物質の比表面積、D_(50)、金属組成、W_(s)/W_(b)、Ca_(s)/Ca_(b)、WおよびCa含有化合物の結晶相の有無を表2に示す。 【0104】 (例6) 例1と同じ水酸化物の24.9999gと炭酸リチウム10.9063gとを混合し、得られた混合物を910℃で8時間本焼成して正極活物質を得た。 正極活物質の比表面積、D_(50)、金属組成、W含有化合物またはWおよびCa含有化合物の結晶相の有無を表2に示す。 【0105】 【表1】 【0106】 【表2】 【0107】 例1?3の正極活物質は、WまたはWおよびCaが正極活物質の内部よりも正極活物質の表層に偏在しており、W含有結晶性化合物またはWおよびCa含有結晶性化合物を含まないため、リチウム二次電池の直流抵抗が低く出力特性が良好であった。また、これらの例は、リチウム二次電池のサイクル特性も良好であった。 例4の正極活物質は、W含有化合物が結晶相として正極活物質内に存在しているため、リチウム二次電池の直流抵抗が高く、出力特性が良好ではなかった。 例5の正極活物質は、W含有化合物またはWおよびCa含有化合物が結晶相として正極活物質内に存在しているため、リチウム二次電池の直流抵抗が高く、出力特性が良好ではなかった。 例6の正極活物質は、WおよびCaを含まないため、他の例に比べ、リチウム二次電池の直流抵抗が高く、出力特性が劣り、また、リチウム二次電池のサイクル特性も劣った。」 イ 上記アの【0001】、【0005】、【0007】の記載から、本件発明の解決すべき課題(以下、単に「課題」という。)は、リチウムイオン二次電池の出力特性およびサイクル特性をさらに向上できる正極活物質、正極活物質の製造方法、該正極活物質を含むリチウムイオン二次電池用正極、および該正極を有するリチウムイオン二次電池を提供することである。 ウ 上記アで摘記した本件明細書の【0084】?【0107】に記載の実施例には、正極活物質について、WおよびCaが内部よりも表層に偏在しており、W含有結晶性化合物およびCa含有結晶性化合物を含まないもの(例1)と、Wが内部よりも表層に偏在しており、W含有結晶性化合物を含まないもの(例2、例3)があり、これら実施例が上記課題を解決することが示されている。 しかしながら、Li以外の金属として、Ni、Co、Mn、W、及びCa以外の任意の金属元素を含む正極活物質は記載されていないため、そのような正極活物質が、同【0032】に記載された効果を奏することができるとはいえず、また、Ni、Co、Mn、W、及びCaを含むけれども、これら各元素をその含有量の下限値の総和である60モル%しか含まない場合、すなわち、これら金属元素以外の任意の金属元素を最大40モル%まで含む場合まで、同【0032】に記載された効果を奏することができるとはいえない。 また、同【0032】に記載の作用機序より、正極活物質が、WまたはWおよびCaを含有するが、WとCaの濃度分布が表層に偏在するものでないか、W含有結晶性化合物またはWおよびCa含有結晶性化合物を含む場合まで、同【0032】に記載された効果を奏することができるとはいえない。 ただし、実施例としては記載されていないが、Caを含有しない場合とCaを含有する場合のいずれであっても、同【0014】、【0022】の記載によれば、Mg、Ba、Sr、Al、Cr、Fe、Ti、Zr、Y、Nb、Mo、Ta、Ce、Laからなる群から選ばれる1以上の金属元素Mについては、0?5モル%という微量の含有であれば、同【0032】に記載された効果を奏することができると理解することができる。 エ 上記ウの検討から、上記課題は、(ア)、(イ)のいずれかの条件を満たす正極活物質によって解決できるといえる。 (ア)必須元素として、Li、Ni、Co、MnおよびWと、Mg、Ba、Sr、Al、Cr、Fe、Ti、Zr、Y、Nb、Mo、Ta、Ce、Laからなる群から選ばれる1以上の金属元素Mの0?5モル%のみを含み、Wが内部よりも表層に偏在しており、W含有結晶性化合物を含まない。 (イ)必須元素として、Li、Ni、Co、Mn、WおよびCaと、Mg、Ba、Sr、Al、Cr、Fe、Ti、Zr、Y、Nb、Mo、Ta、Ce、Laからなる群から選ばれる1以上の金属元素Mの0?5モル%のみを含み、WおよびCaが内部よりも表層に偏在しており、WおよびCa含有結晶性化合物を含まない。 オ 本件訂正前の請求項1に記載されていた「Li、Ni、Co、MnおよびWを含む正極活物質」という特定は、本件訂正によって、「Li、Ni、Co、Mn、WおよびMからなる正極活物質」と必須元素をLi、Ni、Co、Mn、WおよびMのみに限定した上で、「M の割合が、 0モル%以上 5モル%以下であり」、「MはMg、Ba、Sr、Al、Cr、Fe、Ti、Zr、Y、Nb、Mo、Ta、Ce、Laからなる群から選ばれる1以上の金属元素」であると訂正された。 カ 本件訂正によって、正極活物質がLi、Ni、Co、Mn、WおよびM以外の任意の金属元素を含むことは排除されたため、本件発明1は、上記エの(ア)の条件を満たす正極活物質に限定された。 キ そして、特許権者が本件訂正請求と同時に令和 3年 3月25日に提出した意見書3頁下から3?1行の「いわゆるクローズドクレームとしたことにより、不可避不純物を含むことはあっても、任意の金属元素を最大40モル%まで含むものではない」との説明のとおり、本件発明1においては、Li、Ni、Co、Mn、WおよびM以外の、任意の金属元素の含有が排除された正極活物質に限定されたことにより、不可避不純物を含むことはあっても「任意の金属元素を最大40モル%まで含む場合」は除かれたといえる。 ク したがって、本件発明1は、上記課題を解決し得るものであるということができるので、サポート要件に係る上記取消理由は解消した。 ケ また、本件発明3及び本件発明5においては、本件訂正によって、「Li、Ni、Co、Mn、W、CaおよびMからなる正極活物質」と必須元素をLi、Ni、Co、Mn、W、CaおよびMのみに限定した上で、「M の割合が、 0モル%以上 5モル%以下であり」、「MはMg、Ba、Sr、Al、Cr、Fe、Ti、Zr、Y、Nb、Mo、Ta、Ce、Laからなる群から選ばれる1以上の金属元素」であると訂正された。 コ 本件訂正によって、正極活物質がLi、Ni、Co、Mn、W、CaおよびM以外の任意の金属元素を含むことは排除されたため、本件発明3及び本件発明5は、上記エの(イ)の条件を満たす正極活物質に限定された。 サ そして、上記キと同様に、本件発明3及び本件発明5においては、Li、Ni、Co、Mn、W、CaおよびM以外の、任意の金属元素の含有が排除された正極活物質に限定されたことにより、不可避不純物を含むことはあっても、「任意の金属元素を最大40モル%まで含む場合」は除かれたといえる。 シ したがって、本件発明3及び本件発明5は、上記課題を解決し得るものであるということができるので、サポート要件に係る取消理由は解消した。 ス 以上のとおり、令和 3年 1月25日付けの取消理由(決定の予告)で通知した取消理由(サポート要件)は全て解消した。 2 令和 2年 8月31日付けで通知した取消理由(実施可能要件)について ア 令和 2年 8月31日付けで通知した実施可能要件についての取消理由の内容は、以下のとおりである。 本件訂正前の請求項1に係る発明は、「W_(b)」に対する「W_(s)」の比「W_(s)/W_(b)」を「5?20」とする正極活物質に関する発明である。 しかしながら、上記1のアで摘記した本件明細書の【表2】によれば、実施例とする例2、例3において、上記比の値が「ND」とされているところ、当該「ND」と記載された箇所について、実際に測定するとどのような値になるか不明であるので、Wが活物質の内部よりも表層に偏在しているか不明である。 したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件訂正前の請求項1に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。 また、上記本件訂正前の請求項1に係る発明を直接又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2?10に係る発明についても同様である。 よって、本件訂正前の請求項1に係る発明及びこれを直接又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2?10に係る発明は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、その特許は取り消されるべきものである。 イ 一方、上記アの取消理由に対して、出願人が提出した令和 2年12月24日付け上申書の実験成績証明書によると、本件明細書の【0033】、【0062】、表1に記載された製造方法と同等の方法で、例2及び例3に相当する正極活物質を製造し、その「W_(s)/W_(b)」を求めたところ、それぞれ9.7及び8.5であり、本件訂正前の請求項1で規定する「5?20」の範囲内であったことが確認された。 ウ 上記イの実験結果からみて、当該実験と同様の製造方法で得られた例2?3の正極活物質の「W_(s)/W_(b)」も、本件訂正前の請求項1で規定する「5?20」の範囲内にあると認めることができるから、発明の詳細な説明の記載は、本件訂正前の請求項1に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものといえる。 エ したがって、令和 2年 8月31日付けで通知した実施可能要件についての取消理由は解消された。 3 取消理由として採用しなかった申立理由2(明確性要件)について (1)申立書11?14頁(3-2)の申立理由について ア 申立人の主張 訂正前の請求項1に係る発明には、W含有結晶性化合物を含まない旨、および、訂正前の請求項5に係る発明には、W含有結晶性化合物およびCa含有結晶性化合物を含まない旨規定されている。 一方、本件明細書の【0013】には、 「「W含有結晶性化合物を含まない正極活物質」とは、誘導結合プラズマ分析法(以下、ICPと記す。)によって正極活物質がWを含むことが確認されているが、正極活物質のX線回折(以下、XRDと記す。)パターンにおいてW含有化合物に帰属されるピークが確認されない、すなわちW含有化合物の結晶相が確認されない正極活物質を意味する。…ICPによる測定およびXRD測定は、実施例に記載の条件で行う。 「WおよびCa含有結晶性化合物を含まない正極活物質」とは、ICPによって正極活物質がWおよびCaを含むことが確認されているが、正極活物質のXRDパターンにおいてWおよびCa含有化合物に帰属されるピークが確認されない、すなわちWおよびCa含有化合物の結晶相が確認されない正極活物質を意味する。」 と記載されているものの、当該「実施例に記載の条件」に関しては、同【0091】に実施例として「正極活物質のXRD測定は、X線回折装置(リガク社製、SmartLab)を用いて行った。得られたXRDパターンについて、X線解析ソフトウェア(リガク社製、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL2)を用いてピーク検索を行った。W含有化合物またはWおよびCa含有化合物の結晶相の有無は、回折角2θ=19.5?21.5°のピークの有無で判断した。」としか記載されておらず、具体的なXRD測定の条件が示されていないことから、どのような条件で測定した場合に「W含有化合物に帰属されるピーク」、「WおよびCa含有化合物に帰属されるピーク」が確認できないとして、「W含有結晶性化合物を含まない正極活物質」、「WおよびCa含有結晶性化合物を含まない正極活物質」であると判断できるのか不明である。 また、【0091】に記載される「ピークの有無」についても、それを判断する基準や閾値が本件明細書には示されていないから、どの程度の大きさ(強度)のピークであれば、「ピークが確認され」たと判断するのかも明らかでない。 したがって、「W含有結晶性化合物を含まない」と規定されている訂正前の請求項1に係る発明、「W含有結晶性化合物およびCa含有結晶性化合物を含まない」と規定されている訂正前の請求項5に係る発明、及び、これらを引用する訂正前の請求項2?4、6?10に係る発明は不明確である。 イ 当審の判断 本件明細書の【0091】の記載によれば、本件発明において、正極活物質に「W含有化合物またはWおよびCa含有化合物の結晶相」が存在するか否かは、XRDパターンの回折角2θ=19.5?21.5°の範囲のピークの有無で判断するもので、これは、例1?4のXRDパターンが示される図1において、2θ=19.5?21.5°の範囲にピークが存在する例4は、表2の「W含有化合物/WCa含有化合物結晶相」の欄が「あり」と示されており、上記範囲にピークが存在しない例1?3は、同欄が「なし」と記載されていることからも確認できる。 そして、本件発明においては、市販のX線回折装置を用いてXRD測定を行い、測定結果に対して市販のX線解析ソフトフェアを用いてピーク検索を行っているが、正極活物質が、「W含有結晶性化合物」、「WおよびCa含有結晶性化合物」を含まない場合は、どのような条件で測定を行っても「W含有化合物に帰属されるピーク」、「WおよびCa含有化合物に帰属されるピーク」が現れることはないから、当業者であれば、通常の条件下で測定を行い、得られるXRDチャートの特定範囲内に「W含有化合物に帰属されるピーク」、「WおよびCa含有化合物に帰属されるピーク」が存在しなければ、上記ピークが確認できないとして、「W含有結晶性化合物を含まない正極活物質」、「WおよびCa含有結晶性化合物を含まない正極活物質」であると判断することができる。 したがって、訂正前の請求項1?10に係る発明が不明確であるとの申立人の主張は採用できない。 4 意見書の主張について 申立人により提出された令和 3年 5月13日付けの意見書の主張は、次の理由により採用することはできない。 (1)意見書1?5頁「(1-1)特許第36条第6項第1号違反について」 ア 申立人の主張 (ア)本件発明1は、不可避不純物として結晶質のCa含有化合物を含む場合をも包含するから、本件発明の課題を解決できない場合を包含する。 (イ)令和 2年12月24日付けの上申書の実験成績証明書に記載の実験は、水酸化物の比表面積や仮焼成物の粉砕手段等の条件が本件明細書に開示された実験例の条件と相違するから、当該実験の結果により、本件明細書の表2中の例2?3の「W_(s)/W_(b)」の「ND」の結果を補充することは認められない。もし補充を認めるとしても、表2によれば、例2?3は、直流抵抗が例1より高く、容量維持率が比較例相当の例5よりも劣るため、本件発明の課題を解決できているものとは言えず、本件発明の実施例とは認められない。 イ 当審の判断 (ア)まず、上記アの(ア)の点について検討する。一般的に、不可避不純物とは、意図して導入することなく所望の材料中に微量存在する不純物を意味し、その含有量は材料の特性に悪影響を及ぼさない程度であると解される。 よって、本件発明1の正極活物質が、不可避不純物として結晶質のCa含有化合物を含むとしても、意図して含有したものではなく、本件明細書の【0032】に記載される結晶質のCa含有化合物が正極活物質内に存在することによる「非晶質である場合に比べて、Li脱挿入反応およびLi拡散方向に異方性が生じ反応が十分に加速されない、また結晶粒界や欠陥に起因する劣化が起こりやすい」といった本件発明の課題解決に悪影響を及ぼさない程度のもので、本件発明の課題を解決できないものということはできない。 (イ)次に、上記アの(イ)の点について検討する。令和 2年12月24日付けの上申書の実験成績証明書に記載の実験は、表2中の例2?3の「W_(s)/W_(b)」の「ND」が「5?20」の範囲内にあることを確認するために、本件明細書に記載された方法と同等の方法で行ったものにすぎず、新たな実施例によって本件明細書の記載を補充するために行ったものであるとまではいえない。 また、本件明細書の【0095】?【0096】、【0107】の記載より、正極活物質が本件発明の課題を解決していることは、当該正極活物質を含むリチウム二次電池の直流抵抗が低く、容量維持率が高いことで確認できると認められる。 そして、【0107】の「例1?3の正極活物質は、WまたはWおよびCaが正極活物質の内部よりも正極活物質の表層に偏在しており、W含有結晶性化合物またはWおよびCa含有結晶性化合物を含まないため、リチウム二次電池の直流抵抗が低く出力特性が良好であった。また、これらの例は、リチウム二次電池のサイクル特性も良好であった。」との記載及び表2より、例2?3の直流抵抗は低く、例5よりは低いものの容量維持率は高く、本件発明の課題を解決しているといえる。 (ウ)以上の検討から、申立人の上記アの(ア)、(イ)のいずれの主張も採用することができない。 (2)意見書5?6頁「(1-2)特許法第36条第6項第2号違反について」 ア 申立人の主張 上記3の(1)のアに記載した理由と同じ理由で、本件発明1?10は不明確である。 イ 当審の判断 上記3の(1)イにおいて検討したとおり、本件発明では、測定条件や試料の状態によらず、XRD測定によって、回折角2θ=19.5?21.5°の範囲にピークが存在しない正極活物質を、「W含有結晶性化合物を含まない正極活物質」、「WおよびCa含有結晶性化合物を含まない正極活物質」と判断していることが明らかであり、本件発明1?10が不明確であるとの主張は採用することができない。 (3)意見書6?8頁「(1-3)特許法第36条第4項第1号違反について」 ア 申立人の主張 例2、3は、本件明細書の【0062】に記載の条件で仮焼成、本焼成を行っているにもかかわらず、表2の「W_(s)/W_(b)」が「ND」となっており、本件発明1のWが正極活物質の内部よりも表層に偏在しており、「W_(s)/W_(b)」が「5?20」である正極活物質が得られていないことになるため、本件発明1?10は実施可能要件を充足しない。 イ 当審の判断 令和 2年12月24日に提出された上申書によって、例2?3の「W_(s)/W_(b)」は「5?20」の範囲内にあることが説明されたから、本件発明1?10は実施可能要件を充足しないとの主張は採用することができない。 第8 まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は適法なものである。 そして、特許異議申立書に記載した申立理由、及び取消理由通知書に記載した取消理由によっては、本件訂正後の請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件訂正後の請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 Li、Ni、Co、Mn、WおよびMからなる正極活物質であり、 前記正極活物質に含まれるLi以外の金属元素の合計を100モル%としたとき、 Niの割合が、30モル%以上60モル%以下であり、 Coの割合が、15モル%以上35モル%以下であり、 Mnの割合が、15モル%以上35モル%以下であり、 W の割合が、 0モル%超 5モル%以下であり、 M の割合が、 0モル%以上 5モル%以下であり、 MはMg、Ba、Sr、Al、Cr、Fe、Ti、Zr、Y、Nb、Mo、Ta、Ce、Laからなる群から選ばれる1以上の金属元素であり、 Wが前記正極活物質の内部よりも前記正極活物質の表層に偏在しており、 W含有結晶性化合物を含まず、下記W_(b)に対する下記W_(s)の比(W_(s)/W_(b))が、5?20であることを特徴とする正極活物質。 W_(s):正極活物質の表層を除去する前の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するW原子濃度の比(W/Mn)。 W_(b):C_(60)フラーレンを用いたスパッタリングによって正極活物質の表層を除去した後の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するW原子濃度の比(W/Mn)。 但し、前記スパッタリングは、Siウェハの表面に形成された熱酸化SiO_(2)膜を用いて求めたスパッタリング速度が1.4nm/分となる条件で30分間実施するものとする。 【請求項2】 前記正極活物質に含まれるLi以外の金属元素Meの総モル数に対するLiのモル数の比(Li/Me)が、1?1.3である、請求項1に記載の正極活物質。 【請求項3】 Li、Ni、Co、Mn、W、CaおよびMからなる正極活物質であり、 前記正極活物質に含まれるLi以外の金属元素の合計を100モル%としたとき、 Niの割合が、30モル%以上60モル%以下であり、 Coの割合が、15モル%以上35モル%以下であり、 Mnの割合が、15モル%以上35モル%以下であり、 W の割合が、 0モル%超 5モル%以下であり、 Caの割合が、 0モル%超 3モル%以下であり、 M の割合が、 0モル%以上 5モル%以下であり、 MはMg、Ba、Sr、Al、Cr、Fe、Ti、Zr、Y、Nb、Mo、Ta、Ce、Laからなる群から選ばれる1以上の金属元素であり、 WおよびCaが前記正極活物質の内部よりも前記正極活物質の表層に偏在しており、 W含有結晶性化合物およびCa含有結晶性化合物を含まず、下記W_(b)に対する下記W_(s)の比(W_(s)/W_(b))が、5?20であることを特徴とする正極活物質。 W_(s):正極活物質の表層を除去する前の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するW原子濃度の比(W/Mn)。 W_(b):C_(60)フラーレンを用いたスパッタリングによって正極活物質の表層を除去した後の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するW原子濃度の比(W/Mn)。 但し、前記スパッタリングは、Siウェハの表面に形成された熱酸化SiO_(2)膜を用いて求めたスパッタリング速度が1.4nm/分となる条件で30分間実施するものとする。 【請求項4】 前記正極活物質に含まれるLi以外の金属元素Meの総モル数に対するLiのモル数の比(Li/Me)が、1?1.3である、請求項3に記載の正極活物質。 【請求項5】 Li、Ni、Co、Mn、W、CaおよびMからなる正極活物質であり、 前記正極活物質に含まれるLi以外の金属元素の合計を100モル%としたとき、 Niの割合が、30モル%以上60モル%以下であり、 Coの割合が、15モル%以上35モル%以下であり、 Mnの割合が、15モル%以上35モル%以下であり、 W の割合が、 0モル%超 3モル%以下であり、 Caの割合が、 0モル%超 3モル%以下であり、 M の割合が、 0モル%以上 5モル%以下であり、 MはMg、Ba、Sr、Al、Cr、Fe、Ti、Zr、Y、Nb、Mo、Ta、Ce、Laからなる群から選ばれる1以上の金属元素であり、 WおよびCaが前記正極活物質の内部よりも前記正極活物質の表層に偏在しており、 W含有結晶性化合物およびCa含有結晶性化合物を含まず、下記W_(b)に対する下記W_(s)の比(W_(s)/W_(b))が、5?20であることを特徴とする正極活物質。 W_(s):正極活物質の表層を除去する前の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するW原子濃度の比(W/Mn)。 W_(b):C_(60)フラーレンを用いたスパッタリングによって正極活物質の表層を除去した後の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するW原子濃度の比(W/Mn)。 但し、前記スパッタリングは、Siウェハの表面に形成された熱酸化SiO_(2)膜を用いて求めたスパッタリング速度が1.4nm/分となる条件で30分間実施するものとする。 【請求項6】 下記Ca_(b)に対する下記Ca_(s)の比(Ca_(s)/Ca_(b))が、5?20である、請求項5に記載の正極活物質。 Ca_(s):正極活物質の表層を除去する前の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するCa原子濃度の比(Ca/Mn)。 Ca_(b):C_(60)フラーレンを用いたスパッタリングによって正極活物質の表層を除去した後の正極活物質の表面についてX線光電子分光法によって測定される、Mn原子濃度に対するCaの原子濃度の比(Ca/Mn)。 但し、前記スパッタリングは、Siウェハの表面に形成された熱酸化SiO_(2)膜を用いて求めたスパッタリング速度が1.4nm/分となる条件で30分間実施するものとする。 【請求項7】 Niを30モル%以上60モル%以下、Coを15モル%以上35モル%以下、Mnを15モル%以上35モル%以下で含有する水酸化物とリチウム化合物とを混合し、得られた第1の混合物を500?700℃で仮焼成する工程と、 得られた仮焼成物とタングステン化合物の水溶液とを混合し、得られた第2の混合物を800?1000℃で本焼成する工程と を有する、請求項1又は2に記載の正極活物質の製造方法。 【請求項8】 Niを30モル%以上60モル%以下、Coを15モル%以上35モル%以下、Mnを15モル%以上35モル%以下で含有する水酸化物とリチウム化合物とを混合し、得られた第1の混合物を500?700℃で仮焼成する工程と、 得られた仮焼成物とタングステン化合物の水溶液とを混合した後、さらにカルシウム化合物を混合し、得られた第2の混合物を800?1000℃で本焼成する、または 得られた仮焼成物とカルシウム化合物とを混合した後、さらにタングステン化合物の水溶液を混合し、得られた第2の混合物を800?1000℃で本焼成する工程と を有する、請求項3?6のいずれか1項に記載の正極活物質の製造方法。 【請求項9】 請求項1?6のいずれか一項に記載の正極活物質を含む、リチウムイオン二次電池用正極。 【請求項10】 請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用正極を有する、リチウムイオン二次電池。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-06-21 |
出願番号 | 特願2014-221250(P2014-221250) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(H01M)
P 1 651・ 536- YAA (H01M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 青木 千歌子 |
特許庁審判長 |
池渕 立 |
特許庁審判官 |
磯部 香 平塚 政宏 |
登録日 | 2019-11-01 |
登録番号 | 特許第6607670号(P6607670) |
権利者 | 住友化学株式会社 |
発明の名称 | 正極活物質、その製造方法、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池 |
代理人 | 鈴木 慎吾 |
代理人 | 棚井 澄雄 |
代理人 | 棚井 澄雄 |
代理人 | 加藤 広之 |
代理人 | 佐藤 彰雄 |
代理人 | 加藤 広之 |
代理人 | 佐藤 彰雄 |
代理人 | 鈴木 慎吾 |